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FUJITSU. 62, 1, p. 28-34 01, 201128 あらまし 本稿では,企業内システム(オンプレミス)とパブリッククラウドを組み合わせた「ハイ ブリッドクラウド」の実現に関する富士通の取組みを紹介する。 ハイブリッドクラウド環境では,オンプレミスやパブリッククラウドに散在する業務 システムやサービスのシームレスな連携が不可欠であり,この実現には,「フロント統合」 「データ統合」「プロセス統合」の技術が必要となる。富士通は従来より,これら統合技術 を持つミドルウェア(Interstageシリーズ)を提供してきたが,今回,新たにハイブリッド クラウドの構築・運用を支援する機能を実装したミドルウェアを開発した。 このミドルウェアは,これまで培った統合技術にハイブリッドクラウド実現に向けて 新たに取り組んだ技術を融合し,現在,企業において高まっている業務システムの最適 化に向けたパブリッククラウドの有効活用のニーズに応えるものである。 Abstract This paper introduces Fujitsus approach to the hybrid Cloud,which combines internal (on-premises) systems and services on public Clouds. A hybrid Cloud must be able to provide seamless links between a companys own on-premises business systems and services and external business systems and services in public Clouds. This requires front-end integration, data integration, and process integration. Fujitsu has been providing middleware having these three integration technologies (Interstage series of software) for some time, but it has now developed middleware equipped with new functions for constructing and operating hybrid Clouds. The merger of new technology for achieving hybrid Clouds with previously refined integration technologies enables this middleware to promote the effective use of public Clouds, which are becoming increasingly important in the corporate world, with the aim of optimizing business systems. 船橋幹雄   吉川茂夫 ハイブリッドクラウドの実現 Fujitsu’s Approach to Hybrid Cloud Systems

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FUJITSU. 62, 1, p. 28-34 (01, 2011)28

あ ら ま し

本稿では,企業内システム(オンプレミス)とパブリッククラウドを組み合わせた「ハイ

ブリッドクラウド」の実現に関する富士通の取組みを紹介する。

ハイブリッドクラウド環境では,オンプレミスやパブリッククラウドに散在する業務

システムやサービスのシームレスな連携が不可欠であり,この実現には,「フロント統合」

「データ統合」「プロセス統合」の技術が必要となる。富士通は従来より,これら統合技術

を持つミドルウェア(Interstageシリーズ)を提供してきたが,今回,新たにハイブリッドクラウドの構築・運用を支援する機能を実装したミドルウェアを開発した。

このミドルウェアは,これまで培った統合技術にハイブリッドクラウド実現に向けて

新たに取り組んだ技術を融合し,現在,企業において高まっている業務システムの最適

化に向けたパブリッククラウドの有効活用のニーズに応えるものである。

Abstract

This paper introduces Fujitsu’s approach to the “hybrid Cloud,” which combines internal (on-premises) systems and services on public Clouds. A hybrid Cloud must be able to provide seamless links between a company’s own on-premises business systems and services and external business systems and services in public Clouds. This requires front-end integration, data integration, and process integration. Fujitsu has been providing middleware having these three integration technologies (Interstage series of software) for some time, but it has now developed middleware equipped with new functions for constructing and operating hybrid Clouds. The merger of new technology for achieving hybrid Clouds with previously refined integration technologies enables this middleware to promote the effective use of public Clouds, which are becoming increasingly important in the corporate world, with the aim of optimizing business systems.

● 船橋幹雄   ● 吉川茂夫

ハイブリッドクラウドの実現

Fujitsu’s Approach to Hybrid Cloud Systems

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FUJITSU. 62, 1 (01, 2011) 29

ハイブリッドクラウドの実現

統合・データ統合・プロセス統合の三つの統合技術が必要である。(1) フロント統合オンプレミスやパブリッククラウド上に散在した業務アプリケーションやサービスの操作を,一つに統合した操作画面から利用することにより,業務担当者の操作性を向上させ,効率良く業務を遂行できるようにする技術である{同図(1)}。(2) データ統合ハイブリッドクラウドにおいても,通常,業務データ(顧客マスタや商品マスタなど)はオンプレミスで管理される。これらの業務データをパブリッククラウドのサービスへ提供して活用したり,また,パブリッククラウドに蓄積されたデータをオンプレミスの業務アプリケーションへ取り込んで活用できるようにする技術である{同図(2)}。(3) プロセス統合オンプレミスの業務アプリケーションとパブリッククラウド上のサービスを連携させた業務プロセスの構築,さらに申請や承認といった人間の判断を必要とする作業を連携させた業務プロセスを構築することで業務全体の統制を実現する技術である{同図(3)}。今回開発したミドルウェアは,これらの統合技術を実装している。以降,ハイブリッドクラウドを実現するミドル

図-1 ハイブリッドクラウド統合技術Fig.1-Hybrid Cloud integration technology.

ま え が き

企業システムは,コア業務とノンコア業務を選別して,オンプレミス(サイロ型,プライベートクラウド型)と,パブリッククラウドで提供されるサービス(SaaS)を組み合わせた「ハイブリッドクラウド」形態へと進んでいる。ハイブリッドクラウド環境では,従来オンプレミスで構築・運用されていた各種業務システムが,オンプレミスとパブリッククラウドに分散配置されることになる。また,新たにパブリッククラウドで提供されるサービスを利用する際は,オンプレミスの既存業務処理と組み合わせた(連携させた)運用が必要となる。このような背景から,富士通はハイブリッドクラウドを実現するための機能を実装したミドルウェアを開発した。本稿では,ハイブリッドクラウドを実現するミドルウェアの技術,製品概要,今後の取組みについて述べる。

ハイブリッドクラウドを支える技術

ハイブリッドクラウド環境では,オンプレミスやパブリッククラウドに散在する業務システムやサービスのシームレスな連携が不可欠である。この連携を実現するためには,図-1に示すフロント

ま え が き

ハイブリッドクラウドを支える技術

[パブリッククラウド]

(2)データ統合

ERP APL1 APL2

SaaS2

Saa

S2

APL1

[オンプレミス]

SaaS1

APL2

操作画面

複数の操作画面を統合

業務データの相互活用

業務プロセスの構築・管理

(3)

ERP:統合業務パッケージAPL:アプリケーションソフトウェア

ERP

Saa

S1

インターネット

プロセス統合

(1)

フロント統合

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FUJITSU. 62, 1 (01, 2011)30

ハイブリッドクラウドの実現

ウェアの製品概要,利用シーン,機能概要について解説する。

フロント統合

Webフロントアプリケーションの構築・運用を支援する製品としてInterstage Interaction Manager(以下,IIM)を提供している。IIMは,Webアプリケーションの開発技法であるAjaxを利用して,従来のクライアント/サーバアプリケーションと同等の操作性の高いWebフロントアプリケーションを開発することができる。さらに,既存のWebフロントアプリケーションやSaaSアプリケーションを組み合わせた企業ポータルを構築することも可能である。これらの技術によって,Webフロントアプリケーションを利用する業務担当者の作業効率を飛躍的に向上させることを可能とした。● ハイブリッドクラウドにおける利用シーンハイブリッドクラウドでは,オンプレミスやパブリッククラウドの業務処理を組み合わせて操作を行うことが必要である。しかし,業務担当者が別々に作られた複数の業務アプリケーション画面を同時に表示させて業務を遂行することは面倒である。また,それぞれの画面の構成や操作性が異なるため非常に煩雑なものとなる。

IIMは,それぞれの操作画面から業務担当者が必要な部分だけを切り出して,一つの操作画面に統

フロント統合

合することが可能である。以下にフロント統合で利用される例として,商品受注システムの例(図-2)を紹介する。商品受注システムはパブリッククラウドの商談管理サービスを利用している。商品の受注処理は,パブリッククラウドの商談管理サービスとオンプレミスの商品管理システム,および生産管理システムを組み合わせて行う必要がある。そこで,それらの操作画面を組み合わせた商品受注処理画面を開発した。商品受注処理画面に表示される顧客名は商談管理システムから切り出し{同図(1)},商品詳細情報は商品管理システムから切り出す{同図(2)}。また,受注する商品の在庫数や生産計画は生産管理システムから切り出し{同図(3)},それぞれの切り出した画面を組み合わせた操作画面を開発した。業務担当者は,新たに開発された操作画面だけを意識すればよく,個々の業務アプリケーションやサービスの所在や存在を意識することなく業務を遂行できる。● フロント統合を実現するための機能

IIMは,それぞれの既存業務システムに手を加えることなく,オンプレミスの業務アプリケーションやパブリッククラウドのサービスの操作画面をそのまま活用できる仕組みとして,「マッシュアップ・フレームワーク」を提供している(図-3)。以下にこれらを構成する主な機能を紹介する。(1) スクレイピング操作画面の開発者は,IIMが提供する画面開発用のエディタ上に,業務アプリケーションやサービスの画面を表示させ,選択した範囲を画面情報としてXSLT形式で保存できる。また,単なるスクレイピングだけでなく,統合された操作画面を開発する際に,保存した画面情報を取り出して,操作画面上に自在にレイアウトすることが可能であり,使い勝手や好みに合わせた画面設計ができる。(2) 分散システムアクセス(アダプタ)様々な業務アプリケーションやサービスの操作画面から画面情報を取得するために,各種接続アダプタ(HTML,RESTなど)を装備している。また,画面情報の取得要求は,Webフロントアプリケーションに代わり,マッシュアップ・フレー

図-2 商品受注システムFig.2-Item order system.

パブリッククラウドオンプレミス

a111○○○b123△△△

商品詳細購入依頼

コード

品名

数量

顧客名

a111○○○b123△△△

在庫情報

受注業務

注文

Interstage Interaction Manager

生産管理

在庫

商談管理

顧客

商品管理

商品

(3)(2)(1)

入力

商品受注処理画面業務担当者

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FUJITSU. 62, 1 (01, 2011) 31

ハイブリッドクラウドの実現

ムワークが代行する。これにより,Webフロントアプリケーションが抱える画面取得の制約(異なるドメインのサーバからは画面取得できないクロスドメイン制約)を解消することができる。(3) シングルサインオン

LDAPやActive Directoryなどの認証サーバと連携し,ログオン処理を代行できる。これにより,操作画面への一度のIDおよびパスワード入力だけで,オンプレミスやパブリッククラウド上の複数システムへログインできる。

データ統合

データ統合を実現するシステムの構築・運用を支援する製品として,Interstage Information Integrator(以下,III)を提供している。IIIは,様々な業務システムからデータを収集・統合し,そのデー

データ統合

タを活用するシステムへ配付することができる。また,オンプレミスとパブリッククラウド間のデータ統合では,高信頼・高効率なデータ連携を実現している。● ハイブリッドクラウドにおける利用シーンハイブリッドクラウド環境においては,オンプレミスおよびパブリッククラウド間で相互に業務データを活用できる必要がある。

IIIでは,オンプレミスで管理されている秘匿性の高い業務データ(顧客マスタ,商品マスタなど)をパブリッククラウドに転送して活用したり,パブリッククラウドの業務データをオンプレミスに転送して活用できる仕組みを簡単に構築することができる。以下にデータ統合で利用される例として,営業支援および損益予実分析システムの例(図-4)を

図-3 IIMのマッシュアップ・フレームワークFig.3-Mash-up framework functions of IIM.

図-4 営業支援および損益予実分析システムFig.4-Sales force automation and analysis systems.

Interstage Interaction Manager

操作画面(Webフロントアプリケーション)

Ajax支社5月6月7月A支社95B支社8070

マッシュアップ・フレームワーク

サービス

HTML

REST

認証サーバ

代理ログオンシングルサインオン

スクレイピング アダプタ

Ajax支 社 5 月 6 月 7 月

A 支 社 9 5 1 0 0 9 0

B支 社 8 0 7 0 4 0

支 社 5 月 6 月 7 月

A 支 社 9 5 1 0 0 9 0

B支 社 8 0 7 0 4 0

InterstageInformationIntegrator

SFAコールセンター

パブリッククラウド

参照

更新

(1)

(2)

予算

見込み客

商談実績

顧客マスタ

渉外

オンプレミス

DWH

予実分析

基幹業務

営業担当者

部門責任者DWH:データウェアハウスSFA: 営業支援サービス

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ハイブリッドクラウドの実現

紹介する。これらのシステムは,パブリッククラウドの営業支援サービス(SFA)を利用している。サービスを利用する営業担当者は,オンプレミスで管理されている最新の顧客情報を参照して営業活動を行う{同図(1)}。また,部門責任者は営業担当者が入力した商談状況とオンプレミスで管理している予算や実績情報を突き合わせて予実分析を行う{同図(2)}。IIIを用いてオンプレミス(顧客情報)とパブリッククラウド(商談情報)の相互にデータを活用することができる。● データ統合を実現するための機能オンプレミスとパブリッククラウド間は通常インターネットで接続されるため,ネットワーク品質が不安定であったり,通信データ量に制約があったりする。IIIは,高信頼・高効率なデータ統合機能を提供することでこれらを解決している(図-5)。以下にデータ統合を実現するための機能を紹介する。(1) データ収集・配付業務システムの既存のデータ転送方法に合わせられるように,様々なアダプタ(各種ファイル転送,DB連携,パブリッククラウド連携など)を装備している。また,データ転送量を最小限にするために,収集対象システムの業務データの変更を検知し,変更された部分のみを配付先システムに転送することができる(差分転送)。さらに,業務システム間

でデータ転送を確実に同期させるために,送達確認や再送処理を自動で行う。(2) データ蓄積業務システムは,業務データの受渡し方法や受け渡す単位,受け渡すことができる時間帯がそれぞれ異なる。こうした運用の違いを吸収するために,業務データをいったんIIIに蓄積保存することができる。保存された業務データは,利用者側が必要なタイミングで必要な単位で取り出すことが可能である。(3) データ加工利用用途に合わせたデータ形式に変換するために,様々な加工機能(コード変換・ソート・マージ・四則演算・トリムなど)を装備している。また,取引データとマスタデータの突合せや,配付先ごとにデータを仕分けることができる。これらはオートマトン技術に基づいた複数マスタデータの同時突合せや,複数の仕分条件の一括判定により超高速処理を実現している。

プロセス統合

業務プロセスの構築・管理を行う製品として,Interstage Business Process Manager( 以 下,IBPM)を提供している。IBPMは,業務における受付・審査・承認などの人の作業と業務処理を業務プロセス化し,業務の見える化や効率化を実現する(図-6)。

プロセス統合

図-5 IIIのデータ統合機能Fig.5-Data Integration functions of III.

帳票出力経営分析・見える化

パブリッククラウド構築・運用画面

Interstage Information Integrator

業務

DB

オンプレミス

業務

DB

ファイルサービス

サービス

サービス

データ加工

データ収集・配付

データ蓄積

アップロードダウンロード

ファイル転送DB連携

格納

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ハイブリッドクラウドの実現

ロセス全体を一元管理できる{同図(1)}。また,実行履歴(いつ・誰が・何を)が自動採取されるため,部門管理者は,監視画面で業務の進捗確認,最適な業務担当者の割当てや業務プロセスの変更を指示することができる{同図(2)}。● プロセス統合を実現するための機能パブリッククラウドのフロント業務とオンプレミスの業務処理が分散されていても,これらを業務プロセスとして一元的に自動化・見える化することができる。さらに,業務プロセスのボトルネック問題などを早期に検知し,改善することもでき

● ハイブリッドクラウドにおける利用シーンフロント業務をパブリッククラウドで実行し,これに対応する業務処理をオンプレミスで実行するシステム形態がある。以下にプロセス統合で利用される例として,保険金支払い業務プロセスの例(図-7)を紹介する。受付・審査・承認などのフロント業務はパブリッククラウドのサービスを利用している。IBPMを利用することで,フロント業務処理の実行と連動してオンプレミスの業務処理が自動実行され,パブリッククラウドとオンプレミスにまたがる業務プ

図-6 IBPMによるプロセス統合Fig.6-Process integration by IBPM.

図-7 保険金支払い業務プロセスFig.7-Insurance payment process.

業務の見える化・業務の効率化

業務プロセス

人の作業

ITシステム

業務フロー

Interstage Business Process Manager

支払い

自動検証

審査

販売管理 生産管理 購買 会計物流

サービスバス

受付 承認

支払い処理

受付

審査B

審査A

自動検証 承認 支払い

支払申請(紙)

棄却

申請者

自動検証プログラム

支払申請(ファイル)

受付担当者 承認者審査担当者

パブリッククラウド

(1)

実行履歴・いつ・誰が・何を

(2)

監視画面

部門管理者

外部システム連携

Interstage Business Process Manager

支払業務(Webフロントアプリケーション)

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ハイブリッドクラウドの実現

(1) 超高速・高信頼データ通信オンプレミスとパブリッククラウドは,通常インターネットで接続されているため,ネットワーク品質が不安定である。今後,双方間のデータ転送が増大すると通信時間や信頼性保証が問題となるため,従来以上の転送効率を実現しつつデータ保証機構を備えたデータ転送技術が必要となる。(2) 情報漏えい対策パブリッククラウドでのコア業務利用が進むと,個人情報や機密情報を含む業務データをパブリッククラウドで利用することが増える。従来手法である暗号化やマスク処理により安全にパブリッククラウドへ持ち出す方法に加えて,リスク軽減のために業務データは企業内に置いたまま,パブリッククラウド側から活用できる機構も必要となる。これら技術については,現在,実用に向けて設計・検証中であり,次期バージョン以降での提供を計画している。

む  す  び

本稿では,ハイブリッドクラウドを実現するためのミドルウェアの統合技術を中心に紹介した。企業では,徹底したコスト削減や経営スピードアップを目的にパブリッククラウド利用のニーズが高まっている。また,パブリッククラウドの利用目的もノンコア業務から,コア業務へ広がってくることが予想できる。このようなICTシステムの変化に対応するために,今後もオンプレミスの業務システム構築・運用で培った技術を生かしつつ,最先端技術を取り入れたミドルウェアをタイムリに市場へ提供していきたい。

む  す  び

る。以下にこれらを実現する機能を紹介する。(1) プロセス管理現場のオペレーションをそのまま業務プロセス化するために,定型業務だけでなく,人間の判断を必要とする非定型業務も業務プロセスに組み込むことができる。例えば,承認の可否を複数承認者の多数決で決定することや,承認処理が一定時間滞留した場合に承認先をエスカレーションするといった人の判断を業務プロセスに組み込むことができる。(2) モニタリング業務プロセスの実行に必要と予想される日数を事前に設定し,その日数との乖

かい

離度合いを監視・計測することができる。これをもとにして,日数や数値など事前に設定した業務指標(KPI:Key Performance Indicator)からの逸脱が生じた場合には,自動的にアラートを通知することができる。(3) シミュレーション業務プロセスの改善効果をシミュレーションするために,業務プロセスの実行履歴から業務処理件数・作業時間・工数などの現状値が算出できる。また,これらのパラメータを使って,新たに設計した業務プロセスの改善効果を推定することができる。

今後の取組み

今後,パブリッククラウドの利用目的は,ノンコア業務から,コア業務へ広がってくることが予想でき,オンプレミスと同様の信頼性や安全性が求められてくる。富士通が取り組んでいる信頼性・安全性への対応について,ハイブリッドクラウドを実現するミドルウェアの観点から二つ紹介する。

今後の取組み

船橋幹雄(ふなはし みきお)

ミドルウェア事業本部データマネジメント・ミドルウェア事業部 所属現在,情報統合分野におけるデータ統合ミドルウェアの開発に従事。

吉川茂夫(よしかわ しげお)

ミドルウェア事業本部データマネジメント・ミドルウェア事業部 所属現在,ハイブリッドクラウド・ミドルウェアの開発に従事。

著 者 紹 介