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女の子と教育 女の子への教育効果は、ひとりの女の子に留まらず、家族、地域、国や世界に広がる可能性があ ります。また母親が教育を受けていると、次世代にも良い影響を与えるというデータもあります。 *1 UNESCO, EFA Global Monitoring Report, 2012 *2 THE WORLD BANK,“Girls’Education in the 21st Century : Gender Equality, Empowerment and Economic Growth”, 2009 *3 UNFPA State of World Population, 2005 *4 Global Coalition on Woman and AIDS 図1:中等教育における男女平等 出典:UNESCO,“WORLD ATLAS of Gender Equality in Education”, 2012 男子の割合が高い国 平等 女子の割合が高い国 データなし 世界では ・・・・・・ ケニアでは・・・・・ ジンバブエでは・・ 女の子が初等教育を5年間受けると、将来生む子どもが5才まで 生き延びる確率が40%以上も上がる *2 女性が男性と同じレベルの教育を受け、農作業にも決定権を持った場合、 収穫高が22%アップ *3 学校に通う15 18才の女の子はHIVに感染する率が5分の1 *4 途上国の人々・政府や国際社会の努力で、小学校の就学率は男女ともに大きく改善しました。 しかし、一旦は入学できたとしても、貧困、家事労働や家族・地域の理解不足などから、多くの 子どもたちが小学校や中学校を中途退学しています。 なかでも女の子はより厳しい状況にあります(図1)。6,600万人の女の子が小・中学校を修了 できずにおり、中学校におけるその割合は5人に1人です *1 中等教育は、女の子が将来よりよい仕事や収入を得て、自由な選択のできる人生を歩むために 大切な時期です。しかし、現状では多くの女の子が9年間の小・中等教育を修了することが できていません。 ◆女の子が学校に行けない10の理由 ◆学校を中途退学しなくてはならない女の子 1.貧困 2.近くに学校がない 3.学校や通学路が安全ではない 4.水くみなどの家事労働 5.社会や家族の女の子の教育への理解不足 6.早すぎる結婚・妊娠 7.劣悪な学習環境 8.学校に男女別のトイレや安全な飲料水がない 9.女子教員の不足 10.児童労働 ◆もし女の子が教育を受けられたら… 1 解説 19 18

女の子と児童労働...女の子と早すぎる結婚 途上国では7人に1人が15才未満で早すぎる結婚をさせられています *1。ニジェール、チャド、

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Page 1: 女の子と児童労働...女の子と早すぎる結婚 途上国では7人に1人が15才未満で早すぎる結婚をさせられています *1。ニジェール、チャド、

女の子と教育

女の子への教育効果は、ひとりの女の子に留まらず、家族、地域、国や世界に広がる可能性があ

ります。また母親が教育を受けていると、次世代にも良い影響を与えるというデータもあります。

*1 UNESCO, EFA Global Monitoring Report, 2012

*2 THE WORLD BANK,“Girls’Education in the 21st Century : Gender Equality, Empowerment and Economic Growth”, 2009

*3 UNFPA State of World Population, 2005

*4 Global Coalition on Woman and AIDS

図1:中等教育における男女平等

出典:UNESCO,“WORLD ATLAS of Gender

Equal ity in Educat ion”, 2012

男子の割合が高い国

平等

女子の割合が高い国

データなし

世界では ・・・・・・

ケニアでは・・・・・

ジンバブエでは・・

女の子が初等教育を5年間受けると、将来生む子どもが5才まで

生き延びる確率が40%以上も上がる*2。

女性が男性と同じレベルの教育を受け、農作業にも決定権を持った場合、

収穫高が22%アップ*3。

学校に通う15~18才の女の子はHIVに感染する率が5分の1*4。

途上国の人々・政府や国際社会の努力で、小学校の就学率は男女ともに大きく改善しました。

しかし、一旦は入学できたとしても、貧困、家事労働や家族・地域の理解不足などから、多くの

子どもたちが小学校や中学校を中途退学しています。

なかでも女の子はより厳しい状況にあります(図1)。6,600万人の女の子が小・中学校を修了

できずにおり、中学校におけるその割合は5人に1人です*1。

中等教育は、女の子が将来よりよい仕事や収入を得て、自由な選択のできる人生を歩むために

大切な時期です。しかし、現状では多くの女の子が9年間の小・中等教育を修了することが

できていません。

◆女の子が学校に行けない10の理由

◆学校を中途退学しなくてはならない女の子

1.貧困

2.近くに学校がない

3.学校や通学路が安全ではない

4.水くみなどの家事労働

5.社会や家族の女の子の教育への理解不足

6.早すぎる結婚・妊娠

7.劣悪な学習環境

8.学校に男女別のトイレや安全な飲料水がない

9.女子教員の不足

10.児童労働

◆もし女の子が教育を受けられたら…

1解 説

191 8

Page 2: 女の子と児童労働...女の子と早すぎる結婚 途上国では7人に1人が15才未満で早すぎる結婚をさせられています *1。ニジェール、チャド、

女の子と児童労働

児童労働とは、義務教育を妨げる労働や、法律で禁止されている18才未満の危険・有害な労働を指

します。世界の子ども(5~17才)の7人に1人、2億1,500万人(うち8,800万人が女の子)が児童労

働をしていると見積もられています*1。

◆8,800万人以上の女の子が児童労働

女の子の労働の多くが、親の借金を返すための債務労働、性産業、家事使用人などの非公式部門

での労働です。また非合法で、時には無報酬であるために、公式データに反映されづらい“隠され

た労働”です。特に家事使用人の女の子は、ほとんど休みもなく、長時間労働を強いられ、孤立感

の中で厳しい生活しています。ひと目につきにくいため、言葉による暴力や身体的・性的な虐待を受

けることも多くあります。

◆“隠された労働”に従事されられる女の子

貧困、教育の欠如、親や地域社会の低い意識、不完全な法など、様々な原因が複雑に絡み合

っています。そして、女の子の児童労働は、女性の地域社会や家庭での低い地位を反映してい

ます。家族にとって女の子は“経済的負担”と考えられている地域もあり、貧困家庭では親は、

女の子の教育に投資したがらず、最初に女の子を働きに出すという傾向にあります。このように、

女の子は多くのハンディを負い、選択肢や機会を十分得られない状態で成人となってしまい

ます。そのため、自分の子どもへよい影響を与えられず、貧困の悪循環を次世代に残すことにな

ります。(図1)

◆なぜ女の子が児童労働に?

女の子が教育を受け、適正な職業やスキルを身につければ、社会や次世代に大きな影響を及ぼ

す可能性があります。

―農業分野では、作物の生産性が向上し、子どもの栄養状態が改善する

―家庭の収入が増え、一人当たりの国民所得や貯蓄高が増加し、経済成長が加速する

―早すぎる結婚・妊娠を減少させ、生まれた子どもが教育を受ける機会が増す

◆教育は児童労働、ひいては貧困の悪循環を断ちきる「鍵」

図1:貧困の悪循環

*1 ILO, 2010

2解 説

貧困の悪循環

安定した職業につけない

収入が少ない読み書き

計算ができない

生活の基礎知識が不足

教育を受けられない

(非識字)

児童労働の危険に

搾取されることも

2 120

Page 3: 女の子と児童労働...女の子と早すぎる結婚 途上国では7人に1人が15才未満で早すぎる結婚をさせられています *1。ニジェール、チャド、

女の子と早すぎる結婚

途上国では7人に1人が15才未満で早すぎる結婚をさせられています*1。ニジェール、チャド、

マリ、バングラデシュではその比率は60%以上に上ります。南アジアでは46%、サハラ以南のアフリ

カでは38%の女の子が15才未満で早すぎる結婚をさせられています*2。中には、親が決めた

10才前後の結婚もあります。

◆早すぎる結婚をさせられる女の子

◆なぜ早すぎる結婚をさせられるの?

早すぎる結婚をさせられた女の子の多くは学校に通うことができず、彼女らがもつ「権利」すら、

知ることがありません。孤立した嫁ぎ先で、夫や家族から言われるがままに、重い家事労働を背負

わされることもあります。また、自分の身を守るすべを学べず、身体的、心理的、性的虐待の対象に

なりがちです。早すぎる妊娠・出産で健康を害したり、性感染症やHIVエイズの危険が高まったり

するとの報告もあります。

◆早すぎる結婚によって女の子たちは・・・

女の子には、いつ誰と結婚するか自分で決める権利があります。早すぎる結婚を廃止するためには、

女の子への教育が鍵となります。知識、スキル、自信をつけることで、女の子たちは自分の人生

を選択するために声をあげることができるようになります。

◆「いつ誰と結婚するか」女の子自身が決められるようにするために

出典:UNICEF, www.childinfo.org/

*1 The Elders, “Child Marriage”, 2010

*2 OECD Gender, Institutions and Development Database

10% 以下

10-24%

25-49%

50% 以上

データなし

理由は人によって様々ですが、以下の要因のいくつかが複雑に絡み合っています。

1.ジェンダーの不平等・・・

2.貧困・・・・・・・・・・・・・・

3.慣習や宗教・・・・・・・・・

4.法律の機能不全 ・・・・・

5.紛争や災害・・・・・・・・・

女の子の社会や家庭での地位が低い

生活費、教育費、「結婚持参金」などの家計の負担を減らす

古くからの伝統や宗教に関連する考え

規制する法律があっても、家族や本人が知らない。

女の子を保護する法律がない国々も。

混乱から女の子を守るため、また家族の経済状況が悪化するため。

3解 説

図1:早すぎる結婚を強いられる女の子の割合

232 2

Page 4: 女の子と児童労働...女の子と早すぎる結婚 途上国では7人に1人が15才未満で早すぎる結婚をさせられています *1。ニジェール、チャド、

ジェンダー平等

ジェンダー平等の国際的な指標の代表的なものとして、世界経済フォーラムによる「グローバル・

ジェンダー・ギャップ指数(GGI)」や国連開発計画(UNDP)による「ジェンダー不平等指数(GII)」

があります。「保健」「教育」「政治」「経済」の指標からなるグローバル・ジェンダー・ギャップ指数

において、1位は全体スコア0.8640のアイスランドです(0が完全不平等、1が完全平等を意味)*1。

また、「保健」「エンパワーメント」「労働市場」の3つの側面からなるジェンダー不平等指数において、

1位は0.049のスウェーデン(1が完全不平等、0が完全平等を意味)*2。どちらも完全平等には

届いていません。

◆世界で完全にジェンダー平等を達成した国はありません

表1が示すように、日本のグローバル・ジェンダー・ギャップ指数は135ヵ国中101位。特に政治参加

のギャップからこのような低い数値になっています。議員に占める女性の割合は、衆議院が16.7%、

参議院が22.9%*3とOECD加盟国では最低ラインです。ジェンダー不平等指数(GII)において

は146ヵ国中14位*4。保健分野などの日本が優れている分野が含まれている結果と考えられますが、

日本においても、意思決定に関わる立場にある女性の割合が著しく低いという現状において、ジェ

ンダー平等に向けて取り組む課題は多くあると言えます。

◆日本のグローバル・ジェンダー・ギャップ指数は135ヵ国中101位

男性と女性に対して一見中立的な法律や政策でも、結果的には男女に異なる影響を及ぼすこと

が往々にしてあります。例えば、日本には男女雇用機会均等法があり、雇用での男女差別は禁じ

られています。しかし、企業の課長相当職以上に占める女性の割合はわずか7.2%*5。女性が

働き続け、昇進するのがいかに厳しいかがわかります。このギャップを是正するには、家事・育児

を男女間でより公平に分担できるような環境づくりや意識改革、家事・育児をサポートするよう

な公共サービスや民間サービスの拡充などが必要です。

◆男女平等の法律を作れば、格差は解消される?

ジェンダーは女性だけの問題ではありません。例えば日本では「男は弱音をはいたり泣いたり

せずに、一家の大黒柱として家族を経済的に養ってこそ一人前」などのジェンダー規範があり、

男性にとっても生きづらい社会になっています。すべての人々が自分の持って生まれた可能性を

開花させ、対等な立場で助け合い、能力を活かしていけるジェンダー平等社会をともに作り上げ

ていくことが必要です。

◆ジェンダー平等の社会をつくるために

4解 説

*1*4 世界経済フォーラム The Globa l Gender Gap Repor t, 2012

*2 UNDP, Human Development Repor t, 2011

*3*5 内閣府『第 3 次男女共同参画基本計画における成果目標の動向』, 2012

表1:グローバル・ジェンダー・ギャップ指数 ( GGI ) 

出典:世界経済フォーラム The Global Gender Gap Report 2012

アイスランド 1位

8位

22位

66位

101位

117位

123位

135位

0.8640

0.7757

0.7373

0.6867

0.6530

0.6258

0.6026

0.5054

0.7540

0.7719

0.8143

0.7096

0.5756

0.7591

0.4874

0.3424

1.0000

1.0000

1.0000

0.9684

0.9869

0.6446

0.7632

0.6838

0.9696

0.9796

0.9792

0.9441

0.9791

0.9612

0.9612

0.9727

0.7325

0.3515

0.1557

0.1247

0.0705

0.1383

0.1989

0.0227

フィリピン

米国

ベトナム

日本

ベナン

ネパール

イエメン

ランク 全体スコア 経 済 教 育 保 健 政 治

2524

Page 5: 女の子と児童労働...女の子と早すぎる結婚 途上国では7人に1人が15才未満で早すぎる結婚をさせられています *1。ニジェール、チャド、

問題解決のためのアクション

参考資料

NGO、国連、現地政府などが、「識字教育」「学校・トイレ建設」「女性

教員トレーニング」「職業訓練」など様々なプロジェクトに取り組んでい

ます。現地の女の子や女性たちもニーズ調査、プロジェクト実施、評価な

どに加わるケースも増えています。

◆プログラムを実施してコミュニティを変える

ジェンダーに関する差別、ステレオタイプ、不平等な力関係を変換させるた

めには、人々の意識啓発が欠かせません。現地では当事者である女の子・

女性が啓発活動の重要な担い手として活躍することも。すべての子どもに

平等な世界をつくるためには、日本においても、構造的な男女不平等の原

因を知り、改善に向けて何ができるかをともに考えることが重要です。

◆意識啓発をして人々の意識とふるまいに 変化をもたらす

問題解決のためには、国内外の政策の改善が不可欠です。活動現場の経

験や知見、そして当事者である女の子や女性の声を政策に届けるために、

行政担当者と対話し、法律の策定・改善支援、教育政策やカリキュラムづ

くり支援、関係機関の連携をはかります。日本でも、「世界中の子どもに教

育を」「ODAにおける教育支援の充実を」などを訴える署名やアクション

が呼びかけられています。

◆政策に働きかけて社会の仕組みを変える(アドボカシー)

「募金をする」「ペットボトルキャップを集めて支援団体に送る」「省

エネに励む」など、貧困や気候変動、ジェンダーの不平等などの諸

問題解決に向けた個人の取り組みは増えています。一方、それらの

問題解決のためには、国内外の政策の改善が不可欠です。この政策

を変えるための活動をアドボカシー活動といいます。政策を変える

ためには、その問題が起こっている根本的な原因を理解し、それを

解決するための提案を、政策を決定する責任のある政治家や政府

の担当者などに届けることが重要です。そして、政治家や政府の担

当者にその問題を重要と思ってもらえるよう、問題に気づいた人た

ちが、できるだけ多く声をあげていくことが、とても大切です。この

「声をあげる」という行為は、特別な知識や資格はなく、私たち全員

が参加できる行動でもあります。

アドボカシー活動

プランが世界で展開するRaise Your Handは、

世界の女の子の教育とエンパワーメントのために、

私たちの手を上げる姿を通して国際社会に働きか

けるアドボカシーのアクションです。世界中で400

万人の参加者を集め、国連事務総長や国際社会の

リーダーたちに、「女の子が9年間の初・中等教育

を修了すること」と「早すぎる結婚の根絶」を働き

かけます。(背表紙参照)

Raise Your Hand

5解 説

◆映像「女の子が生き抜くための『学び』」、「カマラリたちの新たな人生(ネパール)」、

「13歳の花嫁(ニジェール)」など各種短編映像をご紹介しています。

◆世界ガールズ白書プランでは2007年から毎年、世界の女の子の現状を調査、報告した「世界ガールズ

白書」を発行しています。女の子に影響を及ぼしているテーマを取り上げ、女の子た

ちが直面する問題やその解決に向けたプランの提言や取り組みを紹介しています。

◆ガール冊子「Because I am a Girl 」乳幼児期から思春期を経て青年期を迎えていくなかで、世界の女の子が直面する問

題や、その原因などを説明します。また、女の子のエンパワーメントの効果について

も解説しています。

◆「途上国を子どもたちに伝える」プラン・ジャパンの学校との連携事例を紹介しています。開発教育ボランティア

「プラン・フレンズ」の活動や貸出・配布教材をご案内しています。ご利用の方は事務

局までお申し込み下さい。

◆「ジェンダー平等に関するプランの方針」プランの目標は、すべての子どもたちが、本来もてる力を発揮できる社会を築くこ

と。その達成には、「ジェンダー平等」が欠かせません。活動国でのプログラムは

もちろん、各国事務所の運営や発信するメッセージなどすべてに「ジェンダー平等」

の視点を盛り込むというプランの方針を説明しています。

www.plan-japan.org/girl/ からダウンロードできます

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