6
調査の経過 立地と環境 調査の概要 A 縄文早期 トロトロ石器 縄文中期 竪穴建物跡 縄文後期 たきせ 瀬遺跡 北設楽郡設楽町八橋字タキセ (北緯35度7分10秒 東経137度34分55秒) 設楽ダム 平成28年4月~11月 5,520㎡   川添和暁・早野浩二 調査地点(1/2.5万「田口」) 調査は、国土交通省中部地方整備局による設楽ダム関連事業に伴う事前調査として、愛 知県教育委員会より委託を受けて、平成28年4月から11月にかけて実施された。調査対象 範囲は、県道10号線の南側、平成27年度調査15区の周囲である。 遺跡は標高約425m、境川北岸の山麓緩傾斜地および河岸段丘面上に立地する。当地は 北流する境川が大きく蛇行し、南側から沢が合流する地点で、境川に対して舌状に張り出 した南向きの緩斜面となっている。遺跡内には、旧伊那街道が通っていたことが知られて おり、調査区外の街道脇の石垣には旅人によって描かれたという「落書き石」があった。 調査では15区を挟んで、東側にA区・西側にB区を設定した。調査の都合上、B区をさら にBa 区・Bb 区・Bc 区・Bd 区の4区に分けることとなった。 見つかった遺構・遺物の時代は、縄文時代・古墳時代初頭・中世・近世以降で、疎密はあ るものの、縄文時代の遺構・遺物が調査区全体で見つかった。以下、調査区別に概要を報 告する。 15区の北側および東側に接して設けられた調査区である。調査前の地形は、南側に向か って三段の水田などの耕作地となっており、A区の中央(15区東端)には、旧伊那街道が畦 道状に造成されていた。耕作地の造営による削平もあったためか、各段の川側に当たる下 手(南側)で、遺構・遺物は良好に確認された。遺構・包含層からは、縄文時代早期・中期後半・ 後期前葉~中葉・中世・近世以降の遺物が出土した。 縄文時代早期の遺物は、調査区北東端の黒色土下でややまとまって見つかった。出土土 器はポジティブな楕円押型文土器であり、トロトロ石器も1点した。トロトロ石器はチャ ート製で、長さ35mm・幅26mm・厚さ6mm、研磨や磨滅などにより両平面の中央稜線は 鈍くなっている。なお、側面の稜線は鋭いままである。 縄文時代中期後半の遺構として、竪穴建物跡(201SI・215SI)と、土坑(315SK)が調 査された。201SIと215SIは重複関係にあり、201SIが後のものである。両者とも軸が5m 弱の、平面プラン五角形を呈するもの で、四隅に主柱穴を持つ。201SIの中央 には、4辺を大きな板石で囲む石囲炉跡 ( 205SL) が認められた。土坑315SKは、 調査区中央の段差際で見つかった。遺構 内からは中期後半の土器片がまとまって 出土した。 今 年 度 の 調 査 で は、縄 文 時 代 後 期 前 葉 ~ 中 葉 の 遺 構・遺 物 が 最 も ま と調査区位置図(1:4,000) 愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3 N 0 10 20 30 40 50 100m 15 16Ba 16A 16A 16Bb 16Bc 16Bd 調査理由 調査期間 調査面積 22

たきせ 瀬遺跡 262SP 263SK 267SP 257SK 258SK 259SK 256SK 260SK 264SK 266SK 265SK 269SP 270SP 271SP 272SP 273SK 274SK 284SK 281SK 285SK 282SK 279SK 280SK 286SK 277SK 251SJ (土器埋納炉跡)

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: たきせ 瀬遺跡 262SP 263SK 267SP 257SK 258SK 259SK 256SK 260SK 264SK 266SK 265SK 269SP 270SP 271SP 272SP 273SK 274SK 284SK 281SK 285SK 282SK 279SK 280SK 286SK 277SK 251SJ (土器埋納炉跡)

調査の経過

立地と環境

調査の概要

A 区

縄 文 早 期

トロトロ石器

縄 文 中 期

竪穴建物跡

縄 文 後 期

滝た き せ

瀬遺跡北設楽郡設楽町八橋字タキセ

(北緯35度7分10秒 東経137度34分55秒)

設楽ダム平成28年4月~11月5,520㎡   川添和暁・早野浩二

調査地点(1/2.5万「田口」)

調査は、国土交通省中部地方整備局による設楽ダム関連事業に伴う事前調査として、愛知県教育委員会より委託を受けて、平成28年4月から11月にかけて実施された。調査対象範囲は、県道10号線の南側、平成27年度調査15区の周囲である。

遺跡は標高約425m、境川北岸の山麓緩傾斜地および河岸段丘面上に立地する。当地は北流する境川が大きく蛇行し、南側から沢が合流する地点で、境川に対して舌状に張り出した南向きの緩斜面となっている。遺跡内には、旧伊那街道が通っていたことが知られており、調査区外の街道脇の石垣には旅人によって描かれたという「落書き石」があった。

調査では15区を挟んで、東側にA区・西側にB区を設定した。調査の都合上、B区をさらにBa区・Bb区・Bc区・Bd区の4区に分けることとなった。

見つかった遺構・遺物の時代は、縄文時代・古墳時代初頭・中世・近世以降で、疎密はあるものの、縄文時代の遺構・遺物が調査区全体で見つかった。以下、調査区別に概要を報告する。

15区の北側および東側に接して設けられた調査区である。調査前の地形は、南側に向かって三段の水田などの耕作地となっており、A区の中央(15区東端)には、旧伊那街道が畦道状に造成されていた。耕作地の造営による削平もあったためか、各段の川側に当たる下手(南側)で、遺構・遺物は良好に確認された。遺構・包含層からは、縄文時代早期・中期後半・後期前葉~中葉・中世・近世以降の遺物が出土した。

縄文時代早期の遺物は、調査区北東端の黒色土下でややまとまって見つかった。出土土器はポジティブな楕円押型文土器であり、トロトロ石器も1点した。トロトロ石器はチャート製で、長さ35mm・幅26mm・厚さ6mm、研磨や磨滅などにより両平面の中央稜線は鈍くなっている。なお、側面の稜線は鋭いままである。

縄文時代中期後半の遺構として、竪穴建物跡(201SI・215SI)と、土坑(315SK)が調査された。201SIと215SIは重複関係にあり、201SIが後のものである。両者とも軸が5m弱の、平面プラン五角形を呈するもので、四隅に主柱穴を持つ。201SIの中央には、4辺を大きな板石で囲む石囲炉跡

(205SL)が認められた。土坑315SKは、調査区中央の段差際で見つかった。遺構内からは中期後半の土器片がまとまって出土した。

今年度の調査では、縄文時代後期前葉~中葉の遺構・遺物が最もまとま 調査区位置図(1:4,000)

愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3

N

0 10 20 30 40 50 100m

1516Ba

16A16A

16Bb

16Bc16Bd

所 在 地

調 査 理 由

調 査 期 間

調 査 面 積

担 当 者

22

Page 2: たきせ 瀬遺跡 262SP 263SK 267SP 257SK 258SK 259SK 256SK 260SK 264SK 266SK 265SK 269SP 270SP 271SP 272SP 273SK 274SK 284SK 281SK 285SK 282SK 279SK 280SK 286SK 277SK 251SJ (土器埋納炉跡)

愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3

Y=37785

Y=37790

Y=37795

Y=37800

Y=37805

Y=37810

Y=37815

Y=37820

Y=37825

Y=37830

Y=37785

Y=37790

Y=37795

Y=37800

Y=37805

Y=37810

Y=37815

Y=37820

Y=37825

Y=37830

Y=37835

Y=37840

Y=37845

Y=37850

Y=37855

Y=37860

Y=37865

Y=37870

Y=37875

Y=37880

Y=37885

Y=37890

Y=37895

Y=37900

Y=37905

Y=37910

Y=37915

Y=37920

Y=37925

Y=37880

Y=37885

Y=37890

Y=37895

Y=37900

Y=37905

Y=37910

Y=37915

Y=37920

Y=37925

(マス目は5m)

X=-97555

X=-97560

X=-97565

X=-97570

X=-97575

X=-97580

X=-97585

X=-97590

X=-97595

X=-97600

X=-97605

X=-97610

X=-97615

X=-97620

X=-97625

X=-97630

X=-97635

X=-97640

X=-97570

X=-97575

X=-97580

X=-97585

X=-97590

X=-97595

X=-97600

X=-97605

X=-97610

X=-97615

X=-97620

X=-97575

X=-97580

X=-97595

X=-97600

X=-97605

X=-97610

X=-97615

X=-97620

X=-97625

366SK

367SK

615SP

トレンチ1

トレンチ2

トレンチ3

トレンチ3

トレンチ4

トレンチ5

トレンチ6

トレンチ7

トレンチ8

トレンチ9

トレンチ11

トレンチ12

トレンチ13

トレンチ10

トレンチ14

トレンチ16

トレンチ17

トレンチ18トレンチ19

トレンチ20

ベルト23

トレンチ24

トレンチ25

トレンチ26

トレンチ27

トレンチ28

トレンチ29

トレンチ30

トレンチ31

トレンチ32

トレンチ33

トレンチ34

トレンチ35

トレンチ36

トレンチ37

トレンチ38

トレンチ39

トレンチ40

トレンチ31

トレンチ29

後期初頭~中葉 遺物包含層(後期前葉中心)

小砂利の硬化面(旧伊那街道か)

小砂利の硬化面(旧伊那街道か)

436SI(炉跡598SL)・炉跡598SL

360SX(敷石建物跡)・炉跡540SL(土器埋納炉跡)

土器の散布トロトロ石器

黄褐色砂質シルトの包含層【早期前半】

黒褐色粘土質シルトの包含層形成

(遺構・配石・集石・遺物廃棄)【後期前葉中心】

364SX

359SX

247SX 246SX256SX

580SK・616SK

363SX・251SJ(土器埋納炉跡)

425SK365SL(土器敷炉跡)

水田などの耕作地

水田などの耕作地212SF(道路状遺構:伊那街道か)

201SI・205SL(石囲炉跡)

215SI・417SL(炉跡)

16A区

15区201SI

417SL

202SK

203SJ(埋甕か)

204SX

206SP

207SP

208SK

209SK

210SP217SK

216SK

213SK

218SK

212S

F

220SP

219SP

211SK

221SP

223SK

224SP

228SP

229SP 227SK

230SP

231SP

232SP

237SP

234SP

235SP

226SK

222SK

225SK

236SP

233SP

240SK

239SK

238SP

214SK

242SK

241SP

243SK

247SX

244SK

248SP

249SP

250SP

246SX252SK

253SK

255SK

254SK

261SP

262SP263SK

267SP

257SK

258SK

259SK256SK

260SK

264SK

266SK

265SK269SP

270SP

271SP

272SP

273SK

274SK

284SK

281SK

285SK

282SK

279SK

280SK

286SK

277SK

251SJ(土器埋納炉跡)

275SD

276SK

289SK(貯蔵穴)

283SK

291SK

293SK

292SK

290SK

288SK

268SK

278SK

287SK

294SK

295SK

296SK

302SK

303SK

301SK

297SK298SK299SK

300SK

305SK306SK307SK

304SK

308SK

309SK

318SK

321SK

322SK319SK

320SK314SP

316SK

317SK

310SK

311SK

312SK

324SK

328SP

327SP

326SP

325SK

329SK

330SP

331SP

245SK(集石遺構)

315SK

337SK

338SK

344SP

323SK

333SK

334SK

335SK

332SK

347SP

343SK

340SK

341SK

339SK

342SK

345SK

350SK

351SK

349SK

336SK

356SP

353SK

354SK

355SK346SK

348SK

352SK

358SK

357SK

313SK

361SX

360SX(敷石建物跡)

362SX

371SK

369SX

370SX

372SK

373SK

374SK

375SK

376SK377SK

378SK

379SK

380SK

381SK

382SK

383SK

384SK

385SK

386SK

387SK

388SK

389SK

390SK

391SK

392SK

393SK

394SK

395SK

396SK

397SK

398SK

399SK400SK

401SK

402SK

403SK

404SK

405SK

406SK

407SK

408SK

409SK

423SP

424SP

442SK

437SK

441SK

443SK

445SK

448SK

449SK

439SK

440SK

450SK

455SX

451SK

452SK

454SK

447SK

456SK457SK

453SK

446SK

444SK

463SX

458SK

462SK

460SK

459SK

461SK

465SK

464SK

432SK

466SK

467SK

468SK

474SX

469SK

470SK

471SK

472SK473SK

433SX

434SX

435SX

431SK

426SK

427SK

428SK

429SK

481SK

476SK

477SK

478SK

479SK484SK

485SK486SK

483SK

480SK

482SK

487SK

488SK

489SK

490SK

493SK

492SK

494SK

495SK

496SK

491SK

497SK498SK

499SK

500SK

501SK

502SK

503SK

504SK

505SK

506SK

507SK

508SK

475SK

509SX

510SK

515SK

511SK

512SK

513SK

514SK

518SK

519SK

521SK522SK

523SK

524SK

525SK526SK

520SK

516SK

517SK

531SK532SK

538SK

533SK

544SK

543SK

542SK

541SK

534SK

535SK536SK

537SK

527SK 528SK

529SK530SK

539SK

554SK

545SK

555SK

556SK

557SK

558SX

546SK

547SK

548SK

549SK

550SK

551SK

552SK

553SK

430SK

560SK

559SK

561SK

581SX

589SP588SP

586SK

585SK

587SK

584SK

582SK

592SK

583SK

590SK

591SP

593SK

594SK

595SK

596SK

597SK

600SK

601SK

602SK

599SK

603SK

604SK605SK

606SK607SK

608SK 609SK

610SK

611SK

614SK612SK

613SK

617SX

618SK

619SK

620SK

621SD

622SL

626SX

625SK

623SX

627SX

628SK

630SX

624SK

629SK

631SK

633SK

634SK

616SK422SK

418SK

540SL(土器埋納炉跡)

580SK

436SI

419SK420SP

421SP

598SL

577SP

576SP

575SP

566SP

569SP

570SP

571SP

574SP

573SP

572SP

562SP

567SP

563SP

564SP

565SP

578SP568SP

579SK

215SI410SK

411SK

415SK

414SK413SK

412SK

416SK

205SL(石囲炉跡)

632SA

617SX

363SX(竪穴建物跡掘り方になるか)

425SX

365SL(土器敷炉跡)

364SX(下面の集石)359SX(上面の集石)

トロトロ石器・押型文土器

出土範囲【黒色土下】

16A区 北東端 遺構など重複関係模式図 (破線による上下は切り合いなどで新旧関係が確認されているもの)

23

16A 区北東端遺構など重複関係程模式図(上)と16A 区遺構位置図(1:250)(下)【マス目は5m】

16A 区竪穴建物跡201SI(東より)

16A 区敷石建物跡360SX(東より)

16A 区360SX 炉跡540SL 土層断面(南より)

Page 3: たきせ 瀬遺跡 262SP 263SK 267SP 257SK 258SK 259SK 256SK 260SK 264SK 266SK 265SK 269SP 270SP 271SP 272SP 273SK 274SK 284SK 281SK 285SK 282SK 279SK 280SK 286SK 277SK 251SJ (土器埋納炉跡)

っている。確認された遺構としては、敷石建物跡1棟(360SX・炉跡540SL)、竪穴建物跡2棟(363SX・炉跡251SJ、436SI・炉跡598SL)、貯蔵穴1基(289SK)、その他土坑3基

(202SK{242SK}・256SK・425SX)、土器埋設遺構1基(203SJ)、建物跡との関係が確認できなかった土器敷炉跡1基(365SL)、および遺物包含層である。遺物包含層である黒褐色粘質シルト層は、特に調査区北端で40×8mの範囲に渡り、良好に残存していた。ここで見つかった遺物包含層は、土器片・石器や剝片石核類を多量に包含する上、247SX・364SX・359SXなど配石遺構あるいは集石遺構を含むことから、人為的作用によって塁重して形成されていったものと考えられる。

敷石建物跡360SXは、遺物包含層である黒褐色粘土質シルト中に形成されたもので、床面と炉跡・ピットが検出された。礫の配された(配石)範囲は、480cm×440cmに及び、中には主軸を形成する幅50cmほどの石列が、北東-南西方向に認められる。この配石の様子は北西側4分の1と、南西側4分の1、さらには東側2分の1で、それぞれ様相が異なる。北東側は、敷石の重複が著しく、最大3重に渡り塁重する様子が確認された。東側も部分的に2重の重なりが認められるところもあるが、中央を基点として環状に配されている様子が特徴的に認められる。一方、南西側は配石の形成自体が著しくなかった。調査を進めたところ、若干ではあるが、配石の周囲でピットが確認され、中央からは土器埋納炉跡

(504SL)も見つかった。周囲の遺物土器は後期前葉を主体とし、黒曜石の剝片石核類や大型石棒片も見つかった。なお、この敷石建物跡は、先行する竪穴建物跡(436SI)に重複して築かれていた。436SIの埋土は黒色を呈した炭化物・焼土を多く含む黒褐色粘土質シルト層であり、この層中に360SXの床面に当たる配石が確認された。

敷石建物跡360SXの東側では、土器埋納炉跡(251SJ)に伴う落ち込み(363SX)を確認しており、これも竪穴建物跡である可能性が考えられる。また、360SXの床面より若干上位レベルで、土器敷炉跡(365SL)が確認された。これも竪穴建物跡に伴うものであるならば、当地は繰り返し居住が行われた場所であったと考えられる。その一方で、長軸2m×短軸1mほどの長方形の土坑も見つかっている。遺構検出面では礫が多量に認められたもので、遺構底面からは注口土器の注口部が出土した。形状から土坑墓であった可能性が考えられる。

調査時に黒褐色の遺物包含層が残存していないところでも、縄文時代後期の遺構が確認された。289SKは径1mほどの遺構である。断面の一部が袋状を呈することと、掘り込みの重複が認められること、さらには堅果類と考えられる炭化種実が出土したことから、貯蔵穴と考えられるものである。203SJは調査区南側で見つかった、土器埋設遺構である。立位で埋納された深鉢底部付近しか残存しておらず、埋設当時の状況を勘案すると、少なくとも30cmは以上は削平されたものと想定され、本来は埋甕であった可能性がある。202SKと242Kは径1mほどの重複して見つかった土坑で、元々は貯蔵穴であった可能性がある。遺構底面からは礫のほか、土器片・擦切具・大型の砥石・台石がまとまって出土した。

その他16A区での縄文時代の出土遺物には、縄文土器のほか、石鏃・スクレイパー・打製石斧・礫器・打欠石錘・有溝石錘・磨石敲石類・石皿台石類がある。石鏃など小型剝片石器に関連する黒曜石などの剝片石核類がある一方で、打製石斧・刃器などの大型剝片石器に関連する安山岩の剝片石核類が多量に出土した。

16A区の南端では、近世以降の道路状遺構も見つかった。最大で幅2.5mの溝状を呈するもので、長さ約7mに渡る。両端には溝状の落ち込みがあり、その間には小砂利が敷き

敷石建物跡

土器埋納炉跡

竪穴建物跡

土器敷炉跡

土 坑 墓

貯 蔵 穴

土器埋設遺構

16A区出土遺物

近 世 以 降

愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3 愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3

24

Page 4: たきせ 瀬遺跡 262SP 263SK 267SP 257SK 258SK 259SK 256SK 260SK 264SK 266SK 265SK 269SP 270SP 271SP 272SP 273SK 274SK 284SK 281SK 285SK 282SK 279SK 280SK 286SK 277SK 251SJ (土器埋納炉跡)

詰められており、極めて固くしまっていた。この場所は、調査前に認識された旧伊那街道と重複した関係で見つかっており、さらに前段階の伊那街道であった可能性が高い。調査区東壁の北側にも小砂利が敷かれた凹みが存在しており、かつては16A区内を横断するように街道が走っていたものと考えられる。

16B区でも縄文時代早期~後期中葉の遺構・遺物が見つかっているものの、残存状況は散発的であった。土器の出土は希少である一方、大型剝片石器に対応する安山岩の剝片石核類は調査区全体で広く出土した。

16Ba区では、縄文時代早期後半の土坑(427SK)や、中期後半の土坑(431SK)が調査された。その他、集石土坑(432SK・475SK)も確認された。

16Bb区では、境川へと続く谷地形の肩部分では、土器片とともに黒曜石剝片が100点ほど集中して出土した。石器の調整などを行った作業場として利用されたかもしれない。

16Bc区では、調査区中央で、古墳時代初頭の遺物がまとまって出土する遺構(361SX)を確認した。

16Bd区では、時期など不詳であるが、土器埋設炉跡の可能性のある遺構(622SL)が見つかった。

今回の調査で、縄文時代中期後半以前の遺構・遺物が見つかる黄褐色砂質シルトと、後期前葉から中葉の黒褐色粘土質シルト(遺物包含層)との層序関係を確認することができた。特に、16A区で見つかった遺物包含層は、当時の廃棄行為・配石や集石行為・埋葬行為・さらには竪穴建物跡などの居住活動などが重複して行われた結果、形成されたものであった。換言すると、この包含層自体、遺構の複合体として考えるべきもである。縄文時代後晩期の遺跡調査において、このような遺物包含層は貴重な情報を多く含む結果であることが、改めて認識させられるものとなった。その上で、今回の調査で見つかった敷石建物跡は、関東・東海東部・中部高地との関連性を考える上で、貴重な調査事例となった。

(川添和暁)

伊 那 街 道

  1 6 B 区  

集 石 土 坑

黒 曜 石 の集 中 出 土

土 器 埋 設 炉跡?

ま と め

愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3

25

16A 区土坑202SK 遺物出土状況(南東より)左上は擦切具出土状況

16A 区貯蔵穴289SK 土層断面(西より)左上は炭化種実出土状況

16A 区土器埋納炉跡251SJ 土層断面(南より)

16A 区トロトロ石器出土状況

16A 区道路状遺構212SF(北西より)

Page 5: たきせ 瀬遺跡 262SP 263SK 267SP 257SK 258SK 259SK 256SK 260SK 264SK 266SK 265SK 269SP 270SP 271SP 272SP 273SK 274SK 284SK 281SK 285SK 282SK 279SK 280SK 286SK 277SK 251SJ (土器埋納炉跡)

愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3 愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3

Y=37790

Y=37795

Y=37800

Y=37805

Y=37810

Y=37815

Y=37820

Y=37825

Y=37830

Y=37835

Y=37790

Y=37795

Y=37800

Y=37805

Y=37835

X=-97565

X=-97570

X=-97575

X=-97580

X=-97585

X=-97590

X=-97595

X=-97600

X=-97605

X=-97610

X=-97615

X=-97620

X=-97625

X=-97630

X=-97635

トレンチ16

トレンチ24

トレンチ25

トレンチ26

トレンチ27

トレンチ28

トレンチ29

トレンチ31

トレンチ32

トレンチ33

トレンチ34

トレンチ35

トレンチ36

トレンチ37

トレンチ38

トレンチ39

トレンチ40

トレンチ31

トレンチ29

16Bb区

16Bd区

371SK

369SX

370SX

372SK

373SK

374SK

375SK

376SK377SK

378SK

379SK

380SK

381SK

382SK

383SK

384SK

385SK

386SK

387SK

388SK

389SK

390SK

391SK

392SK

393SK

394SK

395SK

396SK

397SK

398SK

399SK400SK

401SK

402SK

403SK

404SK

405SK

406SK

407SK

408SK

409SK

426SK

505SK

506SK

507SK

508SK

511SK

512SK

513SK

518SK

519SK

521SK524SK

525SK526SK

520SK

531SK532SK

533SK534SK

535SK536SK

537SK

530SK

545SK

430SK

590SK

591SP

595SK

600SK

601SK

602SK

599SK

603SK

604SK605SK

606SK607SK

608SK 609SK

610SK

611SK

614SK612SK

613SK

618SK

619SK

620SK

621SD

622SL【土器埋設炉跡?】

626SX

625SK

623SX

627SX

628SK

630SX

624SK

629SK

631SK

633SK

634SK

617SX

谷地形 谷地形落ち際では黒曜石剝片が土器片とともに100点ほど出土

26

16B 区遺構位置図(1:250)【マス目は5m】

黒曜石など遺物出土状況(北西より)

16Bd 区全景(西より)

Page 6: たきせ 瀬遺跡 262SP 263SK 267SP 257SK 258SK 259SK 256SK 260SK 264SK 266SK 265SK 269SP 270SP 271SP 272SP 273SK 274SK 284SK 281SK 285SK 282SK 279SK 280SK 286SK 277SK 251SJ (土器埋納炉跡)

愛知県埋蔵文化財センター 年報 2017.3Y=37835

Y=37840

Y=37845

Y=37850

Y=37875

Y=37835

Y=37840

Y=37845

Y=37850

Y=37855

Y=37860

Y=37865

Y=37870

Y=37875

Y=37880

Y=37885

Y=37880

Y=37885

X=-97565

X=-97570

X=-97575

X=-97580

X=-97585

X=-97590

X=-97595

X=-97600

X=-97605

X=-97610

X=-97615

X=-97620

X=-97625

X=-97630

X=-97635

トレンチ7

トレンチ8

トレンチ9

トレンチ11

トレンチ12

トレンチ13

トレンチ16

トレンチ17

トレンチ18トレンチ19

トレンチ20

ベルト23

トレンチ30

15区

16A区

16Bc区

16Ba区

16Ba区

252SK

253SK

361SX(古墳時代初頭)

362SX

372SK

442SK

437SK

441SK

443SK

445SK

448SK

449SK

439SK

440SK

450SK

455SX

451SK

452SK

454SK

447SK

456SK457SK

453SK

446SK

444SK

463SX

458SK

462SK

460SK

459SK

461SK

465SK

464SK

432SK【集石土坑】

466SK

467SK

468SK

474SX(縄文早期前半)

469SK

470SK

471SK

472SK473SK

433SX

434SX

435SX

431SK(縄文中期後半)

426SK

427SK(縄文早期後半)

428SK

429SK

481SK

476SK

477SK

478SK

479SK484SK

485SK486SK

483SK

480SK

482SK

487SK

488SK

489SK

490SK

493SK

492SK

494SK

495SK

496SK

491SK

497SK498SK

499SK

500SK

501SK

502SK

503SK

504SK

505SK

506SK

507SK

508SK

475SK【集石土坑】

509SX

510SK

515SK

511SK

512SK

513SK

514SK

518SK

519SK

521SK522SK

523SK

524SK

525SK526SK

520SK

516SK

517SK

531SK532SK

538SK

533SK

544SK

543SK

542SK

541SK

534SK

535SK536SK

537SK

527SK 528SK

529SK530SK

539SK

554SK

545SK

555SK

556SK

557SK

558SX

546SK

547SK

548SK

549SK

550SK

551SK

552SK

553SK

430SK

560SK

559SK

561SK

581SX

589SP588SP

586SK

585SK

587SK

584SK

582SK

592SK

583SK

590SK

591SP

593SK

594SK

595SK

596SK

597SK

629SK

(マス目は5m)

27

16Bc 区全景(西より)

集石遺構432SK 区土層断面(南より)

16Ba 区石錘類出土状況