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2011年 婦人之友 1月号 132 133 2011年 婦人之友 1月号 高校生が、地元の食でみんなを笑顔に── MISO de SMILE プロジェクト 仙台市 明成高等学校調理科「リエゾンキッチン」 文・写真/小山厚子 (編集部) 伝統食品「仙台味噌」をテーマにした食育 紙芝居づくりから始まった、高校による地域 連携の食育活動。地元の味噌が、知れば知 るほど深くておもしろいことに、地域のおとな も子どもも気づかされて……。 2010年 11月 15日 明成高校で

味 噌 で ス マ イ ル MISO de SMILE プロジェクト味 噌 で ス マ イ ル ... やカップに入れ噌でスマイル」です。スプーンを、熱トッピングした即席味噌汁キット「味プーンに味噌をのせて、海藻や麩で

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2011年 婦人之友 1月号 132133 2011年 婦人之友 1月号

高校生が、地元の食でみんなを笑顔に──

MISO de SMILEプロジェクト

仙台市 明成高等学校調理科「リエゾンキッチン」文・写真/小山厚子(編集部)

伝統食品「仙台味噌」をテーマにした食育紙芝居づくりから始まった、高校による地域連携の食育活動。地元の味噌が、知れば知るほど深くておもしろいことに、地域のおとなも子どもも気づかされて……。

味 噌 で ス マ イ ル

2010年 11月 15日 明成高校で

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2011年 婦人之友 1月号 134135 2011年 婦人之友 1月号

高校生に味噌づくりを教わる

 「お豆をよ〜くつぶしてね」「お兄さ

ん、このくらいでもう大丈夫?」

 

私立明成高校調理科の調理実習室。

同校生徒に教わりながら、大きなビ

ニール袋に入れた茹で大豆をこぶしで

トントン叩いているのは、仙台市立南

材木町小学校の3年生53人と、そのお

父さんお母さん。大豆について学ぶ総

合学習の一環として、味噌づくりを体

験しようと、先生に引率されて明成高

校へやって来たのです。

 

白い調理服にキリリと身を包み、各

班をひとりずつ担当指導しているの

は、調理科「リエゾンキッチン」の生

徒たち。

 

豆粒がつぶれて平らになっていくの

がおもしろくて、ふだんは高校生が学

ぶ実習室が、子どもたちの大歓声に包

まれました。

社会と連携した食育

「リエゾンキッチン」

「リエゾンキッチン」は、明成高校調

理科が5年前から取り組んでいる、地

域社会と連携した食育推進活動の名称

です。調理実習室を開放しての小学生

の味噌づくり体験授業も、活動の柱で

現在、宮城県内の小学校11校で採用さ

れ、必要に応じて出前授業も行ってい

ます。

 

11月のこの日、午前10時から始まっ

た味噌づくり体験授業は、食育紙芝居

「お豆の気持ち」を見ることから始ま

りました。仙台味噌の由来や、おいし

い味噌が大豆からできることを楽しい

絵と文で表現したこの紙芝居は、20

06年の夏に、当時の調理科3年生が

制作したもの。「M

ISO de SM

ILE

ロジェクト」がスタートするきっかけ

ともなったのが、実はこの紙芝居なの

です。

 

続いて味噌づくりについて話したの

は、プロジェクトの協力者である、地

元の味噌メーカー「仙台味噌醤油株式

会社」の四しかまりょうちょう

竈亮澄さん。こうした、伝

統の食文化を支える地域の専門家との

連携が、プロジェクトを成り立たせて

います。

おいしい味噌になるんだよ

 

いよいよ班ごとに分かれての味噌の

仕込み作業です。下準備をしたのは明

成の生徒たち。朝7時に登校して、計

40キロの大豆を茹で、小学生を迎えま

した。

 

子どもたちが歓声を上げながらつぶ

した大豆に、米麹と塩を混ぜ合わせた

ら、今度はテニスボールくらいにキュ

ッキュと丸めます。

 「おいしい味噌になあれって、やさ

しく丸めてね」「中に空気が入ってい

るままだと悪い菌が出てくるから、て

ある「M

ISO de SM

ILE

(味噌でスマイ

ル)プロジェクト」の一環として行わ

れたもの。単なる場所の提供や授業の

お手伝いではありません。 

 

種蒔きから食べるまでのつながりを

学ぶ教材も指導プログラムも、「リエ

ゾンキッチン」活動に取り組む、教職

員や生徒たちが開発したオリジナル。

つぶした大豆に米麹と塩を混ぜ合わせて玉にする 「ていねいにね」茹でた大豆を押して叩いてつぶす

最後は、力を入れて抑えながら平らにする。回を重ねて手つきもこの通り

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味噌玉をプラスチックの桶にギュウ

ギュウ詰めにし、表面を平らにならし

て終了。玉にしたのは、極力空気を除

く工夫だったのです。仕込んだ桶は、

「仙台味噌醤油株式会社」で寝かせて

もらいます。半年後、どんな味噌がで

きるでしょうか。

「おいしい!」と5杯もおかわり

 

時計は12時を回り、お昼の時間。食

堂で、お味噌汁と子どもたちが持参し

たおむすびをいただきます。

 

と、ここで登場したのが、木製のス

ただし汁を注いで回ると、お代わりに

次ぐお代わり。中には5杯食べたとい

う強つわもの者も!

 「びっくりしました。今朝、お味噌

汁を食べてきた人と聞いたらわずかで

したし、家ではあまりお味噌汁を食べ

ないという子もいますから」と、引率

の南材木町小学校教諭、千葉敏弘さん

も驚きを隠せません。この日、参加し

た父母からも、「楽しかった」「これか

らは、家でもちゃんとつくってあげた

い」等の感想が。

「さようなら」「ありがとう、

またね」

 

食べものについての物語を知り、自

分でつくってみると興味や関心が生ま

れます。子どもの味噌離れが言われま

すが、豆が育つ様子も味噌をつくる過

程も知る機会がほとんどありません。

「おいしい」という感覚は、知って学

んで体験して育つものであることを、

いねいにだよ」。要所要所で、班の子

どもたちに声をかけるなど、なかなか

の名指導ぶりを発揮する生徒たち。手

が空いてもぼんやりしないで、流しの

洗いものを手早く片付け、台布巾で調

理台を拭き、協力してお昼の準備に取

りかかるテキパキとした動き。

高校生が教えてくれました。

「年齢が近く、お兄さんお姉さんのよ

うな存在の高校生が、やさしく教えて

くれたことも子どもにはうれしかった

ことで、とてもいい学びになりまし

た」と千葉さん。確かに同じ地域に暮

らしていても、高校生と小学生が接す

る機会はほとんどありません。

 

帰る間際まで、楽しい授業の余韻は

続きました。自分たちの高校に来てく

れた感謝の気持ちを込めて、「ありが

とう、またね」と見送る高校生。バス

に乗り込んだ子どもたちは名残惜しそ

うに、「さようなら 

さようなら」と、

いつまでも手を振り続けていました。

食の専門高校だからできること

「リエゾンキッチン」とは、連携やつ

ながりを意味するリエゾン(liaison

と、キッチンを組み合わせた名称で

す。「食育基本法ができたのも、食を

プーンに味噌をのせて、海藻や麩で

トッピングした即席味噌汁キット「味

噌でスマイル」です。スプーンを、熱

いだし汁を注いだお椀やカップに入れ

て混ぜれば、ひとり分のお味噌汁がで

きるという、リエゾンキッチンのオリ

ジナルアイデアキット。そのおちゃめ

な笑顔に小学生は大はしゃぎ。生徒た

ちが、昆布と削り節でていねいに取っ

「味噌汁のだしは昆布と削り節でとりました」

「お味噌汁のおかわり、お願いしま〜す」

「MISO de SM

ILE

」いろんな笑顔になりました 「こういうお味噌になるんだよ」と高橋先生

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2011年 婦人之友 1月号 138139 2011年 婦人之友 1月号

モノ、コトに学びながら、食の環境を

よくすることに積極的に貢献できた

ら。そんな思いでリエゾンキッチンの

活動が始まったんです」と、担当教諭

の高橋信のぶたけ壮さん。

 

ちなみに高等学校の調理科は、国家

資格である調理師免許を取得できる調

理師養成の専門科で、全国105校に

設置されています。明治12年創立の同

校に調理科ができたのは昭和47年で、

男女約300人の生徒が学んでいま

す。「リエゾンキッチン」活動は、希

望すれば誰でも参加できる課外活動と

して行われ、参加生徒は現在25人ほ

ど。その活動の影響は調理科から学校

全体へ、地域へと及んでいます。 

自分の働きが人に喜ばれる実感

 

地域に根ざした食育教材の開発や指

導、さまざまな催しでのデモンスト

レーション、幼稚園、小学校の他、市

民センターなどでの高齢者向きの催

し、食を通した国際交流活動など、リ

エゾンキッチンの活動は年毎に広がっ

ています。しかも活動の多くは土日。

生徒たちはどんな気持ちで関わってい

るのでしょうか。聞いてみると、「忙

しいし大変。でも、喜んでもらえるの

がうれしくて」「食べもので人を笑顔

にできる」「ありがとうって言われる

のが最高」「一足早く、社会に出てい

る感じ」等々、口々にやり甲斐が語ら

れました。

 

自分が人に必要とされ喜ばれるこ

と、社会の中に食を通じて自分の役割

があることを生徒たちは実感している

のです。消極的だったり、人と話すこ

とが苦手だった生徒も、外部の人と関

わるリエゾンキッチン活動を通して成

長し、自信をつけていることが感じら

れました。テレビで活動の様子を知

り、自分もこの活動に加わりたいと入

学を決めた生徒も。

地域の食の未来と、高校生の

可能性を拓く

 

リエゾンキッチンのもうひとつの目

的は、「食と職」を幅広く学ぶこと。

「食べものを生産する農業、食品加工

の仕事、調理の仕事、行政の仕事……

社会には食をめぐるさまざまな仕事が

あること、食に関わる仕事は人を笑顔

にできるすばらしい仕事であること

を、体験を通して感じて欲しい。フラ

ンス語で友だちのことをcopain

(コパ

ン)と言います。最近気づいたんです

がco

は共に、pain

はパン。食べもの

を共にする人が友だちなんですね。食

は人と人とつなぐものというのは、世

界共通だと思いました」と高橋さん。

 

地域の食の未来を拓くとともに、高

校生の可能性を拓く

──。手さぐりで始

まった明成高校調理科

のリエゾンキッチン活

動は、着実に成果を上

げています。

学ぶことの大切さに社会が気づいたか

ら。『食』とは何かが問われている今、

食を専門的に学ぶ高校として、地域の

食文化や農に目を向け、地域の人々や

『リエゾンキッチン」は生徒と教職員有志に

よる課外活動

「ありがとう」「さようなら」授業が終わって

お見送り

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2011年 婦人之友 1月号 140141 2011年 婦人之友 1月号

渡邊頴悦さんや農業高校生とともに

食育紙芝居「お豆の気持ち」。木枠も仙台市街路樹のケヤキで、県内の「津山木工芸品事業協同組合」が製作

■ 06 年 紙芝居「お豆の気持ち」400 年の歴史を持つ仙台味噌の由来や、大豆から味噌ができることがわかる楽しいストーリーの紙芝居。紙芝居や本の読み聞かせ活動を行っている市民グループ「ぐりの会」の指導で、生徒がつくりました。

■ 07 年 仙台味噌「お味噌の気持ち」「お豆の気持ち」をモチーフにお味噌の商品化を企画。生徒が、地域の農家と共に生産した大豆を原料に、地元味噌製造企業との連携で製造した本場仙台味噌です。

■ 08 年 即席味噌汁キット「MISO de SMILE」「お豆の気持ち」と「お味噌の気持ち」の取り組みの上に、「みんなの気持ち」で豊かな食の環境をつくろうと考案。味噌を乗せれば完成する作り方付きキットは、宮城県産業義総合センターの支援で実用新案を登録。「みやぎものづくり大賞グランプリ」も受賞。

■ 09 年 食育教材「リエゾンファーム」大地から食卓までをつなぐ食育実践プログラムと食育教材「リエゾンファーム」を開発。小学校で使われる。小学5・6 年生で始まった英語学習や国際交流に役立つ外国語活動教材も制作。韓国、中国などの高校生とも交流。

■ 10 年 白菜プロジェクトはじまる韓国での食文化交流をきっかけに仙台白菜に注目。日本の白菜の生みの親「渡辺採種場」代表の渡邊頴

えおえち

悦さんとの出会い、県内の農業高校との連携で白菜栽培を開始。農の学びを深めながら、日韓交流を含めた、白菜のプロジェクトを進めている。

(このページの写真は明成高校提供)       

地域に学び、広がる「リエゾンキッチン」ひとつの取り組みは、地域の人との新たな出会いを生み、次にやるべきことが自然に見えて来ました。リエゾンキッチンの活動は広く深く発展しています。

大崎市立松山小学校で地域に根ざした食育を指導。枝豆の収穫