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1 アアアアアアアアアアアア アアア アアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアア アアアアアアア 2008 ア 9 ア 8 アア アア アアアア アアア アアアアア アアアアアアア ・・

アメリカの大手商業銀行の ローン・セールとディリバティブ業務

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アメリカの大手商業銀行の ローン・セールとディリバティブ業務. マネー・センター・バンクを中心に. 日本証券経済研究所 証券経営研究会 2008 年 9 月 8 日(月) 掛下達郎. 1.  対象と視角. 1990 年代以降の世界の金融業を牽引してきたアメリカ合衆国のマネー・センター・バンクの収益力の源(マーケット・メーカーとしての役割)を探る 1990 年代には日本の金融機関は不良債権処理に追われており,たとえば拓銀,長銀,日債銀まで破綻し,破綻を免れた他の大手行も国から大規模な公的資金注入を受けている。 - PowerPoint PPT Presentation

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1

アメリカの大手商業銀行のローン・セールとディリバティブ業務

日本証券経済研究所証券経営研究会2008 年 9 月 8 日(月)

掛下達郎

マネー・センター・バンクを中心に

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2

1.  対象と視角 1990 年代以降の世界の金融業を牽引してきた

アメリカ合衆国のマネー・センター・バンクの収益力の源(マーケット・メーカーとしての役割)を探る

1990 年代には日本の金融機関は不良債権処理に追われており,たとえば拓銀,長銀,日債銀まで破綻し,破綻を免れた他の大手行も国から大規模な公的資金注入を受けている。

アメリカのマネー・センター・バンクは 1980 -90 年代にローン・セール,金利スワップ,クレジット・ディリバティブ(以下クレデリ)を導入して業務展開を進めて収益を改善している。

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報告者はローン・セール,金利スワップ,クレデリという業務展開を一連のものと捉えており,先行研究を整理しながら,それぞれの業務展開を歴史的に考察していく。

図1 ローン・セール , 金利スワップ , クレジット・ディリバティブの概念図

銀行 → → 企業

↓ ↓ 金 利 ↓ クレジット・ スワップ ローン・セール ディリバティブ

↓ ↓ ↓ 第3者 第3者 第3者

金 利 リスク

信 用 リスク

貸出債権そのもの

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先行研究 誘因整合的ローン・セール・モデルにより

暗黙の契約を計測してローン・セール市場の始まりを説明した Gorton and Pennacchi 〔 1990 〕

金利ディリバティブの利用が銀行ローンを増加させたことを計測した Brewer III, Minton and Moser 〔 1994a, 1994b, 1996, 2000 〕

銀行のリスク軽減を扱ったSchuermann 〔 2004 〕,銀行から保険会社へのリスク移転を指摘したAllen and Gale 〔 2004 〕

これらの先行研究においては,それぞれの業務は個々に扱われてきており,その全体像は必ずしも明らかではない。

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5

これら3つの業務を全体として捉えた場合に,どのような特徴点が浮かび上がってくるのか,それがアメリカのマネー・センター・バンクの収益力にどのように関わってくるのか

① 危機から新たな業務展開が生じていたこと

② その3つの業務展開とは貸出債権のリスクを第3者に移転する途であり,これらのリスク移転が3つの業務で段階的に開けたこと

本報告で考察する課題

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③ その結果,伝統的な収益源であった金利収入から,投資銀行業務手数料と取引収益(保有期間が 1 年未満のポジションから得られた利益)という非金利収入への収益源の移行が起こったこと

これら3点が相互にどのように関連していたのか,そしてそれがマネー・センター・バンクの収益力にどのように寄与していったのかを分析する。

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第2節で,マネー・センター・バンクの銀行業務の全体像と,ローン・セール,金利スワップ,クレデリの位置づけを整理する。

第3節ではローン・セール, 第4節では金利スワップ, 第5節ではクレデリの各業務において本報告の

課題を考察する。そして,3つの課題と3つの業務の相互関係とそれらがアメリカのマネー・センター・バンクの収益力へどのように結びついていたかがわかるような歴史的分析をおこなう。

第6節 本研究のまとめ

本報告の構成

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表1 商業銀行の収益とローン・セールとディリバティブ市場の規模  1995 - 2004 年(単位: 10 億ドル)

2.   商業銀行の収益と業務展開

( 注 ) と ( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

1995 1998 2001 2004

総収益(括弧内は総収益に占める非金利収入の比率%)    FDIC加入商業銀行    J.P. Morgan Chase    Citibank    Bank of America

237( 34.8)

15 (45.2) 1 )

15( 34.2)

9( 35.6)

307( 40.4)

13( 46.

9)

17( 45.5)

12( 37.

7)

373( 42.4)

21( 55.1)

36( 40.0)

31( 40.6)

434( 42.4)

29( 58.0)

42( 46.4)

32( 38.9)

  ローン・セール(取引高)        34

78 118 156

   金 利 BIS Triennial Survey 2 )

スワップ  OCC 3 )

          14

5,945 4 )

3113,590

8224,401

19754,048

  クレデリOCC 5 ) 144 395 2,347

CDOs           1

48 167 265

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9

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

 総 計

預金手数料(国内)取引収益  金利関連  外為関連投資銀行業務手数料証券化収入(ネット)ローン・リース売却収入 (ネット)

19.6 5.7 2.5 3.2

16.84.51.23.0

15.9 5.1 2.0 2.6

16.1 6.1 2.0 3.1

18.1 7.6 3.5 3.3

17.9 6.3 2.6 3.0 4.3

14.0 4.7

17.8 5.1 0.9 3.8 4.4

14.3 7.2

17.0 6.8 1.1 3.9 6.0

13.1 3.7

16.2 9.1 3.4 3.5 5.6

12.0 2.9

16.3 11.4 2.9 4.2 6.3

10.2 4.1

1億ドル未満

預金手数料(国内)取引収益  金利関連  外為関連投資銀行業務手数料証券化収入(ネット)ローン・リース売却収入 (ネット)

22.6 0.0 0.0 0.0

16.5 0.6 0.6 0.0

16.7 0.6 0.6 0.0

23.1 0.3 0.3 0.0

26.8 0.0 0.0 0.0

28.7 0.0 0.0 0.0 0.5 1.0 3.6

21.7 0.0 0.0 0.0 0.4 0.9 1.9

35.2 0.0 0.0 0.0 0.7 0.0 1.8

31.5 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 2.7

26.2 0.0 0.0 0.0 0.6 0.0 3.1

1~10億ドル

預金手数料(国内)取引収益  金利関連  外為関連投資銀行業務手数料証券化収入(ネット)ローン・リース売却収入 (ネット)

22.1 0.5 0.5 0.0

20.5 0.5 0.5 0.0

18.2 0.2 0.2 0.0

19.8 1.3 1.3 0.0

20.9 0.8 0.1 0.0

20.6 0.0 0.1 0.0 1.3 6.2 6.4

18.8 0.2 0.1 0.0 1.1 4.9 6.1

26.1 0.1 0.1 0.0 1.5 8.0 6.8

26.4 0.1 0.1 0.0 1.7 8.4 5.4

26.9 0.2 0.1 0.0 2.0

12.5 4.6

10~100億ドル

預金手数料(国内)取引収益  金利関連  外為関連投資銀行業務手数料証券化収入(ネット)ローン・リース売却収入 (ネット)

17.7 0.8 0.5 0.1

12.1 0.7 0.4 0.1

14.6 1.1 0.8 0.0

13.1 0.8 0.5 0.1

14.2 0.2 0.1 0.1

13.2 0.3 0.1 0.0 1.5 10.2 14.4

15.4 0.5 0.4 0.0 2.1 3.4 16.1

14.4 0.5 0.4 0.0 2.0 3.2 21.4

13.7 0.4 0.2 0.1 1.7 0.9 24.1

17.7 0.5 0.2 0.0 1.8 1.7 32.3

100億ドル超

預金手数料(国内)取引収益  金利関連  外為関連投資銀行業務手数料証券化収入(ネット)ローン・リース売却収入 (ネット)

19.8 7.6 3.2 4.3

17.8 5.8 1.4 4.1

15.9 6.2 2.3 3.3

16.2 7.3 2.2 3.7

17.4 8.9 4.0 3.8

18.2 7.5 3.1 3.5 4.9

15.1 3.4

17.9 5.9 1.0 4.4 4.8

16.2 6.5

16.7 7.7 1.1 4.4 6.6

14.1 2.1

16.0 10.1 3.8 3.9 6.0

12.9 1.3

15.8 12.3 3.1 4.5 6.7

10.5 2.7

(

注)

と(

出所)

についてはフルペーパーを参照されたい。

表2 国法銀行の非金利収入の内訳 1997―

2006

年                          

       (単位:%)

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1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

J.P. Morgan Chase

信託収入預金手数料(国内)取引収益  金利関連  外為関連株式・インデックス商品その他関連投資銀行業務手数料サービシング収入(ネット)証券化収入(ネット)保険関連ローン・リース売却収入 (ネット)

21.8 4.8 23.4 6.6 16.3 0.3

0.2

18.8 3.9 25.1 8.4 10.3 0.5 5.9

17.1 8.9 26.9 8.9 10.9 1.9

5.2

20.4 8.5 37.7 22.2 5.3 9.6 0.6

19.1 -3.3 0.1 0.1

-1.0

20.6 9.2 27.2 19.3 6.5 1.8 -0.416.1 0.7 1.7 0.1 3.8

16.9 8.0 31.4 24.2 2.0 4.4 0.815.8 0.5 1.2 0.1 5.0

15.6 10.9 19.5 6.8 7.3 4.6 0.915.3 1.6 4.9 0.1 2.2

10.7 9.7 22.2 11.5 4.0 5.4 1.1

14.4 2.7 4.9 0.3

0.9

8.2 8.4

30.0 12.6 4.8

10.12.6

15.7 1.9 6.2 0.3 0.1

Citibank

信託収入預金手数料(国内)取引収益  金利関連  外為関連株式・インデックス商品その他関連投資銀行業務手数料注 )

サービシング収入(ネット)証券化収入(ネット)保険関連ローン・リース売却収入 (ネット)

8.7 3.8 24.3 4.1 17.8 2.3 0.0

6.1 3.2 24.8 7.8 14.1 2.9 0.0

5.2 2.1 20.6 4.6 11.5 4.5 0.0

11.3 3.1 30.0 11.7 16.2 2.1 0.0

37.1 7.8 3.0 3.2 0.3

8.2 2.8 23.0 7.6 12.9 1.4 1.321.111.4 13.1 3.6 1.5

8.8 2.5 18.2 -3.6 21.5 0.8 -0.5

35.4 13.6 15.9 4.9 0.9

7.6 1.9 12.5 3.8 8.1 1.0 -0.4

10.5 12.4 14.2 4.8 0.1

7.6 1.6 17.0 1.7 12.0 2.7 0.6

32.9 8.8 17.8 4.6 1.1

10.3 2.9 21.4 -7.1 21.3 7.0 0.2

43.8 6.2 0.3 6.0 0.9

Bank of America

信託収入預金手数料(国内)取引収益  金利関連  外為関連株式・インデックス商品その他関連投資銀行業務手数料サービシング収入(ネット)証券化収入(ネット)保険関連ローン・リース売却収入 (ネット)

5.9 28.9 4.9 -3.1 8.3 0.0-0.3

9.5 33.9 10.4 4.6 5.2 0.5 0.2

10.3 38.7 11.1 3.2 4.8 2.4 0.6

6.436.5 12.8 4.8 3.7 2.9 1.4 8.3 18.2 0.0 0.0 0.0

5.8 40.3 12.3 5.4 4.0 2.1 0.7 8.6 17.3 0.0 0.8 4.6

4.738.8 7.9 2.8 3.6 2.0 -0.4 8.4 16.3 0.0 0.7 7.1

5.5 47.5 13.1 4.1 4.9 3.7 0.412.4 7.1 0.0 0.9-0.3

6.2 40.5 11.1 3.5 4.0 3.0 0.7

12.0 8.1 0.0 1.2 1.9

5.4 38.6 13.0 4.1 3.4 4.3 1.2

13.1 7.4 0.0 1.0 0.7

表3 マネー・センター・バンク3行の非金利収入の内訳

    1998―

2006年            

     (単位:%)

(

注)

と(

出所)

についてはフルペーパーを参照されたい。

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11

現在の総資産 100 億ドル超の大規模国法銀行とマネー・センター・バンクの非金利収入の特徴の1つは,投資銀行手数料と取引収益にあるというのが本稿の課題③の詳細である。

金利スワップの取引収益は,取引収益の中の金利関連のものにほぼ対応している。

クレデリの取引収益は,取引収益の中の商品その他関連に対応している。

総資産 100 億ドル未満の国法銀行では投資銀行業務手数料と取引収益が極端に少なくなっている。一方,総資産 100 億ドル超の大規模国法銀行とマネー・センター・バンクの投資銀行手数料と取引収益は,各行でバラツキがあるものの一定の規模に達している(表2,表3)。

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マネー・センター・バンクのローン・セール,金利スワップ,クレデリの3商品は 1990年代以降どのように推移しているのだろうか?

近年,マネー・センター・バンクのローン・セールについては販売額が公表されておらず,ローン・セール目的で一時保有しているローン額(リースを含む)を参考にしている。

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表4 マネー・センター・バンク3行の総資産と比較したローン・セール    とディリバティブ取引  1998 - 2006 年末 (単位:%)

1998199

9200

0200

1200

2200

3200

4200

52006

J.P. Morgan Chase

    ローン・セール1 )

    (対総ローン・リース%)    金利スワップ    クレデリ2 )

      保証人      受取人

1,674854

2,168854

2,354734

1(3)

2,623

512723

4(16)2,77

4592831

3(13)3,71

7924448

3(7)

2,984

1105555

3(9)

2,962

227113114

5 (15)3,353 395 195 199

Citibank

    ローン・セール1 )

    (対総ローン・リース%)    金利スワップ    クレデリ2 )

      保証人      受取人

287927

30013

49

51318

611

1(2)

66115

87

2(3)

922241311

1(2)

1,105

2915

13

1(1)

1,424

693336

0(1)

1,861

1205764

1 (2)1,454 162 79 83

Bank of America

      ローン・セール1 )

    (対総ローン・リース%)    金利スワップ    クレデリ2 )

      保証人      受取人

19100

66422

74825

2(3)7910

38

2(4)

10217

611

1(3)

12922

913

1(2)

113652837

1(2)68

18875

113

2 (3) 93127 66 60

( 注 ) と ( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

Page 14: アメリカの大手商業銀行の ローン・セールとディリバティブ業務

14

表5 ニューヨーク市マネー・センター・バンク6行の    ローン・セール  1985 年

単位 10億ドル1 )

商工業貸付と比較した比率 (% )

2 )

CiticorpChase ManhattanManufacturers

HanoverJ.P. MorganChemicalBankers Trust

 計

$ 8.0$ 3.0 3 )

$ 1.0$ 2.0$ 1.2$ 2.5$ 17.7

6727 8     Citicorpを30     除いた平均は12     22%である。3229

( 注 ) と ( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

Page 15: アメリカの大手商業銀行の ローン・セールとディリバティブ業務

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現在,マネー・センター・バンクの業務において,ローン・セールが重要な位置を占めているとはいえない。

次節でみるローン・セールの初期の歴史ではマネー・センター・バンクは大きな役割を果たしており,それがこの数字に表れているのであろう。

マネー・センター・バンクは金利スワップ,クレデリを積極的に利用している。

総資産 100 億ドル超の大国法銀行にディリバティブ取引が集中している。

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3.  ローン・セール

ローン・セールは 1980 年代には積極的に活用されたが, 90 年代以降マネー・センター・バンクが80 年代のように利用した形跡はない。

( 1 )ローン・セールの歴史 ローン・セールそれ自身は,商業銀行にとって目

新しい業務ではなく,1世紀以上も続く古い業務である。しかし, 1983 年以前には伝統的なコルレス・ネットワーク内での取引,とくに オーバーライン(貸出の総量規制)のためのローン・セールにほぼ限定されていた。

Page 17: アメリカの大手商業銀行の ローン・セールとディリバティブ業務

17

商業銀行はローンを売却するときに長い間パーティシペーション(協調融資)を利用してきた。

古い形のパーティシペーションは,主貸出銀行( lead bank )が他の銀行のために交渉するシンジケート団組成であった。

1955 年には,加盟銀行によるターム・ローン額の 31.5% がパーティシペーション形式であった( 1946 年とほぼ同じ)。

パーティシペーション(協調融資)

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オーバーライン(貸出の総量規制)

1977 年の ABA の調査によると,回答した銀行の 51%が,オーバーラインのローンは上流のコルレス銀行向けポートフォリオの 81~ 100%に達している。

同じく 75%が,オーバーラインは流動性にもとづいたローン・セールよりも一般的としている。

パーティシペーションとは,おもに中小銀行がオーバーラインのために大銀行に売却したものであった

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表8 ラテン・アメリカ四大債務国の累積債務に占める    銀行融資(シンジケート・ローン)(単位: 10億ドル)

ブラジル メキシコ アルゼンチン

ベネズエラ

各国銀行融資(1982年末 )

71.1 (74.5% )

72.0 (79.1% )

26.1 (67.5% )

28.2 (87.6% )

米国銀行融資(1986年 10

月 )

23.7 (38.6% )

24.2 (42.0% )

7.7 (34.5% )

4.7 (26.5% )( 注 )  括弧内は上段が対外総債務に占める各国銀行融資の比率,

    下段が主要債権国の銀行融資に占める米国銀行融資の比率( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

米銀はラテン・アメリカの累積債務国にたいする最大の貸し手であった。

Page 20: アメリカの大手商業銀行の ローン・セールとディリバティブ業務

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米銀の内訳は,四大債務国にたいする 1986年末残高でみると, Citicorp , Bank of America , Manufacturers Hanover ,Chase Manhattan等の上位7行で 75.5% を占めている。

マネー・センター・バンクは,ラテン・アメリカにたいする銀行貸出をそのまま放置せず,不十分ではあったが貸出債権の株式化や債権のスワップによって第3者に譲渡している。

こうして,ローン・セール市場は金融危機の1983 年頃から急速に成長している。

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ローン・セールにたいする代表的な疑問 ローン・セールの際には,一般的に債務者である顧客への通知とその承諾が必要である。優良顧客は債権者の変更を嫌い,最悪の場合その銀行との取引をやめる可能性がある。

「なぜ我々が自行の優良貸付を他者に売ることを望むのか? 我々は依然として優良顧客を探しており,優良顧客は世界でも多数は存在しない」

ローン・セールによって,リレーションシップ・バンキングを放棄する売り手銀行は愚かである。売却銀行は最良の資産を売却することによって自行を弱体化させている。

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( 2 )ローン・セールの動機

通常,ローン・セールされるものは,銀行の既存の貸付ポートフォリオではなく,1980 年代後半になると,新しくオリジネートされたものが多くなっている。

ローン・セール市場は,初期の段階では途上国向けのシンジケート・ローンが中心であった。これは当初から売却を前提として組成されたものではなかった。

Page 23: アメリカの大手商業銀行の ローン・セールとディリバティブ業務

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M&A (合併・買収)ローン

その後は国内向けで BBB格以上の投資適格の商工業貸付が主となる。

1986 年には, M&A ローンが,大銀行のローン・セールの 33%超 であった。

マネー・センター・バンクのローン・セールでは, 1986 年に 50%以上が, 87 年3月に 40%が M&A ローンであった。

この時期の M&A は大規模化しており,おもにマネー・センター・バンクのような大銀行が主幹事となってシンジケート団を組成して融資をおこなった。

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24

1989 年に M&A ローンはローン・セール全体の 44.5%というピークに達した。

M&A ローンの主たるものはLBO ( leveraged buyouts )ローンであり, M&A ,とくに LBO ローンには新しくオリジネートされ当初から売却を前提として組成されたものが多数含まれている。

1991 年に M&A ローンはローン・セール全体の 22.0%というボトムにまで減少した。これは 1980 年代後半のローン・セール市場の隆盛が M&A ローンによってささえられていたことを示唆している。

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自己資本比率

1988 - 93 年に,売却と購入の両方をおこなっている銀行は,売買をおこなっていない銀行より,自己資本にたいするリスク資産比率を約7%または8%下げることができた。

1988 - 93 年に,売却と購入の両方をおこなっている銀行は,売却だけの銀行より,自己資本比率を約 1.0 ~ 1.3 %下げることができた。

以上 Cebenoyan and Strahan (2004)

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投資銀行業務手数料 一般に, LBO ローンの一般債務の金利は LIBOR

の 2~ 2.5%高 で,取引手数料は貸付額の約 2%であった。 LBO ローンの金利・手数料は,伝統的な企業貸付より通常かなり高かった。

1988 年の RJR Nabisco の場合には,当時マネー・センター・バンクであった Manufacturers Hanover を主幹事とした 200余りの銀行が 145 億ドルの一般債務を提供して, 3 億 2,500万ドルの代理店手数料とファシリティ・フィー, 7,300万ドルの年間契約料を受け取った。さらに,取引が実現されなくても, 1億 5,000万ドルの解約手数料が課されていた。

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ローン・セールは,伝統的な商業貸出から投資銀行の考え方へと売却銀行の文化を転換させる特効薬となった。

しかし,ローン・セールが彼らの主要な銀行業務として定着することはなかった。

( 3 )小括 中南米諸国の累積債務危機を契機にローン・セ

ールという新たな業務展開が生じた(課題①)。 ローン・セールはリスクを含む貸出債権そのも

のを第3者に移転するものである(課題②)。

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債務危機後は,売却を前提として組成されたM&A ローンがローン・セール市場をささえた。

その結果,伝統的な収益源であった金利収入から投資銀行業務手数料という非金利収入への収益源の移行が起こった(課題③)。

この収益力を保つ能力がマネー・センター・バンクの強さである。

しかし,大型 LBO がおこなわれなくなると,ローン・セールも下火になった。

これにたいして,銀行貸付を既存の貸付ポートフォリオに残したままで,貸付の金利リスクや信用リスクに対処する方法が導入されていく。

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4.   金利スワップ 金利スワップは金利リスクを取引相手に移転す

る金融派生商品である。 それ以前に導入された株式や債券の先物・オプ

ション取引では,リスクのみではなく元本を含んだ取引がおこなわれた。

しかし,金利スワップや第5節のクレデリ取引では貸出債権のリスクのみが移転される(図1)。

このように株式や債券ではなく貸出債権から派生している点を,報告者はローン・セールからの一連の業務展開と捉えている。

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さらに, 1980 年代後半のバブル崩壊以降,新しく裁定取引をして収益を得ようとするもの(トレーディング目的)の金利スワップが増加している。

ここでも本稿の3つの課題を検証するとともに,その相互関係とそれらがアメリカのマネー・センター・バンクの収益力へどのように結びついていたかを明らかにしたい。

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( 1 )金利スワップの歴史表9 金利スワップ取引のエンド・ユーザーであるアメリカ企業の特徴

銀行貸付の金利をスワップによって固定金利払いにすることが ,典型的な企業の金利スワップ取引といえる

固定金利払いにスワップ

変動金利払いにスワップ

未利用

企業数レバレッジ比率  負債/資本比率  金利払い/キャッシュフロー比率ヘッジされた負債の種類(%)  銀行貸付  変動金利または CP  固定金利  情報なし

140社

0.420.31

49% 22%

― 29%

30社

0.340.24

47% 53%

186社

0.280.14

( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

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 項 目 Chemical   1995年末 Chase   1996年末

他行預金   証 券   貸 付

その他資産   預 金

その他借入資金長期債務計

1,824( 6.0  %6.1% )

21,797( 72.2  %26.5% )

305( 1.0  %3.8% )

3,343( 11.1  %3.4% )

2,910( 9.6  %39.7% )

30,179(100.0  %13.4% )

1,899( 2.5  %22.8% )

4,728( 5.4  %10.6% )

47,405( 53.3  %31.3% )

3,100( 3.5  %20.4% )

25,100( 28.4  %13.9% )

646( 0.7    % 7.0%)

5,376( 6.1  %42.3% )

88,254(100.0  %20.9% )

表 10   Chemical Banking Corp. と Chase Manhattan Corp. による  金利スワップ取引の関連バランスシートによる分類   1995- 96 年

  (単位: 100 万ドル 括弧内は順に構成比%と各項目比 1 ) %)

( 注 )   1  各項目比とは,各項目(たとえば貸付)残高と比較した金利スワップ取引の     比率である。 その他の ( 注 ) と ( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

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1995 - 96 年当時のマネー・センター・バンクであった Chemical Banking Corp. と Chase Manhattan Corp. のデータ(表 10 )をみると,金利スワップ取引の関連バランスシートの過半を貸付が占めている。

コア業務である銀行貸付から金利スワップが派生している。

アメリカの銀行の変動金利貸付は世界で最も普及しており,マネー・センター・バンクがその先導役を務めていた。自らが先導して普及させた貸付の変動金利受取りを,なぜわざわざ固定金利受取りにスワップしたのだろうか?

貸付

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この問題を考えるために,マネー・センター・バンクの他の金利スワップ取引をみてみよう。

預金 表 10 の金利スワップ取引の関連バランスシー

トの第2項目は預金 商業銀行の金利スワップ取引の代表的な相手先

は,たとえば S&L である。 S&L が発行する変動利付債と銀行が発行する固定金利の預金証書の金利部分をスワップする。

銀行は短期の商工業貸出に適した変動金利の負債をもち, S&L は長期の固定金利モーゲイジに適した固定金利の負債をもつ。 ALM である。

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ALM (資産負債総合管理)

バランスシートの資産側で負債側より変動金利の金融商品が普及したために,資産側の変動金利の金融商品を減らし,負債側の変動金利を増やすように金利スワップをおこなっている。

この場合,金利スワップ取引は ALM を目的としていることになる。

長期債務,証券

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マネー・センター・バンクの優位性

銀行からみれば,銀行の資産側はおもに変動金利受取りから固定金利受取りに金利スワップされ,負債側はおもに固定金利払いから変動金利払いにスワップされ,バラエティに富むことになる。

バラエティに富むとは,この資産と負債両側,変動から固定金利受取りと固定から変動金利払い両方にまたがる金利スワップ取引の種類の多さのことである。

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これは,大投資銀行が圧倒的に固定金利払いから変動金利払いに長期債務の金利スワップをおこなっていることと対照的である。このバラエティに富んだ金利スワップ取引を提供できれば,多種多様な顧客のニーズに応えることができる。顧客の事例は,すでにみた企業や S&L等である。

こうした顧客のニーズを満たすバラエティに富んだ金利スワップ取引に関連していれば,マネー・センター・バンクはマーケット・メーカーとしての地位を獲得しやすくなる。

これはアメリカのマネー・センター・バンクの収益力の源の一つと考えられる。

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( 2 )金利スワップの動機 金利スワップの動機の 1 つは,前節でみたよう

に ALM を目的としてマネー・センター・バンクが自らのバランスシートを組み替えるもの。

1980 年代後半にバブルが崩壊し,アメリカの主要商業銀行の収益が悪化または横這いとなっている。

M&A ブームも去り,大型 LBO ローンによる手数料収入という道も閉ざされた。

マネー・センター・バンク自身の経営判断も転換し, 1990 - 91 年にはいわゆるクレジット・クランチ(貸し渋り)が発生した。

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トレーディング目的の金利スワップ取引

この収益を改善することに,金利スワップを中心とするディリバティブ取引も関係している。

金利ディリバティブ取引は, ALM を目的としてバランスシートを組み替えるものから,おもに将来の金利リスクを予測し裁定取引をして収益を得ようとするもの(トレーディング目的)に変化している。

このトレーディング目的の金利スワップ取引で発生する収益は,おもに取引収益(保有期間が 1年未満のポジションから得られた利益)と投資銀行業務手数料である。

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40( 注 ) と ( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

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41( 注 ) と ( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

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商業銀行の優位性

商業銀行は自己勘定で資産と負債両側に多様な金融商品を揃えている。

一般に,商業銀行は投資銀行より広範な顧客をもち信用分析をおこなう。

さらに,商業銀行は資金提供能力を備え,業務上常に貸借をおこなう。

その結果,投資銀行よりもディリバティブのような派生的な金融商品を作り出す。

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そのため,商業銀行は金利スワップのディーラー,さらにはマーケット・メーカーとして投資銀行より有利である。

一般的に,顧客も大投資銀行よりもマネー・センター・バンクの信用を好み,大投資銀行の信用を得ようとしない顧客もいるという。

U.S. Congress, House 〔 1993 〕によると,アメリカの商業銀行 10 行だけがディリバティブのディーラーとして行動している。

同じく国法銀行6行のディリバティブ取引の約90%が値付け業務( market-making )の一部である。

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( 3 )小括 1990 - 91 年のクレジット・クランチという危

機からトレーディング目的の金利スワップという新たな業務展開が生じている(課題①)。

金利スワップでは貸出債権の元本は転売されないので,優良顧客を維持しながら金利リスクのみを移転できる(課題②)。

マネー・センター・バンクはローン・セールでは投資銀行手数料を手に入れたが,金利スワップではそれに加えて取引収益を獲得するようになった(課題③)。

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5.  クレジット・ディリバティブ クレデリは信用リスクを取引相手に移転する

金融派生商品である。 マネー・センター・バンクを中心とする大銀行は,

まず主たる貸出債権の信用リスクをヘッジするために,クレデリを利用する(図1)。

この信用リスクのヘッジャーをプロテクション(信用リスクにたいする保護)の買い手という。

ニューヨークでは,信用リスクや金利リスクなど個別取引のすべてのリスクを移転するTRS ( total return swap )が,銀行によるローンの信用リスク移転商品として最初に導入されている。

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( 1 )クレジット・ディリバティブの現状

1997 年以前の対アジア投資ブームと 97年アジア通貨危機, 98 年ロシア経済危機で大きな信用リスクに直面したことがこの市場を注目させることになった。

日本でもこの時期に三洋証券,北海道拓殖銀行,山一證券等が破綻し,クレデリ市場が導入された。

これは,本報告の課題①「危機から新たな業務展開が生じた」ことと整合的である。

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プロテクションの買い手(信用リスクのヘッジャー)

2000年 2002年 2004年 2006年2008年 (見積

り )

 銀 行  トレーディング目的  ALM目的ヘッジファンド年金基金 企 業保険会社  専門保険会社  再保険会社  その他保険会社投資信託その他

81%

3% 1% 6% 7%

1% 1%

73%

12% 1% 4% 6%

3% 1% 1%

67%

16% 3% 3% 7% 2% 3% 2% 1% 1%

59% 39% 20% 28% 2% 2% 6% 2% 2% 2% 1% 1%

54%36%18%28% 3% 3% 6% 2% 2% 2% 1% 1%

プロテクションの売り手(信用リスクの投資家)

2000年 2002年 2004年2006年

2008年 (見積り )

 銀 行  トレーディング目的  ALM目的ヘッジファンド年金基金 企 業保険会社  専門保険会社  再保険会社  その他保険会社投資信託その他

63%

5% 3% 3%23%

2% 1%

55%

5% 2% 2%33%

12% 3% 0%

54%

15% 4% 2%20%10% 7% 3% 4% 1%

44%35% 9%32% 4% 1%17% 8% 4% 5% 3% 1%

40%33% 7%31% 5% 2%18% 8% 4% 6% 3% 1%

(

注)

と(

出所)

についてはフルペーパーを参照されたい。

表⒒ 世界のクレジット・ディリバティブの買

い手と

  売り手 2000 ―

08年(市場シェア% 金

額ベース)

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( 2 )クレジット・ディリバティブの動機

第3節のローン・セールはすべてのリスクを移転するが,クレデリは信用リスクだけを,金利スワップは金利リスクだけを移転する。

その意味で,クレデリと金利スワップは,ローン・セールの機能の一部を代替している(図1)。

さらに,クレデリ取引では,ローン債務者である顧客への通知は必要ない。

したがって,クレデリでも優良顧客が流出する可能性というローン・セールでは不都合な点も補完している。

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銀行は受取人すなわちリスクをヘッジすることが多いが,マネー・センター・バンクでは保証人すなわちリスクを引き受ける金額の方が大きくなることもある。

エネルギーの卸売り会社エンロンが破綻した2001 年には,総資産 100 億ドル超の大国法銀行でもリスクを引き受ける金額の方が大きくなっている(以上,表4,表6)。

ヨーロッパの保険会社や地方銀行のようにプレミアム(またはスプレッド)を得ているのである。

このような信用リスクをヘッジすると同時にリスクを引き受ける行動をどのように理解すればよいのだろうか? 

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トレーディング目的のクレジット・ディリバティブ 2002 年9月末 に,

プロテクションの売りポジションの約 98%を30 の世界的な銀行とブローカー・ディーラーが保有しており,この取引相手の上位にアメリカのマネー・センター・バンクが入っている。

J.P. Morgan Chase が1位, Citigroup が8位,Bank of America が 12 位である。

これは,表 11 の銀行によるトレーディング目的のクレデリの大きさと整合的である。

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第4節の金利スワップと同様に,彼らはクレデリのディーラーとして行動し,値付け業務( market-making )やマーケット・メーカーとして活動している。

ALM目的からトレーディング目的へのクレデリの転換は,アメリカのマネー・センター・バンクでは 1997 年頃までの2~3年でおこなわれた。

すでに金利スワップで経験のあるマネー・センター・バンクは,比較的短期間にトレーディング目的のクレデリに進出できた。

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マネー・センター・バンクのトレーディング

米国の商業銀行はクレデリ取引によって信用リスクを海外に輸出している。

米銀は信用リスクをはずし,おもにヨーロッパの銀行( 2002 年には地方銀行,とくにドイツの銀行がプロテクションをネットで 110 億ユーロ販売, 2003 年には独銀はネットで 290 億ドル販売,たとえば Landesbank )が,リスクを引き受けた。

ヨーロッパ,とくにドイツの銀行が信用リスクを引き受ける一方でプレミアム(またはスプレッド)を得ている。信用リスクに投資したのである。

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こうした 2000 年以降の信用リスクの輸出によって,アメリカの銀行はネットの利益を得た。

アメリカのマネー・センター・バンクがトレーディング目的のクレデリに進出した結果,米銀の信用リスクを輸出するようになり,商工業貸付の不良債権比率を引き下げた。

これも,マネー・センター・バンクのトレーディング目的のクレデリによって,アメリカの銀行が世界的な収益力を保っていることと整合的である。

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( 3 )小括

1997 年アジア通貨危機, 98 年ロシア経済危機等からクレデリという新たな業務展開が生じた(課題①)。

クレデリでは貸出債権の元本は転売されないので,優良顧客を維持しながら信用リスクのみを移転できる(課題②)。

マネー・センター・バンクはローン・セールでは投資銀行手数料を手に入れたが,クレデリではそれに加えて取引収益を獲得するようになった(課題③)。

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6.  むすびにかえて 本報告では,ローン・セールとディリバティブ取

引の現状を把握することで,現在のマネー・センター・バンクの業務展開を考察した。

課題①「危機から新たな業務展開が生じた」ことについては,米国のマネー・センター・バンクに関する歴史的事実関係からみると妥当であった。

とくに 1990 - 91 年のクレジット・クランチの時期にトレーディング目的の金利スワップへの業務展開が生じているのは,その後のクレデリの業務展開にまで取引収益という点でつながる。

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本報告で取り上げた業務展開は,周辺業務ではなく,貸付というコア・ビジネスから派生している。

1980 年代以降,マネー・センター・バンクはローン・セールをおこない,それで不十分な点(リスクのみの移転)や不都合な点(優良顧客が流出する可能性)を金利スワップとクレデリ取引で補完した。

この意味でローン・セール,金利スワップ,クレデリは一連の業務展開であると報告者は考えている。

課題②

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金利スワップ取引は 1990 年代半ばまではおもに貸付から派生していた。

クレデリ取引も,マネー・センター・バンクのリスク・ヘッジの観点からは貸付から派生していた。

これらが,課題②「貸出債権のリスク移転が3つの業務で段階的に開けたこと」ことの歴史的実証結果である。

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課題③

3つの金融商品ともに,金利収入から脱却して,投資銀行業務手数料を得ようとしている点も共通にみられた。

ローン・セールを補完した金利スワップとクレデリ取引では,取引収益(保有期間が 1 年未満のポジションから得られた利益)を得ようとしていた。

以上が,課題③の歴史的実証結果である。

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とくに取引収益は,金利スワップとクレデリ市場において,アメリカのマネー・センター・バンクがディーラーとして行動し,値付け業務( market-making )やマーケット・メーカーとして活動していることを意味している。

こうしたマネー・センター・バンクのコア・ビジネスである貸付から派生した一連の業務展開は,現在の金利ディリバティブの世界的な広がりとクレデリの拡大を理解する視点を与え,アメリカのマネー・センター・バンクの世界的な収益力の源(マーケット・メーカーとしての役割)を説明する一助になるであろう。

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60( 注 ) と ( 出所 ) についてはフルペーパーを参照されたい。

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サブプライム・ローンとの関連 サブプライム・ローンの普及以降,マネー・セ

ンター・バンクの取引収益,投資銀行業務手数料,ローン・リース売却収入(ネット)と非金利収入との関係に構造変化が起きた可能性が高い(前出図)。

信用リスクのヨーロッパへの輸出は,サブプライム以前とよく似ている。

サブプライム・ローンは証券化されているが,ローン・セールはパッケージされることはあっても証券化されていない。→ 証券化の功罪

サブプライム・ローンとローン・セールに共通しているのは流動化されていること。