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原子力機構の研究開発成果 2014 13 福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発 1 - 2 事故後初期のヨウ素 131 沈着量の分布 初期航空機モニタリングデータを日米共同で開発した解析手法により評価図 1-4 モニタリングに使った(a)航空機 と(b)測定機材 NaI 検出器(5 cm × 10 cm × 40 cm、 3 本)を飛行機の後部に搭載し、1 秒毎 にデータを採取しました。 東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により、様々 な放射性物質が広い範囲にわたって拡散されました。 私たちは、米国エネルギー省(DOE)が早い段階(2011年 3 月 17 日~ 4 月 5 日)で飛行機に大型 NaI 検出器を搭載 して実施した航空機モニタリング(図 1-4)の測定結果 を DOE から入手し、エネルギースペクトルの解析を行っ た結果、短半減期のヨウ素 131( 131 I;半減期:8 日)を 示すエネルギーのピーク(365 keV)が検出されるもの があったことから、DOE と共同で 131 I の地表面沈着量 を解析する手法を開発し、 131 I の地表面沈着量の分布を 求めて、それをマップ化しました。 131 I のエネルギー・ピークが検出でき、バックグラウ ンド放射線の影響を差し引いて面的な分布が評価でき る 2011 年 4 月 2 日と 3 日に実施した 3 回のフライト測 定に着目し、測定データの中にわずかに含まれる 131 Iの ピークを抽出しました(図1-5)。また、γ 線の挙動を解 析するモンテカルロ計算コードを用いて 131 I に対する検 出器の感度特性や地表面から上空までの減弱量を求める 手法を開発し、地表面の 131 I の沈着量(kBq/m 2 )とピー ク計数率の関係式を求めました。 このピークの抽出とモンテカルロ計算による放射線の 減弱量の解析の結果、地表面に沈着した 131 I の濃度を算 出し、マップ化しました。 測定が終了した 4 月 3 日時点で評価した 131 I の沈着量 の解析結果を図 1-6 に示します。また、半減期が比較 的長く、その後実施されたモニタリングでも十分に検出 されているセシウム 134( 134 Cs;半減期:2年)につい ても、比較のために 131 I と同様の手法を用いて解析を行 いました。解析の結果、放射性セシウムと同様に 1F の 北西方向に高い濃度の 131 I の沈着が認められました。ま た、1F 付近では 131 I が南側にも広がっている傾向が見 られました。 さらに、解析手法の妥当性を検証するため、文部科学 省原子力災害対策支援本部(当時)が実施した土壌データ (2011 年 6 月 14 日)と今回の解析結果を半減期補正し て比較しました。その結果、地上で測定した 131 I, 134 Cs の沈着量は本航空機モニタリングの結果と良く一致し ており、本手法の妥当性が確認されました。 131 I の地上 データは少なかったのですが、今回開発した手法により、 131 I の詳細な分布が明らかになりました。 参考文献 Torii, T. et al., Enhanced Analysis Methods to Derive the Spatial Distribution of 131 I Deposition on the Ground by Airborne Surveys at an Early Stage after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident, Health Physics, vol.105, no.2, 2013, p.192-200. (a) (b) 10 4 10 3 10 2 10 1 10 0 10 4 10 3 10 2 10 0 10 1 10 4 10 3 10 2 10 0 10 1 10 -1 0 131 I (365 keV) 131 I 134 Cs (796 keV) 134 Cs 500 250 300 350 400 450 700 750 800 850 900 1000 エネルギー(keV) エネルギー(keV) エネルギー(keV) 1500 2500 2000 3000 (c) (d) (e) 10 4 10 3 10 2 10 1 0 131 I 365 keV131 I 134 Cs (796 keV134 Cs 500 1000 エネルギー keV1500 2500 2000 3 ( e ) 131 I 沈着量(Bq/m 2 (2011年4月3日時点) 3000 K < 1000 ‒ 3000 K 600 ‒ 1000 K 300 ‒ 600 K 100 ‒ 300 K 60 ‒ 100 K 30 ‒ 60 K 10 ‒ 30 K ≦ 10 K 1F コケ レヮ ゴケ レヮ ゴ レヮ 図 1- 5 スペクトルデータ 131 Iと 134 Cs のピーク領域をガウス・ フィッティング法で抽出し、 131 Iと 134 Cs の 1 秒毎の測定データを求め ました。 図 1-6  131 I の沈着量分布の測定結果(2011 年 4 月 3 日時点) (背景地図は、ArcGIS データコレクションスタンダー ドパック(ESRI, Co. Ltd.)で作成) 131 I 濃度の高いエリアが、1F の北西方向のほか に、南側にも確認されました。

1-2 事故後初期のヨウ素131沈着量の分布 · 1-2 事故後初期のヨウ素131沈着量の分布 -初期航空機モニタリングデータを日米共同で開発した解析手法により評価-

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原子力機構の研究開発成果 2014 13

福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発

1-2 事故後初期のヨウ素 131 沈着量の分布-初期航空機モニタリングデータを日米共同で開発した解析手法により評価-

図1-4 モニタリングに使った(a)航空機と(b)測定機材NaI 検出器(5 cm × 10 cm × 40 cm、3本)を飛行機の後部に搭載し、1秒毎にデータを採取しました。

 東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により、様々な放射性物質が広い範囲にわたって拡散されました。私たちは、米国エネルギー省(DOE)が早い段階(2011年3月17日~4月5日)で飛行機に大型NaI検出器を搭載して実施した航空機モニタリング(図1-4)の測定結果をDOEから入手し、エネルギースペクトルの解析を行った結果、短半減期のヨウ素131(131I;半減期:8日)を示すエネルギーのピーク(365 keV)が検出されるものがあったことから、DOEと共同で 131I の地表面沈着量を解析する手法を開発し、131I の地表面沈着量の分布を求めて、それをマップ化しました。 131I のエネルギー・ピークが検出でき、バックグラウンド放射線の影響を差し引いて面的な分布が評価できる2011年 4月 2日と3日に実施した3回のフライト測定に着目し、測定データの中にわずかに含まれる 131I のピークを抽出しました(図1-5)。また、γ線の挙動を解析するモンテカルロ計算コードを用いて 131I に対する検出器の感度特性や地表面から上空までの減弱量を求める手法を開発し、地表面の 131I の沈着量(kBq/m2)とピーク計数率の関係式を求めました。

 このピークの抽出とモンテカルロ計算による放射線の減弱量の解析の結果、地表面に沈着した 131I の濃度を算出し、マップ化しました。 測定が終了した4月3日時点で評価した 131Iの沈着量の解析結果を図1-6に示します。また、半減期が比較的長く、その後実施されたモニタリングでも十分に検出されているセシウム134(134Cs;半減期:2年)についても、比較のために 131I と同様の手法を用いて解析を行いました。解析の結果、放射性セシウムと同様に1Fの北西方向に高い濃度の 131I の沈着が認められました。また、1F付近では 131I が南側にも広がっている傾向が見られました。 さらに、解析手法の妥当性を検証するため、文部科学省原子力災害対策支援本部(当時)が実施した土壌データ(2011年 6月 14日)と今回の解析結果を半減期補正して比較しました。その結果、地上で測定した 131I,134Csの沈着量は本航空機モニタリングの結果と良く一致しており、本手法の妥当性が確認されました。131I の地上データは少なかったのですが、今回開発した手法により、131I の詳細な分布が明らかになりました。

●参考文献Torii, T. et al., Enhanced Analysis Methods to Derive the Spatial Distribution of 131I Deposition on the Ground by Airborne Surveys at an Early Stage after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident, Health Physics, vol.105, no.2, 2013, p.192-200.

(a)

(b)

計数率/チャンネル

計数率/チャンネル

104

103

102

101

100

104

103

102

100

101

104

103

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10-10

131I(365 keV)

131I

134Cs(796 keV)

134Cs

500

250 300 350 400 450 700 750 800 850 900

1000

エネルギー(keV)

エネルギー(keV) エネルギー(keV)

1500 25002000 3000

(c)

(d) (e)104

103

102

101

0

131I(365 keV)

131I

134Cs(796 keV)

134Cs

500 1000

エネルギー(keV)1500 25002000 3

(e)

131I 沈着量(Bq/m2)(2011年4月3日時点)

3000 K <1000 ‒ 3000 K600 ‒ 1000 K300 ‒ 600 K100 ‒ 300 K60 ‒ 100 K30 ‒ 60 K10 ‒ 30 K≦ 10 K

1F

図1-5 スペクトルデータ131I と 134Cs のピーク領域をガウス・フィッティング法で抽出し、131I と134Cs の 1秒毎の測定データを求めました。

図1-6 131I の沈着量分布の測定結果(2011 年4月 3日時点)(背景地図は、ArcGIS データコレクションスタンダードパック(ESRI, Co. Ltd.)で作成)131I 濃度の高いエリアが、1F の北西方向のほかに、南側にも確認されました。