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20 「グローバル化に対応した英語教育改革実 施計画」の発表 文部科学省は初等中等教育段階からのグ ローバル化に対応した教育環境作りを進めるた め,小・中・高等学校を通じた英語教育改革 を計画的に進めるための「グローバル化に対応 した英語教育改革実施計画」(以下,「実施計 画」とのみ記す)を 2013 12 13 日に公表 した。この実施計画には本誌 122 号でも紹介し た「中学校の英語授業を原則として英語で行 う」という方針もそのまま盛り込まれている。 2013 9 8 日に 2020 年夏のオリンピッ クの開催地が東京に決定したというニュース が伝わり,日本全国が歓喜の渦に包まれたが, この実施計画にも「2020 年の東京オリン ピック・パラリンピックを見据え,新たな英 語教育が本格展開できるように,本計画に基 づき体制整備等を含め 2014 年度から逐次改 革を推進する」(下線は本稿のもの)と明記 されている。英語教育改革を強力に推し進め たい現政権にとってはこの上とない追い風と なった。このように明確に設定されたゴール を目指して我が国の英語教育改革は今後,加 速度的に進む気配である。 以下では実施計画に示された「グローバル 化に対応した新たな英語教育の在り方」およ び「新たな英語教育の在り方実現のための体 制整備(平成 26 年度から強力に推進)」につ いて概要を示す。 ◆小学校高学年より英語を教科化する 小学校 3-4 年生における英語教育は「活動 型」とし,週 1 2 コマ程度,学級担任を中 心に指導がなされる。「英語を用いてコミュ ニケーションを図る楽しさを体験することで, コミュニケーション能力の素地を養う」こと が目標とされており,これはまさに現行の学 習指導要領の下,小学校高学年で必修として 行われている「外国語活動」そのものである。 小学校 5-6 年生では週 3 コマ程度,「教科」 として実施することを想定している。専科教 員を積極的に活用し,「読むことや書くこと も含めた初歩的な英語の運用能力を養う」こ とが目標として挙げられており,現在中学校 で行われている英語のスキルの養成を,2 前倒しで小学校高学年段階から開始すること になりそうだ。 ◆中学校の英語の授業は英語で行う 先に述べた通り,中学校においては授業を 英語で行うことを基本とし,内容に踏み込ん だ言語活動を重視することで,「身近な事柄 を中心に,コミュニケーションを図ることが できる能力を養う」目標の達成を見込んでい る。高校では 2013 年度施行の学習指導要領 に基づいて「英語の授業は英語で行う」こと がすでに開始されているが,実施計画では中 学においても授業を実際のコミュニケーショ ンの場面とするための重要な方策として示さ れることとなった。 ◆高校では発表や討論などを重視する 高校での目標は「英語を通じて情報や考え などを的確に理解したり適切に伝えたりする コミュニケーション能力を養う」こととされ ている。授業を英語で行うのみならず,「発 表,討論,交渉等」の高度な言語活動を行う ことまでも求められている。

心に指導がなされる。「英語を用いてコミュ L o.123 21 実現のための体制を整備する 上記に示した新たな英語教育の在り方を実 現するための体制整備としては,小・中・高

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「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」の発表

文部科学省は初等中等教育段階からのグローバル化に対応した教育環境作りを進めるため,小・中・高等学校を通じた英語教育改革を計画的に進めるための「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」(以下,「実施計画」とのみ記す)を 2013 年 12 月 13 日に公表した。この実施計画には本誌 122 号でも紹介した「中学校の英語授業を原則として英語で行う」という方針もそのまま盛り込まれている。

2013 年 9 月 8 日に 2020 年夏のオリンピックの開催地が東京に決定したというニュースが伝わり,日本全国が歓喜の渦に包まれたが,この実施計画にも「2020 年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え,新たな英語教育が本格展開できるように,本計画に基づき体制整備等を含め 2014 年度から逐次改革を推進する」(下線は本稿のもの)と明記されている。英語教育改革を強力に推し進めたい現政権にとってはこの上とない追い風となった。このように明確に設定されたゴールを目指して我が国の英語教育改革は今後,加速度的に進む気配である。

以下では実施計画に示された「グローバル化に対応した新たな英語教育の在り方」および「新たな英語教育の在り方実現のための体制整備(平成 26 年度から強力に推進)」について概要を示す。

◆小学校高学年より英語を教科化する小学校 3-4 年生における英語教育は「活動

型」とし,週 1 ~ 2 コマ程度,学級担任を中

心に指導がなされる。「英語を用いてコミュニケーションを図る楽しさを体験することで,コミュニケーション能力の素地を養う」ことが目標とされており,これはまさに現行の学習指導要領の下,小学校高学年で必修として行われている「外国語活動」そのものである。

小学校 5-6 年生では週 3 コマ程度,「教科」として実施することを想定している。専科教員を積極的に活用し,「読むことや書くことも含めた初歩的な英語の運用能力を養う」ことが目標として挙げられており,現在中学校で行われている英語のスキルの養成を,2 年前倒しで小学校高学年段階から開始することになりそうだ。

◆中学校の英語の授業は英語で行う先に述べた通り,中学校においては授業を

英語で行うことを基本とし,内容に踏み込んだ言語活動を重視することで,「身近な事柄を中心に,コミュニケーションを図ることができる能力を養う」目標の達成を見込んでいる。高校では 2013 年度施行の学習指導要領に基づいて「英語の授業は英語で行う」ことがすでに開始されているが,実施計画では中学においても授業を実際のコミュニケーションの場面とするための重要な方策として示されることとなった。

◆高校では発表や討論などを重視する高校での目標は「英語を通じて情報や考え

などを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を養う」こととされている。授業を英語で行うのみならず,「発表,討論,交渉等」の高度な言語活動を行うことまでも求められている。

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Page 2: 心に指導がなされる。「英語を用いてコミュ L o.123 21 実現のための体制を整備する 上記に示した新たな英語教育の在り方を実 現するための体制整備としては,小・中・高

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◆実現のための体制を整備する上記に示した新たな英語教育の在り方を実

現するための体制整備としては,小・中・高それぞれにおいて研修を強化することが挙げられている。具体的施策例としては国による

「中・高等学校英語教育推進リーダー養成研修」や県等による「中・高等学校英語教員指導力向上研修」などがある。また,「全ての英語科教員について,英検準 1 級,TOEFL iBT 80 点程度等以上の英語力を確保」するため,県等ごとの教員の英語力の達成状況を定期的に検証することも視野に入れている。

このほか,JET や民間の ALT 等の外部人材のさらなる活用促進,小学校英語の教科化のための指導用教材等の開発,教員養成課程・採用の改善充実といった施策も挙げられ,こういった指導体制整備がまさに今年度から

「強力に推進」される見通しである。

「英語教育の在り方に関する有識者会議」における検討の開始

文部科学省は上記の実施計画の具体化に向けて,専門的な見地から検討を行うため,

「英語教育の在り方に関する有識者会議」(以下,「会議」とのみ記す)を 2014 年 2 月 4 日に設置した。この会議では,英語教育に関する現状の成果と課題を踏まえながら,(1)教育目標・内容の在り方,(2)指導と評価の在り方,(3)教科書・教材の在り方,(4)指導体制の在り方,という 4 つの論点に関して,順次検討を行っていく。座長は上智大学教授の吉田研作氏で,委員としては明海大学教授の大津由紀雄氏,岐阜県教育委員会教育長の松川禮子氏,立教大学教授の松本茂氏,楽天

の三木谷社長らがいる(肩書きは 2014 年 2月時点のもの)。会議は本稿を執筆している時点において,すでに 2 回(2014 年 2 月および 3 月)開催されており,先に紹介した

「実施計画」の資料を含むこれまでの配布資料等は下記 URL から閲覧できる。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/giji_list/index.htm

◆中学校における「英語教育の成果と課題への対応」について第 2 回会議での配布資料「現行の英語教育

の成果と課題への対応」で記載されている中学校関連のものを抜粋して紹介する。

【現状】積極的にコミュニケーションを図る態度の育成と 4 技能の育成を進めることを目標とし,中学校の授業時数を増やした。

【その成果の例】中学生の聞く力が高まったとの指摘がある。

【課題】文法解説や訳読が中心の指導や,相手の意向を理解して自分の考えを分かりやすく伝えるといった活動が不十分な面が一部に見られる。また,中学校において,小学校の外国語活動を踏まえた指導が不十分である。

【課題への対応(新たな英語教育の実現)】「英語を用いて何ができるか」という学習到達目標の考え方を取り入れ,これに対応して4 技能を指導・評価する。中学校は,授業を実際のコミュニケーションの場面とするため,英語で行うことを基本とする。

体制整備を「強力に推進」するとされた今年度はすでにスタートしている。今後の動向を注視する必要がある。

高山 芳樹東京学芸大学教授

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