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報告書 平成 29 年度電子経済産業省構築事業 (オープンガバメントの実現に関する調査研究) ソフトバンク・テクノロジー株式会社 2018年3月30日

平成 29 年度電子経済産業省構築事業 (オープンガバメントの実 … · オープンガバメントの実現を目指した様々な実証を行っているサイト「オープンガバメン

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報告書

平成 29 年度電子経済産業省構築事業

(オープンガバメントの実現に関する調査研究)

ソフトバンク・テクノロジー株式会社

2018年 3月 30日

1

目次

1.本事業の概要 .............................................................. 2

1-1.本事業の目的......................................................... 2

2.事業内容 .................................................................. 2

2-1.「オープンガバメントラボ」のコンテンツ拡充による、オープンガバメントの広

報に有効なコンテンツの調査 ................................................... 2

2-2.CIO会議の開催 ....................................................... 5

2-3.オープンデータに係る要望等の把握 .................................... 11

2-4.オープンガバメントの在り方に関する調査 .............................. 13

2-4-1.海外事例調査 .................................................. 13

2-4-2.有識者の発掘、およびヒアリングの実施 .......................... 27

2-5.オープンガバメント関連サイトの運用に係る環境整備 .................... 35

3.別紙 ..................................................................... 36

別紙 1 オープンガバメントの“現在地点”と“ヒトの重要性” .................. 36

別紙 2 「オープンガバメント」と地方公共団体の「働き方」をあわせて考えてみる 43

別紙 3 広域自治体で取り組むオープンデータ ~さがみオープンデータ推進研究会の歩

み~ ....................................................................... 52

別紙 4 ラウンドテーブル実施概要 ............................................ 57

2

1.本事業の概要

1-1.本事業の目的

これまで「新たな情報通信技術戦略(平成22年5月11日高度情報通信ネットワーク社

会推進戦略本部(以下「IT戦略本部」という。)決定)」及び「電子行政推進に関する基本方

針(平成23年8月3日 IT戦略本部決定)」の主旨に則り、電子行政に関するタスクフォー

スを中心に、我が国におけるオープンガバメントの推進について議論が行われてきた。

また、平成26年4月25日には「電子行政分野におけるオープンな利用環境整備に向け

たアクションプラン」が各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議において決定されたほか、

「世界最先端 IT国家創造宣言」(平成28年5月20日閣議決定)においても公共データの

活用の促進が明記されているなど、政府一丸となって行政のオープン化を推進していると

ころである。

こうした状況を受け、経済産業省では、平成25年1月には、経済産業省が保有するデー

タをカタログ化した特設サイト「Open DATA METI」(β版)を公開し、平成26年度には、

オープンガバメントの実現を目指した様々な実証を行っているサイト「オープンガバメン

トラボ」の改修を実施するなど、オープンガバメント及びオープンデータの推進に積極的に

取り組んでいる。

本事業では、オープンガバメントを更に加速させるため、「オープンガバメントラボ」の

コンテンツ拡充を始めとするオープンガバメントの普及啓発等を行い、その効果検証を行

う。また、オープンガバメントに係るウェブサイトの安定稼働に向けた環境整備を行い、国

民の利便性の向上を図る。

2.事業内容

2-1.「オープンガバメントラボ」のコンテンツ拡充による、オープンガバメ

ントの広報に有効なコンテンツの調査

【趣旨】

現在経済産業省ではオープンガバメントの推進を目的として「オープンガバメントラボ

(http://openlabs.go.jp/)を運営している。オープンガバメントラボのコンテンツ拡充に

あたり、各市区町村や企業で取り組んでいるオープンデータ活用事例やオープンガバメン

ト、共通語彙基盤などの活用事例を調査し、オープンガバメントラボのコンテンツ掲載対象

を検討した。また掲載するコンテンツの規模や内容について、コンテンツ内で重複しないよ

う選定し、オープンガバメント推進の広報に有効な情報を発信することを目的としている。

3

【調査結果】

上記趣旨に従い調査/検討を行った結果、兵庫県神戸市、北海道茅部郡森町、神奈川県相

模原市の活用事例を掲載することとなった。

(1) 兵庫県神戸市

【タイトル】

オープンガバメントの“現在地点”と“ヒトの重要性” (別紙1)

【掲載 URL】

http://openlabs.go.jp/open_gov_practice/3624/

(2) 北海道茅部郡森町

【タイトル】

「オープンガバメント」と地方公共団体の「働き方」をあわせて考えてみる(別紙2)

【掲載 URL】

http://openlabs.go.jp/open_gov_practice/3824/

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(3) 神奈川県相模原市

【タイトル】

広域自治体で取り組むオープンデータ ~さがみオープンデータ推進研究会の歩み~

(別紙3)

【掲載 URL】

http://openlabs.go.jp/open_gov_practice/3984/

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2-2.CIO 会議の開催

【趣旨】

社会のあらゆる場面でデジタル技術が活用される「デジタル化」により、すべての産業に

おいて「デジタル・ディスラプション」と言われる破壊的イノベーションによる、産業構造

の変革の波が起き始めている。

「デジタル化」への対応は、企業(行政機関)にとって不可避であるとともに、デジタル

技術を活用により、ビジネスモデルの変革や、社会課題の解決を実現する「デジタルトラン

スフォーメーション」の可能性を持つ。

デジタルトランスフォーメーションを実現するにあたっては、様々な課題があると考え

られるが、企業・行政機関が各組織単独で解決できる課題だけでなく、公的機関に期待すべ

き課題、企業・行政機関横断で協調すべき課題も考えられる。また、デジタル技術の活用に

おいては、実現のための組織体制、求められる人材や育成・獲得方法、リーダーシップのあ

り方も変わってきている

本「官民デジタル改革会議」は、「デジタル改革」にあたり、必要な課題と解決策につい

て、官民の関係者が議論を行い、今後のデジタル改革のあり方について情報整理と情報発信

を行うことを目的として実施した。

【実施概要】

第 1回官民デジタル改革会議

1.日時 2017年 12月 26日(火)8:00~9:30

2.場所 経済産業省 本館 17階 第 2特別会議室

3.出席者※敬称略

(経済産業省)

前田 泰宏 経済産業省 審議官(商務情報政策局担当)

中野 美夏 経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室長

平本 健二 内閣官房 政府 CIO上席補佐官 経済産業省 CIO補佐官

中野 剛志 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課長

満塩 尚史 経済産業省 CIO補佐官

細川 義洋 経済産業省 CIO補佐官

(省庁関係者)

奥田 直彦 内閣官房 IT総合戦略室 参事官

座間 敏如 内閣官房 政府 CIO上席補佐官 財務省 CIO補佐官

6

(企業関係者)

割愛

(事務局)

菊川 裕幸 日本情報システム・ユーザー協会 専務理事

4.議事

(1).開会挨拶

前田 泰宏 経済産業省 審議官(商務情報政策局担当)

(2).開催趣旨の説明・経済産業省における取組み紹介

中野 美夏 経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室長

(3).各委員自己紹介および本テーマに関する取組み・課題意識について

-自己紹介(簡単なご略歴・現在のご担当等)

-デジタル化に関しての取組み

(実施あるいは計画されている取組み内容・実施体制等)

-デジタル化の取組みを進めるにあたっての課題意識(困っている点)

5.議論で出された主な課題

●人材

デジタル改革、データサイエンス、セキュリティの人材が不足している。

既存の IT人材(守りの人材)を、ビジネス変革(攻めの IT人材)方向に人材シフトさ

せるのが課題である。

人材不足であり既に人が採用できない。

人材が社内にもいない。

目利き人材が重要である。

地方、海外の人材、働き方の改革も含めてチームの在り方全体を考える必要がある。

●マインドセット

組織が縦割り文化から抜けきれない。

組織や業界の慣習があり電子化が難しい面もある。

破壊的イノベーションが進行しており、業態転換も踏まえた検討が必要である。

自社業務だけでなく、サプライチェーンでの改革をしていかなければならない。

情報システム部門のマインドセットをビジネス視点にしていく必要がある。

業務部門のマインドセットを、デジタル時代に変化しなければならないという意識に

7

していく必要がある。

経営層のマインドセットを変えていく必要がある。デジタル世代への若返りも必要か

もしれない。

デジタル変革専門チームを作るところが増えている。

小さな成功事例の積み重ねが重要である。

外部も含めたオープンイノベーションが重要である。

●データ

データやプロトコルの標準化が重要である。

データを処理するアルゴリズムの扱いを考える必要がある。

●ITベンダー等のパートナー

目利きが必要である。

IT ベンダーから提案がない。

ベンチャーの提案は良いものがあるが、マネジメントが弱い。

●サービスへの制約

競争環境の違い(電力価格等)

制度の違い(カメラ画像、通信の秘密等)

マイナンバーの活用

IT の苦手な人への対応

第 2回官民デジタル改革会議

1.日時 2018年 1月 26日(金)8:00~9:30

2.場所 経済産業省 本館 17階 第 1特別会議室

3.出席者※敬称略

(経済産業省)

中野 美夏 経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室長

平本 健二 内閣官房 政府 CIO上席補佐官 経済産業省 CIO補佐官

満塩 尚史 経済産業省 CIO補佐官

細川 義洋 経済産業省 CIO補佐官

(事務局)

菊川 裕幸 日本情報システム・ユーザー協会 専務理事

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(企業関係者)

割愛

4.議事

(1).ご挨拶

(2).(前回ご欠席の委員より)

自己紹介および本テーマに関する取組み・課題意識

(3).「デジタル改革」に関するディスカッション

課題1 デジタル化に関わる人材について

課題2 デジタル化のためのマインドチェンジ

5.主な意見

●デジタル改革人材・確保の方法

技術系の人材:アクセラレートの仕組みや新たな会社を作るなど、確保の方法はある

(マネジメント系の人材:育成が難しい)

ベンダー等、外部からの出向

インターンシッププログラム

高専からのリクルート

●デジタル人材育成において重要な点

今いる人材をチャレンジさせいくため育成

採用の基準や配属後の処遇を明確にする

横の壁を壊していく(マインドチェンジ)

社会全体として理系が評価されること

デジタル特区の創設

大学での実践的な教育

デジタルトランスフォーメーションに関する情報をシェアする仕組み

産学で自由に行ったり来たりする仕組み

とがった人材が伸び伸び仕事をできる環境づくり

小さな集団で横断的に物をクリエイトするような、仕事の仕方

事業部門・IT部門が一緒になって進めて行くマインド・工夫

第 3回官民デジタル改革会議

1.日時 2018年 3月 2日(金)16:00~18:00

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2.場所 経済産業省 本館 17階 第 3特別会議室

3.出席者※敬称略

(経済産業省)

平本 健二 内閣官房 政府 CIO上席補佐官 経済産業省 CIO補佐官

満塩 尚史 経済産業省 CIO補佐官

細川 義洋 経済産業省 CIO補佐官

奥田 直彦 内閣官房 IT総合戦略室 参事官

座間 敏如 内閣官房 政府 CIO上席補佐官 財務省 CIO補佐官

(事務局)

菊川 裕幸 日本情報システム・ユーザー協会 専務理事

(企業関係者)

割愛

4.議事

「デジタル改革」に関するディスカッション 1

課題 1 データ活用「データ連携基盤の最近の動向」

課題 2 デジタル改革にあたっての体制・リーダーシップのあり方

5.主な意見

データ活用について

基本のデータを共有することが、社会の全体のコストを下げることになる。

(マイナンバー等を活用することもそれにつながる)

データを、他の組織とつないでいくことで、さらなる価値を作っていくことが可能。

データ共有が重要というムーブメントや仕掛けを作っていくことが鍵となる。

非競争分野としていろいろなセクターが協力していくことが重要。

体制・リーダーシップについて

経営者・リーダー自らがデジタル変革のリーダーシップをとっていくこと、メッセ

ージを発信していくことが重要。企業としてのデジタル改革の方向性とリーダーの

資質があっていることも重要

業務部門のキーマンを巻き込む

IT部門(デジタルト改革担当部門)が常に危機感を持つ

トライアンドエラーのようなこれまでと異なる方法にチャレンジする

10

キーとなるのは部長クラス

やる気がある人、若手をどう活かすか。中間のベテラン層の変革が必要

11

2-3.オープンデータに係る要望等の把握

【趣旨】

近年の公共データ活用推進により、行政の透明化・信頼性の向上、国民参加・官民協働の

推進、経済の活性化・行政の効率化が三位一体で進むことが期待されている。2016年 12月

には日本版オープンデータを支える官民データ活用推進基本法が成立し、オープンデータ

の利活用に注目が集まってきている。一方、データを公開する側はどこまでデータを公開し

てよいのか、公開することに価値があるデータはどのようなものか等、データ公開に対して

課題を抱えていることも事実である。

本事業ではデータを公開する側とデータを利用する側の人材を集め、ラウンドテーブル

形式で直接対話し、オープンデータに係る要望の把握、利活用に関する議論を整理すること

を目的とする。

【実施概要】

・データ活用ラウンドテーブル

先進的企業の協力のもと、Government as a Platformの実現に向けた政府機能の API化の

方向性を探るワークショップ

・実施概要

日時:3月 16日 15:00~18:00

場所:経済産業省内

主催:経済産業省

・ダイアローグ

企業における API 活用状況をシェアし、政府データや機能の API 化に対するニーズを話あ

インストラクション:経済産業省

ファシリテーター:インフォ・ラウンジ合同会社

・進行

1.インストラクション(30分)

趣旨説明

政府および経済産業省の取組紹介

2. ダイアローグ(150分)

セッション1 ~参加企業の取組にヒントを得る~(75分)

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参加者より各自自己紹介〜各社 API活用事例紹介頭出し

各社事例に対する質疑応答

セッション2 ~政府データや機能の API化に向けたニーズ掘り起こし~(75分)

政府による情報提供への改善要求(法人インフォ、制度情報、統計情報)

申請手続き等の API化への要望

公共インフラとしての情報プラットフォームの必要性

業界内データ連携における公共インフラとしての情報プラットフォームの役割

※議事概要については別紙4参照

13

2-4.オープンガバメントの在り方に関する調査

2-4-1.海外事例調査

【趣旨】

オープンガバメントを推進するため、海外におけるオープンガバメントに係る動向につ

いて文献調査を行い、事例等をまとめる。本事業では海外プラットフォームに焦点を当て、

その基盤を構築するためのソフトウェアおよびフレームワークである FIWARE と Sentiloを

調査した。

(1) FIWARE 調査結果

● 概要

2011年から 5年計画の Future Internet Public-Private Partnership (FIPPP) を、3

億ユーロ(約 390 億円)の予算の下で実施

欧州の IT 競争力強化が目的

EU が補助金を拠出し、NGSI(後述)のレファレンス実装をオープンソース化

開発費用は 6,400万ユーロ

EU 関連のスマートシティプロジェクトなどで使われている(スペインのサンタンデー

ル市での実証実験が有名)

FIWARE Foundataionにイニシアティブがあり、日本からは NECがプラチナメンバーと

して参画している

NEC は国内外の IoT はじめスマートシティー系のプロジェクトで FIWARE を基盤として

PR している

Horizon 2020でも FIWAREを推進するプロジェクトが進行中

モダンなオープンスタックベースで構成されている

汎用的なサービスや各種 API が用意されており、それらを組み合わせることでアプリ

ケーション開発を容易にしている

一番の特徴は多様なコンテキストを持つデータをワンストップで扱えるということ

NGSI (Next Generation Service Interface, under elaboration at ETSI)を標準 API

として採用

参考資料(https://www.slideshare.net/ToshihikoYamakami/ngsifiware)

● アーキテクチャー

FIWAREのアーキテクチャーは大きく次の 3層構造に別けることができる。

1. データソース

2. Context管理

14

3. Enabler

それぞれ API を介して疎結合する前提で設計されており、拡張性の高いアーキテクチャー

となっている。データソースはセンサーデータや既存システムからのデータを想定してい

る。

・Core Context Information Management layer

Open standard API

Highly scalable

・Adapter Layer Framework

Integration with sensor networks

Integration with information systems

・Suite of enablers for context processing, analysis and visualization

・Data Publication enabler supporting

Right-time Open Data(CKAN連動)

Economy of Data(マーケットプレイス)

● 主要なモジュール

Orion(Context Broker)

Orionは Context Brokerのリファレンス実装である。

データを投入する Context Producer とデータを取得する Context Consumer がロールとし

15

て定義されている。

主な機能は、Context Contentsの登録、取得、Contentsに変更があった際に通知を受ける

機能(Subscribe)。

IDAS4.0(Backend IoT Management)

IDASは IoT機器を Context Brokerに接続するためのモジュールであり、デバイス側のイン

ターフェースとして以下のプロトコルに対応している。

• Ultralight2.0: https://github.com/telefonicaid/fiware-IoTAgent-Cplusplus

• MQTT https://github.com/telefonicaid/fiware-IoTAgent-Cplusplus

• LWM2M/CoAP: https://github.com/telefonicaid/lightweightm2m-iotagent

• SigFox: https://github.com/telefonicaid/sigfox-iotagent

• Generic IoT-Agent Skeletons:

https://github.com/telefonicaid/iotagent-node-lib (node.js)

https://github.com/telefonicaid/fiware-IoTAgent-Cplusplus (C++)

Cosmos(Big Data Analysis)

ビッグデータ解析を目的とした General Enablerであり、IoT機器からのストリームデータ

を溜め込み、後から分析するなどの使用方法が想定される。

実装は Hadoopを中心としたエコシステムを取り込んでいる他、一般的なデータストアとの

インターフェースも提供している。

FIWARE-NGSI

FIWAREに統合されたデータへのアクセスは各種 APIを通じて可能となる。

APIは基本的に FIWARE NGSI の規格に従って RESTful で提供される。

FIWARE NGSIは Open Mobile Alliance(OMA)の NGSI-9 / NGSI-10をベースに定義されて

いる。

NGSI は通信事業者が中心となって策定された規格でカバレッジは広いが FIWARE が参照し

ているのは NGSI-9は IoT Discovery、NGSI-10 は IoT Brokerの APIの 2種類である。

NGSI自体は 2012年から更新されていない。

FIWARE-NGSI v2 Specificationは 2016年 8月に Release Candidateのステータスである。

ライセンスは FIWARE Open Specification License (implicit patent license)である。

http://fiware.github.io/specifications/ngsiv2/stable/

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● Context Broker

FIWARE のキーコンセプト“Context”

FIWAREのコンセプトで重要になるのが、“Context”と呼ばれる概念である。

Context とは出所の異なるデータが持つデータタイプなどメタデータのことを指す。

Contextを持つデータや情報は“Context Contents”と呼ばれる。

Context Broker

FIWAREでは Context Contentsを集約しワンストップでアクセス可能とする。その際に重要

な働きをするのが FIWAREの中核要素である“Context Broker”である。

Context Brokerでは Context Contentsを入出力するための APIが提供されている。データ

形式は JSONである。

● データモデル

データモデルについては積極的に定義することはしていないように見える。

schema.orgなど既存のデータモデルを参照することが推奨されている。

また、IoT Big Data分野のデータモデルの規格策定については GSM Associationと連携し

ている。

GSMは携帯通信事業者の業界団体で欧州最大規模のモバイル関連展示会「Mobile World

Congress」の主催団体としても知られている。

http://fiware-datamodels.readthedocs.io/en/latest/guidelines/index.html

https://www.gsma.com/iot/iot-big-data/

https://www.gsma.com/iot/wp-content/uploads/2016/11/CLP.26-v1.0.pdf

FIWARE Data Modelには以下が定義されている

• Alarms

• Parks & Gardens

• Environment

• Point of Interest

• Civic Issue tracking

• Street Lighting

• Device

• Transportation

17

• Indicators

• Waste Management

• Parking

• Weather

● CKAN拡張

FIWAREではデータカタログとして CKANを機能拡張している。主な拡張は以下のとおり。

OAuth2

CKANで OAuth2利用できる

Private Datasets

データセットに対してアクセスコントロールを追加し、プライベートデータを登録できる

NGSI View

NGSIプロトコルに対応し、Context Brokerからリアルタイムでデータ登録できる

Store publisher

FIWARE Storeにデータを簡単に登録できる

WireCloud view

CKANのデータを使ったビジュアライゼーションを作ることができる

Data Requests

公開されていないデータに対して利用者がリクエストできる

● 参考文献

FIWARE ウェブサイト

https://www.fiware.org

FIWARE Wiki

http://forge.fiware.org/plugins/mediawiki/wiki/fiware/index.php/Main_Page

Materializing Data/Context Management in FI-WARE

18

https://forge.fiware.org/plugins/mediawiki/wiki/fiware/index.php/Materializing_D

ata/Context_Management_in_FI-WARE#Stream-oriented_Generic_Enablers

FIWARE Overview

https://www.slideshare.net/FI-WARE/fiware-overview-university-cairo-

20aug2017?from_action=save

ETSI(European Telecommunications Standards Institute)

http://www.etsi.org

ETSIの基本動向と意思決定機構 に関する調査報告書 NICT 2007

https://www.nict.go.jp/global/4otfsk00000yxwf3-att/re070131.pdf

OMA(Open Mobile Alliance)の設立とその活動 2002

https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal

/bn/vol11_1/vol11_1_101jp.pdf

(2)Sentilo

● 概要

Sentiloは 2012年 11 月よりバルセロナ市が主導し開発している IoT基盤である。バルセロ

ナ市の中で実務を担当しているのはバルセロナ市情報局(IMI=Munnicipal Institute of

Informatics)である。都市に関するデータを集約して活用するための基盤”City OS”の構

成する要素のうちの一要素である。集約されたデータには REST APIを使ってアクセスでき

るようになる。ソースコードはオープンソースとして GitHub上に公開されている。

コミュニティーによる発展を目指しており、他都市への展開を推進している。

参考資料(http://www.sentilo.io/)

19

図1)バルセロナ市が示す City OSの概念図

● Sentilo の活用 バルセロナ市の例

バルセロナ市は 2000年からクリエイティブ産業やイノベーション創出を目指して大規模な

スマートシティプロジェクトを推進しており、2006 年から 2008年に掛けてはセンサーを用

いた都市マネジメントの取り組みである ICINGプロジェクトを実施。これは、センサーを用

いた都市マネジメントの事例としては世界でも最初期のものの一つである。また、2011 年

からは世界最大規模となるスマートシティー国際会議「Smart City Expo World Congress」

を開催し、2014年 3月には EUにおける最もイノベーションを推進する都市に選定されてい

る。

またバルセロナ市では Sentiloを開発する目的を次の 3つに定めている。

• センシングの環境の構築とメンテナンスのコスト削減

• センサーデータを活用したアプリケーション開発のコスト削減

• 基盤開発における革新のサイクルにかかるコスト削減

20

また、実際にセンサーネットワークと Sentioを利用して、騒音や大気のよごれ、駐車場の

利用状況、ゴミ箱の状態など都市をリアルタイムで監視している。稼働しているセンサーの

タイプは 10種類、約 1,800 のデバイスが設置され、Sentiloに集約されルデータは日々3百

万レコードにのぼる。

図2)Sentiloに接続されているセンサーの種類と数

21

一番良く知られた活用事例はゴミ箱へのセンサーの適用である。バルセロナ市街地では街

角にゴミ箱が設置してあるのだが、このゴミ箱にセンサーを設置してゴミの量をセンシン

グしている。センシングされたデータはリアルタイムで Sentiloに送られ、市役所の担当者

はウェブブラウザを通じて状況をモニターすることができる。こうして得られたデータを

もとに、ゴミ収集のルートをダイナミックに変更するなど工夫し、ゴミ収集にかかるコスト

を削減することに成功している。このゴミ箱の例は一例で、バルセロナ市では今後さまざま

な分野に Sentiloを応用して行政運営に役立てようとしている。

図3)ごみ箱やパーキングスポットに対するセンサー設置の実績

表1)主なセンサーの種類と展開規模

22

図4)Sentiloのダッシュボード

● コミュニティー

バルセロナ市は Sentilo をオープンソースとして公開するとともに、他都市への展開を進

めている。コミュニティーをつくり、発展させることで持続的にソフトウェアの改善や機能

追加を狙っている。

エグゼクテ

ィブコミッ

ティ

7人のメンバーからなる。そのうち、チ

ェアと補佐を投票によって選出する。

コアスポンサーはメンバーを推薦する

ことができる。構成メンバーは 2年ごと

のメンバーシップコミュニティによる

投票で決定される。

•Jordi Cirera(Barcelona City Hall)

(Chairperson)

• Raúl González (Abertis)

• Malcolm Bain (ID Law)

• Carlos Puga (Opentrends)

• Ramon Solé (OPS)

• Albert Marín (Terrassa City Hall)

• Gloria Grau (Tesem)

テクニカル

コミッティ

少なくとも 5人のメンバーからなる。プ

ロジェクトリーダー、アーキテクチャ

ー・開発・テクニカルサポートの各エリ

• Jordi Cirera (Barcelona City Hall)

(Chairperson)

• Juanjo González Bermejo (Abertis)

23

アリーダーはテクニカルコミッティに

入る。ほか、開発メンバーによる投票ま

たはエグゼクティブコミッティが任命

できる。

• Leo Blázquez, Amersam (Reus City

Hall)

• Pere Comas (Barcelona City Hall)

• Mikel Masquefa (Opentrends)

• Carlos Puga (Opentrends)

• Daniel Ros (Terrassa City Hall)

都市ステア

リングコミ

ッティ

各都市スポンサー、都市パートナー、そ

の他都市メンバーからの代理人によっ

て構成される。

年に一度は会合を持ち Sentilo のロー

ドマップやベストプラクティスについ

て話あう。

• Albert Marin (Terrassa City Hall)

(Chairperson)

• Rafael Garcia (Barcelona City Hall)

• Oscar Hellin (Reus City Hall)

メンバーシ

ップコミッ

ティ

3 人以上 9 人以下の奇数人で構成され

る。投票によりチェアを決定する。メン

バーシップコミュニティはメンバーの

記録簿を承認し保管する。とくに、各メ

ンバーの役職リストと投票が対象とな

る。

• Francesc Casaus (Barcelona City Hall)

(Chairperson)

• Ramon Solé (OPS)

• Gloria Grau (Tesem)

アドバイザ

リーコミッ

ティ

アドバイザリーボードはエグゼクティ

ブコミッティに対してアドバイスや提

案を行う。エグゼクティブコミッティは

アドバイザリーボードからの声明を検

討するが拘束はされない。メンバーは

Sentiloのコミュニティーに対して相応

の貢献をしている個人、企業、関係機関

等の代表からなり、戦略的または技術的

観点からプロジェクトに対してアドバ

イスする。

• Jordi Alvinyà (Abertis)

• Pilar Conesa (Anteverti)

• Josep Ramon Ferrer (Barcelona City

Hall)

• Jordi Pericàs (Barcelona Provincial

Government, Diputació de Barcelona)

• Rafael Barnola (ETRA)

• Josep Casanovas (FIB-UPC)

• Javier Garcés (IGS Research)

• Alicia Asin (Libelium)

• Maria Serrano (Schneider)

• Marc Boher (Urbiotica)

• Marc Fabregas (Zolertia)

24

● アーキテクチャー

図5)Sentiloアーキテクチャー

● Sentilo のキーコンセプト

PubSub Platform

データプロバイダー、センサー、アラートなどに対するサブスクリプションサービスを提供

RealTime storage

データやインフォメーションを格納するストレージ

REST API

各リソースに RestAPI を用いてアクセス可能。レスポンスが json フォーマットと XML(将

来的に実装との記載あり)による

Agent

Agentとはある機能を実現するための一連のプロセスのことを指す。Plug& Pay システムを

用いて、プラットフォームの機能を拡張する

Authentication

25

Token プラットフォームに対するすべてのリクエストはヘッダパラメーターにトークンを

含めて行わなければならない

Permission

ユーザー毎にアクセスコントロールする

Notification mechanism

Open Socketを活用したプッシュ通知と、ポーリングによるイベント監視が可能である

Catalog

プロバイダー、アプリケーション、コンポーネント、センサー、センサータイプ、コンポー

ネントタイプ、アラート、ユーザーを登録管理する仕組み

Alert

センサーごとに条件を設定しておいて、状態に変化があった場合にアラートを発する仕組

みである

● リソース管理

Sentiloでは次のリソースが定義されている。

センサー 観測値を生成できるハードウェアまたはソフトウェア

コンポーネント 一つ以上のセンサーと地理空間情報を関連付け定義される概念

プロバイダー 一つ以上のコンポーネントによるグループで Sentilo と通信する

アプリケーション

/モジュール

プラットフォーム上でデータ活用して作動する要素

● Sentiloが提供する主な機能

分類 機能

モニタリング 統計

ユニバーサルビューワー

ルートビューワー

管理画面 組織管理

アプリケーション管理

プロバイダー管理

コンポーネント管理

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センサー管理

アラート管理

ユーザー管理

センサータイプ管理

コンポーネントタイプ管理

● データ解析/可視化

Sentilo にはセンサーオブジェクトを登録管理するためのカタログ機能や http による

RESTful な実装などいくつかの特徴があるが、Elasticsearch と Kibana を用いたデータ解

析/可視化機能も強力である。Elasticsearchは Elastic 社が提供する全文検索システム(オ

ープンソース)。ApachLucene をベースとしており、RestAPI が用意されている。Kibana は

Elasticsearchと連携してデータ解析/可視化を実現するためのツールである。

なお、pub/subプロトコロルに対応しており、センサーデータの変化に応じて、ダイナミ

ックに可視化結果を更新することが可能となっている。

図6)Sentiloにおけるデータモニタリング機構

27

2-4-2.有識者の発掘、およびヒアリングの実施

【趣旨】

オープンガバメント推進の在り方について多様な視点から検討するため、国内における

オープンガバメントに関する学識経験者を発掘し、ヒアリングを実施した。

【実施状況】

○ 西田亮介(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)

実施日:2017年 10月 5日

・ヒアリング内容

1.オープンガバメントこれまでの経緯

2.オープンデータの普及

3.行政プロセスに内包する課題(BPR)

4.オープンガバメントの ROI、KPI

5.データジャーナリズム

6.オープンガバメントの現状

7.サボタージュ問題

○ 熊谷俊人(千葉市長)

実施日:2017年 11月 1日

・ヒアリング内容

1.コミュニケーションチャネルの多様化

2.twitterの活用

3.政策形成への市民参加

4.俗人的な取組からの脱却

5.業務プロセスの改善について

6.千葉市の今後の取組

○ 及川卓也(フリーランス)

実施日:2017年 12月 5日

・ヒアリング内容

1.防災ボランティへの関わり

28

2.ハッカソンの限界

3.新たなコミュニティの立ち上げ

4.オープンデータはじめ行政情報の取り扱い

5.オープンデータの利活用に対する民間側のモチベーション

6.役所内でのデータ活用

7.コミュニティの役割

8.デジタルガバメントの推進

○ 奥村裕一(東京大学特任教授)

実施日:2018年 1月 26日

・ヒアリング内容

1.オープンガバメントの現状認識

2.オープンガバメントを進めるためのアプローチ

3.継続性について

4.オープンガバメントの進捗度を評価について

5.霞ヶ関でどのようにオープンガバメントに向けた合意形成をしていけば良いか

6.オープンガバメントを進める民間のプレイヤー

○ 国領次郎(経営学者)

実施日:2018年 2月 6日

・ヒアリング内容

1.オープンガバメントと専門家委員会

2.行政府の自浄作用を高めるためには?

3.法律の解釈や運用について国民はどう向き合えば良いか

4.オープンガバメントはまず見える化を

【総括】

深見嘉明 博士(政策・メディア)。経済情報学研究者。

・オープンガバメントの論点

2010年 7月にオープンガバメントラボが設置されてから 7年を経た 2017年、これまでの

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活動の振り返りと、オープンガバメントに更なる進展をめざすべく、エンジニア、政策領域

の研究者、情報技術の社会実装領域の研究者、元行政官、自治体首長といった幅広い分野の

有識者に対するインタビューを実施した。5人に対するインタビューを振り返って面白く感

じたことは、同じ「オープンガバメント」という用語を主題としてインタビューを行っても、

異なる論点が入り交じる形で話が進んでいったことである。論点が収斂しなかった原因は、

オープンガバメントの「オープン」を「透明化とチェック」として捉えるのか、「参加・協

働」と捉えるのかの違いであると分析する。「透明化とチェック」が論点となる際に重要視

されるのは、政策形成における市民参画ならびに、プロによる政策形成プロセスに対する検

証可能性の担保である。一方「参加・協働」が論点となると、公が果たす機能に対しどのよ

うに参画するか、もしくは社会を構成する制度設計に対し、社会の中で活動する主体からの

フィードバックを効率化するにはどのようにすればよいのか、という視点からの問題提起

が中心となった。勿論 2つの論点は地続きであることは言を俟たない。しかし、この 2つが

明確に区別されないままオープンガバメントや、そこから派生したオープンデータの議論

が行われてきたことは、この国におけるオープンガバメントの状況に大きな影響を与えて

いると感じられた。そこで本稿では 5人に対するインタビューの内容を踏まえ、オープンガ

バメントを考え直したい。

・「オープン」という単語の多義性と、それが引き起こす誤解と混乱

「オープン」という単語の多義性はオープンガバメント領域に限ったものではない。既

に充分議論が蓄積しているオープンソースソフトウェア(OSS)の開発・運用における先例

を参考に、オープンガバメントにおける「オープン」の意味について整理したい。OSSは

多様なライセンス形態が示すように、その運用形態は多様である。多様なライセンス・運

用形態における「オープン」が意味する内容は、大きくはソースコードの無償提供と、開

発プロセスの公開に分類できよう。ここでは前者を Open Usage、後者を Open Process と

して表現する。Open Process は、それぞれ細部で異なるニーズを持つアクターが資源を持

ち寄り、共通に用いるモデュールを開発するという協働メカニズムである。対して Open

Usageでは成果物は誰でも無償で「用いる」ことができるものの、開発プロセスに関与で

きるアクターは限定されるというものである。

Open Processは Linuxや Apacheなどが代表的なものであり、開発を分担することによ

り各参画者が小さなコストで必要な機能を有するシステムの入手を実現するという相互扶

助のエコシステムが構築されるのに対し、Open Usage は自らコストを負担して開発したモ

デュールから直接的な対価を得ない代わりに普及を優先させるという戦略のもとに供給さ

れる。つまり、そのモデュールと組み合わせて用いる補完財から収益を上げるビジネスモ

デルの存在が前提となる。古くは旧 Sum Microsystemsによる Javaという事例があり、近

年でも開発プロセスへの参加に契約を通じたコンソーシアムへの参加が求められるスマー

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トホン OSなどの例がある。仕様への外部からの影響力を限定し、自社のビジネスモデル

に寄与する仕様を維持することが目指される。

この 2つの種類は同じオープンといっても、目的や成立させる経済的メカニズムが全く

異なる。それと同じ構図がオープン「ガバメント」やオープン「データ」においても成立

している。「透明化とチェック」の視点からは、法制度策定・運用のプロセスや、行政保

有のデータが公開されるという状態を確立することに力点が置かれ、第三者のチェックに

よる健全性・公平性の担保を目指すものである。行き着く先はデータジャーナリズムであ

り、政策形成の効率化となる。「参加・協働」の視点からは、官が担ってきた公=パブリッ

クの機能への参画拡大は、協働を前提とし、協働のためのプラットフォームをどのように

設計するのかが論点となる。オープンガバメントの三原則は「透明性の向上、参加、共

働」とされているが、「透明性の向上」と「参加・協働」との間には大きな隔たりがあ

る。透明性の向上と参加は表裏一体であるという構造も特定領域では成立するかもしれな

いが、そうでない部分もある。極端な例で言えば、外交や防衛などは意思決定プロセスが

どれほど公開されたとしても、執行への関与がオープンになることはないであろう。こう

いった領域では、ゴールは政策形成に対するフィードバックの拡大となる。一方少子高齢

化による供給者の低減や地域の縮退に対応したモビリティの供給など、公衆衛生や社会保

障を実現するためのサービス提供は、供給者(公務員)と受益者(住民・市民)の垣根を超え

た協働形態の設計が早急に求められている。一口に公(Public)といっても、社会の中でカ

バーする範囲は広い。目標やボトルネックについて、きちんと切り分けて分析・議論する

必要があろう。

・政策形成への関与に対する動機

米国では行政府において、政権交代ごとにスタッフが入れ替わる"リボルビングドア"と

呼ばれる運用がなされている。これは、新たに政権についた政党ならびに行政府入りした

スタッフにとって、前政権の行政運営や制度の有効性を測定するという強いニーズが生ま

れる。政権についてからデータにアクセスし、改善案を検討するとなると実質的に行政の

空白が生じ、最短 4年の大統領の任期中に新たな方針を執行するには厳しい状況となろ

う。政権外の主体、つまり国民でれば誰しもが行政執行の論拠となる法制度や、運用の妥

当性を検討するのに必要なデータ(Public Sector Information: PSI)にアクセスできる状

態、つまりオープン・バイ・デフォルトを前提としたオープンデータの推進が求められる

こととなる。

リボルビングドアを通ってホワイトハウスの外にでた元政府職員は、その時点で一般市

民である。人材の流動性が高い社会においては、PSIを分析して立案するという業務を担

う経験を有する人材が「市民」として一般社会に定期的に供給されることとなる。メディ

アも、行政運営や政策を評価する際に、必然的に公開されているデータをエビデンスとし

て用いることが習慣化されていく。これがデータジャーナリズムというコンセプトに繋が

31

っていく。Evidence based Policy Management (EBPM)、つまりエビデンスを元にした政

策管理が機能する土壌があるのである。

一方日本では、政策立案や制度設計が政党や、政党と関係の深いシンクタンクや市民団

体が担う比率が小さく、行政府職員がその機能をある程度代替しているという構造があ

る。制度の執行や立案が、高い継続性のもとに行われるならば、エビデンスとなるデータ

が公開される必要性を感じる層は自ずと限定されてくる。なぜならば、政策形成、もっと

言えば制度設計に直接携わる機会や必要性を感じる機会が、行政府に在籍するか、制度の

執行に直接的に従事するかに限られてしまうからだ。「結果としての」公共サービスを受

益するだけであれば、政策形成や制度設計のプロセスに関与する動機は生じづらいし、ま

してやそのためのデータを収集・分析しようとは思わないだろう。その結果として生じる

のが、行政における意思決定者による住民ニーズの吸い上げというボトムアップに見えた

トップダウン・アプローチのための ICT活用である。

・行政からの地域におけるニーズの把握

政治とは「社会に対する希少価値の権威的配分」(デヴィッド・イーストン)であり、具

体的には資源=予算の「使途の優先順位の決定」「需要を効率的に満たす使途ならびに運用

形態の確立」という形態をとる。これらの 2つの機能を果たすのは、三権分立の下では本

来立法府の役割である。立法府を構成する議員は、本来地盤とする地域からきめ細かく調

査し、それを議案にした上で議論を通じて資源を分配させる(予算案や条例を通過させる)

ことにより、域内のニーズを最大公約数的に充足させていくという機能を果たすことが期

待される。しかし熊谷千葉市長の実感は、政令指定都市レベルになると域内地域の個別事

情や個人によって異なるニーズに対するきめ細やかな対応を市議会議員が吸い上げて議論

をするというのは無理があり、最適な地域サイズはもう少し小さいというものであった。

ただ、地域のサイズが(人口、経済規模、面積と複数の指標があれど)小さくなると、

可用資源も比例して小さくなるためにスケールメリットの点で不利な状況に陥ったり、そ

もそも人的資源不足により公共サービスの担い手が確保できないという状況を迎える場合

すらある。これが政府によって市町村合併が進められてきた大きな理由である。このよう

な立法府が抱えるディレンマにうまく立ち向かってきたのが熊谷市長の市政運営と言える

だろう。ICT技術の発展により、地域や住民のニーズを市長個人によりきめ細かく捕捉す

ることが可能となった。そして部門間の連携が必要な際もトップダウンで調整し、執行へ

とつなげていく。しかしこの手法は熊谷市長自らが述べているように、属人的な成功事例

であり、経常的に成立させていくための手法開発が求められる。現時点では「戦時的な」

ニーズを抱える地域の住民を含む民間のプレイヤーをいかに政策形成に巻き込むかが課題

となっている。

一方市民の立場に立つと、公の運営への参画・協働や政策形成プロセスへの関与は、こ

れまで代議士や行政職員に任せっきりで済んでいた状況と比較すると負担の増大を意味す

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る。これが「参加・協働」ではなく、「透明化とチェック」が論点として選ばれる要因で

ある。もちろん透明化とチェックのために行政分野に対して投資が行われることも重要で

はある。しかし目的が「透明化とチェック」だけに絞り込まれてしまうと、投資の結果が

不正や偏った利益供与の防止につながるだけで、新たな価値を生み出して投資を回収する

までには至らない。オープンガバメントの有力な手法であるオープンデータに対して一部

で生じている忌避感はこれが原因であろう。プロセスを変えずにデータを公開するという

新たな業務を現場に付加することによる負担増や、具体的な変化や価値創出につながらな

いという結果の積み重ねがオープンデータという取り組み自体への疑問を生む事態を引き

起こしていることも事実である。また、自治体の情報担当部門に過度な負担がかかる事態

も生じている。

このボトルネックを解消するには、プロセスの効率化と自動的なデータ公開を同時に実

現できるシステムの導入が鍵となる。なおオープンデータには公的セクターの持つ情報資

産に対し、民間セクターがどのようにレバレッジをかけていくかという側面があるが、鶏

卵問題を解決するためには民間側のニーズ探索よりも、行政オペレーションの効率化が重

要であろう。オープンデータによる経済活性化の実現にはオープンガバメントの進展と、

それに伴う行政システムの改良が前提となる。なお公の機能を民が担うということは、な

にも今まで行政の一セクションが担っていた機能をそのまま民間の企業や非営利組織に委

託するとい形態に限られるものではない。窓口において紙ベースの書類を人が受け取った

後に手入力して処理というスキームがウェブベースでのデータ入力に代わったり、公開さ

れた APIを活用したアプリやサービスが開発されたりといっただけでよいのである。これ

によって受付業務や入力業務、開示請求に対応する手続業務に費やされていた資源が、他

の公共サービスに充当されるだけで立派な公の役割における分担・協働である。

・動機のある市民や企業をいかにして協働に参加させるか

とはいえ、「参加・協働」に対するインセンティブをもつ主体は、常にプライベートセ

クターに存在することも事実である。社会が変化する中で、「使途の優先順位の決定」「使

途ならびに運用形態」が現状に最適化されない状況により不利益を被る層は立ち代わり生

み出される。これまでは、不利益を被る層が取れる数少ない解決策が陳情であった。圧力

団体を構成して自らロビイングするには高いハードルが存在する中で、自らの利害を代弁

する代議士、ないしは政党にお願いをするわけである。しかし彼ら/彼女らのそもそもの

目的は「使途の優先順位の決定」「使途ならびに運用形態」の改善であり、具体的な方策

をとりまとめるには法制度ならびに行政組織の運用実態に関する知識が必要である。だか

ら代議士の担い手に、法律のプロである弁護士(資格保持者)が多かったのである。しかし

情報技術の発展・浸透と、タイバーシティの推進に伴うニーズの多様化(というよりも、

多様なニーズが存在するという事実に近年光が当たるようになった)は、ニーズを有する

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主体が直接制度と運用実態を把握し、自ら改善策を立案するという必然性を生み出してい

る。

これは日本の社会や法制度が十分成熟していることの裏返しかもしれないのだが、数多

くの制度が存在する状況下において自分がどのようにカテゴライズされており、どのよう

な支援や規制の対象になっているかきちんと把握している個人や法人はそれほど多くない

と思われる。制度の存在自体を認知していない場合、その利活用はもちろんのこと改善に

向けた活動に対するインセンティブなど生じようがない。制度が利活用されないというこ

とは、制定趣旨が生かされないことを意味する。つまり法制度の立案・執行のパフォーマ

ンスを下げるという効果をもち、政策形成や行政運営の効率を減退させる結果となる。つ

まり現状の社会システムの非効率性の一因なのである。この状況を改善するためには、國

領教授は 2つの条件が満たされなければならないと整理している。まずは制度ならびに、

制度の根拠となる法令・条例が簡便に検索・特定できる状態とすること。次に行政文書間

での比較検討が容易にできるようにし、相互参照状況がトレースできるようにすること。

この 2つの条件が満たされることは、「根拠のトレーサビリティが社会に実装された状

態」と表現されている。エビデンス・ベースドで政策が立案されるなら、その逆に政策そ

のものがきちんと執行・運用におけるエビデンスとして機能しなければならない。そうで

なければ、協働の前提となる相互作用など生み出されるはずもないのである。また、行政

職員の側も公の役割に対する民の参加を認める、もっといえば公の役割を民に積極的に分

担してもらうという姿勢=Open Processのマインドを持つことが求められる。仮に機能を

一部担った民のやり方が非効率であったり、瑕疵があったりしたならば、その結果として

生じたエビデンスを元にした改善が事後になされるべきであろうし、そういった PDCAが

回るための上位ルールがきちんと制定・運用されなければならない。

・リテラシーと議論の視点

オープンガバメントには「透明化とチェック」と「参加・協働」という 2つの側面があ

り、日本においてそれぞれのコンセプトに立脚した議論が整理されないまま展開されてき

たという点が、このインタビューシリーズから図らずも浮き彫りになった。それぞれ重要

な論点であり、かつ強く関連するものであるが、議論として切り分けることで状況の打開

にむけた糸口が見えてくる。まずは「透明化とチェック」がきちんと成立する段階を実現

しなければならない。法制度の論拠や政策形成過程でエビデンスとして用いられているデ

ータにアクセスできる環境になければ、市民のリテラシーを向上させる以前にそれを発揮

できる機会が存在しないままとなる。その上で、多様なステークホルダーのニーズに即し

た制度の社会制度のアップデートを目指すのであれば、データと根拠法令が万人に対して

開示され、それをどのように改善するかというアジェンダセッティングがなされなければ

ならない。その上でゴール設定は、現行制度を前提とした運用の改善に向けた取り組みで

はなく、現行制度の **趣旨** の元に _技術や社会状況の変化をどう反映させて制度のブ

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ラッシュアップを諮るか_ であるべきである。オープンガバメントによる社会システムの

継続的な改善を実現するためには、後者の視点をもって議論する人材の育成が求められ

る。

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2-5.オープンガバメント関連サイトの運用に係る環境整備

・コストパフォーマンス

当事業が開始となった平成 29年 4月時点から Webサイトアクセス数の極端な増加や大量

データのアップロードが発生しないこともあり、サーバー数やスペックに対する増設は不

要と判断し、現状のままシステム稼働に必要な最低限のシステム構成で保守を実施した。

・セキュリティ対策

Trend Micro Deep Security as a Serviceを引き続き導入し、不正プログラム対策、お

よび侵入防御対策を有効化してセキュリティ対策を実施した。24 時間 365 日のシステム死

活監視を実施し、障害が発生した場合の経済産業省への通知体制を敷いて対応した。

・一元管理

オープンガバメントラボのコンテンツ拡充の際は、コンテンツをシステムに反映した。ま

た、サイト運用管理から障害対応までワンストップで対応可能な環境を整備した。

・DNS管理

トラストリストをオープンガバメントラボのサブドメインとして作成した。(2017年 8月 25

日作業)。(https://trustlist.openlabs.go.jp/)

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3.別紙

別紙 1 オープンガバメントの“現在地点”と“ヒトの重要性”

神戸市企画調整局創造都市推進部 担当係長

神戸大学学術・産業イノベーション創造本部 非常勤講師

長井 伸晃

1.はじめに

2016 年 12 月、国・地方公共団体・事業者が保有する大量のデータを活用することで、

自立的で個性豊かな地域社会の形成、新事業の創出、国際競争力の強化等を図るとともに、

施策の企画・立案による効果的かつ効率的な行政の推進を目指す「官民データ活用推進基本

法」が公布・施行されました。国・自治体・企業の役割が明確化され、官民データ活用の動

きが全国各地で活発化してきました。

一方、神戸市では、2015 年度に ICT 創造担当という部署が設置されて以降、オープンデ

ータの蓄積・公開を推進し、データを活用した政策立案を進めるとともに、ICT を活用した

市民・事業者との協働と参画により、地域課題を解決するオープンガバメント社会の構築に

取り組んできました。

私はその部署が設置された当初に係長として配属されましたが、それまで ICT を専門と

する職務はおろか、大学などで学んだこともありませんでした。その中で、様々なプロジェ

クトの企画から実務を担当し、今ではありがたいことに、取り組んできたことが先進事例と

してご紹介いただくことが増えてきました。

しかしながら、現時点においてはデータ活用による課題解決など実装事例創出の道半ば

です。明確なノウハウがあるわけでもありませんが、少なくともこの約3年間のオープンガ

バメントの活動を通じて感じたことは、ICT の専門知識はもちろん必要ではあるものの、そ

れ以上に庁内の職員、市民や事業者との密な対話と協働が最も成功のカギを握るのではな

いかということです。

当たり前のことですが、オープンデータはあくまで課題を解決するツールであり、オープ

ンデータとしてデータを公開することやそれを使うことを目的としてしまっては市民が求

めるような市民サービスを創出することは望めません。

このコラムでは、私がオープンガバメントに関連する業務に携わるうえでの考え方や課

題解決を目指す共創のパートナーとなる市民・事業者との関わり方などについてお伝えで

きればと思います。 2016 年 12 月、国・地方公共団体・事業者が保有する大量のデータ

を活用することで、自立的で個性豊かな地域社会の形成、新事業の創出、国際競争力の強化

等を図るとともに、施策の企画・立案による効果的かつ効率的な行政の推進を目指す「官民

データ活用推進基本法」が公布・施行されました。国・自治体・企業の役割が明確化され、

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官民データ活用の動きが全国各地で活発化してきました。

一方、神戸市では、2015 年度に ICT 創造担当という部署が設置されて以降、オープンデ

ータの蓄積・公開を推進し、データを活用した政策立案を進めるとともに、ICT を活用した

市民・事業者との協働と参画により、地域課題を解決するオープンガバメント社会の構築に

取り組んできました。

私はその部署が設置された当初に係長として配属されましたが、それまで ICT を専門と

する職務はおろか、大学などで学んだこともありませんでした。その中で、様々なプロジェ

クトの企画から実務を担当し、今ではありがたいことに、取り組んできたことが先進事例と

してご紹介いただくことが増えてきました。

しかしながら、現時点においてはデータ活用による課題解決など実装事例創出の道半ば

です。明確なノウハウがあるわけでもありませんが、少なくともこの約3年間のオープンガ

バメントの活動を通じて感じたことは、ICT の専門知識はもちろん必要ではあるものの、そ

れ以上に庁内の職員、市民や事業者との密な対話と協働が最も成功のカギを握るのではな

いかということです。

当たり前のことですが、オープンデータはあくまで課題を解決するツールであり、オープ

ンデータとしてデータを公開することやそれを使うことを目的としてしまっては市民が求

めるような市民サービスを創出することは望めません。

このコラムでは、私がオープンガバメントに関連する業務に携わるうえでの考え方や課

題解決を目指す共創のパートナーとなる市民・事業者との関わり方などについてお伝えで

きればと思います。

2.目指すべき到達点は。「データ活用を実装」しているとはどんな状況か。

さて、オープンガバメントを進めるうえで、自分が所属する組織や地域社会がどのような

状況になっていれば目指すべき到達点に達していると言えるでしょうか。あるいは「データ

活用を実装」しているとはどのような状況でしょうか。

この問いは、東京大学大学院工学系研究科「都市持続再生学コース」の講座に特別講師と

してお呼びいただいた際の講演のテーマとして設定されたものです。この問いに対する答

えを考えた時に、私は自分が所属する市役所において、職員が政策立案における課題抽出、

予算要求時の費用対効果予測、実施後の効果検証・最適化などのシーンで、庁内、市民、企

業に対する説明材料や効果検証等にデータを自然に活用できている場景を理想像に据えま

した。

そして、その理想像に近づくためにクリアすべきステップとその時点で想定される課題

を以下のような図「データ駆動型組織へのステップと課題」に整理しました。

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図「データ駆動型組織へのステップと課題」

まず、Step1 として、実際に課題に対峙する職員がデータ活用の意義・有効性を理解する

とともに、データ活用のリテラシーを向上させる必要があります。

神戸市では、それを目的とした「データアカデミー」を職員対象の研修として実施してい

ます。

最初に、各所属の責任者である課長級職員にデータ活用の考え方をインプットするため、

庁内の課長級職員全員(約 700 名)を対象に、データ利活用の意義やデータを活用した政

策立案の重要性に係る意識醸成を図ることを目的とする課長級職員向けデータアカデミー

を開催しました。

さらに、現場で実務に携わっている主に係長級あるいは担当者を対象としたデータアカ

デミーを開催し、座学と実践的な演習を通じて定量データ分析に必要な基礎知識と基礎ス

キルを磨いていただいています。具体的には、「データの扱い方」「データの読み方」「デー

タの活かし方」の3つの手法を習得し、データ利活用レベルの向上及びデータを活用した課

題解決力の向上を目指すという内容です。

次に、ある程度職員の意識が変わってきたら Step2 へ進み、データを流通させるための

プラットフォームとしてオープンデータのカタログサイトやデータの可視化・分析ツール

などを整備・構築する必要があります。Step2 については、Step1 と並行して進めてもかま

わないと思います。神戸市では現に並行して進めてきました。

最後の Step3 では、データ分析を実際の業務に組み入れるため、庁内データあるいは民

間企業が提供するデータをかけ合わせて複合的なデータ分析が求められることになります。

神戸市では、ひとまず Step2 までを約3年間かけて一通り取り組んできましたが、実感

としてやはり Step3 に至るまでのハードルが非常に高く感じます。

それをクリアするためには、Step1 と Step2 を地道に繰り返し、データ活用による課題

解決・成功事例を生み出すこととあわせて、庁内データの共有も進めなければなりません。

データ活用による成功事例が生まれ始めると、そのプロジェクトの担当者がデータアカデ

ミーの講師になったり、標準的な業務フローを構築することで、自然と他部署へ横展開され

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ていくという動きを期待しています。それまでにはもう少し時間がかかるとは思いますが、

少しずつ近づいている実感がありますし、小さな成功事例は生まれつつあります。

3.バルセロナで受けた衝撃

前項で触れた理想像の発想のもとになっているのは、神戸市の姉妹都市であるバルセロ

ナで見た市役所が強力に進めるオープンガバメントの取組みでした。私は職員向けの研修

であるグローバルチャレンジ研究員制度を活用し、スマートシティ化による先進的なまち

づくりを進めるバルセロナ市へのヒアリングを行いました。さらに、バルセロナ市の職員と

してスマートシティ化など都市計画に携わった経験をお持ちの建築家・吉村有司氏と出会

い、それがきっかけで現在はバルセロナ市と連携してデータの可視化・活用によるまちづく

りをテーマとするワークショップ「World Data Viz Challenge」を開催するまでになりまし

た。

そして、そのワークショップの中で、主催者である私自身が、何度となく衝撃を受けるこ

とになります。バルセロナ現地のオープンデータ担当者はこのように話しました。オープン

データは「市民の持ち物だったデータをみんなに返していくこと」であるという考え方のも

と進めていると。これは、市民の立場からすれば当たり前のことなのかもしれませんが、日

本の行政には必ずしも備わっているマインドとは言えないと思います。

また、バルセロナ市では、1985 年にコールセンターを設置すると同時に問い合わせ内容

などについてのデータ蓄積を開始し、2010 年にはオープンデータサイトを開設しています。

そして、2020年には全データが流通する Open City を目指しているとのことでした。

また、バルセロナ市には「バルセロナ都市生態学庁」という外郭団体があり、その組織の

名のとおり、都市を生態学的に捉え、統計データやセンサーデータを分析・可視化して科学

的な予測や政策提案を高度なレベルで実現しています。しかもそれを外部の事業者へ委託

するわけではなく、内部の職員が自身の手でシミュレーションを手掛けています。

このように、バルセロナ市では市民サービスに還元するため、データ蓄積と整理、さらに

活用と公開を行うという明確なビジョンのもとでまちづくりを進めています。

私は、データの整理・庁内横断的利活用のビジョンについての重要性を痛感し、市内産学

官関係者での目的の共有、つながりづくり、環境整備・機運醸成が急務であると感じました。

しかし、日本の自治体には以下のような現状・前提条件があり、バルセロナで進めているこ

とをそのまま持ち込むことはまず不可能です。海外の先進事例の真似事ではなく、日本の制

度や仕組みに沿ったデータ活用のあり方を考える必要があるのです。

【日本の自治体での現状・前提条件】

1.バルセロナ都市生態学庁のようなデータ分析の専門家集団・組織を作るのは困難

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バルセロナでは、民間企業と変わらない柔軟な任用によって実現している

日本の公務員制度(任用制度・人事異動)上、ハードルがかなり高い

2.現場でのデータ活用・分析の状況

培ってきた経験と勘によって進められている業務が多い

すでにデータ分析が取り入れられている業務もあるが、ほんの一部

データ分析作業は民間事業者へ外部委託していて、この形は当面変わらない

こちらの現状・前提条件を踏まえたうえで、データ駆動型組織へのアプローチを考えたと

ころ、前項でご紹介した図「データ駆動型組織へのステップと課題」による整理につながり

ました。

4.課題解決を共に目指すパートナーとの関わり方

ここまでは、主に自治体内部でのオープンガバメントの進め方について記述させていた

だきましたが、次に地域課題解決を共に取り組むパートナーとの関わり方についても触れ

ておきたいと思います。

まずパートナーとして忘れてはならないのが、市民が主体的にテクノロジーを活用して、

自治体とも連携しながら地域課題の解決しようとするシビックテック活動を支えるコミュ

ニティ「ブリゲード」です。日本では 2013 年5月に、石川県金沢市で「Code for Kanazawa」

というブリゲードが初めて誕生して以来、この約4年半のうちに 40 団体ものブリゲード

が活動を始めています。ブリゲードには、エンジニアを中心にデザイナー、会社員、行政職

員、学生など非常に幅広い分野・年代の市民が参加しています。

私の地元・神戸でも「Code for Kobe」の活動が非常に活発で、毎月1回の定例会の開催

と、不定期でイベントの開催などを行っています。さらに、先にご紹介したバルセロナ市と

連携して開催している神戸市主催のワークショップの中間報告会を定例会にあわせて開催

させていただき、非常に参考になるご意見やアドバイスをいただくなど、密な連携をさせて

いただいています。

一方、連携するパートナーがテクノロジー分野の方に偏り過ぎても良くありません。大切

なことは実際に地域に溶け込み、市民としっかりと対話をすることです。課題というのは地

域によって多種多様であり、決して想像通りの課題とは限りません。

実際にあった事例をご紹介します。 「こういう課題があると思うので、こういうアプリ

を作ったらよいのでは。」と課題を先取りして、ある民間企業のご協力によりアプリの試作

品を作りました。そして、それを市民の方に見ていただいたところ、「それ、ちょっとピン

ト外れているよ。」というご指摘をいただきました。市民の方からの声をお聞きするまでは

純粋に良いサービスになるのではないかと何の疑いもなく期待していましたが、そこで改

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めて実際の地域の方や課題の当事者とのコミュニケーションが大事だということを痛感し

ました。

これは当然のことのようですが、日々の業務に迫られる中でしっかり時間をとって行う

ことは容易なことではありません。しかし、課題を取り違えては元も子もありませんので、

ここはしっかりと取り組むべきタスクであると考えています。また、その課題に関連する庁

内所管課への情報共有や相談を絶妙なタイミングで行い、理解を得ることも重要なポイン

トです。タイミングが早すぎても遅すぎてもいけません。

5.オープンガバメントを支えるキーマンとそれを見極める眼力の重要性

このように、オープンガバメントを担当する自治体職員には、実際に課題(ニーズ)を抱

える地域住民と課題解決のシーズを持つ IT 企業やブリゲードに所属する市民エンジニア

のハブとなり、その間の調整のために「泥臭く汗をかく」覚悟が求められます。テクノロジ

ーで課題解決した成功事例があったとして、その座組みだけを一見するとスマートではあ

ると思いますが、背後にはアイデアレベルだったものを市民にとって価値のあるサービス

に昇華させるため、魂を込めて泥臭く汗をかいたキーマンが必ずいるはずなのです。

しかし、これで終わりではありません。仮に、サービスがローンチした当初は行政からの

補助金などで運営コストを賄えていたとしても、ご承知のとおり自治体は予算単年度主義

のもとに政策が執行されますので、いつまでもその状態が維持される保証は全くありませ

ん。むしろ、ローンチの段階から自力で資金調達を求められるケースの方が多いはずです。

つまり、そのサービスを持続的なものにするためには、市民エンジニアや IT 企業が主

体となってスタートアップ等によるビジネス化のフェーズにまで押し上げる、いわゆる地

域内エコシステムを構築する必要があります。ここまでたどり着くには、キーマンは自治体

側だけでなく、市民・民間企業側にもキーマンの存在が求められることになります。しかし、

そのサービスが地域住民のニーズをしっかりグリップできていればビジネス化の可能性は

十分にあると思います。サービス内容によっては他地域での横展開の期待も膨らみます。

もちろんアイデアやテクノロジーの技術は重要ではありますが、それを状況に応じてう

まく工夫・調整することができる「ヒト」がいるかどうかでそのプロジェクトの結果が決ま

ってくるのではないでしょうか。プロジェクトを共にするパートナーがキーマンとなり得

るヒトなのか、それを見極める眼力を培うことが非常に大切だと思います。

そんなキーマンとなり得るヒトを、地域社会により多く呼び込むため、神戸市では現在オ

ープンデータの推進やスタートアップ支援事業を積極的に進めているのです。また、2017

年5月に神戸で、民間主導により初開催されたクロスメディアイベント「078(ゼロ・ナナ・

ハチ)」もその起爆剤になっていくのではないかと期待しています。このイベントは、都市

生活の面白み、心地よさを追求する市民、クリエイター、エンジニアが集い、交わることで

創り上げる参加型フェスティバルです。市民の「生活」の向上をテーマに、都市で楽しむ「音

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楽」「映画」に加え、社会変化を加速させてきた「IT」、上質な「食」文化等の各分野および

それらの複合領域を対象とし、ライブ、カンファレンス、展示会などを組み合わせた実験的・

国際的な集約点を目指すというもので、まさにキーマンを集める、あるいは若者を中心とし

たキーマンを育てる絶好の環境ではないかと考えています。

キーマンとなり得るヒトは、好奇心が旺盛で、多様な文化や考え方にも柔軟に対応でき、

取り入れようとするオープンマインドを持ち合わせている方が多いように思います。そし

て、そのような方は得てして、オフィスにとどまらずに、地域や「078」のような空間に飛

び込んで行っています。みなさんもオープンマインドを持って、街に繰り出されてはいかが

でしょうか。キーマンとの素敵な出会いが待っているかもしれません。

6.さいごに

オープンガバメント社会の理想形としては、ハブになる自治体職員がいなくても、課題を

持つ住民と解決スキルを持つ住民同志が自然と結びつき、自律的に課題をテクノロジーで

解決する地域社会でしょう。果たして将来的にそこまでの状況に到達することができるの

か私にはわかりません。仮にできるとしても、まだかなりの労力と時間を費やさなければな

らないと思います。

私は現在の部署での勤務が間もなく3年になりますので、遅かれ早かれ別の部署へ異動

することになるでしょう。このコラムは私のこれまでの活動を振り返るとともに、後任者へ

の引継ぎの意味も込めて書き記しました。このコラムが少しでも神戸あるいは日本のオー

プンガバメント推進に資するものとなることを願っています。また、仮に異動したとしても、

その異動先でオープンガバメントに寄与できるような活動は続けていきたいと思います。

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別紙 2 「オープンガバメント」と地方公共団体の「働き方」をあわせて考えて

みる

北海道森町役場総務課情報管理係 係長

山形 巧哉

はじめに

北海道森町(もりまち)は、北海道南部渡島半島、函館市から北、車で一時間程度の場所

にあり、秀峰駒ヶ岳を囲み、内浦湾に面する、農業・漁業・水産加工業が基幹産業の町です。

2005 年の市町村合併時(旧森町と旧砂原町)には 2 万人弱だった人口も、現在は 1.6 万人

弱となりました。

当町では、東日本大震災をきっかけに、内部事務系システムのオンプレミス型による更新

を止め、当時の当町では未知の領域であった、クラウド型によるシステム導入、「データを

自庁舎内へ持たない」方向へと方針転換しました。

現時点で全てをクラウドへ移行できているわけでは無いにせよ、結果としてこれが近年

「働き方改革」の一部として見られるようになってきました。

実際のところ

みなさん、「働き方改革」と言えば、真っ先に思い描くのは「テレワーク」では無いでし

ょうか。

●ライフイベントと仕事の関係性改善 -子育て

・介護

・余暇の有効活用

●隙間時間の有効活用

・出張先やその移動時間

・外勤先での書類確認

●モチベーション向上

・職場環境改善

以上、簡単に掲げただけでも、メリットは多い様に見えます。

でも、当町の様な地方部では、非現実的な取り組みに見えてしまっているケース(ただし、

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これは地方(少なくとも森町)では、子育てや介護の時には休暇を、そもそも取りやすいと

いう環境があるからこそですが)も、本音として多いのでは、と感じています。

だからといって「テレワーク」を簡単に否定してしまうのは、非常に勿体無い。

この、「テレワークができる環境」、「テレワーク技術の利用」というのは、今後の社会にお

いて重要なポイントであり、そして、それが必然的に「オープンガバメント」へと、繋がっ

て行くものと考えています。

本稿では、当町における実例を基にしながら、この関係性を紐解いて行きたいと思います。

まずは森町の現状

森町では、役場本庁舎を中心に、その徒歩圏内(1km-2km)に住宅・生鮮食料品店・病院・

介護施設・駅・学校などの機能が集中している町であり、一見すると「コンパクトシティ」

の模範的なモデルの様にも見えます。

ただし、これはあくまでも理論上の話であり、夏場であればまだしも、吹雪の冬に徒歩で

歩き回るというのは、なかなか厳しく(森町は道内でも暖かく雪が少ない地域です)、コン

パクトでありながらも、町全体としては、基本的に自家用車中心の生活となっています。

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また、高齢者などのいわゆる交通弱者の方々にとっては、交通の便が悪く、醤油一本を買

いたいと思っても、丸一日仕事になってしまうケースもあります。

(場所によっては 8時間に 1本のバスを利用しなければならない地区もあり)

文書で書いてみると、ちょっと不便そうだな、と思えますが、ちょっと引いて考えた場合、

これらは本当に不便なことなのでしょうか。

近年インターネットの爆発的な利活用が進み、各種手続き・買い物がインターネット経由

でできるようになりました。

このおかげで、地方での生活は、飛躍的に利便性が向上し、私自身、昔あった都会への憧

れは、「飲んだ後に、公共交通機関で深夜に帰れて便利」という事ぐらいしか残っていない

かもしれません。

インターネットは現代の道路

私は「インターネットは現代の道路である」と捉えています。

以前は、欲しい服や電化製品がある、と言った場合、近隣市である函館市や、少し足をの

ばして札幌市まで行きましたが、現在はインターネット=仮想道路を利用して買い物に出か

ける事がほとんどです。

逆に、函館市の帰り、「ついでに」買っていたものが無くなったことで、町内での買い物が

増えました。

これは、インターネットの利活用が進んだことで「物理道路と仮想道路がシームレスになり、

動線が変わった」ということであり、出し尽くされた言葉ではありますが、インターネット

は世界中と繋がり、「異なる場所へ瞬間移動」しているとも言えます。

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次に、これを町内、先ほどの「8時間に 1本のバスを利用」しなければならない地区に置

き換えてみるとどうでしょうか。

少なくとも役所的な手続きは一瞬で終わるはずです。

今後、地域の高齢化が進み、自家用車を持たない家庭が増えるであろう考えられますが、

地方ではそれに人口減少も重なり、公共交通機関のこれ以上の発展は見込めません。

逆に、ICTを活用できる人々が、今後増加して行くことを考慮すれば、改めて、今、電子行

政に本腰を入れる時期なのではないでしょうか。

テレワーク環境とインターネット分離の関係性

話は変わり、2017年、マイナンバー制度が施行される直前、全国の自治体等では、「イン

ターネット分離(以下「ネット分離」)」が実施されました。

こちらについては、自治体内でも不満の声が多く聞こえ、私自身も、この発表があった当

時には、IoT・オープンデータ・ビッグデータといった、インターネットを利活用すること

が前提とされるのに、時代錯誤も甚だしい、と憤慨していましたが、取り組む中でその考え

は変化し、現在は、かなり肯定的に捉えています。

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今回の事業を突き詰めると、単純にネット分離するという事では無く、「原則公開すべき

データ」と「強固に守るべきデータ」の見極めに本質があり、それを実現させるには、現在

我々が行なっている業務の洗い出し・棚卸しの必要性をあることを痛感しました。

当町では、Microsoft 社の Office365(以下「O365」)を全面導入し、運用 3年がたった段

階でネット分離となり、分離後のインターネット側ではパブリッククラウドでのフルクラ

ウド化がされております。

ネット分離後は、データに対して「公開前提なのか保護前提なのか」の概念ができたこと

により、より柔軟な利活用が可能となり、職員は O365を利用した「テレワークができる環

境=テレワーク技術の活用環境」を手に入れることができました。

仕事の種類

行政の仕事は、住民情報を取り扱う職種が基本的には多いと思いますが、このような個人

情報や機密情報を取り扱う仕事だけではありません。

「公開前提なのか保護前提なのか」の概念に立ち、当町の部署ベースで業務を分けるとす

ると、およそ 3:7(公開前提:保護前提)の割合となります。

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まず、自治体は、テレワーク等を導入しようとする際に「在宅ワークできる部署なんて一

定だけ」「在宅や外出先で全ての仕事なんてできない」「機密事項はどうアクセスするのだ」

というジレンマに陥ると思われます。

しかし考えてみてください。

在宅ワークできる部署なんて一部だけ=無理してやらなければ良い

在宅や外出先で全ての仕事なんてできない=やる必要ありません

機密事項はどうアクセスするのだ=重要情報に外からアクセスする方がおかしい

こういう視点で見てみればいかがでしょうか。

このように見て行くと、本当にテレワーク技術の活用は必要なのか、本当にごく一部の部

署でしかできないのではないか、と、そもそもこの考え自体が意味のないものに思えるかも

しれません。

しかし、私が行った当町の環境での試算をみてください。

業務ケース

職員 250人のうち、O365を活用したテレワーク技術の業務利用が 80名程度であり、そ

のうちの 1 割の職員 8 名が日常的にデジタルカメラで写真を撮り、それを庁舎内に持ち

込む。持ち込みは 4MB の写真 1枚と仮定。

なお、ネット分離から USBメモリ(デジタルカメラもリムーバブルディスク扱い)等か

らのデータ取り込みは庁舎情報管理部門に設置してある特定端末でのみ可能

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この場合、「部署への移動取込 5 分*月 5 回*12 ヶ月*8 名=年 2400 分間の業務量」になり

ます。

これが O365の機能である OneDrive for Business を利用した場合、「アップロード時間 1

分*月 5回*12 ヶ月*8名=年 480分間の業務量」となり、1920分=32時間の差が生まれます。

当町の規模でも、です。

※なお、当町でパブリッククラウドを採用した理由の一つとしてセキュリティがあります。このようにデ

ータをアップロードし、万が一それがウィルス感染していたと仮定した場合、システム上アップロードは

されても、危険なファイルをダウンロードすることができないなど、むしろ直接 USBを差し込むよりも WEB

をかえすことで、多重防御にも繋がります。

このように、テレワーク技術の有効活用は全ての部署で利活用できなくとも、そして全て

の業務で無理に利用することはなくても、大きな効果を発揮することができます。

ただし、これは特別なことではなく、現在の常識的な技術を使っているにすぎません。

常識的なことに改革の必要は無く、しかし、時代に合わせる必要はある

あくまでもポジティブな考えとして、当町規模の町では働き方改革はまだまだ先の話で

あると考えます。当然抜本的な働き方の改革は来ると考えられますが、それは今ではなく、

今まさに必要なのは、「現在の常識」に合わせるということです。

オープンデータにしてもですが、データの必要性とその重要性を理解するためには、実際

に自分たちが触り・活用し出さなければその効果を想像することはできません。ましてや、

私たちが、それを住民の方々に説明することも難しいはずです。

ネットワーク分離により、データの棲み分けを行い、公開前提のネットワーク内で、今の

時代のツールを有効活用した働き方を実施。

これにより紙媒体文化から、データ文化への移行がスタートすることで、我々職員のデー

タを扱うという概念が構築され、ある意味データプロバイダである行政の形が作り上げら

れていくのではないでしょうか。

これにより、保護前提ネットワーク内に対する考え方も、現在とは違うものに変わって行

くのかもしれません。

オープンデータの活用の可能性

公開前提のネットワークで、かつクラウドの活用といえば、当町で実証実験に参加してい

る「ひぐまっぷ」を述べなくてはなりません。

これは、ヒグマの出没状況及びその生態を調査研究するためのものであり、現在、北海道

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道南地方 20市町村が参加している実証実験です。

詳 細 に つ い て は 「 ひ ぐ ま っ ぷ 、 は じ ま っ て ま す

(https://www.slideshare.net/kawando/foss4g-79835496)」ご覧いただければと思います

が、従来紙媒体で行われていた事務を複数市町村が参加しクラウド化することで業務効率

が大幅に改善されました。

あくまでも試算ですが、業務の効率化によって、地域全体で 66%のコスト削減が図られ、

このほか、これまで別途、出没場所の GIS化作業を行っていた市町村であればさらにコスト

ダウンが図られます。

さらに、大きいのが、最初からデータ志向で業務が行われているということです。

これにより、データベースから機械的に利用しやすい形で、直接 CSVファイルを取り出す

ことが可能となり、各市町村は簡単にそれをオープンデータ化することも可能になりまし

た。(ただし現状オープンデータ化しているのは北海道森町のみ)

オープンデータでなにが変わる

森町で本情報をオープンデータ化したことで、それを活用した LINE botの[ひぐまっぷ bot]

が制作され、さらには新しい業務手法の提案を受けました。

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従来、ヒグマの目撃情報は電話や訪問により目撃情報が寄せられておりましたが、本シス

テムを活用することで、LINE から直接発見位置や写真の添付が可能になっています。これ

らは我々が想定していなかったものであり、今後を考えればひぐまっぷでの活用を十分に

できるものであると考えています。

また、これは生駒市の学校給食のオープンデータを活用した「 4919 for ikoma

(http://4919.jp/)」にも同じことが言えるのではないでしょうか。

このようにオープンデータを公開することで必ずしもアプリケーションが制作される訳

ではないにしても、新しい気付きなどが生まれる可能性は 0から 1になります。

おわりに

私たちは現在、過渡期にいると考えます。

これから、「今どうするか」によって、今後の未来が大きく変わるように思えてなりませ

ん。 私たち行政が常識と言っていた手法は、現代の若者にとっての非常識になりつつあり

ます。とは言っても、古いものがダメということでは無く、あくまでも現在の主流に寄せて

行くということです。(個人的な活動として、町の過去をアーカイブする活動も行なっては

いますが、それは、現代の技術で、「未来の人が過去を知るため」の活動です。)

既に、データが重視される時代に突入しています。今がチャンスとし、我々行政も、デー

タに対する考え方を一緒に見直して行きませんか?

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別紙 3 広域自治体で取り組むオープンデータ ~さがみオープンデータ推進研

究会の歩み~

さがみオープンデータ推進研究会の設立経緯

さがみオープンデータ推進研究会は、神奈川県県央地域でのオープンデータの取組を推

進するために、平成27年1月に相模原市、秦野市、厚木市、大和市、伊勢原市、海老名

市、座間市、綾瀬市、愛川町、清川村の10自治体と神奈川工科大学、東京工芸大学、青

山学院大学の3大学が設立しました。本研究会では、オープンデータの取組を広域的に行

うことで、住民の利便性向上、地域活性化につながる新しいビジネスモデルの形成などを

目指しています。

主な取組として、世界各地で開催されるオープンデータ推進イベント「インターナショ

ナルオープンデータデイ」に合わせ、「さがみオープンデータデイ」を毎年開催していま

す。

統一のフォーマットでデータを公開するまでの道のり

平成29年12月、本研究会の目標の一つであった統一フォーマットでのデータ公開が

実現しました。公開したデータは、「朝市/野菜等販売所情報」「公立小・中学校の取組情

報」「子どもの相談窓口情報」「サービス事業所情報」の4種類です。

研究会の取組を進めるにあたっては、住民や企業・団体はどんなデータに利用価値を見

出すのかを知る必要がありました。このため、利活用が期待できるデータやその活用方法

について、広くアイデアを募集する等のために始めたのが、「さがみオープンデータデ

イ」です。

平成27年2月に初めて開催した「さがみオープンデータデイ2015」では、いかに

してオープンデータを活用するかをテーマにアイデアソンを行いました。翌年は、テーマ

とする分野を変え、前年と同様にアイデアソンを実施しました。

そして「さがみオープンデータデイ2017」では、前2ヶ年とテーマを変更し、オー

プンデータの利活用を考えている企業や団体を対象とし、民間企業等において利用価値の

高い県央地区の“データ”についてグループ討議を行いました。平成27年度と28年度

にデータ利活用方法のアイデアソンを行い、オープンデータの活用方法についての理解が

深まったため、いよいよ研究会としてデータを公開するステップに踏み出したのです。こ

のグループ討議の結果、9テーマ30データが研究会で公開する候補となりました。

さがみオープンデータデイ2017のグループ討議により公開するデータの候補が決ま

りましたが、実際に公開するためには、各データの項目を研究会として統一する必要があ

りました。本来は候補となったデータのすべてについて項目を統一し、公開することが望

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ましいのですが、これまでオープンデータを公開していない自治体もある中で、すべてを

公開するには作業負担が大きく、ハードルが高かったため、まずはデータの種類を絞るこ

とにしました。

そして、候補となった30データのそれぞれについて、より多くの自治体が公開するこ

とができるデータを検討し、4種類のデータを選定しました。その中でも、他自治体にお

ける公開例が少ない「朝市/野菜等販売所情報」を選定したことが一つのポイントです。

各データの項目は、「利用者が利用しやすい構成とすること」、「多くの自治体が公開で

きることに重点を置いて決定しました。すべてのデータに共通しているのは『団体コー

ド』と『団体名』で、複数自治体のデータが利用されることを前提に作成した項目です。

また、データ項目を必須項目と任意項目に分け、必須項目には必ず値が入るよう統一する

ことで、データの使いやすさを意識しました。

また、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のアドバイスもいただきながら検討を

進め、平成29年12月、さがみオープンデータ推進研究会として初めて、統一フォーマ

ットのデータ公開が実現しました。そして、平成30年3月時点では、構成自治体のうち

8市町がデータの公開を行っています。

公開に当たっては、神奈川県にも協力いただき、神奈川県のホームページに研究会のコ

ーナーを作成していただきました。ここには、各自治体のオープンデータ公開ページへの

リンクが掲載されており、より多くの方に本研究会の活動を周知する場となっています。

今後も、10市町村で公開するデータの拡充を進めていきたいと考えています。

さがみオープンデータデイ2018

~わたしのまちってどんなところ??プログラミングから始めるオープンデータ~

平成30年3月10日(土)に、相模原市南区合同庁舎において、「さがみオープンデ

ータデイ2018」を開催しました。平成27年2月から毎年テーマを変えながら、3回

アイデアソンを開催してきましたが、今回はオープンデータの利活用に繋がるイベントを

開催したいという想いがありました。このため、「わたしたちのまちってどんなとこ

ろ??プログラミングから始めるオープンデータ」と題し、オープンデータを利活用する

ために必要となるデータの加工方法やプログラミングを学ぶ内容とし、小学生も理解でき

るプログラミング言語「スクラッチ」を使い、県央地域に住む子どもとその保護者を対象

としたイベントとしました。

まずは基調講演として、『オープンデータって何?~今日のイベントがもっと楽しくな

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る話~』と題し、本研究会にオブザーバーとして参加いただいている一般社団法人オープ

ン・コーポレイツ・ジャパン 常務理事 藤井 博之 氏に、今、話題のAIアシスタント

「Clova Friends」を用いながら、オープンデータの定義や、データの活用事例について

ご講演いただきました。

「オープンデータ」という言葉に馴染みの少ない方には、オープンデータを理解してい

ただく良いきっかけになりました。

次にデータ利用講座として、『オープンデータを使ってみよう』と題し、青山学院大学

社会情報学部客員研究員 上野 亮 氏に、オープンデータの取得・利用方法を解説してい

ただきました。会場に用意したパソコンに、実際に各市町村のホームページからオープン

データをダウンロードしていただくことで、自分が住む市町村がどんなデータを公開して

いるのか、また行政がどんなデータを保有しているかを知ってもらうことができました。

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最後に、『プログラミングから始めるオープンデータ』と題し、相模原市教育委員会総

合学習センター 渡邊 茂一 氏に、スクラッチを使用したプログラミング教室を開催して

いただきました。

パソコンを使用し、オリジナルのシューティングゲームを作ってみる、といった内容

で、大人も子どもも夢中になっていました。ポイントを集計してランキング形式で表示し

たり、敵キャラクターの動きを速めゲームの難易度を上げるなど、楽しみながら様々な工

夫を凝らしたゲームを作成していました。プログラミングの経験がない子どもたちにも、

講義を通して、プログラミングは身近なものであると感じるとともに、オープンデータの

活用に有効なプログラミングについての理解が深まりました。

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さがみオープンデータデイ2018は、一般市民43名の方にご参加いただき、大盛況

のうちに幕を閉じることができました。

今回参加してくださった皆さまが、将来的にオープンデータを活用した地域課題の解決

に取り組むきっかけを作ることができたと感じています。

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別紙 4 ラウンドテーブル実施概要

【開催趣旨】

近年の公共データ活用推進により、行政の透明化・信頼性の向上、国民参加・官民協働の

推進、経済の活性化・行政の効率化が三位一体で進むことが期待されている。2016年 12月

には日本版オープンデータを支える官民データ活用推進基本法が成立し、オープンデータ

の利活用に注目が集まってきている。一方、データを公開する側はどこまでデータを公開し

てよいのか、公開することに価値があるデータはどのようなものか等、データ公開に対して

課題を抱えていることも事実である。

本事業ではデータを公開する側とデータを利用する側の人材を集め、ラウンドテーブル

形式で直接対話し、オープンデータに係る要望の把握、利活用に関する議論を整理すること

を目的とする。

【開催日程】

1.日時 2018年 3月 16日(金) 15:00~18:00

2.場所 経済産業省 本館7階 商情局会議室1

3.出席者※敬称略

(経済産業省)

吉田 泰己 商務情報政策局総務課情報プロジェクト室 室長補佐

平本 健二 政府 CIO上席補佐官 経済産業省 CIO補佐官

(企業関係者)

割愛

4.議題

経済産業省としては行政サービスが本当に使いやすいサービスを提供できているのか。

手続きやデータのデジタル化と言っても実際は PDF を利用していることが多く、それは本

当に効率化できていると言えるのか、デジタルデータの流用性を活かしきれていないので

はないかと懸念している。また行政がデジタルデータを活かせていない、デジタル化したサ

ービスを提供できていないがために、民間企業や一般市民の利便性を失っているのではな

いかと懸念している。そのような背景の中、行政として抱えている課題は以下 3点に集約さ

れると認識している

1.行政自身の効率化

2.民間における生産性向上

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3.新たな技術・手法の先導的導入

またそのような課題を行政が抱える中に行政としての API サービスについても問わ

れている事実もあり、本会議では行政が提供する API について意見を交換したく、現在

公開している法人インフォメーションの今後の利用/拡張性、申請手続きの API化への

要望や公共インフラとしての情報プラットフォームのあり方(プラットフォームの必要

性、業界内データ連携における役割)議論をしたいと思っている。

5.議論内容

実作業のデジタル化

・紙に記載している内容をデジタル入力させる

・入力したデータは用途に応じて検索、可視化可能にしてストアする

標準化への課題

・データの構造体を共通化するためにもデータのコーパスが必要

・利便性や拡張性を考慮した APIのインターフェースが必要

・データ品質を保つためのしくみが必要

施策アプローチ(プラットフォーム構築や API展開について)

・利用するユーザーや企業に対してインセンティブやメリットがなければ活用されない

・大きく作るのではなく、小さく作って育てていく

・実際の現場の現状を理解して、そのニーズを解決できる施策アプローチを

6.企業からの要望

・今後の利活用や課題分析のためにデータの蓄積を進めてほしい

・少し便利ではなく、圧倒的に便利であるものを作っていってほしい。

・現場目線のデータセット提供

・実務フローの明確化、改善

・官民の責任範囲を明確化

・各省庁で共通のアーキテクトを展開(省庁別にインターフェースが異ならない)

・データ活用のポリシーガイドラインを作成

・施策を進める際は個人や企業など様々な人間を巻き込んだ上で進めてほしい