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2012 年度卒業論文概要 新潟大学人文学部情報メディア論履修コース - 1 - 新潟大学 人文学部 情報メディア論履修コース 2012 年度卒業論文概要 影山 孝祥 韓流ブームから見る日本人のメディア受容.............................................. 2 田巻 中国人訪日旅行の現状と社会的背景 ........................................................ 3 穐元 ウェブコミュニケーションにおける実名性と匿名性 ............................... 4 池澤 和輝 “初音ミク”現象はなぜ起こったのか ~リスナーがつくり上げたボーカリスト~.......................................... 5 石崎 友也 ロックミュージック・シーンにおける映像表現 ...................................... 6 小野 祥生 日本の音楽シーンにおける、ロックミュージックの「存在理由」と その変化 .................................................................................................... 7 菊地 亜美 変わりゆくおもちゃの世界 ....................................................................... 8 古塩 智子 変わりゆくウェディングの実態................................................................ 9 小林佳奈恵 報道番組の娯楽化について ..................................................................... 10 坂井 綾花 現代の子育て支援 ―家族と地域社会― ................................................ 11 佐藤 アイドル消費社会.................................................................................... 12 重野真依子 20代向け女性ファッション雑誌から見る現代女性の理想像 .............. 13 鈴木 美沙 「女子力」からみる現代女性のイメージ ............................................... 14 関澤洋一朗 現代日本のウェブ「炎上」―企業への攻撃を中心に― ......................... 15 髙田 麻椰 主題化される廃墟.................................................................................... 16 橋本友佳里 ハリウッド映画における戦う女性の表現 ............................................... 17 啓子 ジャーナリズムの功罪とネットリテラシー............................................ 18 藤橋 葉子 現代の音楽とファッション-ヴィジュアル系を中心に-...................... 19 古金 郁美 現代の「有名性」.................................................................................... 20 星野 愛実 蜷川実花の「かわいい」と「グロテスク」............................................ 21 本間千奈未 蝋型鋳金をはじめとした佐渡の伝統工芸に関する研究 ......................... 22 宮島 恵理 スーパー戦隊のヒーロー像・女性像 ...................................................... 23 諸橋 竜馬 「スター」論から見るモーニング娘。の現代性 .................................... 25 大渕 明夏 外国人タレントと商品イメージ.............................................................. 26 菅沼 ファッション情報の流通に関する研究................................................... 27 高橋 高校野球に人々が求めるものにおける研究............................................ 28 角田 美加 女性のライフコース選択とメディア ...................................................... 29 野俣 峻大 〈モバイル広告〉的都市の方法論 .......................................................... 30 山田真唯子 ネットユーザーの匿名/実名使用時の自己開示 .................................... 31

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2012年度卒業論文概要 新潟大学人文学部情報メディア論履修コース

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新潟大学 人文学部 情報メディア論履修コース

2012 年度卒業論文概要

影山 孝祥 韓流ブームから見る日本人のメディア受容.............................................. 2

田巻 瞳 中国人訪日旅行の現状と社会的背景 ........................................................ 3

穐元 瞬 ウェブコミュニケーションにおける実名性と匿名性 ............................... 4

池澤 和輝 “初音ミク”現象はなぜ起こったのか

~リスナーがつくり上げたボーカリスト~ .......................................... 5

石崎 友也 ロックミュージック・シーンにおける映像表現 ...................................... 6

小野 祥生 日本の音楽シーンにおける、ロックミュージックの「存在理由」と

その変化 .................................................................................................... 7

菊地 亜美 変わりゆくおもちゃの世界 ....................................................................... 8

古塩 智子 変わりゆくウェディングの実態 ................................................................ 9

小林佳奈恵 報道番組の娯楽化について ..................................................................... 10

坂井 綾花 現代の子育て支援 ―家族と地域社会― ................................................ 11

佐藤 佑 アイドル消費社会 .................................................................................... 12

重野真依子 20代向け女性ファッション雑誌から見る現代女性の理想像 .............. 13

鈴木 美沙 「女子力」からみる現代女性のイメージ ............................................... 14

関澤洋一朗 現代日本のウェブ「炎上」―企業への攻撃を中心に― ......................... 15

髙田 麻椰 主題化される廃墟 .................................................................................... 16

橋本友佳里 ハリウッド映画における戦う女性の表現 ............................................... 17

原 啓子 ジャーナリズムの功罪とネットリテラシー............................................ 18

藤橋 葉子 現代の音楽とファッション-ヴィジュアル系を中心に- ...................... 19

古金 郁美 現代の「有名性」 .................................................................................... 20

星野 愛実 蜷川実花の「かわいい」と「グロテスク」............................................ 21

本間千奈未 蝋型鋳金をはじめとした佐渡の伝統工芸に関する研究 ......................... 22

宮島 恵理 スーパー戦隊のヒーロー像・女性像 ...................................................... 23

諸橋 竜馬 「スター」論から見るモーニング娘。の現代性 .................................... 25

大渕 明夏 外国人タレントと商品イメージ .............................................................. 26

菅沼 歩 ファッション情報の流通に関する研究 ................................................... 27

高橋 綾 高校野球に人々が求めるものにおける研究............................................ 28

角田 美加 女性のライフコース選択とメディア ...................................................... 29

野俣 峻大 〈モバイル広告〉的都市の方法論 .......................................................... 30

山田真唯子 ネットユーザーの匿名/実名使用時の自己開示 .................................... 31

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2012年度卒業論文概要 新潟大学人文学部情報メディア論履修コース

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影山 孝祥 韓流ブームから見る日本人のメディア受容

2003年4月頃『冬のソナタ』をきっかけにして起きた韓流ブームは、2010年頃には第二次

韓流ブームを引き起こした。しかし、2011年中盤頃には韓流ブームに対する嫌韓流が勢い

を増し、反韓デモが起きるようになる。嫌韓流派の主張では、「日本のテレビ局は、日本

よりも韓国依りの放送をしている」というものであった。

本論文においては、韓流ブームの変遷を見た上で、2010年~2011年の間にテレビ局は韓

流番組を何本放送したのかを調査し、テレビ局による韓流推しの実態について考察する。

そして、その結果を踏まえて嫌韓流の原因は日本人の持つ異文化から自文化を守ろうとす

るメディア受容にあることを明らかにすることを目的とする。

第 1 章では、本論文においての「韓流」とは,韓国の音楽である K-POP や韓国ドラマ、

韓国映画、また韓国人俳優や歌手など一連の韓国芸能人の日本における活動といった韓国

大衆文化人気を指すと定義する。また、日本において「韓流」という言葉は、2003 年頃か

ら使われ始めたことを示す。

第2章・第3章では、韓流ブームの変遷について見ていく。また、第一次韓流ブームと第

二次韓流の違いに触れ、それぞれの韓流ブームが成功した背景・原因について述べる。そ

して、韓流ブームの結果、韓国・韓国人に対するイメージが一時的に好転したことを示す。

第4章では、韓流が終結していった原因となる嫌韓流について見ていく。第一次韓流ブー

ム時に起きた嫌韓流と、第二次韓流ブームに起きた嫌韓流の概要を見ていくことで、前者

と後者では韓流ブームに対して直接的な批判をしているかどうかに違いがあることを明ら

かにする。

第5章では、2010年~2011年における韓流番組数やその放送時間帯を調べていくことで、

インターネットユーザーが言うように日本以上に韓国に依っているというテレビ局の実態

は本調査においては断定し難いものであることを指摘する。調査対象テレビ局は、2010年

からの番組表が確認可能で、視聴率を重要視する民放の、フジテレビ・テレビ朝日・TBS・

日本テレビとした。また、日本人のメディア受容は、「異文化と接するときに、過剰な異文

化の摂取によって自文化が忘却される危険を感じる時、自文化に対する保守的意識と異文

化に対する反発心が生まれやすい」ものであることを示す。

終章では、本調査を踏まえた上で、韓流ブームを再び振り返る。そして、韓流ブームの

最大の過ちは、短期間の間に多くの韓国芸能人を日本に送り込んでしまったことで、日本

人による芸能活動が抑制される危険を感じさせてしまったことにあることを指摘する。

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田巻 瞳 中国人訪日旅行の現状と社会的背景

本論文は、中国人訪日旅行をその形態、内容経験から分析することで、訪日旅行を望む

背景にある中国人の日本像、日本旅行に対する価値観を明らかにすることを目的とする。

中国では 1983年に、香港・マカオへの親族訪問が許可されたのを皮切りに、改革開放政

策に従い海外渡航の自由化がなされ、中国政府は1997年に海外旅行を解禁することになる。

また、訪日旅行では、訪日観光ビザの緩和によって団体中心から個人旅行の形態が増え、

それに伴い、旅行の内容にも変化が起きている。

そこで、中国における国内・海外旅行の捉え方と現状を踏まえた上で、中国人訪日旅行

形態の多様化とその社会的背景、それを支える社会的システムについて整理し、旅行記の

分析とインタビューを通じて、旅行の傾向や実際の行動を分析することで、訪日旅行を望

む背景にある中国人の日本像、日本旅行に対する価値観を明らかにした。

第一章では、中国における海外旅行解禁への流れを追い、海外旅行の旅行先としてヨー

ロッパを希望しながらも実際には中華圏の国・地域への旅行者が多い現状を明らかにし、

その理由として、金銭・時間面での制約、ビザ解禁の順、2008 年からの休日改定という要

因を挙げた。

第二章では、訪日旅行に焦点を絞り、他国に比べ団体旅行客が多い訪日中国人旅行客の

特徴、近年における団体旅行から個人旅行への変遷を、ビザ解禁の流れと結びつけて分析

した。個人観光ビザの解禁のほか、中間層でも自分の収入にあった旅行を、インターネッ

トの情報を活用してカスタマイズ出来るようになった結果、個人ではショッピング消費額

の減少が起き、ショッピング重視から観光重視への内容の変化をもたらした。また、共に

旅行する人によって、「休暇」、「娯楽」という要素で旅先、目的が異なる点を指摘した。

第三章、第四章では、投稿型旅行情報サイト「蚂蜂窝m a f e n g w o

」(http://www.mafengwo.cn/)、「驴评网l ü p i n g w a n g

(http://www.lvping.com/)に投稿された訪日観光の旅行記を対象として、実際に日本に旅行

に来た中国人が、どのような行動をとり、何に対して興味や関心を持っているかを明らか

にするため、第三章では、団体観光客、個人観光客に分け参加者の特徴の比較分析を行い、

第四章では、中国人訪日観光客の旅行経験から内容別分析を行った。そこから、旅行記の

中で日本は肯定的に捉えられており、中国人の視点をもって様々な日本の美徳が語られて

いることが明らかになった。

互いの関係性の中から、相手に発見されることによって自らの良い点、改善すべき点を

再発見し、またフィードバックするという過程は自己のアイデンティティ形成の過程に類

似しており、旅行によって得られる発見と自覚の経験は、相互に自らを高めていくきっか

けとなる。このことから、自らの行動を意識し、努力を続けること、個人間での好意的な

関係を築き、その小さな単位の良好な関係を日中間の友好関係に繋げていくことの重要性

を結論として導いた。

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穐元 瞬 ウェブコミュニケーションにおける実名性と匿名性

PCやスマートフォンなどのデバイスの普及により、今までよりもより手軽に、掲示板や

SNS(Social Networking Service)といったサービスを利用することができるようになった

現代社会において、それらのサービスを利用する際に実名で利用するか、匿名で利用する

かといったことを考える場面も増加の傾向にあると考えられる。本論文ではそのような実

名、匿名でのサービスの利用が、ユーザにどのような影響を与えるのかを検討し、より有

意義なウェブコミュニケーションを行うためには、どのように実名と匿名を用いるべきで

あるかということについて考察する。

はじめに本論文の序論を述べ、第一章において匿名性、実名性、仮名性を個人情報保護

法や到達不可能性といった言葉で説明し、それぞれの言葉の定義の確認を行った。第二章

では、ウェブ上での炎上とも呼ばれるサイバーカスケードやモラルハザードの事例を取り

上げ、実際にウェブコミュニケーションで起きている問題点を挙げた。第三章では、第二

章で取り上げたサイバーカスケードやモラルハザードなどの問題を、特定度や識別性など

の点から説明し、匿名や仮名であることがこれらの現象を引き起こす温床となる可能性を

述べた。第四章では、匿名であることが第二章で説明したような問題を引き起こす要因の

一つではあるものの、実名を用いることがそれらの問題を解消することにはつながらず、

むしろ匿名よりも、深刻な問題を引き起こす可能性があるということを実例や社会学的観

点などから説明した。そして終章において本論文のまとめを述べた。

実名を用いることによって、ウェブと現実社会との境があいまいになり、リアルなウェ

ブコミュニケーションが可能にはなるが、現実社会よりも多くの人々の視線を考慮しなく

てはならず、全ての発言が記録されてしまうウェブにおいては、同調や萎縮などの傾向が

より強く働いてしまうと考えられ、カスケードを引き起こし易い状況を生んでしまう。ウ

ェブコミュニケーションにおける有意義な議論は、リアルな議論ということではなく、社

会的アイデンティティに縛られることなく、どんな人物でも自由に情報を発信できる点が

重要なのである。現実社会では議論もされにくい負のイメージを伴った議題や些細な議題

をも議論することのできる空間が必要なのである。不特定多数に対して情報を発信すると

いうことに当たってアマチュアともいえる我々は匿名性を用いることによって、過剰な責

任追及から保護されなくてはならない。

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池澤 和輝 “初音ミク”現象はなぜ起こったのか

~リスナーがつくり上げたボーカリスト~

本稿では、DTMソフト『初音ミク』の流行を追い、“初音ミク”の何が新しかったか、

なぜ人々に受け入れられ、流行したのかを考察・分析している。

『初音ミク』は2007年8月31日にクリプトン・フューチャーメディア株式会社か

ら発売された、音声合成DTMソフトである。『初音ミク』はDTMソフトの中では異例の

商業的ヒットをみせた。さらに“初音ミク”は単なるソフトセルスだけにとどまらず、新

たな文化現象の形として名を広めていき、2011年にはトヨタ・モーター・ノースアメ

リカがCMに“初音ミク”を起用。2012年にはGoogle社が、インターネットを

通じたN次創作文化の象徴として、CMに“初音ミク”を起用し、このCMはカンヌ国際

広告祭で銅賞を獲得した。単なるDTMソフトであったはずの『初音ミク』がこのような

一つの文化現象にまで発展するまでにはどのような経緯があり、そして、“初音ミク”の新

しさとは何だったのか。それらの疑問を、流行の過程やソフトの性質を分析し、考察して

いく。

第1章では、DTMソフト『初音ミク』がどのようなものなのかを、ソフトウェアの観

点から述べた。

第2章では、『初音ミク』が発売されて以後、『初音ミク』を使用した楽曲が多数投稿さ

れ、“初音ミク”現象が巻き起こる土壌となったニコニコ動画の機能的特長について述べた。

第3章では、“初音ミク”がニコニコ動画のユーザー間でどのように受け入れられ、流行

していったかを時系列を追って取り上げ、発売当初はただ新技術を携えたDTMソフトと

して迎えられた『初音ミク』が、ユーザーによるN次創作や設定付けによって一人のボー

カリストとしての“初音ミク”へと成長していった経緯を分析した。

第4章では、第1~3章を踏まえたうえで、“初音ミク”が流行するに至った原因を、「ニ

コニコ動画と“初音ミク”」「DTMソフト『初音ミク』の性質」「ミクオリジナル曲」の3

つの観点から分析した。

第5章では、本稿のまとめとして、“初音ミク”現象が起こる要因には、①ユーザー文化

が成り立ちやすい性質を持ちながらも、オリジナル“素材”の不足にあえいでいたニコニ

コ動画と“初音ミク”とが相互依存な関係で結びついたこと ②“初音ミク”がする歌声

のシュミレーションがまだ未発達で、人間の身体とは多少のズレを感じさせるものだった

が故に、テクノミュージックの真正化と同様な現象が起こったこと ③自然発生的に起こ

った、流行するミクオリジナル曲からの自己言及性の欠如が“初音ミク”の脱オタク化・

脱アンダーグラウンド化を果たしたこと といった複数の要因が絡み合って存在していた

という結論を述べた。

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石崎 友也 ロックミュージック・シーンにおける映像表現

本論文では、ロックミュージック・シーンにおける映像と音楽の融合がもたらす効果に

ついて論じる。1960 年代に誕生したロックは早くから視覚的要素を表現の一つとしてライ

ブイベントやミュージック・ビデオ制作などを行ってきた。時代と共に視覚的表現の持つ

役割は大きくなっており、最近のミュージック・ビデオでは映画に匹敵するような世界観

の演出を行うまでに進化してきている。ミュージック・ビデオの前身であるミュージック・

フィルムの頃は、プロモーションを前提として作られており、現在のような多様性や芸術

性などはあまり感じられない。しかし、MTVの出現と共にミュージック・ビデオがもつ可

能性は飛躍的に大きくなっていった。現代においてミュージック・ビデオはロックミュー

ジックに限定せず、様々なジャンルで制作されている。またインターネットの普及により、

動画共有サイトが一般に浸透したことによって、容易かつ無料で楽曲やミュージック・ビ

デオ、ライブ映像などを視聴することができるようになった。現代のポピュラーミュージ

ックシーンにおいて映像は音楽と切り離すことのできない存在となり、表現の一部として

浸透している。

本論文ではロックミュージック・シーンにおける、映像がどのように生まれ、どのよう

に進化してきたかを考察し、現代のロックバンドで映像と音楽を効果的に使って表現をよ

り深いものにしている ACIDMANについて分析する。彼らのもつ独特な世界観が映像と音

楽の融合によって演出されていることを示し、現代のロックミュージック・シーンにおけ

る映像作品のもつ役割や意味について論じる。

第一章では音楽と映像の役割を、映画などの映像主体の作品と、音楽主体の映像の二つ

に分け、それぞれの音と映像の相互補完について論じる。第二章では、ロックミュージッ

クにおける映像表現の歴史を、実際のアーティストの作品を分析しながら論じる。第三章

では ACIDMANの映像表現について、特徴的な作品を分析しながら論じる。終章では映像

がこれほどにまで発達してきた理由を、CDの売り上げと有料音楽配信、ライブエンターテ

イメント産業の市場規模などから、リスナーの音楽需要形態を分析し、論じる。結論とし

ては、リスナーの需要形態が、音楽を「所有する」ものから「共有する」ものに変化した

ことで、ロックミュージック・シーンでは音だけではなく、視覚的表現(映像・ライブパ

フォーマンスなど)も同じ比重で重要とされるようになったということである。このこと

を踏まえ、これからの音楽の変化を考えてみたい。

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小野 祥生 日本の音楽シーンにおける、ロックミュージックの「存在理由」

とその変化

かつてロックミュージックが日本にも入り込んできた当初は、その過激さゆえに若者は

誰もが熱狂し、新しい文化を楽しんだ。現代では技術の発達により、「ボーカロイド」と呼

ばれる音声合成技術が開発され、人間が直接楽器の演奏や、歌を歌わなくても楽曲を作成

することが可能になり、インターネットの普及もあいまって誰でも一人で作曲し、世界へ

と発信することが出来るようになった。

音楽、とりわけロックミュージックというものは時代によってその形を大きく変えてき

た。時にはロックミュージックが時代を変えたり、逆に時代がロックミュージックの形を

変えてきたこともあったのだ。そこにはその時代と大きく関係する「存在理由」をロック

ミュージックが持っており、人々と共に時代を生きてきたのである。

本稿は、日本の音楽シーンにおいてロックミュージックというものがどのようにして誕

生し、現代に至るまでその姿がどのように変容してきたかということを、日本のロック史

に名を連ねたアーティスト・ロックバンドの例を挙げながら、その時代ごとにロックミュ

ージックがどんな存在であったかに注目しながら考察した。

第一章では、東京ビートルズの誕生から「グループサウンズ」の流行までを、ロックミ

ュージックがどのように日本の音楽に入り込み、浸透してきたかを考察した。

第二章では、それ以降の日本のロックミュージックに大きな影響を与えた日本語ロック

論争を中心に論じた。そして日本語ロック論争後に登場したサディスティック・ミカ・バ

ンドや YMOの例を挙げながら、日本のロックが独自のスタイルを確立した経緯を分析した。

第三章では、日本のロックミュージックの代表的なジャンルであるヴィジュアル系に着

目した。世界的に有名になったヴィジュアル系だが、その特徴とかつて流行したグループ

サウンズの共通点を示しながら、このジャンルの発展を中心に論じた。

第四章では、アニメ文化の勃発に伴うアニメソングの発展に注目した。

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菊地 亜美 変わりゆくおもちゃの世界

赤ちゃんの頃、幼稚園の頃、小学生の頃。誰もが 1 度はおもちゃを手にし、遊んだ記憶

があるのではないだろうか。おもちゃには創造性を養うための知育玩具(パズル、積木な

ど)、人形やぬいぐるみ、模型、ゲーム、というように多くの種類に分類される。そして紀

元前から続く、歴史あるものだ。

おもちゃは、こどもたちが初めて出会う「ともだち」です。おもちゃは、こどもの五感

に光を当て、智と心を育むよい友達です。(社団法人日本玩具協会 理念より

http://www.toys.or.jp/ 最終アクセス 2013 年 1 月 7 日)とあるように、おもちゃは子ども

の成長の手助けとなるものであり、そこから社会性を学び、創造力を身につけていくもの

である。おもちゃは子どもが遊びという側面から、楽しみながら何かを学んでいくもので

ある。しかし、現代ではおもちゃというジャンルが拡大し、そこには新しい兆しが見える。

その背景にはいかなる理由があるのか。本稿では、時代別のヒット商品と現代のおもちゃ

を見ていくことで、おもちゃの変化を探り、「おもちゃとは何か」を改めて考えていく。

第 1 章では、おもちゃとは何か、一般的に言われている意味合いについて述べ、おもち

ゃが誕生し現在に至るまでの歴史に触れた。おもちゃは時代の波を捉え、進化していくこ

とを述べた。

第 2 章では、マスメディアの影響とし、メディアの影響を受けたおもちゃをいくつか紹

介した。そして、その中でもテレビを介して見られるアニメーションや特撮ヒーロー番組

といった子どもを対象とした番組から生まれるおもちゃの展開が広まりを見せていること

を説いた。「キャラクター玩具」の拡大がおもちゃの幅=ジャンルの変化に大きな影響を与

えたということを示した。

第 3 章では、日本おもちゃ大賞のボーイズ・トイ部門から現代のおもちゃを分析した。

現代のおもちゃに 4 種類の特徴を見出し、今のおもちゃがどういったものなのかを探って

いる。そこにはおもちゃの質=クオリティの変化があることを述べた。

第 4 章では、新展開を見せるおもちゃを紹介し、第 1 章で述べた「おもちゃとは何か」

ということを改めて考えた。時代の変化と共に変わるおもちゃであるが、2 章で述べた幅=

ジャンルの変化と、3 章で述べた質=クオリティの変化の両面がおもちゃに新たな展開を見

せていることを示した。そこには子ども向けとは言い難いおもちゃ達の登場を見出すこと

ができる。おもちゃ=子ども向けという概念を払拭し、大人をも楽しませるおもちゃの登

場は「おもちゃ」という定義そのものを変えていると考える。おもちゃは子どもが遊ぶも

のを指すだけではなく、遊び心そのものを表すことを説いた。

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古塩 智子 変わりゆくウェディングの実態

本稿では「ウェディング」つまり「結婚式」を取り上げた。現代の結婚式は、オリジナ

ルウェディングという名の通り、自分たちだけのオリジナルな結婚式をするのが当たり前

の時代になっている。そこで、本稿の目的は、新郎新婦はどのような想いで自分たちの結

婚式を作り上げ、行っているのか、という個人的な面を明らかにすることと、さらに、変

化し続ける結婚式は、なぜ変化し続けているのか、その要因として何が存在するのか、と

いう結婚式全体の面を明らかにすることである。この2つの側面からウェディングの実態

を探っていく。

第1章では、挙式と披露宴の始まりと特徴について述べた。挙式は明治時代に誕生した。

最も古くから存在している人前式、昭和 34 年日比谷大神宮がきっかけで始まった神前式、

昭和 50年代にアイドルが行った教会式が報道された事がきっかけで始まった教会式がある。

また、披露宴については、帝国ホテル(明治 20 年開業)がホテルウェディングの基礎をつく

った。昭和6年には専門結婚式場の第1号として目黒雅叙園が誕生した。さらに、1990 年

代になるとウェディング会場としてレストランが注目を集め、1990 年代前半にハウスウェ

ディングが誕生した。

第2章では、結婚式に関する情報源となるメディアとして雑誌、インターネット、テレ

ビについて述べた。ウェディング雑誌が始めて世に出たのは 1992年のことだ。式場業者は

直接ユーザーにアピールできる機会(媒体)を得た。近年、ネット上で会場の 360度パノラマ

映像が見られたり、音楽が自動再生されるページが増えてきた。テレビに関しては、芸能

人の結婚式のテレビ中継は減ったが、芸能人プロデュースのウェディングドレスが登場す

るなど、少なからず芸能人からの影響というものはあるようだ。しかし、一般人であって

も芸能人に劣らないセンスで自分たちのこだわりの結婚式をつくりあげていくスタイルが

現代の結婚スタイルといえるだろう。

第3章では、新郎新婦を対象としてインタビューを行った。目的は、現代の新郎新婦の

想いを明らかにすることである。

第4章では、インタビュー結果を受け、現代のウェディングの実態を分析した。開けば

すぐに見られる雑誌は使用率が高い。一方ネットは会場比較には不向きである。また、こ

だわりの演出を聞いたところ、全ての新郎新婦がカードやお手紙で感謝の言葉を伝えると

いう共通点があった。結婚式で1番伝えたかったことは、という質問に対し、全組の新郎

新婦が「感謝」と答えた。

結論として、結婚式の変化というものは、結婚する人々の意識の変化とそれを支えるメ

ディアとの相互作用でうまれるものであると考えた。その変化に合わせてブライダル業界

は次々と新しいことを始め、進化していくのである。この三角関係、つまり、結婚する人々

の意識の変化、メディア、ブライダル業界という三角関係があってこそウェディングは変

化し続けるのだと述べた。

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小林佳奈恵 報道番組の娯楽化について

本稿では、報道番組が娯楽化傾向ある事について取り上げた。娯楽化の要因には様々な

ものが挙げられるが、今回は近年のジャニーズタレントの報道番組出演の増加に注目し、

娯楽化が強まっている事、そしてその中で彼らが担っている役割について述べている。

報道番組は私たちの生活の中で欠かす事の出来ない存在となっている。報道番組と聞く

硬いイメージがあるが、近年は報道番組がワイドショー化し、政治経済だけでなく芸能や

スポーツニュース、中には料理やファッションについてまで報道番組の中で取り上げられ

ている。報道番組はなぜ娯楽化傾向にあるのか、そして新たなる娯楽化の要因について考

察していく。

第一章では報道番組の歴史について述べている。視聴者のニーズにこたえるために、報

道番組の形式は変化している。年代ごとに代表となる報道番組を取り上げその特徴につい

てまとめた。

第二章はテレビ報道の特性について述べている。私たちが情報を得る手段として、テレ

ビのほかに新聞やインターネットなど数多くのメディアが存在する。私たちは数ある媒体

の中から様々な要素を考えて、選んでいる。では、テレビ報道の特性とはいったい何なの

か。テレビの傾向、利用状況について述べた後、テレビ報道の特性について(ⅰ)速報性

(ⅱ)拘束性(ⅲ)情報の質、といった点から新聞、インターネットと比較しながら考察

している。

第三章では報道番組の娯楽化の要因とその影響についてまとめた。報道番組が娯楽化傾

向にある大きな要因は「報道内容のソフトニュース化」とテロップやナレーションを多用

し、内容を過剰に演出させる「演出過剰化」だと考えた。この 2点について詳しく述べた

後、報道番組が娯楽化する事により視聴者に与える影響について述べている。

第四章では報道番組におけるジャニーズタレントの出演についての考察をまとめている。

近年ジャニーズタレントが報道番組に出演し、ニュースに触れる機会が大幅に増えた。前

章で娯楽化の要因について述べているが、このジャニーズタレントの報道番組出演がさら

に娯楽化を強めていると考えた。そこで、ジャニーズタレントが報道番組に出演する事の

利点や、彼らがキャスターとしてどのような役割を果たしているのかを報道番組の比較や

アンケートから明らかにした。

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2012年度卒業論文概要 新潟大学人文学部情報メディア論履修コース

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坂井 綾花 現代の子育て支援 ―家族と地域社会―

現代は子育てがしづらい世の中になっているという認識が多い。少しでも子育てがしや

すい社会になるためには、地域社会の中で子育て支援の輪が広がり、子育てをする人を応

援していく必要があるのではないかという意識のもと、本稿を執筆した。現代の子育て支

援がどのように行われているのか文献や聞き取り調査をもとに把握し、どのような課題が

生じているのか考察することを目的としている。

第一章では、社会全体で子育て支援を行う環境づくりの重要性を述べた。我が国では、

少子化が現在進行形の問題として知られており、その対策として子育て支援という概念が

浸透した。多くの人の認識は、子育て支援が必要とされる要因は、少子化を防ぐためとい

うものだろう。しかし、そうした政策としての子育て支援では、現代の多様化する子育て

支援ニーズに対応しきれていない状況になっている。社会全体が子育て支援の重要性を理

解し、特に地域社会においてもたらされる循環型の子育て支援が必要とされているのでは

ないだろうか。そして、そうした子育ての社会化が進むことにより、子育てに対する負担

や不安感が軽減されると考えられる。

第二章では、人的ネットワークの視点から、より効果的なネットワークについて考察し

た。現代は育児ネットワークの力が低下しており、例として父親の育児参加や、核家族の

増加による親族を中心とした世帯内ネットワークの支援の困難さがあげられる。そこで有

効と思われるのは、子育て支援施設などを通じてネットワークを広げることができると考

えられる、世帯外ネットワークである。世帯外ネットワークの形成と維持を行うために、

特に現代で広く利用されている通信メディアについて、先行研究をふまえて推奨と問題点

の議論を行っている。

第三章では、子育て支援施設への訪問の結果から、子育て支援の現場の状況をまとめた。

世帯外ネットワークの拡充により、子育てに必要な情報を得て、育児不安を軽減させるこ

とは可能だろう。しかし例えば、親が忙しいときに子どもの面倒を見るといった世話的な

支援を行える場は、今後も必要となってくるのではないだろうか。こうした問題意識から、

その場を提供できると考えられる、子育て支援施設において聞き取り調査を行った。運営

の方針や利用者の意識に違いが見られると推測し、公的な施設である「子育て応援ひろば」

と、民間の施設である「ドリームハウス」の 2 か所で調査した結果、各施設それぞれの課

題が考察され、地域社会が一丸となって子育て支援を行っていく必要性がより高まってい

る、という結論にいたった。地域社会の結束力を強くするためには、子育て支援を地域全

体で行うといった意識に基づいて、各施設の運営者と利用者、そして支援に参加できる市

民が相互に協力し合い、意見交換をすることも必要とされるだろう。

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佐藤 佑 アイドル消費社会

不況や就職難が叫ばれる中、人々は何を「心の支え」として生活しているのだろうか。

スポーツや趣味、特定のアーティストの楽曲等に入れ込む人は多い。しかしジャニオタと

呼ばれるジャニーズ事務所所属タレントのオタク達は、アイドルを「心の支え」にするこ

とに疑問を抱かず、安定した感情・歓びを享受している。本論は、ジャニーズオタクがど

のような人達であるのか、どのようにアイドルを消費しているのかを探ることで「心の支

え」のメカニズムを明らかにするものである。

本論において取り扱うジャニーズオタクは、世代を問わず、ジャニーズ事務所所属タレ

ントに対してグッズ・関連書籍・DVD・コンサートチケット等への出費を厭わない人々と

定義する。

第一章ではオタクの質の変化を考察するため、アイドル雑誌『Myojo』の読者投稿ページ

の分析を行った。投稿ページ上で求められるコミュニケーションは、オタクの質と共に変

化して行く。1980年代にアイドルの情報を求めていたオタク達は、1990年代にアイドルへ

の愛をオタク同士で競うようになり、2000年代はアイドルそのものを求めるようになった。

第二章ではバラエティ番組や舞台と言ったアイドルの露出や情報量の増加がオタクにどの

ような影響を与えたのかを述べた。アイドルは露出することで交話機能を得、オタクはア

イドルの成長物語を楽しむと言う新たな消費方を得たことが明らかとなった。第三章では

これまでの章を踏まえながらも、現在のオタクがどのような存在なのか、アンケート調査

の結果を元に考察した。ジャニーズオタク内には独自の制度やコミュニケーション方法が

存在し、それらがアイドルへの肯定的感情の増幅や持続の要因の一つになっていた。第四

章ではアイドルとオタクを内包する社会の在り方について述べた。

ジャニーズオタクは、自分達のコミュニティ内のやりとりによって性質を変化させてき

た。かつてのジャニーズオタクは情報や愛を消費していたが、自己進化によってアイドル

の存在を消費する段階に辿り着いたのだ。アイドルの背景にある物語を消費し、共通感覚

を消費し、オタクはアイドルを好きでいることを楽しむ。オタクはアイドルから活力を得

る。これがジャニーズオタク活動の醍醐味であり、オタクにとっての幸福である。アイド

ルがオタクにもたらす「心の支え」機能は、オタクの心の中での消費によって存在する。

これは、本論分の「心の支え」のメカニズムとは何かと言う問いに対する結論である。

社会はジャニーズ事務所所属タレントがアイドルとして存在することと、オタクを許容

している。ジャニーズ事務所所属タレントは、活動的なオタクだけではなく、世間一般の

好感を得て、ファンと呼ばれる存在を増やしている。ジャニーズオタクが許容される社会

は、ジャニーズ事務所所属タレントが許容される社会である。社会は今後、よりアイドル

とオタクを許容・肯定して行くものとなる。

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重野真依子 20代向け女性ファッション雑誌から見る現代女性の理想像

近年、ファッション雑誌の種類は増加し、多くの雑誌が生まれては消えてゆく、といった現状

である。主に「コンサバ・ファッション」を扱う『Cancam』、『Ray』、『JJ』、『ViVi』の「赤文

字系雑誌」に関する研究は行われて来たが、多様化する「青文字系雑誌」に関する研究はまだま

だ十分でない。本稿では、「青文字系雑誌」のファッションの傾向ごとに分類された「ガーリー

系」の『spring』『mina』、「フェミカジ系」の『SEDA』『JILLE』、「ストリート系」の『PS』

『soup』を扱い、その中で似たような特集が組まれることが多くあるため、特集を比較するこ

とにより、雑誌ごとの「理想像」の描かれ方、それを目指すアプローチ方を分析した。すると、

「ガーリー系」では「化粧・スキンケア」、「自分磨き」に関する情報が多く掲載され、また「外

的他者意識」が強く反映されており、赤文字雑誌と似ている傾向が見られた。また「フェミカジ

系」「ストリート系」では、「個性」を求める傾向、「空想他者意識」が強く出ていた。

しかしながら、着こなしにおける読者の「悩み解決」特集を見ると、「ガーリー系」は「コン

サバ」化を避け、「ストリート」「フェミカジ」系は外見上のスタイルを気にし、「外的他者」を

意識しだすなど、ファッション意識における「ねじれ」が見受けられた。これらから、青文字系

雑誌は葛藤の状況にあるといえ、その解決のためには、「分類化」「範疇化」して読者に選ばせる

のではく、複数の理想像を示した上でそのヒントを読者に探らせるといった表現の仕方が重要に

なってくると思われる。

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鈴木 美沙 「女子力」からみる現代女性のイメージ

「女子力」は雑誌の特集記事のタイトルとして使われるなど、近年よく耳にする言葉で

ある。また「女子」という女性の呼称も、「大人女子」「女子会」「山ガール」などという造

語として用いられて良く耳にする。さまざまなメディアで意識的に使われ、それぞれにこ

の言葉の解釈は違う。

このように一般に馴染んできた「女子力」「女子」という言葉を単なるブームとして扱っ

てしまうのではなく、「女子力」の指す意味やその使われ方から、この言葉のもつ特徴やこ

のブームがもたらす女性への問題点を指摘し、現代を生きる女性のイメージや社会的状況

を明らかにすることを本稿の目的とする。メディアの中でも主に新聞と女性向け雑誌を分

析の対象とし、新聞の分析からは「女子力」の指す能力とはどのようなものかを導き、女

性向け雑誌の分析からはこのブームがもたらす女性への問題を指摘してまとめとする。

第 1 章では、まず「女子力」という言葉の分析に入る前に、本稿においては女性の呼称

「女子」をどのように特徴づけるか提示した。

第 2 章では、「女子力」の指す意味の変容を辿る。「女子力」という言葉を最初に漫画家

の安野モヨコがどのように使ったか、次に彼女自身の中で「女子力」という言葉が指す意

味がどのように変化したかを記述した。さらに安野によって使われる意味のみでなく、新

聞 3誌のデータベースを用い、「女子力」が掲載されている前後の文章、文脈から指す意味

を精査、分類して、いま社会でどのような意味合いで「女子力」は使われているのか明ら

かにした。

第 3 章では、現代の女性雑誌の「典型」および「定型」を創り上げたといえる若い女性

向けのファッション誌や各世代で最も発行部数のあるファッション誌を分析の対象とし、

それらにおいて「女子力」がどのように使われているか調査し、調査結果から分析を行っ

た。「女子力」は上げることが大前提としてあることや、「女子力」という言葉がキャッチ

コピーとして商品の販売促進に用いられるケースが多いこと、「女子力」の掲載数に世代別

で違いがみられることなどを指摘した。

第 4章では、「女子力」の使われ方の分析から考察した現代女性のイメージや社会的状況

について述べた。現代女性のイメージとしては主体性・仲間意識をもつこと、あらゆる能

力を求められることを述べ、また世代別に余裕の違いがあること、キレイが基本であるな

どの状況を本稿の結論という形で述べ、結びとした。

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関澤洋一朗 現代日本のウェブ「炎上」―企業への攻撃を中心に―

本稿では、企業の事例を中心に現代日本のウェブ「炎上」について考えている。

1章では、改めて「炎上」の説明、企業の「炎上」を取り上げる理由について述べている。

荻上チキ(2007:7)によれば、「炎上」とはウェブ上の特定の対象に対して批判が殺到し、

収拾がつかなくなることである。企業の「炎上」は、攻撃の的にされやすく長期的に行わ

れることが多く、大規模な場合も多いと考えられ、企業の「炎上」を分析することで「炎

上」という現象をより深く理解することができる。

2章では、具体的な事例を見た。その際に、掲示板 2ちゃんねるのスレッドや過去の記録、

参考文献から分析した。「炎上」するまでの経緯、当時のユーザーの反応などを見ていくこ

とで、詳しく解説する。取り上げる事例は、「亀田製菓の韓国企業との提携」「花王不買運

動」「アディダス女子社員の失言」「ウォークマン体験記」「イオングループ取締役なりすま

し」「UCC上島珈琲の告知 bot」である。

3章では、小林直樹(2011)が言う「炎上」のきっかけとなる企業の行為を、2章であげ

た事例にあてはめ企業の「炎上」の特徴を考えた。分析の結果、企業の「炎上」には、す

でに問題があるとみなされているところと関係を持つことが問題視される、スポンサーが

攻撃の対象とされる、問題発言に過剰に反応される、キャンペーンや PR活動が厳しくチェ

ックされる、迅速かつ真摯な対応が求められる、という特徴があることが明らかとなった。

また、インターネットの性質によってもたらされる特徴には、「炎上」から逃れられない、

攻撃されやすく長期化する、インターネット上に記録として残されてしまう、インターネ

ット上で伝達される、といったものがある。

4章では、「炎上」が発生する仕組みを考えた。3つの観点からアプローチしている。

1 つめ、「炎上」を起こす側の動機では、サイバー・カスケード(キャス・サンスティ

ーン 2003)の概念と「炎上」がサイバー・カスケードによって起きるとする荻上の考

え方をもとに、具体例においてサイバー・カスケードが構築されたのを確認した。

2つめ、「炎上」の対象となる企業が持つ原因では、平井智尚(2007)のブログが「炎

上」するのはオンライン・コミュニケーションの「規範」に抵触したためである、と

いう考え方をもとに、企業には社会で一般的に共有されている「規範」とインターネ

ット特有の「規範」が求められることを明らかにした。

3 つめ、インターネットという全体のシステムでは、「炎上」が発生するインターネッ

トが今のような個人が容易に情報を発信できる状態でなかった場合に「炎上」は発生

するのかという問いを立てた。今のようにインターネットで個人が情報を発信できる

状態でなければ「炎上」は発生しないと考えた。

5章では、それまで論じてきたことをまとめた。

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髙田 麻椰 主題化される廃墟

廃墟とは、何なのか。廃墟に惹かれる人物とは、何者なのか。廃墟という多義的で曖昧

な存在は、万人に対しおぞましく陰鬱なイメージを与え、負のシンボルとして社会から嫌

煙されてきた。しかしながら、そんな嫌われ者の廃墟に、あえて足を運ぶ者たちがいる。

廃墟に秘められた魅力は、そんな彼らの告白を分析することによって明らかになる。

また、建築芸術における「廃墟美」の正体を追い、廃墟が一般化されていく現状を分析す

ることで、廃墟が単なる遺構や心霊スポット、観光スポットという枠組に当てはめられる

ものではなく、「廃墟というジャンル」として確立されていく過程が現れてくる。

本論文では、廃墟の捉えられ方の歴史的変化や、マニアによって語られる廃墟の魅力に

ついて分析し、実際の廃墟を調査することで、主題化される廃墟の理由を明確なものにす

る。

第 1章では、廃墟が誕生する背景とその美的価値などについて、「ナゴヤトーヨーボール」、

「摩耶観光ホテル」を例に挙げ、“現役時代に人々から賞賛された建築=魅力的な廃墟、現

役時代に人々が顔を顰めた建築=魅力的でない廃墟”という考え方を否定した。また、ゲオ

ルク・ジンメルの論考を元に、古に築かれた、建築芸術における廃墟の意義の基盤をたど

り、人間が上へと建造するエネルギーと自然が下へと崩壊させるエネルギーとのバランス

に言及し、それが廃墟に内在する美であるとした。

第 2章では、廃墟ブーム(軍艦島ブーム 2009年)に至る歴史について述べた。レトロブ

ームの発生やバブルの崩壊、軍艦島公開など、廃墟の主題化をめぐって重要な契機を軸に、

廃墟が心霊スポットでも観光スポットでもない存在として、徐々に確立していく流れをま

とめた。加えて、その背景にある、廃墟が一般化されていくことで廃墟らしさを失ってい

くという、廃墟の主題化をめぐるジレンマがあることを指摘した。

第 3章では、筆者の視点から廃墟マニアの分類、分析を行った。「創作型」、「逃避・陶酔

型」、「ドキュン型」、「エクスプローラー型」の 4 種類に分類した。それぞれの目的や活動

などを挙げ、彼らが社会でどのように生きているのかを考え、その心性の分析を行った。

第 4章は、筆者と廃墟仲間のSが実際の廃墟「G」を訪れた記録である。廃墟を訪れる者

の実情を明らかにするため、「G」における、廃墟マニア二人の行動や心情の変化などを時

間軸で記述した。廃墟の中にある心惹かれる物の正体を、時の流れや自然の浸食、生と死

などの中に見出した。

第 5章は、前章を受け、筆者とSを、第 3章のマニアの類型に即して分類した。加えて、

廃墟内の筆者と廃墟の外の筆者の心情の比較を行い、前章で述べた廃墟にのみ内在する魅

力の裏付けとした。また、調査した物件「G」の廃墟化した後の管理について推測し、現状

を整理した。

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橋本友佳里 ハリウッド映画における戦う女性の表現

本論は、ハリウッド映画における“戦う女性”を取り上げて、女性の表現においてジェ

ンダー問題や男女の不均衡を捉えることで男女の平等について理解を深めることを目的と

する。

映画はあらゆるメディア文化よりも大衆に認められることを必要とし、時代のニーズに

合致した作品でなければ成り立たない。映画を分析することが社会状況を掴むことに繋が

ると考えた。その上で、男性がアクションをする作品が大半の中で、女性がアクションを

演じる作品は意図や意味、メッセージ性があると考えた。その点に着目し、アクション・

ヒロインを通して現代におけるジェンダー問題を改めて見直し、男女平等のために何が必

要かを見出していく。

第 2 章から、歴史を通して見られる、ハリウッド映画の製作・ストーリーなどの全体に

おけるジェンダー問題を提示し、焦点を明らかにしている。

そして第 3 章で、導入としてフェミニズム映画の代表作『エイリアン』シリーズを分析

している。男性的な象徴や伝統的な女性像に対する抵抗や脱却が見られ、自立した強い女

性像が表現されていることを論じている。

第 4 章では、現代のアクション・ヒロインの代表とも言えるアンジェリーナ・ジョリー

の代表作『トゥームレイダー』シリーズと『ソルト』の分析している。ここで、肉体的な

戦闘で敵を倒すことで男性との生物学的性差や文化的性差を壊していると分析している。

第 5章では第 4章で述べた作品の分析や論を集約し、『ソルト』が伝統的なジェンダー思

考から観客を解放する作品だとしている。現代女性が抱えるジェンダー問題は未だ解決さ

れてはいない。男女が平等な関係を築くために、不均衡な固定観念から脱却することを目

指さねばならないとしている。

第 6 章で、映画が一種の娯楽文化としての機能を果たしているだけではなく、今置かれ

ている現代の実状、情勢も踏まえて製作されているからこそ、ジェンダー問題によらず様々

な諸問題について考えを深めるきっかけとなりうることをまとめている。

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原 啓子 ジャーナリズムの功罪とネットリテラシー

本論では、森達也(2011)のメディアリテラシーについての解釈を元にテレビとインタ

ーネットの特徴を挙げてメディアの仕組みを明らかにする。その上で、インターネットで

情報を集めることや議論することへのリテラシーを身につけるための一つの手段としてネ

ット議論への積極的な参加の必要性を論じたい。

ネットでは、マスメディアの情報を文字、画像、動画などで更に発信できるほか、マス

メディアでは取り上げられない情報や議論も行われる。ただ、ネット利用者なら誰でも発

信者になることができ、また基本的に匿名で発信できるという特性から、ネットの情報の

質が低い。またその特性から議論では意見が偏りやすいと指摘されている。

マスメディアはどうか。テレビや新聞は利用者が多く、情報も信用性がある。しかし、

こうしたマスメディアも誤った報道をすることもある。森(2011)は、メディアの特性を

理解した上で情報を受け取ることを求めている。

マスメディアによる情報や個人発信の情報を得て、そこからさまざまな議論が交わされ

るネットにおいては、マスメディアの特性とネットの特性を知っておくことが求められる。

本稿ではテレビと新聞、ネットについての特性をまとめた上で、ネット上の論争から実害

が発生することへと発展した実例を取り上げて検証する。

第 1章では、ジャーナリズムの定義とそれについての先行研究の解釈をまとめた。また、

現在のメディアの利用状況やメディアに対する印象についてのデータをもとに、テレビや

新聞、ネットへの認識や利用のされ方を明らかにした上でメディアの特性を知る必要性を

述べる。

第 2章では新聞とテレビの概況を紹介し、特性を説明する。マスメディアの商業性によ

る傾向や客観報道のむずかしさについて取り上げている。

第 3章では、インターネットの概況と特性を述べる。個人による自由な発信に付随する

匿名性や意見の二極化についてまとめている。

第 4章では 2011年に起きたいじめ問題についてのネット上での議論や、そこから発展し

た事件を取り上げ、2~3章で挙げてきた特性がどう作用したか分析し、ネットなどの情報

から起こる議論についての接し方を探る。

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藤橋 葉子 現代の音楽とファッション-ヴィジュアル系を中心に-

本論はヴィジュアル系というジャンルについて、音楽とファッションがどのような関わ

りを持っているのかを論じるものである。音楽とファッションは歴史的に見ても関連があ

るのは明らかであり、音楽のジャンルでありながら、視覚という意味の「ヴィジュアル」

が使用されているこのジャンルには、より強固な関係性があるのではないかと考えた。し

かし第1回目のショップ店員に行ったインタビュー調査において、現場では共通して音楽

とファッションには関係がないと感じていた。しかし現場では感じえない共通点があると

考え、その共通概念を探っていく。

ヴィジュアル系の音楽とファッションの起源は別々のところにあり、2000 年代中期に雑

誌『KERA』の影響により結びついていった。誕生した当初の音楽のヴィジュアル系は派手

なロックバンドという印象であったが、その後多くの派生バンドが結成されていった。そ

の結果、「バンギャル」と呼ばれるヴィジュアル系のファンは一種の村社会を形成していき、

ネガティブなイメージが現在でも根強く残る。しかし最近ではそのイメージを払拭しよう

というバンドの動きも見られる。その成果もあり、海外からの支持も厚く、男性ファンの

獲得も進み、だんだんと一般化しているようである。

ファッションのヴィジュアル系においては当初はモード系というカテゴライズであった。

そしてヴィジュアル系というカテゴライズをされるようになってからは、異なるジャンル

同士の融合が行われたり、新たなスタイルが登場したりするなど、ファッションに多様性

がでてきた。それはライブ会場でのファンのファッション性にもみられることである。

そしてヴィジュアル系のファッションが好きな人、音楽が好きな人それぞれにインタビ

ュー調査を行い、共通点は何かを分析する。確かに興味を持ったきっかけ、ヴィジュアル

系ファッションが好きな人が好む音楽はそれぞれであり、一見すると共通点がないように

も思われる。だがそこには周りの目というものをあまり介入させず、自分自身の世界を創

造しているという共通点が見られた。

第1章ではまず、音楽とファッションが歴史的に見ても関連があることをパンクという

ジャンルから明らかにする。第 2 章では音楽のヴィジュアル系について、どのように変化

していったのかを、誕生から現在まで時間軸に沿って論じる。第 3 章ではファッションの

ヴィジュアル系について考える。当初はヴィジュアル系というカテゴリではなく多くはモ

ード系という分類をされていた。その後雑誌『KERA』の影響によりヴィジュアル系と結び

ついていくことを論じた。第 4 章では第 2 章、第 3 章の内容を踏まえて行ったインタビュ

ー調査の内容を分析する。そして自己世界の創造という概念を共通点とし、本論文のまと

めとする。

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古金 郁美 現代の「有名性」

本稿では、「ネット有名人」を取り上げ、彼らの「有名性」とそこから導かれる現代の価値観

について論じた。近年、一般の人たちがインターネットで広く知られ有名になるという現象が現

れ、その人々を「ネット有名人」と呼ぶ。YouTube やニコニコ動画などの動画共有サイトで人

気になり、CDデビューやイベント出演など、現実の世界で活躍するネット有名人も多数存在し、

中にはメジャーデビューまでしてしまう人もいる。

しかし、ゼロ年代前期までのネット有名人は文字文化が中心だった。インターネット文化の変

容が、「有名人」の価値観を変化させていったのである。

石田(1998)は著書のなかで「有名性」について考えることは現代社会の重要な側面を呈示

させることにつながると述べている。つまり、ネット有名人は現代性を反映する鏡なのである。

本稿ではマスメディアの変化と社会の変遷に触れながら、動画共有サイトから有名になった人た

ちに焦点を当て、マスメディアを利用した従来型の有名人とインターネットから有名人になった

人々との違いについて考察し、現代における「有名であること」の価値について明らかにした。

第 1章では、「有名人」という概念について、ブーアスティン(1962)の論を中心に「有

名人とは、有名なゆえに人によく知られた人のことである」と説明した。また、現代の有

名人の特徴についても述べた。

第 2章では、まずインターネットの歴史について振り返った。特にゼロ年代前期の「匿名の

文化」から、Facebookの登場による「実名の文化」の浸透について説明した。さらに現代の特

徴ともいえるインターネット上への顔出しについて、「実顔の文化」という新しいインターネッ

ト文化であるとした。また、「実顔の文化」から生まれた「ネット有名人」についても述べた。

第 3章では、ネット有名人の特徴について、背景に動画共有サイトの発達があることを述べ

た。また、ネット有名人の具体的な例を 2人挙げてその本質を探った。ニコニコ動画から有名

になった「なあ坊豆腐@那奈」、YouTube 広告で 2000万円以上を稼ぐ「ライアン・ヒガ」の 2

名について、彼らの経歴や現在の活動などを説明しその特徴について論じた。

第 4章では、第 3章で挙げたネット有名人のプラットフォームである動画共有サイト

「YouTube」「ニコニコ動画」について説明し、ネット有名人が動画共有サイトのどのような

特徴を利用しているかについて述べた。また、ネット有名人とマスメディアが密接な関係を持つ

ことについて具体例を挙げて説明した。最後に、現代の人々にとってインターネットコンテン

ツはマスメディアをも超えるほど大きな意味をもつコミュニティであり、ネット有名人に

なることはマスメディア的有名人になることと同等、またはそれよりも価値があることな

のであると結論づけた。

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星野 愛実 蜷川実花の「かわいい」と「グロテスク」

蜷川実花は、1995年にデビューした女性写真家である。蜷川実花の作品は、「蜷川ワール

ド」と呼ばれる徹底された独自の世界観の演出、「蜷川カラー」と呼ばれる色鮮やかな原色

を多用した色彩、花や金魚などの多用される特定のモチーフの 3つを主な特徴としている。

こうした世界観、色彩、モチーフの特徴から、蜷川実花の写真は一見「かわいい」と感じ

られるものが多い。しかし、実際には「かわいい」と感じられる作品でも、なかには相矛

盾するような「グロテスク」な要素が存在していることがある。そこで、特に「かわいい」

と「グロテスク」という言葉に注目し、蜷川実花の作品はどのような写真であるのかを考

察した。

第 1 章では、蜷川実花のデビュー時に流行していた「女の子写真」とは何かを明らかに

した。「女の子写真」が誕生した要因とその特徴を述べ、「女の子写真」を日記的写真と定

義付けた。

第 2章では、「女の子写真」における蜷川実花の位置付けを行い、必ずしも「女の子写真」

の作風にのっとってはいなかったことを明らかにした。また、写真における女性原理につ

いても触れた。

第 3章では、蜷川実花作品と「かわいい」の関係を考察した。蜷川実花が多用する少女、

金魚、花の 3 つのモチーフを取り上げ、蜷川実花作品は四方田犬彦の述べた「かわいい」

という言葉の特性と置き換えられることを明らかにした。

第 4章では、蜷川実花作品のなかでも特異な作品である写真集『noir』について考察した。

『noir』は、第 3 章で示した蜷川実花作品にある「かわいい」に内包された「グロテスク」

を暴き出すような作品だと述べた。

蜷川実花が被写体に選ぶ基準は「女の子写真」の頃から変化していない。理屈ではなく

感覚的に惹きつけられるものを被写体として選んでいる。蜷川実花が被写体として多用す

るモチーフは、どれも一見「かわいい」と感じられるものだ。しかし、実際にはこうした

モチーフは相矛盾するような「グロテスク」や「儚さ」、「人工性」を要素として持ってい

る。蜷川実花は、この相矛盾するような要素と、この要素に人々が気づいていないところ

に惹かれ、撮影している。そして、これは四方田犬彦が明らかにした「かわいい」とは観

念に過ぎず、その「かわいい」に「グロテスク」などの要素を含んでしまっているという

「かわいい」の特性と一致すると言える。また、『noir』は、その「グロテスク」な要素を

あえて強調した作品だと言える。よって、蜷川実花の作品は、必ずしも一つの方向から語

ることはできない、「かわいい」と「グロテスク」の 2つをあわせ持った作品だと考えられ

る。

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2012年度卒業論文概要 新潟大学人文学部情報メディア論履修コース

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本間千奈未 蝋型鋳金をはじめとした佐渡の伝統工芸に関する研究

本論文では、佐渡島の伝統工芸、その中でも特に蝋型鋳金(ろうがたちゅうきん)をと

りあげ、現代の伝統工芸の歴史的背景や構造について論じていく。

佐渡島は、暖流と寒流の接点に位置することから、海、山ともに多様な種類の動植物が

生殖していて、日本の縮図とも言われている。さらに、歌人・高僧・知識人などの大きな

影響力を持つ流人たちが島に流されてきたこと、金銀山があることにより江戸との交流や

外国人の出入りがあったことで、古来より絶えず新しい要素が流れ込んでいた。島に入っ

てきた文化は、島の風土と融合しそのまま育まれていったため、佐渡島には伝統芸能や伝

統工芸が数多く存在する。

その中でも工芸は高い評価を得ているものが多い。主に金工と焼き物が技術も高く、盛

んである。そして、佐渡の金工の起こりとなったのが、蝋型鋳金である。蝋型鋳金は、江

戸時代末期に佐渡へと入ってきた技術であり、その後、島に根付き発展していった。

佐渡の伝統工芸の一つである蝋型鋳金。昔は栄え佐渡を代表する工芸の一つであったに

も関わらず、現在では、蝋型鋳金を営んでいる家は島内に一箇所のみとなっている。 生活

様式の変化、大量生産大量消費型の社会の中、日本全体を見ても今、伝統工芸の技術は失

われつつあると思う。そんな時代の中における伝統工芸の価値とは一体なんなのか。

伝統工芸と地域は切っても切り離せない関係にあり、伝統工芸を囲む環境が今後のあり

方や存在を左右する。しかし、伝統工芸は守られるべきものではなく、その時代に必要な

ものとして革新し続けなければならないものである。本論文では、地域に根付く伝統工芸

のひとつとして、佐渡の蝋型鋳金を取りあげ、歴史的背景や技術的特徴、作家について調

査していくことで現状を把握し、そこから伝統工芸が今後、革新を続けなければいけない

こと、また共に革新し、さらに伝統技術を伝えていくことができるような環境づくりが重

要であることを提唱していく。

各章の内容については次の通りである。

第1章では、佐渡島の伝統工芸の概要について説明した。第2章では、第1章とは視点

を変え、日本の金工の中の鋳金についてとりあげた。さらに佐渡へ伝わる以前までの鋳金

の流れを追った。 第3章では、第1章、第2章をふまえ、佐渡の蝋型鋳金を詳しく論じた。

佐渡と鋳金の関わり、また佐渡の中での鋳金がどのような存在であるかについて考察した。

第4章では、総括として現在の佐渡の伝統工芸について考えた。実際に蝋型鋳金を行って

いる作家からのインタビューや、実際にあったイベント、展覧会の事例をもとに、伝統工

芸の現状や課題を明らかにし、これからの伝統工芸に必要な二つの考えについてまとめた。

これまで佐渡の伝統工芸が歩んできた歴史とそれらの考えを合わせることにより、本論文

のまとめとする。

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宮島 恵理 スーパー戦隊のヒーロー像・女性像

スーパー戦隊シリーズは 1975年に放映が開始され、2013年現在までで 36作品もの放映

数を記録している。未だに「子供向けの番組」という認識は根強いものの、30 年近くも登

場人物や設定を変えながら「勧善懲悪」という物語の本筋を守り通している点、またそう

した本筋と並行しながら、戦闘・日常の生活の中で 5 人ないしは 3 人の戦士たちが絆を深

めていくというコンセプトが繰り返し描かれている点、さらに世間で注目を集めている人

気俳優やグラビアアイドルを起用し、大人世代の視聴者獲得に向け試行錯誤が重ねられて

きた点など、単なる「子供向け番組」の域を脱しようとしてきたことがシリーズを視聴す

る間にわかってきた。そのため、スーパー戦隊シリーズは真剣に研究するだけの余地があ

ると感じた。具体的には、①社会的な出来事との付き合せによる考察、②一般企業の組織

論に基づく考察、③女性論の面から見るジェンダー的考察の 3 つを基軸に、一方向からだ

けでなくあらゆる角度から分析していくことを本論文では主な目的としている。

本論文では宇野常寛の著書『リトル・ピープルの時代』を参考に、非常に概括的ではあ

るが、第 1期を 1975年~1990年前後、第 2期を 1990年前後~1990年代半ば、第 3期を

1990年代後半~2000年代前半、第 4期を 2000年代前半~2011年、第 5期を 2012年~と

時期区分している。

第一章ではスーパー戦隊の掲げる正義と実際の社会で正義とされていたこと、悪の組織

が体現する悪と実際の社会における悪との相違点や関連性を考察し、さらに変化する「絆」

の在り方にも論及した。この「絆」についての内容は、第二章でスーパー戦隊という組織

について言及する際の足がかりとなっている。第二章では一般企業の組織体系に合わせて

スーパー戦隊の組織体系を分類した(以下の図を参照)。その中でリーダーを務めてきたレッ

ドヒーローのキャラクターがどう変わってきたか、それに合わせて他の戦士の役割はどの

ように変わってきたかを調べ、関連性を考察した。ここで女性が 1人から 2人に増員され、

キャラクターの幅も広がったことが考察の結果明らかとなり、次の第三章で女性が増員さ

れた理由、キャラクターに幅を持たせられた理由について考察を加えた。

これらを上述の区分ごとにまとめると、以下のような結果(表)が得られた。

(図:筆者作成、

2013.1.10)

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(表:筆者作成、2013.1.10)

一連の考察・調査の結果か明らかになったのは、スーパー戦隊シリーズとは実社会の模

式的縮図であり、その時々の全体の設定やキャラクターの様相を見れば、当時の社会がど

のようであったか把握が可能であるということだった。そして、スーパー戦隊シリーズが

そのような特徴も持ち合わせているということをより多くの人に理解してもらうためにも

視聴者層の拡大は必要であり、物語の対象年齢の引き上げやイケメン俳優・アイドル女優

の起用がそのために取られてきた手段であったことは、本論文第四章で取り上げている。

以上のことからスーパー戦隊シリーズの変遷を追うことは、我々が生きる社会の変遷を

追うこととほぼ同様の意味を持っており、今後も注目していかなければならない、という

結論で本論文は締めくくられている。

実社会の正義(○)と悪(×) スーパー戦隊の正義(○)と悪(×) 組織体系 女性の立ち位置

第1期1975年~1990年前後

○科学力、軍事力(国を豊かにすると考えられていたもの)×科学力、軍事力を悪用し平和を脅かす〈万博等による新たな可能性への期待から来る影響〉

○地球の平和を守る×地球の平和を脅かす絆…最初から完成している

有能なリーダーに仲間が従う「ピラミッド型」(縦型)

男性と同等の力はまだ必要ない存在しているだけでいい紅一点

第2期1990年前後~1990年代半ば

○自分の信じるもの×自分が信じないもの〈線引きは曖昧。ネットワーク化による影響〉

過去からの因縁を理由に戦う「ピラミッド型」だが徐々に崩壊の兆し

後半に向けてキャラクターの分立が図られていく

第3期1990年代後半~2000年代前半

○道徳的、秩序的なもの×道徳、モラルに反するもの(殺人、致傷、強盗など)〈天災の多発による影響〉

○秩序を守る(相手が悪であっても殺さない)×秩序を乱す絆…物語の中で作られていく

絶対的なリーダーは消え、専門家が集う「フラット型」(横型)

女性が負担しなければならない役割(母性、現実的思考力等)が増え、それに伴い増員

第4期2000年代前半~2011年

複数の権力・暴力同士の調整等から正義と悪の関係は再び迷走へ〈契機は2001.9.11の米同時多発テロ〉

ヒーローの正義と悪にも迷走が見られる。原点回帰と挑戦の反復

完璧ではないがリーダーとなる人物を中心に専門家がフォローする「web型組織」(蜘蛛の巣型)

優しさや母性を担う母親型ヒロインと活発さ・天真爛漫さを担う子供型ヒロインの像が徐々に定着

第5期2012年~

正義も悪も表裏一体のものとして「個」に内在する

○進化、発展×進化、発展の途中で生まれる失敗

「web型」を継続中サポーターとしての役割はあまり無くなり、男性を助ける様子もしばしば見られるようになる

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諸橋 竜馬 「スター」論から見るモーニング娘。の現代性

「モーニング娘。」は、1997年の結成以来メンバーの脱退と加入を繰り返しながら 15年

以上活動を続けている女性アイドルグループである。本論では、そんなモーニング娘。を

10 年以上応援している「ファン」の立場から、女性アイドル歌手の定義、そして、モーニ

ング娘。の現代性について明らかにしようとしたものである。

第 1章では、現代の「スター」が「アイドル」(女性アイドル歌手)であると仮定し、「ア

イドル」という存在を定義しなおしていく。まず、エドガール・モランの「スター」論を

引用しながら、①生まれながらに「美」を持ち、さらにそれを維持、更新していく ②作品

世界での生活と現実世界での生活があり、さらにそれが混ざり合っている ③スクリーンの

中で愛の形を披露し、さらに現実生活でも絶えず恋をする の 3点が「スター」の条件であ

るとした。さらに、この条件が「アイドル」にも当てはまるかどうかを検証していき、そ

の結果、①と②は当てはまるものの、③の愛については「スター」と「アイドル」とで相

違があることが分かった。しかし、これは「スター」がより現代的な形に進化を遂げた結

果であり、現代の「スター」のなかで最も現代的な存在が「アイドル」であるとした。

第 2 章では、そんなアイドルが日本においてどのように誕生、発展し、現在ではどのよ

うな状況にあるのかを年代ごとに振り返った。

続く第 3 章では、モーニング娘。の概要やシステムを紹介し、結成から現在までの歴史

をメンバー変動に注目しながら振り返った。また、章末にはオリジナルの年表も掲載した。

第 4 章では、いよいよモーニング娘。の現代性を明らかにしていく。まず、第 1 章から

第 3章までの内容を踏まえてモーニング娘。の特徴を整理しなおし、そこから、「メンバー

変動制システム」「メンバー変動の特徴」「プロセス提示システム」「楽曲面」の 4つの面か

らモーニング娘。の現代性について考察した。この考察では、比較対象として、モーニン

グ娘。同様メンバーチェンジとプロセスの提示を行うグループとして「AKB48」も扱って

いる。メンバー変動の特徴としては、AKB48 をはじめとする他のグループが「集合体的」

なメンバー変動を行うのに対し、モーニング娘。では「ジグソーパズル的」なメンバー変

動が行われているとした。また、プロセス提示の方法として、AKB48はアクション自体の

プロセスを提示するのに対し、モーニング娘。はアクションのあとのプロセスを提示して

いるとした。これらの考察から、「同一化願望を最大限に有効化しながらアイドル適齢期を

保ち、同時に、メディアへの露出度も高めることを目的として、絶えずメンバーチェンジ

を行うグループである」「メンバー変動においては、積極的にキャラクターを組み替えてい

くシステムがとられているグループである」「意図的にアクションを挿入し、その後のプロ

セスを受け手に提示するグループである」「プロセスの中での完成形を提示していくグルー

プである」の 4点がモーニング娘。の現代性であると結論づけた。

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大渕 明夏 外国人タレントと商品イメージ

商品イメージが形成される過程に、広告というコンテンツは大きく影響している。広告

を通して消費者は商品についてイメージし、購入後の想像を膨らませ、買うか買わないか

を選択するのだ。その広告の中に登場するタレントは、商品を購入した自分を想像する大

きな手がかりと成りうる。

本論文では、広告の中に登場する外国人タレントと日本人タレントの扱われ方や起用シ

ーンに着目し、大衆品の広告には日本人タレントが多く起用される一方で、高級品の広告

には外国人タレントが起用される傾向にあるということを論じる。また、本論文では広告

というメディアによる大衆操作に対して、消費者側は鋭い目を持ち続けるべきだと警鐘を

鳴らす事を目的としている。

第一章では外国人タレントの起用や外国の風景を多用してきた広告における欧米志向が

近年になって弱まり、大衆品広告においては日本志向が高まってきていることを論じる。

その際、化粧品広告における日本人モデルの増加や日本を強調するような演出が為されて

いる広告が増えている事を例に出し説明する。

第二章では高級品広告に焦点を当てる。大衆品広告とは対照的に、高級品広告において

は昔と変わらず欧米志向なままである事を証明するため、外国人タレントが起用されてい

る広告を例に出し、どのようなシーンで、どのように扱われているかを考察する。ここで

は日本ブランドのみを取り上げ、高級化粧品、装飾品、ブライダル関係、高級車の広告を

実例として出し、日本人の持つ変身願望や成功者への憧れが外国人タレントへと投影され

ている事を論じる。

そして第三章では、前章で述べたような外国人タレントの持つ肯定的なイメージを利用

し、商品に対して付加価値を創造したケースを取り上げる。ファッションブランドである

ユニクロを例に、外国人タレントを広告に起用することで、商品だけでなくブランド全体

の価値を高めたということを論じる。

本稿のまとめとして第四章では、改めて広告において外国人タレントがどういったシー

ンや演出で起用されているのか、どう扱われているのかを考察する。昔と変わらず高級品

広告においては外国人起用が優位なままである事を踏まえたうえで、日本人が外国人に対

して憧れの念を抱き続けている事や、それが期待や誤解にまみれたステレオタイプによっ

て形成されたものである事を述べる。そして最終的には、広告の中の外国人タレントは商

品イメージを形成するのに大きな役割を担っている事を結論付ける。

なお本稿の中で扱う「外国人」とは、我々が一見しただけで「異人種」だと分かる人を

指し、白人を中心として考察する。例えば中国人や韓国人などのアジア人は、見た目だけ

では日本人と区別が難しいので含まない。

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菅沼 歩 ファッション情報の流通に関する研究

従来、ファッション情報は、雑誌というマス・メディアによって一方向的に伝えられて

きた。しかし、最近では一消費者である個人がブログを通じてファッション情報を発信し、

トレンドをつくったという例もある。このように、ブログという個人メディア1の登場によ

り、消費者からの情報発信が影響力をもち始めてきた。これにより、従来とは異なる情報

伝播の流れが生まれてきたと考えられる。本研究では、消費者による情報発信が影響力を

もち始め、従来とは異なる情報伝播の流れが重要になってきているということを明らかに

することを目的とする。その上で、実際に社会に影響を与えた消費者のブログを対象にそ

の発信の仕方を分析していくことで、情報源として機能する個人のブログが従来の紙メデ

ィアとはどのように異なっているのかということもあわせて考察した。

本論文の構成としては、まず第 1 章で、本研究で扱うファッションという語の範囲につ

いて、既成服や装飾品といった<アパレル・アクセサリー>を指すと定義づけた。

第 2 章では、ファッション情報を巡る環境が変わってきているということを指摘した。

ファッション情報の取得手段として権威をもっていたファッション誌が衰退し、インター

ネットの普及により、個人メディアであるブログが情報源として利用され始めたというこ

とを示した。

第 3 章では、ファッション誌における情報伝播の流れについて、先行研究をもとに論じ

た。ファッション誌は細分化された読者に対し、デザイナー、アパレル企業という流れで

得た情報を、コピー文などの雑誌ならではの手法を用いることで、消費者にファッション

スタイルの提示というかたちで一方向的に伝えてきたということがわかった。

第 4 章では、ブログの前身としてウェブ日記があり、日記としての利用から情報源とし

ての利用へ変化してきているということを示した。また、ファッションブロガーという、

消費者発信の情報がトレンドをつくるようになってきており、消費者が企業や雑誌に逆に

影響を与えるようになってきたということを指摘した。

第5章では、ファッションブロガーとして注目を集める、ルミ・ニーリーの「fashiontoast」

というブログを分析することで、個人メディアによる情報伝達の特徴を明らかにした。雑

誌メディアが「量」にこだわるのに対し、ブログは「質」にこだわった発信を行っている

ことがわかった。一方で、どちらもカタログ的な要素を含んでおり類似性もみられた。

終わりの第 6 章では、これまで述べてきた内容を踏まえ、情報発信の幅が広がった現代

だからこそ、マスと個人がそれぞれの役割を上手く棲み分けることが必要であり、そうす

ることで消費者(読者)はより一層、自分の価値観にあった情報を選択できる幅が広がる

だろうと本論文のまとめとして締めくくっている。

1 個人メディアとは、個人が独自に情報を発信できるメディアのことを指す(松村・徳本

2011)。ブログは代表的な個人メディアである。

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高橋 綾 高校野球に人々が求めるものにおける研究

高校野球についての先行研究で、『高校野球の社会学 甲子園を読む』(江刺正吾,子椋博編、

世界思想社、1999)がある。この中で、人々は高校野球に「高校生らしさ」や「感動」を

求めていると述べられている。これだけ聞くとそれは当然であり、ありふれたものである

ように思うが、人々がこのようなものを高校野球に求め、実際に感動している状況には,

様々な影響が働いているのではないだろうかと考えた。本論文の目的は、人々はなぜ甲子

園をはじめとする高校野球に感動するのか、なぜ感動を求めるようになったのかという問

題について明らかにすることである。

その問題を明らかにするために、本論文では 4つの側面から考察している。1つ目がメデ

ィアの影響である。甲子園はメディアによって主催・報道される「メディアイベント」で

ある。もともとはメディアの経営戦略として開催されたのだが,人々の意識を深く考慮し

深層的かつ潜在的な価値を生み出していくようなイベントとして作られたことから,メデ

ィアは人々の感動を引き出すような演出を行っている。つまり,そのようなメディアの思

惑と,「感動したい」と思う人々との相互作用が感動を生み出しているのである。2 つ目に

「郷土アイデンティティ」である。甲子園は都道府県代表制のため,選手も人々も郷土ア

イデンティティを抱く。その両者の思いが重なることによって感動が生まれることを明ら

かにしたが,人々の郷土アイデンティティは,開催時期がお盆であり,試合が一発勝負の

トーナメント方式であるなどの甲子園の仕組みや,メディアによる地域色の高い報道によ

って仕組まれたものであることも分かった。3つ目は高校野球の「経営的側面」である。『も

し高校野球の女子マネージャーがドラッガーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏

海,2009,ダイヤモンド社)を参考にし,野球部のすべきことが人々に感動を与えることであ

ることが分かった。また,この文献は企業経営における書物であることから,高校野球に

経営理論を当てはめ,「スポーツ経営」が人々に与える影響を分析した。企業経営において

顧客に利益をもたらしたり満足させたりするような経営が求められると同様に,スポーツ

経営においても,人々に感動や楽しさを供給するような経営が求められ,そのために様々

な組織や事業が関わり合っているのである。そして 4つ目は,高校球児の「パフォーマー」

としての側面である。野球の人気が高まったことで選手たちは人々の眼を意識するように

なり,高校生らしいプレーが人々に受け入れられるように演技をしている。そして人々も

それをそれらしく見ようとするため,その両者の相互作用で「高校生」という位置づけが

なされ,より高校生らしさや感動が生み出されているのである.

このように,高校野球(甲子園)における感動は人々によって一方的に求められて生ま

れるものではなく,メディアや様々な組織・事業,そして選手によって仕組まれたもの,

あるいはそれらとの相互作用によって生み出されたものなのであることを明らかにした。

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角田 美加 女性のライフコース選択とメディア

現代社会において、人々は日々メディアと関わりながら生活をしている。その中で、今

回は女性に焦点を当ててみることにした。

女子大学生は、卒業して就職を迎えるというまさに人生の岐路に立っている。本稿では、

そんな女子大学生がメディアにおける憧れの女性像について考えた時に、どのような特徴

と問題点があるのかを、社会人女性と比較することで明らかにする。

第 1 章では、労働・家庭・教育の場における女性の立場の現状について、データを基に

しながら述べていく。それぞれの場で男女の隔たりをなくそうという政策が進められてい

るが、未だに男女の性別役割規範の概念が人々の間に根強く残っていることを示唆する。

第 2 章では、女性とメディアがどのように関わり、変化を遂げてきたのかを整理してい

く。今回は、1950年~2000年の間を大体 10年ごとに区切り整理をおこなった。ここで扱

うメディアは主にテレビと雑誌である。第 5 節では携帯電話やインターネットにも焦点を

当てて、ニューメディアについても言及する。

第 3章以降は、新潟大学の女子大学生 40人と、某小売店のレジ社員、パートナー社員 16

人に協力して頂いたアンケート調査結果を基に展開していく。第 3 章では、調査方法や実

際に使用したアンケート用紙を載せた。そして、今回アンケートに協力していただいた方々

のメディア利用状況を表にまとめた。

第 4 章では、アンケートによって得られた「このような女性になりたい」と思う女性像

と、「このような女性になりたくない」と思う女性像を一覧にした。女子大学生と社会人女

性に分類し、なぜそう思うのかという理由も、回答していただいたそのままの言葉で載せ

た。この回答を精査し、メディアから受けるイメージは好印象の方が強いこと、女子大学

生は「戦う強さを持つ」女性に憧れるが、社会人女性は憧れる「堪える強さ」を持つ女性

に憧れる傾向があること、憧れる女性像が人生の道筋という意味でのライフコースに与え

る影響はさほど大きくないことについて述べた。

第 5 章では、第 4 章の考察を総括し、女子大学生はメディアを通して、ライフコースと

いう人生の道筋の規範を得るよりも、内面的な人格的規範を得ようする傾向にあることを

結論づける。さらに、女子大学生は周囲から突出した自己実現に憧れる傾向があること、

憧れの女性像を考える上で、かつての性別役割規範に縛られた考えを持っているわけでは

ないことが明らかになった。これは、かつてまでの女性のライフスタイルと比べれば、一

つの進歩であると受け止めることができる。しかしそれを単に喜ぶのではなく、もっと現

実的に自分の将来を見据えて物語解釈をおこなう必要があるということを示唆する。

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野俣 峻大 〈モバイル広告〉的都市の方法論

本稿は、現在そしてこれからの都市が私たちにとってどのような意味をもち、ケータイ・

コミュニケーションを通じて私たちがどのように都市と関わっていくことができるかを明

らかにするものであり、新たな都市の価値や文化を生み出し、都市を活性化していくため

の手がかりとしての重要性をもっている。

1980 年代において都市は記号的な舞台装置として機能し、ひとつの広告として演出され

ていた。北田暁大(2002)はこうした〈80 年代〉的広告=都市はケータイという 1990 年

代半ば以降のメディア・コミュニケーションの変化によって失効を余儀なくされたとする。

現代の広告・都市は、都市への関心をなくした人々のまなざしをいかにして獲得していく

かという課題に直面している。しかし近年では、ケータイという領域にも広告が浸透し、

ケータイはモバイル広告という形でふたたび都市を行き交う人々のまなざしを獲得しよう

としている。本稿ではモバイル広告がどのような方法論によって、現代の広告と都市の課

題に対処しようとしているのかを探った。また、それを手がかりとしてケータイ・コミュ

ニケーションが現代の都市にもつ意味と可能性について示した。

第 1 章では、〈80 年代〉的広告=都市の成立と解体について北田(2002)の研究を中心

に論じた。いつでもどこでも他者(外部)との接続を求めるケータイは、パーソナルな関

心を都市に持ち込むことを可能にし、人々は都市への関心をなくしていった。現代の広告・

都市は、都市への関心をなくした人々のまなざしをいかにして獲得していくかという課題

に直面しているとした。

第 2 章では、モバイル広告の変遷をたどり、都市を舞台とするモバイル広告の増加を示

した。その上で都市を舞台とするモバイル広告の事例を分析し、モバイル広告がアクセス

時刻や位置情報に応じて、イマ‐ココならではの新しい経験を消費者に提供していくこと

により、人々のまなざしを都市へと向けさせようとしていることを述べた。

第 3 章ではまず、都市を舞台とするモバイル広告の方法論を〈モバイル広告〉的都市の

方法論としてまとめたが、モバイル広告は未だ十分に人々をひきつけるまでには至ってい

ないとした。その一方で〈モバイル広告〉的なコミュニケーションを通じて都市を舞台と

して捉える人々のまなざし、身体性が確かに現れてきていることを明らかにし、〈モバイル

広告〉的都市の方法論がつながりを起点に〈何かがはじまるかもしれない〉予感に満ちた

空間として都市を再編していく可能性について論じた。

おわりにでは、現代の都市がただそこへ行くだけで、かつて〈80 年代〉の都市にあった

ような物語性や〈他者と出会うこと〉への期待を享受できるような空間ではなくなったと

して本稿をまとめた。しかしそれでも、ケータイ・コミュニケーションが、都市でケータ

イを持って過ごすことそれ自体が、都市に新たな意味・価値を付与し、〈他者と出会うこと〉

が期待できる空間として、〈何かがはじまるかもしれない予感〉を期待に変える舞台として、

2010年代の都市を再編していくための意味をもつだろうという結論を示した。

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山田真唯子 ネットユーザーの匿名/実名使用時の自己開示

インターネットにつながるパソコンや携帯電話が生活に定着したことで、わたしたちは

インターネットメディアを利用したコミュニケーションを日常的に行うことができるよう

になった。中でもここ数年盛り上がりを見せているのは、mixi や Facebook に代表される

ようなソーシャルネットワーキングサービス(SNS)である。インターネットと親和性の

高いスマートフォンが爆発的に普及したこともあり、SNS 利用者は年々増加傾向にある。

SNS は、現実の人間関係をネット上に再構築し、そこでのコミュニケーションを目的とし

ている。このように、インターネットなどのコンピュータを介したコミュニケーションを

CMC と呼ぶ。CMC の特徴として、会話する相手の姿が見えないという視覚的匿名性が挙

げられ、また対面のコミュニケーションに比べて自己開示がしやすいという研究結果があ

る。インターネットの匿名空間では、ユーザーは現実の自分から乖離したもう一人の自分

を作りあげ、インターネット上で自由な発言をすることを許されている。このとき人は、

日常生活ではなかなか表現できない自身の一面をあらわにすることができる。

しかし最近の Facebookの流行は、それまで匿名認識の強かったインターネットの空間に、

実名の概念を持ち込み、ネットの世界とリアルの世界の境界をあいまいなものにしている。

ネット上の自分とリアルの自分とが、非常に結びつけられやすくなっている。このとき人

は、今までのようにネット上で十分に自己開示をすることができなくなるのではないだろ

うか。インターネットにおけるコミュニケーションにおいて、実名と匿名とで自己開示に

どのような影響が出ているのかを考察するのが本論文の目的である。

各章の内容は次の通りである。

第 1章では、CMC の特徴を述べ、インターネットの歴史から、匿名性がどのように形成

されてきたかを論じた。第 2 章では、オンライン上で形成される人格と、ネットとリアル

の二つの世界が接近していることについて論じ、そのことがインターネット上の自由な自

己開示を抑制することになるのではないかと論じた。第 3章では、自己開示を榎本(1997)

の定義を借りて明確にし、自己呈示との違いを示した。第 4 章では、知人へのインタビュ

ーをもとに、実名のときと仮名的匿名のときとで、自己開示にどのような差があるのかを

明らかにした。終章は、本論文のまとめである。