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平成 27 年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集 都市シミュレーション工学分野 乾式接合による多層モーメントフレームの設計法 -軽量形鋼を用いた構造システム- 学籍番号 26413519 北川穂乃香 指導教員名 佐藤篤司 准教授 1 はじめに American Iron and Steel Institute (AISI) では現 ,CFS-SBMF [1] と呼ばれる高力ボルト接合部の摩 擦抵抗力と支圧抵抗力を活用した 1 層ラーメン構 造の耐震設計法が規定されている.米国の地震地 域では , 施工性に優れたこの構造形式を中低層建物 の構造形式として適用したいという要望が高まっ ている.そこで本研究では CFS-SBMF を多層構造 へと展開した場合におけるフレーム設計法を提案 し,提案する設計法に従い設計したフレームを用 いて Quantification of Building Seismic Performance Factors (FEMA P695 [2] ) に示される手法に基づき Incremental Dynamic Analysis (IDA) を 実 施 す る. 最後に ,FEMA P695 に示される手法から求まる耐 震余裕度を用いて,提案するシステムの耐震設計用 係数(R , Ω 0 )の妥当性を確認する. 2 柱梁接合部 既報 [3] で提案した CFS-SBMF を多層構造へと展 開するための接合形式を図 1 に示す.角形鋼管の 柱と溝形鋼の梁をコネクティングプレートを介し て高力ボルトで接合する形式である.既報において, 提案した接合形式の性能確認実験を実施した.実験 は高力ボルトの初期導入張力をパラメータとして 計画し , 載荷は層間変形角で制御し正負交番繰返し 載荷を基本とした.対象とする架構は図 2 に示すよ うに,階高 h =3000mm,スパン l =6000mm と設定 した.高力ボルトに F10T M20 ,柱に BCR295 ,梁 SSC400 ,コネクティングプレートに SS400 を使 用した.初期ボルト導入張力を Snug Tight に対応 する値とした試験体の荷重と柱頭部変位量の関係 を図 3(a) に,図 3(b) に荷重と柱頭部変位量のうち, 接合部のすべりと支圧による変位量との関係を示 す.図 3(a) で見られる塑性挙動は , 3(b) に示す ボルト接合部のすべりと支圧による変形であるこ とがわかる.このように既報では,提案した接合部 設計法に従った接合部が CFS-SBMF の設計思想に 倣った,架構のエネルギー吸収要素をボルト接合部 とする構造形式として機能していることを示した. 3 モーメントフレーム設計法 CFS-SBMF を多層構造へと展開した場合におけ るフレーム設計法を提案する.フレームの柱脚を固 定端,骨組が全層崩壊機構となる設計法を目指す. Step1 ベースシア , 水平分布荷重 , 層せん断力 ASCE7-10 [4] より, Seismic base shear ( V) Lateral seismic force ( F i ),Seismic design story shear ( V i ) を算 出する. Step2 モーメントバランス係数ρ f , ρ t 柱に作用するモーメントのバランス係数であ first story balance coefficient ρ f (<0.83) top story balance coefficient ρ t (<1.0) (1) (2) 式より求める. 式中のτは梁の耐力調整係数であり,最上階梁の負 担重量が他階に比べて小さいことから,最上階梁は 他階のτ (<1.0) 倍の耐力を必要とすると定義する. (1) (2) = =1 ( + ( − 1))1.2 + ℎ 1 1 = 1.2 Connecting Plate Connecting Plate Beam Beam Column Column Column Connecting Plate ELEVATION VIEW A-A’ VIEW B-B’ B B’ A A’ 3000 3000 1500 1500 3000 6000 [mm] Reaction Floor Hydraulic Jack Column BCR295 HSS-250×250×9.0 Beam SSC400 2C-400×75×6.0 Connecting Plate SS400 400×710×12.0 Beam SSC400 2C-400×75×6.0 Pin Pin Reaction Column Pin Pin Reaction Column Pin -150 -100 -50 0 50 Roof Displacement [mm] Applied Load [kN] -200 -100 0 100 200 100 150 -150 -100 -50 0 50 Roof Displacement [mm] Applied Load [kN] -200 -100 0 100 -200 100 150 図1 柱梁接合部詳細図 図2 試験体概要図 (立面図) 図3 荷重 - 変位量関係 (Snug Tight 接合部) (a) 全体挙動 (b) ボルト接合部挙動 の寄与分

乾式接合による多層モーメントフレームの設計法 -軽量 …sesim.web.nitech.ac.jp/specialty/thesis/H27/pdf/toshi/toshi... · ASCE7-10[4] より,Seismic base

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平成27年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集都市シミュレーション工学分野

乾式接合による多層モーメントフレームの設計法-軽量形鋼を用いた構造システム-

学籍番号 26413519 北川穂乃香

指導教員名 佐藤篤司 准教授

1 はじめに

 American Iron and Steel Institute (AISI)で は 現在 ,CFS-SBMF[1]と呼ばれる高力ボルト接合部の摩擦抵抗力と支圧抵抗力を活用した 1 層ラーメン構造の耐震設計法が規定されている.米国の地震地域では ,施工性に優れたこの構造形式を中低層建物の構造形式として適用したいという要望が高まっている.そこで本研究ではCFS-SBMFを多層構造へと展開した場合におけるフレーム設計法を提案し,提案する設計法に従い設計したフレームを用いてQuantification of Building Seismic Performance Factors (FEMA P695[2])に示される手法に基づきIncremental Dynamic Analysis (IDA)を実施する.最後に ,FEMA P695に示される手法から求まる耐震余裕度を用いて,提案するシステムの耐震設計用係数(R, Ω0)の妥当性を確認する.2 柱梁接合部

 既報 [3]で提案したCFS-SBMFを多層構造へと展開するための接合形式を図 1に示す.角形鋼管の柱と溝形鋼の梁をコネクティングプレートを介して高力ボルトで接合する形式である.既報において,提案した接合形式の性能確認実験を実施した.実験は高力ボルトの初期導入張力をパラメータとして計画し ,載荷は層間変形角で制御し正負交番繰返し載荷を基本とした.対象とする架構は図 2 に示すように,階高 h=3000mm,スパン l=6000mm と設定した.高力ボルトにF10T M20 ,柱にBCR295,梁にSSC400,コネクティングプレートにSS400 を使用した.初期ボルト導入張力をSnug Tight に対応する値とした試験体の荷重と柱頭部変位量の関係を図 3(a)に,図 3(b)に荷重と柱頭部変位量のうち,接合部のすべりと支圧による変位量との関係を示す.図 3(a)で見られる塑性挙動は ,図 3(b)に示すボルト接合部のすべりと支圧による変形であることがわかる.このように既報では,提案した接合部設計法に従った接合部がCFS-SBMFの設計思想に倣った,架構のエネルギー吸収要素をボルト接合部とする構造形式として機能していることを示した.3 モーメントフレーム設計法

 CFS-SBMFを多層構造へと展開した場合におけるフレーム設計法を提案する.フレームの柱脚を固定端,骨組が全層崩壊機構となる設計法を目指す.

Step1 ベースシア , 水平分布荷重 , 層せん断力 ASCE7-10[4]より,Seismic base shear (V),Lateral seismic force (Fi),Seismic design story shear (Vi)を算出する.Step2 モーメントバランス係数 ρf, ρt

 柱に作用するモーメントのバランス係数である first story balance coefficient ρf (<0.83),top story balance coefficient ρt (<1.0)を (1),(2)式より求める.式中のτは梁の耐力調整係数であり,最上階梁の負担重量が他階に比べて小さいことから,最上階梁は他階のτ (<1.0)倍の耐力を必要とすると定義する.

(1)

(2)

𝜌𝜌𝑓𝑓 = 𝜏𝜏 ∑ ℎ𝑠𝑠𝑠𝑠𝑉𝑉𝑠𝑠𝑛𝑛𝑠𝑠𝑠𝑠=1

(𝜏𝜏 + (𝑛𝑛𝑠𝑠 − 1))1.2ℎ𝑠𝑠𝑛𝑛𝑉𝑉𝑛𝑛 + 𝜏𝜏ℎ𝑠𝑠1𝑉𝑉1 (1)

𝜌𝜌𝑡𝑡 = 1.2𝜌𝜌𝑓𝑓 (2)

ConnectingPlate

ConnectingPlate

Beam

Beam

Column

ColumnColumn

ConnectingPlate

ELEVATION VIEW A-A’ VIEW B-B’

B B’A

A’3000

3000

1500

1500

[mm]

Reaction Floor

Hydraulic Jack

ColumnBCR295HSS-250×250×9.0Beam

SSC4002C-400×75×6.0

Connecting PlateSS400400×710×12.0

3000

3000

1500

1500

30006000

[mm]

Reaction Floor

Hydraulic JackColumnBCR295HSS-250×250×9.0Beam

SSC4002C-400×75×6.0

Connecting PlateSS400400×710×12.0

BeamSSC4002C-400×75×6.0

Reaction Column

Pin Pin

Pin Pin

Reaction Column

Pin

PinReaction Column

Pin-1

50-1

00-5

00

50

Roof Displacement [mm]

Appl

ied

Load

[kN

]

-200 -100 0 100 200

100

150

-150

-100

-50

050

Roof Displacement [mm]

Appl

ied

Load

[kN

]

-200 -100 0 100 -200

100

150

図 1 柱梁接合部詳細図

図 2 試験体概要図 (立面図)

図 3 荷重 - 変位量関係 (Snug Tight 接合部)

(a) 全体挙動 (b) ボルト接合部挙動の寄与分

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平成27年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集都市シミュレーション工学分野

Step3 最上階梁,柱脚節点塑性モーメントの総和 最上階梁の節点塑性モーメントの総和 (Στ・pMb),柱脚の節点塑性モーメントの総和 (ΣpMc)を以下の式より算出する.

Step4 柱・梁の必要耐力 柱芯位置での梁材の必要耐力 (Me

*),柱材の必要耐力 (cMye)を算出する.

Step5 柱・梁の部材サイズ決定 以下の式を満たす柱・梁の部材を選定する.ここで,MeはMe

*をボルト接合位置に内挿した値,cMye

*は,梁フランジレベルから梁芯位置まで cMye

を外挿した節点塑性モーメントである .

Step6 組立梁の素材の間幅 組立梁となる溝形鋼のフランジ間の幅 (ib)をボルトが施工できる程度に確保する.推奨値は 100mm以上である.寸法を確保できない場合は部材サイズを再検討する. 以上の手順でフレームに使用する柱部材,梁部材を決定した後,決定した部材で既報 [3]の接合部設計手順に従って接合部の設計を行う.Step7 ボルト接合部での耐力バランスの確認 本フレームではCFS-SBMFの設計思想に倣いボルト接合部での摩擦と支圧の抵抗力によって地震エネルギーを吸収することを意図するため,ボルト接合部のすべり耐力,最大耐力と梁の耐力のバランスが適切な値であることを確認する必要がある.バランスが適切でない場合は,部材やボルト配置などを変更する必要があるが ,バランスの推奨値については検討を重ねる必要があり今後の課題である.

4 Archetype の設計

 3章で示した設計法に基づいてフレームを設計する.対象とする架構形状は計 4体であり,層数,スパン数,スパン長さ,負担長さ ,層高さ,設計用固有周期 [4]を表 1に示す.表 1,表 2中における

単位系は米国で設計されることを想定し ,English Unitsを使用した.耐震設計用係数はSteel Special Moment Frames[4]を参照し,R=8,Ω0=3と設定した.フレームが負担する重量については ,CFS-SBMFが倉庫や事務所を使用用途として想定しているため ,単位重量を最上階 0.075[kips/ft2](=3.6[kN/m2]), 他階を 0.09[kips/ft2](=4.3[kN/m2]) とした. フレーム設計法に従って算出された柱・梁の必要耐力から選出した柱・梁の寸法を表 2に示す.使用する柱材の降伏強さは 46[ksi](=317[N/mm2]),梁材の降伏強さは 55[ksi](=379[N/mm2])である. 3章 Step7において述べたボルト接合部のすべり耐力 ,最大耐力 ,梁の耐力を表 3に示す.耐力はすべて ,接合部中心に作用する曲げモーメントに換算して示す.表 3中における [ ]内は最上階 ,( )内は他階の各耐力をボルト接合部のすべり耐力で無次元化した値である.このときAISIに従い ,すべり係数μは 0.33,ボルト接合部の最大変形は接合部の支圧変形が 8.6[mm]に達したときとした.初期ボルト導入張力NはSnug Tight[5]に対応する張力(N=54.4kN)を導入した.5 モーメントフレーム弾塑性解析

 本章では,FEMA P695[2]に示される手法に従い,静的荷重増分解析を実施し,さらに実地震動記録を用いた IDAを実施し,提案するフレームの耐震余裕度よりシステムの耐震設計用係数の妥当性

【使用記号】hsi:層高さ ns:層数 Ω 0:Overstrength Factor[4]

nb:梁数 pMb:梁の全塑性モーメント τ:梁耐力調整係数nc:柱数 pMc:柱の全塑性モーメント 

MbS: 接合部すべり耐力,MbB: 接合部最大耐力,Mbb: 梁の降伏耐力

※1ft = 304.8mm

※1in = 25.4mm

(5)

(7)

(8)

(6)

(3)

(4) ∑ 𝑀𝑀𝑐𝑐𝑝𝑝𝑛𝑛𝑏𝑏+1

𝑖𝑖=1= 𝜌𝜌𝑓𝑓 ∙ ℎ𝑠𝑠1 ∙ 𝑉𝑉1 ∙ 𝛺𝛺0 (4)

∑ (𝜏𝜏 ∙ 𝑀𝑀𝑏𝑏𝑝𝑝 )2∙𝑛𝑛𝑏𝑏

𝑖𝑖=1= 𝜌𝜌𝑡𝑡 ∙ ℎ𝑠𝑠𝑛𝑛 ∙ 𝑉𝑉𝑛𝑛 ∙ 𝛺𝛺0

𝑀𝑀𝑦𝑦𝑦𝑦𝑏𝑏 ≥ 𝑀𝑀𝑦𝑦

𝑀𝑀𝑒𝑒∗ =

∑ (𝜏𝜏 ∙ 𝑀𝑀𝑏𝑏𝑝𝑝 )2∙𝑛𝑛𝑏𝑏𝑖𝑖=12𝜏𝜏(𝑛𝑛𝑐𝑐 − 1)

𝑀𝑀𝑦𝑦𝑦𝑦𝑐𝑐 =∑ 𝑀𝑀𝑐𝑐𝑝𝑝𝑛𝑛𝑏𝑏+1𝑖𝑖=1𝑛𝑛𝑐𝑐

∑ 𝑀𝑀𝑦𝑦𝑦𝑦∗𝑐𝑐 ≥∑𝑀𝑀𝑦𝑦∗

No. Column Beam Roof Beam05 12×12×1/4 12CS3.75×105 11CS3.75×09006 12×12×1/4 16CS3.75×090 14CS3.75×07507 12×12×1/4 14CS3.75×060 10CS3×09008 12×12×1/4 14CS3.75×060 12CS3.75×060

No.Number

ofStory

Numberof

Span

Span[ft]

Bay[ft]

Height[ft]

T[s]

05 2 2 16 16 14 0.5606 2 3 20 20 12 0.5007 3 2 16 16 14 0.78

08 3 2 16 16 1F;142&3F;12 0.72

No. 05 06 07 08

MbSOther 29.41 (1.00) 40.54 (1.00) 34.42 (1.00) 34.42 (1.00)Roof 20.46 [1.00] 34.90 [1.00] 17.78 [1.00] 29.41 [1.00]

MbBOther 97.00 (3.30) 120.8 (2.98) 79.68 (2.31) 79.68 (2.31)Roof 60.05 [2.93] 92.33 [2.65] 52.13 [2.93] 68.01 [2.31]

MbbOther 88.94 (3.02) 114.8 (2.83) 64.28 (1.87) 64.28 (1.87)Roof 68.26 [3.34] 79.79 [2.29] 51.84 [2.92] 52.01 [1.77]

表 1 フレーム形状

表 2 柱梁部材寸法 [in]

表 3 接合部のすべり耐力と最大耐力

梁降伏耐力[kN・m]

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平成27年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集都市シミュレーション工学分野

を検証する.解析は全て汎用構造解析プログラム「Opensees」[6]により実施する.なお,減衰定数 hは 5%と設定する.検討するフレームは 4章において設計した 4体(No.05,06,07,08)とする .解析モデルの概要を図 4に示す .フレーム形状,設計用固有周期は表 1,使用する柱材・梁材寸法は表 2に示すとおりである.各接合部ボルト配置は梁せいDbによるものとし,梁せいごとの配置を図5に示す.5.1 静的荷重増分解析 

 静的荷重増分解析を行い,骨組の弾塑性域での層せん断力と層間変形角の関係を確認するとともにOverstrength Factor Ω を算出する.フレームNo.06,08の各層における層せん断力と層間変形角の関係を図 6に示す.骨組の最大層間変形角SDRmax

を各フレーム最下層が崩壊メカニズムを形成(最下層の梁端が全て降伏)したときの骨組の層間変形角とし,表 4に示す. さらに,各フレームの設計用ベースシアV,最大ベースシアVmax,Ωをそれぞれ表 4に示す.図 6中に設計用層せん断力Viをプロットで示す.ΩはFEMA P695に従い,(9)式で算出している.このとき梁が降伏しなかったNo.5についてはAISIに倣い,骨組の層間変形角 6%を最大とした.

5.2 地震応答解析

 地震応答解析を用いた IDAを実施し,得られる連続した構造物の応答を用いて提案するフレームの耐震余裕度を検証する.検討を行う地震動群はFEMA P695に示されるFar-Fieldと呼ばれる地震動 44波とした.地震動はすべてFEMA P695に示される手法に倣い,基準化し,再現期間 2500年の設計加速度スペクトルにスケーリングを行った . 図 7にフレームNo.06,08の各地震動倍率における崩壊率を示す.FEMA P695では地震動に抵抗するシステムの崩壊をシステムが 50%崩壊する地震動レベルとしており,図中水平一点鎖線は崩壊率 50%を示す.このとき,5.1節において算出したSDRmax(表 4)より,最大層間変形角が 4%を示したときを限界変形角(崩壊)と定義し,安全側の値とした.再現期間 2500年とされるMCEレベルでの地震動を地震動倍率が 1.0となるように地震動群はスケーリングされているため,システムが崩壊す

(9)𝛺𝛺 = 𝑉𝑉𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚𝑉𝑉

No. 05 06 07 08SDRmax[%] (6.00) 4.96 5.02 4.73

V [kN] 47.15 110.3 56.05 60.50Vmax [kN] 132.4 391.7 137.5 152.7

Ω 2.808 3.552 2.454 2.524

20 20

1212

60

24

2020

16 16

1414

32

28

16

16 1632

16 1414 42

14

16 1632

16 1412 38

12

[ft][ft]

[ft] [ft]

V1

V2

010

020

030

040

0

Story Drift Ratio [%]

Stor

y Sh

ear

Forc

e [k

N]

0 1 2 3 4 5 6 7

1st story2nd story

V1

V2

V3

050

100

150

200

Story Drift Ratio [%]

Stor

y Sh

ear F

orce

[kN

]

0 1 2 3 4 5 6 7

1st story2nd story3rd story

86

22

22

6

6

22

22

4

6

22

22

3

3

22

22

[in]

22

22

2

3

2.5 2.5

2.5 2.5 2.5[in] [in]

[in][in]

1.5 2.0Acceleration Factor

5060

4020

0

0.5 1.00

3010

Colla

pse

Ratio

[%]

1.5 2.0Acceleration Factor

Colla

pse

Ratio

[%] 50

6040

200

0.5 1.00

3010

86

22

22

6

6

22

22

4

6

22

22

3

3

22

22

[in]

22

22

2

3

2.5 2.5

2.5 2.5 2.5[in] [in]

[in][in]

20 20

1212

60

24

2020

16 16

1414

32

28

16

16 1632

16 1414 42

14

16 1632

16 1412 38

12

[ft][ft]

[ft] [ft]

図 4 Archetype 概要図

図 5 柱梁接合部ボルト配置図

図 6 層せん断力 - 層間変形角関係

(a) Db=16 [in] (b) Db=14 [in]

(c) Db=12 [in] (d) Db=11 [in] (e) Db=10 [in]

(a) No.05 (b) No.06

(c) No.07 (d) No.08

(a) No.06 (b) No.08

(a) No.06 (b) No.08

図 7 崩壊率 - 地震動倍率関係

表 4 崩壊メカニズム形成時の層間変形角, Ω

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平成27年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集都市シミュレーション工学分野

るレベルの地震動倍率が耐震余裕度CMRとなる.各モデルのCMRを表 5に示す.5.3 FEMA P695 による性能評価

 各解析より得られた応答を用いて,以下の手順で提案するシステムの耐震設計用係数(R, Ω0) の妥当性を検証する.Step ①【固有周期に基づく塑性率μ Tの算出】 図 8に静的荷重増分解析より得られたフレームNo.06,08のベースシア -最上階変位関係を示す.図中における終局変形量δuは本来,最大ベースシアVmax

から 20%耐力劣化した時点での変位量(図 9参照)で定義されるが [2],本解析においては部材の耐力劣化をモデル化していないため,δuをVmax時点での変形量とし,安全側の評価とする.μ Tを以下の式より算出する [2].

Step ②【調整耐震余裕度ACMR の算出】 耐震余裕度CMRはスペクトル形状の影響を考慮し調整する必要がある [2].固有周期Tとμ Tから求まるスペクトル形状係数SSFでCMRを調整しACMRを算出する.Step ③【システム崩壊の不確実性を示す係数β TOT

の決定】 テストデータ,設計要件,解析モデルの精度に基づいてβ TOT を得る [2].Step ④【ACMR の許容値を算出】 崩壊の不確実性を示すβ TOT に基づいてACMR の許容値ACMR10%,ACMR20%を得る [2].Step⑤【Rの評価】 ACMR の平均値と個々の建物のACMR が以下の式を満足することを確認する.満足するモデルグループはRの値が適当である.

Step ⑥【Ω 0 の算出】 Ω 0 をモデルグループのΩの平均値から算出する.

 表 5に算出した各値を示す.表 5より (11),(12)式を満足することがわかる.このことから提案するシステムは設定した R=8を満足する耐震性能があると言える.また表 4よりΩ0は 2.84となり想定した 3をわずかに下回る結果であり,適当な値である.6 まとめ

 本研究により明らかになったことを以下に挙げる.1)CFS-SBMFを多層構造へと展開するフレーム設計法を提案した.2)提案した設計法に従って設計したフレームを用いてFEMA P695に示される手法に基づき,静的荷重増分解析,地震応答解析を実施し,提案するシステムの耐震設計用係数の値を検証するとともに,その妥当性を確認した.7 参考文献

[1] American Iron and Steel Institure (AISI): Standard for Seismic Design Cold-Formed Steel Structual Systems-Special Bolted Moment Frames, S110-07,Washington,D.C.,2007[2] Federal Emergency Management Agency: Quantification of Building Seismic Performance Factors, FEMA P695, 2009.6[3] 北川穂乃香:乾式接合による鋼柱梁接合部の設計手法の一提案,名古屋工業大学卒業論文,2014.12[4] American Society of Civil Engineers: Minimum Design Loads for Buildings and Other Structures, ASCE/SEI 7-10, 2010[5] American Institute of Steel Construction (AISC): Steel Construction Manual,13th Ed.,AISC,Chicago,2005[6] Silvia Mazzoni, Frank McKenna et al.: OpenSees Command Language Manual, 2006.7

(11)

(12)

(10)

𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴̅̅ ̅̅ ̅̅ ̅̅ 𝑖𝑖 ≥ 𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴10% 𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝑖𝑖 ≥ 𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴20%

𝜇𝜇𝑇𝑇 = 𝛿𝛿𝑢𝑢 𝛿𝛿𝑦𝑦,𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒⁄

No. 05 06 07 08CMR 1.69 1.85 1.56 1.45

δu 512.1 362.8 642.6 547.8δ y,eff 267.8 88.61 190.1 158.6 μT 1.912 4.095 3.381 3.455

SSF 1.14 1.22 1.22 1.21ACMRi 1.93 2.26 1.90 1.75ACMRi 1.96

βTOT 0.525ACMR10% 1.96ACMR20% 1.56

V

0.8Vmax

Vmax

δy,eff δu

Roof Displacement

Base

She

ar F

orce

×μT

×Ω

×μT(4.095)

×Ω(3.552)

V

Vmax

δy,eff δu

0 200 400 600 800

020

030

040

0

Roof Displacement [mm]

100

Base

She

ar F

orce

[kN

]

020

010

050

150

0 200 400 600 800

Roof Displacement [mm]

Base

She

ar F

orce

[kN

]

V

Vmax

δy,eff δu

×μT(3.455)

×Ω(2.524)

図 8 ベースシア - 屋根階変形量関係

表 5 性能評価各値

(a) No.06 (b) No.08図 9 静的荷重増分解析結果