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人の持つ酒造りの技術・技能の分析 誌名 誌名 日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan ISSN ISSN 09147314 著者 著者 武藤, 彰宣 巻/号 巻/号 105巻11号 掲載ページ 掲載ページ p. 702-713 発行年月 発行年月 2010年11月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

人の持つ酒造りの技術・技能の分析agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010812203.pdf · Based on .d. bility $tructurel (CUDBAS) J の聞各称

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人の持つ酒造りの技術・技能の分析

誌名誌名 日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan

ISSNISSN 09147314

著者著者 武藤, 彰宣

巻/号巻/号 105巻11号

掲載ページ掲載ページ p. 702-713

発行年月発行年月 2010年11月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

人の持つ酒造りの技術@技能の分析これまでの研究では清j思議造に携わる杜氏や熟練者が持つ技術や妓能を継承するため,人鰐の知識工学的

手法の一つであるコンどュータを用いたエキスパートシステムがこれまで利用されてきた。しかし技術のみ

ならず技能を知識としてコンビュータ上で表現するためには「技能jの持つあいまい性を評価することが重

要で,ファジィ浬論を用いることでその目的を遼成する可能性を見いだされた。しかし,これらはあくまで

コンどュータという装置を使う必要があり,意欲のある万人が簡単に学習するには難解なところが、ある。今

回,筆者はそれらの欠点を播い,技能の伝承と人材育成をより簡便に行うため,酒造りの原点である{ひと

づくりJをより円滑に行う。学習方法の構築と酒造りの技術・技能の可視化を目的として,クドパス法によ

る技術・技能分析を実施し,その有効性を検証した。

武藤立二ノ

早シ 官一

1. はじめに

ij日間製造業は長年にわたって杜氏斜度のもとで源造

りが行われてきたが戦i政災後の[高旬度経i済斉均!成戎長}期拐J幻以JユJ,、J降徐のE渓E

業f檎i持占造変化のE中ドで

技能者のj減成少が危倶I)山2幻)さjオれ'-てきた。すでに昭和 39年

の清酒製造業の近代化計画においても,その指導要領、

に「永年の経験によって養成された技術者である杜氏

には高齢者が多く,加えて,労働力不足のために社氏

技能の継承者が少なくなり,社氏の高齢化の傾向がま

すます甚だしくなっている 0 ・・・(r:I"11洛)・・-季節

労働者の供給不足に対処するため,製造場周辺等の者

を常勤労務者として疑応し駿迭を実践させつつ専門

的知識を研修習得させ,技術者または技能者を企業自

らが養成するように考慮するjとあるへそこで,行

政や業界団体などでは,作業標準の作成 i印刷、新酒造

システムの構築 718191 エキスパートシステムの利用1O)1l11却

といった潜造労務改慈,製造合理化や酒造技能検定制

度の伺始!:l)H115\ 通信研修制度の I~励会 16) 地域におけ

る教育訓練の実施]7)18)抑制2])などの取り組みを行い,

また,企業内においても t,t {~lj:f云承 22) が行われてきた。

さらに,当研究所においても,東京事務所で清酒製造

技術講習(未経験者から 3年続度の綬験者向け),広

島事務所で酒類醸造講習清湖上級コースを実施し j関

i去り後継者を育成してきた。

近年,杜氏制度のもとでの酒造りのほか,経営者や

社員による酒造りが増加している。このような状況の

中で,平成 21年 4月に開催された(財)日本醸造協

会主催の清酒技術セミナーにおける受講者への「支社

における酒造技術・技能の継承における課題とは?J

という質問に対して得られた回答(第 1表)にあるよ

うに,酒造現場には依然として技術・技能の継承に関

する課題が存在しているとみられる。

また,当研究所の清酒製造技術講習の受講生.や受講

第 1表 「酒造技術・技能の継承における課題とは?J に寄せられた回答の一部

・仕事が忙しいこともあり,また人的にも,丁寧に1:Ujlー

を教えることがl1j来ない。

-iffj凶員長迭を 2・3年行うとどうしても初心を;忘れてサラ

リーマン化してしまう。やる気の祁J~í' ・持続が郊しい0・技術全般(杜氏お齢化による社員での巡りを考えてい

るのですが,まだ手っかずでいるので)

-全uヨがまだまだ絞内の仕事を把握していない。ゆくゆ

くは,社員での製造していくことになるであろうが,

その為の伝承等が間に合うか不安。

-次i止1tへの技術-技能の伝承特に技能について課題が多い。

-作業の持つ怠I床, トラブルHキにおける対応,処認。|時

間管理(作業スケジュール)。米t'lの判断.i交法

-製麹機やH今罰室の仕組みゃ操作を元の務担当者が把銀

できていなく,次の担当者が苦戦している。

Analysis of Technology and Skill of Sake Brewing

Akinori lvIno

(Natiol1al Research 11lstitute 0/ BrewIllg)

702 醸協 (2010)

~t OBからは, r言われるままに作業して一造りを過

ごしたが,何故作業をそうするのか鹿聞に関jいても要

領を得た答えがもらえなかったJ(経験 1年の受講生),

「杜氏とともに沼を造ってきたが,社氏が引退してj臨

造りの主体となったところ,以前はどう操作していた

のかわからない部分に当たったJ(受講後3年の OB),

などの声も潤かれている。前述した様々な取り組みに

よって,醸造学や衛生管理,製造手順などを学ぶこと

は可能となったが,実際の製造を行うに当たっては,

ri霞造りには経験と勘が必要だ」と「技を盗めJとい

った技能の部分も存在している。このような技能の伝

承は,人に依存したマニュアル化の難しい「成人的な

暗黙知」が多いなどの理由から,現在も多くの課題を

抱えている。これら課題を解決すべく様々な取り組み

が必要で、あるが, r清酒製造に関する職業能力分析J

や「酒造りに関する学習経験j という人の観点からの

分析例は少ない 23Jz.o25J2GJ。

そこで f人の持つ酒造りの技とはいったい何なの

かJ. r経験者はどのようにして酒造りを学んできたの

かJを整理しそこから酒造りの原点である「ひとづ

くり」をより円滑に行う学習手法(時三代に合わせた酒

造りを伝える手法)構築の取り組みを行った。

本稿では,クドパス法を利用したj商造りの技術・技

能分析とその結果の酒造現場における利用に関して紹

介していきたい。

2, 酒造りの技術・技能分析

(1)クドパス (CUDBAS)法とは

酒造りの技術・技能について整理し「見える化

(可視化けすることを目的に,クドパス法による酒造

りの技術・技能分析を実施した。

ここでは,森 2iJ及び山本お)の見解を参考にして,

以下のとおり f技術J及び「技能Jを定義する却)。

ただしこの 2つの概念は,司王の両輪のような関係で

あり,明確な思別ができない部分もある。

o r技術J:言葉や数値などで記述され,記録され,

議積され,人間の外で、流通することが可能である形式

知的な能力や知識

o r技能J:人の動きゃi!!iJきなどを中心とした経験的

に獲得したもので各俗人が固有に保持:しているH音黙紅

的な能力や知識

第 105券第 11 考

クドパスとは「職業能力の構造に基づくカリキュラ

ム開発の方法 rA lvIethod of Curr命iculum12巴veloping

Based on .d.bility $tructurel (CUDBAS) Jの聞各称で

あり,戦場で必要な人材を養成する訪Ij帝京フ。ログラムを

作成するために 1990年に開発されたものである:則。

俊れた職業人のイメージを目標と定め,能力カード,

仕事カードという名科大の小さなカード(写真1,写

真 2) を使用してそのイメージに合う仕事を lつ lつ

細かく分解,分析していく方法であり,短時前で必要

な情報を整理することができるという利点がある:JI)。

この方法は,製造業を中心とした企業内教育や,職

業訓練コース(給食調理サービス)のカリキュラム改

善a2¥第三次産業における技能評価:l3lなどにも使用

されてきたほか,看護I俄に求められる職業能力の実態

調査 30なと¥医郎や看護姉の教育などでも使用され

ている。

実際の手)1僚は以下のとおりである :35)0 (第 1居)

Oステッブ 1:メンバー紹介とルール確認

0ステップ2:打ち合わせ (10分校皮)

優れた職業人(対象者)の人物イメージをカードへ

記載できるように,以下の~1lについて短時間に話

し合う。

写真 1 左:能力カード(rABL CARDJ),右.仕事

カード(rDutyCARDJ)

写真 2 能力カードへの記載例

703

i その人の仕事は具体的にどこまでやるのか。

11 戦場の規模や業務内容,機能,織{立などは何か。

Oステップ3:能力カード (ABLカード)作成 (30

分校度)

メンバーには 1人あたり 30枚の能力カードの用紙

が配付されている。各人は対象者がJ;)、下の l~lll に筒

してどのような能力を持っているか脅:き出す。

何ができなければならないか。語尾は r~がで

きる」と書く。

11 何を知っていなければならないか。語尾は r~

を知っているjと書く。

111 どんな態度をとれなければならないか(ただし

教育の対象となりにくい人格的なものや性絡な

どは除く)。語尾は r~の態度がとれる j と書

く。

。ステップ4:能力カードの分類と仕事カードの記入

ここでは記入済みの能力カードの分類作業を行う。

メンバーの 1人が自らのカードを読み上げて置く。 他

のメンバーはそれに関係する自分のカードを置いてい

く。同一の内容であるカードは重ねるが,少しでも違

うカードであればそのそばに撞く。 関連するカードは

近くにjj立く。

この段階で能力カードのまとまりができてくる C そ

れが仕事になるため,その内容を仕事カードに r~ を

するjという諾潟で諸:く。

0ステッブド能力カードの配列と重要度の記載

仕事ごとに能力カードを比絞して,重要度(その仕

事を遂行するに当たってその能力がどの程度重要であ

るかの度合い)の順番(最も重要なものは左端←→順

に右端へ)に配列する。そして,それぞ、れのカード内

容について重要度の水準(以下の ABCの基準で)を

決め,記載するo

A:非常に重要で,詳細に知っているか,ょくでき

B:普通で、あって.一般的に知っているか,普通に

できればよい

C:あまり重姿ではなく,概!日告を知っているか,体

験していればよい

。ステップ 6:仕事カードの配亨Ij

仕事カードを比較して,重要度(俊光度と考えても

いい)の治Jい順設にとから下へ配列する。ここが決ま

ると,仕事カードの悉号と能力カードの番号が決まる

ので,それを各カードに記載する (2番目の仕事の 3

番iヨの能力カー Fは, r2むというカード番号にな

る。)。この内容を模造紙に貼り付ける。

。ステップ 7:クドパス・チャートの作成

内容を表計算ソフト「エクセルjファイルに入力す

る。1';'1み重ねたカードについてもデータを入力してお

【ステッブ4]

第 1菌 クドパス法の実施手順

704 醸協 (2010)

くことで.その後の再検討・見直しの際に役に立つよ

うにする。

この後は,クドパス・チャートを用いて訓練カリキ

ュラムの作成なと、に移っていく O

詳細については,文献 35)を参日買いたた、きたい。

(2)技術・技能分析

ヨ〉製麹工程の技術・技能分析

クドパスi去による製麹工程の分析については,東京

国税局鑑定官室の協力を得て,肉筆職員及び当研究所

職員の計4名(鑑定官室等での醸造指導経験7年~

20年程度)により,ベテランの製麹責任者(代師)

をイメージして実施した。

分析した結果は。まず協力j酒造坊や研究所内におい

て試行的評価を行った。その結果や 1S09000等の品

質管理マネジメント手法において使用される PDCA

(Plan (言i癌)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Ac-

tion 改善))サイクル 3G)の考え方を参考にさらに検

討を行い,製麹の仕事を

。仕事 1同11組作業を準備するJ

O仕事 2I製麹の作業をするj

3 I分析・測定・評価するJ

O仕事 4I判断するJ

01:i:司~: 5 I作業進行管理をする」

の5つに分類しそれぞれの仕事における技術-技能

項自の力[J除修正も行ったクド、パス・チャート(第 2

図)とした。この分類に当たっての各仕事問の関係に

ついては,一般的な酒造現場における製麹作業の流れ

から第 3図のように設定している。日々の麹造りにお

いて, r予定時間でこ予定通りの品質の麹を出麹するj

ことが求められる中で,酒造現場ではこのような仕事

のサイクルが繰り返されているものと考えている。

ミむ他の工程の分析と特徴

同様の手法で, I i先米・没iiUI蒸米・放冷J,li国

母J,問委J,I上檎」の各工程乞さらに清酒製造場関

係者の協力を得て, Iろ過J,I火入れJ,1貯蔵上 fオ

ワ下(f'Jの各工程の分析を行い,それぞ、れのクドパ

ス・チャートを作成した :m。各工程の仕事内容は,

製麹工程の分析i時に整理された仕事分類で共通化でき

ると考えられたことから,仕事 1I準備をするJ,仕

2 I作業をするJ.仕事 3I分析・測定・評価するJ.

仕事 4I判断するJ.仕事 5I作業遂行管理をするJと

第 105巻第 11 号

し製麹工程と同様にしている。

(3) 仕事関技術・技能項毘数(工穏部)について

各工程における仕事加の技術・技能項百数の傾向

(各工程ではどのような仕事にすることが多いのか?)

には,ある特徴が見えてきた(第 4図)。

仕事 1I準備するjでは,製麹,上槽,ろ過,火入

れで項目数が多く,罰委,貯践,オリ下げでは少ない。

仕事 3I分析・測定・評価するJについては洗米・浸

i完蒸米・放冷で項目数が多く,上檎では少ない。社

4 I粉断するJでは製麹霞母,惨で項目数が多く,

J二槽,火入れで、は少ない。

このことは,製麹,上槽,ろi!I.Q,火入れでは使用す

る道具類が多いことから「準備するJことが,原料処

理に関係する工程では,一定の11寺問内での作業で肢が!

米へのI吸水状態が決まるため「分析・測定・評価す

るJことが,そして製麹酉母,自室では微生物の営み

を数Bから 1ヶ月程度の期間見守る工程であるため

「判断して調きをする」ことが,それぞれ比重の高い仕

となっていると考えられる O

(4)技術・技能チェッケシートの作成

次に,クドパス・チャートを基に, I校術・技能手

エツクシートJ(以下「チェツクシートJ)を作成した

(第 5剖)。チェツクシートを使用することによって作

業者の「技術・技能に関する能力・資質項目Jの保有

水準が評価できる。その評価尺度は,各段階に関する

進捗度をより詳細に見ることができる尺度を設定する

観点から,以下の判断主主準による 9段階とした。この

尺度は, IUは全くの初心者乞 15Jは一人前に仕事

ができる者, 19Jは最上級者としてイメージしている O

各工程のチェツクシートについては,その使用法な

ども加えて試行版の冊子として作成し平成 21年 11

月上旬より平成 22年 3月にかけて希望者への試行配

付とアンケート調査を実施した。今後,その使用に関

する意見などに基づき,漂白内容の改良,能力向上に

つながる学習方法の追加など,使いやすさの充実化を

図札改めて提{共させていただく予定である。

705

!f!!J!IIiず~

上に行くほど重要な

「仕事」

吋口由

〈技術・技能)J各仕事では重要な「能力

クドパス・チャートの一例

互ほど、

第 2図

¥…

(※;主)当チャートにおける仕

事の重要度による11町立付けに

ついては, 筆者が技術・技能取

得の観点で行ったのものである。

(N20)

作業進行管濯をする

分析・ ~IJ定‘評価する

第 3密 製麹の仕事サイクル

50

40

ハUηd

項目数

20

10

O ;先米・;呈j琵 蒸米・放冷 談室主 j酉母 上務 ろi晶 火入れ 貯餓 オリ下げiili

工程名

分析・測定・評価する

ごとの能力]叉目数の傾向(工程別)

注)グラフ中の数{直は項目数を示している

第 105巻第 11 号 707

技術・技能チェツクシートー製麹一 (2009年 10月 Ver8.0) (学習者用〉

独立行政法人酒類総合研究所

所属 経験年数 氏名 評価年月日

について>「技術・技能に関する能力,資質項目j の保有水準をチェックする際には、以下の判断基準によります。

1・全く知識も経験もない。

Z 少し晃飴きした程度である。3 少し知識と経験はあるが、手伝い程度の経験であり、知識箇でも不安なところがある。4 知識と経験は多少あり、先輩や周りで支援されればなんとかできる。5 知識と経験はあり、誰の支援がなくても、自分ひとりで一応はできる。

6 知識と経験はあり、ある稜度任せてもらって問題なくこなせる。その背景・意味なども王望書草している。7:知識と経験はあり、自分だけで十分にできるだけなく、属図への指導も多少できる。

8:十分な知識と経験があり、発展させエ夫や改善もできる。また、社内で指導的な立場になれる。9:笠宮な知識と経験があり、このことについて社外でも指導的な立場になれる。

なお、「知っているJr態度がとれるj といった項gについては、以下の判断慕準によります。1 全く知識もなく、どのような態度かも知らない。2 少し見間きした程度である。3 少し知識はあるか、又はどのような慾度か知っているが、不足していると思うところがある。4 知識は多少あるか、又は周回に支援されればそのような態度が多少とれる。5 一応の知識があるか、又は一応そのような態度がとれる。

6 一定の知識があるか、又はそのような態度がとれ、その背景・意味なども理解している。7:一定以上の知識があるか、又はそのような態度がとれることから、隠翻への指導も多少できる。8 十分な知識があるか、又は十分にそのような態度がとれることから、社内で指導的な立場になれる9:豊富な知識があるか、又は模範的な態度がとれることから、

第 5図 技術-技能チェツクシートの一例

708 藤協 (2010)

[1 ~ができる j という評価項目の評価尺度1

1 全く知識も経験もない。

2・少し見聞きした殺度である。

3:少し知識と経験はあるが,手伝い程度の経験

であり,知識関でも不安なところがある。

4・知識と経験は多少あり,先輩や周りで支援さ

れればなんとかできる O

5 知識と経験はあり,殺の支援がなくても,自

分ひとりで一応はできる。

6:知識と経験はあり,ある程度任せてもらって

陪題なくこなせる O その背景・意味なども理解し

ている O

7:知識と経験はあり,自分だけで十分にできる

だけなく,周罰への指導も多少できる O

8:十分な知識と経験があり,発展させ工夫や改

善もできる。また,社内で指導的な立場になれる。

9:豊富な知識と経験があり,このことについて

社外でも指導的な立場になれる。

[r知っているJr態度がとれる」という評価項目

の評価尺度}

1 :全く知識もなく,どのような態度かも知らな

しミ。

2 少し見開きした程度である O

3:少し知識はあるか,又はどのような態度か知

っているが,不足していると思うところがある0

4:知識は多少あるか,又は題屈に支援されれば

そのような態度が多少とれる。

5 一応、の知識があるか,又は一応そのような態

度がとれる O

6 一定の知識があるか,又はそのような態度が

とれ,その背景・意味なども理解している。

7:一定以上の知識があるか,又はそのような態

度がとれることから,周回への指導も多少できる。

8:十分な知識があるか,又は十分にそのような

態度がとれることから,社内で指導的な立場にな

れる O

9: :豊富な知識があるか,又は模範的な態度がと

れることから,社内外で指導的な立場になれる O

第 105巻第 11号

3. 技箭・技能分析結果の利用

ここからは,技術・技能分析結果の具体的な利用に

ついて,さ当研究所講習での実施例,各滋造現場での利

用方法などを紹介していきたい。

(1)清酒製造技術議習における実際の活用例

①清酒製造技術講習における課題

当研究所東京事務所の清酒製造技術講習は,酒

造経験3::9::程度までの方を主な対象として, 6週間

にわたって講義と実習(製造実習においては 4~

5名を 1つの班として編成)を組み合わせた内容で

行っている。講習内容と受講生の求めるものとのミ

スマッチをなくし限られた時間の中で効来のある

講習とするためには,受講生個々の能力を客観的

な視点で早期に把握し適正なレベルで講習を進

行させることが大きな課題となっていた。

②チェツクシートによる評価実施とその効果

そこで,作成したチェツクシートを利用した自

己評価を①講習開始時,②3週日終了時(講習中

盤)の 2闘行うこととした。 2問自の評価ではそ

の評価の客観性を保つため, 1回目の白己評f価面結

果を見せないで

した受諮生の「技術.技能マツプ」をfJ作ノ乍F成した O

諮習関始5符寺詳価から作成した技4術「持ij,技能マップ

とともに個人の酒造経験などを聞き取る面談を

実施することにより, r酒造経験2年Jといった

漠然とした話だけで、はわからない各銀人の能力や

班別のレベル分布などの把握が講習開始から数日

で可能となった。さらに, 2回目の評価によりそ

の進歩状況の把握が可能となり,議潔内容の改議

場合によっては集中的な補習実施などがより迅速

に1Tえるようになった。

③道擦としての個人別レーダーチャートの配付

また,講習終了時には,評価結果をレーダーチ

ャート化したものを各人へ配付している。このチ

ャートでは,評価の段階が上がってくるとつぼみ

から花が開く形に変化する O このとき,チャート

の殺が中心部に落ち込んだままの部分は,今後の

学習ポイントになると思われる項目である(第 7

国)。それを見ることで自らの講習での成長と今

後の学習ポイントがわかり,講習終了後の道標と

なるものと考えている O

709

第 6国 技術・技能マップの実例

※議資受講前後の変化により,塗りつぶし部分(レベルが向 l二と自己評価)が多くなっている

a)評価項目については 一部改定前のものが含まれている

1-1

4-8

QU

RU 司,,au

。。】¥、

r

3

4

¥

仰向V一

E1v

4-11ι

4-10

4-9

第7関 俄人郎レー夕、ーチャートの笑例

※細i設が実施主'Ij,太線は実施後の評価を表す

710 醸協 (2010)

(2)酒造現場での活用

での利用と同様に,酒造現場においてもそれ

ぞ、れの立場からチェツクシートによる評価結果と,

職場内外における研修や現場経験などを組み合わせ

ることで,各現場における酒造技術・技能の継承が

よりスムーズに行われるものと考えられる。

告技術・技能継承担当者の{日IJから

各酒造現場においては,チェツクシートを利用す

ることで各メンバーの能力を客綴的に把握し f在

籍しているメンバーにおいて補強が必要な技術・

技能はどこなのかJを明らかにすることができる。

さらにクドパス・チャートから各社独自の研修

プログラムの作成への利用ができる O 例えば,

fクドパス・チャート中の能力 1-1r麹の意義を知

っている 1-2r製麹に必要な道具を知っている d ,

1-3 r (使用している)麹室や製麹機械の構造・取

扱方法について知っている11-4日放生物学的清

潔さについて知っている, 1-5 に手指の洗部

と殺菌に心掛けることができる1,2-1 r自社の基

本的な製麹作業標準を知っている, 5-1

程全体の流れを様々な側面から知っているjの内

容については, r麹の基本知識j という 2時間の

プログラムにして自社社員をMltRi!iに実施するjと

いう形で順次組み立ていくこともできる。既にあ

るチャートを利用するため,内容の漏れがない形

でプログラムを{乍成できる O

②学び手の1fj1Jから

学:び手の1H1Jからとしては, r酒造りの各工程で

はどのような技術・技能が必要とされているかJ

という全体像が一覧できる O そして,評側の結架

から「どこにポイントを量いて順次学習していけ

ばよいかJという道擦が明確になる O 日襟がはっ

きりすることで,本人のモチベーション向上や周

陪とのコミュニケーションのきっかけとなること

が期待できる。

(3) r技術・技能分析実習(クドパス実習)Jの実施

クドパス法による技術・技能分析を実習として実

施することも可能である。これは,学ぶ1ftlJからの視

点で行うことによって,新たな視点に気づき,興味

が湧くなど,新たな学習のきっかけとなる可能性が

あるc また. r管理者約立場jから実施することの

多い技術・技能分析を学ぶiWJの視点で行うことで,

第 105巻第 11号

写真3 技能分析実習の様子

実施者が気づかない耐の発克も期待できる O

当研究所では,平成 20ifo 5月から 6月にかけて

開催した第 35回議官における実習科おとして,議

4~5 名で 4 つのグループを作り. rl広料処理J.

について各 2グループずつで分析作業を行

った。 作業待問は 2持向(カリキュラムの関係で¥

1 時間ごとに分かれて実施),最後は 1時間の発表

会という流れであった(写真3)。発表会においては,

クドパスj去を防発された森和夫先生に出席をいただ

き,議論の中で発表内容に関する批評をいただいたc

同じ工程を分析しても, した職業人の内容,

能力カード・仕事カードの出る枚数や分類のやり方

などにグループ問での速いが出て,興味深いものが

あった(写真 4)。森先生からは.各グループに対し,

f賃金がもらえるような内容に仕事が定義され,そ

れぞれに能力が分類されているJ. r tJ:やふとしては定

義がおIIかく分かれすぎているJなどの評価とともに,

「カード記入時に悩みに悩んで、枚数が少なかった人

もいただろうが.次第にその仕事に対する考えが広

がるとカード記入枚数が増えるようになる。そこが

講習や現場で、の成長の官iEになる。jとのアド、パイス

をいただいた。実習終了後の講習生の意見では,

を具体的に言葉にすることが意外と難しいと

気がついたJ.r-つの工程のとらえ方や見方が参考

になったJ. r悶分では気がつかないカードが(他の

メンバーから)出ていたJ. r各自それぞれの経験,

体験によって重要度や視点が異なるき}1に気がつい

たJなど,工程を大きくとらえることの重要性や他

者との視点の違いについて気づいたようであった。

711

写真4 クドパス実習で問じ原料処理工程を分析した 2グループの結果の遠い

この実習は現在,実習日程の関係で実施していな

いが,短時間で集中的に分析できるなどのクドパス

法の利点を活かし「次の成長に向けたj実習とし

て実施できないか考えている。

4. 終わりに

今回,クドパス法により酒造工程を分析し各工程

における仕事と各仕事に必要な技術・技能をピックア

ップしたことで, rどこにポイントを撞いて順次学習

していけば良いかJという道襟の一つを提供できたと

考えている。

しかし今回の分析とその結果については,あくま

で、技能継承活動の入口部分を行ったにすぎない。クド

パス・チャートの結果やチェツクシートの活用によっ

て, r自社の技術・技能の現状を知り欠の活動につ

なげるJことが可能になり,人材育成が進んで、いくこ

とを願っている。

712

技術・技能分析と並行し, r技能とはいったい何かJ

として製麹技能に関する研究や「酒造技能者はその校

をどのようにしてf尋てきたのかJをま日るためのインタ

ピュー取材なども千?ってきた。これに関しでは,酒造

現場の学習活動やさ当研究所講習の実施の参考となる知

見が様々得られ,実際に実習などに試行している :18)39)。

これに関しては,日目な機会に報告させていただきたし、

今後もヲlき続き酉造りをする「人jに焦点をさ当て,

「人の倍!JきJ行動く中での学習Jという観点から,酒造

りの f知Jr技Jの流れ方について解明し,時代に合

った学習の方法を工夫して提供し人材の層を厚くし

ていくことが未来に向けた酒造りの発展につながるも

のと考えている O 各工程におけるクドパス・チャート

の仕事分類や評倣項沼に関する批評や現場レベルにお

ける滋造技術-技能の継承に関する取り組み事例など

の情報をお寄せいただければ拳いである O

醸協 (2010)

(謝辞)

今回のクドパス分析にご協力くださいました元東京

国税局鑑定官室長の波田由紀松氏と同局鑑定官室の皆

倉光i尚一氏(現 札幌密税局鑑定官室),チェツ

クシートの内容検討にご協力くださいました各酒造場

の皆様,そしてクドパス法にiおしてご指導くださいま

した森和夫先生に感謝申しよげます。

〈独立行政法人j菌類総合研究所)

参考文献

1) 鎌田敬一般協, 87,83叩85(1992)

2) 中野三樹太郎:醸協, 93,402-406 (1998)

3) 武藤宏:絞協, 77, 7-9 (1982)

4) 中村欽一際協, 62, 963-967 (1967)

5) 成定良t.jf,:Il妥協, 62, 968-973 (1967)

6) 国重弘明.自妥協ー 83, 162-167 (1988)

7) 関税rf鑑定金岡官室・自主協, 89, 513-523 (1994)

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9) 保波大二郎.際協, 89, 937-939 (1994)

10) 土屋義信,小泉淳一,末成和夫,手応義泰 7kチ|二史郎:目)13酵工学, 68, 123-129 (1990)

11) 土屋義信,小泉淳一.末成和夫,手島義若手.永

チl'史fH5税同手工学 68,131-136 (1990)

12) 小泉淳一ー絞i私 86,8-12 (1991)

13) 小牧幸j台醗協, 69, 403-406 (1974)

14) lliJ'1予千ク¥.t.fi二 機l~h , 69,407-409 (1974)

15) 協会編集部:般協, 70, 164-168 (1975)

16) 問中利雄際協, 93, 533-538 (1998)

17) 東正二酸1ぬ 79,857-859 (1984)

18) 大森勝訴~ :般協, 87, 402-408 (1992)

19) 東京国税局鍛定官室鑑定指ゴ込室 際協, 91,

558-562 (1996)

20) II!!~)禎司:丹波iお, 86, 335-340 (1991)

執筆者紹介げ1¥1不問・敬称略)

武藤影宣<Akinori MどTO>

昭和 44年 10月 31:1生まれ<勤務先とその所在地>

独立行政法人酒類稔合研究所 情報技術支援部門,干

114-0023 東京都北区滝野!日 2-6-30<略歴>平成 4年

東京理科大学恭礎工学部'=1:=.物工学科卒業。同年 I~I税庁

入Jr,東京,仙台,金沢の各国税局鑑定官室,国税庁

第 105巻第 11 号

21) 小関敏彦総i私 87,242“246 (1992)

22) 安浮義f~ ・自妥協, 103, 2-9 (2008)

23) 伊賀光)歪,新潟大学教育:人間科学部紀要, 8,

171-182 (2006)

24) 伊賀光屋:新潟大学教育人間科学部紀要, 9,

61-85 (2006)

25) 伊賀光屋 新潟大学教育人間科学部紀要, 9,

241伶276(2007)

26) 堀圭介.富士大半紀要, 42, 95-112 (2009)

27) 森和夫イ技術・技能伝承ハンドブックJ.

JIPMソリユーション (2005)

28) 111本孝「熟練技能伝承システムの研究J.白桃

書房, (2004)

29) 武藤彰笠.第 95回ifti医製造技術セミナー資料,

13-17,日本語表造協会 (2009)

30) 森和夫:職業訓練大学校紀姿。 20,49-68 (1991)

31) 森和夫戦業能力開発研究, 16,109-127 (1998)

32) 松谷幸子.渋谷久!~j: , LLI本妙子,平111素子,新井

脊fVl*毛利夫:技能と技能。 35,15-18, (2000)

33) (1討)建築物管理訓練センター 技能労働者に

対する技能評価及び処遇の実態等に関する調査

報告書, (1996)

34) 村本l~' 子,森手rJ犬 Illi業教育学研究, 28, 9-16

(1998)

35) 森和夫:人材養成の「見える化J上巻, JIPM

ソリューション (2008)

36) JII i平安手n 食品工場のしくみ, 1可丈鉛出版

(2006)

37) 武藤彩宣,松本別,宇都宮仁 ii似R総合研究所

報告, (投稿中) (2010)

38) 武藤彩宣 第 45回酒類総合研究所講演会資料,

独立行政法人酒類総合研究所 (2009)

39) 武藤彩立松本fljl 宇都宮仁酒類総合研究所

報告, (投稿1=11) (2010)

で勤務ののち,平成 15年から酒類総合研究所勤務,

平成 18/rf三東京理科大学専門職大学院にて技術経営修

士を取得<抱負>酒造りを支える「ひとづくりJの仕

組み解明にもっと取り組んでいきたい。<iIllil来>旅行

( ~寺に列車旅と路地巡り),音楽鑑賞, I~I書館での読者:

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