49
平成 30 年度市町村課研修生卒業研究報告書 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について 市町村課行政グループ 東野 麻衣 平成 31 年(2019 年)3月

人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

平成 30 年度市町村課研修生卒業研究報告書

人口減少時代における

地方公共団体の職員採用について

市町村課行政グループ 東野 麻衣

平成 31 年(2019 年)3月

Page 2: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

目次

はじめに .................................................................................................................................. 1

第1章 人口減少時代に求められる職員像 ............................................................................ 2

(1)地方公務員数の推移.................................................................................................. 2

(2)求められる地方公務員像の変遷 ............................................................................... 3

(3)これからの地方公務員像 .......................................................................................... 5

(4)採用試験受験者に期待される資質・能力と民間企業との競合 ................................ 7

第2章 就活市場における地方公共団体について ............................................................... 11

(1)就職活動の状況と傾向 ............................................................................................ 11

ⅰ)大阪圏で就活する就活生の「地元」 ...................................................................... 11

ⅱ)採用試験へのエントリー ........................................................................................ 12

ⅲ)平成 17 年と平成 28 年の就職活動量比較 .............................................................. 13

(2)公務員志望者数の推移と就職志望先の傾向 ........................................................... 14

(3)就活市場における地方公共団体の「価値」と母集団の「質」 .............................. 18

(4)民間企業の採用意欲................................................................................................ 21

(5)地方公共団体の採用に係る課題 ............................................................................. 23

第3章 選考手法とその分析 ................................................................................................ 24

(1)教養試験 .................................................................................................................. 24

(2)専門試験 .................................................................................................................. 25

(3)小論文試験 .............................................................................................................. 26

(4)エントリーシート(応募書類) ............................................................................. 26

(5)適性検査 .................................................................................................................. 27

(6)面接試験 .................................................................................................................. 28

ⅰ)個人面接 .................................................................................................................. 30

ⅱ)集団面接 .................................................................................................................. 30

ⅲ)プレゼンテーション面接 ........................................................................................ 31

(7)グループディスカッション ..................................................................................... 31

(8)グループワーク ....................................................................................................... 32

(9)選考手法の比較 ....................................................................................................... 32

第4章 採用プロセスの提案 ................................................................................................ 36

(1)ターゲット層の明確化 ............................................................................................ 36

(2)就活生への情報開示................................................................................................ 37

ⅰ)X市の概要と課題 .................................................................................................... 38

ⅱ)勤務条件 .................................................................................................................. 39

Page 3: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

ⅲ)職場環境 .................................................................................................................. 39

ⅳ)その他 ..................................................................................................................... 40

ⅴ)留意事項 .................................................................................................................. 40

(3)採用試験申込方法の選択 ........................................................................................ 40

(4)エントリーシートでのスクリーニング .................................................................. 41

(5)選考方法のよりよい組み合わせについての提案 .................................................... 41

おわりに ................................................................................................................................ 44

参考文献 ................................................................................................................................ 45

Page 4: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

1

はじめに

2020 年4月1日から、「地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律」(平成 29 年

法律第 29 号)が施行される。今回の法改正の趣旨は、地方の厳しい財政状況が続くなか、

多様化する行政需要に対応するため地方公共団体が雇用を増やしてきた臨時・非常勤職員

の任用制度の適正化にある。近年、地方公共団体が実施しなければならない業務は増加し、

内容的にも多様化・高度化・専門化が進んでいる。しかし、少子高齢化や人口減少による税

収の低迷が想定される一方で、社会保障費は年々増加している等、人口構造に起因する財政

難は今後も地方公共団体の運営を様々な面で圧迫することが見込まれている。財政面での

課題をクリアすべく、人件費の抑制を余儀なくされた地方公共団体が正職員の採用を絞っ

てきた結果として、臨時・非常勤職員は増加してきた。

上記の潮流において、地方公共団体における職員採用の重みは、従前以上に増しているこ

とは疑いようがない。

では、地方公共団体は、①どのような人材が自らの組織に必要であると分析し、②就職活

動市場における自らの立ち位置をどのように求め、③どのような手法をもって人材を選考

し、採用を決定しているのだろうか。①については、「人材育成基本方針」等を制定してい

る地方公共団体も多いが、②・③に係る検討はあまりされていないように思われる。

このような現状を踏まえ、以下のような狙いと構成で整理・提案するものである。

≪本稿の狙い≫

本稿は、第1章で地方公務員に求められている職員像と資質や能力の変遷を述べ、第2

章で就活市場における地方公共団体の「価値」を考察する。さらに、第3章で地方公務員

試験、とりわけ市町村行政職試験で採用されている選考手法のうち主だったものを紹介・

整理し、最後に第4章でよりよい組織運営のための採用プロセスを提案することを目的と

している。

地方公共団体において、人材のライフサイクル管理は組織運営に直結するため、極めて重

要である。したがって、本来であれば、採用・人材育成・処遇等を一体に論じなければなら

ないが、紙面の都合により、本稿では採用における選考方法に焦点を当てて述べることとす

る。また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

って考察する。

なお、文中における意見部分については、筆者の私見であることを申し添えておく。

Page 5: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

2

第1章 人口減少時代に求められる職員像

(1)地方公務員数の推移

総務省が実施した「地方公共団体定員管理調査」の結果によると、平成 29 年4月1日時

点における地方公務員の総数は、2,742,596 人であった。その内訳は、都道府県(47 団体)

の職員がおよそ半数を占め、市町村(1,724 団体)や一部事務組合等(1,320 団体)の職員が

残る半数となっている(図表1)。

職員数の推移としては、平成6年以降、引き続く採用抑制措置等により減少傾向にある

が、平成29年は23年ぶりに増加に転じた。しかし、職員数でみると、平成6年のピーク時

に比し、約16.5%減少していることがわかる(図表2)。

【図表1】地方公務員の団体区分別構成

(総務省「平成29年地方公共団体定員管理調査結果」から抜粋)

【図表2】地方公務員数の推移(同上)

Page 6: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

3

地方公務員の総数が増加に転じた理由として、市町村の職員数が増加したことがあげら

れる。前述の調査では、都道府県職員数が前年比113,075人減少した一方、市町村職員数

は同118,408人増加している。平成28年4月1日時点の全市町村の合計職員数が1,236,485人

であったことを踏まえると、全国の市町村は、職員を約10%増やした計算になる。

では、大阪府内の市町村の状況はどうだろうか。

【図表3】大阪府内市町村(政令市除く。)の職員数推移

(定員管理調査の大阪府とりまとめ資料により、筆者が作成)

図表3にみるとおり、大阪府内市町村(政令市除く。)の職員数は、平成 25 年から緩やか

に上昇に転じている。増加の原因は、生活保護や幼稚園・保育所といった民生・教育関係に

係る体制強化のほか、平成 26 年度から本格実施された地方公務員の再任用制度の影響を受

けたものと考えられる。

(2)求められる地方公務員像の変遷

戦後、社会経済情勢の変化に伴って、求められる地方公務員像も大きく変化してきた。本

節では、その変遷を追う。

昭和 20 年代前半、地方自治制度や地方公務員制度が整備された当初は、新制度を確実に

学習・理解し、その理念や理論のとおりに事務を処理できる職員が求められており、地方公

務員の研修も、法律によって定められた諸制度や国の省庁の方針等を学ぶものが中心であ

った。しかし、この時期は高度経済成長の端緒でもあり、既存の国制度が想定していない諸

問題が自治体に重くのしかかっていた。そのため、国の定めた制度について詳しい職員と、

いわゆる革新自治体において国と対決するような施策を進める職員とが求められ、両者が

併存するような状況であった。

そして昭和 48 年のオイルショックによって高度経済成長が止まると、世の中の考え方も

30,188 29,807 28,859 28,320 27,662 26,973 26,180 25,399 24,855 24,084 23,319 22,650 22,330 22,074 21,923 22,061 22,301 22,360 22,613

0

10,000

20,000

30,000

平11平12平13平14平15平16平17平18平19平20平21平22平23平24平25平26平27平28平29

市 町村

Page 7: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

4

大きく変わり、求められる地方公務員像も変化した。物中心の経済至上主義への反省から、

心の豊かさを求める文化行政や環境行政へと重点のシフトが生じたのである。また、自治体

経営という言葉に象徴される「管理運営」に強い首長や職員が重視されるようになり、官民

のコスト比較や事務の外部委託等が重視されるようになった。

また、戦後進んだ日本経済の国際化は、行政のあり方を変容させた。すなわち、国家は国

際関係に、地方は地域の自治に責任をもち、全体として調和を保つシステムが求められたの

である1。このことは、平成 11 年の地方自治法改正につながり、機関委任事務制度の廃止に

象徴される地方分権や、都道府県と市町村の関係見直し等、従来の枠組みの大きな変更を招

いた。この法改正により、市町村は多様性をもった存在となる道を開かれたが、その一方、

業務量の増加が深刻化していくことになった。合併特例債の創設等による合併促進、いわゆ

る平成の大合併が行われたのは、この頃である。

行政のあり方が変容したことに伴い、求められる職員像も変化した。地方公務員制度調査

研究会(1999)は、「地方公務員も地域で生きる一員として、住民とともに地域の問題を語

り合い、考え、解決に努力する人間であることが望まれている。言い換えれば、(従来から

求められていた)専門性、創造性(、柔軟性)と並んで、あるいはそれ以上に、協働性ひい

ては、豊かな人間性やコミュニケーション能力が要求される」(カッコ内は筆者)とし、従

前以上に、「住民の信頼を得る職務能力、公務員としての倫理観や責任感が求められる」よ

うになったとしている2。

平成17年、地方公共団体の財政が悪化したため、国の号令により集中改革プランが推進

された。人事の面でも、平成の大合併とそれに伴う「行政改革の重要方針」が平成17年12

月24日に閣議決定され、地方公共団体に対して、5年間で17年度比5.4%以上の職員数純減

を集中改革プランに盛り込むことが要求された。これにより、平成22年まで地方公務員数

は減少の一途をたどることとなる。一方、市町村の事業に目を向けると、たとえ住民ニー

ズが低くても受益者がゼロのものはあまりないため、事業のスクラップ&ビルドの徹底は

実際には難しい状態があった。その結果、事業数は増加し、職員は減少するという期間が

続いた。この頃、各地方公共団体では、平成16年6月の地方公務員法改正により定めるこ

とを義務付けられた「研修に関する基本的な方針」として、「人材育成基本方針」が定め

られていった。

この頃はどのような職員が求められていたのだろうか。平成19年に自治大学校が実施し

た「地方公共団体の人材育成のための人事評価と職員研修の連携・活用に関する調査」に

よると、住民の視点・立場で行動する職員像や、住民に信頼される職員像等、住民志向・

住民本位の理念が目立ったほか、社会の変動への対応力、法令遵守、自己の能力開発、プ

1 [阿部孝夫, 1999]

2 [地方公務員制度調査研究会, 1999]

Page 8: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

5

ロ意識等が重視されていることが判明している3。なお、平成25年度に行われた調査でも同

様の項目があり、優先度の差はあるが、重要視される項目はほぼ変わらない状況である

(図表4)4。

【図表4】職員に求められる能力

(自治大学校「地方公共団体の人材育成のための職員研修の活用に関する調

査」(平成25年)から抜粋)

(3)これからの地方公務員像

これまで述べたように、地方公務員が果たすべき役割や位置づけに起こる変更、あるいは

職務環境の変化は、人口の増減や社会情勢の変化と深く関わりがある。

人口減少についてはかねてより警鐘が鳴らされていたが、平成 26 年5月、「消滅可能性

都市」という衝撃的な名称が日本創生会議のレポートで使用されたことを契機に表面化し

た。ほぼ時を同じくして同年9月、安倍政権による地方創生の取り組みが始まり、地域発で

の企画構想を国が後押しするというボトムアップのスキームが登場した。裏を返せば、市町

村は、独自の企画構想なしには、地方創生に関する国の援助を得られないという状況に置か

3 [自治大学校, 2007]

4 [自治大学校, 2015]

Page 9: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

6

れたこととなる。このような国の動きに対応するために、市町村は地域発の創意に基づく政

策を提案する必要に迫られている状況にある。

では、この状況で求められる地方公務員像、特に市町村職員像はいかなるものであろう

か。大阪府内の市町村が作成した人材育成基本方針等を参照すると、一見総花的な「求め

る職員像」が掲げられていることが多い。これは、従来から重要視されていた「専門性」

「創造性」「柔軟性」「豊かな人間性」「コミュニケーション能力」「倫理観」「責任感」

に、新たに求められるようになった資質・能力を加えて掲げたための結果であると推察さ

れる。本節では、新たに求められるようになった資質・能力について、大杉(2015・

2014)を参考に整理し、次節以降の論考につなげたい5,6。

大杉は、現在求められる公務員像を「現場実践する自治体職員」と「越境する自治体職

員」と表現している。

「現場実践する自治体職員」とは、地域の実情を踏まえ、地域の発意をきめ細やかにす

くい上げつつ、地域の具体的な課題の解決に資することのできる職員と言い換えられる。

すなわち、前節でみたように、平成11年に示された「分権型社会における地方公務員のあ

り方にふさわしい」職員像が引き続き求められているのである。まずは、20年以上前に示

された職員像が実現できているかどうかが、地方公共団体として職員の採用・育成に正面

から取り組んでいたか否かの一定の物差しになると考えられる。

大杉は、この現場実践力に加え、現在は、そこから進化した「政策企業力」の重要性が

増していると述べている。

大杉によると、政策企業力は、「あるべき現場実践」の一連の流れの中に存在する力で

あるという。すなわち、現場実践の元となる発想である「現場主義」は、「現場で様々な

事態に直面し、悩むなかから考え抜き、そこから得た知恵や理屈や経験を自治体経営の方

法論へと昇華させつつ、試行錯誤を経ながらより洗練された実践につなげる行動様式」と

捉えられるとし、「あるべき現場実践」は、現場での実践段階(フロント)・現場で得られ

た成果の職場内共有(ミドル)・全庁的な経営的視点への反映と庁内連携(バック)から

なるボトムアップの流れからなり、「政策企業力」はバックを行うために必要な、政策立

案力や情報伝達力等自らの持てる力を傾注して案を実践へと具体化する、持続的で総合的

な力のことを指す。本稿では、「政策企業力」とは、「個人的な現場体験を組織に還元し、

政策レベルに反映させ、持続的に課題解決案の具体化を実現しつづける力」と理解するこ

ととしたい。

一方、大杉の言う「越境する自治体職員」は、前者よりイメージが付きやすい。

近隣市町村との行政界、庁内組織間や国・都道府県・市町村という役割分担、民間の企

業やNPO等団体との官民の境界等、職務の中で意識しがちな「壁」をしなやかに乗り越

5 [大杉覚, 2014]

6 [大杉覚, 2015]

Page 10: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

7

え、公務員だけではなく地域にかかわる多様な人々が形成する全国規模から学校区規模ま

でに至る様々なネットワークをフル活用できる職員のことを指す。

ひとつの市町村による自己完結・フルセット型の単体経営の限界が言われているなか、

市町村間での連帯交流・相互補完型の連携経営を見据える必要があり、連携経営の前提と

して地域の”強み”を核に総力を結集することが求められている。「越境する自治体職員」

は、ときに媒介役として、ときにファシリテータ役として、連携経営に重要な役割を果た

すと考えられる。

地方公共団体が実施しなければならない業務は増加し、内容的にも多様化・高度化・専

門化が進んでいる状況であるにもかかわらず、新たに求められるようになった資質・能力

は、経験を積まなければ獲得できず、人間関係の構築なくして発揮されるものではない。

このことに着目すると、地方公共団体は、実務を処理する能力だけをもって職員を雇用す

るのではなく、将来の活躍可能性や潜在能力といった資質をもち、業務に携わるうちに身

につける能力や知見が組織に役立つことを期待して職員を雇用すると考えられる。

(4)採用試験受験者に期待される資質・能力と民間企業との競合

本節では、前節で述べた職員像に求められる資質や能力を再掲・整理し、地方公共団体と

民間企業が人材獲得において競合しているかを考察する。

前節で述べた職員像に求められる資質や能力を項目として整理すると、次の9つにまと

められる。

① 専門性

② 創造性

③ 柔軟性

④ 豊かな人間性 現場実践力

⑤ コミュニケーション能力

⑥ 倫理観

⑦ 責任感

⑧ 政策企業力

⑨ 越境する力

これらの資質や能力のなかには、「⑧政策企業力」のように広い概念を持ち検証が困難も

のと「①専門性」のように単純で検証が容易なものが混在している。地方公共団体は、ど

のようなポイントに着目し、上記の資質や能力を検証しているのだろうか。地方公共団体

を標本とした調査がなかったため、民間企業を標本としたアンケート調査(図表5)の要

素を準用し、採用時に着目すべきポイントを推測する。

Page 11: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

8

【図表5】人材雇用を決める際、選考時に着目しているポイント

(株式会社マイナビ「2018年企業人材ニーズ調査」から抜粋)

上の図表5は、株式会社マイナビによる「2018 年企業人材ニーズ調査7」からの抜粋であ

る。横軸の 25 項目は、唯一「企業理解」を「(応募する)地方公共団体の特徴や強み・弱み

への理解」と読み替えれば、すべて地方公共団体にも適用できる。便宜上、この 25 項目の

うち、正社員(新卒採用)において着目率の高い上位 15 項目に着目し、前掲の9つの資質・

能力との関係性を見ていきたい。

次の図表6は、新卒採用正社員選考時の着目ポイントと、地方公務員に求められる資質・

能力の関連を、筆者が表にあらわしたものである。なお、最も着目率の高い項目は「志望動

機(やる気)」であるが、一定の志望動機を求めるのは当然と考えられ、いわば選考に至る

までの基本事項であるため、対象外とした。

7 [㈱マイナビ, 2017-]

Page 12: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

9

【図表6】企業の選考時着目ポイントと地方公務員に求められる資質・能力

志望動機 企業理解 責任感専門知識・技術

積極的な行動

個人の将来展望の有無

頭の回転の速さ

高いストレス耐性

企業文化に馴染めそう

言語スキル(話す・文章を書く)

気配りができる

規律性・倫理観

臨機応変な対応

論理的思考力

保有資格

① 専門性 ● ● ● ●

② 創造性 ● ● ● ● ● ●

③ 柔軟性 ● ● ● ● ● ● ● ●

④ 豊かな人間性

● ● ● ●

⑤ コミュニケーション能力

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

⑥ 倫理観 ● ● ●

⑦ 責任感 ● ● ● ● ●

⑧ 政策企業力 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

⑨ 越境する力 ● ● ● ● ● ● ●

地方公務員に求められる資質・能力

選考時着目ポイント

図表6の●は、例えば、縦軸「①専門性」を求める場合に選考時に着目するポイントは「専

門知識・技術」「個人の将来展望」「論理的思考力」「保有資格」というように、縦軸の能力・

資質を見るうえで着目するであろうポイントに付している。

この図表6で、すべての選考時着目ポイント(横軸)に1つ以上の●がついていることか

ら、地方公共団体と民間企業で、選考時に着目する能力・資質が共通していることが推察で

きる。

また、地方公務員に求められる資質・能力、とりわけ●の多い「③柔軟性」「⑤コミュニ

ケーション能力」「⑧政策企業力」等については、概念が広いため、選考時に多くのポイン

トに着目して評価する必要あることがわかった。

次に、下の図表7で、企業が正社員(新卒採用)に何を求めているかを確認する。

【図表7】採用(契約)のスタンス 雇用形態別(図表中丸印は筆者)

(株式会社マイナビ「2018年企業人材ニーズ調査」から抜粋)

Page 13: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

10

「ポテンシャル(将来の活躍可能性・潜在能力)重視」という回答が、実に4割に上るの

だが、これは、前節の最後で述べた地方公共団体が新規採用職員に求めていることと合致し

ている。大きな括りではあるが、地方公共団体と民間企業の求める資質・能力が重複してい

ることの一つの証左といえよう。

これらのことにより、企業の求める人材が、前節で述べた地方公共団体の求める人材と共

通点が多いと推論できる。

以上のことから、地方公共団体と企業の求める人材は、概ね重複すると考えた方がよいこ

とが判明した。

Page 14: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

11

第2章 就活市場における地方公共団体について

第1章では、時代の流れと求められる地方公務員の資質の変遷、現在求められる地方公務

員像を述べ、地方公共団体と企業の求める人材が概ね重複することを考察した。

本章では、就職活動の状況と傾向を概観し、就活市場における地方公共団体の「価値」と、

人材獲得における競争相手である民間企業の採用意欲について整理する。

(1)就職活動の状況と傾向

中島・堀(2017)8では、大学生の就職活動の変化について、平成 17 年に行われた調査

と、平成 28 年に行われた調査を比較している。本節では、当該論文を参考に、就職活動の

状況と傾向を概観する。

この 10 年間について見ると、労働市場における高学歴化の進展、平成 18 年の好景気か

ら、平成 20 年のリーマンショックに端を発する景気の低迷、そして近年の景気回復による

売り手市場と、状況の変化が著しい。

このような変化を踏まえ、本節では、次の3点について整理する。

まず、大阪圏における就職活動の状況である。特に、市町村においては地元雇用が多いと

考えられるため、新卒就活者の出身地域に着目する。

次に、採用試験へのエントリーがどのような媒体によって行われるかである。エントリー

の容易さは、応募へのハードルの一部を構成すると考えられるためである。

最後に、平成 17 年と平成 28 年を比較したときの就職活動量の変化である。民間企業応

募者の就職活動量によって、一定の対策が必要な公務員試験への意識が異なると推察でき

るためである。

ⅰ)大阪圏で就活する就活生の「地元」

直近の大阪圏における就職活動の状況について、平成 28 年度の活動地域(図表8)に着

目したい。

大阪圏は、東京圏に次いで、大阪圏以外から就職活動に訪れる就活生が多い。とはいえ、

地元府県の者が文系 37.7%、理系 31.9%であり、大阪圏(地元府県を除く。)出身の者が文

系 36.9%、理系 35.5%である。文理平均約7割の者が大阪圏出身者、残りの3割が非地元

出身者という構成である。

非地元出身者の割合が多いのは、東京・大阪圏の特徴であるが、立地企業が多いために他

地方から就職活動に訪れる就活生が多いことがその要因だ。このことから、大阪府以外を出

8 [中島ゆり 堀有喜衣, 2017]

Page 15: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

12

身地とする6割強を母集団に加えるか否かが、地方公共団体、とりわけ市町村の採用活動に

おけるひとつの視点になると考えられる。

なお、ここでいう地元府県とは、出身地であるかどうかにかかわらず、愛着を持つ地域と

して調査されていることにご注意いただきたい。

【図表8】就職活動地域と地元との関係(中島・堀(2017)から抜粋)

ⅱ)採用試験へのエントリー

次の図表9は、就職における応募経路を示している。採用試験へのエントリーについて、

「自由応募」(ウェブサイト等からのエントリー)を利用する学生は、95.5%に上り、「自由

応募のみ」しか利用しなかった割合は 72.6%であった。このことから、現代大学生の就職が

インターネットを通じた「自由応募」中心になっていることは間違いない。

Page 16: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

13

【図表9】大学生の就職における応募経路パタン(上位5パタン)

(中島・堀(2017)から抜粋)

一方、市町村の採用試験への応募はどうだろうか。筆者の知るところ、ウェブサイト等か

らのエントリーのみで応募が完結する市町村は少ない。所定の用紙に必要事項を記入し、郵

送または持参を求めている市町村が多いと思われる。民間企業と比較すると、採用試験への

エントリーにおいて、ハードルが高く設定されているところが多いといえるだろう。

もっとも、ハードルを高く設定することは悪いことではない。エントリー自体を第3章で

述べる「選考」の一部と捉えて、意識的に行っているのであれば、むしろ良いことであると

考えられる。しかし、母集団を大きくしたい切迫した理由がある等の場合は、従前からの「郵

送」「持参」といったエントリー方法がいらぬ障壁となっている可能性があるため、注意が

必要だ。

ⅲ)平成 17 年と平成 28 年の就職活動量比較

中島・堀(2017)では、2つの調査で判明した大学専攻別の就職活動量について、社会

科学系と工学系の就職活動量の変化が特徴的であると述べられている。同論文にて分析さ

れている就職活動量の変化は次のとおりである。

「企業説明会に参加した企業数」は社会科学系で18.7社から34.2社,工学系11.6社から

19.4社、「エントリーシートを送った企業数」が社会科学系17.4社から20.4社、工学系10.4

社から10.5社、「面接を受けた企業数」社会科学系9.3社から13.1社、工学系5.7社から7.6社

となっており、いずれも平均値が増加していることから、学生がこなさなくてはならない

就職活動量は増加傾向にあることがわかる。

このことから、いわゆる公務員試験への対策に要する時間の確保は、民間企業を志望す

る者にとって、年々ハードルが高く感じられる傾向にあると考えられるため、市町村が民

Page 17: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

14

間企業を併願する者を含め受験者を増加させたい場合は、何らかの対応策が必要であると

推察される。

(2)公務員志望者数の推移と就職志望先の傾向

公務員への就職希望は、景気の影響を大きく受けることが知られている。次の図表 10は、

文部科学省による「平成 30 年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査」9と総務省による

「定員管理調査」10、人事院による「長期統計等資料」11に基づき、筆者が作成した。この

表に示されているとおり、全体的な傾向としては、就職内定率が高くなれば、公務員志望者

が減少する傾向にある。地方公共団体受験者数は平成 23 年以降減少傾向にある一方、国家

公務員の受験者数は平成 24 年以降ほぼ横ばいである。

【図表10】受験者数と就職内定率の推移

(文部科学省「平成30年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査」、総務省

「定員管理調査」、人事院「長期統計等資料」に基づき、筆者が作成)

次に示す図表 11 は、前述の調査から筆者が作成した、就職内定率と国家公務員・地方公

務員試験の倍率を比較したものである。全体的な傾向としては、景気の回復に伴い公務員志

望者が全体的に減ってきていることや、国家公務員に比して地方公務員の方が募集人員に

対する志望者が多く競争率も高いことが読み取れる。

9 [文部科学省, 2018]

10 [総務省, 2018]

11 [人事院, 2017]

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

400,000

450,000

平16 平17 平18 平19 平20 平21 平22 平23 平24 平25 平26 平27 平28

就職内定率 国家公務員受験者数 地方公務員受験者数

Page 18: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

15

【図表11】公務員試験の倍率と就職内定率の推移(同上)

次に、大学生の志望傾向について、株式会社リクルートキャリアが実施した「働きたい組

織の特徴」12に係る調査に基づき、平成 26 年卒と平成 31 年卒の志望傾向を比較する(図表

12・13)。20 項目中 18 項目で傾向はほぼ変わらなかったが、差のあった3項目から読み取

れる近年の就活生の志向の変化は、どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的

な能力、すなわちポータビリティ能力の重視と、ストレス回避、小集団志向である。

12 [㈱リクルートキャリア, 2014-]

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

平16 平17 平18 平19 平20 平21 平22 平23 平24 平25 平26 平27 平28

国家公務員試験 地方公務員試験 就職内定率

倍率

Page 19: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

16

【図表12】働きたい組織の特徴(図表中丸印は筆者)

(㈱リクルートキャリア[働きたい組織の特徴(2014年卒)]から抜粋)

Page 20: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

17

【図表13】働きたい組織の特徴(図表中丸印は筆者)

(㈱リクルートキャリア[働きたい組織の特徴(2019年卒)]から抜粋)

なお、平成31年卒業生が支持した上位5項目は、「18)A:仕事と私生活のバランスを自

分でコントロールできる」「2)A:安定し、確実な事業成長を目指している」「20)A:

コミュニケーションが密で、一体感を求められる」「8)A:入社直後の給与は低いが、長

く働き続けることで後々高い給与をもらえるようになる」「13)A:周囲に優秀な人材が多

く、刺激を受けられる」の順であった。

Page 21: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

18

(3)就活市場における地方公共団体の「価値」と母集団の「質」

本節では、

(1)ⅰ)大阪府外出身者が6割強を占めるが就職活動者自体は多い

ⅱ)採用試験へのエントリーはウェブサイトから行っている者が圧倒的に多い

ⅲ)就職活動量は増加傾向にあり、現在の就活生は多忙である

(2)就活生は、ワーク・ライフ・バランス、安定性、年功序列的給与制度、成長できる

組織環境を望み、かつ近年はポータビリティ能力を重視し、ストレス回避・小集団

志向にある

という状況において、地方公共団体、とりわけ市町村は、就活生からどのような印象をも

たれているか、つまり就活市場における地方公務員の「価値」と、それに応じる就活生から

なる母集団の「質」について考察したい。

福島(2017)によると、公務員は若者に人気の職種であり、とりわけ地方公務員と教員の

人気が高いという。その理由は、「日本の若者は、職業に付随する経済力や威信には関心度

は低く、むしろ安定性や現実性を重視する」ため、地方公共団体は「安定した職業であり、

ほぼ残業なく、定時に業務が終わる」うえ、女子にとっては「男女平等で結婚後も仕事が継

続でき、育児休暇等も取りやすい」職場であると見られているからである13。

前節でも述べたが、大学生が就職活動をするにあたり、ワーク・ライフ・バランスを重要

視していることが、ここからも読み取れる。一方、仕事のやりがいや、地域への貢献といっ

たモチベーション面は、少なくとも表面には出てこない。

就活生が安定性、少なくとも居住環境の安定性を重視していることがわかる実例がある。

それは、北海道庁の平成 30 年度新卒採用において、内定辞退が6割に上ったという出来事

である。その理由について、山崎(2018)は、「すべての関係者が一様に上げている最大の

理由は『転勤』であった。」とし、次のように述べている14。

(都市機能が集積し、住みやすい都市環境を備えた)札幌で生まれ育った環境を当たり前

と感じている学生にとってみれば、親元を離れ小さなマチでの一人暮らしは想像をはるか

に超えることであり、…内定辞退者の相当数が札幌市役所をはじめとする市町村を選択す

る事情には、こうした学生の「定住志向」がある。

実は、同様の構図は北海道に限らず、…県庁職員よりも市役所職員の方が、学生に人気が

あるケースが全国の府県には散見される。(文中のカッコ書き及び中略は筆者)

この実例から、就活生が「居住環境の安定性」を非常に重視していることがわかる。おそ

13 [福島康仁, 2017]

14 [山崎幹根, 2018]

Page 22: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

19

らく、それはワーク・ライフ・バランスの一部を構成するものとして認識されているのであ

ろう。

引用部分後段で述べられているとおり、市町村では勤務先が概ね固定され、通勤圏も一定

である。また、大阪府の場合は、他都道府県に比し、狭い面積の中に政令市や中核市等一定

の居住環境を備えた都市が点在しているため、市町村職員として勤め、生活を営んでいくな

かで、極端な居住環境の変更を強いられる状況は少ないと考えられる。その点、大阪府内の

市町村は、就活生のニーズには応えやすい環境にあるといえよう。

では、勤務条件さえ整えれば、地方公共団体が雇用したい「質」、すなわち資質・能力を

持った就活生は集まるのだろうか。大谷(2018)は、「強固な志望動機を持つ者を中心に、

公務員志望者は今も相当数存在する」と述べ、公務員志望者のタイプを図表 14 のように分

類し、その根拠を次のように述べている15。

就職先を絞り込む時、学生はまず勤務地で絞り込む。近年、特に地方出身・在住の学生は、

地元志向が強く、転勤を嫌がる傾向が見られる。

さらに、公務員志望者は二つに大別される。一つは勤務条件に惹かれて志望する者(以下、

「勤務条件重視派」)、もう一つは公務という仕事にやりがいを感じて志望する者(以下、「や

りがい重視派」)である。

「勤務条件重視派」は、「公務員は安定していて、給与も良い。残業も少なく、休みも取

りやすい」等と考えており、どちらかというと軽い気持ちで公務員(特に市区町村職員)を

志望しているケースが多い。…特に、女性の労働環境が比較的整っていることから、女子学

生は自治体(特に市区町村)を志望し続けることが多い。

これに対し、「やりがい重視派」は、「地元を盛り上げたい」、「商店街を活性化したい」、

「困っている人の力になりたい」等、より具体的である。…

なお、多分に感覚的な話であるが、目的意識の明確な学生は、都道府県より市区町村を志

望することが多いように思われる。住民に近く、仕事を具体的にイメージしやすい市区町村

に対し、都道府県の仕事はイメージしにくいのが影響しているようである。また、都道府県

の場合、その広さによっては転勤もあり得る。地元志向が強い場合、転勤を嫌って都道府県

を避けることも少なくない。(文中のカッコ書き及び中略は筆者)

15 [大谷基道, 2018]

Page 23: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

20

【図表14】公務員志望者のタイプ別分類

(大谷基道「就職先としての自治体―学生は何を求めているのか」から抜粋)

大谷は、学生は「自治体職員のやりがい」、「仕事内容の詳細」や、「勤務条件」、「職場環

境」等の情報を求めており、そのような情報を十分に発信することで、自ら応募先を絞り込

んできた者だけが応募するようになれば、図表 14 中「合格すれば儲けもの」の学生のよう

な「招かれざる人材」ではなく「自治体が求める人材」の応募が増加すると分析している。

ここまでに述べたように、地方公共団体、とりわけ市町村の「価値」は、決して低くはな

い。現在の学生の志向を鑑みると、大阪府内の市町村は、勤務条件を前面に出し、しかるべ

き広報を行うだけで十分な母集団を形成できるかもしれない。しかし、それでは求める「質」

に届かず、「量」だけが増加し、選考にかかる費用がいたずらに増加すると考えられる。

また、採用のミスマッチについても、留意が必要である。採用広報に際して、優秀な人材

を獲得しようとするあまり、就活生に過度な期待を持たせ、事実と異なるイメージをさせる

ことは、定着率の低下を招き、新規採用職員の早期離職につながる。また、組織の風土や職

場環境等についての悪い情報をありのまま開示することは、応募に際して学生自身の取捨

選択を可能にする一方で、率直さ・誠実さのアピールにもつながる。

学生が求める情報を広め、学生自身が応募先を絞り込んだ後、採用試験にエントリーする

よう導くのが肝要だろう。筆者としては、公表する情報を構築・精査していくなかで、それ

ぞれの市町村が自らの強みを分析し、それを活かした組織づくりへと連鎖させていくこと

Page 24: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

21

を強く望む。

(4)民間企業の採用意欲

ここまで、過去から現在に至るまでの就活市場と学生の志向について述べ、前節では、学

生の志向と地方公共団体とりわけ市町村の就活市場における「価値」と母集団の「質」につ

いて考察した。本節では、民間企業を採用活動の新たな競争相手であることを確認し、採用

費の推移を指標として、彼らの採用意欲を概観する。

株式会社マイナビ「2018 年企業人材ニーズ調査」によると、「昨年と比べ新卒採用のニー

ズは変化したか」という項目への回答が、増加した約 40%、変わらない約 50%、減少した

約 10%と、新卒採用に高いニーズがあることがわかる(図表 15)16。

【図表15】前年と比較した採用ニーズの増減

(㈱マイナビ「2018年企業人材ニーズ調査」から抜粋)

では次に、民間企業が費やしている採用費を確認したい。採用費とは、採用にかかる費用

のことで、メディア掲載や採用ホームページ作成費、会社説明会や面接学生の交通費等の合

計額を指す。これらは、「コスト」ではなく、将来への「投資」と考えられるため、ここで

は民間企業の採用意欲を客観視するために、その金額を確認するものである。なお、次の図

表 16 は、前年に対して1人採用するのにかかるコストの増減であるが、平成 30 年の調査

では、新卒正社員については実に 43.5%の企業が前年より多くの費用をかけていることが

わかる。

16 [㈱マイナビ, 2017-]

Page 25: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

22

【図表16】前年と比較した1人採用するのにかかるコストの増減

(㈱マイナビ「2018年企業人材ニーズ調査」から抜粋)

経年比較として、平成 20 年から平成 30 年までの具体的な金額を見ていこう17。

【図表 17】採用費の経年変化と1人あたり採用費の推移

(㈱マイナビ「企業新卒内定状況調査」から筆者が作成)

図表 17 は、株式会社マイナビ「企業新卒内定状況調査」から筆者が作成したグラフであ

る。採用費の合計が減少から横ばいになっていること、そして、採用費の 1 人あたり金額が

調査項目となった平成 24 年以降において、民間企業が新卒採用にかけるその費用は右肩上

がりであることがお分かりいただけると思う。また、採用費の 50%前後を広告費が占めて

いるものの、説明会開催費や面接学生の交通費、選考にかかる費用といった広告費以外の費

17 マイナビ 企業新卒内定状況調査

https://saponet.mynavi.jp/release/enterprise/#category-naitei

902.9

718.8

550.3 575.4

499.4

557.9

43.945.5

46.1

48.0

42

43

44

45

46

47

48

49

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

平20 平22 平24 平26 平28 平30

その他 広告費 1人あたり

Page 26: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

23

用が平成 24 年以降増加傾向にあることが特徴的である。

実際の採用において、地方公共団体と民間企業のが求める人材と民間企業が選考時に着

目しているポイントの関係については、第1章(4)で既に整理した。その結果、就活市場

で民間企業と地方公共団体は競合しているという結論を得、地方公共団体は、就活市場にお

いて、民間企業を含めた他団体と人材獲得競争を繰り広げていることは、すでに述べたとお

りである。ターゲット層に位置する人材に対して、民間企業は、採用1人あたりの単価が上

がっても慎重に選考を行っているものと推察される。本節で触れた2つの調査の結果から、

有用な人材に対する民間企業の採用意欲は、年々高まっているものと考えられる。

(5)地方公共団体の採用に係る課題

これまでに述べたとおり、就活生に望む資質・能力が似通っているため、地方公共団体と

民間企業は、採用において競争関係にある。また、前節で見たとおり、競争相手である民間

企業が、高い新卒採用ニーズを満たすため、求める人材を得るために費やす1人当たりの採

用費は年々増加している。

一方、地方公共団体がかけられる費用は、民間企業に比べ少ない。民間企業のように選考

に係る費用と同額を広告にかけられる状況が、今後市町村に訪れるとは考えにくい。

また、当然のことながら、競争相手は民間企業だけではない。市町村の場合であれば、他

の市町村や都道府県、国、一部事務組合等とは、常に競争する関係にある。大阪府のように

面積の小さな市町村が集まっている場合は、勤務条件の一部である勤務地に差が出にくい

ため、近隣の市町村や一部事務組合同士での人材獲得競争は一層熾烈になると考えられる。

理想は、それぞれの地方公共団体が自区域内外にファンを持っていて、その中から、毎年

質のいい必要十分な規模の母集団が自然発生し、安心して選考・採用できればよいのである

が、現実にはそのような状況が起こるとは考えづらい。

したがって、勤務条件や組織環境等の情報提供や広告による母集団の形成と、なるべく低

廉で効率的な選考は、地方公共団体の採用における課題である。

近年では、個性的な広告や選考手法等の話題作りをもってメディアに露出することで、広

告効果を高める戦略をとる市町村も散見される等、興味深い事例は多いが、本稿では紹介を

割愛する。次章では、受験者の中から求める人材を最も効率的に選考するために、それぞれ

の選考方法を分析する。

Page 27: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

24

第3章 選考手法とその分析

公務員試験の歴史は、明治時代に遡る。国家公務員の採用試験の変遷については、歴史的

資料で考察が容易だが18、地方公務員については実施主体が多く、その変遷を画一的に辿る

ことはほとんど不可能である。

戦前の地方公務員試験における選考手法については調べが及ばなかったものの、大阪府

公文書館に収蔵されている最古の資料は明治 21 年の官報「大阪府雇員採用試験規則制定

(官報 21 年3月5日)」であるから、地方公務員試験にも相当の歴史があることは間違い

ない。

参考までに、戦後の大阪府の選考手法を概観すると、次のとおりである。

昭和 27 年、地方公務員法の採用関係の規定が施行され、大阪府で初めて六級職試験(現

在の大学卒程度試験)が実施された。国家公務員採用試験に倣いながらも独自に口述試験を

取り入れ、学科試験の点数よりも人物評価を中心に行っていた。昭和 40 年代半ばには、採

用試験に集団討論を加え、対人スキルを判定する要素が加わった19。以降、大阪府の職員採

用選考は、適性検査(SPI3)や社会人採用試験におけるプレゼンテーション面接等、時代

に即した選考手法を取り入れながら、現在も進化を続けている。

本章では、(1)から(8)において、現在の地方公務員試験、とりわけ市町村行政職試

験で採用されている選考手法のうち主だったものを紹介し、(9)でそれぞれのメリットと

デメリットを比較する。比較にあたっては、主に大沢武ほか編『人事アセスメントハンドブ

ック』を参考とした。

(1)教養試験

教養試験は、択一式による筆記試験で、概ね、出題数は 40~60 題である。出題分野は、

一般知識(社会・人文・自然)一般知能(文章理解・判断推理・数的推理・資料解釈)と幅

広い。

この試験の目的は、すでに顕在化している能力のみならず、今後の教育、学習、経験等の

環境的影響を受けて発達するであろう潜在的能力を予測することである。この手法で検証

される対象は、広く社会、人文、自然の諸科学についての理解、変転する社会情勢に対する

関心の程度、言語その他を媒介としてみられる思考の論理性、柔軟性、発想の豊かさ等の知

的能力である20。

教養試験は公務員独特の選考手法であるため、次に述べる専門試験と並び、民間企業志望

18 [国立公文書館]

19 [大阪府人事委員会, 1986]

20 [金原進, 1987]

Page 28: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

25

者と公務員志望者との方向性を分ける要因となっている選考手法である。教養試験が考案

された当初は、一般的な教養のレベルと、頭の回転、いわゆる地頭の良さを測定する意図が

あったと思われる。

一般的には、教養試験は一次試験として面接に至る前に設けられるため、公務員試験独自

の試験があること自体が、スクリーニング、つまり候補者集団に含まれる公務員志望者の割

合を向上させる要因として機能していることが多い。最近では、エントリーシートや適性検

査を用いることで、教養試験を行わない都道府県や市町村が散見される。

教養試験のメリットは、択一式であるがゆえに、客観性・公平性・正確性・迅速性・大量

処理が可能であることである。一方、デメリットは、学力重視、民間志望者の排除、任意の

試験日を設けられない等である。また、外部委託を行う場合は、問題の作成等に係る人件費

は減少するものの、委託費が増加する等のデメリットも生じる。

(2)専門試験

専門試験は、択一式または記述式による筆記試験である。出題分野は、行政職なら法律、

土木職なら土木工学等、受験する職種等により異なる。

この試験の目的は、職務内容に応じて新しいことを学習する力と、基本的な原理・原則の

十分な理解と応用力を計ることにある。そのため、学校における基礎的学科目をどの程度深

く理解し、活用可能なものとしているか、またどの程度深く思考できるかということを検証

するための試験となっている。

専門試験は、前に述べた教養試験と並び、民間企業志望者と公務員志望者との方向性を分

ける要因となっている選考手法である。

昨今では、採用後の研修で知識の補充が可能と判断される職種において、大阪府のよう

に、専門試験を課さずに選考する地方公共団体は大勢を占めている。株式会社東京リーガル

マインドのウェブサイトによると、市町村職員採用試験情報登録数 940 件のうち、専門試

験を課す選考の登録数は 185 件である対し、課さない選考は 755 件に上ることからも、こ

の傾向が顕著であることがわかる21。

金原(1987)によると、選択回答式の場合と、記述式の場合について、それぞれのメリッ

トと共通するデメリットは次のとおりである。選択回答式の場合は、教養試験同様、公平性・

正確性・迅速性に優れ、大量処理が可能というメリットがある、コンピュータによる採点が

可能な客観試験である。記述式の場合は、選択回答式の利点を持たない代わり、柔軟性や論

理性を測ることができる。これらのデメリットは、学力重視、民間志望者の排除、任意の試

験日を設けられない、出題範囲が限られる等であるまた、外部委託を行う場合は、問題の作

成等に係る人件費は減少するものの、委託費が増加する等のデメリットも生じる。

21 [㈱東京リーガルマインド, 日付不明]

Page 29: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

26

(3)小論文試験

小論文試験は、与えられた課題について、制限時間以内に論述を行う記述式筆記試験であ

る。出題分野は、社会問題等の時代に応じた分野で、日本あるいは各自治体における政策的

な課題が設定される傾向にある。

この試験の目的は、課題に関連する様々な情報に対する理解力・判断力や主張・根拠・具

体例等を盛り込む論理力・表現力等を確認することである。そのため、論述の中で、論点を

明確にしたうえで、論理性を持たせた主張ができるかを検証するための試験であることが

多い。

近年、後述するエントリーシートでの自己 PR を含め、作文や小論文等記述による選考が

増加傾向にある22。また、官民を問わず就職試験において実施されることの多い選考手法で

あるといえる。

メリットは、総合的な判断力や理解力、柔軟な発想力、社会に対する興味の程度等を確認

できることである。デメリットは、出題範囲が限られるため測定領域が限られること、大量

採点が不可能であること、そして客観的な評価が困難であることである 20。

(4)エントリーシート(応募書類)

エントリーシート(応募書類)は、受験者の氏名住所、履歴、取得資格、自己 PR 等を記

載する書類である。これを選考に用いる場合は、一種の記述式筆記試験と見なされる。

エントリーシートの提出を求める目的は、選考の補助資料として、趣味や応募動機、資格

取得等の記述から応募者の興味を理解し、生活態度やキャリア指向を知ることにある。

民間企業において、エントリーシートは選考手法になりうるが、取得資格等が職務要件と

の明確な関連を持たない事務系新卒採用については選考手法に適さず、応募者の納得感が

低い23。

しかし、自己 PR や応募動機の申告(作文)を求め、それを選考の資料とする方法は有効

である。応募者が最低限の文章表現能力を有しているか、妥当な動機や意欲を持っているか

等の、大まかなチェックが可能となる。また、長文の記述を課すことは、応募にあたって一

定の手間と労力を必要とすることから、安易な応募を抑制する効果がある。

エントリーシートは、民間企業への応募でも必須であるといえ、官民を問わず実施されて

いる選考手法である。

エントリーシートのメリットは、履歴・取得資格等を確認できることと、記入を求める項

22 [鷺坂由紀子, 二村英幸, 山岸建太郎, 2001]

23 [大沢, 芝, 二村, 2000]

Page 30: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

27

目を独自に設定できることである。デメリットは、他者の手が加わる余地があること、テン

プレート的回答が確立されていること、記述式であるために客観的な評価が困難であるこ

とである。

(5)適性検査

適性検査は、能力、性格、興味等の個人差を測定する検査であり、それぞれの人物特性を

最も客観的に測定できるところが特徴的である。形態としては、択一式筆記試験に分類され

る。

適性検査には、能力適性検査、性格適性検査、興味・指向適性検査(職業興味検査)、そ

れらを統合した総合適性検査の四分類があり、それぞれ測定範囲や目的が異なる。図表 18

は、二村(2005)を元に、筆者が作成した表である。

【図表18】適性検査の分類とその特性

(二村英幸『人事アセスメント論』から筆者が作成)

適性検査の種類 測定範囲の一例 目的

能力適性検査 知的能力

知覚

作業能力 等

課題解決能力や、課題発見・形成能力

の測定

性格適性検査 メンタルヘルス

組織への適応性

達成意欲

精神的強靭性 等

職務に求められる性格的・態度的要

件の充足度の測定

興味・指向適性検査 職業特性ごとの興味

動機づけ特性の指向

自律的なキャリア形成のための興

味・指向の理解

総合適性検査 上記測定範囲の複合 人格に関する情報を幅広く収集

1960 年代以降、能力適性検査、総合適性検査は、採用選考の手法として急速に普及した。

大阪府では、総合適性検査の一種である SPI3の一部(能力検査)を平成 28 年から導入し

ている。

適性検査のメリットは、択一式であるがゆえに、客観性・公平性・正確性・迅速性・大量

処理が可能であることである。一方、デメリットは、外部委託を行う場合が多いため、委託

費が発生することである。

Page 31: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

28

(6)面接試験

かつて、金原(1987)は、公務員試験における面接試験に対し、「受験者の人柄、性向と

いった性格面の特性を評価し、好ましくない不適格者の排除を目的として行われ」ると述べ

たが、近年では「人物重視」の選考が多く、面接試験の重要性は高まっていると推察される。

面接は、複数回実施されることも多く、多大な労力と費用が投入されており、採否の決定に

大きく関係していることが多いため、本来であればひとつの章として論ずるべき重要なも

のではあるが、本稿では割愛する部分が多くなることをご容赦いただきたい。

まずは面接試験の意義を整理する。

面接試験の意義は、

① 他の選考方法では得られない人物特性の把握(態度、印象、話し方等)

② 他の選考方法では得られない受験者の個人的事情やキャリアの背景等の事実確認

③ 選考過程全体からの人物情報を総合し、勤務条件と照らし合わせ、採否を判断

④ 組織としての社会との接点(採用時の組織の態度やコンプライアンスについて、世間

から注目されやすい)

の4点にあるとされている24。

面接試験が重要な意味を持つ以上、受験者の個人差の尺度として、面接選考の質を分析し

高める必要は大きいが、日本において、面接に関する実証研究は、米国に比して乏しい。

国家公務員試験では、面接試験を人物試験と呼ぶが、平成 18 年度以降コンピテンシーの

考え方と面接の構造化が導入されている25。面接により個人差を判断する際は構造化面接が

有利であるということが研究により実証されており、面接選考に外すことはできない視点

であるため、以下、面接の構造化について簡単に紹介する。

面接の構造化とは、米国で一般的に使用されている方法で、質問内容や評定基準を標準化

した面接(構造化面接)を実施することで、標準化しない面接よりも、選考の信頼性や妥当

性を向上することが知られている。図表 19 は、二次情報からの引用であるが、様々な構造

化のアプローチとその効果を示したものである。標準化によりマイナスの影響もありうる

ため、面接を行う際には、どのような方法で標準化を行うか、対象者や面接時間等様々な条

件を考慮に入れて適切な標準化を行うことが求められる26。

24 [二村英幸, 人事アセスメント論, 2005]p.151

25 [渡辺光明, 2006]p.46

26 [大沢, 芝, 二村, 2000]』p.85,86

Page 32: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

29

【図表19】面接の標準化とその効果・影響(Campion et al ,1997)

(大沢武ほか編『人事アセスメントハンドブック』から抜粋)

※筆者注 +はポジティブ、マイナスはネガティブな効果・影響を表す

なお、面接試験で焦点があてられるのは、受験者の人格全体であり、具体的な要素として

は、次の6つである。

①能力・スキル的要素

論理的思考力、コミュニケーション力、自己表現力、理解力、他者理解力、対人関係

能力

②性格的要素

積極性、開放性・明るさ、冷静さ、元気の良さ、社交性、情緒の安定性、柔軟性

③動機・意欲

Page 33: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

30

実行力・行動力、バイタリティ、将来の抱負の明確さ、志望動機の明確さ、職務・組

織への動機づけの程度、信念、情熱の強さ

④志向・価値観的要素

職業観の健全性、事業や理念と価値意識の適合性、組織風土との適合性

⑤生活態度

応対のマナー・礼儀、言葉遣い、趣味等生活のゆとり度、感受性・共感性

⑥総合的人物要素

率直さ、ポジティブさ、人間的魅力、誠実さ、責任感・信頼性、自律性

なお、面接試験で判断される要素は国によって異なり、日本のそれは抽象的項目が多く含

まれていることが特徴的である27。抽象的項目が多いために、面接の評価手法の確立が難し

く、研究も進んでいないため、面接官により評価がばらつく等種々の問題が存在しているこ

とは注意しておかねばならない。

本節では、二村(2005)28及び大沢ほか(2000)29を元に、面接試験の形態に注目して分

類し、それぞれの特徴をあげることとする。

ⅰ)個人面接

個人面接とは、面接のうち被面接者が1人で行われるもので、面接者が1人の場合と複数

名の場合がある30。

1人の被面接者について掘り下げて評価できることがメリットであるが、1人を選考す

るにあたり必要な時間とコストを考慮すると効率が悪いことがデメリットである。

ⅱ)集団面接

集団面接は、複数名を同時に面接するもので、面接者が1人の場合と複数名の場合があ

る。さらに、複数の被面接者を順に1人ずつやり取りを進めていく場合と、複数人をグルー

プとして全体的にやり取りを進めていく場合に分類される。この方法は、被面接者から見れ

ば、自由に発言することが難しくなりがちなため、歓迎されないことが多い。

一度に複数名を対象にするため、効率が良いことと被面接者を比較しながら相対的に評

27 [二村英幸, 人事アセスメント論, 2005] p.154

28 [二村英幸, 人事アセスメント論, 2005] p.171~176

29 [大沢, 芝, 二村, 2000]p.85~86

30 [二村英幸, 人事アセスメント論, 2005] p.152

Page 34: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

31

価できることがメリットになるが、被面接者相互のやり取りや駆け引きに似た状況が生ま

れることにより、人物理解が浅くなりがちなことがデメリットになる 30。

ⅲ)プレゼンテーション面接

プレゼンテーション面接は、被面接者があらかじめ通知された課題について、指定された

時間内で発表し、面接者がその様子を観察して優劣を決める選考手法である。課題について

調べる程度で熱意を、発表の中で論理性を、資料の中で表現力を見ることができるため、即

戦力性を求める社会人採用においてより有効な面接手法であるとされる。

1人の被面接者について掘り下げて評価できることと、具体的なプレゼンテーション場

面における実践的な能力が見られることがメリットであるが、1人を選考するにあたり必

要な時間とコストを考慮すると効率が悪いことがデメリットである。

大阪府では、社会人を対象とした採用選考において、平成 27 年まで3次試験、平成 28 年

から2次試験として実施している。

(7)グループディスカッション

グループディスカッションは、受験者を5~7人のグループで討議をさせ、そこで展開さ

れる受験者の行動を観察評定する選考手法である。

この選考手法では、社会性や自主性、協調性等の基本的な態度や姿勢、課題形成力やリー

ダーシップといった実践的能力やスキルを、実際の行動から確認することができる。

メリットは、具体的な討議場面での行動を見ることができるため、実践的な能力、とりわ

け対人関係スキルが評価できることや、受験者の自己評価が得られやすく納得感があるこ

と、一度に複数名を対象にするため、効率が良いことと被面接者を比較しながら相対的に評

価できること等である。

その一方で、グループの質によって場の状況は異なり、厳密な意味では受験者にとって公

平な評価場面ではないことや、グループディスカッションのような行動観察評価は対人ス

キル関係に偏りがちで、課題解決関連スキルを評価しにくいことがデメリットとなる31。

グループディスカッション、すなわち集団討議は、昭和 29 年から国家公務員の試験種目

として採用され、面接試験に併用されている。しかし、昭和 44 年に国家公務員では実施が

中止された。理由は、過去の試験結果を調査してみると、集団討論検査の結果は面接試験の

合否にほとんど影響を及ぼさないことが判明したからである 20。

なお、前出の株式会社東京リーガルマインドによると、市町村職員採用試験情報登録数

31 [大沢, 芝, 二村, 2000]p.87

Page 35: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

32

940 件のうち、集団討論を採用しているのは 314 件と、比較的多いと言える 21。その理由が

明示されている資料はないが、おそらく、集団面接と同様に、コスト面のメリットがあるた

めであろう。

(8)グループワーク

グループワークは、近年採用選考に取り入れられるようになった手法である。面接が質疑

による言葉で情報を得るのに対して、グループワークは行動を観察評定する選考手法であ

る。前節で述べたグループディスカッションの要素に加え、成果物作成への貢献度も確認で

き、また発表を求める場合は、プレゼンの様子についても確認できる。

この選考手法では、社会性や自主性、協調性等の基本的な態度や姿勢、課題形成力やリー

ダーシップといった実践的能力やスキルを、実際の行動から確認することができる。

メリットとデメリットは、概ねグループディスカッションの場合と変わらないが、協力し

て物事を進める必要がある場面での実際の行動を確認できることが、グループワークの特

徴である。

大阪府においても、平成 23 年からグループワークを選考に取り入れている。

(9)選考手法の比較

本節では、本章で述べた8つの選考手法について、大沢, 芝, 二村(2000)を参考に整理

する。同書によれば、人物特性を把握する側面は、①健康、②基本的態度・姿勢、③職業観・

職業興味、④志望動機、⑤性格、⑥実践的能力・スキル、⑦基本的能力・知識、⑧個人的事

情の8点で整理することができるとされている。同書 p.81 に掲げられた表を元に、これら

8点の具体的な構成項目と、それを測定できる選考方法を整理したものが、次の図表 20 で

ある。また、図表 21 は、本章で述べたそれぞれの選考手法のメリットとデメリットを整理

したものである。

次章以降、本章での分析を元に、最も効率の良い選考方法を探る。

Page 36: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

33

【図表20】人物把握の8つの側面と選考手法

側面 構成項目 教養試験 専門試験

小論文試

エントリ

ーシート

適性検査 面接試験

グループ

ディスカ

ッション

グループ

ワーク

健康 身体的健康

精神的健康 △ △

基本的態度・

姿勢

社会性・倫理性

責任性・誠実性

自主性・自律性

協調性

挑戦心・パワー

率直・素直さ

ポジティブ思考・楽観性

○ △ ○ ○ ○

職業観・職業

興味

働く目的

働き方の好み

自分と組織の距離感

職業・職務興味指向

○ ○ ○

志望動機 会社・事業の理解度

入社動機づけの程度 ○ ○ ○

性格 一般的性的な性格特性

個別的性的な性格特性 △ △ ○ ○ △ △

実践的能力・

スキル

視野の広さ

課題形成力

課題推進力

リーダーシップ・統率力

コミュニケーションスキル

プレゼンテーションスキル

専門的知識・技術

○ ○ △ △ ○ ○ ○

基本的能力・

知識

一般知的能力

専門的基礎知識・技術

一般教養

外国語基礎能力

視覚的身体的能力

資格

○ ○ △ △ ○ ○ △ △

個人的事情 勤務地、勤務時間等 ○

Page 37: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

34

【図表21】選考手法ごとのメリットとデメリット

選考手法 メリット デメリット

教養試験 ○客観性・公平性・正確性・迅速性・

大量処理が可能

○広範囲に知識を測ることができる

○学力重視

○民間志望者の排除

○試験日設定が不自由

○(外部委託を行う場合)費用がかか

専門試験 ○(選択回答式の場合)公平性・正確

性・迅速性・大量処理が可能

○(記述式の場合)柔軟性や論理性を

測ることができる

○学力重視

○民間志望者の排除

○試験日設定が不自由

○(外部委託を行う場合)費用がかか

小論文試験 ○総合的な判断力や理解力、柔軟な発

想力、社会に対する興味の程度等

を確認できる

○出題範囲が限られるため、測定領域

が限られる

○大量採点が不可能

○客観的な評価が困難

エントリーシート ○履歴・取得資格等を確認できる

○記入を求める項目を独自に設定で

きる

○他者の手が加わる余地がある

○テンプレート的回答が確立されて

いる

○客観的な評価が困難

適性検査 ○客観性・公平性・正確性・迅速性・

大量処理が可能

○(外部委託を行う場合が多く)費用

がかかる

面接試験

個人 ○1人の被面接者について掘り下げ

て評価できる

○1人あたりに必要な時間とコスト

を考慮すると効率が悪い

集団 ○一度に複数名を対象にするため、効

率が良いことと被面接者を比較し

ながら相対的に評価できる

○被面接者相互のやり取りや駆け引

きに似た状況が生まれることによ

り、人物理解が浅くなりがち

○厳密な意味では受験者にとって公

平の評価場面ではない

プレゼン ○1人の被面接者について掘り下げ

て評価できることと、具体的なプ

レゼンテーション場面における実

践的な能力が見られる

○1人を選考するにあたり必要な時

間とコストを考慮すると効率が悪

グループ

ディスカッション

○具体的な討議場面での行動を見る

ことができるため、実践的な能力、

とりわけ対人関係スキルが評価で

○厳密な意味では受験者にとって公

平の評価場面ではない、グループ

ディスカッションのような行動観

Page 38: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

35

きることや、受験者の自己評価が

得られやすく納得感があること

一度に複数名を対象にするため、効率

が良いことと被面接者を比較しな

がら相対的に評価できる

察評価は対人スキル関係に偏りが

ちで、課題解決関連スキルを評価

しにくい

グループワーク ○具体的な討議場面での行動を見る

ことができるため、実践的な能力、

とりわけ対人関係スキルが評価で

きる、受験者の自己評価が得られ

やすく納得感がある

○一度に複数名を対象にするため、効

率が良い、被面接者を比較しなが

ら相対的に評価できる

○厳密な意味では受験者にとって公

平の評価場面ではない、グループ

ディスカッションのような行動観

察評価は対人スキル関係に偏りが

ちで、課題解決関連スキルを評価

しにくい

Page 39: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

36

第4章 採用プロセスの提案

本章は採用プロセスの提案と題したが、汎用的に使える最適な採用プロセスというもの

は存在しえない。むしろ、組織風土や求める職種によって、多様な採用手法から柔軟に選択

すべきである。よって、ここでは、次のような組織を設定したうえで、大卒程度一般行政職

(新卒対象)の採用プロセスの提案を行う。

【設定】

X 市(一般市)

市勢:大都市のベッドタウンとして昭和後期に発展。現在はまちの高齢化が進み、住民の

少子高齢化とインフラの老朽化に直面。産業基盤に乏しく、大企業が立地していないため、

法人市民税は少なく、固定資産税が市税の半分を占める。財政力は低く、投資的経費には予

算を割けない。

組織:40 代後半から 50 代前半の職員が 5 割を占め、30 代前半までの職員は2割。職員

同士で概ね名前と顔が一致する程度の組織規模。半数強の職員が X 市在住。親密な職場環

境である一方、多様性に欠ける、排他的であるとの意見もある。合意形成に時間がかかり、

機動性に欠ける。

採用活動:大学1・2回生を主な対象としている職業説明会への参加や大手就活サイトへ

の情報掲載により情報の開示を図るとともに、若手職員によるポスターの制作により注目

度を高めようと試みている。

申込み:選考申込みには、志望動機や自己 PR を含む履歴書様の専用用紙を手書きし、郵

送・持参するよう求めている。

選考:1次試験 能力適性検査、性格適性検査、集団面接(人事担当者)

2次試験 集団面接(部長級)

3次試験 個別面接(部長級)

以上の設定を踏まえ、市の財政事情と組織の年齢構成から、採用費は低廉であることが望

まれる一方、なるべく優れた人材を育成し、適正なジョブローテーションで育成しなければ、

将来市を運営するに足る幹部職員の確保は困難であることが見込まれていると仮定する。

本章では、(1)でターゲット層の明確化について述べ、(2)で就活生への情報開示を、

(3)で採用試験申込方法の選択、(4)でエントリーシートでのスクリーニングをそれぞ

れ考察し、(5)ではよりよい選考方法の組み合わせを提案する。

(1)ターゲット層の明確化

採用プロセスを構築するにあたり、ターゲットの条件を明確にすることは、採用戦略の根

Page 40: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

37

幹に関わる必須事項である。

上記仮定より、X 市においては、まちの高齢化に伴う課題発見・解決に意欲があり、住民・

職員と関係を築ける人材へのニーズが高いことが推察される。そのため、第1章(4)で述

べた地方公務員に求められる資質・能力のうち、柔軟性・コミュニケーション能力・政策企

業力・越境する力の4つについて、重要視されていると推察される。さらに、多様性や外部

からの視点をもつため、遠隔地を含む市外からも応募が可能な状況を整えたいところであ

る。

次節以降の考察・提案のため、ターゲット層の条件について記号を付しておく。ただし、

また、遠隔地からの応募促進については、(2)就活生への情報開示及び(3)採用試験申

込方法の選択で考慮するが採用の条件とは言えず、越境する力については、採用後に構築さ

れていく部分が大きいと考えられるため、省略する。

A 柔軟性

B コミュニケーション能力

C 政策企業力

(2)就活生への情報開示

就活生への情報開示については、勤務条件や X 市が求める職員像等に加え、就活生がど

のような情報を求めているかを調査・公開し、さらに簡単にアクセスできる状況を整えるこ

とが必要である。また、同時に、職場環境や組織風土を率直に伝達することと、学生側の取

捨選択に資することも重要である。

勤務条件・職場環境や X 市の求める職員像等の開示は、最低限必要となる。また、情報

開示の実務としては、昨年度公表された各種アンケート調査から、就活生が求めている情報

が何かを拾い上げ、現状と照らし合わせたのち、組織として開示するか否かを決定する必要

がある。就活生が求めている情報を含め、開示すべき・開示を検討すべき項目は多岐に亘る

と考えられる。

次の図表 22 は、筆者が考案した情報開示項目の一例である。

Page 41: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

38

【図表 22】就活生に向けた情報開示項目の例

X 市の概要と課題 勤務条件

・X 市はどんなまちか

…全国地図での位置、人口・産業の構成、

特産物等

・X 市の現状、課題と展望(重要施策)

・X 市の求める職員像

・職員からの一言(仕事への姿勢や、成功・

失敗の経験)

・給与、手当(年齢層別給与例を含む)

・休暇等制度(短時間勤務制度含む)

・福利厚生

・各種実績

…通勤実績エリア、有給取得実績

職場環境 その他

・職場の写真

・職員の年齢構成

・相談窓口の有無

・課内(モデル課)と職員の紹介

・職員からの一言(一日のリズム、ワーク・

ライフ・バランス、相談しやすい人間関係

の有無)

・試験内容

・応募方法

・キャリア形成のモデルケース

・入庁後の研修内容、取得可能資格等

・職員からの一言(職務内容、やりがい)

次のⅰからⅳでは、上記の図表 22 に示した項目を公開することにより、X 市が期待する

就活生への影響を、最後のⅴでは、情報開示に係る留意事項を述べる。

ⅰ)X市の概要と課題

最初にして最重要である「X 市について」では、まちの概要と魅力を語り、課題に触れた

後、まちの未来を背負うことの覚悟を伝えることが目的となる。まちの概要は、市外の就活

生への紹介であることを前提に概要・特徴をまとめる。人口動態や市外就労者の割合、産業

構造等 X 市の現状と課題、対応策と展望として重要施策に触れ、まちの未来のために X 市

が求める職員像を語り、職員からの一言で市が職員に求める覚悟を伝える。

職員に求める覚悟を就活生に伝えることは、X 市が自ら就活生に向けて、自らの厳しい状

況をさらけ出すことと同義であり、いわば、一種のスクリーニングである。就活生に対し、

この状況に飛び込む熱意があるかをエントリー前の時点で問うことは、X 市にとって有意

義だと判断できる。なぜならば、第2章(3)で述べたように、市町村は、転勤がなく、勤

務条件が一定水準以上であるため、就活生には魅力的な職場と映る可能性が高いが、それだ

けでは不十分であるからだ。なぜ X 市を選んだのかが、志望動機、ひいては職務への熱意・

前向きさに直結する。

Page 42: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

39

就活生からの共感を得られれば強固な志望動機を持つ応募者を得られる可能性がある一

方、厳しすぎると思われれば応募者を失う可能性がある。X 市が求める人材を多く含む母集

団を得られる可能性がある以上、前者を期待して、内容と表現に注意を払いつつこの項目を

取り入れることとしたい。

なお、このカテゴリで述べる内容、特に職員に求める覚悟については、新規採用職員が失

望しないよう、組織で共有し、すべての職員が知っている必要があるので、注意が必要であ

る。

ⅱ)勤務条件

「勤務条件」は、給与や休暇、通勤といった面で、X 市で働くことの外形的なイメージを

伝えることが目的である。

また、このカテゴリでのポイントは次の3点である。1点目は、近年の就活生の志向であ

る「長く働き続けることで後々高い給与をもらえるようになる」ことをアピールすること、

2点目は、職員の居住エリアを示しどこに「居住環境の安定性」を持てるかをアピールする

こと、3点目は、就活生の重視する「個人生活のサポートとなる休暇や手当の充実度」をア

ピールすることである。したがって、数字や実績をメインに構成する必要がある。

ⅲ)職場環境

「職場環境」は、採用後の X 市での日々を具体的にイメージしてもらうことが目的であ

る。職場の写真や職員の年齢構成を紹介するのはそのためで、安心して仕事ができることを

示すために相談窓口があることを伝えることとする。

また、このカテゴリのポイントは次の3点である。1点目は、就活生の重視する「どのよ

うな人と働けるか」を示すこと、2点目は、X 市における「ワーク・ライフ・バランス」を

示すこと、3点目は、「人間関係の密度」を示すことである。近年の就活生が求めている、

優秀な人材から刺激を受けられることや仕事と私生活のバランスをコントロールできるこ

と、職場の一体感があり、密なコミュニケーションであることを伝えられれば、有意なアピ

ールとなる。かが、就活生の重視するポイントである。このカテゴリに置く職員からの一言

は、上記の3点の実態を伝えるための重要な項目となる。

ここで気を付けたいのは、無理なアピールをしないことである。組織の現状がプラスにあ

ると判断できればアピールすべきだが、その域に達していないにも関わらず無理にアピー

ルをしてしまえば、採用後のミスマッチにつながるため、かえって逆効果である。また、就

活生に望まれない現状であるなら、不必要に隠さず、開示することが、誠実さのアピールに

つながることも、うまく利用していきたい。

Page 43: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

40

ⅳ)その他

四つ目の「その他」では、従前からの試験内容や応募方法に加え、キャリア形成や研修内

容を伝えることで、就活生へのアピールが可能である。キャリア形成は、就活生に将来への

展望を持たせ、また、研修内容は、近年の就活生の志向であるポータビリティ能力の取得が

可能であることを示すからである。このカテゴリに置く職員からの一言は、応募への後押し

を担うため、まちへの想いや受験当時の気持ち、採用後の生活について等について総合的な

ものが効果的だろう。

ⅴ)留意事項

以上、情報開示項目の一例について説明会やホームページの構成を念頭に述べたが、他に

も開示すべき、または開示が求められる情報があるはずである。地方公共団体として、その

情報をなぜ、どのような意図で公開するのかを意識することができれば、採用戦略の底上げ

に繋がると考える。

また、文字でのアピールには限界があるため、実際の働き方や施策を紹介する動画を作成

することも有効であろう。最近では、国や都道府県、一部の市区町村においても、採用 PR

動画が散見される等、今後優勢になりうる広報コンテンツであることは間違いない。コスト

面から動画作成が困難である等の理由により、文字によって伝える場合でも、写真の効果的

な使用は、容易かつ効果の高い方法である。

なお、その他、インターンシップ等も広義の情報開示に入るだろうが、本稿ではその他の

考察を割愛する。

(3)採用試験申込方法の選択

本節では、採用活動における募集と採用試験申込みについて述べる。

まず、採用試験への申込み(エントリー)については、第2章(1)ⅱ)採用試験へのエ

ントリーで述べたように、9割以上が自由応募(ウェブサイト等からのエントリー)を含め

た方法によることを踏まえ、自由応募により申込みが完結する方法が、就活生にとって利便

性が高く、最も間口が広い方法である。X 市の場合は、(1)で整理したように、多様性や

外部からの視点を持った人材を求めているため、遠隔地からの申込みが可能な点を考慮し、

自由応募によるものとするのが合理的であろう。逆に、就活生の本気度でスクリーニングし

たい場合は、応募方法を持参や郵送に限ることも選択肢のひとつである。

自由応募で申込みを完結させる場合に充実させるべきは、大手就活サイトに十分な情報

と写真を掲載することと、そこから誘導することになるであろうウェブサイトの情報の整

理である。なお、就活生のスタイルに応じて、スマートフォンに対応した画面の見やすさを

Page 44: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

41

意識したり、日頃からウェブサイトを更新したりする等、配慮すべきところは多くあるだろ

うが、本稿では考察を省く。

X 市が採用活動として行っている、大学1・2回生を主な対象としている職業説明会への

参加は知名度の向上に役立つ。自由応募を利用する就活生の割合から考えると、説明会参加

者が X 市の採用情報に触れるのは、2・3年後の就活に際し、大手就活サイトで X 市を検

索するときとなるはずだ。したがって、説明会による知名度の向上というプラスの影響をよ

り大きくするためにも、前節で述べた意識的な情報公開を行う意義は十分にある。

(4)エントリーシートでのスクリーニング

エントリーシート(応募票)を用いている地方公共団体は多い。エントリーシートへの記

載を要する内容の多寡や難易度は就活生が申込むハードルの高さを上下する要素であり、

求める内容によっては一種のスクリーニングとなりうる。無秩序な応募を防ぐため、エント

リーシートの提出は課すべきであろう。なお、自由応募により申込みが完結する方法をとる

ことにより、エントリーシートがデジタル化することが想定されるが、手書きを要しないこ

とはハードルの下げ要因になる。

X 市は、A 柔軟性、B コミュニケーション能力、C 政策企業力を求める人材の条件と

している。もちろん、基本的事項として、国籍や資格、志望動機等必要な情報を求める必要

はある。それに加え、自己 PR に代えこれらの条件を測る記述を求める、つまり求める人材

の条件を示すのは、就活生の応募先絞り込みに役立つのみならず、選考の基準に即した有用

な資料となる。題材には、A から C までのそれぞれの能力がどのように備わっているか、

具体的な経験を上げて記載させるのが妥当だろう。複数の条件についても、ひとつにフォー

カスしても記載できるよう、記載欄を工夫したいところである。

(5)選考方法のよりよい組み合わせについての提案

本節では、(1)ターゲット層の明確化で整理した X 市が求める人材を最も効率よく選考

できる選考方法のより良い組み合わせを、第3章での整理を元に提案する。

(1)で整理した、X 市が求める人材の3つの条件を再掲する。

A 柔軟性

B コミュニケーション能力

C 政策企業力

これらの能力を、第1章(4)の図表6により、選考時の着目ポイントに分解する。

Page 45: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

42

(再掲・抜粋)【図表6】職員に求められる能力

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭

志望動機

企業理解 責任感専門知識・技術

積極的な行動

個人の将来展望の有無

頭の回転の速さ

高いストレス耐性

企業文化に馴染めそう

言語スキル(話す・文章を書く)

気配りができる

規律性・倫理観

臨機応変な対応

論理的思考力

保有資格

A 柔軟性 ● ● ● ● ● ● ● ●

B コミュニケーション能力

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

C 政策企業力 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

X市の条件

選考時着目ポイント

A~C に共通するポイントを確認できる選考手法を、第3章での整理を元に選択すると、

次のとおりとなる。

(エントリーシート:①企業理解、⑨言語スキル)

適性検査:(能力適性検査)⑥頭の回転の速さ、⑬論理的思考力

(性格適性検査)⑦高いストレス耐性、⑧企業文化に馴染めそう

グループワーク:②責任感、④積極的な行動、⑥頭の回転の速さ、⑨言語スキル、⑩気配

りができる、⑫臨機応変な対応、⑬論理的思考力

個別面接:①企業理解、②責任感、④積極的な行動、⑤個人の将来展望の有無、⑥頭の回

転の速さ、⑦高いストレス耐性、⑧企業文化に馴染めそう、⑨言語スキル、⑩

気配りができる、⑫臨機応変な対応、⑬論理的思考力

上記の選考手法を実際に組み立てると、

1次試験:適性検査(能力適性検査、性格適性検査)

2次試験:グループワーク

3次試験:個別面接

の順が適切であろう。

1次試験の選考手法は、適性検査が適当である。択一式筆記試験であるため、大量処理が

可能であることと、特性である客観性・公平性・正確性からも、採用試験受験者の絞り込み

に適しているためだ。また、適性検査の結果は、グループワークの班分けや、個別面接に際

しての資料として活用できる。適性検査の外部委託によって発生するコストは確かにデメ

リットだが、採用選考資料として、費用以上の成果が見込まれよう。

2次試験の選考手法には、グループワークを設定する。その理由は、一度に複数名を対象

にする効率性と、幅広い能力をみることができる行動観察評価というグループワークの特

性、そして受験者に与える選考結果の納得感の3つにある。また、同じ行動観察評価である

グループディスカッションが相手を言い負かそうとするインセンティブが働くのに比べ、

グループワークは、協働してひとつの目標に向かう形態であるため、気配りができるかどう

かを測定したい場合により適している。デメリットは、グループの質を絶対的に均一にする

のが不可能なことと、ワークの材料によってはコストが発生することである。デメリットを

Page 46: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

43

低減するためには、1次試験の結果を活用したグループ分けを行ったり、コストに見合った

成果を出せるよう試験官を訓練し測定結果記載用紙を工夫したりする等の取り組みが必要

であることを留意する必要がある。

3次試験には、やはり個別面接が必須である。面接スキルが必要なのはデメリットである

が、面接官を訓練したり測定結果記載用紙を工夫したりすることにより、受験者の人格全体

を評価の対象とすることができるからである。また、集団面接と異なり、受験者の自由な発

言を阻害する要因が少なく、一人ひとりを掘り下げて評価できるため、受験者に選考結果へ

の納得感を与えることができる。そのうえで、すべての能力に通底する将来展望の有無等、

面接でしか確認できないポイントがあるため、採用を決める最終の選考手法は、面接評定に

長けた面接官による個別面接が望ましい。

以上で述べたように、選考を効率よく行うためには、受験者に求める条件を測定できる選

考手法を意識的に選択することは重要である。また、選考方法の選択は、何をポイントとし

て選考するかを軸とする必要があるため、選考基準の整理に役立つ側面があることにも言

及しておきたい。

本章で示した採用プロセスは、あくまでも架空の X 市を例としての提案である。実際に

は、設定が変われば、全く違う採用プロセスが最善となるであろうし、似たような設定であ

っても状況の変化により他のプロセスが有効な場合も出てくるだろう。実務にあたっては、

毎年変化していく状況に柔軟に対応するとともに、選考手法を選択した明確な理由を持つ

ことが、戦略的な採用、ひいては、人材のよりよいライフサイクル管理とよりよい組織運営

につながることは間違いない。

Page 47: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

44

おわりに

地方公務員は、住民の生活に密接に関わる職業であり、求められる姿が時代とともに移り

変わることは、第1章で述べたとおりだ。したがって、どのような人材を得たいかを整理し

ないままに、いわゆる前例踏襲の採用を続けることは、組織として不合理な採用のあり方と

なってしまう。組織としての自己分析は、組織運営に直結する人材のライフサイクルの起点

であり、その一部門である採用は、組織に自己分析を促す契機となる。

本稿で筆者が伝えたかったことは、採用という契機を活かし、自己分析を行い、戦略を立

て、人材を獲得しに行く組織は、既存の職員をも素晴らしい人材に育てていける組織なので

はないか、ということだ。逆説的にいえば、素晴らしい人材の揃う組織には、よい人材が集

まるということでもある。願わくは、景気以外の要因により地方公共団体を積極的に目指す

就活生が増加し、よりよい組織運営ができる地方公共団体が多くなることを望む。

末尾になったが、本稿の執筆にあたり、ご指導いただいた上司をはじめ、現場の状況を教

えてくださった先輩や、最近の就活事情を教えてくれた後輩、日々の業務に助力をくださっ

たグループ員の皆様に、この場を借りて感謝申し上げる。

Page 48: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

45

参考文献

1. 阿部孝夫. (1999). 仕事の「目的」がわかる人材の育成. 地方公務員月報(431), 2-9.

2. 大阪府人事委員会. (1986). 人ありて 35 年. 大阪府人事委員会.

3. 大杉覚. (2014). 人口減少時代の自治体職員に求められる姿勢・能力と人事管理のあり

方. 地方公務員月報 (617), 2-15.

4. 大杉覚. (2015). 人口減少時代の自治体職員像. 都市とガバナンス (23), 37-44.

5. 大沢武志, 芝祐順, 二村英幸. (2000). 人事アセスメントハンドブック. 金子書房.

6. 大谷基道. (2018). 就職先としての自治体 : 学生は何を求めているのか. ガバナンス

(204), 22-24.

7. 金原進. (1987). 日本における公務員試験の方式. 行動計量学 15(1), 60-70.

8. ㈱マイナビ. (2001-). 企業新卒内定状況調査(最終参照 2019 年3月4日). 参照先:

マイナビ: https://saponet.mynavi.jp/release/enterprise/#category-naitei

9. ㈱マイナビ. (2017-). 企業人材ニーズ調査(最終参照 2019 年3月4日). 参照先: マ

イナビ: https://saponet.mynavi.jp/release/enterprise/#category-needs

10. ㈱マイナビ. (2018). 企業新卒採用予定調査(最終参照 2019 年3月1日). 参照先:

マイナビ: https://saponet.mynavi.jp/release/enterprise/#category-needs

11. ㈱リクルートキャリア. (2014-). 働きたい組織の特徴(最終参照 2019 年3月1日).

参照先: 就職みらい研究所

:https://data.recruitcareer.co.jp/category/study_report_article/organization/

12. ㈱東京リーガルマインド. (日付不明). 市役所採用情報(最終参照 2019 年3月5日).

参照先: LEC 東京リーガルマインド

: http://www.lec-jp.com/koumuin/city/about/shiken_search/index.php

13. 国立公文書館. (日付不明). 公務員試験及び外交官試験はいつからはじまったの?(最

終参照 2019 年3月1日). 参照先: アジア歴史資料センター

: https://www.jacar.go.jp/glossary/tochikiko-henten/qa/qa31.html

14. 鷺坂由紀子, 二村英幸, 山岸建太郎. (2001). 採用選考における作文評価 : 達成動機測

定の試み. 経営行動科学 14(3) , 153-159.

15. 自治大学校. (2007). 地方公共団体の人材育成のための人事評価と職員研修の連携・活

用に関する調査 . 参照先: 総務省: http://www.soumu.go.jp/jitidai/chousa.htm

16. 自治大学校. (2015). 地方公務員研修の実態に関する調査(最終参照 2019 年3月1

日). 参照先: 総務省: http://www.soumu.go.jp/jitidai/chousa.htm

17. 人事院. (2017). 長期統計等資料 .参照先: 人事院

Page 49: 人口減少時代における 地方公共団体の職員採用について · また、資料の関係上、採用対象は在学中に就職活動をする大学生、いわゆる就活生に絞

46

http://www.jinji.go.jp/hakusho/h29/appmat.html

18. 総務省. (2005). 行政改革の重要方針(最終参照 2019 年3月1日). 参照先: 総務省:

http://www.soumu.go.jp/iken/051227_01.html

19. 総務省. (2018). 地方公共団体定員管理関係(最終参照 2019 年3月1日). 参照先: 総

務省: http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/teiin/

20. 地方公務員制度調査研究会. (1999). 地方自治・新時代の地方公務員制度.

21. 中島ゆり, 堀有喜衣. (2017). 大学生の就職活動の変化 : 「JILPT2005 年調査」と「内

閣府 2016 年調査」との比較から. 日本労働研究雑誌 59(10), 58-67.

22. 二村英幸. (1998). 人事アセスメントの科学. 産能大学出版部.

23. 二村英幸. (2001). 人事アセスメント入門. 日本経済新聞社.

24. 二村英幸. (2005). 人事アセスメント論. ミネルヴァ書房.

25. 福島康仁. (2017). 当世、学生事情と自治体職員. ガバナンス (192),, 29-31.

26. 文部科学省. (2018). 平成 30 年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査(10 月 1 日現

在). 文部科学省. 参照先: 文部科学省:

:http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/11/1410969.htm

27. 山崎幹根. (2018). 北海道に見る公務員就職事情 : 道職員内定辞退 6 割の背景. ガバナ

ンス (204), 17-19.

28. 渡辺光明. (2006). 1 種人物試験におけるコンピテンシーの考え方と面接方法の構造化

の導入. 地方公務員月報 (516), 35-49.