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▶2009年,本邦で初めての線維筋痛症診療ガイドラインとして本ガイドラインを発

刊し,多くの分野から本症の診療に際して一定の方向性が示されたと好評を頂い

た。また,一昨年発刊した「線維筋痛症診療ガイドライン2011」は,公益財団法人日

本医療機能評価機構が運営するインターネット上での医療情報サービス事業

Mindsにて,2011年度に国内で作成されたガイドラインを対象とした「診療ガイド

ライン選定部会」により,高い評価を受け選定されるに至った。しかしながら,本

症の研究は日々進歩しており,また,本邦で初めての治療薬が保険適応薬として承

認されたことから“線維筋痛症診療ガイドライン2011の改訂版”として本書を発刊

する経過となった。

▶本ガイドラインでは,日本人を対象とした診断および治療・ケア上のエビデンスが

きわめて少ないため,多数の患者さんを本邦で治療している執筆者の経験則に基づ

く学会発表の抄録等をエビデンスの根拠として利用せざるをえない部分もある。ま

た,本邦において線維筋痛症の診療に関する明確な保険診療が整備されていないた

め,各医療機関は本症に伴う多彩な随伴症状に対しての診断や治療に対して保険で

の診療報酬を請求しているのが現状である。

▶本書は,基本的には本症に伴う随伴症状の改善により主症状が軽減することをもっ

て推奨度を決めている場合が多い。これは主として前述した公的保険診療を念頭に

おいた本症の多彩な臨床症状に起因する。

▶線維筋痛症は最近注目を集めている疾患のひとつであり,その病因・病態の解明や

治療方法の確立は多くの症例をもとにいわば模索的に進んでいる状況である。本邦

での取り組みは,2003年に筆者が班長を務めた厚生労働省リウマチ研究班の分科会

として初めて研究班が立ち上がり,その後,2008年に線維筋痛症の単独班が発足

し,現在も継続されている。これにより,基礎および臨床面で診断,治療,患者ケ

アなどに対する一定の方向性が見出されてきたことは大きな収穫である。

▶また,日本線維筋痛症学会が2009年に発足し,事業のひとつとして整備を進めてい

る診療ネットワーク参加施設も増加しており,ようやく本格的な治療や病因への研

はじめに

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究が本邦でも始まった。

▶このような臨床研究により,その病態に基づく治療方法が徐々に確立しているもの

の,その一方で依然として疾患に対する医師の認識の低さに加え,病像の複雑さか

ら診断や症状の把握,さらに治療に著しい困難を招いている症例が増加しているの

も事実である。このような症例に層別化したエビデンスの確立が本来は必要である

が,そのためには,かなりの時間と製薬会社の積極的な臨床開発による関与が必須

であるが,現在のところ,一部の会社を除いて難しい状況である。したがって,エ

ビデンスについては多数例を観察している医師の臨床経験に依らざるをえない状況

でもある。

▶また診療体制についても,診療科が疾患の複雑な臨床像からリウマチ科,整形外科,

精神科,心療内科,ペインクリニックなど多岐にわたり,多くのクリニックや病院

を転々とする患者さんが多く,保険診療への対応を中心に行政面からの対応も急が

れる。

▶この現状に基づき,試行錯誤的な段階ではあるが本ガイドラインが臨床の現場での

診療の指針として,患者さんの病態を把握し,可能な限り本邦の医療提供体制に則

した治療を進めていく上でお役に立てれば幸いである。

平成25年2月

日本線維筋痛症学会 理事長

西岡久寿樹

ガイドライン作成委員会委員長

松本美富士

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●■線維筋痛症診療ガイドライン2013の記載方法

1章 今なぜ線維筋痛症ガイドラインが必要か ............................................................................. 1

2章 本邦線維筋痛症の臨床疫学像 ...................................................................................................... 13

3章 診断基準 ...................................................................................................................................................... 23

4章 鑑別診断 ...................................................................................................................................................... 29

4-1 線維筋痛症とリウマチ性疾患の鑑別 29

4-2 線維筋痛症と整形外科的疾患の鑑別 41

4-3 線維筋痛症と心療内科的疾患(心身症,ストレス関連疾患)の合併

多彩な身体症状をどう理解するか 51

4-4 線維筋痛症と神経内科的疾患の鑑別 67

4-5 線維筋痛症と精神疾患の鑑別 72

4-6 その他(慢性疲労症候群,脳脊髄液減少症) 78

5章 治 療 ......................................................................................................................................................... 83

5-1 治療総論 83

5-2 エビデンスに基づく薬物治療(海外の事例を含む) 95

5-3 精神科的アプローチによる治療の導入 110

5-4a 薬物療法:神経因性疼痛改善薬と副症状,合併症に対する治療 119

5-4b 薬物療法:向精神薬などの精神科的治療 125

CONTENTS

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5-4c 薬物療法:線維筋痛症に伴う不眠,うつ状態の薬物治療 132

5-5a 非薬物療法:統合医療 138

5-5b 非薬物療法:認知行動療法(CBT),精神療法,心理療法 145

6章 小児の線維筋痛症の診療と治療 ............................................................................................. 148

7章 ケアおよび支援の体制 ................................................................................................................... 156

7-1 公的保障制度の解説 156

7-2 線維筋痛症のチーム医療と看護職 167

7-3 支援体制の現状と将来展望(友の会を中心に) 174

8章 添付資料 ................................................................................................................................................... 186

8-1 線維筋痛症における傷病手当,身体障害者等級,

障害年金の診断書の発行についての基本的な考え方 186

8-2 診断基準・治療方針・薬物療法のエビデンスと推奨度一覧ほか 188

8-3 線維筋痛症に関する衆議院厚生労働委員会議事録 208

8-4 利益相反(COI) 214

索 引 ....................................................................................................................................................................... 216

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▶線維筋痛症は比較的頻度の高いリウマチ性疾患であるにもかかわらず,本邦では医

療側を含めて疾患概念の認識度が著しく低い。その結果,医療のもとで適正にケア

されている患者はきわめて少なく,多くの患者は診断不明,あるいは他の疾患と扱

われたりしてドクターショッピングを繰り返し,長期に病んでいる。また,医療に

失望して民間療法などに流れているものも少なからずある。このようにわが国にお

ける線維筋痛症を取り巻く医療環境には大きな問題がある。幸いに,厚生労働省に

おいて線維筋痛症に関する調査研究班が組織され,わが国の線維筋痛症患者の実態

調査や病因・病態,治療やケア,あるいは支援体制に対する研究が進められ,また

日本線維筋痛症学会が発足するなど,日本人を対象とした線維筋痛症に対するエビ

デンスが集積しつつある。

▶このような状況下で,患者中心の,あるいは医療経済的視点に立ったわが国における

線維筋痛症の診療体制の確立は急務である。そこで,わが国において適正な線維筋痛

症の診療が実践されるために,現在までに得られたエビデンスに基づいて,わが国の

医療制度に則した診療の手引きとして,診療ガイドラインをまとめたものである。

▶本ガイドラインは本邦人を対象とするものである。しかし,本邦人に対するエビデ

ンスがいまだ十分でないため,多くのものは欧米におけるエビデンスおよび専門医

の臨床経験をもとにしたコンセンサスカンファランスでの合意のもとに,本邦の医

療事情を考慮して記載することとした。できるだけ記載内容についてエビデンスレ

ベルに基づく推奨度を併記して記載することとし,エビデンスの十分でないものに

ついては推奨度を併記することなく,単に記述するにとどめた。また,本ガイドラ

インは線維筋痛症の確定診断に至るプロセス,および確定診断後の患者の取り扱い

について,現行の本邦医療保険制度・介護保険制度あるいは福祉制度の視点からど

のように行うことが合理的であるかについて言及したものである。今後さらに本邦

人を対象としたエビデンスの蓄積により,より質の高いEBMに基づいたガイドラ

インの改訂を前提に,今回のガイドラインの有用性が広く臨床の現場でお役に立て

れば幸いである。

線維筋痛症診療ガイドライン2013の記載方法

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▶「線維筋痛症診療ガイドライン2011」発刊後,本邦でプレガバリンが線維筋痛症の

疼痛治療薬として薬価収載されたこと,米国リウマチ学会(ACR)予備診断基準

2010の本邦人を対象とした検証報告がなされたこと,線維筋痛症に高頻度に合併す

る下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群治療薬としてガバペンチンエナカルビル

が薬価収載されたこと,2011年版での記載の誤り等があったことなどから,本邦に

おける線維筋痛症診療の混乱を避けるために上記部分について追加,訂正する必要

性があった。そこで,2011年版の増補版として部分改訂したものを「線維筋痛症診

療ガイドライン2013」にしたものである。

▶なお,本ガイドラインは以下の記載方法による。

1)保険適応外使用の表記

「*」:線維筋痛症の随伴症状・合併症に対して保険診療として認められているもの

 「**」:未承認薬

2)データ記載について

本邦人を対象としたものは,データはそのままで記載し,外国人を対象としたデー

タは,本文に対象集団を明示する。例:「米国では…」など。

3)推奨度の表記

可能なものは推奨度(A~D)を表記する。日本人を対象としたエビデンス(複数の

RCTがあれば)推奨度A。海外でのRCTによるものは,本邦人を対象としていない

ため推奨度B。エビデンスがなく有効とする報告がなされているものは推奨度C。

臨床家の経験的なものは,推奨度は記載しない。

4)推奨度

推奨A:行うよう強く勧められる

推奨B:行うよう勧められる

推奨C:行うよう勧めるだけの根拠が明確でない

推奨D:行わないよう勧められる

※推奨度は以下の要因を勘案して総合的に判定される。

・エビデンスのレベル

・ エビデンスの数と結論のバラツキ(同じ結論のエビデンスが多ければ多いほど,そ

して結論のバラツキが小さければ小さいほど勧告は強いものとなる。必要に応じ

てメタ解析を行う)

・臨床的有効性の大きさ

・臨床上の適用性

・害やコストに関するエビデンス

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(福井・丹後「診療ガイドライン作成の手順」version 4.3)

▶治療内容によっては,エビデンスとして一定の評価がまとまらないことがあるが,

そのようなときには推奨の度合いを記載しない。

エビデンスのレベルによる分類

Ⅰ. systematic review,メタ解析によるデータ

Ⅱa. 1つ以上のランダム化試験によるデータ

Ⅱb. 非ランダム化試験によるデータ

Ⅲ. 分析疫学的研究によるデータ,例:Case-Control Studyなど

Ⅳ. 記述疫学的研究によるデータ,例:何例中何例が有効であったなど

Ⅴ. 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見

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組織図

委員長 松本美富士

① 作業部会

西岡 久寿樹(リウマチ科)(部会長)

植田 弘師(薬効・薬理:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子薬理学分野教授)

宮岡 等(精神科)

村上 正人(心療内科)

行岡 正雄(整形外科)

横田 俊平(小児科)

松本 美富士(内科)

② 文通部会

三木 健司(部会長)

臼井 千恵

浦野 房三

岡  寛

長田 賢一

澁谷 美雪

下村 康氏

線維筋痛症診療ガイドライン2013作成委員会

ガイドライン2013作成委員会

作業部会 文通部会

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戸田 克広

橋本 裕子

班目 健夫

山野 嘉久

執筆者一覧(五十音順)

臼井 千恵 (順天堂大学医学部附属練馬病院メンタルクリニック科准教授)

浦野 房三 ( JA長野厚生連篠ノ井総合病院リウマチ膠原病センター長・リウマチ科

部長,院長補佐)

岡  寛 (東京医科大学八王子医療センターリウマチ性疾患治療センター教授)

長田 賢一 (聖マリアンナ医科大学神経精神科准教授)

菊地 雅子 (横浜市立大学附属病院小児科指導診療医)

澁谷 美雪 (霞が関リウマチ治療研究所看護ケア主任研究員)

下村 康氏 (藤田保健衛生大学七栗サナトリウム地域支援室・医療福祉相談室主任)

武田 雅俊 (大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座精神医学教室教授)

戸田 克広 (廿日市記念病院リハビリテーション科科長)

西岡 久寿樹 (東京医科大学医学総合研究所所長)

橋本 裕子 (NPO法人線維筋痛症友の会理事長)

橋本 亮太 ( 大阪大学大学院連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御

機構研究センター准教授)

班目 健夫 (青山・まだらめクリニック院長)

松野 博明 (医療法人社団松緑会松野リウマチ整形外科理事長・院長)

松本 美富士 (独立行政法人桑名市総合医療センター内科・リウマチ科顧問)

三木 健司 ( 尼崎中央病院整形外科第二部長/大阪大学医学部附属病院疼痛医療セ

ンター院外専門医)

宮岡 等 (北里大学医学部精神科学教授)

宮前 多佳子 (新百合ヶ丘総合病院小児科部長)

村上 正人 (日本大学医学部附属板橋病院心療内科部長)

山野 嘉久 (聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター准教授)

行岡 正雄 (医療法人行岡医学研究会行岡病院理事長・院長)

横田 俊平 (横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学教授)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

1

疾患概念 ─ 線維筋痛症(fibromyalgia:FM)とは1▶線維筋痛症は,原因不明の全身の疼痛(wide-spread pain)を主症状とし,不眠,う

つ病などの精神神経症状,過敏性腸症候群,逆流性食道炎,過活動性膀胱などの自

律神経系の症状を随伴症状とする病気である。近年,ドライアイ・ドライマウス,逆

流性食道炎などの粘膜系の障害が高頻度に合併することがわかってきている。疼痛

は,腱付着部炎や筋肉,関節などに及び四肢から身体全体に激しい疼痛が拡散し,こ

の疼痛発症機序のひとつには下行性痛覚制御経路の障害があると考えられている。

▶患者の年齢別分布について日本線維筋痛症学会主要登録施設のデータをもとに検

討1,2)したところ,受診時に40代~50代が多くいわゆる働き盛りの女性に多いこと

が特徴であることがわかる(図1,2)。長期間にわたる激しい痛みのため生活の質

(QOL)が著しく低下し,社会的に大きな問題をまねいているにもかかわらず,本邦

では進行例が多いことやその臨床像の複雑さもあり,病態解明はもとより診療体制

の整備が遅れている。患者はもとよりその家族,さらには医師をはじめ医療従事者

にも本疾患に対する正しい情報が著しく欠落している。その要因は客観的な診断の

マーカーが欠如している上,筋骨格系の疼痛以外の多彩な症状がどうしても従来の

いわゆる疾患分類のアルゴリズムでは解明することができないことや自律神経系の

機能異常を示唆する精神・神経面での症状が全面に出ている症例もかなりみられる

ことにある。一方では障害年金,生活保護等に関する問題も多く発生しており,ま

た,「疾病利得」に依存していると考えられる症例や小児においては不登校児の中に

も線維筋痛症もかなり存在していることが明らかにされている。この中には,適切

な診断や治療が行われないまま放置されている患者も多く,その社会的,経済的損

失は計りしれないものがある。

▶諸外国においてもこの状況は類似しており,米国では1980年代に入ってから徐々

に注目されはじめ,1990年に米国リウマチ学会が分類基準を策定し,その後,米国

今なぜ線維筋痛症ガイドラインが必要か1

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1

2

3

4

5

6

7

8

2

の研究者が中心となり2010年に線維筋痛症に伴う「痛み」の症状の評価に加え,随

伴症状も加味した新しい診断基準ができた。本邦での,厚生労働省研究班の調査で

は全国では人口の1.7%に本症が存在している。推定では200万人以上の患者がお

り,その80%を女性が占めていることがわかってきた。また,日本で2011年に実施

されたインターネットを用いた疫学調査でも同様の結果が得られている3)。リウマ

チ専門医や,精神科領域あるいはペインクリニックで種々な治療方法へのアプロー

チが始まっている。プレガバリン(エビデンスⅠ 推奨度A)を中心とする疼痛制御

分子の標的療法は今後本疾患の治療の中核となるが,基本的に機能性疼痛を中心と

する随伴症状に対する対症療法の治療となる。一方で,病因,病態および疼痛の分

男女

0 100 200 300 400 500 600

90-

80-89

70-79

60-69

50-59

40-49

30-39

20-29

10-19

0-9 5

61

205

501

551

550

486

321

75

3(歳)

(人)

平均 :50.6±16.2歳男 :45.0±18.0歳女 :44.7±16.5歳

平均 :50.6±16.2歳男 :45.0±18.0歳女 :44.7±16.5歳

図1▶受診年齢(n=2758)◉ 2009日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会,第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京)

男女

0 100 200 300 400

80-89

70-79

60-69

50-59

40-49

30-39

20-29

10-19

0-9 16

127

276

425

410

398

298

131

27

平均 :44.7±16.7歳男 :49.9±16.8歳女 :50.8±16.1歳

平均 :44.7±16.7歳男 :49.9±16.8歳女 :50.8±16.1歳

(人)

(歳)

図2▶発症年齢(n=2108)◉ 2009日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会,第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

3

子メカニズムについては,その研究が本邦でも独自の画期的な研究が開始されてき

ている。

▶本邦では,行政側が本症の対策に乗り出し2003年から厚生労働省に,本邦患者の実

態,病因解明の研究班が特別科学研究費をもとに構成され,2004年度からは筆者が

研究班長をつとめていた同省の免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業の一環とし

て正式に研究班活動が開始され,さらに2008年度から独立した研究班として本疾

患の研究班が構成され,多くの成果が集積されてきている。

▶加えて2009年から日本線維筋痛症学会が発足し,ガイドラインも2011年から当学

会が主となり発刊することになった。

発症要因 3~9)2▶本症の主症状である疼痛誘因には, 中枢性の広範囲に及ぶ神経因性疼痛(wide-

spread neuropathic pain)の成因に関与する分子機序の解明が必須であると考えら

れる。このような視点から本症をみるとその発症の引き金には,外因性と内因性と

いうエピソードが存在し,双方が混在している場合もあることが判明してきた。筆

者らは,自験例の詳細な解析に基づき,次のような発症仮説を提示している。

▶すなわち線維筋痛症には,他疾患と同様に遺伝的素因が存在する。実際に筆者らは,

一卵性双生児の両者に線維筋痛症が発症した症例や母児発症例も少なからず経験し

ている。

▶疼痛の発症要因は,外傷,手術,ウイルス感染などの外的要因と離婚・死別・別居・

解雇・経済的困窮などの生活環境のストレスに伴う内因性の要因に大別される(図

3,4)。これは慢性ストレスとして,神経・内分泌・免疫系の異常により,疼痛シグ

ナル伝達制御のシステムが著しく攪乱し,このため,さらに多様な精神症状,疼痛

異常をまねいているという悪循環が生じていると考えられる。また,筋・骨格系疼

痛と主症状のほかに随伴症状として,不眠,うつ病などの精神神経症状,過敏性腸

症候群,膀胱炎,ドライアイ,シェーグレン症候群様の乾燥症状などが認められ,

多彩な全身症状を呈する重症型へと進展していく。2010年に発表された米国リウマ

チ学会(ACR)予備診断基準ではこれらがすべて一定の割合で寄与しているように

なってきている。一方,抜歯などの歯科処置や脊椎外傷や手術,むちうち症など著

しい身体障害やパニック障害などが,本症の最初の疼痛の引き金となっている症例

もかなりの頻度で存在する(図5)。本症の発症の「引き金」ではあるものの原因とし

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1

2

3

4

5

6

7

8

4

0 5 10 15 20 25 30%

環境の変化・家事他

睡眠障害

出産・妊娠・更年期障害

虐待・死別・結婚他

仕事・就職・転職他

介護

いじめ・受験・不登校他 2.1

3.1

5.9

8.9

16.8

26.9

28.7

図3▶疼痛発症の要因分析(n=2278)9)

◉ 2009日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会,第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京)

0 10 20 30 40 50 60%

疾患

手術

外傷

スポーツ

その他

マッサージ 0.9

1.9

3.8

16.0

21.2

56.2

図4▶肉体的損傷がトリガーとなった1090名の要因◉ 2009日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会,第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京)

0 5 10 15 20 25 30 35%

整形外科系

内科系

アレルギー系

膠原病・リウマチ系

精神科系

口腔内外科系

神経内科系

皮膚科系

耳鼻科系

眼科系

その他

婦人科系

小児科系

26.3

25.3

14.7

13.4

9.9

7.8

3.1

2.9

2.6

1.0

0.8

0.3

0.3

図5▶疾病罹患がトリガーとなった要因を各診療科別にまとめてみた(n=1700)◉ 2009日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会,第

2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

5

ては依然不明確な点が多い。症状が進行してくると,線維筋痛症の分類基準として

知られている18箇所の圧痛点をはるかに通り越して,四肢から身体全体に激しい

疼痛が拡散し腱の付着部炎や,筋膜,関節等に及ぶ。それらの疼痛部位は一定の神

経支配領域や解剖学的な視点からでは説明がつきにくい。この場合,線維筋痛症の

疼痛発症機序は下行性痛覚制御経路の障害による痛みと考えられるが,痛みの認識

システムの過剰な亢進など線維筋痛症でも同様のパターンがあることが多い。最近

の多数例の集積による主症状分類を図に示す(図6,7)。

▶本疾患は,最初の疼痛が引き金となり次の疼痛をまねくが,注目すべき臨床的症状

0 100 200 300

全身疼痛ドライマウス・ドライアイ

関節痛うつ状態・不眠過敏性腸症候群

筋緊張過活動性膀胱

その他しびれ倦怠感肩こり痙攣

こわばりめまいむくみ筋肉痛

2951306

202180

症状の重複が多い

(人)

図6▶主訴の分類(n=3541)◉2010日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会発表,第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京,第3回日本線維筋痛症学会発表:2011,横浜)

0 100 200 300 400

全身足腰

手・腕背部肩

その他頸椎頭部手足胸部腹部

2951318

260224

217

症状の重複が多い

(人)

図7▶疼痛部位(n=3541)◉2010日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会発表,第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京,第3回日本線維筋痛症学会発表:2011,横浜)

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1

2

3

4

5

6

7

8

6

は,疼痛が徐々に無秩序に解剖学的な神経支配的領域とはまったく関連のない分野

へ広範囲に及ぶことである。この疼痛の持続期間は長く,同時に疼痛の程度はしだ

いに激しくなり,患者のQOLは著しく低下することとなる。

▶このような本疾患の疼痛は中枢性と末梢性の混合型の疼痛と考えられる場合も多

く,脳血管障害などに伴って一定の刺激により線維筋痛症と類似した痛みが誘発さ

れると考えられる。

▶また,疼痛への感受性が著しく亢進している場合と閾値は正常でも著しく痛みを感

じるケースが存在する場合がある。この難治性疼痛の原因は心因性のストレスのほ

か,外傷または温度や気圧の変化,騒音などの外因性のストレスでも発症する。

病態に基づく病型分類3▶本症の診断にあたって「痛み」のとらえ方は最も重要である。まず,線維筋痛症の診

断(分類)として代表的なものは,米国リウマチ学会(ACR)が1990年に作成した身

体躯幹部位を中心とする18箇所の圧痛点が広く用いられている(図8)。筆者の自験

例では典型的な線維筋痛症では大腿四頭筋の外側筋膜や膝関節の内側副靱帯付着部

にも顕著な圧痛点が認められる。

▶2010年,ACRから新たな線維筋痛症の予備診断基準が発表された(図9)。この新

しい診断基準では従来の圧痛点は除外され,過去3カ月の広範囲疼痛指数(wide-

spread pain index:WPI)の合計ポイントと重症度のレベルと一般的な身体症候の

ポイントを合計した症候重症度(symptom severity:SS)のポイントが核となる。

さらに,2010年の米国リウマチ学会において,WPIとSSポイントの合計13ポイン

トをカットオフポイントとしている(図10,11,12)11)。

▶このWPI,SSはともに判定は患者からの自己申告に起因するところが多く,また,

SSの一般的な身体症候についての判定に具体的なポイント範囲が設定されていな

いため診断への寄与率は低い。しかしながら,これまで随伴症状とされていた項目

のほとんどが網羅されているため,診断の感度が亢進すると思われる。実際にカッ

トオフ値を9~13として各々,本邦人94名の線維筋痛症患者を対象にその感度・特

異度を関節リウマチ,変形性関節症を対象に調査したところ,カットオフ値10で感

度91%,特異度91%とほぼ満足すべき結果が得られた(表1,2)。このことにより,

日本人でのカットオフ値は11が妥当と考えられるが,ACRの診断基準作成グルー

プと検証を重ねている12~14)。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

7

図9▶米国リウマチ学会の線維筋痛症予備診断基準(2010)(西岡久寿樹 ACR2010診断基準チェック票を日本人向けに一部改変,第2回日本線維筋痛症学会にて発表,2010,東京)

SS症候 問題なし 軽度 中等度 重度

疲労感 0 1 2 3

起床時不快感 0 1 2 3

認知症状 0 1 2 3

合計:    点

SS一般的な身体症候 0:なし

1:軽度

2:中等度

3:重度

筋肉痛 過敏性腸症候群

疲労感・疲れ

思考・記憶障害 筋力低下 頭痛

腹痛・ 腹部痙攣

しびれ・刺痛 めまい 睡眠障害 うつ 便秘

上部腹痛 嘔気 神経質 胸痛 視力障害 発熱

下痢 ドライマウス かゆみ 喘鳴 レイノー

症状 蕁麻疹

耳鳴り 嘔吐 胸やけ 口腔内潰瘍 味覚障害 痙攣

ドライアイ 息切れ 食欲低下 発疹 光線過敏 難聴

あざが出来やすい 抜け毛 頻尿 排尿痛 膀胱痙攣

合計: 症候   点 + 身体症候   点=   点

注1: SSの一般的な身体症候の数については各施設にゆだねられている

WPI:19箇所過去1週間の疼痛範囲数

顎 右 左

肩 右 左

上腕 右 左

前腕 右 左

胸部

腹部

大腿 右 左

下腿 右 左

頸部

背部 上 下

臀部 右 左

WPI合計:   点

以下の3項目を満たすものを線維筋痛症と診断する

WPI7以上+SS5以上またはWPI3~6+SS9以上

少なくとも3カ月症候が続く

他の疼痛を示す疾患ではない

1. 広範囲にわたる疼痛の病歴

定義 広範囲とは右・左半身,上・下半身,体軸部(頸椎,前胸部,胸椎,腰椎)

2.  指を用いた触診により,18箇所の圧痛点のうち11箇所以上に疼痛を認める

定義 両側後頭部,頸椎下方部,僧帽筋上縁部,棘上筋,第2肋骨,肘外側上顆,臀部,大転子部,膝関節部

*指を用いた触診は4kg/cm2の圧力で実施(術者の爪が白くなる程度の力)*圧痛点の判定:疼痛に対する訴え(言葉,行動)を認める

判定 広範囲な疼痛が3箇月以上持続 1,2の基準を満たす 第2の疾患が存在してもよい

図8▶線維筋痛症の診断のための圧痛点 (米国リウマチ学会1990)

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1

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7

8

8

0 10 13fibromyalgia symptoms scale

20 30

9.3

6.2

3.1

0

3.1

6.2

9.3

(%)

図11▶ACR2010予備診断基準による患者分布(米国)13)

◉ACR2010 Meeting Abstract,2010,アトランタ

0 10 13

米国日本

20 30

WPISS

図10▶線維筋痛症患者FSS≧10(日本),FSS≧13(米国) n=48のWPIとSSの比率◉西岡久寿樹:2010日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より12)(第3回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

9

▶また,本予備診断基準はWPIとSSポイントの加算により,疾患活動性の定量的な

評価ができることから, この予備診断基準を応用し線維筋痛症活動性評価票

「FAS31」を作成した15)。

▶線維筋痛症の疼痛は出現部位やその程度が患者によって異なり,きわめて多様性に

富んでいるため,FAS31は疼痛に19ポイント,メンタル系の症状に9ポイント,自

表1▶ 日本人線維筋痛症患者を対象としたACR2010の予備診断基準の評価 11)

線維筋痛症その他の疾患

有意差関節リウマチ 変形性関節症 痛風

人数 9443

29 9 5

平均年齢(偏差値) 48.8(13.3)

63.0(12.8)<0.0001

59.9(13.7) 70.3(10.1) 67.7(5.1)

女性の人数(%) 85(90%)

33(77%)0.06

24(83%) 9(100%) 0(0%)

ACR2010予備診断基準評価対象者

対象人数 (%) 77(82%)

4(9%)<0.0001

4(14%) 0(0%) 0(0%)

ACR2010予備診断基準成績 1)

平均成績 (偏差値) 18.0(5.8)

4.9(4.4)<0.0001

5.2(5.0) 5.4(2.2) 2(1.9)

1) 2010ACR線維筋痛症予備診断基準:wide-spread pain index (WPI)およびsymptom severity scale (SS)を用いて評価を行った成績

 ( Usui C,Hatta K,Aratani S, et al:Japanese version of the 2010 American College of Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia symptom scale. Modern Rheum,in press)

FSS:Mean±SD:16±6Fibromyalgia

米国日本

Non Fibromyalgia FSS:Mean±SD:5±5

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

15

10

5

0

-5

-10

図12▶ACR2010予備診断基準による患者分布(日本)(n=117)12)

◉2010日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より

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律神経系の調節障害を反映している諸症状に3ポイントとし,この合計を31ポイン

トとした。評価は,カットオフ値を11ポイントに設定し,その数値で行う。本症は

全人的に患者をケアしていくことが大切であることから,リウマチ科,内科,精神

科をはじめとする各分野にて妥当性の検証を進めているが,本症において特異的な

客観的マーカーがない現状では妥当性が高い。

診療ガイドライン提唱の必要性4▶線維筋痛症の診断に際して最も大切なことはその複雑な病態をACR2010の予備診

断基準にそって十分に把握し,さらにACR1990の18箇所の圧痛点も参考にし,適

格な診断を下すことにある。その場合,線維筋痛症の進行度に応じて,一般的に発

病してから1年以内は疼痛が顕在しているがQOLに著しい障害はみられない症例

が多い(表3)。この時点の治療はプレガバリンを第一選択薬とし,ガバペンチン*

(エビデンスⅡa 推奨度B)の低用量を中心としてミルナシプラン*(エビデンスⅡa

 推奨度B),ピロカルピン塩酸塩*(エビデンスⅢ 推奨度B),さらにはカウンセ

リングや運動療法(エビデンスⅠ 推奨度B)などの治療で軽快することが多い。一

方,症状が進行してStage Ⅲ以上になったケースは発病の時期が長く症状も重篤に

なってくる。したがって,前述のプレガバリンやガバペンチン*などの本症に随伴

する神経因性疼痛抑制に加え,抗痙攣薬による主として筋疼痛制御のほかに向精神

薬*や抗てんかん薬*などの種々の薬物療法を用いないとなかなか症状は改善しな

い。後述する多彩な重複症例型は線維筋痛症に伴うあらゆる症状が顕在している。

また,ピロカルピン塩酸塩*は,かなりの頻度で合併しているシェーグレン症候群

に類似したドライアイやドライマウスに顕著な効果を認めている。また,植田らは

表2▶ACR2010予備診断基準のポイント 11)

1.非特異的であるが多彩な臨床症状を定量化し,感度・特異度ともに一定の機能を有することが明らかになった

2.WPI 19ポイント,SS 12ポイントの合計のFSS 31ポイントは,疾患活動性が最大であり,診断のカットオフポイント値はFSS合計11ポイントが日本人では妥当と考えられる

3.上記の結果より本診断基準は線維筋痛症の多彩な症状を単一の疾患として診断に導きうる合理的なものであるといえる

4.しかしながら,症状はすべて自己申告のため,患者自身が病気を作ることができる。したがって,これまでの診断基準の圧痛点や筋の把握痛等を補助的に用いることが望ましい

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

11

動物を用いて非臨床試験で唾液腺の分泌に疼痛抑制が先立って起こることを明らか

にしている16,18)。

▶以上のように,本疾患の病因はまだかなり不明な点が多いが,今後本邦人を対象と

する種々の薬剤のエビデンスの実績をみながら,多彩な病態に対応する適切なガイ

ドラインの作成が急がれる。2012年にプレガバリン(リリカ®)が本邦で初めて線維

筋痛症の治療薬19)として承認されたことの意義は非常に大きい。すなわち,主病名

を線維筋痛症と明記することにより随伴症状が明確となり,また,保険収載された

薬剤を用いることができることにより,ようやく線維筋痛症が保険診療上の「市民

権」を得たことになる。

▶疼痛以外の多彩な症状を訴える患者を前にして,1剤のみの保険収載薬では様々な

症状のコントロールに対応は困難であることから,現状では少なくとも随伴症状に

有効性が認められている薬剤を用いて,患者の症状や病態に対応する治療を実施す

ることが必要である。本ガイドラインは実地の臨床家に一定の方向性を示唆してい

るものとしてご理解を頂きたい。

■文献1) 西岡久寿樹:線維筋痛症の病態と治療 ─ 3500例の病態解析と診療ガイドライン2009の

解説.第54回日本リウマチ学会総会・学術集会プログラム.2010;p219.

表3▶ 臨床症状と重症度分類 重症度分類試案(厚生労働省特別研究班:第3回GARN国際会議にて発表,Arthritis Research Abstract,2003)

重症度分類 QOL 疼痛部位 圧痛の程度

ステージⅠACR分類基準の18箇所の圧痛点のうち11箇所以上で痛みがあるが,日常生活に重大な影響を及ぼさない 痛みはあるが普通

の生活ができる体幹部

圧痛(4kg/cm2)

ステージⅡ広範囲な筋緊張が続き腱付着部炎を併発する一方,不眠,不安感,うつ状態が続く。通常の日常生活がやや困難

ステージⅢ痛みが持続し,爪や髪への刺激,温度・湿度変化など軽微な刺激で激しい痛みが増強する。自力での生活は困難

痛みのため普通の生活が困難

体幹部から末梢部痛

軽度の圧痛

ステージⅣ

痛みのため自力で体を動かせず,ほとんど寝たきり状態に陥る。自分の体重による痛みで,長時間同じ姿勢で寝たり座ったりできない 寝たきりであるが

眠れない全身痛

触痛・自発痛

ステージⅤ

激しい全身の痛みとともに,膀胱や直腸の障害,口の渇き,目の乾燥,膀胱症状など全身に症状が出る。通常の日常生活は不可能

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5

6

7

8

12

2) 西岡久寿樹:線維筋痛症ガイドライン2009から2010へ向けて.第2回日本線維筋痛症学会

抄録集.2010;p24.

3) 中村郁朗,他:本邦における線維筋痛症のインターネットによる疫学調査 . 第4回線維筋

痛症学会学術集会抄録集 . 2012;76

4) 西岡真樹子,秋本美津子,臼井千恵,他:線維筋痛症の病態と疾患概念.日本医事新報

2004;4177:10-14.

5) 西岡久寿樹:線維筋痛症の現状と展望.Pharma Medica 2006;24(6): 9-13.

6) 西岡久寿樹:線維筋痛症.神経内科 2004;61(3):229-233. 

7) 西岡久寿樹:線維筋痛症.治療学 2005;39(3):98-100.

8) 西岡久寿樹,編:線維筋痛症ハンドブック.日本医事新報,2007.

9) 西岡久寿樹:特集:膠原病:診断と治療の進歩<トピックス>Ⅱ .最近の話題 1.線維筋痛

症の現状と問題点.日内会誌 2007;96:2235-2240. 

10) 西岡久寿樹:「線維筋痛症診療ガイドライン2009」から見る線維筋痛症診療の現状.日本医

事新報 2010;4505:54-58.

11) Frederick Wolfe,et al:The American College of Rheumatology preliminary diagnostic

criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity . Arthritis Care &

Research 2010;62(5):600-610.

12) Usui C, Hatta K, Aratani S, et al:Japanese version of the 2010 American College of

Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia symptom scale.Modern

Rheum,2012;22(1):40-44.

13) 西岡久寿樹:線維筋痛症の新しいACRの診断基準の検証について. 第2回日本線維筋痛症

学会抄録集.2010;p32.

14) Frederick Wolfe,et al:Fibromyalgia criteria and severity scales for clinical and

epidemiological studies:A modification of the ACR preliminary diagnostic criteria for

fibromyalgia . 74th American College of Rheumatology Annual Scientific Meeting

abstract 2010;S41.

15) 西岡健弥,他:FAS31を用いた線維筋痛症の治療評価 .  第4回日本線維筋痛症学会抄録集.

2012;78

16) 岡 寛,他:線維筋痛症に対するピロカルピン塩酸塩(サラジェン)の使用成績調査 第3

回日本線維筋痛症学会抄録集.2010:p60.

17) 植田弘師:線維筋痛症の種々の実験動物モデルの確立と治療薬候補化合物の薬理学的評価.

平成22年度厚生労働科学研究補助金免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業「線維筋痛症

の発症要因の解明及び治療システムの確立と評価に関する研究」班研究報告書.2011;

p16-19.

18) 西依倫子,他:線維筋痛症モデルとしての冷温繰り返しストレス(ICS)モデルマウスにおけ

る塩酸ピロカルピンの効果.第2回日本線維筋痛症学会学術集会抄録集.2010;p73.

19) Ohta H, et al:A randomized,double-blind, multicenter,placebo-controlled phase III

trial to evaluate the efficacy and safety of pregabalin in Japanese patients with

fibromyalgia.Arthritis Res Ther.2012;14:R217.

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

本邦における有病率1▶厚生労働省の研究班による全国疫学調査では,2003年1年間に線維筋痛症の診断で

病院に受診した患者数(受療患者数)は2600名〔95%信頼区間(CI):1900~3900

名〕,日本リウマチ財団登録医への線維筋痛症受療患者数は3900名(95%CI:3200

~4600名)であった。これは欧米のこれまでの疫学調査からみてもきわめて少ない

患者数である。

▶そこで同研究班により本邦2地域で住民調査が行われた。人口当たりの有病率は大

都市部2.2%(95%CI:0.6~3.8%),地方部1.2%(95%CI:0.4~2.1%)であり,全

体として本邦の有病率は人口比1.7%(95%CI:0.9~2.1%)であった。これまで思

われていたほど稀ではなく,本邦での有病率は欧米(約2%)にかなり近い値であ

り,線維筋痛症は本邦でも比較的頻度の高い機能性リウマチ性疾患であることが確

認された1~3)。この有病率に多くの臨床医が驚きと疑いを持つことがしばしばある。

しかしながら,日本における慢性疼痛保有率が人口の13.4%にみられると報告4)さ

れていること,最近のインターネット調査(2010)でもほぼ同様の値を示している

こと,また米国リウマチ学会予備診断基準(ACR2010)を用いた本邦インターネッ

ト調査(2011)でもほぼ同様の有病率を推計している5)。要は慢性疼痛患者の一部に

線維筋痛症患者が含まれることから線維筋痛症の有病率が人口比1.7%は決して現

実離れしたものではないことを強調したい。

▶このように線維筋痛症は比較的頻度の高いリウマチ性疾患であるにもかかわらず本

邦では認知度が低いことより,同研究班,日本線維筋痛症学会,NPO法人線維筋痛

症友の会,マスメディアによる啓蒙活動などにより,最近では線維筋痛症の認知度

が高まったと言える。そこで,第2回目のリウマチ財団登録医を対象とした調査が

行われ,2009年1年間に線維筋痛症と診断・診療した患者数は1万1000名(95%

CI: 6400~1万6000名)と推計され,前回調査より増加していると言え,やはりわ

本邦線維筋痛症の臨床疫学像2

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14

1

2

3

41

54a

6

71

8

ずかな患者数のみが推計されるにすぎない。本邦リウマチ医は関節リウマチを積極

的に診療するが,線維筋痛症の診療は避けている可能性が示唆される。一方,線維

筋痛症患者が最初に受診するプライマリケア医の本疾患の認知度調査では疾患概念

を知っているものは32.8%(2006年調査)であったものが,2009年調査では50.7%

であり,病名すら知らないものが28.4%から9.1%と激減し,線維筋痛症は本邦プラ

イマリケア医にも広く認識される疾患となった6)。

性差,年齢分布,家族内発生など 1~3)2▶性差については欧米の報告は男:女=1:8~9である。しかし,本邦症例では男:女

=1:4.8と欧米に比して男性の比率が高くなっているが,その理由は不明である。

患者の年齢は小児期,思春期や高齢者の症例もあるが,平均年齢は51.5±16.9(11

~84)歳であり,年齢とともに増加し,50歳代にピークがある(図1)1~3)。また,線

維筋痛症患者の4.8%が小児科年齢であった。一方,推定発症年齢は43.8±16.3(11

~77)歳である。

▶家族内発生,家族集積性が存在するとされているが,本邦では線維筋痛症の家族歴は

4.1%であった1)。さらに,本邦では線維筋痛症の認識が低いことより,確定診断がな

10歳代 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 80歳代

60

50

40

30

20

10

0

(例)

図1▶本邦線維筋痛症患者の年齢別分布 1~3)

1.有病者平均年齢:51 .5±16 .9 (11~84)歳 (小児科年齢4 .8%)2.発症年齢:43 .8±16 .3 (11~77)歳3.罹患年数:7 .4±7 .4 (1カ月~56年)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

されるまでに発症から平均4.3±7.4年(3カ月~50年)の長期を要しているが,その

半数は発症から1年以内に診断されていた(図2)1~3)。また,確定診断までに3.9±2.8

(1~17)診療科を受診し,いわゆるドクターショッピングの状況が明らかとなった。

線維筋痛症と診断されるまで長期を要することから,線維筋痛症の最終診断までに付

けられた臨床診断あるいは疑診名は,疾患の臨床像を反映してリウマチ性疾患・膠原

病が最も多く,次いで整形外科的疾患,基礎疾患不明,精神疾患,神経内科疾患と続

く。なかには診断なく,医療から見放されている例も少なからずある(表1)1~3)。

線維筋痛症の病型分類3▶線維筋痛症は既存のリウマチ性疾患をはじめ,各種疾患にしばしば随伴して発症す

ることが知られている。したがって,かつては線維筋痛症単独で発症するものを一

次性(primary)線維筋痛症,原疾患に随伴して発症する線維筋痛症は二次性(sec-

ondary)と病型分類されていたが,臨床的に差異がないことより,一次性,二次性の

分類は現在では行わない。本邦の全国疫学調査では線維筋痛症のみと原病に随伴し

て発症するものとでは,3:1と線維筋痛症単独例が優位である。他の疾患に随伴して

発症する線維筋痛症の原病には本邦例(n=93)では関節リウマチ(35.5%)が最も多

~3カ月 6カ月 1年 5年

発症からの経過時間

10年 15年 20年~

40

35

30

25

20

15

10

5

0

(例)

図2▶発症から診断までの期間 1~3)

◉厚生労働省全国疫学調査2004診断に要した時間:4 .3±7 .4 (0~50)年

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2

3

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8

く,次いで,その他のリウマチ性疾患(シェーグレン症候群:24.7%,全身性エリテ

マトーデス:6.5%など)であり,残り(20.4%)は間質性膀胱炎などの様々な非リウ

マチ性疾患である(表2)1~3)。

▶その他の病型として,急性発症(acute onset)線維筋痛症と潜行性(insidious)線維

筋痛症とがあり,急性発症例が多い。急性感染症,身体的外傷,ライフイベントを

含めた精神的外傷などが急性発症の誘因となる。また,発症の引き金が明らかな場

合には反応性(reactive)線維筋痛症と呼ばれることがある。これら病型のそれぞれ

の頻度については不明である。

▶また本邦症例の解析から,治療との関連でクラスター分類が提案されている。すな

わち,筋緊張亢進型,うつ型,筋付着部炎型および混合型の4型の分類であり,そ

れぞれ35%,25%,15%,25%である7)。

▶このうち筋緊張亢進型を含め線維筋痛症患者の一部に自己抗体〔抗電位依存性K+チ

ャネル複合体:voltage-gated potassium channel:VGKC complex(VGKC)抗体〕の

存在が確認され,病態・解析や病型バイオマーカーとなる可能性が注目されている8)。

表1▶ 線維筋痛症診断までの臨床診断,疑診名1~3)

リウマチ性疾患 76.4%関節リウマチ …………………… 41.0%シェーグレン症候群 …………… 14.6%多発性筋炎 ……………………… 12.9%膠原病 …………………………… 10.7%全身性エリテマトーデス …………4.5%変形性関節症 ………………………3.4%リウマチ性多発筋痛症 ……………2.8%線維筋痛症 …………………………2.8%その他 ………………………………7.3%

診断不明 15.9%

異常なし 5.6%

慢性疼痛性疾患 15.0%頸椎症 …………………………… 25.7%頸肩腕症候群 …………………… 20.0%腰痛症 …………………………… 11.4%その他 …………………………… 42.9%

精神疾患 15.9%うつ病 …………………………… 40.5%自律神経失調症 ………………… 18.9%神経症 …………………………… 13.5%心身症 …………………………… 13.5%

神経疾患 3.9%

◉厚生労働省研究班調査2004,n=233

表2▶ 本邦線維筋痛症の合併病態 1~3)

関節リウマチ 33.5%

他のリウマチ性疾患 44.1%シェーグレン症候群 …………… 24.7%全身性エリテマトーデス …………6.4%強皮症 ………………………………2.2%ベーチェット病 ……………………2.2%血清反応陰性脊椎炎 ………………2.2%混合性結合組織病 …………………2.2%その他 ………………………………3.2%

非リウマチ性疾患 20.4%間質性膀胱炎 ………………………5.4%変形性関節症など ……………… 15.0%

◉厚生労働省研究班調査 2004,n=93

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

本邦線維筋痛症の臨床像 1~3)4▶全国疫学調査から得られた本邦線維筋痛症では,中心症状は全身の広汎な慢性疼痛

と解剖学的に明確な部位の圧痛であり,ほぼ全例に認められる。一方,筋・骨格系以

外の症状(随伴症状)として報告されているものは身体症状として,種々の程度の疲

労・倦怠感,微熱(38℃以下),レイノー現象,盗汗,動悸,呼吸苦,嚥下障害,間

質性膀胱炎様症状,生理不順・月経困難症,体重の変動,寒暖不耐症,顎関節症,腹

部症状,便通異常(下痢,便秘),手の腫脹,口内炎,皮膚瘙痒感,皮疹,光線過敏

症,各種アレルギー症状などがあり,神経症状としては頭痛・頭重感,四肢の感覚障

害,手指ふるえ,眩暈,浮遊感,耳鳴,難聴,羞明,視力障害,筋力低下,筋脱力

感,手根管症候群,restless leg syndrome(下肢静止不能症候群;むずむず脚症候

群)などであり,精神症状には睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群を含む),抑うつ気分,

不安感,焦燥感,集中力低下,注意力低下,健忘,軽度の意識障害などがある(表3,

4)1~3)。これら線維筋痛症の臨床像に人種間,民族間の差異がみられるとの報告はな

いが,本邦人では欧米症例に比して,乾燥症状(薬剤によらない),疲労・倦怠感,抑

うつ,頭痛・頭重感,不安感の出現頻度が高いことが明らかとなった(表3,4)1~3)。

▶一方,ほぼ全例に疲労・倦怠感を訴えるが,その疲労は休養により回復困難な程度

であることが本邦例の検討で明らかにされた。すなわち,疲労の程度の客観的評価

であるperformance status(PS:0~9)を用いた検討では,平均6.0±2.4(0~9)で

あり,慢性疲労症候群の疲労のPS scoreが3以上とされていることから,線維筋痛

症患者は慢性疲労症候群に匹敵する激しい疲労・倦怠感を自覚している(図3)8)。

本邦線維筋痛症の発症様式5▶全国疫学調査(2004年)で得られた本邦線維筋痛症(n=250)の検討では,急性発症

が21.7%,亜急性発症は32.7%,潜行性発症は27.5%,不明が18.1%であり,半数

以上が何らかの誘因を契機に比較的急速に発症することが確認された。誘因とし

て,何らかの手術歴を有するものが39.0%,外傷歴は16.9%であった。手術歴のう

ち腹部手術が36.0%,婦人科的手術が19.6%,脊椎の手術が5.2%であり,外傷は54

%が脊椎外傷であった(表5)。

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表3▶ 本邦線維筋痛症の臨床症状(Ⅰ)1~3)

疼 痛全身痛 …………………………………… 91.7%関節痛 …………………………………… 82.0%筋肉痛 …………………………………… 70.9%他の軟部組織痛 ………………………… 47.2%

膠原病様症状こわばり ………………………………… 63.7%乾燥症状 ………………………………… 49.3%手の腫脹 ………………………………… 23.8%口内炎 …………………………………… 22.4%発 熱 …………………………………… 17.6%皮膚瘙痒 ………………………………… 17.5%レイノー現象 …………………………… 12.9%皮 疹 …………………………………… 10.9%光線過敏 …………………………………… 9.8%

身体症状疲 労 …………………………………… 90.9%腹部症状 ………………………………… 44.2%便通異常 ………………………………… 43.1%身体の冷感 ……………………………… 32.5%動 悸 …………………………………… 30.1%身体のほてり …………………………… 26.8%呼吸苦 …………………………………… 24.3%体重変動 ………………………………… 23.7%いびき …………………………………… 19.1%アレルギー症状 ………………………… 17.1%膀胱炎症状

頻 尿 …………………… 15.0%残尿感 …………………… 15.0%排尿痛 …………………… 10.3%

咳 嗽 …………………………………… 16.3%嚥下痛 …………………………………… 12.2%さ 声 …………………………………… 11.0%生理痛 …………………………………… 13.0%月経困難症 ……………………………… 22.3%

◉厚生労働省研究班調査2004

表4▶ 本邦線維筋痛症の臨床症状(Ⅱ)1~3)

神経症状頭重感・頭痛 ……………………………… 72.1%しびれ …………………………………… 64.8%めまい …………………………………… 44.6%浮遊感 …………………………………… 25.4%羞 明 …………………………………… 15.8%手根管症候群 ……………………………… 5.5%

精神症状睡眠障害 ………………………………… 73.1%不安感 …………………………………… 64.3%抑うつ …………………………………… 60.5%焦燥感 …………………………………… 41.1%集中力低下 ……………………………… 38.7%健 忘 …………………………………… 18.5%睡眠時無呼吸 ……………………………… 7.8%意識障害 …………………………………… 2.0%

頭重感・頭痛頭 痛 …………………………………… 66.2%筋緊張性頭痛 …………………………… 37.0%血管性頭痛 ………………………………… 6.0%偏頭痛 …………………………………… 57.0%頭重感 …………………………………… 33.8%

全身痛右上半身 ………………………………… 89.9%左上半身 ………………………………… 81.9%右下半身 ………………………………… 91.4%左下半身 ………………………………… 79.1%体軸部 …………………………………… 59.7%

関節痛膝 ………………………………………… 64.4%肩 ………………………………………… 63.5%肘 ………………………………………… 49.5%手指 ……………………………………… 45.2%手 ………………………………………… 44.7%足 ………………………………………… 44.2%股 ………………………………………… 29.8%足趾 ……………………………………… 19.7%胸鎖 ……………………………………… 19.2%顎 ………………………………………… 16.3%

◉厚生労働省研究班調査2004

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

線維筋痛症の重症度分類と総合的疾患活動性評価法6▶一口に線維筋痛症といっても患者ごとに,時期によって,その病勢は異なるので,

病勢の客観的評価法として,線維筋痛症の重症度分類(ステージ分類)試案が提案さ

れている。すなわち,臨床症状の組み合わせや症状の強さからステージⅠ~Ⅴに分

類(表6)9)されており,本邦例では30%近くがステージⅢ以上であるとされている。

▶線維筋痛症患者の疾患による健康への影響の総合的評価として,疾患特異的に開発さ

れたものとしてFIQ(fibromyalgia impact questionnaire)があり,原語による整合

0~2normal

3~5recovered

6~9unrecovered

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80

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60

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図3▶本邦線維筋痛症患者の疲労・倦怠感(n=151)3)

疲労のperformance status(PS;0~9):6 .0±2 .4

表5▶ 本邦における線維筋痛症発症の誘因

家族歴 4.1%(10/243例)

既往歴 手術歴 ………………………… 39.0%(99/254例)腹部手術 ………………………………… 36.0%婦人科手術 ……………………………… 19.6%関節・筋骨格系手術 ……………………… 13.4%脊 椎 ……………………………………… 5.2%その他 …………………………………… 54.7%

外傷歴 ………………………… 16.9%(41/253例)脊椎外傷 ………………………………… 54.0%

◉厚生労働省研究班調査 2004(n=254)

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性が検証されている日本語での翻訳版(J-FIQ)も出版されている10)。いずれのFIQ

も線維筋痛症患者のよい指標であると言われ,治療などの介入による効果を反映し

て評価が可能なことが特徴である。さらに,最近ではより日常生活に即したものと

した改定(FIQR)11)がなされており,その日本語版も間もなく発刊される予定であ

る。

▶一方,米国リウマチ学会から線維筋痛症の診断基準が20年ぶりに改訂され,予備診

断基準として提案されているが,この基準には診断基準のみならず線維筋痛症の病

勢を数量(スコア)化した臨床徴候重症度も提案されており,重症度として0~12

のスコアで示される12)。ACR2010予備診断基準をさらに簡略化したものが提案さ

れ(ACR2010改定基準)13)。線維筋痛症に重要な自覚症状として,慢性疼痛の拡大

度,ならびに疼痛以外の自覚症状として疲労感,起床時の気分不良,認知症状,あ

るいは頭痛,うつ症状,下腹部クランプを取り入れ,総計31点となる。このスコア

が13/31以上の場合は線維筋痛症と診断できるとし,スコア値(0~31)が線維筋痛

症らしさ(fibromyalgianess)を表している。西岡らはこれをFAS31(0~31)とし,

疾患重症度としての臨床的意義を提唱している。

本邦線維筋痛症の臨床経過 1~3)7▶線維筋痛症は長期にわたって持続し,回復が困難な慢性の難治性病態である。発症

から1~2年は安定した状態で経過し,回復・軽快するとされているが,それ以後の

表6▶ 線維筋痛症の重症度(ステージ)分類試案 9)

ステージ分類 臨床病像 頻度

ステージⅠ米国リウマチ学会分類基準の18箇所の圧痛点のうち11箇所以上の痛みであるが,日常生活に重大な影響を及ぼさない

44.0%

ステージⅡ手足の指の末端部に痛みが広がり,不眠,不安感,うつ状態が続く。日常生活が困難

31.0%

ステージⅢ激しい痛みが持続し,爪や髪への刺激,温度・湿度変化など軽微な刺激で激しい痛みが全身に広がる。自力での生活は困難

9.8%

ステージⅣ痛みのために自力で体を動かせず,ほとんど寝たきり状態に陥る。自分の体重による痛みで,長時間同じ姿勢で寝たり座ったりできない

9.1%

ステージⅤ激しい全身の痛みとともに,膀胱や直腸の障害,口の渇き,目の乾燥,尿路感染など全身に症状がでる。通常の日常生活は不可能

6.1%

◉厚生労働省研究班西岡試案

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

経過が必ずしもよくない。本邦症例の検討では生命予後はまったく良好であるが,1

年間の経過で治癒はわずか1.5%しかなく,51.9%が何らかの症状の改善がみられ

るのみで,37.2%は病状に変化なく経過し,2.6%が悪化していた。すなわち,多く

が発症時と同様の病状を示しながら経過している。一方,小児例では比較的経過が

良好で,大部分が発症から1~2年以内に回復するとされているが,本邦例では不

明である。また,入院の頻度については,本邦例では過去1年間に13.5%の症例に

入院歴があった。

線維筋痛症の機能的予後 1~3)8▶線維筋痛症そのものが直接死因となることはないが, 著しい日常生活動作能

(ADL)の低下を伴いながら長期にわたって経過する。本邦例では約半数が1年間の

経過でADLはなんとか自立できているが,残り半数に何らかのADLの低下が認め

られ,27.2%が著しく低下していた。34.0%が休職・休学の状況にあり,その期間は

3.2±4.8年(1カ月~20年)であった。

▶一方,線維筋痛症患者の生活の質(QOL)もきわめて悪いとされている。QOLの包

括的尺度の中で国際的に広く用いられているSF-36による検討でも,すべての下位

尺度において,一般国民に比して2~3SD(標準偏差値)の低下がみられ,身体的,

精神的QOLがともに著しく低下していた。一方,関節リウマチで用いられる指標で

あるmHAQ(modified health assessment questionnaire)による評価でも,本邦線

維筋痛症患者では0.77±0.74(0~3)と低い状態であることが確認されている。リ

ウマチ性疾患の中で線維筋痛症がどの程度のQOLの状態にあるかについては,関

節リウマチ(RA)より低いが,全身性エリテマトーデス(SLE)患者と同程度であろ

うと考えられている14)。

■文献1) 松本美富士,前田伸治,玉腰暁子,他:線維筋痛症の臨床疫学像(全国疫学調査の結果から).

臨床リウマチ 2006;18:87-92.

2) 松本美富士,前田伸治,玉腰暁子,他:本邦線維筋痛症の臨床疫学像解明に関する研究.厚生

労働科学研究免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業:関節リウマチの先端的治療に関す

る研究.平成16年度研究報告書 2005;49-52.

3) 松本美富士:線維筋痛症の疫学.Pharma Medica 2006;24:35-39.

4) 服部政治:日本における慢性疼痛保有率.日本薬理学会誌 2006;127:176-180.

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5) Nakamura I,Nishioka K,Usui C,et al:An epidemiological internet survey of fibromyalgia

and chronic nonspecific pain in Japan.Ann Rheumatic Dis(submitted).

6) 松本美富士:本邦線維筋痛症の疾患認知度の経年的変化および診療ガイドライン作成に関

する研究.厚生労働省線維筋痛症の発症要因の解明及び治療システムの確立と評価に関す

る研究,平成22年度研究報告書,2010;27-29.

7) 西岡久寿樹:膠原病・診断と治療の進歩 <トピックス> Ⅱ.最近の話題 1.線維筋痛症

の現状と問題点.日本内科学会雑誌2007;96:2235-2240.

8) 山野嘉久:線維筋痛症患者における抗VGKC複合抗体の測定.平成23年度厚生労働省線維

筋痛症をモデルとした慢性疼痛機序の解明と治療法の確立に関する研究 平成23年度報

告書,2011.

9) 西岡久寿樹:線維筋痛症対策の現状と展望.Pharma Medica 2006;24:9-13.

10) 長田賢一,富永桂一朗,岡 寛,他:日本語版Fibromyalgia Impact Questionnaire(J-FIQ)

の開発:言語的妥当性を担保とした翻訳版の作成.臨床リウマチ2008;20:19-28.

11) Bennett RM,Friend R,Jones KD,et al:The revised fibromyalgia impact questionnaire

(FIQR)validation and psychometric properties.Arthritis Res Ther 2009;11:415.

12) Wolfe F,Clauw DJ,Fitzcharles MA,et al:The American College of Rheumatology

preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity.

Arthritis Care Res 2010;62:600-610.

13) Wolfe F,Clauw DJ,Fitzcharles MA,et al:Fibromyalgia criteria and severity scales for

clinical and epidemiological studies:a modification of the ACR preliminary diagnostic

criteria for fibromyalgia.J Rheumatol 2011;38:1113-1122.

14) Costa DD,Dobkin PI,Fitzcharles MA,et al:Determinants of healthy status in

fibromyalgia:a comparative study with systemic lupus erythematosus.J Rheumatol

2000;27:365-372.

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

米国リウマチ学会(ACR)線維筋痛症分類基準(1990) エビデンスⅡa 推奨度A1▶線維筋痛症の臨床的基準として,疾患定義基準,分類基準,診断基準など様々なも

のがこれまで提案されてきた。その中で米国リウマチ学会(ACR)が疾患の定義,

病名の提唱とともに線維筋痛症分類基準(1990)(表1,図1)1)を提案した。この基

準については提案当初から最近に至るまで様々な意見があることも事実であるが,

その有用性から広く国際的に分類(診断)基準として用いられ,臨床的には診断基準

として用いられてきたのが現状である。しかし,分類基準はあくまでも,線維筋痛

症症例を用いた臨床研究や基礎的研究に際して線維筋痛症症例の質の担保を保証す

るものであり,診断基準ではない。診療の場では分類基準を満たさない症例が存在

し,分類基準を満たさない症例を線維筋痛症から除外するための基準でもない。

ACRが分類基準(1990)を作成するときに用いられた症例は線維筋痛症症例が293

例,対照症例は165例,これら症例による診断感度は88.4%,診断特異度は81.1%

であり,優れた有用度を示し,診断基準として用いることの有用性を示していた。

その結果,ACR分類基準(1990)が広く国際的に診断基準的として用いられている

のが実情である。しかしながら,この基準作成時に用いた症例(対照症例)は米国症

例であり,本邦症例に対する妥当性の検証が行われないまま,診断基準として用い

るには問題があることを認識すべきである。

▶一方,ACRが2010年に20年ぶりに線維筋痛症の臨床基準として予備診断基準を提

案した2)。この基準はもっぱら自覚症状の臨床徴候の組み合わせからなり,線維筋

痛症の特徴的臨床像が確認される場合に臨床診断が可能であり,さらに臨床徴候に

基づく臨床的病勢の数量化(徴候重症度:symptom severity:SS)を提案している

ことが特徴である。このACR2010予備診断基準をさらに簡略化したものが提案さ

れた(ACR2010改定基準)3)。

診断基準3

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本邦線維筋痛症に対する妥当性の検討 エビデンスⅡa 推奨度A2▶厚生労働省研究班により線維筋痛症のACR分類基準(1990)の本邦例における診断

基準としての妥当性の検証が実施された。すなわち,全国疫学調査の二次調査で得

られた本邦線維筋痛症症例のうち解析可能な257例を対象とし,対照症例(非線維

筋痛症症例)は本研究班の臨床医の構成員から得られた各種リウマチ性疾患(123

例),および心療内科,精神科的疾患を含む非リウマチ性疾患(147例)の計270例が

表1▶線維筋痛症の分類基準 (米国リウマチ学会1990)1)

1.広範囲にわたる疼痛の病歴

定義 広範囲とは右・左半身,上・下半身,体軸部(頸椎,前胸部,胸椎,腰椎)

2.指を用いた触診により,18箇所の圧痛点のうち11箇所以上に疼痛を認める

定義両側後頭部・頸椎下方部・僧帽筋上縁部・棘上筋・第2肋骨・肘外側上顆・臀部・大転子部・膝関節部

指を用いた触診は4kg/cm2の圧力で実施(術者の爪が白くなる程度)圧痛点の判定:疼痛に対する訴え(言葉,行動)を認める

判定広範囲な疼痛が3カ月以上持続し,上記の両基準を満たす場合。第二の疾患が存在してもよい

▶ 後頭部(後頭下筋腱付着部)

▶ 下部頸椎(C5-7頸椎間前方)

▶ 僧帽筋(上縁中央部)

▶ 棘上筋(起始部で肩甲骨棘部の上)

▶ 第2肋骨(肋軟骨接合部)

▶ 肘外側上顆(上顆2cm遠位)

▶ 臀 部(4半上外側部)

▶ 大転子(転子突起後部)

▶ 膝(上方内側脂肪堆積部)

図1▶線維筋痛症分類基準の圧痛点 (米国リウマチ学会1990)1)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

用いられた。その結果,ACR分類基準(1990)を診断基準として本邦症例に適用し

てみると,診断感度は75.9%,診断特異度は97.4%であり,また,本邦症例での

1990年基準は陽性予測値が96.5%,陰性予測値は80.9%であった。したがって,そ

の有用度は86.9%ときわめて優れたものであり,本邦症例にも診断基準として用い

ることの妥当性が検証された4)(推奨度A)。

米国リウマチ学会(ACR)分類基準(1990)の問題点3▶ACR分類基準を本邦人を対象に診断基準として用いると,高い有用度(86.9%)が

得られたが,ACR症例に比して感度が有意(P<0.001)に低く,特異度が有意(P

<0.0001)に高い値を示しており,本邦人には若干感度が低くなる。その要因は,本

邦例ではACR分類基準(1990)で定義化されている圧痛点,疼痛の広がりが少ない

ことと,基準の検証に用いた本邦対照症例では線維筋痛症と鑑別すべき心療内科,

精神科疾患が多く含まれているが,ACRでの対照には他のリウマチ性疾患のみで

あり,心療内科,精神疾患が含まれていないことによると考えられている。

▶さらに,本基準については作成当初から多くの議論が絶え間なく続けられている

が,本基準より妥当性の高い基準がいまだ存在しないため,現状ではACR分類基

準(1990)を本邦人に対しても用いざるをえないのが現状であった。また,この基準

は他の疾患に随伴して発症する,いわゆる二次性線維筋痛症例であっても,この基

準を満たす場合は病型に関連なく線維筋痛症の存在を診断すべきであることを示し

ている。

米国リウマチ学会(ACR)予備診断基準(2010)の提案 エビデンスⅡa 推奨度B4▶上記問題点を背景に2010年にACRが20年ぶりに線維筋痛症の臨床基準として予

備診断基準(2010)を提案した。ここに至った理由を考えてみると,1990年基準は

身体の広汎な慢性疼痛と圧痛点の2項目からなり,線維筋痛症が機能性身体症候群

のひとつであり,機能性リウマチ性疾患であるとの病態を反映していないこと,実

地臨床では実施率が低く,かつ一定の経験と技術を要する圧痛点の評価が重要な項

目となっていること,線維筋痛症は本来症候群的な病態であるにもかかわらず,前

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記2項目で規定するといった画一的疾患と扱っていること,さらに時間経過がまっ

たく考慮されず,圧痛点が満たさない場合の取り扱いが不明であることである。ま

た,2010年基準の重要なことは分類基準(1990)でなく,診断基準であることであ

り,疼痛以外の線維筋痛症に特徴的臨床徴候を積極的に取り入れており,プライマ

リケア医をも対象として作成され,徴候重症度(symptom severity:SS:徴候重症

度)を提唱し,経時的に使用できる点である。

▶線維筋痛症ACR予備診断基準(2010)は以下の3項目からなる。すなわち,① 定義

化された慢性疼痛の広がり(widespread pain index:WPI:広範囲疼痛指数)が一

定以上あり,かつ臨床徴候重症度(symptom severity:SS)スコアが一定以上ある

こと,② 臨床徴候が診断時と同じレベルで3カ月間は持続すること,③ 慢性疼痛を

説明できる他の疾患がないこと,この3項目を満たす場合に線維筋痛症と診断でき

るとするものである。

▶疼痛の部位は,左右肩甲帯部,左右上腕,左右前腕,左右臀部,左右大腿部,左右

下腿部,左右顎関節部,背部,腰部,頸部,胸部,腹部である。

▶臨床症候重症度の評価は疲労・倦怠感,起床時不快感,認知障害の有無であり,各

項目について程度により0~3のスコア化を行って,0~9で点数化される。

▶また,身体徴候には筋肉痛,過敏性腸症候群,疲労・倦怠感,問題解決や記銘力障

害,筋力低下,頭痛,胃痙攣様腹痛,しびれ・耳鳴,めまい,不眠,抑うつ気分,便

秘,上腹部痛,嘔気,嘔吐,神経質,胸痛,視力障害,眩しさ,下痢,発熱,口腔

乾燥,眼乾燥,瘙痒,喘鳴,レイノー現象,皮疹・蕁麻疹,胸焼け,口内炎,味覚

障害,失神,痙攣,呼吸苦,食欲低下,光線過敏(日光過敏),難聴,紫斑(出血傾

向),脱毛,頻尿,排尿痛,膀胱痙攣があり,これらの臨床徴候の保有数によりスコ

ア化(0~3)する。

▶以上の臨床徴候の評価でWPI(疼痛拡大指標)が7以上かつSS(臨床徴候重症度)が

5以上の場合,あるいはWPIが3~6でかつSSが9以上の場合に②,③を満たせば

線維筋痛症と診断されるものである2)(図2)。

▶一方では,予備診断基準(2010)は分類基準(1990)にとって代わるものでないこと,

この基準の有用性の検証に,対照疾患には非炎症性リウマチ性疾患を用いており,

炎症性リウマチ性疾患,心療内科的疾患,精神疾患,あるいは線維筋痛症以外の機

能性身体症候群などが用いられていないこと,男性症例や小児科対象年齢の症例が

含まれていないこと,また基礎疾患に併発した線維筋痛症の扱いが不明であるこ

と,数量化される臨床徴候重症度の有用性の検証がなされずに,スコア0~12で重

症度を規定すること, 臨床徴候重症度と従来のfibromyalgia impact question-

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

naire:FIQなどの指標との比較がなされていないこと,さらに臨床徴候の評価であ

り,自記式問診票として用いられる場合の問題点が不明であるなどである。

▶ACR2010予備診断基準をさらに簡略化したものが提案され〔ACR2010改定基準

(2011)〕3)。線維筋痛症に重要な自覚症状として,慢性疼痛の拡大度,ならびに疼痛

以外の自覚症状として疲労感,起床時不快感,認知症状,あるいは頭痛,うつ症状,

下腹部クランプを取り入れ,総計31点となる。このスコアが13/31以上の場合は線

維筋痛症と診断できるとし,スコア値(0~31)が線維筋痛症らしさ(fibromyal-

gianess)を現している(図3)とされている。西岡らはこれをFAS31(スコアが0~

31に分布)とし,疾患重症度としての臨床的意義を提唱している。

▶新たに提案された線維筋痛症ACR予備診断基準(2010 ),ならびにACR2010改定

基準(2011)について本邦症例での妥当性の検討が早急になされ,臨床の場でこの

基準を用いることの有用性を検証する必要がある。

図2▶ACRの線維筋痛症予備診断基準(2010) (西岡久寿樹 ACR2010診断基準チェック票を日本人向けに一部改変)

SS症候 問題なし 軽度 中等度 重度

疲労感 0 1 2 3

起床時不快感 0 1 2 3

認知症状 0 1 2 3

合計:    点

SS一般的な身体症候 0:なし

1:軽度

2:中等度

3:重度

筋肉痛 過敏性腸症候群

疲労感・疲れ

思考・記憶障害 筋力低下 頭痛

腹痛・ 腹部痙攣

しびれ・刺痛 めまい 睡眠障害 うつ 便秘

上部腹痛 嘔気 神経質 胸痛 視力障害 発熱

下痢 ドライマウス かゆみ 喘鳴 レイノー

症状 蕁麻疹

耳鳴り 嘔吐 胸やけ 口腔内潰瘍 味覚障害 痙攣

ドライアイ 息切れ 食欲低下 発疹 光線過敏 難聴

あざが出来やすい 抜け毛 頻尿 排尿痛 膀胱痙攣

合計: 症候   点 + 身体症候   点=   点

注1: SSの一般的な身体症候の数については各施設にゆだねられている

WPI:19箇所過去1週間の疼痛範囲数

顎 右 左

肩 右 左

上腕 右 左

前腕 右 左

胸部

腹部

大腿 右 左

下腿 右 左

頸部

背部 上 下

臀部 右 左

WPI合計:   点

以下の3項目を満たすものを線維筋痛症と診断する

WPI7以上+SS5以上またはWPI3~6+SS9以上

少なくとも3カ月症候が続く

他の疼痛を示す疾患ではない

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■文献1) Wolf F,Smythe HA,Yanus MB,et al:The American College of Rheumatology 1990

criteria for classification of fibromyalgia.Arthritis Rheum 1990;33:160-172.

2) Wolfe F,Clauw DJ,Fitzcharles MA,et al:The American College of Rheumatology

preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity.

Arthritis Care Res 2010;62:600-610.

3) Wolfe F,Clauw DJ,Fitzcharles MA,et al:Fibromyalgia criteria and severity scales for

clinical and epidemiological studies:a modification of the ACR preliminary diagnostic

criteria for fibromyalgia. J Rheumatol 2011;38:1113-1122.

4) 松本美富士:線維筋痛症の本邦における認知度及び米国リウマチ学会分類基準(1990)の有

用性の検証に関する研究.厚生労働省アレルギー免疫疾患予防・治療研究事業:関節リウマ

チ及び線維筋痛症の寛解導入を目的とした新規医薬品の導入・開発及び評価に関する包括

的研究 平成18年度研究報告書.2007;p43-45.

図3▶ACR線維筋痛症予備診断基準の改訂版(2011) (西岡久寿樹 ACR2010診断基準チェック票を日本人向けに一部改変)

症候 問題なし 軽度 中等度 重度

疲労感 0 1 2 3

起床時不快感 0 1 2 3

認知症状(思考,記銘力障害) 0 1 2 3

合計:    点

一般的な身体症候 0:なし 1:あり

下腹部痛または下腹部クランプ 抑うつ気分 頭痛

合計(SS): 症候点 + 身体症候点 =       点

以下を満たすものを線維筋痛症と診断する

WPI+SS≧13

WPI:19箇所過去1週間の疼痛範囲数

顎 右 左

肩 右 左

上腕 右 左

前腕 右 左

胸部

腹部

大腿 右 左

下腿 右 左

頸部

背部 上 下

臀部 右 左

WPI合計:   点

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

▶この項では主としてリウマチ性疾患の鑑別診断を述べる。また,間質性膀胱炎,過

敏性腸症候群など本書において他の項に分類できない疾患も後半で述べた。

関節リウマチ(RA)1疫学像

▶RAの好発年齢は30歳代から50歳代で,男女比は1対4,有病率は人口比で0.5%程

度と言われる。線維筋痛症の好発年齢は50歳代にピークがある。わが国における男

女比は1:4.8であり,女性が圧倒的に多い。一方,線維筋痛症に関しては厚生労働

省研究班の調査では線維筋痛症は人口比で1.7%と報告されている。RAは0.5%程

度であり,線維筋痛症より有病率は低い1,2)。

臨床像

▶線維筋痛症との大きな違いは関節の腫脹である。特に手指の関節が左右対称的に腫

脹することが多く,近位指節間関節が紡錘形に腫れる。病状の進行とともに手関節,

肘関節,膝関節,足関節,脊椎などに波及し,腫脹がみられる。そのため関節軟骨

のみならず,骨の破壊が起こる。X線所見で骨びらんなどが確認されると診断は確

実である。

臨床経過と予後

▶四肢関節などの破壊により,機能的予後は悪い。頸椎病変では進行した長期症例で

は環軸関節亜脱臼がみられる。また,関節外症状が出現する症例も多く,上強膜炎,

シェーグレン症候群,間質性肺炎,リウマトイド結節,四肢の壊疽など血管炎に伴

う症状,また,アミロイドーシスによる下痢あるいは蛋白尿も出現することがある。

間質性肺炎,アミロイドーシス,あるいは血管炎を伴う症例は生命的予後が悪い1,2)。

▶線維筋痛症との違いは関節破壊による障害であり,線維筋痛症ではそのような骨関

節破壊はみられない。また,間質性肺炎などの関節外症状もない。

鑑別診断

線維筋痛症とリウマチ性疾患の鑑別

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診断基準

▶診断には米国リウマチ学会分類基準(1987年)(表1)が使われていたが3),2010年

に米国リウマチ学会とヨーロッパリウマチ学会の合同による関節リウマチ分類基準

が発表された4)。この分類基準は完成度が高く,本邦症例には有用性も検証されて

おり,臨床現場でも広く使用されつつある(表2)。

表1▶関節リウマチ ─ 米国リウマチ学会分類基準(1987年)

1.1時間以上続く朝のこわばり

2.3箇所以上の関節の腫脹

3.手の関節(手関節,中手指節関節,近位指節間関節)の腫脹

4.対称性の関節腫脹

5.手のX線写真の異常所見

6.皮下結節

7.血液検査でリウマトイド因子が陽性

以上の7項目からなる。

このうち4項目以上満たせば関節リウマチと診断する。 ただし,1から4までは6週間以上持続することが必要。

(文献1より引用)

表2▶ 関節リウマチ 新分類基準

点数

関節病変

中・大関節に1つ以下の腫脹または疼痛関節あり 0

中・大関節に2~10個の腫脹または疼痛関節あり 1

小関節に1~3個の腫脹または疼痛関節あり 2

小関節に4~10個の腫脹または疼痛関節あり 3

少なくとも1つ以上の小関節領域に10個を超える腫脹または疼痛関節あり 5

血清学的因子

RF*,ACPA**ともに陰性 0

RF*,ACPA**の少なくとも1つが陽性で低力価 2

RF*,ACPA**の少なくとも1つが陽性で高力価 3

滑膜炎持続期間

<6週 0

≧6週 1

炎症マーカー

CRP,赤沈ともに正常 0

CRP,赤沈のいずれかが異常 1

スコアの合計が6点以上である症例は「関節リウマチ確定例(definite RA)」と診断される*:リウマトイド因子 **:抗CCP抗体 (文献4より引用)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

鑑別診断の要点

▶理学所見と検査所見を評価することにより,鑑別は容易であるが,初期には線維筋

痛症とみなされることがある5)。特に手指の紡錘形の腫脹,肘関節,膝関節の腫脹

は見逃すべきではない。X線所見は手部の所見が重要である。手根骨の骨びらんな

どが出現している場合は線維筋痛症の単独発症ではない。関節リウマチの検査所見

ではほとんどの症例が赤沈,CRP,MMP-3,などが異常高値を示す。また,抗CCP

抗体,リウマトイド因子なども異常値を示すことが多いが,リウマトイド因子が弱

陽性の場合は鑑別の指標とはなりにくい。

シェーグレン症候群2疫学像

▶線維筋痛症で乾燥症状をきたすことが多い。シェーグレン症候群は,40代以降の中

年女性に多い。有病率は約10万人当たり25人で男女比は1:13.7と女性に多くみら

れる2)。

臨床像

▶眼球乾燥症状,口腔乾燥症状,口角炎・口内炎,胃炎,中耳炎などを起こしやすい。

そのほか,腟炎,レイノー現象,紫斑,皮膚の乾燥症状,関節炎,リンパ節腫脹,

耳下腺腫脹,などを起こす。また,肝機能異常,甲状腺機能低下症,間質性腎炎,

間質性肺炎,悪性リンパ腫,などの併発もある。

臨床経過と予後

▶膠原病に合併する続発性シェーグレン症候群と,膠原病の合併のない原発性シェー

グレン症候群に分類される。原発性シェーグレン症候群は3病型に分けられる。そ

の第一には眼球乾燥と口腔乾燥症状のみがある症例で,約45%と言われている。第

二は全身性の臓器病変を伴うグループで,約50%。第三は悪性リンパ腫や原発性マ

クログロブリン血症を発症した状態で,約5%である。約半数の症例は10年以上経

っても何の変化もなく過ごすが,残りの半数の症例では10年以上経つと何らかの

検査値の異常や新しい病変がみられる2)。

診断基準

▶シェーグレン症候群厚生省診断基準(1999年)が使われる2)(表3)。

鑑別診断の要点

▶線維筋痛症では乾燥症状が49.3%にみられると報告されており6),シェーグレン症

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候群が潜在する可能性も無視できない。シェーグレン症候群と確定診断される症例

は多くはないが,シェーグレン症候群が疑われる症例は膠原病専門医の受診が勧め

られる。耳鼻咽喉科ではガムテスト,サクソンテスト,唾液腺造影,唾液腺シンチ

グラフィー,唾液腺生検,眼科ではシルマーテスト,蛍光色素試験,細隙灯顕微鏡

検査などが行われる。器質的疾患であるシェーグレン症候群と確定診断できる症例

は線維筋痛症の10%以下と考えられる7)。

▶逆にシェーグレン症候群と診断された症例の中で広範囲疼痛を訴える症例は線維筋

痛症や,いわゆる小径線維ニューロパチーに類縁の症状がみられる。

脊椎関節炎3概念と有病率

▶強直性脊椎炎が代表的疾患であり,乾癬性関節炎,掌蹠膿疱症骨関節炎,腸炎性関

節炎,ぶどう膜炎由来の関節炎,反応性関節炎,未分化型脊椎関節炎などが含まれ

る。有病率は諸外国で異なり,0.5%から1%前後の報告が多い。本邦では和歌山県

上富田町の調査で,関節リウマチと同等であり,0.2%の有病率であったと報告され

ている8)。線維筋痛症の有病率の8分の1程度と考えられる。

臨床像

▶脊椎関節炎で初期に炎症を起こす部位は,腱や靱帯の付着部である。発病当時は潜

行性と言われ,軽度の背部痛,腰痛などから始まる。末梢関節炎型は四肢の関節炎

症状をきたす。欧米に比してわが国ではX線所見でbamboo spine(竹様脊椎)をき

たす症例は非常に少ない。

表3▶シェーグレン症候群改訂診断基準(1999年,日本)

1.口唇小唾液腺の生検組織でリンパ球浸潤がある

2.唾液分泌量の低下がガムテスト,サクソンテスト,唾液腺造影,シンチグラフィーなどで証明される

3.涙の分泌低下がシャーマーテスト,蛍光色素試験などで証明される

4.抗SS-A抗体もしくは抗SS-B抗体が陽性である

この4項目の中で2項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断される

◉厚生省自己免疫疾患研究班 (文献2より引用)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

臨床経過と予後

▶症状は項部痛,背部痛,腰臀部痛,胸肋鎖骨部痛,股関節痛,膝関節痛,足関節痛,

踵部痛など四肢・体幹に疼痛をきたす。また,軽度の発熱,体重減少,疲労感など

もよくみられる。画像所見で初期には仙腸関節炎が認められる。顕著な仙腸関節炎

を有する症例は強直性脊椎炎と診断される。機能的予後は脊柱の強直などにより,

脊柱の運動障害が起こる。また,四肢・体幹の付着部炎により,肩関節,手指関節,

股関節,膝関節,足関節などに拘縮が出現する症例がある。

診断基準

▶診断には2つの診断基準が利用されている。ヨーロッパ分類基準(表4)9)およびアモ

ール診断基準である。また,強直性脊椎炎には改正ニューヨーク診断基準が使われる。

▶最近,上記の診断基準に仙腸関節のMRI所見などを加えて,軸性脊椎関節炎の分類

基準が提唱されている10)。図1は軸性脊椎関節炎分類基準である。また,2011年に

は末梢性脊椎関節炎分類基準(図2)11)も発表され,両者を参照して,診断すること

が勧められている。

表4▶脊椎関節炎ヨーロッパ分類基準

Ⅰ.炎症性脊椎痛現在,炎症性背部痛(腰痛,背部痛,項部痛)があるか,その既往があり,下記の中で少なくとも4項目が合致すること

① 3カ月以上の持続② 発症が45歳未満③ 発症が潜行性④ 運動による改善⑤ 朝のこわばり

Ⅱ.滑膜炎 非対称性あるいは下肢に優位な関節炎を認める。またはその既往歴

1.家族歴:第二度近親者以内の家族に以下のいずれかを認める① 強直性脊椎炎② 乾癬③ 急性ぶどう膜炎④ 反応性関節炎⑤ 炎症性腸疾患

2.乾癬:医師に診断された乾癬あるいはその既往3.炎症性腸疾患: X線もしくは内視鏡にて確認されたクローン病もしくは潰瘍性大腸炎,またはその既往4.左右交互の臀部痛:左右の臀部に交互に出現する疼痛,もしくはその既往5.靱帯炎:アキレス腱か足底腱膜の付着部位の自発痛または圧痛,あるいはその既往6.急性下痢症:関節炎発病前1カ月以内7.尿道炎,子宮頚管炎:関節炎発症前1カ月以内におきた非淋菌性尿道炎または子宮頸管炎8.仙腸関節炎:両側2度から4度,もしくは片側3度から4度のX線所見を呈するものX線所見段階付けの方法(0度:正常,1度:疑い,2度:軽度,3度:中等度,4度:強直)

ⅠもしくはⅡがあり,1から8までのうち少なくとも1項目を満たす場合に脊椎関節炎に分類する

(文献9より引用)

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鑑別診断の要点

▶病歴聴取が最も重要である。特に青少年あるいは45歳以前からの項部痛,背部痛,

腰痛の既往は重要である。また,安静時,夜間あるいは早朝の腰背部痛,あるいは

腰背部のこわばり感を聴取することが重要である。手指の腫脹は関節リウマチのよ

うに紡錘形ではなく,ソーセージ様であることが多い。また,理学所見ではアキレ

ス腱,あるいは膝蓋腱などの付着部の腫脹・圧痛を確認することが重要である。X

線写真で脊椎の靱帯棘(syndesmophyte),あるいは椎間関節の癒合,仙腸関節の不

整,硬化,癒合などを確認する。しかし,これらが通常のX線所見では確認できな

いことがあり,MRIによる脂肪抑制法を利用して,腱,靱帯付着部の骨髄浮腫を確

認する。特に両側仙腸関節のSTIRで骨髄浮腫が確認された場合,あるいは片側仙

図1▶ASAS**軸性脊椎関節炎分類基準**ASAS:Assessment of Spondyloarthritis international society. (文献10より引用)

Ⅰ: 画像診断で仙腸関節炎がみとめられる*

脊椎関節炎の特徴が1項目以上ある #

Ⅱ: HLA-B27が陽性 脊椎関節炎の特徴が2項目以上ある #

#脊椎関節炎の特徴

炎症性背部痛(専門医)関節炎付着部炎(踵)ぶどう膜炎指炎乾癬クローン病/潰瘍性大腸炎非ステロイド性抗炎症剤に良く反応する脊椎関節炎の家族歴HLA-B27が陽性CRPの亢進 

または

3カ月以上続く腰背部痛 ,発病時が45歳未満

*X線あるいはMRIによる仙腸関節炎MRIにより活動性(急性)仙腸関節炎があるX線所見:仙腸関節炎が両側2度以上,もしくは片側3度以上(1984年改正ニューヨーク診断基準)

図2▶末梢性脊椎関節炎分類基準 (文献11より引用)

関節炎 または 付着部炎 または 指炎

下記からプラス1個以上

乾癬炎症性腸疾患先行感染HLA-B27ぶどう膜炎仙腸関節炎の画像(X線またはMRI)

下記から他にプラス2個以上

関節炎(既往も可)付着部炎(既往も可)指炎(既往も可)炎症性背部痛の既往脊椎関節炎の家族歴

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

腸関節において連続した2スライスで骨髄浮腫が確認された場合は軸性脊椎関節炎

と診断される12)。

▶欧米では,強直性脊椎炎の患者においてHLA-B27との関連が深いとされている。線

維筋痛症では関連のみられるHLAはない。しかし,本邦では東日本において一般人

口でもHLA-B27の比率は低く,脊椎関節炎でも陽性率はきわめて低い13)。強直性脊

椎炎の女性症例で約半数が線維筋痛症の基準を満たしていたという報告もある14)。

▶2010年に線維筋痛症の新診断基準が発表された。19箇所の疼痛領域の評価,重症度

の評価,そして除外診断から診断するというもので,現在,日本人に対する応用に

関して西岡らの検証が進んでいる15)。線維筋痛症のクラスター分類による付着部炎

型と脊椎関節炎の異同については,今後より研究が進むことが予想される。

SAPHO症候群4▶強直性脊椎炎を代表的疾患とする脊椎関節炎の疾患群には皮膚疾患との関連が深い

ものがある。掌蹠膿疱症(pustulosis),重症痤瘡,および,乾癬などに関連した関

節炎を言う。今回,脊椎関節炎とは項を別にして示した。

概要

▶SAPHOとはsynovitis, acne, pustulosis, hyperostosis,osteitisの頭文字を並べ

たものである。掌蹠膿疱症では特徴的な手掌あるいは足底の皮疹が認められる。末

梢関節炎のほかに胸鎖関節炎を示すことが多く,脊椎あるいは仙腸関節炎など軸性

の関節炎も出現する。X線所見では胸肋鎖骨の異常骨化像がみられることもある。

園崎16)が掌蹠膿疱症性骨関節炎として発表してから注目されるようになった。X線

像のみではなく,外見上でも胸鎖関節の腫脹が確認されることがある。皮膚症状あ

るいは関節炎のどちらが先行するかについては定説がないが,Hayemら17)の23年

間,120例(男性50例,女性70例)の調査では皮膚症状が先行した症例は39%,関

節症状が先行した症例が32%,同時期であった症例が29%であった。また,皮膚症

状は84%にみられ,掌蹠膿疱症32%,尋常性乾癬10%,重症痤瘡18%,掌蹠膿疱

症と尋常性乾癬の合併18%,重症痤瘡,掌蹠膿疱症,尋常性乾癬の3者の合併が7

%と報告している。

鑑別のポイント

▶診断と鑑別の要点:脊椎関節炎のヨーロッパ分類基準などをもとに,脊椎関節炎の

診断も同時に下されるべきである。手掌あるいは足底部に掌蹠膿疱症などがある場

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合は比較的容易に診断がつくが,皮疹の時期との間隔が数年以上開いていると関連

に気づかれないことがある。腰背部痛,あるいは四肢関節痛が出現し,胸鎖関節を

主に胸肋鎖骨部に疼痛あるいは腫脹が出現する。胸鎖部に骨性膨隆がみられること

もある。

▶皮膚病の中でも痤瘡はよくみられるものであるが,重症の痤瘡では関節炎をきた

す。時には四肢の腫脹が著しく,化膿症をきたしたかのごとく,患肢全体が腫脹す

ることもある。この病態を理解していれば診断は可能である。掌蹠膿疱症,乾癬お

よび,痤瘡については皮膚科医の意見を聞き,専門的な治療を受けさせる。

▶線維筋痛症の診断以前に皮膚症状,および,胸鎖関節の腫脹などを見落とさないこ

とが大切である。

多発性筋炎・皮膚筋炎5疫学像

▶四肢近位筋群,頸筋,咽頭筋などの対称性筋力低下をきたす横紋筋のびまん性炎症

性筋疾患である。特徴的な皮疹を呈するものは皮膚筋炎という。有病率は線維筋痛

症よりはるかに低く,年間発病率は100万人当たり2~5人と推測されている。発症

年齢は,5~15歳と40~60歳にピークがある。

臨床経過

▶発熱,全身倦怠感,易疲労感,体重減少などがある。線維筋痛症では通常,顕著な

発熱はないが,全身倦怠感,易疲労感,体重減少などは時にみられることがある。

また,筋症状として,筋肉痛がよくみられる。多発性筋炎では四肢近位筋,頸筋な

どの筋力低下がみられることが多い。線維筋痛症では筋肉痛は認められるが,通常,

筋力低下はみられない。しかし,病状が長期にわたる症例では筋力低下が認められ

ることがある。筋炎では進行すると,筋萎縮が顕著である。線維筋痛症では廃用性

筋萎縮がみられることもある。皮膚症状としては皮膚筋炎で,上眼瞼に出現するヘ

リオトロープ疹,手指関節伸側のゴットロン徴候がある。関節炎は稀である2)。線

維筋痛症では通常,皮疹はない。

予後

▶5年生存率は60~80%であるが,近年,早期発見・早期治療,また,新たな治療法

により予後はさらに改善されている2)。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

診断基準

▶皮膚筋炎・多発性筋炎の診断には厚生省自己免疫疾患調査研究班(1992年)の診断

基準を使用する(表5)。

鑑別診断の要点

▶筋力低下,あるいは皮疹,発熱など臨床症状と検査所見から検討する必要があるが,

臨床所見あるいは検査所見など顕著な異常が出た場合は膠原病専門医の受診を勧め

る。

リウマチ性多発筋痛症6概要

▶全身症状,筋肉症状,関節症状が主症状である。発病時の平均年齢は65歳程度であ

り,高齢者に好発する。男女比は1:2と女性に多い。巨細胞性動脈炎が60~70歳

代を中心に高齢者に多発する。症状が急速に出現して,2週間程度の短期間に病勢

表5▶皮膚筋炎・多発性筋炎の診断基準

Ⅰ.診断基準項目

(1)皮膚症状(a)ヘリオトロープ疹:両側または片側の目瞼部の紫紅色浮腫性紅斑(b)ゴットロン徴候:手指関節背面の角質増殖や皮膚萎縮を伴う紫紅色紅斑(c)四肢伸側の紅斑:肘,膝関節などの背面の軽度隆起性の紫紅色紅斑

(2)上肢または下肢の近位筋の筋力低下(3)筋肉の自発痛または把握痛(4)血清中筋原性酵素(クレアチンキナーゼまたはアルドラーゼ)の上昇(5)筋電図の筋原性変化(6)骨破壊を伴わない関節炎または関節痛(7)全身性炎症所見(発熱,CRP上昇,または血沈促進)(8)抗Jo-1抗体陽性(9)筋生検で筋炎の病理的所見:筋線維の変性および細胞浸潤

Ⅱ.診断基準判定

▶ 皮膚筋炎: (1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上を満たし,かつ経過中に(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの

▶ 多発性筋炎:(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの

Ⅲ.鑑別診断を要する疾患

▶ 皮膚筋炎感染による筋炎,薬剤誘発性ミオパチー,内分泌異常に基づくミオパチー, 筋ジストロフィー,その他の先天性筋疾患

◉1992年厚生省自己免疫疾患調査研究班 (文献2より引用)

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は最大になる。全身症状としては,発熱,食欲不振,体重減少,全身倦怠感,抑う

つ症状がある。筋肉痛は頸部,肩周囲,腰部,臀部,大腿部にみられる。筋肉には

赤みや腫れなどはなく,筋力低下もみられない。関節症状は,主として肩,膝,手

関節あるいはその周囲にみられる。線維筋痛症では炎症を示す検査データでは異常

はないが,リウマチ性多発筋痛症では赤沈,CRPの異常高値がみられる。治療では

ステロイドに対する反応が良好である1,2)。

鑑別のポイント

▶四肢の筋痛,発熱などの症状が高度である。赤沈,CRPの異常高値を認めると鑑別

診断は容易である。

全身性エリテマトーデス(SLE)7概要

▶SLE患者には線維筋痛症がよく合併すると言われている。45%が線維筋痛症の症状

を訴え,22%が米国リウマチ学会線維筋痛症分類基準に合致していたと言われる18)。

発熱,全身倦怠感,易疲労感など炎症を思わせる症状と,口腔内潰瘍,脱毛,関節

痛,皮膚,腎炎などの症状が起こる。頻度は日本全国に2万~4万人ほどと言われて

いる2)。有病率は線維筋痛症よりはるかに低い。

▶男女比は1:9ほどで圧倒的に女性に多く,妊娠可能年齢に多い。小児,高齢者では

男女比は近くなる。紫外線,風邪などのウイルス感染,外傷,外科手術,妊娠・出

産,ある種の薬剤などが誘因となる2)。

▶症状は全身症状,脱毛,光線過敏症,皮膚症状(蝶形紅斑など),関節症状がみられ

る。そのほか腎など臓器障害が加わることもあるが,臓器障害のない軽症例もある。

検査では一般血液検査,抗核抗体,抗DNA抗体,抗Sm抗体,LEテスト,梅毒反

応などの検査をする。

鑑別のポイント

▶特徴的な皮疹,口腔内潰瘍,脱毛,関節痛,腎炎など臨床症状の出現,血液検査で

白血球減少,リンパ球減少などの異常のほか,抗核抗体,抗DNA抗体など自己抗

体の出現を確認する。線維筋痛症ではこれらの自己抗体が顕著に出現することはな

い。以上のような所見からSLEを疑った場合は膠原病の専門医の受診を勧める。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

間質性膀胱炎8概要

▶間質性膀胱炎は膀胱間質の原因不明の慢性炎症で,進行すると膀胱が萎縮する難治

性の疾患である。米国においては間質性膀胱炎の約10%に線維筋痛症を合併すると

言われており,日本でも専門施設では同等の比率と言われている。線維筋痛症を合

併した間質性膀胱炎は全例女性であり,平均年齢は56歳,平均罹病期間は12年で

あった。症状は昼夜をわかたぬ頻尿や尿意切迫感,膀胱とその周辺の疼痛である。

排尿により一時的に軽快する。細菌性膀胱炎とは異なり抗菌薬が効かない。治療は

水圧治療,抗炎症薬,抗うつ薬,抗ヒスタミン薬,膀胱内注入療法,運動療法が勧

められる19)。泌尿器科での対応も徐々に進歩している。

合併を考えるポイント

▶通常の尿検査では異常がなく,また,抗菌薬投与によっても改善しない場合は間質

性膀胱炎を考えてゆかねばならない。

過敏性腸症候群9概要

▶若い女性に多く,精神的なストレスが原因と考えられている。腹痛,腹部不快感,

吐き気,嘔吐,食欲不振などの症状を伴うことがある。発熱,下血,体重減少はな

い。睡眠中は症状がなく,腹痛の部位や程度には個人差があるが,左下腹部が多い。

下痢型,便秘型,下痢と便秘を繰り返す交替型の3者が考えられている。大腸癌,大

腸ポリープ,潰瘍性大腸炎,虚血性腸炎,クローン病,などを除外する必要がある20)。

合併を考えるポイント

▶検査では異常が出ないが下痢や便秘などの症状が続いているなどの場合は過敏性腸

症候群の可能性がある。

■文献1) リウマチ情報センター:http://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/index.html

2) 難病情報センター:http://www.nanbyou.or.jp/

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3) Arnett FC,Edworthy SM,Bloch DA,et al:The American Rheumatism Association 1987

revised criteria for the classification of rheumatoid arthritis.Arthritis Rheum 1988;31:

315-324.

4) Aletaha D,Neogi T,Silman AJ,et al:2010 rheumatoid arthritis classification criteria: an

American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism

collaborative initiative.Ann Rheum Dis 2010;69:1580–1588.

5) Moskowitz RW:Neck pain.Clinical rheumatology,Lea and Febiger,1982;p270-281.

6) 松本美富士:本邦線維筋痛症の臨床的疫学像.線維筋痛症ガイドライン2009,日本リウマ

チ財団,2010;p9-16.

7) 浦野房三:線維筋痛症とシェーグレン症候群.医薬ジャーナル2004;40:3357-3361.

8) 藤田豊久,井上康二,小宮靖弘,他:わが国における脊椎関節炎の有病率.日本脊椎関節炎学

会誌2010;2:47-52.

9) Khan MA:Spondyloarthropathies.the facts ankylosing spondylitis.Oxford University

Press 2002;p125-141.

10) Rudwaleit M,van der Heijde D,Landewé R,et al:The development of Assessment of

Spondyloarthritis international Society classification criteria for axial spondyloarthritis

(part II):validation and final selection.Ann Rheum Dis 2009;68:777-783.

11) Rudwaleit M,van der Heijde D,Landewé R,et al:The Assessment of Spondyloarthritis

International Society classification criteria for peripheral spondyloarthritis and for

spondyloarthritis in general.Ann Rheum Dis.2011;70:25-31.

12) Sibel Z,Maksymowych WP,Bennett AN,et al:Validation of the ASAS criteria and

definition of a positive MRI of the sacroiliac joint in an inception cohort of axial

spondyloarthritis followed up for 8 years.Ann Rheum Dis 2012;71:56-60,

13) 浦野房三:脊椎関節炎の臨床像.症例から学ぶ脊椎関節炎.新興医学出版2008;p7-21.

14) Aloush V,Ablin JN,Reitblat T,et al:Fibromyalgia in women with ankylosing spondylitis.

Rheumatol Int 2007;27:865-868.

15) 西岡久寿樹:線維筋痛症の新しいACRの診断基準の検証について.日本線維筋痛症学会第2

回学術集会抄録集.2010;p32.

16) Sonozaki H,Mitsui H,Miyanaga Y,et al:Clinical feature of 53 cases with pustulotic

arthro-osteitis.Ann Rheum Dis 1981 40:547-553.

17) Hayem G,Bouchaud-Chabot A,Benali K,et al:SAPHO syndrome:a long-term follow-

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18) Middleton GD,McFarlin JE,Lipsky PE:The prevalence and clinical impact of fibromyalgia

in systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum 1994;37:1181-1188.

19) 山田哲夫:線維筋痛症と間質性膀胱炎.線維筋痛症ハンドブック.日本医事新報社,2007;

p170-177.

20) 岡 寛:線維筋痛症の類縁疾患の病態.線維筋痛症ハンドブック.日本医事新報社,2007;

p82-87.

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

整形外科領域と線維筋痛症1▶線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の主な症状である疼痛は主として筋骨格系領域に

出現する。

▶また線維筋痛症には,頭痛,抑うつ状態,睡眠障害,疲労,過敏性腸症候群などの

様々な随伴症状を伴うことが多い。我々は過去に整形外科外来を受診した線維筋痛

症の主訴を検討したが,患者は最も症状の強い部位を訴える傾向があるので,たと

えば慢性腰痛症を主訴として来院した患者においても,強い肩こり症状や頸肩腕痛

の有無について問診することは重要である。また逆に頸肩腕痛を主訴として来院し

た患者においても,腰痛や下肢痛の有無を調査する必要がある。この場合,睡眠障

害や疲労,抑うつ状態等の不定愁訴を伴う患者では特に線維筋痛症の随伴(合併)を

念頭に置くことが必要である。全身の疼痛よりも最も疼痛の強い局所を主訴として

訴える傾向は,西岡の線維筋痛症重症度分類ステージⅠ,Ⅱの比較的軽い線維筋痛

症に多く,整形外科外来を受診する線維筋痛症患者の中でその割合は高い。

▶ポイント:慢性腰痛症などのありふれた整形外科疾患であっても,特に不定愁訴を

伴っている場合には線維筋痛症の随伴を念頭に置く。

整形外科,リウマチ性疾患と線維筋痛症との関連性2▶これまでの臨床経験から筆者は整形外科,リウマチ性疾患と線維筋痛症との関連性

をⅢ型に分類すると理解しやすいと思っている,すなわち,① 線維筋痛症が整形外

科疾患の症状を呈し,あるいは増強している場合,② 整形外科,リウマチ性疾患が

線維筋痛症発症のトリガーとなっている場合,③ 整形外科,リウマチ性疾患が線維

筋痛症と個々別々に合併している場合,である(図1)。

鑑別診断

線維筋痛症と整形外科的疾患の鑑別

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▶① については,たとえば頸肩腕症候群と腰痛症の合併症例が挙げられる。これで線

維筋痛症の診断基準を満足する場合,線維筋痛症がこれら整形外科的症状を呈して

いる可能性が高い。また腰椎椎間板ヘルニアの症状を強く呈していてもMRI等の

画像所見が軽度でその他全身の疼痛を有し線維筋痛症の診断基準を満足している場

合,軽微な腰椎椎間板ヘルニア症状が線維筋痛症によって増強されている可能性が

高く,線維筋痛症が症状発症のトリガーとなっているものと考えられる。

▶② については,たとえば血清反応陰性脊椎関節症(SNSA)によって線維筋痛症症状

が惹起されている場合が挙げられる。この場合はSNSAの治療によって線維筋痛症

症状は軽快,消失する。

▶③ については,整形外科疾患と線維筋痛症が別々に存在し合併している場合で,線

維筋痛症に合併した腰椎椎間板ヘルニア等の整形外科疾患が挙げられる。

▶①,②,③ の治療については,① は線維筋痛症の治療,② は整形外科,リウマチ性

疾患の治療,③ は線維筋痛症と整形外科またはリウマチ性疾患両者の治療が主体と

なる。ただ ③ の場合でも腰椎椎間板ヘルニア等で手術などを行う場合には,まず線

維筋痛症の治療を行ってその結果をみて手術適応の判定をする必要がある。

線維筋痛症を随伴しやすい整形外科疾患3▶筆者が経験した比較的線維筋痛症が随伴しやすいと思われる整形外科疾患を列記す

る(表1)。頸部疾患を例に挙げると,たとえば頸椎捻挫の場合,時間的な経過とと

もに頸部の疼痛が胸背部から腰部にかけて拡大していく症例が存在する。また頸肩

腕症候群と診断された症例でも同様な傾向を呈するものがある。頸椎症,特に頸椎

症性脊髄症ではそれ自体上肢のみならず下肢にも症状を呈し線維筋痛症を合併しや

図1▶整形外科,リウマチ性疾患と線維筋痛症

線維筋痛症 整形外科リウマチ性疾患症状 線維筋痛症の治療①

線維筋痛症 整形外科リウマチ性疾患

線維筋痛症+整形外科リウマチ性疾患の治療③

線維筋痛症整形外科リウマチ性疾患

整形外科リウマチ性疾患の治療②

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

すい。頸椎症性神経根症,脊髄症の場合,MRIで診断が可能であるが比較的他覚所

見に乏しい症患,たとえば頸椎X-Pでのストレートネックの存在を含めた頸椎アラ

イメントの異常,下垂肩症候群(droopy shoulder)は頸肩腕痛や牽引型胸郭出口症

候群の症状を呈し,徐々に疼痛が全身に拡大していく場合がある。その他,胸郭出

口症候群は画像所見に乏しく,主として臨床所見より診断し,必要なら血管造影,

腕神経叢造影で確定診断を行う。胸腰椎の疼痛に関しては若年者では血清反応陰性

脊椎関節症として代表的な強直性脊椎炎,胸肋鎖骨異常骨化症を,中高年では変形

性脊椎症,強直性脊椎骨増殖症,高齢者では骨粗鬆症(胸腰椎圧迫骨折),ピロリン

酸カルシウム(CPPD)結晶沈着症の随伴に,また腰部では腰椎椎間板ヘルニア,腰

部脊椎管狭窄症の随伴に注意する。なお,上肢(手)の腫脹,拘縮をきたす疾患とし

て反射性交感神経ジストロフィーやカウザルギーにも考慮が必要である。

表1▶線維筋痛症に随伴しやすい筋骨格系疾患

Ⅰ.頸部

① 頸椎捻挫② 頸椎症(脊髄症,神経根症)③ 頸椎後縦靱帯骨化症④ 頸肩腕症候群⑤ 頸椎アライメント異常(ストレートネック)⑥ 下垂肩症候群(droopy shoulder)⑦ 胸郭出口症候群

Ⅱ.腰部

① 腰痛症② 腰部脊椎管狭窄症③ 腰椎椎間板ヘルニア

Ⅲ.手指

① 全身性変形性関節症② 反射性交感神経ジストロフィー③ カウザルギー

Ⅳ.脊椎

① 変形性脊椎症② 骨粗鬆症③ 骨軟化症

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他覚所見に乏しいリウマチ性疾患の随伴4▶血清反応陰性脊椎関節症(SNSA)については前述したが,これら疾患は典型的なも

のでも他覚的所見に乏しい場合があるがさらにこの範中には未分化型脊椎関節症と

いう概念の疾患群が存在し,きわめて他覚的(客観的)所見に乏しく慎重な診察によ

る診断が必要となる。これら疾患は線維筋痛症発症のトリガーとなり,またそれ自

体で線維筋痛症様の症状を呈する場合がある。まとめると表2のごとくとなる。

1)発症早期の線維筋痛症では関節リウマチ(RA),全身性エリテマトーデス(SLE)等

の初発症状の可能性がある。

2)① 甲状腺機能低下症は線維筋痛症類似の症状を呈するため線維筋痛症の診断の際

には甲状腺機能をチェックする。

② 線維筋痛症は乾燥症状を呈しやすく,またシェーグレン症候群を合併している場

合がある。

③ 反応性関節炎や中年期以降においては強直性脊椎骨増殖症,高齢者においてはピ

ロリン酸カルシウム(CPPD)結晶沈着症にも考慮が必要である。

④ SNSAや未分化型脊椎関節症はそれ自体多発性の付着部痛を有し線維筋痛症症状

を呈するのみならず,これに線維筋痛症が合併し病態を複雑にしている場合があ

る。また我々は多発性付着部炎,胸助鎖骨異常骨化症,99mTc骨シンチグラフィ

表2▶他覚的所見に乏しいリウマチ性疾患

① 甲状腺機能低下症

② Lyme病

③ seronegative spondyloarthropathy:SNSA(血清反応陰性脊椎関節症)

▶ 強直性脊椎炎 ▶ ライター症候群 ▶ 乾癬性関節炎 ▶ 潰瘍性大腸炎 ▶ クローン病 ▶ 掌蹠膿疱性関節炎(胸肋鎖骨異常骨化症)

④ undifferentiated spondyloarthropathy(未分化型脊椎関節症)

▶ polyenthesitis(多発性付着部炎)▶ sterno-cost clavicular hyperostosis(胸肋鎖骨異常骨化症)▶ 99mTc骨シンチグラフィーにて胸肋鎖骨部に異常集積認めるも骨化を伴わないもの

⑤ diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH(強直性脊椎骨増殖症)

⑥ CPPD(ピロリン酸カルシウム)結晶沈着症

⑦ シェーグレン症候群

⑧ その他

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

ー(99mTc)にて主として胸肋鎖骨部への異常集積を伴う線維筋痛症の存在を提唱

している。これらを正確に診断するためにはやはり関節,付着部のごくわずかな

腫脹を見逃さないことと,X線写真(X-P)にて仙腸関節の変化や胸肋鎖骨部の骨

化の有無,付着部の変化を詳細に検討する必要がある。

   これらを診断するために我々は99mTcを撮影することを提唱しているが,仙腸関

節の変化はCT・MRIで,付着部の変化はMRI,超音波が有効であるとの報告も

ある。

⑤ 多発性付着部炎

七川らによって提唱された疾患概念で,多発性に付着部の慢性炎症を呈するが,

多くはCRPなどの炎症反応を欠如し,HLA-B27は陰性で付着部炎以外の所見に

乏しい。99mTcで付着部に異常集積を認め,同部のbiopsyで慢性炎症所見を認め

る。この疾患はそれ自体で線維筋痛症類似症状を呈し,また多発性付着部炎に線

維筋痛症が合併する場合がある。

⑥ 胸肋鎖骨異常骨化症,99mTc骨シンチグラフィーにて主として胸肋鎖骨部の異常

集積を伴う線維筋痛症

   我々は胸肋鎖骨異常骨化症が線維筋痛症症状を呈することを報告している。本疾

患は掌蹠膿疱症を合併することで有名であるが,皮疹を欠き,血沈,CRPが正常

な症例も存在する。また我々は99mTcにて胸肋鎖骨部への異常集積を認め,同部

のbiopsyで慢性炎症所見を確認し,しかしながら10年間の経過観察にて胸肋鎖

骨部の骨化を認めなかった症例を報告しているが,99mTcで胸肋鎖骨部に異常集

積を認めるも骨化を呈しない症例があり,これが線維筋痛症の新しい疾患概念に

なるのではないかと考えている。

   加えて胸肋鎖骨異常骨化症や強直性脊椎骨増殖症の早期で,まだX-Pで骨化の明

確でない時期にはこれらの診断は困難であり,やはり99mTc骨シンチグラフィー

等が診断に有効なものと思われる。

⑦ 潰瘍性大腸炎やクローン病等の大腸病変でもSNSAが出現し関節炎や線維筋痛

症症状を呈する場合がある。

線維筋痛症診断時のポイント(鑑別診断)5▶線維筋痛症を随伴しやすい整形外科疾患,リウマチ性疾患の主なチェックポイント

を以下に記載する。

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① 身体所見

a)皮膚:皮疹,特に乾癬,掌蹠膿疱症(手掌足蹠),皮膚の被刺激性の亢進(針反応)

等のチェック

b)目:乾燥症状,ぶどう膜炎,虹彩炎等の眼疾患のチェック

c)口腔粘膜:乾燥症状,再発性アフタ性潰瘍出現の有無

d)手指:レイノー現象,指の腫脹変形,関節の腫脹変形

e)関節,付着部:全身の関節の腫脹,付着部の腫脹(わずかな腫脹を見逃さない),

仙腸関節の圧痛の有無

f)脊柱可動性のチェック

g)便通状態,血便,回盲部圧痛等腹部の圧痛

h)その他,外陰部潰瘍,リンパ腺の腫脹

② レントゲン(X-P)所見

▶整形外科的疾患の鑑別診断(合併例の診断)を行う上でのX-Pのチェックポイント

を表3に示す。

a)頸椎:頸椎症,ストレートネック(頸椎前彎の消失),下垂肩症候群(頸椎側面

X-Pにて第2胸椎椎体やそれ以下の椎体が肩より上に見える),後縦靱帯の骨化

b)胸椎:前縦靱帯の骨化,圧迫骨折,石灰沈着

c)胸部X-P:鎖骨第1肋骨間の骨化

d)腰椎(正面):仙腸関節の変化

e)両膝:変形性関節症,ピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶の沈着

f)両手両足:関節の変化(関節リウマチや変形性関節症等リウマチ性疾患の鑑別)

g)踵骨側面:骨棘の形成

③ 99mTc骨シンチグラフィー:胸肋鎖骨部,(仙腸関節を含む)付着部および関節への

異常集積

表3▶ X-Pのチェックポイント(整形外科疾患との鑑別)

頸椎 OA 後縦靱帯骨化droopy shoulder,ストレートネック

胸部 鎖骨,第1肋間の骨化

胸・腰椎 前縦靱帯の骨化,OA,圧迫骨折

仙腸関節 仙腸関節の変化

両膝 半月板のCPPD沈着

両手両足 RA,OA等リウマチ性疾患の鑑別

RA:関節リウマチOA:変形性関節症

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

④ MRI(造影を含む):仙腸関節の変化,滑膜炎の有無

⑤ CT:仙腸関節の変化

⑥ 超音波:付着部の変化

線維筋痛症に随伴するしびれの原因6▶線維筋痛症は高頻度(約60%)に上肢,下肢のしびれを呈する。しびれの原因は不明

なものもあるが詳細な診察によって原因を特定できるものも多い。以下上肢,下肢

に分類し,しびれの原因について述べる。

上肢のしびれの原因

▶上肢のしびれは原因不明のものも存在するが,頸椎疾患のみならず,胸郭出口症候

群,絞扼性神経障害(手根管症候群,肘部管症候群等)が複合して出現している場合

がある。この場合各々の病気の程度は軽くとも,いわゆるdouble crush,triple

crush状態を呈し強い自覚症状を呈する。

下肢のしびれの原因

▶下肢のしびれも同様に腰部疾患のみならず梨状筋症候群,足根管症候群等が複合し

てしびれを増強している場合が多い。

▶表4にしびれを呈する主な疾

患を列記する。 表4▶上下肢のしびれをきたす主な疾患

Ⅰ.上肢のしびれ

① 頸椎症 ⅰ)頸椎椎間板ヘルニア ⅱ)頸椎症性神経根症 ⅲ)頸椎症性脊髄症② 頸椎後縦靱帯骨化症③ 胸郭出口症候群④ droopy shoulder syndrome(下垂肩症候群)⑤ 回内筋症候群 ⑥ 回外筋症候群⑦ 肘部神経管症候群⑧ 手根管症候群⑨ 尺骨神経管症候群

Ⅱ.下肢のしびれ

① 腰椎椎間板ヘルニア② 腰部脊椎管狭窄③ 梨状筋症候群④ 知覚過敏性大腿痛(meralgia paresthetica)⑤ 足根管症候群

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複合性局所疼痛症候群 (complex regional pain syndrome:CRPS)7CRPSの歴史

▶アメリカ南北戦争時Weir Mitchellは末梢神経の損傷後焼け付くような激しい痛み

を訴える患者の存在があることを観察し,これをカウザルギーと命名した。

▶その後神経損傷のみならず軽微な外傷や心筋梗塞,脳梗塞後の肩手症候群でも同様

の症状が出現することが報告され,これらに対して交感神経系が関与しているとの

報告のもとに国際疼痛学会(IASP)は1986年これらの病態を反射性交感神経ジス

トロフィー(RSD)と命名した。しかしこの範疇には必ずしも交感神経が関与してい

ない病態があることも判明し1990年IASPにてCRPSと改訂された。CRPSの

TypeⅠは神経障害を持たないものであり,CRPSのTypeⅡは神経損傷を有するも

ので従来のカウザルギーにあたるものである。

CRPSの診断と線維筋痛症

▶CRPSは強い疼痛やしびれ,アロディニア(触刺激が疼痛を誘発する状態),浮腫や

発汗の異常を呈し進行すると関節拘縮をきたす原因不明の疼痛症候群である。

▶CRPSと線維筋痛症の関係は激しい疼痛という類似の症状を有していることで,こ

のことから両者を鑑別することは重要である。線維筋痛症とCRPSとの関係も線維

筋痛症と整形外科,リウマチ性疾患の場合と同じように考えると理解しやすい。す

表5▶本邦におけるCRPSの臨床診断指標

A.病期のいずれかの時期に,以下の自覚症状のうち2項目以上該当することただし,それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい

1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化2.関節可動域制限3.持続性ないしは不釣り合いな痛み,しびれたような針で刺すような痛み(患者が自発的に述べる),知覚過敏

4.発汗の亢進ないしは低下5.浮腫

B. 診察時において,以下の他覚所見の項目を2項目以上該当すること

1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化2.関節可動域制限3.アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンプリック)

4.発汗の亢進ないしは低下5.浮腫

( 柴田政彦:CRPSの診断(判定指標).複合性局所疼痛症候群CRPS(complex regional pain syndrome).眞下 節,柴田政彦,編,真興交易(株)医書出版部.2009;p65-71より転載)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

なわち,①線維筋痛症がCRPSの症状を惹起または増強している場合,②CRPSの

局所刺激で線維筋痛症が惹起されている場合,③CRPSが全身に拡大し線維筋痛症

を呈している場合,④ 両者が合併している場合である。表5に本邦におけるCRPS

の診断指標を記す。

線維筋痛症にみられる筋肉痛8▶我々はこれまで線維筋痛症の診断にあたって骨,関節,付着部の整形外科(リウマ

チ科)的評価が重要なことを述べてきた。最近これに加えて筋肉の評価が重要なこ

とを痛感しているので筋肉痛の項を追加した。

1)関連痛

▶Travell11)によれば,たとえば胸鎖乳突筋は胸骨部,鎖骨部に分類されるが胸骨部

にトリガーポイントがある場合(胸鎖乳突筋が原因筋となって)目と顔面の疼痛を

生じさせることがあり「非定型的な顔面神経痛」と診断されがちである。我々もこの

ような症例を経験しているが,筋肉の関連痛を念頭に置くことで一見奇異に思われ

る線維筋痛症の病態が容易に理解できる場合がある。

2)歩行困難(不能)線維筋痛症の原因としての筋肉痛

▶歩行困難(不能)線維筋痛症には神経,骨,関節,付着部以外に筋肉痛が原因となっ

ているものがあり,これらとともに筋肉の精査を行うことが必要である。筋肉痛は

各々の筋肉に疼痛を呈している場合にはその診断は比較的容易であるが,前述した

ように関連痛を呈している場合にはその診断が困難なことがある。我々は腸腰筋や

縫工筋がそれぞれ単独にトリガーとなり股関節痛を呈し歩行困難(不能)となった

症例,および膝を屈曲する後大腿筋がトリガーとなり膝関節痛を呈し歩行困難(不

能)となった症例を経験している。筆者の経験では上肢の筋痛はたとえば五十肩の

ように複数の筋肉に疼痛を呈していることが多いが,下肢では単一の筋肉の障害で

歩行障害を呈することが多く,歩行障害の線維筋痛症を診断する場合には神経,骨,

関節,付着部に加えて筋肉の評価が重要である。

■文献1) 行岡正雄,他:線維筋痛症の病態の把握.線維筋痛症ハンドブック.日本医事新報社,2007;

p70-81 .

2) 行岡正雄:リウマチ科からみた線維筋痛症の治療.Pharma Medica 2006;24(6)41-44.

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3) 行岡正雄,他:99mTcへの胸肋部の異常集積を伴ったFibromyalgia Syndromeの検討.中部

整災誌 1993;36:479-480.

4) 行岡正雄他:結合織炎症候群(Fibromyalgia Syndrome)の検討.中部整災誌 1992;35(2):

551-552 .

5) 西岡久寿樹:線維筋痛症の現状と展望.線維筋痛症ハンドブック.日本医事新報社,2007;

p2-12.

6) 行岡正雄:Primary Careからの病態解析に関する研究.平成15年度厚生労働科学研究補助

金 線維筋痛症の実態調査に基づいた疾患概念の確立に関する研究事業報告書.2004.

7) 行岡正雄:線維筋痛症における上肢(手)のしびれについての検討.平成16年度厚生労働科

学研究補助金 免疫アレルギー疾患予防・治療等研究事業報告書.2005.

8) 行岡正雄,他:結合組織炎症候群を伴った絞扼性神経障害.日本手の外科学会雑誌 1992;

9:433-436.

9) 行岡正雄,他:Fibromyalgiaを合併した胸郭出口症候群.日本手の外科学会雑誌 1997;14:

472-475.

10) 柴田政彦:CRPSの診断(判定指標).複合性局所疼痛症候群CRPS(complex regional pain

syndrome).眞下 節,柴田政彦,編,真興交易(株)医書出版部.2009;p65-71.

11) Travell J,et al:トリガーポイント・マニュアル.川原群大 訳,エンタプライズ,1992.

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

▶線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は全身の疼痛のみならず,各臓器にまたがる多様

な症状が出現するため,患者は最も苦痛となる症状を訴えて臨床各科を受診する。

患者の75%は少なくとも24以上の症状を有し,健康状態は16%が最悪(awful),35

%が悪い(poor)との認識があると言われるように1),多彩な症状によって患者の

QOLがかなり損なわれていることがうかがわれる。

▶これらの症状の中心にある線維筋痛症の存在に気づかないと症状の多様性が理解で

きず,各科の対症療法に終始して,いたずらに患者のドクターショッピングをまね

くことになる。線維筋痛症の病態を理解しておくことで,これらの症状を一元的に

とらえ,診断・治療に結びつけることができる。そのためには患者の症状を詳細に

聴取し,診察により十分な理学的所見をとり,的確な臨床検査所見と併せて診断す

る。したがって大切なことは線維筋痛症と他の疾患を鑑別するというより,合併す

る疾患を的確に診断し線維筋痛症の病態理解や治療に役立てるという考え方のほう

が合理的である。

心身症の概念と線維筋痛症1▶心身症(psychosomatic disease:PSD)は「身体疾患の中でその発症や経過に心理

社会的因子が密接に関与し器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただ

し神経症,うつ病など他の精神障害に伴う身体症状は除外する(1991日本心身医学

会教育研修委員会)」と定義され2),心身症の特徴として以下の点が挙げられてい

る。

a)身体的障害は自律神経系,内分泌系,免疫系を介して,特定の器官系統に出現し,

「器質的な病変」ないし,「病態生理的過程の関与」が認められる。

b)心理社会的因子が明確に認められ,これと身体的障害の発症や経過との間に時間的

な関連性が認められる。心身症は病態名であって病名ではないことより高血圧(心

鑑別診断43 線維筋痛症と心療内科的疾患(心身症,ストレス関

連疾患)の合併 ─ 多彩な身体症状をどう理解するか ─

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身症),十二指腸潰瘍(心身症),気管支喘息(心身症)などと記載するようになって

いる。

▶線維筋痛症の病態や発症,経過をみると心身症の概念に近く,また多くの心身症

(器質的疾患も含んで)も合併するために心療内科的な視点で線維筋痛症をとらえ

ると理解しやすい。表1に臨床各科にみられる心身症の一覧を示す3)。線維筋痛症

はこれらの心身症との合併が多く,それぞれの概念,診断,鑑別を知っておく必要

がある。

機能性身体症候群と線維筋痛症の関係2▶機能性身体症候群(functional somatic syndrome:FSS)は「明らかな器質的原因に

よって説明できない身体的訴えがあり,それを苦痛と感じて日常生活に支障をきたす

病態」と定義されており表2のような疾患が含まれている。読んで字のごとく,これ

らの疾患群はすべて機能性疾患であり,以下のような多くの共通点を備えている4,5)。

① 各疾患には共通する症状が多く,診断基準も類似している。

② FSSに含まれる疾患は他のFSSの疾患の診断基準を満たす。

③ FSSに含まれる疾患が相互によく合併する。たとえば線維筋痛症の40%は筋緊

張性頭痛,30~40%は慢性疲労症候群(CFS),75%は顎関節症を合併,CFSの

60%は過敏性腸症候群(IBS)を合併,間質性膀胱炎の12.8%が線維筋痛症を合併

する,などの相互関係がある。

④ うつ,不安,認知的問題など多彩な精神症状をよく伴う。

⑤ 几帳面,徹底性,完全性,強迫性,神経質など類似した性格的特性を持つ。

⑥ 抗不安薬,抗うつ薬,抗痙攣薬など類似した薬物治療に反応しやすく,カウンセ

リングや認知行動療法など心理療法の対象となる。

▶線維筋痛症がFSSのカテゴリーに合致する疾患概念であるとの理解は複雑で多様

な病態の解釈に役立つであろう。

合併しやすい疾患と診断3▶線維筋痛症は全身各部位に多彩な愁訴を呈してくるが6),疾患として合併すること

も少なくない。患者は臨床各科をまたがって受診していることが多い。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

表1▶ 臨床各科にみられる心身症◉ 心身症を,①器質的疾患,②機能的疾患,③神経症傾向や一過性の心身反応を呈するものに分けて分類した。これらすべてが線維筋痛症に合併する可能性がある

心身症

器質的疾患 機能的疾患 神経症性・一過性心身反応

呼吸器系気管支喘息(cough variant asthmaを含む),慢性閉塞性肺疾患(COPD)

過換気症候群,喉頭痙攣 神経性咳嗽

循環器系本態性高血圧症,冠動脈疾患(狭心症,心筋梗塞)

本態性低血圧症(特発性),起立性低血圧症,一部の不整脈,レイノー病

神経循環無力症

消化器系

胃・十二指腸潰瘍急性胃粘膜病変(AGML)慢性胃炎,潰瘍性大腸炎慢性肝炎,慢性膵炎

過敏性腸症候群,機能性ディスペプシア,胆道ジスキネジー,神経性腹部緊満症,びまん性食道痙攣,食道アカラシア

反すう,呑気症(空気嚥下症),ガス貯留症候群,心因性嘔吐

内分泌・代謝系神経性食欲不振症,甲状腺機能亢進症・低下症,糖尿病

(神経性)過食症,Pseudo-Bartter症候群,愛情遮断性低身長症,腎性糖尿

心因性多飲症

神経・筋肉系痙性斜頸,パーキンソン症候群,多発性硬化症

筋収縮性頭痛,偏頭痛,書痙,眼瞼疲労,味覚脱失,自律神経失調症,舌の異常運動,振戦,チック,舞踏病様運動,ジストニア,線維筋痛症

その他の慢性疼痛,自律神経失調症,めまい,冷え性,しびれ感,異常知覚,運動麻痺,失立失歩,失声,失神,痙攣

小児科領域

気管支喘息,消化性潰瘍,神経性食欲不振症,バセドウ病,糖尿病,アトピー性皮膚炎

過換気症候群,憤怒痙攣,過敏性腸症候,反復性腹痛,(神経性)過食症,周期性嘔吐症,遺糞症,起立性調節障害(OD),夜尿症,頭痛,偏頭痛,乗物酔い,チック,心因性痙攣,愛情遮断性低身長症,慢性蕁麻疹,吃音

呑気症,めまい,夜驚症,心因性発熱

皮膚科領域アトピー性皮膚炎,円形脱毛症,汎発性脱毛症,接触皮膚炎

慢性蕁麻疹,多汗症,日光皮膚炎,湿疹,皮膚瘙痒症(陰部,肛囲,外耳道など)

抜毛症醜形恐怖症

外科領域腹部手術後愁訴(腸管癒着症,ダンピング症候群),頻回手術症

術後の慢性疼痛神経性腹部膨満症

形成術後神経症

整形外科領域

椎間板ヘルニア,関節リウマチ,頸肩腕症候群,痛風,脊柱管狭窄症

腰痛症,肩こり,外傷性頸部症候群(むち打ち症を含む),他の慢性疼痛性疾患

産婦人科領域 老人性腟炎,外陰潰瘍

更年期障害,機能性子宮出血,月経痛,月経前症候群,月経異常,不妊症(卵管攣縮,無排卵周期症を含む),外陰瘙痒症,性交痛

マタニティーブルー

耳鼻咽頭科領域アレルギー性鼻炎,突発性難聴,慢性副鼻腔炎,口内炎

眩暈症(メニエール病,動揺病),嗅覚障害

耳鳴,心因性難聴,咽喉頭異常感症,嗄声,心因性失声症,吃音

歯科・口腔外科領域

顎関節症,歯肉炎,歯周病

牙関緊急症,口腔乾燥症,三叉神経痛,舌喉神経痛,特発性舌痛症

義歯不適応症,補綴後神経症,口腔・咽頭過敏症

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1)消化器領域

▶問診,診察に加え,消化管造影,内視鏡,超音波検査,腹部CT検査などで診断,鑑

別する。胃や腸管の蠕動運動,消化能力,腹部の筋緊張などの機能異常に注目する。

また嚥下筋の緊張・収縮が強いと嚥下痛や嚥下困難も生じる。

① 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)

▶線維筋痛症患者のIBS合併率は高く,腹痛,便秘,下痢,ガス膨満感などの症状を繰

り返し,環境変化や心身のストレス,食事や飲み物などにより大きく影響を受けやす

い7,8)。中枢神経系と消化管運動との関係,脳・腸相関(brain-gut interaction)がよ

く研究されている。サブタイプとして便秘型,下痢型,混合型,分類不能型に分か

れる。

 【診断】腹部の触診,聴診,打診などの診察を行い,腸蠕動の亢進や大腸ガスや便塊

の存在を評価する。注腸造影や大腸内視鏡で下痢や便秘を説明する腫瘍や潰瘍,炎

症などの器質的疾患が認められず,大腸運動の亢進や痙攣性の蠕動,ガス貯留など

機能的な異常が認められる。実験的には大腸内圧検査で蠕動運動はストレス時に亢

進し内圧も上昇,睡眠中は減弱・消失するという知見がある。

② 機能性胃腸症・機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)

▶胃の痛み,胃もたれ,食欲不振,早期満腹感,消化不良,嘔気などを訴えて体重減

少までも引き起こす。胃の弛緩能や排出能が低下すると胃液や胃内容物の逆流が生

じやすい9,10)。

 【診断】診察で心窩部の圧痛,冷感,漢方医学的所見として心下痞硬を認めることが

多い。胃のバリウム造影検査や胃内視鏡で上記症状を説明しうる腫瘍や潰瘍などの

器質的異常を認めず,生検組織でも慢性胃炎の病理学的所見(リンパ球や形質細胞

などの炎症性細胞の浸潤,壁細胞の減少,胃粘膜の萎縮など)は少なく,症状はH.

pylori感染,胃炎所見,除菌の効果などと必ずしも関連しない。

表2▶ 機能性身体症候群と考えられている病態

▶ 線維筋痛症

▶ 過敏性腸症候群

▶ 慢性疲労症候群

▶ 舌痛症

▶ 側頭下顎症候群(顎関節症)

▶ 間質性膀胱炎

▶ 会陰痛

▶ 胸部痛

▶ 緊張性頭痛

▶ 腰背部痛 など

明らかな器質的原因によって説明できない身体的訴えがあり,それを苦痛と感じて日常生活に支障をきたす

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

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③ 胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)

▶食道や胃の蠕動運動低下,腹圧の上昇,胃液の分泌増加などにより胃液が逆流し食

道粘膜が障害され過酸症状,胸焼け,噯気,嘔気などが生じる。また嗄声,慢性咳

嗽,胸痛,前胸部灼熱感などの消化器以外の症状も出現する。線維筋痛症ではFD

による内容物の停滞や腹直筋や腹斜筋などの過緊張による腹圧の増加が原因となっ

てGERDが生じやすい。

 【診断】胃内視鏡検査で逆流に伴う食道の発赤やびらんが認められる。ただし所見と

症状が合致しないこともあり内服治療による効果で判断することもある。そのほか

体位変換による造影剤の食道への逆流や,食道pHモニターによる胃液の逆流をみ

る方法などがある。

④ 神経性腹部膨満症(neurotic abdominal distension)

▶線維筋痛症患者は時に腹痛や腹部膨満(妊婦のように膨らむ)を訴え,胃炎,腸炎,

イレウスなどが疑われる症状を呈することがある。本症は胃や腸の器質的疾患では

なく腹壁の筋緊張が関係しており,なかなか的確な診断がなされないため対応も困

難なことがある11)。同時に胃や腸の運動異常も併存し,FDやIBS症状を呈するこ

とも多い。

 【診断】腹部X線,消化管造影,消化管内視鏡,腹部エコーなどで器質的所見が認め

られず,腹部触診で心窩部や腹直筋の緊張,圧痛を認める。これは漢方医学の心下

痞硬,腹直筋攣急に類似した所見であり,痛みの主部位は腹壁である。

⑤ その他

▶肛門痛:排便時の痛み,直腸がひきつれるように痛い,坐位をとるのが困難などの

訴えがある。嚥下機能障害:食物を飲み込めない,物がつかえる,嚥下時に痛む,な

どの訴えがある。

【診断】いずれも内視鏡,画像検査などで異常所見が得られないなどの,除外診断が

中心である。

2)呼吸器・循環器系

① 胸筋痛症候群(chest muscle pain syndrome)

▶線維筋痛症患者はしばしば胸の強度の痛みや呼吸困難感を訴え,循環器科,呼吸器

科を受診する。非心臓性胸痛 non-cardiac chest painとも言われるもので,胸筋

の緊張・攣縮により胸痛が生じ,胸郭の拡張が抑制されるために呼吸が苦しいとの

症状につながる。

【診断】診察上,胸背筋や大胸筋,胸鎖乳突筋の胸鎖関節付着部位の圧痛を認め,呼

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吸筋,補助呼吸筋の緊張・収縮が認められる。胸部の聴診,打診,触診などに加え

胸部X線,肺機能検査(睡眠時無呼吸の評価,気道過敏性試験),心電図(運動負荷

心電図や自律神経機能を評価する立位心電図),心臓超音波検査などで心機能,呼吸

機能などに注目する。

② 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)

▶線維筋痛症患者の睡眠障害は痛みや全身倦怠感の増悪因子となっていることも多

く,特にSASとの関連が論じられている12,13)。

▶就寝時の無呼吸,あえぎ呼吸,激しいイビキ,頻回の中途覚醒などで気づかれるこ

とが多い。日中の過度の眠気,倦怠感,頭痛を訴え,二次的に血圧上昇や抑うつ状

態,性格的変化が引き起こされることがある。SASには無呼吸中に呼吸努力を伴う

閉塞型無呼吸と,呼吸努力を伴わない中枢型無呼吸がある。

【診断】簡易診断装置や夜間のパルスオキシメーターによる評価を行い,必要に応じ

てポリソムノグラフィー(polysomnography:PSG)を実施し,睡眠中のSpO2,心

電図,脳波,眼球運動,オトガイ筋電図による睡眠段階判定並びに中途覚醒反応の

検出などを測定する。線維筋痛症では閉塞型が多く,睡眠1時間当たり5回以上の

無呼吸が観察され,日中の過度の眠気を伴う。

③ 過換気症候群(hyperventilation syndrome:HVS)

▶線維筋痛症患者で突然の過呼吸発作が生じ,強い呼吸困難感,息苦しさ,胸痛,失

神感,四肢のしびれ,全身の痙攣などを訴えることがある。日常的な不安,緊張,

胸筋の攣縮が背景にあり,疲労,運動,精神的ストレスなどで誘発される。

【診断】発作時には血液ガス検査で,PaCO2低下,pH上昇(呼吸性アルカローシス)

を認める。胸部X線,肺機能検査や気道過敏性試験では異常所見を認めず,非発作

時には過呼吸テストで発作が誘発される。てんかん発作を疑うときは脳波検査で鑑

別する。

3)神経内科領域

▶診察で全身の神経反射,筋肉の緊張,収縮,痙攣などを観察し,痛みの性状,特徴

を把握する。必要に応じて筋電図(表面筋電図など),サーモメーター,各種の自律

神経機能検査などを行う。線維筋痛症では筋の慢性疼痛のみならず嘔気,めまい,

運動障害,倦怠感などを伴っているものである。

① 緊張型頭痛(tension type headache),偏頭痛(migraine headache)

▶わが国の調査では線維筋痛症患者の37%に緊張型頭痛が,57%に偏頭痛が合併する

とされており6),双方の混合型頭痛も多い。緊張型頭痛では非拍動性の頭痛,頭の

絞めつけ感,吐き気などを訴える。偏頭痛の合併もよくみられ拍動性頭痛,嘔気,

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

眼痛,閃輝性暗点などを訴える。

【診断】診察上,強度の肩や首のこり,後頸部の圧痛などを認める。頭部CTやMRI

などで器質的病変の除外を行う。予兆(aura)があれば偏頭痛を疑う。

② 下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群(restless legs syndrome:RLS)

▶線維筋痛症患者の30~60%に合併するとされる。夕刻から就寝時にかけての下肢

のむずむず感,虫が這うような異常感覚,じっと寝ていられない,身の置き所がな

い,などの症状から結果的に不眠に陥り,日中の眠気が増強する,集中力が低下す

る,うつ気分が増強する,などの症状が出現する14)。

【診断】国際RLS研究グループの診断基準があり,4項目を提唱している15)。

ⅰ.不快な感覚を伴う下肢を動かしたいという欲求

ⅱ.安静時や非活動時に生じる

ⅲ.歩行やストレッチで軽減,消失

ⅳ.夕方や夜間に増強する傾向

4)婦人科領域

▶線維筋痛症患者の80~90%は女性であり婦人科的診察に加え,性周期,ホルモン分

泌,腟液分泌,性機能などに注目する。月経のある線維筋痛症患者の90%は月経に

まつわる愁訴を有しているため月経状態,月経周期,内分泌との関連を評価する。

① 更年期障害(climacteric disorder,menopausal syndrome)

▶更年期障害は生殖期と非生殖期の間の卵巣機能が低下する45~55歳頃の更年期に

生じやすい,冷え・火照り・発汗・ホットフラッシュなどに代表される血管運動神経

症状である。卵巣機能の低下に起因するエストロゲン濃度の低下は,モノアミンオ

キシダーゼの分解を抑制しセロトニン濃度に影響することが知られている。さらに

精神的ストレス,社会的,環境的ストレスは大脳皮質 ─ 大脳辺縁系を刺激し視床下

部の自律神経中枢に影響を及ぼし,多彩な自律神経失調症状や精神神経症状が出現

する16)。

② 月経関連症状

 ⅰ.月経困難症(dysmenorrhea):月経時の下腹部痛,腰痛などの月経痛,悪心,頭痛,

倦怠感

 ⅱ. 月経前緊張症(premenstrual syndrome:PMS):月経前の倦怠感,情緒不安

定,微熱,過食,月経前気分不快障害(premenstrual dysphoric disorder:

PMDD)を含む

 ⅲ.過多月経(hypermenorrhea):月経出血の過剰,倦怠感,貧血

 ⅳ.月経周期の異常:無月経,月経不順

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③ 慢性骨盤疼痛性障害(chronic pelvic pain:CPP),外陰部痛(vulvodynia)

▶欧米の婦人科領域でよく用いられる症候名で,外陰部の灼熱感や慢性の会陰部痛を

訴えるものの,明確な器質的変化のない病態を表す言葉。性交時の腟液分泌低下,

腟痙攣などより性交痛,性交不能の状態に陥りやすい。

【診断】一般的な婦人科診察で器質的疾患の有無を十分に精査する。更年期障害を評

価する指標としてクッパーマン指数(Kupperman index)がある17)。血管運動神経

症状,知覚症状,不眠,神経質,憂うつ,めまい,全身倦怠感,関節痛・筋肉痛,頭

痛,心悸亢進,蟻走感の11の症状群についてそれぞれ重症度を0(無)~3(強)の4

段階に分類し,各症状に重み付け(factor)を割り当て,factorと重症度の積を求め,

11症状の積を加算することで更年期指数を求める。16~20は軽度,21~34は中程

度,35以上は重度と評価する。更年期障害と抑うつ状態への配慮が重要で,ハミル

トン抑うつ得点(Hamilton depression scale:HAM-D)などの心理テストが有用

である。

5)泌尿器領域

▶線維筋痛症患者の多くが泌尿器にまつわる症状を有している。頻尿,排尿痛,排尿

困難,尿失禁,尿閉などの排尿障害に加え,会陰部痛,骨盤底筋群の攣縮,坐位困

難,性交痛などの訴えもある。近年,線維筋痛症患者の過活動膀胱や間質性膀胱炎

に関心がもたれている。

① 過活動膀胱(overactive bladder:OAB)

▶線維筋痛症患者ではOABの頻度は高く,QOLに大きな影響を与えるが,泌尿器科

専門医を受診しないことも多い。OABには潜在的な排尿筋過活動状態が共通して

存在し,尿意切迫感を必須として頻尿と夜間頻尿を伴うものであるが,切迫性尿失

禁は必須ではない。

▶正式な名称は過活動膀胱症候群であるが,尿意切迫症候群(urge-syndrome),尿意

切迫 ─ 頻尿症候群(urgency-frequency syndrome)とも呼ぶ。

▶原因には神経因性として

 ⅰ .脳幹より上位の中枢障害:脳血管障害,脳外傷,認知症,パーキンソン病,など

 ⅱ.脊髄の障害:脊髄損傷,多発性硬化症,脊髄小脳変性症,脊柱管狭窄症,など

▶非神経因性として

ⅰ.下部尿路閉塞,ⅱ.加齢,ⅲ.骨盤底の脆弱化,ⅳ.特発性,があり,線維筋痛症

患者で多いのはⅲとⅳであろう。

【診断】2002年に国際禁制学会(ICS)による「下部尿路機能の用語の標準化」が発行

されて以来,OABの初期診断は症状に基づいて行われるようになった。OABの症

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

状と通常の尿流動態検査(UDS)所見は必ずしも相関しないことから泌尿器科医で

もUDS所見なしに症状のみを根拠に治療を開始することが多い。膀胱腫瘍,膀胱結

石,尿路感染などを除外する。

② 間質性膀胱炎(interstitial cystitis:IC)

▶ICは間質の非特異的な慢性炎症による膀胱刺激症状を呈する疾患であり,頻尿,尿

意切迫感,膀胱周辺(恥骨上部,尿道,会陰部,肛門部,鼠径部など)の耐えがたい

痛みが特徴である。多彩な合併症を有することで知られ,米国ではICはアレルギー

疾患と約40.6%,過敏性腸症候群と25.6%,偏頭痛と18.8%,線維筋痛症と12.8%

に合併するとの報告がある18)。ICと線維筋痛症とは共に病悩期間が年単位と長く,

下降疼痛抑制系の機能異常,痛覚過敏状態などが共通のメカニズムとして考えられ

ている19)。

【診断】頻尿,排尿切迫などに加え膀胱充満時痛が排尿後に軽快する,恥骨上部痛,

膀胱周囲が広範囲に痛む,などの症状から診断する。泌尿器科的診察に加え,尿所

見,超音波,腎盂撮影,膀胱鏡などで排尿にまつわる機能に注目するが,線維筋痛

症に合併するICではこれらに特異的な変化が認められないことが多い。国際的に

はNational Institute of Diabetes,Digestive and Kidney diseases(NIDDK)の間

質性膀胱炎の診断基準と除外基準(1987)がある20)。

6)耳鼻科領域

▶線維筋痛症患者はしばしばめまい,ふらつき,耳鳴り,咽喉頭の異常感,など多彩

な耳鼻科的症状を訴える。耳管は鼻粘膜と類似した粘膜構造をしており炎症性,機

能性腫脹による機能不全が生じやすい。また耳管の一部は口蓋帆張筋と連結,前庭

部は椎骨動脈によって血液の供給を受けており,肩や首の筋緊張でも耳管や前庭部

の機能異常が生じる。嚥下筋の緊張・収縮が強いと咽喉頭異常感症や嚥下痛,嚥下

困難も生じる。

① 眩暈症:めまい,ふらつき,平衡機能障害,嘔気

② 耳鳴症:耳鳴り,めまい

③ 耳管開放症・閉鎖症:耳閉感,音声反響,耳鳴り

④ 咽喉頭異常感症:のどの異物感・つかえ,嚥下困難,いわゆるヒステリー球,梅核

⑤ 味覚異常:舌表面の痛みやしびれ,味覚の低下

【診断】耳鼻科的診察に加え,頸部や肩の筋緊張,収縮を触診で確認し,耳鼻科的症

状との関連を探る。画像検査(CT,MRI)で脳梗塞・脳出血,脳腫瘍を否定するこ

とは重要である。

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▶めまいやふらつきの鑑別には以下の検査を行い鑑別する。

▶眼振検査:フレンツェル眼鏡や赤外線CCDカメラを使用し注視時,非注視時,頭位

を変えた状態などで眼振を観察する。体平衡検査:両足または片足の立位で閉眼,

非閉眼時のふらつきを観察,足踏み時の身体の傾きや一方向への偏りを観察する。

聴力検査:低音,高音の聴力を観察。

7)歯科・口腔外科系

▶線維筋痛症の患者は日常生活上の精神的緊張が強く,噛み締め(ブラキシズム),歯

軋りなどが多く,歯科・口腔外科を受診することが多い。

① 顎関節症(temporomandibular joint disorder)

▶線維筋痛症の病態と共通のメカニズムも考えられており,FSSのひとつでもある4,5)。

顎関節症の主要3症状は顎運動障害,顎関節痛,関節雑音(ゴリゴリというcrepitus

と,カクンとなる弾撥音のclicking)であり,単独もしくは合併する。病態には強い

噛み締め,咀嚼筋の緊張,関節包・靱帯の障害,関節円板の障害,変形性関節症な

どが関与する。同時に耳痛,耳閉,難聴,めまい,眼精疲労,頭痛や首,肩のこり

等の症状を呈することが多い。日本顎関節学会は5つの型に分類している。

Ⅰ型:咀嚼筋の筋緊張とスパズム,筋炎が関係し,筋痛が強度

Ⅱ型: 関節包,関節靱帯,円板組織の慢性外傷による関節部の運動痛と圧痛。関節

雑音を生ずるが筋痛は弱い。関節鏡下で病変を認める。

Ⅲ型: 関節円板の転位や変性,穿孔,線維化。関節雑音(クリッキング)が顕著。筋

痛や顎関節痛は弱い。

Ⅳ型: 変形性関節症。骨吸収や変性・変形などの退行性病変が主徴候。関節雑音が顕

著でX線所見上も大きな変化を認める。

Ⅴ型: 上記のⅠ~Ⅳ型のいずれにも該当せず顎関節症状を訴える,心身医学的な要

素を含むもの。

② 舌痛症(glossodynia)

▶線維筋痛症患者の32.8%にみられるという21)。舌痛症では舌の痛みや異常感を強く

訴えるが,器質的な異常を認めない。火傷したような痛み,歯にこすれるような「ヒ

リヒリ」,「ピリピリ」感,しびれるような感覚が慢性的に何年も続く疾患である。以

前より心因性と言われてきたが,近年は中枢神経系上位の脳内体性知覚回路の電気

信号異常によって引き起こされる中枢性疼痛と考えられるようになった。

③ 口腔乾燥症(xerostomia,dry mouth),異味覚(dysgeusia)

▶唾液分泌低下によるシェーグレン症候群様乾燥感や口内乾燥症は70.9%,異味覚も

34.2%にみられるという21)。線維筋痛症患者の75%がドライアイ・ドライマウスな

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どの乾燥症状を訴えるが22),病理学的にシェーグレン症候群が証明されるのは7%

程度という23)。交感神経緊張により粘稠性の唾液分泌が増加し漿液性の唾液が減少

するため,自律神経性の口腔乾燥感が主体と考えられている。

④ 歯周炎(periodontitis),歯槽骨炎(alveolar osteitis)

▶歯痛症状で歯科を受診する契機になり,歯肉の腫脹,疼痛,化膿などの症状を伴う。

患者特有の強い噛み締めや食いしばりなどが関係する。

【診断】顎関節症は顎関節の運動異常,痛み,関節雑音など顎関節症の主要3症状に

よって診断する。顎関節部の画像診断(X線,CT,MRI)や顎運動検査,時に関節

鏡による診断も行われる。歯科的診察に加え,舌苔・歯痕などの舌の性状,歯肉の

腫脹や色調,口臭,唾液分泌などの口腔内の状態,肩や首,背部の筋緊張やしこり

を観察する。

8)眼科領域

▶線維筋痛症の患者は筋の攣縮に由来する眼球運動の異常や神経過敏性から生じる眼

科的症状も多い。眼科的には異常なしとされることが多い。

① 眼精疲労(asthenopia)

▶眼の疲れ,眼痛,複視,かすみ目,視力低下,流涙

② 羞明症(photophobia)

▶まぶしさ,眼痛などを訴えるが,時に片側の散瞳が観察されることがある。

③ 眼乾燥症(dry eye)

▶涙分泌低下,乾燥感,羞明などがある。口腔乾燥症同様にシェーグレン症候群との

鑑別が重要である22,23)。

④ 眼筋痙攣(blepharospasm),眼瞼下垂(blepharoptosis)

▶片側のことが多い。眼筋痙攣は眼輪筋痙攣によって生じ,虹彩毛様体炎,顔面神経

性,脳内病変の有無などの検討が必要である。眼瞼下垂は交感神経緊張による上眼

瞼の挙上不全が考えられる。

【診断】視力検査,視野検査,眼圧測定,シルマーテスト,蛍光眼底検査などの眼科

的診察に加え,側頭筋や眼輪筋の緊張や圧痛を観察する。

発症・経過に関与する心身医学的要因の評価4▶線維筋痛症患者が有する心療内科的疾患の多くは心身症の様相を呈するので,その

発症,経過にまつわる心理社会的ストレス要因の検討が重要である24,25)。そのため

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には病歴や既往歴,家族歴について詳細な問診を行い,常に心身相関を考慮しなが

ら診断,鑑別をする必要がある。

1)発症・経過に影響する心理社会的ストレスエピソード

▶線維筋痛症発症の時期に一致したストレスのエピソードが認められ,患者の多くは

それを認識,自覚しているものである25)。その際に体験した精神的葛藤や不安,緊

張などの心理状態が発症・経過に大きな影響を与え,逆にこれらの心理的問題が解

決すると症状が改善することが認められれば「心身相関」が実証される。先入観や偏

見にとらわれないよう注意しながら,この「心身相関」を評価する姿勢が必要であ

る。

① 発症時の心理・社会・生活的背景

▶仕事,学業,対人関係,経済状況などにどのような心理的体験をしていたか,その

原因は何か,を聴取する。仕事,学業,生活上のトラブル,葛藤などの蓄積,未解

決問題の持ち越しなどのエピソードが重要である。

② 生育歴にみるストレス要因,親子関係,人間関係

▶親の育児態度,育児理念などによる生育上のストレス要因。離婚,死別などによる

親子の分離,喪失体験。虐待,ネグレクトなどによる心理的外傷体験を聴取して関

連を探る。

③ 事故,外傷,手術,出産,疲弊,過剰な運動などの身体的負荷

▶筋肉系への過剰な負担,外傷,炎症などが発症の誘引になる。過去の過剰な運動

(over training),感染症のエピソードも重要な情報である。大切なのはこのような

身体的負荷を受けた時期に十分な休養やリラクセーションが図られなかったストレ

ス状況が問題である。

④ 不安,緊張,うつ,破局性などの精神的負荷

▶不安,緊張,抑うつを生じやすい性格・行動特性を有していないか,このような心

理状態を惹起する生活上のエピソードを有していないか,破局的な思考などに陥っ

ていないか,などを検索する26)。線維筋痛症と精神疾患とのcomorbidityも論じら

れている27,28)。

⑤ 遺伝的負荷

▶親や近親の既往歴の中に各種心身症,線維筋痛症の家族歴があると遺伝的負荷も考

慮する必要がある。遺伝的負荷は生物学的発症要因にもなるが,家族の感情生活,

ライフスタイルの形成にも影響を与え心理社会的ストレス要因にもなる。

2)行動・ライフスタイルの特徴

▶行動医学的な側面からライフスタイル,生活習慣の歪みに注目して線維筋痛症の発

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症要因,病態の修飾要因となる行動特性に注目する。

① 就業上の行動特性

▶過剰な残業や休日出勤,ノルマ達成への強い欲求,疲労を押して無理を重ねる,な

どの就業態度が認められる。

② 休養,休息の取り方

▶休養や余暇をとらずに働き続ける,睡眠や食事を犠牲にする,など心身に負荷をか

け肉体的疲弊状態に陥りやすい行動特性がみられる。

③ 運動不足・過多,低活動・過活動

▶運動や余暇にもノルマを課す,過剰な運動をして筋肉を傷める,逆に何かに熱中す

るあまり運動不足,低活動に陥る。

④ 家事,生活形態

▶過剰な几帳面さで完璧に家事をこなそうとする,すきのない生活を送ろうとする。

家族,近所づきあいに気を配りすぎる。

3)性格傾向の特徴

① 問診,面接で評価

▶線維筋痛症患者の性格傾向を評価する。問診や面接によって態度,口調,しぐさな

どを観察し強迫,完全性,執着性,自己犠牲,攻撃性,几帳面さ,不安傾向,抑う

つ傾向などの心理性格的特性の有無,程度をみる。真面目,模範的,頑張り屋,自

己抑制的,自己犠牲的,他人の評価・思惑を気にする,周囲の期待に応えようと努

力するなどの「過剰適応」,生の感情を出さず自然の欲求を抑え自己犠牲的に振る舞

う「自己抑制」が問題になることもある29)。

② 心理性格テストなどによる性格特性,心理的ストレスの評価

▶様々な心理テストがあるが,自己記入式のテストが採点も容易で使いやすい。

▶例)CMI(コーネル医学指標)による全身臓器の症状や神経症傾向の調査,パーソナ

リティインベントリーやエゴグラムによる性格傾向の評価,SDS(抑うつ尺度)によ

る抑うつ度,MAS(顕在性不安尺度)やSTAI(状態・特性不安検査)による不安度

の客観的な評価を行う。

4)症状の悪化要因の検討

▶線維筋痛症患者の症状はしばしば以下の要因で変動する。

① 天候・環境の変化

▶温度よりは気圧や湿度の変化に敏感で,季節の変わり目,降雨,台風などの気候変

化に影響を受けて痛みや不定愁訴が増強する。また住居環境,就業環境の変化にも

影響を受けて症状が変動する。

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② 過労,睡眠不足,運動

▶些細な筋肉運動,負荷だけで痛みが増悪する傾向があり,筋肉をねじるような回転

運動や筋肉を伸ばすストレッチなどで急激に悪化することがある29,30)。また娯楽,

家事や運動にもノルマを課して休まずに動き続ける,頑張り続ける,などの行動特

性がみられる。たとえ楽しい娯楽や旅行でも過労が重なると,後になって痛みが増

強して,寝込むなどの反動も大きい。

③ 感情と痛み

▶心理的葛藤,フラストレーション,不適応状態,欲求不満状態などが疼痛を生じさ

せるプロセスが考えられている。その背景にある拒否感,怒り,恨み,悔やみ,不

全感などの陰性感情に伴い痛みが増強するなど,痛みと感情との間に関連がある31)。

5)症状の改善要因の検討

▶どのようなときに症状の改善がみられたか,改善の要因となるエピソードを分析し

検討する。

① 服薬,理学療法,リハビリなどの治療状況

▶抗うつ薬・抗痙攣薬・抗不安薬などの組み合わせと服薬状況,温熱・低周波・マッサ

ージなどの理学療法,関節可動域・運動能拡大のためのリハビリなどによる治療効

果を検討する。

② 生活様式,運動習慣の改善

▶どのような生活をして,どのような運動をするとリラクセーションが図られるか,

痛みが軽減するか,行動範囲が拡大するか,などを検討する。近年は有酸素運動

(aerobic exercise:AE)が線維筋痛症患者の運動療法として推奨されている。AE

を実施することにより疼痛, 疲労感, 抑うつ気分が軽減され,QOLが改善し,

physical fitnessが向上するという報告も多い32)。このAEは,水陸問わず,週2~

3回,少なくとも4週間継続するべきであり,プログラム終了後もエクササイズを継

続することが肝要である。

③ 認知や行動の転換や積極的かかわり

▶現在,非薬物療法の中で最もエビデンスレベル,推奨度とも高いのは認知行動療法

である33)。痛み改善のための積極的取り組み,どのような考え方,どのような行動

で痛みが軽減されるか,痛みを抱えながらできることは何か,などを検討する。人

間関係の修復,状況の好転で,喜び,充実感,満足感,達成感などの陽性感情に満

たされると痛みが軽減することも多い。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

▶線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の基本的な症候は,3カ月以上持続する慢性の全身

性疼痛と,不眠,疲労感,気分障害,認知障害などを特徴とするが,しびれ・ピリ

ピリ感などの異常感覚,視力障害,平衡障害,筋力低下,筋肉の不随意運動(筋肉

のピクツキやこむらがえり)など,様々な神経症状を訴える場合が多く1),時に神経

内科的疾患との鑑別を必要とする。鑑別を要する代表的な神経内科的疾患として,

慢性炎症性脱髄性多発神経炎,アイザックス症候群などの末梢神経疾患,多発性硬

化症,重症筋無力症,筋炎などが挙げられる。臨床経過の問診と注意深い神経学的

診察によって,多くの場合,鑑別が困難ではないが,これらの疾患の存在を念頭に

置いて線維筋痛症患者の診療にのぞむ必要があり,以下に各疾患の特徴について簡

単に紹介する。また,これらの神経内科的疾患の続発症として線維筋痛症を発症し

ている患者も認められる点は,線維筋痛症の病態を考える上で興味深い。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)1

1)概要

▶CIDPは,四肢の筋力低下や感覚障害を主徴とする自己免疫性末梢神経障害であ

る。1カ月以内に症状のピークを示すギラン・バレー症候群と異なり,2カ月以上に

わたり慢性進行性,階段状,または再発・寛解の経過をたどる点が特徴であり,線

維筋痛症の鑑別疾患として重要である。一般に運動障害優位の運動・感覚障害を示

すが,稀に運動麻痺のみ,ないし感覚障害のみを呈することがあり,特に感覚障害

のみを示す症例は,線維筋痛症との鑑別に注意が必要である。

▶治療法として,副腎皮質ステロイド療法や免疫グロブリン大量静注(IVIg)療法,血

漿交換療法の有効性が確立されている。本邦では「特定疾患治療研究事業」対象疾患

に認定されており,本人の申請により医療費助成を受けることができるため,適切

鑑別診断

線維筋痛症と神経内科的疾患の鑑別

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な診断が求められる。

▶2008年に,線維筋痛症患者の一部に電気生理学的検査でCIDP様の所見を示し,

IVIg療法で全身の疼痛が改善したとの報告がある2)。また筆者は,ギラン・バレー

症候群後遺症で線維筋痛症を発症している患者を複数例経験しており,慢性的な末

梢感覚神経障害の線維筋痛症病態における関連性は興味深い。

2)鑑別のポイント

▶一般的にCIDPは四肢腱反射の消失あるいは減弱が認められるため,そのような所

見が認められる患者は,神経内科専門医に紹介することを推奨する。痛みの程度が

激しい症例も認められ,痛みの程度では鑑別は困難である。診断には電気生理学的

検査(神経伝導検査)が必須であり,脱髄性の伝導障害を多発性に証明する必要があ

る。髄液検査での蛋白細胞解離(細胞数は正常で総蛋白上昇)や,MRIでの神経根・

神経叢の肥厚・造影効果の存在は,診断を支持する所見である。

アイザックス症候群(Isaacs syndrome)21)概要

▶アイザックス症候群は,全身性の筋肉のピクツキ,こむらがえり,筋硬直,手指の

開排制限などの筋収縮後の弛緩困難(neuromyotonia)を特徴とし,これらの筋症

状は運動負荷・虚血・寒冷刺激などで増強する。筋肥大を起こすこともあり,また筋

痙攣が強い場合は,その筋に筋力低下をきたすこともある。発汗過多を中心とした

自律神経症状も30~50%の症例で認められる。通常はこのような運動症状が主で

あるが,異常感覚や局所的な痛みを伴う症例の報告も認められる。

▶筋電図検査で,ミオキミア放電とニューロミオトニア放電が観察され,これらの自

発放電の起源は,末梢神経と考えられている。アイザックス症候群では,電位依存

性K+チャネル(voltage-gated potassium channel:VGKC)に対する抗体(抗VGKC抗

体)の存在が確認されている。末梢神経の興奮性は,Na+電流が活動電位を発生さ

せ,K+電流で再分極させている。抗VGKC抗体がVGKCに結合することで,K+電

流量が低下し,末梢神経の興奮性亢進が起こり,筋収縮後弛緩困難などの症状が起

こると理解されている3)。

2)鑑別のポイント

▶筆者らは,全身性の慢性疼痛を示す線維筋痛症患者において筋肉のピクツキ,こむ

らがえり,筋硬直,時に筋肥大を示す一群が存在することを報告しており,これら

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

の症状は線維筋痛症患者でしばしば認められる。しかしながら,アイザックス症候

群は一般的には線維筋痛症のような全身性の慢性疼痛を示さない。部分的に痛みを

伴っていても,筋肉の症状が主である場合はアイザックス症候群を疑い,筋電図検

査の施行が望まれる。また,アイザックス症候群は抗VGKC抗体が陽性である場合

が多いが,筆者らの検討では線維筋痛症患者においても抗VGKC抗体が陽性である

場合が認められ,今後の検討が必要である。興味深いことに,最近抗VGKC抗体が

慢性疼痛と関連するという報告がなされた4)。

多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)31)概要

▶多発性硬化症は,中枢神経白質を侵す炎症性脱髄性疾患で,原因は不明である。中

枢神経白質の障害に基づく様々な症状が多発性に出現し(空間的多発),またこれら

の症状は再発・寛解を繰り返す(時間的多発)のが特徴である。比較的若い成人(32

±13歳)に好発し,男女比は約1:3である。症状は,視力障害,運動麻痺,感覚障

害を主徴とし,時に精神症状や膀胱直腸障害を呈する。

① 視力障害:視神経が侵されることにより,両側または片側の視力低下をきたす。

眼球運動時痛や中心視力低下が多くみられる。

② 運動麻痺:通常は上位ニューロン障害による痙性麻痺であるが,障害部位により

片麻痺,四肢麻痺,対麻痺など様々な症状を呈する。時に脊髄根障害により,腱

反射低下をきたすこともある。

③ 感覚障害:ジンジン感などの異常感覚,感覚鈍麻が多く,大脳病巣では顔面を含

む半身の,脊髄では障害レベルまたはそれ以下の感覚異常を呈する。時に,四肢

の一部にしびれ感を伴って,有痛性強直性痙攣を起こしたり,頸の前屈により誘

発される背部から下肢への電撃痛(Lhermitte徴候)などがみられる。

▶診断は,MSに特徴的な空間的,時間的多発性神経症状の出現と下記の検査所見に

より診断する。

① MRI:病巣部はT2強調画像,プロトン強調画像,FLAIR画像で高信号,T1強調

画像で低信号として描出される。

② 髄液検査:急性期には軽度の細胞増加(主に単核球)や蛋白増加,IgGの増加を認

めることが多い。

③ 大脳誘発電位:体性感覚誘発電位,視覚誘発電位,聴性脳幹誘発電位で,伝導遅

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延を示す。この検査は,特定の神経経路に存在する顕在性または潜在性の病巣検

出に役立つ。

2)鑑別のポイント

▶MS患者は,神経症状が神経解剖学的に説明できる部位に限局して認められる点が

大きな違いである。筆者は,MSに続発した線維筋痛症患者を診療しているが,出

現した症状がMS由来であるのか,線維筋痛症由来であるのかの判断に慎重さを要

するので,そのような症例は,神経内科の主治医との密接な連携が必要である。

重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)41)概要

▶重症筋無力症は骨格筋の脱力を主徴とする疾患で,特に易疲労性と休息による改善

という特徴を有する。その病態は,骨格筋の神経筋接合部の後シナプス膜のアセチ

ルコリン受容体に対する抗体が産生され,神経筋伝達が障害される自己免疫疾患で

ある。20~40歳代の女性に好発し,男性は50歳以上に多い。症状は,骨格筋,特

に外眼筋,球筋,四肢近位筋の脱力が主徴である。脱力は日内変動を伴い,特に夕

方~夜にかけて増悪し,休息で改善するのが特徴的である。初発症状として易疲労

感を訴える症例が非常に多く注意が必要であり,その他,眼瞼下垂や複視,嚥下困

難を呈することが多い。診断は,自覚症状が1つ以上,理学所見が1つ以上に加え

て,以下の3つの検査のうち1つ以上が陽性であることが必要である。① テンシロ

ン(エドロホニウム)テスト:コリンエステラーゼ阻害薬であるエドロホニウムを静

注することにより,筋脱力の一過性の改善がみられるかを調べる検査で,改善があ

れば陽性である。② 誘発筋電図:顔面筋や四肢筋の支配神経を反復刺激すると,

MG患者ではCMAP振幅が10%以上減衰するwaning現象を認める。③ 抗アセチル

コリン受容体(AChR)抗体:AChR抗体は阻害抗体と結合抗体の2種類に分かれて

おり,アセチルコリンがAChRに結合するのを阻止し,後者はAChRの崩壊促進に

関与するとされている。MG患者では結合抗体のほうが検出率が高いが,その抗体

価とMGの重症度は相関しない。MGは高率に胸腺異常(胸腺腫,胸腺過形成)を合

併しており,胸部X線検査や胸部CT検査で発見される。

2)鑑別のポイント

▶易疲労性を主訴とする場合に,鑑別が重要である。MG患者は基本的に全身性の慢

性疼痛を訴えるケースはきわめて少ないが,決定的な違いは,MGの場合症状に日

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

内変動がある点である。朝よりも夕方に症状が悪化するか,運動後に症状が悪化す

るか,などの問診が重要になる。眼瞼下垂や複視の症状も特徴的であり,複視を認

める症例では,眼球運動障害の有無について診察すると判断しやすい。

おわりに5▶線維筋痛症患者は,上記した症状以外にも,頭痛・頭重感,頸部の痛みやこり,背

部痛,腰痛,などの神経症状の訴えも多い。頸椎症などの整形外科的疾患に起因し

ている場合や,あるいは合併している場合も多いので,これらにも注意が必要であ

る。また,パーキンソン病にしばしばみられる線維筋痛症様の症状にも配慮する必

要があり,神経に対する認識も必要である。これらについては,他章を参照して頂

きたい。

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鑑別診断と合併症11)確定診断の方法からみて

▶2つの疾患の関係を考えるとき,病理所見のような確立された確定診断の方法があ

るときは鑑別や合併を考えやすい。両疾患の所見を有していれば合併であり,臨床

症状はA疾患に似ているが,病理検査などでB疾患の所見が認められた場合は,B

疾患の鑑別診断としてA疾患を挙げることになる。

▶線維筋痛症は何らかの中枢神経系の異常が病因であると想定されているものの,現

時点では病因不明と言うべきであるし,診断も臨床症状の特徴のみからなされる。

一方,精神疾患も検査所見などの他覚所見による診断方法はない。統合失調症や躁

うつ病は何らかの脳の異常に起因すると推測されているが,診断確定は現在も臨床

症状からなされている。このように共に診断を決定づける異常な他覚所見が明らか

でない疾患における鑑別や合併は評価や考え方自体を明確にしておかないと混乱し

やすい。

2)精神疾患の病因と診断名が抱える問題

▶精神疾患診断における最近の動向として考慮すべき点がある。かつて内因性うつ

病,神経症性うつ病,心気症などという診断名を用いていた時代には,原因は明ら

かでないとしても,背景にある何らかの原因を想定する診断名を用いていた。内因

性うつ病ではまだ見つかっていない何らかの脳の異常がある可能性が大きいと考え

られていたし,神経症性うつ病や心気症は性格や環境の影響が大きいとされてい

た。そのため診断においても,性格や症状発現前に認めた環境の変化など,病因に

相当する部分が詳細に問診されていた。

▶ところが性格や環境の変化に関する情報を診断に用いると,面接する医師ごとに評

価の差が大きくなりやすい。評価者間一致度が低いことは科学性を欠くことである

という考えから,近年精神疾患の診断を表面に現れた症状のみから行う傾向が強ま

鑑別診断

線維筋痛症と精神疾患の鑑別

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

っている。 この傾向は米国精神医学会によるDSM(Diagnostic and Statistical

Manual)やWHOによるICD(International Statistical Classification of Diseases)

でみられ,大うつ病エピソードや身体化障害という診断はこの流れから生まれた。

非常に強い環境変化の直後に起こっても,表面に現れた症状が大うつ病エピソード

の診断基準を満たせば,大うつ病エピソードなのである。病因と対応する症状の組

み合わせを疾患と呼ぶと考えれば,大うつ病エピソードや身体化障害という呼称

は,現時点では疾患名というよりも単なる症状の組み合わせと考えておいたほうが

よい。

▶このあたりの事情を理解して,線維筋痛症と精神疾患の鑑別や合併を判断すれば

「大うつ病エピソードと診断されるからうつ病に起因する痛みであるはずだ」とか

「痛みがとれればうつ状態は良くなるはずだ」などという安易な理解は避けること

ができよう。

線維筋痛症患者のうつ状態2▶線維筋痛症患者がうつ状態を呈した場合,第一に最も考えやすいのは痛みが強いこ

とを苦痛に感じて憂鬱感を強めている場合である。病因を考慮して精神疾患の診断

をつければ,反応性うつ病や抑うつ気分を伴う適応障害となる。この病名を用いる

場合,痛みがとれればうつ状態は軽快するという考えが背景になければならない。

このときのうつ状態が一定の症状特徴と重症度をもっていれば大うつ病エピソード

と診断されることもある。

▶第二にうつ状態では様々な身体症状を認めることが多い。線維筋痛症の診断基準を

満たす,あるいは満たす可能性がある痛みが,うつ状態に伴う身体症状であると考

えられることがある。この場合,うつ状態が軽快すれば痛みは軽減するはずである

という考えが背景にある。

▶第一と第二の場合の鑑別に最も重要なのは痛みと憂鬱感の時間的関係である。前者

では憂鬱感は痛みの発現後にみられる。後者ではうつ病症状が先行することが多い

が,痛みがしばらく続いた後,うつ病症状が発現することもある。うつ状態の重症

度は鑑別の指標にならないと考えたほうがよいし,大うつ病エピソードの診断基準

を満たすから第二に当たると考えるのは誤りであることも知っておく必要がある。

▶痛みと憂鬱感が交代性に出現することがある。ひとつの精神症状が軽快するととも

に他の精神症状が強まることを症候移動と呼ぶ。性格や環境が主な原因となる痛み

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やうつ状態で認めることが多い。身体医は「痛みが弱まると憂鬱感が強まることか

ら,このうつ状態は痛みと関係ない」と考えがちであるが,精神科医は同一の病因

が時期によって痛みと憂鬱感を出現させていると考えて,治療に当たることが多

い。

▶原因不明の痛みに加えて,様々な精神症状を認めたとき,身体医は「精神症状を合

併する痛みの患者」とか「対応の難しい痛みの患者」などと,痛みと他の精神症状を

別にとらえる傾向がある。一方,精神医学では通常,「何らかの病因が痛みを含む多

彩な精神症状を生んでいる患者」と考える。

▶うつ病の概念自体が今日のように広まり,種々の診断基準がその意義を明確にしな

いまま使われている現状で,うつ病と線維筋痛症の関係に関する議論は慎重になさ

れる必要がある。頻用される操作的診断基準であるDSMを用いて,うつ状態を呈

する線維筋痛症患者を診断するとすれば,精神面は第1軸で精神疾患の診断をつ

け,第3軸(一般身体疾患)に線維筋痛症と記載するしかない。これは臨床統計や施

設間比較には生かせるが,治療にはあまり役立たない。

線維筋痛症患者にみられる統合失調症症状3▶痛みを訴える患者に統合失調症特有の幻覚や妄想などがみられるときは,線維筋痛

症と統合失調症の合併,あるいは統合失調症の身体に関する妄想あるいは体感異常

(セネストパチー)の一部として痛みが出現していると考える。この場合,統合失調

症の診断は痛みと関係しない症状をもとになされねばならない。

▶統合失調症と診断されれば,原因不明の痛みも統合失調症の症状とすぐ考える身体

医に出会ったことがあるが,統合失調症の症状として強い痛みが訴えられることは

きわめて稀である。

線維筋痛症症状と心気症,ヒステリーとの関連4▶身体症状が主に性格や環境に起因する精神疾患の症状であると考えたとき,登場す

る病名が心気症や転換型ヒステリーである。これらの診断を用いる場合,身体愁訴

が身体所見に見合わないことが必要であるため,精神科医が用いている診断なが

ら,診断の鍵を握っているのは身体症状を評価する身体科の医師であるということ

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

になる。

▶これらの診断では身体愁訴が身体所見に見合わないことが条件となるため,線維筋

痛症という「身体疾患」が痛みの原因であるという考えに立てば,心気症や転換型ヒ

ステリーなどという診断は通常はつかない。心気症では痛みの背景に何らかの身体

疾患への罹患や死に対する強い恐怖感があることが多い。転換型ヒステリーでは痛

みや痛みの部位や性状が患者の生活と関係する象徴的な意味をもつ,痛みをもつこ

とで生活上,得をしているかのように解釈できる面がある(疾病利得),人が見てい

る前で症状が増悪する,などの特徴をもつことが多い。

▶痛みがあるために仕事を休んでいるが,休業期間中の生活は保障されるとか,交通

事故後に痛みが遷延するが,治療費や生活費はすべて補償されているなどというこ

とがある。痛みにこのような面が関係しているのではないかと考えたとき,補償神

経症という病名が登場し,これは転換型ヒステリーに含めることがある。痛くない

のに故意に痛いと訴えている場合は詐病であるが,補償神経症では患者は本当に痛

みを感じていると考えられている。

線維筋痛症症状と身体表現性障害,疼痛性障害との関連5▶線維筋痛症症例の診察を精神科医に依頼したら身体表現性障害と診断されたという

身体科の医師の話をしばしば耳にするが,これには問題がある。第一に身体表現性

障害というのはいくつかの疾患を含むカテゴリーの呼称であり,診断名ではない。

診断名として取り上げるのは誤用である。第二に,もし身体表現性障害に含まれる

疾患として診断するなら,持続性身体表現性疼痛障害や疼痛性障害である。しかし

持続性身体表現性疼痛障害や疼痛性障害では痛みの原因に精神面が多かれ少なかれ

関係しているとされ,同じ痛みに対して線維筋痛症という身体疾患と精神疾患両方

の診断をつけるのは不適切である。

▶持続性身体表現性疼痛障害や疼痛性障害は精神疾患の診断基準に改訂が加えられる

たびに微妙に内容が変化する病名であるため,診断基準に記載された内容に従って

診断するしかない。診断において重視すべき点は「身体疾患の重症度のわりに痛み

の自覚が強すぎないか」と「痛みのわりに社会的機能(仕事,学業など)が低下しす

ぎていないか」であろう。

▶精神疾患として記載される疼痛性障害には特定の薬剤が有効であるというエビデン

スがほとんどないが,線維筋痛症には薬剤が有効であるというエビデンスがあるの

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で,このため,もし同じ病態をみているとしても,線維筋痛症のほうが診断として

価値があるのではないかという議論がある。薬剤の有効性のみを臨床単位の意義と

するのは議論があるにしても,疾患をわざわざ身体と精神に分けて議論する必要は

なく,また治療法の有無は臨床単位の意義を示す重要な要因であるため,このよう

な視点での検討は今後続けていく必要がある。

線維筋痛症症状と認知症6▶線維筋痛症症状を訴える患者に知的機能の低下を認める場合は認知症の合併を疑

う。軽度の認知症は日常生活の言動から見出せることは少なく,何らかの知能検査

を実施しなければ診断できないことが多い。認知症症状がある場合,実際にある痛

みを訴えなかったり,他の身体症状を痛みとして訴えたりすることがあるため,症

状は慎重に評価する。

痛みと薬物依存,詐病7▶ある薬物が痛みに奏効した場合,あるいは患者自身が奏効したと感じる場合,持続

的にその薬物を求めることがある。それが過量になったり,求め方が不適切になっ

たりすると,いわゆる薬物依存と呼びうる。実際には痛くないのに痛いと訴えて薬

剤を求める場合は,薬物依存はあるが,痛みに関しては詐病ということになる。

子どもにみられる線維筋痛症症状8▶子どもが訴える痛みついて一般的に言えることは以下の3点であろう。① 知的機能

が十分に発達していない段階にあるため,実際にある痛みを訴えなかったり,他の

身体症状を痛みとして訴えたりすることがある。② 心理的要因に起因する問題が精

神症状や問題行動として表出されやすい。③ 身体症状や精神症状が両親や同胞との

関係など,環境の影響を受けやすい。これらを念頭に置いて精神疾患との合併や鑑

別を考える必要がある。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

「身体疾患として位置づけられているが精神面の影響も大きいとされる疾患」との関係9▶線維筋痛症との合併や鑑別について検討を要する疾患として,顎関節症,脳脊髄圧

減少症,化学物質過敏症,慢性疲労症候群,更年期障害などが挙げられることがあ

る。これらに共通する特徴として,明らかな身体病変を有する中核群に加えて,身

体所見が自覚症状を説明できるほどに重症でない,あるいは身体に異常所見がなく

自覚症状のみ強い患者群があると推測される。さらに明らかな身体病変をもつとし

ても,それが本当に自覚症状の原因であるかどうかには慎重な検討が求められるこ

ともある。臨床単位としての意義とその範囲を明確にしておかなければ,不適切な

臨床につながりやすい。

線維筋痛症と思い込む状態10▶線維筋痛症と診断されたが薬物などの治療が奏効せず精神科医に紹介され,精神科

医からみると,「明らかに精神的な要因が関係している。もし線維筋痛症と診断され

るのであれば,線維筋痛症という身体疾患が精神症状によって強く修飾されている

のであろう」と考えざるをえない症例に出会うことがある。一方,線維筋痛症とは

診断できないにもかかわらず線維筋痛症と思い込んでいると考えれば心気症に近い

病態であると思われる。線維筋痛症も精神疾患も病因と診断基準にあいまいな部分

を残すため,診断を確定しにくい。もし難治性の痛みに対して線維筋痛症と診断さ

れた患者が精神科では心気症という病名を告げられると,患者は「これまでの先生

の診断は間違っていたのか」と疑問を抱くため,事態はさらに複雑になる。

▶重要なのは「患者は精神疾患よりは身体疾患の病名を受け入れやすいが,いったん

身体疾患であると告知された患者に新たに精神面の治療を実施するのは非常に難し

い。診断名の告知は慎重になされねばならない」という点である。痛みの治療にあ

たる医師は,初期診療における診断の告知がその後の治療に及ぼす影響について十

分知っておくべきである。

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慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome:CFS)1▶線維筋痛症と鑑別すべき疾患の中で,相互に合併しやすい病態として慢性疲労症候

群(CFS)がある。 両者とも機能性身体症候群(functional somatic syndrome:

FSS)に含まれる病態である。本邦線維筋痛症の30~40%にCFSを合併するとの報

告1)もあるが,多施設症例での検討が必要である。しかし,線維筋痛症患者の疲労

感はCFSに匹敵するほどの激しい疲労感であることから,線維筋痛症に激しい疲

労・倦怠感を訴える場合にはCFSの合併を考慮する必要がある。CFSの有病率2)は

本邦では約0.2~0.3%と推計されており,決して稀な病態でないことから線維筋痛

症の診断にあたって重要な鑑別診断の対象疾患となる。

▶両者の鑑別で重要なことはCFSの発症は急性ないし亜急性であり,前駆症状とし

て感染症,特に感冒様症状を伴って発症することが多く,線維筋痛症では何らかの

誘因の後に局所性疼痛が慢性疼痛となり,やがて疼痛が身体の広範な部位に拡大

し,全身痛となり,多彩な身体症状や精神・神経症状を伴って病態が完成するとい

う経過である。さらに,線維筋痛症では微熱,手の腫脹,リベド症状,レイノー現

象などの理学的身体所見以外は認めないのに比して,CFSでは微熱,咽頭の非浸出

性炎症所見,表在性,特に頸部リンパ節腫大(多くは有痛性)を伴うことが多いのも

特徴的である。すなわち,線維筋痛症とCFSは機能性身体症候群の範疇の病態であ

るが,線維筋痛症は身体の広範な部位の慢性疼痛が前面にあり,CFSは激しい疲

労・倦怠感が前面にでた病態と理解することが臨床的に重要である。

▶一方,CFSの診断にあたっては,日本疲労学会(2007)からCFSの新しい基準(診断

指針)3)が提案されている(表1)。この基準も臨床徴候の組み合わせによるものであ

り,その項目の多くは線維筋痛症患者にも出現するものであることが理解できよう。

鑑別診断

その他(慢性疲労症候群,脳脊髄液減少症)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

表1▶ 慢性疲労症候群の診断指針 3)

6カ月以上持続する原因不明の全身倦怠感を訴える患者が,下記の前提Ⅰ,Ⅱ,Ⅲを満たした時,臨床的に慢性疲労症候群(CFS)が疑われる。確定診断を得るためには,さらに感染・免疫系検査,神経・内分泌・代謝系検査を行うことが望ましいが,現在のところCFSに特異的検査異常はなく,臨床的CFSをもって「慢性疲労症候群」と診断する。

前提Ⅰ

病歴,身体診察,臨床検査を精確に行い,慢性疲労をきたす疾患を除外する。ただし,抗アレルギー薬などの長期服用者とBMIが40を超える肥満者に対しては,当該病態が改善し,慢性疲労との因果関係が明確になるまで,CFSの診断を保留し,経過観察する。また,気分障害(双極性障害,精神病性うつ病を除く),不安障害,身体表現性障害,線維筋痛症は併存疾患として扱う。

前提Ⅱ

〔前提Ⅰ〕の検索によっても慢性疲労の原因が不明で,以下の4項目を満たす。(1)この全身倦怠感は新しく発症したものであり,急激に始まった。(2)十分休養をとっても回復しない。(3)現在行っている仕事や生活習慣のせいではない。(4) 日常の生活活動が発症前に比べて50%以下になっている。あるいは疲労感のため,月に数日は社会

生活や仕事ができず休んでいる。

前提Ⅲ

以下の自覚症状と他覚的所見10項目のうち5項目以上を認める。(1)労作後疲労感(労作後休んでも24時間以上続く)(2)筋肉痛(3)多発性関節痛(腫脹はない)(4)頭痛(5)咽頭痛(6)睡眠障害(不眠,過眠,睡眠相遅延)(7)思考力・集中力低下(8)微熱(9)頸部リンパ節腫脹(明らかに病的腫脹と考えられる場合)(10)筋力低下(8)(9)(10)の他覚的所見は,医師が少なくとも1カ月以上の間隔をおいて2回認めること。

注意事項:うつ病の扱いについて,これまでの診断基準では「心身症,神経症,反応性うつ病などは慢性疲労症候群発症に先行して発症した症例は除外するが,同時または後に発現した例は除外しない」とされていた。新診断指針ではこの規定が削除され,発症時期の判定は不要になった。具体的には,双極性障害と精神病性うつ病は除外するが,心身症,神経症,反応性うつ病などは発症の時期にかかわらず,慢性疲労症候群との並存を認める。また,「特発性慢性疲労」(idiopathic chronic fatigue:ICF)という疾患概念が提案された。特発性慢性疲労とは,慢性疲労症候群とは診断できないが,慢性疲労の病態は認められるもので,今後,慢性疲労症候群に移行するかもしれない状態である。

◉2007;日本疲労学会 3)

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脳脊髄液減少症2▶最近本邦で交通外傷などによる頸椎損傷(鞭打ち症)を契機に頭痛・頭重感,頸部

痛,背部痛,腰痛,めまいをはじめ,抑うつ気分,不眠などの多彩な身体症状,神

経・精神症状などの不定愁訴的な自覚症状を伴い,頭部MR画像所見,脳槽シンチ

での髄液の漏出,ブラッドパッチによる治療法の存在する病態として脳脊髄液減少

症(低脊髄液圧症候群)が注目されている。本症は線維筋痛症とは大きく異なる病態

であるが,臨床徴候が線維筋痛症ときわめて類似していることから,鑑別診断のひ

とつとして挙げられるべき病態である。さらに,本症が線維筋痛症と合併すること

も報告されていることより線維筋痛症診療にあたって認識すべき病態である。本邦

の脳脊髄液減少症研究会からガイドライン(2007)が提案されている(表2)4)。この

ガイドラインにしたがって鑑別診断,診断確定,および治療・管理がなされるべきで

あり,鑑別のひとつとして挙げられる場合は,専門医(脳神経外科医)へ紹介すべき

である。線維筋痛症疑いとして漫然と本例を経過観察,不必要な治療を行うことは

ブラッドパッチ法といった治療手技のあることより,留意すべき重要な点である。

Ⅰ 脳脊髄液減少症の定義

脳脊髄液腔から脳脊髄液(髄液)が持続的ないし

断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少

し,頭痛,頸部痛,めまい,耳鳴り,視機能障害,

倦怠など様々な症状を呈する疾患である。

Ⅱ 主症状

【頭痛,頸部痛,めまい,耳鳴り,視機能障害,倦

怠・易疲労感】が主要な症状である。

これらの症状は坐位,起立位により3時間以内に

悪化することが多い。

症状についての付帯事項

脳脊髄液減少症には前記主要症状以外に,多彩な

随伴症状のある例が文献上報告されており,その

主なものは以下のとおりである。

1.脳神経症状と考えられるもの

目のぼやけ,眼振,動眼神経麻痺(瞳孔散大,眼

瞼下垂),複視,光過敏(photophobia),視野障

害,顔面痛,顔面しびれ,聴力低下,めまい,

外転神経麻痺,顔面神経麻痺,耳鳴,聴覚過敏

(hyperacusis)など。

2.脳神経症状以外の神経機能障害

意識障害,無欲,小脳失調,歩行障害,パーキン

ソン症候群,痴呆(認知症),記憶障害,上肢の痛

み・しびれ,神経根症,直腸膀胱障害など。

3.内分泌障害

乳汁分泌など。

4.その他

嘔気嘔吐,頸部硬直,肩甲骨間痛,腰痛など。

表2▶ 脳脊髄液減少症ガイドライン2007 4)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

Ⅲ 画像診断

1.RI脳槽・脊髄液腔シンチグラム

現時点では,脳脊髄液減少症に関して最も信頼性

の高い画像診断法である。下記の1項目以上を認

めれば髄液漏出と診断する。

(1) 早期膀胱内RI集積

RI注入3時間以内に頭蓋円蓋部までRIが

認められず,膀胱内RIが描出される

(2) 脳脊髄液漏出像

くも膜下腔外にRIが描出される

(3) RIクリアランスの亢進

脳脊髄液腔RI残存率が24時間後に30%以

下である

【注意点】

・ 穿刺後の髄液漏出を最小限にするため,細いル

ンバール針を用いる。

・ 注入後3時間は臥床を保つ(RIの早期頭蓋内移

行を避けるため)。

・ 坐位・立位での漏出をみるため3時間以降は安

静臥床を解除する。

・ 小児の髄液循環動態は不明な点が多く,慎重な

判断を要する。

2.頭部MRI

鑑別診断および脳脊髄液減少症の経過観察に有用

であるが,特に慢性期においては下記の特異的な

所見を示さないこともあり,あくまでも参考所見

とする。なおMRI施行の際には,水平断撮影では

脳の下方偏位を見落とす可能性があり,矢状断撮

影,冠状断撮影の追加が推奨される。

(1) 脳の下方偏位

前頭部・頭頂部の硬膜下腔開大,硬膜下血

腫,小脳扁桃下垂,脳幹扁平化,側脳室狭

小化

(2) 血液量増加

びまん性硬膜肥厚,頭蓋内静脈拡張,脳下

垂体腫大

【注意点】

・ “びまん性硬膜肥厚”は決して頻度の高い所見で

はないため,この所見を欠いても脳脊髄液減少

症を否定できない。

・ ガドリニウム造影は,びまん性硬膜肥厚や頭蓋

内静脈拡張などの判定を容易にするが造影剤ア

レルギーに十分に注意する必要がある。

3.MRミエログラフィー

機種および撮影法の違いによる差が著しいため,

参考所見に留める。

(1) 明らかな漏出像

腰椎筋層間における髄液貯留像

(2) 漏出を疑わせる所見

硬膜外への髄液貯留像,神経根での髄液貯

留像,腰部くも膜下腔外での砂状のT2強

調高信号

Ⅳ その他の診断法

1.腰椎穿刺での髄液圧

一定の傾向がなく正常圧であっても脳脊髄液減少

症を否定できない。

【注意点】

・初圧が6cm水柱以下のときは脳脊髄液減少症の

可能性がある。

・脳脊髄液の性状については一定の傾向はみられ

ない。

2.硬膜外生理食塩水注入試験

腰部硬膜外腔に生理食塩水を20~40mL程度注入

し,1時間以内に症状の改善を認めた場合には脳

脊髄液減少症の可能性が高い。

鑑別診断すべき疾患

① 機能性頭痛(緊張型頭痛,後頭神経痛,片頭痛,

群発頭痛など)

② 頸椎捻挫(椎間板症,椎間関節症,神経根症,

筋筋膜性疼痛など)

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■文献1) 松本美富士:線維筋痛症と慢性疲労症候群 . カレントテラピー2003:21:257-261 .

2) 木谷照夫:疲労の疾患と研究の歴史 . 治療2008:90:438-443 .

3) 橋本信也,倉恒弘彦,伴信太郎,他:慢性疲労症候群診断基準の改定に向けて,臨床徴候から

みた検討 . 日本疲労学会誌2008:3:4-7 .

4) 脳脊髄液減少症研究会ガイドライン作成委員会:脳脊髄液減少症ガイドライン2007 . メデ

ィカルレビュー社,2007:p15-18 .

③ 頸椎変性疾患(頸椎症,頸椎椎間板ヘルニアな

ど)

④ 中枢神経脱髄および変性疾患(多発性硬化症,

脊髄小脳変性症,パーキンソン症候群など)

⑤ 脳梗塞,良性頭蓋内圧亢進症,正常圧水頭症,

脳・脊髄腫瘍,甲状腺疾患,副腎疾患,膠原病,

結核,うつ病,メニエール病,関節リウマチなど

Ⅴ 治 療

1.保存的治療

急性期はもとより慢性期でも一度は保存的治療を

行うべきである。

治療例: 約2週間の安静臥床と十分な水分摂取

(補液または追加摂取1000~2000mL/日)

2.硬膜外自家血注入

 (ブラッドパッチ,EBP;epidural blood patch)

保存的治療で症状の改善が得られない場合は硬膜

外自家血注入が推奨される。

【注意点】

・ RI脳槽・脊髄液腔シンチグラフィーまたはMR

ミエログラフィーで漏出部位が同定できるか疑

われる場合はその近傍から施行する。

・ 可能であればX線透視下で穿刺し,硬膜外腔に

確実に注入する。

・ 注入時に強い疼痛を訴えた場合は,その部位で

の注入を終了し投与部位を変更する。

・ 標準注入量は腰椎:20~40mL,胸椎:15~20mL,

頸椎:10~15mL。

・ 治療後は約1週間の安静が望ましい。

・ 同一部位への再治療は,3カ月以上の経過観察

期間を設けることが望ましい。

おわりに

脳脊髄液減少症(cerebrospinal fluid hypovolemia)

は,従来,低髄液圧症候群(intracranial hypotension)

と称されていた病態と類似した病態であるが,多

くの症例で髄液圧は正常範囲内であり,原因は髄

液圧の低下ではなく脳脊髄液の減少によると考え

られるので,脳脊髄液減少症をより適切な疾患名

として採用した.脳脊髄液減少症は今まで必ずし

も正確な診断がなされてこなかったため,他の病

名(慢性頭痛,頸椎症,頸椎捻挫,むち打ち症,う

つ病等)にて治療されてきたことも少なくない。

関連文献はまだ少ないため,診療経験の乏しい施

設では現在,混乱が生じている。本ガイドライン

は,脳脊髄液減少症に関してより豊富な診療経験

をもつ施設の診療基準をもとに作成し,より多く

の施設で診療が可能となることを目的とした。

脳脊髄液減少症は,まだ病態や発症機序,検査法,

治療法については未解決な部分が多く,このガイ

ドラインは暫定的なものであり,今後も1年ごと

に改訂作業を続ける予定である。

( 脳脊髄液減少症研究会ガイドライン作成委員会:脳脊髄液減少症ガイドライン2007 . メディカルレビュー社,2007:p15-18より転載)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

線維筋痛症の治療 1~8)11)筋骨格外症状

▶各診療科にまたがる多彩な症状は特徴的に躯幹部の圧痛点に始まりあらゆる種類の

痛みに加え,うつ状態などの精神障害症状や過敏性腸症候群,口内炎,胃腸症,膀

胱炎,シェーグレン症候群に類似したドライアイ,ドライマウス,末梢神経炎と思

わせる手足のしびれなど多発性の腱付着部炎の臨床症状と類似した圧痛点を示すケ

ースも多い。進行例の約半数には様々ないわゆる筋骨格外症状をみることが多い

が,その病態の把握にはかなりの臨床経験が必要とされる。さらに,こういった症

状のほかに最も多いのが睡眠障害で,筆者らの自験例でも9割以上の患者に何らか

の型の睡眠障害が認められ,入眠障害,中途覚醒,熟眠障害などあらゆるタイプの

睡眠障害を訴えてくる。この睡眠障害は疼痛に起因することが多く,また,逆に重

要な疼痛の増悪因子である。

▶線維筋痛症(FM)では主として疼痛による不眠が主な問題点となる。とりわけ,同

じ体位で就寝していると自分の体重で疼痛が生じ,中途覚醒するという特徴的なパ

ターンを示す。痛みから睡眠障害を呈するのか,睡眠障害から痛みが出現するかは

現時点では不明であるが,この双方が悪循環を繰り返していることは明らかであ

る。すなわち,睡眠障害と痛みは密接に関係しており,この睡眠障害がストレスと

なり,さらに次の新しい「痛み」を誘発し,症状が増悪するという悪循環をまねくこ

とが多い。したがって後述するが,治療の上でも睡眠障害等に代表されるメンタル

ケアも重要である。

2)精神神経症状

▶次いで不眠とともに最も多いのが,うつ状態のパターンである。中高年の女性が多

いこともあり,多くの場合うつ状態が長期化し,うつ状態なのか真のうつ病なのか

の鑑別は精神科医でも困難であることが多いと言われる。特に職場や家庭での人間

治 療

治療総論

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関係のストレスの集積,離婚や近親者との死別などは,疼痛発症のトリガーに心因

性要因が加味される場合に多くみられる。また精神科領域では,原因不明の慢性の

疼痛は身体表現性障害(疼痛性障害など)の範疇に含まれるため,よりいっそう診断

は混沌としてくる。線維筋痛症を専門的に治療している側からみると,原因不明の

慢性疼痛に加え多彩な筋骨格外障害が慢性化するため,患者は絶えず不眠に加え,

不安感と焦燥感に苛まれる。そういった不安感や焦燥感により症状の増悪を引き起

こしているのではないかと思われる。一方,線維筋痛症患者に共通している性格特

有のパターンがあり,一種の完璧さを自他共に要求したり,いわゆる几帳面に物事

を行おうとするなど特有のものもあるが,これが本症の発症とどのように関連して

いるのかは不明である。

▶また,この他に本症にかなりの頻度で合併がみられるrestless legs syndrome(下

肢静止不能症候群;むずむず脚症候群:RLS)について検討を行ったところ,約70.7

%の患者に合併がみられ,そのうち約20%が重症例であった。さらに,RLSの重症

度評価であるRLS40と本症の治療評価票FAS31にて相関を調べたところ,一定の

相関が示されたことから,本症が増悪するとRLSも増悪することが明らかになっ

た。また,RLSを併発した患者にガバペンチン*(エビデンスⅡa 推奨度B)のプ

ロドラッグであるガバペンチンエナカルビル錠(レグナイト®)*(エビデンスⅡa

 推奨度B)を投与したところ,RLSの改善とともに本症の改善もみられたことか

ら1),ガバペンチンエナカルビル錠*による本症への治療効果が期待できることが

明らかになってきており,今後,さらなる検討が必要である。ガバペンチンのプロ

ドラッグが本症に高頻度に随伴する下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群に対し

て保険承認されたことの意義は大きい。

▶多くの場合,本症に伴う精神症状は「疼痛」の軽減とともに速やかに改善されること

が多い。この事実は原因不明の「痛み」が本症の「主因」であり,他の精神症状は「痛

み」によってもたらされる随伴症状である可能性が高い。このように線維筋痛症の

診断は単に「痛み」の情報だけでなく多彩な臨床症状の把握が必要である。

3)治療の方向性

▶以上のような線維筋痛症の多彩な症状を,多くの患者の随伴症状を加味した病態に

基づいて次のような3つのカテゴリー(図1)に分けると症状が把握しやすいと考え,

これに基づいて一定の治療方針を提唱している2)。この案を裏付けるいわゆるエビ

デンスについては,厚生労働省研究班会議等では発表 3)しているが,いわゆる病型

分類ではなく,随伴症状をどのように位置づけるか,また,治療薬の選択に対する

一応の目安と考えて頂きたい。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

▶第一に挙げられるのが筋緊張亢進型である。全身の骨格筋を中心に激しい痛みや体

動の困難さを訴える。この患者の多くは筋力の肥大を認め,いわゆるstiff person

syndromeに類似する(図2)。また,ドライアイ・ドライマウスなどのシェーグレン

症候群様の乾燥症状を呈することがある。これには,ピロカルピン塩酸塩(サラジ

ェン®)*(エビデンスⅢ 推奨度B)が有効4)である。自験例であるが,ガバペンチ

ン*投与中に乾燥状態の改善を目的にピロカルピン塩酸塩*を使用したところ,乾

燥症状の改善はもとより66%の患者に本症の臨床症状の改善が認められた5)。しか

しながら,副作用等に対して配慮が必要である。

▶第二に筋付着部炎型がある。これは精神症状のほとんどないケースか,あっても軽

図1▶ 線維筋痛症の主な臨床病態からみた保険診療を前提とした薬物治療の提唱(西岡試案)

プレガバリン(ガバペンチン)*

クロナゼパム*

ピロカルピン塩酸塩*

筋緊張亢進型

重複型プレガバリンサラゾスルファピリジン*

NSAIDs*

プレドニン®*

筋付着部炎型ミルナシプラン*

デュロキセチン*

三環系抗うつ薬*

プレガバリン

うつ型

図2▶ 第Ⅰ群:筋緊張亢進型の治療

1 米国リウマチ学会(ACR)診断基準を満たす2 筋肥大を伴う筋緊張(大腿四頭筋を含む)を認め,把握痛が著明3 シェ―グレン様症状(dry eye,dry mouth)が高頻度な例4 頻尿,過敏性大腸炎,口内炎の存在5 脊椎,特に頸椎のストレートネックが顕著に認められる

主な病態

プレガバリンまたは ガバペンチン*の漸増法 }をアンカーdrugとするピロカルピン塩酸塩* 5mg/日

治療

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微であり多くの症例で発症のトリガーが外傷やリウマチ性疾患などに起因する場合

である。たとえば,抜歯後,脊髄手術後,透析導入などを引き金として発症したケ

ースである。診断の目安としては,18箇所の圧痛点に加え,筋肉痛や圧痛点などの

身体症状が優位なポイントであり,いわゆる腱付着部炎としてアキレス腱付着部位

や胸鎖関節や膝内外側副靱帯付着部に疼痛を認める(図3)。また,2010年に米国リ

ウマチ学会(ACR)から発表された予備診断基準(図4)6)に照らし合わせてみると,

WPI(widespread pain index)のポイントがSS(symptom severity)のポイントよ

り3倍以上高い傾向がうかがえる。この場合,脊椎関節炎を考慮に入れながら非ス

テロイド系抗炎症鎮痛薬(NSAIDs)(エビデンスⅣ 推奨度C)*や抗リウマチ薬の

サラゾスルファピリジン*(エビデンスⅤ 推奨度B)などの投与が効果的である。

また,付着部炎,仙腸関節炎,血清反応陰性脊椎関節炎様(SNSA)およびその症状

が末端の手指や足趾などに及ぶ症例もかなりの頻度で多い。これらにも基本的治療

として,抗リウマチ薬のサラゾスルファピリジン*やステロイド*(エビデンスⅤ 

推奨度C)にプレガバリン(エビデンスⅠ 推奨度A)やガバペンチン*を併用する

と効果的である。この症状に加え全身の筋肉痛や睡眠障害がある場合にはプレガバ

リンをはじめ,抗てんかん薬のガバペンチン*等の慢性疼痛阻害薬や睡眠導入剤等

を中心とした治療計画が筆者の経験上効果的である。

▶第三のアプローチは心因的要因から線維筋痛症の症状が出現するうつ型のケースで

ある(図5)。一般的に典型的な疼痛がみられるケースではその診断までにかなり長

い経過をたどったケースが多い。この場合にもプレガバリンやガバペンチン*で疼

痛の軽減を試み,抗うつ薬*や抗不安薬*,抗痙攣薬*などを投与する。うつ型では

デュロキセチン(治験中)*(エビデンスⅠ 推奨度B)やミルナシプラン*(エビデ

図3▶ 第Ⅱ群:筋付着部炎型の治療

1 ACR診断基準を満たす2 腱の付着部に著しい圧痛を認める3 高感度CRPが陽性に出ることが多い4 脊椎関節炎の症状も認めることがある(HLB-27のキャリアは除外する)

主な病態

1 プレガバリン(またはガバペンチン)*

2 NSAIDs*,プレドニン®*を中心とするステロイド*

3 サラゾスルファピリジン*

治療

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

ンスⅡa 推奨度B)に加えて抗不安薬による治療の導入も効果的な場合がある。

▶第四の場合はこれらの重複型(図6)であり,プレガバリン,ガバペンチン*,サラゾ

スルファピリジン*,デュロキセチン*,ミルナシプラン*などを中心にそれぞれの

症状の「重み」,また患者にとって何が最大のQOL低下要因かなどによって種々の

図4▶米国リウマチ学会(ACR)の線維筋痛症予備診断基準(2010) (西岡久寿樹 ACR2010診断基準チェック票を日本人向けに一部改変)

SS症候 問題なし 軽度 中等度 重度

疲労感 0 1 2 3

起床時不快感 0 1 2 3

認知症状 0 1 2 3

合計:    点

SS一般的な身体症候 0:なし

1:軽度

2:中等度

3:重度

筋肉痛 過敏性腸症候群

疲労感・疲れ

思考・記憶障害 筋力低下 頭痛

腹痛・ 腹部痙攣

しびれ・刺痛 めまい 睡眠障害 うつ 便秘

上部腹痛 嘔気 神経質 胸痛 視力障害 発熱

下痢 ドライマウス かゆみ 喘鳴 レイノー

症状 蕁麻疹

耳鳴り 嘔吐 胸やけ 口腔内潰瘍 味覚障害 痙攣

ドライアイ 息切れ 食欲低下 発疹 光線過敏 難聴

あざが出来やすい 抜け毛 頻尿 排尿痛 膀胱痙攣

合計: 症候   点 + 身体症候   点=   点

注1: SSの一般的な身体症候の数については各施設にゆだねられている

WPI:19箇所過去1週間の疼痛範囲数

顎 右 左

肩 右 左

上腕 右 左

前腕 右 左

胸部

腹部

大腿 右 左

下腿 右 左

頸部

背部 上 下

臀部 右 左

WPI合計:   点

以下の3項目を満たすものを線維筋痛症と診断する

WPI7以上+SS5以上またはWPI3~6+SS9以上

少なくとも3カ月症候が続く

他の疼痛を示す疾患ではない

図5▶ 第Ⅲ群:うつ状態身体性症状型の治療

1 ACR/日本リウマチ学会(JCR)診断基準を満たす2 睡眠障害,過労,感覚異常など身体症状3 うつ状態の意欲・行動障害4 自律神経系障害

1 ミルナシプラン*・デュロキセチン*

2 抗不安剤*

3 ガバペンチン*

4 睡眠導入剤*

主な病態

治療

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治療を使いわける。

▶原因不明の激しい疼痛性疾患である線維筋痛症の患者に対して,患者の心理的社会

的背景を十分に考慮し,全人的視点からの対応が今まさに必要であることを強調し

たい。一方,治療や診断を進めていく上で絶えず保険適応がいまだ問題となってい

る。すなわち,線維筋痛症に伴う副症状に対して保険適応となっている薬剤につい

ては,検査や治療費の保険適応は当然認められるべきであり,このことに対して診

療報酬を請求することは今のところ問題はないとの見解は厚生労働省の該当委員会

でも受け入れられている(添付資料8-3参照)。もしこれが受け入れられなければ,

混合診療が認められていない現状での線維筋痛症診療はすべて自費で行わなければ

ならないという非常に不合理な状況が発生する。

▶近年,米国で線維筋痛症薬として抗てんかん薬のプレガバリンが認可された。本邦

でも2012年に線維筋痛症に伴う疼痛に対する治療薬として初めて承認された。本

剤は,前述したように神経因性疼痛や末梢神経障害による疼痛治療薬として有効で

あることが米国でも認められている(表1,図7)7)。一方,プレガバリンは,多彩な

副作用があることから「安易」に用いる「鎮痛剤」ではない。中枢性の神経症状,肥

満,糖脂質代謝異常については厳重に管理する必要がある。このほかに,CKの著増

例があり,現在,解析を進めているが,重篤な副作用である横紋筋融解症のマーカ

図6▶ 重複型の治療

第Ⅰ群,第Ⅱ群,第Ⅲ群の重複型に対しては,プレガバリンやクロナゼパム*をアンカーdrugとする。各群でエビデンスレベルの高い薬剤を組み合わせる。

第Ⅰ群と第Ⅱ群:プレガバリンまたはガバペンチン*,ピロカルピン塩酸塩*,NSAIDs*,サラゾスルファピリジン*

第Ⅰ群と第Ⅲ群:第Ⅰ群に準じる

第Ⅱ群と第Ⅲ群:プレガバリンまたはガバペンチン*,ミルナシプラン*,サラゾスルファピリジン*,睡眠導入剤*

第Ⅰ群,第Ⅱ群,第Ⅲ群の重複型:プレガバリンまたはガバペンチン*,ミルナシプラン*,ピロカルピン塩酸塩*等の併用療法※どうしても疼痛の寛解が得られない場合はトラマドールなどの麻薬系薬剤やECT療法を用いる

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

ーともなりえるため投与中のCKによるモニタリング,さらには血糖,コレステロ

ールの増加も多くの症例で認められ,用量依存性にその頻度は増加しているので,

これらの副作用には厳重なモニタリングが必要である9)。また,ガバペンチン*同

様,本剤服用患者は車の運転,細かい作業の仕事などは行わないように指導するこ

とが大切である(図8)。

▶本疾患でも病態の研究や必要な方針の確立に向けて,最近優れた臨床研究がなさ

れ,前述したプレガバリンやミルナシプラン*10),デュロキセチン*11)の臨床的効

果が動物モデルで確認されている。ガバペンチン*は本来抗てんかん薬として用い

られていたが,数年前,線維筋痛症への有効性が確認された12)。なお,いずれも米

国における臨床研究ではエビデンスレベルの高い成績が認められている本邦ではデ

ュロキセチン*の第Ⅲ相試験が行われている(図9~11)。繰り返すようであるが,

日本ではプレガバリン以外はあくまでも随伴症状に対する対症療法として保険適応

図7▶線維筋痛症によるプレガバリンの有効性(患者の全般的改善度)1)

PBO 150 300 450

100

80

60

40

20

0

Pregabalin(mg/日)

P<0.01 vs Placebo

(%)

重症例変化例改善症例

表1▶ プレガバリン臨床試験時の患者背景 1)

対象薬プレガバリン

150mg/日 300mg/日 450mg/日

症例数 131 132 134 132

女性(%) 90.8 95.5 89.6 90.2

平均年齢 49.7 48.0 47.7 48.9

平均罹患年数 ≈8.6 ≈8.5 ≈9.2 ≈9.6

圧痛点 17.2 17.0 17.3 16.8

疼痛スコア 6.9 6.9 7.3 7.0

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8図9▶ ガバペンチン*による著明な線維筋痛症の疼痛抑制効果 3)

ガバペンチン*とPlaceboの比較

60

50

40

30

20

10

0

Pati

ents(%)

Gabapentin*

PlaceboP≦0.014

図8▶プレガバリンの副作用 1)

0Percentage

10 20 30 405 15 25 35 45 50

めまい

傾眠

体重増加

頭痛

視力症状

吐気

口腔乾燥

便秘

易疲労感

末梢性浮腫

中止例

Pregabalin 600mg /日Pregabalin 450mg /日Pregabalin 300mg /日Placebo

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

がなされている。多くの薬剤は線維筋痛症治療の主となる疼痛抑制に著効を示して

いる例が多いが,その保険使用に対する申請は事前に支払側とよく相談し,保険診

療を承諾して頂く以外にはない。

治療の評価21)J-FIQに基づくコアセットの提唱12)

▶本疾患は,多彩な症状のため治療評価が困難な場合が多い。効果的な治療を提供す

図11▶ミルナシプラン*臨床試験成績 6)

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26

0-2-4-6-8-10-12-14-16-18-20-22-24-26

PlaceboMilnacipran 100mg/日Milnacipran 200mg/日

疼痛改善率

図10▶デュロキセチン*臨床試験成績 7)

10 2 4

b

b

bb

b bb

b

bbaab

b

6 8 10 120

-5

-10

-15

-20

-25

LS m

ean

chan

ge f

rom

bas

elin

eWeeks

PlaceboDuloxetine 60mg QDDuloxetine 60mg BID

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るためには,疾患活動性や治療の評価を客観的に適切な疾患尺度を使用し,痛みだ

けではなく多様な症状や障害を総合的に評価することが必要不可欠である。この疾

患特異的な唯一の評価尺度として,日本語版FIQ(The Japanese version of the

Fibromyalgia Impact Questionnaire:J-FIQ)13)がある。FIQは既に世界的に広く

使用されており,その妥当性は認められている。

▶本邦においても徐々にではあるがJ-FIQを用いて治療評価(表2,図12)をし,その

データを集約しつつある。J-FIQによって得られたデータをまとめ臨床研究に反映

させていくことが今後の課題である。

▶また,2010年ACRから発表された新しい予備診断基準では従来の圧痛点は除外さ

れ,過去1週間の広範囲疼痛指数(wide-spread pain index: WPI)の合計ポイント

と重症度のレベルと一般的な身体症候のポイントを合計した症候重症度(symptom

severity:SS)のポイントが核となっている。2010年のACRでは,WPIとSSポイ

ントの合計13ポイントをカットオフポイント14)としている。また,WPI,SSは患

者からの自己申告に起因するところが多く,SSの一般的な身体症候に具体的なポ

イント範囲が設定されていないため診断への寄与率は低いが,随伴症状項目が網羅

されていることから診断の感受性が亢進すると思われる。また,これにより疾患活

動性の定量的な評価ができ得る可能性もあり,実際に本邦でカットオフ値を9~13

として,94名のFM患者を対象にその感度・特異度を関節リウマチ,変形性関節症

を対象に調査15)したところ,ほぼ満足すべき結果が得られた。

▶この新予備診断基準を応用して作成された,線維筋痛症活動性評価票FAS31(第1

J-FIQ 100

J-FIQ 50

J-FIQ 20

0

著明改善

改善

無効

図12▶ J-FIQによる治療効果の暫定的な目安(西岡)

表2▶ J-FIQによる疾患活動性の評価

指数(J-FIQ Score) Fibromyalgia Activity

≧70 高度

70~50 中等度

≦50 軽度

治療の評価は J-FIQ (Fibromyalgia Impact Questionnaire)が日本で使用しうる唯一の基準である。Fibromyalgiaの薬剤導入および薬効判定のために作成した日本版FIQである。20項目の質問等に基づきVASのScoreを数量化したものである。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

章「今なぜ線維筋痛症ガイドラインが必要か」を参照)により本症患者の治療評価16)

を検討したところ,臨床医の評価と合致しており,今後,J-FIQと組み合わせるこ

とにより,疾患の重症度とQOLの評価が同時に評価できる可能性が期待される。

治療体系の確立に向けて3▶プレガバリンが保険収載されたことにより線維筋痛症は保険診療上の「市民権」を

得たが,1剤のみの保険収載では本症に伴う多彩な症状,特に特異な副症状に対し

て様々な治療の選択ができないことから,今後,適応薬の臨床試験の開始が最も重

要な課題である。

▶また,前述したように線維筋痛症の本邦での治療を確立するためには,保険診療上

の問題点の解決が最も大切である。

▶線維筋痛症の保険診療に関しては,添付資料の平成21年3月26日に行われた厚生

労働委員会議事録(添付資料8-3参照)にあるように,本症の鑑別や特に本症に伴う

様々な随伴症状を改善する効果のある治療方法の導入が大切であり,当然,保険診

療の範囲でカバーできる。その後,本症に関する同委員会でもほぼ同じような結論

を得ている。

▶しかしながら,いわゆるレセプト審査に関わる担当者が本症についてほとんど把握

していない場合にはいわゆる保険適応外とされ,査定対象になっているという問題

がしばしば発生していることも事実である。いずれにせよ,2012年にプレガバリン

が線維筋痛症の治療薬として本邦で初めて収載され,ようやく保険診療が可能とな

った。一方では,ガバペンチン*,ミルナシプラン*などの抗てんかん薬*や抗うつ

薬*などにも一定の効果はあるが,保険適応となる症状が患者自身にないことには

保険診療が困難というジレンマが日常診療において常に念頭にある。今後,さらに

厚生労働省保険局,さらには,製薬企業の協力も得ながらEBMに基づいた治療法

を確立することが急務であり,また,線維筋痛症の多彩な副症状に対する適切な保

険診療の確立が望ましい。

■文献1) 西岡健弥 他:線維筋痛症におけるRestless legs syndromeの合併と治療について.第4回日

本線維筋痛症学会抄録集.2012,89.

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8

2) 西岡久寿樹:「線維筋痛症診療ガイドライン2009」から見る線維筋痛症診療の現状.日本医

事新報2010;4505:54-58.

3) 植田弘師:線維筋痛症の種々の実験動物モデルの確立と治療薬候補化合物の薬理学的評価.

平成22年度厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業 線維筋

痛症の発症要因の解析及び治療システムの確立と評価に関する研究報告書2011,16.

4) 西依倫子,植田弘師:繰り返した寒冷負荷ストレス(ICS)マウスモデルを用いた線維筋痛症

薬物療法研究.第3回日本線維筋痛症学会抄録集.2011,56.

5) 岡 寛,中村郁朗,西岡久寿樹:線維筋痛症に対するピロカルピン塩酸塩(サラジェン)の使

用調査結果 第3回日本線維筋痛症学会抄録集.2011,60.

6) Frederick Wolfe,et al:The American College of Rheumatology Preliminary Diagnostic

Criteria for Fibromyalgia and Measurement of Symptom Severity.Arthritis Care&

Research 2010;62:600-610.

7) Leslie J Crofford,Michael C Rowbotham,Philip J Mease,et al:Pregabalin for the

treatment of fibromyalgia syndrome.Results of a randomized,double-blind,pacebo-

contorolled trial.Arthritis Rhuem 2005;52:1264-1273.

8) Ohta H,et al:A randomized,double-blind,multicenter,placebo-controlled phase III

trial to evaluate the efficacy and safety of pregabalin in Japanese patients with

fibromyalgia.Arthritis Res Ther 2012;14:R217.

9) 岡 寛 他:線維筋痛症におけるプレガバリンとCPKの上昇について 臨床例からの解析.

第4回日本線維筋痛症学会抄録集.2012,58.

10) Mease PJ,Clauw DJ,Gendreau RM,et al:The efficacy and safety of milnacipran for

treatment of fibromyalgia,a randomized,double-blind,placebo-controlled trial.J

Rhematol 2009;36:398-409.

11) Arnold LM,Rosen A,Prittchett YL,et al:A randomized,double-blind,placebo-

controlled trial of duloxetine in the treatment of women with fibromyalgia with or

without major depressive disorder.Pain 2005;119:5-15.

12) Arnold LM,Goldberg DL,Stanford SB,et al:Gabapentin in the treatment of

fibromyalgia:a randomized double-blind,placebo-controlled,multicenter trial.

Arthritis Rheum 2007;56:1336-1344.

13) 長田賢一,富永桂一朗,岡 寛 他:日本語版Fibromyalgia Impact Questionnaire(J-FIQ)の

開発:言語的妥当性を担保とした翻訳版の作成.臨床リウマチ2008;20:19-28.

14) Frederick Wolfe,et al:Fibromyalgia criteria and severity scales for clinical and

epidemiological studies:A modification of the ACR preliminary diagnostic criteria for

fibromyalgia.74th American College of Rheumatology Annual Scientific Meeting

abstract 2010;S41.

15) Usui C,et al:The Japanese version of the 2010 American College of Rheumatology

Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia and the Fibromyalgia Symptom Scale:

reliability and validity.Mod Rheumatol 2012;22:40-4.

16) 西岡健弥 他:FAS31を用いた線維筋痛症の治療評価.第4回日本線維筋痛症学会抄録集.

2012,78.

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

▶本章では線維筋痛症(FM)そのものに有効な薬について言及する。FMに有効な薬

とFMに合併する疾患に有効な薬は区別すべきである。日本のFM総説,解説には

FMに有効な薬とFMに合併する疾患に有効な薬がしばしば混在して記載されてい

るので,注意が必要である。症状や検査データの観点からFMはカテゴリー分けさ

れることがあるが,各カテゴリーが特定の薬物に反応しやすい高いエビデンスは今

のところない1,2)。抗痙攣薬*は他の薬よりFMの筋緊張を緩和する作用が強いとい

うエビデンスはない。定常的な痛みには抗うつ薬*が有効であり,突出的な痛みに

は抗痙攣薬*が有効という理論にもエビデンスがない3)。FMでは通常は生涯投薬

となるため,薬価や副作用にも留意して投薬の順番を決める必要があるので,論文

上の効果や副作用,実際に経験した効果や副作用,薬価,自動車運転の可否,適用

病名を総合して使用の優先順位を決める4)。いかなる診断基準を用いてもそれを満

たさない不全型FM(慢性広範痛症や慢性局所痛症)が存在する。不全型FMに対し

てFMの治療を行えばFM以上の治療成績を得ることができる5)。つまりFMでも

不全型FMでも治療は同じであるため,診断基準は臨床的に治療の観点からこだわ

る必要はない。FMは中枢性過敏症候群(CSS)の代表疾患であり,月経困難症,更

年期障害,口腔顔面痛などCSSに含まれる多くの疾患においてFMの治療は選択肢

のひとつになる6)。さらに言えば非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)*が無効な痛

みあるいは神経障害性疼痛の大部分にFMの薬物治療は選択肢のひとつになる。

FMか否かにかかわらず,FMの薬物治療を行う際には適用外処方は不可避である。

▶無効な薬を漫然と投与する頻度が多くなるため,一度に複数の薬を処方することは

望ましくない。国際疼痛学会が神経障害性疼痛一般において勧告しているように当

初は一つの薬のみを処方し,鎮痛効果がないか耐えられない副作用が生じればその

薬を中止し新たな薬を試し,不十分な鎮痛効果が得られなければ新たな薬を追加す

る7)。副作用で増量不能にならない限り一つの薬のみを上限量まで漸増し,上限量

を使用せず無効とみなしてはならない。副作用と鎮痛効果の両方が出た場合には,

副作用の重大さなどを考慮して最適量を決定する。一つの薬の最適量が決まれば,

治 療

エビデンスに基づく薬物治療(海外の事例を含む)

52

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2

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6

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8

同様の方法で次の薬を追加する。鎮痛効果が不十分であれば薬を増量するか,新た

な薬を追加する必要があり,「様子を見ましょう」と不十分な治療を漫然と継続して

はならない。上限量まで使用して無効な薬を併用すると鎮痛効果が得られることが

ある。作用機序の異なる薬あるいは異なる種類の薬を組み合わせることが望まし

い。抗うつ薬*,抗痙攣薬*,向精神薬*はこの章に記載されていなくてもFMの治

療薬の候補である。当初は有効な薬でも1年以上経過すると中止しても痛みはしば

しば悪化しないため,減量や中止を試みる努力が必要である。

▶抗うつ薬*の鎮痛効果は抗うつ効果とは独立している5)。選択的セロトニン再取り込

み阻害薬(SSRI)*はセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み薬阻害薬(SNRI)*

や三環系抗うつ薬(TCA)*より鎮痛効果が弱いため,鎮痛目的ではそれらより優

先使用とは限らない5)。SSRI*はTCA*より副作用が少ないという説には根拠が

ほぼなく5),骨粗鬆症,性機能障害,脳卒中,出血の危険性まで考慮するとSSRI*

のほうが一面では副作用の頻度が多い可能性すらある。

▶FMには不眠が合併しやすいが,痛みによる不眠に優先使用する薬は睡眠薬*では

なく鎮痛薬である。不眠に対してはFMの痛みに有効な薬を優先使用したり,抗う

つ薬*や抗痙攣薬*の眠気の副作用を利用することが望ましい。

▶抗うつ薬*8),アセトアミノフェン*8),NSAIDs*8),睡眠薬*9)を長期使用すると

悪性腫瘍の発生率が高まるとの報告があることも留意すべきである。

▶痛みにはNSAIDs*,痛みにはステロイド*,痛みにはベンゾジアゼピン系抗不安

薬*やSSRI*,痛みには神経ブロックという自分の属している診療科の癖を捨てな

いとFMを適切に治療できない。

▶抗痙攣薬*,抗不安薬*,向精神薬*,ほとんどの抗うつ薬*,睡眠薬*の添付文書

にはいかなる時でも自動車の運転は禁止という趣旨の記載があり5),患者に説明す

る必要がある。

注:この項の推奨度及びエビデンスは欧米人を対象にしたものであり,必ずしも日本

人に当てはまるものではない。従って推奨度はその点を考慮して記載している。

アミトリプチリン(トリプタノール®)* TCA

エビデンスⅠ 推奨度A(本邦では推奨度B)

▶系統的総説によると25mg/日を投与すると6~8週間は有効であるが12週間では有

効性が認められず,50mg/日には有効性が認められない10)。上限量である150mg

を投与せず無効と判断しないことが望ましい。眠気の副作用があるため,50mg/日

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

までは夕食後あるいは就寝前に投与することが望ましい5)。たとえば,5mg/日から

開始し30~50mg/日までは1週間に5mgずつ増量し,以後は1週間に10mgずつ

増量している5)。

ノルトリプチリン(ノリトレン®)* TCA

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶二重盲検法を用いたブラジルの研究では,25mgは偽薬より改善した患者の割合が

多かったが有意差はなかった10)。症例報告があるのみである10)。アミトリプチリン*

は体内で代謝され大部分がノルトリプチリン*になる5)。アミトリプチリン*より

副作用が少ないため,FMなどを含まない神経障害性疼痛における一般論として,

国際疼痛学会はアミトリプチリン*より優先使用することを勧めている5)。

ドスレピン,ドチエピン(プロチアデン®)* TCA

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶分類基準前の診断基準でFMと診断された患者に二重盲検法により75mgを夜間に

8週間投与すると圧痛点の数と自覚的な痛みは有意に軽減したが,対照群とは比較

されなかった5)。患者と医師の総合評価では対照群より有意に有効であった5)。

イミプラミン(トフラニール®)* TCA

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶20人のfibrositisの患者に50~75mg/日を投与した対照群のないイスラエルの研

究では,2人のみが有効でありそのうち1人は副作用のため中止した10)。

クロミプラミン(アナフラニール®)* TCA

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶FM患者においてクロミプラミン*,マプロチリン*,偽薬を各々3週間ずつ投薬し

たイタリアの二重盲検法では,75mg/日は有意に圧痛点を減らした10)。最も優れた

薬と患者が選んだ薬がマプロチリン*の割合は60.9%であり,クロミプラミン*の

割合は26.1%であった10)。12.5mg/日を3日間,25mg/日を4~10日間2時間かけ

て点滴した日本の非対照研究では,VASと圧痛点が有意に減少した10)。

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マプロチリン(ルジオミール®)* 四環系抗うつ薬

エビデンスⅡa 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶クロミプラミン*の項を参照して頂きたい。

ミルナシプラン(トレドミン®)* SNRI

エビデンスⅠ 推奨度A(本邦ではエビデンスⅡa 推奨度B)

▶二重盲検法を用いた多くの報告で100~200mg/日の有効性(痛み,生活の質)が示

され,メタ解析により痛みや生活の質などが改善することが示されている10)。先発

品に限定しても,新しい抗うつ薬,ガバペンチン*,プレガバリンの中で最も安価

である。後発品がある。半減期が6~8時間であるため,1日2回投与が望ましい。

デュロキセチン(サインバルタ®)* SNRI

エビデンスⅠ 推奨度A(本邦では推奨度B)

▶二重盲検法を用いた多くの報告で60~120mg/日の有効性(痛み,生活の質)が示

され,メタ解析により痛みや生活の質などが改善することが示されている10)。添付

文書通りの1日1回朝食後ではなく,夕食後や1日2回投与でもかまわない。

パロキセチン(パキシル®)* SSRI

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶二重盲検法を用いた米国の報告では,12.5mg/日から62.5mg/日まで1週間ごとに

12.5mgずつ増量し平均39mg/日を投与すると生活の質が改善した10)。米国の二重

盲検法で112人のFM患者に12.5~62.5mg/日を12週投与すると治療効果があっ

た10)。筆者の経験では鎮痛効果は強くない。

セルトラリン(ジェイゾロフト®)* SSRI

エビデンスⅡb 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶対照群のないトルコの研究で100mg/日の鎮痛効果が示された5)。二重盲検法では

ないが比較を行ったトルコの研究によると,50mg/日は25mg/日のアミトリプチ

リン*と同程度に痛みや睡眠障害などに有効であった5)。

フルボキサミン(ルボックス®*,デプロメール®*) SSRI

エビデンスⅡb 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶二重盲検法ではない日本の研究では,FM患者をアミトリプチリン*20mg/日投与

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

群とフルボキサミン*25mg/日投与群に分けて1カ月間投薬すると,患者の自覚的

な痛みが50%未満になった割合はアミトリプチリン*投与群では50%フルボキサ

ミン*投与群では41%であり,両群には統計学的有意差はなかった5)。

ミルタザピン(レメロン®*,リフレックス®*) 抗うつ薬

エビデンスⅡb 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶6週間の非対照研究では,15~30mg/日により29人のFM患者中14人で自覚的な

痛みが40%以上軽減し,19人で自覚的な睡眠障害が40%以上改善した5)。13週の二

重盲検法では,15mg/日と30mg/日は有意ではないが痛みを軽減し,有意に睡眠

を改善した11)。眠気の副作用が強いため,筆者は睡眠薬*として1/4錠から1週間

ごとに1/4錠ずつ1錠まで漸増し,睡眠薬*として効果が不十分であればそれ以降

は鎮痛薬*として漸増している。

トラゾドン(レスリン®*,デジレル®*) 抗うつ薬

エビデンスⅣ 推奨度B(本邦では推奨度C)

▶非対照研究により150mg/日(3カ月)に鎮痛効果があり5),可変量の50~300mg/

日(12週)は睡眠の質,FIQ,不安を有意に改善した10)。後者の患者に可変量(45~

450mg/日)のプレガバリンを12週追加すると痛みと活動が有意に改善した12)。

プレガバリン(リリカ®) 抗痙攣薬

エビデンスⅠ 推奨度A(本邦では推奨度A)

▶多くの二重盲検法では300,450,600mg/日が痛み,睡眠,生活の質を改善する。

メタ解析では痛み,睡眠,生活の質が改善する10)。日本人を対象にした二重盲検法

では300,450mg/日が痛みと睡眠の質を改善した13)。FMでの上限量は450mg,末

梢性神経障害性疼痛での上限量は600mgである。

※2012年,本邦で初めて線維筋痛症の疼痛治療薬として薬価収載された。

ガバペンチン(ガバペン®)* 抗痙攣薬

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶米国の二重盲検法では,1,200~2,400mg/日が有意に痛みや生活の質を改善した5)。

他の抗痙攣薬*を併用処方する必要がある。筆者は100~400mg/日までは1週間

に100mgずつ増量し,以後は1週間に200mgずつ増量している。

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デキストロメトルファン(メジコン®)* 鎮咳薬

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬,つまりケタミン*の類似薬であ

る。米国の二重盲検法では90mg/日が熱刺激や機械的刺激により中枢神経が過敏

化されることを有意に防ぐ5)。鎮咳薬として薬価収載されている。安価で副作用が

少ない割に痛みが軽減する患者が多い。

トロピセトロン(ナボバン®)*,オンダンセトロン(ゾフラン®)* 制吐薬

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶二重盲検法により有効性が示されているが5),抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与

に伴う消化器症状(悪心,嘔吐)が適用症であり,高価なため実用性がない。

ラロキシフェン(エビスタ®)* 骨粗鬆症の薬

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶閉経後の女性FM患者に対する16週の二重盲検法(イラン)により60mg/日は痛

み,疲労,圧痛点の数,睡眠障害,生活の質を有意に改善したが,不安や抑うつ症

状を改善しなかった5)。

ノイロトロピン® エビデンスⅣ 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶副作用が少ないことが長所である。痛みを改善したという日本の非対照研究が2つ

ある5)。アミトリプチリン*を40人にノイロトロピン®*を44人に投与(39人は両

薬物投与)するとノイロトロピン®のほうが有効であった患者が有意に多いという

日本の報告10)もある。1日4錠より8錠のほうが鎮痛効果が強い5)。現在,米国国立

衛生研究所でFM患者に対して二重盲検法が行われている。

ラフチジン(プロテカジン®)* H2ブロッカー

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶胃粘膜保護作用はカプサイシン感受性知覚神経を介する。対照群のない日本の研究

で20mg/日により26人中8人で痛みが改善した10)。

ゾピクロン(アモバン®)* 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

エビデンスⅡa(睡眠,疲労感) 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶Yunus基準の女性FM患者において,二重盲検法により7.5mgは痛みや睡眠の質

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

を改善しないが,日中の疲労感や睡眠時の覚醒回数を有意に改善した10)。フィンラ

ンドの二重盲検法により,Yunus基準のFM患者において7.5mgの8週内服は痛み

や不快感を改善しなかった10)。主観的な睡眠の質は14人中11人(79%)で改善し,

偽薬群では14人中9人(64%)で改善し,有意差はなかった10)。

ゾルピデム(マイスリー®)* 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

エビデンスⅡa(睡眠) 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶カナダの二重盲検法では5,10,15mgは睡眠の質や痛みを改善しないが,睡眠時間

や日中の活力を有意に改善し10),睡眠には10mgが最適である10)。ゾピクロン*も

ゾルピデム*もベンゾジアゼピン受容体に作用する。

プラミペキソール(ビ・シフロール®)* ドパミン作動薬

エビデンスⅡa 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶米国の二重盲検法では4.5mgまで漸増した就寝前投与が痛み,疲労,身体機能に有

効であった5)。添付文書の指示通りに漸増すべきである。PhaseⅡの臨床試験は理

由を提示することなく中止となった10)。突然の意識消失が起こることがあるので自

動車を運転する者には処方厳禁である。約15%の患者で幻覚が起こる(添付文書)。

ロピニロール(レキップ®)* ドパミン作動薬

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶対照群のない米国の研究では,19人中6人で痛みが軽減し10),米国の二重盲検法で

はロピニロール*を就寝前0.25mgから8mgまで漸増した後8mgを14週間経口投

与すると偽薬と比べて痛み,生活の質などが改善したが,有意差はなかった10)。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)*

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶単独では無効である5)が,時に有効なことがあるが,NSAIDs*が有効な疾患を合

併しているからかもしれない。NSAIDs*を使用する際には,必ず1~2週で鎮痛効

果の有無を判定する必要がある。米国では年間少なくとも16,500人がNSAIDs潰

瘍で死亡していると推測されている10)ので長期使用は望ましくない。安全性と費用

の観点からアセトアミノフェン*をまず使用したほうがよい5)。NSAIDs*を使用

する際には必ずNSAIDs潰瘍を減らす科学的根拠のあるプロトンポンプ阻害薬,H2

ブロッカー,ミソプロストール14)のいずれかを併用する必要がある。

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ピリドスチグミン(メスチノン®)* 重症筋無力症の治療薬

エビデンスⅡa(痛み以外) 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶米国の二重盲検法では,1日30mgから投与し1日ごとに30mgずつ180mgまで増

やしそれを11日間投与すると,痛みや生活の質は改善しなかったが,不安や不眠は

改善した5)。

ピンドロール(カルビスケン®*,イスハート®*など) β-ブロッカー

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶7.5mg/日で開始し, 最高15mg/日(合計90日)が圧痛点の数,tender point

score,生活の質に有効であることが対照群のない米国の研究で示されている5)。

クエチアピン(セロクエル®)* 非定型抗精神病薬

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶対照群のないスペインの研究では25~100mg/日(12週)は痛みを改善しないが

FIQを有意に改善した5)。多数の薬を内服中に二重盲検法で可変量(50~300mg/

日,平均132mg)のクエチアピンXR(日本未発売の徐放剤)を追加すると,睡眠は

有意に改善したが,痛みや生活の質は有意な改善がみられなかった15)。

オランザピン(ジプレキサ®)* 非定型抗精神病薬

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶対照群のない米国の研究では,5~20mg/日は有意に痛み,活動レベル,睡眠を改

善した5)。

クロルプロマジン(ウインタミン®,コントミン®)* 定型抗精神病薬

エビデンスⅡb 推奨度B(本邦では推奨度C)

▶対照群のあるカナダの研究では,100mg/日は睡眠,痛み,気分に有効であった5)。

レボメプロマジン(レボトミン®,ヒルナミン®)* 定型抗精神病薬

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶対照群のないスペインの研究において12.5~100mg/日を12週間投与すると痛み

と生活の質は変化しないが,睡眠の質とClinical Global Impression(CGI) severity

scoreは有意に改善した10)。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

チザニジン(テルネリン®など)* 筋弛緩薬

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶対照群のない米国の研究では4 ~24mg/日を8週投与すると睡眠状態,痛み,生活

の質が改善した5)。対照群のない米国の研究で4~12mg/日,平均6.5mg/日の投

与は7週後の時点で痛み,睡眠,疲労,FIQを改善したが,14週後の時点では疲労

と圧痛点の数のみを改善した5)。

マイヤーズ・カクテル(Myers’Cocktail)** 点滴療法

推奨度C(本邦では推奨度C)

▶8週の二重盲検法を行うと偽薬群と有意差がなかった10)。

漢方薬* エビデンスⅣ 推奨度C(本邦ではエビデンスⅤ 推奨度C)

▶適切な診断基準を用いた研究に限定すると,十全大補湯(10人中2人で有効)5)とア

コニンサン*以外は症例報告があるのみである。食前あるいは食間に投薬すべきと

いう説には根拠がないため,食後に投与しても問題はない5)。

アコニンサン* エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶加圧加熱処理をして附子の毒性を減じた加工附子末である。対照群のない日本の研

究で,9錠/日を3カ月以上投与すると23人中11人(47.8%)で患者の自己評価が改

善した10)。しかし,対照群のない日本の研究でFM患者11人に9錠を平均34.4日投

与すると1人で痛みが90~95%になり,1人で痛みが少し軽減したが副作用で中止

となり,9人で鎮痛効果がなくそのうち3人では副作用で投薬が中止となった16)。証

を考慮する必要がある。

イコサペント酸エチル(エパデール®)* 高トリグリセリド血症の薬

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶非対照研究(平均投与期間39日間,上限量平均投与期間17.5日)では,2,700mg/日

まで漸増すると29人中11人で主観的な痛みが軽減した17)。

イブジラスト(ケタス®)* 気管支喘息,脳梗塞後遺症に伴う慢性脳循環障害による

めまいの改善 エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶グリア細胞の過剰活動を抑制すると報告されたため,FMへの有効性が期待されて

いる。非対照研究により13人のFM患者に20mg/日を平均26日投与すると,1人

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で痛みが60%になり,12人では痛みが軽減しなかった18)。慢性脳循環障害によるめ

まいの改善では上限量は30mgである。

メコバラミン(メチコバール®)と葉酸(フォリアミン®)の併用ビタミン剤*

エビデンスⅣ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶メコバラミン*単独には有効性のエビデンスはない。日本の非対照研究においてメ

コバラミン*1,500μg/日と葉酸15mg/日を圧痛点の数が11以上の者150人(FM

が何人かは不明)に8カ月以上投薬すると149人で症状が改善した19)。日本の別の非

対照研究により22人のFM患者に同量のメコバラミン*,葉酸*を平均28.7日投薬

すると10人で痛みが軽減した20)。葉酸*には発癌性があるため21),この併用が有効

な場合には,数カ月後に葉酸*を5mg/日まで減量している。痛みが悪化しなけれ

ば減量したままにしており,1年経過すると中止する予定である。

成長ホルモン* エビデンスⅡa 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶二重盲検法による二つの研究10,22)では,痛みや生活の質などが有意に改善したが中

止後には症状が悪化した。副作用,費用,手間の点で実用性はない。

副腎皮質ステロイドホルモン*

エビデンスⅡa 推奨度D(本邦ではエビデンスⅤ 推奨度C)

▶米国の二重盲検法では,FM患者にプレドニゾロン*を使用すると,有意差はない

ものの偽薬のほうが治療成績がよかった5)。効果がないのみならず,副作用を引き

起こすからである。炎症が合併しなければステロイド*を使用すべきではないと米

国疼痛学会は結論している5)。

サラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN®錠)* 抗リウマチ薬 エビデンスⅤ 推奨度C(本邦では推奨度B)

▶有効性を示すエビデンスはなく,FMそのものには無効である。

ピロカルピン塩酸塩(サラジェン®*),セビメリン(サリグレン®*,エボザック®*)

 唾液分泌刺激薬

エビデンスⅣ 推奨度B(本邦ではエビデンスⅢ 推奨度B)

▶有効性を示す高いエビデンスはなく,FMそのものには無効である。

※本邦では本症に高頻度に伴うドライマウス・ドライアイに有効。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

ベンゾジアゼピン系抗不安薬* 推奨度C(本邦ではエビデンスⅡa 推奨度C)

▶アルプラゾラム*がFMに有効と抄録に書かれた論文があるが,本文中では偽薬と

差がないという記載があるため4),注意が必要である。臨床用量で依存が生じる常

用量依存が起こりやすいため注意が必要である23)。有効性を示す証拠はないのみな

らず,長期使用により,転倒や骨折の増加,運動機能・情報処理能力・理解力・認知

機能の低下,抑うつ頻度の増加や抑うつ症状の悪化,女性での死亡率増加,癌の増

加などを引き起こす5,23,24)。そのため,FMの痛みや不眠に使用してはならない。

▶不安障害の治療の際SSRI*と併用されることがあるが,SSRI*の抗不安効果が生

じる約2カ月以降は中止すべきである。常用量依存に陥ると中止不能になることが

あるため3~4カ月を超える使用は望ましくない。力価が強いほど,作用時間が短

い抗不安薬ほど常用量依存になりやすいので注意が必要である。

トラマドール(トラマール®)* 非麻薬性鎮痛薬

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶弱オピオイドであり,麻薬に指定されていない。経口剤の力価はモルヒネ*の1/5で

ある。米国の二重盲検法では50~400mg/日の経口剤は有意に痛みを改善した5)。

適用症は癌性疼痛(カプセル,注射剤)または術後痛(注射剤)である。

トラマドールとアセトアミノフェンの合剤(トラムセット®配合錠*) 非麻薬性鎮痛薬

エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶米国の二重盲検法ではトラマドール37.5mgとアセトアミノフェン325mgの合剤4

錠または8錠は有意に痛みと生活の質を改善した5)。トラムセット®配合錠*はトラ

マドール37.5mgとアセトアミノフェン325mgの合剤であり,非癌性慢性疼痛に8

錠まで使用可能である。

ブプレノルフィン(レペタン®坐薬,筋注,静注,ノルスパン®テープ),

ペンタゾシン(ペンタジン®,ソセゴン®筋注,静注,皮下注,錠剤) 非麻薬性鎮痛薬

エビデンスⅤ 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶麻薬に指定されていない。FMに有効である根拠はない。依存が起こりやすいため,

非癌性慢性痛に使用することは望ましくない。モルヒネと併用すべきではない。ブ

プレノルフィンの作用時間は約8時間とモルヒネより長いが,天井効果がある。ノ

ルスパン®テープの適用症は変形性関節症と腰痛症である。

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モルヒネ 麻薬 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶麻薬に指定されている。散剤,錠剤,注射液の適用症の1つが激しい疼痛である。散

剤は錠剤の2割以下の薬価であるが,1回投与量が10mgでは散剤の投与は困難で

ある。FMにオピオイドは無効と記載されることがあるが,その記載には根拠はほ

とんどなく,実際に使用するとモルヒネ*が有効なFM患者が少なくない。自殺を

ほのめかすほど強い痛みを当初から訴えるか,適切な治療を1年以上行っても痛み

が軽減しない場合に限って使用すべきである。痛みのある患者に使用する限り依存

は起こらないと推測されているが,留意は必要である。たとえ有効であっても他の

薬を使用してモルヒネ*を中止する努力を怠ってはならない。便秘は必発であり,

約半数で吐き気が生じるため,副作用対策が必須である。

フェンタニル経皮吸収型製剤(デュロテップ®MTパッチ) 麻薬

推奨度C(本邦では推奨度C)

▶麻薬に指定されている。中等度から高度の慢性疼痛が適用症の1つである。他のオ

ピオイドが無効な場合に限り使用可能である。他のオピオイドとは通常モルヒネ*

を意味する。

ケタミン* 全身麻酔薬 エビデンスⅡa 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶麻薬に指定されている。クロスオーバー二重盲検法により1回の静注後20~80分の

時点でVASが有意に低下しケタミン*に反応した8人中6人では,2日から7日間痛

みが軽減した10)。痛覚過敏を伴った17人のFM患者にケタミン*を皮下注すると11

人はVASによる評価で50%以上の改善が得られたが,6人では反応がなかった10)。

禁煙 エビデンスⅤ 推奨度B(本邦ではエビデンスⅢ 推奨度B)

▶禁煙が治療として有効という報告はないが,喫煙はFMの危険因子であり10),FM

患者の中で喫煙者は非喫煙者より症状が強い5)。そのため受動喫煙の回避や禁煙は

有効な治療と推測される。配偶者からの間接受動喫煙を避けるため配偶者は禁煙,

同居する家族は屋外喫煙が望ましい。

減量 エビデンスⅣ 推奨度B(本邦では推奨度C)

▶女性ではbody mass index(BMI)が高いと有病率が高くなり10),BMIが25以上の

女性患者が20週で平均4.2kg(4.4%)減量すると症状が軽減した10)。FMに有効な

薬物はしばしば体重増加をもたらすので定期的な体重測定が必要である。有酸素運

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

動はFMそのものに有効であるのみならず,減量にも有効である。

鍼 エビデンスⅡa 推奨度B(本邦では推奨度B)

▶2000年以降世界で報告されたすべての痛みに対する鍼に関する総説では,鍼が痛

みを軽減する効果を裏づける有力な証拠はほとんどなく,死亡例もある25)。ドイツ

において前向き研究により様々な疾患の約23万人に鍼治療を行うと8.6%の患者に

少なくとも1つの副作用が生じ,2.2%では治療が必要であった26)。出血あるいは血

腫が6.1%,痛みが1.7%,自律神経症状が0.7%であり,2人が気胸(1人は経過観察

であったが,1人は入院が必要)になった26)。メタ解析ではFMの治療において鍼は

対照群と差がない27)。系統的総説によるとFMに対する鍼治療終了時には痛みが軽

減する強い証拠があるが,経過観察時には痛みの改善や肉体機能改善の証拠はな

く,症状が悪化することもあり,鍼はFMの治療には勧められないと結論されてい

る28)。FM治療における伝統的中国医療の総説によると,通常の医療と比べて鍼は

圧痛点の数および疼痛スコアを有意に減らすが,痛みを減らすという点では鍼は偽

鍼と比較して有意差はない29)。英語論文に加えて中国語論文まで調べた中国語の系

統的総説(抄録が英語)によるとFMにおける鍼の明確な効果を示す十分な証拠は

ない30)。対照群がない研究や待機群を対照群にする研究では有効になりやすいが,

偽鍼を対照群にする研究では無効になりやすい。科学的根拠に基づく限りFMの治

療には勧められないが,個々の患者では有効なことがある。

交感神経ブロック*,星状神経節ブロック* 推奨度C(本邦では推奨度C)

▶有効性を示す根拠はない上に,半永久的に就労不能になるほどの重篤な合併症が稀

ではあるが起こるため,治療として勧められない。現時点ではブロック*が有効な

FMのグループも存在しない。スーパーライザーから照射される直線偏光近赤外線

による星状神経節近傍照射*には有効性を示す根拠はないが,重篤な副作用が起こ

らないため,試す価値はある。

圧痛点へのブロック,トリガーポイントブロック* 推奨度C

▶有効性を示す根拠はない。2010年に両側の外傷性気胸による死亡事故が日本であった。

アスパルテーム エビデンスⅣ 推奨度D

▶カロリーが0で砂糖の約200倍の甘さを持つ人工甘味料である。ガム,飴,カロリ

ーの少ない清涼飲料水,酎ハイ,砂糖の代用の液体甘味料などに含まれている。食

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欲増加などの副作用があり,アスパルテーム摂取により減量可能という証拠はな

い。アスパルテーム摂取によりFMが発症した患者が報告された10)。

グルタミン酸ナトリウム エビデンスⅡa 推奨度D

▶2週間のクロスオーバー二重盲検法では有意に症状や生活の質を悪化させた31)。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

16) 戸田克広:アコニンサンは線維筋痛症にはあまり有効ではない.日本線維筋痛症学会 第4

回学術集会プログラム・抄録集.2012:90.

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18) 戸田克広:イブジラスト(ケタス®)20mg/日は線維筋痛症にはあまり有効ではない.日本

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 外来患者165例に対する検討.日本線維筋痛症学会 第4回学術集会プログラム・抄録集

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20) 戸田克広:メコバラミン(メチコバール(R))と葉酸(フォリアミン(R))の併用は線維筋痛

症に有効.日本線維筋痛症学会 第4回学術集会プログラム・抄録集.2012:90.

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はじめに1▶線維筋痛症は,原因不明の全身の疼痛,不眠,うつ症状などの精神神経症状,過敏

性腸症候群,膀胱炎などの症状を主症状とする症候群である。原因が不明であり,

疾患単位としては確立していない症候群であるため,同様の症状を持つ他の身体疾

患や精神疾患との合併・鑑別は困難である。また,一般的な身体疾患では,客観的

な検査による異常所見が認められ,それが診断基準となるが,線維筋痛症ではこれ

が欠如しているため,そこがさらに難しさを増す原因となる。

▶一方,精神疾患においても線維筋痛症と同様の症状が認められるものが多数存在

し,原因は脳にあると想定されているもののまだ不明であり,客観的な診断マーカ

ーがなく,症状のみにより診断する。つまり,どちらにおいても病因・病態が明らか

でなく,客観的・科学的な検査により診断することができず,症状によって診断する

ため,どのような症状を患者が訴え,医師が聴取できるかに依存しており,生物学

的に鑑別することは現時点では不可能であると考えられる。このような状況の中,

その診断については大きく分けて,以下の3つの考え方があると思われる(表1)。

 ① 診断は線維筋痛症のみである:線維筋痛症は原因は不明であるが身体疾患である

ため,身体疾患による症状は精神疾患ととらえるべきではない。

 ② 合併である:どちらも原因不明で症状にて診断するため両方あると考えるべきで

治 療

精神科的アプローチによる治療の導入

53

表1▶線維筋痛症患者に対する3つの治療構造

診断 理由

① 線維筋痛症のみあらゆる精神症状・身体症状は身体疾患である線維筋痛症によるため精神疾患は除外される

② 線維筋痛症と精神疾患の合併 どちらも現時点では原因不明で症状にて診断するため両方ある

③ 精神疾患のみ精神疾患の部分症状として痛みが起こっているため線維筋痛症は除外される

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

ある。

 ③ 診断は精神疾患のみである:精神疾患がベースにあり,そのために痛みを中心と

する症状が起こっているため線維筋痛症としてとらえるべきではない。

線維筋痛症と精神疾患の疫学2▶海外の研究によると線維筋痛症においては,精神疾患の合併率が高いことが知られ

ている。線維筋痛症の診断時点でのうつ病や不安障害の合併がそれぞれ20~35%

と報告されている。また,線維筋痛症患者のうつ病や不安障害の罹患率は,それぞ

れ60~70%と非常に高い。また,パーソナリティー障害が10%程度認められると

報告されている。

▶これらの海外の研究は,米国リウマチ学会の1990年の分類・診断基準に従って合併

という概念で扱っているが,日本においてはそのような研究報告自体がなく,日本の

線維筋痛症患者における実態はまだ不明である。自験例においては,線維筋痛症患

者に精神疾患の診断を行うと95%以上の患者に精神疾患が認められ,複数の精神疾

患の診断が認められる患者も多く1人あたりの平均の診断数は約1.5である。約3/4

の患者に身体表現性障害が認められ,次に気分障害(うつ病または気分変調性障害

が半数ずつ)が3割,パーソナリティー障害が1割程度認められる。これらのデータ

は,海外の報告とほぼ一致するものであるが,日本においては不安障害の合併が非

常に少ないことや広汎性発達障害や解離性障害がそれぞれ1割程度認められるこ

と,時に統合失調症や精神遅滞も認められることが特徴であると言える。線維筋痛

症を診る施設が本邦では少なく,施設間において患者層に大きな違いがあるため,

自験例が日本の線維筋痛症として一般化できるかという問題点が存在するが,本邦

においても線維筋痛症患者の大部分に精神疾患が認められるため,精神科的な関与

が必要であると思われる。

線維筋痛症における精神疾患治療の必要性3▶疾患概念と診断については,他稿に詳しいため,ここでは述べないが,実際の臨床

現場において精神科的な治療アプローチが必要な線維筋痛症患者は多く存在し,実

際にその治療が奏効することもよく認められる。現時点で,線維筋痛症を中心とし

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た患者群を診断・治療する診療科は存在せず,リウマチ専門医を中心とする整形外

科,精神科や心療内科などの精神科領域,ペインクリニックなどの麻酔科領域,免

疫内科などの診療科で対応している。本ガイドラインでは,線維筋痛症は筋緊張亢

進型,腱付着部炎型,うつ型の3つのクラスターに分類されるとしているが,前二

者は主に整形外科の専門領域に最も近く,うつ型は精神科領域に最も近いと考えら

れる。また,疼痛そのものは麻酔科領域が最も近く,よく鑑別診断や合併症として

問題となる自己免疫疾患は整形外科や免疫内科がカバーする領域である。

▶つまり,理想的な線維筋痛症の専門医はそれぞれの診療科の専門医である必要があ

るが,これらすべての診療科の研修を積みその専門家となるためにはひとつの診療

科において一人前になる必要があり,それには通常10年以上の経験が必要であるこ

とから,現実的には不可能である。よって,関係するすべての診療科においてその

専門性を活かした上で,連携して治療に当たることが現時点では最もよいと考えら

れる。線維筋痛症の専門家には整形外科医が多く,それは3つのクラスターのうち2

つを主にカバーすることから妥当であるが,残りのクラスターであるうつ型をカバ

ーすべき精神科医が線維筋痛症患者を診る医師として関与することは稀である。線

維筋痛症患者において,これらのクラスターの重複が認められるものは非常に重症

であることが知られており,このような点からも精神科医の関与が必要とされる。

線維筋痛症と精神疾患の合併という考え方4▶臨床現場において,精神科医以外が線維筋痛症を診療して精神科的な関与が必要で

あると判断し精神科に紹介しても,精神科の受診を拒否する患者が少なくない。こ

の理由は様々であるが,精神疾患への偏見があり,そのように思われたくないとい

うことが最も大きなものとなっている。そのときに,線維筋痛症という病名がつい

ていることにより,「線維筋痛症なのだから,線維筋痛症の専門医に診てもらってい

るわけなので精神科にかかる必要はない」と主張することが多い。

▶ここで最初の診断・鑑別の問題に戻るわけであるが,これは考え方として最初の①

に当たる。すなわち,線維筋痛症の専門医が精神疾患についても十分な診断・治療

ができる場合はこれでよいが,そうでない大部分の場合において精神科的な治療を

患者に導入することができない。また,最初の③の場合というのは,線維筋痛症を

よく知らない一般の医師が線維筋痛症患者を診察した場合に,よく起こることであ

ると思われる。線維筋痛症と診断し,治療をすることで改善するものを,よくわか

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

らないから精神科に行きなさいと言われる。実際に精神科的な関与が最も重要であ

る線維筋痛症患者はそれでよいわけであるが,筋緊張亢進型や腱付着部炎型の線維

筋痛症について,精神科医が適切な治療をすることはできない。

▶このような現状においては,②の合併という考え方で治療にあたることが,最も治

療構造の構築にはよいものと思われる。合併であれば,それぞれの専門家がその専

門領域の知識を活かして治療を行うことができ,線維筋痛症患者が最も利益を受け

ることが可能であると思われる。医学的には,このような考え方が正しいかどうか

は異論があると思われるが,実地臨床として一人の線維筋痛症の専門医が様々な診

療科において一人前の医師となるにはまだまだ長い時間がかかると思われるので,

今いる医師が目の前の患者のためにできることとして,②の合併という考え方が最

もよいと思われる。

線維筋痛症における治療構造の重要性5▶前項にて,「合併」という考え方が最も実地臨床に即しているとしたが,そのような

治療構造にしたからといって,精神科の治療導入がうまくいくとは限らない。それ

は,たとえば整形外科の線維筋痛症専門医が診察して線維筋痛症と診断した後に,

精神科受診が必要であると判断しそのように説明しても患者が偏見のため拒否すれ

ば受診しない。患者は精神疾患患者というレッテルを貼られることを恐れたり,それ

に怒りを感じたりする。また,実際にある精神疾患を認めたくないという心性が働き

否認したりするなど,精神科受診を嫌がる理由は多数あり,それは個々に異なる。

▶そこで問題となるのは,その線維筋痛症専門医が患者に最もよい治療を行うために

必要なことができないまま,診療を続けることとなり,精神科的な治療ができない

ために精神症状が悪化し,重症化していくことである。主治医の勧めを受け入れな

いこのような線維筋痛症患者は,治療構造を破壊することがしばしば認められ,自

分の思い通りの治療を要求し,その結果として医原性に薬物依存となったり,初め

は身体表現性障害であったものが,虚偽性障害に発展し,最終的に詐病として,生

活保護などを受け生活の糧を得る手段となってしまうことがある。このように病態

が進んだ後の治療は大変困難であり,そのようにならないためには,最初の治療構

造の構築が最も重要であると思われる。この点を克服するためには,精神科を最初

に受診するシステムが最もよいと思われる。精神科受診を線維筋痛症の診断全体に

おける一評価部門と位置づけることで,その心理的な抵抗を軽減することができる。

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精神科による治療の導入と概要6▶線維筋痛症の精神医学的評価を行う診療システムにおいては,まず,初診の予約を

取るときに「線維筋痛症では非常に高い率で精神疾患を合併しておりその評価が診

断・治療において必要であること」を説明し,精神科の予約を最初に取る。精神科を

受診したときに,またまったく同じことを説明し,全部で3回診察を行い,精神医

学的評価を行う。その結果を,患者およびその家族に説明した後に,線維筋痛症の

専門医の診察の予約を取る。精神科における診断を明確にカルテに記載してあるの

で,それを参考にしながら,線維筋痛症の専門医が診断・治療にあたる。

▶その後は,様々なパターンがあり,後に詳述するが,線維筋痛症の専門医と連携し

て治療を進める。その概略図を示す(図1)。

精神科による治療の導入の実際7▶最も重要なことは,患者が今後必要な治療を受け入れられるような治療構造を患者

図1▶線維筋痛症の精神医学的評価を含む診療システム

問い合わせ

紹介

専門外来受診

DSM-Ⅳ-TR 診断面接続き

検査結果,診断結果説明

DSM-Ⅳ-TR 診断面接

心理検査: CES-Dうつ病自己評価尺度 状態-特性不安検査(STAI) 矢田部ギルフォード(YG)性格検査 バウムテスト,J-FIQ

血液検査: 一般末血,生化,脂質代謝, ホルモン等脳MRI予約

専門外来医に情報提供必要に応じて 治療 他の精神科に紹介 現精神科主治医への情報提供

予約

日本線維筋痛症学会診療ネットワーク

リウマチ科

精神科

初診2回目・3回目受診

(約1時間)

(約1時間)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

とともに作り上げることにある。そのときに最も問題になるのは精神科への受診で

あるため,精神科的な治療が必要な場合があることを最初に説明し,そのための評

価を行う。初回受診においては,30分から1時間かけて,生活歴・病歴聴取を行い,

精神医学的評価を行う。

▶精神疾患の診断は,現在精神疾患の診断で最も汎用される米国精神医学会による

「精神障害の診断と統計の手引きThe Diagnostic and Statistical Manual of Mental

Disorders-Ⅳ-TR(DSM-Ⅳ-TR)」の基準に従って行う。次に,セスデーうつ病(抑

うつ状態)自己評価尺度(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale:

CES-D),状態 ─ 特性不安検査(State-Trait Anxiety Inventory:STAI),矢田部ギ

ルフォード(YG)性格検査,バウムテストなどの心理検査を日本語版線維筋痛症質

問票(The Japanese version Fibromyalgia Impact Questionnaire:J-FIQ)に加え

てルーチンで行う。必要に応じてWAIS-Ⅲ知能検査(Wechsler Adult Intelligence

Scale,Third Edition)やWMS-R記憶検査(Wechsler Memory Scale-Revised),

改訂長谷川式知能評価スケール(HDS-R)などを追加して行う(表2)。頭部MRIと

精神疾患のルーチンの血液検査を行う。

▶その後,2回にわたって,本人だけではなく,家族からも病歴の聴取を行い,DSM-

Ⅳ-TRに基づいた精神科的診断を行い,必要時には精神科的治療を行う。広汎性発

達障害などが疑われ詳細な検査が必要な場合は,連携している大学精神科に精査を

依頼して診断を確定する。

表2▶線維筋痛症患者に対する心理検査

ルーチン心理検査

抑うつ うつ病自己評価尺度CES-D ( The Center for Epidemiologic

Studies Depression Scale)

不安 状態 - 特性不安検査 STAI (State-Trait Anxiety Inventory)

性格傾向 矢田部ギルフォード(YG)性格検査

性格傾向 バウムテスト

線維筋痛症スケール

日本語版線維筋痛症質問票J-FIQ( The Japanese version of

Fibromyalgia Impact Questionnaire)

特殊検査

知能 ウェクスラー知能検査WAIS-Ⅲ ( Wechsler Adult Intelligence

Scale-Third Edition)

記憶 ウェクスラー記憶検査WMS-R ( Wechsler Memory Scale-

Revised)

認知症 改訂長谷川式知能評価スケールHDS-R ( Hasegawa's Dementia Scale-

Revised)

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心理検査の内容8▶CES-DはNIMH(米国国立精神保健研究所)によって開発されたものである。うつ

病の基本的な症状のひとつで「憂うつだ」「気がめいる」「気がしずむ」などの気分の

落ち込み(抑うつ気分)の傾向を評価するための質問紙であり,20の質問から構成

されている。

▶STAIは,サウスフロリダ大学のスピルバーガー教授らによって開発された,不安

を喚起する事象に対する一過性の状況反応(状態不安)と不安体験に対する比較的

安定した反応傾向(特性不安)を評価するための質問紙であり,それぞれ20の質問

から構成されている。

▶YG性格検査はギルフォードの作成した3種の検査をもとにして矢田部らが作成し

た12個の性格因子を調べるための質問紙であり,120個の質問から成り立っている

ものである。

▶バウムテストは投影法といい,あいまいな刺激である木を描かせ構図や木の様子

(実や葉の有無,枝や根の形など)から,特に無意識的な側面の心理を判断する。

▶J-FIQとは米国で開発された線維筋痛症質問票の日本語版であり,線維筋痛症の痛

み,運動障害,生活機能障害,精神症状を評価するものである。

▶WAIS-Ⅲ知能検査は,最も一般的な知能検査であり,知能の多面的な評価ができ

る。適用年齢は16~89歳と広く,言語性IQ,動作性IQ,全検査IQに加え,群指

数を測ることができる。

▶WMS-R記憶検査は,記憶の様々な側面を評価できる代表的な記憶検査であり,言

語性記憶,視覚性記憶,一般的記憶,注意/集中力,遅延再生の指標が算出される。

▶HDS-Rは認知症の評価スケールとして,医療福祉現場などで幅広く使用されてお

り,短期記憶や見当識(時・場所・時間の感覚など),記銘力などを比較的容易に点

数化し評価できる。

治療の導入9▶治療の導入においては,精神疾患が認められるかどうかによって異なる。ない場合

はもちろん精神科でのフォローは必要なく,精神疾患が認められる場合についての

み今後概説する。精神疾患がある場合は,既に精神科・心療内科などに通院してい

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

る場合と通院していない場合で対応が大きく異なる。

▶通院している場合は,基本的に今通院している精神科医のもとでの治療を継続する

ことを前提に,病名の説明などを行う。精神科においては,同じ主治医の一貫した

方針のもとで治療を受けることが非常に重要であるため,現在通院している病院に

て治療を続けることを推奨している。患者に強い希望があり,しかもこちらで治療

したほうがよいと判断できる場合に限り,今までの主治医より診療情報提供書をも

らって,こちらで治療を行う。精神科の治療を行う場合も,整形外科のリウマチ専

門医の受診は必ず行う。それは,精神疾患の治療が必要であり,現在の痛みに精神

疾患が関わっていることが明らかであっても,精神疾患以外の理由による痛みが合

併している可能性が十分にあり,それは精神科医には判断ができないからである。

▶現在,精神科に通院していない患者については,患者本人がこちらでの治療を希望

する場合には,治療を行う。線維筋痛症を診る病院は非常に少ないため,遠方から

来ている患者が多い。そのため一般の精神科で治療を行えるような疾患の場合は,

家の近くの精神科受診を勧めることも多い。線維筋痛症によく認められる精神疾患

治療の各論については,他稿にて詳しいためここでは述べない。

治療の導入後について10▶実際の臨床現場においては,患者は他の病院の医師から線維筋痛症と診断されて紹

介されたり,自ら線維筋痛症を疑って受診する。よって,線維筋痛症でない患者も

多数存在する。精神科受診時にはもちろん線維筋痛症であるかどうかの診断はつい

ていないため,線維筋痛症であってもなくても対応できるようにする必要がある。

すなわち,精神科の後に診る線維筋痛症の専門医は,線維筋痛症でなければ,その

後の診療は行わない。このようなことを考慮して,病歴・生活歴の問診を行いなが

ら見立てがついた場合は,1回目の診察から治療を開始する。最も多い身体表現性

障害の患者においては,そのストレス因などが明らかな場合はその説明を患者に行

い,対処法についての指導を行う。

▶このような介入を行うことで,3回の診察の間に痛みが軽減し,その後の精神科治

療の必要がなくなる患者もいる。このような場合も線維筋痛症の専門医の診察を勧

めるが,患者は必要がないと断るため,線維筋痛症であったかどうかわからない場

合もある。また,診断してその治療の必要性について説明しても精神科における治

療を希望しない患者も時に存在する。線維筋痛症の専門医が精神科での治療が必要

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であると判断した場合は,そちらのほうから精神科受診を勧めて,再度受診し精神

科において診療を開始する。このときに,一度精神科を受診していることでその抵

抗は小さくなり,受診しやすくなる。線維筋痛症の専門医が,精神科での診療のみ

が必要であると判断する場合は,精神科のみでフォローを行い,両方での診療が必

要な場合はそれぞれの専門性を活かした上で連携しながら治療を行う。

おわりに11▶精神科受診においては,家族の受診を勧めても本人しか受診しない場合もあり,精

神医学的な評価が十分にできないことがある。パーソナリティー障害,広汎性発達

障害,気分障害は,典型的でない場合は本人だけの診察では確定診断が難しいこと

がある。つまり,家族や学校や職場の人などからの聴取がその診断に必要となる。

▶また正確な診断をするためには,侵襲的な問診が必要な場合があるが,必要な患者

ほど侵襲的な問診は慎重に行う必要があることから,3回の診察の中で行うことは

難しい。線維筋痛症の診断・治療を受けに来ており,そのために精神医学的な評価

を受けるということで受診していることから,患者の受診の動機づけは低い。必要

があれば精神科での診療を継続するようにしているが,実際には既に精神科にて治

療を受けている場合または精神科には受診したくないので今までも受診を勧められ

たが受診したことのない患者が大半であるため,基本的には3回の診療で終結する

ことが多い。すなわち,3回の診察で扱える範囲内の診察しかできないため,その

診断・治療には限界があることは言及しておきたい。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

神経因性疼痛に対する治療薬1ノイロトロピン® エビデンスⅣ 推奨度B

▶ノイロトロピン®は,家兎にワクシニアウイルスを接種した皮膚炎症組織から抽出

した抗炎症作用・抗アレルギー作用を持つ薬剤である。マウス,ラットの系で下向

性疼痛抑制経路の活性化作用を認め,線維筋痛症の病態からみて有効性が説明でき

る。慢性疼痛症の一病態である帯状疱疹後神経痛にて二重盲検比較試験にて効果が

実証されている1)が,線維筋痛症では対照試験(RCT)がない。経験的に静注または

点滴静注,局所麻酔薬と混合させた局注(トリガーポイント注射)*が有効である。

内服治療の効果は,意見の分かれるところであるが,通常投与量の1回2錠でなく,

4錠から5錠の大量内服で有効な症例もあり,今後の用量の再検討が必要である。実

際にスモン(SMON)後遺症の冷感,異常知覚,痛みに対しては,通常の倍量である

2管の静注治療が認められている。稀に過敏症や胃部不快感を生じる。

抗痙攣薬

① プレガバリン(リリカ®) エビデンスⅠ 推奨度A

▶プレガバリンは,海外において神経障害性疼痛,てんかん,全般性不安障害および

線維筋痛症の治療に対して承認されている。本邦においても帯状疱疹後神経痛4)や

糖尿病性神経障害に伴う疼痛の治験結果より,末梢性神経障害性疼痛の適応が2010

年9月に追加された。さらに線維筋痛症に対しても,2012年の6月22日に「線維筋

痛症の疼痛の抑制」で保険収載された。プレガバリンは,ガバペンチン*と同様の作

用機序により,鎮痛作用を発揮すると考えられている。しかし,プレガバリンの電

位依存性カルシウムチャネルの補助サブユニットであるα2-δ蛋白への結合親和

性は,ガバペンチン*に比べて高く,臨床用量もガバペンチン*の1/4程度となって

いる。本剤は,米国および本邦の二重盲検比較試験にて,線維筋痛症の痛みと睡眠

治 療

薬物療法:神経因性疼痛改善薬と副症状,合併症に対する治療

54a

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障害等に有効性が確認されている6~8)。さらに本邦の治療では,52週の非盲検の長

期観察にて,有効性と安全性が確認されている10)。副作用としては浮動性めまい,

傾眠,体重増加,末梢性浮腫等がある。経験的には,ガバペンチン*と同程度の効

果が期待できる。本邦における初期量は75mg/日とし,300~450mg/日で維持量

とする。

② ガバペンチン(ガバペン®)* エビデンスⅡa 推奨度B

▶ガバペンチン*は,電位依存性のカルシウムチャネルのサブユニットであるα2-δ

蛋白に結合して前シナプスでカルシウムの流入を抑制し,興奮性神経伝達物質の遊

離を抑制すると考えられている。米国の二重盲検比較試験にて,線維筋痛症の痛み

と睡眠障害などの諸症状に有効性が確認されている2)。本邦ではRCTがないが,非

盲検試験では,70~80%の有効性を示している2)。傾眠,浮動性のめまいの頻度が

高いため,初期は低用量(200mg/日)より開始し,600~1800mg/日で維持量とす

る場合が多い3)。高齢者や腎機能障害者では副作用が出現しやすく注意を要する。

③ カルバマゼピン(テグレトール®)* エビデンスⅣ 推奨度C

▶抗痙攣作用,鎮静,静穏作用以外に慢性疼痛に対する効果を認め,三叉神経痛に対

して保険適応となっている。カルバマゼピン*の線維筋痛症に対するRCTはない。

またカルバマゼピン*は,肝のシトクロムP450 3A4代謝酵素を誘導するため,様々

な薬剤との相互作用を生じ,特に抗真菌薬のボリコナゾールとの併用は禁忌であ

る。また,心臓に対する徐脈や房室ブロックなどにも注意が必要である。初期投与

量100mg/日から開始し,600mg/日程度まで増量が可能である。他の抗痙攣薬*と

同様に副作用として眠気,浮動性のめまい,ふらつきの頻度が高い。稀に重症の皮

膚粘膜障害を呈する。

④ クロナゼパム(リボトリール®)* エビデンスⅣ 推奨度C

▶クロナゼパム*は,抗痙攣作用のほか,GABAニューロン作用を特異的に増強させる

特徴を持っており,てんかんに対して保険適応となっている。線維筋痛症に対しては

国内外で経験的に使用されている9)が,RCTの記載はない。ベンゾジアゼピン系*の

薬剤であるため,鎮静や線維筋痛症にみられる筋緊張にも有効である。初期投与量

として0.5mg/日より開始し,1.5~2.0mg/日程度で維持用量とする。副作用とし

て眠気,ふらつき,喘鳴等がある。抗痙攣薬全体として車の運転は控えるように指

導する。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

オピオイド系鎮痛薬*

▶オピオイド系鎮痛薬には,麻薬性〔モルヒネ*,フェンタニル*(推奨度C)〕と非麻

薬性〔ペンタゾシン*(エビデンスⅤ 推奨度C),トラマドール*(エビデンスⅡa 

推奨度B)〕の2群がある。一般的に線維筋痛症の治療は長期に及ぶことから,薬物依

存の出やすい麻薬性鎮痛薬の使用は好ましくない。非麻薬性でもペンタゾシン(ペ

ンタジン®*,ソセゴン®*)などは,依存性が問題である。依存性,精神作用が弱

く,セロトニン,ノルアドレナリンの活性化作用も持っているトラマドール塩酸塩

(トラマール®*)は、非癌性慢性疼痛症にて、本邦でも申請中である。また米国で

は、本剤とアセトアミノフェンとの内服合剤〔トラムセット®*(エビデンスⅡa 推

奨度B)〕の線維筋痛症に対するRCTの記載もあり,QOLの改善度も評価できる12)。

本邦では、2011年7月にトラムセット®*として、非癌性慢性疼痛症に保険収載され

たが、線維筋痛症の症例は治験に含まれていない。

NMDA受容体拮抗薬(デキストロメトルファン塩:メジコン®)*

エビデンスⅡa 推奨度B

▶NMDA(N-Methyl-D-Asparartate)は,興奮性アミノ酸の一種で,疼痛メカニズム

に関与している。NMDA受容体拮抗薬であるデキストロメトルファン塩:メジコ

ン®*は,経験的に慢性疼痛の治療に用いられている。トラマドール*との併用療法

にて,プラセボ対照の比較試験の報告があるが今後の検討が必要である13)。

ラロキシフェン(エビスタ®)* エビデンスⅡa 推奨度B

▶ラロキシフェン*は,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)といっ

て,骨・脂質代謝にはアゴニストとして,子宮内膜・乳房組織にはアンタゴニストと

して作用する骨粗鬆治療薬である。閉経後の線維筋痛症患者に限って,プラセボ対

照二重盲検比較試験が行われており,線維筋痛症の痛み,倦怠感,睡眠障害,全般

的な健康評価に有効であった。しかし,深部静脈血栓症もラロキシフェン*群で発

症しており,体動の少ない線維筋痛症患者では注意を要する14)。

線維筋痛症の合併症および随伴症状に対する治療薬2NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)* エビデンスⅣ 推奨度C

▶線維筋痛症のACR1990の分類基準では,1次性と2次性のものが区別なく分類され

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る15)。このことから実際の診療では,線維筋痛症の診断基準を満たすものの中には,

血清反応陰性脊椎関節炎(seronegative spondyloarthropathy:SNSA),多発性付

着部炎(polyenthesitis),胸肋鎖骨異常骨化症(sterno-cost clavicular hyperosto-

sis)等の合併例がみられる。これらの症例では,NSAIDs*が有効な例が多く存在す

る。また,1次性の線維筋痛症でも経験的に使用されている。治療が長期に及ぶた

め,胃腸障害の少ないプロドラッグであるロキソプロフェン(ロキソニン®)*や胃

腸障害の軽減と腎保護作用のあるCOX-2選択性阻害薬であるセレコキシブ(セレコ

ックス®)*,エトドラク(オステラック®*,ハイペン®*)などが使用される。NSAIDs*

による胃十二指腸の粘膜障害は自覚症状がないこともあるため注意を要する。

ステロイド* エビデンスⅤ 推奨度C

▶NSAIDs*の使用理由と同じで,血清反応陰性脊椎関節炎,多発性付着部炎の合併

例では,少量のステロイド*として,PSL(プレドニゾロン*)の10mg/日以下の内

服や局所のステロイド*注射が有効なことがある。しかし,長期の使用では,副腎

皮質の抑制や骨粗鬆症などが問題である。

抗リウマチ薬:サラゾスルファピリジン* エビデンスⅤ 推奨度B

▶サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®EN錠)*は,潰瘍性大腸炎や関節リウマ

チでも効能が認められているが,様々な血清反応陰性関節炎の関節症状にも有効で

ある。線維筋痛症に合併した血清反応陰性脊椎関節炎(特に乾癬性関節炎,反応性関

節炎,炎症性腸疾患に伴う関節炎),多発性付着部炎などでは,アザルフィジン®EN

錠*を500~1000mg/日投与する。本剤使用時にはアレルギー反応の副作用(発疹,

悪心・嘔吐,肝障害,発熱)に注意を要する。特にサルファ剤やサルチル酸製剤に過

敏症のある患者は投与禁忌である。

ピロカルピン塩酸塩(サラジェン®)*,塩酸セビメリン(エボザック®,サリグレン®)*

エビデンスⅣ 推奨度B

▶ピロカルピン塩酸塩(サラジェン®)*はムスカリン受容体のM3に選択的に作用し,

シェーグレン症候群の唾液分泌を亢進させ,涙液の分泌亢進作用も持つ薬剤である。

塩酸セビメリン(エボザック®*,サリグレン®*)は唾液分泌作用のみ認められる。

線維筋痛症では,半数以上の患者にドライアイ,ドライマウスを伴っているが,シ

ェーグレン症候群にみられる抗SS-A抗体や抗SS-B抗体の陽性例や唾液腺への著明

なリンパ球の浸潤例は少ない。しかし経験上,ピロカルピン塩酸塩(サラジェン®)*

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

は線維筋痛症の乾燥症状に有効であり,少量の2.5~5mg/日(就寝前)より投与を

開始する。副作用は,発汗が最も多く,その他に下痢,頻尿,頭痛,ほてり等であ

る。

下痢型過敏性腸症候群治療薬(ラモセトロン塩酸塩:イリボー®)* 推奨度B

▶線維筋痛症には,高頻度で過敏性腸症候群が合併するが,下痢型の同症では,ラモ

セトロン塩酸塩(イリボー®)*が有効である。本剤は,現在のところ男性例のみの保

険適応であるが,今後女性例にも適応拡大の予定である。便秘型の症例では,かえ

って便秘を悪化させる可能性があり,注意を要する。1日にラモセトロン塩酸塩*とし

て5μgの1錠を1回投与するが,今後の症例の集積が必要である。

レストレスレッグ症候群(下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群)治療薬(レグナイト®)*

エビデンスⅡa 推奨度B

▶2012年に発売されたガバペンチン*のプロドラッグであるガバペンチンエナカルビ

ル(レグナイト®)*は,下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群(RLS)の保険適応

薬である。線維筋痛症患者ではRLSの合併が高いため,線維筋痛症患者における睡

眠障害はRLSの関与も十分に考えられる16)。レグナイト®*は,線維筋痛症患者に

おけるRLSの症状と疼痛の抑制の双方の治療効果が期待される薬剤である。

■文献1) 山村秀夫:ノイロトロピン錠の帯状疱疹後神経痛に対する効果.プラセボ錠を対照群とし

た多施設二重盲検試験.医学のあゆみ1988;147:651.

2) Lesley MA,Goldenberg DL,Stanford SB,et al:Gabapentin in the Treatment of

Fbromyalgia:A Randomized,Double-blind,Placebo-controlled,Multicenter trial.

Arthritis Rheum 2007;56(4):1336-1344.

3) 岡 寛,長田賢一,西岡久寿樹,他:線維筋痛症に対するガバペンチンの効果.炎症・再生.

2008;28:363.

4) 小川節郎,鈴木 実,荒川明雄,他:帯状疱疹後神経痛に対するプレガバリンの有効性およ

び安全性の検討:多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験.日本ペインクリニ

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5) Ogawa S,Suzuki M,Arakawa A,Yoshiyama T,et al:Long-term efficacy and safety of

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fibromyalgia syndrome:results of a randomized,double-blind,placebo-controlled

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8

7) Mease PJ,Russell J,Arnold LM,et al:A randomized,double blind,placebo-controlled,

phaseⅢ trial of pregabalin in the treatment of patients with fibromyalgia.J Rheum

2008;35(3):502-514.

8) Arnold LM,Russell IJ,Diri EW,et al:A 14-week,randomized,double-blinded,

placebo-controlled monotherapy trial of pregabalin in patients with fibromyalgia.J Pain

2008;9(9):792-805.

9) Ohta H,Oka H,Usui C,et al:A randomized, double-blind,multicenter,placebo-

controlled phaseⅢ trial to evaluate the efficacy and safety of pregabalin in Japanese

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print]

10) Ohta H, Oka H,Usui C,et al:An open-label long-term phaseⅢ extension trial to

evaluate the safety and efficacy of pregabalin in Japanese patients with fibromyalgia.

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11) Bennett RM,Jones J,Turk DC,et al:An internet survey of 2 , 596 people with

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12) Bennett RM,Kamin M,Karin R,et al:Tramadol and acetaminophen combination tablets

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)*1▶中枢神経作動薬の臨床治験は主に米国で行われており,本邦ではいまだ行われてい

ない。米国では主にSNRI(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor)のデュロ

キセチン*,ミルナシプラン*やベンラファキシン*の臨床治験が行われた。

▶現在FDAで線維筋痛症の適応を取っているSSRIはデュロキセチン*とミルナシプ

ラン*である。しかし,本邦では,両薬剤とも線維筋痛症の適応は取っていない。ミ

ルナシプラン*,デュロキセチン*はうつ病の適応を本邦では取っているため,うつ

病の治療薬としては使用可能である。

ミルナシプラン* エビデンスⅡa 推奨度B

▶ミルナシプラン(トレドミン®)*の米国で行われたプラセボ対照第Ⅱ相二重盲検無

作為化試験では,125症例の線維筋痛症を対象として行われ,プラセボ投与,1日1

回投与と1日2回投与の比較試験で行われた。開始後4週間は200mg/日までに増量

され,その後はミルナシプラン*を200mg/日に固定し8週間投与した。患者は,常

に携帯用端末機を所持し,毎日の痛みの回数をチェックした。疼痛が50%以上改善

した症例は,1日2回服用群では37%であったのに対してプラセボ対照群では14%

であり,ミルナシプラン*服用群では,不安,抑うつ状態の項目の改善より,疼痛,

身体機能,倦怠感,こわばりのほうが有意に改善していた1)。よって,ミルナシプ

ラン*は気分改善に伴って疼痛が軽快するのでなく,直接疼痛に作用していると考

えられる。

▶1196例を対象に3カ月行ったミルナシプラン*のプラセボ対照第Ⅲ相二重盲検無作

為化比較試験においては,ミルナシプラン*投与量として,100mg/日群と200mg/

日群の2用量間と対照群を比較し,疼痛が30%以上改善した割合は,プラセボ対照

群が38.4%に対して,100mg/日群が52.3%,200mg/日群が54.8%と統計的に有意

治 療

薬物療法:向精神薬などの精神科的治療

54b

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に改善していた2)。具体的には,一般的にはミルナシプラン*は12.5mg錠を1日2

回の低用量から始めたほうが,副作用の出現は少ない。線維筋痛症の症例では抗う

つ薬の副作用もうつ病の症例より発現しやすいと思われる。抗うつ薬は効果が出現

するまでに2週間以上時間がかかるため,経過を十分観察しながら,ゆっくり増量

していくほうがよいと思われる。

デュロキセチン(サインバルタ®)* エビデンスⅠ 推奨度B

▶メタ解析と3つのランダム化試験にて有効性が示されている3)。デュロキセチン*の

プラセボ対照二重盲検無作為試験においては,354症例の女性の線維筋痛症の患者

を対象として行われ,3カ月間,プラセボ投与,60mg1日1回投与と60mg 1日2回

投与の比較試験で行われた。Brief pain inventory average pain severity scoreを

用いた評価では,プラセボ対照群では-1.16の改善であったのに対して,60mg投

与群では-2.39,120mg投与群では-2.40と有意にプラセボ対照群より軽快して

いた4)。

▶Fibromyalgia impact questionnaire total score(FIQ)を用いた評価でも,プラセ

ボ対照群では-8.35の改善であったのに対して,60mg投与群では-16.72,120mg

投与群では-16.81と有意にプラセボ対照群より改善し,疼痛も軽快していた4)。興

味ある報告に,うつ病を合併している線維筋痛症とうつ病を合併していない線維筋

痛症のデュロキセチン*に対する効果を検討した結果があるが,デュロキセチン*

による疼痛の改善においては,うつ病の合併有無は関係ないとの結果であった5)。し

たがって,デュロキセチン*が疼痛改善に直接作用することを示している。

セロトニン選択的再取込み阻害薬(SSRI)*2▶線維筋痛症に有効なSSRI(selective serotonin reuptake inhibitor)*の報告がある

のは,シタロプラム*(推奨度C),フルオキセチン*(推奨度C),パロキセチン*で

ある。この中で本邦での使用可能な薬剤は,パロキセチン*のみである。

パロキセチン(パキシル®)* エビデンスⅡa 推奨度B

▶海外での線維筋痛症への服用量は12.5~62.5mg/日で12週間投与し有効であった

とのランダム化試験の報告がある。116名の線維筋痛症の症例において,FIQが25

%改善し,プラセボ対照群の改善率33%に対して,パロキセチン*は57%と有意に

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

改善していた6)。うつ病症例へのSSRI*投与初期に,activation syndromeとして,

不安,焦燥感,不眠,易刺激性が増加するとの報告がある。発生率は約4%程度と

低いがSSRI*投与初期にはactivation syndromeが衝動行為や自殺などと関連する

こともあるので注意を要する7)。特に18歳以下の若年者では自殺率が上昇するとの

報告があり,投与初期の易刺激性,衝動性には特に注意を要する。やはり少量から

しだいに増加することが望ましいと思われる。

▶SSRI*,SNRI*ともに副作用として最も多く認められるのは,嘔気,食欲低下など

の消化器症状である。出現頻度はパロキセチン*6%,フルボキサミン*(エビデン

スⅡb 推奨度B)12%,ミルナシプラン*5%であるが,症例により副作用の出る人

と出ない人に分かれる。消化器症状は出現しても大部分が1~2週間以内で,服用

を継続していても症状が軽快するため,一時的にドンペリドン*などの制吐剤を併

用し,消化器症状の副作用が軽快することも多い。ミルナシプラン*のその他の副

作用としては抗コリン作用で起こる口渇,排尿障害などが数パーセント認められる

が,以前の抗うつ薬に認められた眠気,ふらつきなどの鎮静作用はほとんど認めら

れない。したがってミルナシプラン*は高齢者にも使用可能な抗うつ薬である。下

降性痛覚抑制のメカニズムから考察すると,セロトニンだけでなく,ノルアドレナ

リンも疼痛軽快に関与しているとの報告があり,一般的にはSSRIよりSNRIのほ

うが疼痛軽快に有効であると思われる。

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)*3ミルタザピン(レメロン®,リフレックス®)* エビデンスⅡb 推奨度B

▶シナプス前α2-自己受容体とヘテロ受容体に対してアンタゴニストとして作用し,

ノルアドレナリンとセロトニンの神経伝達を増強する。ミルタザピン*の線維筋痛

症のオープントライアルの報告がある。26症例を対象に用量15~30mg/日にて6

週間観察し,40%以上疼痛が改善した症例が54%,40%以上睡眠障害が改善した症

例は73%,40%以上疲労感が改善した症例は50%であった。副作用として多かった

のは,眠気と体重増加であった8,9)。

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その他の抗うつ薬*4▶線維筋痛症に有効であるとの報告があるその他の抗うつ薬としては,アミトリプチ

リン*(エビデンスⅠ 推奨度B),クロミプラミン*(エビデンスⅡa 推奨度B)10)

である。13の臨床試験のmeta-analysisの結果では,三環系抗うつ薬の改善率は,

25~37%であるとの解析結果であった11)。

▶2009年のメタ解析の結果では,三環系抗うつ薬は,疼痛,倦怠感,睡眠障害に対し

て有効であり,SNRIは,疼痛,睡眠障害,抑うつ気分,健康関連QOL(Health-

Related Quality of Life:HRQOL;リウマチ性疾患を対象としたQOLレベルの指

標)に対して有効であった。SSRIは統計的には疼痛以外の項目に関して有意な差を

認められなかった3)。したがって,メタ解析の結果からは,SSRIより三環系抗うつ

薬,SNRIのほうが疼痛や睡眠障害の改善には有効であった。

▶以前から疼痛に対してよく使用されていたアミトリプチリン*には眠気があるた

め,基本的には就眠前に10mgから処方したほうがよく,10mgずつ増量していく

ほうがよい。アミトリプチリン*50mg/日を1カ月間使用し,有意に有効であった

と報告しているが,本邦では25mg/日でも効果が出る症例もあると思われる。三環

系抗うつ薬の副作用としては,眠気,口渇,便秘などが多い。

▶また,線維筋痛症と双極性障害の合併も多く,25.2%との報告もあり12),難治性う

つ病の症例中にも双極性障害がまぎれていることが多いとの報告もあり,双極性障

害の症例に三環系抗うつ薬を処方すると躁状態になることもあるので注意が必要で

ある。

抗不安薬*5▶本邦ではエチゾラム*,アルプラゾラム*(エビデンスⅡa 推奨度C)などの抗不

安薬は疼痛と睡眠障害の改善に広く臨床的に使用されているが,エビデンスはほと

んどないのが実情である。睡眠障害の改善のために抗不安薬,睡眠導入薬を処方し

なければならない場合も,薬物依存を形成しやすいため,なるべく短期間にしたほ

うがよい。さらに,抗不安薬を疼痛の軽減目的で処方すると精神的依存を引き起こ

すことが多いため,抗うつ薬の併用が必要であり,抗不安薬の処方はなるべく早い

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

時期に投薬を中止したほうが依存形成を抑制できる。特に高齢者の場合は認知機能

障害,せん妄を起こすことがあるため,注意を要する。また,抗不安薬の処方は,

特に自動車の運転などには気をつけるように指導も必要である。

パーキンソン病治療薬*6プラミペキソール(ビ・シフロール®)* エビデンスⅡa 推奨度C

▶HolmanとMyersによると,60症例の線維筋痛症を対象としたプラセボ対照二重

盲検無作為試験ではドパミンD2受容体作動薬であるプラミペキソール*4.5mg服

用14週間後,FIQスコアでは-9.57改善し,Multidimensional Health Assess-

ment Questionnaire(MDHAQ)スコアでは,プラセボ対照群の3%に対してプラ

ミペキソール*服用群は38%改善したとの報告があった。特に軽快した症状は,精

神状態より疼痛,倦怠感,身体機能であった13)。

精神療法7オペラント条件付け行動療法(OBT)* エビデンスⅡa 推奨度B

▶患者が執拗に痛みを訴え続けるのはその行動により患者にとっての好ましい結果

(たとえば休息,補償金,家族からの介助)が得られるためだと考え,疼痛行動を無

視した上で身体活動量を漸増していくプログラムである。自覚的な痛みの軽減よ

り,疼痛行動の減少による,痛みの管理を行う治療法である。

認知行動療法(CBT)* エビデンスⅠ 推奨度B

▶認知,思考パターンを変えることによって,引き起こされる感情や行動をコントロ

ールするという理論をもとにしている。「痛みが必ずしも身体の重篤な障害を意味

しない」ことを理解することで,痛みが認知的に「無毒化」される治療法である。

▶否定的・破壊的な思い込み(この痛みは絶対に良くならない。何をしても無駄だ)を

持つ患者には,認知再構成法(否定的な考えを認知して修正することを教える)を用

い,痛いけれどもやれる,生活を楽しめるという建設的な態度に改める。

▶125名の線維筋痛症患者を対象にした,認知行動療法(CBT)*とオペラント条件付

け行動療法(OBT)*を対照群と比較した12カ月間のランダム化試験では,身体機

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能不全は12カ月施行後の改善率が対象群7.5%に対して,OBT*が58.1%,CBT*

が38.1%と有意に改善していたが,OBT*の改善のほうがCBT*に比較してより改

善していた。疼痛に対しての改善率は,対象群が5%に対して,OBT*が53.5%,

CBT*が45.2%と有意に改善し,両群ともに12カ月間施行後同程度改善していた。

精神的苦痛に対しては,CBT*がOBT*より有効であったとの報告がある14)。

▶APSガイドラインでは,特に薬物療法が有効でない症例にCBT*の併用療法が有

効であると推奨している。特に疼痛に対する対処法により,途中覚醒などの不眠に

有効であるとしている。

リラクセーション療法(動作法) エビデンスⅡb 推奨度B

▶筋弛緩法や自律訓練法,バイオフィードバック法,などを用い筋肉と精神を弛緩さ

せる自己暗示を応用したリラクセーション技法を用いた治療である。リラクセーシ

ョン療法だけの治療より,催眠療法中にリラクセーションさせる方法,あるいは催

眠療法中に疼痛が改善したイメージを取り入れた治療のほうがより疼痛軽減に有効

であるとのランダム化試験の報告がある15)。

■文献1) Vitton O,Gendreau M,Gendreau J,et al:A double-blind placebo-controlled trial of

milnacipran in the treatment of fibromyalgia.Hum Psychopharmacol 2004;19(Suppl

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

8) Samborski W,Lezanska-Szpera M,Rybakowski JK.Effects of antidepressant mirtazapine

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線維筋痛症に伴う不眠の薬物療法1▶線維筋痛症の約8割は睡眠障害を伴うとの報告もあり1),線維筋痛症と睡眠障害の

因果関係を明らかにすることが,本病態の解明にも重要であると考えられている。

▶主症状である疼痛の次に多いのが睡眠障害(特に不眠)で,患者は熟眠障害と,疼痛

により中途覚醒するという特徴的なパターンを示すことが多い。Affleckら2)は浅

眠と痛みの相関を報告しており,Lentzら3)もslow wave sleepが減ると痛みが増

強すると報告している。また,睡眠障害の改善に伴い疼痛が改善することが少なく

ないことから,睡眠障害が疼痛の重要な増悪因子であるという仮説4)も立てられて

いる。また,線維筋痛症では,睡眠脳波中にα波の混入するalpha sleepやalpha-delta sleepが多発するとの報告が多く5),Rainsら6)はalpha sleepは慢性疼痛に共

通した所見であると報告している。

▶また線維筋痛症には下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群を高率に合併すること

も示されており7),線維筋痛症の64%に合併を認めるとの報告もある8)。下肢静止

不能症候群;むずむず脚症候群の治療薬の線維筋痛症への有効性の報告もあり,ド

ーパミンとの関係を検討することも必要であると示唆される。

プレガバリン(リリカ®) エビデンスⅠ 推奨度A

▶プレガバリンの線維筋痛症に対するプラセボ対照二重盲検無作為化試験では,プレ

ガバリン300mg/日と450mg/日の投与群にて睡眠の質が有意に改善していたと報

告されている9)。日本における498症例の線維筋痛症に対するプラセボ対照二重盲

検無作為化試験では,プレガバリン300mg/日と450mg/日の投与群にて睡眠の質

が有意に改善した結果を得ている10)。また,4つの線維筋痛症に対するプレガバリ

ンのランダム化試験の2754症例のメタ解析においても,疼痛と睡眠の改善を認め

たとの報告11)があり,睡眠障害を伴う線維筋痛症には大いに推奨される。

治 療

薬物療法:線維筋痛症に伴う不眠,うつ状態の薬物治療

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

アミトリプチリン(トリプタノール®)* エビデンスⅠ 推奨度B

▶Nishishinyaら12)は10の線維筋痛症に対するアミトリプチリン*のプラセボ対照二

重盲検無作為化試験のメタ解析にて,アミトリプチリン*の25mg/日以上の用量お

よび,8週以上の長期における有効性は認めないと報告したが,Häuserら13)は,10

の線維筋痛症に対するアミトリプチリン*のプラセボ対照二重盲検無作為化試験

(612症例),4つの線維筋痛症に対するデュロキセチン*(エビデンスⅠ 推奨度B)

のプラセボ対照二重盲検無作為化試験(1411症例),5つの線維筋痛症に対するミル

ナシプラン*(エビデンスⅡa 推奨度B)のプラセボ対照二重盲検無作為化試験

(4129症例)のメタ解析にてアミトリプチリン*のほうがデュロキセチン*とミルナ

シプラン*よりも,疼痛軽減,睡眠障害,疲労感,健康に関する生活の質において

有効であったと報告している。

ガバペンチン(ガバペン®)* エビデンスⅡa 推奨度B

▶プレガバリン同様,線維筋痛症に対するガバペンチン*のプラセボ対照二重盲検無

作為化試験では痛みだけでなく睡眠も改善したとの報告14)があり,疼痛と睡眠障害

の両方に対しての治療が可能となるため,推奨される。

デュロキセチン(サインバルタ®)* エビデンスⅠ 推奨度B

▶デュロキセチン*のプラセボ対照二重盲検無作為化試験では,530症例で24週間,

デュロキセチン*60~120mg/日(60mg/日,90mg/日,120mg/日)の投与群にて

睡眠困難が有意に改善したとの報告15)があり,線維筋痛症の疼痛と睡眠障害の両方

に対しての治療が可能となるため,推奨される。

トラゾドン(デジレル®)* エビデンスⅣ 推奨度C

▶Morillasら16)はトラゾドン*のオープン試験において,66症例で12週間,50~300mg/

日のflexible dose設定で,きわめて有意に睡眠の改善を認めたと報告している。ま

たトラゾドン*の大うつ病の睡眠障害への有効性の報告17)は以前より多くあり,睡

眠障害を伴う線維筋痛症への投与は推奨される。

クエチアピン(セロクエル®)* エビデンスⅣ 推奨度C

▶Potvinら18)はクエチアピン*のプラセボ対照二重盲検パイロット試験において,51

症例で12週間,50~300mg/日のflexible dose設定での追加投与を行い,痛みに対

しては有効性を認めなかったが,有意に睡眠の改善を認めたと報告していることよ

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り,睡眠障害を伴う線維筋痛症への投与は推奨される。

▶ただし,クエチアピン*は糖尿病の患者,糖尿病の既往歴のある患者への投与は禁

忌であるので,確認の上使用すべきである。

線維筋痛症に伴う不眠の非薬物療法2成長ホルモン* 推奨度C

▶Bennettら19)は線維筋痛症の3分の1でinsulin-like growth factor 1(IGF-1)が低

値を示し,しかもIGF-1低値例に対してgrowth hormone(GH)の注射が有効であ

ると報告している。GHは深睡眠期に放射状に分泌されるホルモンであることが知

られているが,GH分泌低下と睡眠構造の関係を詳細に検討することも,病態研究

に貢献しうるものと考えられる。ただし,副作用として手根管症候群なども出現す

るため,十分検討した上で投与することが望ましい。

経鼻的持続陽圧呼吸療法(nasal continuous positive airway pressure:n-

CPAP)* エビデンスⅣ 推奨度C

▶線維筋痛症では,睡眠時無呼吸が多発するとの報告20)がある。Goldら21)は,線維筋

痛症において,上気道抵抗症候群を思わせる睡眠中の呼吸気流抑制(air flow limita-

tion)の存在を指摘し, これに対し経鼻的持続陽圧呼吸療法(nasal continuous

positive airway pressure:n-CPAP)*が有効であると報告している。睡眠中の呼

吸障害が線維筋痛症の中途覚醒多発と関連しているという仮説は魅力的だが,これ

に対し否定的な報告22)もあるので,今後さらに系統的な検討が必要だろう。

▶本疾患患者数が非常に多いことを考えると,全例で終夜睡眠ポリグラフィー(poly-

somnography:PSG)を実施するのは,労力の点から無理があるため,アクチグラ

フィー(actigraphy)で睡眠・覚醒の定量評価を行う方法も用いられている。

睡眠障害に対する認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:

CBT-I)* エビデンスⅡa 推奨度B

▶不眠治療において近年その有効性が確立されてきているCBT-I*も,線維筋痛症で

の不眠に対して試みる価値があるものと期待されている23)。しかし,日本でCBT-I*

のできる施設が少ないことや,治療に時間がかかることから,すぐに実用化される

のは望めない状況である。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

線維筋痛症に伴ううつ状態の薬物療法3▶線維筋痛症にうつが合併するという報告は多く,Thiemeら24)は115名の症例を対

象に構造化面接を行い,74.8%にDSM-Ⅳの1軸の精神疾患を合併し,32.2%に不安

障害,34.8%がうつ病であったと報告している。

▶Agugliaら25)は30名の線維筋痛症外来患者において83%がハミルトンうつ病スケ

ールで7点以上であり,うつを合併していると報告している。

▶米国で線維筋痛症に対しての治療薬として承認されているミルナシプラン*やデュ

ロキセチン*は抗うつ薬でもあり,線維筋痛症に伴ううつ状態に対して有効である

のは明確であるため,抗うつ薬については割愛する。しかし,プレガバリンは線維

筋痛症の3つのプラセボ対照二重盲検無作為化試験のプール解析では,抑うつと不

安の有意な改善は認めなかったと報告26)されている。日本でのプラセボ対照二重盲

検無作為化試験においても,不安と抑うつは改善傾向を認めたが,有意差はつかな

かったという結果を得ている11)。

■文献1) Goldenberg DL:Fibromyalgia syndrome:an emerging but controversial condition.

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

25) Aguglia A,Salvi V,Maina G,et al:Fibromyalgia syndrome and depressive symptoms:

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▶西洋先進諸国で医学とは一般に西洋医学をさす。西洋医学は特に急性期医療に効果

的で人類の健康に多大な貢献をしてきた。しかし,疾患の構成が変化し急性期疾患

から慢性疾患主体へと変化してくると西洋医学にはその効果が不十分なことがみら

れ,各国にある伝統医学や様々な考えに基づく代替的な医療を活用しようとする動

きが出てきた。海外では代替医療あるいは補完代替医療と呼ばれていたが,西洋医

学とこれらを統合し治療の幅を広げようとする機運が大きくなり,現在では統合医

療と呼ばれている。

▶線維筋痛症に対する治療効果は治療者が報告するのは当然であるが,疼痛という主

観的なものの治療効果を対象とする場合には,患者自身が効果的であったと考える

治療法を検討することも重要である。一般的には薬物療法を受けている患者が経過

とともに減少し,非薬物治療を受ける方が増加していく。3年以上経過観察した患

者が受けているすべての治療法を検討した報告では,非薬物治療では針治療,運動

療法,マッサージ(エビデンスⅣ 推奨度B),カイロプラクティック(エビデンス

Ⅳ 推奨度B)などの医師による治療法ではない治療法を選択する患者が増えてい

く1)。患者は当初こそ西洋医学的な治療法を選択するが,試行錯誤を繰り返しなが

ら完全ではないものの,疼痛が軽減する治療手段にたどり着くと考えられる。線維

筋痛症治療の現実を反映する報告と考えられるが,統合医療のもつ可能性を示唆し

ているとも考えられる。

針治療 エビデンスⅡa 推奨度B1▶紀元前からの歴史がある治療法であり,例外的な死亡例の報告はみられるものの,

針あるいは灸治療による有害事象の頻度は著しく低く,かつ重篤なものはほとんど

なく2)(エビデンスⅡa),安全な治療法である。一般に統合医療で取り扱う治療法は

強力なものは少なく,安全性が高い快適な治療法が多い。

治 療

非薬物療法:統合医療

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

▶針治療の論文によっては刺激しているツボがどこか特定できない,あるいは針の長

さ,太さが不明であるものも多くみられ,治療を再現できない論文もあり,問題の

ある部分である。松本の論文3)はこれらの問題のない例外的な論文である。針治療

は疼痛に効果があるだけではなく,線維筋痛症に頻度の高い症状である頭痛・睡眠

および便通の改善効果などが報告3)されている。本邦線維筋痛症患者では非薬物治

療を受けているものは25.6%に及び,針灸治療は有効率も60%と高い3)(エビデン

スⅣ)。本邦では針治療は医師あるいは国家資格を有する針灸師が行うものである

から,患者に紹介しやすい特徴もある。

▶1997年にNIHが針治療の効果に関する会議を開き,手術後の吐き気や嘔吐,抜歯後

の疼痛とならび線維筋痛症に対する針治療の科学的根拠は不十分ではあるが有効で

ある4)(エビデンスⅤ)とした。その後,線維筋痛症に対する針治療のrandomized

controlled trial(RCT)が多く行われ,sham針群と差がないとする報告がある5,6)

(エビデンスⅡa)ものの,疼痛が完全に消失するほどの効果はないが,疼痛軽減効

果があるとするもの7,8)(エビデンスⅡa)もある。針を刺すだけではなく,通電刺激

をすると疼痛軽減により効果的8)(エビデンスⅡa)であり,刺激方法が効果を左右

すると考えられる。メタ解析では針治療を否定する意見が有力である9)(エビデン

スⅠ)。

▶針治療家はsham針と針治療の効果の差が少ないのに悩み,針治療の回数を変えて,

全体的な治療効果で針治療の有用性を確認する試みもなされている10)。これまでの

論調では皮膚を貫くか否か,あるいはいわゆるツボとツボ以外の部位の刺激で治療

効果に差がないことを理由として針治療を無効としているが,針を使用せず,特定

のツボを指圧刺激しても不眠が改善11)(エビデンスⅡa)することもあり,どのツボ

を選択するかという問題はあるが,患者自身が保健的にツボ刺激をして症状の軽減

効果を得る可能性を示唆するとも考えられる。

▶さらには,皮膚に接触する刺激ではC線維を介して島領域などに影響を及ぼし12),

手首にある内関というツボに対する針刺激と単純な皮膚刺激とのfunctional MRI

を用いた比較では,ともに大脳皮質の活性化あるいは不活性化される部位が生じ,

しかもその領域が異なる13)ことが判明している。つまりこれまで用いられていた

sham針が生理活性を有しており,真の意味ではsham針治療ではないことが判明

してきた。sham針治療群と針治療群で疼痛改善効果に差がないことを理由に針治

療を否定することを疑問視する記載14)もある。メタ解析15)では針治療は通常の薬物

治療などと比較すると,圧痛点の数や疼痛スコアを有意に減少させる(エビデンス

Ⅰ)が,sham針群との比較では有意差はない15)ために針治療の効果がないと判定

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されているが,実際には皮膚表面刺激と針を刺す刺激には差がないことを示してい

るにすぎない。エビデンスとされているものでも根底の考え方の間違いがあるの

で,注意が必要であり,針治療の効果を判定する場合にはsham針ではないコント

ロールのとり方が重要となる。

▶針治療開始後ある程度の時間が経過すると慣れの現象が生じるためか,同じパター

ンの治療ではその効果が減少してくる現象が起こる。RCTでは同じパターンの治

療を続けるが,適応がなくなった治療を行っている可能性も考えられ,このような

方法は真の治療になっていない可能性は高い。針治療は肩関節痛にはステロイドの

局注と同等の効果16)をもたらし,薬物治療や運動療法など通常の治療に針治療を加

えると,治療後2年目では有意差はなくなるものの治療後3カ月までは疼痛とQOL

改善に有用であったとする報告17)がある。薬物治療を好まない線維筋痛症患者に対

しても針治療は有力な治療法のひとつと考えられ,今後様々な治療上の工夫で有効

性が高まることが望まれる。

運動療法 エビデンスⅠ 推奨度B2▶西洋医学の治療手段であるが,便宜上本稿で扱う。健康増進には運動が有益な方法

である。最大心拍数の65~70%程度を維持させる中等度の有酸素運動が線維筋痛

症の疼痛改善に効果的である。4年以上の長期間にわたり有酸素運動を行った症例

では疼痛が軽減し,圧痛点が減少し線維筋痛症の条件を満たさなくなった症例もで

る効果があるが,疼痛が完全に消失するのではなく,統計的に有意差がでる改善18)

(エビデンスⅡa)がみられる。一方ではこの有酸素運動が有用であることに否定的

な意見19)(エビデンスⅡa)もある。運動療法が効果的な適応となる症例の数が少な

いために意見の相違がでると考えられる。本邦での運動療法は線維筋痛症を含めた

慢性疼痛に有効20)(エビデンスⅣ)であり,認知行動療法*(エビデンスⅠ 推奨度

B)を併用し疼痛が改善した症例21)もあり,今後に期待したい。

▶西洋医学的な運動療法とは異なり,緩やかな動きが特徴的な太極拳は線維筋痛症に

効果的であることが米国の検討22)で判明しており,疼痛の著しい線維筋痛症患者に

は向いた運動療法と考えられ,日本での検討が望まれる。気功も東洋の穏やかな運

動として愛好者が多いが,線維筋痛症に応用されて効果的であるとする報告23)があ

る。気功の種類は多数あり,気功一般を論ずる状況ではなく,今後の検討を待ちた

い。ヨガと推拿の併用が効果的とする報告24)もあるが,結論が出せる状況ではない。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

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温泉療法 エビデンスⅢ 推奨度B3▶温泉療法は関節リウマチや慢性疼痛性疾患に応用されてきたが,線維筋痛症に対し

てもおおむね効果的であるとされている。日本では永田勝太郎は薬物療法を併用し

ながら自然環境豊かな温泉で温泉療法と実存分析的アプローチを中心とした心理療

法を行い,17症例中13症例の有効例25)を経験している(エビデンスⅣ)。和温療法は

60℃の乾式サウナを利用し,重症心不全の治療から始まり,線維筋痛症にも応用さ

れ疼痛のVASおよびFIQでの有意な改善効果がみられる。線維筋痛症以外でも慢性

疲労症候群,シェーグレン症候群に伴う唾液分泌不全を改善させる効果がみられ,

線維筋痛症に合併頻度の高い症状に対しても効果的26)とされる。(エビデンスⅣ)

食事療法 エビデンスⅣ 推奨度C4▶6週間の野菜を中心とする食事療法群とアミトリプチリン*(エビデンスⅠ 推奨

度B)の投与群を比較すると,アミトリプチリン*投与群では疼痛,疲労倦怠感,不

眠などの症状の改善がみられたが,食事療法群では疼痛の程度はVASでは明らか

に軽減したが,そのほかの症状には有意差がみられなかった27)。

その他の治療法5▶サプリメントおよびホメオパシーの効果を検討したメタ分析では否定的な結果28)

(エビデンスⅠ)であった。

▶小児の線維筋痛症では低体温と冷えの問題は重大であるが,成人でも状況は同じで

ある。単純な漢方治療では線維筋痛症には多少の疼痛軽減効果の症例報告が散見さ

れるが,冷えの改善に留意した漢方治療では疼痛が完全に消失した症例報告29)があ

る。生薬単独投与では附子剤であるアコニンサン*(エビデンスⅣ 推奨度C)は一

般的には,疼痛緩和効果とともに冷えの改善にも効果があり,線維筋痛症のVASで

判定した疼痛緩和に有効30)であった。

▶伝統医学の中では灸治療は冷えおよび疼痛の改善には効果的である。注射の針を用

いて皮膚を刺激する治療は伝統医学では刺絡,現代医学的には自律神経免疫治療と

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呼ばれている。この治療法で改善傾向に合った症例の疼痛増悪時に,灸痕が残らな

い綿花を利用した灸治療を追加し,疼痛が完全に消失した症例報告29)がある。通常

の針治療では,刺激の範囲が狭いため十分な効果があがっていない可能性が考えら

れるが,この綿花を利用した灸治療では刺激の範囲が広くなり今後の成果が期待さ

れる。線維筋痛症に高頻度で合併する慢性疲労症候群にも踵の中央部に直接すえる

灸はperformance statusの改善に有効31)(エビデンスⅣ)である。施灸法さえ習得

すれば治療に要する経費も安価に抑えられ,治療の頻度が高くなり,ある程度の効

果も期待できるため今後有望と考えられる。

▶RCTのような大規模な検討をしている治療法は統合医療の領域では少なく,線維

筋痛症に対する効果はepisode的な症例報告が中心となっている。また,RCTでは

効果判定がふさわしくない,あるいは灸治療のようにRCTが不可能と考えられる

治療法も多く,日本統合医療学会でもこの領域の治療効果判定法の検討が始まって

いる。針治療で言及したように,研究時点ではshamと考えたものがshamになって

いないことが後に判明するなど,困難だが克服しなければならない問題がある。さ

らに,この領域は治療者の数が少なく,実際に各種治療を受けるのが容易ではない,

さらに治療者の技術レベルが一定ではないという欠点がある。

▶線維筋痛症患者に効果的と考えられる治療法は統合医療の領域でも,確たるものは

現在のところないのが現状である。個々の患者でもその適応となる治療法が異なる

可能性,また線維筋痛症の病期や患者の体調によっても適応となる治療法が変化す

る可能性もあり,様々な治療手段を試み,その経験を集積しこれらの疑問を解決し,

治療効果をあげる必要がある。本稿で取り上げなかった治療手段も多数あり,統合

医療による今後の線維筋痛症研究の成果を待ちたい。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

精神療法 エビデンスⅠ 推奨度B

▶Glombiewskiら1)による23の線維筋痛症に対する精神療法の研究のメタ解析では,

1396症例で平均7.4カ月間施行された精神療法の解析結果で,精神療法は,睡眠の

問題,抑うつ,機能面,catastrophize(些細なことを大惨事のように言うこと)に有

効であったと報告している。

▶各精神療法については以下に記す。

認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)* エビデンスⅠ 推奨度B

▶これまで,いくつかの論文で線維筋痛症に対するCBT*の有効性は報告されている

が,14の線維筋痛症に対するCBT*を施行されたランダム化試験のメタ解析で,

910症例で平均9週間(5~15週)施行されたCBT*は,抑うつと痛みの自己評価に

有効であり,疲労感,睡眠,健康の質での有効性は認めなかったと報告2)されてい

る。また,前述の23の精神療法の研究のメタ解析において,他の精神療法と比較し

て,CBT*の有効性が報告1)されており,推奨される。しかし,CBT*を行ってい

る施設が少なく,1回あたりの治療にかかる時間も長いため普及には時間がかかる

であろう。

オペラント条件付け行動療法(operant-behavioral therapy:OBT)*

エビデンスⅡa 推奨度B

▶Thiemeら3)は線維筋痛症125症例でCBT*とOBT*と対象群(セッションに参加

はするが,特別な指導は与えられないattention-placebo)のランダム化試験で,

CBT*とOBT*は疼痛を軽減したと報告している。また前述の線維筋痛症に対す

る精神療法のメタ解析で,OBT*は受診回数の減少を認めたと報告1)されている。

エデュケーション療法 推奨度A

▶Hammondら4)は線維筋痛症133症例を対象にエクササイズ教育法とリラクセーシ

治 療

非薬物療法:認知行動療法(CBT),精神療法,心理療法

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ョン法のランダム化試験を4カ月間施行し,エクササイズ教育法のほうがリラクセ

ーションよりも改善したが,効果は8カ月後まで持続しなかったと報告している。

リラクセーション エビデンスⅡb 推奨度B

▶Ruccoら5)は,線維筋痛症53症例を自主トレーニング群と,エリックソン法をまね

る群にランダム化し,エリックソン法が有意に疼痛と睡眠を改善したと報告してい

る。一方,Castelら6)は鎮痛をイメージさせた催眠療法のほうが,リラクセーショ

ン法よりも有効であったと報告している。

電気痙攣療法(electroconvulsive therapy:ECT)* エビデンスⅣ 推奨度C

▶線維筋痛症に対してECT*の研究は少ないが,臼井ら7)は重症の線維筋痛症15例で

13例に有効であったと報告している。これに対しHuuhkaら8)はうつ病を合併してい

る線維筋痛症では無効であったと報告しており,今後さらなる研究が必要だろう。

▶ECT*は精神科専門療法であり,事前に精神科医と治療に適応するか十分精査した

上で慎重に判断すべきである。

反復磁気刺激療法(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)

エビデンスⅠ 推奨度B

▶線維筋痛症に対するrTMSの有効性に関するプラセボ対照二重盲検無作為化試験

の報告はいくつかあり9, 10),Marlowらによる5つの線維筋痛症に対するrTMSの研

究のsystematic reviewでは,rTMS研究の8割で有意に痛みを軽減すると示され

ている11)。しかしながらrTMSは保険適応外であり,治療できる施設も限られてい

る。

経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)

エビデンスⅠ 推奨度B

▶線維筋痛症に対するtDCSの有効性に関するプラセボ対照二重盲検無作為化試験の

報告はいくつかあり11, 12)Marlowらによる4つの線維筋痛症に対するtDCSの研究

のsystematic reviewでは,tDCS研究の100%で有意に痛みを軽減すると示されて

いる11)。しかしながらrTMS同様,tDCSは保険適応外であり,治療できる施設も

限られている。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

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12) Valle A,Roizenblatt S,Botte S et al:Efficacy of anodal transcranial direct current

stimulation (tDCS) for the treatment of fibromyalgia:results of a randomized,sham-

controlled longitudinal clinical trial.J Pain Manag 2009;2(3):353-361.

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若年性線維筋痛症の概略1▶若年性線維筋痛症は,発症年齢が10歳前後(小学校4~5年生)に集中している。男

女比は1:4~8と女児に多い。特異な「全身の疼痛性疾患」で,常に全身痛を感じ,

軽いタッチで激しい疼痛を訴えるallodyniaを特徴とし,原因不明の筋・骨格系の疼

痛(筋痛,関節痛)や持続的な頭痛,腹痛を訴える。疼痛のため歩行障害をきたし,

車椅子生活になる患児も稀ではない。慢性疲労感,睡眠障害(入眠障害,中途覚醒),

低体温(36℃以下)を訴える例が多く,経過が進むにつれ手掌足蹠部の異常な発汗,

末梢冷感,チアノーゼ,四肢の浮腫などの自律神経症状や羞明感,過敏性胃腸炎な

どが加わる。80%以上の例が登校障害(不登校)に至る。時に摂食障害(食思不振症,

過食症)に陥る例もある。

▶通常の疼痛の原因の多くは炎症性病態による。しかし,本症では炎症を示唆する所

見を認めないことから,「中枢性疼痛」が考えられている。すなわち,身体局所の炎

症による疼痛ではなく,疼痛を感知する脳の疼痛受容部位の異常である。

▶特有の性格傾向が認められ,いわゆる“良い子”で,完璧主義,潔癖主義,妥協を許

さないなど柔軟性の欠如があり,コミュニケーション障害,他人への過剰な気遣い

などが特徴的である。ただし,発症前は明るく,社交的で,クラスの人気者であっ

たという例もあるが,コミュニケーション障害の表現としてあえて“ピエロ役”を任

じていた可能性がある。

▶個々の例に発症の契機と考えられる事態があり,両親の離婚,外傷・罹病の経験,転

居などが挙げられる。女児が多いこともあり,母親との葛藤が多くの例で認められ

る。すなわち,小児にとって強力な“心的ストレス”が発症の契機となっていると思

われる。

▶医学的評価としては圧痛点の検出が重要である。いわゆる「心因性反応による疾患」

ではなく,全身痛は持続的であり児童精神科で使われる「身体表現性障害」の概念と

小児の線維筋痛症の診療と治療6

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

も異なる。なお,圧痛点は本症に特有の理学的所見であるが,若年性特発性関節炎

や全身性エリテマトーデスなどの慢性疾患児の長期経過例には,全身性疼痛は認め

られないものの,20%前後の例で圧痛点を認める。

▶血液検査所見では,炎症所見はなく,甲状腺機能は正常で,抗核抗体や抗dsDNA

抗体,抗SS-A抗体などの自己抗体は原則として陰性である。しばしばコレステロ

ールのエステル化不全を認め,遊離脂肪酸の増加とケトン体の低下からミトコンド

リア機能不全が認められる例がある。

若年性線維筋痛症の診断基準2▶わが国では,小児の線維筋痛症の疾患としての認知度はまだまだ低い。症例の蓄積

も少なく,独自の診断基準を得るには至っていない。現在最も頻用されている診断

基準は,1990年に米国リウマチ学会(ACR)より提唱された成人の基準である1)。こ

の基準では,広範囲に及ぶ疼痛が3カ月以上持続することと,全身18箇所に存在す

る圧痛点を検出することを診断の中核的所見としている。圧痛点の検出は,適切な

ポイントを押すことができるか否かで決まり,ポイントを5mmほどもずれると圧痛

点は検出できない。加える圧力は約4kg/cm2が必要であると記載されているが1),

圧の強さの問題ではなく,正確な圧痛点を探れるかどうかが重要である。

▶若年性線維筋痛症については,1985年にYunusとMasiらが提唱した診断基準があ

る2)。この基準では,器質的疾患との鑑別として,検査における炎症所見が陰性で

あることを大基準のひとつとして掲げている。また,小症状として睡眠障害,倦怠

感や不安感,慢性頭痛や過敏性腸症候群など,10項目中3項目以上を満たすことを

必要としている。

若年性線維筋痛症の臨床所見3診断の手順

1)医療面接(推奨度B)

▶医療面接においては,問う姿勢ではなく患児の訴えに耳を傾け,患児の語る言葉や

内容の展開に注意を向けることが本症の診断には重要である。柔軟性の欠如,コミ

ュニケーション障害を有しながらも年齢に不相応な成人のような話し方,背伸びし

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た言葉遣い,抽象的用語の頻用などの特徴がある。当初は,一緒に来院した母親と

ともに面接を行うが,その後は別々の面接を行うことも必要である。

▶診断や評価に必要な項目を以下に示す。誘因や発症背景なども,現病歴の聴き方に

より判明率が大きく変わってくるが,調査表を用いることで,効率的な情報収集の

助けになる。

医療面接のポイント

・ どんな症状が,いつから始まったか?

・ 疼痛の部位と性質,allodynia,関節痛,筋痛,頭痛,腹痛,腰痛の有無。

・ 症状が始まる前に,本人の問題(病気に罹患,怪我・外傷など),家族・家庭の

問題(家族構成,引っ越し,離婚,父母間の問題,祖父祖母の死,兄弟間の確

執など),学校の問題(担任,級友,部活と人間関係など),その他,本人に強

い影響を与える出来事はなかったか?

・ 発症時期に前後して,疼痛に関連するきっかけや背景はないか?

・ 睡眠障害(入眠に時間がかかる,夜中しばしば覚醒する)と低体温(平熱が36℃

以下)は認められるか? 睡眠障害により朝なかなか起きられない。

・ 手掌や足底の発汗過多,過敏性胃腸炎様症状,倦怠感・疲労感,抑うつ症状。

・ 食事の摂取状況,体重減少の有無。

・ 車酔い,朝の目覚めが悪い,手足の冷感,生理不順。

・ これまでの受診歴で器質的疾患の検索(炎症所見)や脳波,頭部画像検査が行わ

れているか,その結果は?

・ 治療薬・治療歴とその効果は?

・ 日常生活への影響はどうか,登校はできているか?

・ 性格傾向:完璧主義,まじめ,責任感が強い,固執傾向,凝り性,根に持つ,几

帳面,空想家,神経質,他人への気配り過多,明朗,年齢より大人びているな

ど。

・ 本人と母親との関係の観察・推察。

・ 本人は何を求めているか?

2)理学的所見

▶全身の関節,筋の診察が重要である。線維筋痛症の診断に欠かせない圧痛点の診察

は,同時進行的に行う。関節,筋の理学的診察は,慢性関節炎や若年性皮膚筋炎の

診察の際に行う方法を用いる。また,圧痛点の検出は,圧痛点のポイントからわず

かにずれても圧痛を感じないことから,そのポイントの検出には十分な研修を受け

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

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ることが求められる(図1)。頭痛,腹痛,腰痛を訴える例も多い。僧帽筋,頸部筋

や腰部の筋について筋緊張の有無を診察する。なお,本症では関節痛の訴えは高率

であるが,自験例から考えると上腕肘部の外側上顆の疼痛を“関節痛”ととらえ,膝

の腱付着部位の疼痛を“関節痛”と表現している例が多く,臨床的に“関節炎”とは

異なることが診察上重要と思われる。また線維筋痛症の診断の中核となる圧痛点の

いくつかは,膝・肘・胸肋関節などの関節部位の近傍に位置するため,関節炎による

疼痛と線維筋痛症の圧痛点ポイントの疼痛との鑑別を行うことが重要である。

理学的診察のポイント

・ 関節・筋の診察

・ 18圧痛点の診察

・ allodyniaの有無

・ “関節痛”は本当に関節痛なのか:圧痛点との鑑別

3)血液検査

▶血液検査では,スクリーニングとして炎症マーカー,甲状腺機能,自己抗体の検討

を行う。特に,著しい倦怠感を訴える自己免疫疾患としてシェーグレン症候群があ

下位頸部:C5~C7の横突間の全面

後頭部:後頭下の筋付着部

肩甲部:(僧帽部)上縁の中央点

勅上筋:肩甲(骨)勅の内側縁の上部

大転子部:大転子隆起の後部

膝:関節境界線からの近位側の内側脂肪パッド

第2肋骨:第2肋骨脇軟骨連結部

外側上顆:上顆から2cm遠位側

圧痛点の検索:18カ所

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8

1819

10 11

12 13

142/3

1/3

15

17*

2120

9 16*

1*

図1▶理学的診察*:1,16,17は陰性コントロール。しかし,allodyniaがあるとこの部位も陽性に出てしまうことがある

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る。抗SS-A抗体のチェックを行う。なお,罹病体験のある小児例が線維筋痛症で

あるにもかかわらず原病の再燃と考えられ,若年性特発性関節炎,全身性エリテマ

トーデス,若年性皮膚筋炎などとしてステロイド*や免疫抑制剤を使用される例が

少なからずあることに注意する。

血液検査のポイント

・ 炎症マーカー(白血球数,CRP,赤沈値)のチェック

・ 抗核抗体(抗体価,染色型),抗SS-A抗体,抗dsDNA抗体

・ 甲状腺機能(free T3/free T4/TSH)

▶なお,最近コレステロールのエステル化不全,遊離脂肪酸値上昇とケトン体減少,酸

化型コエンザイムQ10の上昇と還元型コエンザイムQ10の減少などの所見を呈する

例があり,脂肪代謝やミトコンドリア機能異常についての検討が進められている。

4)鑑別診断

▶若年性線維筋痛症は,全身性の慢性疼痛性疾患である。通常,疼痛の多くは炎症性

病態により生じるものなので,理学的診察,血液検査で炎症を否定する。鑑別すべ

き疾患として,若年性特発性関節炎,全身性エリテマトーデス,若年性皮膚筋炎,

シェーグレン症候群,血管炎症候群(特に高安病)など(リウマチ・膠原病では,病

児の多くは倦怠感・易疲労感を訴える),脳脊髄液減少症(慢性頭痛が主徴),慢性疲

労症候群(線維筋痛症の類縁疾患)などが挙げられる。

若年性線維筋痛症の評価4▶若年性線維筋痛症は疾患活動性を反映する血清学的マーカーが存在しないため,そ

の客観的評価は容易ではない。本症の特徴として,全身性疼痛に加えて多様な症状

を伴うため,圧痛点だけではなく,すべての症状の結果としてのQOL障害度を反映

する重症度分類を行う。成人と同様,厚生労働省から提唱されているステージ分類

試案が有用である(表1)。なお,疼痛,精神症状,日常生活動作の障害を総合的に評

価できる尺度として,FIQ(Fibromyalgia Impact Questionnaire)3)があるが,小児

への適応には生活スタイルに合わせた改変が必要であり,現在は用いられていない。

▶限られた診察時間ではすべての症状の評価を子細に行うのは困難であるが,疼痛に

ついては圧痛点に加えてVAS(Visual Analogue Scale)の併用が比較的簡便で有

用である。若年性線維筋痛症の睡眠障害は寝覚めのすっきりしない,浅い睡眠状態

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

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が特徴で,入眠困難や中途覚醒を訴える児が多い。当施設では何時から何時まで眠

ったかを表す睡眠表の記録を2~4週間つけてもらい,評価の参考としている。

▶低体温も特徴的な所見で,平熱が35℃台であることが多い。手・足の冷えも“冷え

性”として認識されている。低体温のために入眠がなかなかできないこともある。

▶慢性疲労を訴える患児も多く,“痛み”と“だるさ”が相まって生活障害をきたす。小

児慢性疲労症候群において,「Performance Statusによる小児の疲労/倦怠の程度」5)

が疲労の評価に用いられるが,これには小児慢性疲労症候群に特徴的な集中力低下

や記銘力低下の検討項目があり,線維筋痛症においても評価の参考となる。

小児線維筋痛症の治療5▶若年性線維筋痛症の疼痛に対する薬物治療薬としてNSAIDs*(エビデンスⅣ 推

奨度C)が用いられる。しかし効果に乏しい。本症に対する特異的な治療薬としてノ

イロトロピン®*(エビデンスⅣ 推奨度B)が用いられることが多いが,効果につ

いてのエビデンスはない。ノイロトロピン®*の静注薬は短期的な疼痛の緩和のた

めに用いられることがある。

▶成人例では様々な薬物療法が試みられており,SSRI(選択的セロトニン再取込み阻

害薬)*,SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)*などの抗うつ薬*

による有効性が報告されている。また,抗てんかん薬*として開発されたガバペン

チン(ガバペン®)*(エビデンスⅡa 推奨度B)は,神経因性疼痛に対する効果が

認められ本症に用いられている。しかし,若年性線維筋痛症例では成人例と異なり,

抗うつ薬*や,ガバペンチン*といった薬物は適応年齢や副作用の問題があり導入

表1▶ QOL障害程度からみた重症度(下記のステージよりひとつを選択)

重症度 QOL 圧痛の程度 疼痛部位

ステージⅠ米国リウマチ学会分類基準の18カ所の圧痛点のうち,11カ所以上で痛みがあるが,日常生活に重大な影響を及ぼさない 圧痛

(4kg/cm2)体幹部

ステージⅡ手足の指など末端部に痛みが広がり,不眠,不安感,うつ状態が続く。日常生活が困難

ステージⅢ激しい痛みが持続し,爪や髪への刺激,温度・湿度変化など軽微な刺激で激しい痛みが全身に広がる。自力での生活は困難

軽度の圧痛体幹部から末梢部位

ステージⅣ痛みのため自力で体を動かせず,ほとんど寝たきり状態に陥る。自分の体重による痛みで,長時間同じ姿勢で寝たり座ったりできない

触痛・自発痛 全身痛ステージⅤ

激しい全身の痛みとともに,膀胱や直腸の障害,口の渇き,目の乾燥,尿路感染など全身に症状がでる。普通の日常生活は不可能

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が困難で,少数例の検討では有効性は低い。最近,プレガバリン(エビデンスⅠ 推

奨度A),トラマドール*(エビデンスⅡa 推奨度B),ミルタザピン*(エビデンス

Ⅱb 推奨度B)などの新薬も開発されているが,小児例については,諸外国におい

ても使用経験の報告はなく,使用するのであれば組織的に治験を行うべきである。

▶一方で,薬物に頼らず小児科外来で医療面接を繰り返し,児童精神科を併診して心

理・精神的なアプローチを行い,症状の改善,消失を得られる期待がある6)。極端な

例では,“若年性線維筋痛症”という診断がついたことに安堵して,すべての症状が

初回受診後消失してしまう症例もある7)。

▶若年性線維筋痛症の症例に対しては,“病気⇔くすり”の考え方は払拭して取り組む

べきで,まずは患児と目線を合わして話を聴くという基本姿勢が大切である。発症

背景に家族,特に母親の存在が関わっていると察せられたような場合,生活環境か

らの一時的遮断を意図した入院措置が効果的であることがある。ただし,入院に際

してはいくつかの条件がある。入院は2~3週間の短期入院とし,この間家族の面

会は一切断る。また,携帯電話も禁止する。一方で,院内学級に転校して教師や他

の入院病児との積極的な交流ができるように環境を整えて患児に新しい環境を提供

する。病棟スタッフおよび看護チームと協議を行い,疼痛に関する話題を避けるこ

とを申し合わせ,また病棟の日課(食事の時間,シーツ交換,入浴時間,就眠時間

など)に従わせる。車椅子を使用していたり,杖を用いていたりする患児の場合に

は,リハビリテーション科と相談し適切なプログラムを用意する。

生活環境からの一時的遮断を狙った入院措置

・ 家族や学校環境から環境分離を図る。

・ 入院は2~3週間とし,この間家族の面会は断る。携帯電話も禁止する。

・ 病棟スタッフおよび看護チームと協議を行い疼痛に関する話題を避けることを

申し合わせる。

・ 段階的にリハビリテーションを開始する。

・ 院内学級で教師および他の患児との交流を図る。

▶睡眠障害に対する対応は困難ではあるが,メラトニンや短時間作用型の睡眠導入薬

の併用が有効な場合もあり,十分な睡眠が確保されるに従い,疼痛の改善を期待で

きる例もある。睡眠障害に関しては,小児の慢性疲労症候群にみられるような辺縁

系の生体リズム障害と共通する病態が推察される8)。

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■文献1) Buskila D,Press J,Gedalia A,et al:Assessment of nonarticular tenderness and

prevalence of fibromyalgia in children.J Rheumatol 1993;20:368-370.

2) Yunus MB,Masi AT:Juvenile primary fibromyalgia syndrome.A clinical study of thirty-

three patients and matched normal controls.Arthritis Rheum 1985;28:138-145.

3) Burckhardt CS,Clark SR,Bennetet RM:The fibromyalgia impact questionnaire(FIQ):

development and validation.J Rheumatol 1991;18:728-733.

4) 戸田克広:日本語版Fibromyalgia Impact Questionnaire(試案).広島医学 2006;59:49-

52.

5) 三池輝久,玉井 浩,福永慶隆,他:小児慢性疲労症候群の診断基準に関する研究(思春期の

保健対策の強化および健康教育の推進に関する研究).平成15年度厚生労働科学研究(子ど

も家庭総合研究事業)報告書.2004;p639.

6) 横田俊平,梅林宏明,宮前多佳子,他:小児期の線維筋痛症3症例の経験.日児誌 2007;

111:462-468.

7) 宮前多佳子,横田俊平:わが国における線維筋痛症の実態と臨床像.日児誌 2008;112:

1769-1777.

8) Tomoda A,Miike T,Yonamine K,et al:Disturbed circadian core body temperature

rhythm and sleep disturbance in school refusal children and adolescents.Biol Psychiatry

1997;41:810-813.

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▶2011年7月に発行された「線維筋痛症診療ガイドライン2011」で示されている通

り,全国に線維筋痛症患者は約200万人と言われている。近年,各種マスメディア

にたびたび紹介され,医療機関へ相談される患者数も増加していることで,「線維筋

痛症」という病名は,少しずつではあるがわが国でも認知されてきている。

▶しかしながら,いまだ原因が解明されていないことや身体面の多彩な症状,外因

的・心因的ダメージによる精神面の症状が表出する中で,ケアの体制,支援内容が

その個別性もあることで,確立されていないのが現状である。私自身,医療機関の

医療ソーシャルワーカーとして,主に入院・外来患者への相談支援を行っているが,

個々の患者の身体状況や生活・社会環境は様々である中で,どのように制度を組み

合わせて,活用していくのか日々悩みも多くあるが,ここでは,公的保障制度をご

紹介していきたい。

医療制度の活用1▶医療費に関わる公的制度に関しては,各医療保険制度や後期高齢者医療制度による

もの,障害者自立支援法による自立支援医療,身体障害者手帳,精神保健福祉手帳

の交付による医療費助成制度などがある。医療保険の種類は,国民健康保険,協会

けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険),公務員共済保険,私立学校教職員共済組

合,船員保険などがある。

1)医療費が高額になった場合の自己負担の軽減

▶同じ病院や診療所で支払った1カ月の医療費の自己負担額(外来・入院費)が限度額

を超えた場合,高額療養(医療)費として還付される。年齢により内容が変わり,下

記の通りとなる。

ケアおよび支援の体制

公的保障制度の解説

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今なぜ線維筋痛症

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(ア)70歳未満の場合(表1)

▶世帯の収入に応じて上位所得者,一般,低所得者(住民税非課税世帯)に分類され,

限度額の違いがある。入院の場合,「負担限度額適用制度」を活用することで,高額

療養費の自己負担限度額(保険適応分)のみ支払うことが可能となる(差額ベッド料

金,食費等は保険適応外)。外来診療についても,平成24年4月より「負担限度額証」

を提示することにより,自己負担額の上限を超えた場合,窓口での支払いが一定の

金額にとどめられることとなった。なお,表1の中の「4回目以降」については,過

去12カ月間に高額療養費の支払い回数が4回以上となった場合の4回目以降の上限

金額である。また,同一月に21 ,000円以上の窓口負担が世帯で2件以上あった場合,

それぞれの自己負担金を合算して自己負担限度額を超えた場合も同様に還付を受け

ることができる。ただし,70歳以上の方がいる世帯では,計算方法が異なる。

▶申請については,各保険事務所,国民健康保険の場合は,市区町村役場の国民健康

保険担当課となる。

(イ)70歳以上の場合(表2)

▶世帯の収入に応じて,現役並み所得者,一般,低所得者Ⅰ・Ⅱに分類され,高額療

養費の自己負担限度額が入院・外来で異なる。入院および外来は所得に応じて,高

齢者受給者証もしくは負担限度額証の提示により,保険適応分(世帯単位)での窓口

支払いとなる。窓口負担額は1割もしくは3割負担となる(2012年現在)。

表2▶高額療養費の自己負担限度額(70歳以上の場合)

窓口負担 外来の場合 入院の場合

一定以上所得者 3割 44,400円80,100円+(総医療費-267,000円)×1%

*4回目以降は44,400円

一般 1割 12,000円 44,400円

住民税非課税世帯

Ⅱ1割 8,000円

24,600円

Ⅰ 15,000円

(2012年現在)

表1▶高額療養費の自己負担限度額(70歳未満の場合)

所得区分1カ月あたりの自己負担限度額

過去12カ月間の高額該当3回まで 4回目以降

上位所得者 150,000円+(医療費-500,000円)×1% 83,400円

一般 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 44,400円

低所得者(住民税非課税世帯) 35,400円 24,600円

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2)後期高齢者医療制度

▶後期高齢者医療制度の対象者は,75歳以上もしくは65歳以上で一定の障害を有す

る方である。外来,入院の医療費の自己負担額については,表2の通りとなる。収

入に応じて,一定以上所得者,一般,低所得者Ⅰ,Ⅱに分けられる。なお,低所得

者Ⅰ・Ⅱについては,市区町村役場での限度額適用認定証の交付を受ける必要がある。

▶入院・外来とも,保険適応分については,高額療養費の上限額での請求となる。な

お,現行制度については,見直し案もあり,今後の動向を見守る必要がある。

▶また,「高額医療・高額介護合算制度」「高額療養(医療)費貸付制度」もある。詳しく

は,国民健康保険については,市区町村の国保担当窓口,被用者保険は各事業所の

窓口へ問い合わせ,医療機関の担当者への相談が必要である。

介護保険制度の活用2▶介護保険制度は,65歳以上の方(第1号被保険者),40歳以上65歳未満の国民健康

保険など医療保険加入者(第2号被保険者)が加入し,利用対象者は,介護が必要な

65歳以上の人,16個の「特定疾病」が原因で介護が必要な40~64歳の人である。

「線維筋痛症」は特定疾病には該当しないため,65歳以上もしくは他の合併する疾

患が特定疾病に該当する場合,利用申請を検討することができる。各症状が認定結

果に反映されることが難しい現状ではあるが,主治医等と相談しながら,制度活用

に向けた検討を進めることが必要である。申請方法およびサービス内容は下記の通

りである。

1) 申請

▶要介護認定申請は,介護保険証(第2号被保険者は健康保険証のコピー)を添えて,

申請書を市区町村の介護保険課へ提出する。認定結果が出るまでにおよそ30日程

度かかる。なお,身体障害者制度,障害者自立支援法などの制度より優先される(労

災制度,自動車事故の賠償,原子爆弾被害者に対する援護に関する法律,戦傷病者

特別援護法以外)。

2)サービス内容

▶相談窓口は,予防給付および高齢者の権利擁護,金銭管理等の相談に対応する「地

域包括支援センター」,要介護認定の申請代行,介護サービス計画の作成(要介護1

~5)を担当する居宅介護支援事業所である。サービス内容は大きく「居宅サービ

ス」と「施設サービス」に分けられる。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

(ア)居宅サービス

・ 訪問介護(ホームヘルプ):訪問介護員が自宅へ訪問し,身体介護,生活援助などを

行う。

・ 訪問看護:看護師が自宅へ訪問し,健康チェック,医療器具の管理,褥瘡防止,介

護援助,リハビリテーション,療養上の相談を行う。

・ 訪問入浴介護:自宅での入浴が困難な場合,浴槽を持ち込んで入浴サービスを行う。

・ 訪問リハビリテーション:理学療法士,作業療法士,言語聴覚士が自宅へ訪問し,リ

ハビリテーションを行う。

・ 通所介護(デイサービス):通所介護事業所へ通い,食事,入浴,レクリエーション,

機能訓練,送迎を利用する。

・ 通所リハビリテーション(デイケア):病院や介護老人保健施設,その他の通所介護

事業所へ通い,リハビリテーション,食事,入浴,送迎を利用する。

・ 居宅療養管理指導:医師,歯科医師,薬剤師,栄養士などが訪問し,療養生活をお

くるために必要な助言を行う。

・ 短期入所生活介護(ショートステイ):短期間入所し,食事,入浴,排泄などの日常

生活動作の介護,機能訓練を受ける。介護者の介護負担の軽減などを図ることがで

きる。

・ 短期入所療養介護(ショートステイ):短期間入所し,医学的管理下における介護,

機能訓練,医療処置および機能訓練を行う。

・ 特定施設入居者生活介護(介護付有料老人ホームなど):入居施設における介護およ

び介護予防サービスを利用する。

・ 福祉用具貸与:自宅での生活をよりよくするための福祉用具を貸与する。要支援1,

2,要介護1の状態の人は,一部の福祉用具の貸与についての制限がある。

・ 福祉用具購入:自宅での生活をよりよくするための福祉用具のうち,ポータブルト

イレなどを購入する。1年間に限度額10万円。購入費の1割自己負担(償還払い)。

・ 住宅改修費:手すりの取り付け,段差解消など,住宅改修にかかる費用が支給され

る。1人1住宅につき,支給限度額20万円。自己負担は1割(償還払い)。

▶要介護度が3ランク以上重度になった場合,転居した場合は必要に応じて改めて住

宅改修の制度活用が可能となるが,住民票に記載されている住宅の改修が支給の対

象となる。

(イ)施設サービス

・ 介護老人保健施設:疾患状態の比較的安定している介護が必要な人(要介護1~5)

が短期間入所して,在宅復帰できるように,食事・排泄・入浴などの日常生活面の介

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護および療法士によるリハビリテーション,栄養管理,健康管理,療養上の援助等

を受ける。施設ごとの環境,職員配置などに応じて入所費用の違いがある。

・ 介護老人福祉施設:介護が必要な人(要介護1~5)が入所して,食事・排泄・入浴な

どの日常生活上の介護,栄養管理,レクリエーションなどの余暇活動,機能訓練を

受ける。施設ごとに職員配置,環境により入所費用の違いがある。

・ 介護療養型医療施設:療養病棟などで介護が必要な人(要介護1~5)が入院して,

食事・排泄・入浴などの日常生活の介護,医療,機能訓練,レクリエーションなどの

余暇活動などを受ける。

(ウ)地域密着型サービス

▶住み慣れた地域で生活を継続するために「通い」「訪問」「泊まり」を組み合わせた地

域密着型のサービス提供を行う「小規模多機能型共同生活介護」や「認知症対応型共

同生活介護(グループホーム)」などがある。住居地の地域の人のみが利用できる。

3)介護保険サービス利用にあたって

▶介護保険サービスの居宅サービスを利用する場合,要支援・要介護の認定結果によ

り1カ月の支給限度額が決められている。自己負担は原則1割で,食費・居住費など

は実費負担となっている。また,世帯の所得に応じて4段階に分かれ,自己負担の

減額の制度がある。

障害者制度の活用3▶障害者サービスを利用するには,まず身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者福祉

手帳等の手帳の取得が必要である(高次脳機能障害で手帳の取得ができない場合

は,医師の意見書)。

▶手帳制度はそれぞれの障害についての法律により別々に定められているため,障害

に応じて対応する必要がある。「指定医」は,手帳を申請するために必要な診断書を

作成できる医師のことで,身体障害では,肢体,視覚,聴覚など各障害部位によっ

て決められている。

▶「線維筋痛症」のような機能性疾患については,四肢の切断,脊椎損傷,脳卒中によ

る麻痺,関節リウマチのような器質性疾患と異なるため,実際,身体障害者手帳の

認定については,「非該当」と判断される事例が多いと言われている。市区町村の障

害福祉担当課へ申請した書類・診断書は,都道府県に設置されている「身体障害者

更生相談所」等で身体障害者手帳の対象かどうか審査され,さらに審査が困難な場

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

合や障害に該当しないと思われるケースは,地方の社会福祉審議会で審議されるし

くみとなっている。

▶判定結果は,文書にて申請者に通知される。認定結果の内容に不服がある場合は,

再審査請求を行うことができる(通知書におそらく明記されている)。まずは,市区

町村への相談・審査するための手続き方法を確認して頂きたい。なお,再審査請求

する場合,通知を受けてから60日以内など申立てに日数の制限があるので注意が

必要である。

1)手帳の申請と取得

◆身体障害者手帳の取得

対象:肢体(上肢・下肢・体幹),視覚,聴覚,平衡機能,音声言語機能,そしゃく機

能,内部機能,免疫機能に障害があり,一定以上の期間,永続する状態。

手帳の等級:1~7級(7級は手帳の発行なし)

申請方法:診断書,写真,印鑑を準備し,診断書(所定様式あり)については,指定医

のみ作成可能。居住地の市区町村の障害福祉担当課へ提出し,申請する。

◆精神障害者福祉手帳の取得

対象:「精神障害」のため長期にわたる日常生活,社会生活に制限のある人。ただし初

診から6カ月以上経過していること(療育手帳の対象となる知的障害者は除く)。

手帳の等級:1~3級

申請方法:申請書,医師の診断書または障害年金受給者は年金証書の写しと改定通知

書,印鑑を準備し,居住地の市区町村の福祉課もしくは保健所へ提出し,申請を行

う。2年ごとの更新となる。

2) 障害者サービスの内容と利用方法

▶身体・知的・精神の障害ごとに異なっていた福祉サービスを一元化することを目的

に「障害者自立支援法」が2006年(平成18)年4月より実施されている。利用者負担

については,原則1割の定率負担となり,低所得者には所得段階別に負担限度額の

上限が設定され,負担の軽減が図られている。なお,「障害者自立支援法」について

は,2013年(平成25年)4月より現行制度を廃止し,「障害者総合支援法」への移行

が検討されている。また,2010年(平成22年)4月から当面の措置として,低所得

(市町村税非課税世帯)の障害者および障害児の保護者につき,障害者自立支援法及

び児童福祉法による障害福祉サービス及び補装具にかかる利用者負担を無料とする

措置がとられている(2012年現在)。

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<利用手順>

(ア)申請

 サービス利用の開始にあたっては,利用者自身が居住する市区町村障害福祉担当課

または相談支援事業所を通じて申請を行う。

(イ)区分認定

 サービス利用にあたっては,障害者福祉サービスの必要性を明らかにするため,障

害者の心身の状態を総合的に表す「区分」の認定が必要となる。市区町村がサービス

の種類や量を決定する際に勘案する事項のひとつとなる。区分1~6(軽~重度)に

より認定される。流れとしては,全国一律の認定基準による一次判定と市区町村審

査会による二次判定があり,一次判定では,要介護認定調査項目(79項目),障害者

項目(27項目)から判定され,障害者項目については,障害の特性に応じた質問内容

となっている。図1に示す訓練等給付の場合は,一次判定のみで決定されるが,介

護給付と訓練給付の一部については,二次判定まで受ける必要がある。認定結果は,

利用者または相談支援事業所に通知される。

(ウ)サービス利用の調整

 認定を受けたのち,その基準内に定められた範囲で,希望するサービスについて,

相談支援事業所および市区町村障害福祉担当課と相談しながら調整し,「サービス

利用計画書」を作成し,利用する。

(エ)サービスの種類

 「介護サービス(介護給付)」「訓練等サービス(訓練給付)」「補装具」などの自立支援

給付と「地域生活支援事業」がある。体系については,図1の通りである。障害の内

容,認定区分によって利用制限があるサービスがあり,入所施設を利用する場合は,

日中活動と居住(夜間)にサービスが分かれる。

▶障害者サービスの内容は,下記の通りである。

・ 「介護サービス」:居宅介護(ホームヘルプ)による身体介護,家事援助,通院介助を

伴う訪問介護,重度訪問介護,行動援護,重度障害者包括支援,児童デイサービス,

短期入所(ショートステイ),療養介護,生活介護,施設入所支援,共同生活介護(ケ

アホーム)(表3)。

・ 「訓練等サービス」:自立訓練(機能訓練・生活訓練),就労移行支援,就労継続支援

(A型,B型),共同生活援助(グループホーム)など(表4)。

・ 「補装具」は,身体機能を補うための歩行器,車いすなどの用具であるが,障害部位

や等級,所得に応じて制限もあるため,市区町村障害福祉担当課へ相談し,申請を

進める必要がある。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

表3▶介護サービス(介護給付)

居宅介護 居宅での入浴,排泄,食事の介護など

重度訪問介護重度肢体不自由で常時介護を要する人の入浴・排泄,食事の介護。外出時の移動介護

行動援護知的・精神障害のため,常時介護を要する人の行動の際の危険回避や外出時の移動介護

短期入所 施設に入所しての入浴,排泄,食事の介護など

重度障害者等包括支援常時介護が必要で,その必要度が著しく高い人への,居宅介護その他障害福祉サービスの包括的提供

児童デイサービス 日常生活の基本的な動作の指導,集団生活への適応訓練

療養介護医療を要する人で常時介護も必要な人への機能訓練,療養管理,看護,医学的管理下の介護など

生活介護 常時介護を要し,施設が入浴,排泄,食事の介護の機会提供

施設入所支援 入所しての入浴,排泄,食事の介護など

共同生活介護 ケアホームでの入浴,排泄,食事の介護など

図1▶障害者自立支援法の体系 (出典:図説 よくわかる障害者自立支援法.第2版,2008,中央法規)

居宅介護重度訪問介護行動援護療養介護生活介護児童デイサービス短期入所重度障害者等包括支援共同生活介護施設入所支援

自立訓練(機能・生活)就労移行支援就労継続支援共同生活援助

自立支援給付

地域生活支援事業

支援

障害者・児

介護給付 訓練等給付

自立支援医療

補装具

市町村

(旧)更正医療(旧)育成医療(旧)精神通院公費 等

相談支援コミュニケーション支援,日常生活用具移動支援地域活動支援福祉ホーム

広域支援人材育成 等

都道府県

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・ 「地域生活支援事業」は,相談支援事業,コミュニケーション支援事業,日常生活用

具給付事業,移動支援事業,地域活動支援センター事業など市区町村単位で実施さ

れている必須事業と福祉ホーム事業,訪問入浴サービス事業など任意事業がある。

3)経済面にかかわるサービス内容

▶身体障害者手帳等の取得による経済面における支援・給付に関して,障害内容や手

帳の等級,所得や市区町村によってサービス内容や基準が異なり,申請する窓口も

様々である。居住地域についての情報を整理し,対象となるか検討する必要がある。

▶具体的な内容としては,一例として,鉄道・バス・タクシーなどの交通運賃の割引,

有料道路の割引,障害者自動車運転免許取得費・改造費の助成,駐車禁止除外指定

車標章の交付,自動車税の免除,所得税,市県民税の控除,NHK放送受信料の減

免,携帯電話の割引,特別障害者手当の支給(要件を満たす在宅生活者のみ),「自

立支援医療」(障害の種類や所得により制限あり)の利用,障害者医療費助成制度の

利用,日常生活用具の給付,住宅改修費の支給などがある。手帳の等級,所得など,

対象となる範囲がそれぞれ違うため,詳しくは,お住まいの市区町村の障害福祉担

当課等へ相談が必要である。精神保健福祉手帳によるサービスについても様々あ

り,活用については,お住まいの福祉課・保健所等へご確認頂きたい。

生活費等の公的保障制度41)障害年金の受給

▶国民年金・厚生年金・共済年金加入中の65歳以前に病気により障害を受け,障害認

定日(初診から1年6カ月経過もしくは症状固定した日)を迎えたとき,また,年金

加入前の期間(20歳未満)に初診日がある病気のため障害を受け,障害認定日以降

表4▶訓練等サービス(訓練等給付)

自立訓練身体機能または生活能力向上のために必要な訓練など(機能訓練・生活訓練)

就労移行支援就労を望む人への,生産活動などを通じて就労に必要な知識・能力の向上など

就労継続支援雇用が困難な障害者につき,就労機会を提供するとともに生産活動などを通じて知識・能力向上の訓練など(A型・B型)

共同生活援助(グループホーム)

地域において共同生活を営むのに支障がない障害者につき,主に夜間において共同生活を営む住居において,相談その他の日常生活上の援助を行う

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

に20歳に達したとき,障害の程度が年金の基準に該当する場合に,障害年金受給の

申請を行うことができる。各加入している年金事務所の窓口への相談・申請が必要

である。障害基礎年金は1,2級, 障害厚生・障害共済年金は1~3級と障害一時金

に分かれている。具体的な支給額については,障害厚生・障害共済年金等について

は,加入年数や金額によっても支給額が違うため,障害年金の受給要件を満たして

いるかの確認も合わせ,相談が必要である。

2) 生活保護制度の活用

▶「国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利があり,国はそれを保障する」と

いう最低限度の生活の保障が憲法に定められている。制度利用にあたっては,申請

保護,基準および程度,必要即応,世帯単位などの原則を設けている。持っている

資産や能力をできる限り活用しても生活が成り立たない場合,生活保護を申請する

ことができる。そのため,まずは,持っている資産の活用,扶養義務者(親,子,兄

弟姉妹など)による援助が受けられる場合は,優先しなければならない。また,介

護保険法や各種障害者福祉制度,年金制度など他の法律を用いることができる場合

は,生活保護法より優先される。

▶具体的な生活保護の種類は,

 生活扶助:衣・食その他日常生活に必要なものを購入するための費用

 教育扶助:義務教育に必要な費用(学費・給食費・通学用品,学用品)

 住宅扶助:家賃や住宅維持に必要な費用

 医療扶助:健康保険に準じて必要な費用(現物給付)

 出産扶助:分娩に必要な費用

 生業扶助:就労準備に必要な費用

 葬祭扶助:葬祭を行う際,扶養義務者のいない場合,葬祭に必要な費用

 介護扶助:介護保険利用時の自己負担分(現物給付)

 などがあり,必要な保護内容を組み合わせて扶助される。

▶居住地の福祉事務所への相談および申請となる。

おわりに

▶各種制度の活用については,問い合わせ先が多岐にわたり,対象年齢,身体状況な

ど,利用を進めるにあたり検討すべき事項が多いため,主治医をはじめ,医療機関

および行政・福祉機関の各相談員などと相談しながら,ひとつずつ調整を進めて頂

くことが大切である。

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■文献1) 厚生労働省ホームページ:

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info02d.html

http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/gaiyo/hoken.html

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/

2) 厚生労働省研究班:線維筋痛症診療ガイドライン2011.2011,日本リウマチ財団.

3) 村上須賀子,佐々木哲二郎:医療福祉総合ガイドブック2012年度版.2012,医学書院.

4) 坂本洋一:図説 よくわかる障害者自立支援法.第2版,2008,中央法規.

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

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小児の線維筋痛症の

「痛み」とは1▶痛みの定義を国際疼痛学会では「実際に何らかの組織損傷が起こったとき,または

組織損傷を起こす可能性があるとき,あるいはそのような損傷の際に表現される,

不快な感覚や不快な情動体験」1)と定義している。米国リウマチ学会(ACR:Amer-

ican College of Rheumatology)および日本線維筋痛症学会においては,線維筋痛

症における痛みの明確な定義はないが,線維筋痛症の診断基準が2010年に米国リ

ウマチ学会によって示されており,わが国においてもその基準を検証している段階

である。

▶その指針に示されているように「疼痛=痛み」が線維筋痛症の主症状であり,痛みな

くしては線維筋痛症の診断を行うことは不可能である。先述した「痛み」という定義

に焦点をあてると,痛みが身体的感覚のみならず不快な情動体験と心の動きを伴う

ものであることが示されている2)。線維筋痛症の疼痛が機能性疼痛と称される痛み

であることは広く認識されているが,心理社会的な苦痛が痛みを増幅させる一要因

になっていることも同様に認知されている。これは「がん性疼痛」の特徴とよく似て

いる部分がある。がん性疼痛を増強させる因子として,表1のものが挙げられる。

▶治療法の確立や確実な治癒・寛解の実証が少ない疾患である「がん」は,線維筋痛症

と同様に見通しが立ちづらく,治療の行方が掴みづらい。そのため患者は不安に陥

りやすい状況にある。治療法の確立がなく,治療の行方が不鮮明な状況は患者にと

って大きな不安を抱かせる要素になりうる。その不安や葛藤が苦痛となり,身体の

痛みを過敏に増幅させていることもある。不眠と痛みの関係のように,「心理社会的

苦痛」と「痛み」が互いに刺激し合い悪循環のスパイラルのようになってしまうので

ある。

▶しかし逆に,がん性疼痛を和らげる状況も存在する。がん性疼痛を減弱させる因子

として表2のものが挙げられる。

ケアおよび支援の体制

線維筋痛症のチーム医療と看護職

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▶「痛み」というものを,身体的症状だけでなく心理社会的な側面から全人的にとら

え,アプローチ(関わる・ケア)していくことが必要となっていく。

薬物療法以外のアプローチと看護職の役割2▶線維筋痛症の患者に対して理学療法,作業療法,心理療法,補完・代替療法など様々

なアプローチを薬物療法とともに取り入れている医療機関は本邦でも少しずつ増え

ている。しかし,現状として線維筋痛症を治療している医療機関は病床をもつ病院

ではなく外来診療のみの医院やクリニックであることが多い。こうした外来診療の

みの医療機関では,理学療法士や作業療法士,臨床心理士などのパラメディカルス

タッフ(コメディカルスタッフ)が在勤しているところは稀である。前ガイドライン

でも触れたことであるが,どの医療機関にも必ず存在する看護職。その看護職が薬

物療法の治療とともに痛みに対するアプローチ法を学び,スキルを身につけ,日々

の診療の場面で活かすことができれば,患者 ─ 看護師関係が円滑に構築される。す

なわち看護職の関わり方によって患者満足度につながることは言うまでもない。

表1▶疼痛を増強させる因子

苦痛・苦悩の分類 疼痛を増強する因子

身体的 不眠,疲労,倦怠

精神的 不快,不安,恐怖,怒り,悲嘆,抑うつ・孤独感,絶望感,緊張

社会的 社会的地位,収入の喪失,家庭での役割の喪失

スピリチュアル 罪責感,存在意義の喪失

( 櫻井宏樹:がん性疼痛ケア完全ガイド.林 章敏,中村めぐみ,高橋美香子 編著,照林社,2010,p18を一部引用して作成)

表2▶疼痛を減弱させる因子

苦痛・苦悩の分類 疼痛を軽減させる因子

身体的 痛み以外の症状の緩和,睡眠

精神的 安心,安堵,気分高揚,精神的集中・緊張感の緩和

社会的 人とのふれあい,他者からの理解・創造的活動

スピリチュアル ゆるし,存在意義の発見

その他 抗不安薬,抗うつ薬,心理療法,物理療法,補完・代替療法

( 櫻井宏樹:がん性疼痛ケア完全ガイド.林 章敏,中村めぐみ,高橋美香子 編著,照林社,2010,p18を一部引用して作成)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

▶本邦における線維筋痛症患者は,医療場面で,医療従事者との関係で苦悩した経験

をした者が多い。病気を理解されないことの理由には,医療従事者の疾病に対する

不理解だけでなく,心身両面でのサポートの必要性とともに,患者の心理社会的背

景をどのように捉え,その上でどのように関わっていくことがよいのかがわからな

いということも理由のひとつであろう。患者と関わる上で看護職が陥りやすい葛藤

(ジレンマ)にはいかなるものがあるのかを知り,また看護職が行える心理サポート

の手法を学ぶことが必要である。患者の心身両面の理解と看護職が身につけておく

とよいものを同時に学ぶことを推奨する。

有効なコミュニケーションスキル31)傾聴・共感

▶傾聴とは「聞きたいこと」を「聞く」のではなく,「相手の言いたいこと,伝えたいこ

と,願っていること」を受容的・共感的態度で「聴く」ことであり,相手が自分自身

の考えを整理し,納得のいく結論や判断に到達するよう支援することである。共感

とは,他者の喜び・悲しみ・怒りなど他者と同じように感情をもつことをいう。この

場合,他者が体験した感情表出を自己(観察者)が自身も同じように感情を体験する

ことである。

2)支持・承認

▶他者の意見や主張に賛同し,その後押しをすることをいう。精神療法には支持的精

神療法(力学的精神療法)があるが,力学的精神療法では精神分析を基本に置き,患

者の「無意識の心」と「意識的な心や行動」の相互関係を理解しながら治療を行う。

看護における支持とは,患者の言語的・非言語的訴えに耳を傾け,患者が抱える困

難な状況をより良い方向へと向かう解決策を考え,支援(手助け)することを患者に

伝えることである。

3)リフレーミング

▶リフレーミングには大きく分けて2つある。意味のリフレーミングと状況のリフレ

ーミングである。意味のリフレーミングは,状況の意味づけを違った側面でとらえ

意味づけを行うことをいう。状況のリフレーミングとは,意味づけをそのままにし

ながら対象になる状況を変えることをいう。患者の抱いた出来事に対する解釈(枠

組み=フレーム)を違った解釈に変えることをいう。

▶看護現場では診療の介助や処置に追われ,時間や場所の制約があるためカウンセリ

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ングのスタイルをそのまま患者に適用することには現実的に困難を伴うことが多

い。医師の診療の前に看護師が十分な問診を併せた支援を行うことなども推奨され

る。これらは,その後の患者に対する看護職のケアの有効なひとつのアプローチに

なる。それが,患者 ─ 医師の診療場面の中でも活かされ,肯定的に患者自身が治療

に臨めるようになれば,医療者にとっても患者にとっても有益であると考える。

チーム医療としての連携4▶チーム医療とは,医療環境のモデルのひとつである。従来,医師が中心となって医

療業務を形成していたものを,医療従事者がお互い対等に連携することで患者中心

の医療を実現しようというものである。線維筋痛症のケアに看護体制が重要な役割

を担っていることは理解できるが,具体的に看護職が線維筋痛症の診療の現場にど

のように関わればよいのかについては今後の課題である。線維筋痛症のチーム医療

には図1のようなものがある。

▶線維筋痛症のチーム医療はシステムが既に構築され,様々な医療機関で独自の体系

をとり,多職種連携をとりながら治療を行っている。しかし,本邦においてはいま

だ体系化ができていない現状がある。疾患の複雑で多彩な病態を考えたとき,精神

医学と内科学の両面からの診療アプローチとともに,患者を中心に医療従事者が連

図1▶線維筋痛症のチーム医療とは

▶ 医療の目的はQOLの維持・改善・向上

▶ 包括的な対策

▶ 医療連携

▶ 現実的なネットワーク作り

▶ オーダーメイド治療とレディメイド治療 ─ カスタムメイド医療 ─

▶ サポートチーム

臨 床(医師)

看 護(看護師)

リハビリテーション(臨床心理士他)

運動療法医療連携

医療情報

福 祉

患 者

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

携をとりながら患者を包括的にケアしていくことが必要となる。患者を取り巻く医

療従事者が医師の治療方針と治療内容を十分に理解し,治療目標と方向性を確認し

合いながら患者と接することが,患者の意思の混乱をまねかず,患者に安心と安定

をもたらすことにつながる。特に,線維筋痛症に対するチーム医療の複雑さは関節

リウマチの比ではなく,多階層からなるシステム構築が必須である。本邦では,本

症に対する認識が不十分な中で,どのようなケアシステムの構築が患者のQOL向

上および治療効果の支援につながるのかについては,試行錯誤的な部分が多い。ち

なみに筆者が関連している施設では,リウマチ科,精神科,神経内科を軸としてト

ータルケアのあり方を検討している。

▶線維筋痛症のような疾患は治療に時間を要する難治性の疾患である。医療従事者も

ジレンマ(葛藤)や憤りの状態に陥りやすい。そうしたとき,患者と関わる医療従事

者が互いに情報を交換し,それを共有することで医療従事者の患者ケアへの方向性

を明確にすることである。患者と医療者が互いにより良い関係を考え,治療環境を

調整することも治療効果を高める一手段となると考える。

チーム医療における看護職の役割51)生活指導アドバイザーとしての役割

▶本症は,全身性の慢性疼痛性疾患のため,昼夜問わず症状が起きる可能性があり,

食欲や睡眠,排泄といった生理的反応に影響を及ぼすことがある。そのため,様々

な活動と休息に弊害をもたらす可能性があり,患者の日常生活が不自由なものとな

る。個々によってその活動・休息に影響するレベルには差があるが,症状のレベル

に比例して日常生活への支障は増幅し,逆に症状が緩和されれば,日常生活動作や

休息も改善される傾向にある。人間が生活を営む上で,生理的欲求は必要不可欠で

あるため,症状があっても活動や休息を規則正しく行えるよう,工夫していくこと

が必要である。特に外来通院される患者においては,生活全般を患者自身が実施し,

またコントロールしなければならないため,症状を自己マネジメントしていくこと

になる。しかし,治療初期や進行期など症状変動期においては,患者自身で自己の

症状を客観視することは難しい。症状発生時の特徴やパターン,対処法,日常生活

の留意点などを,看護師が客観的視点から個々の患者に応じて助言・提案していく

ことが重要であり,それにより患者の生活の質の低下を防ぐことにつながる。

▶生活指導の一例を項目ごとに表3に示す。

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2)ケアコーディネーターとしての役割

▶治療の開始と調整は医師によって行われるが,実際の臨床の場面では,薬剤につい

ての問い合わせや質問が最も多く看護師に寄せられることが多い。本邦は,治療が

開始されてすぐに症状が軽減するとは限らないため,治療法や薬剤についての不安

や戸惑いといった感情が湧き上がりやすい傾向にある。また副作用出現時の問い合

わせも多い。こうした疑問や不安に対する対応が必要であることを,看護職も十分

に理解しておく必要がある。

▶まず,疾患・薬剤・経過などの知識を十分に学ぶことが必要である。さらに,診療医

師がどのような目的でどのような薬剤を選択しているのか,診療内容を包括的に理

解することも重要である。これにより,治療の開始時または薬剤の変更時,患者に

対し服薬の必要性,留意点などを医師の補助説明としてアドバイスすることができ

る。また前途したような治療に対する不安が生じたときに,補足説明として患者の

心情や状況を聞きながらアドバイスすることも可能になる。本邦のような慢性疼痛

性疾患の治療には,年単位の期間を要する場合があるため,根気強く,親身になっ

て患者の治療と疾患に対する不安を軽減することが医療者に求められる。この関わ

りを看護師が行えるようになることは,治療離脱の回避や治療意欲の向上につなが

ると考える。

■文献1) Internation Alassociation for the Study of Pain.Pain Definitions.

http://www.iasp-pain.org/AM/Template.cfm?Section=PAIN_Definitions

2) 日本ペインクリニック学会:痛みとは?

http://www.jspc.gr.jp/gakusei/gakusei_grounding_01 .html

3) Twycross R,Wilcock A:トロイクロス先生のがん患者の症状マネジメント .武田文和,監訳,

医学書院,2003 .

4) 林 章敏,中村めぐみ,高橋美香子,編集:エキスパートナース・ガイド がん性疼痛ケア

完全ガイド.照林社,2010 .

表3▶生活指導項目と内容

生活指導内容

睡眠(休息) 起床と就寝時間の調整,活動と休息のバランス,睡眠の質

食事 消化が良く・体を温める食材の摂取,体重と食事内容(時間,量,カロリーなど)

清潔(保清) 口腔乾燥に対するケア

服薬 怠薬,飲み忘れのないような工夫

症状自己管理 主症状発生時の対処,リラクセーション療法

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

5) Richard Bandler,John Grinder:リフレーミング心理的枠組の変換をもたらすもの .吉本武

史,越川弘吉,訳,星和書店,1988 .

6) 高橋美香子,梅田 恵,熊谷靖代,編著:がん患者のペインマネジメント 新版 .日本看護協

会出版会,2007 .

7) 細田満和子:「チーム医療」の理念と現実,日本看護協会出版 .オンデマンド版,2003 .2006 .

8) 厚生労働省研究班:線維筋痛症ガイドライン2009 .日本リウマチ財団,2010 .

9) 小島道代,吉本武史,編著:ナースだからできる5分間カウンセリング .医学書院,1999 .

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患者会の紹介1▶患者は当然のことながら生身の人間であり,心がある。患者会は医療者と患者をつ

なぐ存在であると思い,そのために努力している。医療者と患者のコミュニケーシ

ョンがうまく取れていない局面にはしばしば出会うが,治療を円滑に進めるために

も間に立つ当会の役割は決して小さくはない。医療者には多面的問題を含む患者の

生の声を情報として開示していきたいし,医療者から患者会へのアドバイスもぜひ

頂きたい。

▶線維筋痛症の医療機関での認知度は少しずつ上がってきているが,緊急時はもちろ

ん,通常の診療でさえも受け入れ態勢が依然として十分ではない。線維筋痛症の主

訴である痛み,疲労感,こわばり感の次にくる困難が「病気が見えないこと」ではな

いかと思う。検査結果に出ないこともそうだが,痛みも,だるさも目に見えないば

かりか,血色は良く元気そうにみえることは日常生活上,病人として最低限の理解

を得ることを難しくしている。仕事場や家族に病気を理解されずに悩むことは患者

の大きな心の負担となっている。この葛藤の真っ只中にいると,自分自身をも疑っ

てしまうことになる。さらに「命には別状ない」と言われてはいても「仕事がなくな

る」「子どもの世話ができなくなる」「社会復帰はできなくなる」「寝たきりになる」な

どとまわりが思う以上に深く悩む傾向にある。

▶患者が一日でも早く対応可能な医師のいる医療機関を受診できるようにアドバイス

すること,誰にもわかってもらえない悩みを相談できる場をつくることなどを目的

として線維筋痛症友の会は2002年に発足し,2004年にはNPO法人となった。

▶現在は2,500名の会員を有するわが国では唯一の線維筋痛症患者会だが,ほんの数

人の患者で運営されている。現在の主な活動は患者と社会に対しての啓蒙であり,

年間3~4回の会報の発行,各地域での勉強会・医療講演会・交流会を行っており,

電話相談はデイリーレベルで行っている。次に医療,行政への支援と改善を求める

ケアおよび支援の体制

支援体制の現状と将来展望(友の会を中心に)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

活動の主なものとして,居宅支援事業(ヘルパー派遣)など,障害者支援サービス適

用に対する要望(註),就労支援の要望,経済的な救済の要望を出しており,ドラッ

グ・ラグの解消のためにも運動している。

註: 一般的に線維筋痛症では障害者には認定されない可能性が高いが,一時的にせよ寝たきり

になる患者は多くいて,それがどこの統計にも出てこないことは大きな問題である。

▶これまでにも,厚生労働省に対して,署名活動(2008年時点で延べ68 ,500筆あまり

を提出)をはじめたびたびの働きかけを重ねている。2010年10月には参議院議員会

館での市民集会を催行し,その後も継続的なロビー活動を行い,国会議員にも患者

の困窮状態を訴え,早急な支援と対策を要請している。今後もそれぞれの要望の実

現をめざして活動していきたい。

▶線維筋痛症友の会の役割のいくつかをもう少し具体的に挙げれば,患者の日常的な

相談に対して解決の方向を示唆すること,線維筋痛症に関する疑問や質問を理解し

やすくまた共感しやすいように患者仲間としてアドバイスすること,より良い医療

にアクセスできるためのヒントを提供することなどになろう。

現在の患者会ができる支援の内容(患者・家族,あるいは医療者に対して)2

▶横浜本部の電話での相談は年間2,000件あまりに上り,通算25,000件となっている。

4カ所の地方の支部でも相談窓口が開設され,地域に密着したアドバイスができる

よう,ピアサポートとして支え合いを続けている。これまでの10年間の電話相談で

は,患者が自分で自分を追い詰め,堂々巡りやデプレスパイラルに陥っているケー

スが多いので,この支援は一定の役割をはたしていると考える。しかし患者の抱え

る困難は複雑に絡み合っており,専門職ではない我々のピアサポートには限界を感

じる。今後は心理職や社会福祉士などの専門家による電話相談も必要なのではない

だろうか。

▶会報では随時,医療講演会の記録や医療機関情報を掲載,患者が自分でできること,

たとえば「賢い患者になろう」「日常生活の注意点」「リハビリ体操」などを特集して

いる。電話やメール相談では,受診可能な病院を紹介するほか,様々な疑問,質問

に可能な限りアドバイスを行い,治療を前向きに受ける姿勢を促している。当会で

は独自のアンケート調査を行い,患者の生活の実態把握を進めており,2011年にま

とめたものは「FM白書」として発表した。

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▶各地で開催している医療講演会,交流会の効果は高く,患者や家族の啓蒙と仲間づ

くりに大きく貢献している。「療養の手引き」も患者としての心構えや,QOLを上げ

る方法を紹介しており,家族にさえわかってもらえない患者の問題を広く家族や友

人に知ってもらう簡便で適切なツールとなっている。

ピアサポートの実例と限界3▶患者が患者の悩みを聞くピアサポートにはそれなりの良さがある。患者はこの痛み

は経験したものでないとわからないと思っているから,経験者には心を開いて語

る。また,経験者ならではの共感に満ちた言葉をかけることができる。日常生活で

の小さなアドバイス,健常者では気がつかないヒント,苦しいときの対応の仕方を

体験に基づいて教えることができる。初めて自分の胸の中に溜まった澱のようなも

のを吐き出すことにより,重い荷物を降ろしたような感じを持つ患者は少なくな

い。

▶線維筋痛症は薬の服用によって改善する場合と,ほとんど変化のない場合とに分か

れる。後者はさらに,痛みがあってもなんとか強く生きようとする患者と,気力を

失って泣いてばかりいる患者とに分かれる。いったい両者の違いはどこにあるのだ

ろうか。

▶A子は30代で発症し,以後8年間頻繁に友の会に電話をしてくる。その内容は毎回

驚くほど同じで,テープレコーダーのように10年前からのことを一気に話す。初め

は夫の暴力だった。突き飛ばされた際に足の靱帯を痛めたという。夫とは離婚し,

世話を焼いてくれる母には文句ばかり言っていて,着替えの際に腕を引っ張られて

腕も痛くなったという。強く母を憎んでいるようだった。間もなく母が病死。悼む

言葉はまったくなく,腕を引っ張られたことを恨んでいる。ヘルパーが入ることに

なるが不満ばかりだ。すべてを人のせいにして不満しか口にしない。そして元気だ

ったころはデパートに買い物に行けたのに,と言う。今何かを努力しようとする気

配はまったく感じられない。毎回同じ不満を述べ,人を非難する。

▶A子に接することは大変な困難を感じるが,毎回根気よく話を聞く。訴えの内容に

はほとんど変化がないが,死にたいと漏らすことはなくなった。ファッションに関

心があるようなのでデパートに行ってみることを目標とするように会話の中に織り

交ぜている。専門家の面接が必要だと感じる例である。

▶B子は70代でほぼ毎日電話で腹痛を訴える。主治医は検査をしても腹部には異常が

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

ないと言っている。薬は最小限にとどめているようだ。食事もできている。毎回ひ

としきり腹痛を訴えた後,「いつも自分のことばかりで申し訳ない」という言葉が出

るようになった。筋力が落ちるから毎日10分程度の散歩を勧めると実行しはじめ

た。寝てばかりいた生活から少し起きて趣味などをするようになった。友の会で話

を聞いてもらえる安心感から,人との会話の重要性にも気づいた。以前は正常な会

話もできなかった夫とも冷静に話をするようになり,夫との関係も良くなり,たま

に散歩にも同行してもらっている。

▶C子は60代で数年前から頻繁にメールを送ってくる。最初は悲嘆に暮れてばかりで

もう生きられないと書いていたが,根気よく返信しているうちに少しずつ明るくな

った。先日は地域の医療講演会・交流会に参加し「とても良い話を聞けた。みなさん

が親切に話をしてくれた」と喜んでメールしてきた。周囲の人が理解ある態度で接

することでC子にも自信が出てきたようだ。ほかの患者が病気を乗り越えて患者会

に参加し,ボランティア活動をしているのを見て,自分のことばかりにとらわれて

はいけないと思うようになった。少しでも誰かの役に立ちたいと思う心は本来誰に

でも備わっているので,親切にされたことへの感謝からその心が少し芽生えたと思

う。

▶線維筋痛症の誘因となるかもしれない事象は様々ある。他者が原因の場合,交通事

故や暴力がトリガーになることもある。しかしいつまでもそれにこだわっていても

意味がない。乗り越えることを考えなければならない。他人を責めることで何らか

の心の慰めを見出すとしてもそれは一時的なものでしかない。病気を現実のものと

して受け入れ,自分でなんとかしようという気持ちにならなければ何も始まらな

い。それをわかってもらいたいと思い,会では大きな時間と努力を費やしているが

他人の人生に共感はできても,立ち入ることはできないので大変難しい。

▶医療機関に過度の期待を持って悪循環に陥った例もある。自分でシナリオを書いて

それ以外の説明を排除する患者である。主治医を信頼しなければ治療にはならない

が,医師が絶対に治してくれるという過度の期待もまた,治療が奏効しなかった場

合にはすぐさま不信へと裏返ってしまう。

▶D夫妻は妻の病気を治すために地方の大学病院をすべて回り尽くし,家を引き払っ

て都内に引っ越してきた。関東近県の病院を回り始め,どこにも定着することはな

かった。夫妻の病院に対する怒りは激しく,病院の仕打ちを列挙する彼らを100%

信じることはできないと感じるほどだった。友の会でも何カ所か病院を紹介した

が,どこもダメだったと言って受診を打ち切ってしまう。夫が一方的に話すので,

何らかのアドバイスをすることが大変難しい。自分の意に沿わない言葉は受け入れ

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ようとしないので,専門家の介入が必要だと思われた。

▶また,特に若い患者の中に,家庭内での暴力や親子の葛藤などが病状を深刻にして

いる例がある。その場合は本人だけと関わっていてもなかなか改善には向かわず,

患者向けの窓口という形態では限界を感じることが多々ある。線維筋痛症という目

に見えない症状に対する家族の無理解が患者を追い詰めている。

▶E子は結婚をきっかけに地方から都内に引っ越しをした。親兄弟と離れ,生活が激

変する中で彼女は薬の量を増やし,体調をやりくりしながら必死で主婦として働い

ていた。しかし「一緒に病気と闘うから」と約束してくれたはずの夫の態度は日を追

うごとに厳しくなっていった。体調が悪い日,仕事帰りに夕食を買ってきてくれな

いかと助けを求めると,「自分は仕事で疲れているのに。お前は本当に病気なのか,

家でいつもごろごろして,怠けてばかりのお前の頼みは聞けない」となじられた。

それは徐々にエスカレートし,環境の変化や過労も重なって,連絡を受けたときは

郷里を離れたときとはまるで別人のような声だった。地域の女性センターなどで,

専門の相談を受けることを勧め,決してあなたは悪くないと本人を励ました。最終

的には,彼女は離婚して実家に帰る決断をする。医療だけで解決できない問題も,

症状を強くする要因となることが多々ある。地域福祉の各機関との連携や,専門家

の支援が必要な例である。

▶復職を果たした例としては次のようなものがある。F男は発症して間もなく友の会

にコンタクトしてきた。会社を半年間休職することに決めており,その間日常生活

をどうしたらよいかという相談だった。半年の猶予があるのだから思い切って気持

ちを楽にして,やりたかったことをすればよいと話した。F男はサッカーが好きで

地元の小さなチームをよく見に行っていた。身体が痛くても試合を見に行き,その

うち参加して走ってみた。ボールを追うと爽快で楽しかったという。後で痛みはひ

どくなるが楽しみのほうが大きい。だんだん走れるようになり半年後には痛みが気

にならなくなっていた。薬もやめて会社に復職した。

▶痛みにとらわれすぎると時間は長く感じられ,もう生きていけないと思う。しかし

好きなことに没頭していると時間は短く感じられ,痛みを忘れているという経験は

誰にでもあるものだ。身体を動かすことや,人々と話して笑うことは実際に大変良

い効果がある。交流会に来てくれるよう友の会ではこまめに声をかけている。しか

しひとりで閉じこもり,外に出るのは通院だけという人には外出を勧めてもなかな

か実行されない。何らかの動機づけが必要であると思う。ひとりひとりとの会話の

中でそれを見つけていくのはかなり難しい作業である。

▶身体を動かすことが良い効果をもたらすということは,「痛い痛い」と言っている状

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

況では遠い可能性のように見えるが,何かのきっかけで身体を動かしたときに肉体

的にも精神的にも良い反応を自分で発見するようになることは重要なポイントであ

る。投薬の治療のほかに,リハビリの効果についての理解も広め,線維筋痛症の対

策としてのリハビリ施設も行きやすい距離にできるようになれば大いに治療の役に

立つと思う。しかし日常の生活の見直しも,交流も,リハビリも,ちょっと試して

挫折してしまう人,「私には無理」と言う人は半分以上おり,その人たちに「こうす

れば絶対に治る」と言えないところに難しさを感じる。

線維筋痛症患者の社会参加のために4▶寝たきりにならないためにもリハビリは大変重要であり,リハビリのできる医療機

関が増えることを希望する。また診察の際に簡単な運動を指導するだけでも効果は

あると思う。そのためには指導料として保険点数がつくことが不可欠になるので,

今後国に対しても診療報酬のあり方,指導料の新設を要望したい。

▶病気を受け入れ前向きに取り組む気持ちを持つまでには,専門家の指導と根気よく

話を聞く時間が必要である。精神科,心療内科などでも線維筋痛症に詳しい医療者

を育成することが必要であると思う。診療科を問わず患者を安心させるための資

料,声掛けが大変有効である。

▶病気であっても働かなくては生活できないし,職があれば社会参加としての生きが

いになる。勤務時間が体調に合わせて変更できれば,再就職を希望する患者はかな

りいる。線維筋痛症は特定疾患に指定されていないために難病枠で雇用されること

はないので,現実には採用されるケースは大変少ない。仕事に就きたいと思う気持

ちは誰しも同じであるから,今後企業にも病態を理解した上で雇用を促進する方策

が必要だと思う。

▶子育て中の線維筋痛症患者の多くから,入院するときや通院するときに子どもを預

けられたら,という要望が寄せられる。しかし,線維筋痛症の患者の多くが就労困

難であり,保育所や幼稚園などへ子どもを預けることが経済的にも困難なため,結

果的に患者自身を追い込む形となっている場合が多く見受けられる。

▶地域の子育て支援機関や,社会福祉協議会などに,入院するときや通院するときに

預けられるところを一緒に探してもらえたり,子育ての悩みや,うつ状態に陥った

ときの対処などを相談できるだけでも安心度は大きく高まる。

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▶社会保障制度がより充実すれば,病気を抱えてでも社会参加が可能になる。特に若

い世代に多いこの疾患は,社会の一翼を担って働くこと,次世代を担う子どもを産

み育てることを諦めさせている。こういった人たちも支援が十分にあれば,安心し

て将来のことを考えられるようになり,治療にも前向きに向かうことができる。

線維筋痛症患者の実態調査結果5▶線維筋痛症友の会では患者の生活実態を継続的にアンケート調査している。2010年

末までに寄せられたアンケートの集計の結果,1,800名の友の会会員に配布したう

ち697件の回答があった。回収率は38.7%,男女比は男性82人(12%),女性615人

(88%)であった。年代別では40歳代が27%で最も多く,次いで50歳代が24%,30

歳代が20%であった。若い世代では結婚,出産をためらったり諦めたりする話が多

く聞かれた。次世代を産み育てることができないのは大きな問題である。

▶就労は制限がある16%,働けない67%であり,83%の患者が就労で悩んでいること

がわかった。就労に問題がないと答えたのはわずか1%でしかなかった。本人の収

入で生計を立てているのは21%にすぎず,47%は家族の収入に頼っている。若い世

代の患者が,独立して働いていたのに発病して失業し,親元に帰って親の年金で面

倒を見てもらっているケースがよくある。親が元気なうちはよいが,親が亡くなっ

たらどうなるのだろうという不安が書かれていた。

▶医療費は月額1万円未満が23%,1万~2万円が34%で最も多く,2万~3万円が22

%で,それ以上という回答も18%あった(不明3%)。収入がない上に医療費を負担

することで大変な生活苦を感じて,家族から責められたり,通院回数や検査を減ら

したりしているという話も聞かれた。医療費の負担感は,やや負担だ18%,負担だ

29%,大変負担だ38%であった。鍼灸などの代替医療を利用している場合は保険が

利かず医療費が高額になるという声があった。

▶また医療費とは別に公共の交通機関を利用する体力がないためにやむなくタクシー

を利用する患者も多く,この交通費も大きな負担となっている。

▶経済的に困っている率は,やや困っている32%,困っている27%,大変困難だ23%

で,合わせると82%が経済的な問題を抱えていた。今後の見通しとしては,やや不

安11%,不安23%,大変不安58%で,合わせて92%であった。

▶医療の充実,介護の充実,福祉の充実は急務であるが,実はばらばらでは効果が発

揮できない。それぞれが,スムーズに連携をとってサポートする体制が実現しない

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

だろうか。

線維筋痛症患者と日本の社会福祉制度の現状6▶線維筋痛症患者の身体は多くの場合,腫れたり,曲がったり,拘縮していない。目

に見えない耐え難い痛みとこわばりと疲労感が主訴となるので,現行の制度では障

害認定をきわめてとりにくい状況にある。本来なら,症状が固定していなくても,

症状が悪化しているときには誰かの介護,ヘルパー制度の利用と経済的支援が必要

なのは言をまたない。

▶当会調査(図1)によると,障害者手帳を受けている患者は15%,受けなくて大丈夫

27%,問題なのは受けたい40%,断られた5%,合計45%の人が困っていると感じ

ていることである。

▶線維筋痛症単独ではなく,合併している疾患(リウマチ,精神疾患など)があるの

図1▶障害者手帳の取得状況(697名)◉「FM白書 2011」(線維筋痛症友の会編)より

受けている15%

受けたい40%

抵抗がある 7%

断られた 5%

その他 2% 無回答 4%

受けなくても大丈夫27%

女性 男性 総合計 合計%

障害手帳を

受けている 88 15 103 15%

受けなくても大丈夫 170 21 191 27%

受けたい 249 30 279 40%

抵抗がある 43 7 50 7%

断られた 27 5 32 5%

その他 13 2 15 2%

無回答 25 2 27 4%

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で,そちらの疾患で障害者手帳を取得しているという例も多くある。この場合,実

際の生活上の困難と,手帳によって判定される支援の内容が異なることが多々あ

り,行政や事業所の理解・協力を得られなければ,せっかく手帳を持っていても自

立支援サービスなどが使えないということになる。

▶特に,発症当時は痛みの原因がわからず,患者は多数の医療機関を受診する。その

時期,患者のADL,QOLは急激に低下する。歩くこと,階段を上ることはおろか,

箸を持って食事することも,文字を書くこともできず,トイレに行くために時間を

かけて這っていかなくてはならない。そのような状況の中でも,「痛くても,動くの

だから」と何の支援も受けられなければ,できることもできなくなっていく。その

結果,患者の日常生活の支援は家族の大きな負担となり,家族も追い詰められて家

庭内が不安定になり,治療自体に影響するケースも少なくない。

▶耐え難い痛みやしびれ,疲労感などにより日常生活に困難がつきまとうので,社会

復帰のための適切な制度が切望される。簡単そうに見える洗濯物を干すこと,階段

を昇り降りすること,歩くことさえも軽症の患者でも困難である。ちょっとした支

援で相当程度の生活の向上が期待できる。

▶症状の波が大きく固定していないことも,自立支援サービスなどを受ける上での大

きな障壁となっている。区分認定の審査の日が,体調の悪い日なのか,良い日なの

か。その日の体調が今後のサービス内容を決めてしまいかねない。「とても調子の悪

い時に審査を受けたので,実際にサービスを受ける時,(症状が書類上より軽いの

で)事業所に誤解されて辛い目に遭った」「調子の良い時に審査を受けたので,(症状

が書類上より重い日があり)必要なサービスが受けられない」という声もよく寄せ

られる。

▶以上の問題点をふまえ,当会では,現在の障害者支援サービスの認定方法からさら

に一歩踏み込み,もう少し柔軟性のある方法を採用してほしい,と継続的な要望を

重ねているが,行政の対応は依然として冷たい。また,独自に「痛みによる障害の

証明」となるようなマークを作れないか,現行の制度を柔軟に運用できる道はない

か,情報を集め検討しているが,なかなか突破口が見えない。当事者団体だけでな

く,日本社会全体の疾患への理解と支援が必要だと感じている。

▶ほかのセイフティネットに関しても,様々な問題点がある。たとえば,働くことが

できないにもかかわらず医療費を負担し続けなければならない患者にとって,生活

保護が大切な福祉支援である。しかしその生活保護制度も,病気を治して,再就労

させようという施策には決してなりえていないのが現状である。

▶適切な支援を受けることで,病気の悪化を防ぎ,早期の社会復帰につながる。その

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

後,線維筋痛症が治る病気になるときはきっと来るという希望を持っている。障害

者手帳がなくても介護保険,ヘルパー制度が利用できるような柔軟性のある障害者

支援政策,セイフティネットの整備,社会復帰を後押しする総合的な施策を求める

患者の声を代弁して,これから行政や立法府に働きかける活動を粘り強く続けてい

きたいと考えている。

▶以下,日常の相談業務で実際に聞いている声・問題が複合し複雑化している例を紹

介する。

▶発症当時,痛みとともに急激な筋力低下が起こり,団地の階段(当時の家は5階。エ

レベーターなし)を昇れず,両親が背負って階段を昇降していた。主治医の協力で

身体障害者手帳は早期に取得できたが,居住市の区分認定審査の段階で,「動ける時

間帯もあるようだから,緊急性はないだろう。支援は必要ない」という結果になっ

てしまう。交渉の間にも症状は進行し,頻繁に転ぶのでトイレにも行きづらくなっ

た。地域の社会福祉協議会や支援者の協力を得て県にまで交渉に行き,やっと支援

が受けられた頃には歩けなくなっていた。(20代女性)

▶一人暮らし女性。線維筋痛症だが手帳はない。役所では65歳になるまでヘルパーは

無理と言われて,審査も受けられない。線維筋痛症はヘルパー制度の対象外だから

という理由。困窮度だけでも自宅訪問して見てもらえないのか。しかしケースワー

カーすら来てくれない。あと2年どうやって生活するかが大変不安。(60代女性)

▶線維筋痛症以外の疾患も罹患。若年なので介護保険も使えない,障害者手帳の取得

も症状が固定しないという理由で福祉支援の申請は棄却される。日に日にADL,

QOLが下がるものの,何の支援も受けられず。母の介護にきたホームヘルパーやケ

アマネージャーが母より重症な娘の存在に気付き,どうにかできないかと動くが,

現状の制度では何の支援も受けられず月日がたつばかり。母がデイケアに出かけて

いる間に自宅にて自殺。(30代女性)

▶精神障害者手帳しか持っていないので,見守りしか受けられない。本人は排尿障害

などがあり,おむつをしているが,身体介助は受けられない。車椅子なども自費で

購入していた。費用がかかることもあり,結局友人や家族が交代で見守りや介助を

していた。誰も見に行けない日もあり,その間に,患者は原因不明の突然死をして

いる。線維筋痛症が直接の原因でないとしても,ほぼ寝たきりの状態であったので,

適切な時間数の支援が受けられ,生活状況が適切に把握できていれば最悪の事態は

防げたのではないか。(30代女性)

▶リウマチにより居宅支援サービスを受けているが,線維筋痛症による痛みのため

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に,実際の関節の破壊の状態以上に,患者のADLは低下している。認定されている

時間数では,リハビリも,居宅支援も到底足りず,無理して家事をこなし症状を悪

化させることがよくある。(50代女性)

▶精神障害者手帳があるので,ホームヘルプサービスは受けている。しかし,痛みの

ために歩行が困難だが,車椅子や杖,住宅改修の費用などはすべて自費になるため

に,利用を迷っている。生活保護を受けていて経済的にも大変だが,そちらのケー

スワーカーもなかなかわかってくれない。(40代男性)

▶差別や周囲の目を気にして,手帳を申請できない例は多い。「多少歩けるなら運動し

たほうがいいよ」とアドバイスするが,「団地の人にみられているから外には車椅子

でしか出られない,ベランダに立つのもいけない」と言っていた。特に,身体で手

帳が取れそうにない場合,精神ならとれる時には迷う。身体機能が損なわれている

のに,精神障害と決めつけられることで結婚もできなくなるのではないか,何を言

われるかわからない,と大変悩む。(男性)

▶交通機関の利用が困難で,常に誰かの付き添いが必要だが,障害者手帳を取得でき

ないので,交通費が2人分かかるので,つい外出を控えてしまい,閉じこもりがち

になっている。(40代女性)

▶福島から避難した高齢女性,身の回りのことができないので,友人とルームシェア

して介護してもらいたかったのに,友人にも被災証明が求められ,入居できなかっ

た。高齢女性は線維筋痛症だが手帳はないので,一人で生活するしかない。(女性)

▶満員電車での通勤が大きな負担となるので,仕事を続けていくために,自家用車で

の通勤を申請した。しかし,「公式な“障害”の証明がないと許可できない」と言われ

て困っている。障害者手帳の取得を考えているが,今はなんとか歩けているので,

医師の協力も得られにくい。このまま無理をして今までどおりの通勤方法を続けて

いては,症状が悪化し,仕事を続けていけなくなるのではと心配。(50代女性)

▶介護士の仕事をしているときに線維筋痛症を発症。当初は職場にも理解が得られて

いたが,長引くにつれ疾患への理解が本当の意味で得られていなかったことに加

え,体調の悪化のたびに仕事を休まざるをえない現状に本人が苦痛を感じやむなく

退職。年齢が若いこと,身体障害者手帳取得までには至らないこと,障害年金の区

分にも該当せず,生活費・病院の診察費などにまで影響が出てきているが,何の支

援も受けられない。(30代女性)

▶線維筋痛症以外にも他疾患をいくつも併発している。仕事をしたくても症状が悪

化・安定しないため,生活がままならず生活保護を受ける。その後,体調の様子を

みながら,ハローワークの紹介で基金訓練などを経験し,資格を得る。生活保護か

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

ら脱したいとの希望はあるものの,保護課からは就職が決まれば即時保護費の打ち

切りを宣告されている。就職してからの体調との折り合いも不明なままであるなど

の不安を残したまま,現在も求職活動中。(40代男性)

▶患者は,「目に見えない」症状や困難を抱えながら,生活していかなくてはならな

い。その実態を当会の日々の活動の中で明らかにし,発信していく活動も大切な柱

だと思っている。

▶日頃は,行政などへの要望活動でこのような実態を発表することが多いが,今回,

患者が抱える問題を具体的に紹介した。

  NPO法人線維筋痛症友の会ホームページ:http://www.jfsa.or.jp/

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▶線維筋痛症は,多様な疼痛が主に頸部から肩甲骨周囲や背部に始まり,全身の筋,

関節周囲など付着部痛を伴う疾患である。女性に多く,米国リウマチ学会が1990年

に発表した分類基準では,3カ月以上持続する全身にわたる痛みがあり,18箇所設

定されている圧痛点のうち11箇所以上の圧痛点を確認できるものを線維筋痛症と

診断する。診断にはYunusが1981年に提唱した小基準も参考にすべきである。疲

労感,易疲労性,睡眠障害,慢性疼痛,痙攣性大腸炎,腫脹感(こわばり感を含む),

しびれ感,不安または緊張による症状の影響,天候による症状の影響,肉体活動に

よる症状の影響がみられるなどである。また頭痛,抑うつ,疲労,睡眠障害〔入眠

障害,熟睡障害(中途覚醒),早期覚醒,restless legs syndrome(下肢静止不能症候

群;むずむず脚症候群),睡眠時無呼吸症候群〕,過敏性腸症候群,意識消失発作が

あげられるが,これらの症状は不定愁訴とみなされやすいが随伴する症状として診

断の際に参考にされている。しかし,現在多くの研究者により線維筋痛症の病態が

研究されているが,現在でも病態が明らかになっていない。脳脊髄液中に発痛物質

として知られているサブスタンスPが増加し,下降性疼痛抑制系の中心と考えられ

ているセロトニン前駆体やその代謝物の減少が指摘され,疼痛に関する情報伝達の

異常が線維筋痛症の原因と考えられている。central sensitizationやwind-up phe-

nomenonが原因と考える説もある。記憶と認知との関連を調査した研究によると

線維筋痛症患者では神経認知障害が示唆され,前頭葉と前帯状回の異常が疼痛に関

与している可能性が報告されている。最近の脳機能画像の研究からも線維筋痛症患

者は健常人なら痛みを感じない刺激でも脳の中で痛みを感じていることが解ってき

ており,高次脳機能の異常が原因のひとつではないかと考えられている。しかし,

このような検査などは通常診療を行っている病院や診療所で容易に行えるものでは

なく,診断書発行の際の他覚所見として示すことは不可能である。

▶以上のように線維筋痛症の病態は,現時点では研究途上でありはっきりと病態が示

されていない。しかし,診断書の発行という行政上,司法上の正確な判断を求めら

れる際に,主な症状が自覚的なもので他覚所見が乏しい状況で医師としては不確定

添付資料

線維筋痛症における傷病手当,身体障害者等級,障害年金の診断書の発行についての基本的な考え方

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

な判断を示すことは適切ではないと考えられる。以下のような考え方において書類

を記載すべきと考えられる。

傷病手当

▶線維筋痛症は運動療法などが勧められており,就労自体が運動療法の一環でもある

症例も多く軽症の傷病手当の申請にて休職することについて十分な裏付けとなる病

態の評価が必要であり,安易に診断書を作成することは勧めない。

身体障害者等級,障害年金

▶いずれの認定も本人の自覚的な「痛み」のみでは適応されない。永続的な障害の存在

の証明には専門医による当該関節周囲のレントゲン上明らかな骨萎縮またはMRI

検査や超音波検査による明らかな筋萎縮などの他覚的な証明が必要である。「痛み」

だけの障害については専門領域を異にする複数の専門医での合議による判定が必要

である。

日本線維筋痛症学会 傷病手当,身体障害者等級,障害年金の診断書発行についての委員会

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添付資料

診断基準・治療方針・薬物療法の エビデンスと推奨度一覧ほか

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1990年ACR分類基準

1.広範囲にわたる疼痛の病歴

定義 広範囲とは右・左半身,上・下半身,体軸部(頸椎,前胸部,胸椎,腰椎)

2.指を用いた触診により,18箇所の圧痛点のうち11箇所以上に疼痛を認める

定義両側後頭部・頸椎下方部・僧帽筋上縁部・棘上筋・第2肋骨・肘外側上顆・臀部・大転子部・膝関節部

指を用いた触診は4kg/cm2の圧力で実施(術者の爪が白くなる程度)圧痛点の判定:疼痛に対する訴え(言葉,行動)を認める

判定広範囲な疼痛が3カ月以上持続し,上記の両基準を満たす場合。第二の疾患が存在してもよい

臨床症状と重症度分類

重症度分類 QOL 疼痛部位 圧痛の程度

ステージⅠACR分類基準の18箇所の圧痛点のうち11箇所以上で痛みがあるが,日常生活に重大な影響を及ぼさない 痛みはあるが普通

の生活ができる体幹部

圧痛(4kg/cm2)

ステージⅡ広範囲な筋緊張が続き腱付着部炎を併発する一方,不眠,不安感,うつ状態が続く。通常の日常生活がやや困難

ステージⅢ痛みが持続し,爪や髪への刺激,温度・湿度変化など軽微な刺激で激しい痛みが増強する。自力での生活は困難

痛みのため普通の生活が困難

体幹部から末梢部痛

軽度の圧痛

ステージⅣ

痛みのため自力で体を動かせず,ほとんど寝たきり状態に陥る。自分の体重による痛みで,長時間同じ姿勢で寝たり座ったりできない 寝たきりであるが

眠れない全身痛

触痛・自発痛

ステージⅤ

激しい全身の痛みとともに,膀胱や直腸の障害,口の渇き,目の乾燥,膀胱症状など全身に症状が出る。通常の日常生活は不可能

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

▶ 後頭部(後頭下筋腱付着部)

▶ 下部頸椎(C5-7頸椎間前方)

▶ 僧帽筋(上縁中央部)

▶ 棘上筋(起始部で肩甲骨棘部の上)

▶ 第2肋骨(肋軟骨接合部)

▶ 肘外側上顆(上顆2cm遠位)

▶ 臀 部(4半上外側部)

▶ 大転子(転子突起後部)

▶ 膝(上方内側脂肪堆積部)

線維筋痛症の診断のための圧痛点 (米国リウマチ学会1990)

2010ACR線維筋痛症の予備診断基準(日本人を対象に一部改変)

SS症候 問題なし 軽度 中等度 重度

疲労感 0 1 2 3

起床時不快感 0 1 2 3

認知症状 0 1 2 3

合計:    点

SS一般的な身体症候 0:なし 1:軽度 2:中等度 3:重度

筋肉痛 過敏性腸症候群

疲労感・疲れ

思考・記憶障害 筋力低下 頭痛

腹痛・ 腹部痙攣

しびれ・刺痛 めまい 睡眠障害 うつ 便秘

上部腹痛 嘔気 神経質 胸痛 視力障害 発熱

下痢 ドライマウス かゆみ 喘鳴 レイノー

症状 蕁麻疹

耳鳴り 嘔吐 胸やけ 口腔内潰瘍 味覚障害 痙攣

ドライアイ 息切れ 食欲低下 発疹 光線過敏 難聴

あざが出来やすい 抜け毛 頻尿 排尿痛 膀胱痙攣

合計: 症候   点 + 身体症候   点=   点

*身体症候ポイント配分(各施設に委ねられている)

WPI:19箇所過去1週間の疼痛範囲数

顎 右 左

肩 右 左

上腕 右 左

前腕 右 左

胸部

腹部

大腿 右 左

下腿 右 左

頸部

背部 上 下

臀部 右 左

WPI合計:   点

以下の3項目を満たすものを線維筋痛症と診断する

WPI7以上+SS5以上またはWPI3~6+SS9以上

少なくとも3カ月症候が続く

他の疼痛を示す疾患ではない

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臨床各領域にみられる合併しやすい代表的疾患

リウマチ系 関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,シェーグレン症候群,脊椎関節炎,強皮症,他

消化器系 過敏性腸症候群,胃・十二指腸潰瘍,神経性腹部緊満症,他

呼吸器系 気管支喘息,過換気症候群,神経性咳嗽,他

循環器系 本態性高血圧症,本態性低血圧症(特発性),冠動脈疾患,他

内分泌・代謝系 神経性食欲不振症,甲状腺機能亢進症,他

神経内科系 多発性硬化症,慢性炎症性脱髄性多発神経炎,脳脊髄液減少症,アイザックス症候群,他

精神科系♯ うつ病,身体化障害,心気症,他

小児科系 慢性疲労症候群,シェーグレン症候群,全身性エリテマトーデス,若年性皮膚筋炎,他

皮膚科系 アトピー性皮膚炎,慢性蕁麻疹,接触皮膚炎,日光皮膚炎,皮膚瘙痒症,他

外科系 腹部手術後愁訴(腸管癒着症,ダンピング症候群),他

整形外科系 胸郭出口症候群,脊柱管狭窄症,頸椎後縦靱帯骨化症,他

婦人科系 外陰潰瘍,更年期障害,月経前緊張症,機能性子宮出血,他

泌尿器科系 過活動膀胱,神経因性膀胱,間質性膀胱炎,会陰部痛,勃起不全,他

耳鼻咽喉科系 眩暈症,耳鳴症,咽喉頭異常感症,味覚異常,嗄声,他

眼科系 眼精疲労,羞明症,眼乾燥症(ドライアイ),眼筋痙攣,他

歯科・口腔外科系 顎関節症,口腔乾燥症(ドライマウス),口腔・咽頭過敏症,舌喉神経症,他

♯合併あるいは鑑別を要する代表的疾患

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

リウマチ性疾患との鑑別診断の要点

関節リウマチ(RA)•関節の腫脹(ことに手指の紡錘形の腫脹,肘・膝関節の腫脹) •赤沈,CRP,抗CCP抗体,リウマトイド因子の異常高値

シェーグレン症候群 • 耳鼻咽喉科:ガムテスト,サクソンテスト,唾液腺造影・シンチグラフィー・生検•眼科:シルマーテスト,蛍光色素試験,細隙灯顕微鏡検査 •自己抗体(抗SS-A/SS-B抗体)

脊椎関節炎

•青少年・40代以前からの項部痛・背部痛・腰痛の既往 •安静時・夜間・早朝の腰背部痛またはこわばりの有無の聴取• X線,MRI,CT画像による検査。HLA-B27陽性の場合は下段に示した強直性脊椎炎とすべきである

SAPHO症候群•脊椎関節炎の診断が必要 •掌蹠膿疱症の出現,痤瘡(重症の痤瘡は関節炎をきたす),乾癬•胸肋鎖関節の腫脹

多発性筋炎・皮膚筋炎 •筋力低下,皮疹,顕著な発熱,自己抗体(抗Jo-1抗体),CK値上昇など

リウマチ性多発筋痛症 •四肢の筋痛,発熱,対称性の手背部,手指の浮腫•赤沈,CRP異常高値,MMP-3上昇

全身性エリテマトーデス(SLE)

•皮疹,口腔内潰瘍,脱毛,関節痛,腎炎の出現•白血球減少,リンパ球減少異常•抗核抗体,抗DNA抗体等の自己抗体の顕著な出現

間質性膀胱炎 •抗菌薬投与でも改善しない場合•尿検査で異常でない場合

過敏性腸症候群 •若い女性に多い •検査では検出されない下痢,便秘の症状

強直性脊椎症候群•若い男性に多い •HLA-B27の検出が必須

線維筋痛症の治療

線維筋痛症がリウマチ性疾患発症や筋骨格系の痛みのトリガー

Ⅰ型

整形外科・リウマチ性疾患の治療

リウマチ性疾患が線維筋痛症発症のトリガー

Ⅱ型

整形外科・リウマチ性疾患と線維筋痛症の治療

リウマチ性疾患と線維筋痛症の合併

Ⅲ型

整形外科・リウマチ性疾患と筋骨格系の症状を呈する整形外科的疾患と線維筋痛症の関連分類

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他覚所見が乏しいリウマチ性疾患

seronegative spondyloarthropathy:SNSA(血清反応陰性脊椎関節症)

強直性脊椎炎

ライター症候群

乾癬性関節炎

潰瘍性大腸炎

クローン病

掌蹠膿疱性関節炎(胸肋鎖骨異常骨化症)

undifferentiated spondyloarthropathy (未分化型脊椎関節症)

polyenthesitis(多発性付着部炎)

sterno-cost clavicular hyperostosis(胸肋鎖骨異常骨化症)99mTc骨シンチグラフィーにて胸肋鎖骨に異常集積が認められるが骨化を伴わない場合

diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH (強直性脊椎骨増殖症)

ピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶沈着症

シェーグレン症候群

甲状腺機能低下症

Lyme病

その他

随伴しやすい筋骨格系疾患

Ⅰ.頸部

① 頸椎捻挫② 頸椎症(脊髄症,神経根症)③ 頸椎後縦靱帯骨化症④ 頸肩腕症候群⑤ 頸椎アライメント異常(ストレートネック)⑥ 下垂肩症候群(droopy shoulder syndrome)⑦ 胸郭出口症候群

Ⅱ.腰部

① 腰椎症② 脊柱管狭窄症(特に本症の術後には慢性疼痛が増悪することがあるので注意が必要

Ⅲ.手指

① 全身性変形性関節症② 複合性局所疼痛症候群typeⅡ(反射性交感神経ジストロフィー:KSD)

③ 複合性局所疼痛症候群typeⅡ(カウザルギー)④RS3PE症候群⑤手指等症候群

Ⅳ.脊椎

① 変形性脊椎症② 骨粗鬆症③ 骨軟化症

上下肢のしびれをきたす筋骨格系疾患

Ⅰ.上肢のしびれ

① 頸椎症 ⅰ)頸椎椎間板ヘルニア ⅱ)頸椎症性神経根症 ⅲ)頸椎症性脊髄症② 頸椎後縦靱帯骨化症③ 胸郭出口症候群④ 下垂肩症候群 (droopy shoulder syndrome)⑤ 回内筋症候群 ⑥ 回外筋症候群⑦ 肘部神経管症候群⑧ 手根管症候群⑨ 尺骨神経管症候群

Ⅱ.下肢のしびれ

① 腰椎椎間板ヘルニア② 腰部脊椎管狭窄③ 梨状筋症候群④ 知覚過敏性大腿痛 (meralgia paresthetica)⑤ 足根管症候群

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

関連領域疾患と線維筋痛症鑑別のチェックポイント

身体所見 レントゲン(X-P)所見

皮膚 皮疹,特に乾癬,掌蹠膿胞症(手掌足蹠),皮膚の被刺激性の亢進(針反応)等のチェック

頸椎 頸椎症,ストレートネック(頸椎前彎の消失),下垂肩症候群,後縦靭帯の骨化

目 乾燥症状,ぶどう膜炎,虹彩炎等の眼疾患のチェック

胸椎 前縦靭帯の骨化,圧迫骨折,石灰沈着

口腔粘膜 乾燥症状,再発性アフタ性潰瘍出現の有無

胸部X-P 鎖骨第1肋骨間の骨化

手指 レイノー現象,指・関節の腫脹・変形 腰椎(正面) 仙腸関節の変化

関節,付着部 全身の関節の腫脹,付着部の腫脹(わずかな腫脹を見逃さない),仙腸関節の圧痛の有無

両膝 変形性関節症,ピロリン酸カルシウムの沈着

脊柱可動性のチェック 両手足 関節の変化(関節リウマチや変形性関節症等リウマチ性疾患の鑑別)

便通状態,血便,回盲部圧痛等腹部の圧痛,特異的腸疾患

踵骨側面 骨棘の形成,

その他外陰部潰瘍,リンパ腺の腫脹,ベーチェット病

発症・経過に関与する心身医学的要因の評価項目

社会的ストレス

①心理・社会・生活背景②生育歴・親子関係・人間関係③事故・外傷・手術・出産・疲労などの身体的負荷④不安・緊張・うつなどの精神的負荷⑤遺伝的負荷

行動・ライフスタイル

①就業上の行動②休養・休息の取り方③運動④家事・生活形態

性格傾向①問診・面接などによる心理性格的特性・過剰適応・自己抑制の把握②心理性格テストなどによる性格特性,心理的ストレスの把握

症状悪化要因①天候・環境の変化②過労・睡眠不足・運動③感情・痛み

改善要因①服薬・理学療法などの治療②生活様式・運動習慣の改善③認知や行動の転換,痛み改善への積極的関わり

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鑑別を要する神経内科領域の疾患

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)

一般に運動障害優位の運動・感覚障害を示すが,まれに感覚障害のみを呈することがあり,鑑別に注意が必要

アイザックス症候群 通常は筋肉のピクツキ,こむらがえり,筋硬直など運動症状が主であるが,異常感覚や局所的な痛みを伴う報告もある

多発性硬化症 神経症状の出現部位が神経解剖学的に説明できる部位に限局しているか否かが鑑別に重要

重症筋無力症・易疲労性を主訴とする場合に鑑別が重要である・決定的な違いは,重症筋無力症の場合症状に日内変動がある点

問い合わせ

紹介

専門外来受診

DSM-Ⅳ-TR 診断面接続き

検査結果,診断結果説明

DSM-Ⅳ-TR 診断面接

心理検査: CES-Dうつ病自己評価尺度 状態-特性不安検査(STAI) 矢田部ギルフォード(YG)性格検査 バウムテスト,J-FIQ

血液検査: 一般末血,生化,脂質代謝, 内分泌等脳MRI予約

専門外来医に情報提供必要に応じて 治療 他の精神科に紹介 現精神科主治医への情報提供

予約

日本線維筋痛症学会診療ネットワーク

http://jcfi.jp/network/index.htmlおよび各医療機関

リウマチ科

精神科

初診2回目・3回目受診

(約1時間)

(約1時間)

線維筋痛症の精神医学的評価を含む診療システム

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

非薬物療法(統合医療の観点から)

針治療

手術後の嘔吐,抜歯後の疼痛

科学的根拠は不十分・刺激しているツボが特定できない・針の長さ・太さが不明・治療が再現できない場合がある・ ある程度治療に慣れてくると効果が減少する・ 従来のsham針がshamになっていないことが判明

肩関節痛 ステロイド*局所注射と同等の効果

頭痛・不眠・便通 改善効果あり

線維筋痛症の疼痛薬物療法よりも効果的薬物療法に追加しても効果的

運動療法有酸素運動

・ 最大心拍数の65~70%程度を維持する中程度の有酸素運動 ・ 認知行動療法を併用すると効果があがる

改善度は疼痛の完全消失はないが,統計的に有意差がある

太極拳 西洋医学的な運動療法と異なった緩やかな動きが特徴的

温泉療法慢性疼痛疾患 薬物療法・心理療法を併用

疼痛改善に効果がある 和温療法 60℃の乾式サウナを利用

食事療法 疼痛改善 6週間野菜中心の食事 アミトリプチリン*投与よりも効果的

お灸 冷え,疼痛綿花を利用した間接灸で効果がみられる

冷えの改善湯たんぽ 冷えの改善,疼痛軽減に有効 小児同様「冷え」の問題は成人でも重

大であるアコニンサン* 疼痛緩和効果,冷えの改善に有効

*:線維筋痛症の随伴症状・合併症に対して保険診療として認められているもの

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非薬物療法(精神科領域の観点から)

精神療法医師や臨床心理士などのカウンセラーが,「言葉」を使って患者の心に直接働きかけ,患者の苦痛を取り除いていく治療法

睡眠問題,抑うつ,機能面,Catastrophize(些細なことを大惨事のように言う)に有効

認知行動療法*

(Cognitive behavioral therapy:CBT)

不適応状態に関連する行動的,情緒的,認知的な問題を治療標的とし,学習理論をはじめとする行動科学の諸理論や行動変容の諸技法を用いて,不適応な反応を軽減するとともに,適応的な反応を学習させていく治療法

・抑うつと痛みの自己評価に有効・ 疲労感・睡眠・健康の質での有効性は認められない

経鼻的持続陽圧呼吸療法*

(Nasal continuous positive airway pressure:n-CPAP)

何らかの原因で発生する気道閉塞に対して行う対症療法のひとつで,鼻マスクを利用して空気を送り込み,圧力をかけ,気道を閉じないようにする

・ 閉塞型睡眠時無呼吸症候群の患者さんにきわめて有効な治療法・ 睡眠中に気道が閉じなくなるため,無呼吸や低呼吸による酸素不足が解消され,睡眠の質を向上させることができる

オペラント条件付け行動療法*

(Operant-behavioral therapy:OBT)

適応行動の形成と確立を目指すもの

望ましい行動に対してその行動の生起率を高めるような正の強化子を随伴させるか,行動生起の際に嫌悪刺激が除去される方法をとる

不適応行動の抑制や除去を目指す治療手続き

望ましくない行動に対してそれを抑制するような負の強化子を与えるか,不適応行動を高める後続刺激を遮断することで消去を行う

エデュケーション療法 エクササイズ教育法 リラクセーションよりも改善したが,効果は8カ月後まで持続しないという報告がある

リラクセーションエリックソン法

自主トレーニング群と比較すると有意に疼痛と睡眠を改善した

睡眠療法 鎮痛をイメージした催眠療法が有効

電気痙攣療法*

(Electroconvulsive therapy:ECT)

頭部に通電することで人為的にてんかんと同様の電気活動を誘発する治療法

・ うつ病を合併している線維筋痛症には無効との報告があり,今後の研究が必要 ・ 精神科専門療法のため精神科医による精査と慎重な判断が必要

反復磁気刺激療法(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)

・ rTMS研究の8割で有意に痛みを軽減するとの報告がある・保険適応外・限られた施設のみで実施可能

経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)

・ rDCS研究の100%で有意に痛みを軽減するとの報告がある・保険適応外 ・限られた施設のみで実施可能

*:線維筋痛症の随伴症状・合併症に対して保険診療として認められているもの

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

若年性線維筋痛症診断の手引①

参考項目:検査所見

白血球数 正常域

赤沈値 正常域

CRP 正常域

甲状腺機能(free T3/Free T4/TSH)

正常域

抗核抗体(抗体価,染色型)

陰性

抗SS-A抗体 陰性

抗dsDNA抗体 陰性

コレステロールエステル化不全を認める例がある

遊離脂肪酸 増加

ケトン体低下(ミトコンドリア機能不全が認められる例がある)

参考項目:臨床試験

1低体温(平熱として36℃未満)または微熱の持続

2 慢性疲労,全身倦怠感

3 睡眠障害(入眠困難または中途覚醒)

4 慢性頭痛・腰痛

5 過敏性腸症候群

6 登校障害

7 自律神経障害(発汗異常,低血圧,車酔い)

8 Allodynia

9 天候・環境因子などによる諸症状の変動

10 慢性的な不安や緊張

若年性線維筋痛症診断基準

大基準

13カ月以上持続する3箇所以上の広汎な体の疼痛

2 原因となる基礎疾患の否定

3 検査所見正常

4 5箇所以上の圧痛点陽性

小基準

1 慢性的な不安や緊張

2 疲労感

3 睡眠障害

4 慢性頭痛

5 過敏性腸症候群

6 軟部組織腫脹

7 感覚異常

8 運動による疼痛の変化

9 気候による疼痛の変化

10 不安やストレスによる疼痛の変化

大基準4項目全て かつ小基準のうち3項目以上または,大基準1~3の3項目と 4箇所以上の圧痛点陽性 かつ小基準のうち3項目以上を満たすもの

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若年性線維筋痛症診断の手引②

参考項目:性格傾向

完全主義

まじめ

責任感が強い

固執傾向

凝り性

根に持つ

几帳面

参考項目:鑑別すべき疾患

慢性疲労症候群

シェーグレン症候群

全身性エリテマトーデス

若年性皮膚筋炎

血管炎症候群

若年性特発性関節炎

若年性線維筋痛症 医療面接項目

どんな症状がいつから始まったのか?

疼痛の部位と性質:allodynia,関節痛,筋痛,頭痛の有無など

症状が始まる前に本人に強い影響を与える出来事はなかったか?  ・本人の問題:病気に罹患,けが・外傷など  ・家族・家庭の問題:家族構成,引越し,離婚,父母間の問題,祖父母の死,兄弟間の確執など ・学校の問題:担任,級友,部活などの人間関係など ・その他

発症時期に前後して,疼痛に関連するきっかけや背景はないか?

睡眠障害:入眠に時間がかかる,夜中しばしば覚醒する

低体温:平熱が36℃以下 が認められるか?

手掌足蹠の発汗過多,過敏性胃腸炎様症状,倦怠感・疲労感,抑うつ症状

食事の摂取状況,体重減少

車酔い,朝の目覚めが悪い,手足の冷感,生理不順

これまでの受診歴の器質的疾患の検索(炎症所見)が行われているか,その結果は?

治療薬・治療歴とその効果は?

日常生活への影響,登校ができているか

性格傾向: 完璧主義,まじめ,責任感が強い,固執傾向,凝り症,根に持つ,几帳面,空想家, 神経質,他人への気配り過多,明朗,年齢より大人びているなど

本人と母親との関係の観察・推察

本人は何を求めているか?

若年性線維筋痛症の生活環境からの一時的遮断を狙った入院措置について

家族分離・環境分離を図る

入院は2~3週間とし,この間,家族の面会は断り,携帯電話は禁止

病棟スタッフおよび看護チームと協議を行い,疼痛に関する話題を避けることを申し合わせる

段階的にリハビリテーションを開始する

院内学級で教師および他の患児との交流を図る

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

公的保障制度

医療制度

高額医療費自己負担の軽減

後期高齢者医療制度

高額医療・高額介護合算制度

高額療養(医療)費貸付制度

介護保険制度

居宅サービス

施設サービス

地域密着型サービス

障害者制度(サービス)

介護サービス(介護給付)

訓練等サービス(訓練等給付)

地域生活支援事業

経済面に関わるサービス

障害者制度♯障害年金

生活保護制度

どの制度においても関係行政機関に申請する必要がある♯障害者制度については現在検討を加えている

線維筋痛症の主な臨床病態から見た保険診療を前提とした薬物治療のめやす

プレガバリン(ガバペンチン)*

クロナゼパム*

ピロカルピン塩酸塩*

筋緊張亢進型

重複型プレガバリンサラゾスルファピリジン*

NSAIDs*

ステロイドホルモン*

筋付着部炎型デュロキセチン*

ミルナシプラン*

(抗不安剤)*

うつ型

*:線維筋痛症の随伴症状・合併症に対して保険診療として認められているもの

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線維筋痛症患者の臨床評価のための問診票

ルーチン検査

抑うつ うつ病自己評価尺度CES-D ( The Center for Epidemiologic

Studies Depression Scale)

不安 状態 - 特性不安検査 STAI (State-Trait Anxiety Inventory)

性格傾向 矢田部ギルフォード(YG)性格検査

性格傾向 バウムテスト

線維筋痛症スケール

日本語版線維筋痛症質問票(J-FIQ)J-FIQ( Japanese version of Fibromyalgia

Impact Questionnaire)

線維筋痛症評価

疾患活動性評価(FAS-31) FAS-31(Fibromyalgia Activity Score)

特殊検査

知能 ウェクスラー知能検査WAIS-Ⅲ ( Wechsler Adult Intelligence

Scale-Third Edition)

記憶 ウェクスラー記憶検査WMS-R ( Wechsler Memory Scale-

Revised)

認知症 改訂長谷川式知能評価スケールHDS-R ( Hasegawa's Dementia Scale-

Revised)

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

FAS31を用いた診断及び疾患活動性の評価のための問診票

FAS31:線維筋痛症の痛みとそれに伴う症状に関する質問です1-1.最近1週間の間に痛みがあったところに をつけてください。

1-2a.線維筋痛症に伴う主な3つの症候について現在の状況について をつけてください。症候 問題なし:0 軽度:1 中等度:2 重度:3

疲れがなかなかとれない

起床時に不快な感じがする・違和感がある

時間・場所などを忘れやすい

1-2b.最近1週間の間に現れた症状(一般的な身体症候)に をつけてください。

筋肉痛 おなかが膨れるような感じ・膨満感 疲れやすい 思考の低下

筋力が低下 頭痛 おなかの上部がブルブルふるえる しびれる

めまい 眠れない・睡眠障害 気分が憂うつ 便秘

おなかの上部が痛い 嘔気がする 神経痛 胸が痛い

見えにくい・視力障害 発熱 下痢 口の中が渇く・唾液

が出にくい

かゆみ 喘息のようにぜいぜいする

手足の指等が冷たい じんましん

耳鳴り 嘔吐した 胃のあたりがムカムカする・胸やけ 口内炎

飲食の時に味がいつもと違う けいれん 目が乾燥する・涙が

出にくい 息切れ

食欲が低下 発疹 光に過敏である 聞こえづらい・難聴

あざが出来やすい 抜け毛 トイレに頻繁に行く・頻尿 排尿時に痛みがある

おなかの下部が痛い 症状の数が1~5⇨1点,6~20⇨2点,21~41⇨3点

診察券番号 お名前 年齢 来院日

歳 20   年   月   日

点数(記入不要)

WPI SS FAS31

SS-b

SS-a

WPI

顎:右

肩:右

上腕:右

前腕:右

大腿:右

下腿:右

頸部

背部:上

背部:下

臀部:右

臀部:左

顎:左

肩:左

上腕:左

前腕:左

大腿:左

下腿:左

胸部

腹部

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エビデンスレベル

ランクⅠ Systematic review,メタ解析によるデータ

ランクⅡa 1つ以上のランダム化試験によるデータ

ランクⅡb 非ランダム化試験によるデータ

ランクⅢ 分析疾病学的研究によるデータ 例:Case-control studyなど

ランクⅣ 記述疾病学的研究によるデータ 例:何例中何例が有効であったなど

ランクⅤ 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見

推奨度

A 行うよう強く勧められる

B 行うよう勧められる

C 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない

D 行わないよう勧められる

病態別にみた治療方針の提唱

主な病態 治療

第Ⅰ群:筋附着部炎型

1.ACR分類基準を満たす 2.腱の附着部に著しい圧痛を認める 3.高感度CRPが陽性 4.脊椎関節炎の症状を認める (HLB-27キャリアは除外)

1.プレガバリンまたはガバペンチン*

2. NSAIDs* プレドニゾロン*を中心とするステロイド剤*

3.サラゾスルファピリジン*

第Ⅱ群: 筋緊張亢進型

1.ACR分類基準を満たす2.筋肥大を伴う筋緊張,把握痛が著明3.ドライマウス,ドライアイが高頻度に出現4.頻尿,過敏性大腸炎,口内炎を認める5.脊椎,特に頸椎のストレートネックが顕著

1. プレガバリンまたはガバペンチン*,ガバペンチンエナカルビル*の漸増

2.ピロカルピン塩酸塩* 5mg/日上記薬剤をアンカーdrugとする

第Ⅲ群:うつ状態身体性症状型

1.ACR分類基準を満たす 2.睡眠障害,過労,感覚異常などの身体症状3.うつ状態の意欲・行動障害4.自律神経系障害

1.ミルナシプラン*・デュロキセチン*

2.抗不安剤*

3. プレガバリン・ガバペンチン*,ガバペンチンエナカルビル*

4.睡眠導入剤

第Ⅳ群:重複型

・第Ⅰ群,第Ⅱ群,第Ⅲ群の重複型・ 基本的にプレガバリンやクロナゼパム*をアンカーdrugとする ・ 各群のエビデンスレベルの高い薬剤を組み合わせる

第Ⅰ群と第Ⅱ群:プレガバリンまたはガバペンチン*,ガバペンチンエナカルビル*,ピロカルピン塩酸塩*,NSAIDs*,サラゾスルファピリジン*

第Ⅰ群と第Ⅲ群: 第Ⅰ群に準じる第Ⅱ群と第Ⅲ群: プレガバリンまたはガバペンチン*,ガバペンチンエナカルビル*,ミルナシプラン*,サラゾスルファピリジン*,睡眠導入剤*

第Ⅰ群,第Ⅱ群,第Ⅲ群:プレガバリンまたはガバペンチン*,ガバペンチンエナカルビル*,ミルナシプラン*,ピロカルピン塩酸塩*などの併用療法

*:線維筋痛症の随伴症状・合併症に対して保険診療として認められているもの

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

本邦におけるエビデンスと推奨度一覧 ―疼痛に対する薬物療法 1―

薬剤分類 汎用順位 薬剤名(商品名) エビデ

ンス 推奨度 保険適応 備考

神経性疼痛緩和薬

1プレガバリン(リリカ®)

Ⅰ A線維筋痛症に伴う疼痛

新世代抗てんかん薬

1ガバペンチン(ガバペン®)

Ⅱa B 難治性てんかん

ガバペンチンエナカルビル(レグナイト®)

Ⅱa B下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群

ガバペンチンのプロドラッグである。その吸収効果がよい。線維筋痛症に高頻度に合併する下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群薬として保険収載されている

抗てんかん薬

2カルバマゼピン(テグレトール®)

Ⅳ C てんかん

3

クロナゼパム(リボトリール®,ランドセン®):ベンゾジアゼピン系抗不安剤

Ⅳ C てんかん

本邦におけるエビデンスと推奨度一覧 ―疼痛に対する薬物療法 2―

薬剤分類 汎用順位 薬剤名(商品名) エビデ

ンス 推奨度 保険適応 備考

抗うつ薬

1 アミトリプチリン(トリプタノール®) Ⅰ B うつ病 欧米では推奨度A,眠気が強い

1 デュロキセチン(サインバルタ®) Ⅰ B うつ病 欧米では推奨度A,本邦治験中

2 クロミプラミン(アナフラニール®) Ⅱa B うつ病

2 ドスレピン(プロチアデン®) Ⅱa B うつ病

2 パロキセチン(パキシル®) Ⅱa B うつ病 18歳以下では自殺率の上昇

2 ミルナシプラン(トレドミン®) Ⅱa B うつ病 男性の排尿障害が問題,欧米では推奨度A

2 マプロチリン(ルジオミール®) Ⅱa C うつ病

3 セルトラリン(ジェイゾロフト®) Ⅱb B うつ病

3フルボキサミン(ルボックス®・デプロメール®)

Ⅱb B うつ病

3ミルタザピン(レメロン®・リフレックス®)

Ⅱb B うつ病 本邦治験中

4 イミプラミン(トフラニール®) Ⅳ C うつ病

4 トラゾドン(デジレル®・レスリン®) Ⅳ C うつ病 睡眠障害に有効

5 シタロプラム C うつ病

5 ノルトリプチリン(ノリトレン®) C うつ病

5 フルオキセチン C うつ病

5 ベンラファキシン C うつ病

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本邦におけるエビデンスと推奨度一覧 ―疼痛に対する薬物療法 3―

薬剤分類 汎用順位 薬剤名(商品名) エビデ

ンス 推奨度 保険適応 備考

鎮痛薬

1 アセトアミノフェン Ⅳ C 疼痛

2アセトアミノフェン+トラマドール合剤(トラムセット)

Ⅱa B 慢性疼痛

3 ノイロトロピン Ⅳ B 慢性疼痛小児科領域にて疼痛に対して有効

ノイロトロピン静注薬 B 慢性疼痛慢性疼痛の短期的な疼痛に対して有効

非麻薬鎮痛薬

1 トラマドール(トラマール®) Ⅱa B がん性疼痛

2ブプレノルフィン(レペタン®)ペンタゾシン(ペンタジン®,ソセゴン®)

Ⅴ C 疼痛

麻薬 2

フェンタニル経皮吸収型製剤(デュロテップ®)

C 疼痛

2 モルヒネ C 疼痛

全身麻酔薬 1 ケタミン Ⅱa C 麻酔の導入

非ステロイド 抗炎症薬

1エトドラク(オステラック®,ハイペン®)

Ⅳ C 疼痛

関節炎,付着部炎を伴う場合は適応となるが,線維筋痛症そのものには無効小児科領域にて疼痛に対して有効

2セレコキシブ(セレコックス®)

Ⅳ C 疼痛

関節炎,付着部炎を伴う場合は適応となるが,線維筋痛症そのものには無効小児科領域にて疼痛に対して有効

3ロキソプロフェン(ロキソニン®)

Ⅳ C 疼痛

関節炎,付着部炎を伴う場合は適応となるが,線維筋痛症そのものには無効小児科領域にて疼痛に対して有効

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

本邦におけるエビデンスと推奨度一覧 ―疼痛に対する薬物療法 4―

薬剤分類 汎用順位 薬剤名(商品名) エビデ

ンス 推奨度 保険適応 備考

向精神薬

1クロルプロマジン(ウインタミン®・コントミン®)

Ⅱb C統合失調症,不安,抑うつ,緊張

2 オランザピン(ジプレキサ®) Ⅳ C統合失調症,そう症状

2 クエチアピン(セロクエル®) Ⅳ C 統合失調症

2レボメプロマジン(レボトミン®・ヒルナミン®)

Ⅳ C統合失調症,不安,緊張

2スルピリド(ドグマチール®,アビリット®)

Ⅴ C統合失調症,うつ病,胃十二指腸潰瘍

抗不安薬 1アルプラゾラム(ソラナックス®,コンスタン®)

Ⅱa C不安,緊張,抑うつ,睡眠障害

早く中止, 高齢者では認知障害の問題がある

催眠薬1 ゾピクロン(アモバン®) Ⅱa B 睡眠障害

1 ゾルピデム(マイスリー®) Ⅱa B 睡眠障害

自律神経作用薬(抗コリンエステラーゼ薬)

1ピリドスチグミン(メスチノン®)

Ⅱa B 重症筋無力症

ホルモン製剤1

ステロイド(プレドニゾロン®,プレドニン®)

Ⅱa C 関節炎

関節炎,付着部炎を伴う場合は適応となるが,線維筋痛症そのものには無効

2 成長ホルモン Ⅱa C 成長障害睡眠障害に有効なことがある

パーキンソン病薬

1プラミペキソール(ビ・シフロール®)

Ⅱa C

パーキンソン病,下肢静止不能症候群;むずむず脚症候群

2 ロピニロール(レキップ®) Ⅳ Cパーキンソン病

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本邦におけるエビデンスと推奨度一覧 ―疼痛に対する薬物療法5―

薬剤分類 汎用順位 薬剤名(商品名) エビデ

ンス 推奨度 保険適応 備考

生薬・漢方製剤 1 アコニンサン® Ⅳ C 疼痛

2 漢方製剤 Ⅴ C 各種徴候 東洋医学的診断に基づいて処方

その他

1トロピセトロン(ナボバン®)・オンダンセトロン(ゾフラン®)

Ⅱa B 嘔吐

1デキストロメトルファン(メジコン®)

Ⅱa B 咳嗽

1 ラロキシフェン(エビスタ®) Ⅱa B閉経後骨粗鬆症

2ラフチジン(ストガー®,プロテカジン®)

Ⅳ C胃炎,消化性潰瘍,逆流性食道炎

2ピンドロール(カルビスケン®,イスハート®)

Ⅳ C 高血圧,心不全

2 チザニジン(テルネリン®) Ⅳ C筋緊張,痙性麻痺

3 マイヤーズカクテル C

3イコサペント酸エチル(エパデール®)

Ⅳ C閉塞性動脈硬化症,脂質異常症

3 イブジラスト(ケタス®) Ⅳ C脳梗塞後遺症,気管支喘息

3メコバラミン(メチコバール®)と葉酸(フォリアミン®)の併用ビタミン剤

Ⅳ C末梢性神経障害,葉酸欠乏症など

健康食品 1 還元型コエンザイムQ10 Ⅴ C

疲労に有効なことがある小児科領域で有効

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207

今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

本邦におけるエビデンスと推奨度一覧 ―随伴症状に対する薬物療法―

薬剤分類 汎用順位 薬剤名(商品名) エビデ

ンス 推奨度 保険適応 備考

抗リウマチ薬(免疫調節薬)

1サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®EN)

Ⅴ B 関節リウマチ 付着部炎の伴う場合に適応

口腔内乾燥症状改善薬

1ピロカルピン塩酸塩(サラジェン®)セビメリン(サリグレン®,エボザック®)

Ⅲ B 口腔乾燥乾燥症状がある症例では有効の報告あり

過敏性腸症候群治療薬

1 ラモセトロン(イリボー®) B 過敏性腸症候群過敏性腸症候群を伴う場合

頻尿治療薬 1トルテロジン(デトルシトール®)ソリフェナジン(ベシケア®)ミラベグロン(ベタニス®)

Ⅱa B 過活動膀胱

トルテロジン,ソリフェナジンは抗コリン作用のため口渇が目立つ

本邦におけるエビデンスと推奨度一覧 ―非薬物療法―

治療方法 汎用順位

エビデンス 推奨度 保険適応 備考

エデュケーション 1 A

認知行動療法:CBT 2 Ⅰ B 保険適応 欧米では推奨度A

鍼灸 2 Ⅰ B 保険適応 死亡例の報告がある

運動療法 2 Ⅰ B 欧米では推奨度A

睡眠障害に対する認知行動療法:CBT-I 3 Ⅱa B CBTとして

オペラント条件付け行動療法:OBT 3 Ⅱa B CBTとして

温熱療法 3 Ⅲ B

禁煙 3 Ⅲ B 保険適応

経鼻的持続陽圧呼吸療法:CPAP 4 Ⅳ C 保険適応 睡眠時無呼吸症候群

電気痙攣療法:ECT 4 Ⅳ C 保険適応 重症例で考慮する

食事療法 4 Ⅳ C

減量 4 Ⅳ C

交感神経ブロック・星状神経節ブロック 5 C 保険適応 死亡例の報告がある

リラクセーション 5 Ⅱb B

カイロプラクティック Ⅳ B

マッサージ Ⅳ B

生活環境分離(母子分離) B 小児科領域で有効

医療面接 B 小児科領域で有効

反復磁気刺激療法:rTMS Ⅰ B

経頭蓋直流電気刺激 Ⅰ B

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第2号 平成20年3月26日

第169回国会 厚生労働委員会 第2号

平成20年3月26日(水曜日) 午前10時1分開議

出席委員

 委員長 茂木 敏充君

 理事  大村 秀章君   理事  後藤 茂之君   理事  田村 憲久君

 理事  宮澤 洋一君   理事  吉野 正芳君   理事  山田 正彦君

 理事  山井 和則君   理事  福島  豊君

赤澤 亮正君 新井 悦二君 井澤 京子君

井上 信治君 伊藤 忠彦君 石崎  岳君

上野賢一郎君 川条 志嘉君 木原 誠二君   

木村 義雄君 櫻田 義孝君 清水鴻一郎君

杉村 太蔵君 高鳥 修一君 谷畑  孝君   

徳田  毅君 冨岡  勉君 長崎幸太郎君

西本 勝子君 萩原 誠司君 林   潤君   

平口  洋君 福岡 資麿君 松浪 健太君

松本  純君 松本 洋平君 三ッ林隆志君   

山本ともひろ君 内山  晃君 岡本 充功君

菊田真紀子君 郡  和子君 園田 康博君   

長妻  昭君 細川 律夫君 三井 辨雄君

柚木 道義君 伊藤  渉君 古屋 範子君   

高橋千鶴子君 阿部 知子君 糸川 正晃君

 厚生労働大臣 舛添 要一君

 厚生労働副大臣 西川 京子君

 厚生労働副大臣 岸  宏一君

添付資料

線維筋痛症に関する衆議院厚生労働委員会議事録

83

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

 内閣府大臣政務官 西村 明宏君

 厚生労働大臣政務官 伊藤  渉君

 厚生労働大臣政務官 松浪 健太君

 政府参考人

 (内閣府大臣官房審議官) 堀田  繁君

 政府参考人

 (内閣府食品安全委員会事務局長) 齊藤  登君

 政府参考人

 (警察庁刑事局長) 米田  壯君

 政府参考人

 (総務省大臣官房審議官) 榮畑  潤君

 政府参考人

 (総務省行政評価局長) 関  有一君

 政府参考人

 (文部科学省大臣官房審議官) 土屋 定之君

 政府参考人

 (厚生労働省医政局長) 外口  崇君

 政府参考人

 (厚生労働省健康局長) 西山 正徳君

 政府参考人

 (厚生労働省医薬食品局長) 高橋 直人君

 政府参考人       

 (厚生労働省職業能力開発局長) 新島 良夫君

 政府参考人       

 (厚生労働省保険局長) 水田 邦雄君

 政府参考人       

 (厚生労働省年金局長) 渡辺 芳樹君

 政府参考人

 (社会保険庁総務部長) 吉岡荘太郎君

 政府参考人

 (社会保険庁運営部長) 石井 博史君

 政府参考人

 (社会保険庁首席統括管理官) 貝谷  伸君

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   政府参考人

   (農林水産省消費・安全局長) 佐藤 正典君

   参考人

   (食品安全委員会委員長) 見上  彪君

   厚生労働委員会専門員 榊原 志俊君

○吉野委員長代理 次に,福島豊君。

○福島委員 大臣,副大臣の皆様,大変御苦労さまでございます。

 私は,まず初めに,個別の問題でありますけれども,線維筋痛症の問題についてお尋ね

をいたしたいと思います。

 昨年の12月に,線維筋痛症の患者の会でありますところの線維筋痛症友の会から要望書

が内閣総理大臣,財務大臣そしてまた厚生労働大臣に提出をされております。その要望書

にはこのように記載されております。

 「線維筋痛症」は原因不明の難治性の全身的慢性疼痛です。ICD10にも記載された人口比

の極めて高い,最も一般的な慢性疼痛疾患にも関わらず国内での認知度は極めて低く,い

まだ特定疾患はおろか医療保険の適応にすらなっておりません。日本では2年前,厚生労

働省研究班の疫学調査により人口の1.66~2%,すなわち200万人,なかでもステージ4,

5にあたる重症患者は5万人いることが明らかとなりました。

 こうして書かれております。

 先日,友の会の代表の方にも私はお会いさせていただきましたが,マスコミ関係の方が

出産後に線維筋痛症でみずからの子供すら抱くことができない,こういったことで自殺を

された痛ましい事件もありました。いろいろとお話を聞いておりますと,シャワーを浴び

ることも痛くてできない,寝ていても自分の重さがまた痛みになる。そういう意味では大

変困難な生活を強いられる疾患であると。私も医者でありますけれども,よく知りません

で,そんなに大変なんですかと,こういうお話をお聞きしました。

 アメリカでも,90年代以降にこの線維筋痛症の問題というのがクローズアップされて,

さまざまな取り組みがなされてきたというふうに伺っております。

 国会におきましては,今から5年前,平成15年,五島正規先生,同じく医師でございま

すけれども,この線維筋痛症の問題を取り上げられました。調査班をつくって,適切な治

療,対策,予防というものを打ち立てるべきだ,このような主張でありまして,当時の坂

口厚生労働大臣からは,検討会をつくって検討したい,こういう答弁がありました。

 そういったことが契機になりまして研究班が設置をされたのだと思いますけれども,こ

の間の経過について御説明いただきたいと思います。

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211

今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

○西山政府参考人 お答え申し上げます。

 大臣の御答弁から2カ月後でありますけれども,平成15年9月から,厚生労働科学研究

費補助金によりまして研究班を設置しております。これまで研究班への助成は毎年継続し

ておりまして,疾病概念の整理,それから患者数の把握など実態の解明,また,これまで

試みられている治療法の評価等を行い,適切な治療の確立に努めている,このような状況

でございます。

○福島委員 この患者の団体からの要望事項にはさまざまなものがあるのでありますけれ

ども,一つは,線維筋痛症という名前では保険請求が難しい。いわゆる保険病名という言

葉がありますけれども,線維筋痛症というものをそのままレセプトに病名としてつけると

いうことではなくて,例えばがんの疑いであるとか,こういう疑い病名ばかりで処理され

ている,こういう現場の対応があるようであります。

 これにはいろいろな理由があると思いますけれども,線維筋痛症という疾患と,そして

また医療保険上の位置づけ,これについて簡単に説明いただければと思います。

○水田政府参考人 線維筋痛症につきましては,先ほどお話ありましたとおり,現状では

発症原因が不明であるということから,有効な治療法が確立していない,さらに,薬事法

で承認されている治療薬もないという現状にあると認識をしてございます。

 保険適用との関係でございますけれども,ただ,この線維筋痛症によって生ずる痛みの

症状について処方される鎮痛剤につきましては診療報酬は支払われるわけでありますし,

他の疾患にかかっていないことを診断するためのMRI検査などにつきましては,実施さ

れた場合には診療報酬が支払われる,保険が適用されるということに整理されているわけ

であります。

○福島委員 薬事法上の適用については,これはこれから治療法の開発と同時に積極的な

対応が必要だと思いますが,今の政府参考人の御説明ですと,線維筋痛症という病名を使

ってさまざまな請求をするということについて障害があるというわけではない,こういう

御説明だろうというふうに思います。

 ただ,実際のところ,臨床の現場のお話をお聞きしておりますと,なかなか線維筋痛症

は知られていないということで,そういう病名を使うことによってレセプト請求自身がは

ねられる心配があるんじゃないか,こういう懸念も多分あるんだろうと思いますし,そう

いう意味では,線維筋痛症についてやはり広く知っていただく,こういうことが必要だろ

うというふうに思います。

 そしてまた,実際に線維筋痛症の患者さんを診る医師が少ないということもあるようで

あります。私の大阪におきましても実際に診ていただけるドクターは2人ほどしかいない,

こういう話で,そこに患者が集中する。そしてまた,なかなか疾患の診断が難しいという

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こともありまして,いろいろなところを回るんだけれどもなかなか診断がつかない,こう

いうたらい回しのような状況を余儀なくされている,こういう実態もあるようでありま

す。

 200万人と推定される患者の数があるわけでありますから,より疾患を診ることができ

る医師というものをやはり育てていく必要があるというふうに思いますけれども,このあ

たりの実際の治療にかかわる体制はどうなっておるのか,現状をお聞きしたいと思いま

す。

○西山政府参考人 おっしゃるとおりでございまして,医師は非常に不足している状況に

あると私ども思っております。

 その理由として,先生も御指摘ありましたけれども,その概念が,国際的にも比較的新

しい,また,診断が一般的な血液検査,画像検査では明確になりにくいという難しさがあ

るというふうに承知しております。

 このため,私ども,研究費補助金で行う研究班の活動の一環としまして,線維筋痛症の

診察を行う医療機関の情報を収集しまして,地域ごとに医療機関名,大阪でありますと九

カ所しかないわけでありますけれども,いずれにしても,そういったことで医師名をホー

ムページに公開することによりまして,患者さん方が円滑に診察を受けられるように努め

ているところであります。

○福島委員 そういった情報提供におきましても,患者団体との共同作業といいますか,

こういうものにぜひ積極的に取り組んでいただければというふうに思います。

 そして,先ほど厚生労働省としての取り組みの経過について御説明いただきましたけれ

ども,まだまだこの線維筋痛症につきましては,どのように診断するのか,診断のための

ステップ,ガイドラインといいますか,どういうふうにフローチャートをつくっていくの

か,こういう問題もあるだろうと思います。そしてまた,治療についても,恐らくこれは

中枢性の薬剤によって何らかの改善を図るしかないんだろうというふうに思いますけれど

も,そういったことについても研究を進める必要がある。

 そうしたことから,研究班につきましても,これだけ多くの患者がおられるわけであり

ますから,引き続いて精力的な研究を進めていただきたい,このように思いますけれども,

政府としての御見解をお聞きしたいと思います。

○西山政府参考人 先ほどお答え申し上げました15年から研究班を設置しておりまして,

19年度末でいったん予定した研究期間を終えることになっております。

 今後でありますけれども,平成20年度に向けまして,研究計画の公募及び専門家による

研究計画の評価を行いまして新たに3カ年計画をつくりたい,線維筋痛症の発症要因の解

明及び治療システムの確立と評価に関する研究というようなことで助成してまいりたいと

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213

今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

いうふうに考えております。

 この研究班におきましては,先生御指摘のとおり,この病気の病態の解明あるいは治療

法の研究に一層取り組む,それから,これらの研究の成果によりまして,診断,治療法の

確立,ガイドラインまでいけばいいと思いますけれども,そういったものの作成や一般医

師への普及が進むように期待しているところでございます。

 研究班等への助成を通じまして,今後とも,この病気に関する医療の向上に努めてまい

りたいと考えております。

○福島委員 ぜひよろしくお願いいたしたいというふうに思います。

 また,難病の指定ということについても,さまざまな経緯もありますし,また問題があ

るということも事実でありますけれども,特にステージの重い方,4でありますとか5で

ありますとか,日常生活に相当の制約を受ける,就労するということも非常に厳しい,こ

ういうようなことから,何らかの形で支援ができないか。特に日常生活上の困難がある人

については,例えば介護保険における介護サービスというようなものが利用できないかと

か,より幅広い視点で御検討いただければというふうに要請をさせていただきたいと思っ

ております。

 

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添付資料

利益相反(COI)

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本ガイドライン執筆者の利益相反(COI)の原則

ガイドラインの倫理性

(1) ガイドラインの公益性・公共性の担保

(2)本ガイドラインの取り扱いは臨床医学分野に属することから,日本医学会臨床部会利益相反委員会のガイドライン2011による

対象者のすべてが回避すべきこと

(1)臨床研究の結果の公表や,薬剤の評価,診療ガイドラインの策定等は,純粋に科学的な根拠と判断,あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである

(2)

臨床研究の結果とその解釈といった公表内容や,臨床研究での科学的な根拠に基づく診療(診断,治療)ガイドライン・マニュアル等の作成について,その臨床研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず,同時に影響を避けられないような契約を資金提供者と締結してはならない

対象者が申告すべき項目

(1) 企業や営利を目的とした団体の役員,顧問職の有無

(2) 株の保有と,その株式から得られる利益

(3) 企業や営利を目的とした団体から特許権使用料として支払われた報酬

(4)企業や営利を目的とした団体より,会議の出席(発表)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当,講演料などの報酬

(5) 企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料

(6) 企業や営利を目的とした団体が提供する研究費

(7) 企業や営利を目的とした団体が提供する奨学(奨励)寄付金

(8) 企業などが提供する寄付講座

(9) その他の報酬(研究とは直接に関係しない旅行,贈答品など)

(日本医学会臨床部会利益相反委員会のガイドライン2011による)

▶このガイドラインの公益性,公共性の担保のため,各執筆者の利益相反(COI)に関

して以下の原則で公開するものである。

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今なぜ線維筋痛症

ガイドラインが必要か

本邦線維筋痛症の

小児の線維筋痛症の

各執筆者のCOI申告一覧

項目 執筆者

① 企業等の役員・顧問 西岡久寿樹

② 企業の株の保有 西岡久寿樹

③ 企業等からの特許使用料による報酬 横田俊平

④ 企業等からの講演料・日当等 横田俊平,三木健司

⑤ 企業等へのパンフレット等作成の原稿料等 戸田克広

⑥ 企業等からの委託研究,共同研究等による研究費長田賢一,武田雅俊,西岡久寿樹,橋本亮太,松本美富士,村上正人

⑦ 企業等からの奨学寄付金等 岡 寛,武田雅俊,橋本亮太,宮岡 等

⑧ 企業等による寄付講座 宮岡 等

⑨ 研究とは無関係な旅行・贈答等 該当者なし

* 「線維筋痛症診療ガイドライン2011」「線維筋痛症診療ガイドライン2013」発刊の過去1年間,執筆者名は五十音順

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216

欧 文

A

ACR 6ADL 21

C

chronic fatigue syndrome:CFS 78

chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP 67

cognitive behavioral therapy:CBT 129, 145

cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I 134

complex regional pain syndrome:CRPS 48

E

electroconvulsive therapy:ECT 146

F

FAS31 9fibromyalgia:FM 1fibromyalgia impact questionnaire:FIQ

19

functional dyspepsia:FD 54

functional somatic syndrome:FSS 52

G

gastroesophageal reflux disease:GERD 55

H

hyperventilation syndrome:HVS 56

I

interstitial cystitis:IC 39, 59

irritable bowel syndrome:IBS 39, 54

J

Japanese version of the fibromyalgia impact questionnaire:J-FIQ 92

M

multiple sclerosis:MS 69

myasthenia gravis:MG 70

N

nasal continuous positive airway pressure:n-CPAP 134

NaSSA 127

NMDA受容体拮抗薬 121

NSAIDs 86, 101, 121

O

operant-behavioral therapy:OBT 145

overactive bladder:OAB 58

P

psychosomatic disease:PSD 51

Q

QOL 21

R

repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS 146

restless legs syndrome:RLS 57, 123

S

SAPHO症候群 35

sham針 139

SLE 38

sleep apnea syndrome:SAS 56

SNRI 125

SNSA 42

SSRI 126

symptom severity:SS 6, 23, 26

T

transcranial direct current stimulation:tDCS 146

W

wide-spread neuropathic pain 3, 119

wide-spread pain 1 ─ index:WPI 6, 26

索 引

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217

索 引

和 文

あアイザックス症候群 68

アコニンサン 103

アミトリプチリン 96, 133

圧痛点 6, 25, 86, 97, 148

いイコサペント酸エチル 103

イブジラスト 103

イミプラミン 97

胃食道逆流症 55

異味覚 60

咽喉頭異常感症 59

ううつ状態 73

 ─ 身体性症状型 86

運動療法 140

えエデュケーション療法 145

塩酸セビメリン 122

おオピオイド系鎮痛薬 121

オペラント条件付け行動療法 129, 145

オランザピン 102

オンダンセトロン 100

温泉療法 141

かカルバマゼピン 120

ガバペンチン 85, 89, 99, 120, 133

過活動膀胱 58

過換気症候群 56

過敏性腸症候群 39, 54

下肢静止不能症候群 57, 123

家族内発生 14

介護保険制度 158

外陰部痛 58

看護職 167

間質性膀胱炎 39, 59

関節リウマチ 29

漢方薬 103

顎関節症 60

眼乾燥症 61

眼筋痙攣 61

眼瞼下垂 61

眼精疲労 61

き機能性身体症候群 52

機能性ディスペプシア 54

機能的予後 21

胸筋痛症候群 55

禁煙 106

筋緊張亢進型 85

筋骨格外症状 83

筋肉痛 49

筋付着部炎型 85

緊張型頭痛 56

くクエチアピン 102, 133

クロナゼパム 120

クロミプラミン 97

クロルプロマジン 102

けケタミン 106

下痢型過敏性腸症候群治療薬 123

経頭蓋直流電気刺激 146

経鼻的持続陽圧呼吸療法 134

血清反応陰性脊椎関節症 42

月経関連症状 57

眩暈症 59

減量 106

こ高額療養費 156

交感神経ブロック 107

後期高齢者医療制度 158

口腔乾燥症 60

向精神薬 125

公的保障制度 156

更年期障害 57

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218

広範囲疼痛指数 6, 26

抗不安薬 128

さサラゾスルファピリジン 86, 104, 122

ししびれ 47

シェーグレン症候群 31

歯周炎 61

歯槽骨炎 61

耳管開放症 59

耳鳴症 59

若年性線維筋痛症 148

羞明症 61

重症筋無力症 70

重症度分類 11, 19

重複型 87

障害者制度 160

障害者手帳の取得状況 181

障害年金 164, 186

傷病手当 186

食事療法 141

心気症 74

心身症 51

心療内科的疾患 51

神経因性疼痛 3, 119

 ─ 改善薬 119

神経性腹部膨満症 55

神経内科的疾患 67

身体障害者等級 186

身体表現性障害 75

すステロイド 86, 122

ストレス関連疾患 51

睡眠時無呼吸症候群 56

随伴症状 2, 6, 17, 84, 121

せセビメリン 104

セルトラリン 98

セロトニン選択的再取込み阻害薬 126

セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬 125

生活保護制度 165

整形外科的疾患 41

性差 14

星状神経節ブロック 107

精神科的治療 125

精神疾患 72, 111

精神神経症状 83

精神療法 129, 145

成長ホルモン 104, 134

脊椎関節炎 32

舌痛症 60

線維筋痛症 1線維筋痛症友の会 174

全身性エリテマトーデス 38

そゾピクロン 100

ゾルピデム 101

総合的疾患活動性評価法 19

た多発性筋炎 36

多発性硬化症 69

ちチザニジン 103

治療 83

 ─ の評価 91

てデキストロメトルファン 100

デュロキセチン 86, 98, 126, 133

電気痙攣療法 146

とトラゾドン 99, 133

トラマドール 105

 ─ とアセトアミノフェンの合剤 105

トロピセトロン 100

ドスレピン 97

ドチエピン 97

統合失調症症状 74

Page 231: minds4.jcqhc.or.jp/minds/FMS/CPGs… - Mindsガイド …minds4.jcqhc.or.jp/minds/FMS/CPGs2013_FM.pdf線維筋痛症診療ガイドライン2013の記載方法 1章 今なぜ線維筋痛症ガイドラインが必要か

219

疼痛 3, 26

 ─ 性障害 75

に認知行動療法 129, 145

 睡眠障害に対する ─ 134

認知症 76

ね年齢分布 14

のノイロトロピン 100, 119

ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 127

ノルトリプチリン 97

脳脊髄液減少症 80

はパーキンソン病治療薬 129

パロキセチン 98, 126

発症年齢 2発症要因 3発症様式 17

鍼 107, 138

反復磁気刺激療法 146

ひヒステリー 74

ピアサポート 176

ピリドスチグミン 102

ピロカルピン塩酸塩 85, 104, 122

ピンドロール 102

非ステロイド性抗炎症薬 86, 101, 121

非薬物療法 138

皮膚筋炎 36

病型分類 6, 15

ふフェンタニル経皮吸収型製剤 106

フルボキサミン 98

ブプレノルフィン 105

プラミペキソール 101

プレガバリン 85, 88, 99, 119, 132

複合性局所疼痛症候群 48

副腎皮質ステロイドホルモン 104

へベンゾジアゼピン系抗不安薬 105

ペンタゾシン 105

米国リウマチ学会 6 ─ 線維筋痛症予備診断基準 6, 25, 27

偏頭痛 56

まマイヤーズ・カクテル 103

マプロチリン 98

慢性炎症性脱髄性多発神経炎 67

慢性骨盤疼痛性障害 58

慢性疲労症候群 78

みミルタザピン 99, 127

ミルナシプラン 86, 98, 125

むむずむず脚症候群 57, 123

めメコバラミンと葉酸の併用ビタミン剤 104

もモルヒネ 106

や薬物療法 85, 119, 125, 132

ゆ有病率 13

らラフチジン 100

ラロキシフェン 100, 121

りリウマチ性疾患 41, 44

リウマチ性多発筋痛症 37

リラクセーション療法 130, 146

臨床経過 20

臨床徴候 26

れレボメプロマジン 102

ろロピニロール 101

索 引