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4 宿宿姿使宿青山 佳世 歩いて 空気を感じて まちを楽しむ 群馬県・須川宿 ①美しい家並みとせせらぎを彩る花々(平成14年撮影) ②宿場の雰囲気に合わせて歩道を整備 カナダ・ウィスラー ③スキーをする人もしない人もそぞろ歩くプロムナード ④スキーを終えて、オープンカフェでくつろぐ

歩いて 空気を感じて まちを楽しむ - JCTC · 5 いのにと当時感じたものです。い歩行空間が有れば、もっと素晴らし間が抜けてしまうこと、もう少し幅広幅が、歩いた時に目に入る風景の中でのは、車が行き違うことのできる道路させるしつらえがあ

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Page 1: 歩いて 空気を感じて まちを楽しむ - JCTC · 5 いのにと当時感じたものです。い歩行空間が有れば、もっと素晴らし間が抜けてしまうこと、もう少し幅広幅が、歩いた時に目に入る風景の中でのは、車が行き違うことのできる道路させるしつらえがあ

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歩いて旅する楽しさを知ったのは、かれこ

れ三〇年前、旅番組で各地を旅して歩いた時

です。ゆっくり歩きながら風景を眺め、人々

の暮らしぶりを私自身も肌で感じることが出

来ました。今ではあたりまえの旅の形となり

ましたが、当時としては目新しい、まちを歩

いて自分だけの発見をし、体験する楽しみを

提案できたのではないかと思います。日本に

も個性あふれる美しい風景や、文化、暮らし

があるのだという再発見の旅でもありまし

た。各

地でまちづくりを見てきましたが、原点

とも言える一つの取り組みが群馬県みなかみ

町(旧新治村)

須川宿のたくみの里です。国

道十七号から分岐された旧三国街道の宿場町

は、約十一キロ、かろうじて姿を留めていま

した。時代と共に空き家が増える中、その旅

籠の面影を残す家並みを保全し、そこを様々

な職人さんの工房として使ってもらうという

取り組みです。昭和五九年から始まった建物

再生、景観形成、歴史国道事業などを通じて

地道に積み上げていき、私が最初に訪れた平

成一〇年ごろには、ある程度の形が出来上が

り、観光地ではなかった場所に旅人が訪れる

ようになっていました。道路の脇を流れる小

川の両側には、地元の人たちが育てた花々が

咲き誇り、訪れる人を迎えてくれます。近く

の湯宿温泉では、家庭に内風呂があっても銭

湯に通う人々や、天秤棒を担いで温泉を汲み

に訪れる地元の人にばったり出会えたのも歩

青山 佳世

歩いて 空気を感じて まちを楽しむ

群馬県・須川宿 ①美しい家並みとせせらぎを彩る花々(平成14年撮影)  ②宿場の雰囲気に合わせて歩道を整備カナダ・ウィスラー ③スキーをする人もしない人もそぞろ歩くプロムナード ④スキーを終えて、オープンカフェでくつろぐ

Page 2: 歩いて 空気を感じて まちを楽しむ - JCTC · 5 いのにと当時感じたものです。い歩行空間が有れば、もっと素晴らし間が抜けてしまうこと、もう少し幅広幅が、歩いた時に目に入る風景の中でのは、車が行き違うことのできる道路させるしつらえがあ

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き旅ならではの醍醐味でした。美しい

家並みの中に人々の暮らしぶりを感じ

させるしつらえがありました。残念な

のは、車が行き違うことのできる道路

幅が、歩いた時に目に入る風景の中で

間が抜けてしまうこと、もう少し幅広

い歩行空間が有れば、もっと素晴らし

いのにと当時感じたものです。

その後歴史的な街道、宿場町、城下

町などで、景観を再生、保全する動き

が盛んになりました。ただ残念なこと

に、住民の合意形成が難しい事もあり、

なかなかまちなみとして連続せず、空

き地になった場所は駐車場となった

り、住宅や店舗があるところも、表通

りに面して駐車場を配置するため、ま

ちなみが途切れてしまう事や、再開発

や道路拡張と合わせて、通りに面した

景観整備や電線地中化が行われました

が、映画のセットのような生活感のな

い風景になってしまう事もしばしばあ

りました。

欧米を訪れるたびに、行政や市民も

熱心にまちなみや、風景を守ることに

誇りを持ち、歩いて楽しい空間が広が

っていることを羨ましく思いました。

そんな時スキーでカナダのウィスラ

ーを訪れました。想像以上の素敵なス

ノーリゾートに感動しました。大きな

ホテルも小さなシャレーも、一つ一つ

個性を主張しながら、色彩やデザイン

など絶妙な統一感があり、なんと言っ

てもワクワクしたのは町の中心に配置

された歩行者専用のプロムナードでし

た。近隣のホテルからは通路を通じて

プロムナードに出ることができ、プロ

ムナードに面したところに、お洒落な

ブティック、カフェ、ギャラリー、ス

ーパー、病院などが建ち並び、駐車場

や車の出入り口はありません。ウィス

ラーまでは、車でのアクセスは必須な

ので当然駐車場はありますが、プロム

ナードの外側に配置されています。思

い描いていたまち、そのものでした。

スキーを終えた人々がゆったりとオー

プンカフェでワインやビール片手にお

しゃべりを楽しむ光景を見ているだけ

で 

豊かな気分にしてくれました。後

で調べてみると、一九七〇年代、急速

に進むリゾート開発を凍結、ウィスラ

ーリゾート自治体を作って計画的に開

発を進めた、まさに計算し尽くされた

スノーリゾートだったのです。二〇〇

〇年代、自然に囲まれた街にふさわし

いサスティナブルなまちづくりに取り

組み、息の長い魅力的なリゾートを目

指しています。

少し遅れはしましたが、日本も少し

ずつ変わり始めました。古民家や空き

家を再生して小さな宿泊施設を点在さ

せ、まちごとホテル(イタリア発のア

ルベルゴ・ディフーゾの取り組みと、

日本独自のコンセプトで行っているも

のとがあります)に見立てて町ぐるみ

でおもてなしを行い、旅人に歩いて楽

しんでもらい、まちを元気にしていく

という取り組みが各地に出てきました。

都心では、ビルと車に追いやられて

いた人間にも居場所が出来つつありま

す。緑や花々に彩られた歩道や公開空

地に面したオープンなブティックやカ

フェができ、素敵な場所が確実に増え

ています。最近のお気に入りは、新し

くリニューアルされたデパートの本館

と新館の間にできたプロムナードのオ

ープンカフェ。買い物の合間の束の間

のひと時を過ごしています。

でも残念ながら今は"歩いて楽しむ"

までつながっていません。エリアの中

で調和をしながら競い合って取り組み

が広がり、建物を建てた人の思いや、

空間を眺めながらビル並み散策、街歩

きができるようになる事を楽しみにし

ています。

あおやま・かよ

フリーアナウンサー 愛知県生まれ 愛知教育大学教育学部卒業商社勤務後、昭和60年からフリーアナウンサーに。平成元年からNHKの生活情報番組や報道番組を担当し、おはよう日本「季節の旅」では5年間担当。800か所を超える市町村を旅した体験をもとに、観光、地域づくり、川、道、交通、環境、森林などをテーマに市民の立場から講演、司会など幅広く活動。これまで国土交通省「交通政策審議会」委員、総理主催の「観光立国懇談会」委員、中央防災会議専門委員、林野庁「林政審議会」委員などの委員を歴任した他、団体役員、企業の社外取締役など多数。著書に「旅で見つけた宝物」文芸春秋 平成19年4月発行

快適な都市空間の形成とストリートの活用

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