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研 究 紀 要 第 12号 はじめに 研究概念図 Ⅰ 授業改善について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 授業研究計画 2 一学級一研究授業 3 指導理論研修 4 校内授業研究会 5 公開授業研究会 6 授業研究のまとめ Ⅱ 自立活動に関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 1 研究概要 2 重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト 3 重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引 4 教材・教具開発 5 リスト,手引き,教材を活用した自立活動の指導 6 FFプロジェクト 7 校内実践報告 8 自立活動に関する研究のまとめ Ⅲ 情報発信・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 1 自立活動だより 2 自立活動ガイドブック Ⅳ 外部連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 1 広島県特別支援学校自立活動研究会 理学療法士(PT),作業療法士(OT),言語聴覚士(ST)を活用した指導の充実について 平成 30 年 3 月 広島県立福山特別支援学校

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研 究 紀 要

第 12号

はじめに

研究概念図

Ⅰ 授業改善について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1 授業研究計画

2 一学級一研究授業

3 指導理論研修

4 校内授業研究会

5 公開授業研究会

6 授業研究のまとめ

Ⅱ 自立活動に関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

1 研究概要

2 重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト

3 重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引

4 教材・教具開発

5 リスト,手引き,教材を活用した自立活動の指導

6 FFプロジェクト

7 校内実践報告

8 自立活動に関する研究のまとめ

Ⅲ 情報発信・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52

1 自立活動だより

2 自立活動ガイドブック

Ⅳ 外部連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57

1 広島県特別支援学校自立活動研究会

2 理学療法士(PT),作業療法士(OT),言語聴覚士(ST)を活用した指導の充実について

平成 30年 3月

広島県立福山特別支援学校

はじめに

本校は肢体不自由の児童生徒を対象とした特別支援学校です。

個々の児童生徒の障害の実態に応じた教育を行い,豊かな人間性及び,自立し,社会参加するための「生

きる力」を育むことをミッションとしています。平成 27年度から3年計画で,ビジョンとして次の 3点を掲げて教育

活動を展開しました。

(1) 児童生徒が安全で,明るく伸び伸びと学び,保護者が安心して通わせることができる学校

(2) 専門性に基づき,個々の児童生徒の可能性を十分に引き出す魅力ある教育を実現する学校

(3) 特別支援学校としてのセンター的機能を主体的に発揮し,地域から信頼される学校

昨年度に引き続き,広島県で進めております「学びの変革アクション・プラン」に基づき,本校も「学習者

を基点とする能動的で深い学びである『主体的な学び』を展開する。」こととしております。

研究テーマは「児童生徒のコミュニケーション能力を育てる授業作りを目指して~児童生徒の表現・表

出する力を培うための指導の在り方~」を継続し,児童生徒が周囲に表現・表出していく主体的な姿を授

業の中で展開することを目指しました。今年度は授業作りの際の「適切な実態把握」と「根拠のある指導」

をキーワードとして掲げ,授業研究を進めてまいりました。本校作成の「重度・重複障害児のアセスメント

チェックリスト」による実態把握と「重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引」を活用した

指導を授業に取り入れ,実践を重ねました。本年度の研究成果として,研究紀要第 12 号を発刊致しま

す。

結びとなりましたが,本年度研究推進に当たり懇切・丁寧な御指導・御助言を賜りました,福岡教育大学教

授 一木 薫先生,広島県教育委員会 教育部特別支援教育課指導主事 内田 俊行先生,広島県立教育

センター特別支援教育・教育相談部指導主事塚本 理恵江先生に厚くお礼申しあげ,ここに感謝の意を表し

ます。

平成30年3月吉日

広島県立福山特別支援学校

校 長 我 妻 享

平成 29年度 研究概念図(教育研究部の取組について)

授業研究

・研究計画 ・指導案様式改定

・公開授業研究会 ・校内授業研究会

・一学級一研究授業

自立活動研究 ・アセスメントチェックリスト

・指導の手引き ・教材教具開発

・FFプロジェクト

・校内実践報告会

外部連携 ・広島県肢体不自由特別支援学校

自立活動研究会

・PTOTST連携

情報提供 ・自立活動たより発行

・ガイドブック編集

・情報提供 ・各種研究会案内

教育研究部

授業改善

研究テーマ

「児童生徒のコミュニケーション能力を育む授業作り」

~表現・表出する力を培うための指導の在り方~

校内で

共有

重度・重複障害のある子供の確かな学び

学校教育目標 児童生徒一人ひとりの個性を尊重し,豊かな人間性と集団生活の在り方を追求し,自分自身の障害と

向き合いながら自主的,自立的な態度と逞しく生きる力を育てる。

目指す子供像 「元気で明るく生きる人」「心豊かで,思いやりがある人」 「自ら進んで取り組む人」「周りの人と協力できる人」

教員個々の実践

一学級一研究授業

実践報告会

校内授業研究会

公開授業研究会

指導事例

専門性の

向上

指導事例

Ⅰ 授業改善について

1 平成 29年度 授業研究計画

2 一学級一研究授業

3 概要説明会 ミニ研修会等

4 校内授業研究会

・研究協議のまとめ(小学部)

・研究協議のまとめ(中学部)

・研究協議のまとめ(高等部)

5 公開授業研究会

・研究協議のまとめ(小学部)

・研究協議のまとめ(中学部)

・研究協議のまとめ(高等部)

・講 演

6 平成 29年度 授業研究のまとめ

-1-

平成 29年度 授業研究計画

平成 29年5月 16日 教育研究部

1 研究のテーマ

「児童生徒のコミュニケーション能力を育てる授業づくりを目指して」 ~ 児童生徒の表現・表出する力を培うための指導の在り方 ~

2 テーマ設定の理由と研究の方向性について

本校は,小学部・中学部・高等部合わせて 81名の児童生徒が在籍する肢体不自由特別支援学校である。現在,重

複障害のある児童生徒は約9割であり,さらに自立活動を主とする教育課程の児童生徒が約8割を占めている。本

校の児童生徒は重度・重複障害を有し,身体の動き等の制限だけでなく,感覚の受容や認知面での困難さを併せ持

っており,指導を行っていくためには高い専門性が必要となる。

数年前から,本校の教職員の中には「児童生徒の気持ちを読み取ることが難しい」と感じる者が多く,児童生徒

に対して「自分の気持ちを周囲に対して,分かりやすい形で伝える力」をつけたいという共通の思いがあった。し

かし重度・重複障害のある児童生徒に対してどのように実態把握をし,どのような目標を掲げ,どのように指導を

していけばよいのかという具体的なアプローチに関しては,個々の教職員の専門性による部分が大きく,苦慮する

教職員が多いという状況だった。

そのような教職員のニーズに応えるため,4年前から授業研究のテーマを「コミュニケーション能力を育てる授

業作り」に設定した。また一昨年度からコミュニケーション能力の中の「表現・表出する力」に着目し,その力を

培うための有効な「指導の在り方」を研究することを副題として示し,授業研究を重ねてきた。

本校の自立活動研究の成果物として,『自立活動ガイドブック』や『自立活動だより』などの専門的な情報をま

とめた物や,児童生徒の実態把握と指導に役立つツールとして,『重度・重複障害児のアセスメントチェックリス

ト-認知・コミュニケーションを中心に-』や『重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引』が

ある。授業研究ではこれらの成果物を活用しながら,研究テーマに沿った学習指導案作成と研究授業の事例蓄積を

通して研究・分析を行い,「表現・表出する力を培うための指導の在り方」について明らかにしていく。

≪語句の説明≫

“表現する力”…児童生徒が,言葉や他の伝達手段(表情,身振り,文字,電子媒体など)を媒体として活用

し,自分の気持ちや考えを他者に対して分かるように「伝える力」を意味する。

“表出する力”…児童生徒の内面にある感情や気持ちを何らかの方法(表情・声・手足の動き・視線など)で

自発的に「外に出す力」のことを意味する。

≪表現・表出する力の具体例≫

表現する力

○「話す」という言語活動

・VOCA等の機器類の活用,カード類提示,表情,身振り,音声や簡単な言葉で意思伝達する,会話する。

・見聞きしたことなどを簡単な言葉で話す。

・見聞きしたことなどのあらましや自分の気持ちなどを教師や友だちと話す。

・見聞きしたことや経験したこと,自分の意見などを相手に分かるように話す。

・目的や場に応じて要点を落とさないように話す。

・自分の立場や意図をはっきりさせながら,相手や目的,場に応じて適切に話す。

・自分の考えをまとめて的確に周囲に説明する。

・大勢の前などの様々な場面や司会・放送係等の役割に応じて,適切に話す。

○「書く」という言語活動

・簡単な語句や短い文を平仮名などで書く。

・簡単な手紙や日記などの内容を順序立てて書く。

・手紙や日記などを目的に応じて正しく書く。

・相手や目的に応じていろいろな文章を適切に書く。

・想像したことや身近なこと,経験したことを文章に書く。

・図表やグラフなどを用いた説明や記録の文章を書く。

・関心のある事柄について批評する文章を書く。

表出する力 ・生理的不快の表出(空腹,苦痛,暑さで泣く)。

・好きな食べ物が口に入ると,表情が変わる。

・手や身体に触れながら呼びかけると動きが止まったり,目が動いたりする。

・音や音楽が聞こえると動きを止める,または表情や発声で喜ぶ,動きで嫌がる。

・抱っこされると笑う,そばにいる支援者を意識して,注視する。

・支援者の声掛けに応じるような声を出す。

-2-

嫌なとき,手や足で押しのける。

※周囲の教師や友達を意識していることもあるが,必ずしも他者への能動的な働きかけや伝達の意図を含む必要は

ない。

3 研究計画

4 昨年度の成果と課題

(1)昨年度の成果

・学習指導案様式に実態把握の根拠として,本校アセスメントチェックリストのプロフィール等の添付を規定

⇒年間を通して,客観的な実態把握ツールの活用した指導を行う教員が増加!

・研究協議ツール(マトリックスシート)の導入

⇒協議の中で全員が発言することができ,活発な意見交換や議論を行うことができた!

・記録映像の撮影・共有の推進

⇒一学級一研究授業において,他の教員の参観が難しい時間の授業の場合も,授業の様子をビデオで撮

影し,研究協議前にそれぞれが視聴することで,研究協議をスムーズに実施することができた!

⇒校内研(小学部)(中学部),公開研(小学部)では,事前に前時の記録映像を学校共有フォルダで公

開した。研究会当日に授業参観できなかった教員も,事前に記録映像を見ることによって,研究協議の

際に意見や感想を積極的に出すことができ,活発な議論がなされた!

・一学級一研究授業の実施率100%を達成!

(2)昨年度の課題

・学習指導案の中で,アセスメントリスト等を活用して実態把握を行っていても,そこから得られた実態と指

導や支援の具体的な内容とがリンクしていない授業があった。

・副題の“表現・表出する力を培うための指導の在り方”について,研究協議の中で本当に適切な指導であっ

たか,その根拠を検証することができなかった。

・授業研究のテーマについて,教員間で理解・意識の差があることが分かった。(昨年度末実施した授業研究

に関するアンケート結果より)

5 今年度の研究について

昨年度の授業研究でわかったこと

⇒ 表現・表出する力を培う指導のためには「適切な実態把握」と「根拠のある指導」が必要不可欠である。

今年度の研究は,この2点を意識した学習指導案作成を行う。

(1)「適切な実態把握」のために

・学習指導案に客観的な実態把握ツールの結果を添付(昨年度継続)

ア Ⅲ・Ⅳ類型の児童生徒…本校アセスメントチェックリスト Ver4.0の活用,またはその他実態把握ツール

の結果を学習指導案の最後に添付する。

1 年目 (平成 27 年度)

2年目 (平成 28 年度)

3年目 (平成 29 年度)

表現・表出する力を培うための研究基盤作り (本校アセスメントチェックリストの活用,

指導案改訂,文献研究)

表現・表出する力を培うための実践研究① (手引きを活用した実践を行い,その指導事例の収集,指導の具体・有効性についての分析・検討を行う)

⇒指導案集の作成

表現・表出する力を培うための実践研究② (「適切な実態把握」と「根拠のある指導」をキーワードにして指導案を作成し授業を実施する。指導事例を蓄積

し指導案集を作成・公開する。)

-3-

イ 本校アセスメントチェックリストが活用できないⅡ・Ⅲ類型の児童生徒…学習指導要領の「知的障害者

である児童生徒(小・中・高)に対する教育を行う特別支援学校における各教科の目標及び内容 国語科」

の内容をもとに,コミュニケーションに関する実態把握を行い,児童観・生徒観に明記する。

ウ Ⅰ類型の児童生徒…各学部の学習指導要領国語の内容・目標の一覧(グループウェアに掲載)をもとに,

児童生徒のコミュニケーションに関する発達段階を児童観・生徒観に明記する。

(2)「根拠のある指導」のために

・「根拠のある指導」の実践と,教員間で研究テーマについての理解・意識の差をなくすために,今年度は教

育研究部が主体となり,授業概要説明会等の既存の全体研修の際に“表現・表出する力”を培うための指導に

ついてのミニ研修会を実施する。

ア “表現・表出する力”を培うために必要な「適切な実態把握」と「根拠のある指導」に関する研修

(5/16 授業研究について と同時開催)

イ 校内研,公開研の授業概要説明会では,授業者が授業の指導に関する根拠の説明を行い,教育研究部員

が指導理論研修を開催する。

(3)指導事例の蓄積,公開

・「イチケンツウシン」で一学級一研究授業等での指導事例紹介や授業改善に関わる情報発信を随時行う。

・3月に「授業研究のまとめ」を作成,“表現・表出する力を培う指導の在り方”についての成果を報告する。

・学習指導案を集約し「指導案集」を作成・公開する。

6 今年度の研究計画

4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月

7 研究の方法

研究授業及び研究協議の事例蓄積を通して,“表現・表出する力を培うための指導の在り方”を明らかにして

いく。研究授業は,研究テーマに沿った既定の指導案様式を用いて授業づくりを行い,授業を実施し,研究協議

を行う。研究授業は,一学級一研究授業(一研),校内授業研究(校内研),公開授業研究(公開研)において3

つの柱で計画的に実施する。校内研,公開研においては事前の指導案検討は該当学年および学部会で行う。全体

に対しては,指導案の決裁後に授業概要説明会を実施し,授業内容の周知を図る。

研究授業については複数の目での授業評価を行うために,記録映像を撮ることを推奨する。校内研・公開研の

授業については児童生徒が当日欠席した場合も考慮し,当日だけでなく前時の授業もビデオで撮影し,授業前日

までに視聴可能な状況にしておくこととする。

情報発信

「イチケンツウシン」発行(随時)

校内研

小 9/26,中 10/16,高 10/23

1/26

公開研

3/26 授業研究のまとめ

指導案集

発行

研究の

まとめ

一学級一研 校内研 公開研

授業者決定 ⇓

年間計画 作成

5/16 授業研究について

一学級一研究授業は公開研までに

終了する

指導案集約・分析

全体の動き

教育研究部

授業概要説明会で

研究テーマに関わる研修を開催

一学級一研究授業実施

-4-

8 授業研究について

(1)一学級一研究授業(一研)

6月~1月(公開研 1/26まで)の間で,指導案作成・検討,授業参観,授業後の研究協議を中心とした授業

研究を行う。授業者が持ち上がりの学級は,6月からの実施を進めていく。

[実施手順]

①5月中に各学級で授業者を決定→教育研究部で年間計画を作成 (〇月に,何年何組が授業研究)

②教育研究部が 1ヶ月ごとに授業日,実施時間を調整・決定。全体に提示

③指導案を作成し,授業者が授業 1週間前までに校内起案

④授業実施

⑤授業者,参観者及び教育研究部員で研究協議を実施

⑥授業者が所定のフォルダに学習指導案のデータを保存

教育研究部が記録映像・研究協議シート(マトリックスシート)をデータ保存

(2)校内授業研究会(校内研)

各学部から1本ずつ研究授業を実施し,外部から指導助言者を招聘し全体で研究協議を行う。学習指導案

作成については授業者と教育研究部が随時連携を取りながら行う。

指導助言者 小学部 本校 小学部部主事 井上 千恵美

中学部 広島県立教育センター 指導主事 塚本 理恵

高等部 広島県教育委員会 指導主事 内田 俊行

[実施手順]

①5月中に各学部で授業者を決定

②授業4週前には教育研究部に提出(締切厳守)

※この時点までに学年検討を済ませておく。

③授業3週間前に各学部会での指導案検討を行い,修正後教育研究部が校内起案を行う。

④授業2週間前には指導助言者に送付

⑤授業実施約1週間前に,全体に対して授業概要説明会を実施

⑥授業実施

⑦全体で研究協議を実施

⑧授業者が所定のフォルダに学習指導案のデータを保存

教育研究部が記録映像・研究協議シート(マトリックスシート)をデータ保存

(3)公開授業研究会(公開研)

各学部 1本の授業を公開し,外部講師等を招聘し,各学部単位で研究協議を行ったのち,全体で外部講師を

招いた講演会を開催する。当日までの実施手順は校内研に準ずる。学習指導案作成については授業者と教育研

究部が随時連携を取りながら行う。

全体会講師 福岡大学 特別支援教育講座 教授 一木 薫

指導助言者 小学部 広島県立教育センター 指導主事 塚本 理恵

中学部 本校 中学部部主事 川口 辰之進

高等部 広島県教育委員会 指導主事 内田 俊行

-5-

-6-

-7-

-8-

2 一学級一研究授業

(1)概要

様式に沿った指導案を作成し研究授業を実施する。研究協議では,授業者・参観者が参加し協

議を行う。マトリックスシートを用い,付箋に意見・感想を書きだして研究テーマに沿った意見交換を

する。授業参観者には授業参観シートを記入してもらい協議後に授業者に渡して今後の授業改善

に役立てていく。

(2)情報発信(「イチケンツウシン」について)

昨年度に引き続き,授業研究に関わる情報

発信として「イチケンツウシン(一研通信)」を

年に2回発行した。研究テーマとそれを実現

するためのキーワードを毎号掲載し,教職員

が常に授業研究に関わっているという意識づ

けを行った。また一研の事例紹介と授業改善

に関わるコラムを掲載した。

コラムの掲載内容は以下の通りである。

・校内授業研究会のダイジェスト及びマトリッ

クスシートのまとめ

・校内研アンケート結果報告(小)

「日々の取組や授業改善を振り返って」「授業研究システムについて」

・「適切な実態把握」とは,「根拠のある指導」とは

・書籍の紹介

(3)実践事例紹

-9-

(4)成果と課題

授業者と連携しながら計画的に実施することができた。公開授業研究会までに終了する予定

だったが,児童生徒の体調等で延期された授業があったため,2月に終了した。実施率は 100%

だった。参観者が少ない授業では,記録映像を後から見て協議を行った。参観者が少ないなが

らも,中身の濃い協議を行うことができた。

-10-

3 指導理論研修

(1)目的

昨年度の授業研究の課題から,校内研・公開研の研究協議において,授業者が参観者に意見

をもらいたい視点とは外れた意見が出されることがあった。授業者の意図する指導理論や段階的な

指導の経過について,参観者が指導案のみでは十分に理解することができなかったためだと考えら

れる。参観者の重度・重複障害のある児童生徒に対する指導についての専門性の向上と,研究授

業の中の指導理論の理解を深めることを目的として,今年度より授業概要説明会の中で 15 分ほど

の指導理論研修を2回開催した。

(2)概要

第一回 9月 11 日(月) 「子供の表出する力を培う指導について」 (平原教諭 )

校内研(小)の自立活動(個別)の授業でポイントとなる,表出する力を培う指導について,自立活

動ガイドブック(第6版)をテキストに,表出の困難さや,それに対する指導について研修を行った。ま

た研究授業を見る際のポイントも合わせて提示した。

第二回 10 月 17 日(火)「本校の作業学習(合わせた指導)について」 (藤井教諭)

校内研(高)の授業について,作業学習という本校の「合わせた指導」は,何の教科の要素を含ん

でおり,何を目的としているのかを確認した。また肢体不自由の児童生徒の自立と社会参加につい

て指導者の思いを踏まえた視点を提示し,説明した。

(4)成果と課題

教育研究部員が講師となり,研修を実施した。各校内研のアンケート項目「授業概要説明会の指

導理論研修は,研究対象の授業を理解するに上で役立っている」という項目の「全くそう

思う」「ほぼそう思う」の肯定的な意見の割合が,校内研(小)61%,校内研(高)63%で

あった。アンケートから,指導理論研修の肯定的な意見が 60%台であったことは,内容と

して参加者の満足度を十分に得られない結果であったと考えられる。研修内容を教職員の

ニーズに合ったものにすることや,参観者が授業を深く見ることができるような視点を提

示できる研修にする必要がある。

-11-

3 校内授業研究会

各学部1本研究授業を設定し,研究授業を実施し,外部から指導助言者を招き,全体で研究協議

を実施した。

(1)日時

平成 29年 9月 14日(木) 小学部

平成 29年 10月 16日(月) 中学部

平成 29年 10月 31日(火) 高等部

(2)指導助言者

小学部 本校小学部主事 井上 千恵美

中学部 広島県立教育センター 特別支援教育・教育相談部 指導主事 塚本 理恵 先生

高等部 広島県教育委員会 教育部特別支援教育課 指導主事 内田 俊行 先生

(3)研究協議の柱

・実態把握から導き出された目標は適切であったか。

・目標に対する手立ては適切であったか。

(本時の目標&表現・表出する力に関する目標)

(4)研究協議ツールの工夫

ア 授業参観シート

参観者が授業を見て記入。授業会場前で参観者に配布し,研究協議の討議の柱に即して

項目立てています。

イ マトリックスシート

研究協議の際に使用します。授業を見ての気付きを参観

者が付箋に書いてシートに貼り付けていきます。観点を絞って

意見を出し合い整理することで,活発な意見交換が行われる

ことを目的としています。

(5)研究協議のまとめ (次頁より掲載)

表現・表出する力に関する目標に対する手立て

良かった点・ 参考になった点

質問・疑問点 本時の目標に対する手立て

-12-

校内授業研究会(小学部) 研究協議のまとめ

授業日 平成 29年9月 14日(木) 2校時 授業者 T1 小川 涼太郎

学部・学年 小学部 4年 1組 教科・領域 自立活動(個別)

題材・単元名 自分のペースで頑張ろう

本時の目標

・あぐら座位をとり両手を床につけて,頭部を 20秒程度拳上しようとする。

・揺さぶり遊びをする前の合図で,表情や声で期待を表す。

・提示された絵本を見て,声や表情で期待を表す。

実態把握 目標 手立て

A

・低緊張で未定頸。座位において支援す

ると,頭を拳上しようとする動きが見られ

る。

・揺さぶり遊びの後にはもう一度してほし

そうな表情をするが,揺さぶり遊びの前の

期待反応は見られない。

・図書館に入室したときには,絵本の読み

聞かせが始まることは理解できている。

・あぐら座位をとり両手を床につけて,頭

部を 20秒程度拳上しようとする。

・揺さぶり遊びをする前の合図で,表情や

期待を表す。(要Ⅱ-20)

・提示された絵本を見て,声や表情で期

待を表す。(要Ⅱ-25)

・見えやすい位置によく注視する物を提

示し,自発性を促す。

・「合図→揺さぶり遊び」を繰り返し,合図

と揺さぶり遊びのつながりを持たせる。

・好みの絵本を繰り返すことで期待感を

持てるようにする。

授業の概要

頭の引き起こし→体幹の体操→揺さぶり遊び→絵本の読み聞かせという授業の流れで構成されていた。頭の引き起こし

では,あぐら座位をとらせ,児童の興味がある物を頭部より高い位置に提示し,児童自ら頭を引き起こせるようにしていた。

体幹の体操では,あぐら座位をとらせ,教師が児童の身体を左右に動かし,腹筋を使うことができるようにしていた。揺さぶり

遊びでは,揺さぶる前に「ゆさゆさするよ。」と声かけをし,揺さぶり遊びを止めた後は「もう一回する?」と声かけをし,声か

け(合図)に対する期待反応を引き出すようにしていた。最後の絵本の読み聞かせは,教室から図書室に移動し,好みの絵

本を繰り返し読むことで期待を持たせ,絵本を読む前には絵本を児童の視界から出し,再び提示することで期待を表すこと

ができるようにしていた。

研究協議

①実態把握に基づいた目標設定について

・実態把握では,PT からの助言を取り入れ,目標設定され,支援の工夫をしていた。

・頭部拳上の 20秒目標は何から導き出したものなのか。

・児童の興味・関心に基づいて活動を設定している。(絵本の読み聞かせ,揺れ遊び)

・あぐら座位での頭部の拳上は,難しいように思えた。胡坐姿勢で垂直に保つか頭部を挙げやすい姿勢にし

たほうがよいのではないか。

・児童に身につけさせたい力を「小学部卒業時の目指す姿→年間目標→個別の指導計画→本時の目標」とい

うプロセスで明記されていたのが良かった。

・「絵本を見て期待を表す」とあるが,どんなタイミングでどんな反応を授業者は期待しているのか?(最初

に絵本を見せた時?挿絵を見せた時?読み聞かせが始まった時?)

・本校アセスメントリストを活用している。(経験の浅い教員は特に,何をどう指導したらよいのか迷うと思

うので,指導の根拠となるものが指導案に明記されているのはとても良いと思います。)

・実態把握からの目標設定はよくされていたと思う。自発性を促す取り組みが将来につながると思った。

・体幹がゆれていたので,身体を前傾して,ピーナツボールに腹ばいなどで頭を挙げる目標の方がよかった

のではないか。

・適切だった。見る力が備わってきたと感じるので,「見る力」にポイントを置いても良かったと思う。

・あぐら座位,両手を床,頭部を 20秒拳上,それぞれ単体だとどんな実態なのでしょう。すべての動作を同

時にするのはむずかしいのでしょうか。

★根拠のある指導

★根拠のある指導

★適切な実態把握

★適切な実態把握

★根拠のある指導

-13-

②目標に対する手立てについて

【本時の目標について】

・児童の生活状況や好きなこと,興味などをよく把握して,見る場面において工夫されていたと思う。

・「見えやすい位置に良く注視するものを提示する」という手立てが良かった。(児童が興味を持ち,「見たい」

と思う気持ちが高まることが頭部の挙上につながると思うので。)

・注意を向けさせたいものが,児童にとって分かりやすかったのか。

・教材に名札を選んだ理由は?(指導観に絵本は色が豊富ではっきりとした挿絵の絵本…とあるので,より

興味を引きやすいように視覚支援を意識した教材を使用してみてもいいのでは?)

・「頭部の拳上」だけが目的なら,三角マットとかうつ伏せ,肘立てでするというやり方もあるのではないか。

【表現・表出する力を培うための目標について】

・図書室に移動することで,読み聞かせが始まることを意識させていた。

・絵本を4回は多いかなと思ったが,1回目に表情が緩み,4回目は快や笑顔の表出があった。

・児童の好きな物,刺激(揺さぶり)を活動に入れて,期待反応を引き出そうとしていた。

・子供のどのような小さな反応でも言語化してフィードバックされていて丁寧だった。

・絵本の内容が繰り返しの内容になっているのでわかりやすい(期待できる)。

・トランポリンが好きなのであれば,トランポリンと揺さぶり遊びを交互にやってみるなどの変化があって

もよかったのでは。

・揺さぶりの前の合図が曖昧ではないか。

・揺さぶり遊びの時,下におろして横にして揺らす等,大きい動作があってもいいのでは?

・合図=言葉掛けが適切か?本人がより受け止めやすい(意識しやすい)刺激を合図にするのが好ましいと

思うが児童は言葉掛けに注目していたか?

今後の指導に向けて ( 指導助言者: 広島県立福山特別支援学校 小学部 部主事 井上 千恵美 )

○良かったところ(指導案の題材観より)

・小学部卒業後の視点から捉え,卒業までに身に付けてほしい力を導き出している。

・卒業時に目指す姿を明確にしている。

・実態から課題を絞り込み,今,なぜこの指導が必要なのかを明確にして指導にあたっている。

○惜しかったところ

<学習活動2(頭の引き起こし)>

・安定した姿勢で活動できるようにすること。

・あれ?なんだ?という活動を仕組み,もっとやりたい!という意欲につなげること(動機づけ)。

<学習活動4(揺さぶり遊び)>

・エアーマットやブランコなど,本人が好きなダイナミックな活動を取り入れてはどうか。

<学習活動5(絵本の読み聞かせ)>

・見たり聞いたりするだけではなく,本物の野菜に触れたり,においをかいだりするなど,様々な感覚に働

きかけ,広がりを持たせていくと良いのではないか。

・全体的には,学習活動の中で本人の主体的な学びをどのように引き出していくか,そのためには,各場面

をどのように構成していくかがポイントである。楽しい!もっとやりたい!という,表出する意欲が生まれ

るような働きかけを今後さらに工夫していってほしい。

★適切な実態把握

★表現・表出する力

★表現・表出する力

★適切な実態把握

★根拠のある指導

★表現・表出する力

★根拠のある指導

★根拠のある指導

-14-

校内授業研究会(中学部) 研究協議のまとめ

授業日 平成 29年 10月 16日(月)3校時 授業者 T1小野 仁美 T2西川 洋一 T3石黒 淳子

学部・学年 中学部 3年 2組 教科・領域 身体を動かそう

題材・単元名 ふれあい体操をしよう

本時の目標

・上肢・下肢の筋や関節可動域・体幹の動きなど,緊張をやわらげ,心身ともにリラックスする。

・様々な揺れや振動・刺激等を受け止める。また,感じたことを自分の方法で表出する。

実態把握 目標 手立て

A

・言葉掛けされると,相手を意識して

いるような素振りを見せる。

・自分に対して言葉掛けされると声を

出して返事をする。(人Ⅳ-30)

・指導者を意識できるように,身体に

触れ言葉掛けをする。

B

・スキンシップは嫌いではないが,恥

ずかしそうにする。

・周囲の興味を引こうとし,反応を期

待して行動する。(人Ⅵ-42)

・動き方等を示したり促したりしなが

ら,本人の行動を見守る。

C

・音楽が流れると期待して笑顔にな

る。

・活動を繰り返してもらうために,自分

から支援者に働きかける。(要Ⅲ-27)

・音楽が止まった時に,「もう 1 回す

る?」と言葉掛けし,反応を待つ。

授業の概要

音楽に合わせて体を動かすことを全体の目標とし,生徒個々の実態に合わせて教員と一緒に体を動かす活動を7つ(7

曲)設定していた。教員が支援をする形で,生徒がそれぞれの身体の動きを体験した。メインのふれあい体操では,曲調の

違いが分かりやすく,リズムの良い4曲使用し,曲調にあった動きを取り入れていた。フォークダンスのジェンカでは,教員が

リズミカルに車いすを移動させ,生徒どうしが向かい合えるような配置にし,お互いを意識できるように工夫していた。

研究協議

①実態把握に基づいた目標設定について

・返事,興味を引くなど,コミュニケーションや人間関係の視点からも目標設定されていた。

・毎時同じ音楽(曲)を使うことで,生徒が“あれだ!”と期待感を持ちやすい。

・それぞれの体操・曲で,個々が何を目標としているのかよくわからなかった。身体の何をねらうのか?

・身体の目標としての個別の目標に,「起き上がる」等と具体的な言葉があれば,わかりやすかった。もっと

具体的に指導案に明記してもらえると参観者にも評価ができるのだが…。

・個別の指導計画の年間目標が,この指導にどうつながっているのか分かりにくかった。

・B君がハードルを蹴散らす前に,何か手立てができればいいと思った。

・ミニハードルの高さや間隔等はどのように考えられているのか。セラピーマットと,板の色が同化してい

たので,目に入りやすい色だったら,もう少し自信を持ってできたのではないか。

・生徒Cは曲や,やっている中でのリズムや動きで笑顔になっていたので,期待していることを伝えること

ができていた。

・全体的にもう少し主体的な動きを促す場面があればよかった。支援者がずっと手を持ってやっていたので。

・「失敗してもいいんだ」ということをどう示したらよいのか?

・生徒が主体的に身体を動かしたという評価はどのようにしていたのか。

・生徒C“一緒に動く”と指導案にあるが,どのくらい動くことを目標としているのか,どのように評価を

するのか。(“自分で動く”が少しでも出来るのなら,一定の時間だけでも教員が握っている手を放し,生徒

自身に動きを任せてみてはどうか。)

・友達同士の顔がお互い見れる位置に来ることで,安心感が生まれたり友達を意識したりできるのではと思

った。

★適切な実態把握

★根拠のある指導

★表現・表出する力

★根拠のある指導

★適切な実態把握 ★根拠のある指導

★表現・表出する力

-15-

②目標に対する手立てについて

【本時の目標について】

・友だちと関わり合う,意識できる場面もあり,よかった。

・指導案には「すりすり」はなかったが,その日の生徒の様子など踏まえて取り入れたのはよかったと思う。

・一人ではできないことを一緒に行動することで,実現させている。

・生徒が笑顔になる活動の中で,姿勢やコミュニケーションに関する指導がなされていた。

・生徒Cは向かい合って骨盤補助ができたので,本人も安心して活動できたと感じる。

・生徒Bに対しては,本人の様子を見守られながら動き方を示されていた。目標とは違う動きだが,音楽を

聞き,リズムに合わせて身体を動かしていたのだと感じた。

・行うことがバラバラなのでそれぞれの活動のねらいが分からない。

・自ら身体を動かす活動が必要。教員に動かされている内容が多かったように思う。自立活動の目標達成の

ためにも,受け身ではない活動や支援が必要だと思う。

・個々の目標についてはよいが,3人クラスとしてお互いを意識できる活動がもう少しあればよかった。

・生徒Aは,俯せ,肘支えでマッサージをしていたが,効果はどうだったのか。時にはゆるんでいたようだ

が,頭をあげていることも多かったので,身体が緊張したままのように思えた。

・生徒Cは,座位時の腰,お尻の位置が心配です。お尻の下にタオルを一枚入れてみてはどうか。

・生徒Bは,箱に上り下りするときに靴下のままやっていたのはなぜか。裸足でやった方が滑らず安全そう

に思えるが。

【表現・表出する力を培うための目標について】

・音楽の効果的な使用により,意欲が高まったり動きのイメージが持てたりしていた。

・生徒の嫌だという気持ちを叱責するのではなく,共感するとともに,「気分転換をしよう」と声掛けや配慮

がされていた。

・言葉かけに対して笑顔が見られたり,うなずいたりする場面がみられた。

・自分の気持ちを素直に表現できていた。それを共感的に受け止めて授業がすすめられていた。

・子供のやりとりを大切にされていたので,一つ一つの活動で「どうだった」と聞く場面があってもよかっ

たのではないか。

・活動を繰り返す場面はどのくらいあったか。「もう一回する?」の言葉掛けはどのくらいあったか。

・ふれあい体操中に,曲を止めたり動きを止めたりすると,生徒からはどのような表出があるか。特に生徒

Cの表情が,活動中とても良かったので,何か表出がありそう。

・生徒Cの「活動を繰り返してもらうために,自分から支援者に働き掛ける」という目標はどのような姿を

ねらっているのか。また,その姿を引き出すために,どのような手立てをされていたのか。(先生と生徒との

間ではなされていたのかもしれないが,ビデオや実際の授業からはそのような場面が見取れなかったので…)

今後の指導に向けて (指導助言者: 広島県立教育センター 特別支援教育・教育相談部 塚本理恵 指導主事)

○教員間の連携が取れていた。生徒へのフォローがスムーズになされていた。

○目標設定と評価について

・個別の指導計画の目標,題材の目標,全体の目標,個々の目標のつながりを明確にする。

・自立活動の目標を,何を基準に「できた」と評価していくか。アセスメントチェックリストのうように評

価の基準を設けることが必要。

○主体的な学びについて

・子どもたちの内発的な学習の意欲(有能感・自己決定感←他者受容感)が,知的好奇心や達成感,挑戦に

繋がり,楽しさや満足に繋がる。その繰り返しで「またやってみたい」と思う。

・「深い学び」を促す学習活動を設定する。①ちょっと音楽を止めてみる→「あれ?」「もっと聞きたい!」

②曲に合ったシンボルの提示→生徒が活動を選択させる。

・できる体験を増やす,挑戦する意欲を育む。実態把握から得意なことを伸ばす。

★根拠のある指導

★根拠のある指導 ★表現・表出する力

★表現・表出する力

★適切な実態把握

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-17-

公開授業研究会(高等部) 研究協議のまとめ

授業日 平成 29年 10月 31日(火) 2校時 授業者 T1 林 美則 T2 後藤 充恵

学部・学年 高等部 1年 2組 教科・領域 作業学習

題材・単元名 清掃活動をしよう

本時の目標

・「作業の手順を理解して主体的に取り組む力」をつける。

・「作業に継続的に取り組む力」をつける。

実態把握 目標 手立て

A

・学習活動等の場面において返答が出に

くい。

・一つの作業終了時に「できました」と報

告することができる。

・一つの作業終了時に

T2に報告するよう伝える。

B

・報告を言葉として表現することには慣れ

ているが,言葉が聞き取りにくい時があ

る。

・一つの作業終了時に,聞き取りやすい

言葉で報告することができる。

・報告するときに,表情筋をしっかり動か

して発語するよう伝える。

C

・作業終了時に報告することはできるが,

定着は十分ではない。

・一つの作業終了時に「できました」と報

告することができる。

・一つの作業終了時に T2に報告するよう

伝える。

授業の概要

・「作業の手順を理解して主体的に取り組む力」と「作業に継続的に取り組む力」を身に付けることを目標に授業を展開され

ていた。「ホテルの客室」という場面を設定して「従業員」として生徒3人が窓・畳・テーブル・床等を協力,分担して清掃する

活動であった。また,「表現・表出」の観点では,掃除後の報告(「できました。」)や作業の中での困りや戸惑いに対して主

体的に支援者に支援を求める(「お願いします。」)ことができる力の育成も取り組まれていた。

研究協議

①実態把握に基づいた目標設定について

・卒業後の進路を見据えた目標になっている。

・3人の実態に応じた課題を適切に準備している。

・“上肢をしっかり伸ばしながら”や“姿勢を維持しながら”といった目標は作業時,生徒自身はどれくらい

意識できていたか?(実態にもよるが,自分の身体が今どのような状態にあるかということを認識するのは

難しいと思う。iPad等で写真や動画を撮っておけば,振り返りにも用いることができるし良いのではな

いか。)

・個々の実態に合わせ本人が理解しやすく達成可能な具体的な目標だった。

・やることは分かっているので,目標設定を個々の生徒によってもう少し細かく設定してもよかったのでは?

・「がんばったら達成できる」という部分が目標にしてあり,適切だった。

・目標の中の「報告」が重要視されていて,卒業後の就労等のことをしっかり考えられている。また,作業

終了後に「できました。」と報告することで達成感も感じられる。

・「できました」という時,声の大きさ,表情,相手の目を見るなどは評価項目にしないのか。

・表現の目標(「できました」の報告)は,もっと高次の内容を狙えるのではないか。(例えば,「○○ができ

ました」と報告したり,振り返りの際シートを作って自己評価をつけ発表したりする)

・それぞれが作業のポイントを意識しながら取り組むことができていた。

・清掃する意味が理解できているからこそ取り組むことができたのだと思う。

・授業での清掃を生活の中につなげていってほしい。

★根拠のある指導

★適切な実態把握

★表現・表出する力

★表現・表出する力

-18-

②目標に対する手立てについて

【本時の目標について】

・一定の時間作業を続けようとしていたのが良かった。

・マーカー,テープ等個に応じた支援により,より主体性が高まった。

・服装を変えて気持ちを切り替えさせている点がよかった。

・掃除の前と後で違いが伝わるような工夫や評価があると良い。

・雑巾を絞ったり二つ折りにして使う等の基本的行動が習得できていた。

・生徒Aの窓拭き用雑巾がミトン型になっていて,使いやすそうだった。

・指示が最小限で良かった。生徒は自分で作業を進めていた。

・3人それぞれの活動ではあったが,お互いが意識して「負けずにやろう」という気持ちをもってできてい

た。(3人にはじめに一斉に話をしたこと)

・リーダーを決めるなど,友達同士の関わり合いを持たせられるとよいと思う。

・その日の目標を分かりやすく具体的に示されていた。畳○枚と○○を掃除等個々に合わせて示されていて

良かった。

・前時振り返り→T1見本→生徒実践と言う流れが良かった。生徒が目標・内容を理解して取り組めていた。

・ホテルの客室という設定であるので,「手順書」や「自己評価シート」を準備し,自分で自分の行動をチェ

ックできるようにすることで,次につながるのではないか。

・本時で撮ったビデオ等を活用して,自分が掃除している姿を見て,自分で課題を見つけることもできそう

【表現・表出する力を培うための目標について】

・作業終了時に報告するよう伝えておくことで自然に報告しやすくなっていた。

・生徒Cが畳終了直前に指導者の方をちらちらとみて,「できました」が言うことができていた。

・作業後の報告ができており,しかも大きな声で言うことができていた。

・「○○ですか。これで終わりですか」など質問しながら説明していたこと。目標ややり方を自分で確認でき

るから。

・作業においては報告,連絡,相談が大切です。「できました」と報告すること,「お願いします」と依頼す

ることはその基本なので意識させることは,今後も必要になると思う。

・必要最低限の言葉掛けや支援内容だったと思う。

・言葉遣いで「うん」と答える場面があったが,「はい」と指導することも必要なのではないか。

・生徒Aが掃除機や窓ふきの方向を理解しているか評価するために,わざと車椅子を違う方向に動かしたり

動かさなかったりして生徒の言葉を引き出せたら良い。

今後の指導に向けて ( 指導助言者: 広島県教育委員会特別支援教育課 内田 俊行 指導主事 )

○特に「実態に応じた作業内容」,「具体的な目標設定」,「高い集中力(意欲)」のもと生徒が授業に取り組め

ていた。

○さらに授業をより良くしていくために例えば,ホワイトボードなどを使い,授業の開始時に一人一人に目

標を示し,その目標を意識して作業を進めることで目的意識を持って活動ができるようにする。また,その

目標に対して言葉かけなどで評価することで教員自身も確認することができる。(個々の目標設定の具現化と

生徒の意識化)

○「作業学習を通して,身に付けさせたい力とは何か?」→本校の身に付けさせたい「資質能力」と作業学

習の内容を考え,分析していくことが重要である。

○「学びたい」,「やりたい」など主体的な行動が見られるための「豊かな心」や「協働性」,「意欲」などを

培っていく教材設定の力が必要となってくる。

★根拠のある指導

★根拠のある指導

★根拠のある指導

★根拠のある指導

★表現・表出する力

★表現・表出する力

-19-

4 公開授業研究会

各学部1本の研究授業を設定し,研究授業を実施する。外部からの指導助言者を招いて各学部単

位で研究協議を行った。研究協議後は講師を招き,講演会を実施した。外部からは県内外から 23名

が参加した。

(1)日時

平成 30年 1月 26日(金)

(2)指導助言者

小学部 広島県立教育センター特別支援教育・教育相談部 指導主事 塚本 理恵 先生

中学部 本校中学部主事 川口 辰之進

高等部 広島県教育委員会 教育部特別支援教育課 指導主事 内田 俊行 先生

(3)講演会

講師 福岡教育大学 特別支援教育講座 教授 一木 薫 先生

演題 「 次期学習指導要領改訂のポイントと自立活動の指導 」

(4)研究協議の柱

・実態把握から導き出された目標は適切であったか。

・目標に対する手立ては適切であったか。

(本時の目標&表現・表出する力に関する目標)

(5)研究協議のまとめ (次頁より掲載)

(6)アンケート結果 (一部抜粋)

ア 外部参加者対象アンケートより

・丁寧な指導案を作られていて大変勉強になりました。協議についても他府県の先生,福山の先

生のお話を聞くことができて良かった。重度重複の子供の授業研究を行う際は,ぜひ本校でも取り

入れていきたい。

・アセスメントから目標設定,授業→その後の課題のプロセスがもう少し分かれば良かった。

・小学部の授業へは,小中高参加者が全て参観することが予想できたので,別室で,ビデオで生

で視聴できるような形があると良かった。

イ 本校教職員対象アンケートより

・他県の方と有意義な協議ができた。

・授業者として色々意見,気付きを頂き,今後の取組に反映できる。

・次期学習指導要領に関連するお話,また教育課程についての知識を得ることができました。また,

課題関連図をワークショップとして演習することができました。

・教科と自立活動の違いや自立活動の目標設定の方法等,大変わかりやすい内容で大変参考に

なりました。もっとお話しを聞きたいと思いました。

-20-

公開授業研究会(小学部) 研究協議のまとめ

授業日 平成 30年 1月 26日(金) 3校時 授業者 T1 野崎仁美 T2 柳井寿郎

学部・学年 小学部 3年 2組 教科・領域 自立活動(かんかく・コミュニケーション)

題材・単元名 かんかくあそび(触って遊ぼう ~ふゆのおはなし~

本時の目標

・音や物に気付き,身体の動きで表すことができる。

・繰り返しの活動の中で教員とやり取りを行い,表情や動きで表出することができる。

実態把握 目標 手立て

A

指導者が腕を動かしたり,くすぐり

遊びをしたりする中で,笑顔が続く

ようになってきた。

揺れや歌遊びの活動の中で,遊び

の終わりに気付き,表情や身体の

動きで表出することができる。(個別

の指導計画)

エアベッドで体を動かしたり,歌遊

びで体に触れたりするなど,受け入

れやすい刺激を何度も繰り返す。

B

動きを止めて話声を聴いたり,友だ

ちや指導者の声をきっかけに,寝

返りをしようとしたりする。

繰り返しの遊びをした後,「せー

の。」という言葉掛けに表情や体の

動きで期待を表すことができる。(要

Ⅲ-17)

エアベッドや歌遊びを行った後,ゆ

っくり「せーの。」の言葉掛けをし,

遊びを繰り返す。

授業の概要

「このゆきだるまだーれ」の絵本の読み聞かせを行った後,絵本のお話の流れを模して,そり遊びを楽しんだり雪だるまにな

った動物を探し出すという展開で授業を進めていく。揺れをエアベットで体感させたり,包装紙の感触を感じさせながらガサ

ガサという音を聞かせたり,「こすれこすれ」の歌遊びや合奏を行うなど,児童の好きな感覚を活用して,笑顔などの快の表

出をねらう。

研究協議

①実態把握に基づいた目標設定について

・目標が具体的に示されていた。

・4月から繰り返し確かめてきたであろう事柄(終わりに気付くこと,「せーの」での期待反応)を目標に設

定している。

・児童Aは体調不調後のため万全の状態ではなかったが,笑顔を見ることができたので目標は適切だった。

・児童Bがエアーマットでの活動中,活動が止まった時や掛け声に対して,右手を動かして期待や楽しい気

持ちを表しているように見えた。

・急いで答えを出させるのではなく,待つことを徹底していたので,参考にしたい。

・本時を見た限りでは,表出はあまり見られなかったので,難しいと思った。

・教員の言葉掛けをどこまで理解しているのか。

・発声に対する評価はどう考えればよいのか。(発生がいくつかあり,快表現なのか,発作によるものなのか)

・楽器でギロを選んだ意図は何か。スティックを持ち鳴らすという二つの動作は難しくないか。上下の動きではなく横

への動きをねらったのか。

・覚醒が低いことや発作があることは事前に予測できることなどで,その場合は何をめざして指導するのか,細かい評

価基準があってもよかったのではないか。

★適切な実態把握

★適切な実態把握

★根拠のある指導 ★適切な実態把握

★表現・表出する力

-21-

②目標に対する手立てについて

【本時の目標について】

・わかりやすく丁寧な言葉掛けであり,児童の反応を待って丁寧な関わりができていた。

・発作後授業できる状況かどうかを判断して学習を確保しており,対応がよかった。

・様々な用具を使用し姿勢をその時々で変えることで,児童の動きを引き出していた。

・素材の音に気付くという目標に対して,音が鳴りやすい包装紙を使用したり,少し腕を動かすだけで音が

出るように手首に付ける鈴を使用する等,教材の工夫があった。

・自分から手を動かして触れるという目標に対して,もう少し鳴らせやすく音が大きい楽器はどうだろうか。

・発作の後はゆっくりさせてあげてもよかったのではないか。

・「冬」というテーマは「寒い」ということなのか。

・教材の提示位置や姿勢の工夫が必要である。

・刺激が多かった。刺激の精選が必要である。

・指導者同士,手立てや支援を統一することが必要である。

【表現・表出する力を培うための目標について】

・児童が好きな活動を把握して,表出を十分に引き出せていた。

・刺激を入れた後,反応を待つ間合いが適切だった。

・活動を繰り返すことで,少しずつ楽しい気持ちが高まっているように感じた。

・エアベットでは,歌遊びと組み合わせて使用し,ベットの動きをとめたところで「せーの」と言葉掛けす

ることで,期待を持ちやすかった。

・絵本を使用したことで授業にストーリーができ,活動を行う必然性ができた。

・どの活動がこの授業の山場なのかが見えにくい。もっとシンプルかつ児童の表出をねらえるようなものを。

今後の指導に向けて (指導助言者:広島県立教育センター 特別支援教育・教育相談部 塚本理恵 指導主事)

〇課題発見・解決学習では,「あれ?違うぞ?」「やってみたい!」「これはなんだろう?」「そうだ,あれだ!」

を「わかった☆」「やりきった~☆」「自分でできた☆」「私,頑張った☆」に変えてほしい。

〇本日の授業の中での課題発見・解決学習は

・いろいろ姿勢を変えての「活動量」がしっかりあったこと。

・働き掛けをして「待つ」を徹底していたこと。

・ピアノの音にしたり,CDを使ったりし,先生の声だけだったりと場面場面で変えながら,児童の出す

「音」に児童が自ら気付けるようにしていたこと。

〇さらに注目していくことは,既習事項を活用すること

・各活動での導入や振り返りに活用する

・得た知識や手を伸ばせるようになった等のできるようになったことを,自立活動だけでなく他の授業で

も活用していく。

・できたことやもう少しでできそうだと思うところを,1週間や1か月,1年間という単位で単元や授業

の組み立てに大切にしていくこと。

〇教材・教具

・紙芝居を使っていたが,タブレット端末を使用することで,一緒に操作したり音が出せたりする。

・視覚障害のある児童だったので,触覚の違いを活用するとよい。

同じ感触のぬいぐるみではなく,形や感触の違うものや音が出たりする物を準備すると,良いのではな

いか。

★根拠のある指導

★根拠のある指導

★適切な実態把握 ★根拠のある指導

★適切な実態把握

★根拠のある指導

-22-

公開授業研究会(中学部) 研究協議のまとめ

授業日 平成 30年 1月26日(金)3校時 授業者 T1 高垣 有 T2 本田 易久

学部・学年 中学部 1年2組 教科・領域 表現・コミュニケーション

題材・単元名 お話を聞こう

本時の目標

・感覚を活用して,表情や発声,身振りなどの自分に合った方法で自己表現をする。

実態把握 目標 手立て

A

・期待反応は見られるが,「もう1回す

る?」の言葉掛けに対して笑顔の表出が

安定化しない。

・言葉掛けに対して,笑顔よりも左手が伸

びてくることがある。

・「もう1回する?」の言葉掛けに対して,

表情や身振りで応答する。

(要Ⅲ-26)

・好きな活動の後の期待反応の後に,少

し時間を置いてから,「もう1回する?」と

言葉掛けをして,反応を待つ。

・支援者に左手を伸ばした場合,目が合

っているかどうかを確認して,再度好きな

活動をする。

B

・「もう1回する?」の言葉掛けに対して,

笑顔や腕を動かしたりして応えることがで

きている。

・言葉掛けに対して,時々「はい」と返答

することもある。

・活動を繰り返してもらうために,発声によ

り自分から支援者に働き掛ける。

(要Ⅲ-27)

・活動終了後に何も反応がない場合は,

肩をたたいたり腕を上げたりして反応を待

つ。

・「もう1回する?」の言葉掛けの後に,腕

や脚を動かすのみであれば,発声による

反応を待ち,応答のちに活動を繰り返

す。

授業の概要

ふれあい遊び(身体を動かして,覚醒を高める)→絵本を読む→個別の活動という授業の流れで構成されてい

た。ふれあい遊びでは好きな音楽を聞いて抱きかかえて,身体をくすぐりや揺さぶりで動かし,音楽が止まると

「もう一度する?」の言葉掛けで生徒の表出を促した。「見る」という目標に対して,絵本に登場する動物を,イ

ラストカードやタブレット端末を用いて提示し,生徒の興味・関心を高めながら,目標達成に向けてアプローチ

行った。

研究協議

①実態把握に基づいた目標設定について

・本時の目標で5~10 秒と具体的に数値設定されており,評価しやすい。

・アセスメントチェックリストの表と照らし合された目標でよく分かった。

・その時の状態によって姿勢を変えたことは良かった。側臥位で手の動きが良くなった。

・「眼球を」については,達成が難しかったが,実態に合った「次に頑張る点」が目標に設定されており,目

標は適切だった。

・先生が生徒の動きや表情が出るのを待ってやりとりしていた姿が印象的だった。この「動き」をしたとき

は生徒がこんな「気持ち」など記録を付けていき,動きと感情を結び付けていくと,生徒理解が深まり,よ

り指導が深まるのでは。

・音楽や手遊びなど,覚醒を上げるために授業にもっと入れてみては。

・左手が伸びるのであればスイッチを押せたりするのでは。

②目標に対する手立てについて

【本時の目標について】

・体調に配慮した姿勢転換や学習姿勢が実施していた。

・姿勢をいろいろ変えて集中しやすくしていた。

・生徒のその時の体調に合わせて好きな音楽活動を取り入れていた。

★適切な実態把握

★根拠のある指導

★表現・表出する力

★表現・表出する力

-23-

・学習環境・教材提示への細かい配慮がされていた。

・シンプルな指示や言葉掛けがされていた。

・ぼんやりしているのか,見ているのか,判断が難しい目の動きだった。眼球が右側を向いていることで注

視していると,こちらが判断できるのか?提示物を上下左右にもう少し動かして追いかけることができたら

意思が伝わるか…。

・せっかく丁寧なイラストを準備されていたので,より効果的に提示できるように背景を黒くしても良かっ

たのでは。

【表現・表出する力を培うための目標について】

・じっくり見る,じっくり触れる。生徒の反応をしっかり確認しながら行っていた。

・眠たくなった時にふれあい遊びを取り入れた。

・子どもの様子を見ながらその時に応じて指導者が対応する方法を考えていた。

・タブレットを見た後に実際に動物のイラストの素材に触れて確認することができた。

・タブレットを活用して生徒の興味を引き出していた。

・様々な感触の物を用いて触る活動を取り入れていた。

・生徒からの表出をあせらずじっくり待たれていた。

・触刺激を入れることで目線を向けることができた。さらに言葉も加えるといいのでは。この感触に対して

はこの言葉など,ある特定の感触と特定の言葉を結び付けて指導していくなど。言葉の学習につながりそう

だと思った。

・表情や身振りで応答する場面で自分から応答する時間をしっかりとって待っていたことが良かった。

・タブレットの画像をわずかに大小させて注目を促していた。

・もう 1回する?の言葉掛けをどのくらい(回数)するべきなのか。「おわり」の言葉にびっくりするような

様子が見られた。

・掲示物をつける時もゆっくり行い,追視を促してもいいのではないか。

今後の指導に向けて ( 指導助言者 :本校 中学部部主事 川口 辰之進 )

○シンプルな言葉掛け

・いらない接続詞をなくしている。意図的にボリュームを小さくしている。

・見ると聞く 間の取り方 絵本の文章を選んで分かりやすくしても良い。

○教材

・教材等もよく研究されていた。視覚が優位な生徒なので,タブレット端末を示してマッチングの学習にも

これからつながるのではないか。目と手の照合をもっと検証していく必要もある。

○姿勢

・体調を考えて姿勢を変えて活動がおこないやすくなっていた。姿勢を変えることで活動が良くなり,授業

全体が良くなった。盛り上がって快の経験で終わることはとても良い。

・見る時間が少し短いのではないか。提示の方法5~10 秒一定時間見続けることを目標にしている割には見

せる時間が短くスパンが短くタイトであった。テンポは良かったが,もう少し時間をかけて 20 秒程度生徒

が注視するところを評価することの必要があったのではないかと思う。

★根拠のある指導

★表現・表出する力

★表現・表出する力

★表現・表出する力 ★適切な実態把握

★根拠のある指導

★根拠のある指導

★根拠のある指導

-24-

公開授業研究会(高等部) 研究協議のまとめ

授業日 平成 30年 1月 26日(金) 2校時 授業者 T1 亀井 彰 T2 政野 剛志 T3 丸尾 薫

学部・学年 高等部 2年 3組 教科・領域 自立活動(身体・感覚)

題材・単元名 体を動かそう

本時の目標

実態把握 目標 手立て

A

・働きかけに直接動作や視線で応答する

ことは難しいが,笑ったり歌ったりして感

情を表出できる。

・各動作に取り組む時に,顔を上げ続け

ることができる。

・顔が上がりやすい姿勢を補助し,休憩を

入れて気持ちを切り替える時間を作る。

B

・表情や笑い声で快表現ができる。人の

手を取ったり物を提示したりして要求する

ことができる。

・声かけやタッチなどの働きかけに顔を向

け,求められたタッチに手を触れることが

できる。

・動く時や風船に触れる時に大きな声で

話しかけ,動作の後にタップして節目を

意識させる。

C

・意思を発語で表現できるが,言葉が不

明瞭になることがある。聞き直されてもくり

返し答えることができる。

・提示や質問を受けて,思いや感想を具

体的な内容で表出することができる。

・単語での返答には内容を深めるように

段階的に問い返し,より細かな表出がで

きるようにする。

授業の概要

準備運動(個々のストレッチ,バランスボールを用いた揺れ運動)→風船へのリーチング→風船バレーボールという授業の

流れで構成されていた。風船を扱った活動は,3人ともベンチ椅子に座り,教員が後ろから座位を支援する形で行った。風

船へのリーチングは,生徒の目の前に蛍光色の大きな風船を提示し注意を向けさせ,教員が背後から生徒の両腕(肘)を

支援し,風船に触れさせていた。風船バレーボールでは,3人の真ん中に円卓を置き,仕切りで各自の陣地を設定し,風船

バレーボールを行った。

研究協議

①実態把握に基づいた目標設定について

・生徒が“できた!”と思える目標をもう少し細かく設定してもいいのかなと思いました。

・日常的に取り組んでいる活動を生かした目標を設定していて良かった。

・生徒Cさんの姿勢について。筋緊張を高めない姿勢を取らせて,上肢の動きを引き出す方が良いのでは。

・生徒Bの歩行の課題と授業との関連。(一人一人に合っていたのか。)

・円卓で囲んだ今日のような形は,お互いを意識させたり,コミュニケーションをとらせる上でとても参考

になった。様々な授業で応用できそう。

・生徒A,Cの手肢の動きに関する目標設定における実態把握はどうであったか。

・クラスの3人が一緒に出来る活動を取り入れている点は良かった。

・生徒Cの目標は少し難しかったのではないか。手立てを増やすか目標を細分化することで,生徒が“でき

た!”と思える目標になるのでは。例えば,“座位を取って顔を上げ上肢を動かすことができる”と言う目標

は,“座位を取って顔を上げる”活動,次に“上肢を動かす”活動に分け,それぞれにもっと時間を取って良

いのではないか。

・生徒AとCの目標設定が少し高かったのでは。また,評価をするのも困難ではないだろうか。

★適切な実態把握

★表現・表出する力

★根拠のある指導

-25-

②目標に対する手立てについて

【本時の目標について】

・実態や目標がそれぞれ異なる中で,3人が一緒に出来る活動量が確保されている。

・生徒Cは,ベンチ椅子をクッションチェアに変えた方が“顔を上げる”という目標を達成しやすいのでは?

角度を付けることで視界も広がり,風船も捉えやすくなるのではないか。また,まずは座って顔を上げる

練習を取り入れては。

・生徒Cが背後の教員にもたれかるのは,接地面が増えることで手を動かしやすいから?だとしたら,両足

も踏ん張れるようにしっかり接地させた方が良いのでは。

・生徒Bの椅子の意味は,椅子がなくともより大きな動きができたのでは。

・生徒Bについて,後ろからつきっきりの状態で本当に自立的な動きになるのか。

【表現・表出する力を培うための目標について】

・風船の中に鈴を入れたり,音の鳴るボールを使ったりしてみては。(生徒の好きな音なら関心から顔が上が

るのでは?)

・生徒Cの具体的な感想に対する手立ては,振り返りの時間をもっと多くとって時間をかけて言葉を引き出

したり思い出させたりさせては。

・相手がボールを持っている時に,「早く打って」等のお願いが出来なかった?

・ボールに触る活動を「まだ!」と言ったが,聞き入れてやれなかったこと。

・風船バレー時,「いくよ!」や「○○さん。」など言葉かけをして生徒の反応を見るのも良かったのでは。

・生徒が風船を追いかけるのが難しいので,風船を予め吊るしておき,生徒が触れると自然とボールが相手

のところにいくなど場面設定の工夫も必要であった。

・生徒A,Cにとっては,もう少し具体的な目標でも良かったのでは。

今後の指導に向けて (指導助言者: 広島県教育委員会 特別支援教育課 内田 俊行 指導主事 )

1 授業の気付き

・授業の評価が難しいのは,授業の最初に「目標提示」がなかったからである。授業の目標を生徒が意識で

きるように明確に示せば,メインの活動の前の活動の中でも,教員が生徒に目標を意識した声掛けを行うこ

とができる。授業の中で,教員と生徒のコミュニケーションをとる場面がもっと設定できた。

・ベンチ椅子は,それぞれの子どもの体に合わせてカスタマイズするものである。ベンチ椅子が低かったの

で,膝の角度が 90 度より開き,足が前にはねてしまいふんばることができなかった。前傾姿勢をとれるよ

うに緻密な計画と支援の工夫が必要。

2 主体的な学び

・重度重複障害の子どもたちに,主体的で能動的で深い学びのポイントは,授業の最初に子どもたちの中に!

(やってみたい!)や?(なんだろう?)を持たせ,それを授業の中で☆(やった!できた!わかった!)

に変えることである。

3 自立活動の目標設定について

・自立活動は身につけたい資質能力を支える力を育むという位置づけである。(新学習指導要領解説)

・本時の授業の中でどんな力を身につけさせたかったのか,またそれがどのような資質能力に繋がるのかを

整理する必要がある。

・アセスメントチェックリストで課題が明確になる→→→今日の授業の目標を設定する。目標は,課題を明

らかにして,卒業後の姿やそのほかの実態などを含めて設定するものである。この目標設定のプロセスを今

回の授業で説明できるかが課題である。

★根拠のある指導

★根拠のある指導

★適切な実態把握

★表現・表出する力

★根拠のある指導 ★表現・表出する力

★表現・表出する力

-26-

公開授業研究会 講演

「次期学習指導要領のポイントと自立活動の指導」

福岡教育大学 特別支援教育講座 教授 一木 薫 先生

(要約)

1 次期学習指導要領改訂のポイント

(1)次期学習指導要領について

・「何を学ぶか」だけでなく「何ができるよ

うになるか」を重視した改訂である。

・知的障害特別支援学校の各教科について

も,同様の視点で検討された。内容が見直さ

れ,各段階の目標が新設された。

・特別支援学校における教科指導では,子ど

もの実態に応じて下学部・下学年適用をする

ことが少なくない。よって,自校の子どもた

ちの達成状況(各学部の修了段階でどの程度までできているか)を確認し,各学部修了

時に「何ができるようになるとよいか」を検討する必要がある。

・知的障害特別支援学校において,子どもが在籍する学部の各教科の内容を習得し目標

を達成した場合,小学校等の各教科の目標・内容を取り扱うことができるようになる。

(2)教育課程について

・教育課程=教育内容(各教科・領域)×授業時数=自校の教育に関する意思表明(本校に入

学したら,このような力をこれだけの時間をかけて教育します,ということ。)

・合わせた指導について

ア 合わせた指導(作業学習,生活単元学

習,遊びの指導等)は授業の形態の一つ

である。授業段階の工夫であり,教育課

程編成の段階には登場しない。

イ 教育内容の提供は学校の「義務」(学校

教育法施行規則 126~129 条)であり,

授業の形態は「選択」(同 130 条)であ

る。(「特に必要があるときは,各教科,

道徳,外国語活動,特別活動及び自立活

動の全部または一部について,合わせて

授業を行うことができる」)

→ 各教科や領域の内容を扱い目標の達成を図る時に,各教科や領域の目標や内容を

合わせて単元を設定し指導する方が,子どもたちが主体的に学び,合わせた各教科

-27-

や領域の目標を達成できる,と判断する場合には,合わせた指導を行うことができ

る。なぜ,合わせたのか,教師がその理由について説明できることが重要。

ウ カリキュラム・マネジメントを行うためには,合わせて指導を行う場合においても,

何を合わせたのか(教育内容)を明確にし,教育内容に照らした目標設定と学習評価

を行うことが不可欠となる。

2 自立活動の指導の考え方

(1)教科と自立活動

・教科は,各教科独自の内容のまとまりがあり,目標の系統性に照らして,指導を行う。

自立活動は,どのような障害であっても自立活動の6区分の観点から実態把握し,情報

を整理し関連づけ,目標を設定していく。(目標設定のプロセスの違い)

(2)自立活動の指導における目標設定のプロセス(次期学習指導要領より)

ア 6区分の視点から実態把握

イ 情報の整理と精選⇒課題の抽出

・自立活動の時間で扱う必要があるか

(教科で扱える内容は扱わない)。

・今,既にできていることではないか。

・障害特性として配慮するものでないか。

・自立活動の時間で対応すべきものか,

学校教育全体で対応すべきものか(保

護者との連携が必要等)。

ウ 課題間の関連付け⇒中心課題の検討

エ 指導目標の設定

・「なぜ,この指導目標なのか」設定した目標だけでなく,その指導目標に至ったプロセ

スの共有(記録)が重要

(3)自立活動の指導内容について

・自立活動の内容は具体的な指導内容ではない。設定した指導目標を子どもが達成する

際に扱う必要のある項目を 26項目の中からピックアップして,それぞれを関連付けて,

指導内容を設定していく。

3 教育課程の編成にあたって

・安易に教科を自立活動に替えていないか。

・豊かな人間性及び自立し社会参加するための『生きる力』」を育むために,福山特別支

援学校の子どもたちに「『何を』学んでほしいのか」。教科と自立活動の違いを踏まえた

上で,教育内容を選択し,教育課程を編成することが重要。

(文責:藤井 絵理)

-28-

6 平成 29年度 授業研究のまとめ

(1)研究過程

一学級一研究授業,校内授業研究会(以下校内研),公開授業研究会(以下公開研)において,

様式に沿った学習指導案を作成,授業を実施し,事後に研究協議を行うことで,テーマに沿った

指導の有効性や,授業の組み立て方の研究を行った。特に今年度は「適切な実態把握」と「根拠

のある指導」を意識した授業づくり及び学習指導案の作成に取り組んだ。

ア 「適切な実態把握」と「根拠のある指導」のために

(ア)学習指導案様式の改善(昨年度からの継続事項)

・個々の目標欄に表現・表出に関する内容(表現・表出する力の実態,応じた目標,手立

て)の記入欄を設定(全類型) ※Ⅰ類型は「言語活動の充実」の観点で記入

・手立ては,「重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引」を活用

・指導過程に表現・表出に関する課題と,その他の課題とを区別し表記すること(全類型)

・本校アセスメントチェックリストが活用できる児童生徒については,指導目標を設定す

る際の実態把握の根拠としてプロフィール表を作成し,学習指導案に添付する。実態が

本校アセスメントチェックリストの対象を越えている児童生徒については,他の客観的

なアセスメントツールによる実態把握とその結果を学習指導案に添付する。(主にⅢ・Ⅳ

類型)

(イ)全体研修,指導理論研修の実施

・5月 16日(火) 「適切な実態把握」と「根拠のある指導」について

・9月 11日(月) 「児童生徒の表出する力を培う指導について」

・10月 17日(火) 「本校の作業学習(合わせた指導)について」

イ 研究協議ツールの改善

(ア)授業参観シートの改訂

(イ)マトリックスシートの様式変更

ウ 指導事例の公開・蓄積

(ア)「イチケンツウシン(一研通信)」の発行

(イ)研究協議のまとめのデータ化と校内グループウェア公開による共有

(2)今年度の成果と課題および分析

各校内研・公開研で行ったアンケート及び,研究協議のまとめ,学習指導案集等の分析から,

今年度の取組の成果と課題を明らかにし,分析をしていく。

「児童生徒のコミュニケーション能力を育てるための授業づくりをめざして」

~ 児童生徒の表現・表出する力を培うための指導の在り方 ~

-29-

ア 「適切な実態把握」と「根拠のある指導」のために

(ア)学習指導案様式の改善

成果・課題

・一学級一研究授業の実施率は 96%であった。実施できなかった授業は,児童生徒の体調不

良等が原因であった。

・作成された学習指導案の 96%が今年度の様式に沿ったものであった。そのうちⅢ・Ⅳ類型

の児童生徒のプロフィール表を添付していたものは 100%だった。このことから新しい学習

指導案様式の使用が全体に浸透し,活用されていることが分かる。

・学習指導案の中の指導の手立てに「重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指

導の手引」を活用していたのは全体の 50%であった。またリストを活用して実態把握を行っ

ていても,指導にその実態から導き出された課題が反映されていないものもあった。

分析

・一学級一研究授業,校内研・公開研の学習指導案の分析から,アセスメントチェックリ

ストから導き出された実態・課題と実際の指導の目標等にズレがあるものがみられた。ま

た自立活動の指導であっても,手引を活用しにくい状況があることが示唆された。教育研

究部として,活用しにくい理由を明らかにし,それらをリストや手引に反映させたり,研

修等で丁寧に説明・補完していったりする必要があると考える。

(イ)全体研修,指導理論研修の実施

成果・課題

・5月 16日(火)の全体研修において,今年度の授業研究テーマにかかわるキーワード「適

切な実態把握」と「根拠のある指導」について具体例を交えながら説明し,今年度の学習指

導案を作成する際のポイントを全体へ周知した。

・9月 11 日(月)の「児童生徒の表出する力を培う指導について」は校内研(小)アンケ

ートの「授業概要説明会の指導理論研修は,研究対象の授業を理解するに上で役立っている」

という項目の「全くそう思う」「ほぼそう思う」の肯定的な意見の割合が 61%であった。

・10月 17日(火)の「本校の作業学習(合わせた指導)について」は校内研(高)アンケ

ートの「授業概要説明会の指導理論研修は,研究対象の授業を理解するに上で役立っている」

という項目の「全くそう思う」「ほぼそう思う」の肯定的な意見の割合が 63%であった。

分析

・アンケートより,指導理論研修の肯定的な意見が 60%台であった。このことは研修内容

や研修の手法が参加者の満足度を十分に得られない結果であったと考えられる。

・しかし,当初の目的である昨年度の課題として挙げられた,「授業研究や研究テーマに対

する意識・理解についての教職員の差を無くし,共通のベクトルを持つ」ということについ

ては,公開研アンケートの項目「今年度の授業研究の研究テーマ及び取組(概要)を教職員

全体で共有している」の肯定的な評価が 80%であった。昨年度の 62%から 20%以上上昇し,

-30-

各学部の結果でも 70%以上の回答で肯定的な評価を得ていることから,指導理論研修の一

定の成果はあったと考える。

(ウ)その他(学校評価アンケートから)

成果・課題

・学校評価アンケートに関して,「専門性に基づき,個々の児童生徒の可能性を十分に引き

出す魅力ある教育を実現する学校づくり」という項目の「実態に応じた指導」の A 評定が中

間評価 40.6%,最終評価で 55.2%であった。昨年度の最終評価が 57.8%と比較して低下し

ている。また否定的評価である「まったくそう思わない」「よくわからない」の評価も若干

数あることを踏まえ,保護者に対して指導の意図や根拠を説明すること,すなわち「適切な

実態把握」や「根拠のある指導」について課題があることが分かる。

・一方で学校評価アンケートの分析から,中間評価と最終評価を比べると,B評価から A 評

価へ流れており,実態に応じた適切な指導に対して,一定の成果も伺えた。

イ 研究協議ツールの改善

成果・課題

・授業参観シートは,一学級一研究授業の参観者が少ないため,記入者が減少した。公開

研では教育研究部の不備で使用することができなかった。

・一学級一研究授業では参観者数が少ない場合は,マトリックスシートを使用せず協議を

行うことが多くあった。しかし,校内研・公開研では小グループ制の協議の際に使用した。

・公開研のアンケート結果から,「今年度の研究授業後の協議方法は,研究テーマに対して

の議論を深めることができている。」という項目に対し 80%の回答者が肯定的な意見を示し

ており,昨年度の 68%から数値が上昇した。

・公開研アンケートの項目「研究協議の際に,自身や周りの教員が意見を活発に出すこと

ができている。」では 80%の回答者が肯定的な意見を出していた。

分析

・研究協議に参加者が慣れてきたことや,マトリックスシートに基づいて観点を絞ること

で,参加者が活発な意見交換を行い,研究テーマについての議論を深めることができてき

つつあることがわかる。研究協議方法,マトリックスシートは適切なものであったといえ

る。

・授業参観シートについては,一学級一研究授業の参観者が少ないことが,記入者の減少

の一番の原因である捉えられる。授業を積極的に参観しに行けるような組織体制作りが必

要であると考える。

・授業参観シート記入様式を簡易化したことで,「授業について様々な意見を書くことがで

きるようになって書きやすい」という意見もあったので,改訂についての効果がみられた。

-31-

ウ 指導事例の公開・蓄積

成果・課題

・校内研,公開研の授業については前時の指導映像を撮影し,前日までに学校の共有ネッ

トワークの共有フォルダに公開した。当日授業参観が難しい教員も,映像を視聴すること

で前時の指導の様子を知ることができた。公開研アンケート結果からは,「前時または本時

の VTR を視聴することは有意義である」という項目に,回答者の 84%が「全くそう思う」

「ほぼそう思う」という肯定的な意見を示している。

・研究協議前に前時の授業映像を視聴する教員が増えてきているが,公開研アンケート結

果からは,「前時または本時の VTR を視聴することは有意義である」という項目について学

部ごとに分析すると,小学部では肯定的な意見が 93%,中学部 85%,高等部 73%と学部間

で 20%以上の差があることがわかった。学部ごとに記録映像を視聴することの定着度に差

があることが分かった。

分析

・校内研,公開研では「本時の VTR」を研究協議会の授業者のふりかえりや研究協議中に放

映した。アンケート項目自体が「前時 VTR」と「本時 VTR」を両方記載していたため,「有

意義である」という評価がどちらのことを指しているのか分かりにくいが,学部間で記録

映像を視聴することの定着度に差があることは明らかである。研究協議前に「前時の VTR」

の視聴を呼びかけは継続して行っていく必要がある。

・公開研,校内研では「前時の VTR」が公開するのが研究授業の前日になってしまうことや,

視聴する期間が短い場合もあった。次年度は,研究授業の本時の様子を参観することがで

きない教員のためにも,授業者への協力依頼と連携を密にし,計画的に撮影を行い,今年

以上に早い時期に前時の授業映像を共有フォルダに公開することに努めていく。

エ 授業研究の運営に関わって

成果

・昨年度の課題として挙げられた,「授業研究や研究テーマに対する意識・理解についての

教職員の差を無くし,共通のベクトルを持つ」ということについては,公開研アンケートの

結果からも,共通のベクトルをもつことができてきたと考えられ,組織的な研究の推進を行

うことができたといえる。 ※(2)ア(イ)参照

課題

・一学級一研究授業では,他の教員の授業の参観が難しい場合に,授業の記録映像を撮影

し,後日その映像を視聴した者で集まって研究協議を行うということが数例あった。研究

授業当日の参観者0を避けるために,年度初めの研究授業予定を計画的に調整していく必

要がある。また管理職とも密に連携し,月予定を作成・周知していかなければならない。

・今年度の公開研では,寒波の影響で気温が低下し,外部参観者から授業参観時の環境(寒

さへの対策)についての御意見をいただいた。また1月開催の日程では,気温低下だけで

-32-

なく,積雪による交通機関の影響や感染症等のリスクも考えられる。児童生徒の体調維持

と安全確保のためにも,公開研の日程を 12月に変更する案を次年度提案する。また当日が

タイトな運営スケジュールになるため,日課変更等の改善も引き続き提案していく。

(3)「表現・表出する力を培うための指導の在り方」について(3年間のまとめ)

平成 27年度から研究テーマの副題「児童生徒の表現・表出する力を培うための指導の在り方」と設

定し,3年間継続して授業研究を行ってきた。3年間の学習指導案の指導事例や,研究協議の結

果・指導助言等で明らかになった「表現・表出する力を培うための指導の在り方」のポイントは,

☆「児童生徒の表出を辛抱強く待つこと」

☆「児童生徒の細かな表出を見逃さないこと」

☆「児童生徒の表出をしっかりと評価(意味付け)して児童生徒に返すこと」

の3点に集約された。

そして,その指導に至る前提として,

①児童生徒の実態を適切に把握すること(主観的な視点+客観的な視点)

②実態の課題に対して適切な目標を立てること

③根拠のある指導を行うこと

④指導に対する具体的な評価基準をもつこと

⑤授業の環境を整え,適切な刺激や教材を提示すること

が必要であることが明らかとなった。

①児童生徒の実態を適切に把握することとは,担任の主観的な視点だけではなく,担任以外の

視点や,客観的なアセスメントツールから導き出された視点等を含めることが必要であることが

わかった。

②実態の課題に対して適切な目標を立てることとは,児童生徒の卒業後の姿を明確にし,その

長期的な目標設定のもと,現在何の力が必要かを指導者が意識し,段階的な指導目標を立ててい

かなければならないということである。

③根拠のある指導を行うこととは,二つの意味を示している。一つは認知発達理論や各障害に

適切に対応する専門性に裏打ちされた指導を行うことである。もう一つは特に自立活動において,

指導の内容から授業を作るのではなく,児童生徒個々の課題から指導内容を計画し,個別の指導

を行わなければならないということである。自立活動の6区分26項目の内容と照らし合わせ,

適切な指導を行うことを教職員一人一人が再度意識する必要がある。

④指導に対する具体的な評価基準をもつこととは,どのような児童生徒の姿が見られたら,授

業の目標が達成されたのかをはっきりさせる,ということである。それには目標を具体的にする

必要がある。「感じる」などの目標では,どのような児童生徒の姿が見られたら達成であるのか

分かりにくい。「感じる」ことで「眉をしかめる」「発声をする」というような具体的な表出・表

現による評価基準を指導者が設定し,指導を行うことが大切である。これは授業の目標がどの程

度達成したかを判断する重要なポイントであり,授業改善のAPDCAサイクルに則って,次の

-33-

授業内容に反映させていかなければならない。また,授業当日の児童生徒の体調・状態に対応し

た指導が行えるよう,事前に評価基準を複数用意しておく必要もある。

⑤は本校の重度・重複障害を有する児童生徒に対して,障害に配慮した適切な指導環境を整備

し,分かりやすい指導を行うことが必要である,ということである。

以上の3つのポイントと5つの前提条件が,3年間の研究のまとめである。

(4)次年度に向けて

ア 授業研究の方法について

テーマに対して研究を深めるに当たり,一つの指導について年間を通して検討・協議がで

きるような方式にしていく必要がある。

現行の授業研究の方法では,研究協議の時間が短かったり,一回きりの単発の授業になっ

てしまい,児童生徒の実態が分かりにくかったり,指導の継続による変化が追いにくく,指

導の有効性の検証がしにくいという課題があげられた。また現行の方法であると,テーマを

決めて,仮説を立てて取り組むという仮説検証型の研究がしにくい。

改善案として,校内研・公開研の授業者を同一にして,児童生徒の指導の経過や成長を追

いやすいようにする方法を提案する。同じ児童生徒の授業を複数回参観し,研究協議を行う

ことで,児童生徒実態への理解も深まり,協議も活発化され,指導の有効性の検証も行うこ

とができると考えられる。

また一学級一研究授業においても,毎回の研究協議の中で,研究テーマに関して明らかに

なったことを紙面でまとめるようにすることを提案する。(例:「表現・表出する力を培うた

めの指導には何がポイントか」を一言で表す)それらを集約することで,一学級一研究授業

のすべてが研究テーマについて何らかのデータを表し,研究を深めることができると考える。

イ カリキュラムマネジメントの視点を

よりよい授業をつくるためには,よりよい教育内容を児童生徒に提供していく必要がある。

教育研究部としては,授業研究を通して明らかになった課題を他分掌と連携し,カリキュラム

に反映させていくような体制づくりをすべきと考える。公開研の一木先生のご講演の中でも,

「指導の内容」について教科・領域を適切に捉えているかということ,また,「合わせた指導」

の在り方についても御示唆をいただいた。本校の教育の質をさらに高めるためにも,授業研究

で得たリソースを活用し,組織的なカリキュラムマネジメントの取組が必要であると考える。

ウ 新学習指導要領に関連して

平成 30年度から新学習指導要領に移行していくにあたり,個別の指導計画の作成には,「適

切な実態把握」と実態把握をした内容を精選・関連付けする「高い専門性」が求められる。

そして今年度の学校評価アンケートで課題に上がったように,保護者等に日々の取組を説明

できる「根拠のある指導」を行わなければならない。今年度の授業研究もその要点を重視し

-34-

てきたが,教育研究部としてはさらに教職員の専門性の向上に向けて,取り組んでいく必要

がある。

-35-

平成

29年度 公開研

校内アンケート結果(全体)

平成

30年1月

26日

-36-

平成

28年度 校内研(中)

校内アンケート結果(全体)

平成

29年2月

26日

-37-

Ⅱ 自立活動に関する研究について

1 自立活動に関する研究概要

(1)平成 24~28年度の研究について

(2)平成 29年度の研究について

2 重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト

(1)リスト作成の目的

(2)リスト概要

◆発達段階

◆領域

◆リストの内容

◆課題整理シート

◆プロフィール表

(3)平成 29年度の取組

◆キーワード関連図

◆キーワードの定義付け

◆発達の全体像

(4)今後の取組

3 重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引

(1)手引作成の目的

(2)手引概要

(3)平成 29年度の取組

(4)今後の取組

4 教材・教具開発

(1)教材・教具開発の目的

(2)平成 29年度の取組

(3)今後の取組

5 リスト,手引,教材を活用した自立活動の指導

6 学習姿勢に関する研究

(1)研究の目的

(2)研究の概要

(3)研究の成果・課題

7 実践報告

(1)実践報告の目的

(2)平成 29年度の取組

(3)今後の取組

8 今後の課題

-38-

はじめに

本校では,Ⅲ・Ⅳ類型(自立活動を主とする教育課程,訪問教育)に在籍する児童生徒が8割を占めている。

日々の重度・重複障害児の指導では,実態把握や指導方法に悩み,手探りで指導を進めていることも少なくな

い。指導内容は様々にわたっているが,重度・重複障害児にとって「コミュニケーション」は教育活動全体で必

要とされる力であり,特に重要であるといえる。また,将来よりよく社会の中で生きてために重要な力のひとつで

ある。本校では教育研究部 (平成 26年度以前は自立活動部)を中心に,自立活動の領域でコミュニケーション

能力を様々な教育活動を通じて育成するために,「重度・重複障害児のコミュニケーション」に焦点をあて,平

成 24年度から継続して自立活動の研究を行った。

1 自立活動に関する研究概要

(1)平成 24~28年度の研究について

本校では,平成 24 年度より,重度・重複障害の児童生徒を知る手掛かり,指導目標を設定する手掛かりとし

て活用するための「重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト」(以下,「リスト」とする)の作成,質の向上に

向けて研究を行っている。リスト ver.1.0 は平成 25 年度に作成し,以降,文献研究を進めながら改訂を続けて

いる。リストを教育実践の中で活用する中で,具体的な指導内容の手掛かりとするためのものがあればという考

えから,「重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引」(以下,「手引」とする)ver.1.0 を平成 26

年度に作成した。以降,リストの改訂に伴い,手引も改訂を続けている。これらリスト・手引を活用した教育実践

を進める中で,年に数回,校内実践報告会を行ってきた。文献研究だけでなく,校内の実践からもリスト・手引

の有効性を確かめ,内容の修正を行っている。

平成 27 年度は,指導内容のさらなる充実に向けて,教材・教具の研究,開発を進め,「自立活動ガイドブッ

ク~教材・教具編~」を作成した。平成 28 年度にはリスト・手引と関連させて,教材・教具を指導に活用しやす

くするために様式を変更し,新たに教材・教具集としてまとめた。

以下に,これまでの研究の流れをおおまかな図で示す。

平成 24年度 平成 25年度 平成 26年度 平成 27年度 平成 28年度

リスト

手引

教材

実践 報告会

リスト素案 ver.1.0 ver.2.0 ver.3.0

ver.3.0 ver.1.0

自立活動ガイド ブック ~教材・教具編~

学期毎に2・3例ずつ報告

手引素案

図1 研究の流れ

教材・教具集

ver.4.0

ver.4.0

-39-

(2)平成 29年度の研究について

平成 29 年度は,コミュニケーション能力に関する研究については過去4年間に継続する形で,「リスト」,「手

引」,「教材教具開発」,「学習姿勢に関する研究」,「実践報告会」を軸に,研究を進めた。以下に今年度の研

究の概要を示す。

表1 平成 29年度研究行程表

リストに関しては,Ⅰ~Ⅳ段階の項目の質の向上を目指して,文献研究を進め,実践事例も踏まえて項目や

キーワード,キーワード関連図を見直し,年度末に ver.5.0 を発行した。併せて,リストのキーワードや各段階の

意図を共通のものとするために,Ⅰ~Ⅳ段階における領域ごとの発達の概要の作成,キーワードの定義付けを

行った。リスト改訂に合わせて,手引も内容を修正し,ver.5.0 を発行した。さらに,教材・教具集もリストや手引

の改訂と合わせて内容を修正,新規に追加し,ver.2.0 を発行した。

FFプロジェクトでは,年間を通して数回講師を招いて学習姿勢,運動,動作に関する支援に対して指導助言

を頂き,各回の内容を瓦版としてまとめ,校内配布した。年度末には,実態・活動内容・指導目標に応じた活動

姿勢の手引 ver.2.0 を発行した。

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2 重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト

(1)リスト作成の目的

重度・重複障害児が多く在籍している本校において,指導目標を設定するにあたっ

て,既存の心理・発達検査等を活用することは難しく,関係者からの聞き取りや行動観

察でのアセスメントに依存している傾向にあった。重度・重複障害児の多くは,コミュニ

ケーションに大きな課題を抱えており,学校教育の中でコミュニケーションに焦点を当

てた指導が重要視されること,そしてその力を育てるためには,児童生徒の認知の力

を伸ばすことが必要である。

以上のことから,可能な限り客観的かつ的確なアセスメントができること,アセスメントを生かし,適切な指導

目標を設定し,適切な指導が行えることを目指して,認知・コミュニケーションを中心とした内容の本リストの作

成に至った。

(2)リストの概要

◆発達段階

リストにある項目は下の表のように発達段階ごとに分けている。また,各段階の項目は,おおまかに発達段

階・類似項目ごとに並べているが,発達段階の把握は段階でのまとまりを目安とする。 これらの項目は,一般

的な発達段階に沿って並べているため,生活年齢や障害の状態によって発達の偏りがある場合は,必ずしも

これに当てはまるわけではない。 表2 発達段階・月齢対応表

◆領域

リストではコミュニケーションに関する力の発達とコミュニケーションに関する力の基礎となる認知力の発達の

二つの分野に焦点をあてた。Ⅰ~Ⅳ段階では,領域としてコミュニケーション分野を中心とした「要求表出」「人

間関係」と,認知分野を中心とした「聴覚・言語」「触覚等」「視覚等」の5領域がある。Ⅴ~Ⅶ段階ではコミュニ

ケーション分野「要求表出」「人間関係」,認知分野「言語理解」「言語表出」「視覚・操作等」「数量・概念」

「ADL(日常生活動作)」の7領域である。以下に表で示す。

段階(月齢) コミュニケーション 認知

Ⅰ~Ⅳ

(0~9か月)

要求表出 人間関係

聴覚・言語 触覚等 視覚等

段階

Ⅴ~Ⅶ

(10~24か月)

言語

理解

言語

表出

視覚・

操作等

数量・

概念 ADL

図2 段階・領域対応表

-41-

◆リストの内容

上の図は,リスト項目の【コミュニケーション】要求表出の抜

粋部分である。チェックの方式は,児童生徒の小さな発達を確

実に評価できるよう,四段階評価としている。マークをする基

準としては,右の表を目安とする。

記入を始める場所は,基本的にはⅠ段階からとするが,児

童生徒の実態に応じて,Ⅱ段階やⅢ段階からと,途中から開

始してもよい。各領域のチェック項目は,おおよそ発達段階ご

とに並べているため,「できない」の項目が7つ以上続いたら記

入を終了する等,児童生徒の実態に応じて判断し,記入を終了する。 表3 評価基準

基本的には,チェックをした中で「時々できる」,「おおよそできる」にチェックがついた項目が,児童生徒の課

題として設定しやすいと考えられる。(※すでにほぼ達成されている項目でも,「その項目の力をさらに広げた

い,高めたい,他の領域との関連性が高く好影響がある」等の意図があれば,その項目を課題として設定する

ことも可能。)その内,児童生徒の将来の姿,保護者,本人のニーズ,指導の効果等を踏まえ,総合的に判断

して課題を選定し,記述欄に○をつける。

評価 割合 マークする基準

できる 8~

10 割

ほぼできていること

おおよそ

できる

5~

7割

できることの方が多い

時々

できる

1~

4割

できないことの方が多い,

まれにできることがある

できない 0割 できない,不可能

四段階評価 各段階での発達のポイントとなるキーワード

課題

-42-

◆課題整理シート

このシートは本リストのチェック項目の中で児童生徒の課題として選んだ項目(記述欄に○をつけた項目)に

基づいて,個々の児童生徒の実態に合わせて具体的な指導目標を考えるためのものである。

リストをつけることで導いた重点課題項目を「発達番号」,「領域番号」,「課題とする項目」に転記し,その項

目を踏まえて,児童生徒に応じた具体的な指導目標を設定することができるようになっている。

◆プロフィール表

この表は,各領域の児童生徒が到達しているキーワードを網掛けし,課題とするキーワードに下線を引くこと

で,児童生徒の認知・コミュニケーションに関する力の全体像をわかりやすく把握するとともに,指導のポイント

となるキーワードを整理し,明確化するためのものである。

-43-

◆キーワード関連図

領域の中でのキーワードの順序性だけでなく,他領域のキーワードとの関連性を示し,児童生徒の縦の発

達,横の発達を捉えやすくするためのものである。キーワード関連図を活用することで,指導目標を達成するた

めに不足している力や今後の発達の道筋を捉えることができる。

このリスト本体は福山特別支援学校の HP よりダウンロード可能である。

福山特別支援学校 HP → 教育研究 → アセスメントチェック →重度重複障害児のアセスメントチェックリスト

-44-

(3)平成 29年度の取組

昨年度,リストが示す発達の順序性を絶対的なものであると捉え,児童生徒の実態を踏まえずリストの順序に

従って指導を進めてしまうというケースがあること,また,縦方向の発達のみに目を向け,「環境設定を変えても

できる」といった横方向の広がり,他領域との関連を考慮しないケースがあることが課題として残った。リストがつ

くられた理論背景を基に,児童生徒の発達を全般的に捉えた上でのリストの活用を進めるため,平成 29 年度

は,主にⅠ段階~Ⅳ段階について,キーワード関連図の精度を高めること,及び発達の全体像やキーワードを

文章化し,リストの理論背景を伝えることを目指して取り組んだ。詳細は次の通りである。

●キーワード関連図を軸にした取り組み

①Ⅰ~Ⅳ段階の全領域全項目をカード化し,

認知発達理論,実践事例等を踏まえて各項

目間の順序性や関連性を検討した。

※その際,足りない要素があれば項目として

新たに追加したり,既存の項目を細分化した

りした。

②関連性のある項目のまとまりごとにキーワー

ドをつけた。

③キーワード間の関連性を検討した。

以上,①,②,③の取り組みを段階ごとに行

い,項目の追加・削除,文言の修正,キーワ

ードの検討・修正,キーワード関連図の修正を行った。

●キーワードの定義付けの作成(Ⅰ~Ⅳ段階)

リストの使用者が共通した認識の下でキーワードを使用することができるように作成した。

-45-

●段階・領域ごとの発達の概要の作成(Ⅰ~Ⅳ段階)

リストにおける発達の全体像を捉えられることを目的として,段階ごとに発達の全体像と領域ごとの発達の概

要を作成した。全体像の中には,重度重複障害児における発達の困難さも併せて記した。

(4)今後の取組

今年度,Ⅰ段階~Ⅳ段階について,キーワード関連図の精度を高めること,及び発達の全体像やキーワー

ドを文章化し,リストの理論背景を伝えることを目指して取り組んだ。キーワード関連図を軸にした取組におい

ては,文献研究のみならず,さらに多様な実践を収集し,分析することが必要である。今後,「段階・領域ごとの

発達の概要」を本校に周知することで,共通の認識の下でのリスト活用を図りたい。来年度も授業研究と連携し,

本校におけるリストの使用率を向上させるとともに,多様な実践を収集し,分析していきたい。それらを基に,リ

ストやキーワード関連図もより精度の高いものに改訂を行っていく予定である。

全体像 要求表出 人間関係 聴覚・言語 触覚等 視覚等

働き掛けに気付いて反応(反射)を示す。感覚への働き掛けは,前庭覚・固有覚・触覚→聴覚→視覚の順序で,受け取りやすさがある。働き掛けに気付くことに時間がかかることがあり,働き掛けに対する反応は不安定である。また,働き掛けに対する気付きも,筋緊張の変化や目の動き等,支援者が読み取りにくい方法で示す場合が多い。

働き掛けを受けて,周りの人には伝わりにくい,不明確な表出をする段階。働き掛けを受けなくとも,暑さや痛み等,不快さに注意を向けて何らかの表出をしていることもある。

抱きかかえられたり,支援者から触れられたりすることに生理的な快反応を表出する段階。働き掛けている支援者には注意を向けていない。

音に対して,Moro反射や瞬目反射が出る段階。

何かが触れたこと(触覚刺激)や,自身の身体の動き(固有覚刺激),揺れ(前庭感覚刺激)等に気付き,反応(反射)を示す段階。

光や目の前を遮られる等の明暗に気付き,反応(反射)を示す段階。

注意を向けることのできる働き掛けや,働き掛けに注意を向け続ける時間が増えることで,働き掛けが止まったこと(無くなったこと)や,変化したことに気付くことができる。他の刺激に注意を向けているときでも,強く記憶に残っている刺激へ選択的に注意を向けることができる。働き掛けに対する反応が明確になるとともに,働き掛けを快として受け取ることが増える。また,誰が見ても,表出から快不快を読み取れるようになる。自分で自分の身体を動かし,自己刺激を楽しむ様子も見られる。

働き掛けを受けて,周りの人に伝わりやすい,明確な表出をする段階。支援者に働き掛けられることを通して,働き掛けだけでなく,働き掛けをする支援者の存在にも注意を向けられるようになる。

特定の支援者から抱きかかえや声掛け等の働き掛けを受け,それらに注意を向けることを通して,そばにいる支援者の存在に気付いていく段階

自分の周囲で聞こえる音に対して,注意を向ける力が高まる段階。音に注意を向ける力が発達することによって,鳴っていた音が止まったことや,音が変化したことにも気付いていく。

触覚・固有覚・前庭感覚刺激に注意を向ける力が高まることで,刺激がなくなったことや変わったこと等に気付く段階。繰り返し自分の体や物に触れることを通して,自分の手や物の存在にも気付いていく。

発光物や動く物でなくても,目の前で提示された物を注視したり追視したりする段階。

人との快の関わりを繰り返す中で,快体験が記憶に残り,快を求める力が生まれることで,人に対する愛着や,快となる活動に対する予期・期待ができる。固有覚・前庭感覚・触覚と視覚,視覚と聴覚等,複数の感覚を同時に活用することができるようになる(例:物を見ながら物に向かって手を伸ばす,音のする方に顔を向ける等)。このことで,人や物への気付きがより明確なものとなり,人や物に対して,意図をもった主体的な働き掛けができるようになる。

決まった合図の後,好きな活動を繰り返し行うことで,人との二項関係の中での期待反応が形成される段階。人との関わりや,声のやりとり等を通して,支援者の働き掛けに対して応答性のある行動も出てくる。

いつも関わる特定の支援者に気付き,笑顔や発声等で愛着を示したり,積極的に関わろうとしたりする段階。感情が分化し,様々な事象に対して多様な表情で表出する。

音に対して注意を向ける力がより高まることで,声の変化や音の方向性にも気付く段階。場面等言葉以外の情報もある環境の中で,特定フレーズに気付いていく。

物を把持したり,簡単に操作したりすることを通して,単純な因果関係を理解する段階。視覚を活用しながら,上肢の動きを調節し,リーチングも見られるようになる。

物の存在に気付き,自分の身体(主には手)と物の距離を目で確かめながら,物に働き掛ける段階。始めは物と手に交互に視線を移して物に手を伸ばすが,徐々に目で物を確認した後,そのまま手を伸ばすことができるようになる。

寝返りやずり這い等の移動能力や,座位姿勢等の姿勢保持能力の高まりによって,見る範囲が広がり,それに伴って興味・関心が拡大する。そのことで,快を求めて探索したり,要求したりするようになる。支援者と物で遊ぶことを通して,他者の意図に気付いたり,物の名前と見た目を一致させ,言葉の理解が育まれたりする。

遊びや物を複数提示されたとき,したい遊びや欲しい物を選択して要求することができるようになる段階(YESによる要求,YES/NOによる要求)。要求を伝えるために,支援者の注意を自分に向けさせる行動も現れる。視野内の指さし理解ができるようになる。

人と物を介したやりとりをする中で,支援者が関心を向けている物に注意を向ける等,他者意図にも気付いていく段階。遊びの中で,自分の姿や名前等,自分自身にも気付いていく。

特定フレーズへの意味付けがなされる段階。意味付けされた特定フレーズを長期記憶として保持する力,そして,様々な音がある中から選択的に特定フレーズに注意を向ける力がつくことで,言葉の理解につながる。

探索的操作や物で遊ぶことを繰り返す中で,因果関係を理解する段階。同時に,手の操作性も高まってくる。

視力の向上(小さな物や遠くにある物にも気付いたりする等)に伴って見ることに対する興味が拡大し,探索的行動が見られる段階。物の永続性にも気付き始める。

<発達の困難さ>

覚醒が低かったり,筋緊張や周囲の雑音,過敏さによる不

快感等,支援者が働き掛ける刺激以外のことに注意を向け

ていたりするため,支援者の働き掛けに注意が向けにくい

場合がある。

<発達の困難さ>

運動機能障害→手や物の存在への気付きが難しい。

<発達の困難さ>

記憶に残りにくい→期待反応の表出や因果関係の理解に結び付きにくい。

運動機能障害→視覚の活用,リーチングが難しい。

運動機能障害,視覚障害→物との二項関係が成立しにくい。

<発達の困難さ>

物との二項関係が自己刺激となっている

→三項関係が成立しにくい。

これまで受容的だった→要求行動が出にくい。

記憶に残りにくい→言葉の理解につながりにくい。運動機能障害→視覚の活用,探索,物の永続性

の理解難しい。移動が困難であると,興味関心

が拡大しにくい。

視覚障害→他者意図への気付き,言葉の理解,人との物を介した遊びや要求に

つながりにくい。

聴覚障害→言葉の理解につながりにくい。

-46-

3 重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引 (1)手引作成の目的

リストで実態把握に取り組み目標を定めた後,その目標達成のための

具体的な指導のヒントを示し,より子供の実態に応じた指導を行うために,

手引の作成に至った。

(2)手引の概要

リストの各項目に対応した指導のヒント・留意事項等をまとめている。指導

を行う上で,一つの参考例として,児童生徒の個々の状況に合わせて活

用を図るものである。以下に手引 ver.5.0の1ページを示す。

この手引 ver.5.0本体は,福山特別支援学校の HP よりダウンロードが可能である。

(3)平成 29年度の取組

リスト改訂に応じて,追加・修正を行いながらⅠ段階~Ⅳ段階の手引については,リスト掲載の「段階・領域

ごとの発達の概要」を基に精度の高い手引の作成を目指した。書式面では,新たに【関連教材】という欄を作

成し,手引の目標を達成するための手立てとして,教材教具集掲載の教材の活用が有効な場合は,その教材

の番号を欄に記した。

(4)今後の取組

より精度の高い手引にするために,リストに応じて文献研究,実践事例を進め,内容の修正,追加を行う。

認知(聴覚・言語)

Ⅱ‐9 目標 音の変化に反応する

関連項目 Ⅱ‐8 ◀◀◀ Ⅱ‐9 ▶▶▶ Ⅱ‐11

目標達成のための手立て

○ 反応が良い2つの音を交互に聞かせることで,音が変わったことに気付かせる

①子供が安定して反応できる音Aを聞かせ,音に注意を向けさせる。

②子供が音に注意を向けることができる時間の中で,音Aを

聞かせた後,間を空けずに別の反応が良い音Bに変える。

③子供が音に注意を向けることができる時間の中で,再度音Bから

音Aに変える。

※子供の注意が音から逸れたら終了する。

【留意事項】

・子供が音に注意を向けやすいよう,聞かせたい音以外の刺激をできるだけ

少なくする。他の刺激に対して意識が向きやすい場合や指導の初期段階

では,イヤホン等で音に集中しやすくする。

・仰臥位や側臥位,座位保持椅子に座った姿勢等,安楽な姿勢で指導を行う。

・2番目以降に聞かせる音は,1番目に聴かせる音とは音の高さや音色等の

性質が異なり,変化が分かりやすい物を選択する。

・音を変化させても反応がない場合や,反応が微細である場合は,子供がよく反応する音が他の音へ変わ

ったことに気付く表出を安定させる指導を行う。(聴Ⅱ-8)

【引用・参考文献】 【関連教材】 7

福山特別支援学校 HP → 教育研究 → アセスメントチェック →重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引

音A

音B

(Aとは音の性質が異なる音)

リストの領域,発達番号,項目

教材教具集掲載の教材番号

-47-

4 教材・教具開発

(1)教材・教具開発の目的

重度・重複障害の児童生徒の発達段階に応じた課題達成に向けて,効果的な指

導を行うためのものとして,教材・教具が活用できることを目的として行った。

(2)平成 29年度の取組

今年度も教材棚から,校内で開発した教材・教具や購入した教材・教具の貸し出し

を行った。夏休みには,教材・教具づくりワークショップ,冬休みには教材教具展示会

を実施した。ワークショップでは,参加した教職員が,担任する児童・生徒の実態に合わせて様々な工夫をしな

がら教材・教具を作成した。

平成 28年度に,児童・生徒の実態から,指導目標達成に向けた手立ての1つとして教材・教具を選択・活用

することを目指して,リストや手引と関連付けやすい様式に変更した「教材・教具集」を作成したが,今年度はそ

の内容拡充や追記を行った。以下に,今年度新たに追記した教材・教具集の1ページを示す。

(3)今後の取組

教育研究部員以外からもアイデアを募り,教材開発を進める。開発した新規教材・教具は教材棚に設置し,

校内での活用を進める。夏季休業中に教材・教具づくりワークショップでは,指導における目的に沿った教材

作りができるような場にしていく。また,冬期休業中には,教材教具を展示する場を設けることで,教材作りに対

する関心を持ってもらうようにする。新しく開発した教材・教具を教材・教具集に随時追加するとともに,校内の

実践事例から内容を修正し,より精度の高い物にしていく。

手に物が触れると,手や指を動かす(触Ⅱ-14)[p111]

鈴ボックス

指導方法

1,活動前に手のマッサージを行い,手に注意

を向けさせる。

・マッサージは手の平,指の付け根,指先の順

番に行う。手を握りこんでいるときは,ゆっくりほ

ぐしていく。

2,手に注意を向けさせた状態で,鈴やビー玉

に触れさせ,鈴に注意を向けさせる。

3,トレーの中で,手や指で,鈴に触れさせる。

4,自発的な手の動きが出るまで待つ。

【その他の関連領域】

触覚Ⅱ-12,触覚Ⅱ-17,触覚Ⅲ-21

【備考】

鈴は,少し指を動かすと音が鳴るので,力の入りにく

い子供や視覚障害の子供にも活用可能。

ビー玉でも可能。

作り方・入手先

・鈴,箱(手首の返しが難しい子供には,切れ込みを入れる)

-48-

5 学習姿勢に関する研究(FFプロジェクト)

昨年度より始めた取組として,広島大学大学院教育学研究科特別支援教育学講座 船橋篤彦先生を招聘

し,学習姿勢に関する研究を行った。【通称:FF(福山・船橋)プロジェクト】

(1)研究の目的

本研究は,指導場面における児童生徒の姿勢保持,教員の姿勢支援の在り方について,船橋先生より指

導・助言を受けることによって,本校教職員の姿勢,運動,動作等に関する肢体不自由教育の専門性を高める

こと,そして,これらの指導を教育実践に生かすことによって,児童生徒のより主体的な学習を支援することを

目的として行った。

(2)研究の概要

本研究は,「指導・助言」,「研修」,「『FF瓦版』発行」,「『姿勢支援の手引き』発行」の4つの柱から成る。

次に研究内容4つのそれぞれの概要を示す。

姿勢支援に関する指導・助言

・9月~12月の間に5回実施した。

・対象となる教員を8名設定し,授業場面における指導者の姿勢支援

及び身体発達と認知発達の関連等,船橋先生より指導・助言を受けた。

・指導・助言の内容は,映像で記録し,本校教職員が閲覧できるようにした。

研修

・対象教員7名の相談と指導・助言の内容紹介,1名の実践報告を発表した。

・『(福山特支の誇るべき強み)認知・コミュニケーションと(福山特支の挑戦課題)姿勢・運動を繋ぐ試み~

part2:「動き」と「学び」,そして課題関連図への挑戦~』という演題で船橋先生に御講話いただいた。

・講話の中では,姿勢支援の意義のみならず,姿勢補助具やICT活用の意義,課題関連図の作成,さら

には本校の課題として上肢の動きと姿勢,認知・コミュニケーションとの関連について言及いただいた。

9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

指導

助言

研修

FF瓦版

姿勢支援

の手引

第2版

写真1 指導・助言の様子

指導・ 助言① (10/10)

研修会 (1/5)

指導・ 助言② (10/17)

指導・ 助言③ (11/21)

指導・ 助言④ (11/28)

指導・ 助言⑤ (12/12)

手引作成 案検討

指導助言のまとめを作成 研修で報告,FF瓦版・姿勢支援の手引きへ反映

手引内容検討

「姿勢支援の手引 第2版」 発行

FF瓦版発行 校内配付 ①(2月6日)②(3月7日)③(3月 13日)

表1 FFプロジェクト工程表

-49-

「FF瓦版」発行

・対象教員6名の相談内容とそれにかかる船橋先生の指導・助言,指導・助言から得た内容をまとめた「FF

瓦版」を3号作成し,校内教職員向けに発行した。

「姿勢支援の手引 第2版」発行

・児童生徒がより主体的かつ効果的に学習するために,学習

姿勢を改善することを目的として作成した「姿勢支援の手引」

の内容の拡充と加筆修正を行い,「姿勢支援の手引 第2

版」を作成した。

・「姿勢支援の手引」は,授業場面を想定し,「食事」や「物を

見る」,「物に手を伸ばす」といった学習内容及び目的に応じた

姿勢や支援方法について,イラストを用いて説明している。

ひとつの目的に対し,複数の姿勢例を掲載しており,児童生

徒の実態等から個に応じた姿勢支援の方法を検討することが

可能である。

・福山特別支援学校の HP よりダウンロードが可能である。

研究の成果として,第一に本校教職員の姿勢及び姿勢支援に関する専門性の向上に寄与したことが挙げ

られる。船橋先生からの指導・助言により,姿勢支援の目的や意義,具体的な手立て等を知ることができた。ま

た,指導・助言の内容を研修会での実践報告とFF瓦版で紹介することにより,研究内容を全体に周知すること

ができた。さらに,研修会での船橋先生の講話によって,姿勢支援および移動支援,上肢の発達が認知発達

にもたらす影響と姿勢補助具・ICT活用の意義について整理ができた。このことは,本校の強みである「認知・

コミュニケーション」に関する研究をより向上させることに繋がる。

今後の課題としては,「姿勢支援の手引」が細かな実態に応じていないといった,個に応じた支援に関する

研究が途上であることが挙げられる。このことを改善するために,本研究が一過性のものにならないよう,引き

続き研究を進めていく必要がある。

写真2 研修会の様子

図1 FF瓦版

図2 「姿勢支援の手引き 第2版」

-50-

6 実践報告 (1)実践報告を行う目的

実践内容の共有をし,教職員一人一人の実践力の向上を図ることを目指して,さらに,リストや手引を活用し

た実践を校内で周知することにより,リスト,手引を活用した教育実践を広げることを目的として行った。

(2)平成 29年度の取組

年に3回の実践報告の場を設け,報告者の担当児童生徒に関する実践報告を行った。その際,本校のリス

トを活用できる児童生徒については,リスト・手引を活用して実態把握,目標設定,取組をまとめ,報告した。

今年度の新たな取組として,ユニバーサルフレーム(スパイダー)を使用し指導したことを踏まえての実践報

告を行うとともに,その使用法や使用目的を説明し広める場を設けた。ユニバーサルフレーム(スパイダー)が

校内に新たに導入され,指導に活かすためのきっかけづくりを行うことができた。

(3)今後の取組

教育研究部員からの実践報告では,リスト・手引・ユニバーサルフレーム(スパイダー)を利用した教育実践

を発表することで,その使い方やそれを踏まえて指導する方法を広く知ってもらうことができる場となった。教育

研究部員以外からの実践報告を今年度は2名から行ってもらい,今後もつけたい力を明確にした実践報告を

目指していきたい。

7 自立活動に関する研究の今後の課題

本校ではリストを中心とし,認知・コミュニケーションに関する内容について研究を進めているが,リスト等の活

用について,昨年度に引き続き,以下のような課題を抱えている。

①リスト・手引等のコンセプトや意図が十分に伝わっていない

今年度,リストのコンセプトや意図,理論的背景を少しでも伝えやすくするために,「段階・領域ごとの発達

の概要」を作成したが,校内に十分周知が図れていない。研究授業の際にはリストや手引を活用した指導案

の作成を進めているが,研究授業の1時間の授業のみにリストや手引が活用され,日々の授業での活用に

つながっていなかったり,キーワードの捉えが様々で,指導案に添付されるプロフィール表が,児童生徒の

実態を示す共通のものとなっていなかったりするという課題がある。児童生徒に対する日々の指導にリストや

手引が活用できるよう,校内でリストの意図や使い方に関する研修会を開催する必要がある。

校内でリストの意図や理論的背景を共有化した上で,授業改善と連携しながら授業実践を進め,目標設

定や指導事例,教材教具の工夫等の情報を収集することで,本校成果物のさらなる質の向上だけでなく,

授業改善,自立活動に関する研究を本校全体で取り組む組織づくりを目指したい。

②リストが自立活動の手続きにそぐわない面がある

自立活動の目標設定に至るプロセスは,自立活動6区分における実態把握,児童生徒の将来像,学び

の履歴等を踏まえる必要がある。現状のリストにおいて,それらのプロセスは示されていない。

リストは,「認知・コミュニケーション」に特化したものであり,また,重度・重複障害児に焦点を当てたもので

ある。「健康の保持」「身体の動き」等の内容を取り扱っておらず,現状ではリスト単体で自立活動6区分全て

を考慮した実態把握,目標設定等につなげることは困難である。

-51-

Ⅲ 情報発信

1 自立活動だより

2 自立活動ガイドブック

-52-

はじめに

この章では、本校の情報発信に関する取組について紹介する。本校の教育研究における情報発信

は,特別支援学校のセンター的機能の考えに基づき行っている。よって,地域等において特別支援教

育を推進する体制を整備していく上で,特別支援学校が教育上の高い専門性を生かしながら,地域の

小・中学校だけではなく,全国の小・中学校や特別支援学校に向けて幅広い情報提供・情報公開が求

められるという状況を受け,本校HPに研究内容を公開するに至っている。

情報発信の取組として,地域の小・中学校等の教員や保護者,関係機関の職員等を含めた,障害の

ある児童生徒に関わる全ての人を対象として提供している資料を次に示す。

1 自立活動だより(平成 29年度 No.1,2)

2 自立活動ガイドブック第6版~肢体不自由,重度・重複障害教育の指導について~

3 重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト~認知・コミュニケーションを中心に~Ver4.0~

4 重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引~重度・重複障害児のアセスメントチ

ェックリストVer4.0対応~

5 教材・教具集~重度・重複障害児のアセスメントチェックリストVer4.0対応~

6 姿勢支援の手引き

3~6の詳細に関しては,「Ⅱ 自立活動に関する研究について」で説明しているため,本章では示さ

ない。発行物の執筆に際しては,教育研究部が行っているが,一人の部員が全てを担当するのではな

く,一つの発行物に対し担当を割り振ることで,部員全員が執筆に携わることを目指している。よって,

発行物を作成し,公開することは,保護者・学外へ情報を提供することに加え,教育研究部の部員全員

の個々の専門性の向上及び本校全体の教職員の専門性の向上も目的として行っている。

1 自立活動だより

(1) 自立活動だよりとは

教育研究部では,本校教職員の自立活動における専門性の向上と,保護者・関係諸機関等への情

報提供を目的として「自立活動だより」を年に数回発行している。毎年テーマを決め,専門書等から情

報収集を行い,日々の児童生徒との取組も内容として取り入れながら執筆してきた。

(2) 平成 29年度に至るまでの自立活動便りの変遷

自立活動だよりは,平成 23年度に自立活動部が創設

し,現在の平成 29年度に至るまで,毎年発行している。

基本的には,重度・重複障害を有する児童生徒が

多数を占める本校において,在籍する児童生徒の

教育内容を意識して,年間通したテーマを設定して

いる。

過去のテーマを次に示す。

-53-

(3) 今年度のテーマについて

今年度の自立活動だよりは,「上肢の活用の初期発達」をテーマに設定した。本校の自立活動研究

の柱である「重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト」の領域「触覚等」に関連した内容である。

本校に在籍する肢体不自由,重度・重複障害を有する子供たちは,姿勢や身体動作に関して課題

があり,玩具で遊んだり,簡単な日常生活動作をしたりといったことができるようになるための前段階であ

る,触覚や固有覚,前庭覚等の外界からの刺激へ気付く,単純な因果関係を理解する等といったごく初

期の段階の指導が必要である児童生徒が多数在籍する実態がある。そこで,今年度の自立活動だより

は,「上肢の活用の初期発達」をテーマに据え,発達の流れや困難さの背景,段階ごとの目標を達成す

るための指導例等について紹介した。内容は次の通りである。

2 自立活動ガイドブック

平成 23年度「ムーブメント教育・感覚統合」

平成 24年度「感覚(視覚・聴覚・触覚・前庭

感覚・固有覚)」

平成 25年度「摂食指導」,「呼吸」,「姿勢」

平成 26年度「コミュニケーションの初期発達」

平成 27年度「表出する力を培うためには」

平成 28年度「言葉の理解と表出」

№1 「外界への気付き」 1 はじめに 2 上肢の発達の流れ〈初期〉 3 上肢の活用において重要な感覚 ~触覚,固有覚,前庭覚~

4 上肢の発達の流れと指導について ~外界への気付き

(触覚,固有覚,前庭覚)~ コラム ペンフィールドのホムンクルス

№2 「気付きの広がり」 1 外界への気付きから気付きの広がりへ

2 障害による困難さ ~上肢の活用の初期発達の視点から~

3 「気付きの広がり」を目指した指導について コラム 気付きの広がり~本校の実践より~ コラム 上肢の構造と機能

(4)今後の取組

自立活動だよりは,学校内外への情報提供と執

筆する教員の専門性向上を目的に発行している

が,自立活動だよりの内容がわかりにくいという意見

があったり,執筆する部員に偏りがあったりするとい

った課題が出ている。よりわかりやすく伝えるための

改善策等について,今後検討する必要がある。

-54-

(1) 自立活動ガイドブックとは

本校では,在籍する児童生徒の障害の重度・重複化,多様化を踏まえ,自立活動の指導の充実を目

的として,自立活動ガイドブックを作成している。本冊子は,本校に初めて赴任した教職員でも「これを

見れば自立活動がわかる!」をコンセプトに,実態に即したアセスメントや支援のポイントについて調

査・研究した内容,日々の教育実践例等の様々な情報を収録している。

(2) 平成 29年度に至るまでの自立活動ガイドブックの変遷

自立活動ガイドブックは,平成 23 年度に発刊した第一版から,現在発刊している第6版に至るまで,

多くの教育研究部の部員が執筆に参加している。毎年版を重ねる中で,研修や発行物等で得られた情

報を加筆し,既出の情報を最新のものに更新・修正することで,内容の充実を図っている。

(3) 昨年度の自立活動ガイドブックについて

教育研究部では,コミュニケーション能力の中でも「児童生徒の表現・表出する力を培うための指導

の在り方」という視点に着目して調査研究や実践,授業改善等に取り組み,それらの成果をまとめて平

成 28 年3月に自立活動ガイドブック第5版「理論編」,「教材・教具編」を発刊した。そして,本校の自立

活動におけるさらなる研究の充実を図るため,平成 29 年3月においては,自立活動ガイドブック第6版

を発刊した。第6版では,前年度の「自立活動ガイドブック第5版 理論編」を「自立活動ガイドブック~

肢体不自由,重度・重複障害教育の指導について~」,「自立活動ガイドブック第5版 教材・教具編」

を「教材・教具集~重度・重複障害児のアセスメントチェックリスト Ver4.0 対応~」と名称を変更し,内

容の拡充と加筆修正を行った。自立活動ガイドブック第6版の内容として,目次を次に示す。

第5版からの変更点として,「第3章 重度・重複障害教育のポイント」と「第5章 コミュニケーションに

ついて」において,内容の更新・拡充を行った。第3章には,新たな項目である「2 課題関連図」による

目標の設定方法について」,第5章には,「4 言葉の理解と表出の初期発達」の収録を行った。なお,

第5章の収録内容は,平成 28 年度に発行した自立活動だよりの内容をまとめたものである。第5章の新

たに収録した頁を次に示す。

第1章 肢体不自由教育について

~多種多様なニーズに応じるために~

第2章 自立活動とは

第3章 重度・重複障害者教育のポイント

第4章 認知発達と感覚について

第5章 コミュニケーションについて

第6章 呼吸と姿勢について

第7章 摂食指導について

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(5)今年度のガイドブックについて

平成 30年3月末に,第7版を発行した。第7版については,平成 29年の学習指導要領の改定を受け,

第1章において,教育課程の取り扱いや自立活動の内容等に関する内容を拡充した。

また,第6章においても,呼吸と姿勢,身体の動きに関する内容を拡充している。具体的には,今年

度の自立活動だよりの中で取り扱った「上肢の活用の初期発達」を中心としてまとめた。FFプロジェクト

や自立活動の実践等で得られた内容を追加した。今後は,本誌を教職員の研修等にも活用していく。

(4)今後の取組みについて

読者が読みたい内容を探しにくいといったことや複数ページにおける内容の重複があること,内容に

よって情報量に偏りがあることが挙げられる。このことを改善するために,内容の精選と拡充を行っていく

必要がある。

第1章 肢体不自由教育について

~多種多様なニーズに応じるために~

第2章 自立活動とは

第3章 重度・重複障害者教育のポイント

第4章 認知発達と感覚について

第5章 コミュニケーションについて

第6章 呼吸と姿勢について

第7章 摂食指導について

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Ⅳ 外部連携

1 広島県肢体不自由特別支援学校 自立活動研究会

(1) 自立活動研究会の発足に至る背景

(2) 自立活動研究会の経過について

(3) 第5回広島県肢体不自由特別支援学校 自立活動研究会について

(4) 結果

2 特別非常勤講師を活用した指導の充実について

理学療法士(PT),作業療法士(OT),言語聴覚士(ST)

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1 広島県肢体不自由特別支援学校 自立活動研究会 (旧名称:3校合同自立活動実践報告研究会)

(1) 自立活動研究会の発足に至る背景

これまで県内の肢体不自由3校において,指導事例の整理や取り組んでいる実践を公開する機会が少なく,

過去の教育実践の多くは,継承されることなく埋もれていることが多かった。指導力や専門性の向上のために,

実際の教育実践を整理した実践事例研修を推進していくことが,指導力,専門性向上のためにはより効果的

であるため,平成 25年度より,共通の課題を抱えている3校で連携して,自立活動の研究を推進する体制を作

った。

まずは,各校で自立活動の教育実践を深め,その取組を3校共通の様式に則って整理した。そして,専門

性の向上を図るとともに,自立活動の実践を広く共有し,特別支援教育の改善を目指すことを目的として,西

条特別支援学校を会場として,具体的な実践事例を報告,併せて研究協議を行う3校合同による「自立活動実

践報告研究会」を同年から開催している。

(2) 自立活動研究会の経過について

・第1回(平成 25年) 肢体不自由3校から約 30名の参加のもと「自立活動報告研究会」を開催した。

・第2回(平成 26年) 県内全ての特別支援学校からの参加を募り,約 70名の参加があり,3校の実践報告

研究協議等を行った。

・第3回(平成 27年) 県内の特別支援学校及び小・中学校から参加を募り,約 80名が参加しての実践報告,

研究協議が行われた。新たな取組として3校学校企画を行い,各校の日頃の実践や

研究等について発表した。

・第4回(平成 28年) 会則が制定されたことにより「広島県肢体不自由特別支援学校自立活動研究会」へと

名称が変更となった。実践報告,講話,研究協議,3校合同企画を一つのテーマで協

議した。60名の参加者のうち,県外からの参加もあった。

・第5回(平成 29年) 県外からの参加者の受け入れを拡大した。来年度から西条特別支援学校が事務局

校となるため,「自立活動研究会事務局校マニュアル」を作成し,引継ぎを行った。

また,平成 25年度末から3校合同研究の成果として「自立活動実践事例集 第1版」を作成し,各校 HP

で公開しており,平成 30年度末にも,「自立活動実践事例集 第5版」を作成し,各校 HPで公開する。

(3) 第5回広島県肢体不自由特別支援学校 自立活動研究会について

【成果】

・昨年度に引き続き,研究会テーマを設定し,テーマに基づいた研究を深めることができた。

・81名の過去最高人数の参加者が集まった。

・県外からの参加者が,昨年度1名から 10名になり,県外からの注目が伺えた。

・アクション・プランや,学習指導要領の改訂に伴った話をすることができた。

【課題】

・各校が自校の特色や強みがわかり,その強みを3校で共有化する場とする。

・3校で研修していく意義や今後の研究会の方向性・ビジョンを決定し,3校が共通意識をもって研究会を運

営する。

・学習指導要領の改訂に向けて,実践事例集の様式を改訂する。指導仮説や課題関連図など,記載する内

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容を検討する。

【当日の概要】

平成 29年 8月 10日に「広島県内の肢体不自由特別支援学校3校(広島特別支援学校,福山特別支援学

校,西条特別支援学校)で取り組んでいる自立活動について,各校の具体的な実践を共有し,専門性を向上

することで,広島県全域における特別支援教育の充実を図る」ことを目的とし,以下の内容を行った。

1 開会行事

2 講 話

「自立活動で考える『学びの変革アクション・プラン』~資質・能力の育成と課題発見・解決学習の視点

から~」

3 実践報告

実践報告Ⅰ 広島特別支援学校

・歯磨きをしよう

実践報告Ⅱ 福山特別支援学校

・揺れに気付いてにっこり笑顔で表そう

実践報告Ⅲ 西条特別支援学校

・スプーンを握って水分補給をしよう

4 研究協議

5 3校学校企画

6 閉会行事

【実践報告】

肢体不自由特別支援学校である広島特別支援学校,福山特別支援学校,西条特別支援学校の3校から,

各校1名ずつ実践報告を行った。研究協議で実践報告を基に協議するため,「①児童生徒にどのような力を

育成しようとしていたか。」「②児童生徒につけたい力を育成するためにどのような指導の工夫があったか。」の

2点についてメモをとってもらった。そして実践報告後に,参加者がそれぞれの実践に対して,「参考になった

こと」「詳しく聞きたいこと,質問・疑問など」を,実践報告振り返りシートに記入した。

【研究協議】

学習指導要領の改訂に向け,児童生徒の将来の姿を具体的にイメージして指導を行う必要性から,今年度

の研究協議は,「指導生徒につけたい力を育むためには」を共通する協議の柱として設定し,協議を行った。

すべてのグループで各校の実践報告を基にした,児童生徒につけたい力について,実践報告中にとっても

らったメモを基に協議を行った。また,自分の担当する児童生徒につけたい力や,そのためにしている取組に

ついてワークシートに記入し,グループ内で意見をまとめ,全体へ共有を図った。

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【3校学校企画】

肢体不自由3校の取組を共有することを目的とし,3校学校企画を設定した。各校の特色に応じた発表をそ

れぞれブースごとに分かれて行った。

○広島特別支援学校

テーマ 内容

広島県立広島特

別支援学校の取

組と実践につい

本校では平成27年度より3年計画で「児童生徒が確実にステップアップする授業作り」

をテーマで取り組んでおり,今年度は,『「広特版学びの変革 IICE モデル」を基にした学

習評価を通して』という研究を進めている。今まで取り組んできた IICE を視点にルーブリ

ック評価を取り入れた単元シートを職員全体で作成した。

発表した実践は,ルーブリック評価を取り入れ,本人の好きな揺れ遊びを用いて他者へ

の意識や要求反応を目標とした自立活動の実践を発表した。

○福山特別支援学校

テーマ 内容

スパイダーの導

入と指導につい

本校は昨年度,桐原秀太郎記念教育振興基金からスパイダー(日本版商品名:ユニバ

ーサルフレーム)の寄贈があった。今年度から自立活動や保健体育の授業の中で活用

を始め,校内でも関心が高まっている。現在は授業研究を繰り返しながら指導方法や効

果の検証を行い,単元開発に取り組んでいる。学校企画では,スパイダーの概要と本校

での取組の事例を紹介した。

○西条特別支援学校

テーマ 内容

「上肢の動きのチ

ェックシート」指導

の手引について

本校ではアセスメントツールの一つとして「上肢の動きのチェックシート」と,それを活用し

た実態把握,指導方法や支援の手立てについてまとめた「指導の手引」を作成している。

児童生徒の上肢の動きをより引き出し,学習活動を充実させるための指導・支援について

提案した。

-60-

(4) 結果

自立活動実践報告研究会終了後,参加者にアンケートから,感想の一部を紹介する。

アンケートの結果,満足度の高い結果が得られた。研究協議では,他校や県外の方とも情報交換でき,協

議を深めることができたという意見も多くあった。また,肢体不自由のある児童生徒の課題発見・解決学習につ

いて考えることができたという意見もあった。

○研修会の満足度

満足 83% どちらかといえば満足 17%

どちらかといえば不満足 0% 不満足 0%

○アンケートより一部抜粋

講話について

・自立活動の視点で新学習指導要領,学びの変革,課題発見・解決学習

について考えていくことが改めて大切だと感じた。

・パフォーマンス評価の活用と,初期発達の肝は「学ぶ<気づく」というの

が参考になった。

実践報告について

・根拠のある評価を基に実践に結び付け,子どもが変容していく様子を見ることができ,指導を考えるうえで

の理想のイメージができたことがとても大きな収穫だった。

・広島県としての一貫性の中に,3校それぞれの特色のある取組が聞け,とても面白かった。この様な方法

はとても発表者の力に返り,子どもたちにも還元できる良い方法だと感じた。

研究協議について

・それぞれの気付きや考えを話し合うことができ,また互いの実践についても触れる良い機会となった。

・実践事例の内容は勿論,事例検討の在り方(どのような力を育成しようとしているか。どのような指導の工

夫があったか等を出し合う)が大変参考になった。

3校学校企画について

・3校それぞれが特徴のある取組をされている。参考にしたい。(上肢・スパイダー・ルーブリック)

・実践報告と同じくらいすばらしい企画だと思う。日ごろの先生方の努力がよく伝わった。

自立活動研究会参加者アンケート

児童生徒に育成したい力について

・的確な実態把握から目標を設定することで,育てたい力を明確にし,指導仮説をたてて指導を行う。

・障害のある児童生徒は,各教科等で資質・能力を育成するにあたって,つまずきなどが生じやすい。そのため,

自立活動が各教科等で育まれる資質・能力を「支える」役割を担っている。

課題発見・解決学習について

・生徒が考えて行動する場面を設定することが課題発見・解決学習につながるのではないか。

・授業の中で児童生徒が「あれ?」や「やってみたい!」といった思考場面を設定する。また,実態に合う課題,十

分な活動量の設定が必要になる。

今後の課題

・学習指導要領の改訂に向け,児童生徒の将来像をイメージしながら指導を行う必要性から,育てたい力を明確に

し,指導仮説をたてて根拠のある指導を行う必要がある。そのためには実態把握から目指す姿,指導仮説まで考

察できるツールの作成と活用が重要になってくる。

研究テーマのまとめと今後の課題

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2 特別非常勤講師を活用した指導の充実について

本校では,専門家の助言や知見を指導に生かすという観点から,特別非常勤講師として理学療法士(PT),

作業療法士(OT)は児童生徒 1 名につき年間3時間の配置,言語聴覚士(ST)は外部人材活用の一環として

今年度は年間 115時間の配置の中で活用を行っている。

主に,多様な障害の状態や,発達段階等の的確な実態把握に基づいた指導に生かすこと,心身の機能の

評価結果に基づいた指導に生かすこと(姿勢や歩行,日常生活や作業上の動作,摂食動作やコミュニケーシ

ョンなど)の2点を目的としており,事前連携の工夫や授業での連携の工夫,指導・助言の一層の活用,指導助

言の記録の工夫を行うことで,専門性の向上や授業改善,障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服

に取り組んでいる。

具体的には,本校の連携の工夫として,事前に連携用紙の作成を行い,課題に対する指導・助言や取組を

記録することで焦点を絞って指導助言をしていただいている。また,個別の指導計画に示している課題に対し

て,内容・方法が適切かなど,専門的な視点から助言をいただき取組の改善を行っている。

事後の連携では,放課後に学年や学級で指導・助言の時間を取ることで,児童生徒一人一人の指導内容

の検討や情報の共有を行っている。また,いただいた指導・助言の内容は家庭と連携し,福祉サービスや医療

機関などとも連携できるように取り組んでいる。

言語聴覚士(ST)配置は3年目を迎えた。本校は,摂食や嚥下に課題をかかえている児童生徒が多く,摂

食嚥下機能の維持向上や発達段階に応じた摂食指導を必要としている。児童生徒の嚥下障害の状況に応じ

た支援方法や指導方法等について医学的な立場から専門的な助言を受けることで,安全な摂食指導に生か

していきたい。併せて発声発語が困難な児童生徒や呼吸状態に課題のある児童生徒も多く,指導や助言を受

け,専門性の向上につなげていきたいと考えている。

PT,OT,STが定着し,児童

生徒へより多くの視点から専門的

な指導を行うことができた。運動

機能の改善・向上,呼吸状態の

維持・向上,日常動作の向上,摂

食機能の実態把握など,日常の

指導や授業改善につながる多く

の気付きがあった。来年度に向け

て,指導や助言を生かし,より充

実した指導ができるよう取組を進

めたいと考えている。

本校の連携の実際

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平成29年度 研究紀要

第12号

発行日 平成30年3月

発行者 広島県立福山特別支援学校

〒720-0841

広島県福山市津之郷町津之郷280-3

TEL 084-951-1513

FAX 084-951-3864

http://www.fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp/

編集者 広島県立福山特別支援学校 教育研究部