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本研究は,平成26年度科学研究費補助金(若手研究B課題番号25780424)の交付を受けて実施された 知久昌史 1 石村郁夫 1 足立区スクールカウンセラー・ 東京成徳大学 ) キーワード:弱み、自己受容、自己への思いやり ●弱みは恥や自己批判と結びつきやすく, ○怒り(Tangney & Dearing, 2002) ○社会不安(Cox et al., 2000) ○気分障害(Gilbert & Miles, 2000) ○精神病理の脆弱因子(Gilbert & Proctor, 2006) ●弱みを含めた自己を受容することが自尊心を支えている(川 崎・小玉, 2010)とされているものの、 !これまで弱みの受容については、尺度の下位因子として報告さ れているのみ(村山ら, 1983;菱田, 2004) 【問題】 【結果と考察】 Mean ( SD ) Mean ( SD ) Mean ( SD ) 20.16 (6.00) 22.63 (4.98) 22.16 (5.20) 6.02 ** ①<②≒③ 17.39 (3.48) 20.01 (3.34) 20.67 (3.82) 10.30 ** ①<②≒③ 2.88 (0.85) 3.25 (0.69) 3.56 (0.64) 9.35 ** ①≒②<③ 2.92 (0.86) 3.26 (0.83) 3.59 (1.14) 8.54 ** ①<③ 2.62 (0.83) 3.29 (0.80) 3.17 (0.83) 9.28 ** ①<②≒③ 3.32 (1.06) 3.76 (0.88) 3.99 (1.07) 7.36 ** ①<②≒③ 3.28 (0.89) 3.59 (0.76) 3.47 (0.77) 1.49 n.s. 2.38 (1.02) 2.86 (1.05) 2.88 (1.20) 2.63 n.s. 13.68 (5.16) 11.47 (4.48) 11.26 (4.48) 4.84 * ①>③ 6.58 (2.73) 5.53 (2.46) 5.42 (2.41) 2.02 n.s. 7.53 (2.70) 7.16 (2.59) 7.47 (3.50) 0.13 n.s. 5.42 (2.36) 4.74 (1.63) 4.89 (2.49) 0.94 n.s. 5.89 (2.26) 5.00 (2.05) 5.00 (2.00) 2.13 n.s. 26.42 (6.97) 21.63 (6.01) 22.47 (6.76) 15.17 ** ①>②≒③ 22.05 (4.52) 23.47 (4.30) 22.84 (4.09) 1.36 n.s. 11.74 (4.42) 11.00 (4.53) 11.16 (4.54) 0.96 n.s. 11.32 (3.13) 9.21 (2.84) 8.63 (3.40) 9.69 ** ①>②≒③ 11.84 (3.79) 9.68 (3.40) 10.37 (3.67) 5.34 * ①>② 42.74 (8.79) 38.84 (9.15) 40.53 (8.36) 4.56 * ①>② 自己批判 Table1 3時点毎の自己受容,自己への思いやり,恥,失敗観,認知,抑うつに関する一要因分散分析表 得点 F値 多重比較 ①介入前 ②介入後 ③フォローアップ 変数 F (2,36) = 自己受容尺度 自己への思いやり尺度 自分への優しさ **p <.01, *p <.05, n.s. p >.10 失敗からの学習可能性 多次元完全主義認知尺度 高目標設置 完全性追求 ミスへのとらわれ SDS 失敗のネガティブ感情価 人としての共通体験 孤立 自己否定感 基本的恥 自責的萎縮感 いたたまれなさ 失敗観尺度 マインドフルネス 過度の一致 恥の下位情緒尺度 混乱的恐怖 調査内容①~⑥の下位尺度を 従属変数、時期(事前・事後・ フォローアップ)を独立変数と した一要因分散分析を行った。 自己受容、自己への思いや りが高まり、恥、失敗によ るネガティブな感情、完全 性を求める心性、ミスへの とらわれ、抑うつが低減し 。また、持続効果も見られ ており、本プログラムの有効 性が示唆された。 【方法】 研究協力者 大学生・大学院生19名 男性8名 女性11名 (平均年齢21.9±4.93歳) 手続き 2013年12月~2014年2月に研究協力者に対して、研究協力の同意を得たうえで、2週間の筆記形式のプログラムを実施した。 1週目は自己理解を目的とした心理教育を施し、2週目は弱みの受容を促すことを目的とした日記形式の課題を行うよう求めた。介入 前・介入後・フォローアップの3時点で質問紙調査を実施した。なお、本研究は東京成徳大学大学院心理学研究科倫理委員会の承認を得 て実施された。 調査内容 ①心理的well-being尺度(西田, 2000)の“自己受容”因子 7項目5件法 ②自己への思いやり尺度(宮川・新谷, 2013) 23項目5件法 ③恥の下位情緒尺度(樋口, 2000) 23項目4件法 ④失敗観尺度(池田・三沢, 2012)より “失敗のネガティブ感情価”、“失敗からの学習可能性”2因子 13項目5件法 ⑤多次元的完全主義認知尺度(小堀・丹野, 2004) 15項目4件法 ⑥SDS邦訳版(福田・小林, 1973) 20項目4件法 フォロー アップ 質問紙 介入後 質問紙 介入前 質問紙 2W 2W 筆記プログラム介入 心理教育・自己 認識課題(7Part) 1W 日記課題 (1Part) 1W WEEK1 Part1 “寛容への始まり”-プログラムの導入、自己への思いやりの効果 Part2 “弱みに気づく”-弱みを同定、弱みのもたらす心理的効果 Part3 “Brown先生の研究”-Brownの講演動画の視聴 Part4 “恥と罪悪感”-恥と罪悪感の違い、恥がもたらす心理的効果 Part5 “完璧であること”-完璧主義の定義、失敗に対する価値観 Part6 “3つのこころのシステム”-3つの感情制御システム Part7 “思いやりの気持ち”-自己への思いやり(Neff,2003)の提示 WEEK2 Part8 “寛容な友人からの手紙”-出来事の記述、思いやりの言葉がけ プログラムの構成 本研究では、弱みと関連する恥・自己批判の低減に効果的な自己 への思いやり(Neff, 2003)を高める認知療法の枠組みを用いて、 本邦初の弱みに寛容になることを主眼とした筆記プログラム の効果を検証することを目的にした【目的】 【日本人の性格特徴として】 ①失敗の帰属先になりやすい特性や側面(池田・三沢, 2012) ②他者との比較の中で生じる劣性(高田, 2008) ③理想自己から評価し,否定的に捉えられた特性(遠藤, 1992) 人には自己にとって不満となる特性や欠点,弱 点である“弱み”がある ●臨床心理学において、長年、あるがままの自己を受け入れ る“自己受容”が重要視されてきた。 ●否定的に評価される具体的特徴を含んだ自己に対しても, メタレベルでの受容的で肯定的な認知を持つことこそ自己受 容とする指摘(上田, 1996)もあり、自己受容は否定的側面に おいても求められるものである。 などと関連

+¬ kGFþ îFÔG G { Ø 17.39 (3.48) 20.01 (3.34) 20.67 (3.82 ......WEEK1 Part1 “寛容への始まり”-プログラムの導入、自己への思いやりの効果 Part2 “弱みに気づく”-弱みを同定、弱みのもたらす心理的効果

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Page 1: +¬ kGFþ îFÔG G { Ø 17.39 (3.48) 20.01 (3.34) 20.67 (3.82 ......WEEK1 Part1 “寛容への始まり”-プログラムの導入、自己への思いやりの効果 Part2 “弱みに気づく”-弱みを同定、弱みのもたらす心理的効果

本研究は,平成26年度科学研究費補助金(若手研究B課題番号25780424)の交付を受けて実施された

知久昌史1 ・ 石村郁夫

( 1足立区スクールカウンセラー・

2東京成徳大学 )

キーワード:弱み、自己受容、自己への思いやり

●弱みは恥や自己批判と結びつきやすく, ○怒り(Tangney & Dearing, 2002) ○社会不安(Cox et al., 2000) ○気分障害(Gilbert & Miles, 2000) ○精神病理の脆弱因子(Gilbert & Proctor, 2006) ●弱みを含めた自己を受容することが自尊心を支えている(川 崎・小玉, 2010)とされているものの、 !これまで弱みの受容については、尺度の下位因子として報告されているのみ(村山ら, 1983;菱田, 2004)

【問題】

【結果と考察】

Mean (SD ) Mean (SD ) Mean (SD )20.16 (6.00) 22.63 (4.98) 22.16 (5.20) 6.02 ** ①<②≒③

17.39 (3.48) 20.01 (3.34) 20.67 (3.82) 10.30 ** ①<②≒③

2.88 (0.85) 3.25 (0.69) 3.56 (0.64) 9.35 ** ①≒②<③

2.92 (0.86) 3.26 (0.83) 3.59 (1.14) 8.54 ** ①<③

2.62 (0.83) 3.29 (0.80) 3.17 (0.83) 9.28 ** ①<②≒③

3.32 (1.06) 3.76 (0.88) 3.99 (1.07) 7.36 ** ①<②≒③

3.28 (0.89) 3.59 (0.76) 3.47 (0.77) 1.49 n.s.

2.38 (1.02) 2.86 (1.05) 2.88 (1.20) 2.63 n.s.

13.68 (5.16) 11.47 (4.48) 11.26 (4.48) 4.84 * ①>③

6.58 (2.73) 5.53 (2.46) 5.42 (2.41) 2.02 n.s.

7.53 (2.70) 7.16 (2.59) 7.47 (3.50) 0.13 n.s.

5.42 (2.36) 4.74 (1.63) 4.89 (2.49) 0.94 n.s.

5.89 (2.26) 5.00 (2.05) 5.00 (2.00) 2.13 n.s.

26.42 (6.97) 21.63 (6.01) 22.47 (6.76) 15.17 ** ①>②≒③

22.05 (4.52) 23.47 (4.30) 22.84 (4.09) 1.36 n.s.

11.74 (4.42) 11.00 (4.53) 11.16 (4.54) 0.96 n.s.

11.32 (3.13) 9.21 (2.84) 8.63 (3.40) 9.69 ** ①>②≒③

11.84 (3.79) 9.68 (3.40) 10.37 (3.67) 5.34 * ①>②

42.74 (8.79) 38.84 (9.15) 40.53 (8.36) 4.56 * ①>②

 自己批判

Table1 3時点毎の自己受容,自己への思いやり,恥,失敗観,認知,抑うつに関する一要因分散分析表得点

F値 多重比較①介入前 ②介入後 ③フォローアップ

変数 F (2,36) =自己受容尺度自己への思いやり尺度 自分への優しさ

**p <.01, *p <.05, n.s. p >.10

 失敗からの学習可能性多次元完全主義認知尺度 高目標設置 完全性追求 ミスへのとらわれSDS

 失敗のネガティブ感情価

 人としての共通体験 孤立

 自己否定感 基本的恥 自責的萎縮感 いたたまれなさ失敗観尺度

 マインドフルネス 過度の一致恥の下位情緒尺度 混乱的恐怖

調査内容①~⑥の下位尺度を従属変数、時期(事前・事後・フォローアップ)を独立変数とした一要因分散分析を行った。

自己受容、自己への思いやりが高まり、恥、失敗によるネガティブな感情、完全性を求める心性、ミスへのとらわれ、抑うつが低減した。また、持続効果も見られており、本プログラムの有効性が示唆された。

【方法】

研究協力者 大学生・大学院生19名 男性8名 女性11名 (平均年齢21.9±4.93歳) 手続き 2013年12月~2014年2月に研究協力者に対して、研究協力の同意を得たうえで、2週間の筆記形式のプログラムを実施した。 1週目は自己理解を目的とした心理教育を施し、2週目は弱みの受容を促すことを目的とした日記形式の課題を行うよう求めた。介入前・介入後・フォローアップの3時点で質問紙調査を実施した。なお、本研究は東京成徳大学大学院心理学研究科倫理委員会の承認を得て実施された。

調査内容 ①心理的well-being尺度(西田, 2000)の“自己受容”因子 7項目5件法 ②自己への思いやり尺度(宮川・新谷, 2013) 23項目5件法 ③恥の下位情緒尺度(樋口, 2000) 23項目4件法 ④失敗観尺度(池田・三沢, 2012)より “失敗のネガティブ感情価”、“失敗からの学習可能性”2因子 13項目5件法 ⑤多次元的完全主義認知尺度(小堀・丹野, 2004) 15項目4件法 ⑥SDS邦訳版(福田・小林, 1973) 20項目4件法

フォローアップ 質問紙

介入後 質問紙

介入前 質問紙

2W 2W

筆記プログラム介入

心理教育・自己 認識課題(7Part)

1W

日記課題 (1Part)

1W

WEEK1 Part1 “寛容への始まり”-プログラムの導入、自己への思いやりの効果 Part2 “弱みに気づく”-弱みを同定、弱みのもたらす心理的効果 Part3 “Brown先生の研究”-Brownの講演動画の視聴 Part4 “恥と罪悪感”-恥と罪悪感の違い、恥がもたらす心理的効果 Part5 “完璧であること”-完璧主義の定義、失敗に対する価値観 Part6 “3つのこころのシステム”-3つの感情制御システム Part7 “思いやりの気持ち”-自己への思いやり(Neff,2003)の提示 WEEK2 Part8 “寛容な友人からの手紙”-出来事の記述、思いやりの言葉がけ

プログラムの構成

本研究では、弱みと関連する恥・自己批判の低減に効果的な自己への思いやり(Neff, 2003)を高める認知療法の枠組みを用いて、本邦初の弱みに寛容になることを主眼とした筆記プログラムの効果を検証することを目的にした。

【目的】

【日本人の性格特徴として】 ①失敗の帰属先になりやすい特性や側面(池田・三沢, 2012) ②他者との比較の中で生じる劣性(高田, 2008) ③理想自己から評価し,否定的に捉えられた特性(遠藤, 1992)

人には自己にとって不満となる特性や欠点,弱点である“弱み”がある

●臨床心理学において、長年、あるがままの自己を受け入れる“自己受容”が重要視されてきた。 ●否定的に評価される具体的特徴を含んだ自己に対しても,メタレベルでの受容的で肯定的な認知を持つことこそ自己受容とする指摘(上田, 1996)もあり、自己受容は否定的側面においても求められるものである。

などと関連