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7 第  章 外国旅行の動向 2 JNTO 訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9 市場編) 2-1 外国旅行の現状と展望 豪州統計局(ABS)によると、豪州からの外国旅 行者数は、10年以上にわたり年々増加しており、 2015 年は 942 万 6,000 人に達した。豪州人の外国旅行 者数が増加し続けた背景としては、豪州の安定した 経済、基軸通貨に対する豪ドル高、世界的な資源需 要の拡大などが挙げられる。ただし、近年、資源価 格の下落、為替レートの変動、テロや自然災害の発 生などにより国内旅行人気が復活しており、外国旅 行者数の伸びは鈍化している。 ABS の統計によると、2015 年の渡航先は、ニュー ジーランド、インドネシア、米国がトップ 3 である。 その後に英国、タイ、中国、シンガポール、フィ ジー、日本、インドが続く。日本は近年人気が上昇 しており、2011 年以降着々と順位を上げ、2015 年は 30万人を超え、国別ランキングで初めてトップ10(9 位)にランクインした。 2015 年は、英国、中国、インドのような移民の里 帰り需要を含む国々が順調に数字を伸ばした一方 で、インドネシアはほぼ横ばい、タイ、シンガポー ル、マレーシアなどアジアの国々への渡航者は減少 した。全般的に、日本以外のアジアの国は不調と言 われた年であった。その理由として、タイ、マレー シアにおけるテロへの注意喚起や、空港が一時期閉 鎖されたバリ島での火山噴火などに対するリスクを 回避しようとする動きが出たためと推定される。同 様の理由により、パリで大規模なテロ事件が発生し たフランスへの渡航者も 2015 年に続き、2016 年も減 少し続けている。 豪州からの訪日旅行者数は、日本政府観光局 (JNTO)の統計によれば 2014 年に前年比 23.8%増加 して初めて30万人に達した。2015年も順調に伸び、 前年比 24.3%増の 37 万 6,000 人となった。2 年連続で 24%前後の伸びを続けた結果、2013 年(約 24 万 5,000 人)からの 2 年間で 1.5 倍に増えたことになる。これ は、訪日マーケットのけん引役であるスキー旅行目 的者の増加に加え、一般観光の分野でも、口コミや メディアを通じて日本の人気が高まったこと、上記 のようなテロ事件が発生していないことや犯罪発生 率が低いという治安の良さ、さらに、2015 年までの 豪ドル高が訪日旅行価格を下げていたことなどによ るものと考えられる。 なお、JNTO 統計と ABS 統計の数値で異なる傾向 を示しているのは、両者の算出方法に違いがあるた めである。JNTO統計では、入国者数を基に算出す るため、日本通過客(一時上陸客)も計上されるの に対し、ABS 統計では、出国者の「主目的地」を基 に統計を取るため、里帰りなどで日本を経由して ヨーロッパなどに行く旅行者が計上されない。 豪州からヨーロッパへの里帰りの需要は、日本は シンガポールなど他の経由地と競合しながらも、一 定の実績を確保してきた。しかし最近では、シンガ ポール、香港などアジア経由のほか、ドバイなどの 中東を経由する航空便も浸透し、日本はメジャーな 経由地ではなくなっているのが現状である。ただし 今後の展望として、カンタス航空の増便(2015年8 月ブリスベン-成田、2016年12月メルボルン-成 田)やANAの再就航(2015年12月)により、JAL を含め日本行の直行便が増えていること、日本が安 全な国と認識されていること、さらに、旅行地とし ての日本の人気が上昇していることから、再び経由 地としての利用者増が期待できる状況となってい る。 2015年の訪日豪州人の平均滞在泊数は、12.6泊 (『訪日外国人消費動向調査2015年』)となっている。 訪日豪州人の中には、欧米へ向かう通過客も含まれ ているが、通過客は日本での滞在日数が短く、訪日 豪州人全体の平均滞在日数を押し下げていることか ら、実際の訪日豪州人観光客の滞在日数はこれより も長いと見られる。1人当たりの旅行支出が高いこ とも特徴で、同調査では中国についで 2 番目に高く 23万1,000円である。特に、買い物のみならず、宿泊、 飲食、交通、娯楽・サービスなど幅広く支出してい る点が特徴である。 2-2 外国旅行の旅行形態別特色 1. 個人旅行 外国旅行をする際の旅行形態は、個人旅行が主流 である。個人旅行者は、友人、知人からの口コミの ほか、ウェブサイト、ソーシャルメディア、ガイド ブックやテレビ、新聞、旅行雑誌などのメディア、 旅行会社への相談などを通じて情報収集し、旅行地 を決定する。カップル、家族のほか、友人同士の小 グループもある。

第 章 2 外国旅行の動向 外国旅行の現状と展望”°)やANAの再就航(2015年12 月)により、JAL を含め日本行の直行便が増えていること、日本が安

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第  章 外国旅行の動向2

JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

2-1 外国旅行の現状と展望

豪州統計局(ABS)によると、豪州からの外国旅行者数は、10年以上にわたり年々増加しており、2015年は942万6,000人に達した。豪州人の外国旅行者数が増加し続けた背景としては、豪州の安定した経済、基軸通貨に対する豪ドル高、世界的な資源需要の拡大などが挙げられる。ただし、近年、資源価格の下落、為替レートの変動、テロや自然災害の発生などにより国内旅行人気が復活しており、外国旅行者数の伸びは鈍化している。

ABSの統計によると、2015年の渡航先は、ニュージーランド、インドネシア、米国がトップ3である。その後に英国、タイ、中国、シンガポール、フィジー、日本、インドが続く。日本は近年人気が上昇しており、2011年以降着々と順位を上げ、2015年は30万人を超え、国別ランキングで初めてトップ10(9位)にランクインした。

2015年は、英国、中国、インドのような移民の里帰り需要を含む国々が順調に数字を伸ばした一方で、インドネシアはほぼ横ばい、タイ、シンガポール、マレーシアなどアジアの国々への渡航者は減少した。全般的に、日本以外のアジアの国は不調と言われた年であった。その理由として、タイ、マレーシアにおけるテロへの注意喚起や、空港が一時期閉鎖されたバリ島での火山噴火などに対するリスクを回避しようとする動きが出たためと推定される。同様の理由により、パリで大規模なテロ事件が発生したフランスへの渡航者も2015年に続き、2016年も減少し続けている。

豪州からの訪日旅行者数は、日本政府観光局(JNTO)の統計によれば2014年に前年比23.8%増加して初めて30万人に達した。2015年も順調に伸び、前年比24.3%増の37万6,000人となった。2年連続で24%前後の伸びを続けた結果、2013年(約24万5,000人)からの2年間で1.5倍に増えたことになる。これは、訪日マーケットのけん引役であるスキー旅行目的者の増加に加え、一般観光の分野でも、口コミやメディアを通じて日本の人気が高まったこと、上記のようなテロ事件が発生していないことや犯罪発生率が低いという治安の良さ、さらに、2015年までの豪ドル高が訪日旅行価格を下げていたことなどによるものと考えられる。

なお、JNTO統計とABS統計の数値で異なる傾向を示しているのは、両者の算出方法に違いがあるためである。JNTO統計では、入国者数を基に算出するため、日本通過客(一時上陸客)も計上されるのに対し、ABS統計では、出国者の「主目的地」を基に統計を取るため、里帰りなどで日本を経由してヨーロッパなどに行く旅行者が計上されない。

豪州からヨーロッパへの里帰りの需要は、日本はシンガポールなど他の経由地と競合しながらも、一定の実績を確保してきた。しかし最近では、シンガポール、香港などアジア経由のほか、ドバイなどの中東を経由する航空便も浸透し、日本はメジャーな経由地ではなくなっているのが現状である。ただし今後の展望として、カンタス航空の増便(2015年8月ブリスベン-成田、2016年12月メルボルン-成田)やANAの再就航(2015年12月)により、JALを含め日本行の直行便が増えていること、日本が安全な国と認識されていること、さらに、旅行地としての日本の人気が上昇していることから、再び経由地としての利用者増が期待できる状況となっている。

2015年の訪日豪州人の平均滞在泊数は、12.6泊(『訪日外国人消費動向調査2015年』)となっている。訪日豪州人の中には、欧米へ向かう通過客も含まれているが、通過客は日本での滞在日数が短く、訪日豪州人全体の平均滞在日数を押し下げていることから、実際の訪日豪州人観光客の滞在日数はこれよりも長いと見られる。1人当たりの旅行支出が高いことも特徴で、同調査では中国についで2番目に高く23万1,000円である。特に、買い物のみならず、宿泊、飲食、交通、娯楽・サービスなど幅広く支出している点が特徴である。

2-2 外国旅行の旅行形態別特色

1. 個人旅行外国旅行をする際の旅行形態は、個人旅行が主流

である。個人旅行者は、友人、知人からの口コミのほか、ウェブサイト、ソーシャルメディア、ガイドブックやテレビ、新聞、旅行雑誌などのメディア、旅行会社への相談などを通じて情報収集し、旅行地を決定する。カップル、家族のほか、友人同士の小グループもある。

8 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

個人旅行であっても、旅行会社を通じて旅行を手配する人も少なくない。市場調査会社RoyMorganの調査でも、2015年から2016年にかけて旅行をした人のうち、最も多かったのは大手旅行会社であるFlight Centerを利用した人で全体の12.6%であった。個人旅行者向け商品は、滞在するホテルと現地発のツアーをそれぞれ選んで組み合わせるものが多く、航空券は別途手配する。航空券のみ先にオンラインなどで手配するパターンと、代理店でホテルなどと併せて手配するパターンの両方がある。

訪日旅行に関しても同様で、ジェットスターなどの航空会社が、期間限定の格安航空券を販売すると、まず航空券のみ購入しておき、日本滞在中のホテルや交通機関などの手配は情報収集した後で行う。交通手段の利用では、JRパスを購入し鉄道で国内を移動することが多く、車の利用は少ない。ただし、レンタカー会社の英語対応や英語のナビゲーションの普及により、今後はドライブ旅行が増える可能性もある。豪州は英国同様右ハンドルの左側走行であり、日本での運転には支障が少ない。なお、『訪日外国人消費動向調査2015年』によると、訪日豪州人の87.3%が個別手配となっている。

インターネットの普及により、オンライン旅行会社(OTA)間の競争も激しい。先のRoyMorganの調査で、1位はFlight Centerであったが、2位以下はBooking.com(11.4%)、Wotif.com(6.8%)、Webjet.com.au(6.1%)とOTAが続き、いわゆる旧来型の店舗を構えるタイプの旅行会社の利用は、トップ10の う ち、1位 のFlight Centerと9位 のHelloworld

(2.8%)だけである。ただし、これは国内旅行を含めた旅行全般に関する調査である点は留意されたい。

より多くの個人旅行者を受け入れるためには、ウェブサイトやソーシャルメディアを通じた英語による情報発信が必須である。その際には、旅行者の多くがJRパスを利用することを踏まえ、最寄りのJRの駅からのアクセスと、切符や入場券などはどこで、どのように購入するのか、といった手配方法に関する情報もあると良い。

2. パッケージツアー豪州からの外国旅行パッケージツアーとしては、

上記個人旅行の項で記載した個人旅行者向けパッケージ商品が挙げられる。このほかに、アジアをはじめとして、言葉や安全の面から個人では旅行しにくい異文化体験型の観光地に関しても、添乗員付きのパッケージツアーの需要がある。

訪日旅行については、桜の時期にゴールデンルートを行く商品を中心に、パッケージツアーの人気が高い。これまで中高年層がターゲット層の中心と見られていたが、2015年に35歳以下の若者のみが参加できる異文化体験型ツアーを扱う旅行会社が初めて訪日旅行商品を販売した際に好評であったことからも、世代を問わず、内容次第で、パッケージツアーの需要はあるものと思われる。

3. テーマ旅行(スペシャル・インタレスト・ツアー:SIT)特定の趣味や関心事に焦点を当てたテーマ旅行

も、豪州では一定の需要があり、異文化体験、自然・庭園・建築鑑賞、イベント参加、スポーツなどの体験ツアーが組まれている。アジア地域内の数カ国を巡るクルーズや、カナダやアラスカへのフライ&クルーズ(外国までは航空機で行き、その後、現地発のクルーズ船で旅行する形態)、ヨーロッパのリバークルーズ旅行も非常に人気が高い。

訪日旅行では、中山道や熊野古道などを歩くウォーキングツアーの人気が高い。そのほか、東北の桜祭に焦点をあてたツアー、キルト・ショー参加ツアー、建築や日本庭園、陶芸などのテーマ旅行もあるが、比較的高額なツアーが多いのが特徴である。クルーズ人気の高まりを受け、日本を含むアジアクルーズ、日本のみのフライ&クルーズも送客増に大きく貢献している。この場合は、各ツアーの発着拠点が空港ではなく港となるため、港からのアクセスを含んだ観光情報が求められるが、現状、そのニーズには十分応えられていないため、観光地やモデルルートに関する情報の整備は今後の課題である。

4. 教育旅行豪州から外国への教育旅行は、専攻科目の知識の

向上、異文化の体験・社会学習を目的として、高校生を中心に盛んに行われている。

この分野での訪日旅行の大半は、日本語学習者を対象とした教育旅行である。参加者は20人から30人程度が主で、日本語教師が中心となって企画する旅行に希望者が参加する形を取っている。ABSによると、2015年に日本を訪問した教育旅行者数は、5,880名である。JNTOが独自に行ったヒアリングなどから推定する限り、実際には、1万人を超える旅行者が訪日しているものと思われる。豪州での日本語学習者は約30万人(世界4位、2012年国際交流基金調べ)おり、受け入れ環境を整えることにより、さらなる訪日者増を見込むことができる。

第2章 外国旅行の動向

9JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

訪日教育旅行の訪問先は、東京、京都、広島などのゴールデンルートが一般的で、学校交流やホームステイなどの体験がこれに加わる。姉妹都市や姉妹校などがある場合は、まずはその関係先で学校交流やホームステイをアレンジするが、連携先がない場合のこのようなプログラムの手配が課題の一つでとなる。実施時期は、9月の春休みに併せる場合が多く、次いで多いのが、イースター休暇の時期に併せた4月である。1月の夏休みを利用して長野などでスキー旅行を行う教育旅行も一部で見られる。実施のタイミングとしては、6月の冬休みも可能であるが、日本の梅雨の時期にあたることから敬遠されることが多い。スキーの場合、対象は日本語学習者のみならず、体育の一環で教育旅行が組まれることもある。

この他、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)と呼ばれる理系科目学習者のための教育旅行も存在するが、現状はほとんどの場合その分野の先進国である欧米を訪問している。これらの分野については、日本のレベルも高く十分旅行先になりうる可能性を持っているため、今後は日本語学習者のみならず、これら他の科目の教育旅行も視野に入れ、誘致を図っていく必要がある。

5. インセンティブ旅行豪州では、企業内の成績優秀社員もしくは有力

ディーラーなどを対象に、インセンティブ旅行が行われている。インセンティブ旅行の訪問地は、豪州国内のほか、近場の東南アジアやオセアニア諸国のビーチリゾートが多い。最近は一般観光での人気の高まりに伴って、日本もインセンティブ旅行先としての人気が高まってきているが、宿泊施設の確保が現状の課題となっている。

比較的カジュアルなウェルカムディナー、正式なディナー、チームビルディングなどがプログラムの内容にあるが、それらの実施に際しては一般観光では体験できないような特別なアレンジ、サービスが期待されている。昨今は、ただの遊びや娯楽でなく、社会貢献や環境に配慮した活動が好まれる傾向にある。日本については、他国に比べ、施設の使用などの規制が厳しく、ユニークベニュー、ユニークプログラムのアレンジが難しいことも、他国との競合における弱みの一つである。インセンティブ旅行に関する英語の情報やインセンティブ旅行関係者の日本に関する知識の少なさが、訪日インセンティブ旅行を遠ざける要因となってしまっている。

2019年のラグビーワールドカップや2020年の東

京オリンピック・パラリンピックへ向け、インセンティブ旅行の需要は引き続き高まっていくことが想定される。この機会に、日本側の受け入れ体制を強化し、一般観光のみならず、インセンティブ旅行分野でも人気の旅行地としての地位を確立していきたい。

2-3 観光関連政策

1. 外国旅行関連規制

豪州からの外国旅行者は、外務省が運営しているSmartTraveller(http://www.smartraveller.gov.au/)で渡航先の安全情報を取得することが推奨されている。また、同ウェブサイトで外国旅行者は渡航前に渡航先などを登録することも推奨されている。

2. 旅行業法

豪州の旅行業法は州ごとに制定されている。ニューサウスウェールズ州では、1986年に旅行業法が施行され、広告方法、雇用・監督などに関する規制が行われていたが、当該制度は2014年5月に廃止された。これにより2014年7月から、旅行の手配などを行う業者は全て旅行会社として扱われることとなった。また、連邦政府と各州政府が共同で旅行補償基金(Travel Compensation Fund:TCF)を設立し、旅行会社破綻時の旅行者保護の役割を担っていたが、これも2013年7月に廃止された。

これらの流れは、州が2012年12月に旅行業改革計画(Travel Industry Transition Plan)を承認したことによるもので、その後は、豪州トラベルエージ ェ ン ト 連 盟(Australian Federation of Travel Agent)の自主規制(Travel Accreditation Scheme:ATAS)に従うこととされ、TCFなどに依拠する古い制度は廃止された。

2-4 日本の競合旅行地

1. カナダ、米国①日本との競合部分

北米は、スキーおよび一般観光両方の分野において人気が高く、両分野において日本と競合している。スキーに関しては、豪州で最も長い夏期休暇中に北半球のスキーシーズンを迎える。言葉の障害がない上、比較的雪質も良く、豪州人にとって魅力あるス

10 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

キーリゾートも多い。目的地までの所要時間については、日本の方が近く時差もない点が強みであるが、スキー旅行商品価格については、日本の宿泊施設の価格の上昇と為替レートの変動により日本と料金の差がなくなってきており、現状では北米の方がお得感がある。

②主な観光魅力雪質の良さに加え、世界的にも高い水準のスキー

場や長期滞在者向けの施設が整備されていることも大きな魅力である。豪州のスキー場と提携し、共通のパスをつかえるサービスを提供するところもある。●カナダ:ウィスラー・ブラッコム、バンフなど。● 米 国:アスペン、ヴェイル、ジャクソン・ホー

ルなど。

③観光インフラ規模が大きく、欧米人向けのリゾートとして整備

されており、大型宿泊施設、コンドミニアムや子ども向けスキー教室などの施設も充実している。英語が通じるため、豪州人にとって言語障壁がない。

④マイナス要素豪州と北米西海岸とは約19時間の時差があり、直

行便でも空路で約15時間かかる。また、それぞれの国特有の文化体験も少なく、日本のような食、温泉、異文化体験などの付加価値は少ない。さらに、北米のスキー場は標高差が大きく、長い滑走が可能であるが、特に雪質の良いエリアは標高が高いため、高山病になる恐れもあるといわれている。

⑤旅行業界などによる外客誘致活動カナダ観光局や米国のブランドUSAが誘致活動

を展開している他、スキーリゾート運営会社は、豪州の大手スキー旅行商品ホールセラーとの関係を非常に重視しており、経費的支援を含め、様々なサポートを行っている。

2. 香港①日本との競合部分

驚異的な経済発展を象徴しており、ショッピングや都市のにぎわいなど近代的な観光魅力を備えたアジアの大都市として、東京や大阪とイメージが重複する。英国の影響を強く受けている地域として、豪州から見た時、他のアジア諸国と比較しても心理的な距離感が近い点は、香港のメリットである。

②主な観光魅力異文化体験、グルメ、ショッピング、クルーズな

どが挙げられる。特に香港ではアルコール度数が30%を切るものについては酒税がかからないことから、ワインを始めとするメジャーなアルコール飲料が安く、中華料理を含めた食文化の豊かさと共に、観光魅力の一つとなっている。

キャセイパシフィック航空は人気の航空会社で、日本への旅行にも、シンガポール航空と並んでよく使用されることから、経由地としても人気が高い。

③観光インフラ英語が公用語であることから言語の心配がなく、

交通や宿泊施設などの整備もされており、安心して個人旅行をすることができる。

④マイナス要素国土が狭いことから、観光地が少なく、バラエ

ティが乏しい。

⑤政府観光局や旅行業界などによる外客誘致活動政府観光局が潤沢な予算を活用し、積極的な観光

宣伝活動を展開している。メディアでの広告掲載、懸賞付きキャンペーンの実施、旅行会社への広告支援などを行っている。MICEにも力を入れており、インセンティブ旅行への経費的支援を含めたサポートパッケージを用意し、インセンティブ実施企業やディスティネーション・マネージメント・カンパニー(DMC)にもわかりやすいと好評である。スポーツ・博覧会などのイベント誘致を通じて大規模の団体旅行誘致を図っている。

2-5 訪日旅行の価格競争力

近年、豪州国内の物価の上昇と、為替レートが円に対して豪ドル高で推移していたことから、訪日旅行経験者を中心に「日本は高くない」ということが口コミでようやく広がってきたところであった。ただ、2015年の急激な外国人旅行者増を背景に日本の宿泊施設の価格が上がり、さらに、2016年に入って為替レートが大幅に豪ドル安に振れたため、2015年当時と比べ、2017年の訪日旅行商品の価格は2割から3割程度割高になっている。

豪州人の外国旅行先としては、東南アジア、北米、ヨーロッパが人気である。特に東南アジアへの旅行費用は格安であり、アジアの中で日本だけが高い状

第2章 外国旅行の動向

11JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

況にある。スキー旅行に関しても、競合である欧米よりも割安である点が強みだったが、価格差は小さくなってきている。

その一方で、富裕層向けには100万円を超える訪日旅行商品も好調に販売されており、的確なターゲットの設定が重要となっている。

■豪州発外国ツアー価格比較表

  旅行地 旅行日数

価格(豪ドル)

価格(日本円) 備考

日本(東京、富 士 五 湖、京都、姫路、広島、大阪)

12 9,480 78万2,100

航空券・ホテル・国内交通費・ツアー・食事・英語ガイド

 

インド(デリー、アグラ、ジャイプル、グルがオン)

9 3,580 29万5,350

航 空 券・ 食事・英語ガイド・ホテル・入場料

 中国(上海、長江、成都、西安、北京)

14 4,480 36万9,600

航空券・ホテル・食事・国内交通費・入場料・英語ツアー

  韓国(ソウル) 4 865 7万1,363

ホ テ ル・ 食事・国内交通費

★ 日本(ニセコ) 7 1,510 12万4,575

ホテル・リフトパス

★ 日本(金沢) 3 248 2万460ホテル・夕食(1回)・交通費(1日)

 

エジプト(カイロ、アブシ ン ベ ル、ア ス ワ ン、コム・オンボ、エドフ、ルクソール、アレキサンドリア)

10 8,950 73万8,375

ホ テ ル・ 食事・入場料・クルーズ・ツアー・国内交通費

 

タイ(バンコク、アユタヤ、チェンマイ、カンチャナブリ)

8 1,955 16万1,288

ホ テ ル・ 朝食・国内交通費・入場料・英語ガイド

  イ タ リ ア(ローマ )

3 553 4万5,623ホ テ ル・ 朝食・ツアー・送迎サービス

 

アメリカ(サンフランシスコ、ヨセミテ、セコイア、デスバレー、ラスベガス)

9 2,404 19万8,330

ホテル・食事(一部)・国内交 通 費・ ツアー

  ドバイ 4 659 5万4,368

航空券(ロンドン発)・送迎サービス・ホテル・朝食

 

カナダ(バンクーバー、ケ ロ ウ ナ、ゴールデン、バンフ、ジャスパー、ウィスラー)

11 1,795 14万8,088ホテル・国内交 通 費・ ツアー

 

カンボジア( プ ノ ン ペン、コンポントム、アン コ ー ルワット、シェムリアップ、トンレサップ)

7 1,430 11万7,975

ホ テ ル・ 朝食・昼食&夕食( 一 部 )、国内交通費・入場料・英語ガイド

 

マレーシア(コタキナバル、クダサン、サンダカン、マヌカン島)

10 2,696 22万2,420

ホ テ ル・ 食事・国内交通費・英語ガイド・入場料

日本(東京、箱根、高山、金沢、大阪、広島、京都)

13 7,420 61万2,150航空券・ホテル・朝食

  ハワイ 5 772 6万3,690ホテル・送迎サービス、国内交通費

注:  2016年10月時点、★は訪日ツアー。1豪ドル=82.5円で算出。

2-6 評価の高い日本の旅行地

豪州人にとって、日本の最大の観光魅力は、長い歴史に培われた伝統文化や四季の変化を通じた自然美などが、高度に発展した都市群と融合しているところである。これらを歩きながら楽しむことのできる地域や、スキー、スノーボードなどのウィンタースポーツを楽しむことのできる地域の人気が高い。

1. 東京文化、食、ファッション、ナイトライフのいずれ

をとっても、質・量共に充実している。世界の最先端の都市の一つとして絶対的な魅力を持ち、評価も高い。スカイツリー、浅草といった観光地も人気であるが、ジブリ美術館や秋葉原などアニメ、漫画と関連するスポットの人気も高い。

英語での対応や公共交通機関も充実しているため、個人旅行が主体の豪州人にとって、安心して歩き回ることができることも強みとなっている。新宿、

12 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

渋谷、原宿・明治神宮、六本木、銀座などの人気が高い。

豪州からの直行便は、そのほとんどが、成田または羽田に就航しているため、日本各地を訪れる際の拠点として、旅程には必ず組み込まれている。

2. 京都・大阪豪州は日本に比べて歴史が短いこともあり、長い

歴史を誇り文化が蓄積された京都に対する評価が高い。京都の神社仏閣、庭園や伝統工芸などは、訪日旅行をする際の観光の目玉であり、舞妓や芸妓も非常に人気が高い。

大阪は、東京以外では唯一豪州からの直行便が就航していることから、関西各地への玄関口となっている。ハリー・ポッターのアトラクションが好評のユニバーサル・スタジオ・ジャパンの人気が高いほか、ショッピングや食の街として大阪のイメージが形成されており、東京や京都に続く、人気の旅行地になっている。

3. 広島豪州でゴールデンルートといった場合、広島まで

含まれていることが多い。日本での平均滞在期間が2週間近くと他市場と比べても長いことから、主な旅行商品は、東京、京都から広島まで含むことが多い。

原子爆弾が投下されたという歴史を耐え抜いた都市として豪州の学校教育でも取り上げられていることから、教育旅行の訪問地として定番となっている。世界遺産の原爆ドームはもちろん、厳島神社も人気が高く、広島風お好み焼きなどの地元の食べ物も人気がある。

4. 北海道豪州において、ニセコの知名度は高く、日本のス

キーリゾートの代表的存在となっている。欧米のスキーリゾートと比べて、「時差が少ない」「距離が近い」「雪質がすぐれている」などの魅力が大きいことが理由である。

ルスツ、富良野、サホロ、トマム、キロロなども、豪州人の受け入れに積極的であり、豪州人スキー客が北海道各地のスキーリゾートを訪れている。

特にニセコは、コンドミニアムの整備、ひらふ地区のナイトライフの充実、スキー講習の充実など、長期滞在型のスキーリゾートとしての条件整備も進んでいる。

既にスキーで知名度があるため、グリーンシーズ

ンについても誘客の可能性はある。広大な北海道を回るには、英語対応のカーナビゲーションを装備したレンタカーの利用が最適である。日本は豪州と同じ右ハンドル・左側通行であるのに加え、北海道の交通量の少なさは、豪州人にも問題なくドライブを楽しめる環境である。「食」への関心も高いため、食の楽しみも含めてグリーンシーズンの北海道を宣伝することが望ましい。アウトドア・アクティビティとしては、ラフティングやカヌー、ハイキング、ゴルフも可能であり、スキーだけではない、という点を浸透させていきたい。

5. 長野・新潟北海道同様、スキー旅行の需要が高い。白馬が知

名度の点では抜きんでており、そのほか志賀高原、野沢温泉、妙高高原も人気が定着してきている。いずれも各リゾートを含んだ広域連携団体による継続的なプロモーション活動の成果である。

公共交通機関を利用する豪州人スキー客が増えたこともあり、白馬では宿泊施設と商業・飲食施設を結ぶシャトルバスが運行され、夜間でも利用可能である。長野駅からは各スキー場に向かう乗合タクシーが運行されている。こうした地元の取り組みは、豪州人スキー客から高い評価を得ている。また成田空港から直接スキー場に運航しているNagano Snow Shuttleの需要も高い。

なお、白馬からの日帰りツアーとして、地獄谷野猿公苑や善光寺などを回るツアーが設定され、スキーを楽しむと同時に日本文化を知ることができる機会として人気を博している。JRパスを利用して、長野でスキーを楽しんだ後、東京はじめ他都市での一般観光を楽しむ傾向もあり、こういった他都市への移動のしやすさも利点の一つとなっている。

6. 高山・白川郷・金沢高山の古い町並み、世界遺産に登録された白川郷

の合掌造りの村、そして加賀百万石の栄華をしのぶ金沢の各都市を巡るツアーは、東京から京都へ移動する途中のルートとして人気が高い。特に、北陸新幹線が2015年に開業して以来、人気が高まっている。

7. 熊野古道、高野山世界遺産の熊野古道での歴史探求のウォーキング

や、高野山での宿坊体験など、伝統文化を体験できる機会として人気を博している。

第2章 外国旅行の動向

13JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

8. 直島知的好奇心の強い富裕層を中心に、現代アートの

島として、直島の知名度は高く、ベネッセハウスでの宿泊の要望も高い。

2-7 訪日旅行の有望な旅行者層

『訪日外国人消費動向調査2015年』によると、訪日豪州人の世代別構成は、20歳代男性(18.0%)と20歳代女性(14.6%)の訪問が最も多く、続く世代が30歳代である。男性が62.1%、女性が37.9%で、男女比では男性の方がやや多い。他の欧米諸国と比較して、ビジネスではなく、一般観光目的旅行者が多い点も特徴である。

■20歳代~ 40歳代の高学歴層

属性・20歳代~ 40歳代の大学以上卒・ホワイトカラー・未婚またはDINKs

旅行形態・個人旅行。ただし、手配については、オンラインのみならず、旅行会社の店頭も一定の需要がある。

訴求ポイント

・新旧文化の対比(伝統文化と現代文化の双方を旅程の中で組み合わせること)

・文化体験プログラム・日本食

旅行日数、費用など

・都市と地方、双方に滞在する場合が多いため、2週間程度

・費用は50万円程度

選定の背景

・異文化に対する知的好奇心が強いため、日本に対する興味や関心も高い。収入が安定しており、子どもの養育費などに左右されず一定の余裕資金があり、時間も子どもの学校休暇に併せる必要がないため柔軟性が高い。

効果的な宣伝手法

・日本の洗練された新旧文化や食をコンテンツとして打ち出す。

・口コミ情報に左右されるため、ソーシャルメディア対策は必須。情報発信のツールとしてソーシャルメディアを活用するのみならず、第三者の好意的な書き込みを増やす、また批判的な書き込みについて対処すること。

・ターゲット層は忙しいため、情報収集はウェブサイトやソーシャルメディアを活用しても、手配に際しては、旅行会社も活用する。JRパスの購入に際しても旅行会社は利用する必要がある。旅行会社や航空会社のウェブサイト、ソーシャルメディアも情報収集の一環で利用されているため、旅行会社は引き続き重要なパートナー。旅行会社に対する情報提供、視察の機会の提供は強化する必要有。

・日本の受け入れ側で英語による対応の整備(ウェブサイトや標識などの整備など)を進めておかないと、招請や広告を行っても無駄になる可能性があるので注意が必要。

■ウィンタースポーツ層

属性

・スキー、スノーボードなどのウィンタースポーツ層。

  豪州のスキーヤーは、若年層からファミリースキーヤー、また、降雪の少ないエリアの初級スキーヤーから、毎週末スキー場に通う程の上級者まで、層が幅広い。・訪日スキー旅行は、30歳代以上の家族層や中高年層、富裕層にも浸透しており、旅行単価も上がっている。

旅行形態

・個人旅行が中心。・リピーターについては、宿泊と航空券をそれぞれ自身で手配する傾向有。

・スキーを専門に取り扱う旅行会社の自由旅行型パッケージ(航空券とホテルのみが組まれたツアー)も初訪日者を中心に利用されている。

訴求ポイント

・雪質の良さ。・カナダや米国・ヨーロッパに比べて近く、時差もほぼないこと。

・スキー以外の時間に、日本ならではの体験ができること。

・日本人のホスピタリティ、サービスの質の高さ。・東京、京都などの一般観光と組み合わせた旅行の魅力。

旅行日数、費用など

・日数は概ね2週間前後。長い人は1カ月以上滞在する。

・一つのスキーリゾート内での滞在を基本とするが、2カ所程度のスキーリゾートを訪問する、または、周辺都市への観光を組み合わせる事例も増えている。

・費用は、ホテルのみで20万円~ 40万円程度

選定の背景

・日本と言えばスキーというイメージが浸透しており、訪日旅行人気のけん引役となっている。雪質と価格、サービスの質を引き続き維持できれば、この人気は今後も続くことが想定される。

・豪州におけるウィンタースポーツ層は、若者から家族、バジェット旅行から富裕層まで、非常にバラエティに富んでいる。リピーターも多いが、日本のリゾート地も数が多く、内容もバラエティに富んでいるため、それぞれのニーズにあったスキーリゾートを提案できれば、地方誘客への可能性も広がる。

効果的な宣伝手法

・豪州で、翌スキーシーズンに向けての販促期間である5月頃に開催されるスキー旅行博への出展。

・大手スキー取り扱い旅行会社への情報提供、共同プロモーション。

・スキー専門メディアやウェブサイトへの広告掲載や招請による記事掲載。

・メディアや旅行会社の招請は効果が高い。メディアは自由取材の時間が必要であり、旅行会社は施設見学を求めるなど両者のニーズがかなり異なるため、原則として、別々に招請をする必要がある。

■教育旅行者層

属性

・中学校、高校の生徒と教師。・29.7万人の日本語学習者がいる。・日本語以外の科目(科学、音楽、体育、歴史など)も対象となり得る。

14 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

旅行形態 ・教師が引率する団体(20人程度が一般的)

訴求要因

【日本語学習者】・日本人との触れ合いを通じた、日本語力の向上。・現代的な都市文化、長い歴史を基礎とする伝統文化を実際に体験

【日本語学習者以外】・各分野における日本の最先端技術などの学習。【共通】・日本の安全性、清潔であること。

旅行日数、費用など

・日数は10日前後・ホームステイや公営施設を利用するなどして、低価格に設定。

・地元の学校あるいは地域社会との交流プログラムは必須である。

選定の背景

・日本に興味・関心を持っている層であるため、リピーターの獲得につながる。

・日本語以外の学習者も対象とすることで、潜在的なニーズの掘り起こしが可能。

効果的な宣伝手法

・まずは、教育旅行受け入れ体制の整備(学校交流プログラムやホームステイのアレンジのワンストップサービス化、工場見学などを含む訪問先の手配、英語での対応など)。さらに、これを英語によりウェブサイトなどで情報発信すること。

・ビジット・ジャパン事業で開催する、教育旅行先決定に影響力のある教育関係者(主に日本語教師)と教育旅行関係旅行会社を対象としたセミナーへの参加、招請事業の実施。

■インセンティブ旅行

属性・景気が堅調であり、労働者に優しい労働環境にあることを背景として、日系、現地系を問わず、企業のインセンティブ旅行が行われている。

旅行形態 ・団体・手配旅行

訴求ポイント

・日本の独自性を生かした、現代的な都市文化と長い歴史を基礎とする伝統文化を体験できること。

・上記を生かしたユニークベニューやユニークプログラムの提案

旅行日数、費用など

・日数は4泊~ 6泊程度が主流である。・チームビルディング、レセプション、ミーティングなどが行程に含まれる。

・費用はツアーごとに異なる。金額を問わないものもある。

選定の背景

・堅調な経済を背景に、豪州の企業インセンティブ旅行の需要は今後も一定数存在する。

・一般観光の分野における日本の人気の高まりや、ラグビーワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピックを開催することも契機となり、日本への関心が高まることが想定される。

効果的な宣伝手法

・受け入れ体制の整備。ユニークベニューやユニークプログラムの開発、実施企業への経費的支援、これらをパッケージ化してわかりやすく提示すること。

・2月にメルボルンで行われるMICEの見本市「AIME」 や9月 に シ ド ニ ー で 開 催 さ れ る「Luxperience」への出展などを通じた商談

2-8 訪日旅行の買い物品目

『訪日外国人消費動向調査2015年』によると、豪州人の買い物場所は、コンビニエンスストアが63.1%で最も多く、デパート(60.0%)、スーパーマーケット(49.5%)がこれに続く。購入品目については、1位の「その他」を除くと、菓子類(50.0%)、服・かばん・靴(39.7%)、和服・民芸品(26.8%)が多く、この中で購入者単価が最も高かったのは、服・かばん・靴等で2万5,306円である。必ずしも伝統工芸品などをお土産として買うだけがショッピングではなく、購入目的や品目も多岐にわたっている。

具体的には、コンビニエンスストアでも買うことのできるお菓子が人気である。地域限定、期間限定など様々なバリエーションがあり、わさびや日本酒のような変わった味もあること、さらに、見た目にもカラフルである点が興味深いらしく、何十種類ものキットカットを並べた画像が、雑誌の表紙に使われたこともある。

お土産を購入する場合は、日本の伝統や文化を感じられるもので、かつ旅行の思い出になるようなものが中心となる。例えば、着物、浴衣などは定番で、日本の地名や「忍者」などの漢字が入ったグッズ、あるいは日本語がプリントされたTシャツなども人気である。

文房具類や台所用品の購入に100円ショップが利用されることも多い。

また、日本酒などの日本食品や日本特有の菓子を土産にする人もいる。豪州では、煎餅が一般のスーパーマーケットに流通しており、日本風味の菓子に対する抵抗感は比較的小さいと考えられる。

2-9 日本の食に対する嗜好

豪州の食文化は近年都市部を中心に多様化しており、味や見た目に対する興味・関心も年々向上している。2000年のシドニーオリンピック開催が契機となり、アジアを中心とする諸外国の食文化が急速に流入するようになった。現在シドニーやメルボルンなどの都市では様々な国の料理を提供するレストランが数多く存在する。中でも日本食の評価、人気は高く、フードコートの持ち帰り寿司の店から、高級な日本食レストランまで選択肢も幅広い。日本食以外のレストランでも、日本の食材や調味料を活用したフュージョン料理を提供することもあり、日本食に関する知識は、グルメを自認する人々の一種のステータスとなっている。

第2章 外国旅行の動向

15JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2017(欧米豪 9市場編)

豪州

カナダ

ロシア

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

アジア料理の一環で提供される寿司、ラーメンなどは、必ずしも日本で食するものと同一ではない。その結果、訪日した際に寿司、天ぷらや懐石料理、ラーメンからお好み焼きに至るまで、本場の日本料理を求める人が多い。

ただし、多くの豪州人にとって、食事は肉料理が中心となっていることに変わりはなく、日本食や刺身ばかりが続くと拒否反応を示す人も多い。宿泊施設での朝食バイキングなどは、和洋食の選択ができるようにしておくと良い。一方で、ベジタリアンやグルテンフリーなど食事制限がある人も多いため、可能な限り配慮が必要である。

日本のコンビニエンスストアで販売される弁当も、豪州ではあまり見かけないものであり、手軽でかつ美味しいと好評である。

2-10 接遇に関する注意点

世界中を旅行している人々であるだけに、旅行経験は豊富であり、特に以下については、日本の対応が遅れていることを指摘されがちなので、留意されたい。

●宿泊施設やレストランにおける分煙の徹底 分煙がされていないところは論外であるが、喫煙室に消臭スプレーをかけるだけで対応しているところもあり、吸わない人には部屋に染みついた匂いが気になるものである。

●Wi-Fi対応Wi-Fiが無料で利用できることが望ましい。

以下、宿泊施設において望ましい対応を挙げる。

●朝食時の洋食の提供「日本食が好きでも、朝食時にはやはりパンとコー

ヒーが欲しい。」という人が多い。●宿泊施設におけるプールやジムなどの付帯施設

特に高級ホテルでは、これら付帯施設は、宿泊者は無料で使用できるサービスとして欲しい。宿泊費に転嫁されていても問題ないが、個々に費用が加算されていくことに批判的である。

●室内のバリアフリー化中高年層には足腰が弱くなっている人もいること

から、段差は極力ない方が良い。特に、バスタブのスペースにシャワーが設置されている場合、バスタブをまたぐ行為がつらい模様である。豪州の宿泊施設は、シャワースペースとバスタブとが分かれてい

ることが多く、シャワーのみの使用がしやすい設備となっている。

なお、豪州では、ファッションの一環でタトゥーを入れている人が増えているため、温泉の利用時に課題になることがある。

豪州の人々は基本的に異文化に寛容であり敬意を払ってくれるため、心を尽くしておもてなしをしている限り、豪州の習慣と多少異なっていても、受け入れてくれる心の広さを持っている場合が多い。