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中・高生のためのコンコーダンス・ラインを利用した データ駆動型英語学習教材の開発の試み 西垣知佳子 1) 天野孝太郎 2) 吉森智大 3) 中條清美 3) 1) 千葉大学・教育学部 2) 千葉大学大学院・教育学研究科・修士課程 3) 鹿児島県立出水商業高等学校 4) 日本大学・生産工学部 Exploring DDL Concordancing in the Junior and Senior High School Classroom NISHIGAKI Chikako 1) AMANO Kotaro 2) YOSHIMORI Tomohiro 3) CHUJO Kiyomi 4) 1) Faculty of Education, Chiba University 2) Graduate School of Chiba University 3) Kagoshima Prefectural Izumi High School 4) College of Industrial Technology, Nihon University 近年,英文データベースであるコーパスと検索ソフトを組み合わせて,学習者自身が言語データを検索・観察して 行うデータ駆動型学習(data-driven learning:DDL)の効果が注目されている。一方でDDLは初級学習者への活用 は難しいという指摘がある。その理由は,1)学習者の英語力が未発達で学習者による言語データの分析が難しい, 2)検索される英文の難易度が高く,データ量が多い,3)いつでもコンピュータを利用できるわけではなく,検索 ソフトの操作にも慣れる必要があるというものである。本研究では,DDLを中・高生学習者の指導に活用するため に,独自に作成した日本・中国・韓国・台湾英語教科書コーパスを利用して,学習者の英語力レベルにあったコーパ スを用い,さらに中・高生のためのDDLワークシートを開発して,中・高の通常授業でのDDLの導入を試みた。3 回の指導実践の結果,中・高の授業にDDLによる語彙・文法指導を導入することが可能であることが確認された。 Studies have shown that DDL, exploring a corpus or database of language with concordancing software, is effec- tive for language learning. In spite of many potential benefits, however, some researchers urge caution in its appli- cation to beginner-level learners because(a)a limited vocabulary and knowledge of grammar is insufficient for recognizing or making sense of language patterns,(b)the authentic target language data in corpora are likely to be overwhelming in both volume and complexity, and(c)the need for computers can be a roadblock in accessibil- ity andor understanding of usage. To address these concerns and to expand the application of DDL, in this study we developed text analysis learning material for beginner-level junior and senior high school students. First, a cor- pus was created from English school textbooks used in Japan, Korea, China, and the Republic of China(Taiwan) so that the target language appearing in the concordancing lines would be more appropriate to the learners’ lan- guage level. Second, we created paper-based learning material to be used in the classroom so that instructors and students would not have the added burden of learning to use the computer and software, andor for classrooms without computer access. This material was used for junior high school students and senior high school students in Japan, and the effectiveness of the material and instruction was measured. The results gained from pre- and post-tests will be used for the continued development of DDL material for beginner-level learners. キーワード:データ駆動型学習(data-driven learning:DDL) コンコーダンス・ライン(concordance line) コーパス(corpus) 1.研究の背景 1.1 学習指導要領 2008年と2009年に中学校と高等学校の新しい学習指導 要領が告示された。今回の改訂では,1970年代後半の学 習指導要領に始まる「ゆとり教育」からの転換が明確に され,中学校では,外国語(英語)の授業時数が「週3 時間」から「週4時間」となる。それに伴い,指導する 語数が,中学校では現行の900語から1,200語へと,高校 では1,300語から1,800語程度へと増加し,中・高の合計 で3,000語(1,200語+1,800語)となる。1951年告示の 学習指導要領(当時は試案として発表された)から,一 貫して減少してきた指導語彙の語数が(伊村,2003), 今回初めて増加に転じた。 文法事項に関しては,中学校では指導内容はほとんど 変化していないが,これまで「理解の段階にとどめる」 とされていたいわゆる「はどめ規定」の記述が改められ, 連絡先著者: 千葉大学教育学部研究紀要 第59巻 235~240頁(2011) 235

中・高生のためのコンコーダンス・ラインを利用した データ ...opac.ll.chiba-u.jp › da › curator › 900067228 › 13482084_59_235.pdf · スを用い,さらに中・高生のためのddlワークシートを開発して,中・高の通常授業でのddlの導入を試みた。3

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中・高生のためのコンコーダンス・ラインを利用したデータ駆動型英語学習教材の開発の試み

西垣知佳子1) 天野孝太郎2) 吉森智大3) 中條清美3)

1)千葉大学・教育学部 2)千葉大学大学院・教育学研究科・修士課程3)鹿児島県立出水商業高等学校 4)日本大学・生産工学部

Exploring DDL Concordancing in the Junior and Senior High School Classroom

NISHIGAKI Chikako1) AMANO Kotaro2) YOSHIMORI Tomohiro3) CHUJO Kiyomi4)1)Faculty of Education, Chiba University 2)Graduate School of Chiba University

3)Kagoshima Prefectural Izumi High School 4)College of Industrial Technology, Nihon University

近年,英文データベースであるコーパスと検索ソフトを組み合わせて,学習者自身が言語データを検索・観察して行うデータ駆動型学習(data-driven learning:DDL)の効果が注目されている。一方でDDLは初級学習者への活用は難しいという指摘がある。その理由は,1)学習者の英語力が未発達で学習者による言語データの分析が難しい,2)検索される英文の難易度が高く,データ量が多い,3)いつでもコンピュータを利用できるわけではなく,検索ソフトの操作にも慣れる必要があるというものである。本研究では,DDLを中・高生学習者の指導に活用するために,独自に作成した日本・中国・韓国・台湾英語教科書コーパスを利用して,学習者の英語力レベルにあったコーパスを用い,さらに中・高生のためのDDLワークシートを開発して,中・高の通常授業でのDDLの導入を試みた。3回の指導実践の結果,中・高の授業にDDLによる語彙・文法指導を導入することが可能であることが確認された。

Studies have shown that DDL, exploring a corpus or database of language with concordancing software, is effec-tive for language learning. In spite of many potential benefits, however, some researchers urge caution in its appli-cation to beginner-level learners because(a)a limited vocabulary and knowledge of grammar is insufficient forrecognizing or making sense of language patterns,(b)the authentic target language data in corpora are likely tobe overwhelming in both volume and complexity, and(c)the need for computers can be a roadblock in accessibil-ity and/or understanding of usage. To address these concerns and to expand the application of DDL, in this studywe developed text analysis learning material for beginner-level junior and senior high school students. First, a cor-pus was created from English school textbooks used in Japan, Korea, China, and the Republic of China(Taiwan)so that the target language appearing in the concordancing lines would be more appropriate to the learners’lan-guage level. Second, we created paper-based learning material to be used in the classroom so that instructors andstudents would not have the added burden of learning to use the computer and software, and/or for classroomswithout computer access. This material was used for junior high school students and senior high school studentsin Japan, and the effectiveness of the material and instruction was measured. The results gained from pre- andpost-tests will be used for the continued development of DDL material for beginner-level learners.

キーワード:データ駆動型学習(data-driven learning:DDL) コンコーダンス・ライン(concordance line)コーパス(corpus)

1.研究の背景

1.1 学習指導要領2008年と2009年に中学校と高等学校の新しい学習指導要領が告示された。今回の改訂では,1970年代後半の学習指導要領に始まる「ゆとり教育」からの転換が明確に

され,中学校では,外国語(英語)の授業時数が「週3時間」から「週4時間」となる。それに伴い,指導する語数が,中学校では現行の900語から1,200語へと,高校では1,300語から1,800語程度へと増加し,中・高の合計で3,000語(1,200語+1,800語)となる。1951年告示の学習指導要領(当時は試案として発表された)から,一貫して減少してきた指導語彙の語数が(伊村,2003),今回初めて増加に転じた。文法事項に関しては,中学校では指導内容はほとんど

変化していないが,これまで「理解の段階にとどめる」とされていたいわゆる「はどめ規定」の記述が改められ,

連絡先著者:

千葉大学教育学部研究紀要 第59巻 235~240頁(2011)

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図1 コンコーダンス・ラインの例

創意工夫を活かした特色ある授業を実施できることが明確にされた。このように,今回の改定ではコミュニケーション能力の基礎となる語彙力・文法力強化の傾向が明確にされている(文部科学省,2008,2009)。語彙の学習において繰り返しは重要である(Nation,

2001)。加えて村野井(2006)は,深い情報処理を,回数を重ねて行うことの重要性を指摘している。語彙に限らず,言語の習得には繰り返しは不可欠であり,新しい学習指導要領では,増えた授業時間を利用して既習内容を繰り返して指導して定着を図り,学習の深まりを目指すことが示されている。

1.2 教科書の現状教室の外では,英語に触れたり使ったりする機会のほ

とんどない我が国のような英語学習環境では,教科書は言語習得のための重要なインプット源である(石川,2008)。また,語彙の習得は一度学べばそれで完了するという性質のものではなく,異なる文脈で繰り返し学ぶことで徐々に知識を深めていくものである(Cameron,2001)。したがって教科書を通してどの程度の繰り返しが見込めるかについては,言語習得の観点から関心のあるところである。中條・西垣・長谷川・内山(2008)では,1988年度と

2006年度に使用された高校教科書をそれぞれ100冊と95冊収集して「1語の反復回数」を調査している。その結果,1988年度の教科書と2006年度の教科書では反復回数が11.4回から8.7回に減少していること,一方,1回だけ出現する頻度1の語の比率は38.6%から42.6%に増加していることが判明した。また中学校教科書についても同様の繰り返しの減少傾向が確認されている(長谷川・中條:2004)。実際に語彙に関しては,筆者らが,採択数の最も多い

中学校英語教科書を使って教科書の本文中に出現するimportant の出現回数を調査したところ,2回のみであった。また文法事項に関しては,中学校教科書では,各課にひとつのターゲット構文が置かれることが多いが,ターゲット構文がその課の本文に出現するのは,多くて2回程度で,1回しか出現しないことも多かった。以上述べたように教科書中において学習項目の繰り返

しが少ない状況にあっては,学習内容の高い定着や知識の深化を期待するには限界があり,出現回数の少なさを補う何らかの方策が必要であると考える。

1.3 コーパスの普及とDDLコンピュータによる検索が可能な大量の言語データは

コーパスと呼ばれ,コンピュータを利用して言語分析を行うコーパス言語学が発達してきた。コーパスは従来,言語学者によって「言語研究」の目的で利用されてきたが,近年,コーパスを「言語教育」に活用しようという試みが活発になっている。コーパス利用の言語学習では,文脈の中央にターゲッ

ト語を置き,その左右に前後の文脈を示すコンコーダンス・ラインを使う(図1)。コンコーダンス・ラインは語の使い方を示す実例そのものであり,学習者自身が言語データを観察して,文法規則や語の意味,用法を発見

して学ぶ帰納的な学習法が行われる。こうした学習法はデータ駆動型学習(data-driven learning:DDL)と呼ばれる学習者中心の指導法である。

コンコーダンス・ラインを利用したDDL学習の利点としては,1)学習者中心の学習法であり,単語の意味や用法の規則を学習者自らが発見する助けとなること,2)オーセンティックなインプットが得られること,3)言語に関する学習者の気づきを促進することがあげられる(Allan,2009)。教師が文法ルールや語彙の用法を説明して教え込む,いわゆる文法訳読式と言われるような伝統的な演繹的学習法とは異なり,DDLでは帰納的学習によって,「気づき」が導かれ,深い情報処理をともなった学習活動が行われる。田尻(2009)は,説明されるだけの授業では,生徒は

ほとんど何もできるようにならないことを指摘し,説明されたことよりも自分で気づいたことの方が記憶に残ると述べている。また,樋口・緑川・高橋(2007)は,場面や文脈から新しい構造や規則に気づかせることが英語指導では重要であると言っている。こうしたDDLの効果が注目を集め,コーパスを使った実践例が近年増えている(Sun and Wang,2003;Hafner and Candin,2007;梅咲,2008;Granath,2009;中條・内堀・西垣・宮崎,2009;西垣・中條・木島,2010)。

1.4 DDLの問題点利用の広がるDDLであるが,その学習効果は上級者

には認められるが,初・中級者に対しては適用が難しいという指摘もある(Hunston,2002; O’Keeffe, McCarthyand Carter,2007)。初級者へのDDLの応用が困難な理由として,能登原

(2009)は,初級・中級の学習者は言語観が未発達であること,指導なしに多くの英語の事例に触れても自力で言語パターンを発見して抽象化するのは困難であることをあげている。また,多くのコーパスが成人母語話者の書きことばに

基づいて作成されることが多いために,日本人英語学習者には英文自体の難易度が高すぎるという問題もある(中條・内堀・西垣・宮崎,2009)。また検索用のソフトを使用するので,教師も学習者も機器の操作に慣れるのに時間がかかるという問題もある(Braun,2005;西

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垣・中條・木島,2010)。さらに,実用性の問題として,学校現場では英語の授

業に必ずしも自由にコンピュータを使えるわけでないという実情もある。こうした理由から,日本におけるDDL指導はおもに大学の英語授業で行われていて,中学・高校の授業での利用例はほとんど見られない。以上のことから,DDLは学習者中心の帰納的学習法

を可能にする言語教育方法として期待されるものの,教室で,初級者を対象にDDLを取り入れることは容易ではないことがわかる。そこで本研究は,1)DDLを中・高生の英語指導に導入するための教材を試作する,2)試作教材を使って中学校と高校で授業を行い,その効果を検証することを目的として行われた。

2.初級者学習者用DDL教材の作成

2.1 DDLの問題点の解決中・高生用DDL教材の開発にあたっては,1.4で明

らかになった問題点を次のような方法で解決するようにした。1)英文教材の難易度の問題英語学習には学習者の英語レベルに合致したレベルの

教材が必要である。入手可能なコーパスの中には,中・高生に適切なレベルのコーパスが見当たらなかったことから,千葉大学教育学部西垣研究室で独自に作成して保有している日本・中国・韓国・台湾の中・高英語検定教科書コーパスを検索用の言語資料として利用してDDL教材を開発することとした。学校教科書は,学習者のレベルを考慮して作成されており,学習者の興味・関心にも配慮されていることから,初級者用の言語資料として適していると考える。2)検索ソフトの操作と機器不足の問題機器の不足や検索ソフトの操作の問題を解決するため

に,本研究では,コンピュータの検索画面を掲載した印刷教材を利用してDDL指導を行うこととした。コンピュータ利用のDDLと印刷教材利用のDDLは,

それぞれに効果があることがChujo and Oghigian(2010)によって確認されている。したがって,印刷教材の活用においてもコンピュータと同様に指導効果を得られることが期待できると考える。

2.2 DDL語彙教材の開発2.2.1 日・中・韓・台英語教科書コーパスの作成日本の中・高生学習者に適したレベルのコーパスを作

成するために,日本・韓国・中国・台湾の中・高英語検定教科書から英文を収集した。教科書コーパスの作成に使用した教科書の種類,名称,出版年等を表1に示した。上記の教科書をスキャナーで取り込み,その後,入力ミスの誤りなどを人の手で修正して利用した。2.2.2 指導事項の選定と検索DDLでは,学習者はキーワードとなる語彙や文法事

項の使用状況を自ら観察して規則を発見して帰納的に学ぶ。したがって教師は教材提供者として,学習者の特性に配慮して学習効率の高いキーワードを選定する必要がある(Hunston,2002)。

本研究においては指導する語彙は,聞いたり読んだりして理解できる受容レベルだけでなく,話したり,書いたりできる発信レベルの習得が期待され,意味と用法の深い知識が求められる「学校基礎語彙」(中條・西垣・吉森・西岡,2007)から選定した。学校基礎語彙は市販の小学校英語テキスト(14冊),中学校検定教科書(18冊),高校検定教科書(48冊)から客観的指標に基づいて選定された1,228の語である。

3.教材の開発

中・高生用DDL教材は次のような状況を想定して作成した。

◆中・高の通常授業の中で指導する◆印刷教材を使う◆教科書の既習事項を補強する◆10分~15分で完了する

印刷教材には言語のルールやパターンの発見を手助けするWarm-up, Observation, Practice, Useの4つのステップを組み込んだ。4つのステップの指導効果は大学院学習者を指導した指導実践で確認されているものである(Nishigaki, Kijima, Chujo and Oghigian, 2010)。本研究では中・高生用として変更を加えて活用した。以下では,表2に各ステップの学習作業の内容と期待される効果をまとめ,続いて各ステップで行うタスクの例を示した。

表1 日・中・韓・台の英語教科書

日本

中学中学校英語検定教科書

2002年(18冊:6種×3学年)

高校

高等学校検定教科書

2006年95冊(英語�/�/リーディング)1988年100冊(英語�/�/�B)

中国

中学教育 程 准 教科 2005~07年

6冊(初中一年上冊~初中三年下冊)

高校普通高中 程 准 教科

2006~07年5冊(第一冊~第五冊)

韓国

中学Middle School English

2001~03年3冊(1~3)

高校High School English

2003年2冊(�&�)

台湾

中学國民中學英語課本

1995~96年6冊(1上~3下)

高校遠東新高中英文

2007~08年6冊(1~6)

中・高生のためのコンコーダンス・ラインを利用したデータ駆動型英語学習教材の開発の試み

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■Unit6ではhaveを使った次の二つの表現がありました。

それぞれ日本語に訳しましょう。

1)�I have an idea,”Joseph answered.

2)We have a new song.

図2 Warm-upの例

1)Warm-upWarm-upの目的は,学習者が持っている既存の知識

を活性化することである。今回のDDL実践は授業の限られた時間の中で行うので,時間をかけずに行える次のような活動が考えられる。

2)Observationここでは,コンコーダンス・ラインを利用して,ター

ゲットの語彙や文法事項を観察する。しかし,検索ソフトを使って得られるコンコーダンス・ラインをそのままコピーして印刷すると図1のように初級学習者にとって情報が多過ぎてどこに注意を向けてよいのかわかりづらいという問題がある。そこで学習者による「気づき」を引き出しやすくするため,学習項目のルールや用法を端的に示している10文程度を選択し,英文を短くして,Excelを使って分かりやすく表示した。これは,学習者が初級レベルであることに考慮し,多量の英文を目にして英語の量に圧倒されてやる気を失わないようにするためである。また,英文の下には日本語訳を示した。日本語訳の提示によって学習負荷を下げ,言語パターンの発見に集中させるためである。図3と図4にはObservationで使うタスク例を示した。

図3は,コロケーションの知識を深めるための中学生用教材の例,図4は学習者が文法ルールを発見した後,ルールを明示的に分析して記憶に定着させるための高校生用タスク例である。3)Practiceここでは,Observationの活動を通して得た知識を実

際に使い,学習した事柄を正しく理解しているかどうかを確認する。図5のような二択や空所補充式タスクがある。4)Useここでは,実際のコミュニケーション場面を想定し,

学習した語彙や文法項目を使って表現活動を行う。時間に余裕があれば,インタラクション活動へと発展させることもできる(図6)。

表2 4つの学習ステップ

学習ステップ 学 習 作 業 認知活動

warm-up 既存の言語知識の確認知識の

活性化

observation

コンコーダンス・ラインの観察

とルールの発見

教師による言語ルールの解説

気づきと

仮説形成

practice問題の解答

答え合わせ仮説検証

use 言語活動 定 着

図3 Observationのタスク例�

図4 Observationのタスク例�

■( )内に入る語として適切な方に丸をつけなさい。

1)If you are(exciting / excited), this medicine willcalm you.

2)I was(interesting / interested)to hear about yourschool project.

3)The movie was(exciting / excited).4)Swimming with dolphin is(exciting / excited).5)I’m(exciting / excited)because I can see you soon.6)The museum is so(interesting / interested).7)When I was in high school, every day was(exciting /excited).

8)The book was very(interesting / interested)to me.

図5 Practiceのタスク例

千葉大学教育学部研究紀要 第59巻 �:人文・社会科学系

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図7 DDL指導の結果�

図8 DDL指導の効果�

図9 DDL指導の効果�

4.指導実践とその結果

本節では,作成した印刷教材を使って中学校と高校において行った3回の指導実践の方法と結果を報告する。

4.1 中学校指導実践�4.1.1 実践方法学 習 者:国立附属中学校2年2クラス(86名)指 導:補助教材として使用。指導時間15分題 材:haveのコロケーション評 価:指導前にプリテストを実施し,指導後約3週間後にプリテストと同一の問題をポストテストとして実施。テストではI have の下線に入る語をできるだけ多く書かせた。採点はhaveの目的語としてふさわしい表現の総数の変化を調査した。さらに正解と判断された目的語を「食料品,授業,時間,病気,旅行,具体的な物,抽象的な物」の7つのカテゴリーに分類して,カテゴリー数の変化を調べた。

4.1.2 結 果1)学習者が書いたhaveを含む表現のうち,適切な

表現の総数の変化を図7に示した。プリテスト(9.6個)とポストテスト(14.7個)の上昇は統計的に有意なものであった。次に,一人の生徒が書き出した目的語をカテゴリー別に分類し,そのカテゴリー数の変化を調査した。その結果,平均で2.4個→3.5個へと平均で1.4個のカテゴリー数の増加が確認できた。

4.2 中学校指導実践�4.2.1 実践方法学 習 者:国立附属中学校2年2クラス(84名)指 導:補助教材として使用。指導時間15分題 材:excitedとexcitingの使い分け評 価:指導前にプリテスト,指導後約1週間後にポストテストを同一の問題を使用して実施。問題は,英

文を読んでexcited/exciting, interested/interestingの二肢選択問題(8題)と和文英訳(1題)であった。

4.2.2 結 果二択問題の得点上昇を図8に示した。得点上昇は統計

的にも有意な上昇であった。和文英訳問題では,プリテストで英文を正しく書いた者は19%であったが,ポストテストでは75%の学習者が正しく英文を書いた。

4.3 高校生を対象とした実践4.3.1 実践方法学 習 者:公立商業高校2年生153名指導期間:補助教材として使用。指導時間40分題 材:excitedとexcitingの使い分け評 価:指導前にプリテスト,指導後約1週間後にポストテストを同一の問題を使用して実施。出題は,英文を読んでexcited/exciting, bored/boringのうち正しいものを選ぶ二肢選択問題(10題)と和文英訳(1題)があった。

4.3.2 結 果二者選択問題の平均点の上昇を図9に示した。プリと

ポストテスト間の得点上昇は統計的にも有意な上昇であった。和文英訳はプリテストで英文を正しく書いた者は2%であったが,ポストテストでは約50%の学習者が正しく英文を書いた。

4.4 指導実践の結果のまとめ3回の各実践ともに指導効果を確認できた。結果を詳

しく見ると,高校生よりも中学生において指導時間が短いにもかかわらず,得点上昇が高い傾向があった。今回の高校生学習者は,進学・就職において英語の必要性があまり高くない。一方,中学生は,同年代の学習者との比較において,英語力が高いとされる集団であり,英語の学習に対する動機づけも高いことが予想される。今回

■例にならってあなたが面白いと思うテレビ番組と,退屈

であると思う番組を書きましょう。

例 News7 is interesting. Red Carpet is boring.

■その理由を述べて,友達とテレビ番組について意見を交

換しましょう。

例 Music Station is interesting because I can listen to

popular songs.

図6 Useのタスク例

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の実践では英語学習者の英語力とやる気の差が指導効果にも反映されたことがうかがえる。このことから,学習者の英語力とやる気の程度に十分配慮した教材作りが必要と思われる。今回は,いわゆる「投げ込み教材」としての利用で,

指導に割ける時間が非常に限られていた。今後は,指導後に質問紙調査を行い,DDLの指導方法を改善するヒントにしたい。

5.まとめと今後の展望

本研究は,近年注目を浴びているDDLを中・高生の英語指導に利用しようという試みであった。これまでは,コーパスと学習者の英語力のギャップの問題があって中学・高校の授業にDDLを活用したという事例はほとんど見られなかった。本実践では,独自開発した教科書コーパスを利用して,中・高校生にわかりやすいコンコーダンス・ラインの提示方法を工夫し,さらに言語ルールを帰納的に発見できるようなワークシートを作成して指導を行った。その結果,初級学習者への活用は難しいとされていたDDLが,中・高生の語彙・文法指導に利用できる可能性を確認できた。その一方で,学習者集団の違いによって効果に差が見られた。今後は題材やタスクのバラエティを増やすことによって,幅広く,中学・高校で使えるDDL教材を継続して開発し,年間カリキュラムに組み入れられるDDL教材を開発したい。

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