41
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愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

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Page 1: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

     第 5 章 銀 河

 5-1 概要

銀河( galaxy )とは数百万個から数千億個という非常に多数の星(恒

星)からなる天体である普段我々が夜空に眺める星々からは宇宙の

中で星がばらばらに散在している姿を想像してしまいがちであるが宇宙

という大きなスケールで見ると星は銀河という集団を成して存在してお

りそのような銀河が宇宙全体で一千億個以上存在していると考えられて

いる我々が住む太陽系は宇宙に多数ある銀河のうちの1つである銀河系

(天の川銀河詳しくは第6章参照)の中にあり我々が夜空に見ている

星々のほとんどがこの銀河系の中の(銀河系を構成している)星である

一般に我々の銀河系から銀河系以外の他の銀河までの距離は銀河系の大

きさと比べて非常に遠くそのため肉眼で夜空に確認することのできる銀

河はアンドロメダ銀河や大小マゼラン雲(第6章参照)などわずか数個し

かないしかし望遠鏡などを使って暗い天体まで観測すると我々が普

段見ている明るい星々の隙間から遠くの宇宙に存在する多数の銀河を見

ることができる(図5-1)

観測対象としての銀河の大きな特徴としてその見かけの姿形の多様

性があげられるだろう一つ一つの星は点または球状にしか見えないが

多数の星の集合である銀河はいろいろな形のものがありのっぺりとした

円や楕円形の銀河横から見ると比較的薄い円盤状の銀河その円盤に渦

巻模様が見える銀河円や楕円といった規則性のない非対称な形をした銀

河など多種多様であるまた明るさや見た目の色大きさ渦巻模様の

様子などについてもいろいろな特徴を持つ銀河が存在し銀河ごとに千

差万別である

  肉眼で見ることのできる光の波長(可視光)で銀河を観測するとおもに銀河を構成する多数の星からの光を見ることになるが銀河の構成要素

は星だけではない星が作られる材料である星間雲や星からの光を吸収

散乱する宇宙塵などの星間物質(第13章参照)は銀河の重要な構成要素

でありまた光は出さないが星や星間物質よりもはるかに大きい質量を持

つダークマター(第4章参照)が銀河を重力的に支配している宇宙で

はこのような星星間物質ダークマターからなる銀河が複数(多数)

集まって銀河群銀河団大規模構造(第3章参照)といった階層構造

を形作っておりその意味では銀河は宇宙の基本的な構成要素といえる

図5-1ハッブル宇宙望遠鏡による銀河の観測中央やや下で十字に輝

いているのが我々の銀河系の中の星の一つでそれ以外の大部分の天体は

銀河系とは別の銀河

( httphubblesiteorggalleryalbumpr2004007h より)

宇宙が始まってから現在まで137億年経過しているが(第1章参

照)宇宙の歴史の中で銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿

で存在していたわけではない宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆら

ぎが重力不安定性によって増幅されてダークマターハローが形成され

(第1章)その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマター

の重力に引かれてダークマターハローの中で重力収縮が進み星が形

成され始めるこの星の集団としての銀河の形成は宇宙年齢が数億年の時

代に始まり以後約130億年の間多数の銀河が誕 生成長して現在の

宇宙で見られる姿に進化したと考えられている

  この章ではこの宇宙を構成するもっとも基本的な天体ともいえる銀河についてまず現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類 法やその性質

を解 説する後半では宇宙が始まって現在までの間に銀河がどのよう

に形成進化してきたのかについておもに遠方銀河の観測から分かって

きたことを中心に紹 介する

図5-2すばる望遠鏡による楕円銀河M 87

( httpsubarutelescopeorgGalleryhdtvm87w_sjpg より)

5-2  銀河の分類

 現在の宇宙にはいろいろな特徴を持つ多種多様な銀河が存在するがこ

れらの銀河を分類する方 法としてもっとも基本的なものが銀河の形態

(姿形)による分類(形態分類morphological classification )である銀河

はその形態の特徴によっておおまかにいくつかの種類に分類される楕円

銀河( elliptical galaxy )はのっぺりとしたほとんど模様がない円楕円系

の形をした銀河で(図5-2)多数の星が回 転楕円体状に集まっている

と考えられている楕円銀河の星からの光の大部分は中心 付 近に集中して

いるが一方でかなり外側まで淡い裾を引いた表 面輝度分布(次 節参照)

を示す傾 向がある

渦巻銀河( spiral galaxy )は星が扁 平な円盤状に分布しておりその円

盤上の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的である(図5-3)この円盤

(ディスク)成分に加えて渦巻銀河の中心には回 転楕円体をしたバルジ

と呼ばれる成分があり円盤成分に対するバルジ成分の大きさは銀河ごと

にまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在する)渦巻銀

河の中にはその円盤上に中心を通る棒状の構造を持つ銀河がかなりの数

存在しその棒状構造(バーと呼ばれる)が顕 著な銀河を特に棒渦巻銀河

( barred spiral galaxy)と呼 ぶ

また楕円銀河と渦巻銀河の中間

の種族として渦巻銀河のように扁

平 な 円

図5-3ハッブル宇宙望遠鏡による渦巻銀河 M101 (左)とNGC3710

(右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2009007h

httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2003024i  より)

盤状の形をしているが楕円銀河のように渦巻模様を持たない銀河は S0

銀河( S0 galaxy )と分類される渦巻銀河とS0銀河を合わせて渦状腕を

持つかどうかに関わらず円盤状の形をした銀河という意味で円盤銀河

( disk galaxy)と呼 ぶこともある現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕

円銀河 S0銀河渦巻銀河といった回 転対称性のよい形態を示すが大小

マゼラン雲に代 表されるような非対称な形をした銀河も存在しなかには

中心を定義することが難しいような形の銀河もある(図5-4)これら

の規則性の乏しい形をした銀河はまとめて不規則銀河( irregular galaxy )

と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブル(E Hubble )が提

唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左か

ら楕円銀河 S0銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整 理を試みた

右 側の渦巻銀河の部分は棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と

棒渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では円盤成分に比

べてバルジ成分が明るく(大きく)渦状腕の巻き方がきつく渦状腕の

ぶつぶつが目立たない(棒)渦巻銀河ほど左 側に配置され右に行くほど

バルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立っ

た渦巻銀河が配置されている左 側から順にSa Sb Sc 銀河(棒渦巻銀河の

場 合 は SBa SBb SBc 銀

図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427 ( 左)と

NGC3256 (右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxyirregularpr2005009a

httphubblesiteorgnewscenterarchivereleases200816imagebr  より)

河)と名 付けられている左 側の楕円銀河の部分では円形の楕円銀河が

一番 左 側にあり右に進むほどより扁 平な形をした楕円銀河が配置されて

おり左 側からE0 E1 E2helliphellip E7 と細かく分類されているこのハッブル

による銀河を形態によって分類し整 理して並べたものをハッブル系列

(Hubble sequence)というその形状からハッブルの音 叉図と呼ばれること

もあるハッブル系列は銀河をその形態によって順に並べたものであった

が銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢や星の総質

量あるいは星の材料となる星間雲の量といった銀河の本質的な物理量

がこの系列に沿って系統的に変 化していることが分かったそのため

ハッブル系列は銀河の性質やその進化を理 解する上で重要だと考えられて

いる現在では(棒)渦巻銀河の右 側にSd銀河を加えさらにその右 側

に不規則銀河を配置した拡 張 版がよく使われている

  便 宜上ハッブル系列の左 側の形態を早期型 (early type)右 側の形態を晩

期型( late type)といい楕円銀河と S0銀河を合わせて早期型銀河( early-

type galaxy) 渦巻 銀河 と不 規則 銀河 を合 わせて晩 期型 銀河 ( late-type

galaxy )と呼 ぶ渦巻銀河の中でも Saなどの比較的ハッブル系列で左 側

に位 置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河( early-type spiral ) Scなど右 側の渦

巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼 ぶこともある早期型晩

期型の名 前の由 来はハッブルがこの形態分類 法を発 表した当 時

図5-5ハッブルの音 叉図(ハッブル系列)

( httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-

galaxies  より)

銀河が生まれたばかりの初期段階では楕円銀河のような形をしていて時

間の経過とともに渦巻銀河のような構造に発 展していくと考えられていた

ことによるが現在ではこれとは逆に楕円銀河が古い星から構成されてい

るのに対して渦巻銀河は若い星が比較的多いことが観測的に分かってお

り楕円銀河の方がむしろ誕 生してから長い時間が経過した銀河であると

考えられている形態進化の順 序についても初期には渦巻銀河だったも

のが楕円銀河に進化していくとする説が現在は有力視されており大部分

の銀河が楕円銀河から始まって渦巻銀河に進化したとする説は今では否定

されている

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類はおもに比較的明るく大き

い銀河( giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系

列に分類される銀河と比べて暗い特に B バンド(光の波長でおよそ

450nm )の絶対等 級で -18 等 級よりも暗い銀河は矮小銀河( dwarf galaxy )

と呼ばれ明るく大きい銀河とは異なる形態分布を持つことが知られてい

る矮小銀河はその形態によりのっぺりとして模様がなく回 転対称性

のよい形の矮小楕円銀河( dwarf elliptical )および 矮小楕円体銀河( dwarf

spheroidal )と非対称で規則性が乏しい形をした矮小不規則銀河( dwarf

irregular)におおまかに分けられる矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表 面

輝度(次 節参照)によって比較的明るい表 面輝度の矮小楕円銀河と比

較的暗い矮小楕円体銀河とに分けられるがその境 界となる条 件は明確に

定義されているわけではない明るい銀河と同様に矮小楕円銀河と矮小

楕円体銀河を早期型 矮小銀河( early-type dwarf )矮小不規則銀河を晩期型

矮小銀河( late-type dwarf )と呼 ぶこともあるまた矮小銀河の中には

中心の狭い領 域に若い星が密集していると考えられている青色コンパクト

矮小銀河( blue compact dwarf)や観測することが難しい非常に表 面輝度が

低い銀河( low surface brightness galaxy )などに分類される銀河も存在する

5-3 銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解 説する星

の集団としての銀河の性質と関 係が深い観測量が主であるが星間物質や

暗黒物質に関わる物理量も含めて説明する

5-3-1 光度

 銀河の光度( luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から単

位 時間当たりに放 射される光(電 磁波)のエネルギーとして定義される物

理量である紫外線可視光近 赤外線などの(光の)波長帯では絶対等

級を使って表されることも多い銀河の光度を知るためにはその銀河の

見かけ上の明るさとその銀河までの距離の情 報が必要であるが一般に見

かけの明るさの測定よりも距離の決定の方が難しく観測的に手間暇がか

かる場合が多い我々が銀河からの光を観測していることを考えると銀

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 2: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

つダークマター(第4章参照)が銀河を重力的に支配している宇宙で

はこのような星星間物質ダークマターからなる銀河が複数(多数)

集まって銀河群銀河団大規模構造(第3章参照)といった階層構造

を形作っておりその意味では銀河は宇宙の基本的な構成要素といえる

図5-1ハッブル宇宙望遠鏡による銀河の観測中央やや下で十字に輝

いているのが我々の銀河系の中の星の一つでそれ以外の大部分の天体は

銀河系とは別の銀河

( httphubblesiteorggalleryalbumpr2004007h より)

宇宙が始まってから現在まで137億年経過しているが(第1章参

照)宇宙の歴史の中で銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿

で存在していたわけではない宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆら

ぎが重力不安定性によって増幅されてダークマターハローが形成され

(第1章)その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマター

の重力に引かれてダークマターハローの中で重力収縮が進み星が形

成され始めるこの星の集団としての銀河の形成は宇宙年齢が数億年の時

代に始まり以後約130億年の間多数の銀河が誕 生成長して現在の

宇宙で見られる姿に進化したと考えられている

  この章ではこの宇宙を構成するもっとも基本的な天体ともいえる銀河についてまず現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類 法やその性質

を解 説する後半では宇宙が始まって現在までの間に銀河がどのよう

に形成進化してきたのかについておもに遠方銀河の観測から分かって

きたことを中心に紹 介する

図5-2すばる望遠鏡による楕円銀河M 87

( httpsubarutelescopeorgGalleryhdtvm87w_sjpg より)

5-2  銀河の分類

 現在の宇宙にはいろいろな特徴を持つ多種多様な銀河が存在するがこ

れらの銀河を分類する方 法としてもっとも基本的なものが銀河の形態

(姿形)による分類(形態分類morphological classification )である銀河

はその形態の特徴によっておおまかにいくつかの種類に分類される楕円

銀河( elliptical galaxy )はのっぺりとしたほとんど模様がない円楕円系

の形をした銀河で(図5-2)多数の星が回 転楕円体状に集まっている

と考えられている楕円銀河の星からの光の大部分は中心 付 近に集中して

いるが一方でかなり外側まで淡い裾を引いた表 面輝度分布(次 節参照)

を示す傾 向がある

渦巻銀河( spiral galaxy )は星が扁 平な円盤状に分布しておりその円

盤上の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的である(図5-3)この円盤

(ディスク)成分に加えて渦巻銀河の中心には回 転楕円体をしたバルジ

と呼ばれる成分があり円盤成分に対するバルジ成分の大きさは銀河ごと

にまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在する)渦巻銀

河の中にはその円盤上に中心を通る棒状の構造を持つ銀河がかなりの数

存在しその棒状構造(バーと呼ばれる)が顕 著な銀河を特に棒渦巻銀河

( barred spiral galaxy)と呼 ぶ

また楕円銀河と渦巻銀河の中間

の種族として渦巻銀河のように扁

平 な 円

図5-3ハッブル宇宙望遠鏡による渦巻銀河 M101 (左)とNGC3710

(右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2009007h

httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2003024i  より)

盤状の形をしているが楕円銀河のように渦巻模様を持たない銀河は S0

銀河( S0 galaxy )と分類される渦巻銀河とS0銀河を合わせて渦状腕を

持つかどうかに関わらず円盤状の形をした銀河という意味で円盤銀河

( disk galaxy)と呼 ぶこともある現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕

円銀河 S0銀河渦巻銀河といった回 転対称性のよい形態を示すが大小

マゼラン雲に代 表されるような非対称な形をした銀河も存在しなかには

中心を定義することが難しいような形の銀河もある(図5-4)これら

の規則性の乏しい形をした銀河はまとめて不規則銀河( irregular galaxy )

と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブル(E Hubble )が提

唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左か

ら楕円銀河 S0銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整 理を試みた

右 側の渦巻銀河の部分は棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と

棒渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では円盤成分に比

べてバルジ成分が明るく(大きく)渦状腕の巻き方がきつく渦状腕の

ぶつぶつが目立たない(棒)渦巻銀河ほど左 側に配置され右に行くほど

バルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立っ

た渦巻銀河が配置されている左 側から順にSa Sb Sc 銀河(棒渦巻銀河の

場 合 は SBa SBb SBc 銀

図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427 ( 左)と

NGC3256 (右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxyirregularpr2005009a

httphubblesiteorgnewscenterarchivereleases200816imagebr  より)

河)と名 付けられている左 側の楕円銀河の部分では円形の楕円銀河が

一番 左 側にあり右に進むほどより扁 平な形をした楕円銀河が配置されて

おり左 側からE0 E1 E2helliphellip E7 と細かく分類されているこのハッブル

による銀河を形態によって分類し整 理して並べたものをハッブル系列

(Hubble sequence)というその形状からハッブルの音 叉図と呼ばれること

もあるハッブル系列は銀河をその形態によって順に並べたものであった

が銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢や星の総質

量あるいは星の材料となる星間雲の量といった銀河の本質的な物理量

がこの系列に沿って系統的に変 化していることが分かったそのため

ハッブル系列は銀河の性質やその進化を理 解する上で重要だと考えられて

いる現在では(棒)渦巻銀河の右 側にSd銀河を加えさらにその右 側

に不規則銀河を配置した拡 張 版がよく使われている

  便 宜上ハッブル系列の左 側の形態を早期型 (early type)右 側の形態を晩

期型( late type)といい楕円銀河と S0銀河を合わせて早期型銀河( early-

type galaxy) 渦巻 銀河 と不 規則 銀河 を合 わせて晩 期型 銀河 ( late-type

galaxy )と呼 ぶ渦巻銀河の中でも Saなどの比較的ハッブル系列で左 側

に位 置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河( early-type spiral ) Scなど右 側の渦

巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼 ぶこともある早期型晩

期型の名 前の由 来はハッブルがこの形態分類 法を発 表した当 時

図5-5ハッブルの音 叉図(ハッブル系列)

( httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-

galaxies  より)

銀河が生まれたばかりの初期段階では楕円銀河のような形をしていて時

間の経過とともに渦巻銀河のような構造に発 展していくと考えられていた

ことによるが現在ではこれとは逆に楕円銀河が古い星から構成されてい

るのに対して渦巻銀河は若い星が比較的多いことが観測的に分かってお

り楕円銀河の方がむしろ誕 生してから長い時間が経過した銀河であると

考えられている形態進化の順 序についても初期には渦巻銀河だったも

のが楕円銀河に進化していくとする説が現在は有力視されており大部分

の銀河が楕円銀河から始まって渦巻銀河に進化したとする説は今では否定

されている

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類はおもに比較的明るく大き

い銀河( giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系

列に分類される銀河と比べて暗い特に B バンド(光の波長でおよそ

450nm )の絶対等 級で -18 等 級よりも暗い銀河は矮小銀河( dwarf galaxy )

と呼ばれ明るく大きい銀河とは異なる形態分布を持つことが知られてい

る矮小銀河はその形態によりのっぺりとして模様がなく回 転対称性

のよい形の矮小楕円銀河( dwarf elliptical )および 矮小楕円体銀河( dwarf

spheroidal )と非対称で規則性が乏しい形をした矮小不規則銀河( dwarf

irregular)におおまかに分けられる矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表 面

輝度(次 節参照)によって比較的明るい表 面輝度の矮小楕円銀河と比

較的暗い矮小楕円体銀河とに分けられるがその境 界となる条 件は明確に

定義されているわけではない明るい銀河と同様に矮小楕円銀河と矮小

楕円体銀河を早期型 矮小銀河( early-type dwarf )矮小不規則銀河を晩期型

矮小銀河( late-type dwarf )と呼 ぶこともあるまた矮小銀河の中には

中心の狭い領 域に若い星が密集していると考えられている青色コンパクト

矮小銀河( blue compact dwarf)や観測することが難しい非常に表 面輝度が

低い銀河( low surface brightness galaxy )などに分類される銀河も存在する

5-3 銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解 説する星

の集団としての銀河の性質と関 係が深い観測量が主であるが星間物質や

暗黒物質に関わる物理量も含めて説明する

5-3-1 光度

 銀河の光度( luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から単

位 時間当たりに放 射される光(電 磁波)のエネルギーとして定義される物

理量である紫外線可視光近 赤外線などの(光の)波長帯では絶対等

級を使って表されることも多い銀河の光度を知るためにはその銀河の

見かけ上の明るさとその銀河までの距離の情 報が必要であるが一般に見

かけの明るさの測定よりも距離の決定の方が難しく観測的に手間暇がか

かる場合が多い我々が銀河からの光を観測していることを考えると銀

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 3: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

  この章ではこの宇宙を構成するもっとも基本的な天体ともいえる銀河についてまず現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類 法やその性質

を解 説する後半では宇宙が始まって現在までの間に銀河がどのよう

に形成進化してきたのかについておもに遠方銀河の観測から分かって

きたことを中心に紹 介する

図5-2すばる望遠鏡による楕円銀河M 87

( httpsubarutelescopeorgGalleryhdtvm87w_sjpg より)

5-2  銀河の分類

 現在の宇宙にはいろいろな特徴を持つ多種多様な銀河が存在するがこ

れらの銀河を分類する方 法としてもっとも基本的なものが銀河の形態

(姿形)による分類(形態分類morphological classification )である銀河

はその形態の特徴によっておおまかにいくつかの種類に分類される楕円

銀河( elliptical galaxy )はのっぺりとしたほとんど模様がない円楕円系

の形をした銀河で(図5-2)多数の星が回 転楕円体状に集まっている

と考えられている楕円銀河の星からの光の大部分は中心 付 近に集中して

いるが一方でかなり外側まで淡い裾を引いた表 面輝度分布(次 節参照)

を示す傾 向がある

渦巻銀河( spiral galaxy )は星が扁 平な円盤状に分布しておりその円

盤上の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的である(図5-3)この円盤

(ディスク)成分に加えて渦巻銀河の中心には回 転楕円体をしたバルジ

と呼ばれる成分があり円盤成分に対するバルジ成分の大きさは銀河ごと

にまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在する)渦巻銀

河の中にはその円盤上に中心を通る棒状の構造を持つ銀河がかなりの数

存在しその棒状構造(バーと呼ばれる)が顕 著な銀河を特に棒渦巻銀河

( barred spiral galaxy)と呼 ぶ

また楕円銀河と渦巻銀河の中間

の種族として渦巻銀河のように扁

平 な 円

図5-3ハッブル宇宙望遠鏡による渦巻銀河 M101 (左)とNGC3710

(右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2009007h

httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2003024i  より)

盤状の形をしているが楕円銀河のように渦巻模様を持たない銀河は S0

銀河( S0 galaxy )と分類される渦巻銀河とS0銀河を合わせて渦状腕を

持つかどうかに関わらず円盤状の形をした銀河という意味で円盤銀河

( disk galaxy)と呼 ぶこともある現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕

円銀河 S0銀河渦巻銀河といった回 転対称性のよい形態を示すが大小

マゼラン雲に代 表されるような非対称な形をした銀河も存在しなかには

中心を定義することが難しいような形の銀河もある(図5-4)これら

の規則性の乏しい形をした銀河はまとめて不規則銀河( irregular galaxy )

と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブル(E Hubble )が提

唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左か

ら楕円銀河 S0銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整 理を試みた

右 側の渦巻銀河の部分は棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と

棒渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では円盤成分に比

べてバルジ成分が明るく(大きく)渦状腕の巻き方がきつく渦状腕の

ぶつぶつが目立たない(棒)渦巻銀河ほど左 側に配置され右に行くほど

バルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立っ

た渦巻銀河が配置されている左 側から順にSa Sb Sc 銀河(棒渦巻銀河の

場 合 は SBa SBb SBc 銀

図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427 ( 左)と

NGC3256 (右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxyirregularpr2005009a

httphubblesiteorgnewscenterarchivereleases200816imagebr  より)

河)と名 付けられている左 側の楕円銀河の部分では円形の楕円銀河が

一番 左 側にあり右に進むほどより扁 平な形をした楕円銀河が配置されて

おり左 側からE0 E1 E2helliphellip E7 と細かく分類されているこのハッブル

による銀河を形態によって分類し整 理して並べたものをハッブル系列

(Hubble sequence)というその形状からハッブルの音 叉図と呼ばれること

もあるハッブル系列は銀河をその形態によって順に並べたものであった

が銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢や星の総質

量あるいは星の材料となる星間雲の量といった銀河の本質的な物理量

がこの系列に沿って系統的に変 化していることが分かったそのため

ハッブル系列は銀河の性質やその進化を理 解する上で重要だと考えられて

いる現在では(棒)渦巻銀河の右 側にSd銀河を加えさらにその右 側

に不規則銀河を配置した拡 張 版がよく使われている

  便 宜上ハッブル系列の左 側の形態を早期型 (early type)右 側の形態を晩

期型( late type)といい楕円銀河と S0銀河を合わせて早期型銀河( early-

type galaxy) 渦巻 銀河 と不 規則 銀河 を合 わせて晩 期型 銀河 ( late-type

galaxy )と呼 ぶ渦巻銀河の中でも Saなどの比較的ハッブル系列で左 側

に位 置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河( early-type spiral ) Scなど右 側の渦

巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼 ぶこともある早期型晩

期型の名 前の由 来はハッブルがこの形態分類 法を発 表した当 時

図5-5ハッブルの音 叉図(ハッブル系列)

( httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-

galaxies  より)

銀河が生まれたばかりの初期段階では楕円銀河のような形をしていて時

間の経過とともに渦巻銀河のような構造に発 展していくと考えられていた

ことによるが現在ではこれとは逆に楕円銀河が古い星から構成されてい

るのに対して渦巻銀河は若い星が比較的多いことが観測的に分かってお

り楕円銀河の方がむしろ誕 生してから長い時間が経過した銀河であると

考えられている形態進化の順 序についても初期には渦巻銀河だったも

のが楕円銀河に進化していくとする説が現在は有力視されており大部分

の銀河が楕円銀河から始まって渦巻銀河に進化したとする説は今では否定

されている

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類はおもに比較的明るく大き

い銀河( giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系

列に分類される銀河と比べて暗い特に B バンド(光の波長でおよそ

450nm )の絶対等 級で -18 等 級よりも暗い銀河は矮小銀河( dwarf galaxy )

と呼ばれ明るく大きい銀河とは異なる形態分布を持つことが知られてい

る矮小銀河はその形態によりのっぺりとして模様がなく回 転対称性

のよい形の矮小楕円銀河( dwarf elliptical )および 矮小楕円体銀河( dwarf

spheroidal )と非対称で規則性が乏しい形をした矮小不規則銀河( dwarf

irregular)におおまかに分けられる矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表 面

輝度(次 節参照)によって比較的明るい表 面輝度の矮小楕円銀河と比

較的暗い矮小楕円体銀河とに分けられるがその境 界となる条 件は明確に

定義されているわけではない明るい銀河と同様に矮小楕円銀河と矮小

楕円体銀河を早期型 矮小銀河( early-type dwarf )矮小不規則銀河を晩期型

矮小銀河( late-type dwarf )と呼 ぶこともあるまた矮小銀河の中には

中心の狭い領 域に若い星が密集していると考えられている青色コンパクト

矮小銀河( blue compact dwarf)や観測することが難しい非常に表 面輝度が

低い銀河( low surface brightness galaxy )などに分類される銀河も存在する

5-3 銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解 説する星

の集団としての銀河の性質と関 係が深い観測量が主であるが星間物質や

暗黒物質に関わる物理量も含めて説明する

5-3-1 光度

 銀河の光度( luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から単

位 時間当たりに放 射される光(電 磁波)のエネルギーとして定義される物

理量である紫外線可視光近 赤外線などの(光の)波長帯では絶対等

級を使って表されることも多い銀河の光度を知るためにはその銀河の

見かけ上の明るさとその銀河までの距離の情 報が必要であるが一般に見

かけの明るさの測定よりも距離の決定の方が難しく観測的に手間暇がか

かる場合が多い我々が銀河からの光を観測していることを考えると銀

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 4: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

を示す傾 向がある

渦巻銀河( spiral galaxy )は星が扁 平な円盤状に分布しておりその円

盤上の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的である(図5-3)この円盤

(ディスク)成分に加えて渦巻銀河の中心には回 転楕円体をしたバルジ

と呼ばれる成分があり円盤成分に対するバルジ成分の大きさは銀河ごと

にまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在する)渦巻銀

河の中にはその円盤上に中心を通る棒状の構造を持つ銀河がかなりの数

存在しその棒状構造(バーと呼ばれる)が顕 著な銀河を特に棒渦巻銀河

( barred spiral galaxy)と呼 ぶ

また楕円銀河と渦巻銀河の中間

の種族として渦巻銀河のように扁

平 な 円

図5-3ハッブル宇宙望遠鏡による渦巻銀河 M101 (左)とNGC3710

(右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2009007h

httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2003024i  より)

盤状の形をしているが楕円銀河のように渦巻模様を持たない銀河は S0

銀河( S0 galaxy )と分類される渦巻銀河とS0銀河を合わせて渦状腕を

持つかどうかに関わらず円盤状の形をした銀河という意味で円盤銀河

( disk galaxy)と呼 ぶこともある現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕

円銀河 S0銀河渦巻銀河といった回 転対称性のよい形態を示すが大小

マゼラン雲に代 表されるような非対称な形をした銀河も存在しなかには

中心を定義することが難しいような形の銀河もある(図5-4)これら

の規則性の乏しい形をした銀河はまとめて不規則銀河( irregular galaxy )

と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブル(E Hubble )が提

唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左か

ら楕円銀河 S0銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整 理を試みた

右 側の渦巻銀河の部分は棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と

棒渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では円盤成分に比

べてバルジ成分が明るく(大きく)渦状腕の巻き方がきつく渦状腕の

ぶつぶつが目立たない(棒)渦巻銀河ほど左 側に配置され右に行くほど

バルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立っ

た渦巻銀河が配置されている左 側から順にSa Sb Sc 銀河(棒渦巻銀河の

場 合 は SBa SBb SBc 銀

図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427 ( 左)と

NGC3256 (右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxyirregularpr2005009a

httphubblesiteorgnewscenterarchivereleases200816imagebr  より)

河)と名 付けられている左 側の楕円銀河の部分では円形の楕円銀河が

一番 左 側にあり右に進むほどより扁 平な形をした楕円銀河が配置されて

おり左 側からE0 E1 E2helliphellip E7 と細かく分類されているこのハッブル

による銀河を形態によって分類し整 理して並べたものをハッブル系列

(Hubble sequence)というその形状からハッブルの音 叉図と呼ばれること

もあるハッブル系列は銀河をその形態によって順に並べたものであった

が銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢や星の総質

量あるいは星の材料となる星間雲の量といった銀河の本質的な物理量

がこの系列に沿って系統的に変 化していることが分かったそのため

ハッブル系列は銀河の性質やその進化を理 解する上で重要だと考えられて

いる現在では(棒)渦巻銀河の右 側にSd銀河を加えさらにその右 側

に不規則銀河を配置した拡 張 版がよく使われている

  便 宜上ハッブル系列の左 側の形態を早期型 (early type)右 側の形態を晩

期型( late type)といい楕円銀河と S0銀河を合わせて早期型銀河( early-

type galaxy) 渦巻 銀河 と不 規則 銀河 を合 わせて晩 期型 銀河 ( late-type

galaxy )と呼 ぶ渦巻銀河の中でも Saなどの比較的ハッブル系列で左 側

に位 置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河( early-type spiral ) Scなど右 側の渦

巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼 ぶこともある早期型晩

期型の名 前の由 来はハッブルがこの形態分類 法を発 表した当 時

図5-5ハッブルの音 叉図(ハッブル系列)

( httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-

galaxies  より)

銀河が生まれたばかりの初期段階では楕円銀河のような形をしていて時

間の経過とともに渦巻銀河のような構造に発 展していくと考えられていた

ことによるが現在ではこれとは逆に楕円銀河が古い星から構成されてい

るのに対して渦巻銀河は若い星が比較的多いことが観測的に分かってお

り楕円銀河の方がむしろ誕 生してから長い時間が経過した銀河であると

考えられている形態進化の順 序についても初期には渦巻銀河だったも

のが楕円銀河に進化していくとする説が現在は有力視されており大部分

の銀河が楕円銀河から始まって渦巻銀河に進化したとする説は今では否定

されている

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類はおもに比較的明るく大き

い銀河( giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系

列に分類される銀河と比べて暗い特に B バンド(光の波長でおよそ

450nm )の絶対等 級で -18 等 級よりも暗い銀河は矮小銀河( dwarf galaxy )

と呼ばれ明るく大きい銀河とは異なる形態分布を持つことが知られてい

る矮小銀河はその形態によりのっぺりとして模様がなく回 転対称性

のよい形の矮小楕円銀河( dwarf elliptical )および 矮小楕円体銀河( dwarf

spheroidal )と非対称で規則性が乏しい形をした矮小不規則銀河( dwarf

irregular)におおまかに分けられる矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表 面

輝度(次 節参照)によって比較的明るい表 面輝度の矮小楕円銀河と比

較的暗い矮小楕円体銀河とに分けられるがその境 界となる条 件は明確に

定義されているわけではない明るい銀河と同様に矮小楕円銀河と矮小

楕円体銀河を早期型 矮小銀河( early-type dwarf )矮小不規則銀河を晩期型

矮小銀河( late-type dwarf )と呼 ぶこともあるまた矮小銀河の中には

中心の狭い領 域に若い星が密集していると考えられている青色コンパクト

矮小銀河( blue compact dwarf)や観測することが難しい非常に表 面輝度が

低い銀河( low surface brightness galaxy )などに分類される銀河も存在する

5-3 銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解 説する星

の集団としての銀河の性質と関 係が深い観測量が主であるが星間物質や

暗黒物質に関わる物理量も含めて説明する

5-3-1 光度

 銀河の光度( luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から単

位 時間当たりに放 射される光(電 磁波)のエネルギーとして定義される物

理量である紫外線可視光近 赤外線などの(光の)波長帯では絶対等

級を使って表されることも多い銀河の光度を知るためにはその銀河の

見かけ上の明るさとその銀河までの距離の情 報が必要であるが一般に見

かけの明るさの測定よりも距離の決定の方が難しく観測的に手間暇がか

かる場合が多い我々が銀河からの光を観測していることを考えると銀

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 5: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

(右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2009007h

httphubblesiteorggalleryalbumgalaxypr2003024i  より)

盤状の形をしているが楕円銀河のように渦巻模様を持たない銀河は S0

銀河( S0 galaxy )と分類される渦巻銀河とS0銀河を合わせて渦状腕を

持つかどうかに関わらず円盤状の形をした銀河という意味で円盤銀河

( disk galaxy)と呼 ぶこともある現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕

円銀河 S0銀河渦巻銀河といった回 転対称性のよい形態を示すが大小

マゼラン雲に代 表されるような非対称な形をした銀河も存在しなかには

中心を定義することが難しいような形の銀河もある(図5-4)これら

の規則性の乏しい形をした銀河はまとめて不規則銀河( irregular galaxy )

と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に 1936 年にハッブル(E Hubble )が提

唱したハッブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左か

ら楕円銀河 S0銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整 理を試みた

右 側の渦巻銀河の部分は棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と

棒渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では円盤成分に比

べてバルジ成分が明るく(大きく)渦状腕の巻き方がきつく渦状腕の

ぶつぶつが目立たない(棒)渦巻銀河ほど左 側に配置され右に行くほど

バルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立っ

た渦巻銀河が配置されている左 側から順にSa Sb Sc 銀河(棒渦巻銀河の

場 合 は SBa SBb SBc 銀

図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427 ( 左)と

NGC3256 (右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxyirregularpr2005009a

httphubblesiteorgnewscenterarchivereleases200816imagebr  より)

河)と名 付けられている左 側の楕円銀河の部分では円形の楕円銀河が

一番 左 側にあり右に進むほどより扁 平な形をした楕円銀河が配置されて

おり左 側からE0 E1 E2helliphellip E7 と細かく分類されているこのハッブル

による銀河を形態によって分類し整 理して並べたものをハッブル系列

(Hubble sequence)というその形状からハッブルの音 叉図と呼ばれること

もあるハッブル系列は銀河をその形態によって順に並べたものであった

が銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢や星の総質

量あるいは星の材料となる星間雲の量といった銀河の本質的な物理量

がこの系列に沿って系統的に変 化していることが分かったそのため

ハッブル系列は銀河の性質やその進化を理 解する上で重要だと考えられて

いる現在では(棒)渦巻銀河の右 側にSd銀河を加えさらにその右 側

に不規則銀河を配置した拡 張 版がよく使われている

  便 宜上ハッブル系列の左 側の形態を早期型 (early type)右 側の形態を晩

期型( late type)といい楕円銀河と S0銀河を合わせて早期型銀河( early-

type galaxy) 渦巻 銀河 と不 規則 銀河 を合 わせて晩 期型 銀河 ( late-type

galaxy )と呼 ぶ渦巻銀河の中でも Saなどの比較的ハッブル系列で左 側

に位 置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河( early-type spiral ) Scなど右 側の渦

巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼 ぶこともある早期型晩

期型の名 前の由 来はハッブルがこの形態分類 法を発 表した当 時

図5-5ハッブルの音 叉図(ハッブル系列)

( httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-

galaxies  より)

銀河が生まれたばかりの初期段階では楕円銀河のような形をしていて時

間の経過とともに渦巻銀河のような構造に発 展していくと考えられていた

ことによるが現在ではこれとは逆に楕円銀河が古い星から構成されてい

るのに対して渦巻銀河は若い星が比較的多いことが観測的に分かってお

り楕円銀河の方がむしろ誕 生してから長い時間が経過した銀河であると

考えられている形態進化の順 序についても初期には渦巻銀河だったも

のが楕円銀河に進化していくとする説が現在は有力視されており大部分

の銀河が楕円銀河から始まって渦巻銀河に進化したとする説は今では否定

されている

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類はおもに比較的明るく大き

い銀河( giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系

列に分類される銀河と比べて暗い特に B バンド(光の波長でおよそ

450nm )の絶対等 級で -18 等 級よりも暗い銀河は矮小銀河( dwarf galaxy )

と呼ばれ明るく大きい銀河とは異なる形態分布を持つことが知られてい

る矮小銀河はその形態によりのっぺりとして模様がなく回 転対称性

のよい形の矮小楕円銀河( dwarf elliptical )および 矮小楕円体銀河( dwarf

spheroidal )と非対称で規則性が乏しい形をした矮小不規則銀河( dwarf

irregular)におおまかに分けられる矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表 面

輝度(次 節参照)によって比較的明るい表 面輝度の矮小楕円銀河と比

較的暗い矮小楕円体銀河とに分けられるがその境 界となる条 件は明確に

定義されているわけではない明るい銀河と同様に矮小楕円銀河と矮小

楕円体銀河を早期型 矮小銀河( early-type dwarf )矮小不規則銀河を晩期型

矮小銀河( late-type dwarf )と呼 ぶこともあるまた矮小銀河の中には

中心の狭い領 域に若い星が密集していると考えられている青色コンパクト

矮小銀河( blue compact dwarf)や観測することが難しい非常に表 面輝度が

低い銀河( low surface brightness galaxy )などに分類される銀河も存在する

5-3 銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解 説する星

の集団としての銀河の性質と関 係が深い観測量が主であるが星間物質や

暗黒物質に関わる物理量も含めて説明する

5-3-1 光度

 銀河の光度( luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から単

位 時間当たりに放 射される光(電 磁波)のエネルギーとして定義される物

理量である紫外線可視光近 赤外線などの(光の)波長帯では絶対等

級を使って表されることも多い銀河の光度を知るためにはその銀河の

見かけ上の明るさとその銀河までの距離の情 報が必要であるが一般に見

かけの明るさの測定よりも距離の決定の方が難しく観測的に手間暇がか

かる場合が多い我々が銀河からの光を観測していることを考えると銀

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 6: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

場 合 は SBa SBb SBc 銀

図5-4ハッブル宇宙望遠鏡による不規則銀河 NGC1427 ( 左)と

NGC3256 (右)

( httphubblesiteorggalleryalbumgalaxyirregularpr2005009a

httphubblesiteorgnewscenterarchivereleases200816imagebr  より)

河)と名 付けられている左 側の楕円銀河の部分では円形の楕円銀河が

一番 左 側にあり右に進むほどより扁 平な形をした楕円銀河が配置されて

おり左 側からE0 E1 E2helliphellip E7 と細かく分類されているこのハッブル

による銀河を形態によって分類し整 理して並べたものをハッブル系列

(Hubble sequence)というその形状からハッブルの音 叉図と呼ばれること

もあるハッブル系列は銀河をその形態によって順に並べたものであった

が銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢や星の総質

量あるいは星の材料となる星間雲の量といった銀河の本質的な物理量

がこの系列に沿って系統的に変 化していることが分かったそのため

ハッブル系列は銀河の性質やその進化を理 解する上で重要だと考えられて

いる現在では(棒)渦巻銀河の右 側にSd銀河を加えさらにその右 側

に不規則銀河を配置した拡 張 版がよく使われている

  便 宜上ハッブル系列の左 側の形態を早期型 (early type)右 側の形態を晩

期型( late type)といい楕円銀河と S0銀河を合わせて早期型銀河( early-

type galaxy) 渦巻 銀河 と不 規則 銀河 を合 わせて晩 期型 銀河 ( late-type

galaxy )と呼 ぶ渦巻銀河の中でも Saなどの比較的ハッブル系列で左 側

に位 置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河( early-type spiral ) Scなど右 側の渦

巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼 ぶこともある早期型晩

期型の名 前の由 来はハッブルがこの形態分類 法を発 表した当 時

図5-5ハッブルの音 叉図(ハッブル系列)

( httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-

galaxies  より)

銀河が生まれたばかりの初期段階では楕円銀河のような形をしていて時

間の経過とともに渦巻銀河のような構造に発 展していくと考えられていた

ことによるが現在ではこれとは逆に楕円銀河が古い星から構成されてい

るのに対して渦巻銀河は若い星が比較的多いことが観測的に分かってお

り楕円銀河の方がむしろ誕 生してから長い時間が経過した銀河であると

考えられている形態進化の順 序についても初期には渦巻銀河だったも

のが楕円銀河に進化していくとする説が現在は有力視されており大部分

の銀河が楕円銀河から始まって渦巻銀河に進化したとする説は今では否定

されている

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類はおもに比較的明るく大き

い銀河( giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系

列に分類される銀河と比べて暗い特に B バンド(光の波長でおよそ

450nm )の絶対等 級で -18 等 級よりも暗い銀河は矮小銀河( dwarf galaxy )

と呼ばれ明るく大きい銀河とは異なる形態分布を持つことが知られてい

る矮小銀河はその形態によりのっぺりとして模様がなく回 転対称性

のよい形の矮小楕円銀河( dwarf elliptical )および 矮小楕円体銀河( dwarf

spheroidal )と非対称で規則性が乏しい形をした矮小不規則銀河( dwarf

irregular)におおまかに分けられる矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表 面

輝度(次 節参照)によって比較的明るい表 面輝度の矮小楕円銀河と比

較的暗い矮小楕円体銀河とに分けられるがその境 界となる条 件は明確に

定義されているわけではない明るい銀河と同様に矮小楕円銀河と矮小

楕円体銀河を早期型 矮小銀河( early-type dwarf )矮小不規則銀河を晩期型

矮小銀河( late-type dwarf )と呼 ぶこともあるまた矮小銀河の中には

中心の狭い領 域に若い星が密集していると考えられている青色コンパクト

矮小銀河( blue compact dwarf)や観測することが難しい非常に表 面輝度が

低い銀河( low surface brightness galaxy )などに分類される銀河も存在する

5-3 銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解 説する星

の集団としての銀河の性質と関 係が深い観測量が主であるが星間物質や

暗黒物質に関わる物理量も含めて説明する

5-3-1 光度

 銀河の光度( luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から単

位 時間当たりに放 射される光(電 磁波)のエネルギーとして定義される物

理量である紫外線可視光近 赤外線などの(光の)波長帯では絶対等

級を使って表されることも多い銀河の光度を知るためにはその銀河の

見かけ上の明るさとその銀河までの距離の情 報が必要であるが一般に見

かけの明るさの測定よりも距離の決定の方が難しく観測的に手間暇がか

かる場合が多い我々が銀河からの光を観測していることを考えると銀

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 7: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

type galaxy) 渦巻 銀河 と不 規則 銀河 を合 わせて晩 期型 銀河 ( late-type

galaxy )と呼 ぶ渦巻銀河の中でも Saなどの比較的ハッブル系列で左 側

に位 置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河( early-type spiral ) Scなど右 側の渦

巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼 ぶこともある早期型晩

期型の名 前の由 来はハッブルがこの形態分類 法を発 表した当 時

図5-5ハッブルの音 叉図(ハッブル系列)

( httpwwwuniversetodaycom50428dark-energy-model-explains-hubble-sequence-of-

galaxies  より)

銀河が生まれたばかりの初期段階では楕円銀河のような形をしていて時

間の経過とともに渦巻銀河のような構造に発 展していくと考えられていた

ことによるが現在ではこれとは逆に楕円銀河が古い星から構成されてい

るのに対して渦巻銀河は若い星が比較的多いことが観測的に分かってお

り楕円銀河の方がむしろ誕 生してから長い時間が経過した銀河であると

考えられている形態進化の順 序についても初期には渦巻銀河だったも

のが楕円銀河に進化していくとする説が現在は有力視されており大部分

の銀河が楕円銀河から始まって渦巻銀河に進化したとする説は今では否定

されている

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類はおもに比較的明るく大き

い銀河( giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系

列に分類される銀河と比べて暗い特に B バンド(光の波長でおよそ

450nm )の絶対等 級で -18 等 級よりも暗い銀河は矮小銀河( dwarf galaxy )

と呼ばれ明るく大きい銀河とは異なる形態分布を持つことが知られてい

る矮小銀河はその形態によりのっぺりとして模様がなく回 転対称性

のよい形の矮小楕円銀河( dwarf elliptical )および 矮小楕円体銀河( dwarf

spheroidal )と非対称で規則性が乏しい形をした矮小不規則銀河( dwarf

irregular)におおまかに分けられる矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表 面

輝度(次 節参照)によって比較的明るい表 面輝度の矮小楕円銀河と比

較的暗い矮小楕円体銀河とに分けられるがその境 界となる条 件は明確に

定義されているわけではない明るい銀河と同様に矮小楕円銀河と矮小

楕円体銀河を早期型 矮小銀河( early-type dwarf )矮小不規則銀河を晩期型

矮小銀河( late-type dwarf )と呼 ぶこともあるまた矮小銀河の中には

中心の狭い領 域に若い星が密集していると考えられている青色コンパクト

矮小銀河( blue compact dwarf)や観測することが難しい非常に表 面輝度が

低い銀河( low surface brightness galaxy )などに分類される銀河も存在する

5-3 銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解 説する星

の集団としての銀河の性質と関 係が深い観測量が主であるが星間物質や

暗黒物質に関わる物理量も含めて説明する

5-3-1 光度

 銀河の光度( luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から単

位 時間当たりに放 射される光(電 磁波)のエネルギーとして定義される物

理量である紫外線可視光近 赤外線などの(光の)波長帯では絶対等

級を使って表されることも多い銀河の光度を知るためにはその銀河の

見かけ上の明るさとその銀河までの距離の情 報が必要であるが一般に見

かけの明るさの測定よりも距離の決定の方が難しく観測的に手間暇がか

かる場合が多い我々が銀河からの光を観測していることを考えると銀

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 8: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

い銀河( giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系

列に分類される銀河と比べて暗い特に B バンド(光の波長でおよそ

450nm )の絶対等 級で -18 等 級よりも暗い銀河は矮小銀河( dwarf galaxy )

と呼ばれ明るく大きい銀河とは異なる形態分布を持つことが知られてい

る矮小銀河はその形態によりのっぺりとして模様がなく回 転対称性

のよい形の矮小楕円銀河( dwarf elliptical )および 矮小楕円体銀河( dwarf

spheroidal )と非対称で規則性が乏しい形をした矮小不規則銀河( dwarf

irregular)におおまかに分けられる矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表 面

輝度(次 節参照)によって比較的明るい表 面輝度の矮小楕円銀河と比

較的暗い矮小楕円体銀河とに分けられるがその境 界となる条 件は明確に

定義されているわけではない明るい銀河と同様に矮小楕円銀河と矮小

楕円体銀河を早期型 矮小銀河( early-type dwarf )矮小不規則銀河を晩期型

矮小銀河( late-type dwarf )と呼 ぶこともあるまた矮小銀河の中には

中心の狭い領 域に若い星が密集していると考えられている青色コンパクト

矮小銀河( blue compact dwarf)や観測することが難しい非常に表 面輝度が

低い銀河( low surface brightness galaxy )などに分類される銀河も存在する

5-3 銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解 説する星

の集団としての銀河の性質と関 係が深い観測量が主であるが星間物質や

暗黒物質に関わる物理量も含めて説明する

5-3-1 光度

 銀河の光度( luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から単

位 時間当たりに放 射される光(電 磁波)のエネルギーとして定義される物

理量である紫外線可視光近 赤外線などの(光の)波長帯では絶対等

級を使って表されることも多い銀河の光度を知るためにはその銀河の

見かけ上の明るさとその銀河までの距離の情 報が必要であるが一般に見

かけの明るさの測定よりも距離の決定の方が難しく観測的に手間暇がか

かる場合が多い我々が銀河からの光を観測していることを考えると銀

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 9: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

河の光度はもっとも基本的な観測量といえる

 銀河をどの波長の光で観測するかによってその波長の光を出している

銀河の構成要素は異なるので銀河の光度が反 映する物理的性質も波長ご

とに異なる紫外線可視光近 赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成

する星から放 射されておりこれらの波長帯での銀河の光度はその銀河

がどれだけ多くの星からできているかを反 映している太陽の光度を単 位

とすると暗いもので一千万太陽光度程度から明るいもので数千億太陽光

度くらいの銀河まで存在する

紫外線で明るい質量の大きい星は寿 命が1億年以下と宇宙や銀河の年齢

と比べて短いので紫外線での銀河の光度は最近 生まれたばかりの星がど

れだけの数あるかをよく反 映しており(1億年以上前に生まれた大質量の

星はすでに寿 命を迎えて死んでしまっているため)その銀河でどれだけ

の量の星が生まれているか(星形成率 star formation rate と呼ばれる)のよ

い指 標となっている

一方近 赤外線で明るい質量の小さい星は寿 命が現在の宇宙年齢と同

程度かそれ以上なので宇宙が始まって以来どの時 代で生まれた星も現

在まで基本的に生き残っていると考えられるそのため近 赤外線での銀

河の光度はその銀河が生まれてから今までどれだけの星が作られてきた

かの積 算量をよく反 映する

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河の宇宙塵(ダスト)からの光

が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収してそこで得たエネ

ルギーを中間赤外線や遠赤外線の光として再 放 射する(第13章参照)

そのためこれらの波長帯での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大き

い星とその光を吸収するダストがどれだけの量あるのかをよく表してい

ると考えられ上で述べた星形成率の指 標としてもよく使われる電波の

波長帯では中性水素原子ガスや一酸 化 炭素などの分子ガスからある特定

の波長で放 射される輝線の光度を測定することによってその銀河にこれ

らの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

またX 線の波長帯では活 動銀河中心 核(AGN第12章参照)や

質量が大きい銀河のまわりの高 温 プラズマからの光がおもに観測されX

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 10: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

線での銀河の光度はAGNの活 動性や銀河の重力に捕えられた高 温ガスの

質量を反 映していると考えられている

5-3-2  質量

 宇宙の構造形成が重力不安定性によって進行していることを思えば銀

河がどのようにして形成され進化してきたのかを考える上で銀河の質量

は非常に重要な物理量といえる銀河の質量の大部分はみずからは光を

発しないダークマターが担っているため(第4章参照)直 接的な観測に

よりこれを測定することは難しいがその重力による影 響を間接的に観測

することで質量を推定することができる銀河の質量測定によく使われる

方 法は銀河の中の星やガスの運 動からそこに及 ぼされている重力ひい

ては質量を推定するものである渦巻銀河においてはその円盤成分の回

転 運 動(5-3-2 節参照)を維持するために必要な重力を求めることが

できるまた回 転 運 動がない場合でも力学的平 衡状態にある系におい

て運 動 エネルギーの総 和 T と重力ポテンシャルエネルギーU の間に成り

立つビリアル定理 2T + U = 0  を用いて質量を推定することができる

楕円銀河においては銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光

観測することで視線 方 向の運 動(速度)の情 報を得ることができる)か

ら運 動 エネルギーの総 和を求めることができビリアル定理を通 じて重力

ポテンシャルエネルギーが計 算できるこの重力ポテンシャルエネルギー

と質量を結 びつけるビリアル半 径はおおよそその銀河の典 型的な半 径

(たとえば半光度半 径5-3-3節参照)と同 程度なので求めたポテ

ンシャルエネルギーと銀河のサイズから質量を推定できるまたこの他

にもX 線で観測される銀河のまわりの高 温 プラズマの情 報からそのガス

を重力で束 縛しておくために必要な質量を見積もることもできる(第4章

参照)このようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の

質量の10 倍以上にも及 ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量)はその銀河にどれだけの

量の星があるかを示しており銀河の基本的な物理量のひとつである銀

河の中で星が生まれる時には質量の小さい星ほど数多く形成されること

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 11: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

に加え質量の小さい星ほど寿 命が長いことも相まって銀河の星質量の

大部分は太陽質量程度以下の小質量星によるものであるこれらの質量の

小さい星はおもに近 赤外線で明るいので近 赤外線での銀河の光度は銀河

の星質量をよく反 映する銀河の色やスペクトルから推定できる星の年齢

や金 属量についての情 報(5-3-55-3-6節参照)も加えると

近 赤外線の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星

質量は太陽質量を単 位として表されることが多いが小さい銀河で太陽質

量の数百万倍から巨大な銀河で数千億太陽質量のものまである

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

星の集合としての銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子

ガスは電波の21c mの波長で放 射される輝線を観測しその光度を求め

ることで質量を推定することができる一方分子ガスの大部分を占める

水素分子ガスからの放 射は非常に微弱で観測が困 難なため一酸 化 炭素分

子などの他の比較的強い輝線を放 射する分子の観測からその分子の質量を

求めてそこから経験的に求められた水素分子と一酸 化 炭素分子の存在量

の比を使って水素分子ガスの質量を推定することができるしかし水素

分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河の間でおお

よそ一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定される水

素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性もある(詳しくは第

13章参照)現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのよう

にして求められる星間雲の質量は一般に星質量よりも小さめであるが矮

小不規則銀河などにおいては星の質量よりもはるかに大きい質量の星間

雲を持つ銀河も存在する(それでもダークマターの質量と比べると一桁 程

小さい)

5-3-3  表 面輝度分布

  表 面輝度( surface brightness )とは天球面上に投 影された単 位 面 積あた

りの明るさである天体の表 面輝度が夜空や観測機 器からのノイズをはっ

きり上回っている時に我々はそれを天体であると認識することができる

ので天体の表 面輝度は我々がどこまで暗い天体を観測できるかというこ

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 12: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

とと密接に関 連した重要な観測量である紫外線可視光近 赤外線にお

ける銀河の表 面輝度分布は銀河の中の各 場 所でどれくらいの数の星が集

まっているのかを表している現在の宇宙で見られる大部分の銀河は銀

河の中心に近 づくほど表 面輝度が高く外側にいくにつれて次第に暗くな

る銀河の中心からの距離に対して表 面輝度がどのように変 化していくか

を表したものを銀河の表 面輝度プロファイル( surface bright profile )と呼 ぶ

が形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同 じ種

族に分類された銀河同 士では非常に形の似た表 面輝度プロファイルを持

つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半 径 rに対して

表 面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]と表されるここで re は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半 径よりも内 側に含まれる光度が全光度( I (r)をrが無 限大まで積

分した値)の半分になるように定義されているこの re は有 効 半 径

( effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指 標として使われる(5

-3-4節参照) I e は全体の表 面輝度の明るさを決めるパラメータで

半 径が re での表 面輝度として定義されているこのような表 面輝度プロ

ファイルは発見者にちなんでドボークルール則( de Vaucouleurs law )ある

いは指数関数の中の r1 4 の部分にちなんで 14 乗則と呼ばれる一方渦

巻銀河の円盤成分の表 面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

のように表されるここでh はやはり銀河の広がり具合を表わすパラメー

タでスケール長( scale length )と呼ばれる I 0は全体の明るさを決める

パラメータでこの場合は中心での表 面輝度の値として定義されている

このような表 面輝度プロファイルは指数関数則( exponential law )と呼ばれ

ている

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合

が多いド

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 13: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

図5-6 Sb銀河NGC488 の表 面

輝度分布横軸が銀河中心からの

半 径縦 軸が表 面輝度を示す+

が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

線が指数関数則(円盤成分)実

線は2つの足し合わせを表わす中

                                                          心はド

ボークルール則外側は指数関数

とよく合っている

(左図はKent S M 1985 ApJS 59 115

右図は httpwwwnoaoeduoutreachaopobserversn488html より)

ボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方が中

心 付 近に光度の高い割合が集中していて非常に急な傾きのプロファイルに

なっている(図5-6)またドボークルール則は外側までいくと逆に

傾きがゆるやかになりなかなか表 面輝度が下がりきらない傾 向もある

なぜおのおのの形態の銀河同 士で同 じような形の表 面輝度プロファイル

を持つのかについてはまだ明確な答えは見つかっていないがそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反 映しているのだろうと考えられてい

 銀河の光度を面 積で割ることで求められる銀河の平均表 面輝度もよく

使われる観測量の一つである物理的には銀河の中で星がどの程度の密

度で分布しているかを大雑把に表したものと考えることができる3次元

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 14: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

のユークリッド空間を考えると銀河のみかけの大きさは銀河までの距離

に反比例して小さく見えるのでみかけの面 積は距離の2 乗に反比例する

一方で銀河のみかけの明るさは距離の2 乗に反比例して暗くなるので

みかけの明るさをみかけの面 積で割ることで求められる銀河のみかけの

平均表 面輝度は銀河までの距離に依存しない観測量になっているしかし

このような近 似が成立するのは比較的我々から近い距離にある銀河の場合

のみで宇宙論的距離にある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で

(1+z )4 (ここで z は赤 方偏移第1章参照)に反比例して距離とともに

暗くなることに注意が必要である

5-3-4  サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運 動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運 動)を反 映しているため銀河がどの

ようにして出来上がったのかを考える上で重要な物理量となっている天

球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定することで

実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河の外側

にいくにつれ表 面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別がつか

なくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんどない

したがって「銀河のサイズ」という時には銀河のどこまでを測った大き

さなのかという点に注意が必要である銀河のサイズとしてよく使われる

観測量のひとつは半光度半 径( half light radius )であるこれはその半

径より内 側で積分した光度が銀河の全光度のちょうど半分となる半 径とし

て定義される(5-3-3節のドボークルール則の有 効 半 径 re は半光度半

径そのものである)銀河の明確な端が定義できない場合でもある程度

外側まで含めるように明るさを測ると光度を測る半 径を多少変 化させて

も(外側では非常に暗くなっているので)測定される光度はほとんど変わ

らなくなるその意味である程度大きな半 径で測定することにより銀河

の全光度を推定することが可能でこれを基準として半光度半 径を定義す

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 15: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

ることができる

多くの銀河の場合半光度半 径は観測される見た目の銀河の大きさ(半

径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば我々の住む天の川銀河は

差し渡し30kpc (約10万光年)程度の大きさで半 径にすると 15kpc 程

になるが半光度半 径は6kpc 程度だと考えられている現在の宇宙で見ら

れる銀河の半光度半 径は小さい銀河で 1kpc 以下のものから大きい銀河

で10kpc を超えるものまであり銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀

河である cD銀河( cD galaxy )の中には 100kpc を超える半光度半 径を持つ銀

河も存在する非常に明るい銀河を除けば同 じ全光度の楕円銀河と渦巻

銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半 径を持つ傾 向がある

半光度半 径以外では前 節で述べたように表 面輝度プロファイルによっ

て定義される有 効 半 径やスケール長が銀河のサイズの指 標として使われ

ることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半 径として銀河

の各 場 所での表 面輝度を重みとした半 径の平均値として計 算されるクロン

半 径(Kron radius )やある半 径での表 面輝度とそこから内 側での平均表

面輝度の比を基準にして定義されるペトロシアン半 径( Petrosian radius )も

よく用いられる

5-3-5 色

 天体の色は異なる波長での明るさの比として測られる観測量で紫外

線可視光近 赤外線の波長帯では異なる波長での等 級の差として表され

ることが多いこれらの波長帯では一般に短い波長の方が相対的に明る

いほど色が青い長い波長の方が明るいほど色が赤いと表現される紫外

線可視光近 赤外線での銀河の色はその銀河にどのような色を持つ星

がどれだけの数あるかを反 映している質量の大きい星は高 温で青い色を

示すが寿 命が短く質量の小さい星は低 温で赤い色をしていて寿 命が長い

ことが銀河の色に大きく反 映される

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影 響が

強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくなる

とより寿 命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の中

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 16: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

では徐々により質量の小さい星だけが生き残ることになり銀河の色は時

間とともに赤くなるこのように銀河の色はいつ(何年前に)どれだ

けの星が生まれたのか(星形成史 star formation history と呼ばれる)を反 映

する

個々の星の色は質量に加えて金 属量(5-3-6節参照)にも依存し

ており金 属量が高い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金 属

量が少ないほど星の表 面 温度が高くなり青い色を示すそのため金 属量

が高い星が多い銀河ほど銀河全体でより赤い傾 向がある金 属量は星形成

史に比べると銀河の色への影 響はそれほど大きくないがどの銀河も星が

生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同 士で色の比較を

行う場合などにはその効果は重要である

また星間雲とともにダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間

減光の効果(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)

によって銀河の色が赤くなる傾 向がある星間雲やダストを豊富に持つ銀

河では一般に活 発に星が生まれていることが多いがこのような銀河では

多くの若い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的

赤い色を示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場 所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

づくほど赤い色を示す傾 向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放 射に

よるものであるがこの波長帯で銀河の色を測定することでダストの温

度を推定することもできる一般にダストの温度は数十K 程度と星の温度

よりはるかに低いが(第13章参照)温度が高いほどより短い波長で相

対的に明るくなるという星と同 じ原 理で温度の情 報を得ることができる

  2つの異なる波長の見かけの明るさの比である銀河の色にはみかけの

明るさが銀河までの距離の2 乗に反比例して暗くなる効果は影 響しない

(2つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 17: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

にある銀河については宇宙膨張による赤 方偏移(第1章参照)の効果が

銀河の見かけの色に大きな影 響を及 ぼす赤 方偏移zの距離にある銀河か

ら出た光は我々に届く時には波長が (1+z ) 倍に引き伸ばされて観測され

るそのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀

河から出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長だった光を使って色を測って

いることになるしたがってまったく性質が同 じ銀河であってもより

赤 方偏移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測

していることになり本来銀河から放 射された波長が異なっている分だけ

見かけの色も変 化する異なる赤 方偏移の銀河の色を同 じ条 件で比較する

ためにはそれぞれの銀河の赤 方偏移に応じて (1+z ) 倍の波長帯での値を

求める必要があるまたこの赤 方偏移によって銀河の色が変 化すること

を逆に利用して観測された銀河の色から赤 方偏移を推定することもでき

る(5-6-3節参照)

5-3-6  金 属量

 天文学における金 属量(metallicity )とは水素とヘリウム以外の元素の量

のことを指しこれらの元素をまとめて重元素( heavy element)と呼 ぶ宇

宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第1章参

照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星の内部での原子核

反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によって

作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通 じて再 びガスへと還元さ

れるがその際に合成された重元素を含んだガスとしてまき散らされる

そのようなガスから作られた星はより金 属量の高い星となるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素が増えていった

と考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金 属量は過去に

その銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反 映し

ており銀河の星形成史を理 解するために重要な観測量である

前 節で述べたように星の金 属量はその色に影 響を与えるので特定の波

長で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金 属量を推定するこ

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 18: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

とができるがこの方 法は不定性が比較的大きい傾 向がある高い精度で

金 属量を測るために銀河のスペクトルにおいて各重元素で特定の波長

に現れる吸収線の強さから金 属量を推定する方 法が使われることが多い

また紫外線で明るい大質量星が数多く存在する銀河ではその紫外線の

光によって水素(や重元素)が電離されたガスからそれぞれ特定の波長で

放 射される各重元素の輝線と水素原子からの輝線の明るさを比べること

によってそのガスに含まれる金 属量を推定することができる一般に吸

収線よりも輝線の観測の方が容易なためガスの金 属量については遠方の

比較的暗い銀河に対しても測定が進められている

5-3-7 環境

 宇宙の中で銀河は一様に分布しているわけではなく銀河群銀河団

大規模構造といった構造を成している(第3章参照)銀河団のように多

数の銀河が非常に密集した場 所にいる銀河から大規模構造のひもやシー

ト状の構造の中にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常に

まばらに分布している場 所で孤立している銀河までさまざまな環境に置

かれた銀河が存在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集して

いる領 域では楕円銀河やS0銀河が多く銀河の数密度が低い場 所では渦巻

銀河が多いことが知られておりこれを形態 ‐ 密度関 係( morphology-density

relation )と呼 ぶ(図5-7)また銀河の数密度が高い環境ほど星が新

たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀河は

星が活 発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環境と

銀河の物理的性質の間には密接な関 係がある

 環境が銀河に与える影 響として考えられる物理過程のひとつは近 接し

た銀河同 士による重力相互作用である互いの銀河に潮汐力が働くことで

形態が非対称な形に歪めら

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 19: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

図5-7銀河の形態 ‐ 密度関 係横軸は銀河の数密度縦 軸は楕円銀河

S0銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河がS0銀河

times が渦巻銀河+不規則銀河(Doressler A 1980 ApJ 236 351 より)

れたり銀河の中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀

河中心に落ち込んでいくことにより活 発な星形成が起こってガスが消費

されることが期待されるさらに銀河同 士が衝突合体すると大規模な星

形成と形態の大きな変 化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考

えられている銀河が密集している環境ではこのような銀河同 士の近 接

相互作用が頻繁に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高 温 プラズマと銀河との

相互作用によって銀河からのガスのはぎ取りが起こると考えられている

また銀河が誕 生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような

領 域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる

条 件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こった

のではないかとも考えられている銀河が誕 生してから現在に至るまでの

どの時 代における環境 効果が銀河の性質にもっとも強く影 響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 20: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方 法としては天球面上をある大きさのマス目に分け

て各マスに

入っているある基準以上に明るい銀河の個数を数える方 法や同様に各

銀河からある一定の距離以内にどれだけの数の銀河がいるかを測る方 法な

どが用いられる一定の距離の代わりに各銀河から5番目に近い銀河ま

での距離や10 番目に近い銀河までの距離を使ってその距離より内 側で

の銀河の数密度を計 算する方 法もある

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指 標とし

て2点相 関 関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河が

どれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類の

銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比べ

てどれだけ強く密集しているかを統 計的に測定する方 法である一般に銀

河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距離

を高い精度で決定する必要があり大規模な赤 方偏移サーベイが必要とさ

れる(第3章参照)

5-4 銀河の形態と性質

この節では5-2 節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の銀河

がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹 介する

5-4-1 楕円銀河とS0銀河

 楕円銀河とS0銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯で

の光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより多数の星が集まった銀

河が多い楕円銀河とS0銀河は銀河団など銀河が密集した場 所に多く存在

しており銀河団の中心 領 域では大部分の銀河が早期型銀河である一方

で銀河のあまり集まっていない場 所ではこれらの銀河の割合は比較的

低い現在の宇宙において早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表 面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 21: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾 向があ

る 

明るい楕円銀河の形については表 面輝度分布の等 高 線(等輝度線

isophoteと呼ばれる)の長軸の向きが表 面輝度によって変 化する(ねじれて

いる)ことから3軸不等の楕円体だと考えられており早期型銀河全体の

天球面上での長軸と短 軸の比の分布もこれらの銀河が3軸不等の楕円体で

あることを支持している楕円銀河ではおもに星のランダムな運 動によっ

てその形(広がり)を維持しておりその速度分散が方 向によって異なる

図5-8円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模式

図比較のため理想的な楕円とともに示してある( Bender R et al 1988

AampAS 74 385 より)

大きさを持っていることが3軸不等の楕円体の形の原因だと考えられて

いるまた楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からの

ずれが見られ箱型( boxy )楕円銀河と円盤型( disky)楕円銀河に分ける

ことができる(図5-8)それぞれの種類の銀河の中における星の運 動

を調べると円盤型では比較的大きい速度の回 転 運 動が見られるのに対し

て箱型では回 転 運 動は弱くランダム運 動が支配的であることがわかる

 上記のように早期型銀河は基本的に赤い色を示すがその中でも明るい

銀河ほどより赤い色を示す傾 向がありこれを早期型銀河の色等 級 関 係

( color-magnitude relation )と呼 ぶ(図5-9左)銀河のスペクトルの特定

の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大きい早期型銀河

ほどより金 属量の高い星から構成されていることがわかっておりこれが

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 22: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

色等 級 関 係のおもな原因と考えられているまた楕円銀河にはサイズが

大きい銀河ほど平均表 面輝度が小さいという傾 向があり発見者にちなん

でコルメンディ関 係(Kormendy relation )と呼ばれる一方楕円銀河の光

度と星の速度分散の間には光度がおおよそ速度分散の4乗に比例すると

いう関 係がありこれを発見者にちなんでフェイバー ‐ ジャクソン関 係

( Faber-Jackson relation)というまた楕円銀河のサイズ星の速度分散

平均表 面輝度の3つ観測量の間にはおおよそ repropσ5 4 I eminus56 という関

係が成り立っておりこれらの観測量(の対数)を3軸にとったパラメー

タ空間上では楕円銀河はこの関 係に従ったある平 面上に分布するこれ

を楕円銀河の基本平 面( fundamental plane )と呼 ぶ(図5-9右)基本平

面の物理的意味としてはこれらの銀河が力学的平 衡状態にあってビリア

ル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河の質量 ‐ 光度比が他の

物理的性質にあまり依存せずに同 じような値であることがおもな要

図5-9(左)早期型銀河の色等 級 関 係明るい銀河ほど赤い色を示す

(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717より) (右)楕円銀河の基準平 面

サイズ速度分散平均表 面輝度の3つのパラメータからなる三次元空

間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある平 面上に分布する

図の縦 軸はその平 面を真横から見ることに対応するように速度分散と表

面輝度を組み合わせたものになっている実 線が基準平 面を示しており

楕円銀河はその線に沿った分布をしていて平 面の厚み方 向のばらつき

は非常に小さいことがわかる(Djorgovski S and Davis M 1985 ApJ 313 59

より)

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 23: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

因だと考えられている

5-4-2  渦巻銀河

渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光の光度が比較的低い方まで幅広く

分布している渦巻銀河の中でも早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の

割合が高い傾 向があり晩期型渦巻銀河では低光度の銀河の割合が多くな

る銀河団など銀河が密集した領 域では渦巻銀河の割合はあまり高くない

が銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場 所では渦巻銀

河が多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から

構成されていてその性質は早期型銀河との類 似点が多い円盤成分は青

色をしており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である

星間雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半 径 方 向で見ると

水素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水

素ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星

間雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 24: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

 図5-10(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関 係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦 軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関 係( Roberts M S and Haynes M P

1994 ARAampA 32 115 より)

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く

円盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-10下)星

に対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに

従って増加する傾 向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富

んでいる(図5-10上)渦巻銀河のガスの金 属量については明るく

質量の大きい銀河ほど金 属量が高い傾 向があることが知られている(図5

-11左)

 渦巻銀河の表 面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 25: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-6)渦巻銀河の円

盤成分は回 転 運 動によりその形状を維持しているがその回 転 速度を各 半

径で見てみると(回 転曲線)中心 付 近を除くと半 径

図5-11(左)晩期型銀河の光度とガスの金 属量の関 係横軸は絶対

等 級縦 軸はガスの金 属量を示す(Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 よ

り) (右)渦巻銀河のタリー ‐ フィッシャー関 係横軸は回 転 速度縦

軸は絶対等 級を表わすが可視光(B バンド)が近 赤外線(K バン

ド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212よ

り)

に依らずほぼ一定の値を持つ傾 向がある(第4章参照)これはダーク

マターを含めた質量密度が半 径の2 乗に反比例するような分布であること

を示唆している渦巻銀河の光度と回 転 速度の間には光度が回 転 速度の

およそ3~4乗に比例する関 係があり発見者の名にちなんでタリー ‐

フィッシャー関 係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-11右)近

赤外線の光度を使うとおおよそ回 転 速度の4乗に比例するのに対して可

視光のB バンド(波長 450nm 帯)の光度では回 転 速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 ‐ 光度比

の影 響を受けていることが原因であり銀河の星質量をよく表わす近 赤外

線の光度と回 転 速度の関 係がより基本的な物理的性質を反 映しているも

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 26: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

のと考えられている渦巻銀河の光度サイズ回 転 速度の間には楕円

銀河の基本平 面と同様に相 関 関 係があることが知られておりこれをス

ケーリング平 面と呼 ぶことがあるこの相 関 関 係は回 転 運 動によって重

力と釣り合っていることと質量 ‐ 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わ

らないことからおおよそ説明できる

5-4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾 向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活 発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名 前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河全体の天球面上での長軸と短 軸の比の分布からは楕円体よりは

円盤状の形を持つ傾 向があると考えられている不規則銀河の中には大

きな銀河と近 接しているものがありこれらの銀河は近くの銀河との重力

相互作用(潮汐力)によって形が歪められて不規則な形態になったもの

と考えられている不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量

に対するガスの質量が渦巻銀河と比べても大きい(図5-10上)星の

分布よりもはるかに広い範囲までガスが分布している不規則銀河も存在す

る不規則銀河のガスの金 属量は低くとくに光度が低い銀河ほどガスの

金 属量が低い傾 向があるガスから星が作られることで星の集団としての

銀河が成長進化していくという観点から考えるとこれらの特徴は不規

則銀河の多くが銀河進化の初期段階にあることを示唆している

5-4-4  矮小銀河

  矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等 級 関 係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金 属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金 属量が低いという傾 向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回 転 運 動はほとんど見られず

ランダム運 動によってその形状を保っていると推測されている

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 27: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表 面輝度分布は明るい楕円銀河

とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表 面輝度プ

ロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボークルー

ル則に近 づいていく傾 向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河に

はサイズが大きい銀河ほど平均表 面輝度が明るい傾 向がありこれは明

るい楕円銀河のコルメンデ ィ 関 係(5-4-1節参照)とは逆の傾 向に

なっている早期型 矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

  矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星の質量と比べて豊富なガスを持っている

これらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態をしているが

ガスの回 転 運 動が観測されている銀河も多い一方質量としては小さい

ものの古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布を

していて指数関数則に従う表 面輝度分布を示すガスの金 属量は明るい

渦巻銀河や不規則銀河と比べて低いが光度が明るい銀河ほどガスの金 属

量が高い傾 向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾 向と合致

している矮小不規則銀河はまわりに銀河がいない孤立した環境で発見さ

れることが多い

5-5 銀河形成論

 宇宙はビッグバンから始まりその後137億年に渡り膨張を続けて現

在に至っている(第1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわ

けではなく宇宙の進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見ら

れる姿に進化してきたこの節ではどのようにして銀河が形成されたの

かについて現在考えられている描像を紹 介する

 第1章で述べられたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙に

おける微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長して出来上がったも

のだと考えられている等密度時以降の物質優勢期になると宇宙の質量

の大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の

非一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領 域は

みずからの重力によりまわりの物質を集めつつ収縮してますます密度が

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 28: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

大きくなりやがて収縮が止まり粒子のランダム運 動によって形が維持さ

れるダークマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密

度ゆらぎのパワースペクトルは小さい質量スケールほどゆらぎのコント

ラスト(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さ

い質量のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後

まわりの物質を重力によってさらに引き寄せたりハロー同 士が合体を繰

り返すことによって時間とともに次第に質量の大きなダークマターハ

ローに成長する

一方放 射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリオ

ン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平 衡 温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは光を放つことでエネルギーを放出することができその結果温度が

下がっていく(放 射冷却 radiative cooling)

温度が下がると運 動 エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなっ

てさらに収縮し

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 29: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

図5-12銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放 射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

て密度が高くなる10 0万K 程度の温度では電離したガスからの制動 放

射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元素原子からの輝線 放

射によってガスは冷えるがこのガスの冷却が効 率よく起こるとガスは

収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられているガスが力学

的平 衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効 率的に冷却される条

件は温度と密度でおおよそ決まるこの条 件が満たされるダークマター

ハローの質量は10 0億から10兆太陽質量と見積もることができるが

これはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕 生後およそ数億年と考えられている実際5-6節で述べるように

宇宙年齢5億年の時 代の銀河が発見されており少なくとも宇宙年齢5億

年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕 生後はダーク

マターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られたりダー

クマターハロー同 士の合体によって銀河同 士が合体しより大きな銀河

に成長すると考えられる

一方で銀河の中での新たな星の形成を阻害する過程も存在する星が

作られると質量の大きい星は比較的短 時間で超新星爆発を起こす(第7

章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温められると

(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多くの超新星

爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハローの外まで

吹き飛ばしてしまう可能性もあるまたAGNからの強い放 射やジェット

も超新星爆発と同様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能

性がある(第12章参照)これらの超新星爆発やAGNによる星形成を抑

制する効果をフ ィードバック( feedback )と呼 ぶまた他の銀河や

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 30: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

クェーサー(第12章参照)から強い紫外線 放 射が降り注いでいる場合に

もその紫外線により水素ガスが電離され温められることでやはり星形

成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな複雑な過程が働いておりさらに冷えた星間雲か

らどのように星が生まれるのかについても完全には解明されていない(第

7章参照)銀河の中でどのようにガスから星が生まれたのかの物理は

銀河の形成と進化の理 解には欠かせないがまだはっきりとはわかってい

ないのが現状である

5-6 銀河の進化

 ここでは銀河が誕 生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹 介する

5-6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有 限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有 限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億50 0 0万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため我々が今見ている太陽は約 8分前に太陽から出た

光すなわち8分前の太陽の姿ということになる同様に明るく立派な

銀河としては我々の天の川銀河から一番 近くの距離にあるアンドロメダ

銀河からの光が地球に届くまでに約30 0万年かかるので我々が現在観

測しているアンドロメダ銀河はおよそ30 0万年前の姿である10億光

年の距離にある銀河なら10億年前10 0億光年先にある銀河なら10

0億年前の姿が見られるこのように比較的近くから非常に遠方までの

銀河を観測することで現在から宇宙の初期の頃にまで時間をさかのぼっ

て昔の銀河の姿を ldquo 直 接 rdquo 見ることができる点が遠方銀河観測による銀

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 31: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

河進化の研究の大きな特徴といえる

その一方で遠方銀河の観測によってある一つの銀河が時間とともに

どのように進化したのかを直 接調べられるわけではないという点には注意

が必要である我々はいろいろな距離にある銀河を観測することで宇宙

のいろいろな時 代での銀河の姿を観測することはできるしかしそれら

の異なる時 代の銀河はそれぞれ我々から異なる距離にあるつまり宇宙

の異なる場 所にある別々の銀河であって同 じ銀河の異なる時 代での姿で

はない個々の銀河に対して我々が観測できるのはその銀河からの光が

我々に届くまでにかかる時間だけ昔の時点の姿のみでありその後どのよ

うに進化して現在どうなっているのかを直 接見ることはできないひとつ

ひとつの銀河にはそれぞれ個性があるので異なる距離にある個々の銀河

同 士を比較して時間進化の情 報を引き出すことは難しい   

しかしそれぞれの距離において同 程度の距離の銀河を広い領 域に

渡って多数観測することで各 時 代における銀河の(個性に左 右されな

い)平均的な性質を導きだすことはできるある程度広い領 域に渡る多数

の銀河の平均的性質が宇宙の異なる場 所でそう大きく変わらないと仮定す

ると異なる時 代における銀河の平均的性質を直 接比較することで銀河

が平均的にどう進化したかを調べることができる実際宇宙の密度ゆら

ぎのコントラストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領 域に

渡って平均をとれば宇宙の場 所ごとの違いが小さくなることが期待され

る理想的には大規模構造( 100Mpc 程度)を大きく超えるスケールで平

均をとることができれば宇宙を一様とみなしても差し支えないほど場 所

ごとのばらつきを小さくすることができる(第3章参照)したがって

銀河全体がどのように進化してきたかの平均的描像を得るためには昔ま

で時間をさかのぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで

観測することまた各 時 代の銀河の平均的性質を正しく求めるためになる

べく広い領 域に渡って数多くの銀河を観測することが重要になる

 このように遠方銀河の観測においてはより遠くの銀河=より昔の姿

が観測される銀河という関 係になっておりこの遠方で昔の姿が観測さ

れる銀河を単に「昔の銀河」と呼 ぶことが多い10 0億光年先にある銀

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 32: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

河を指して「10 0億年前の銀河」のように使うまたある銀河の時 代

や距離を表わすために赤 方偏移(天体を出た光が我々に届くまでの間に宇

宙膨張により波長が伸びた度合いを示す第1章参照)を使うことが多い

たとえば銀河からの光の波長が2 倍になって届く赤 方偏移 z=1 はおよ

そ8 0億光年の距離に相 当するが「 z=1 の銀河」といえば8 0億光年

先の銀河あるいは8 0億年前の時 代の銀河という意味であるまた

赤 方偏移は「 z=1 の時 代」のように単に宇宙のある時 代この場合は現

在から約 8 0億年前宇宙が始まってから約60億年後を指定する量とし

てもよく使われる

5-6-2   赤 方偏移サーベイによる銀河進化研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時 代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方 法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放 射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤 方偏

移を測定することができる(図5-13)

  赤 方偏移サーベイとはある領 域の中で一定の見かけの等 級より明るい

銀河をすべて分光観測して赤 方偏移を測る手 法のことで(第3章参照)

遠方銀河の観測から銀河進化を調べる上でもっとも基本的な方 法といえ

るだろう赤 方偏移が z~01程度(約10億年前に相 当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2 0 0 0年代に入って 2dF とSDSS がそれぞれお

よそ2 0万個10 0万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統 計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

   宇宙論的遠方の銀河の赤 方偏移サーベイの先駆けとなったのは19

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 33: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

90年代後半に行われたカナダ ‐ フランス赤 方偏移サーベイ(CFRS )で

あるCFRS は口径 36m のCFHT 望遠鏡を使って赤 方偏移が0ltzlt1 のおよ

そ10 0 0個の銀河の赤 方偏移を測定したその結果約 8 0億年前の宇

宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっと活 発に星が生

まれていたことを明らかにした(5-6-4節参照)また同 時期に本

格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡(HST )の観測が行われ8

0億年前の活 発

図5-13VVDS 赤 方偏移サーベイにおける銀河のスペクトルの例輝

線や吸収線に対応する波長に点線が引かれている同 じ輝線や吸収線でも

銀河の赤 方偏移によっていろいろな波長で観測されていることがわかる

(Le Fegravevre O et al 2005 AampA 439 845 より)

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 34: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

に星が生まれている銀河の多くが不規則な形態を持っていることを発見し

  2 0 0 0年代に入るとKeck望遠鏡やVLT 望遠鏡といった口径 8m 級の

望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤 方偏移サーベイが行われるように

なったVVDS サーベイは10数万個におよぶおもに02ltzlt12 の銀河の赤

方偏移を測定し(図5-13)銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇

宙における星形成活 動が約 8 0億年前から現在までどのように低下してき

たのかを明らかにしたDEEP2 サーベイは z=07-13 (約60~90億

図5-14 DEEP2 赤 方偏移サーベイで測定された赤 方偏移の分布

DEEP2 は4つ領 域で行われ Field-1 を除く3領 域では赤 方偏移07以上

の銀河をおもに選ぶために銀河の色を使ったターゲット選択が行われてい

る(Newman J A et al 2012 arXiv12033192 より)

年前)の銀河を重点的におよそ5万個の銀河の赤 方偏移を測定した(図5

-14)DEEP2 では星がほとんど生まれていない赤い銀河と星が活

発に生まれている青い銀河の光度や星質量の分布を調べて現在の宇宙で

は質量の大きい銀河ではほとんど新たに星が生まれていないのに対して

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 35: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

およそ8 0億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分近くが活 発に星を

作っていることを発見した質量の小さい銀河は今も昔もその多くが星

が新たに生まれている銀河ばかりである一方で約 8 0億年前から現在ま

での間に質量の大きい銀河の多くで星形成が止まったことを銀河進化の

ダウンサイジング( downsizing)というつまり宇宙の中でのおもな星形

成活 動(銀河の成長)が起きている場 所が時間とともにしだいに質量の

小さな銀河だけに限られていくという意味である

 一方HST やすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったいろいろな光の

波長での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)COSMOS サー

ベイの一環として行われている zCOSMOSではおもに 02ltzlt12 のおよそ4

万個の銀河の赤 方偏移を測定し銀河進化と環境の関 係に着目した研究が

行われている上で述べたように質量の大きい

図5-15ハッブルウルトラディープフィールドの画像視野の一辺は

33分角2 012年現在もっとも深い(暗い天体まで検出できる)

可視光のデータである

( httphubblesiteorggalleryalbumthe_universepr2004007a より)

銀河ほど星形成が止まりやすい傾 向がある一方で5-3-7節で述べた

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 36: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

ように銀河が密集した環境ほど星形成を行っていない銀河が多い傾 向があ

る zCOSMOSではこの2つの傾 向を約 8 0億年前から現在までに渡って

調べその結果銀河の質量に関 係する星形成を止める機構と銀河の環境

に関 係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHST の撮像観測プロジェク

トと連 動した赤 方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤 方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困 難である一方 HST は宇宙から観測しているため

に地球大気の影 響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章参

照)最近では補償光学という大気のゆらぎの影 響を観測装置の方で相殺

する技術を使うことでむしろ地上の大望遠鏡の方がHST より高い空間解

像度を得ることも可能になってきているが現状では補償光学を使った観

測は狭い視野に限られる傾 向があるこの点でHST は遠方銀河の形態を調

べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀河の形態について

の統 計的研究は大部分がHST を用いて行われてきている

遠方銀河の研究におけるHST 撮像サーベイの先駆けは1990年代 半

ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF )である

HDF は約5平 方分角の領 域を合計10 0 時間以上かけてひたすら観測する

ことによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体まで検出するこ

とに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDF はより遠方の銀河探査

においてその威力を見せつけたが 0ltzlt1 の時 代における銀河の形態進化

の研究にも大きく貢献したその後HDF と同様の観測がHDF-Southとして

南天で行われた後2 0 0 0年代に入って HST に搭載された新型カメラ

(Advanced Camera for Survey )を用いてハッブルウルトラディープフィー

ルド(Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDF よりもさらに暗い銀

河を発見研究できるようになった(図5-15)HUDF が深さ(より

暗い天体を検出すること)を追求したのに対して広さを追求した撮像

サーベイも計画され南北2つの160 平 方分の領 域を持つGOODSサーベ

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 37: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

イや観測対象を zlt1 の銀河に絞るかわりに約90 0 平 方分に渡る広さを

持つGEMS サーベイが行われた2 平 方度(72 0 0 平 方分)に渡る上記

のCOSMOS はさらに広さに特化したHST 撮像サーベイといえるこれらの

HST の観測と赤 方偏移サーベイの組み合わせによって z~1 の宇宙では

現在と比べて明るい不規則銀河の数が急増していることその一方で現在

の宇宙と近い数(少なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすで

に存在していたことが分かっているまた5-3-7節で述べた銀河の

形態 ‐ 密度関 係もこの z~1 の時 代にすでに成立していたことが示唆され

ている

5-6-3 遠方銀河探査

  前 節で紹 介した赤 方偏移サーベイで観測された銀河は赤 方偏移が13 程

度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手 前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤 方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効 率が悪すぎるそこで赤 方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には(光を波長ごとに分解するため)比較的多くの時間

が必要な分光観測を行う前に(あるいは行わずに)撮像観測から(おも

に銀河の色を使って)遠くの銀河を(大雑把に)

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 38: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

図5-16ライマンブレーク法の概要上のヒストグラムは赤 方偏移3

の銀河の予想されるスペクトル下の実 線は観測された赤 方偏移が3295の

クェーサーのスペクトルを示す点線はライマンブレーク法に使われる3

つのフィルターを表わすこの場合はG R の2つのバンドでは比較的明

るくUnバンドで非常に暗い天体を選ぶことで赤 方偏移が3を超える銀

河を探査できる( Steidel C C et al 1995 AJ 110 2519より)

選び出すという手 法が使われている

その代 表的な方 法の一つがライマンブレーク法(Lyman break method )で

ある銀河からの光のうち 912nm より短い波長の光は星自身の大気や

星間雲の中の中性水素原子にほとんど吸収されるためより長い波長では

明るく輝いていても91 2nm を境に短い波長では急に暗くなる特徴があ

るこれをライマンブレークと呼 ぶ

遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より短

い波長の光が吸収され実際には 1216nm を境に暗くなることが多いこ

の急に暗くなる波長はその銀河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に

届くたとえば赤 方偏移 z=3 の銀河では 912times (1+z )=3648 nm 以下の波

長ではほとんど光が届かず 1216times (1+z )=4864 nm より短い波長でも暗く

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 39: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

なっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変わ

る特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手 法がライマンブレーク法である

実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図5-

16のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方の波

長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番 短い波長

では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と長い波

長では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばその多くが

遠方の銀河というわけであるこの方 法で選ばれた遠方の銀河をライマン

ブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマンブレーク銀河に

選ばれるためには( 912nm より波長の長い)紫外線でそれなりに明るい

必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線を吸収してしまう

ダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤 方偏移 z~3 (約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤 方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN(第12章参照)に限られていた

そのような遠方の ldquo ふつう rdquo の銀河をたくさん見つられるようになったと

いう点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたとい

える

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

より赤 方偏移の大きい(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤 方偏移が456を超えるライマンブレーク銀河が次々と発

見された赤 方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光から近 赤

外線の波長帯に移り(近 赤外線では地球大気が明るいため)非常に暗い

遠方銀河の観測が難しくなるが最近ではHST を使って赤 方偏移が7(約

129億年前)を超えるライマンブレーク銀河も発見されている赤 方偏

移が8~10といったライマンブレーク銀河の候補も見つかっているが

これらの天体はあまりに暗いために現状では分光観測によって赤 方偏移

を確認された天体はほとんどない

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領 域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 40: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放 射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天体( emission-line object)と呼ばれる具体的な方 法としては特定の狭い

波長帯だけの光を通す狭 帯 域 フィルターと幅広い波長帯の光を通す広 帯 域

フィルターを組み合わせる手 法がよく使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤 方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭 帯

域 フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-1

7)同 じ銀河を広 帯 域 フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影 響は弱くなりさほど明るく見えないこ

図5-17ライマンα 輝線天体探査の概要上は探査に使うフィルター

で実 線が狭 帯 域 フィルター点線が広 帯 域 フィルターを示すこの場合

波長およそ710 0 Å ( 710nm )の狭 帯 域 フィルターで赤 方偏移 486 のラ

イマンα 輝線をとらえる下はいろいろな赤 方偏移 486 のライマンα 輝線

天体のスペクトル(Ouchi M et al 2003 ApJ 582 60 より)

の広 帯 域観測では暗いが狭 帯 域観測では明るい天体が輝線天体ということ

になるその天体がどの輝線によって狭 帯 域観測で明るくなっているかが

分かると輝線ごとに銀河から放 射された時の波長は決まっているので

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 41: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

赤 方偏移を求めることができる

特に中性水素原子から 1216nm の波長で放 射されるライマンα 輝線は赤

方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭 帯 域 フィルターで観測でき

るため遠方銀河探査でよく使われておりこの方 法で選ばれた銀河をラ

イマンα 輝線天体(Lymanα emitter LAE )と呼 ぶこの手 法による探査は1

990年代 半ばまでなかなか成功しなかったが8 m 級望遠鏡でより暗い

天体まで観測することで遠方のライマン α 輝線天体が発見されるように

なった

輝線天体には選ばれた時点で赤 方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤 方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半に z=3 を超えるライマン

α 輝線天体が発見されるようになりその後続々とより高い赤 方偏移の銀

河がこの手 法で発見され2 0 0 0年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(5-6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

り多数の赤 方偏移が6を超えるライマンα 輝線天体を発見したこれら

のライマンα 輝線天体は銀河形成だけではなく宇宙再 電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線天体の多くは比較的質量が小さく非常に若い星から

構成されている傾 向があるしかしどのような物理的条 件で銀河から強

いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかって

いない

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと 4000Å ブレークと呼

ばれる 360 ~ 400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を利用

して遠方の銀河を選び出す方 法もあるそのひとつは近 赤外線の J バン

ド( 12μ m 帯)とK バンド( 22μ m 帯)の色( J-K )が特に赤い銀河を選

び出す方 法でこの手 法で選び出された銀河は遠方 赤色銀河( Distant Red

Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤 方偏移が2~4の銀河でバ

ル マ ー ブ レ ー ク と 4 0 0 0 Å ブ レ ー ク が 赤 方 偏 移 し て

036 040times (1+z )=12 20 μ m の波長で観測されるこれらの銀河はブレー

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 42: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

クより短波長側の J バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンドで明

るくなりその結果 J-K の色が非常に赤くなる

遠方 赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比較的

古い星で構成された銀河か活 発に星が生まれているがダストによる吸収

が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持つ

可視光や近 赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大きいと

いった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線天体とは対

照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃され

ていた銀河を発見できるという点で遠方 赤色銀河はこれらの方 法と相補

的な関 係にある

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方 法にBzK 法(B z K の3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤 方偏移が14~25 の銀

河をzバンドとK バンドの間に赤 方偏移したバルマーブレークが入るこ

とを利用する方 法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方 法

は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにその

赤 方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらのバ

ルマーブレーク40 0 0 Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯を

より長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査すること

ができる 

サブミリ波で検出される銀河は赤 方偏移の大きい(たとえば z~1-4程度)

のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放 射のピークが遠

赤外線(波長約 100μ m )にありこれが赤 方偏移してサブミリ波帯で観測

されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサブミリ

波銀河( Sub-mm Galaxy SMG)と呼 ぶサブミリ波銀河では爆発的な星形

成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星からの紫外

線 放 射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダストの熱放 射と

して遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろか

可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近 赤外線の観測波長では

ほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光から

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 43: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

近 赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方 法と相補的であるこれらの銀

河では非常に活 発に星が生まれているので銀河が急速に成長している

進化段階と考えられるまたこれらの銀河は10 0億年以上前の宇宙

における星形成活 動の大きな割合を占めていた可能性がある

 ここまでに紹 介した方 法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効 率的に遠方の銀河を選び出す方 法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤 方偏移の決定法もある前 節で述べたHDF を契機としてあ

るひとつの領 域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情 報を同 時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤 方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原 理としては上述の方 法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤 方偏移を求めるというものだが情 報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方 法で求められた赤 方偏移を

測光赤 方偏移( photometric redshift)と呼 ぶこれは赤 方偏移を決めて遠方

の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトルの情 報

によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星形成率などの物理

的性質を推定できるという利点もある

 以上のようないろいろな方 法によって1990年代後半以降遠方銀

河探査は飛躍的に進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙に

おける銀河進化の様子については次 節で紹 介する 

5-6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤 方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化につ

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 44: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

図5-18ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦 軸が各光度の銀河の単 位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤 方偏移7から赤 方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤 方偏移2-3までは昔の時 代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤 方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少ないこと

に注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43

Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al

2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

いて紹 介する特に銀河を構成する星々がいつごろどれくらい作られたか

を中心に述べる

 図5-18はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプロッ

トしたもので単 位体積あたりの銀河の個数が銀河の光度別に示されてお

りこれを銀河の光度関数( luminosity function )と呼 ぶ銀河の光度関数は

一般に暗い銀河の数は多く明るくなる(図の左 側に向かう)につれて

徐々に銀河の数密度が減りある光度を超えると急激に減少する形をして

いる各 赤 方偏移での光度関数を比べてみると現在から赤 方偏移が2ま

で時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えていることがわかる

赤 方偏移2から4までは似たような分布を示しそこからさらに昔赤 方

偏移7までは再 び明るい銀河の数密度が減っている5-3-1節で述べ

たように銀河の紫外線の光度はその銀河でどれだけ活 発に星が生まれて

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 45: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

いるか(星形成率)を反 映するしたがって図5-18は星形成率の高

い銀河の数が宇宙初期の赤 方偏移7から4まで時間とともに増加し赤

方偏移4から2までの時 代にもっとも多くなり赤 方偏移2から現在にか

けて減少したことを示し

図5-19宇宙の平均星形成率密度の進化横軸は赤 方偏移(宇宙年

齢)縦 軸は単 位体積あたりの星形成率を表わす( Ouchi M et al 2009

ApJ 706 1136 より)

ている

  各 時 代で宇宙の中でどれくらい活 発に星が生まれていたかを表わす指 標

に星形成率密度( star formation rate density SFRD )があるこれはある体積

の中の銀河の星形成率を足し合わせてそれを体積で割った量で宇宙の

単 位体積あたりの星形成率を表わす個々の銀河の星形成率を推定する方

法は上記の紫外線光度を用いる方 法や大質量星によって電離されたHII

領 域からの輝線の光度を使う方 法大質量星からの紫外線を吸収したダス

トが再 放 射する遠赤外線の光度を用いる方 法などがよく使われる図5-

19はいろいろな方 法で求めた各 赤 方偏移での宇宙の平均的な星形成率密

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 46: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

度をプロットしたもので提 唱 者にちなんでマダウプロット( Madau

plot )と呼ばれるこれを見ると赤 方偏移が7~8(宇宙年齢にして約

6億年)あたりから赤 方偏移3(宇宙年齢 約 2 0億年)まで次第に星形

成が活 発になっていき赤 方偏移が3から1(宇宙年齢およそ2 0~60

億年)の間に最盛期を迎えて赤 方偏移1から現在までの約 8 0億年の間

に約 110 程度にまで星形成率密度が減少してきたことがわかるこの宇宙

の中でどの時 代にどれ

図5-2 0(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦 軸

は各星質量を持つ銀河の単 位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤 方偏移縦 軸は単 位体積あたりの星質量を示す

(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393 より)

くらいの星が作られてきたかの歴史を宇宙の星形成史( cosmic star formation

history )と呼 ぶ宇宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像

が見えてきたことはここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究による

もっとも大きな成果といえる

 図5-2 0(左)は各星質量を持つ銀河が単 位体積あたりにどれくらい

の個数あるかを示したものでこちらは銀河の星質量関数( galaxy stellar

mass function)と呼ばれるこの星質量関数の進化を見ると時間とともに

銀河の数が全体的に増加してきたことがわかる特に赤 方偏移が1から

現在までに比べると赤 方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 47: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

増加しているまた異なる星質量での進化の度合いに着目するとこの

赤 方偏移が3から1までの時 代には 1011 (10 0 0億)太陽質量程度の

星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した可能性がある図5-2 0

(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示したもので各 時 代に宇宙の中

にどれだけの量の星があったかを表している星質量密度は星形成率密度

と同 じようにある体積の中に存在する銀河の星質量を合計してそれを

体積で割ることにより求められている5-3-2 節で述べたように銀

河の中の星の総質量は寿 命が非常に長い星の寄与が大きく時間に対し

てほぼ単調に増加していくと考えられるが図5-2 0(右)はまさに宇

宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を表している時

代ごとの増加の度合いを見ると赤 方偏移が1から現

図5-21銀河の星質量に対するガスの金 属量の進化横軸は星質量

縦 軸はガスの金 属量を示すとは赤 方偏移3-4のライマンブレーク

銀河の観測結果実 線は各 赤 方偏移での分布を表わす(Mannuci F et al

2009 MNRAS 398 1915 より)

在までの約 8 0億年の間に2 倍 弱 程度増加しているのに対して赤 方偏移

3から1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 48: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

代に宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星

形成率密度(図5-19)がもっとも高かった時期に一致している

 図5-21は銀河の星質量に対するガスの金 属量の分布を示している

赤 方偏移が2や3といった遠方の銀河においても5-4-2 節で述べた

ような質量の大きい銀河ほどガスの金 属量が高い傾 向がある各 時 代のガ

スの金 属量の進化の度合いを見ると赤 方偏移07から現在までは進化

は非常に小さいのに対し赤 方偏移07から2や4までの進化は大きい

ことがわかるガスの金 属量はその銀河の中でどれだけのガスの量

(割合)を星に変えたのかを反 映しているので金 属量の強い進化はこ

の時 代に星形成が活 発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示唆してい

る各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤 方偏移07を

超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤 方偏移07から

現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さいこれら

の大質量銀河は赤 方偏移が3-4から2の間に活 発な星形成によって大

図5-2 2ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の活 発に星が形成され

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 49: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

ている銀河の形態各 パネルの一辺は3秒角近 赤外線(H バンド)での

観測で宇宙膨張による赤 方偏移を考えると銀河の可視光の姿を見ている

ことに相 当する(Law D R et al 2012 ApJ 745 85 より)

きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河におけ

る星形成は赤 方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示唆し

ており5-6-2 節で述べたダウンサイジングの傾 向とも合致している

 

遠方の銀河の形態についても観測的研究が進んでいる図5-2 2は

星が活 発に生まれている赤 方偏移2の銀河のHST による観測である観測

波長はH バンド( 16μ m 帯)で銀河から可視光の波長帯で放 射された光

を観測していることになり近傍の銀河を可視光で見たものと直 接比較す

ることができるこれを見ると渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多い

これらの銀河の表 面輝度分布は指数関数則に従う傾 向があるものの天

球面上での長軸と短 軸の比の分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不等の

楕円体を示唆しているこ

図5-23ハッブル宇宙望遠鏡による赤 方偏移2の古い星で構成された

銀河の形態近 赤外線(H バンド)の観測データで右下は9天体の平均

をとった結果( van Dokkum P et al 2008 ApJ 677 L5 より)

のような形態を持つ原因としては昔の宇宙では(宇宙全体が小さかった

ので)銀河同 士の重力的相互作用や合体が頻繁に起こったか現在の宇宙

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 50: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

の不規則銀河のように星の質量に比べてガスの質量が大きい場合には星形

成が不規則な分布で起こりやすいことが考えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなる z~2 の銀河の

形態を調べると同 程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサイ

ズが小さい銀河が発見された(図5-23)これらの非常にサイズが小

さい銀河の数(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星

質量の大きさを考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測される

どのようにして z~2 から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったの

かについてはいくつかアイデアが提案されているもののよくわかって

はいない

5-5-2 節で述べたように z~1 の時 代には楕円銀河や渦巻銀河の形

態を持つ銀河が数多く観測されているのに対して z~2 の銀河の形態は現

在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀河

の形態はこの赤 方偏移が2から1の時 代(宇宙年齢30~60億年)に

出来上がったのではないかと考えられている

5-6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう図5-

24は1960年以降の天体の最遠方記録の推移をクェーサー(第12章

参照)ガンマ線バースト(第7章参照)銀河の別に分けて示している

1960年代 半ばに赤 方偏移が2を超えるクェー

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 51: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

図5-24発見された天体の最遠方記録の移り変わり横軸が発見され

た年(西暦)縦 軸が最遠方天体の赤 方偏移を示す点線がクェーサー

一点鎖 線がガンマ線バースト実 線が各種銀河(RG 電波銀河LAE ラ

イマンα 輝線天体LBG ライマンブレーク銀河 others その他重力レ

ンズ天体など)を表している分光観測によって赤 方偏移が高い精度で決

定された天体のみをプロットしている点に注意

サーの発見によって一気に初期宇宙の時 代の天体が観測されるように

なったそれ以降30年以上に渡ってクェーサーが再遠方天体を担ってき

たがこれらは電波源として発見された天体であったまたクェーサー

を除いた銀河の中でもっとも遠い天体も同 じく電波観測によって発見さ

れたAGNである電波銀河(第12章参照)であったクェーサーによる

再遠方記録の更新は1990年代初めの赤 方偏移4897のクェーサー

の発見まで続いた

転 機が訪れたのは1990年代後半でHST による観測によって銀河団

の大きな質量によって重力レンズの影 響を受けて強く引き伸ばされた天体

(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤 方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 52: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤 方偏移が3を超える

(AGNではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で1998

年には赤 方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天体

となった翌年には赤 方偏移5

図5-252 012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体 SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡に

よる画像(左)とKeck望遠鏡によるスペクトル(右)0999 μ m 付

近に左 右非対称の輝線があり赤 方偏移したライマンα 輝線であることが

わかる

( httpsubarutelescopeorgPressrelease20120603j_indexhtml より)

74のライマン α 輝線天体が最遠方記録を更新するに至りライマンブ

レーク法と輝線天体探査を使った可視光観測によって再遠方天体が発見さ

れる時 代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおいて

も2 0 0 0年代に入って SDSS サーベイの非常に広 域にわたる可視光

観測データにライマンブレーク法と同様の手 法を適用することによって

赤 方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった2 012年

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 53: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

現在もっとも遠方のクェーサーは近 赤外線の広 域 サーベイである

UKIDSS のデータを使って同様の手 法をさらに長い波長帯に適用するこ

とで発見された赤 方偏移70 85の天体である(第12章参照)一方

2 0 0 0年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこのライ

マンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献した

すばる望遠鏡は8 m 級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点カメラ

Suprime-Cam)を持っており口径 8 mの集光力と30分角スケールの広い

視野を併せ持つことによって可視光で広い領 域を非常に暗い天体まで観

測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に活 用すること

で2 0 0 0年代における再遠方銀河の多くはすばる望遠鏡によって発

見されたライマンα 輝線天体が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降再遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から10 0秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるHETE-2やSwiftといっ

た衛星ミッションとそれに連 動した世界中の地上望遠鏡による観測に

よって数多くのガンマ線バーストの赤 方偏移が同定されており2 0 0

5年には赤 方偏移が6を超えるものが発見され2 0 09年には最遠方記

録を大幅に更新する赤 方偏移82のガンマ線バーストが発見されるに

至ったガンマ線バーストは発 生後すばやく望遠鏡を向けることができ

れば残光が比較的明るい状態で観測できる可能性があり今後再遠方

記録をさらに更新していく上で有力な手段になると予想される(第7章参

照)

  2 012年6月現在分光観測によって確実に赤 方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤 方偏移72

15のライマンα 輝線天体である(図5-25)HST による長時間観測

によって赤 方偏移が8から10を超えるような天体候補も見つかってい

るがこれらはあまりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難

しく赤 方偏移の確認ができていない今後の大幅な記録更新には手 前

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない

Page 54: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/VER2/Cha… · Web viewそのため、1990年代後半にz=3を超えるライマンα輝線天体が発見されるようになり、その後続々とより高い赤方偏移の銀河がこの手法で発見され、2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく貢献した(5-6-5節参照)。日本

に銀河団がある領 域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を

見つけるかより大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

かもしれない