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1 マツダの先進安全技術 小嶋 浩一 (マツダ株式会社) 小川 伯文 (マツダ株式会社) 遠野 安宏 (マツダ株式会社) 遠藤 靖之 (マツダ株式会社) 大村 博志 (マツダ株式会社) 1.はじめに マツダでは,2007 年に発表したサステイナブル”Zoom-Zoom” 宣言の中で,『マツダ車をご購入いただいた,すべてのお客様に 「走る歓び」と「優れた環境安全性能を提供する』という技術開発 のビジョンを掲げ,安全技術の開発を進めてきた.安全ビジョンと して,「クルマ」「人」「道路・インフラ」という 3 つの領域で「事故のな い安全なクルマ社会」の実現を目指し,「安全なクルマの開発・商 品化」はもとより,「安全啓発活動」や「交通環境整備の動きに連 携した取り組み」も進めている (1) 今回,安全なクルマの開発・商品化,その中でも新型アテンザ に搭載した先進安全技術にフォーカスして紹介する. 2. マツダの安全思想 マツダは,ドライバ・人間を理解・信頼・尊重することを重視し, 以下の考えで安全技術の研究・開発を進めている. 危険な状態をあらかじめ,Proactive に予防していく,そして結 果的に事故に至る確率を減らし,ドライバが安全に運転できる状 態,これを最大限に高めることを狙いとした考えである.この安全 に対する考え,思想を「MAZDA PROACTIVE SAFETY」と名付け, 安全性能の開発に取り組んでいる(Fig.1). その中でも最も注力しているのが,危険な状態には早めに気 付いて頂くことで,ドライバの安全な運転をサポートする認知支 援・判断支援技術である.また,ドライバが仮にミスを起こして衝突 が避けられない場合には,クルマが介入してドライバをサポートす ることで衝突回避・被害軽減を図る技術にも取り組んでいる. これら領域においてマツダが提供する先進安全技術,具体的 には,Fig.2 に示すミリ波レーダ,赤外線レーザ,カメラなど複数の センサを用い様々な走行環境においてドライバの安心・安全な運 転環境をサポートする先進技術を「i-ACTIVSENSE」と総称してい る. Fig.1 Mazda Proactive Safety Fig.2 Sensors for i-ACTIVSENSE 3. 新型アテンザに採用した先進安全技術 新型アテンザでは,以下に示す 9 つの技術を提供している. 【運転支援技術】 ・マツダ レーダークルーズ コントロール (MRCC) 【認知支援技術】 ・前方衝突警報システム (FOW) ・車線逸脱警報システム (LDWS) ・リア ビークル モニタリング システム (RVM) ・ハイビーム コントロール (HBC) ・アダプティブ フロントライティング システム (AFS) 【衝突回避支援・被害軽減技術】 ・スマート シティ ブレーキ サポート (SCBS) ・スマート ブレーキ サポート (SBS) AT 誤発進抑制制御 安全に運転するためには,認知・判断・操作の各ステップで 適切に行動することが重要です.運転する環境が変化しても, 正しく認知・判断することをサポートし,安全に安心して運転し て頂きたいと考えています. しかし,人間は時として避けられないミスを起こします.万が 一のドライバのミスに対応できるように,事故被害を防止・軽減 することをサポートする技術を開発・提供していきます. Motor Ring No.36 2013 自動車技術会 http://www.jsae.or.jp/motorring/

マツダの先進安全技術 - (公社)自動車技術会dat1/mr/motor36/06.pdfMotor Ring No.36 2013 êRÕ Êb SO 4 できる.また24GHzレーダは,マツダ レーダークルーズ

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1

マツダの先進安全技術

小嶋 浩一 (マツダ株式会社)

小川 伯文 (マツダ株式会社)

遠野 安宏 (マツダ株式会社)

遠藤 靖之 (マツダ株式会社)

大村 博志 (マツダ株式会社)

1.はじめに

マツダでは,2007 年に発表したサステイナブル”Zoom-Zoom”

宣言の中で,『マツダ車をご購入いただいた,すべてのお客様に

「走る歓び」と「優れた環境安全性能を提供する』という技術開発

のビジョンを掲げ,安全技術の開発を進めてきた.安全ビジョンと

して,「クルマ」「人」「道路・インフラ」という3つの領域で「事故のな

い安全なクルマ社会」の実現を目指し,「安全なクルマの開発・商

品化」はもとより,「安全啓発活動」や「交通環境整備の動きに連

携した取り組み」も進めている(1).

今回,安全なクルマの開発・商品化,その中でも新型アテンザ

に搭載した先進安全技術にフォーカスして紹介する.

2. マツダの安全思想

マツダは,ドライバ・人間を理解・信頼・尊重することを重視し,

以下の考えで安全技術の研究・開発を進めている.

危険な状態をあらかじめ,Proactive に予防していく,そして結

果的に事故に至る確率を減らし,ドライバが安全に運転できる状

態,これを 大限に高めることを狙いとした考えである.この安全

に対する考え,思想を「MAZDA PROACTIVE SAFETY」と名付け,

安全性能の開発に取り組んでいる(Fig.1).

その中でも も注力しているのが,危険な状態には早めに気

付いて頂くことで,ドライバの安全な運転をサポートする認知支

援・判断支援技術である.また,ドライバが仮にミスを起こして衝突

が避けられない場合には,クルマが介入してドライバをサポートす

ることで衝突回避・被害軽減を図る技術にも取り組んでいる.

これら領域においてマツダが提供する先進安全技術,具体的

には,Fig.2 に示すミリ波レーダ,赤外線レーザ,カメラなど複数の

センサを用い様々な走行環境においてドライバの安心・安全な運

転環境をサポートする先進技術を「i-ACTIVSENSE」と総称してい

る.

Fig.1 Mazda Proactive Safety

Fig.2 Sensors for i-ACTIVSENSE

3. 新型アテンザに採用した先進安全技術

新型アテンザでは,以下に示す 9 つの技術を提供している.

【運転支援技術】 ・マツダ レーダークルーズ コントロール (MRCC) 【認知支援技術】 ・前方衝突警報システム (FOW) ・車線逸脱警報システム (LDWS) ・リア ビークル モニタリング システム (RVM) ・ハイビーム コントロール (HBC) ・アダプティブ フロントライティング システム (AFS) 【衝突回避支援・被害軽減技術】 ・スマート シティ ブレーキ サポート (SCBS) ・スマート ブレーキ サポート (SBS) ・AT 誤発進抑制制御

安全に運転するためには,認知・判断・操作の各ステップで

適切に行動することが重要です.運転する環境が変化しても,

正しく認知・判断することをサポートし,安全に安心して運転し

て頂きたいと考えています.

しかし,人間は時として避けられないミスを起こします.万が

一のドライバのミスに対応できるように,事故被害を防止・軽減

することをサポートする技術を開発・提供していきます.

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Fig.3 に各種検知デバイスのレイアウトを示す.

Fig.3 Sensors Layout on New ATENZA

以降の章で,主要技術を紹介する.

4. 認知支援技術

4.1. フォワード・センシング・カメラ (FSC)

今回マツダが開発したフォワード・センシング・カメラ(2)には,カラ

ーCMOSセンサ(画角水平45度,垂直24度)と白線認識アルゴリズ

ムと夜間の光源物標検出/先行車,対向車識別アルゴリズムが搭載

されており,また,車線逸脱判定やハイビーム/ロービームの切り替

え判定を行う情報処理演算装置(ECU)も内蔵されている(Fig.4).

FSC

CAMERA

Fig.4 FSC Layout

4.2. 車線逸脱警報システム (LDWS)

(1) システム構成

4.1.で示したフォワード・センシング・カメラで,車両前方の白線

を検出し,自車前輪との位置を推定するとともに,アクセルやブレ

ーキペダル操作量,ウィンカ操作,車両加減速度など,様々な車

両情報から車両の逸脱状態を判断する.フォワード・センシング・カ

メラで判断した情報に基づき車両ネットワークを介してメータ表示,

および警報吹鳴を行う(Fig.5).

Fig.5 LDWS System Structure

(2) システム作動条件

インパネに設置される LDWS スイッチをONにした状態で,車速

40km/h(欧米では 65km/h)以上で車線を逸脱したときに警報を行う.

だだし,本システムではさまざまな車両状態量に基づくドライバの

運転意思推定を行い,意図的な車線変更などによる不要な警報を

低減できるようにした.

(3) システム表示/警報

メータインジケータ及びLCDディスプレイにシステムの作動状

態を示す(Fig.6).車両が左右いずれかに逸脱したと判断された場

合,インジケータを点滅させるとともに,ディスプレイに逸脱した方

向を示す表示をおこなう.同時に,逸脱した側のフロントスピーカ

ーから,ランブルストリップスを模擬した警告音を吹鳴する(純正オ

ーディオ装着車のみ,それ以外はメータブザーのみ)ことで,ドライ

バに車線逸脱状態を報知し,安全な運転操作を促す.

Fig.6 LDWS Warning / HBC Operation Display

4.3. ハイビーム・コントロール・システム (HBC)

(1) システム構成

4.1.で示したフォワード・センシング・カメラで,夜間走行時の光

源物標を検出し先行車,対向車,街灯を識別し,ハイビーム/ロー

ビーム切り替え要否を判断する.フォワード・センシング・カメラで判

断した情報に基づき,車両ネットワークを介して,メータ表示,およ

びヘッドライトユニットのハイビーム点消灯を切り替える(Fig.7).

Fig.7 HBC System Structure

(2) システム作動条件

ライトスイッチを”Auto”ポジションと”HI”ポジションにセットし,オ

ートライトが点灯したときに作動する.車速 30km/h 以上で先行車/

対向車が居ない時は自動的にハイビームに切り替わり,先行車/対

向車を検出したときや市街地など周辺が明るい環境を走行してい

るとき,もしくは車速が 20km/h 以下となった時は,自動的にロービ

ームに切り替わる(Fig.8).

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3

Fig.8 HBC System Operation

(3) 操作/表示

上記システムが作動状態となると Fig.6 に示すインジケータが点

灯する.また,ハイビームインジケータは,自動切り替えでハイビー

ムが点灯したときに点灯,ロービームに切り替わったときに消灯す

る.

4.4. リア ビークル モニタリング システム (RVM)

(1) システム概要

リア ビークル モニタリング システム(以下RVM)(3)は,走行時に

左右の隣車線上の後方から接近してくる車両を検知し,車線

変更により衝突の危険性がある場合には,ドライバに警報を発して

速やかな車線変更の中断を促すドライバーサポートシステムであ

る.RVM は対象車両の検知に 24GHz レーダを採用している.検

知範囲が広く悪天候下でも安定した性能を持つ24GHzレーダを用

いることで,ねらいの性能を実現している.(Fig.9)

Fig.9 RVM System Operation

RVM のねらいは,ドライバが容易に直接視認できる前方領域

に対して,直接視認し難い後方領域について,認知支援・判断支

援を行い,ドライバの安全運転をサポートすることである.

実際,高速道路の車線変更時に発生した事故以外にも,走行

中に不意に後方から現れた,高速で接近してくる車両に対して,

ヒヤッとしたことは多くのドライバが経験している.したがって,車

線変更時の認知支援・判断支援を行うことで不安感を抑えること

は,安全上大きな効果があると考える.

(2) 作動条件と検知範囲

RVM の作動車速は,旧型アテンザではおもに高速道路での走

行を想定していたため,車速 60km/h 以上としていた.新型アテ

ンザでは市街地の走行から高速道路の走行までを対象としたた

め,15km/h 以上で作動する.この作動車速の範囲の拡大は,レ

ーダの検知性能向上を行うことで実現した.

RVM の検知エリアは自車の側方から後方約 50m とし,検知エリ

ア内の左右隣車線を警報対象エリアとしている.この警報対象エ

リア内において,後方から接近する車両の位置と接近速度から

衝突時間を計算し,自車が車線変更した際に衝突の危険性があ

ると判断される場合に,ドライバに対して警報することを主な機能

としている.

(3) システム構成

24GHz レーダをリア・バンパー内の車体へ左右一つずつ装着し

ている.取り付けは,後方からの接近車両を検知できるように,レー

ダを後方から若干車両外側に向けている.接近車両を知らせる表

示灯(橙色)は,ドアミラー鏡面内に設定している.表示灯は警報レ

ベルに応じて点灯/点滅させている.

その他の構成部品として,システムの作動/不作動を行うRVMス

ィッチ, システムが作動状態になっているときに点灯させる RVM

表示灯(緑色),自己診断で異常を発見したときに点灯させる RVM

警告灯(橙色),警報ブザー,ヨーレートセンサがある.ヨーレートセ

ンサは,道路の曲率を算出し,走行車線の判定を行うために使用

している.これにより隣車線を走行している車両を適切に判断し,

車線変更時に衝突の危険性がある車両に対してのみ警報を出す

ことを可能にしている.(Fig.10)

Fig.10 RVM System Structure

(4) レーダ方式

RVM は 24GHz の ISM(Industrial Science Medical)Band のレーダ

を採用している.ISM Band は 24.05GHzから 24.25GHz の範囲(帯

域幅=200MHz)で世界的に認められており,24GHzのUWB (Ultra

Wide Band)は帯域幅が広いことから距離分解能では優位だが,

ISM は出力電力を大きく取れることから後方約 50m の検知が実現

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できる.また 24GHz レーダは,マツダ レーダークルーズ コントロ

ール(MRCC)等で使用されている 76GHz レーダと比較して,安価

という特長もある.

距離・相対速度の測定は,FMSK (Frequency Modulated Shift

Keying)方式を採用している.FMSK 方式は,一般的に用いられる

FMCW 方式で課題となる複数目標の検知を改善した方式で,高精

度な距離・相対速度の測定を実現している.

水平方向の角度の測定は,モノパルス方式を採用している.一

般的なモノパルス方式は,レーダ内に設定した 2 つの受信アンテ

ナで受信された信号の位相差と,アンテナ間距離から,角度を算

出する方式である.RVM では 3 つの受信アンテナを用いることで,

2 つの受信アンテナのみの場合と比較して,より高精度な角度の測

定を実現している.

5.衝突回避支援・被害軽減技術

前方障害物衝突軽減制動装置として,低速域での車両事故に

対して衝突被害を軽減をサポートする,スマート シティ ブレーキ

サポート(SCBS)(4)と,ミリ波レーダを用いたスマート ブレーキ サポ

ート(SBS)(5)を新型アテンザに搭載した.

5.1 スマート シティ ブレーキ サポート (SCBS)

約 4km/h~30km/h の低速走行中に先行車との衝突の危険性

がある場合,Fig.11に示すように,[STEP 1]先ず,ブレーキプレフ

ィルを作動させてブレーキの遊びを詰め,ドライバのブレーキ操

作に対して即座に制動力を発揮できるよう準備する.[STEP 2]更

に,ドライバが衝突回避操作を行わず,システムが衝突回避でき

ないと判断した場合は衝突被害軽減ブレーキを作動させ,減速

することで追突事故による被害を軽減する.

[STEP 1]Electronic Brake Prefill

[STEP 2]Automatic Emergency Brake

Fig.11 Functional Overview (SCBS)

なお,SCBS によるブレーキプレフィルからブレーキ制御中に

ドライバ自身による回避操作(操舵やアクセル操作)があった場

合は,ドライバ操作を優先させ,SCBS による制御を速やかにキ

ャンセルするオーバライド機能も備えている.

(1) システム構成

SCBS システムは,新たに開発したレーザセンサを中心に,ダイ

ナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)ユニット,パワートレイン・コ

ントロール・モジュール(PCM),ボディ・コントロール・モジュール

(BCM),及びメータで構成される.各 ECU は CAN(Controller Area

Network)で接続され,双方向の通信によって制御される.

レーザセンサはフロントウィンドシールド中央上部の車室内側に

レイアウトされ(Fig.12),車両前方の先行車や障害物などの物標を

検知する.物標の検知には近赤外線反射式を採用しており,セン

サ送信部より照射された近赤外線が対象物に反射して返ってくる

反射波をセンサ受信部で捉え,送信から受信までの時間差を測定

し,物標との距離と相対速度をセンサ内で算出している.本センサ

のセンシング範囲は車両前方数メートル程度の近傍にとどまるが,

外部環境による性能劣化が少ないのが特徴で,日射など外乱光を

受けるような環境下や夜間,トンネル内でも影響を受けることなく精

度良く物標を検知することが可能である.また,雨や雪,霧といった

気象環境による影響も小さく,ロバスト性に優れている.

Fig.12 SCBS Sensor Mount

なお,本センサは前述の物標検知機能に加え,SCBS に於ける

衝突被害軽減ブレーキの目標演算機能も併せ持つ.具体的には,

算出した先行車両の情報(距離,相対速度)と自車両の情報(車速,

舵角,アクセル開度,等)を基に衝突の危険性を判断し,衝突の可

能性が高いと判断した場合にブレーキ作動要求を DSC と PCM に

対して送信する.

(2) システムの性能

SCBS は 大 9.8m/s^2 の減速度で衝突被害軽減ブレーキを作

動する.路面環境や車両状況(重量やタイヤなど)にも因るが,一般

的なアスファルト路面(路面μ=0.8 以上)で,2 名乗車の条件であれ

ば,先行車との相対走行速度差が 15km/h 未満の場合は追突を回

避することが可能である.また,相対速度が 15km/h~30km/h の場

合は,SCBSの衝突被害軽減ブレーキにより衝突時の速度は50%以

下(衝突エネルギは 25%以下)に抑えられる(Fig.13).

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5

0

5

10

15

20

25

30

10 15 20 25 30

w/o SCBSw/ SCBS

Rerative Speed with Leading Vehicle [km/h]

Co

llis

ion

Sp

eed

[km

/h]

Fig.13 Collision Speed with/without SCBS

5.2. スマート ブレーキ サポート (SBS)

SBS は,運転者に追突事故が発生する可能性を事前に警報す

るフォワード・オブストラクション・ワーニング(Forward Obstruction

Warning: FOW)と自動的に衝突速度を低減する制動機能を持つ

ブレーキシステムで構成している.今回,従来システムに比べ,自

動ブレーキによる減速量,および警報機能(前方の車両との衝突

の可能性をより遠くから警報する)を向上させた.また,新たに先

行車までの車速に応じた車間距離を表示し,適切な車間距離維

持をサポートするディスタンス・レコグニション・サポート・システム

(DRSS)を採用した.

(1) システム構成

主な構成部品は,ミリ波レーダと制御 ECU で,レーダはマツ

ダエンブレム後方に設置し,前方の車両や障害物の状態を検

出する(Fig.14).ミリ波(76-77GHz 帯)を車両前方に照射し前方

車両や障害物に反射した電波を受信し,ドップラー効果を利用

して障害物との相対速度/距離および横位置を測定する.

Fig.14 Millimeter Wave Radar

制御 ECU は,ミリ波レーダから送られてきた複数の物体情報(距

離,相対速度,横位置),およびヨーレートセンサを用いた自車進

行路の推定結果から,衝突対象を抽出し,先行車や自車の情報を

基に衝突の可能性を予測し,警報や制動の指示を行う.また,本

ECU ではマツダレーダークルーズコントロール(MRCC)制御も行っ

ており,ドライバが設定した車間段階,先行車との車間距離と相対

速度から,目標となる加減速度を算出し,アクチュエータとなるエン

ジンやブレーキをコントロールすることで,走行シーンに適した車

両制御を行う.

(2) システムの性能

SBS システムでは,15km/h 以上で警報や制動制御を行ってい

る.従来のシステムに対して,自動ブレーキによる減速量を向上さ

せるために, 大減速度をこれまでの 5.1m/s2から 6.5 m/s2まで引

き上げた.また,ミリ波レーダの物体認識および作動判断ロジック

の改良に取り組み,物標の信頼性を加味した.主な取り組みは次

の 2 つである.①ミリ波レーダは,対象物の幅や上下の位置を認識

することが難しいため,遠方の上下方向の衝突しない構造物を制

御対象と認識してしまう可能性がある.その対策として,レーダの受

信状態による属性判断(道路標識やマンホールなど)を基に制御対

象から除外した上で,一定時間正しく検出された制御対象を信頼

性の高い対象と判断し制御を開始することとした.②進行路外の構

造物を制御対象としないよう,レーダによる静止物体列の情報を基

にヨーレート情報の補正を行い推定進行路の精度を向上させた.

これらにより,路面環境や車両状態(重量やタイヤなど)にもよる

が、一般的なアスファルト路面(路面μ=0.8 以上)で,2 名乗車の条

件であれば,誤検知による警報などの不要作動を抑え,静止車両

に対しては,自車速 30 km/h 以下であれば衝突直前で停止させる

ことを可能としている.

SCBS と SBS を併用することで,一定の路面・積載条件であれば,

4~30km/h で衝突回避をサポートし,30km/h 以上で衝突被害軽

減を実現している.

6 おわりに

今回,新型アテンザに搭載した先進安全技術(アクティブセーフ

ティの技術)を紹介した.今後も,マツダの安全思想に基づき,

i-ACTIVSENSE の技術を継続的に進化させることにより,事故の

ない安全クルマ社会の実現に向け貢献していく考えである.

参 考 文 献

(1) 竹本, 他; マツダの安全性向上の取り組み,マツダ技報,

No.30 (2012)

(2) 内海, 他; フォワード・センシング・カメラの開発, マツダ技報,

No.30 (2012)

(3) C. Schultze, et al, Rear Vehicle Monitoring, an Award Winning

Safety Function, マツダ技報,No.30 (2012)

(4) 細田, 他; 低速域衝突被害軽減システムの概要, マツダ技報,

No.30 (2012)

(5) 尾崎, 他; SBS/MRCC の機能/性能向上について, マツダ技

報, No.30 (2012)

Millimeter

Wave Radar

50%

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