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持続可能な社会実現のためのエコタウン事業の役割と課題

~天津のエコシティと日本の環境モデル都市~

中央大学FLP(井門義貴、岡崎翔太、丸山将規、中井佑)

1 エコタウン(生態工業園区)の概念

エコタウンという概念が登場したのは1970年代デンマークのカルンボという街で始ま

り、その後世界各国に拡大しました。エコタウンの概念にはさまざまなものが含まれてお

り、国によって多尐概念が異なる。

2 中国のエコタウンの事情

中国において生態工業園区の建設が始まったのは近年である。もともと中国にも日本でい

う工業地帯、工業地域に当たる経済発展のために建設された工業園区は中国各地に多数存

在していた。しかし、日本の1960年代から1970年代同様に工業化、経済発展を追

求したために、環境保護を軽視されていた。そこで循環経済理念による工業生態学原理お

よびクリーン生産が要求する設計建設の新型工業園区の一つが生態工業園区である。つま

りは、日本と同様に静脈産業を発展させることで資源循環社会に貢献するという点では両

国の事業は類似点が多くあるように感じる。中国における生態工業園区は青島新天地静脈

産業類生態工業園や天津生態工業園区に代表されるように年々生態工業園区の数は増加

しており、将来もその数は増加することが予想される。

2-1 天津のエコシティ

(1)目標

天津のエコシティの目標は限られた資源と環境の中で持続可能な発展を実現することであ

る。天津は中国北東部の経済と製造業の中心として発展してきた。目覚ましい経済発展を

遂げてきたが、資源不足や環境問題などが生じて経済発展が制限されている。特に天津に

おいては水資源不足、エネルギー不足、産業廃棄物、排気ガス、工業廃水などによる汚染

問題が持続可能な発展のボトルネックとなっている。

天津では地表水の安定供給が難しく、地下水も尐ないので、水資源不足が深刻で他県から

水を調達している。人口増加の影響もあり、調達した水を入れても一人当たりの水資源は

380 立方メートルしかなく、国際警戒ラインの2000立方メートルの20%以下である。

天津は中国北部の経済発展の中心地である。時代の変遷と共に軽工業から重工業中心の産

業構造となってきた。軽工業と重工業の比率は 1949 年 87.52 対 12.48 であったのが、1978

2

年には 51.6 対 48.4、2007 年には 18.73 対 81.27 と逆転している。これに伴い消費される

エネルギーも増加し、エネルギー不足が問題になってきた。

それまで「生産-使用-廃棄」という形で経済発展をしてきたが、大量の工業廃棄物が排

出され、「三廃」(固体廃棄物、液体廃棄物、排気ガス)の問題が出てきた。工業廃棄物の

増加に処理スピードが追い付かず、工業廃水の処理率や固体産業廃棄物の利用率の低下し、

有毒ガスも一般の排気ガスとして排出されていた。1990 年代以降、「三廃」の抑制が重点的

に取り組まれている。

天津におけるエコシティ建設の目標はこれらのボトルネックを解決し、持続可能な発展を

実現することである。

(2)取組と成果

2001 年に天津市にエコシティ建設計画ができ、2008 年に天津経済技術開発区が正式に国家

の認定を受けた3つのエコシティの1つになった。天津ハイテク産業区である華苑産業区

も 30 か所ある国家エコシティモデル区の1つに認定された。現在、天津市は 260 のプロジ

ェクトで 8 か所のエコシティ建設を進めている。

グリーン設計案に即した水資源やエネルギー問題解決のためのインフラ整備、企業に対す

るグリーン生産の奨励、資源循環型システムの構築、近隣地域との連携、エコシティ情報

交換システムや技術サポート体系の構築など様々な取り組みを行っている。これらの取り

組みにより、経済成長を維持しながら水資源再利用率を高め、エネルギー消費は低下させ、

大気汚染や水質汚染などの環境汚染問題も改善させてボトルネックをある程度解消させる

ことに成功している。

(3)課題

一定の成果を上げているが、まだ課題も多く残っている。例えば、企業に対してエコシ

ティ参加のインセンティブも持たせる政策作りが必要である。グリーン生産を実現したの

は1万社中わずか15社、ISO14000 の承認を得たのもわずか 140 社である。グリーン生

産インセンティブを働かすためには財政制度や税制制度などの環境保全のためのコストメ

カニズムを整備する必要がある。また、中国の環境基準は世界レベルに比べて低いので、

これを世界標準まで上げることも必要である。この他にも、中国ではまだ技術力が限られ

ているので、資源不足や環境問題を解決し循環型社会を作るには更なる科学技術の活用が

必要である。

(4)まとめ

天津においては水資源不足、エネルギー不足、環境汚染問題の3つのボトルネックを解決

し、持続可能な発展を実現するためにエコシティ建設が進んでいる。インフラ整備、グリ

ーン企業育成、資源循環システム、情報システムの構築などの取り組みによって一定の成

3

果は納めている。しかし、まだ、企業参加率、インセンティブをもたせる政策作り、中国

の環境基準の問題、限られている技術などの問題がある。

3 日本のエコタウン事情

まず、日本の場合環境省と経済産業省が中心に行っているエコタウン事業は全国26地域

で行われています。(図1)日本のエコタウン26か所のうち、そのほとんどが太平洋側に

集中しているのがわかる。また、それらの地域には京葉工業地域、京浜工業地帯、中京工

業地帯、阪神工業地帯、瀬戸内工業地域、北九州工業地帯など日本を代表する工業地帯、

地域が存在しており、それらを太平洋ベルトと呼んでいる。太平洋ベルトに存在する工業

地帯、地域が戦後の日本の工業化あるいは経済成長の中心であったと言っても過言ではな

い。しかし、急速な工業化あるいは経済成長は公害問題に代表される環境問題も生み出し

た。そのため、北九州や川崎に代表される都市では環境に配慮した街づくりを行うために

静脈産業を中心とした資源循環型社会の建設の一つとして始まったのがエコタウン事業で

あった。その中で天津のように北京のような大都市に近くにあるという地理的要因から川

崎市の事例を紹介する。

(図1)日本のエコタウン事業が行われている都市

4

3-1 川崎エコタウンの事例

(1)川崎市の概況

川崎市は、神奈川県の東部に位置し、京浜工業地帯を形成する面積144.35 ㎢、人口1,399,401

人の政令指定都市である。市内総生産は 2006 年度、4 兆 9650 億 6200 万円である。1

(2)川崎市の環境問題の「過去」と「今」

川崎市は、1950 年代~60 年代にかけての高度経済成長期において深刻な公害が問題となっ

た。この頃、大気汚染に関する市民からの苦情が飛躍的に増大し、1989 年には、公害健康

被害補償法による川崎市の認定患者数は、3478 人に上った。2国や、川崎市は公害が引き起

こされる企業を臨海部に集中的に立地することによって、住工分離が促進された。住工分

離は、市民のアメニティーを遠いものとすることともなった。

川崎市は公害に対応するために、1967 年に国会で成立した「公害対策基本法」に続き、1972

年に、「公害防止条例」を制定し、環境規制・目標を設け、全国自治体における公害対策の

先駆けとなった。

しかし 1982 年、大気汚染問題に苦しむ公害被害者が、国や臨海部立地企業を相手取り、川

崎公害訴訟を起こした。1996 年に和解が成立したものの大きな火種を残した。3

1990 年代になると、バブルの崩壊によって産業の空洞化が潜在化し、川崎臨海部において

155ha の遊休地があるとされた。4そこで、遊休地を有効活用したい市と、当時エコタウン

事業を旗揚げした国の考えがマッチし、川崎エコタウンが始動することになる。

具体的に、川崎市の過去と今の公害の状況を見ていくと、①硫黄酸化物(SOx)は、1973

年度に 45,879 トンであったが、2007 年度は、851 トンまで減尐した。②窒素酸化物(NOx)

は、1974 年度に、28,554 トンであったが、2007 年度は 9,739 トンまで減尐した。③浮遊

粒子状物質は、1976 年度に、2,688 トンであったが、2007 年度には、481 トンまで減尐し

た。

(3)川崎エコタウン

エコタウン事業は、1997 年に通商産業省(現:経済産業省)によって「ゼロ・エミッショ

ン構想」を基礎として創設された制度である。川崎市は、北九州市に並びエコタウンの先

行地域であり、1997 年 7 月 10 日に承認された。川崎エコタウンの舞台は、臨海部であり、

川崎臨海部の臨港地区 2053ha のうち、81%が工業専用地域に指定されており、公園・緑

1 川崎市 HP 川崎市の統計情報(http://www.city.kawasaki.jp/20/20tokei/home/toppage.htm)2009 年 9 月 29 日 2 東京経済大学経済学会 『東京経大学会誌』2002 年 除本理史 『川崎市臨海部の環境経済史』 3『金沢大学経済学部論集』2003 年 3 月 佐無田光 『川崎エコタウンの地域的環境経済システム』 4『専修大学社会科学研究所月報』2006 年 12 月 20 日 町田俊彦『川崎市における臨海部再生とエコタウン』

5

地は 1%にとどまる。川崎エコタウンの基本構想として挙げられているのは、(1)企業自身

がエコ化を推進する(2)企業間の連携でエコ化を推進する(3)環境を軸とし持続的に発展する

地区の実現に向けた研究を行う(4)企業・地区の成果を情報化し、社会・途上国に貢献して

いくことが挙げられている。5企業や、地域の連携の場としてゼロ・エミッション工業団地

を形成することを目指すとしている。ゼロ・エミッション工業団地とは、環境負荷の低減

を効率的かつ継続的に行うために、個々の工場や事業所が排出抑制を行い、近在工場群を

含めて異業種間で連携してお互いの排出物の再利用、再資源化およびエネルギーの有効利

用を進めていく資源循環型工業団地である。構想では、これが資源循環型社会づくりの核

となり、やがて工業団地から地域全体へとゼロ・エミッションの輪を広げていくことを目

指すとしている。6エコタウン内のリサイクル拠点として、廃プラスチック高炉還元施設、

家電リサイクル施設、廃プラスチックコンクリート型枠用パネル製造施設、難再生古紙リ

サイクル施設、廃プラスチックアンモニア原料化施設が挙げられる。ここでは、難再生古

紙リサイクル施設の詳細について見ていく。当施設は、信栄製紙が実施主体となり、再生

の難しい古紙(ホチキスやクリップなどがついた古紙)をトイレットペーパーに再生する

ものである。建設費は 105 億 6,000 万円であり、うち国が 21 億円を支出している。この施

設により、焼却処分量の減量効果は、年 73,800 トンに上り、100 人の雇用創出効果があっ

たとしている。7

エコタウン事業の評価として、経済産業省の『エコタウン事業に関する事後評価書』によ

ると、補助金を含め投入した費用の総額に対して、社会全体が得られた便益の比率(費用

便益比率)は 1.4 であり、投下した費用を上回る効果があったという。また廃棄物の処理費

用の節約効果は、5 億円が見込まれ、廃棄物の発生抑制による社会的便益は 128 億円規模に

達し、省資源・省エネルギー面での社会的便益は、51 億円規模となる。8 このことから、

報告書は、川崎市のエコタウン事業を評価しているといえる。

また、川崎エコタウンで注目すべきなのは、2004 年 7 月、NPO 法人「産業・環境創造リ

エゾンセンター」が発足したことである。地域の再生を目指し企業を主体とする NPO 法人

が作られたのは日本初であるという。会員企業は、旭化成ケミカルズ株式会社や味の素株

式会社など17社である。主な活動内容として、資源・エネルギー循環の連携プロジェク

トや規制緩和やインセンティブ付与策の提言を行い、シンポジウム等によって広報活動を

行っている。9

5 脚注③に同じ 6 川崎市 HP (http://www.city.kawasaki.jp/) 2009 年 10 月 1 日 7 経済産業省 『エコタウン事業に関する事後評価書』

(http://www.meti.go.jp/policy/policy_management/14fy-jigo-hyouka/14fy-33.pdf#search='エコタウン事業に関する

事後評価書') 2009 年 10 月 01 日 8 脚注⑦に同じ 9 経済産業省 エコタウン・環境産業進行形 事例集

6

(4)川崎エコタウンの課題と今後

川崎エコタウンにとどまらず、全国のエコタウン事業は国からの補助金が廃止され、一つ

の区切りを向むといえる。しかし、先に述べたように住工分離が進み、企業のみのエコ化

が行われると、市民に政策が正しく理解されないことがある。現在の川崎臨海地区はほと

んど工業地帯であるが、公園や緑地を増やすなど住工一体の施策が必要になってくる。

しかし川崎市は、新たな局面を迎え国際的に注目される都市となりつつある。例えば、現

在、川崎市と UNEP が協力し、国際環境施策推進・国連環境計画 UNEP 連携協調事業が

行われている。川崎市臨海部に立地する企業が国際貢献を図り川崎発の環境施策を推進す

るという。10世界の様々な都市がエコタウン事業を進める中、国際的に協調関係を築くこと

が、エ国内外問わずエコタウン成功の有効な手段となるのではないか。

4 エコタウン事業から新しい環境事業へ

これまでに日中の両国のエコタウン事業これまでの推移と現状について述べてきたが、日

本においては現時点で国(環境省と経済産業省)のエコタウン事業については終了してお

り、国の財政的援助に一部支えられ建設されたエコタウンの維持は今日では各地方自治体

の財源で維持されている。だが、各地方自治体がこれまでにない施設を建設し、研究を行

う場合に限り、国が審査を行い、審査に通れば補助がでる形になっている。つまりは、こ

れはエコタウン事業についてだけではなく、日本の行っている環境事業に言えることでは

あるが、国の政策として最初は補助を行い、それが一定の成果が出ると国からの補助を中

止し、地方自治体に委任することで、国の財政的支出を削減することができる。そして、

その削減した財源を含んだ予算を策定し、新しい環境分野への政策として投資することで

新しい環境事業の誕生と発展を促す効果があると考えられる。(図3、4、5)その例とし

てこれまでのエコタウン事業を含む多様化した環境事業として上げられるのは内閣府が行

っている環境モデル都市政策である。また、先ほどの述べた通り国からの支援(補助費)

が出るのはこれまでにない環境事業を行う場合に限られる。しかし、地方自治体によって

は国からの補助をほとんど受けずに住民の生活をより一層よくするために、地方自治体単

位で環境事業に取り組んでいる事例もある。その例は岩手県紫波町である。

10 川崎市 HP (http://www.city.kawasaki.jp/30/30kokuse/home/index.html) 2009 年 10 月 01 日

7

(図2)、(図3)

(図2)事業Aが開始直後 (図3)事業Aに成果が出た後

国、地方自治体 補助 新事業が国の審査を

からの補助 通った場合補助

(図4)日本の環境分野への財源の変化

地方自治体 国 地方自治体

新しい環境分野の誕

生・発展のための支

環境事業の

発展

環境事業の維持・管理

8

4-1 環境モデル都市の実例

●各環境モデル都市の CO2 削減目標量

都市名 基準年 基準年排出量 中期目標(2020~2030

年) 長期目標(2050 年)

大都市

北九州

市 2005 年 1560 万t 30% 50%

京都市 1990 年 823 万t 40% 60%

堺市 2005 年 851 万t 15% 60%

横浜市 2004 年 2041 万t 30% 60%

千代田

区 1990 年 249 万t 25% 50%

地方中心

都市

飯田市 2005 年 74 万t 40~50% 70%

帯広市 2000 年 145 万 9000t 33% 51%

9

(1)富山市(地方中心都市)の例

概要

・人口約 42 万人、総面積 1242 平方キロメートル

・全国でも自動車依存度が著しく高い都市(1 世帯当たりガソリン消費量:全国 2 位)

・LRT を中心とした公共交通ネットワークの拡充、公共交通を軸としたコンパクトシティ

の実現等により、温室効果ガスの 2030 年に 30%、2050 年に 50%削減を目標(2005 年比)

富山市では90年から03年までに CO2 の排出量が約29%増加。これは同期間の全国平

均の増加率(約14%)の約2倍にあたる。排出量の内訳で同市が重視しているのが自動

車などの運輸部門だ。自動車の保有台数や走行キロ数が依然として増え続けており、排出

量に占める同部門の比率(05年、24%)は産業部門(35%)に次いで多い。また、

同市は典型的な自動車依存都市であり、1世帯当たりのガソリン消費量(年間約9万30

00円)は全国平均の1.4倍と全国の県庁所在都市の中では2番目に大きい。

●都市機能集積戦略

車から公共交通への利用転換を目指す、コンパクトな街づくり戦略のこと。鉄道、バスな

ど公共交通の運航頻度など、一定以上のサービス水準を確保し市民が集まるよう居住や商

業などの都市機能を集積させている。

●LRT のネットワーク拡大

公共交通の中でも路面電車を「貴重な資産」と位置づけ力を注いでいる。慢性的な赤字ロ

ーカル線で廃止が決まっていた旧 JR 富山港線を市が公設民営型で LRT 化、「富山ライトレ

ール」として再生したのに続き、現在は中心部を走る富山地方鉄道の路面電車(市内線)

の環状線化に取り組んでいる。行政自らが公共交通の整備に積極的に関与しようという考

えを実施に移したもので、国を動かして法律を変え、路面電車では初の「上下分離」(設備

の保有と運営の分離)になった。

富山市 2005 年 423 万t 30% 50%

豊田市 1990 年 554 万t 30% 50%

小規模市町村

下川町 1990 年 5 万 7574t(吸収量 39 万t) 16% 66%

水俣市 2005 年 23 万t 32% 50%

宮古島

市 2003 年 33 万 t 30~40% 70~80%

梼原市 1990 年 2万 3634t(吸収量 1万 6200

t) 50%(吸収量 3.5 倍) 70%(吸収量 4.3倍)

10

(2)京都市(大都市)の例

概要

・人口約 147 万人、総面積 828 平方キロメートル

・京都議定書誕生の地。面積の 4 分の 3 を森林が占め、年間約 5000 万人が訪れる観光都市

・温室効果ガスを 2030 年に 40%、2050 年に 60%削減を目標(1990 年比)

・歩行者主役のまちづくり、建物の低炭素化、木材の地産地消、ライフスタイル変革で温

室効果ガスの「削減」から「排出しない」観点に立った「カーボン・ゼロ都市」に挑む

歴史ある京都もまた現代都市の例にもれず,利便性や消費優先の都市化が進み,観光地を

中心とした交通渋滞の発生,都心部においては伝統的家屋(京町家)からビルへの変容,また

核家族化による全市的な世帯数の増加などにより,家庭部門及び業務部門において二酸化

炭素(CO2)排出量が増加している。2005 年で 90 年比 1%の削減にとどまり、2030 年に半

減させる目標を掲げた温暖化対策条例を制定、05 年度から計画書制度をスタートさせた。

それから 3 年間で 6.1%の削減を達成したがこれだけでは目標達成は難しいために、環境モ

デル都市の公募にまず「歩行者主役のまちづくり」を提案した。民生、運輸部門での二酸

化炭素排出量が全体のそれぞれ 53%、24%を占めるため、四条通りのトランジットモール

化、細街路への自動車の流入抑制、エコ通勤の拡大などで、運輸部門の大幅削減を目指し

ている。

●モビリティ・マネジメント施策の継続と拡大

・「エコ通勤」などのモビリティ・マネジメント施策を地域,学校,企業,転入者,運

転免許保有者,観光客など幅広い対象へ拡大して継続的に進め,公共交通の利用を促進

する。

●高機能バスのモデル的運行

・南部開発地域の通勤手段としてのルートや市内の観光地を巡るルートへの高機能バス

のモデル的運行に向けた取組により環境にやさしく利便性の高い公共交通システムを

実現し,観光施策と一体化となった公共交通の利用促進を図る。

●トランジットモール化と周辺の自動車流入抑制

・市内最大の繁華街,四条通での歩道拡幅による快適な歩行空間の確保とマイカーから

公共交通への転換を図るための公共交通優先の取組を内容とするトランジットモール

化と南北にある歴史的細街路での自動車流入抑制により一体的な歩行者中心のエリア

の確保と賑わいの創出を実現する。

●エコポイントとカーボン・オフセットによるエコ活動市民参加の仕組みづくり

・家庭の省エネ取組分をポイントに換算し,買い物に使えるエコポイントモデル事業や,

イベントや商品・サービスによる排出分を企業やNPO等の削減努力で埋め合わせるカ

ーボン・オフセット制度及び市民がエコ活動に参加できる仕組みをつくる。

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(3)水俣市の例(小規模市町村)

概要

・人口約 2.9 万人、総面積 163 平方キロメートル

・温室効果ガスの 2020 年に 33%、2050 年 50%削減を目標

・水俣病の教訓を糧に環境実践活動と環境技術による経済活性化を促進

水俣は日本の高度経済成長時代の 4 大公害病のひとつ、水俣病が広まった地域として有名

だ。その教訓として、水俣市は ①環境配慮型暮らしの実践 ②環境にこだわった産業づく

り ③自然と共生する環境保全型都市づくり ④環境学習都市づくり の4つを柱として、

次のような取組を行っており、リユース・リサイクル、省エネ・省資源、市民の森づくり

による地球温暖化防止活動や環境保全活動にも市民と協働で取り組んでいる。

●ごみの高度分別・リサイクル

市民の協力を得て 22 種類のごみ分別を実施。レアメタルを含む小型電子機器類等、さらな

るごみの減量化・分別に取り組む。

●水俣オリジナルの家庭版・学校版等の環境 ISO 制度

環境マネジメント企画として‘水俣オリジナル’の環境 ISO を展開。「地域全体丸ごと ISO」

の取り組みとして、市民にライフスタイルそのものの転換を促す草の根的環境活動を促進

している。

●地区環境協定制度

環境保全のための住民の生活ルールを作り、これを守った生活をしていく取り組みを推進

している。現在 8 地区ある。

(4)その他の取り組み

人口規模に関係なく、多くの自治体が実施する予定なのが太陽光など太陽エネルギーの利

用促進策である。太陽光発電に関しては飛躍的な普及を目指し、従来からの設置助成だけ

でなく一歩進んだ施策を打ち出したところもある。

富山市は家庭の太陽光発電から生まれる余剰電力について、電力会社が支払う電気料金

の一部を負担する独自の買い取り制度を7月にスタート。横浜市も複数個所の町内会館に

設置する太陽光発電について同様の買い取り制度を試行する計画だ。全国から資金を集め

た民間の市民ファンドによる太陽光発電の導入拡大で実績がある飯田市は同じファンドな

どを活用し、各家庭が太陽光発電設備の負担をせずに、パネルを設置する屋根を貸し出す

ことで普及のテンポを早める。

国は2010年度から、太陽光発電について余剰電力を10年間にわり現在の電気料金

(約24円)の倍の価格で買い取る「固定価格買い取り制度」を創設する。家庭の導入拡

大に大きな追い風になるとみられるが、逆にモデル都市の中には「独自に取り組む余地が

狭まった」(横浜市)との声も上がっている。だが、「買い取りの対象を余剰電力に限らず

12

発電量全体に広げたり、風力発電にも適用したりするなど工夫の余地はまだ色々とある」

(環境エネルギー政策研究所)と指摘する専門家もいる。

〈 参考 〉

水俣市環境モデル都市推進課

http://www.minamatacity.jp/jpn/kankyo_etc/kankyou_model_toshi/kankyou_model_tosh

i_top.htm

日経グローカル No126 2009,6,15 8~17p

京都市 HP

http://www.city.kyoto.lg.jp/

富山市環境政策課

http://www.city.toyama.toyama.jp/division/kankyou/kankyouseisaku/index.htm

4-2 紫波町

(1)紫波町概要

紫波町は東北地方岩手県の中部、盛岡市の南部に位置している。人口は約34000人。

面積は約240平方キロメートルであり、そのうち農地面積が24%、森林面積が58%

を占めている。農業が中心の町であり、りんご、ぶどう、西洋梨など果物やもち米の生産

が盛んである。

(2)「循環型まちづくり」

紫波町は 2006年 6月に「新世紀未来宣言」を発表、2007年 6月には「紫波町循環型まちづ

くり条例」を制定し、住民・事業者・行政が一体となって循環型まちづくりを目指してい

る。具体的には「紫波町環境・循環基本計画」で資源循環、環境創造、環境学習、地域交

流の4つの方針を掲げて実行している。資源循環ではリサイクル施設を中心に町内で出さ

れる廃棄物から堆肥やバイオマス燃料を製造している。環境創造ではすべての生き物と共

生するために植林や河川の整備に取り組んでいる。環境学習では環境の専門家を育成する

制度や小学校の授業を通して住民が環境について学べるようにしている。地域交流では地

元住民の交流だけでなく、環境に対する取り組みを PRすることにより自然の豊かさを活か

した観光地化も目指している。

紫波町では資源循環まちづくりの一環として「えこ3センター(Eco3 Center)」というリ

サイクル施設が整備されている。えこ3とは Economy(経済的)、Ecology(生態・環境を重

視した)、Earth Conscious(地球を意識する)の頭文字からとったものである。この施設

では堆肥製造、粉炭・木酢液製造、木質ペレット製造が行われ、原則的に製造されたもの

は町内で再利用している。堆肥施設は 2004年度から稼働し、町内で排出される家畜の排泄

物、事業系食品残渣、もみ殻バイオマスを原料として堆肥を製造している。製造された堆

13

肥は町内の農家に向けて販売されている。間伐材等炭化施設は 2003年度から稼働し、製材

所から排出される製剤端材、倒木や間伐材等のバイオマスを原料とし、粉炭や木酢液を製

造している。これらは土壌改良剤や堆肥発酵促進剤として再利用されている。ペレット製

造施設は 2004年度から稼働し、製材端材、間伐材を活用し、木質ペレットを製造している。

製造された木質ペレットは主に駅や学校等の公共施設に設置されたストーブの燃料として

再利用されている。

環境創造まちづくりでは、クマなど動物のえさとなる実のなる樹木を森林に植林すること

で動物が森から下りてこないようにし、人間との自然な棲み分けを図っている。また、河

川の整備では「多自然川づくり」という方法を取り入れ様々な生物と共生できるようにし

ている。環境創造によって守られている豊かな自然は、地域住民による森林体験や水生生

物調査などの環境学習や地域交流にも利用されている。

このような紫波町自らが定めた独自の政策によって自然と共生できるような「循環型まち

づくり」が行われている。紫波町の政策で特に意識されていることは、町内で出される廃

棄物は町内で再利用するという地域内で循環させるまちづくりである。

最後に河川整備で触れた「多自然川づくり」について説明する。「多自然川づくり」とはコ

ンクリートなどで整備するのではなく、水辺を広く取ったり、水の両側を土にしたり、川

を蛇行させることによって自然な川をつくる整備方法である。生物多様性の確保、水質改

善、治水などの効果がある。また、自然豊かな川は憩いの場となり、地域交流の促進にも

つながる。紫波町のような自然豊かな所だけでなく、日本各地の都市部でもこの「多自然

川づくり」を取り入れている河川が次第に増えてきている。神奈川県横浜市を流れる和泉

川という川では 10年前にこの手法を取り入れた。それまでコンクリートで囲まれた汚い川

で生き物はいなかったが、「多自然川づくり」により生き物が戻ってきて水質も改善し、今

では自然豊かな川に生まれ変わっている。土地の狭い所では広い水辺のための土地の確保

が難しいという問題もあるが、東京では治水目的の公園を水辺に戻すことによって実現し

ているところもある。

(写真)和泉川「多自然川づくり」施工前と施工後

5 考察

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今日、中国のエコタウンについての最大の課題はエコタウン事業に参加する企業が尐ない

ことである。そのためには、環境負荷を軽減させることへのインセンティブが得られるよ

うな制度改正の必要がある。日本の北九州市の場合、環境対策事業について国から認めら

れるだけであっても、街のイメージアップから経済効果が見込まれ、優れた取り組みには

賞が与えられる。

また、中国には技術力が乏しいため、国や自治体が定めた環境基準を満たしておらず、技

術力を持った国を誘致することで技術力の向上を図る必要がある。

日本と中国のエコタウン事業を比較すると、静脈産業を発展させることで循環型社会の構

築を目指すという点で類似しているように考えられる。中国のエコタウン事業は持続可能

な社会の実現を目的とすべきであり、そのためにはこれから起こりそうな環境汚染、爆発

的な CO2消費社会を作らないように、エコタウン事業を通して解決して行くことが当面の

課題になる。

しかし、日本では国の援助によるエコタウン事業が終了した今、各都市はさらなる低炭素

社会を実現するためにライフスタイル、都市や交通のあり方など社会の仕組みを根本から

変える必要に迫られている。その対策としての環境モデル都市等の取り組みは、今まで静

脈産業に狭めてきたエコタウンの概念を超えた取り組みとして将来の中国にも生かしてい

けるのではないかと私たちは考える。

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