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1 レーダ雨量計のとらえた豪雨災害 飯塚 秀次 1 ・関沢 元治 2 1 財団法人河川情報センター 情報開発部 参事 2 財団法人河川情報センター 情報開発部 部長 平成208月末豪雨における伊賀川氾濫(愛知県岡崎市)や、平成218月に発生した佐用川氾濫 (兵庫県佐用町)等、中小河川において犠牲者を伴う水害が頻発している。また、平成207月の都賀川 (神戸市)や、平成208月豊島区雑司が谷の下水道幹線では急な豪雨による水位上昇に流されて死亡す るという悲惨な事故が続発しており、「ゲリラ豪雨」として恐れられている。 本検討では、国土交通省の運用する川の防災情報から提供したテレメータ雨量、水位、レーダ雨量が これらの災害を捉えていた状況について分析し、あわせて避難等の減災対策に効果的な活用方法につい て考察したものであるものである。 Key Words :,レーダ雨量,豪雨災害,河川情報,避難判断 1.はじめに 平成 20 年の伊賀川や都賀川等における水害に代 表されるように、近年多くの死者・行方不明者を伴 う水害が頻発している。 これらの豪雨災害を踏まえ、国土交通省河川局は 「中小河川における局地的豪雨対策 WG1) を設置し、 河川管理の観点から局地的豪雨に伴う被害の軽減対 策についてとりまとめている。その報告書において は、「近年のレーダ雨量計の整備や気象予測モデル の開発に伴い、長期的な降雨予測技術の進展に期待 しつつも、中小河川の流域における局地的豪雨の発 生場所や時刻の特定、雨量の予測、それに伴う急激 な水位の上昇は、現在の技術では予測することは困 難であり、現状の技術水準・管理水準を踏まえ、緊 急かつ具体的に取りうる対策が重要である」として いる。 国土交通省では全国で観測されている水位、雨量 等のテレメータデータや 26 のレーダにより観測さ れた全国合成レーダ雨量等を配信する統一河川情報 システムを整備しており、河川管理者として利用し ているだけでなく、市町村等の防災関係者向け、一 般国民向けにリアルタイムの情報として配信してい る。 このうち、レーダ雨量は空間解像度 1km メッシュ で洪水予測システム等で数値データとして活用され ているほか、地図上への画像表示で全国の降雨の状 態を把握することができる。一般向けには地方別の 画像での提供であるが、河川管理者向け、市町村等 防災関係者向けにはより詳細な画面で拡大・縮小や 自由な累加時間での表示などが可能なシステムとな っている。 こうしたリアルタイムの河川情報は、最近発生し た豪雨災害においても状況を的確に捉えていたこと を紹介し、より効果的に河川情報を利用するための 一助とするものである。 2.レーダ雨量データの閲覧方法 統一河川情報システムは、-1の例のように一般 向けと行政向け(河川管理者向け、市町村向け)の 情報提供機能を有している。利用者が閲覧可能な情 報は、テレメータ観測情報、レーダ雨量情報、気象 情報、河川予警報情報等であり、パソコンと携帯電 話のサイトにアクセスして見ることができる。 市町村向け・一般向けはインターネットにより配 信されている。 -1 統一河川情報システムの画面例(レーダ雨量) 一般向けパソコン向け http://www.river.go.jp/ 市町村向けパソコン版 一般向け携帯版 http://i.river .go.jp/

レーダ雨量計のとらえた豪雨災害 - river.or.jp · PDF file平成20年8月末豪雨における伊賀川氾濫(愛知県岡崎市)や、平成 ... るという悲惨な事故が続発しており、「ゲリラ豪雨

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1

レーダ雨量計のとらえた豪雨災害

飯塚 秀次1・関沢 元治2

1財団法人河川情報センター 情報開発部 参事 2財団法人河川情報センター 情報開発部 部長

平成20年8月末豪雨における伊賀川氾濫(愛知県岡崎市)や、平成21年8月に発生した佐用川氾濫

(兵庫県佐用町)等、中小河川において犠牲者を伴う水害が頻発している。また、平成20年7月の都賀川

(神戸市)や、平成20年8月豊島区雑司が谷の下水道幹線では急な豪雨による水位上昇に流されて死亡す

るという悲惨な事故が続発しており、「ゲリラ豪雨」として恐れられている。 本検討では、国土交通省の運用する川の防災情報から提供したテレメータ雨量、水位、レーダ雨量が

これらの災害を捉えていた状況について分析し、あわせて避難等の減災対策に効果的な活用方法につい

て考察したものであるものである。

Key Words :,レーダ雨量,豪雨災害,河川情報,避難判断

1.はじめに 平成 20 年の伊賀川や都賀川等における水害に代

表されるように、近年多くの死者・行方不明者を伴

う水害が頻発している。

これらの豪雨災害を踏まえ、国土交通省河川局は

「中小河川における局地的豪雨対策 WG」1)を設置し、

河川管理の観点から局地的豪雨に伴う被害の軽減対

策についてとりまとめている。その報告書において

は、「近年のレーダ雨量計の整備や気象予測モデル

の開発に伴い、長期的な降雨予測技術の進展に期待

しつつも、中小河川の流域における局地的豪雨の発

生場所や時刻の特定、雨量の予測、それに伴う急激

な水位の上昇は、現在の技術では予測することは困

難であり、現状の技術水準・管理水準を踏まえ、緊

急かつ具体的に取りうる対策が重要である」として

いる。

国土交通省では全国で観測されている水位、雨量

等のテレメータデータや 26 のレーダにより観測さ

れた全国合成レーダ雨量等を配信する統一河川情報

システムを整備しており、河川管理者として利用し

ているだけでなく、市町村等の防災関係者向け、一

般国民向けにリアルタイムの情報として配信してい

る。

このうち、レーダ雨量は空間解像度 1km メッシュ

で洪水予測システム等で数値データとして活用され

ているほか、地図上への画像表示で全国の降雨の状

態を把握することができる。一般向けには地方別の

画像での提供であるが、河川管理者向け、市町村等

防災関係者向けにはより詳細な画面で拡大・縮小や

自由な累加時間での表示などが可能なシステムとな

っている。

こうしたリアルタイムの河川情報は、最近発生し

た豪雨災害においても状況を的確に捉えていたこと

を紹介し、より効果的に河川情報を利用するための

一助とするものである。

2.レーダ雨量データの閲覧方法

統一河川情報システムは、図-1の例のように一般

向けと行政向け(河川管理者向け、市町村向け)の

情報提供機能を有している。利用者が閲覧可能な情

報は、テレメータ観測情報、レーダ雨量情報、気象

情報、河川予警報情報等であり、パソコンと携帯電

話のサイトにアクセスして見ることができる。 市町村向け・一般向けはインターネットにより配

信されている。 図-1 統一河川情報システムの画面例(レーダ雨量)

一般向けパソコン向け

http://www.river.go.jp/

市町村向けパソコン版 一般向け携帯版

http://i.river

.go.jp/

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2

表-1 統一河川情報システムが取り扱うレーダ情報

国交省 気象庁 その他

予測 統

河川管理者向け ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

市町村向け ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

一般向け ○ ○ ○

河川管理者向け ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

市町村向け ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

一般向け ○ ○ ○

* 一般向けでは累加雨量の任意期間設定はできない。

3.H20・21年に発生した主な豪雨災害

表-2に近年の主な豪雨災害の概要を以下に示す。

表-2 H20・21年に発生した主な豪雨概要2)、3)

災害種・

豪雨名

発生

面積*

(Km2)

概要

局 地

的 豪

H20.

7.8

約17 大田区呑川増水のため、

作業員1名が死亡した。

前 線

豪雨

H20.

7.28 約 13

神戸市の都賀川で水位が

急上昇し、5名が死亡し

た。

局 地

的 豪

H20.

8.5 約 2

東京都豊島区の雑司が谷

幹線(下水道)内で水位

が急上昇し、作業員5名

が死亡した。

前 線

豪雨

H20.

7.28 約 70

石川県の浅野川が氾濫す

る等、北陸地方を中心に

河川災害が発生。

平 成

20年8

月 末

豪雨

H20.

8.26

~31

約11 全国21地点で1時間雨量

の記録を更新した。矢作

川支川の伊賀川では河川

氾濫等により2名が死亡

した。

台風9

H21.

8.9

~11

約100 兵庫県佐用町では、佐用

川の氾濫等により,18名

が死亡し、2名が行方不

明となった。

中国・

九 州

北 部

豪雨

H21.

7.19

~26

- 梅雨前線の活動が活発化

し、山口県防府市では特

別養護老人ホームが土石

流により被災し7名が死

亡するなど多数の犠牲者

が出た。(佐波川水系)

*災害発生地点のおおよその上流域面積

4.レーダ雨量計のとらえた豪雨災害の状況 表-2に示した近年の主な豪雨災害のうち、災害を

捉えていた代表的な事例を以下に示す。

(1) 局地的豪雨(大田区・呑川水難事故)

a) 水位・雨量観測の状況

東京都・呑川流域近傍の水位観測所は 3 カ所、雨

量観測所は 3 カ所である。 平成20年7月8日の死亡事故現場は工大橋~池上地点

に位置し、10:40~11:00の間に発生している。流域

上流では10mm/10分程度の降雨が観測されたが、事

故現場周辺では強い雨は観測されていない。(図-2、

図-3)

図-4に示すとおり、中流域の工大橋と事故地点直

下の池上地点の水位波形は、双方とも水位立ち上が

りで20分間に約1.3m急上昇する等、類似性が見られ

ることから、事故地点の水位上昇は上流の降雨によ

るものと推定できる。

事故地点は池上地点の上流近傍であることから、

工大橋水位上昇(10:10~30分)の20分後、つまり

10:30~50分の間に事故が発生したものと推定され

る。また事故地点付近の池上観測所の雨量を見ると

10:20まで降雨は観測されていない。

世田谷

田園調布(下)

工大橋(ピーク水位10:40 1.33m)

池上

池上(ピーク水位11:00 1.67m)

旭橋

×事故現場(仲池上2)

図-2 呑川流域図(基図はGoogleMap)

図-3 雨量の観測状況(10分雨量)

池上 水位観測所

0

2

4

6

8

10

12

世田

谷地

上雨

量(m

m)

0

10

20

30

40

50

60

0

2

4

6

8

10

12

池上

地上

雨量

(mm

0

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30

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0

2

4

6

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0

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0

11:3

0事故

地点

上流

平均

レー

ダ雨

量(m

m)

0

10

20

30

40

50

60

世田谷(流域上流)

池上(流域中流)

事故上流域平均雨量

*現況レーダ雨量データから

手計算により作成

事故発生

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10:5

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11:0

0

11:1

0

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0

11:3

0

水位(m)

工大橋 池上

図-4 事故地点上下流水位の観測状況(10分)

b) レーダ雨量の観測状況

図-3や図-5に示すように、事故地点での天候で水

位の急上昇に備えることは難しかったと思われる。

しかしながら、レーダ雨量の観測値は事故地点上流

域内の降雨を捉えており、上流の状況をいち早く確

認する上でレーダ雨量の活用は有効であることが再

認識できた。

図-5 現況レーダ雨量の状況

(2) 前線豪雨(神戸市・都賀川水難事故)

a) 水位・雨量観測の状況

平成 20 年 7 月 28 日、都賀川上流の永峰で 10 分

間に 17mm の猛烈な雨が観測され、図-7 に示すとお

り都賀川下流の甲橋では、 10 分間( 14:40~

14:50)で水位が 1.34m上昇した。直前まで降雨は

無く都賀川では散歩等を楽しむ多くの市民が水辺に

おり、児童 3 名を含む 5 名が流され死亡した。

図-8 に示すように、神戸市では、甲橋地点の

CCTV カメラ映像をリアルタイムで配信しており、

水位急上昇の状況が映し出されていた。

永峰雨量観測所

都賀川流域

甲橋水位観測所

自然の家雨量観測所

中一里山雨量観測所

鶴甲雨量観測所

事故現場周辺

都賀川

六甲川

杣谷川

図-6 都賀川流域図(基図はGoogleMap)

0

5

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0

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0

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0

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16:5

0

17:0

0

上流

雨量

(m

m)

0

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30

45

60

0

5

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永峰

(m

m)

0

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30

45

60

0

5

10

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自然

の家

(m

m)

0

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-0.2

0

0.2

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50

水位m

レーダー流域平均5分雨量甲橋水位(零点高T.P.36.9m)レーダ累加雨量(甲橋上流)

図-7 ハイエトグラフ・甲橋水位グラフ

20 分 で 約

1.3m 上昇

×

現況レーダ

(10:00)

×

現況レーダ(10:10)

×

現況レーダ

(10:40)

×

現況レーダ(10:50)

17mm/h

29mm/h

4mm/h

1mm/h

事故発生

水防団待機水位(1.0m)

はん濫注意水位(1.4m)

事故発生 *現況レーダ雨量データから手計算により作成

事故発生

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4

図-8 都賀川甲橋CCTV画像(出典:神戸市建設局)

b) レーダ雨量の観測状況

図-9に示すレーダ雨量は流域内の降雨を捉えてい

るが、リードタイムがあまりに短すぎ、事故周辺地

域に降り始めてから注意喚起することは非常に困難

な事例であった。しかしながら、地元では雨が降れ

ば急激な水位上昇が起きることは日常的に知られて

おり、流域全体でみて雨域があることがわかれば避

難を促すことも可能であったと思われる。レーダ雨

量計は北側(流域上流)の雨域を捉えている。

図-9 都賀川における現況レーダ観測状況

(3) 局地的豪雨(豊島区・水難事故)

a) 雨量観測の状況

局地的な豪雨により東京都豊島区の下水道(雑司

が谷幹線、神田川流域)内の水位が急上昇し、図-

10 に示す管内で管渠更生作業をしていた作業員 5

名が死亡した。

図-10

雑司が谷幹線管内の構造 4)

平成20年8月5日の事故は、11:35に大雨洪水雷注

意報が発令された後、11:50~12:00過ぎ頃に発生し

ている。事故現場より約2km北東に位置する豊島雨

量観測所のハイエトグラフを見ると(図-11)、事

故発生前の雨量は0mmであるため、事故発生場所近

傍の豊島雨量観測所の情報を作業員に周知できてい

たとしても、事故の回避には繋がらなかったのでは

ないかと思われる。

図-11 事故近傍のハイエトグラフ

b) レーダ雨量の観測状況

図-12に示すように国交省レーダ雨量を見ると、

11:35における事故現場周辺の雨量強度は1mm/hと非

常に弱い雨であり、現地の天候からは水位の急上昇

を予測することは難しかったことが伺える。その後

11:40分には事故現場上流で、11:45分には事故現場

上流と合わせて事故現場付近においても強い雨を観

測している。レーダ雨量情報は、事故回避のための

情報に成り得る可能性はあったと思われる。

14:30 14:35

14:55 14:50 事故発生

14:40 14:45

縦断面図

横断面図

0

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0

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0

豊島

地上

雨量

(m

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0

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05

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0

13:2

0事故

現場

上流

雨量

(m

m)

0153045

607590

事故発生

*現況レーダ雨量

データから手計

算により作成

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図-12 雑司が谷幹線周辺における現況レーダ観測状況

(4) 前線豪雨(金沢市・浅野川氾濫)

a) 水位・雨量観測の状況

平成 20 年 7 月 28 日未明より前線に伴う雨雲が強

まり、加賀地方で記録的な豪雨が発生した。この大

雨によって、金沢市内を流れる大野川水系浅野川

(流域面積 80km2)で水位が急激に上昇し、上流部

の山間地で土砂災害、中流部の市街地で浅野川の溢

水氾濫による浸水被害が多発した。

浅野川流域では図-14 に示すとおり水位観測所が

4 箇所、雨量観測所が 5 箇所ある。そのうち金沢市

内に位置する天神橋では、水位が上昇してから約1

時間で危険水位を超過した。(図-13)

0

10

20

30

40

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10:5

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11:0

0

降水量mm

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0 水位m

芝原橋雨量観測所10分雨量

浅野川上流部平均雨量(レーダ)

天神橋水位

天神橋はん濫危険水位

芝原橋水位芝原橋の観測上限水位が3.52mのため、それ以上の水位は痕跡水位から推定されている。

図-14 天神橋水位グラフ

5km

芝原橋

医王山

水防山の上

機具橋

小橋天神橋

芝原橋

沖橋

浅野川流域

図-13 浅野川流域図(基図はGoogleMap)

b) レーダ雨量の観測状況

芝原橋の雨量ハイエトグラフが示すように、この

前線豪雨は概ね3時間で局地的に降ったことがわか

る(観測史上最多の251mm)。

図-15に示すとおり国交省現況レーダ雨量を3時

間累加雨量で見ると、浅野川上流域での降雨の状況

がよくわかる。クラーヘン式で簡易に洪水到達時間

を推定すると、天神橋までの到達時間は概ね2時間

程度となる。

避難勧告から避難完了までに要する時間は2時間

程度と言われているため(避難勧告・指示と住民の

避難行動 吉井博明5))、上流域の累加雨量が的確

な避難判断に資する情報に成り得たのではないかと

考えられる。

×

×

×4

雑司ヶ谷周辺

神田川残流域

豊島雨量観測地点

雑司ヶ谷幹線

× 事故発生場所

8/5 11:35

大雨洪水雷注意報発令

8/5 11:40

8/5 11:45 その後

50 分過ぎに事故発生

7/28 6:00時点

3時間雨量

(3:00~6:00)

5:30~5:50 の芝原橋雨量は統一河川情報システムで未受信のため抜けているが、実際にはこの間に降雨が有る。

溢水

(8:35)

約 3 時間

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図-15 現況レーダ雨量による3時間累加雨量の変遷

(5) 平成20年8月豪雨(岡崎市・伊賀川氾濫)

a) 被災箇所の概要

伊賀川は、矢作川の支川・乙川に合流する流域面

積 12.0km2、河川延長約 5.2km、川幅 15~40m の小

河川である。乙川合流点から 1.8km の愛宕橋から乙

川合流点から 3.7km の小呂川合流点までは有堤河道、

それ以外は堀込河道となっており、コンクリート護

岸が整備されている。

平成 20 年 8 月 29 日未明の豪雨により、河道内に

立地していた家屋から流され1名が死亡、また愛宕

橋付近からの溢水により水没した平屋家屋でも1名

の犠牲者が確認された。29 日の夕方において、痕

跡水位の確認や可能な範囲で住民の方に聞き取り調

査を行った。住民の方からいただいたコメント例を

以下に紹介する。

【現地聞き取り例】

・ 夜中に水位が上がっていることはわからず、溢

れてから大変なことになっていると知った。

・ 10:30 頃から雨が降り出し、その後はどしゃぶ

りで雷もすごかったが、真夜中だったので川を

見に行こうとは思わなかった。

・ 家の1階の中でも胸元まで浸水していた。

・ 8 年前に東海豪雨でも溢れ、その後、県が橋脚

の無い橋に掛け替えたが今回も溢れてしまった。

・ 溢水は左右岸から同時に 1:30 頃発生した。

・ 溢水幅は愛宕橋の左岸上 100m、下 30m 程度であ

った。(右岸上も溢水していたが溢水幅不明)

図-16 伊賀川左岸の浸水エリア(写真は著者撮影)

図-17 航空レーザ測量による地盤高

(中部地方整備局作成のLPデータを簡易処理)

愛宕橋

人的被害

箇所周辺

愛宕橋左岸

泥が付着

伊賀川 伊賀川

7/28 7:00時点

3時間雨量

(4:00~7:00)

7/28 8:00時点

3時間雨量

(5:00~8:00)

伊賀川

愛宕橋

溢水幅約100m

溢水幅約30m

溢水幅約?m

犠牲者宅(平屋)

窪地地形

広幡小学校

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図-18 伊賀川の流路付け替え

図-17に示すとおり航空レーザ測量による地盤高

を確認すると、犠牲者の住宅周辺は窪地になってお

り、伊賀川からの氾濫水が貯留しやすい地形である

ことは明らかである。(航空レーザ測量データはフ

ィルタリング前のものを用いて1mメッシュ化処理

後に描画した)

図-18 に示すとおり、伊賀川は、旧伊賀川の浸水

対策を目的として明治 45 年に流路を旧岡崎城外堀

に付け替える改修工事が始まり、大正 4 年に完成し

ている。この付け替えにより不自然な窪地地形とな

ったと考えられ、その後昭和 36 年以降に市街化し

たものと推定される。

b) 雨量観測の状況

図-19 に示すとおり伊賀川流域の近傍には、岡崎

(県)、岡崎(国)観測所があるが、いずれも伊賀

川下流部であり、犠牲者が出た地点の上流域には雨

量観測所は設置されていない。伊賀川には水位観測

所も無い状況であった。(被災後、愛知県が伊賀川

に水位観測所を設置)

図-19 伊賀川流域図

c) レーダ雨量の観測状況

図-20や図-21に示すレーダ雨量の状況より、伊賀

川流域では、29日1:00~1:30頃に降雨が強くなって

いることがわかる。

図-20 事故近傍のハイエトグラフ

この豪雨においては、岡崎市全域で強い降雨が観

測され、避難勧告も市の全域に発令された。結果と

して、伊賀川流域のみで死者が出る災害となった。

伊賀川流域のような水位計や雨量計が無い河川で

は、レーダ雨量の避難判断への有効活用が重要とな

る。その一方で、岡崎市の広い範囲で強雨域が観測

されており、伊賀川が最も危険ランクが高いことを

特定することは不可能であったと思われる。

より危険な対象地区を絞り込んで、確実な避難情

報を提供するためには、降雨や上流の水位監視と合

わせて、地形や河川の改修状況(流下能力)等、事

前に危険性を評価し、総合的に判断できる情報を準

備しておくことが必要となってくると思われる。

図-21 伊賀川流域における現況レーダ雨量観測状況

岡崎

水位観測所

岡崎(国)

雨量観測所 明大寺水位観測所

岡崎(県)雨量観測所

伊賀川流域

2km

伊賀川流域

岡崎市

矢作川

0

5

10

15

20

25

30

0:0

0

0:2

0

0:4

0

1:0

0

1:2

0

1:4

0

2:0

0

2:2

0

2:4

0

3:0

0

3:2

0

岡崎

(国

)雨

量(m

m)

0

50

100

150

200

250

300

累加

雨量

(m

m)

0

5

10

15

20

25

30

0:0

0

0:2

0

0:4

0

1:0

0

1:2

0

1:4

0

2:0

0

2:2

0

2:4

0

3:0

0

3:2

0レー

ダ伊

賀川

流域

(m

m)

0

50

100

150

200

250

300

累加

雨量

(m

m)

事故発生

*市町村向け川の

防災情報からデ

ータ収集

伊賀川氾濫

(1:30 頃)

避難勧告

(2:10 頃)

広幡小学校

広幡小学校:大正7年4月開校

明治23年測量 岡崎地形図 大正9年測量 岡崎地形図

伊賀川旧伊賀川

1.8mm/h

8/29 0:00

43.8mm/h

8/29 1:00

136.8mm/h

8/29 1:30

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(6) 台風第9号(佐用町・佐用川氾濫)

a) 被災箇所の概要

平成21年8月9日夜、熱帯低気圧(のちに台風第9

号)の影響により、兵庫県佐用町では、佐用川の氾

濫等で死者18名、行方不明者2名(平成21年9月8日

消防庁発表)を出す等の被災を受けた。

被災日から10日後に、図-22に示す被災現場にお

いて痕跡水位等の確認を行ったので以下に紹介する。

図-22 佐用川流域と主な被災箇所(基図はGoogleMap)

b) 本郷地区

本郷地区では、町営住宅(自宅)から避難途中に、

幕山川沿いの用水路に流され8名が死亡、1名が行

方不明となった。被災したのが夜であったものの、

図-23に示すとおり見通しが良く、排水路も狭いた

め、幕山川の溢水氾濫等で、このあたりが広い範囲

で浸水し、路面が見えなかったのではないかと思わ

れる。

図-23 本郷地区の被災状況(鳥瞰図はカシミール3Dを

用いて描画、写真は著者撮影)

c) 佐用地区

佐用町の中心地区は佐用川沿いに広がっており、

役場や病院、商店街等の一帯が氾濫のため浸水し、

家屋水没による死者も出た。図-24に市街における

浸水位の痕跡等を示す。

図-24 佐用地区の被災状況(鳥瞰図はカシミール3Dを用

いて描画、写真は著者撮影)

d) 久崎地区

佐用川沿いに上月地区から久崎地区にかけて広範

囲に浸水被害が発生。死者は出ていないものの、氾

濫域は佐用地区よりも広域である。(図-25)

図-25 久崎地区の被災状況(鳥瞰図はカシミール3Dを

用いて描画、写真は著者撮影)

約 150cm

幕山川

佐用川

円 光 寺

観測所

事故現場

佐用川流域

① ②

① 本郷地区

② 佐用地区

③ 久崎地区

排水路

幕山川

町営住宅 × 事故現場

避難所

排水路

×

排水路

幕山川

町営住宅

避難ルート

× 事故現場

流下方向

約 170cm

約 50cm

佐用川右岸

佐用水位観測所の水位痕跡 橋上に蓄積

した流木

約 100cm

町役場の窓に残

る水位痕跡

(役場の1階は

土間で 100cm 程

度浸水した)

商店の窓に残る水位痕跡

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e) 水位雨量観測の状況

佐用地点上流域平均雨量を見ると、はん濫危険水

位超過時(20:40)に累加雨量が約 190mm に達し、

総雨量は 300mm を超えている。

また、図-26 に示すように基準点である佐用水位

観測所の水位を見ても、現地の浸水痕跡を裏付ける

ように、ピーク水位が両岸の天端を越えている。

図-26 台風9号における佐用雨量・佐用水位

f) レーダ雨量の観測状況

図-27は台風9号の3日累加雨量図である。日本全

域や兵庫県域で見ても、佐用川流域に局所的な降雨

が継続したことがわかる。

図-27 台風9号(8~10日 72時間)累加雨量図

(下図の白枠は佐用川流域)

被災直前の3時間累加で描画すると、作用川流域

の危険性がよくわかる。図-26に示したとおり、作

用水位観測所では、19:50に避難判断水位を超過し、

新聞報道等では、21:00過ぎに町役場が浸水したと

記述されている。

3時間累加雨量は、図-28のとおり被災をよくとら

えているが、適切な避難判断は、避難判断水位の超

過とともに、3時間雨量100mm超過が一つの指標であ

ったといえる。

図-28 台風9号における佐用川3時間累加雨量図

また、避難判断を行う上では、現況の累加雨量を

過去の出水時の雨量と比較することが有効である。

簡易的に佐用雨量観測所の過去データ(1976~

2009年)で、過去の雨量ランキングを作成した。

(図-29)今回の台風9号は、作用川流域において群

を抜いて既往最大の雨量であったことがわかる。

全国

佐用川

兵庫県

8/9

17:00~20:00

8/9

18:00~21:00 8/9

19:00~22:00

2009.08.09台風9号佐用(気象)雨量観測所

10分雨量

0

5

10

15

20

25

30

35

(mm)

0

50

100

150

200

250

300

350

播磨北西部大雨・洪水警報

(14:15)

佐用町土砂災害警戒

情報第1号(20:10)

佐用町土砂災害警戒

情報第2号(00:55)

台風9号発生(21:00)

2009.08.09台風9号佐用水位観測所10分水位

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

4.00

4.50

5.00

5.50

6.00

/09 1

3:0

0

/09 1

3:3

0

/09 1

4:0

0

/09 1

4:3

0

/09 1

5:0

0

/09 1

5:3

0

/09 1

6:0

0

/09 1

6:3

0

/09 1

7:0

0

/09 1

7:3

0

/09 1

8:0

0

/09 1

8:3

0

/09 1

9:0

0

/09 1

9:3

0

/09 2

0:0

0

/09 2

0:3

0

/09 2

1:0

0

/09 2

1:3

0

/09 2

2:0

0

/09 2

2:3

0

/09 2

3:0

0

/09 2

3:3

0

/09 2

4:0

0

/10 0

0:3

0

/10 0

1:0

0

/10 0

1:3

0

/10 0

2:0

0

/10 0

2:3

0

/10 0

3:0

0

(m)

避難判断水位(3.00m)

はん濫注意水位(2.80m)

左岸パラペット(4.88m)

ピーク水位:5.08m(21:50)

2.81m(17:30)2.55m

(15:40)

3.04m(19:50)

3.98m(20:40) はん濫危険水位(3.80m)

町内全域に避難勧告(21:20)

町役場の1階が浸水(21:00)

佐用町が災害対策本部を設置

(19:00)

水防団待機水位(2.50m)

右岸天端(4.75m)

国道373号

2009.08.09台風9号レーダ佐用水位上流

10分雨量

0

5

10

15

20

25

30

35

0

50

100

150

200

250

300

350

152mm(19:50)

192m(20:40)

116mm(17:30)

95mm(15:40)

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図-29 佐用雨量観測所の雨量ランキング

(気象庁ホームページより時間雨量を収集)

(7) 平成21年7月中国・九州北部豪雨(防府市・土

石流)

a) 被災箇所の概要

防府市では、土石流により特別養護老人ホームが

被災し7名の犠牲者を出す等、甚大な被害が発生し

た(図-30に位置を示す)。特別養護老人ホーム

(上田南川流域)は急峻な山地であり、地質は著し

く風化された花崗岩~花崗閃緑岩であり土砂に近い

もろい性質となっている。

図-30 防府市内の被災現場(平面図基図ははGoogleMap、

鳥瞰図はカシミール3Dを用いて描画)

b) 雨量観測の状況

土石流が発生した特別養護老人ホーム等の近傍に

は真尾雨量観測所が設置されている。図-31に示す

とおり同観測所における7/21のピーク時間雨量が

51mm、7/21の日雨量が266mmであった。

図-31 真尾雨量のハイエトグラフ

土砂災害における危険指標としては、気象庁の流

域雨量指数や土壌雨量指数があり、累加雨量のみで

の再現は非常に簡易的のものではあるが、老人ホー

ム上流域では、強雨域を観測していたことがわかり、

災害時におけるレーダ雨量データのピンポイント活

用の有用性が期待できる。 (図-32 が 6 時間累加雨量、図-33 が降り始めか

らの総雨量の変遷)

図-32 6時間累加による等雨量線図

51mm

市町村向け川の防災情報 真尾雨量観測所

土石流発生

(正午過ぎ) 266mm

5:00~11:00

6:00~12:00

被災箇所

真尾雨量観測所

佐波川流域

大字奈美で土石流によ

り1名死亡

大歳神社付近

で山崩れによ

り 2 名死亡

国土 262 号付

近で土石流に

より 4 名死亡

上田南川流域

上田南川流域での土石流

により特別養護老人ホー

ム等が被災、7名死亡。土

石流は正午過ぎに発生。

上田南川流域

特別養護老

人ホーム

3時間累加雨量(mm)

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

160.0

180.0

200.0

2009

年8月

9日

1999

年9月

15日

2004

年9月

29日

2004

年9月

29日

1978

年9月

15日

1993

年9月

4日

1990

年8月

17日

1997

年7月

26日

2004

年8月

10日

1990

年8月

17日

今回

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図-33 降り始めからの総雨量の変遷 5.状況に応じた効果的な活用方法(案)

平成20年、21年の主な豪雨災害では、中小河川で

の河川氾濫や下水道等の工事中の水難事故が目立っ

た。4.で紹介した被災時の水位・雨量計やレーダ

雨量等は、これらの災害の現象をよくとらえている。

一方、レーダ雨量やテレメータデータの整備、各

種予警報など多くの情報が発信され、多様な手段で

伝達されるようになってきたため、かえって情報が

豊富過ぎたり、情報の意味するところが適切に理解

されずに、有効利用の妨げとなっている可能性もあ

る。すなわち、単に個別の情報が流されるだけでは

なく、情報のコンテキスト(文脈、前後関係、背

景)が重要である。

河川情報システムにおいても、対象とする地点は

どこか、その地点の流域面積に対応した洪水到達時

間内累加雨量はどうなっているか、外水が問題なの

か、内水が問題なのか、土砂災害の恐れはあるか、

といった状況、目的に対して適切な情報をユーザが

取り出せることが重要である。また、ユーザ自身が、

どのような状況を想定すべきか、対応した情報は何

なのかを認識しやすいことも重要である。

現状の河川情報システムは個々のデータを迅速・

確実に伝えることに主眼があり、こうしたユーザ側

の個別ニーズに応じた表示に柔軟に対応することは

難しいが、グラフ表示や累加雨量表示をうまく活用

すれば、必要な情報をわかりやすく取り出すことは

可能である。

今回、最近の豪雨災害における表示を整理したが、

こうした事例を参考としてリアルタイムに適切な情

報を読み取る方法を説明していきたいと考えている。

図-34に状況に応じたレーダ雨量の効果的な活用

案を示す。

図-34 状況に応じた雨量データの活用方法(案)

図-35 事故上流域面積とリードタイムの関係試算

R = 0.89

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

110

120

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

110

120

リードタイム(分)

地点

上流

面積

(km

2)

雑司が谷

(水難事故)

都賀川(水難事故)

伊賀川(氾濫)

呑川(水難事故)

浅野川

(氾濫)

佐用川

(氾濫)

0:00~07:00 0:00~08:00

0:00~09:00 0:00~10:00

0:00~11:00 0:00~12:00

上田南川流域

上田南川流域 上田南川流域

上田南川流域

上田南川流域

上田南川流域

降雨開始

災害

災害危険度

洪水到達時間(Tl)

情報伝送時間(Tt)

リードタイム(Tl-Tt)

状況に応じたレーダ雨量

上流地点メッシュの降雨強度に着目

上流域の到達時間程度の累加雨量に着目

上流域地点メッシュの降り始め(または数日前)からの累加雨量に着目

中小河川や下水路内の水難事故

中小河川の外水はん濫

土砂災害危険区域の土石流等

地形の状況・伝達体制

流域面積・到達時間等の地域性に応じた災害危険度情報を提供することで被害軽減効果を発出

【将来の長期的な技術進展

によるリードタイム確保】

・雨量予測の精度向上

・レーダ観測の解像度・伝送

時間の向上

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4.で示した豪雨災害における洪水到達時間をク

ラーヘン式により簡易に算出し、情報伝送時間を差

し引いてリードタイムを試算し、上流域面積との散

布図を描いてみた(図-35)。情報伝送時間は10分

と想定した。(統一河川情報システムにおける観測

から情報表示までの伝送時間は、観測局により異な

るが、概ね5~10分)

リードタイムには、避難に要する時間が含まれ、

それを一般化するには別途検討が必要であるが、河

道内または河道付近から安全な場所までの避難時間

を10分と仮設定すると、図-35で言えば、上流面積

が約10km2以上であれば、現況レーダ雨量の効果的

な活用が可能であろう。非常に狭い流域では、リー

ドタイムの確保は難しくなるが、近傍の雨域の有無

を画像で確認することは防災上重要なことである。

6.今後の展開

地域や個人によって洪水危険度が異なるため、5.

に示したような状況に応じた効果的な活用方法が重

要であるが、現状の統一河川情報システムにおいて

ユーザが雨量の累加時間を自由に変えられるのは行

政向け(河川管理者向け、市町村向け)であり、一

般向けにその機能は無い。

一般向けシステムは、負荷分散機能等の様々な障

害対策を行っているが、ユーザのリクエストに応じ

自由に画面を作成することは災害時等のアクセス集

中時の負荷が大きくなり困難であることから、あら

かじめ決められた画面の作り置きとなっている。こ

のため、今後はより地域の状況に即したきめ細かな

画面の提供が課題となる。

また、避難勧告・指示等の情報を直接住民に伝達

する市区町村の水防管理者は、より危険性の高い地

区を迅速に判断することが要求されるが、実態とし

ては、緊急時における人材不足が否めない状況にあ

る。市町村向けのシステムは豊富な情報量を提供し

ているが、よりわかりやすく提供することにより活

用してもらうことも必要と考えている。

上記の課題を踏まえ、今後も河川情報提供に関す

る研究及び提案を進めて行きたい。

参考文献

1) 中小河川における局地的豪雨対策WG報告書,国土交通

省河川局,2009.1 2) 災害列島 2009,国土交通省河川局防災課災害対策

室,2009.3 3) 内閣府 防災情報のページ, http://www.bousai.go.jp/ 4) 雑司が谷幹線再構築工事事故調査報告書,東京都水道

局,2008.9 4) 吉井 博明:避難勧告・指示と住民の避難行動 -

水害の被災現場から学ぶこと-,災害情報 No.4

2006, pp. 13-21, 2006.

Heavy Rain Disasters Recorded by Radar Rain Gauge

Shuji IIZUKA and Motoharu SEKIZAWA

Water-related hazard incidents involving casualties have been increasing in small to medium sized river basins, including the flooding of the Iga River (Okazaki, Aichi Prefecture) caused by heavy rains in late August 2008 as well as the flooding of the Sayo River (Sayo, Hyogo Prefecture) in August 2009. In July 2008 several citizens including children were killed while enjoying riparian environment when they were washed away by a sudden rush of water from the nearby Toga River in Kobe. A similar incident occurred in the same month in Toshima Ward, Tokyo. Fatal accidents like these have been increasingly occurring during intense downpours known as “guerrilla heavy rain.” This study analyzes how recorded telemeter rainfall, water level and radar rainfall data for these disaster events was provided by the river disaster prevention information system operated by the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism and discusses effective use of such data for evacuation and other measures for minimizing the impact from water-related disasters.