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2017/5/23.Ver.1.1
高密度播種移植栽培
実践マニュアル
JA 全農とちぎ・JA グループ栃木担い手サポートセンター
1.はじめに
このマニュアルはヤンマー株式会社様の協力の下、平成 28 年 4 月から JA グループ栃木
担い手サポートセンターが生産者、栃木県経営技術課、JA、全農とちぎと連携して取り組
んだ高密度播種移植栽培実証試験の結果に基づいた栽培指針になります。実際に圃場で取
り組んだ際のポイントや課題を中心に記載しておりますので、これから取り組む方へのひ
とつの指針としてご活用ください。
2.高密度播種移植栽培とは
高密度播種移植栽培では、苗箱あたりに乾籾 250~300g程度の高密度で播種し、14 日間
~20 日間ほど育てた苗を使用します。密生している苗を通常よりも細い爪で掻き取り移植
することで、慣行と同様の本数の苗を植えつつ一枚の苗箱でより多くの面積に移植が可能
になります。苗量を変えずに苗箱数を減らすことにより収量を保ったまま、床土や苗箱の
コスト削減、育苗や苗箱補充と言った労働力の軽減が期待できます。
3.実証試験結果について
28 年度は県内 16 圃場 595a で実証試験を実施し、移植時のコスト削減率と収量への影響
を確認いたしました。実証結果は以下の通りです。 (1)移植時コスト
10a あたりコスト 高密度播種 慣行 10a の
削減額備考
金額換算 金額換算
イニシャ
ルコスト
苗箱数(枚) 8 2,800 16 5,600 2,800 350 円/枚
ランニング
コスト
乾籾量(kg) 2.2 1,386 2.5 1,575 189 630 円/kg
※箱あたり(g) 272 ‐ 156 ‐ ‐ ×箱数=乾籾量
育苗培土(ℓ) 46 920 92 1,840 920 20 円/ℓ
労働時間(h) 1.7 1,530 2.7 2,430 900 時給 900 円注
総コスト(円) 3,836 5,845 2,009
注:労働時間は H24 栃木県経営診断指標の育苗に関する項目から密播の使用資材、作業日数を基に算出。 県内の 16 圃場の平均では 10a あたりの箱数は 8 箱となりました。慣行の平均 16 箱と比
べると 50%減になっています。播種量は慣行の倍近い 272g となり、苗箱数と掛け合わせ
ると、わずかではありますが 10a 当たりの使用乾籾量も削減されています。労働費を含め
た総計では 10a あたり約 2,000 円のコスト削減となりました。 (2)収量への影響
①品種別収量 品種名 圃場数 平均収量(kg)
コシヒカリ 7 453
あさひの夢 5 581
とちぎの星 3 633
なすひかり 2 585 ②聞き取り慣行収量との比較
全圃場
平均
実証圃(kg) 慣行区(kg) 増減(%)
551 550 100.1 慣行収量(聞き取り)比は 100.1%となり、収量への大きな影響はありません。しかし、実
証圃のなかには欠株が原因で 5%ほど減収した圃場もありました。
4.育苗方法について
(1)種子
種子は慣行と同様に消毒して播種します。乾籾
で一箱当たり 250~300g を用意してください。播
種量は後述の「(2)播種」における播種方法によっ
て検討してください。 写真:300g 播種した苗箱 (2)播種
育苗箱、床土は慣行栽培と同様ですが、覆土が盛り上がってしまう場合は床土の量を調
整してください。肥料についても育苗期間が短いため、慣行と同じ施肥で問題ありません。 播種量については、お手持ちの播種機の最大播種量を確認してください。
①機械の最大播種量が 250g 以上ある場合
希望の播種量に調整し、ムラなく播種が可能かご確認ください。 ②機械の最大播種量が希望の播種量に満たない場合
高密度播種に対応した播種機か播種量を追加できるアタッチメントの導入、または
希望播種量の半分量を設定し、播種機に苗箱を 2 度通す方法が考えられます。大面積
や長期的に取り組むのであれば、機械の導入をおすすめします。また、機種によって
は酒米用の播種ロールで代用できる場合もあります。
(3)育苗管理
育苗期間は 14~20 日を基準としてください。3 週間以上の育苗は高密度播種の特性上、
ムレ苗や不揃いの原因となり移植精度の低下、欠株の発生に繋がります。あらかじめ余裕
を持った播種・移植のスケジュール組みを徹底してください。苗の仕上がりは次項「5.移
植-(2)移植苗」を参考にしてください。
※水稲育苗箱処理剤について
高密度播種において担い手サポートセンターでは、箱処理剤を使わずに移植後本
圃での殺虫・殺菌剤の施用を勧めております。通常の箱処理剤は箱あたり 100~150g程度の乾籾が撒かれることを前提に薬量が設定されているため、通常の 2 倍以上播
種をする本技術で箱処理剤を施用したとしても、期待する防除効果が得られない場
合があります。当然、基準量以上の施用は厳禁です。そのため、技術を導入する際
は周辺の病害虫の発生状況も良く考慮しましょう。
5.移植※
(1)圃場
圃場はやや水が浸る程度(水深 1~2cm 程度)にします。あまり深水では浮き苗等の原因
になります。浮き苗、転び苗を防ぐためにも代掻きは丁寧に行い、圃場の均平化を心がけ
ましょう。圃場の硬さや施肥量などは慣行栽培に準拠してください。
(2)移植苗
移植時の苗は葉齢が 2.0~2.3、草丈 10~15cm 程度が理想的です。茎径は 1mm 以上を確
保しましょう。 写真右は葉齢 2.2、草丈 15cm と理想的な仕上がりです。写真左は葉齢 2.7 と移植適期よ
りやや遅れ気味です。移植後問題はありませんでしたが、あまり遅れると肥料切れにより
生育遅れのリスクもあるため、適期での移植を心がけましょう。
写真:葉齢 2.7(左)と葉齢 2.2(右)の苗 ※ヤンマー株式会社様の「密苗仕様田植機」の利用を想定しています。通常の田植機に比
べ苗の掻き取り幅が小さく、苗箱の横送り回数も多く設定されています。お持ちの田植
機にあわせ、設定や方法は検討する必要があります。
(3)移植
移植は慣行栽培と同様に行います。栽植密度は 50~60 株/坪を基準に調整してください。 また、移植時は苗箱が途切れないよう注意してください。補給による重みがないと、苗の
縦送りがスムーズにいかず欠株の原因となります。
※欠株
圃場の起伏による植え損ね、強風による転び、水流による浮き苗、除草剤による
薬害、播種のムラによる苗の掻き損じなど、欠株の要因は多く考えられます。小さ
い苗を移植することはそれだけで多くのリスクを含んでいるため、代掻きや水口周
りの管理は丁寧に行い、極力欠株のリスクを減らしましょう。
(4)施肥
施肥量は慣行栽培と同様です。
6.移植後管理
(1)水管理・防除 移植直後は急な入水に注意してください。勢いが強いと水口周りの苗が流されてしまう
恐れがあります。また、移植後は分けつ数を確保した上で中干しをしてください。 防除は慣行栽培と同様です。地域の基準に従って行ってください。 (2)出穂期と追肥 同日に移植した慣行苗と比較し、出穂期が 1~3 日遅くなります。穂肥の施用時期に注意
しましょう。基肥一発肥料を使用する場合は、慣行栽培と同様で問題ありません。 (3)収穫期 同日に移植した慣行苗と比較し、成熟期が 1~3 日遅くなります。帯緑色籾率より刈取適
期を判断しましょう。
<参考文献> 『高密度播種・短期育苗(高密度育苗)による水稲栽培技術の手引き』(Ver.2.1_2015),石
川県農林総合研究センター. 『ヤンマーの密苗クイックマニュアル』,ヤンマー株式会社. <お問い合わせ先>
JA グループ栃木 担い手サポートセンター 〒321-0905 栃木県宇都宮市平出工業団地 9-25 電話番号:028-616-8525