18
調URL:http://edufarm.jp/zai/dai_c_03.html こうじで、いのちを生かす食の技を 昔は、赤ちゃんを育てるように大切に世話して、こうじ菌を繁殖させて種こう じをつくりました。それを、味噌や醤油、酒や酢、漬物やすし漬などの発酵食品 に広く使いました。 今また、加工グループのお母さんたちが、腕を磨き、地域個性も豊かに、こ うじ菌発酵食品を生み出しています。加工 施設は今風の味噌蔵で す。その人と場所を生 かし、いのちを育てる 体験を、生産から食へ とつないでいきましょ う。 味噌蔵の豊かさを子どもたちに 保存・貯蔵の世界を体験させよう 「ここは私の遊び場です」 「手をかけた子どもがいっぱいいます」。味噌蔵・漬 物小屋のことを、そんなふうに話すおばあちゃん。その楽しみと豊かな地域の味 覚……子どもたちに、ふれさせてあげましょう。 「味噌は成長している!」 「味噌は、僕たちと同じだね」 「えっ? ど うして」 「いま 5 年生の冬に仕込んで、食べる のは6年生の秋。そのあいだ、ただそこに置 いてあるだけでなく、成長していくから」。 こんなふうに、自分と重ね合わせて、味噌を いのちの営みとしてとらえてくれたことは、 教えた加工グループの人びとにとって、何よ りうれしいことでした。 奈良県高取町での教育ファームの取組み で、たかむち小学校 5 年生は、白大豆・黒大 豆・茶大豆を栽培し、途中で枝豆を味わい、 秋に収穫し、2 月はじめに味噌づくりをしま した。まず、種こうじを手にとり、ビロード のような触感と温もりを感じて、「どうして だろう?」。匂いをかぎ、味をみてもらって から、甘酒の試飲。こうじ菌が生きているこ と、そのはたらきを感じとってもらいました。 潰した大豆にこうじと塩を加えて仕込んでから半年余り。できあがった味噌は、 学校給食に使い、家庭へ1パックずつ持ち帰りました。(カード3参照) 39-a 農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会 「こうじ菌はでんぷんを糖に分解したり、タン パク質をアミノ酸に分解したりする酵素をつくり ます」 「種こうじは蒸したお米や大麦に菌を繁殖さ せますが、大麦の多い私たちのまちでは麦こうじ です」 「昔の味噌づくりは、種こうじを入れず、味 噌玉を軒下などに吊り下げ、天然のこうじ菌を呼 び込んで繁殖させて仕込みました」など、先人が 培った地域の微生物利用、食のバイテク術を伝え ましょう。 これはすごい! 村のバイテク活用術 味噌に入れるこうじにさわり、味わう 加工グループの共同施設で味噌づくり 細かな世話をしてこうじづくり

味噌蔵の豊かさを子どもたちに 保存・貯蔵の世界を …味噌蔵の豊かさを子どもたちに 保存・貯蔵の世界を体験させよう 「ここは私の遊び場です「手をかけた子どもがいっぱいいます」。味噌蔵・漬

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Page 1: 味噌蔵の豊かさを子どもたちに 保存・貯蔵の世界を …味噌蔵の豊かさを子どもたちに 保存・貯蔵の世界を体験させよう 「ここは私の遊び場です「手をかけた子どもがいっぱいいます」。味噌蔵・漬

技と知恵2 

食べる

共通

*ワークシート『ダイズを育てる 

遊び・調理 

みそづくりに挑戦!』参照

URL:http://edufarm

.jp/zai/dai_c_03.html

こうじで、いのちを生かす食の技を

 昔は、赤ちゃんを育てるように大切に世話して、こうじ菌を繁殖させて種こう

じをつくりました。それを、味噌や醤油、酒や酢、漬物やすし漬などの発酵食品

に広く使いました。

 今また、加工グループのお母さんたちが、腕を磨き、地域個性も豊かに、こ

うじ菌発酵食品を生み出しています。加工

施設は今風の味噌蔵で

す。その人と場所を生

かし、いのちを育てる

体験を、生産から食へ

とつないでいきましょ

う。

味噌蔵の豊かさを子どもたちに 保存・貯蔵の世界を体験させよう

 「ここは私の遊び場です」「手をかけた子どもがいっぱいいます」。味噌蔵・漬

物小屋のことを、そんなふうに話すおばあちゃん。その楽しみと豊かな地域の味

覚……子どもたちに、ふれさせてあげましょう。

「味噌は成長している!」

 「味噌は、僕たちと同じだね」「えっ? ど

うして」「いま5年生の冬に仕込んで、食べる

のは6年生の秋。そのあいだ、ただそこに置

いてあるだけでなく、成長していくから」。

こんなふうに、自分と重ね合わせて、味噌を

いのちの営みとしてとらえてくれたことは、

教えた加工グループの人びとにとって、何よ

りうれしいことでした。

 奈良県高取町での教育ファームの取組み

で、たかむち小学校5年生は、白大豆・黒大

豆・茶大豆を栽培し、途中で枝豆を味わい、

秋に収穫し、2月はじめに味噌づくりをしま

した。まず、種こうじを手にとり、ビロード

のような触感と温もりを感じて、「どうして

だろう?」。匂いをかぎ、味をみてもらって

から、甘酒の試飲。こうじ菌が生きているこ

と、そのはたらきを感じとってもらいました。

 潰した大豆にこうじと塩を加えて仕込んでから半年余り。できあがった味噌は、

学校給食に使い、家庭へ1パックずつ持ち帰りました。(カード3参照)

39-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

 「こうじ菌はでんぷんを糖に分解したり、タン

パク質をアミノ酸に分解したりする酵素をつくり

ます」「種こうじは蒸したお米や大麦に菌を繁殖さ

せますが、大麦の多い私たちのまちでは麦こうじ

です」「昔の味噌づくりは、種こうじを入れず、味

噌玉を軒下などに吊り下げ、天然のこうじ菌を呼

び込んで繁殖させて仕込みました」など、先人が

培った地域の微生物利用、食のバイテク術を伝え

ましょう。

これはすごい! 村のバイテク活用術

味噌に入れるこうじにさわり、味わう

加工グループの共同施設で味噌づくり

細かな世話をしてこうじづくり

Page 2: 味噌蔵の豊かさを子どもたちに 保存・貯蔵の世界を …味噌蔵の豊かさを子どもたちに 保存・貯蔵の世界を体験させよう 「ここは私の遊び場です「手をかけた子どもがいっぱいいます」。味噌蔵・漬

技と知恵2 

食べる

共通

*ワークシート『果物を育てる 

遊び・調理 

ドライフルーツをつくろう!』

参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/kju_a_03.html

野菜の保存で、もっとおいしく、楽しい食育をさらにチャレンジ

太陽と風でおいしく 寒干し保存の体験

 切干し大根がベスト3に! ある学校給食センターで、好

きな料理を調査した結果です。あのシャキシャキ感と旨味を

好むとは、子どもの味覚は確か! といえないでしょうか。

 和歌山県紀の川市の教育ファームでは、名手小学校3、4

年生が栽培・収穫した生ダイコンを給食に使い、家に持ち帰

ったあと、冬に切干し大根をつくります。指導農家の畑敏之さんは、「規格外品もいのち。す

べていただくためです」と話します。

 太陽の光と乾いた寒風の作用でおいしくなり、ビタミン Dも生成。野菜のいのちが、子ど

もたちの手によるほぐし ・日当ての世話で、すばらしい食品に変わります。そんな加工・保存

と料理を何かひとつ体験するのはいかがでしょう。

保存野菜をどれだけ知っていますか?

 料理の楽しみをグーンとふやす保存・貯蔵野菜。子どもたちに、知っているものをあげても

らいましょう。おうちや地域のお年寄りの技の発見になれば、すばらしいことです。

 たくあん、白菜漬け、野沢菜漬け、ピクルス、かんぴょう、切干し大根……いろいろ出てき

ますね。そこで、保存の基本「腐る条件を取り除く」から、タイプ分けをしてみるのも、発想が

広がり、将来に役立ちます。

地産地消ニュースタイルの食卓をつくろう!

 札幌市の「市民体験農業を考える会」の中田三喜男さんは、「北

海道の夏は短い。地産地消には、冬にわが家・地域の食材を生

かすことが大事」と、加工用トマトを栽培し加工教室を実施。

 ホールトマトのばあい、半分を湯むきし、半分をジュースに

します。容器は、加熱殺菌などがしやすい広口びん。湯むきト

マトをびんに入れ、ジュースを注いで満たし、軽くフタをして、

熱湯に入れて20分ほど加熱殺菌。湯から出してフタを強くしめ、下向きにして置き、常温に

冷めたら上向きにして、冷暗所で保存します。いつでも、パスタやスープなどの料理に、うれ

しいシャーベットに、バジルソースやケチャップ風に、など、ほかの野菜の料理レパートリー

もふえ、食卓の会話もはずみ、家庭の食育がすすみます。

干しピーマン

干しナス

39-b

 干し野菜は、食べるとき水に戻すと、元の味とは

少しちがったおいしい野菜になります。普段は、生

で料理するか漬物にする野菜を干して、味比べし、

おいしい料理法を工夫してみましょう。

         1cm幅くらいのせん切りにし

て日干しして、缶などに入れて保存できる。使うときには3~4時間ぐらい水につ

けて戻す。きんぴらゴボウの彩りなどに。

         5mmほどの厚さに切って、水に30分ほどさらし、晴れた日

に3~4日かけてカリカリに乾かし、密封できる袋に入れて保存する。

 使うときは、水にひたして、火にかけ、一煮立ち。湯がさめたらナスをもみ、湯

を捨てる。水に砂糖を少し溶かし、ナスを入れて一昼夜おき、煮物や油炒めなどに。

干し野菜をつくろう

腐敗菌が生きるための必要条件 取り除く方法 保存食品名

適度な温度 冷凍する 冷凍野菜

適度な水分 乾燥させる切干し大根・かんぴょう・干しナス・干しキュウリなど

適度な浸透圧 砂糖・塩をまぶす漬物・梅干し(水分を外に出し、代わりに塩分・砂糖が食品の中に入ることで腐りにくくなる)

適度な pH(酸・アルカリ度) 酢につける ピクルス・らっきょうの甘酢漬け(酸度が高くなる)

家族でホールトマトづくり

切干し大根づくり

干しピーマン

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技と知恵2 

食べる

イネ

*ワークシート『イネを育てる 

遊び・調理 

新米を炊こう!』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/ine_a_13.html

ふた越しにブツブツいう音を聞き「赤子泣いてもふた

とるな」を納得。いよいよ対面のとき、上記のような

声が聞かれ、指導者にもうれしい瞬間です。

 透明の鍋で炊き、お米が踊る様子を見せる人もいま

す。焚き火で、竹筒や空き缶などを使って炊くのもい

いでしょう。ご飯との豊かな出会いを演出しましょう。

新米をおいしく食べる ご飯の旨味、お米を生かす技を体験

 イネの穂は重かった! もみすりで出てくる白米ってあたたかい! お米との出

会いを喜ぶ子どもたちに、おいしく食べる体験をプレゼントしましょう。

どうやって食べようか?

 「育てたお米をどう食べようか?」。子どもたちに

食べたい料理を決めてもらうのはどうでしょう。大好

きな洋風ご飯、はなやかなお祝い料理などのほか、「米

の消費をふやす料理」とか「お世話になったお年寄りと

楽しむ料理」なども登場するでしょう、イネづくりを

体験した子どもたちの発想は、ユニークで豊かです。

 子どもたちの話し合いの結果、意外に多いのが、塩

だけつけたおにぎり。「はじめて、お米の味をかみし

めた。甘かった」という体験は、子どもたちの貴重な財産となるはずです。

ご飯との出会い はじめチョロチョロなかパッパ…の実感を

 「わー、お米が光っている」「お米が立っているよ」「あまーいにおいがする」。子

どもたちは五感でご飯を感じとります。今、収穫祭などで、餅つきとともに喜ば

れているのが羽釜炊きご飯です。さいたま市の教育ファームの指導生産者、萩原

知美さんは、早くから子ども・消費者の食体験に羽釜を取り入れてきました。ス

イッチポンではわからない炊飯のプロセスを体験させたいという願いからです。

 燃料はワラ。消えかかって心配する子にコツを教えます。ワラを少し広げて棒

で穴を開けてやると、ボーッと勢いよく……そう、理科で習う「燃焼には酸素」の

実際場面です。同時に「はじめチョロチョロ、なかパッパ」の意味と技の体験です。

40-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

 離れた地域のあいだで、子どもたちが育てた

自慢のお米をメッセージとともに送り合い、お

にぎりの味を比べ合って、自信と友好を深めて

いる取組みがあります。「姉妹都市」に習って姉

妹(兄弟)教育ファーム間のお米交流はいかがで

しょう。それぞれの地域で学んだお米料理を教

え合うのもいいですね。

 「とくしまおにぎりプロジェクト」は、おにぎりに欠かせない米と漬物と塩を、学

校間で物々交換しあう活動です(カード57参照)。

 阿波市伊沢小学校5年生は米づくり、同市の市場小は地域特産のナスを育てて漬

物づくり、鳴門市立林崎小は海水から塩を手づくり。伊沢小では、「せっかく、2

つの学校に米を送るなら」と、米屋さんにお願いして、市販の米袋のようなビニー

ル袋で包装してもらい、子どもたちの描いた絵をプリント。お米への思いと魅力の

発信です。

お米・おにぎり交流はいかが

発見・感動いっぱいの羽釜炊きご飯体験

物々交換でおにぎりをつくる

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技と知恵2 

食べる

イネ

広げよう お米とご飯パワーとの出会いさらにチャレンジ

ご飯朝食は健康食 炊飯の科学

 子どもたちのご飯への関心に応えて、もう一押し。「ご

飯粒をよく噛むことで頭の血のめぐりがよくなり、ゆっ

くりと燃焼してパワーが持続し、血糖値はあがりにくい

など、ご飯朝食は体にも頭にも健康食です」

 そして、炊飯の科学も。「ひと粒のお米には小さな細

胞室が約17万もあり、1部屋に200粒のでんぷんが入

っています。水と熱を加えていくと、各部屋が水分を含

み、でんぷんがのり状に変わる……これが炊くというこ

とです。お米の水分は14.5%、ご飯になると65%、体積は約2.5倍になり、でんぷんがのり

状になって(α化)消化しやすくなるのです」

新米を祝う料理をつくろう 海・山・畑の幸を集めて

 新米の季節は実りの秋。お米は、海・山・畑のいろい

ろな食材を呼び寄せます。

 宮城・福島県境を流れ太平洋に注ぐ阿武隈川には、新

米の収穫期にピッタリ合うように鮭がやってきます。鮭

の卵(はらこ)と切り身をきれいに飾るのが「はらこ飯」。

魚のおいしさはもちろんですが、ご飯に鮭の煮汁がよく

しみて、噛むほどにおいしい新米料理です。

 熊本県天草半島の上天草市には、お米に、海の幸コノ

シロと、ゴボウ・ニンジン・シイタケ・ゴマ・細ネギ・

ショウガなど山や畑の幸を合わせてつくる「ぶえんずし」があります。育てたお米の郷土料理で

世代交流し、地域の食の豊かさを伝えましょう。

40-b

 千葉県の房総には、海の恵みの海苔と田んぼの恵みのお米

に、いろいろな野菜や卵などを生かした「太巻き寿司」の伝統

があります。山さん

武む

市の「よもぎかん」(カード56参照)にやっ

てきた子どもたちは、きれいな花模様のお寿司にびっくり。

指導農家の鈴木和子さんに「ピンク色は何?」と聞きます。「梅

酢でご飯をつくるんだよ」。ほかにも葉っぱの緑色は野沢菜。

茶色はかんぴょう。色合い豊かな知恵が詰まっています。広

げた海苔にご飯を敷いて野菜を置き、巻きすを巻いて最後に輪切りにするまで、で

きあがりがどうなるのかわかりません。どきどきしながら包丁を入れると、「やっ

たー!」。見事なチューリップの太巻き寿司ができあがりました。

 米ぬかは、ぬか味噌漬に、魚などの保存漬に、肥料

に、家畜のエサに、水田の除草にと、多彩に利用され

ます。そして、そのパワーに、米づくり体験をしてき

た子どもたちは大いに敏感です。

 奈良県高取町のたかむち小学校5年生はイネ栽培体

験から、米ぬかに注目。その役割、ビタミン B1など

の栄養や繊維分、リサイクルなどを調べました。発表

会で、一つのグループは「こめぬか石けんの作り方」を、もう一つのグループはぬか

味噌について、ある児童の家の漬物を試食プレゼントしながら、発表。参加した生

産者は、改めて米ぬかのパワーに気づかされました。(カード3参照)

海と田畑の食材をつなぐ「太巻き寿司」体験

子どもたちも注目・追求 米ぬかパワー

お米が炊けるってどういうこと?5年生による紙芝居「こめぬかせっけんのつくり方」 

新米と鮭のドッキング料理「はらこ飯」(宮城県岩沼市)

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『野菜を育てる 

作業 

トウモロコシを収穫しよう!』参照

 

URL:http://edufarm

.jp/zai/sai_s_19.html

ュウリもトマトも花や幼果や枝葉が、人の子と同じように産毛でびっしりおおわ

れていること、これも畑ならではの不思議発見です。

 そんな気づきをほめて、ほかの子たちにも感じてもらいながら、新鮮さの“証し”

であることを伝えましょう。「新鮮」の真の意味が体得されます。これは、大人に

とっても意外。家庭へ持ち帰り、お母さんへのおみやげ話にしましょう。

五感丸ごと使って、おいしさ体験

 さあ、はじめの一口。「君が育てた野

菜だから、マヨネーズもドレッシングも

つけないで食べよう」。子どもたちのヒ

ーロー、農家が「採れたてだからうんと

甘いんだよ」と食べて見せるのも効果的

です。

 ダイコンなどでは噛んだあとを見せあ

って「かわいいね。こっちはでっかい一

口だ」と歯型くらべも楽しいです。京都

府の宇治田原町立保育所では「キュウリ

はどんな音がするか教えて。あっポリポ

リ、○○ちゃんいい音だせるんだね。みんなに聞かせてあげて! キャベツはど

うかな」……五感を大事に会話を楽しみながら、苦手野菜も好きになります。

 「ここに来ると野菜嫌いは90%直る」という恵庭市の吉田俊二さんのハウスに

は、見本園のようにいろいろな野菜が育っています。ピーマン嫌いにはまずカラ

ーピーマンを食べさせ、匂いの前に色や甘味でイメージチェンジ。キュウリ嫌い

には「これが本当の味」と大きく太ったキュウリを食べてもらいます。

これが本当の野菜の味 初物体験は、野菜好きになるビッグチャンス

 いよいよ収穫。初めて自分で育てた野菜を食べる子も多いことでしょう。この

初体験こそ、野菜大好き・食べること大好きの子が育つ大事なチャンスです。

“My野菜”への愛着と農家のほめの言葉で、気分アップ

 畑に頻繁に通った子もいれば、久しぶりの子

もいます。しかし、「ぼくのトマト」「わたしの

トウモロコシ」であることには、変わりありま

せん。その気持ちをさらに高めることが、食べ

る心意気につながります。そして子どもたちは、

野菜の先生の農家の評価を待っています。

 「天気が悪くて心配したけど、がんばってわ

き芽かきや草取りしたね。トマトもがんばりま

した。今年のできは95点くらいかなあ。食べておいしければ100点満点で~す」

「初物はまず仏様だけど、今日は君たちが味わって!」

子どもは敏感、 スーパーにはない手ざわり発見!

 東京都練馬区の白石好孝さんは、「大きなバ

ケツを用意し、収穫したら洗ってその場で食

べるのが一番」と言います。そのときの、子ど

ものつぶやきが大切。「あっ、トマトって温か

い!」。そう、ふだん冷蔵庫で冷やされたもの

を食べている子どもたちには、おどろきなので

す。キュウリなら、いぼのトゲが痛いこと。キ

41-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

Myトウモロコシの収穫(札幌市 市民体験農業を考える会)

元気な証拠 キュウリのトゲ、花や実や枝葉をおおう産毛(腺毛)

噛む音や歯型も楽しみながら

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『野菜を育てる 

表現・まとめ 

野菜の保存のし方を考えて

みよう』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/sai_h_04.html

いのちを感じながら、おいしくいただこうさらにチャレンジ

鳥になってみよう…タネへの気づき

 「どれを採ったらいいの?」と緊張する子ども。そん

なとき、トマトなら、「一番下が食べごろ。その上は

いま一生懸命太っている、もっと上には実の赤ちゃん

がいるし、花もつぼみもあるね」「みんな元気に育つよ

うに、小さい実も花も、葉っぱも大事に」と、いのち

の営みに気づかせながら、木を大切にする農家の収穫

のコツを伝授しましょう。

 いのちへの気づき。「トマトなら輪切りにしてみる

のもおもしろい」と白石好孝さん。いくつかの部屋に

分かれ、中にはゼリーがいっぱい、タネをそっと支えるようにしている。食感や味を思い浮か

べながら、「なぜ、このような形なのだろうか」。そして、君たちはタネを運ぶ鳥になれるんだ!

目をつぶって葉菜の味あて…アクって何? 料理の意味も考えよう

 葉菜も生で食べさせましょう。目をつぶって手ざわりと味で当てさせるクイズも楽しいです。

食べやすいレタス・キャベツ、食べにくいホウレンソウ。どうしてだろう? アクはタネがで

きる前に葉っぱを動物に食べられないように守る植

物の知恵。そんないのちの営みとともに、ゆでてア

クを抜く人の知恵にも気づかせていきます。

 ホウレンソウはゆでこぼしが必要で、コマツナは

直料理できることを知らない若いお母さんも少なく

ないようです。加熱料理すると、生よりも野菜をい

っぱい食べられます。収穫野菜の持ち帰りのときは、

ふるさとの和え物・煮物など「地産地消おすすめレ

シピ」とともに、野菜食の知恵を子どもから家庭へ

届けてもらいましょう。

おいしい野菜・新鮮な野菜って、どう見分ける?

 教育ファームに参加した子どもには、安全・安心につながる野菜の見方、買い方にも強くな

ってもらいましょう。新鮮な野菜はどこがちがうか? 子どもたちに意見を出させて、プロの

あなたから判定のコツを一つ二つ伝授。たとえば……

ニンジン・ダイコン 皮がなめらかでみずみずしさ、ハリがあるものが新鮮。

青菜類 葉の色が鮮やかなグリーンで、ハリとツヤがあるものが新鮮。

トマト 鮮かな赤い色でハリがあり、ずっしりと重いものがおいしい。

カボチャ へたの切り口が乾いて、少しくぼんでいるものがよく熟している。皮がツルンとし

たものは未熟で少し水っぽい。しばらくおくと甘くなる。

       水(または5%の食塩水)に入れてみます。重くて沈むのは、糖度が

高く酸も適度にあって味が濃いトマトです。輪切りしてみると、部屋にすき間がな

く、タネが多くゼリーもたくさん入っているのがわかります。

       二つに折ってからくっつけたとき、しっかりとつながって落ちない

キュウリは、新鮮でパリッとして甘味もあります。

 トマトもキュウリも、元気な根、元気な葉を育てることが、おいしい果実につな

がります。そのためにやってきた管理を子どもたちと考えてみましょう。

実験 水に入れてみる、折ってつなげてみる

41-b

いのちの営み、タネの旅を感じながら

キュウリ

野菜の味当てクイズ

トマト

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『野菜を育てる 

表現・まとめ 

育てた野菜で給食メニュー

を考えよう』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/sai_h_01.html

が、給食業者のおじさんにお願いします。そして翌日、「○○ちゃんのリクエスト、

ナスのスパゲッティで~す。この次はマーボナスもね」。北海道恵庭市の恵庭幼

稚園では、こんな光景が見られます。「ナス料理、おいしかったよ」という子ども

の言葉に、「家ではダメだったのに」とお母さんも驚き、喜びます。

 給食の食育の効果は偉大。教育ファームとのつながりを、さらに深めましょう。

野菜好きになる洋風料理から、さらに和風料理へ

 もっと摂りたい緑黄色野菜のニンジンは、ジャムにすればいつでも食卓にのせ

られ、自然の甘味を幼いときに覚えさせることができます。ニンジンでもコマツ

ナでも、すりおろしやミキシングして、デザートづくりを楽しみましょう。東京

近郊の野菜産地、船橋市の食生活サポーター協議会では、親子料理教室で、特産

野菜ニンジンのジャムサンドや、コマツナの蒸しケーキなどを体験メニューにし

て喜ばれています。今、寒天などを使った野菜入りゼリーやプリン、ケーキミッ

クスなどを使ったケーキ類が、野菜好きをつくるメニューとして人気です。

 苦手な野菜も、好きな料理に入れて食べさせると、「食べられた! おいしかっ

た」の体験ができます。しかしこれは第一歩。

 野菜残食ゼロを実現している佐賀県鳥栖市の

鳥栖小学校の給食では、子どもが苦手なナスは、

まずは細かく切ってミートソースやハンバーグ

に入れ、ついでナスの形の見える中華風揚げナ

スやマーボナス。さらに、ごま和えや味噌汁な

どナスそのものを五感で味わえる和食料理へと

発展。この段階メニューには、給食委員の児童

のアイディア料理も入っています。

苦手野菜も好きになる 育てる体験を生かした料理体験

 「これ体にいいから食べなきゃ !」と押し付け、義務感で食べさせようとしても

なかなか、です。自分たちが育ててきたそのことに、食への大きな力があります。

育てるから、届ける・喜んでもらう…給食で、家庭で

 「家族みんなが、ブロッコリーもカボチャも、僕が

つくったカボチャプリンもおいしいと喜んで食べてく

れました」。これは、栃木県都賀町で、教育ファーム

を体験した都賀中学2年生男子の言葉です(選択技術

家庭科の取組み)。カボチャとブロッコリーを、苗植

えから、虫取り、収穫、地域での販売まで体験し、そ

して学校給食で使ってもらい、調理実習でカボチャプ

リンをつくりました。給食への提供で友だちや教職員

に、家庭への持ち帰りで保護者や兄弟姉妹に、販売や

調理実習で地域に、 「カボチャとブロッコリーがおい

しくて大好きの輪」がつながりました(カード50、60

参照)。

 そう、人に届け、伝え、味わってもらい評価された

ことが、何よりなのです。子どもたちがもてなし役

になることが、野菜好きになるいちばんの道です。

このナス、給食に使ってね

 「これ、わたしがとったの。料理つくってくださ

い」「はいはい、明日の給食にね」。ナスの嫌いな子

42-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

家族に喜ばれたカボチャプリンづくり

砂糖を使わないニンジンジャムのサンドイッチ

学校給食でみんなに楽しんでもらう

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『野菜を育てる 

遊び・調理 

野菜の蒸し料理にちょうせん!』

参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/sai_c_04.html

野菜の食べかた西東 もっと多彩に楽しもうさらにチャレンジ

野菜好きになる! 郷土料理の知恵

 宮城県岩沼地方には、旬の野菜のいろいろ

と、きのこ・油揚げ・こんにゃくなどを小さ

めにきざんで炊き、くず粉(ジャガイモでん

ぷん)でとろみをつけて食べる「おくずかけ」

があります。子どもたちは、嫌いな野菜が入

っていても、細かく切ってあり、いろいろな

素材の旨味のついたとろみがあるので、あっ

というまに食べてしまいます。お年寄りにも

食べやすい料理です。

 同じような料理が、全国各地で「のっべ」「の

っぺい汁」「ぬっぺ」、福岡県では「だぶ(らぶ)」などの呼び方で伝えられています。やさしさが

こもった郷土の野菜料理を聞き取りし、子どもからお年寄りにふるまうのはどうでしょうか。

教育ファームのお昼は、野菜の食べ方交流会

 北海道由仁町の三田村雅人さんが開く「由仁ふれあい農業小学

校」は、家族や仲間で通ってきて、三田村さんの指導で、思い思

いの栽培体験をする市民農園型の教育ファームです。

 活動日の楽しみのひとつが昼食どき。料理の世話をする母のヨ

シ子さんは、若いころ若妻会で習った「かぼちゃの餃子」を教えて

くれました。農家のお年寄りの技、街からの参加者の新しい技な

ど、お昼どきは料理・加工のうれしい交流会です。

トマトがたくさん採れたら、イタリア料理もわが家の味で

 食べきれないほど赤くなってくるトマト。完熟して健康成分リコピンいっぱいの夏の恵みで

す。ときには世界の知恵に目を向け、イタリ

アを見習って料理にどっさり使いましょう。

 旭川市の「子ども農業体験塾」、吉岡班(吉

岡京さん指導)の体験品目はイネとトマト。

活動をサポートしている北海道教育大学旭川

校の学生の提案で、小学生がトマトづくし料

理に挑戦しました。トマトパスタ、野菜いっ

ぱいスープ、トマトゼリーと、家庭でもつく

れる簡単なメニューで、食材は調味料のほか

はすべてここで採れたもの。

 パスタ(写真上)は、ミートスパゲッティのつくり方を基本に、ミニトマトを大量に入れたソ

ースづくりから。野菜スープ(右)は、ジャガイモやタマネギ・ダイコンなどの素材を生かすた

め味付けはコンソメだけとし、仕上げにミニトマトを投入。このむだなく生かす料理体験が心

に通じたのか、子どもたちから「残った野菜でサラダを」とのリクエストも出てきました(左)。

42-b

 「野菜の水分って何%くらい?」。子どもたちにクイズを出してみましょう。答

は下の表のとおり。なんと90%以上! 野菜のいのちの水分を大事に生かし、水を

加えないで煮るラタトゥイュ。ニンニク、オリーブオイルでいろいろな野菜を炒め

煮して、野菜エキスの旨味

がそのまま溶けあう料理で

す。ナス・ズッキーニ・パ

プリカ・トマトなど、夏野

菜がたっぷりとれたとき

に、いかがでしょうか。

野菜の水分で煮える! 南フランス「ラタトゥイュ」

野菜いっぱい「おくずかけ」(宮城県岩沼市)

三田村ヨシ子おばあちゃんおすすめの「かぼちゃの餃子」

トマトづくし料理体験

野菜の水をいただこう、上手に生かす料理は?

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『ダイズを育てる 

遊び・調理 

とうふづくりに挑戦』参照

URL:http://edufarm

.jp/zai/dai_c_02.html

 豆腐にしたときの旨味やコクはどうか? 私たちの品種の良さを伝えましょう。

海外品種はおもに油脂用、日本の品種は食品用でたんぱく質が多く、味噌や豆腐

にピッタリなこと。水田を守る転作作物向き品種、あるいは寒冷地に強い品種と、

大豆を大事にして地域の農家はがんばっていることも伝えましょう。

 「なのに、自給率5%!」。子どもたちはがぜん奮起するでしょう。「おいしい

本物豆腐をつくって、地元産の消費を増やそう」。そんな気持ちが高まります。

本物の豆腐をつくろう 大豆は変身名人、加工・料理の技が光る

 大豆は、加工によってさまざまな食の楽しみを与えてくれる変身名人。市販と

はひと味もふた味もちがう最高の豆腐にして、いただきましょう。

本物って何? 私たちの豆腐の魅力を伝える

 「食べている豆腐は、どんな豆腐?」「店で

売っている豆腐は?」。知っていることをあ

げさせてみましょう。変身上手な大豆だけ

に、加工過程に不透明さも伴う豆腐。本物っ

て何? これを追求し始めると、子どもたち

は真剣になります。

 子どもからあがってくることにつなげて、

これからつくる豆腐の良さを語りましょう。

「大豆はもちろん、自分たちで育てたもの

だね」「豆乳を搾ったら『にがり』を使って固

めます。硫酸カルシウムや凝固材に比べて、

大豆から豆腐ができる量は少ないけど、そ

れだけおいしいはず」……などの説明で、期

待を高めます。

子どもたちは原料生産者、 その誇りを

 農家が指導する豆腐づくりですから、原料のイメージアップも忘れずに。大豆

品種は、ハヤヒカリ・スズカリ・エンレイ・すずこがね・ふくゆたかなど、どれ

も思いのこもった命名です。丹波黒のように地域シンボル品種もあります。

43-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

 京都市立静原小学校は、地域

ぐるみの応援で食農教育をす

すめています(カード4、21参

照)。全学年による米栽培から

餅つき、サツマイモ栽培のほ

か、各学年のテーマがあり、平

成19年度の1年生は大豆を栽

培。1、6年生が名人お母さん

の指導で豆腐をつくり、市内料

亭の社長の指導による京料理教

室で使用しました。メニューは、はもの柳川、地元産のシュンギクとホウレンソウ

のごま和え、はも棒すしなどすし3種と、豆腐のおつゆ。はもの頭と骨でだしをと

り、和え物にした野菜の根っこも使う食材丸ごと利用のおつゆです。教室には住民

20数人も参加。プロの京料理を学び、「こんなにおいしいのははじめて」というほ

どの小学校産大豆の手づくり豆腐の味を楽しみました。

小学校の手づくり豆腐を、プロの料理で

自慢の大豆収穫1年生と6年生が力をあわせて

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『ダイズを育てる 

観察・調査 

ダイズの自給率はどのく

らい?』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/dai_k_01.html

もっと生かせる大豆・豆腐パワーさらにチャレンジ

豆腐づくりの魔術師「にがり」を体験

 「これを少しなめてください」「にがい!」「何?これ?」

「にがりです。『苦汁』と書きます」「豆乳をかためて豆腐を

つくる魔術師です」

 にがりは、海水を煮つめて塩をとるとき、最後に底に残

る茶色の液体、塩化カルシウムです。海水―塩―にがり―

豆腐づくりのつながりを、次のような先人の体験から、子

どもたちに考えさせましょう。

海の近くでの豆腐づくり 豆腐づくりに、にがりではなく

海水を使っていました。沖縄では「豆腐は海水で固めるもの」でした。

内陸部での豆腐づくり 「塩の道」をはるばる運ばれてきた食塩を購入した各家庭では、普段使

う塩は塩かごに入れ、それをにがり桶にのせて置きました。かごの塩がべとつかず、桶にした

たり落ちたにがりを豆腐づくりに使いました。

 現在わが国で使われているにがりのほとんどは輸入にがりで、効率的豆腐づくりに硫酸カル

シムや、豆腐用凝固材グルコノデルタラクトンが使われています。

おからを食べよう

 「豆乳を搾って、袋の中に残った物は何?」「食べたこと

はありますか?」 。おからに注目させましょう。おからは

大豆の食物繊維で、手づくり豆腐のおからは搾り方がきつ

くないので豆乳がまだ含まれており、とてもおいしいもの

です。

 親子料理教室で豆腐づくりを体験したとき、おから入り

のサラダ、ハンバーグ、コロッケ、スープなどを教えると、

大変喜ばれ、家庭に広がります。繊維たっぷりのおからを生かした健康料理をつくってみまし

ょう。

43-b

 寒冷な岩手県北地方はかつて、ヒエ―小麦―

大豆の輪作を中心とした畑作農業だったため、

豆腐は農家で毎日のようにつくられました。そ

のなかで、豆乳を搾って固める「上等な豆腐」と、

搾らずおからごと固める「おつこ」がつくられま

した。おつこは豆腐のできる量を多くするなど

のためでしたが、次男坊のことをおつこという

ので、「大事な長男でなく弟に食わせる豆腐」と、

冗談も言われたとか。

 今から見れば、おつこはこだわりの健康豆腐。現在は、製造工程でおからを出さ

ず大豆全体を生かした豆腐が市販されています。普通の豆腐に比べ食物繊維が多く、

またイソフラボン、サポニンなど健康に良い成分の含有量も多いそうです。

 大地の肉とも言われる大豆をじょうずに生かすみち、もっとおいしく健康的に食

べる方法を、みんなで考えてみましょう。

おからの入った豆腐「おつこ」 いま昔

野菜などもたっぷり入って、簡単にできます。おからおやき【材料】 

おから………………………… 100g

小麦粉…………………………… 40g

塩・こしょう・醤油…………… 少々

ニンジン、ニラまたはネギ…… 適量

ひき肉…………………………… 30g

【つくり方】

野菜をみじん切りにして、材料を全部

混ぜてこねる。形を丸く平たくして、

フライパンに油をひいて、ふたをして

弱火で焼く。

にがりって何? 海水を煮詰めて…

おから入りサラダ

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

魅力その3 みんなで楽しむ季節感

 サトイモがおいしくなったから「だご汁」に入れよ

う、蟹が獲れたので「ひっつみ」だ、と、粉食は畑や

山川海の幸を取り込んで一緒に楽しむ料理。信州の

「おやき」に入れる「あん」は、野沢菜漬や切干し大根

や小豆など定番のほか、春は芽生えたニラ、夏はい

よいよ丸ナスと、季節の味がいっぱいです。

 そして何より共食の場ができます。昔は囲炉裏を囲んで食べた「串焼きもち」を、

いま農業体験の小昼に、移動式の焼き炉をみんなで囲んで楽しむところもありま

す。ふるさとの思い出づくりにもピッタリの粉食体験をどうぞ。

ふるさとの粉食を満喫しよう 大喜び! 手技の体験

 今ふたたび麦・雑穀が注目されています。その粉食体験こそ、世代交流を楽し

み、個性豊かなふるさとの食を伝えられる食文化。その魅力とは……

魅力その1 真剣でうれしい 技の伝授

 「そうそう、つかむんじゃなくて、手のひらの下

の方で押すようにね」。おばちゃんたちの掛け声に、

手つきを覚えることに夢中です。大人でも「粉物は

はまる4 4 4

」と言われますが、子どもたちはなおさらで

す。こねる ・のす ・ちぎる ・丸めるなど一つひとつ

の作業にコツがあり、それが「できたね」と言われ

るのがうれしいのです。

 家で手伝いをしたことがあるために上手な子、初めてでもすぐに覚える子、何

度も挑戦する子、アンパンマンの顔をつくり出す子、などなど個性が表れ、それ

でも真剣、教える方がうれしくなる。粉食の第一の魅力です。

魅力その2 多彩な食べ方、何を選ぶ

 「えっ、かっけ? はっとう??」。岩手県北地方では同じそば粉でも、普段の

食の「そばねり」「そばかっけ」(薄くのして三角に切る)、小昼やおやつにした「串

焼きもち」、祝いや祭りのごちそう「そばはっとう」(そば切り)などと、じつに多彩。

小麦粉・ひえ粉・きび粉・米粉をあわせたら、すごいバラエティーです。

 それぞれに、手間、技、味と香り、願いや暮らしの慣わしが込められ、呼び方

にも表れています。「何を体験しようか?」。名前をあげて、子どもたちにイメ

ージさせ、お年寄りの体験を聞かせましょう。

44-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

 宮城県仙台市で活動する「青葉手打ちそば教室」の

強力な助っ人は、地元の粉屋さん、伊藤製粉株式会

社。地域の小学校の親子がタネから育てた玄そばの

実を、おいしいそば粉にひいてくれました。さらに

「そば打ち体験会」の日には、手打ちそば教室卒業生

のそばマスターたちが駆けつけて極意を指導。

 新そばの醍醐味は、「挽きたて、打ちたて、茹でたて」の“三たてそば”。「挽きたて」

を支える粉屋さん。「打ちたて、茹でたて」を助けるそばマスターたち。地元の人た

ちの連携プレーに支えられ、自分で育てて自分で打ったそばを、大人も子どももみ

んな「本当においしい!」と、完食しました。

地元のみんなでそば打ち体験

子ども大好き こねる技の伝授

みんなで囲んでおやきを食べる  この楽しさを子どもたちに

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『ダイズを育てる 

作業 

ダイズの後にムギを植えよう!』

参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/dai_s_05.html

粉食で伝える 食の文化、地域の味覚さらにチャレンジ

アイディアおやきコンテストをしよう

 「おやき」といっても、地域によっていろいろです。同じ長

野県でも、北のほうでは、小麦粉を練ってのばし、野菜やき

のこ、漬物や小豆でつくった「あん」を中に入れて包みますが、

飯田市など南のほうでは、小麦粉にささげ豆や芋・野菜など

の具を混ぜ込んでつくります。全国を見るとさらにさまざま

で、たとえば

・トウモロコシ粉を熱湯でこねて丸形にし、ゆでてから焼く:

静岡県 富士山麓 

・もち米粉をぬるま湯でこねて団子状にしてせいろで蒸し、

中にあん(味噌と砂糖)を包みこみ、ほうろくで両面を焼く:

島根県

・焼き豆腐を「お焼き」という:兵庫県瀬戸内沿岸明石市など

など。

 各地のおやきを調べ、自分のアイディアおやきを創作して

みましょう。①食材、②コンセプト、③調理方法、④調味料、

⑤何風、などをはっきりさせて、お互いにアピールし、比べ

てみましょう。

粉食の名前と、その意味を調べよう

 岩手県北地方では、水を加えて練ることは「しとねる」、できたものは「しとねもの」と言いま

す。「こねる」と言うよりも、技の意味が表れている感じがしませんか。粉を練って伸ばしなが

らちぎって汁に入れるものを、地域によって「ひっつみ」「ひんのべ」「つんきり」などと言います

が、これはイメージに共通性もあります。

 多彩な粉食の呼び方を調べ、その意味を子どもたちと考えてみましょう。

44-b

わかる? わからない? 粉食のこの名前

 岩手県北地方のそばかっけや焼きもちは、子ども

には甘くてコクのあるくるみ味噌やじゅうね(エゴ

マ)味噌、大人にはにんにく味噌というようにつく

り分けられました。本当に旨いことを「くるみ味が

する」と言います。「おししい」より実感のある地域

の言葉が、粉食体験で伝わります。

 佐賀平野で小麦粉を練って伸ばし、何かをつけて

食べる「ぬべだご」(ごろし)は、「味噌がいい」「黒砂

糖がいい」と話題に。成人してからも思い出す地域の味の体験をさせましょう。

記憶に残る ふるさとの味覚の体験を

あなたの地方にはどんな「おやき」がありますか?

そばかっけとそばはっとう(右)

「はっとうって、ご法度からなんだって!」

ひっつみ「ひっつまんで汁に入れるから、ね。『とって投げ』とも言うよ」

岩手県

長野県

おつめり「つむぎり、つみいれ、ひんのべ……など、いろいろあるね」

佐賀県

ぬべだご(ごろし)「お客さん、手打ちにしようか、ごろしにしようか」「えっ? こわーい!」

つんきりだご汁

サツマイモを使ったおやき(鳥取県)

モロコシ粉を使ったおやき(山梨県)

小麦粉を使い「あん」を包んだおやき(長野県)

皆さんの地域と比べてみましょう!

※ぬべだごは鳥栖市麓小学校 5 年生がつくったもの

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『果物を育てる 

遊び・調理 

収穫した果物でジャムをつく

ろう!』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/kju_a_02.html

ナシとお米 つながる体験

くだもの丸ごと活用 地域が育てた名産を、さらに魅力アップ

 その昔「水菓子」といわれ、人びとに大歓迎されたナシやモモ、ミカンなどのく

だもの。今、その魅力を加工・料理によってさらに高める活動がさかんです。

ナシの収穫、ジャムづくり、そして米粉パンづくりへ

 愛知県安城市の梨の里小学校5年生は、安城農林高校の

実習室で、収穫した名産のナシでジャムづくりを体験しま

す。農高の先生の話のあと、いっせいに包丁でむきはじめ

ました。宿題に練習してきたので、みんなスルスル。サポ

ーターの農高生も「私よりうまいんだけど……」。

 皮むき・スライスが終わりジューサーでジュースにし、

砂糖やペクチンを加えて、大きな圧力釜で混ぜながら煮

込みます。「とってもいい匂いがしてきて、楽しかった」。

できたジャムを缶に入れ、フタに自分たちの名前を書き、機械で封をして完成。

楽しい食体験がさらにふくらむ

 子どもたちの楽しみはさらにふくらみます。田

んぼでのイネ栽培が米粉パン体験へと続き、ナシ

のジャムをつけて食べようにつながります。生産

と食の楽しさ、たいせつさを実感させよう……生

産者、土地改良区、製粉会社、製パン会社、農高、

自治体の連携したプロジェクトです。

 先人が長い年月をかけて育てた果樹産地。指導者のネットワークで楽しい体験

がふくらむことによって、地域産業への理解、愛着が育っていくといいですね。

45-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

 果樹産地には、先人が培った栽培技術や、産物を生かす四季折々の食と暮らしが

あります。“日本一といわれる「西吉野の柿」産地で、中学生活3年間にわたってそ

の全体を体験させよう”。奈良県五條市立西吉野中学の「カッキータイム」です。

 全学年で取り組むのが、5月の摘蕾、11月の収穫・出荷(給食利用、福祉施設へ

の寄贈や販売も)。この間に、生育の観察、生産者講演、などもあります。

 食の体験は、1年生は6月に「食の達人」の指導で、柿の葉寿司づくり。紀ノ川流

域の風土が育てたお米と柿の青葉、紀ノ川を遡

って運ばれてきた塩鯖……これらをあわせて、

旨味をかもし保存性をもたせた食の知恵です。

家々でつくり方も味も違うのが食文化の奥深さ

ですが、生徒の間で「うちのつくり方はこう」と

話題が広がりました。10月には、カキ利用の

大事な技、脱渋と糖度測定もします。

 2年生は、7月にカキと同じく特産の梅干しづくり。土用干し体験は、緑色の梅

が真っ赤に染まっていること、すっぱさプラス深い味わいがあることなど、「昔の

人はすごい」と気づく機会です。園芸委員の生徒は柿渋の採取も行うので、実も葉

も渋もと、いのち丸ごと活用が体験できるのです。

 そして3年生は、11月に創作料理にチャレンジ。カキドーナツ、カキ大福、カ

キコロッケなど、創意あふれる「柿づくし」の数々に、「こんなことまでできるんだ!」

と、子どもたちは地元の名産が持っている可能性に改めて気づきました。

 果樹は、長い年月がかかって産地が育ち、くだもの利用の楽しみが広がります。

このような息の長い地域づくりに子どもたちが参加する「産地学習」はいかがでしょ

うか。

名産のカキ 栽培から伝統食の体験、創作料理へ

名産安城ナシでジャムづくり(皮むき) 

「食の達人」の指導で柿の葉寿司づくり

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技と知恵2 

食べる

畑の作物

*ワークシート『果物を育てる 

遊び・調理 

収穫した果物でジャムをつく

ろう!』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/kju_a_02.html

くだもの いろいろな料理・加工を子どもたちとさらにチャレンジ

干す、電子レンジでチン 広げよう楽しみ

 大きく美しい日本のくだものは生食がふつうですが、調理の技のちょっとした応用で、子ど

もたちにうれしい、フルーツ感覚いっぱいのおやつができます。

干しリンゴ  自然の甘みが濃縮したおいしさです。

リンゴが余ったときや、傷のあるリンゴなどでつく

りましょう。

 リンゴを4つくらいの輪切りにし、クッキーの型

抜きで芯をとります。ネットなどに入れて干します。

時々ひっくり返し、1週間くらいで完成。

カキチップス おなじく自然な甘みをどうぞ。カキ

を薄く切りペーパータオルで水気を取ります。風通

しの良いところで乾燥させます(または、160℃に

熱したオーブンで15~ 20分焼いて乾燥させても

できます)。

電子レンジでリンゴプリザーブ パンや紅茶にジャ

ムがほしい。そんなとき、リンゴと砂糖があれば簡

単に替わりができます。また、餃子の皮で包んで油

で揚げると、アップルパイのようなおやつにも。

 リンゴを薄く切り、グラニュー糖(普通の砂糖で

も OK)を適量まぶし、電子レンジへ。様子を見な

がら加熱時間を決めます。シナモンを混ぜてもおい

しくなります。

ジャムを固めるペクチンとは…ゼラチン、寒天それぞれの魅力

 ジャムに粘りをつける物質は、植物の細胞と細胞をつなぎあわせる役割をしているペクチン。

食物繊維の一種です。くだものの糖分や酸とともに加熱されることで、粘りがでます。多く含

むのはリンゴ・イチジク・モモやオレンジなどの柑橘類です。メロン・カキ・バナナ・ナシな

どは少なめで、安城のナシジャムづくり体験ではペクチンを添加しています。リンゴの芯の部

分にはペクチンが多いので、砂糖と水煮して、濾すとペクチンが採れます。

ゼラチン、寒天って何? ゼリーなどさわやかデザートに使われるゼラチンは、動物の骨や皮

に含まれる繊維たんぱく質のコラーゲン。寒天はテングサ類の高分子炭水化物のアガロース、

製造法は江戸時代日本の発明です。ゼラチンは低温で固まり常温で溶けるので、口に入れてと

ろける食感、寒天ゼリーは高温でないと溶けないので、口の中でプルルンとした食感を楽しめ

ます。

 調理・加工を支える「名脇役」たち、その自然の恵みにも目を向けましょう。

45-b

 地元小中学校や地域と連携をすすめる高知

農業高校の生徒たちと、南国市の国府・後免野

田の2小学校の小学生が共同で、土佐文旦の規

格外品を使った製品開発をしました(平成18、

19年度)。受粉から収穫、皮むき、果肉の保存

と積み上げてきて、ゼリーの凝固には、山間集

落のお母さんたちから学んだコンニャク、土佐

の海の恵みテングサと、ゼラチンの3つで試作。

食べ比べて、食感や味、温度と凝固性などから、

寒天を使用しました。

 文旦ゼリーのふたには、開発した思いが、次のように込められています。

  南国市児童生徒特産品  寒天ゼリー 土佐文旦

  もったいないから始まった私達の町おこし

 次世代が地域産物に注ぐ「もったいない」の心と技。ますます広げたいですね。

小学生と農高生 規格外品活用で文旦ゼリー開発

農高生と小学生がつくった「寒天ゼリー 土佐文旦」 

楽しい 干しくだもの

リンゴのプリザーブ

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技と知恵2 

食べる

山の恵み

海の恵み

*ワークシート『キノコを育てる 

注意 

山ではこんなことに気をつけよ

う!』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/kno_a_01.html

林務部など)で話し合って立て、それぞれの達人が現場指導・支援するのです。

クイズラリーなど草木の学びは、林務部の担当です。

山のおやつを食べよう…鳥と分かち合いも

 昔に戻って、初夏にはクワの実、木イチゴ、秋にはアケビ、

サルナシなどなど、図鑑を見ながら採ります。子どもたち

は山で見つけた甘い味を喜んで食べます。「これが、おや

つだったんだよ」と教えましょう。遊びながらのおやつ採

り、昔の人をうらやましがるかもしれませんね。

 ヤマガラの好物エゴノキの実、派手な色で鳥を呼ぶミズ

キやゴンズイの実など、動物を育む草木がいっぱいあるこ

とにも注目させましょう。

山の達人の出番です 草木・木の実・山菜の豊かさを伝えよう

 近くにあるのに、入りにくく、魅力も忘れられがちな森や山。しかし達人とい

けば、いろいろな遊び、暮らしの知恵がどんどんふくらんでいきます。

草木で、葉っぱや丸太で 「山の子育て」の一日

 山道のスタートラインに3、4人のグループが

順番に立ち、「用意、ピッ」。「走らないで!」と

言う先生の声を背に、第1問のクイズに着きます。

「えぇと、タケニグサは……」「タケの子ども……

じゃないよね! コレだ」。長野県坂城町の坂城

小学校の秋の学友林遠足(カード16参照)。2、3、

4年生のクイズラリーです。

 アザミやタラノキなど食べられる草木、ウルシ

などの危険な木、どんぐりなど動物が好む実のな

る木、そしてシラカバ ・ナナカマドなどみんなで

植えて育てている木。草木にもっと親しめて、生

活の知恵も身につくような30問です。

 ラリーのあと、3、4年生は、丸太を切る・投げる・PK戦をする「マルタンピック」

で、山仕事にもつながる競技を楽しみます。下級生は、木の葉や枝を使った遊び

をしながら、図工などの表現学習につなぎます。上級生は、きのこ栽培と山林手

入れと、もっぱら学友林の育成・保全。一日の遠足ですが、6年間通えば、山に

強くてやさしい子が育つと思いませんか? 「全体会」に続くお昼には、お母さん

たちが山まで登ってきて「今年はおいしいよ!」と、子どもたちが栽培し収穫した

きのこ汁に腕を振るいます。地域みんなの「山の子育て」の一日です。

 そんな企画を、学友林運営委員会(学校、PTA、町、指導農家、県地方事務所

46-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

 草木クイズラリーは、山の恵みで生まれた地域の食文化、その豊かさも教えてく

れます。アザミは「おやき」、リョウブは炊き込みご飯、コシアブラは天ぷら、ホウ

ノキはほう葉味噌、カシワは柏餅、などなど。そして、おじいちゃん世代の「山の

暮らしの達人」は、子どもの頃、カシワの葉を採って売って小遣いにしました。こ

こ坂城町の農村は、千曲川沿いにありながら三方を山に囲まれた盆地で、乾燥する

土地柄。そのために、香りが高く品質のよい柏葉が育ったとのこと。

 山の草木を生かした先人の話は、この地域にしかない自然の恵みを浮き彫りにし

ます。忘れられてしまいそうな、そんな経験を、遊びのなかで伝えていきましょう。

これはすごい! 山の恵みの食文化を語ろう

山を回って草木クイズラリー

お母さんたちが腕を振るうきのこ汁

山の実を食べてみよう

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技と知恵2 

食べる

山の恵み

海の恵み

*ワークシート『キノコを育てる 

観察・調査 

野生のキノコを探してみよ

う!』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/kno_k_01.html

「食の達人」と山の幸の食育を広げようさらにチャレンジ

スーパーで売っているものと、だいぶちがうぞ

 子どもたちは、ワラビやゼンマイ、ウドなどの山菜も人

の手で育てられて店に並ぶもの、と思っているかもしれま

せん。そこでぜひ、山菜採りを体験させたいものです。土

から伸び出したウドを採る喜びはきっと大きく、その場で

皮をむいて食べれば、栽培物より甘く強い香りに驚きます。

タケノコも、ふだん食べるのは太いモウソウチクですが、

山にはハチク、マダケ、根曲がりなど細めのものが多種類

あって、それぞれの味も旬もちがうので、楽しみがグンと

ふえます。

 そんな違いから、自然の恵みの大きさに気づいてほしいものです。山菜のあれこれをちょっ

と植えてあるおばあちゃんの「宝の庭」を見せてあげるのも良いですね。

山の幸を地域の技で「いただきま~す」

 さあ、食の達人の出番です。子どもたちは、自分で採

った山菜やきのこに愛着があります。それを、おいしく・

むだなく・みんなで楽しむ地域の技で調理体験しましょ

う。

 ウドなら、葉は天ぷら、茎はサラダや酢の物、皮はき

んぴらなど捨てる場所がまったくありません。ゼンマイ

やワラビはあく抜きもさせましょう。ひと手間かけておいしく食べる知恵。それがいっぱい込

められた地域の自慢の食べ方を教えながら、子どもたちと山の恵みをいただきましょう。

山歩きのルール、山とともに生きる知恵を伝えよう

 右上の写真を見せて、こんな看板が立てられるワケを考えさせましょう。「よその人が来て

山菜を採り尽くしてしまうのでは」「ゴミを捨てているんじゃ

ないか」など、子どもなりの考えが出てきます。そこで、 山

菜、きのこ、木の実は地域の人たちの大事な財産であること

を教えましょう。地域の責任者から許可をもらい、山の恵み

をわけていただくという気持ちで山に入ることがたいせつで

す。危険な生物などは事前に確認しておきましょう。

 また、山菜採りなどでは、次の年のことを考えて、全部採

りきらずに残すことを教えましょう。「タラの芽は、三番芽を摘むな」という教えを親から子へ

と伝えている地域もあります。 

46-b

 山菜・きのこといえば、旬の味。しかし、

地域の食の達人たちには、春から秋の忙しい

なかで、山菜やきのこをたくさん保存してお

くことが大事です。山形県真室川町では、山

菜類を塩蔵したものを「青漬」、きのこ類や野

菜を塩蔵したものを「塩漬」と呼び、これに乾

燥保存のぜんまいなどが加わります。冬にな

ると手間をかけて、これら保存食を使って、

みんなが楽しめる料理をつくるのです。

 真室川町立安楽城小学校の5、6年生は、総合的な学習「安楽城の文化のすばらし

さに気づこう」というテーマに、地域の食文化の「納豆汁」づくりを選びました。春

から納豆・豆腐用の大豆の栽培、汁に入れるワラビの採取と保存、からとり(サト

イモ茎)の栽培から保存など、お母さんたちの支援を受けて準備。町の食育イベン

トで、宝の保存食たっぷりの納豆汁を人びとに振るまい、喜ばれました。

山の幸の保存が、 「地域のすばらしさ」体験に

地域の技で山菜料理

よくある看板、どうして?

採ったワラビを学校で塩漬保存。郷土料理の納豆汁

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技と知恵2 

食べる

山の恵み

海の恵み

*ワークシート『魚介を育てる 

遊び・調理 

魚をさばこう』参照 

URL:http://edufarm

.jp/zai/gyo_a_01.html

てしまったけど、漁師さんが『最初はそんなも

んや』と言ってくれて安心した。そして、骨を

見て『これはいい“だし”になるよ』と言ってくれ

てうれしかった」

 おおらかにほめて大事なことに気づかせる、

これが男の料理指導の良さでしょうか。この日、

漁師からは放流ヒラメの刺身と、会員が獲って

加工したしらすをプレゼント。子どもたちからは「(愛着が高まっている)放流ヒ

ラメの刺身がこんなにおいしいことが初めてわかった」「つみれ団子汁にしらすを

入れたらう~んとおいしい!」とうれしいお返し。漁師さんは「今度はおうちでも

つくって、みんなで食べてください」と魚食 PRを忘れません。

海の幸 食べて交流 海の男の料理指導・食育もおすすめ

 漁業体験を指導してきた海の男たち。その着地点は「食育」です。漁船上の包丁

さばきと料理の技で、グンと交流が深まります。

予行演習して「おさかな料理教室」

 和歌山県湯浅町の田栖川小学校の漁業体験を指

導しているのはバリバリの漁業青年たち(カード

17、38参照)。いちばんの課題は、食育の仕上げ「お

さかな料理教室」でした。全員が未経験の分野の

ため、1カ月前に湯浅保健所の調理室で、子ども

向け料理の予行演習をして本番に挑みました。

 魚は、一本釣り専門の会員が釣ってきたばかり

のマアジを、子どもに一人一匹。料理は半身をム

ニエル、半身と骨を「つみれ団子のすまし汁」です。

おおらかに 「最初はそんなもんや」

 まず本日の料理長の会員が、うろこをとる、ぜ

いごをとるから、3枚におろす、ミンチするまで

の工程をデモ。魚の押さえ方、包丁の当て方・動

かし方を実演し、小骨が切れる音も聞かせます。

子どもたちが自分でやるとき、「次は何するの?」

という質問は不思議なほどありません。

 「ぼくは、魚をさばくのはとても難しく感じた

……3枚におろすときは、骨に身がたくさんつい

47-a農林水産省 平成20年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」  作成:(社)農山漁村文化協会

 漁村のお母さんグループ、食生活改善推進員

さんなどは、水産物を生かす、料理指導はお手

のもの。都会へ出かけて漁業と魚食のすばらし

さを伝えて指導する「浜のかあさん」や、県の認

定を受けて魚食普及の活動をする「お魚ママさ

ん」などもおられます。

 海の幸と田畑の幸を結ぶ郷土料理、子どもた

ちの健康な体づくりのための魚貝や海藻の料

理、小魚好きになる楽しみ料理など、たくさんの蓄積があります。こうした皆さん

に力を発揮していただき、食育交流を深めましょう。

海のお母さんたちの食育力は偉大

漁師さんの魚さばき指導

5年生のつみれ団子汁づくり

食べながら交流

漁師さんの魚さばき指導

おおらかにほめるこれが男の指導のメリット

「お魚ママさん」による魚料理教室(愛媛県松前町)

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技と知恵2 

食べる

山の恵み

海の恵み

*ワークシート『魚介を育てる 

表現・まとめ 

成果を発表しよう!』参照

URL:http://edufarm

.jp/zai/gyo_h_01.html

魚の食べ方、これでいいのかな?さらにチャレンジ

育てるから食べるまで 学習発表会で上演アピール

 漁業体験を重ねてきた田栖川小5年生(カード

17、38参照)は、その成果を劇にして、学習発表

会で上演することにしました。そのための最後の地

域体験は、魚屋さんの話を聞くこと。

 あんなにおいしい放流ヒラメなのに安い! とい

う現実も知り、流通への関心が生じたのです。しか

しそこでさらに大事な話を聞き、ドキュメント劇の

結末部を構成することになりました。以下、台本よ

り紹介します。

昔は家族みんなが同じ魚を食べていた!

アナ「魚屋さんをしていて、今と昔とで変わってき

たと思うことはありますか?」

魚屋さん「昔は一匹でもおまけをすると喜んで買っ

てくれましたが、今は必要な数だけでいいというお

客さんが増えましたね」「昔は、 家族全員が同じもの

を食べていました。嫌いなものが出されたとき、子

どもは泣きながらでもそれを食べました。でも、最

近は、例えばおじいちゃんとおばあちゃんが魚を食

べて、若い人がお肉を食べたり、嫌いなものがある

と子どもがまた別のものを食べるということもあるようです」

身だけでなく骨までいただこう

アナ「なるほど、最近はレトルトパックなど、便利なものもありますからね。最後に、魚屋さ

んとして子どもたちに伝えたいことはありますか?」

魚屋さん「魚の嫌いな子もいると思いますが、少しでも食べてみようと思ってもらえるとうれ

しい。それに、魚は骨からおいしい“だし”がとれます。魚を自分でさばいて、1匹の魚を上手

に食べられる大人になってほしいですね」

おさかな健康料理コンテストをしよう

 魚への愛着が増した子どもたちに、「魚や貝

や海藻が体にいいこと」を調べさせましょう。

インターネット検索も有効です。カルシウムい

っぱい、噛んで歯をじょうぶに、だしの味、脳

のはたらきをよくするDHA、などいろいろと

あがってくることでしょう。

 おばあちゃんたちから、おいしくて体にいい

料理の知恵も聞いて、おさかな健康料理コンテ

ストをしましょう。体験した水産物を上手に使

い、学校農園などで収穫した農産物も生かせば

最高ですね。

「雑魚」こそふるさとの味、お魚暦をつくろう

 底引き漁などでは、タイやヒラメやエビなど高級魚とともに、デベラ(タマガンゾウビラメ)

やゲンチョウ(舌ビラメ)など、ややマイナーな地魚が揚がります。広島県の尾道方面では、こ

れらを刺身に、から揚げや南蛮漬けに、さらに冬の寒風に当てて干物にして大根なます・お雑

煮など、ここだけの味を楽しみます。

 対岸の愛媛方面では、すり身料理「さつま」が有名

で、これにはタイが使われますが、夏秋のタチウオ

や年中獲れるトラハゼこそ最高という人もいます。

 食の知恵がいっぱい注がれる地魚たちの楽しみカ

レンダーをつくるのもいいですね。揚がった魚を調

べるときは、ゴンズイやハオコゼなど怖い魚もいる

ので、さわる前に必ず漁師さんのチェックを受ける

注意を忘れずに!

47-b

学習発表会のひとこま

地魚を売って喜ばれる露店

昔の家族、今の家族の魚の食べ方

お魚にはこんないい点があります