生物多様性オフセットの成功基準、評価手法

本日の話題

田中章（2014）

連邦魚類野生生物局と事前に合意した成功基準

植生タイプ写真判読方法

3年目の達成基準％

5年目の達成基準％

ヤナギ林 樹冠密度 29 67

コットンウッド林 樹冠密度 13 25

境界林 線上密度 60 90

カシ林，プラタナス林，エルダベリー・サバナ

生存率 設定しない 80

サクラメントリバー沿いの河辺林

生存率 設定しない 80

• 当初、HEPが義務付けられたが、VELBのハビタット消失面積の6倍以上を補償することになったため、より簡易的な方法によった

田中章（2012）

ゲンジボタル(Luciola cruciata)

谷戸水辺保全 ヘイケボタル

(Luciola lateralis)

ヤマアカガエル(Rana arnativentris)

ニホンアカガエル(Rana japonica)

谷戸里山生態系 ＆

丘陵

目標：谷戸およびそれをとりまく丘陵からなる里山生態系の保全

丘陵二次林保全

水域と陸域の連続性

写真出典：内山りゅう（2006）田んぼの生き物図鑑，山と渓谷社，東京，320pp．

田中章（2008）

ＨＥＰによる評価結果

将来A

将来C(ﾍﾞｰｽﾗｲﾝ)

将来B

THU

現在

将来時点

時間

現状

ゲンジボタル

将来A

将来C(ﾍﾞｰｽﾗｲﾝ)

将来B

THU

現在

将来時点

時間

現状

ヘイケボタル

将来A

将来C(ﾍﾞｰｽﾗｲﾝ)

将来B

THU

現在

将来時点

時間

現状

ヤマアカガエル

将来A

将来C(ﾍﾞｰｽﾗｲﾝ)

将来B

THU

現在

将来時点

時間

現状

ニホンアカガエル田中章（2008）

ＨＥＰは単純すぎるのか？複雑すぎるのか？

• 「空間」や「時間」は単純明快。「時間」は予測材料に限界あり。問題は「質」のＨＳＩ。

• 生態学的には単純すぎ、環境アセスメントとしては複雑すぎるというのが現実。

• 生態学や生物学からの批判を受けながらも、精度的段階があってもよい。

教科書どおりのHEP、ＨＳＩモデル。 （難）

この間に自由な発想で、「質」を表現するものが合って良い。

（日本版ＨＥＰの現実的なレベル？）

植物群落などカバータイプごとに点数化。 （易）

田中章（2003）平成15年環境省主催 生態系の定量的評価手法フォーラム「生態系アセスメントにおける定量的評価手法利用の考え方」

世界でも、HEPを基礎とするがより簡易な手法、より面積重視の傾向あり

生物多様性オフセット政策に対する疑問

本日の話題

田中章（2014）

生物多様性オフセットの出発地点

＜よくある疑問＞

稀有の景観であるとか、絶滅危惧種の生息地であるとか、地域固有で複雑な生態系をそもそも「代償」できるのか？

＜上記疑問の前の段階の根本的疑問＞

稀有の景観であるとか、絶滅危惧種の生息地であるとか、地域固有で複雑な生態系をそもそも「開発」できるか？

事業の中止という回避策はほとんどない

開発による自然の消失はほとんど補償されていない

田中章（2010）

ノーネットロス政策と生物種の希少性の関係

種や生息地の

希少性目標 ミティゲーション方策

極めて希少 ノーロス全面回避ミティゲーション

（当該地域での事業中止）

やや希少ノーネットロス

・ネットゲイン

一部回避、最小化ミティゲーション

＆

代償ミティゲーション

普通 最小化 最小化ミティゲーション

田中章（2003）

カリフォルニア州北部セントラルバレーにおける代償ミティゲーション事例の評価, USFWS（1994）

タイプ

調査結果

Riparian河辺生態系

Permanent

Wetland通年湿地

SeasonalWetland

季節的湿地

Vernal Pool冬雨プール

Tidal Marsh

河口干潟合計

サイト数 21.0 19.0 16.0 7.0 4.0 67.0

消失面積(ha) 68.7 18.9 46.8 24.4 9.3 168.1

代償計画 (ha) 93.3 42.6 45.8 50.6 10.2 242.5

代償面積(ha) 79.1 42.5 53.3 34.0 8.5 217.4

事業評価点 5 7 7 5 8 -

生態系評価点 3 6 4 2 7 -

田中章（1999）

米国では、2009年12月現在ラムサール条約登録湿地22件が登録されているが、そのうちの少なくとも4件がミ

ティゲーションバンクであることが判明した

Olentangy River Wetland Research Park

施行開始:1992年 登録年月日:2008.4.18

≪施行開始≫ ≪植物を植える様子≫

名称 所在地 面積(ha)

Everglades National Park Florida 610,497

Francis Beidler Forest South Carolina 6,438

Izembek Lagoon National Wildlife Refuge

Alaska 168,433

Olentangy River Wetland Research Park

Ohio 21

人工的に造った生息地であっても、必要な機能を持たせることは可能

≪完成≫

田中章（2009）

自然再生事業サイトなどの生物多様性オフセット用地利用

【利点】• 生態情報の存在• 事業者（スポンサー）の存在

【問題点】• 面積的な消失が未緩和• 汚染者負担原則の不徹底• 生物多様性オフセット用地確保の難しさ

【利点】• 自然復元すべき広い土地確保がなされていること

• 地域連携が進んでいること

【問題点】・目標設定、成功基準の曖昧さ・費用不足

環境アセスメント対象事業 自然再生事業など

提言：自然再生事業サイト、自然公園区域、緑地保全区域、行政の塩漬け土地、耕作放棄農地などを生物多様性オフセット用地あるいはバンキング用地として有効利用すべき。

田中章（2008）

生物多様性オフセット（代償ミティゲーション）の見方

本日の話題

田中章（2014）

生物多様性オフセットの見方

b. 空間配置

a. 生息地の質（生態系機能）名称 内容

1インカインド 同様の生息地を復元、創造、増強

2アウトオブカインド 異なる生息地を復元、創造、増強

（より希少になっている生息地等）

名称 内容

1オンサイト 開発計画地内あるいは隣接地での生息

地復元、創造、増強

2オフサイト 開発計画地から離れた場所での生息地

復元、創造、増強

Tanka, Akira（2002 & 2010）

k. 対象行為名称 内容

1

ダイレクト

（復元行為自体）

代償ミティゲーションとして失われる生息地の復元、創造、増強を実施する。

＝直接的オフセット

2

インダイレクト

（その他の行為）

代償ミティゲーションとして上記の行為に寄与する、研究、教育等の間接的行為。

＝間接的オフセット

• 「生物多様性オフセット（代償ミティゲーション）」といっても多様

• 様々な観点から定義する必要性あり

Tanka, Akira（2002 & 2010）

西オーストラリア州： 例）フォオーナスタンリー病院の建設

・住宅建築大臣が、西オーストラリアにおいて最大となるフィオーナスタンリー病院を建設することを提案

・開発予定サイトである３２．４haのうち２５haが低木林地であり西オーストラリアの固有種であるニシオジロクロオウムのハビタット

・環境アセスメント法である「環境保護及び生物多様性保全法」の下、提案された事業がニシオジロクロオウムへの影響を評価

・事業を行うことでニシオジロクロオウムに対し採餌場の消失、移動経路の断裂のような影響が起こる可能性

・環境アセスメントにより明らかになった影響に対し事業主体の保険省が、「ネットゲイン」を目標に金銭による間接的オフセットを含む生物多様性オフセットを計画した。

ニシオジロクロオウム

直接的オフセット

ニシオジロクロオウムが採餌可能な種を要する低木林地を合計３ha保護する

開発サイト近郊のビーリアー地域の５つのサイトで合計25ha類似したハビタットを回復・再生する

間接的オフセット

病気や負傷した野生動物を24時間受け付けて治を行なうボランティア団体のワイルドケアヘルプライの活動へ150,000ドル資金提供

今後のニシオジロクロオウムに対する影響に備え、個体数の把握等のより詳しく生態を把握するための研究プロジェクトへ275,000ドルの資金提供

森林地帯復元に関する研究プロジェクトへの50,000ドル資金提供

直接的オフセットと間接的オフセット

田中章（2011）

生物多様性オフセットの

日本経済に与える影響

本日の話題

田中章（2014）

年度 会議名 開催国 決議内容

2006 COP8Brazil-Curitiba

DecisionⅧ-17「Private-sector engagement」

Noting that contributions from business and industry towards the implementation of the Convention and its 2010 target could be facilitated by further work under

the Convention to develop:(c) Guidance for potential Biodiversity Offsets in line

with the objectives of the Convention;

2008 COP9Germany ‐Bonn

DecisionⅨ-26「Promoting business engagement」

Annex「Framework of priority action on business,

2008‐2010」In collaboration with relevant organizations and

initiatives, such as the Business and Biodiversity Offsets Programme ,compile and/or make available:

(b) methodologies; tools and guidelines on Biodiversity Offsets

ＣＢＤ決議にみる生物多様性オフセット

各国国内の法整備の段階から、国際社会のメカニズム検討段階へ田中章（2014）

2012年BBOPはCBD COP8決議による生物多様性オフセットの国際ガイドライン発表

↓＜日本の国外活動に対する影響＞

海外での日本企業活動海外投資、IFCのPF融資基準に採用（赤道原則）

日本のＯＤＡ↓

日本企業の海外向け商品←TPPの影響も↓

＜日本の国内への影響＞環境影響評価法や関連法における対応は

環境マネジメントにおける対策は

USAID,世界銀行,UNEP,IUCN,各国政府機関,世界企業による生物多様性オフセット推進のための国際団体

©田中章田中章（2014）

BBOP HP

生物多様性オフセット市場の成長性TEEB for Business 2010 for CBD COP10

0

50

100

150

200

250

2008年 2010年 2020年 2050年

市場規模（米ドル）

34億ドル45億ドル

101億ドル

204億ドル

田中章（2011）

地域の在来植物種の種子を売る種苗会社

田中章（1992）

地域の在来魚類の稚魚を売る養殖会社

田中章（1992）

自然復元を専門とする造園工事業者

田中章（1992）

生物多様性保全分野のランドスケープ・アーキテクト

田中章（1992）

日本の造園、園芸、日本庭園、盆栽、里山管理などは、生物多様性オフセットにつながる伝統的叡智

米国では、関連する産業が分化し、深化し、重要な産業分野に育っており、さらに拡大し続けている

伝統的な叡智の上に、日本人の生き物との共存する姿勢と、繊細な技術を十分に活用すれば、日本がこの産業分野で世界に進出する可能性大

ミティゲーションは日本経済の起爆剤

田中章（1999）東京都市大学横浜キャンパスビオトープ・パッケージ

日本における試み

本日の話題

田中章（2014）

＜これまでの自治体のミティゲーション条例実績＞

– 逗子市の良好な都市環境をつくる条例（1992）

– 清水市興津川の保全に関する条例（1993）

– 環境影響評価法 基本的事項 （1997）

– 志木市自然再生条例（2001）

– 愛知県「自然環境の保全と再生のガイドライン」（2013）

＜企業活動へのヒント＞

• まずは、自社の全活動の生物多様性へのマイナス影響とプラスの影響を定性的かつ定量的に評価し、現状を社員全員で理解すること

生物多様性オフセット制度、日本の経験

田中章（2014）

企業CSR等へのHEPの活用＝従業員参加型の簡易的HEPの開発

「HSIカルテ」を用いた「かんたんHEP」

本格HEPを踏襲しつつ、簡易的かつ定量的に評価

評価結果が具体的な目標設定や施策の検討に直結する

従業員らの自発的な生物多様性保全活動を推進する

「HSIカルテ」は、わかり易い質問でYes/Noのチェックリスト方式

参加者の生物多様性に関する意識の醸成や学習効果

引用：BIRD FAN webサイト

採食

繁殖

水

行動・休息

シジュウカラのHSI（生息地適性指数）

V1 主要な餌である、チョウ類（鱗翅目）およびハチ類（膜翅目）の生息状況

Y/N 得点 SI

a チョウやガやハチを確認したことがない。

0.0

0.4

b チョウやガやハチの成虫を1年以内に確認したことがある。

✔ 0.2

c チョウやガやハチの幼虫やサナギを1年以内に確認したことがある。 0.2

d チョウやガやハチの成虫を今回の調査で確認した。

✔ 0.2

e チョウやガやハチの幼虫やサナギを今回の調査で確認した。

0.2

f 草地や樹林地がある。（チョウやガやハチの生息環境）

0.2HSI＝ （採食SIの平均×水SIの平均×

行動・休息SIの平均×繁殖SIの平均）1/4

シジュウカラのHSIカルテ（一部）生存必須条件

巣材の供給源

採食生物の生息

採食場所の安全性

広葉樹林の分布

薬剤散布

水場の存在

水場の安全性

行動圏のカバー

繁殖空間の安全性

生息・休息場の安全性

樹洞や巣箱の有無

樹洞形成のポテンシャル

0

0.5

1V1

V2

V3

V4

V5

V6V7

V8

V9

V10

V11

V12

SIのレーダーチャート

「かんたんHEPチーム」

による現地調査の様子

「かんたんHEP」の特徴と効果

田中章（2011）

ハビタットのコネクティビティー（連結性）、生態回廊のネットワークの定量評価手法開発の例

棲みやすさ

創出した緑地

土地利用状況(樹林・草地・水辺)

棲みやすさ

シジュウカラシジュウカラ生息確認位置

棲みやすさ

低

高

棲みやすさ

シジュウカラクロアゲハ

生息確認位置

棲みやすさ棲みやすさ

創出した緑地

棲みやすさ

創出した緑地

低

高

「都市部におけるエコロジカル・コリドー評価システム」東急建設（2014）

シジュウカラ クロアゲハ

田中章（2014）

里山バンキング

本日の話題

田中章（2014）

ミティゲーション・バンク

監督官庁

•バンク設立の承認•生態系の復元・創造・ 増強の監督•クレジットの認証

クレジット提供

クレジット支払い

クレジット支払いクレジット提供

クレジット提供

ミティゲーションバンク

代償ミティゲーションの指導

開発サイトＡ 開発サイトＢ

クレジット支払い

開発サイトＣ

代償ミティゲーションの指導

田中章（1998）

地域の地主、行政、企業、NPO、研究者などによる地域連携による可能性の追求

日本の生物多様性の基盤である里山、里地、里海などの生態系の保全メカニズム

生物多様性オフセットとバンキングを同時に導入（後発の利益）

回避すべき場所をあらかじめ明示すること（例：EU Natura 2000）

回避すべき場所の維持・管理のためにバンキングを重ねる発想

個別対応のオフセットではなく、地域全体で開発と保全の土地とそのネットワークを考える ← 評価も同様

将来の戦略的環境アセスメントとのリンクの必要性

自然公園区域、緑地保全区域などの自然保護区域だけではなく、生態系保全が必要な里山、里地、里海、行政の塩漬け土地、耕作放棄農地、自然再生事業サイトなど

里山バンキングの試み

田中章（2014）

地域のマルチステークホルダー間の連携促進による

“里山バンキング”の提案 64

BPP+PPP

田中章（2010）

１．開催概要日 時：平成26年7月5日（土） １０：５０～１６：００場 所：「わたしの田舎」谷当工房（千葉県千葉市若葉区谷当町７０）主 催：環境アセスメント学会生態系研究部会事務局：環境アセスメント学会生態系研究部会幹事 新井聖司

２．発表者及びパネリスト （五十音順、敬略称）上杉哲郎 （環境省総合環境政策局環境影響評価課 課長）金親博榮 （里山バンキング実証実験対象地土地所有者）木下順次 （イオン株式会社グループ環境・社会貢献部）熊谷宏尚 （千葉県生物多様性センター，

生物多様性ちば企業ネットワーク）小畠雅史 （東京都市大学大学院 修士課程）佐藤聰子 （NPO法人バランス21 代表）田中章 （環境アセスメント学会生態系研究部会 部会長）山本英司 （弁護士・日弁連公害対策・環境保全委員会 委員）

第25回環境アセスメント学会生態系研究部会定例会里山生態系保全を推進する“里山バンキング”

田中章ＨＰ