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腐食センターニュース No. 054 2010 8 1 水処理技術(1) ボイラおよび周辺設備の腐食・防食 栗田工業㈱ 川村 文夫 1.はじめに 水処理に関するニュースを連載でお願いしたいというセンターのご依頼があり、どのような視点で取 り組むか苦慮したが、まず生産設備として重要であり、省エネルギーという視点でも注目すべきボイラ 本体および発生する蒸気・復水系の腐食について、その原因と対策を紹介することにした。ボイラの水 処理については、JIS B 8223 にボイラの給水およびボイラ水の水質が制定されているが、現在使用され ている多くの水処理剤が記載されているわけではないため、使用圧力が2MPa 以下のボイラ設備を対象 とした防食方法を紹介する。 2.ボイラ水処理の必要性 低圧ボイラ(本稿では、2MPa 以下のボイラとする)を構成する材料は、大部分炭素鋼である。また 使用される水は原水または軟化水(イオン交換樹脂で水中の硬度成分であるカルシウムイオンとマグネ シウムイオンをナトリウムイオンに置換して除去した水)であり、脱気器もほとんど設置されていない ため、スケール障害、酸素や二酸化炭素による腐食障害を起こしやすい。スケールの付着は、加熱によ る伝熱管の破裂、膨出といった事故レベルから、燃料代の上昇といったエネルギー損失の原因となる。 腐食も、ボイラ本体の損傷事故から、蒸気を使用する設備機器や配管の損傷、蒸気漏れによるエネルギ ー損失につながる。ボイラ設備を安全に運転することはもちろん、省エネルギーがきわめて重要な時代 にあって、水処理によってこれらの障害を防止することは極めて重要である。 3.ボイラ水処理の移り変わり 戦後間もない低圧ボイラの水処理は、水管ボイラを有する大工場ではボイラ水処理の重要性が認識さ れ、清缶剤(Boiler compound) を使用していたが、多くの低圧ボイラではボイラペイントを塗布した り、さつまいもや茶がらなどが使用される程度であった。 *ボイラ本体に対するスケールの付着を防止する機能とボイラ水のpH を調節する機能を持つ薬品 (ボイラの水管理用語解説p123、日本ボイラ協会) 清缶剤としてはリグニン、デンプンなどの天然高分子電解質や炭酸ナトリウムの他に、旧海軍で研究 されていたりん酸ナトリウムが用いられていた。その後イオン交換樹脂が工業生産され、1955年こ ろからイオン交換樹脂を用いた軟化装置がボイラ給水水処理装置として用いられるようになった。その 結果ボイラの水処理がスケール付着防止を主体としたものから、腐食防止対策を含めたものへと変化し、 スケール防止機能に加えて腐食抑制の機能に優れたりん酸塩系清缶剤の使用が進んだ。 脱酸素剤としては亜硫酸ナトリウムが古くから用いられてきたが、発電ボイラに使用されていたヒド ラジンも使用されるようになった。また給水系や復水系における配管や設備機器の腐食防止対策として

水処理技術(1) ボイラおよび周辺設備の腐食・防 …corrosion-center.jp/pdf/news/No.054/No.054.pdf腐食センターニュース No. 054 2010 年8 月 1 水処理技術(1)

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腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

1

水処理技術(1) ボイラおよび周辺設備の腐食・防食

栗田工業㈱ 川村 文夫

1.はじめに

水処理に関するニュースを連載でお願いしたいというセンターのご依頼があり、どのような視点で取

り組むか苦慮したが、まず生産設備として重要であり、省エネルギーという視点でも注目すべきボイラ

本体および発生する蒸気・復水系の腐食について、その原因と対策を紹介することにした。ボイラの水

処理については、JIS B 8223 にボイラの給水およびボイラ水の水質が制定されているが、現在使用され

ている多くの水処理剤が記載されているわけではないため、使用圧力が2MPa 以下のボイラ設備を対象

とした防食方法を紹介する。

2.ボイラ水処理の必要性

低圧ボイラ(本稿では、2MPa 以下のボイラとする)を構成する材料は、大部分炭素鋼である。また

使用される水は原水または軟化水(イオン交換樹脂で水中の硬度成分であるカルシウムイオンとマグネ

シウムイオンをナトリウムイオンに置換して除去した水)であり、脱気器もほとんど設置されていない

ため、スケール障害、酸素や二酸化炭素による腐食障害を起こしやすい。スケールの付着は、加熱によ

る伝熱管の破裂、膨出といった事故レベルから、燃料代の上昇といったエネルギー損失の原因となる。

腐食も、ボイラ本体の損傷事故から、蒸気を使用する設備機器や配管の損傷、蒸気漏れによるエネルギ

ー損失につながる。ボイラ設備を安全に運転することはもちろん、省エネルギーがきわめて重要な時代

にあって、水処理によってこれらの障害を防止することは極めて重要である。

3.ボイラ水処理の移り変わり

戦後間もない低圧ボイラの水処理は、水管ボイラを有する大工場ではボイラ水処理の重要性が認識さ

れ、清缶剤(Boiler compound)*を使用していたが、多くの低圧ボイラではボイラペイントを塗布した

り、さつまいもや茶がらなどが使用される程度であった。

*ボイラ本体に対するスケールの付着を防止する機能とボイラ水のpHを調節する機能を持つ薬品

(ボイラの水管理用語解説p123、日本ボイラ協会)

清缶剤としてはリグニン、デンプンなどの天然高分子電解質や炭酸ナトリウムの他に、旧海軍で研究

されていたりん酸ナトリウムが用いられていた。その後イオン交換樹脂が工業生産され、1955年こ

ろからイオン交換樹脂を用いた軟化装置がボイラ給水水処理装置として用いられるようになった。その

結果ボイラの水処理がスケール付着防止を主体としたものから、腐食防止対策を含めたものへと変化し、

スケール防止機能に加えて腐食抑制の機能に優れたりん酸塩系清缶剤の使用が進んだ。

脱酸素剤としては亜硫酸ナトリウムが古くから用いられてきたが、発電ボイラに使用されていたヒド

ラジンも使用されるようになった。また給水系や復水系における配管や設備機器の腐食防止対策として

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アミン類が使用されるようになった。すなわち、ボイラ本体のみを対象とした水処理から、給水や復水

を含めたボイラプラント全体への水処理という考え方がスタートした時期であった。ボイラプラント全

体でコストを考えるということは極めて重要であるが、防食処理法の違いによっては、ボイラ本体が安

全であっても、ユースポイントでの水漏れが増加するような場合も考えられる。

1960年代は、環境に対する影響からりん酸塩を使用しない処理技術が要求され、高分子電解質を

利用した薬剤使用が増加してきた。さらに安全性の高まりから、脱酸素剤としてヒドラジンを使用しな

い処理技術も確立され、現在では多くの水処理剤が選択できるようになっている。JIS の水質には、亜

硫酸塩、ヒドラジンを使用した場合の水質基準が記載されているのみであり、それ以外の水処理剤につ

いては、メーカーの提示する管理値により運用しており、それぞれの長所、短所を理解したうえで使用

することが必要である。

4.ボイラ設備の腐食原因

一般に腐食反応に影響を与える因子としては、pH、溶存ガス(溶存酸素、二酸化炭素など)、溶解

塩類の種類や濃度、温度、流速などがある。図1にボイラ設備のフローシートを示すが、腐食を発生す

る箇所は、①給水②ボイラ本体③復水の3ヶ所であり、それぞれ原因と対策が異なってくる。

図1.ボイラ設備のフローシート例 4.1 給水系の腐食

給水系のpHは通常中性または弱アルカリ性であるが、水中に溶存酸素が存在すればよく知られてい

る中性環境での鉄の反応により腐食が進行する。

Fe → Fe2+ + 2e H2O + 1/2O2 + 2e → 2OH-

Fe2+ + 2OH- → Fe(OH)2 ここで生成された水酸化鉄(Ⅱ)はさらに溶存酸素と反応して水酸化鉄(Ⅲ)となる。低圧ボイラの給

水系は比較的温度も低く、あまり大きな問題となっていなかったが、省エネルギー対策の一環として、

給水熱交換型連続ブロー装置や、エコノマイザーの設置により、これらの装置の腐食が問題となってき

ている。さらに復水の回収が増え、温度が上昇すると給水タンクの腐食なども問題になってくる。

給水タンク

軟水器 P

薬品

原水

熱交換器

ボイラ

蒸気

復水

給水

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4.2 ボイラ本体の腐食

腐食原因としては、溶存酸素、腐食生成物の沈殿、濃厚アルカリなどがある。低圧ボイラ水のpHは

給水の濃縮、炭酸水素塩の熱分解とアルカリ添加により、11.0~11.8 のアルカリ性に保つようにしてい

るが、この条件であっても溶存酸素による腐食は避けられず、脱酸素処理や皮膜形成剤の添加を必要と

する。写真1および2に、腐食事例を示す。また給水系や復水系から酸化鉄、酸化銅などがボイラ内に

搬入され、蒸発管に付着すると、溶存酸素があれば、酸素濃淡電池の作用により腐食が進行する。アル

カリによる腐食は、一般的な低圧ボイラで発生することは少ないが、ごみ焼却炉に設置される発電ボイ

ラなどにおいて過熱器や蒸発管での事例が散見される。

写真1 炉筒煙管ボイラの溶存酸素による腐食事故例

写真2 水管ボイラの溶存酸素による腐食事故例

4.3 復水系の腐食

給水中の酸消費量pH4.8(炭酸水素塩)は、ボイラ内で熱分解して二酸化炭素を発生させる。

2NaHCO3 → Na2CO3+CO2+H2O Na2CO3+H2O → 2NaOH+CO2

この二酸化炭素は、蒸気とともに蒸気や復水中に移行し、蒸気が凝縮する際に凝縮水に溶解し炭酸とな

る。

腐食部

煙管の上側が全面腐食 起こしている。

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CO2 + H2O ⇆ H2CO3

H2CO3 ⇆ H+ + HCO3-

HCO3- ⇆ H+ + CO3

復水のように溶解塩類をほとんど含まない水は、緩衝作用が小さいため炭酸のような弱酸が溶解して

もpHは容易に低下する。ここで生成した炭酸は次に示す反応で鋼を腐食する。

Fe + 2 H2CO3 → Fe(HCO3)2 + H2

pHが5以上で溶存酸素と炭酸が共存する場合は、給水の腐食の項で述べた反応で進行する。この時

炭酸は腐食反応に直接関与するのではなく、遊離炭酸として存在することによって、pHを低く維持し

腐食生成物の溶解度を高めて間接的に腐食を促進している。

Fe2+ + 2HCO3- → Fe(HCO3)2

溶存酸素が存在することによって、復水系の腐食速度は増大する。脱酸素が不十分な場合は、缶内の腐

食を発生させるだけではなく、復水系の腐食にも影響を及ぼすことは、よく認識しなければならない。

ボイラの防食方法として、缶内の皮膜形成という手段を選んだ場合も、同様な注意が必要になる。

写真3 復水配管の腐食事故例

図2 復水系の炭素鋼の腐食に対する溶存酸素の影響

管上側

管下側 凝縮水の流れる

部分が選択的に

腐食 貫通

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5.ボイラ設備の防食方法

5.1 給水系の防食技術

給水系統の腐食の主因は溶存酸素である。しかしながら国内の低圧ボイラにおいて加熱脱気や真空脱

気を実施する例は少ない。小型貫流ボイラにおいては、膜式脱気処理を実施する場合もあるが、大部分

は脱気処理をせずに水処理が行われている。防食機能を有する清缶剤の使用が効果的であるが、ボイラ

缶内で薬剤が濃縮することを考えると、使用濃度が制限されてくるため、最善の方法は脱気処理+防食

機能を有する清缶剤使用となる。また耐食材料の使用や、塗装、ライニングなどの設備面での対策をと

ることもある。ボイラ本体の防食対策と比較すると、重要度が低かった給水系であるが、省エネルギー

の視点から新しい技術の検討が必要になってくると考えている。

5.2 ボイラ本体の防食技術

ボイラの防食方法には、脱酸素剤を使用するか、脱酸素しないで皮膜形成をする方法に分けられる。

さらに脱酸素剤には、ヒドラジン系と非ヒドラジン系に大別され、非ヒドラジン系には揮発性と非揮発

性の素材があり、それぞれ特徴を有している。以下にそれぞれの薬剤について

①反応式 ②長所、利点など ③短所、留意点

をまとめて述べる。薬剤メーカーが独自性を持って供給する素材も含まれており、留意点などはあくま

で筆者の考えであり、見解の違いなどがある場合にはご容赦願いたい。

Ⅰ.ヒドラジン系脱酸素処理剤

1)ヒドラジン

①N2H4 + O2 → N2↑ + 2H2O Fe2O3 + N2H4 → 4Fe3O4 + N2 + 2H2O 4Fe3O4 + O2 → 6Fe2O3

②酸素反応生成物は窒素ガスと水であり、ボイラ水の溶存固形物濃度を上昇させない。除去対象溶存酸

素濃度に対して必要添加量が少なく、低コストである。

③変異原性物質として指定(平成6年6月6日)。劇物として指定(N2H4・H2O として30%以上)。

220℃以上で分解してNH3を発生するが、実系では金属が分解触媒となり、その温度以下でも分解する。

PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度) 対象物質であ

る。

2)ヒドラジン誘導体~カルボヒドラジド

①<低温下(135℃以下)>

(N2H3)2CO + 2O2 → 2N2 + 3H2O + CO2 <高温下(135℃以上)>

(N2H3)2CO + H2O → 2N2H4 + CO2 N2H4 + O2 → N2 + 2H2O

②取り扱い時に、作業者へのヒドラジン蒸気の暴露が低減できる。反応生成物は窒素ガス、二酸化炭素

と水であり、ボイラ水の溶存固形物濃度を上昇させない。

③ボイラ水・蒸気中にはヒドラジンが発生・移行する。反応生成物として炭酸ガスが発生し、蒸気復水

や給水系のpHを下げるため、給・復水系防食剤(アミン)の注入量が増加する。危険物第5類 第2

種自己反応性物質に該当する。

Ⅱ.非ヒドラジン系脱酸素処理剤(非揮発性)

1)亜硫酸塩

①2Na2SO3 + O2 → 2Na2SO4

②安全性の高い物質であり、食品工場向けの脱酸素剤として実績がある。反応生成物も安全性が高い上

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に、蒸気への移行がほとんどない。

③反応生成物として硫酸イオンが発生し、酸素共存下でボイラ水での腐食性が高まるため、残留濃度の

管理が重要である。ボイラ水中の溶存固形物濃度が増加する。

2)エリソルビン酸塩

①エリソルビン酸ナトリウム + O2

→ 2-3-ジケトガロニン酸ナトリウム + O2

→ シュウ酸+スレオン酸ナトリウム + H2O (脱酸素反応に関わる物質のみ記載)

②反応生成物成分の蒸気への移行が少ない。

③ヒドラジンと比較して脱酸素剤として、多くの添加量が必要である。

3)糖類系脱酸素剤

① H H C-OH C=O

∥ + 1/2O2 → | + H2O

C-OH C=O R R

(糖類) (糖類のジケトン体) ②安全性の高い物質である。反応生成物でボイラ水の腐食性が高まることはない。

低圧ボイラでの実績が多い。

③残留脱酸素剤濃度の確認が困難であり、過剰注入で蒸気に着臭することがある。

4)天然植物系脱酸素剤

O

OHO

OHOHHO

CO

+   ½ O2    → +   H 2 O

CO

OO

HOOH

OHHO

CO

+   ½ O2    → +   H 2 O

CO

(ポリフェノール類) (ポリフェノール類のジケトン体)

②安全性の高い物質である。反応生成物でボイラ水の腐食性が高まることはない。

低圧ボイラでの実績が多い。蒸気へ着臭することがほとんど無い。

低圧ボイラ向けの脱酸素剤としては電気伝導率の上昇が少ないのでブロー率の上昇が抑えられる。

③残留脱酸素剤濃度の確認が困難である。

Ⅲ.非ヒドラジン系脱酸素剤(揮発性)

1)1-アミノ-4-メチルピペラジン

主反応生成物は揮発性物質である。

②揮発性物質であり薬注点を選ばない。ヒドラジンに比較的近い添加量比で脱酸素する。

濃度分析可能である。缶水水質への影響がほとんど無い。国内で主として中高圧ボイラを中心に

多くの適用実績がある。海外では亜臨界圧クラスボイラにも適用している。

③他の非ヒドラジン系脱酸素剤と比べて高価である。

N-NH2CH3-N + 3/4 O2

→ NH2CH3-N

CHO

+ 1/2 H2O + 1/2N 2

N-NH2CH3-N + 3/4 O2

→ NH2CH3-N

CHO

H2 2

N-NH2CH3-N + 3/4 O2

→ NH2CH3-N

CHO

+ 1/2 H2O + 1/2N 2

N-NH2CH3-N + 3/4 O2

→ NH2CH3-N

CHO

H2 2

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2)ケトオキシム系脱酸素剤

2H3CC=NOH + O2 → 2H3CC=O + N2O + H2O | |

C2H5 C2H5 ②揮発性物質であり、薬注点を選ばない。

③単独では反応が遅く、触媒の併用が必要である。酸素との反応の他に反応生成物同士の反応や熱分解

反応などが平行して進行し、反応機構および生成物が多様である。多量添加の場合、硝酸が発生する

恐れがある。素剤が動物試験で発癌性であるというデータがある。ヒドラジンと比較して脱酸素剤

として多くの添加量が必要である。国内での本格的な適用実績が少ない。

3)ヒドロキシルアミン類脱酸素剤

①<一般的な反応式>

C2H5 4 >NOH + 9O2 → 8CH3COOH + 2N2 + 6H2O

C2H5 (酢酸) <典型的なボイラ運転条件> C2H5 C2H5

>NOH+[O] → >N→O + H2O C2H5 CH3CH (最終的に) → CH3CHO + NH3 (アセトアルデヒド) (アンモニア)

②揮発性物質であり、薬注点を選ばない。濃度分析が可能である。海外で低圧から高圧まで実績が多数

ある。

③単独では反応が遅く、触媒の併用が必要である。臭気に留意する必要がある。

Ⅳ.脱酸素しない防食処理

1)防食皮膜形成法

①脱酸素剤によらずに、有機酸塩などをボイラ水に添加してボイラ水と接する鋼材表面に、酸化鉄の皮

膜(Fe3O4・マグネタイトとされている)の均一な形成を助けて(主としてイオン透過性を低下させ

ることにより)鋼材の腐食を防止する。

②ヒドラジンを使用しない処理であるので安全性が高いとされている。低圧ボイラでの実績が多い。

③脱酸素処理をしないので、低圧ボイラでは蒸気・復水ラインの酸素による腐食が発生する。また、ア

ノード型インヒビターとしての挙動をとるためアニオン濃度が高い場合には防食効果が低下する。

5.3 復水系の防食技術

この系の腐食因子は、4.3で述べたように二酸化炭素と酸素である。二酸化炭素の濃度は、給水の酸消

費量pH4.8(炭酸水素塩)で決まり、酸素の濃度はボイラ防食のために添加した脱酸素剤の効果によ

って左右される。このような腐食環境下では中和性アミンによる処理と皮膜性アミンによる処理が行わ

れている。

1)中和性アミン

中和性アミンには、アンモニア(NH3)、シクロへキシルアミン(C6H11NH2)などがある。使用方法

は給水系あるいは蒸気系へ注入するが、給水系に添加する方法が一般的である。添加された中和性アミ

ンは、ボイラ内で発生する蒸気とともに揮発し、蒸気が凝縮すると同時に復水中へ溶解し、以下のよう

に二酸化炭素を中和して凝縮水のpHを上昇させ、炭素鋼や銅の腐食を抑制する。

CO2(g)+ H2CO3 ⇆ H+ + HCO3-

RNH2 + H+ ⇆ RNH3 + RNH3 + + HCO3

- ⇆ RNH2 H2CO3

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図4に示すように、炭素鋼の腐食速度は中和性アミンの注入によって復水のpHが上昇するとともに

低下することがわかる。また銅材については図5に示すように、復水pHが6~9の範囲で腐食量が少

ないがpHが6以下あるいはpHが10以上になると腐食傾向を示し、中和剤によってもその違いがあ

り、アンモニアは高い腐食傾向を示す。

図4 炭素鋼の腐食量とpHの関係

図5 銅の腐食量と復水pHの関係

中和性アミンは、その種類によって塩基性(pH上昇力、解離定数の大小によってあらわされる)が異

なり、その結果各アミンによって二酸化炭素を中和する量が異なる。主な中和性アミンの解離定数と二

酸化炭素1mg/l を中和する必要量を表1に示す。また、中和性アミンを選択する際の重要な指標として

分配比がある。分配比とは、あるボイラ圧力下における蒸気中のアミン濃度と水中アミン濃度の比であ

る。

分配比=気相中のアミン濃度/液相中のアミン濃度

分配比の大きいアミンは蒸気へ移行しやすいが、逆に蒸気が凝縮する際、凝縮水へ移行しにくい。分

配比が小さいアミンは、それとは逆に蒸気へ移行しにくく、凝縮水へは移行しやすい。また温度によっ

ても異なるため、使用する系にあったアミンを選択することが重要である。一般的にはボイラに比較的

近い系を防食するためには分配比の小さいもの、初期凝縮部近くに銅材質が使用されている場合やボイ

ラから離れた末端の防食には、分配比の大きいものが有効である。解離定数や分配比からみるとアンモ

ニアは有効な素材であるが、銅材に対する腐食性から使用されていない場合が多い。

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

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表1 主な中和性アミン

2)皮膜性アミン

皮膜性アミンとしては、次の一般式で示されるアルキルアミンが使用されている。

R-NH2 ただしRはC10~C22

その中でもっとも一般的に使用されているのが炭素原子数18のオクタデシルアミン(以下ODAとす

る)である。ODAは、米国食品医薬品局でボイラ添加剤として認められているアミンである。水に不

溶な物質であるが、安全な乳化剤を用いることで給水系に添加できるようになり、使用例は増加してい

る。

皮膜性アミンの作用機構は、アミノ基が金属表面に付着し、単分子層あるいは多分子層の非常にち密

な皮膜をつくり、写真4に示すようにその吸着皮膜は凝縮水が金属表面への接触を防いで腐食を抑制す

る。

写真4 皮膜性アミンの皮膜形成による撥水状況

しかし腐食抑制効果を発揮するち密な吸着皮膜を形成するには、ODAの注入量はもちろん、給水酸

消費量pH4.8(炭酸水素塩)やドレン水温などの環境因子が大きく影響するので、適用に当たっては

設備状況をきちんと確認して、薬剤を選択していく必要がある。

6.おわりに

ボイラ設備の防食に関する水処理方法を述べてきた。水処理の歴史としては、すでに50年以上を経

過し、使用する薬品の性状は多目的薬剤に移行しつつあるが、確実に管理できているかという視点では、

人手に負うところが多く、水質管理の自動化という点では、まだ改善の余地がある。工場の省エネルギ

ーという視点でも、復水回収の要求は増加していくと思われ、これまでは防食処理が難しいとされてき

た設備・機器も対象にしていくことが必要になる。 また安全性という視点でも、更なる素材の見直し

をしていく必要もあり、技術開発に取り組んでいる。 (次号に続く)

水滴が球状になる

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マンガン系オーステナイトステンレス鋼の腐食損傷

高谷泰之

最近、Ni 系に変わっての Mn 系のオーステナイト系ステンレス鋼が価格の面から多用されているよ

うである。Mn 系のステンレス鋼の腐食に関する資料は非常に少ない。大気環境で生じた Mn 系ステン

レス鋼の腐食損傷事例を紹介する。 破断損傷した線材は、電波受信器を固定するため、屋根に張られたステンレス鋼線(直径:1.58mm)

である。線材は設置後1カ年間で切断事故が発生した。

1.環境および材質 ステンレス鋼線の表面に付着していたさびを採取し、粉

末状試料をエネルギー分散型 X 線マイクロアナライザ

(EDS)で分析した結果を図1に示す。その結果、線材表

面の付着物は Fe、Cr の鋼の成分に加えて Al、Si、S、Cl、K と Ca が付着していることがわかる。これらは線材のさび

と大気環境中に飛散していた粉塵の成分であるといえる。 線材の化学成分(mass%)は、Cr:12.88、Ni:1.86、Mn:12.45、C:0.029、Si:0.67、P:0.042、S:0.003 であり、日本工業規格

(JIS)によると、SUS201 に近い Mn 系のステンレス鋼で

ある。 2.腐食の状況 破断寸前のき裂がみられる線材部を図2に示す。線材の表面を目視観察すると、茶色の錆(a)が全

面にわたり堆積していた。線材の長手方向(写真中左右)に対し、斜めにき裂がみられた(b)。

図1 表面付着物のEDS分析

図2 線材の腐食損傷の外観

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

11

3.損傷箇所の観察 破断した線材の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で詳細に観察すると、破断寸前のき裂以外にもその

他の箇所に図3に示される微小なき裂が観察された。き裂の SEM 像(a)と表面付着物の EDS 分析

結果(b)を示す。大気中の粉塵成分が堆積していることがわかる。 なお、EDS 図形の中で MnKαの主ピークは CrKβのピークと重なっている。

さらに、線材表面に付着するさびを落とした結果、微細なき裂の他に、き裂に伝播する前の食孔が多

数見つかった。その様々な腐食跡の代表例を図4に示す。(a)は応力負荷のないステンレス鋼で生じ

る半球状食孔であり、(b)は引張り応力が写真の左右方向に負荷されて、食孔の直角部で溶解が速ま

っている。(c)では食孔の直角方向の溶解がさらに進み、その先端にき裂が発生している。食孔底部

を観察したのが、図5である。伸線加工時の金属組織に関係なく、溶解が進行している。

図3 き裂発生箇所の観察 (a)き裂の SEM 像、(b)表面の EDS 分析

図 5 食孔底面の拡大

図 4 発生した孔食の形態(洗浄後)、左右が線材の長手方向 (a)半球状食孔、(b)リップ状食孔、(c)ひげ状食孔

(a) (b) (c)

30μm 30μm 30μm

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

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図8 C点での破断面の SEM 観察

4.破断面の破面観察 破断寸前の線材を強制的に切断・分離した後、その線材の

破断面は時間をかけて注意深くさび落としを繰り返し行い、

その都度 SEM 観察を行った。その結果、得られた破断面い

わゆるき裂の破面の様相を図6に示す。図中の矢印がき裂の

起点であり、孔食の発生点でもある。また、その拡大写真を

図7に示している。(b)および(c)の起点部(A点)には

塊状の腐食生成物が残っているが、溶解されている破面の様

子が見られる。起点よりも奥深く入った内部(B点)での写

真(d)と(e)の観察でも破面は溶解されている。図6の

C点付近は伸長型ディンプルの破断面が観察され(図8)、

強制的に引き裂かれた箇所である。

(a)

(b) (c)

(d) (e)150μm

5μm30μm

30μm 15μm

図 6 破断面の全景(洗浄後) 矢印部が起点

図7 破断面の SEM 観察(洗浄後) (b)(c):起点A部、(d)(e):B部拡大

500μm

A

B

C

30μm

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

13

5.まとめ 本損傷事例の線材は当初オーステナイト系ステンレス鋼の SUS304 鋼であるとされていた。しかしな

がら、腐食の進行が速いことと、素材の EDS 分析において Ni が非常に少ないようであったので、線材

の詳細な成分分析を行った。その結果、Mn 系のステンレス鋼であることが判明した。 本事例のように、大気環境下で Mn 系ステンレス鋼は耐孔食性に乏しいと推察され、孔食の発生、孔

食を起点とした応力腐食割れを引き起した事例であり、適用・使用するにあたり材料確認が必要であっ

たといえる。 参考資料 Mn 系ステンレス鋼の金属組織などはほとんど見受けられないので、SUS304 鋼と比較して図9と 図 10 に示しておきます。なお、金属組織写真はトーカロ㈱で撮影していただきました。ここに感謝 の意を表します。

表1 ステンレス鋼線材の化学組成

試料 元素(mass%) 硬度

(HV)C Si Mn P S Ni Cr

Mn 系ステンレス鋼 0.029 0.67 12.45 0.042 0.003 1.86 12.88 184

SUS304 0.024 0.27 1.32 0.033 0.003 10.2 18.01 148

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

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SUS304 鋼 Mn 系ステンレス鋼

円周方向

軸方向

図9 ステンレス鋼線の金属組織(シュウ酸エッチング)

SUS304 鋼 Mn 系ステンレス鋼

図 10 SUS304 と Mn 系ステンレス鋼線の金属組織の SEM 写真

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

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銅 の 腐 食 と 水 質

鹿島建設㈱ 中島博志

(1)はじめに

銅の腐食原因に関してはさまざまの研究がなされたが、水質に特徴がある事が昔から唱えられ

てきた。これは銅管の水中における耐食性を担う表面皮膜が水中に浸漬された後に生成される事

に原因がある 1)。 銅の腐食の種類には、青水・潰食・孔食Ⅱ型(給湯)・孔食Ⅰ型(給水・水蓄熱冷水・氷蓄熱冷

水・冷却水)・マウンドレス型孔食(給水)がある。海外には、この他の分類(例えばⅢ型孔食)

もあるが、日本ではこの分類が一般的である。 一般的に腐食の原因は単一でなく、複数の原因が重なった時に生じる事が多い(表1)。(但し

人工の酸化剤である残留塩素等は、過度に注入すれば、水中の溶解成分他の条件に関係なく、銅

管に孔食を発生させることが可能である。) 従来は銅の腐食の種類ごとに、それぞれ特有の水質があると国内外で 40 年近く考えられていた。

しかし水質要因については、単一の水質指標で発生する可能性を示せる事が判明したことを報告

する。 表1 銅の腐食分類と用途と水質以外の要因

銅管の質別 酸化剤添加の有無 微粒子

青水 給水・給湯 軟質・硬質 残留塩素 -

給水非循環給湯

軟質のみ 残留塩素シリカ(日本)

炭酸カルシウム(欧米)

冷水 軟質のみ 無 金属酸化物

水蓄熱 軟質のみ 無 金属酸化物

氷蓄熱 軟質のみ 無 金属酸化物

冷却水 軟質のみ 無 炭酸カルシウム

給湯水 軟質・硬質 残留塩素 -

給水・給湯 軟質・硬質 残留塩素 シリカ?

給湯水 軟質・硬質 残留塩素 [過飽和溶存気体]

Ⅰ型

Ⅱ型

マウンドレス

全面腐食

局部腐食

孔食

潰食

水質以外の要因大分類 小分類 用途

(2)水質に関する従来の知見

イ)初期の研究 日本において銅の腐食研究は住友軽金属の研究所により行われたものが良く知られている。佐

藤・山内らは、1977 年 2)1981 年 3)に発表した報文において ①配管用銅管(当時は主として給湯管)について 「pH: 6.4-7.6 にある。採水後分析するまでに 0.5-l 上昇することを考えに入れること,真の pH 値は

7 またはそれ以下であるものが多いと思われる。 電導度: 55-296μs/cm であり,20 件中 14 件が 150μs/cm 以上である。わが国の河川水の平均値 l'を111.5μs/cmとする例がみられることから考えて,本事例における使用水は本邦における平均値

的な水質に比べれば,多少,電導度の高い水が多かったものとみられる。しかし,異常とするほどで

はない。

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

16

硬度成分: 各事例において Langelier Index はいずれも負である。なお, わが国の河川水は, ほとん

どのものが Langelier Index に関して負であるので,本事例の水質がこの点について特異なものであ

ることは全くあり得ない。 陰イオン: 炭酸水素イオン〔HCO3

-]は 8.5-52.5ppm(0.14-0.86me/l),平均値 30.1ppm(0.49me/l)である。

この値は,わが国の平均的河川水の炭酸水素イオンが 0.64me/l(39ppm)であることと比較すると,明らかに低い。 硫酸イオンと塩化物イオンに関しては,SO4

2-が 9-70.4ppm (0.19-1.5me/l),平均値 32.6ppm (0.68me/l)であり,C1-が 3.6-31.3ppm (0.10-0.89me/l),平均値 17.3ppm (0.49me/l)である。この両者のわが国

河川水の平均値は, SO42-が 13.9ppm (0.29me/e), C1-が 8.5ppm (0.24me/l)であるので,本分析値は

SO42-,Cl-についてともに約 2 倍である。

HCO3-が少なく, SO4

2-C1-が多いことは孔食の発生において無視できないものと考える。」 ②空調用銅管: 「水質上の特徴は,配管用銅管におけるものに比して明らかに異なっている。すなわち,電導度が

142.5-1150μs/cm とかなり高く, HCO3-は 53.7-219.6ppm と多く,これに反して, SO4

2-および C1-は

むしろ少ない。」 ③熱交用銅管(コンデンサー) 「HCO3

-に比して SO42-が特に多く,開放型冷却器において SO2ガスを吸収したことを疑わせる。」

ロ)給湯銅管の孔食が多発し社会問題化した時期の研究 銅センターが中心になって銅管メーカー・旧金属材料技術研究所・東京大学の合同研究が実施

された。佐藤史朗・小玉俊明・藤井・久松敬弘他は 1982 年この研究の報告 4)の中で 「①給水銅管 TypeI 型孔食:米国においては,TypeI の孔食の原因を水質に求め 5), 水処理(アルカ

リによる遊離炭酸の中和)を行うことにより孔食が防止されたとする報告 6)がなされている。 ②給湯銅管 TypeⅡ型孔食:TypeⅡの孔食については欧州において水質上の特徴が指摘されてい

る 7,8)。すなわち,Mattsson らは pH が低く, HCO3-に比して SO4

2-を多く含む水の場合にこの Type の

孔食が発生すると述べている 7)。さらに Mattsson はある地域に発生した孔食を水処理(アルカリ処

理)により防止したことを報告している 9)。 わが国で発生している給湯用銅管の孔食は,その水質および形態上の特徴から TypeⅡに属するも

のであるとされている。そして大半の孔食がわが国の限られた地域,とりわけ東京の中心部におい

て生じていることが明らかにされ,また孔食を発生させた水について Mattsson らの指摘 7)と同様な

特徴が明らかにされている。」と述べている。 Mattsson の示した[HCO3

-]と[SO42-]の比は Mattsson 比として給湯銅管の孔食発生水質として有名

であったが近年当てはまらない例が多くなった事が 2002 年細谷等により報告されている。この中

で東京都の浄水場の凝集剤が硫酸アルミニウムから PAC(ポリ塩化アルミニウム)に変更された

事により水質(Mattsson 比)が変化したことが記されている 10)。 ハ)給湯銅管腐食と水質について 馬場は 1989 年その学位論文 11)において 「わが国における TypeⅡ′孔食の事例件数は札幌、東京地区に多いのに比べ、関西地区には少な

いという地域差による特徴があった。これは浄水場から供給される水質と深い関連があるとの推

測が成り立つが、詳細については未だ不明な点が多く、十分な解明がなされていなかった。そこで、

孔食再現試験装置を用いて、水質因子としての SO42-,HCO3

-および C1-と残留塩素濃度とがピット

の発生および成長に及ぼす影響を検討する。同時に、[HCO3-]/[ SO4

2-]の比と腐食生成物との関係を

解明した。」と述べている。 その結果、「孔食は残留塩素、HCO3

-, SO42-および C1-の因子が組み合わさった環境で起こり、

[HCO3-]と[SO4

2-]の比が 1 以下の場合は欧州における TypeⅡ型孔食と類似した形態を示す。また、

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

17

[HCO3-]と[SO4

2-]の比が 1 以上の場合は Type I 型孔食に類似した孔食を起こすことが判明した。」 と述べている。 ニ)給湯銅管の孔食以外の水質に関する研究 開放系である水蓄熱槽が普及するにつれ空調用銅コイルに発生する銅コイルのⅠ型孔食が大

きな問題になり研究の対象となり始めた。又給水銅管Ⅰ型孔食やマウンドレス孔食も発見され研

究されるようになった。 ①酒井は 1990 年に事例に基づき、水蓄熱槽の銅コイルⅠ型孔食が、蓄熱水槽の接液面にモルタ

ルを使用することによって pH が自然に高くなることにより防止できることを見出した 12)。又温

水から使用を開始した水蓄熱槽は遊離炭酸が加熱により水中から除去され銅の孔食が発生しない

事等を見出した。この原理により石灰岩を使用する蓄熱槽銅コイル腐食防止法を開発・実施した。 ②浜元・河野等は 1990 年給水銅管に発生するⅠ型孔食について、孔食事例から遊離炭酸の多い

事を見出した 13)。 (炭酸以外の弱酸・弱塩基を含まない自然淡水の pH は、炭酸塩の解離平衡に支配され、遊離炭

酸が多い事と pH が低いことは、ほぼ同義である。) ③山田等は 1992 年水蓄熱槽孔食事例にリン酸塩系薬注がされていることに着目して、リン酸塩

系防錆剤とⅠ型孔食の関係の研究を行った 14)。この研究においても pH を高く保てば孔食を防止

できる事が判明した。 ④1997 年中島はⅠ型孔食の発生可能性を判定する孔食指数 MWPI・CWPI を発表した 15)。 ⑤2000 年頃マウンドレス孔食と呼ばれる形態の異なる孔食が発見され、境等によって研究が発

表されている 16)。シリカ・硫酸イオンを多量に含む温泉水が河川に放流される河川の流域に発生

するという水質依存性が判明している。 ⑥2009 年中島は先に発表した MWPI・CWPI が潰食・Ⅰ型孔食・Ⅱ型孔食・マウンドレス孔食

に適用可能なことを示し、Nakajima Diagram と名づけた図上で発生領域を示した 17)。この孔食

指数と Nakajima Diagram で示される水質はイ)ロ)ハ)ニ)に記した過去数十年の国内外の研

究と矛盾せず、これらを包含するものである。

(3)MWPI・CWPI と Nakajima Diagram

MWPI(補給水孔食指数)・CWPI(循環水孔食指数)とは、中島が 1997 年に水蓄熱槽に発生し

たⅠ型孔食の事例水質から考案した孔食指数で、表2に計算式を示す 15)。

表2 判定指数 MWPI・CWPI Index name Calculating formula

MWPI:Make-up Water Pitting Index =100/((0.02*A)/(B/48 +C/35.5)+1)-(44.9*pH-288)

CWPI:Circulated Water Pitting Index =100/((0.02*A)/(B/48 +C/35.5)+1)-(44.9*pH-318)

       A=Acid consumption(pH4.8) mgCaCO3/l、B=SO42-

mg/l、C=Cl- mg/l

この指数の計算式の元になった図がNakajima Diagramであり、MWPI・CWPIは図1に示す如

く、この図上に示されたMWPI=0・CWPI=0からの垂直方向の距離を表す数値である。これら指

数が正で発生可能性Riskがある。銅の腐食分類と適用孔食指数を表3に示す。

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

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表⒊銅の腐食分類と適用孔食指数

給水非循環給湯

MWPI

冷水 CWPI 給湯水 MWPI水蓄熱 CWPI

氷蓄熱 CWPI冷却水 CWPI 給水・給湯 MWPI

潰食 給湯水 MWPI

Ⅱ型

マウンドレス

Ⅰ型

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

TypeⅠ(Chill Water Heat Bank)

TypeⅠ(Ice Bank)

TypeⅠ(Cooling Water)

TypeⅠ(Water Supply)

TypeⅡ(Hot Water)

Moundless

Erossion Corrosin

MWPI=0

CWPI=0

Nakajima Diagram

High Risk

Low Risk

Middle Risk

MWPI

CWPI

図1 MWPI・CWPIのNakajima Diagramにおける意味

表4にNakajima Diagramの縦軸と横軸を示す。

表4Nakajima Diagramの縦軸と横軸 Name of figure Vertical axis Horizontal axis

Nakajima Diagram((SO4+Cl)/Anion)eq% = (100 x (SO4

2- Eq + Cl-Eq) /

(HCO3-*

Eq + SO42-

Eq + Cl- Eq)

pH

Remarks SO4

2- Eq= (SO42- mg/l)/48, Cl-Eq= (Cl- mg/l)/35.5

HCO3-* Eq=(Acid consumption(pH4.8)mgCaCO3/l)/50

孔食指数 MWPI・CWPI と Nakajima Diagram が示している意味は、佐藤・山内らが、1977 年2)1981 年 3)に発表した報文で指摘した、「pH が低くかつ HCO3

-が少なく, SO42-,C1-が多い水質」

において銅の局部腐食が発生するということである。但しアニオンの等量比率を採用することに

より幅広く適用可能になったと考えられる。全アニオンにおける SO42-,C1-の全アニオンに対する

等量比率は、銅の局部腐食が発生した場合の、局部腐食内部に腐食電流によって運ばれる pH 低

下に寄与するアニオンの比率を表しているものと考えられる。 (4)銅の腐食とNakajima Diagramにおける発生領域 銅の各種腐食の特徴の概要と各腐食事例のNakajima Diagramにおける発生領域を記す。

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

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(4-1)Ⅰ型孔食に共通する特徴 ①断面形状と腐食生成物 図2に示すようにⅠ型孔食は給湯で発生するⅡ型孔食と、その断面形状が異なることで区別さ

れる孔食である。断面形状でⅠ型孔食は皿状の浅い食孔に、Ⅱ型は半球形のステンレス鋼の一般

的な孔食断面を示す事に特徴がある。 孔食食孔の上の腐食生成物が、Ⅰ型孔食は塩基性炭酸銅CuCO3・Cu(OH)2、Ⅱ型孔食において

は塩基性硫酸銅Cu4SO4(OH)6が主成分であることが、従来の経験から知られている。

図2 銅のⅠ型孔食(左)とⅡ型孔食(右)の断面の特徴

②平面的特徴 Ⅰ型孔食の平面的特徴として、図3左にファンコイルユニットの空気水熱交換器軟質銅チュー

ブに示す如く、孔食が密集して発生する場合のある事が知られている。図3右に給湯硬質銅管に

発生したⅡ型孔食を示す。右のⅡ型孔食では孔食を成長させる健全なカソード部分が存在するが、

左のⅠ型孔食にはどこがカソード反応の場になっているのか明確に判別できない。 このためⅠ型孔食の進展機構として、1967年V.F.Luceyが発表しメカニズムが知られている18)。

このメカニズムは欧米の硬度の高い給水管に発生したⅠ型孔食に対して述べられたものである。

水中において、1価の銅イオンを溶存酸素が直接2価の銅イオンに酸化し、この2価のイオンが

1価のイオンになる循環反応がカソード反応として示されている。

図3 銅のⅠ型孔食(左)とⅡ型孔食(右)の平面の特徴

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

20

図4 銅のⅠ型孔食の進展メカニズム18)

③材料種別 表1に示すように、銅管の材料種類(質別と呼ばれる)において軟質銅管にのみ発生されるこ

とが過去の研究により知られている。この理由は、銅管は銅のインゴットから抽伸と呼ばれる引

き抜き工程で製造される。銅はその性質から加工硬化を起こす材料であり、抽伸加工後の銅管は

非常に固くなっている。このままの銅管を硬質銅管と呼び、一般の銅配管は定尺に切断されて供

給されている。配管として使用される場合には、この硬い性質が役に立つが、熱交換器のチュー

ブや、主管と末端の機器を接続する配管として使用する場合には、曲げにくい・切断後の残材の

発生など不都合が生じる。そこで光輝焼鈍という工程で還元性雰囲気で加熱し軟化させコイル状

の柔らかい軟質銅管を使用する。ところが光輝焼鈍の工程で抽伸工程で使用された潤滑剤の炭素

が、還元性雰囲気のために、コイルの表面に焼きつき残存してカーボン皮膜となる。海外では既

に1970年以前にこの皮膜がⅠ型孔食の原因であることが信じられていたが19)、しかし日本では銅

管メーカーがこの説を受け入れなかった。やっと1997年頃に祖父江等はこのカーボン皮膜が水中

で長期間残存すること等をレーザーラマンによる分析により発表した図520)。後に、銅管メーカ

ーも公に残存カーボン皮膜量の議論21)やこれを低減する製造上の対策が一部メーカーでとられる

ようになった。 図6に金森等が行った潤滑剤を、雰囲気(酸化性)を変えて銅のテストピース上にカーボンフ

ィルムを形成させ、水道水中で分極特性を測定したものを示す。カーボンフィルムがあるテスト

ピースは、カソードの電流密度が大きい事が示されている22)。この事は高温で有機物から生成し

た活性炭が、ミクロなポアを持つ見掛けの面積よりも広い表面積を持つ不溶性の電極として作用

していると考えられる。

図5 水中の銅管表面上のカーボンフィルムのレーザーラマンによる分析

浸漬前(左)と浸漬後20日(右)20)

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

21

図6 カーボンフィルムの有無による分極曲線の差22) 緑(フィルム無し)、赤(硫黄無し・フィルム有り)、青(硫黄あり・フィルム有り)

腐食サンプルの材料の質別が、外観で判断し難い場合には断面のエッチングを行い、結晶粒の

形態を見れば容易に判別できる。硬質の配管は引き抜きにより結晶粒が層状になっており、軟質

では光輝焼鈍時の加熱時に結晶粒が再結晶化により大きい明確な結晶粒界が形成されている。 ④水中微粒子の関与 Ⅰ型孔食の発生における水中の微粒子の関与に関しては、明確な論文は存在していないが、幾

つかの事例を示すことができる。 イ)過去に孔食が発生した水の系統で複数の再現試験が行われ、金属腐食生成物が原因と疑われ

フィルターを設置したところ差異が見られた。MF(精密濾過膜1μm阻止)を設置すると、孔食

深さを浅くすることができた。UF(限外濾過膜分子分画量6000)を設置すると、孔食が発生しな

かった。 ロ)地域冷暖房の蓄熱槽を持つ系で、初期に加入した需要家の建物には孔食が発生せず、需要家

の建物が多くなった後でその水を受け入れた需要家には孔食が発生した23)。大きな蓄熱槽に少し

しか需要家が接続されていない場合には、大きな蓄熱槽は流速が遅いため粒子を沈殿させる効果

がある。ところが需要家が増えると腐食生成物が系内を常時循環するようになる。先に述べたよ

うに銅の耐食性皮膜は水中に浸漬後に生成されるので、浸漬初期の水質の影響が大きいと考えら

れる。 ハ)過去に孔食が発生した水蓄熱冷水の系統で行われた再現試験試験(図7)において、24時間

流速を与えていると電位上昇が見られなかったが、タイマーを設置して夜間に流れを停止させる

と急速な電位上昇が観察された23)。

電流密度の差

-1,000 mV

0

+1,000 mV

10銅ホローテスト試片,水道水,15℃

-264 mV

Anodic

Corrosion

Cathodic

100 1,000 10,000 100,0001.00000E-06

スタート

Current(μA)

+51 mV

+183 mV

自然電位(油有り)

自然電位(ブランク)

(ブランク)

(水素添加基質油)

(加工油:含硫黄2%)

(Vs SCE)

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

22

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

経過日数 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160

経過日数

電位

(mV V

s AgC

l)

三菱新管0.1

神戸新管0.1

ヘアピン0.1

拡管0.1

腐食管0.1

連続運転期間

間欠運転期間

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

経過日数 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160

経過日数

電位

(mV V

s AgC

l)

三菱新管0.1

神戸新管0.1

ヘアピン0.1

拡管0.1

腐食管0.1

連続運転期間

間欠運転期間

図7 各種銅管の腐食事故現場通水試験における電位の変化23)

これらの事例によって導かれる仮説は「銅の表面に存在するカーボン皮膜の欠陥部に、水中

の微粒子が沈着してその母材の銅の露出面積を小さくすることにより、銅の溶解部の面積が減

って電位が上昇し孔食を発生させる。」というものが考えられる。 具体的な水系における微粒子としては、表1に示すように、給水系の欧米では硬度が高く炭

酸カルシウムのコロイドが、給水系の日本ではシリカのコロイドが考えられる。日本でシリカ

が疑われる理由は単に濃度が高いだけでなく、孔食発生箇所が屋外の低温にさらされる地域・

箇所に多いことである。水蓄熱や氷蓄熱冷水系では亜鉛めっき鋼管等の腐食生成物、冷却水系

では濃縮による炭酸カルシウム等が考えられる。

(4-2)各種Ⅰ型孔食の形態とNakajima Diagram上の発生領域 Ⅰ型孔食は水蓄熱冷水、氷蓄熱冷水、冷却水、給水・非循環給湯の軟質銅を使用した系統に発

生する。これらの系統のうち内、給水・非循環給湯については殺菌剤として残留塩素が添加され

ており、レジオネラ症対策指針24)等の普及により、その濃度が上がる方向に社会が変化している。

従って酸化剤濃度をあげることは、ステンレス鋼の孔食電位が塩化物イオン依存性を持つように、

電位が上昇することにより低い塩化物イオン・硫酸イオンの水質においても孔食が発生し易くな

ると考えられる。 ①水蓄熱冷水に発生するⅠ型孔食 図8に空調用の熱交換器コイルの外観を、図9に孔食の断面を示す。 この水蓄熱槽における空調機器の水空気熱交換器の銅コイルに発生する孔食は、三輪によると

既に1971年頃に一つの建物で60台とか100台という大規模に発生していたと考えられる25)。竣工後

数年でこのような大規模な腐食事例が発生した場合、損害額が大きく設計者・機器メーカー・設

備工事業者・ゼネコン・設備管理業者等の責任が複雑で事故が公にされず同じ事故を重ねてきた

と考えられる。腐食専門家がこのような腐食事故に関係するようになったのは1980年代の後半か

らであった。 水蓄熱は開放系で溶存酸素が飽和している環境である。水蓄熱槽の普及初期には、接液部にコ

ンクリートモルタルが使用され、後に酒井が報告12)している「モルタルによる水質の改善」が行

われていたが、断熱が必要なことから接液部が樹脂でコンクリートモルタルの無い蓄熱槽が多数

建設されるようになった事と関係していると考えられる。 近年古くからの事故の無かった水蓄熱槽において、空調機器の更新後に多量の銅コイルの短期

間の腐食事故が多発している。これらの事故も先に述べた理由によって公表されていない。

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

23

図8 空調用の水空気熱交換器銅コイルの外観 図9 孔食の断面

水蓄熱槽の銅孔食事例における水質を表5に示す15)。図10にこの水質をNakajima Diagramにプロ

ットしたものを示す。 表5 Ⅰ型孔食(水蓄熱冷水)発生事例水質15)

腐食種別文献サンプル名

pH SO4Cl%補給水

孔食係数循環水孔食係数

電気伝導率μS/cm

総硬度Ca硬度

Mアルカリ度

SO4mg/l C1mg/l溶性ケイ

酸SiO2mg/l

出典

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 1 8.5 42 -51 -22 276 52 42 73 24 20 3 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 2 8.3 56 -27 2 371 84 70 70 56 23 5 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 3 7.5 21 -26 3 214 27 20 60 7.5 6 7 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 4 7.8 35 -26 3 260 82 60 120 30 24 7 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 5 8 47 -23 6 312 82 66 75 34 22 9 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 6 8.5 69 -23 6 389 68 41 52 27 64 4 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 7 7.9 47 -18 11 283 40 8 103 57 24 4 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 8 7.4 30 -14 15 390 70 112 17 21 10 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 9 7.7 58 1 30 282 94 56 53 29 30 3 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 10 7 37 11 40 284 51 31 41 16 5 17 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 11 7.5 71 23 52 669 107 71 97 140 63 16 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 12 6.7 53 41 70 175 40 26 39 16.9 19 2 15

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 13 6.8 63 47 76 260 58 47 47 22 14 15

0

10

20

30

40

50

60

70

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90

100

6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

TypeⅠ(Chill Water Heat Bank)

MWPINakajima Diagram

TypeⅠ(Chilled Water Bank)

CWPI

図10 Ⅰ型孔食(水蓄熱冷水) 発生水質のNakajima Diagram15)

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

24

②氷蓄熱冷水に発生するⅠ型孔食 氷蓄熱は比較的小型で既存の建物であっても適用できるため、近年広く普及している蓄熱方式

である。一般的には銅コイル内にブラインを流し、コイル外面の水を凍らせて蓄熱するものが多

い。図11に氷蓄熱ユニットの内部の写真を、図12に孔食を発生した銅コイルの断面を示す。

図11 氷蓄熱ユニットのブライン水熱交換器 図12 孔食を発生した銅コイルの断面 氷蓄熱槽の銅孔食事例における循環水の水質と補給水の水質を表6に示す26)。図13にこの循

環水水質を孔食有りと無しに別けてNakajima Diagramにプロットしたものを示す。

表6 Ⅰ型孔食(氷蓄熱冷水)発生事例循環水と補給水水質26)

腐食種別文献サンプル名

pH SO4Cl%補給水孔食係数

循環水孔食係数

電気伝導率μS/cm

総硬度Ca硬度

Mアルカリ度

SO4mg/l C1mg/l溶性ケイ

酸SiO2mg/l

出典

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 3(冷水) 7.09 20 -9 20 91.9 11.8 7.5 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 4(冷水) 7.05 19 -8 21 138.0 15.3 11.8 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 1(冷水) 6.82 19 2 31 222.0 27.7 16.6 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 6(冷水) 7.20 38 4 33 78.0 26.0 15.0 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 2(冷水) 7.40 48 5 34 170.0 38.0 84.0 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 5(循環) 6.81 22 5 34 67.5 12.9 3.8 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 7(循環) 6.60 36 29 58 93.0 23.0 20.0 26 Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 3(補給水) 7.84 45 -18 11 39.4 13.2 12.7 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 4(補給水) 7.83 48 -15 14 36.0 17.2 10.6 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 1(補給水) 7.31 43 4 33 55.0 24.6 11.7 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 6(補給水) 7.30 38 -1 28 62.0 20.0 12.0 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 2(補給水) 7.10 71 41 70 58.0 36.0 72.0 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 5(補給水) 7.79 34 -27 2 30.9 11.3 3.0 26

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 7(補給水) 7.30 52 13 42 46.0 23.0 18.0 26

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

25

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100

6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

TypeⅠ(Ice Bank)

No Cor(Ice Bank)

MWPI

CWPI

Nakajima Diagram

TypeⅠ(Ice Bank)

図13 Ⅰ型孔食(氷蓄熱冷水) 発生水質のNakajima Diagram26)

この事例は、1つのメーカーが1つのユーザーの47サイトに数十セットの氷蓄熱装置を納入し

たなかの7セットに銅の孔食が発生した事例である。この為水質分析等の期日・分析機関が均質

な、事故事例としては珍しいばらつきの少ないデータである。孔食発生事例と孔食の無い循環水

では、Nakajima Diagram上における範囲がきれいに分離している。 更に孔食事例の補給水と循環水をプロットし補給水と循環水の対応するものを矢線で結んだも

のを図14に示す。補給水からのpHとSO4Cl%の変化分を原点からのベクトルで、孔食発生事例と

発生してない事例に別けて示したものを図15に示す。この図によると孔食発生7事例中5事例が

補給水よりも循環水のpHが低下している特徴を示している。逆に孔食の無い事例では、1例を除

いてpHが上昇している。

0

10

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100

6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0CWPI=0TypeⅠ(Ice Bank)MakeUp(Ice Bank)

MWPI

CWPI

Nakajima Diagram

図14 孔食事例の補給水と循環水をプロット

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

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-40

-30

-20

-10

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-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0⊿pH

⊿((

SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

No Corrosion

Type ⅠPitting

⊿ Nakajima Diagram

図15 補給水からのpHと((SO4+Cl)/Anion)eq%の変化分(ΔNakajima Diagram)

③冷却水に発生するⅠ型孔食

冷却水系には冷凍機などの凝縮器の部分に、シェルチューブ型の熱交換器が用いられており銅

チューブが多く用いられている。冷却水の多くは、開放循環型の冷却塔が採用されており、大気

中のCO2と平衡する現象と、水の濃縮に伴うMアルカリ度(酸消費量pH4.8)という分析項目で測

定される重炭酸イオンHCO3-等の濃縮によりpHが上昇する現象が起こる。この為開放循環式冷却

塔を持つ系では銅の孔食は発生しにくい。但し昔は大気汚染によるSOx・NOxにより著しくpHが

低下する冷却水が存在した。 図16に吸収式冷凍機の冷却水系に発生したⅠ型孔食の外観と図17に孔食の断面を示す。

図16 冷凍機の冷媒水熱交換器の外観 図17 冷凍機のⅠ型孔食の断面 冷却水系の銅Ⅰ型孔食事例における循環水の水質と補給水の水質を表7に示す。図18にこの

循環水水質をNakajima Diagramにプロットしたものを示す。図18においてpHが6以下の冷却水は

1970年以前の水質データで、SOx・NOxにより著しくpHが低下する冷却水である。Mアルカリ度

(酸消費量pH4.8)はpHが4.8になるまでに消費した酸の消費量なので、HCO3-が存在しないので

((SO4+Cl)/Anion)eq%が100%になっている。又濃縮された冷却水系では炭酸カルシウム・シリカが

過飽和になる可能性が高いので微粒子が多い系である。

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

27

表7 Ⅰ型孔食(冷却水)発生事例水質

腐食種別文献サンプル名

pH SO4Cl%補給水孔食係数

循環水孔食係数

電気伝導率μS/cm

総硬度Ca硬度

Mアルカリ度

SO4mg/l C1mg/l溶性ケイ

酸SiO2mg/l

出典

Ⅰ型孔食(冷却水) 東京 4.3 100 196 225 - 0 380 78 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 3.2 100 245 274 - 0 1,400 10 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 5.7 99 132 161 85 7 450 10 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 5.5 90 132 161 172 104 875 20 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 東京 5.2 80 135 164 <10 40 121 20 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 4.6 100 182 211 252 0 200 71 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 東京 4.6 100 182 211 276 0 250 91 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 東京 3.9 100 214 243 514 0 610 162 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 広島 7.7 55 -2 27 794 2497 85 2,089 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 7.4 60 17 46 265 543 55 536 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 5.2 98 154 183 1,942 98 3,400 1,148 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 5.2 99 154 183 1,066 30 1,420 525 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 7.8 49 -12 17 142 2254 1,800 231 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 5.2 97 153 182 2,300 51 940 578 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 大阪 5 98 163 192 464 12.22 300 251 27

Ⅰ型孔食(冷却水) 7 8.4 71 -17 12 149 200 260 162 28

Ⅰ型孔食(冷却水) 8 8.6 71 -26 3 138 188 206 169 28

Ⅰ型孔食(冷却水) 10 7.3 94 55 84 53 14 125 68 28

Ⅰ型孔食(冷却水) 11 8.7 55 -46 -17 150 310 190 133 28

Ⅰ型孔食(冷却水) 12 8.3 63 -20 9 77 132 112 78 28

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100

3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

TypeⅠ(Cooling Water)

MWPI

Nakajima Diagram

Contaminated by SOX・NOX

TypeⅠ(Cooling Water)

CWPI

図18 Ⅰ型孔食(冷却水) 発生水質のNakajima Diagram

④給水銅管に発生するⅠ型孔食 給水配管のⅠ型孔食は、海外で取り上げられ特に英国で深刻な被害をもたらした事から、銅の

孔食として最も注目された孔食である。特定の共同住宅全体にこの孔食が発生したため、銅管の

製造ロットの要因が疑われ、光輝焼鈍時に表面に形成される炭素質皮膜が特定された。この為光

輝焼鈍の方法を変えて、炭素質皮膜を減ずる事が行われたが、製造にバラツキがあるために完全

な対策とはならなかった。そこで銅管製造後に内面を研磨剤によってクリーニングする銅管が販

売されるようになった。光輝焼鈍は軟質にするために行われるのでこの腐食は軟質銅管に特有の

腐食である。又同時に水質の要因も存在する事が確信され、深い井戸の水によって起こりやすい

事が信じられた29)。

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

28

日本でも井水又は井水を水源とする水道水に多く発生している。図19に給水用軟質銅管の腐食

事例の表面と図20にその断面図を示す。

図19 給水用軟質銅管の腐食事例表面 図20 給水用軟質銅管のⅠ型孔食断面図

給水系の銅Ⅰ型孔食事例の水質を表8に示す。図21にこの水質をNakajima Diagramにプロットした

ものを示す。 この給水Ⅰ型孔食事例は殆ど戸建ての住宅に発生している。その理由は集合住宅等の建物は全

て受水槽を持っており、そこで遊離炭酸が放出されpHが上昇しているものと考えられる。受水槽

の通気管の出口を、防虫のために塞いだ集合住宅で給水Ⅰ型孔食が発生した事例が経験された。

同じ水が供給されている周囲の集合住宅では発生していない。この事は給湯Ⅱ型孔食で笠原・小

向が報告している残留塩素と同じ受水槽における過飽和溶解気体の放出現象が起こっていると考

えられる32)。

表8 Ⅰ型孔食(給水)発生事例水質

腐食種別文献サンプル

名pH SO4Cl%

補給水孔食係数

循環水孔食係数

電気伝導率μS/cm

総硬度Ca硬度

Mアルカリ度

SO4mg/l C1mg/l溶性ケイ

酸SiO2mg/l

出典

Ⅰ型孔食(給水) W-8 6.8 34 18 47 220 100 67 79 21 14 29 13

Ⅰ型孔食(給水) W-7(S-2) 6.8 42 26 55 421 160 64 90 3 45 50 13

Ⅰ型孔食(給水) W-29(S-8) 6.5 35 32 61 174 93 27 54 18 7 9 13

Ⅰ型孔食(給水) W-28-2 7.00 38 13 42 86 38 11 24 6 6 9 13

Ⅰ型孔食(給水) W-28-1 7.10 31 2 31 97 38 12 29 6 5 9 13

Ⅰ型孔食(給水) W-27 7 45 20 49 414 180 119 97 49 21 28 13

Ⅰ型孔食(給水) W-23 5.5 84 126 155 181 39 5 8 29 9 6 13

Ⅰ型孔食(給水) W-22-1(S-4) 6.2 80 91 120 382 119 24 21 37 33 25 13

Ⅰ型孔食(給水) W-2(S-1) 7.1 31 1 30 695 310 160 180 1 56 47 13

Ⅰ型孔食(給水) W-13(S-12) 6.2 64 75 104 190 66 47 28 22 19 15 13

Ⅰ型孔食(給水) W-13(S-12) 6.4 51 52 81 254 68 46 49 20 21 30 13

Ⅰ型孔食(給水) W-10(S-3) 6 91 111 140 210 67 30 9 49 29 16 13

Ⅰ型孔食(給水) S9 7.2 22 -12 17 161 79 23 65 12 4 10 30

Ⅰ型孔食(給水) S7 6.2 35 46 75 107 18 18 33 1 12 45 30

Ⅰ型孔食(給水) S6 7.2 44 9 38 467 183 132 113 53 23 11 30

Ⅰ型孔食(給水) S5 7 26 1 30 334 131 26 102 1 25 40 30

Ⅰ型孔食(給水) S24 7.2 29 -6 23 396 32 32 139 16 28 78 30

Ⅰ型孔食(給水) S22 6.7 29 17 46 200 177 35 58 4 14 34 30

Ⅰ型孔食(給水) S21 6.8 37 21 50 377 135 104 72 39 1 35 30

Ⅰ型孔食(給水) S20 7 25 -0 29 201 84 63 65 14 5 9 30

Ⅰ型孔食(給水) S19 6.8 38 21 50 418 220 176 89 50 1 17 30

Ⅰ型孔食(給水) S18 6.6 32 24 53 60 51 51 41 10 6 12 30

Ⅰ型孔食(給水) S17 6.8 30 14 43 225 87 57 71 12 13 31 30

Ⅰ型孔食(給水) S16 6.6 33 26 55 186 70 54 53 12 10 19 30

Ⅰ型孔食(給水) S15 6.5 29 26 55 271 96 70 75 13 12 12 30

Ⅰ型孔食(給水) S14 6.8 30 14 43 232 96 80 17 12 31 30

Ⅰ型孔食(給水) S12 6.2 63 74 103 190 66 47 29 22 19 15 30

Ⅰ型孔食(給水) S11 7 21 -5 24 186 90 68 74 13 4 17 30

Ⅰ型孔食(給水) S10 6.6 16 9 38 188 70 32 80 8 5 14 30

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pH

((SO

4+C

l)/A

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q%

MWPI=0

CWPI=0

TypeⅠ(Watert Supply)

MWPI

CWPI

Nakajima Diagram

TypeⅠ(Water Supply)

図21 Ⅰ型孔食(給水)発生水質のNakajima Diagram

(4-3)Ⅱ型孔食の形態とNakajima Diagram上の発生領域 Ⅱ型孔食は先に(4-1)に記したように、給湯銅管に発生する孔食で、断面がステンレスの

半球状孔食に似た典型的な孔食である。給湯の環境は高温で一般には残留塩素を含んでいる。最

近の研究では温度に対して過飽和の溶存酸素を含んでいる事も発生要因の一つであると言われて

いる34)。孔食の上には塩基性硫酸銅の腐食生成物が形成される。水質要因に関しては従来マトソ

ン比があてはまると言われてきたが最近あてはまらない事例が増加している事は先に述べたとう

りである10)。この孔食はⅠ型孔食と異なり材料の硬質・軟質に関わらず発生する。 図22に給湯銅管の孔食事例の平面と図23に代表的な断面を示す。

図22 給湯銅管Ⅱ型孔食事例

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

30

図23 給湯銅管Ⅱ型孔食断面図 給湯銅管Ⅱ型孔食事例の水質を表9に示す。図24にこの水質をNakajima Diagramにプロットしたも

のを示す。

表9 Ⅱ型孔食(給湯)発生事例水質

腐食種別文献サンプル名

pH SO4Cl%補給水孔食係数

循環水孔食係数

電気伝導率μS/cm

総硬度Ca硬度

Mアルカリ度

SO4mg/l C1mg/l溶性ケイ

酸SiO2mg/l

出典

Ⅱ型孔食給湯 A2 6.87 79 59 88 295 86.4 62.2 30.8 66.0 32.0 18.0 4

Ⅱ型孔食給湯 B3 7.2 68 34 63 225 65.8 49.0 32.6 37.0 21.6 16.0 4

Ⅱ型孔食給湯 C2 7.7 29 -27 2 123 45.6 38.4 30.2 4.0 6.0 9.7 4

Ⅱ型孔食給湯 108 7.1 66 37 66 202 54.0 41.0 27.0 31.0 15.0 13.0 31

Ⅱ型孔食給湯 111 6.9 73 52 81 250 77.8 55.9 25.1 31.0 25.7 7.8 31

Ⅱ型孔食給湯 112 7.2 64 30 59 192 61.0 47.0 30.5 30.0 16.5 11.7 31

Ⅱ型孔食給湯 114 7.2 67 33 62 280 97.3 62.9 40.7 44.0 25.6 8.3 31

Ⅱ型孔食給湯 115 7.3 74 35 64 280 82.3 59.3 30.2 52.4 22.0 20.6 31

Ⅱ型孔食給湯 204 7.1 70 40 69 264 82.7 56.9 36.9 46.4 25.9 12.6 31

Ⅱ型孔食給湯 205 7 68 42 71 236 72.1 54.5 32.0 38.0 19.2 13.6 31

Ⅱ型孔食給湯 206 7.2 64 29 58 195 37.0 31.0 31.0 28.0 18.0 17.0 31

Ⅱ型孔食給湯 孔食3 6.9 76 55 84 283 83.2 59.7 28.6 42.0 31.7 7.9 31

Ⅱ型孔食給湯 a 6.94 68 45 74 31.4 37 19.0 - 32

Ⅱ型孔食給湯 c 6.89 65 45 74 35.4 35 21 - 32

Ⅱ型孔食給湯 d 6.73 78 64 93 28.8 51 33.0 - 32

Ⅱ型孔食給湯 e 6.74 65 52 81 34.1 33 21 - 32

Ⅱ型孔食給湯 f 6.91 69 47 76 270 35.1 39 26 - 32

Ⅱ型孔食給湯 g 6.75 76 62 91 381 26.0 44 27 - 32

Ⅱ型孔食給湯 h 6.67 80 69 98 359 21.8 45 27 - 32

Ⅱ型孔食給湯 i 6.86 72 52 81 34.4 45 28 - 32

Ⅱ型孔食給湯 j 7.31 64 25 54 307 41.7 40 24 - 32

Ⅱ型孔食給湯 k 6.95 67 44 73 38.9 40 26 - 32

Ⅱ型孔食給湯 A 7.5 68 20 49 220 77 59 30 32 22 9 10

Ⅱ型孔食給湯 B 7.5 69 21 50 300 88 63 42 46 33 21 10

Ⅱ型孔食給湯 C 7.6 49 -3 26 225 78.5 62.5 46 25 13 31 10

Ⅱ型孔食給湯 D 7.3 75 36 65 300 98 72 26 28 34 16 10

Ⅱ型孔食給湯 E 7.0 73 48 77 180 47 32 17 21 17 15 10

Ⅱ型孔食給湯 F 7.0 49 24 53 130 40 28 26 16 6 22 10

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l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

TypeⅡ(Hot Water Supply)

MWPI

CWPI

Nakajima Diagram

Type Ⅱ(Hot Water Supply)

図24 Ⅱ型孔食(給湯)発生水質のNakajima Diagram

(4-4)マウンドレス孔食の形態とNakajima Diagram上の発生領域 マウンドレス孔食は比較的最近発見された孔食で、名前の由来は孔食の真上にⅠ・Ⅱ型孔食と

異なり厚い腐食生成物の蓋(マウンド)が無いことが特徴である。又孔食のサイズが小さいとさ

れている。水質上の特徴はシリカ濃度が高い、重炭酸イオンHCO3-の濃度(酸消費量pH4.8に1.22

を乗じて求められる)が低いとされている38)。 図25に銅管のマウンドレス孔食事例の平面と図26に代表的な断面を示す38)。孔食の断面が半球

状に近いことはこの孔食が発生した後はかなり早い速度で進展するものと考えられる。

図25 銅管のマウンドレス孔食事例の平面38) 図26 銅管のマウンドレス孔食事例の断面38)

銅管のマウンドレス孔食事例の水質を表10に示す。図27にこの水質をNakajima Diagramにプロッ

トしたものを示す。

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

32

表10 マウンドレス孔食発生事例水質

腐食種別文献サンプル名

pH SO4Cl%補給水孔食係数

循環水孔食係数

電気伝導率μS/cm

総硬度Ca硬度

Mアルカリ度

SO4mg/l C1mg/l溶性ケイ

酸SiO2mg/l

出典

マウンドレス孔食 マ -1 6.8 37 20 49 101 29 28 9.2 4.6 53 33

マウンドレス孔食 マ -2 7.1 36 7 36 116 36 29 7.8 5.9 77 33

マウンドレス孔食 マ -3 7.5 38 -10 19 152 39 40 11.6 8.9 77 33

マウンドレス孔食 マ -4 7.5 35 -13 16 208 65 61 20.6 8.1 66 33

マウンドレス孔食 マ -5 7.1 42 12 41 163 42 41 14.7 10.2 77 33

マウンドレス孔食 マ -6 7.2 48 13 42 193 47 35 17.1 10.1 83 33

マウンドレス孔食 マ -7 7.1 84 54 83 156 55 12 47.7 9.3 38 33

マウンドレス孔食 マ -8 6.8 83 66 95 68 20 6 17.2 6.5 23 33

マウンドレス孔食 マ -9 6.9 85 64 93 74 47 5 17.1 6.4 23 33

マウンドレス孔食 マ -10 6.8 59 43 72 84 22 14 10 7 30 33

マウンドレス孔食 マ -11 6.8 96 80 109 133 31 2 35 12 15 33

マウンドレス孔食 マ -12 6.8 89 73 102 130 31 6 31 11 15 33

マウンドレス孔食 マ -13 6.8 93 77 106 132 31 4 33 13 16 33

マウンドレス孔食 マ -14 6.6 95 87 116 136 30 3 33 13 15 33

マウンドレス孔食 マ -15 6.8 91 74 103 129 30 5 31 11 16 33

マウンドレス孔食 マ -16 6.7 87 75 104 139 31 8 32 15 16 33

マウンドレス孔食 マ -17 6.8 72 55 84 220 30 21 38 10 38 33

マウンドレス孔食 マ -18 6.9 46 25 54 100 30 23 9 7 27 33

マウンドレス孔食 マ -19 6.9 66 45 74 77 22 12 12 8 35 33

マウンドレス孔食 マ -20 6.4 91 92 121 481 196 21 167 22 67 33

マウンドレス孔食 マ -21 7.1 60 30 59 96.6 30.2 16 9 11 31 33

マウンドレス孔食 マ -22 6.8 60 44 73 83.1 20.3 16 9 9.8 27 33

0

10

20

30

40

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60

70

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90

100

6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

Moundless

MWPI

CWPI

Nakajima Diagram

Moundless

図27 マウンドレス孔食発生水質のNakajima Diagram

(4-5)潰食の形態とNakajima Diagram上の発生領域 潰食は、銅の腐食事例で最も頻度の高い腐食である。潰食は銅の皮膜が気泡の消滅時に発生す

る物理的な力で破壊される事を起因として発生するため、系内の圧力変化により発生消滅する気

泡が必要となる26)。従来は圧力変化を大きくする流速が最も大きな要因として着目されていた。

又発生箇所が圧力変化の発生しやすい部位に偏っていることが従来知られている。近年研究が進

み、過飽和の溶存気体が重要であることが判明している34)。溶解イオン等の水質に関しては余り

着目されていなかった。しかし公表されているデータをNakajima Diagram上にプロットするとⅡ

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

33

型孔食とよく似た水質傾向がある事が認められた。 図28に銅管の潰食事例の平面図とその拡大図を、図29に代表的な断面を示す。

図28 エルボーの下流に発生した潰食事例の平面図(左)とその拡大図(右)

図29 潰食の代表的な断面

銅管の潰食事例の水質を表11に示す。図30にこの水質をNakajima Diagramにプロットしたものを

示す。

表11 潰食発生事例水質

腐食種別文献サンプル名

pH SO4Cl%補給水孔食係数

循環水孔食係数

電気伝導率μS/cm

総硬度Ca硬度

Mアルカリ度

SO4mg/l C1mg/l溶性ケイ

酸SiO2mg/l

出典

潰食(給湯) 102 7 47 22 51 165 53.7 45.1 29 16.9 6.1 9.2 31

潰食(給湯) 104 6.9 76 55 84 283 83.2 59.7 28.6 42 31.7 7.9 31

潰食(給湯) 106 6.9 73 52 81 175 50.2 28.6 19.8 27.4 18 17.9 31

潰食(給湯) 111 6.9 73 52 81 250 77.8 55.9 25.1 31 25.7 7.8 31

潰食(給湯) 112 7.2 64 30 59 192 61 47 30.5 30 16.5 11.7 31

潰食(給湯) 115 7.3 74 35 64 280 82.3 59.3 30.2 52.4 22 20.6 31

潰食(給湯) 116 7.2 70 36 65 318 85.3 60.9 39.6 48.4 30 19.2 31

潰食(給湯) 117 7.3 54 15 44 202 66.4 50 39.4 25 14.6 15.5 31

潰食(給湯) 119 7 63 37 66 168 55.6 41.7 26.1 24 13.5 12.8 31

潰食(給湯) 120 7 46 21 50 119 44.2 35 28.1 12.6 8 9.3 31

潰食(給湯) 203 7.1 69 39 68 260 93.5 29 36 42.8 24 14.1 31

潰食(給湯) 211 7.4 69 26 55 251 87 64.8 36.3 46.4 22.5 21.1 31

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

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6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

Errosion Corrosion

MWPI

CWPI

Nakajima Diagram

Errosion Corrosion

図30 潰食発生水質のNakajima Diagram

(4-6)水質データのまとめ 表12に銅の腐食事例水質各項目の統計量(平均値・最小値・最大値)を示す。全体の平均から

大きく離れる値に着色を施している。

表12 銅の腐食事例水質各項目の統計量

腐食種別 統計量 pH SO4Cl%補給水

孔食係数循環水孔食係数

電気伝導率μS/cm

総硬度Ca硬度

Mアルカリ度

SO4mg/l C1mg/l溶性ケイ

酸SiO2mg/l

Ⅰ型(水蓄熱冷水) Average 7.7 48 22 320 66 48 72 39 26 8

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) Average 7.0 29 33 123 22 23

Ⅰ型孔食(冷却水)Without

SoxAverage

8.3 71 18 113 169 179 122

Ⅰ型孔食(給水) Average 6.7 40 29 259 102 57 66 19 16 24

Ⅱ型孔食給湯 Average 7.1 67 38 232 70 51 31 37 22 13

マウンドレス孔食 Average 6.9 68 46 144 42 19 28 10 39

潰食(給湯) Average 7.1 65 35 222 70 48 31 33 19 14

7.2 55 37 24 236 77 51 73 51 34 20

6.7 29 29 18 144 42 48 19 19 10 8

8.3 71 46 33 320 113 57 169 179 122 39

Average

Min

Max 各腐食種類別にNakajima Diagramにプロットした図を示したが、図31に全部の腐食形態を1つに

プロットしたものを示す。

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6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

TypeⅠ(Chill Water Heat Bank)

TypeⅠ(Ice Bank)

TypeⅠ(Cooling Water)

TypeⅠ(Water Supply)

TypeⅡ(Hot Water)

Moundless

Erossion Corrosin

MWPI

TypeⅠ(Chilled Water Bank.Ice Bank.Cooling Water)

CWPI

Nakajima Diagram

TypeⅠ(Water Supply)

Moundless.TypeⅡ.Erossion

図31 銅の主な孔食・潰食のNakajima Diagramにおける発生領域

(5)統計的検討 過去に公表された銅の腐食の種類別に,孔食係数MWPI・CWPIのあてはまり具合をNakajima Diagramにプロットして示したが、腐食のメカニズムを離れてこの孔食指数にどの程度の実用性

があるのであろうか。この問いに答えるために、帰無仮説を、「銅の腐食はこの孔食指数と全く関係

が無く、銅の腐食の母集団は孔食指数の正負両方に0.5の等しい出現確率を持っている。」とし、符号検

定を用いて検定を行う。なお、有意水準を片側0.025とし、二項分布に基づき正確なP値を求める。

表13に7種類の銅の腐食とそれら全体の場合での孔食指数が正の割合(π)とその95%信頼区間と

P値を示す35)。 二項分布の確率密度関数は、nをサンプル数、孔食指数が正となる個数をx、孔食指数が正の

割合をπとすれば下式となる。

xnx

xnnxb −−⎟⎠⎞

⎜⎝⎛= )1(),,( πππ

ここで、)!(!

!knx

nxn

−=⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛

はnからxをとる組み合わせ

P値は二項分布の累積分布関数であり、下式となる。

∑=

=x

ynxbP

0),,( π

帰無仮説(π=0.5)の下で、腐食発生数=サンプル数n個で、その内孔食指数PI(MWPI・CWPI)が正、即ち孔食発生可能性が孔食指数から推定される(Nakajima DiagramでMWPI=0・CWPI=0の直線より上にプロットされる)水質サンプルをi個とすれば、孔食指数が負になったものはj=n

-i個である。 検定結果は、Ⅰ型(氷蓄熱冷水)を除き有意(π>0.5)であった。Ⅰ型(氷蓄熱冷水)ではサ

ンプル数が7と小さく、検出力不足であると考えられた。 腐食の種類を考えない場合,つまり銅の種類を問わない腐食の母集団における孔食指数が正の

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

36

割合(95%信頼区間)は0.92(0.86-0.96)である。腐食が溶解イオン水質のみによって発生するわ

けではないことを考えれば適当な数値であると判断できる。 孔食指数が正の割合(π)は、小さいもので0.86-0.93(給水・マウンドレス孔食・給湯)である。

孔食指数が正の割合(π)が小さい系には全て酸化剤残留塩素が添加される系であり、高濃度の酸

化剤が含まれる場合には、孔食発生の溶解イオンによる水質依存性が低下する。近年世界中でレ

ジオネラ症の感染防止の為、残留塩素濃度が高まる傾向がある。藤井はアメリカの最近の銅管の

腐食の増加に関して同じ見解を述べている。

表13 孔食指数が正の割合とその95%信頼区間およびP値

PI Corr TypeSample

nPI>0

iPI<0

jπ (95%信頼区間) P値

Ⅰ型(水蓄熱冷水) 13 12 1 0.92 (0.64-1.00) 0.0002

Ⅰ型(氷蓄熱冷水) 7 7 0 1.00 (0.59-1.00) 0.0625

Ⅰ型(冷却水) 20 19 1 0.95 (0.75-1.00) <0.0001

Ⅰ型(給水) 29 25 4 0.86 (0.68-1.00) <0.0001

Ⅱ型孔食(給湯) 28 26 2 0.93 (0.76-0.99) <0.0001

マウンドレス孔食 22 20 2 0.91 (0.71-0.99) <0.0001

潰食(給湯) 12 12 0 1.00 (0.74-1.00) 0.0032

Total 131 121 10 0.92 (0.86-0.96) <0.0001

PI:CWPI・MWPI、π:PIが正の割合

CWPI

MWPI

(6)日本の水道水水質 日本全体の水道水(補給水)の水質はNakajima Diagram上でどのように分布するのであろうか。 残念ながら日本の水道水全体のデータは存在していない、というのは各水道供給元で分析して

いる水質項目中に、硫酸イオンが全て分析されていないからである。境が収集した水道水データ

を図32に、昔の文献から日本の全国の河川水の水質データを小玉が整理したものを図33に示す36,37)。

河川水は大規模な水道の原水であり、地下水もかなりの割合で混合されている。日本の水道水の

半分を超えるサンプルが孔食指数が正となる理由は、日本が火山国であり硫酸イオンが多い事が

考えられる。(何れのデータにも沖縄は含まれていない。)

0

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6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

Japan City Water(Sakai)

MWPI

CWPI

Nakajima Diagram

図32 日本の水道水のNakajima Diagramにおける領域(n=306)

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

37

図33 日本の河川水のNakajima Diagramにおける領域(n=217)

(7)孔食指数が正の場合の防食の考え方 銅は配管や熱交換器の材料として最も永く多量の実績を持つ材料である。従来水質(孔食指数)

を意識しない使われ方においても、母数の取り方によって違いはあるが、大きくても局部発生の

Riskはパーセント以下である。これは腐食の発生は、表1に示した如く、単一の要因(溶解イオ

ン水質)だけで決定されないからである。

一般に水源を選択できる場合は無いと考えてよい。又機器の内部に使用される場合材質を選択

できない場合が殆どである。

このような状況において孔食指数が正の場合の、腐食発生Riskをどのように減じるかを、日本

の過去50年間の淡水中の銅の使用において得られた知見に基づいて、防食の考え方を述べる。個

別の状況においてどの考え方を採用するか考える。 a)共通の防食の考え方

①銅の局部腐食は原則的に(キレート溶解腐食等を除いて)溶存酸素のカソード反応によっ

て生じる。従って設備の種類と無関係に溶存酸素を無くしてやれば腐食は防げる。

②孔食は孔食臨界電位を超えることに事によって生じるので、酸素以外の酸化剤(残留塩素

等)の濃度を下げることによって局部腐食は防げる。

③軟質銅管のⅠ型孔食発生は、表面の残留カーボン量に影響されるので、表面カーボン量を

低減した軟質銅管を使用する事により腐食は防げる21)。

④潰食の発生は系内で発生・消滅する気泡によって引き起こされるので、溶存気体の量を減

じれば潰食は防げる34)。

⑤飲用水以外の設備では水質を制御できるので、各設備においてCWPI・Nakajima Diagramを

使用してRiskの少ない水質に制御する40)。 b)各設備の防食の考え方

①給水・給湯設備

・受水槽で残留塩素・遊離炭酸を減じる。

・脱気器等を使用して高温・低静圧・低流速の位置で過飽和の気体(酸素・窒素・遊離炭酸・

残留塩素)を除去する34,39)。

・紫外線照射装置を利用して残留塩素を除去する42)。

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6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0

pH

((SO

4+C

l)/A

nio

n)e

q%

MWPI=0

CWPI=0

Japan River Water

MWPI

CWPI

Nakajima Diagram

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

38

・消石灰注入装置・脱酸素膜を用いる。

②密閉冷温水・密閉冷却水設備

・密閉型膨張タンク・メカニカルシールポンプの使用等確実な系の密閉を実現する。

・薬注により水質を孔食指数CWPIが負になるように制御する40)。

③開放型水蓄熱槽

・水槽の底面に押さえモルタル等を打設する又は石灰石浸漬法を用いる等してCWPIを制御す

る12)。

・加温した後使用する事によりCWPIを制御する12)。

・薬注により水質を孔食指数CWPIが負になるように制御する40)。

④氷蓄熱設備

・薬注により水質を孔食指数CWPIが負になるように制御する40)。

⑤冷却水設備

・開放循環型冷却塔設備においては、濃縮倍率をあげていくと、汚染の無い一般的な場合に

はCWPIが負になる方向に変化する。水質管理をNakajima Diagramを使用して行う41)。

・スケール成分などにより濃縮倍率を上げられなければ、薬注する薬剤にpHを上げる成分の

割合を増やして制御する。

(8)結言 銅の局部腐食を溶解イオン水質の観点から発生可能性を推定する孔食指数(MWPI・CWPI)と孔

食指数の構成要素であるpHと(アニオン中の塩化物イオンと硫酸イオンの等量比率)の2次元平面

であるNakajima Diagramについて考察した。 結果として銅の局部腐食は、孔食指数(MWPI・CWPI)により推定可能な事とNakajima Diagramを使用することにより、Riskを減ずる水質処理等を考える手段となり得る事が判明した。 この指数と図が、今後の銅の適切な使用法に役立てば幸いである。 データの収集等のご助力を頂いた住友軽金属㈱・JSCE建築設備技術小委員会のメンバーの方々

他関係者の皆様、永年にわたりご指導を頂いた辻川名誉教授に深甚の謝意を表するものである。

(参考文献) 1)中島博志:「建築の腐食と材料・防食技術の動向」、材料と環境第50巻第3号,81-87 (2001).

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4)佐藤史朗・源 堅樹・関 邦章・山本博司・滝沢与志夫・岡田三郎・山内重徳・久松敬弘・鈴木一郎・藤井哲雄・

小玉俊明・馬場晴雄・縄田喜一:「給湯用銅管の孔食事例の調査」,防食技術,Vol.31,p3-11(1982).

5)A. Cohen and W. S. Lyman: Materials Protection and Performance,11, 48 (1972).

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12)酒井康行:「蓄熱槽系統の防食設計と運用」,空気調和衛生工学,第64巻,p149-160(1990).

13)浜元隆夫・渥美哲郎・河野浩三:[冷水型孔食の事例調査],「伸銅技術研究会誌」,29巻,(1990).

14)山田 豊・永田公二・田頭孝介:「ホスホン酸系インヒビター水溶液中における銅管の孔食について」,住友軽金属

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15)中島博志:「空調機器銅コイルの孔食について」,第44回材料と環境討論会,C305、p377(1997).

16)境 昌宏・世利修美;マウンドレス型孔食発生および非発生地区水道水中における銅管の電気化学的挙動の比

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腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

39

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Corrosion,p.237-243,(1963).

30)山田 豊, 渥美哲郎・河野浩三,鈴木 忍;材料と環境,Vol48,p647-653(1999).

31)建築配管用銅管腐食対策指針、㈳日本銅センター、昭和62年8月.

32)笠原晃明、小向 茂: 「集中給湯システム銅配管の孔食事例調査」防食技術,36, No.8、492-499、

1987.8.

33)境 昌宏:第52回材料と環境討論会D-210、(2004).

34)河野浩三:「循環給湯用銅管の潰食・Ⅱ型孔食の腐食抑制技術」、平成20年度室蘭工業大学地域共同研究

開発センター、高度技術研修テキスト,(2008).

35)渡邉裕之他訳,Alan Agresti:カテゴリカルデータ解析入門サイエンティスト社,2003 年 2 月.

36)境 昌宏;「日本の水の統計解析」、第9回多変量解析法検討会,腐食センター,2004年5月11日.

37)小林 純:農学研究 48, No2, 63-106 (1960).

38)境 昌宏・世利修美;「銅管のマウンドレス型孔食」、材料と環境第57巻第4号,49,172-179 (2008).

39)中島博志:“腐食防食ハンドブック(平成12年度版)", 腐食防食協会編, 丸善㈱,p821(2000).

40)東芝キャリア空調機器ハンドブック.pp840-843,(2007).

41)中島博志:「Nakajima Diagram と水質変化」、材料と環境2010、C201,(2010).

42)笠原晃明・小向 茂・藤原 宗:「紫外線照射残留塩素分解による集中給湯システム銅配管の孔食防止」

防食技術37,423-431(1988).

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ステンレス鋼全般について

Q: ①一番磁性の少ないステンレス鋼は?

②一番耐磨耗性,耐衝撃性のある(減りにくい,折れにくい)ステンレス鋼は?

③一番さびに強いステンレス鋼は?

④さびにも強く,磨耗,衝撃にも強いステンレス鋼は?

A :

① 磁性のないステンレス鋼は,組織の分類からはオーステナイト系ステンレス鋼に属し,

δフェライト相を含まず,かつ加工してもマルテンサイトを生じないものである.具体

的には,JIS のなかでは SUS305(18Cr-12Ni),SUS310S(25Cr-20Ni)などである. (解説) オーステナイト系ステンレス鋼でも磁性を示すものがある.それは(1)組織のなかに(磁性を

有する)δフェライトを少量含むもの,また(2)加工を受けて(磁性を有する)マルテンサイト

組織を生じるものである.(1)に対してはδ相を含まない成分を選ぶ.たとえば Ni 当量(Ni+0.5Mn+30C)と Cr 当量(Cr +Mo+1.5Si+0.5Nb)の比の大きい組成を選ぶ1).ただし,

上記の式のなかの元素記号はその元素の mass%を表す.また(2)に対しては加工によりマル

テンサイトを生じにくい組成,たとえば下記の Md30(30%の引張り変形を与えたときに組

織の 50%がマルテンサイト相に変態する温度,℃)2)の高い組成のものを選ぶ. Md30 = 551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.5Mo-68(Nb)

-1.42(ν―8.0) ただし,元素記号はその元素の mass%を、νは粒度番号を表す.

② 硬く,靭性の優れる鋼種は析出硬化系ステンレス鋼で,たとえば JIS 鋼種ではセミ・オ

ーステナイト系の SUS631(17Cr-7Ni-1Al),その他ではマルテンサイト系の

Custom455(0.03C-12Cr-8.5Ni-0.8Mo-2.25Cu-Nb),AM355(0.13C-15.5Cr-4.25Ni-2.75 Mo-0.1N),PyrometX-15(0.01C-15Cr-3Mo-20Co)などが挙げられる.

③ 大気中のさびに強いステンレス鋼は,下記の PRE(耐孔食指数)の値の大きいステンレス

鋼である. PRE = %Cr+3.3(%Mo)+16(%N)

JIS のなかでは,SUS312L(20Cr-18Ni-6Mo-0.8Cu-0.2N)や SUS836L(23Cr-25Ni-5.5 Mo-0.2N)が優れる. ④ 析出硬化系ステンレス鋼で,硬さ,伸びが大きく,かつ Cr,Mo,N 量が比較的多い鋼

種がよいであろう.たとえば,②に挙げた鋼種があるが,それらの耐食性はせいぜい

SUS410 と SUS430 の中間程度であろう. (K.O., Q&A in 千葉, 02.02.’10 より)

文献 1) A.L. Schaeffler : Metal Progress, 56(1949), No.5, 680.

2)野原清彦, 小野寛, 大橋延夫: 鉄と鋼, 63(1977), 772.

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ひずみの出ない溶接方法

Q:薄いステンレス板を溶接するとひずみが出てしまう.極力なくす方法は?

A :

ひずみを少なくするには,溶接の際の入熱を極力少なくして,溶融する体積を極力小さく

することが肝要である.薄板は TIG 溶接することが多いが,溶接電流は小さく,溶接速度

は速く,また形状により溶接順序などを工夫する.

溶接速度を上げるには被覆ガスとしてアルゴン+水素使用,パルス電流の付加などがある.

また溶接部の下に熱を速く逃がす工夫をする.さらに溶接法として,アークを集中できる

プラズマアーク溶接,レーザー溶接,場合によりロウ付けも適用する.

また,溶接順序を考える例として,薄板2枚を突合せ溶接する場合は,まず溶接すべき線

の両端と中央だけを溶接により固定し,次にその 3点間を溶接する.

(K.O., Q&A in 千葉, 02.02.’10 より)

最近の問合わせから― 口蹄疫ウィルス消毒液を噴霧される金属材の耐食性

Q:口蹄疫ウィルスは酸に弱く、pH5 というような弱酸条件で数秒で不活性化されるという

報告もあります。将来的に pH11 という条件が必要なアルカリ溶液に代えて、0.4%クエン

酸(pH~3 程度)の畜舎等への噴霧を考えていますが、これによって一般的な金属材料等

に深刻な腐食がおきるかどうか、ご教示下さい。

A:当センターニュース No.045,p.19 で紹介したことのある、Schweitzer の耐食表(第 4

版,1995 年)に 5%クエン酸(citric acid)中のデータがあります。これによると Al,Cu,

304 ステンレス鋼等が「60℃まで 0.05mm/年未満」とあって、Ta・Ti・Zr と同等である

のに、ひとり炭素鋼が「1.25mm/年以上」と記載されていて、返答にとまどっております。

この 5%は候補濃度の 10 倍という高い濃度であること、実際の使用条件―噴霧液を被って

から乾くまでの時間はそう長くない―とは異なろう、などのいいわけはできても適答であ

るとはなしえません。まだ時間的余裕もあるとおききしますので、実験的にきちんと調べ

て改めてお答えすることにいたします。

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最近の問合わせから―塩化物イオンCl-と次亜塩素酸イオンClO-(酸化剤)

Q:ステンレス鋼の腐食を調べています。局部腐食にかかわる Cl-のほかに NaClO も約 1ppm 添加し

ています。

a)Cl-と ClO-とでステンレス鋼の腐食に与える影響は同じでしょうか。

b)オゾン O3を添加する実験も計画しています。実績はありますか。

A:a)局部腐食の生起(発生)は、図 1 に示すように Vc<Esp を満たすときに懸念される。ここで Vc

は局部腐食生起のための下限界電位、Esp は不動態化(局部腐食を起こしていない)ステンレス鋼の定常

自然電位である。Vc は Cl-濃度の増大とともに卑化(低下)するが、Esp は Cl-濃度に依存しない。

大気酸素を溶かし込んだ一般の中性水環境において、Esp は

Esp (1)=0.733-0.0591pH (Vvs. SHE) (1)

で示され 1)、pH7 では 0.32V である。

この水に ClO-を添加した場合 Esp は(1)式が与える値よりもかなり貴な(高い)値を示す。このこと

の理解に役立てるため Cl-H2O 系電位-pH 図 2)を図 2 に示す。次亜塩素酸イオン ClO-と塩化物イオ

ン Cl-との反応

Cl-+H2O=ClO-+2H++2e- (2)

の平衡電位 Eeq は

Eeq=1.715-0.0591pH+0.0293 log{[ClO-]/[Cl-]} (Vvs. SHE) (2)´

で表される。ClO-を添加した場合の Esp (Esp (2)という)は、b)で後述するが、Esp (1)よりは高く(2)´よ

りは低い。

図 1 局部腐食臨界電位 Vc と当該材料/環境系における Esp との比較による可使用条件の評価(模式図)

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図 2 Cl-H2O 系電位-pH 図

図 2 によれば酸性条件下に高い電位をかければ 2Cl-→Cl2の酸化がおこる、これは海水電解時のアノー

ドでの Cl2 ガスの発生によって確認されている。ただしこれは系外から仕事(エネルギー)を加える電

気分解によってはじめて可能になることである。

系外から仕事を加えなくても自発的に進みうるという意味での腐食反応として可能であるのは

・Esp (2)での Cl- ←ClO-の還元(カソード)反応 (3)

・Vc 超での 局部腐食におけるステンレス鋼構成金属の酸化(アノード)反応 (4)

両者の組み合わせ反応であり、この反応は Vc<Esp (2)によってその自発的進行が保証される。

b)オゾンを取扱った文献としては、先に当センターニュース No.033,p.4 で紹介した 3 報のほかにもう

1 報 3)がある。

ここでは a)で Esp(2)とよんだ定常自然電位と ClO-濃度との関係を図 34)~8)にまとめ、ClO-をオゾ

ン O3にかえたデータも一例同じ図中に記入した。

酸化剤濃度 0 のとき Esp は 0.1~0.2Vvs. SHE、同 0.1~1mg/L では Esp は 0.5~0.8 Vvs. SHE、さら

に 10 mg/L 近くの O3や 100 mg/L ClO-では 0.9 Vvs. SHE 超の Esp が実測されている。

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図 3 オゾン O3または残留塩素の濃度と Esp との関係

1) 腐食センターニュース No.033,p.4. 2) G.シャルロー著,曽根興三・田中元治 訳:定性分析化学Ⅱ,共立出版,p.381(1963). 3) 宮 一普:第 46 回材料と環境討論会講演集,p.79(1999). 4) 竹田,ほか 2 名:材料と環境’98 講演集,p.229(1998). 5) R.Gundersen,et al:Corrosion,47,800(1991). 6) R. E. Malpas, et al:“Stainless Steel’87”,p.253(1987). 7) 森,ほか 2 名:日新製鋼技報,35,86(1976). 8) 中津,ほか 2 名:材料と環境,55,495(2006).

腐食センターニュース No. 054 2010 年 8 月

目 次

水処理技術(1) ボイラおよび周辺設備の腐食・防食・・・

マンガン系オーステナイトステンレス鋼の腐食損傷・・・

銅の腐食と水質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ステンレス鋼全般について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ひずみの出ない溶接方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最近の問合わせから- 口蹄疫ウィルス消毒液を噴霧される金属材の耐食性・・・ 塩化物イオンCl-と次亜塩素酸イオンClO-(酸化剤) ・・・

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腐食センターニュース No.054

( 2010年 8月)

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