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外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題 平成23,24年度研究において,児童生徒の思考力・判断力・表現力の確実な育成の手がかり として,「判断の要素」や「判断基準」を設定し,指導と評価の充実を図った。その成果と して,評価の観点やその手順が明らかになり,判断基準Bを到達目標とした指導の充実も図 られた。一方で,思考力・判断力・表現力は継続的に育成されるものであることから,「判 断基準」による指導と評価についても,複数単元等でその在り方を考える必要がある。 (2) 外国語活動,外国語科における思考力・判断力・表現力の捉え 外国語活動,外国語科における思考力・判断力・表現力は,外国語を通じて物事を思考・ 判断させたり,使用する外国語や伝え方を工夫して表現させたりするコミュニケーションの 場面で最も発揮されるものである。 外国語活動において,児童が思考・判断し表現する一連の学習過程は,外国語活動の目標 であるコミュニケーション能力の素地が総合的に表出された状態と考えられることから,次 に示す評価の3観点の趣旨を踏まえて思考力・判断力・表現力を捉える。 コミュニケーションへの 外国語への慣れ親しみ 言語や文化に関する気付き 関心・意欲・態度 コミュニケーションに関 活動で用いている外国語を 外国語を用いた体験的なコミュニケー 心をもち,積極的にコミュ 聞いたり話したりしながら, ション活動を通して,言語の面白さや ニケーションを図ろうとす 外国語の音声や基本的な表現 豊かさ,多様なものの見方や考え方が る。 に慣れ親しんでいる。 あることなどに気付いている。 外国語科においては,4技能を統合的に活用させる活動において最も思考力・判断力・表 現力が発揮されると考えられる。このことから次に示す評価の4観点のうち,主として「外 国語表現の能力」と「外国語理解の能力」の観点から思考力・表現力・判断力を捉える。 コミュニケーションへの 外国語表現の能力 外国語理解の能力 言語や文化についての 関心・意欲・態度 知識・理解 コミュニケーション 外国語で話したり 外国語を聞いたり 外国語の学習を通して,言語 に関心をもち,積極的 書いたりして,自分 読んだりして,話し やその運用についての知識を身に にコミュニケーション の考えなどを表現し 手や書き手の意向な 付けているとともに,その背景に を図ろうとする。 ている。 どを理解している。 ある文化などを理解している。 (3) 学習内容の関連 外国語活動,外国語科における学習内容の関連を,図4のように整理した。このような内 容に基づき,前回(既習単元)の学習内容と今 回(本単元)の学習内容の関連を図る場合,単 元間における題材・テーマ,言語の使用場面, 言語の働き等を関連付けて捉えることが必要 である。 外国語活動では,語彙や表現の定着まで求 めないが,慣れ親しんだ外国語を本単元で想 起させ,児童の発想やコミュニケーションを 図る活動を充実させることができる。 図4 外国語活動,外国語科の学習内容の関連

1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

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Page 1: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連

(1) 昨年度までの研究の成果と課題

平成23,24年度研究において,児童生徒の思考力・判断力・表現力の確実な育成の手がかり

として,「判断の要素」や「判断基準」を設定し,指導と評価の充実を図った。その成果と

して,評価の観点やその手順が明らかになり,判断基準Bを到達目標とした指導の充実も図

られた。一方で,思考力・判断力・表現力は継続的に育成されるものであることから,「判

断基準」による指導と評価についても,複数単元等でその在り方を考える必要がある。

(2) 外国語活動,外国語科における思考力・判断力・表現力の捉え

外国語活動,外国語科における思考力・判断力・表現力は,外国語を通じて物事を思考・

判断させたり,使用する外国語や伝え方を工夫して表現させたりするコミュニケーションの

場面で最も発揮されるものである。

外国語活動において,児童が思考・判断し表現する一連の学習過程は,外国語活動の目標

であるコミュニケーション能力の素地が総合的に表出された状態と考えられることから,次

に示す評価の3観点の趣旨を踏まえて思考力・判断力・表現力を捉える。

観 コミュニケーションへの外国語への慣れ親しみ 言語や文化に関する気付き

点 関 心 ・ 意 欲 ・ 態 度

コミュニケーションに関 活動で用いている外国語を 外国語を用いた体験的なコミュニケー趣

心をもち,積極的にコミュ 聞いたり話したりしながら, ション活動を通して,言語の面白さや

ニケーションを図ろうとす 外国語の音声や基本的な表現 豊かさ,多様なものの見方や考え方が旨

る。 に慣れ親しんでいる。 あることなどに気付いている。

外国語科においては,4技能を統合的に活用させる活動において最も思考力・判断力・表

現力が発揮されると考えられる。このことから次に示す評価の4観点のうち,主として「外

国語表現の能力」と「外国語理解の能力」の観点から思考力・表現力・判断力を捉える。

観 コミュニケーションへの外国語表現の能力 外国語理解の能力

言語や文化についての

点 関 心 ・ 意 欲 ・ 態 度 知識・理解

趣コミュニケーション 外国語で話したり 外国語を聞いたり 外国語の学習を通して,言語

に関心をもち,積極的 書いたりして,自分 読んだりして,話し やその運用についての知識を身に

旨にコミュニケーション の考えなどを表現し 手や書き手の意向な 付けているとともに,その背景に

を図ろうとする。 ている。 どを理解している。 ある文化などを理解している。

(3) 学習内容の関連

外国語活動,外国語科における学習内容の関連を,図4のように整理した。このような内

容に基づき,前回(既習単元)の学習内容と今

回(本単元)の学習内容の関連を図る場合,単

元間における題材・テーマ,言語の使用場面,

言語の働き等を関連付けて捉えることが必要

である。

外国語活動では,語彙や表現の定着まで求

めないが,慣れ親しんだ外国語を本単元で想

起させ,児童の発想やコミュニケーションを

図る活動を充実させることができる。図4 外国語活動,外国語科の学習内容の関連

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【研究主題】学習内容の関連を踏まえた思考力・判断力・表現力の育成に関する研究       ~「判断基準」に基づく指導と評価を通して~(外国語活動・外国語科)
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Page 2: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

例えば,表2に示すように,

事前単元で「好きなもの」につ

いて友達に聞いたり話したりす

る活動で触れた単語や,"Do you

like ~?"といった表現は,本単元

でも活用することができる。ま

た,外国語活動で重視している

関心・意欲・態度についても,楽

しい雰囲気でコミュニケーション

を図るという視点で,継続的な

指導が必要である。

表3は,高等学校第1学年に

おける学習内容の関連の例であ

る。読み取った内容について自

分の行動や考えを説明するとい

う言語の働きや異文化という題

材の類似性から,既習単元での

学習内容を,本単元における学

習内容に効果的に結び付けるこ

とができる。

2 外国語活動,外国語科における

学習内容の関連を踏まえた指導

(1) 外国語活動の指導

外国語活動において,思考力・

判断力・表現力を育成するために

は,外国語に慣れ親しむ活動を

通して,言葉の面白さや豊かさ

に対する気付きを促し,コミュニ

ケーションを図る楽しさを体験さ

せることが大切である。このよ

うな活動となるような学習内容

の関連を踏まえた指導とは,既

習単元での気付き,慣れ親しん

だ外国語を本単元に取り入れ,

積極的な態度を生かすことを意味する。具体的には,表4に示すように,各時間の活動にお

いて評価の観点を重点化し,教師の働き掛けにより既習単元の学習内容を想起させる指導を

行うことである。

(2) 外国語科の指導

思考力・判断力・表現力を育成する目的で,4技能を統合的に活用させる活動を設定する

表3 学習内容の関連を図る例(高等学校第1学年)

前回(既習単元) 今回(本単元)高校生の海外でのボラ サッカー代表チームの

ンティア活動について読 ユニフォームについて読み,今後の自分の行動に み,異文化理解についてついて書く活動 自分の考えを書く活動L3 Sending Smiles L5 Soccer Uniforms Saythrough Picture Books a lot about Countries思考・判断・表現の観点【外国語表現・外国語理解の能力】ア 聞いたり読んだりしたことを基に意見・考えを述べ合う。イ 今までの体験を交えながら考えや気持ちなどを書く。○ 言語の使用場面

・ 異文化に対する自分の考えや行動の記述及び口頭発表

○ 言語の働き

・ 自分の行動や価値観の説明

○ 言語材料

・ 言語の働きに適する文法,語彙,表現

表2 学習内容の関連を図る例(小学校第5学年)

前回(既習単元) 今回(本単元)好きなものについて積 色や形の好みや,好き

極的に聞いたり話したり なものは何かを聞いたりする活動 話したりする活動L4 好きなものを伝えよう L5 友だちにインタビュー(Hi, friends! 1) しよう(Hi,friends! 1)

【関心・意欲・ 判 相手意識をもった,積極的な態度態度】 断 (表情,うなずき,反応,ジェスチャー等)

【慣れ親し み】 の 果物,スポーツ,動物などの単語を使って要 好きなものを伝え合う表現

【気付き】 素 日本語と英語の発音の違い○ コミュニケーションの場面 友達へのインタビュー

表4 学習内容の関連を踏まえた指導 (表2 Hi,friends!L4&L5の場合)

評価の観点教師の働き掛け例

と活動場面【気付き】 T 「L4 では,パイナップルが pineapples とい日本語と英 うように,日本語と英語の音の違いを勉強しま語の音の違 した。今日勉強した T シャツの模様や色にもいに気付く。 同じような違いがありましたか。」(第1時) S 「ハートとheart,スターと star が違いました・・」

【慣れ親しみ】 T 「好きな color,shape で T シャツを作るこ

What ~ do とができましたね。今使った What ~ do you like?

you like?を の『~』を変えるといろいろな質問ができます。L4

繰り返し使 での活動からどんな質問ができますか。」

う。 S 「スポーツ,フルーツも質問できます。」(第3時)

【関心・意欲・ T 「これからインタビューの活動を行います。態度】 お互いに気持ちよく英語で聞いたり,話したり自分の好き するために,前の単元(L4)から特に気を付けなものを伝 てきたことは何ですか。」え合う。 S 「始める前に挨拶することと,相手の目を見(第4時) て話をすることです。」

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Page 3: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

場合,いかに既習単元の学習内容と関連させるべきかという指導の視点について述べる。

第一に,本単元のねらいに即して,既習単元において習得しておくべき学習内容を踏まえ

ることである。具体的には,「外国語表現の能力」や「外国語理解の能力」の観点から,既

習単元において扱った題材・テーマ,言語の使用場面,言語の働き,言語材料を明らかにする

ことである。

第二に,生徒に学習内容の関

連を意識させる工夫を行うこと

である。本単元において,既習

単元の学習内容を生かすために

は,それらが本単元で適切に転

化していくよう指導することが

重要である。そこで,指導する

際に表5に示した指導の視点を

もつことにより,本単元におけ

る指導の重点化を図り,生徒に

既習の学習内容を想起させながら,関連を踏まえることの有用性に気付かせることができる。

3 外国語活動,外国語科における学習内容の関連を踏まえた「判断の要素」「判断基準」の設定

(1) 「判断の要素」,「判断基準」の設定の概要

外国語活動においては,評価規準に表されている内容を,3観点から分析的に「判断の要

素」として端的に示すことで,評価のポイントが明確になる。

外国語科においては,外国語表現・外国語理解の能力の二つの観点から評価規準を設定し,

その評価規準を分析的に具体化した「判断の要素」に基づいて「判断基準」を設定する。そ

の際,表5の視点から,単元間において共通または類似する題材,言語の使用場面,言語の

働き,言語材料を明らかにし,「判断の要素」や「判断基準」を設定することで,既習単元

と本単元との関連を効果的に図ることが可能となる(表6)。

表6 学習内容の関連を踏まえた「判断基準」の設定例 (中学2年 Sunshine English Course 2)

【既習単元 Pro 3】 【本単元 Pro 4】Charity Walk If You Wish to See a Change

評価規準【外国語表現の能力】

教科書本文からチャリティについて読み取 環境保全を訴える少女のスピーチに関するり,既習の表現を用いて「チャリティ」につ 英文を読み,既習の表現を用いて「環境保全」いての自分の感想やアイディアを5文以上の について自分ができることを6文以上の英文英文で書くことができる。 で書くことができる。

判断の要素

ア 内容に関する記述 ア 内容を基にした記述

イ 自分の気持ちや価値に関する記述 イ 自分の気持ちや価値と理由に関する記述

ウ 今後の自分の行動に関する記述 ウ 今後の自分の行動に関する記述

エ 英文の量 エ 英文の量

判断基準B

ア トピックを提示している。 ア トピックを提示している。

イ トピックに関して,自分の気持ちや価値 イ トピックに関する自分の気持ちや価値を

を述べている。 理由を含めて述べている。ウ これからの行動や考えを述べている。 ウ これからの行動や考えをまとまりよく述エ 5文以上の英文で述べている。 べている。

エ 6文以上の英文で述べている。

表5 学習内容の関連を踏まえた指導の視点

指導場面 指導の視点見通し ○ 課題から必要とする学習内容をつかませる。

(学習課題 ○ 既習単元で習得した知識・技能の有用性を感の設定) じさせる。

必要な言○ 本単元で,習得させる言語材料の選択と習得

語材料の習のための活動を設定する。

得○ 既習単元で習得した言語材料を活動の場面に組み込む。

内容理解. ○ 既習単元のスキーマや内容理解の方法を活用

自己表現の させる。

活動 ○ 内容理解を基に,事前単元及び本単元で習得した言語材料を活用する活動を設定する。

振り返り ○ 既習単元から本単元にかけて生徒自身に能力(自己評価/ の向上を認識させる。相互評価) ○ 継続した学習の有用性を感じさせる。

評価規準を2観点から分析し,事前単元との関連を踏まえどのような基準で評価するのか端的に設定

事前単元における「判断基準」を参考に,判断の要素に基づき,より具体的に設定

4技能の統合的な活動に関する評価規準

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また,関連させる既習単元及び本単元における判断基準Bに着目することで,生徒に求め

る思考力・判断力・表現力の向上の程度を把握することができる。「思考・判断・表現」を

おおむね満足できる学習状況で示したものが判断基準Bであることから,既習単元と比較す

ることで,本単元の判断基準Bの妥当性を精査することができる。具体的には,既習単元で

の生徒の学習状況から,本単元で目指す姿が適切か,4技能の統合的な活動のねらいと評価

の各項目は整合しているかなどを確認することである。

(2) 学習内容の関連を踏まえた「判断基準」に基づく指導の実際

本研究においては,学習内容の関連を踏まえて判断基準Bが設定されていることから,指

導に当たっては,判断基準Bの各項目について既習単元で学習した内容を整理し,本単元に

効率よく結び付けることが重要である。表6で挙げた本単元の判断基準Bのイ,ウ,エを例

にするとその指導の具体例として次のようなことが考えられる(表7)。

表7 学習内容の関連を踏まえた指導の具体例

判断基準B 学習内容の関連を踏まえた指導

イ トピックに関する自 ○ 既習単元で作成した英文を振り返ることで,気持ちや感想を述べる表

分の気持ちや考えを 現を確認させる。

理由を含めて述べて ○ 理由を表す談話標識 because...を提示する。

いる。

ウ これからの行動や考 ○ 既習単元で表現した自分の行動に関する記述や,その根拠・理由とな

えをまとまりよく述 る記述を基に,文をまとまりよくつなげる方法を提示する。

べている。 ○ 接続詞 If や例示を表す for example...を提示する。

エ 6文以上の英文で述 ○ 既習単元で活用した表現や英文を,発問を通して生徒に記述させる。

べている。 ○ プラス one sentence の考えを提示し,感想や今後の行動,理由の記述が

積極的にできるように促す。

4 外国語活動・外国語科における「判断の要素」「判断基準」に基づく評価結果を踏まえた指導

児童生徒の「思考・判断・表現」を評価する際,「判断の要素」や判断基準Bに照らすと,ど

の項目が達成できているのか,不十分なのかが明らかになり,事後指導のポイントが明確になる。

外国語活動では,表現活動の際にはっきりとした声やアイコンタクトを意識させるために,絵や

カードを提示したり,教師のモデルや他の児童の活動を参考にさせたりするなどの指導が考えら

れる。ただし,外国語活動においては,スキルの定着を求めるものではないことから,児童のよ

い点を積極的に取り上げる方向で指導を行うことが重要である。

外国語科においては,生徒の表現や理解の表出(作品,発表,作文等)を見て,判断基準Bに基

づき,深化指導及び補充指導を行う。

例えば表6に示した,本単元における判断基準Bのイにある「トピックに関する自分の気持ち

や考えを理由を含めて述べている」という項目について記述が不十分である生徒については,補

充指導を行う。「理由を含めて」の部分が不足していたのか,「トピックに関する自分の気持ちや

考え」の部分が不足していたのかを判断し,既習単元における「トピックに関して,自分の気持

ちや価値を述べている」という「判断基準」とのつながりを意識した指導が可能である。

B状況にある生徒へは,「十分満足できる」A状況へ高めるために,A状況にある生徒の作品

を見せて新たな視点や考え方に気付かせたり,英文を充実させるための言語材料(談話標識など)

や代名詞・接続詞の用法などを提示したりするなどの深化指導を行う。

Page 5: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

鹿児島県総合教育センター鹿児島県総合教育センター

学習内容の関連を踏まえた

思考力・判断力・表現力の育成に関する研究

~「判断基準」に基づく指導と評価を通して~

第5分科会(外国語活動,外国語科)研究発表

【平成25年度調査研究発表会】

1

気持ちや考えを伝え合う活動

本年度の研究概要

2

単元A

言語活動目指す姿は何か

評価規準「判断基準」

気持ちや考えを伝え合う活動

指導と評価のポイント

単元B

言語活動

継続的な思考力・判断力・表現力の育成

学習内容の関連を図る指導の工夫「判断基準」設定の工夫

関連を図る

思考力・判断力・表現力の育成

昨年度までの研究 本年度研究

発表内容

昨年度までの研究

思考力・判断力・表現力の捉え

「判断の要素」,「判断基準」の設定

本年度研究

学習内容の関連を踏まえた指導

外国語活動における考え方と指導例

外国語科における考え方と指導例3

4技能を統合的に活用する活動理解した内容に対する自分の考えの表現など

コミュニケーションを図る楽しさを体験する活動スキット,ロールプレイ,インタビューなど

児童生徒が身に付けた外国語(言語材料)等を用いて自分の気持ちや考えを伝え合う中で育まれる力

コミュニケーション能力(素地・基礎)の育成

思考力・判断力・表現力

思考力・判断力・表現力を育成する言語活動

4

外国語活動

外国語科

言語活動

伝え方の工夫思考,判断する場面興味深い題材

言語活動を通じて

「思考・判断・表現」の「判断基準」の設定

「思考・判断・表現」の評価

予想される表現例

評価規準

判断の要素

判断基準Bの程度を超えたと認められる状況

(※ 固定的に捉えるものではない。)

判断基準A

判断の要素を「おおむね満足できる」具体的な状況で表したもの

判断基準B

十分満足できる状況

(A状況)

おおむね満足できる状況(B状況)

努力を要する

状況(C状況)

分析的に具体化

5

外国語活動における思考力・判断力・表現力の捉え

3観点から総合的に見る児童の姿

コミュニケーションへの関心・意欲・態度

外国語への

慣れ親しみ

言語や文化に

関する気付き

6

アイ・コンタクト

ジェスチャー I like~.

Do you like~?

英語ではキウイをkiwi fruit って言うんだなぁ。

「判断の要素」

評価規準

自分の好きなものを積極的に伝えている。

好きなものを尋ねたり,自分の好みを英語で言ったりしている。

英語の音声をきいて,言葉の面白さに気付いている。

コミュニケーションを図る楽しさを体験する活動

「思考・判断・表現」の評価

Page 6: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

外国語科における思考力・判断力・表現力の捉え

「表現」と「理解」の能力に現れる姿

コミュニケーションへの関心・意欲・態度(コ)

外国語表現

の能力(表)

外国語理解

の能力(理)

言語や文化についての知識・理解(言)

7

「思考・判断・表現」の評価

4技能を統合的に活用する活動

評価規準

厳しい状況下で貫戸医師が下した決断について,自分の考えを理由や具体例を挙げながら60語程度で表現できる。

(高校2年英語の例)

どのような内容か。どのような表現か。

判断基準

判断の要素

(例) 読む → 書く

I would like to tell herthat her decision to turnoff the oxygen was right.This is because she had touse the last tank of oxygenwell. She had to treat notonly the dying boy but alsoall the sick people.

8

評価規準

予想される生徒の表現例

判断基準 A

判断の要素

適切な英文の量

賛成か反対の立場の明示

理由や具体例の記述

正確な英語

判断基準 B

60語程度の英文

筆者の決断に対する賛否の記述

自分の意見の根拠・具体例

概ね正しい英語(間違い4つまで)

分析的に具 体 化

厳しい状況下で貫戸医師が下した決断について,自分の

考えを理由や具体例を挙げながら60語程度で表現できる。

「判断基準」設定の考え方

B 状 況 以 上 に あ る と 考 え ら れ る も の

B状況の生徒へ

深化指導

補充指導

C状況の生徒へ

(既習単元)

学習内容

学習内容の関連を踏まえた指導

9

関連を図る意義

場面に応じ外国語で考え,判断,表現する力の質的・量的な向上

○題材内容(発想)○言語の働き○言語の使用場面○語彙・表現(言語材料)

「思考・判断・表現」の観点

判断の要素

判断基準

○ これまでの学習の成果を感じさせられる。○ 本単元での内容理解,自己表現の充実を図ることができる。○ 「思考・判断・表現」の伸びを的確につかむことができる。

豊かな発想・多様な言語材料

(本単元)

学習内容

10

既習単元

外国語活動における学習内容の関連を踏まえた指導

コミュニケーションを図る楽しさを体験する活動

本単元

観 点

関心・意欲・態度

慣れ親しみ

気付き

判断の要素

(題材の関連の例)

動物,果物,スポーツ クイズ活動の題材

挨拶,様子を聞く活動

時間割について話す活動

(コミュニケーション活動の関連の例) 食事を楽しむスキット

食べ物の好みを聞く活動

挨拶,様子を聞く活動

時間割について話す活動学習内容を観点で整理

インタビューロールプレイ

スキット

活動内容・形態に応じて

関連を図る

外国語活動における学習内容の関連を踏まえた指導

11

関連を図る単元の選定についての考え方

単元名 題材

L1 Hello! 言語・挨拶

L2 I’m happy. 感情・様子

L3 How many? 数・身の回りの物

L4 I like apples. 食べ物・スポーツ等

L5 What do you like? 色・形

L6 What do you want? アルファベット

L7 What’s this? 身の回りの物

L8 I study Japanese. 教科・曜日

L9 What would you like? 食べ物・料理

Hi, Friends! 1

挨拶する活動

時間割の活動

食事のスキット

L4 I like apples. 食べ物・スポーツ等

L5 What do you like? 色・形

(活動の関連)

(題材の関連)

本単元の活動を充実させるために生かせるものはないか。

Hello. How are you?

What would you like?

Do you like math?

It’s good. Thank you.

Tシャツのデザイン

を通して,色や形,好きなものは何かを聞いたり話したりする活動

好きなものについて聞いたり話したりする活動

外国語活動における学習内容の関連を踏まえた指導

12

外国語活動(Hi,friends!1)

L4 I like apples. L5 What do you like?

観点 L5で関連づけるL4の学習内容

関・意・態 相手意識をもったコミュニケーションの態度

慣れ親しみ 単語(果物,スポーツ,動物),基本的表現

気付き 外来語と英語の音声の違い

Do you like strawberries? Yes, I do. I like strawberries.No, I don’t. I like kiwi fruits.

Page 7: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

外国語活動における学習内容の関連を踏まえた指導

13

好きなものについて聞いたり話したりする活動

L4 I like apples.

観点 L4学習内容の関連を踏まえた指導の実際

第1時【気付き】

第3時【慣れ親しみ】

第4時【関・意・態】

L4 外来語と英語の音声の違い

アップルとapple

同じような違いが,ありませんか。

ハートとheart

L4 単語(果物,スポーツ,動物)

デザインの他に好きなものを聞きましょう。

What fruits do you like?

Tシャツのデザイン

を通して,好きなものは何かを聞いたり話したりする活動

L5 What do you like?

L4 活動中の挨拶,アイコンタクト

気持ちよい活動は?分からないときは?

判断の要素

外国語活動における学習内容の関連を踏まえた指導

14

観点 期待される姿

関心・意欲・態度

慣れ親しみ

気付き

○ アイコンタクト,うなずき等が自然に表出する。○ 言葉によらない伝達手段が自然に表出する。

(ジェスチャー,実物,絵)

関連を踏まえることで期待される姿

○ What ~ do you like?で伝え合う内容が増える。(color/shape)→(color/shape/animal/sport/fruit)

○ これまでの学習を生かして,違いに気付く。(外来語と英語の音声/表現の意味の変化)

What animal do you like? I like stag beetles.What sport do you like? I like volleyball.

外国語科における学習内容の関連を踏まえた指導

15

4技能を統合的に活用する活動の到達目標

学期

1学期

2学期

3学期

4文程度で自分の感想を書くことができる。

読んだ内容に関して

5文程度で自分の考えを書くことができる。

6文程度で自分の意見をその理由を含めて書くことができる。

7文程度で自分の意見をまとまりを考えて書くことができる。

中学校第2年の場合

判断の要素

判断基準

題材・テーマ 言語の使用場面 言語の働き 言語材料

(Pro1) Risa went to Sakura Park.She saw the cherry blossoms.I like them, too. They are beautiful.

(Pro12) I think this true story isamazing. I have three reasons.First, Megumi really liked herfather. Second, Mack traveledaround the world. It was soexciting. Third, people aroundthe world sent pictures…….

外国語科における学習内容の関連を踏まえた指導

16

関連を図る単元の選定についての考え方

Pro 本文概要(文の形式)

1 春休みの過ごし方(対話)

2 フィンランド旅行の予定(対話)

3 義援金のチャリティ (案内文・対話)

4 Reading『新発明のマクラ』(対話の多い物語)

5 ガリバー旅行記について(対話・観光案内)

6 職場体験について(対話・スピーチ)

7 環境保護のために活動する女性 (物語・語り)

8 Reading大震災時の獣医の努力(説明文)

: :

Sunshine English Course 2

義援金のチャリティ

環境保護のために活動する女性

チャリティについて読み,感想や自分にできることを発表する。

統合的な活動

世界の諸問題に対する考え・行動

意見を交換する

発表・説明・意見

類似性

Pro7 If You Wish to See a Change

地球環境等について読み,感想や自分が取り組んでみたいことを書く。

活用する

学習内容の関連を踏まえた判断基準B

17

予想される表現例

○ I read about “CharityWalk.”

○ I think it’s important.○ We have to help poor

children.○ I can sell my CDs and get

some money…….

○ I read a speech of Severn.○ I think her speech was great,

because she knew …..○ We have to think about

people around the world.For example, there are manystreet children …..

○If I’m rich, I will give …….

Program 3 Program 7

ア トピックの提示 トピックの提示

イ 自分の気持ちや価値 自分の気持ちや価値とその理由

ウ 今後の考えや行動 今後の考えや行動をまとまりよく

エ 5文以上の英文 6文以上の英文

/思考力・判断力・表現力の向上/達成感

外国語科における学習内容の関連を踏まえた指導

18

外国語科

Pro7 If You Wish to See a Change

(中学校2年 Sunshine English Course 2)

地球環境等について読み,感想や自分が取り組んでみたいことを書く。

時 主な学習活動 発想を促す発問

1 リオでのスピーチの理解

Do you think that her speech was great?

2 Why do you think so?

3 世界サミットでの訴えの理解

What should we do when we wear clothes?

4 What should we do when we eat chocolate?

5 世界を変える考え方の理解

Did you know the street children?

6 What will you do if you are rich?

7 意見交換 書き上げた英文をグループで発表

判断基準による評価

チャリティについての英文

Program 3

意見の表現は?

今後の行動を示す表現は?

生かせる内容は?

気付かせる

補充指導 深化指導

伸びの実感

Page 8: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

成果と課題

成 果

課 題

▲ 学習内容の関連を明らかにした年間指導計画を検討

する必要がある。 (外国語活動,外国語科)

○ 外国語表現の幅が広がり,表情やジェスチャーなども

意識して取り組む姿が見られるようになった。

(外国語活動)

〇 表現する英文の内容や文章構成が向上し,生徒が達

成感を味わう姿が見られた。 (外国語科)

▲ 「外国語理解の能力」の観点からも学習内容の関連を

図る指導と評価を考える必要がある。

(外国語科) 19

Page 9: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

既習単元のコミュニケーション場面を取り入れたスキット作成

鹿屋市立田崎小学校

教諭 塩澤 広子

はじめに

鹿屋市では,全ての小学校で市の年間指導計画を基に,年間を通して低学年 10 時間,中学年

20 時間,高学年 35 時間の外国語活動を行っている。本校は,昨年度までの3年間で市の研究

指定を受け,「外国語に親しみ,進んでコミュニケーションを図ろうとする子どもの育成~生き

生きと表現する子どもを目指して~」という研究主題のもとに全校体制での研究を進めてきた。

この研究を通して,子どもが生き生きと表現するには,相手に自分のことを伝えたいという意

欲をもたせる課題を設定して学習内容に興味をもたせることに加えて,コミュニケーションを

円滑にするための方法を身に付けさせることが重要であることが明らかになった。子どもは,

ただ外国語を使ったやりとりを行うのではなく,アイコンタクトやクリアボイス,ジェスチャ

ーなどを意識してコミュニケーションを図ろうとするようになってきている。

1 研究実践の基本的な考え方

(1) 研究の概要

本研究の大まかなイメージは,評価規準の3観点を視点として,これまで学習した既習

単元の学習内容と本単元の学習内容を関連付け,子どもの思考力・判断力・表現力の育成

を図ることである。これらを関連付けることにより,子ども自身が使用する外国語や伝達

の手段の選択の幅が広がり,思考,判断しながら表現するコミュニケーション活動がより

豊かになると考える。

(2) 研究の意義

外国語活動における思考力・判断力・表現力は,子どもが身近な題材について感じたこ

とや考えたことを,使用する外国語や伝え方を工夫しながらコミュニケーションを図るこ

とで育成される。本研究では,思考力・判断力・表現力は継続的に育成するという観点か

ら評価規準の3観点を視点としながら,外国語活動の学習を一過性のものではなく,学習

の継続性や発展性のあるものと捉えた。これまでの授業は,当該単元の中で完結するのが

通常であったが,本単元の学習内容に既習単元の学習内容を関連付けることで,外国語活

動を単なる活動ではなく,他教科等同様に過去から未来へつながるものと捉えさせること

ができる。こうすることには,子どもに学習者としての成長を感じ取らせる上でも意味が

あることだと考える。

(3) 学習内容の関連を踏まえた「判断の要素」の設定

ア 学習内容の関連について

継続的な思考力・判断力・表現力の育成について研究を進めるに当たり,既習単元と

本単元間の学習内容の関連付けを踏まえ,評価規準の3観点から以下のように考える。

コミュニケーションへの

関心・意欲・態度外国語への慣れ親しみ 言語や文化に関する気付き

コミュニケーションを円滑に

する工夫の関連付け(アイコン

タクト,クリアボイス,ジェス

チャー,相づち,リアクション,

挨拶など)【コミュニケーショ

ンの積極性】

慣れ親しんだ単語や基

本的表現の活用につい

ての関連付け【外国語

の役割のつながり】

言語やコミュニケーション

を図る上での共通点,相違

点,物事を通して見える見え

方,考え方の豊かさについて

の関連付け【使用場面でのつ

ながり】

事例 1

Page 10: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

単元の選択については,連続した単元に限定することなく広い視野で選択する。例え

ば,本単元の基本表現によるスキットに,既習表現を自分たちで選択して取り込ませ,

内容や表現をより豊かなものにさせる場合,学習する外国語の役割や外国語の使用場面

に関連性がみられるものから選択していく。その場合,前学年までの既習単元から選択

することも十分に考えられる。

イ 「判断の要素」の設定とその活用

外国語活動では,単元の目標に照らして単元終末の子どもの姿を想定し,評価規準を

設定する。その評価規準を分かりやすく端的に表した「判断の要素」を関連の視点とし

て設定した。「判断の要素」を設定することで,子どもの個別支援に生かせるようにした。

2 授業設計の考え方

(1) 単元の内容について

既習単元と本単元の内容を関連させた本単元の学習課題は次のように設定する。

(2) 単元構成について

単元を構成するに当たっては,次のような手順で進める。

(3) 評価方法について

評価方法については,単元の流れに沿って,次の3つの視点で評価する。

ア 「判断の要素」を生かした評価

イ 振り返りを生かした評価

ウ 学習内容の関連を踏まえた評価

いつ 学習活動時 一単位時間の終末段階 単元終了時

事前に見取る場面を決めておき,子どもの様子に応じて評価する。称賛や助言をしながら,その都度子どもにフィードバックし,支援の手立てを講じる。

評価の観点を示して自己評価させたり,子ども同士でがんばりを相互評価させたりする。教師の意図的な称賛で,学習意欲を喚起させる。

前単元までの学習内容で活用が予想される積極性,外国語の役割,使用場面につ い て の 視 点 を 定 め て おく。それらの表出の様子から,単元間の思考力・判断力・表現力の高まりを評価する。

何で

言動観察 振り返りカード・発表分

析,ワークシート点検

言動観察,創作作品分析

① これまでに学習してきた主な外国語表現を検討し,選択する。

② それらの外国語表現が本単元とどのようにつながるか,次の三つの視点から洗い

出す。 ア コミュニケーションの積極性 イ 外国語の役割でのつながり

ウ 使用場面でのつながり

③ それらの中から,子どもたちの実態に合わせ,最も意欲的に取り組めそうなつな

がりを生かして学習課題を設定する。

【課題設定の手順】

【単元構成の手順】

① 市指導計画の単元のねらいを踏まえ,これまでの学習を生かしながら思考・判断・

表現している子どもの理想像を思い描く。

② 目指す児童像を評価規準の三つの観点に照らし合わせて評価規準を設定する。

③ 評価規準における子どもの姿が具現化される単元の最終活動(課題)を設定する。

④ 課題を達成するために必要な活動を一単位時間ごとに「聞く活動」から「話す活

動」へとスモールステップで配列していく。

⑤ 評価規準を基に,それぞれの学習過程で期待される子どもの姿を「判断の要素」

として具体的に設定する。

⑥ 期待される子どもの姿が現れないときの具体的な手立てを考える。

Page 11: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

3 検証授業

(1) 単元名 ランチメニューを作ろう (鹿屋市年間指導計画第5学年)

(2) 単元について

子どもは,第 1 学年からの外国語活動の学習を通して,英語を使った活動を楽しもうと

する意欲や態度が育ってきている。しかし,与えられた表現を使ったやりとりを楽しむこ

とに満足し,表現力豊かな双方向のコミュニケーションでよりよく伝え合ったりしようと

する意欲や態度はまだ十分に育っているとはいえない。

そこで,本単元「ランチメニューを作ろう」では,学習した英語表現だけでなく非言語

的表現を重視したスキット作りに取り組むことを通して,より豊かなコミュニケーション

の態度について気付かせ,今後の学習や生活に生かしていこうとする意欲や態度につなげ

ていきたい。また,本単元で扱う食べ物は子どもにとって身近で興味のある題材である。

日本の食文化について気付かせたり,外国の食文化との違いや共通点に気付かせたりし,

自国文化や異文化への関心をもたせていくようにする。

(3) 子どもの実態

【調査結果】対象者:5年1組 31 名,実施日:平成 25 年6月 14 日

※ 質問①~⑦の回答法は選択形式で実施。⑧はリスニング形式で実施。

① 外国語活動の学習は楽しいですか。またその理由は何ですか。【外国語活動への興味・関心】

とても楽しい(17) 楽しい(14) あまり楽しくない(0) 楽しくない(0)

〈楽しい理由〉ゲームが楽しいから(26),英語が分かるようになるから(15),外国のことを知れるから

(10) ,友達のことを知れるから(4),歌を歌うのが楽しいから(4)

② 外国語活動の時間にどんなことをするのが好きですか。(複数回答)【外国語活動への興味・関心】

ゲーム(24) ,チャンツ(10),外国の話を聞くこと(6),本を読んでもらうこと(5),歌(4),挨拶(3)

③ 人と話すときにどんなことに気を付けていますか。(複数回答)【コミュニケーションへの積極性】

声の大きさ(21),相手の目を見る(17),笑顔で話す(10),話す速さ(9),話の内容(4),その他(3)…

ジェスチャーを付けて話す(2),特にない(1)

④ 人の話を聞くときにどんなことに気を付けていますか。(複数回答)【コミュニケーションへの積極性】

最後まで聞く(21),相手の目を見る(16),うなずく(11),リアクションを返す(7)

⑤ 休み時間にセーラ先生と会ったらどうしますか。(複数回答)【コミュニケーションへの積極性】

英語で挨拶する(23),英語で話しかける(8),日本語で挨拶する(5),日本語で話しかける(1) ,何

もしない(1)

⑥ セーラ先生に言いたいことがうまく伝わらないときどうしますか。(複数回答)【コミュニケーションへの積極性】

ジェスチャーをする(24),知っている英語で言い直す(8),先生に英語を聞いて言う(7),日本語で伝

える(6),あきらめる(4) 絵を描く(2)

⑦ これから外国語活動の時間にどんなことをしたいですか。(複数回答)【外国語活動への興味・関心】

ゲームをしたい(21),いろんな英語を知りたい(20),外国のことを知りたい(13),外国の人と話したい

(7) ,劇をしたい(6) ,歌を歌いたい(6) ,本を読んでほしい(3),インタビューをしたい(1)

⑧ 次の英語はどんな意味だと思いますか。【外国語への慣れ親しみ】※下線は既習表現

sushi(31), kimchi(31), pizza(31), hamburger(31), miso soup(30), omelet(29), salad(30),

rice(29), cake(28),curry and rice(26), French fries(26), steak(26), cream puff(3), What do you

want?(2), I want ~.(2), What would you like?(0), I'd like ~.(0)

【考察】

ア 多くの子どもが外国語活動の学習に楽しく取り組んでいる。(①)

イ ゲームやチャンツなどで英語を口にすることを好む子どもが多いが,英語を使った

やりとりで人のことを知れるよさに気付いている子どもは少ない。(②⑦)

Page 12: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

ウ 低・中学年のコミュニケーションの重点事項であるスマイル・アイコンタクトや,

中・高学年のクリアボイスを意識して生活している子どもが多い。(③④)

エ 外国の人に英語で挨拶しようとする積極性のある子どもが多いが,挨拶の後に続く

コミュニケーションを図ろうとする子どもは少ない。(⑤)

オ コミュニケーション場面で多くの子どもがジェスチャーを使って伝えようとするが,

あきらめてしまう子どももみられる。(⑥)

カ 英語を使ったスキット(劇)づくりはこれまでの学習では扱っていないが,関心を

もっている子どももみられる。(⑦)

キ 外来語としてなじみのある料理の英語はだいたい聞いて理解できている。(⑧)

【考えられる手立て】

ア 自分で英語を選択して使用するスキット作りを通して,ゲーム活動にはない英語で

表現する楽しさを味わわせることで,英語を使った本質的なコミュニケーションへの

関心・意欲・態度をより高めていけるようにする。

イ 外来語としてなじみのない英語や新しいセンテンスは,十分に聞かせることを心が

け,全体やグループで繰り返し発話させてから個人で使用させる場面を設定すること

で,一人一人が安心して言えるようにする。

ウ 基本のスキットと工夫したスキットを比較しながら振り返らせ,うなずくなどのリ

アクションやジェスチャーがコミュニケーションを豊かにしていることに気付かせ,

ふだんのコミュニケーションにも取り入れようとする意欲につなげるようにする。

(4) 学習の関連を図った指導に当たって

既習単元 本単元

関心・意欲・態度

ア 体調に合わせたジェスチャーを工夫し

て,豊かに表現しようとしている。

イ 病気に関する表現を使い,自ら進んでい

ろんな友達に話しかけようとしている。

ウ 相手の具合に合わせた表現及びリアク

ションを工夫しながらコミュニケーショ

ンをとろうとしている。

ア 学習した表現を使って,生き生きと表現

しようとしている。

イ いろんな友達に進んでインタビューしよ

うとする。

ウ 料理に関する場面で,状況に応じた表現

やジェスチャー,リアクションを返したり

し,やりとりを工夫しようとしている。

慣れ親しみ

ア 病気の表現をよく聞いてまねしたり反

応したりしようとしている。

イ 具合をたずねたり答えたりする英語を

使って活動している。

ア 丁寧な注文の言い方に気を付けて聞いた

り言ったりしている。

イ 料理に関する英語や,学習した「具合を

たずねたり答えたりする」表現などから,

場面に必要な表現を選んで使おうとしてい

る。

言語や文化に関する気付き

ア "ache"には「痛み」という意味があるこ

とや,日本語の「頭痛」「腹痛」「歯痛」の

「~痛」という表現との共通性に気付いて

いる。(言語)

イ 英語にも相手をいたわる表現があり,相

手に合わせたやりとりをすることが大切

であることに気付いている。(文化)

ア 外来語には英語以外の言語が語源になっ

ているものがあることに気付いている。

(言語)

イ 英語にも場面や相手に応じた丁寧な表現

があることに気付いている。(文化)

イ 日本の米の文化の豊かさや,食文化の交

流によって言葉も交流していることに気付

いている。(文化)

ウ いろんな国の食事の習慣の違いや共通点

に気付いている。(文化)

単語・表現例

headache, stomachache, toothache, cold,

fever, cough, What's wrong? I have a ~ .

Take care. Oh… Really? Me, too! Wow!

Too bad! Oh, my god!

rice, miso soup, sushi, curry and rice,

kimchi, pizza, hamburger, French fries,

omelet, salad, steak, cake, cream puff,

What do you want? /I want ~. What would

you like? /I'd like ~.

Page 13: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

(5) 目標

レストランでのスキットを通して,学習した英語の中から状況に応じた必要な英語を選

択し,生き生きと表現しようとする。

(6) 評価規準(コ:コミュニケーションへの関心・意欲・態度 慣:外国語への慣れ親しみ 気:言語や文化に関する気付き)

観点

コミュニケーションへの

関心・意欲・態度外国語への慣れ親しみ

言語や文化に関する

気付き

評価規準

・ 料理についてのやりとり

の場面で,状況に応じた表

現やジェスチャー,リアク

ションを返したりして,や

りとりを工夫しようとして

いる。

・ 料理に関する英語や,学習した

「具合をたずねたり答えたりす

る英語」などから,場面に応じた

必要な表現を選んで使おうとし

ている。

・ 英語でも,状況に応じ

て丁寧な表現を使い分

けていることに気付い

ている。

判断の要素

・ 相手の状況に応じた表情

・ リアクション

・ クリアボイス

・ アイコンタクト

・ What would you like?や I'd like

~.の表現の使用

・ What's wrong?/I have ~.などの

これまでに学習した表現の使用

・ 二つのスキットの比較

による表現に違いへの

気付き(相手,場面)

予想される(期待される)子どもの姿が現れないときの手立て

(コ) 毎時間の「意欲をもつ」の段階に既習単元で行ったマッチングゲームを取り入れることで,既

習単元の意識を持続させ,コミュニケーションに生かそうとすることができるようにする。また,

クリアボイス・アイコンタクトの観点カードを提示することで意識させる。さらに,手本となる

グループのスキットからよいところを見付けさせることで,よりよいスキットのイメージをもた

せるようにする。

(慣) 既習単元までに学習した英語を想起しやすくするために,これまでに使用したピクチャーカー

ドを準備し,いつでも見られるようにしておく。毎時間の「意欲をもつ」の段階に前単元で行っ

たマッチングゲームを取り入れることで,既習単元の意識を持続させるようにする。

(気) 子どもになじみのある日常の場面として,ファストフード店のやりとりと落ち着いた雰囲気の

レストランのやりとりを想起させることで,状況の違いによるコミュニケーションの違いに気付

かせるようにする。

(7) 指導計画(全5時間)

過程 時 主な学習活動 コ 慣 気 主な評価規準 評価方法

いろんな料理を言ってみよう。

1 チャンツをする。

2 キーワードゲームと並び替えゲー

ムをして表現に慣れる。

3 スキットを見て,丁寧な表現に気付

く。

4 単元の目標をつかむ。

学習した表現を使ってレストラン

のスキットをつくろう。

○ 英語にも場面や相手

に応じた丁寧な表現が

あることに気付いてい

る。

○ 外来語には英語以外

の言葉が語源になって

いるものがあることに

気付いている。

・言動観察

・振り返りカー

ドの分析

Page 14: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

丁寧な注文の言い方を言ってみよう。

1 並び替えゲームとグループ対抗ビ

ンゴゲームで表現に慣れる。

2 rice○○クイズをする。 ○ ○

○ 丁寧な注文の言い方

に気を付けて聞いたり

言ったりしている。

○ 日本の米の文化の豊

かさや,食文化の交流に

より言葉も交流してい

ることに気付いている。

・言動観察

・振り返りカー

ドの分析慣

習った英語を使ってスキットを作ろ

う。

1 予想ビンゴゲームで表現に親しむ。

2 スキットの作り方を知る。

3 グループで基本のスキットを作る。

○ ○

○ 友達に自分からイン

タビューしようとする。

○ 本単元の英語の中か

ら,場面に必要な表現を

選んで使っている。

・言動観察

・ワークシー

トの点検

・振り返りカー

ド分析

4(本時)

習った表現を使ってスキットを工夫

しよう。

1 ミッシングゲームで表現に親しむ。

2 スキットの工夫を話し合う。

3 グループでスキットを工夫する。

○ ○

○ 全単元までに学習し

た英語の中から必要な

ものを選択して,スキッ

トを工夫しようとして

いる。

・言動動観察

・ワークシート

の点検

・振り返りカー

ドの分析

振り返る

レストランのスキットを生き生きと

発表しよう。

1 ミッシングゲームで表現に親しむ。

2 スキットを発表する。

3 世界の食事の習慣の違いを知る。

4 学習を振り返る。

○ ○

○ 学習した表現を使っ

て,生き生きと表現しよ

うとしている。

○ いろんな国の食事の

習慣の違いや共通点に

気付いている。

・言動動観察

・振り返りカー

ドの分析

(8) 本時(4/5)

ア 目標

○ 友達と協力してスキットを作ったり,英語やジェスチャー等を使って表現したりし

ようとしている。(コ)

○ 学習した英語の中から,場面に必要な表現を選んで使おうとする。(慣)

イ 実際

既習単元の使用表現 本単元の使用表現

headache, stomachache, toothache, cold,

fever, cough, What's wrong? I have a

~ .Take care. Oh… Really? Me, too! Wow!

Too bad! Oh, my god!

rice, miso soup, sushi, curry and rice,

kimchi, pizza, hamburger, French fries,

omelet, salad, steak, cake, cream puff,

What would you like? /I'd like ~.

過程(分) 主な活動内容 ・教師の働きかけ(発問・留意点等)○評価(評価方法)

(10)

1 挨拶をする。

2 「元気がないね」マッチング

ゲームをする。

3 本時のめあてをつかむ。

習った表現を使って,

スキットを工夫しよう。

・既習単元でも行っ

たグループでの活動

を行うことで,既習単

元の意識を持続させ

るとともに,明るく楽

しい気持ちで英語や身体を使って表現する

雰囲気をつくる。

・ 前時までの学習内容を振り返らせながら,

めあてにつなげる。

I have a toothache….

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(5)

4 チャンツをする。

rice, miso soup, sushi, curry

and rice, kimchi, pizza,

hamburger, French fries,

omelet, salad, steak, cake,

cream puff

5 ミッシングゲームをする。

・ チャンツのリズムにのせて楽しく活動する

中で,英語らしい発音で言い慣れるようにす

る。

・ 隠されたカードの絵の内容を考えて発音す

ることで,音声とイメージの結び付きを確か

にできるようにする。

(25)

6 一つのグループの基本のス

キットを見て,もっと工夫でき

ることはないか話し合う。

・ 注文する前に,もう少し会

話を入れる。(天気や時間の

質問)

・ これまでに学習した英語を

入れて面白くする。(「元気が

ないね,どうしたの?」の英

語,「好きな教科は何?」の

英語,「数をたずねよう」の

英語)

・ 気持ちが伝わるようジェス

チャーやリアクションを工

夫する。

7 グループでスキットを工夫

する。

・ 有名高級レストランではもっと店員さんと

のやりとりを楽しむものだと知らせて,これ

ではつまらないことに気付かせ,ゆさぶりを

かける。

・ 学習した英語を想起しやすいようにこれま

でに使ったピクチャーカードを準備してお

く。

・ 出された意見は板書しておくことで,スキ

ット作りのときに振り返ることができるよ

うにする。

・ 分からない英語を教えたり,よい工夫を褒

めたりしながらグループを回る。

○ 学習した外国語の中から,場面に必要な表

現を選んで使おうとする。(慣:言動観察)

○ 友達と協力してスキットを作ったり,外国

語やジェスチャーを使って表現したりしよ

うとする。(コ:言動観察,ワークシートの

点検,振り返りカードの分析)

(5)

8 学習を振り返る。

〈子どもの振り返りカードから〉

・ がんばっていた子どもの姿を称賛すること

で,自信をもたせ,よい学習者のイメージに

つなげるようにする。

・ 次回は,スキットの発表会をすることを知

らせ,学習意欲をもたせて終わる。

お 客 さ ん が途中でお腹が痛くなるのはどうかな?

What would you like?

I'd like pizza!

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4 成果と課題

(1) 成果

ア 単元を関連付けて指導することによって,指導者にとっても外国語活動が他教科等と

同様に学習につながりや発展性があるものと捉えて指導することができるようになった。

イ 内容を関連付けることで,子どもが自分たちで場面に必要な表現を思考・判断して選

択し,自分たちの想いをより豊かに表現することにつながった。スキットのストーリー

に言葉による変化が付与され,面白味が増した。また,子どもにこれまでの学習内容を

振り返らせることで,自分が多様な外国語に慣れ親しんできていることに気付かせ,外

国語学習者としての成長を感じ取らせるよい機会となった。

ウ 「判断の要素」を事前に設定することによって,子どもの活動の様子から慣れ親しみ

の度合いを見取りやすくなり,支援を要する場面や子どもに,具体的な指導をしやすく

なった。また,それは裏を返せば指導者の指導の在り方が妥当であったかの判断の要素

ともなり,指導の改善にもつながると感じた。

(2) 課題

ア 内容の関連を図ることの有効性が明らかになったので,今後は年間指導計画のどの単

元でどのようなつながりをもたせれば,子どもの思考力・判断力・表現力の育成に効果

があるかを探究したい。また,異学年間の内容についても同様に検証する必要がある。

イ 全ての単元で「判断の要素」を設定し,全ての指導者が同じ視点に立って指導に当た

れるようにすることで,どの学級のどの子どもにもその子の実態に応じた支援が図られ

るようにし,全校を挙げた思考力・判断力・表現力の育成につなげたい。

おわりに

本研究を通して,外国語活動を系統的に捉え既習単元を関連付けて指導することが,外国語

活動における思考力・判断力・表現力の育成に有効であると,以前にも増して強く感じられる

ようになった。これまでは,本単元で学習する外国語ばかりに焦点を当てて指導してきた。と

ころが,今回は子どもたち自身に必要な既習表現を取捨選択する機会を与えてスキットを工夫

させることで,子どもの創造性を刺激し,より豊かに表現しようとする意欲につながることが

分かった。このようにして自分で選んだ外国語で表現し,伝え合う楽しさを味わった経験のあ

る子どもたちは,これから先の学習や生活の中で出合う外国語や外国の方,異文化に豊かな心

で進んで関わろうとすると考える。

思考力・判断力・表現力は学校教育全体で育成されるものである。外国語活動のもつ可能性

を最大限に活用していきたい。

Page 17: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

事 例 2 既習単元での表現活動を生かした4技能の統合的な活動

薩摩川内市立川内南中学校

教 諭 德重 忠彦

はじめに

本校は県の北西部に位置する人口約10万人の薩摩川内市の南部にあり,豊かな田野に囲まれた閑寂

な宮崎原大地にある創立54年の学校である。校区内には少年自然の家や私立高等学校,福祉施設が多

く,教育や文化的環境に恵まれている。全校生徒は18学級(特別支援3学級)541人,各学年5学級の

中規模校である。

本校の英語科は6人(加配2人を含む)の職員で構成され,少人数指導等のきめ細やかな指導を行

うための体制を整えていただいている。現在は1年生においてTT(ティームティーチング)2年生で

は少人数指導を行っており,本校の教育目標である「夢かなえる,力はぐくむ,心豊かな生徒の育成」

に向けた生徒一人一人の個性を伸ばす指導を行っている。意欲的に学習や部活動に取り組む生徒も多

く,文化面での受賞や部活動では県大会での活躍がみられる。

しかし,昨年度の「基礎・基本」定着度調査では県の平均を若干下回り,本年度の標準学力調査NRT

においては2年生の平均偏差値が45.6と全国平均を大きく下回った。特に「読むこと」「書くこと」の

通過率が低く,中でも「書くこと」においては全国平均の7割程度の通過率であり,学力向上への取

組が急務である。

1 研究の視点

(1) 外国語科(英語)おける「思考力・判断力・表現力」を育成する言語活動

ア 4技能を統合的に活用させる言語活動

今回研究を行った第2学年においての思考力・判断力・表現力については,学習指導要領に

もあるように,第1学年の学習を基礎として,言語の使用場面や言語の働きを更に広げた言語

活動で図ることができると考える。その際,教科書本文の内容理解に基づいて事実関係を伝え

たり,物事について判断したりした内容を用いてコミュニケーションを図れるような話題を取

り上げることが大切であると考える。

具体的には,教科書の題材が Unit 3の「将来の夢」のように生徒の生活体験に近いものであ

れば,教科書の登場人物の意見を踏まえた自分自身の意見や感想を述べる表現活動を設定でき

る。一方,Unit 4の「ホームステイ体験」のような生徒の生活体験と直接的に関わりの少ない

題材であれば,内容の一部を生かし,「留学生へのアドバイス」を含む自己紹介といった,生徒

が必然性をもって取り組むことができる言語活動を行っていくことが効果的であると考える。

イ 表現活動における指導の工夫

理解した内容を基に自分の考えを書くといった4技能の統合的な活動を行うに当たって,最

も大きな課題は,必要な語彙や文構造を自分のものとして使用できるかである。基本的な語彙

や文構造の知識はあるものの,実際にその語彙・文構造を活用してまとまりのある英文を書く

ことのできる生徒は少ない。そこで,1時間でまとまりのある英文を書く指導を行うよりも,

毎時間少しずつ継続して活用させ,前時までの内容を繰り返しながら積み上げていく指導を行

うことが効果的であると考える。

本実践においては,理解した内容に関して考えたことを書く活動であるが,これまでの学習

では,各時間の内容が単発的になっており,そのことがまとまりのある英文へとつながらない

原因であると考えた。そこで各時間ごとに What do you think of his advice?等の英問で生徒の考え

を引き出しながら表現活動の工夫を行う。また単元を通した活動として,前時までの内容を繰

り返し復習できるように,毎時間少しずつ内容が増えていくワークシートを使用することした。

また,既習事項を活用しながら書く内容についての発想を広げたり,語彙や文構造に慣れる

ために既習事項を用いて対話活動を行う"Expression Time"(以下 ET)を帯活動として行い,基

本文と同様にワークシートで少しずつ繰り返す指導を行った。

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(2) 学習の関連を踏まえた「判断基準」の設定

ア 「判断基準」の設定

本研究においては,生徒の学習段階に適する表現や内容の目安を「判断基準」として設定し,

到達目標及び見取りを的確に行えるような工夫を行っている。

言 語 活 動 の 設 定 題 材 を 基 に し た 4 技 能 の 統 合 的 な 活 動

(例) 教科書を読んで,その内容について

自分の考えを書く活動

評 価 規 準 の 設 定 目 標 に 照 ら し た 生 徒 の 具 体 的 な 学 習 状 況

(評価規準に基づいて)

生徒の記述等に含まれるべき要素(判断の要素)

「判断基準」の設定 を考え,「判断基準」として端的に表す。(判断基準 B)

は,授業で目指すレベルを示す。

予想される表現例 「判 断 基 準 」を 基 に , 予 想 さ れ る 表 現 例 を

の作成 作 成 す る 。

「判断基準」の設定手順

まとまりのある英文としてどの程度書いたとき「おおむね満足できる」状況なのかを判断す

る根拠として,事前に「判断の要素」を設定した。それを基に各単元ごとの判断基準B(「おお

むね満足できる」状況)を作成し,予想される「生徒の表現例」を設定した。そのことによっ

て具体的な指導目標の設定や計画的な指導を行うことができる。

さらに,生徒の「外国語理解の能力」や「外国語表現の能力」は継続的な指導の中で高まること

から,事前に指導した単元の言語活動を考慮し,指導計画を立てることにした。これが学習の

関連である。

たとえば,既習単元の Unit 3においては「将来の夢」に対する意見やアドバイスをインターネッ

トの掲示板で交換する題材であり,本単元の Unit 4では「ホームステイ」に際してのトラブル

に対する相談に先生が意見やアドバイスを与える題材である。そこで,この二つの単元を通じ

て,他者の意見を基にして,自分自身の意見や他者へのアドバイスを述べる言語活動を行うこ

とができると考えた。学習内容の関連を,二つの単元に共通する「判断基準」として設定し,

生徒が Unit 3で学習した自分自身の意見やアドバイスの述べ方や英文のつながりを意識した表

現方法を Unit 4でも活用できると考えた。

評価規準(Unit 3) 評価規準(Unit 4)

2つの単元に共通する「判断の要素」

「おおむね満足できる」状況

「外国語表現の能力」「外国語理解の能力」の高まりを見取る「判断基準」

予想される生徒の表現例 予想される生徒の表現例

(判断基準 B) (判断基準 B)

学習における単元間の関連の考え方

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イ 学習内容を関連させることによる「外国語表現の能力」の向上の工夫

2つの単元の学習内容を題材や言語の使用場面から関連付けることにより,Unit 3で学習し

た表現方法を Unit 4で活用させ,効果的に外国語表現の能力の向上が図れるよう指導すること

ができる。具体的な指導の工夫として,次の3点を挙げる。第一に学習課題の工夫である。二

つの単元の題材を検討し,既習単元での表現活動の結果を本単元の「自分自身の意見やアドバ

イスを他者に述べる活動」に含められるように計画した。第二に,表現活動に必要な語彙や英

文の習得である。学習課題を解決するために,どちらの単元においても生徒が自分自身のこと

を相手に分かりやすく伝える場面が設定されていることから,本単元においては,既習単元で

の活動で慣れ親しんだ英文を発展させる形で指導を行うことが可能である。第三は,指導過程

の共通化である。内容は異なるが,既習単元と共通したワークシートや英問英答を用いること

で,生徒の活動がスムーズに行われ,自主的,意欲的に表現活動に取り組むことができる。ま

た,そのことで,生徒が自身の表現の能力の高まりを実感することができると考えた。

2 授業設計の考え方

(1) 「判断基準」を生かした指導と単元の指導計画の在り方

評価規準に基づく判断基準Bや予想される生徒の表現例を設定しておくことで,一つの単元に

対して見通しをもった取組を計画することができ,評価の際も具体的な項目を念頭に評価できる

ため,評価後に次への指導を計画的に行うことができる。また,生徒にとっても具体的に何をど

のくらい書くことができればゴール(判断基準B)に到達できるかがはっきりと見えるため,意

欲的に活動に取り組むことができる。実際の授業の中では,下の表にあるように各時間に帯単元

として設定した ET(Expression Time)において,対話やワークシートによる英問英答を行い,少し

ずつ表現や語彙を増やしていき,単元の終末で ET の内容をつなげることによってまとまりのある

英文が作成できるような指導計画を立てた。

時 <統合的な言語活動を目指した指導> 評価を生かした指導

1 自己紹介の表現①(名前,好きなもの)

2 学校生活に関する助言の表現 ・判断基準Bに照らし合わ

3 自己紹介の表現②(家での過ごし方) せて評価。

4 自己紹介の表現③(自分の気持ち) ・判断基準Bに到達しない

5 自己紹介の表現④(将来の夢) 場合は個別指導。

6 自己紹介の表現⑤(理由付け)

7 テーマについてまとまりのある英文 ワークシートを基に評価す

を書かせる。 る。

(2) 既習単元の学習内容の生かし方

研究の視点で述べたように,今回の研究では第1学年の学習を基礎として,言語の使用場面や

言語の働きを更に広げた言語活動を行うことと,第1学年の学習内容を繰り返し指導し定着を図

ることに留意した。同時に第2学年1学期に学習した内容も取り入れることで,今まで学習した

内容のまとめになるように計画した。また,既習単元で行った言語活動の内容を取り入れること

で生徒は単元間のつながりも意識して今回の活動に取り組むことができると考えた。具体的には,

既習単元で学習した I want to be ~.を使用して,自分の将来の夢とその理由を述べることとした。

3 検証授業

(1) 学習指導案

ア 単元名 NEW HORIZON 2 Unit 4 Homestay in the United States

イ 単元について

(ア) 題材観

ホームステイの体験を通じて,相互の思いはコミュニケーションによって通じ合うことを

改めて学ぶことができる。具体的には,ホームステイ先の家庭内のルールに従って生活する

ことや,ホームステイ期間中に起こりがちなトラブルとその解決方法の糸口を知ることを通

じ,「コミュニケーション」の大切さ,すばらしさ,難しさについて間接的に考えることので

・判断基準Bに

基づき,毎時間

10分程度の ET

を行い,必要な

表現や語彙に習

熟させる。

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きる教材である。ただし,ホームステイの経験がない生徒にとっては身近に感じることが難

しい内容であるため,表現活動の中では「もし自分の学校に留学生を迎えるとしたら何をア

ドバイスするか」ということを考えさせ,コミュニケーションの重要性を認識させながら活

動させていく。

言語材料をとしては,have to~, must~, must not~, will~等の義務や強い禁止を示す助動詞及

び,単純未来の文構造を扱うが,これまでに学習した文構造で表現の幅を広げていくことが

できる。

(イ) 生徒観

2年生は全体的に明るい雰囲気であり,一つ一つの学習活動に積極的に取り組む姿勢がみ

られる。例えば,全体で行う発音練習やスピーチ練習においては意欲的に活動する生徒が多

い。しかし,各生徒間の学力に開きが大きいため,2年生は少人数指導を取り入れている。

5学級のうち3学級は4コースに,2学級は3コースに分けて指導を行っている。

今年度の NRT(全国標準学力検査)では特に「読むこと」「書くこと」の領域において通過

率が低い。このことから,まとまりのある英文を書く活動を設定する場合,生徒の発想や使

用する語彙,そして英文を段階的に指導する必要がある。また,既習単元において行った「書

くこと」の活動で,「判断基準」に基づいての評価は A(1人)B(11人)C(11人)であっ

た。今年度は各単元で書く活動を設定しており,これまでの活動を生かした段階的な活動を

組み立て,スムーズに生徒が取り組むことのできる手立てを行う。

(ゥ) 指導観

本単元の指導に当たっては,身近に感じることが難しい内容であるため,ホームステイ等

の異文化生活で感じる戸惑いとその解決方法について読み取らせ,それらを参考にして,自

分の学校に留学生が迎えたらどのように話しかけていくかを表現活動として取り入れる。表

現活動の視点として,留学生の心を開く自己紹介と学校生活を送る上でのアドバイスを,ま

とまりのある英文で作成させる。まとまりのある英文は,1時間で作成させるのではなく,

単元の各時間に設定した ET(Expression Time)の時間で少しずつ表現を作り出し,英語の不

得意な生徒も作成できるように指導していく。

また,既習単元では,将来の夢について登場人物との対比において,5文程度の英文で表

現させている。この活動内容の表現における視点のもち方や表現した内容そのものを本単元

に生かすことで,生徒に学習の効用感を得させることができると考えている。

ウ 単元の目標

(ア) 周りの生徒と協力して,進んで自分の考えを話したり書いたりして,課題を解決しようと

している。

(イ) ホームステイについての内容を踏まえて,留学生への自己紹介とアドバイスを書くことが

できる。

(ウ) ホームステイの出来事について読んで理解することができる。

(エ) 助動詞 have to~, must~, must not~, will~の形・意味・用法を理解している。

エ 単元の評価規準

ア コミュニケーション イ 外国語表現の能力 ウ 外国語理解の能力 エ 言語や文化につ

への関心・意欲・態度 いての知識・理解

① 意欲的に自分の気持 ① 留学生に対して,滞 ① ホームステイでの ① 新出単語や新出

ちや考え等を書いてい 在のアドバイスを含め 問題と解決方法につ 文法の助動詞等を

る。 た,歓迎のメッセージ いて,自分のことと 用いた文の形・意

② 既習単元の英文,教 を伝える英文を書くこ 比べながら読んで, 味・用法を理解し

科書の本文や辞書等を とができる。 理解している。 ている。

用いて表現しようとし ② 伝えたい内容を整理

ている。 し,まとまりのある英

文を話したり,書いた

りすることができる。

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「判断基準」について,前単元とのつながりを考慮し,以下のように設定した。

【Unit 3 My Future Job】 【Unit 4 Homestay in the United States】

(既習単元) (本単元)

評価規準(外国語表現の能力)

○ 将来の職業と英語学習について対話文を読み, ○ ホームステイの注意点についての記述を読み,

これまで学んだ表現を用いて,職業選択について これまで学んだ表現を用いて,日本に来た留学

の自分の感想や考えを5文以上の英文で書くこと 生に対してのアドバイスを含んだメッセージの

ができる。 カードを7文以上の英文で書くことができる。

評価時期及び評価の対象(思考,判断に基づく表現内容)

○ 8時間構成の第8時における終末時 ○ 7時間構成の第7時における終末時

○ 内容理解を基にした感想や考えの記述 ○ 内容理解を基にした助言,忠告とその理由に

ついての記述

判断の要素

ア 内容に関する記述 ア 内容を基にした記述

イ 自分の気持ちや価値に関する記述 イ 自分の気持ちや価値に関する記述

ウ 今後の自分の行動に関する記述 ウ 相手の行動に関する記述

エ 既習事項の活用 エ 既習事項の活用

オ 英文の量 オ 英文の量

判断基準B

ア トピックを提示している。登場人物について ア 留学生と仲良くなるためのメッセージカー述べている。 ドで歓迎の気持ちを述べている。

イ 登場人物の将来の職業に関して,自分の気持 イ 自分自身の身近なことについて紹介していちや価値を述べている。 る。

ウ 自分の就きたい職業とこれからの自分の行動 ウ 学校生活に関する助言をしている。について述べている。 エ 忠告や助言に使われる既習事項を活用して

エ 不定詞,未来形等の既習事項を活用している。 いる。オ 5文以上の英文で述べている。 オ 7文以上の英文で述べている。

【予想される生徒の表現例】 【予想される生徒の表現例】

I'm going tell you about the future job. Sakura wants to Welcome, Jack

use English in her future job. It sounds exiting. I want to I am Tadahiko. I like AKB48 very much. My

be a teacher. So I am going to study English. favorite singer is Mariko. I listen to CDs in my free

time. That's fun. I want to be a singer, because I like

to sing songs. Well, in this school, you have to clean

your classroom. It's important.

C状況の生徒への指導(補充指導)

教師の指摘を基に,B状況にある生徒に助言を求 教師の指摘を基に,B状況にある生徒に助言を

め,修正・加筆をさせる。 求め,修正・加筆をさせる。

判断基準A

(判断基準Bに加えて) (判断基準Bに加えて)

○ 自分の気持ちや価値を示し,更に考えや理由 ○ 学校生活に関する助言を,相手に理解でき

を述べている。 るように説明している。

○ 辞書等を活用し,接続詞や副詞等を効果的に ○ 辞書等を活用し,接続詞や副詞等を効果的

用いている。 に用いている。

○ その他,B状況以上にあると認められるもの。 ○ その他,B状況以上にあると認められるも

の。

B状況の生徒への指導(深化指導)

現在ある内容を確認し,辞書等を活用しながら,「自 現在ある内容を確認し,辞書等を活用しながら,

分の職業と希望する理由について具体的に述べてい 「学校生活に関する助言がなぜ大切なのか」等の

る」等の視点から指導する。 視点から指導する。

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オ 指導と評価の計画(全7時間)

時 ○ 学習活動 ET … Expression Time 単元の評価規準 評価方法間

○ 本単元のホームステイについてのあらましを聞いて把握する。

1 ○ 新出単語の確認をする。 エ-① 後日ペーパーテスト

○ ET …自己紹介の表現をする① I am Tadahiko.(名前,好きなもの) I like AKB48 very much.

○ 助動詞 have to~, don't have to ~を用いた文の構造を理解 エ-① 後日ペーパーテする。 スト

2 ○ ホームステイの心得について読み取る。(P40) ウ-① ワークシート

○ ET …学校生活に関する助言について表現 Well, in this school, you haveする。 to clean your classroom.

○ 助動詞 will~を用いた文の構造を理解する。 エ-① 後日ペーパーテスト

3 ○ make という単語を通して,日本語と英語の表現の違い ウ-① ワークシートを読み取る。(P41)

○ ET …自己紹介の表現をする② I listen to CDs in my free

(家での過ごし方) time.

○ 助動詞 must~ , must not ~を用いた文の構造を理解する。 エ-① 後日ペーパーテスト

4○ ET …自己紹介の表現を

する③ That's fun.(自分の気持ち)

○ 日本とアメリカの意思伝達の違いや助言の仕方につい ウ-① 宿題プリントて読み取る。(P42)

5○ ET …自己紹介の表現を

する④ I want to be a singer.(将来の夢)

○ 問題解決の考え方について読み取る。(P42) ウ-① 宿題プリント

6 ○ ET …自己紹介の表現をする⑤ Because I like to sing songs.(理由付け)

○ 前時までの教科書本文の内容について再確認する。

○ 「もし自分の学校に留学生を迎えるとしたら何をアド 観察7 バイスするか」をテーマに,留学生を歓迎する自己紹介

するとともに,生徒同士でロールプレイングを行う。本時 ○ 留学生への助言というトピックを設定し,表現する。 ア-①,② 観察

・ 歓迎や自己紹介を含んだ助言を書く。 イ-①,② ワークシート・ 自己紹介や助言についてまとまりのある7文以上の

英文を書く

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カ 本時の学習活動(7/7)(ア) 目標

日本に来た留学生に対してのアドバイスを含んだメッセージカードを7文以上の英文で書くことができる。

(イ) 本時の実際

学習活動 生徒の活動 分 ○指導上の留意点 □評価

1 挨拶 1 英語で挨拶する。 2 ○ 英語学習の雰囲気をつくる。曜日,月日,天気を確認する。

2 タスクの確認 2 本時のタスクを把握する。 ○ 本時のタスクを把握させ,意欲的に学習に取り組ませる。

もし自分の学校に留学生を迎えるとしたらどんなを助言するか

3 授業の流れの確認 3 本時の授業の流れを把握する。 ○ 前時までの内容を思い出しながら,すべての文をつなげて自

一人で練習 己紹介と助言を行うように指導↓ する。

となりと練習 20↓

席を立って RP↓

ワークシートに英作文

4 各自で練習 4 前回までに作成した文の再確 ○ 判断基準Bを満たすよう個別認をする。 の指導も行う。

5 ペアワーク 5 となりの生徒と暗記やジェス ○ 取り組む前にジェスチャーのチャーの確認をする。 確認(目線や身振り等)を行う。

6 ロールプレイング □ 各グループを巡回しながら,適切に取り組めているかを観察する。

7 自己表現 ○ 留学生への歓迎のメッセージ 25 ○ ロールプレイングを参考にしや助言について7文以上の英文 て,できるだけ多くの英文を表で表現する。 現するように促す。

8 自己評価 ○ 挙手を行い教師の確認を受け ○ C状況の生徒には,教師の指る。 摘を基に,B状況にある生徒に

助言を求め,修正・加筆をするように指導する。

9 次時の予告 ○ 次時の予告を聞く。 ○ 学習の見通しをもたせ,次時2 への学習意欲を喚起する。

10 挨拶 ○ 元気よく挨拶する。

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キ 指導を振り返っての考察

既習単元の学習内容とのつながりを考えながら,今回まとまりのある英文を作成することを指導

した。既習事項を用いてテーマについて表現する活動(ET)を繰り返し継続して行うことは,4技

能の統合的な活動へとつながる。判断基準Bを設定したことで教師,生徒ともに到達目標を明確す

ることができ,各時間の ET での小さな積み重ねが大きなまとまりのある英文へと発展していくこ

とで,生徒は達成感と,ほとんどの生徒が不得手とする英文作成の方法を生徒自身が学習すること

ができたと考える。また,英文作成にはそのテーマに対する生徒の表現に対する必然性が重要であ

るということを改めて感じた。同じ語彙や表現を使用しても,そのテーマに対する生徒自身の思い

が強ければ,意欲的に英文作成に取り組むことが分かった。

第7時の活動では,相手を留学生に見立てて自己紹介と日本の学校生活に関するアドバイスを行

い,その内容をワークシートにまとまりのある英文として記述させて評価を行った。判断基準Bを

全て満たしたB状況の生徒は21人(91%),判断基準Bのいずれかを満たしていないC状況の生徒は

2人(9%),判断基準Bを超えたと認められるA状況の生徒は0人であった。この状況を既習単元の

Unit 3で行った評価と比較するとB状況の生徒が10人増加し,C状況の生徒が9人減少した。

このことから,単元を関連づけて同じように繰り返し指導を行うことが効果的であると考える。

また,A状況の生徒が今回0名であった原因は,ET の段階で全体的にC状況の生徒を少なくしよう

と考え,発展的な文を書く指導を個別に行うことができなかったためと考える。

既習単元(Unit3) 本単元(Unit4)

生徒作品の評価結果(生徒数23人) 生徒作品の評価結果(生徒数23人)

1 11人 11人 21人 2

A状況 B状況 C状況 B状況 C状況

ク 評価結果に基づく補充・深化指導

判断基準 B 予想される表現例

ア 留学生と仲良くなるためのメッセージカードで Welcome, Jack. I am Tadahiko. I like AKB48

歓迎の気持ちを述べている。 very much. My favorite singer is Mariko. I listen

イ 自分自身の身近なことについて紹介している。 to CDs in my free time. That's fun. I want to be

ウ 学校生活に関する助言をしている。 a singer, because I like to sing songs. Well, in

エ 忠告や助言に使われる既習事項を活用している。 this school, you have to clean your classroom.

オ 7文以上の英文で述べている。 It's important.

(ア) 判断基準Bに基づき,「努力を要する」と判断した生徒について

〈見取り〉

○アイウ 自分の気持ちや相手へのアドバイスを書

いている。

△エ 既習事項を活用しているが,大文字と小文字

の誤用やスペルミスが見られる。

△オ 7文であるが,話題が単発でつながりのある

文になっていない。

I am Maria. I like chikens. I run in my free time. I run around my school. it is fun. I want to

be a baker. Becouse I like it. Well, you have to wear White Shose here.

〈補充指導の例〉

△エ 既習事項の活用における誤りの指導については,生徒

相互あるいは,教師の指摘により誤りに気付かせる。

△オ 7文以上の英文で判断基準Bを満たしており,まとま

りのある他の生徒の作品を参考にさせる。

Page 25: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

〈目指す変容〉

Hello. I am Maria. I like running. I run around my school in my free time. It is fun. I want

to be a baker. Because I like bread very much. Well, you have to wear white shoes in this school.

(イ) 判断基準Bに基づき,「おおむね満足できる」と判断した生徒について

〈見取り〉

○ア 歓迎の気持ちを述べている。

○イ 自分自身の紹介をしている。

○ウ 学校生活に関する助言をしている。

○エ 助言に使われる既習事項を活用してい

る。

○オ 7文以上のまとまりのある英文である。

Hello. I am Hibiki. I like games. I play games in my free time. I practice kendo. I'm happy.

I want to be a comedian in America. Because I want to speak English well. Because I want to go to

America. Well, you have to speak Japanese here.

(判断基準A)

○ hard や well などの副詞を効果的に用いて,自分自身の紹介を充実

させるようモデルを示す。

○ 書いた作品を発表する中で,How about you?など相手に質問する

文を加えることで,相手とのコミュニケーションが広がることに気

付かせる。

〈目指す変容〉

Hello. I am Hibiki. I like kendo. I practice it after school every day. Because I am in the kendo

club. How about you? What sports do you like? Well, I want to be a comedian in America.

Because I want to go to America. I am going to study hard to speak English well. So I am going to

talk with you in English. But you have to speak Japanese here.

4 成果と課題(1) 成果

ア 「書くこと」の言語活動において「判断基準」を設定したことにより,到達目標が明確なものになり,生徒が不安を抱くことなくスモールステップでまとまりのある英文を作成することができた。

イ 二つの単元を関連付けて,繰り返し自分の意見や感想を述べる活動を行った。既習単元ではうまく書けなかった生徒も,本単元では書くことができたことで学習への効用感を得ることができたと考える。

ウ これまで単発でしか取り組めなかった表現活動を,教科書の内容を踏まえながら,思考力・判断力・表現力を育成する統合的な活動へと変えることができた。

(2) 課題ア 4技能を統合的に活用させるためには,教科書等の内容理解をもっと深く行う必要がある。理解が深まることで表現する内容も多様になると考える。

イ 今回取り組んだ二つの単元間の関連させた指導を,3年間のを見通して行うことができるようこれまでの指導計画を見直す必要がある。

ウ 教科書の内容を吟味して,生徒が必然性をもって取り組むよう4技能を統合的に活用させる活動を設定する必要がある。

エ 評価規準及び「判断基準」の妥当性について,今後も検討していく必要がある。

Page 26: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

既習単元の題材(異文化・人種差別など)を生かした表現活動

鹿児島県立川薩清修館高等学校

英語科 出水田 隆文

はじめに

本校は平成19年4月開校の新設校である。前身となった樋脇高校と入来商業の伝統を受け継ぎ,総合学科(文理・

スポーツ・情報の3系列)とビジネス会計科の2学科4学級からなる。今年度3月には4期生の卒業式を実施した。

生徒の進路希望先は就職希望と進学希望が半々である。毎年数名の生徒が国公立大学へ進学する。概ね素直な生徒

が多いが,基礎学力不足と考えられる生徒が多数を占める。英語の授業ではアルファベットの定着からはじまり,英

語らしい発音,基礎的表現の定着を共通した目標として取り組んでいる。

基礎事項の定着を優先事項として取り組んでいるため,授業がトレーニング主体のものとなってしまい,自らの意

見・考えを表現させるといった思考力・判断力を向上させるような指導が不十分になりがちである。

思考力や表現力はレッスン一つだけで育成を完結できるものではなく,1年間ひいては3年間を通じて継続的に育

成を目指すべきものと考える。そこで,本研究にあたり,単に教科書に書いてあることを理解するだけでなく,それ

に関する自分の意見や考えを英語で表現させる活動を複数単元にわたり設定し,「生徒の思考力・判断力・表現力」の

育成に継続的に取り組もうと計画した。

授業においては,基礎的事項の定着を図るトレーニング的な指導と内容理解を重視した指導を平行しながら行って

いる。英文の理解を進める訓練を行いながら,内容に迫る設問をいくつも設定することを目標として授業設計に取り

組んでいる。

1 研究の視点

(1) 外国語科(英語)における「思考力・判断力・表現力」を育成する言語活動と評価

ア 4技能を統合的に活用させる言語活動

本校では,授業に基礎事項定着に多くの時間を割くため,英語で自分の考えを表現させる機会が少ないとい

う課題があった。文法などの言語材料の意味や機能を理解するだけでなく,学習内容に関する自らの考えをま

とめさせることで生徒はより深く,書いてあることの中身を理解するのではと考えた。またそのような練習を

繰り返し行うことで,他の場面でも自らの意見を英語で表現できる機会を増やすことが効果的であると考える。

具体的には,教科書の題材がLesson2で「人種差別」のように社会的・歴史的な問題に関するものであれば,

教科書の登場人物の生き様に関する英文を読んで自らの考えを書く表現活動を設定できる。また,Lesson5 の

「戦争に対する怒りを芸術で表現」のような,既習単元と同じように社会的・歴史的問題の中で行動を起こし

た人物に関する単元を通して自らの考えを書く表現活動を設定すれば,既習単元での学習内容との関連を踏ま

えた表現活動を設定できる。

イ 表現活動における指導の工夫

理解した内容を基に自分の考えを書くといった4技能の統合的な活動を行うに当たって,課題となることは

「自分の考えをどうまとめるか」「自分の考えをどのように英語で表現するか」の2点である。「自分の考えを

どうまとめるか」については,単元の内容を学習する際に主人公の心情に迫るようなQ&Aを多く設定したり,

"What can you see in Guernica?"といった設問を設定したりして,考えを深められるよう工夫した。「自分の

考えをどのように英語で表現するか」については,本文中の表現を活用できるようなタスクを設定したり,表

現活動に使えそうな表現をタスクを通じて例示したりして生徒の表現の幅が広がるように工夫した。さらにク

ラスメイトの作品を何度も相互鑑賞させて,同じ題材を読んだクラスメイトがどのような表現を使っているの

かを参照したり,教え合ったりする機会を設けた。

事例 3

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(2) 学習内容の関連を踏まえた「判断基準」の設定

ア 「判断基準」の設定

本研究においては,生徒の学習段階に適する表現や内容の目安を「判断基準」として設定し,指導及び評価

を的確に行えるような工夫を行っている。

言語活動の設定 題材を基にした4技能の統合的な活動

(例) 教科書を読んで,その内容について自分の考

えを書く活動

評価規準の設定 目標に照らした生徒の具体的な学習状況

↓(評価規準に基づいて)↓

「判断基準」の設定

生徒の記述等に含まれるべき要素(判断の要素)を

考え,「判断基準」として端的に表す。判断基準Bは

授業で目指すべきレベルを示す。

予想される表現例の作成 判断基準Bを基に,予想される表現例を作成する。

「判断基準」の設定手順

まとまりのある英文としてどの程度書いたとき「おおむね満足できる」状況なのかを判断する視点として,

事前に「判断の要素」を設定した。「判断の要素」から単元ごとの判断基準B(「おおむね満足できる」状況)並

びに予想される「生徒の表現例」を設定した。これにより目標達成に向けた計画的な指導を行うことができる。

さらに,生徒の「外国語理解の能力」や「外国語表現の能力」は継続的な指導の中で高まることから,事前

に指導した単元の言語活動を考慮し,指導計画を立てることにした。これが学習の関連である。

今回の実践で生徒が学習した教材では,既習単元Lesson2 で人種差別の事例を読んで,自らの意見や感想を

3文以上の英文で記述ことを生かし,本単元のLesson5 はピカソの作品ゲルニカに関する会話文を読み,自ら

の考えや意見を5文以上の英文で記述することとした。社会的・歴史的事実に関して思考を深め,自ら考え判

断しそれを英語で表現するという点で,既習単元で用いた言語材料などを本単元でも活用できると考えた。

評価規準(Lesson2) 評価規準(Lesson5)

↓ ↓

二つの単元に共通する「判断の要素」

「おおむね満足できる状況」

↓ ↓

「外国語表現の能力」「外国語理解の能力」の高まりを見取る「判断基準」

↓ ↓

予想される生徒の表現例

(判断基準B)

予想される生徒の表現例

(判断基準B)

学習における単元間の関連の考え方

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イ 学習内容を関連させることによる「外国語表現の能力」の向上の工夫

二つの単元に共通する統合的な活動を設定することで,既習単元で学習した表現を本単元で活用するなど外

表現の能力の向上について効率的に指導することができる。具体的な指導の工夫としては以下の3点である。

第一に学習課題の設定である。生徒にとって遠い世界の話になりがちな難しい内容の教材をただ単に英文を

読みその意味を日本語で理解するだけで終わるのではなく,読んだことに対する自らの考えをまとめそれを英

語で表現するという活動を設定することで,題材をより身近なものとして学習することができる。第二に,自

らの考えや意見を述べるのに必要な表現や語彙の習得である。第三に生徒が自分自身の能力の向上を実感する

ことができることである。既習単元で学習したことを本単元でも発展的に用いることができるように学習課題

を設定することで,表現したいことをより深めて表現できるようになると考えた。またそれにより,「以前より

もたくさん表現できた」という実感をもつことができるだろうと考えた。

2 授業設計の考え方

(1) 「判断基準」を生かした指導と単元の指導計画の在り方

「判断基準」を示すことで何についてどのくらいの量を考え,表現すべきか意識しながら授業に臨むことがで

き,学習課題の設定や語彙の提示などに活かすことができる。それにより,指導がより具体的になり,評価も

具体的で明確な基準を設けて行うことができる。生徒も求められている量と,何についてどのように記述する

べきかがはっきりしているので明確な目標をもって表現活動に取り組むことができる。

学習した内容に関して自分の考えを表現するためには,学習内容の深い理解が必要である。そこで,人物の

心情に関する設問等を繰り返し設定することが必要であると考え実践に取り入れた。

その二つを同時並行的に深めるための学習課題に取り組みながら,クラスメートとの関わりを通して他者の

意見を聞くことで,思考を深められると考える。

(2) 事前単元の学習内容の生かし方

これまでの授業では書かれている英文の意味をとる,つまり,英文を日本語に訳すことを理解として捉え,

英文の内容について深く思考する指導が十分ではなかった。そのため,今回の研究では,読んだことに関して

自分はどう思ったかを,思考・判断させそれを英語で表現させることとした。既習単元ではオーストラリアの

先住民アボリジニが題材であり,シドニーオリンピックで金メダルを獲得したキャシー・フリーマンに関する

英文を通して,人種差別を受けたアボリジニの心情とスポーツを通して融和を訴えたキャシーの行動への理解

を深め,自らの感想や気持ちを表現させた。本単元ではピカソの大作「ゲルニカ」に関する英文を読んで,バ

スク人への民族差別や無差別攻撃の悲惨さなどを理解し,芸術を通して平和を訴えたピカソの気持ちを感じ思

考を深めた。人物の心情に迫りそれに対する自らの意見を表現する活動としてこの二つの単元の関連を意識し

て指導を行った。

それにより,既習単元で使った表現を再び使うことで習得の機会を作り出すことができ,更に表現する量な

ども増やすよう指導することができると考えた。具体的な言語材料としては I was 形容詞 to know ~.や I

think(feel)~.など既習の言語材料を用いて表現することとした。

単元 内容 設定した自己表現活動

Lesson 2

(既習単元)

「Cathy Freeman」

シドニーオリンピックで金メ

ダルを獲得したアボリジニ出

身のCathy Freemanの活躍

(1) Why did she hold both an Australian flag and an

Aboriginal flag? What did she want to say to the world?

(2) What do you think about the history of Aborigine? Write

your opinion in English.

Lesson 5

(本単元)

「Guernica: a symbol of peace」

ピカソが描いたゲルニカに関

する会話文を通してピカソの

心情などに迫る

(1) What do you think about "Guernica"?

(2) What do you feel about this picture?

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3 検証授業

(1) 単元名 Vista English series Ⅱ Lesson 5 Guernica:ASymbol of Peace

(2) 単元について

ア 題材観

本課では,20世紀最大の巨匠ピカソが1973年に描いた「ゲルニカ」と,その作品が生まれる元となったナ

チスによるゲルニカへの無差別爆撃が記されている。ピカソが作品に込めた思いを考えさせるような登場人物

の会話となっており,思考させ表現につなげるための教材としても深められる。

折しもシリアにて反体制派への毒ガス無差別攻撃が行われるなど,現在でも類似した事件が起きており,視

野を広げ世界情勢についてもより深く考える機会になると考えた。

イ 生徒観

授業対象生徒は,総合学科2年文理系列19人である。文理系列は国公立大学・短大,医療系専門学校など

への進学希望者と公務員希望者が主である。英語への学習意欲は他の系列等と比較すると高く,素直な授業

態度ではあるが,宅習習慣が身に付いていない生徒が多い。中学校の学習事項も定着率が高くない。

英語表現や文法の知識があまり身に付いていないため,英作文などは対象生徒が特に苦手としている。ま

た,自分の意見を考え・まとめ・表現する(発表する)ことに,日本語でもやり慣れていないようで,「君は

どう思う?」という問いに対して,考える時間をとらずに「分かりません」と即答する生徒も目立つ。

英語の授業を通して,英語の力を身に付けさせるとともに,教材の中身に対して「自分はどう思ったか」「自

分はどう考えるか」という意識を持たせる工夫と,それを英語で表現させる機会が必要であると考えている。

ウ 指導観

「ゲルニカに関する英文を読み,ピカソの気持ちや平和についての自分の考えを分かりやすく5文以上の英

文で書くことができる」ことを評価規準とし,本文の内容に基づいて生徒が自分の考えを英語で表現しやすく

するために以下のような明確な指導目標を掲げて分かりやすい指導を心がけた。

・訳を理解するだけでなく,内容を深いレベルまで理解する学習課題を設定する。

・単元を通して自己表現活動を行い,「思考・判断・表現」の機会を設ける。

・何度も考えを練り直す機会を設定することで表現内容の洗練を図る。

・他の生徒の意見を聞いたり,読んだりする機会を設ける。

(3) 単元の目標

ア 本文の内容を読んで,分かったことや考えたことについて積極的に英語で話したり,書いたりしようとして

いる。

イ ゲルニカを見て,ピカソの気持ちに思いをはせて自分の思ったことや感じたこと,考えたことを5文以上の

英語で表現できる。

ウ 助動詞+完了形の意味・用法を理解している。

エ ゲルニカ爆撃の歴史事実への理解を深め,平和の大切さを学ぶ。

(4) 評価規準

ア コミュニケーションへ

の関心・意欲・態度

イ 外国語表現の能力 ウ 外国語理解の能力 エ 言語や文化についての

知識・理解

① 英文を読み,その内容に

ついて自分の体験や知識

等と結び付けながら,自

分の思ったことや感じた

こと,考えたことを積極

的に表現しようとする。

① 本文の内容に関して,ピ

カソの気持ちや平和など

について,自らの感想・考

えを英語で表現すること

ができる。

① ピカソの心情に想いを

馳せながら,登場人物た

ちの会話を的確に理解す

ることができる。

① 本文に出ている単語や

表現を理解している。

② 助動詞+完了形のもつ

意味を英語を通して理解

している。

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学習内容の関連を踏まえて設定した「判断基準」(高等学校2年)

Lesson2 Cathy Freeman (既習単元) Lesson5 Guernica:Asymbol of peace (本単元)

評価規準

キャシー・フリーマンに関する英文を読み,人種差

別やアボリジニの歴史について自分の感想を分かりや

すく3文以上の英文で書くことができる。

ゲルニカに関する英文を読み,ピカソの気持ちや平和に

ついての自分の考えを分かりやすく5文以上の英文で書

くことができる。

評価時期及び評価の対象(思考,判断に基づく表現内容)

○ 7時間構成の第5時〜第7時

○ 内容理解を基にした感想や考えの記述

○ 7時間構成の第5時〜第7時

○ 内容理解を基にした意見や考えの記述

判断の要素

ア 本文の内容に関する記述

イ 自分の考えの記述

ウ 主語と動詞の一致

エ 英文の量(3文以上)

ア 本文の内容に関する記述

イ 自分の考えの記述

ウ 分かりやすい英文展開

エ 英文の量(5文以上)

判断基準B

ア 本文の具体的内容を取り上げている。

イ 人種問題について自分の感想や気持ちを記述して

いる。

ウ 主語と動詞が一致した英文を書いている。

エ 3文以上の英文で述べている。

ア 本文の具体的内容を取り上げている。

イ ゲルニカについての自分の意見,ピカソの心情や平和

への思いを具体的に書いている。

ウ 基本的なDiscourse markerを用いて分かりやすく英

文を書いている。

エ 5文以上の英文で述べている。

【予想される生徒の表現例】

I am very sad to know this story. I can't understand

why Aborigine was banned from sports. I think

every people is equal.

【予想される生徒の表現例】

I was surprised to know the terrible events in

Guernica. I couldn't understand the Piccaso's picture.

But I learned his symbolic way teaches us the cruelty of

bombing. I can feel the anger of Piccaso. I want to see

more Piccaso's works.

C状況の生徒への指導(補充指導)

・ 教師の指導を基に,B状況にある生徒との学び合

いで修正・加筆をさせる。

・ 教師の指導を基に,B状況にある生徒との学び合いで

修正・加筆をさせる。

・ 既習単元での言語材料を振り返させる。

判断基準A

(判断基準Bに加えて)

○ 自分の考えの具体的記述が2つ以上ある。

○ 英文は5文以上。

○ 人種問題に関してより深い記述がある。

(判断基準Bに加えて)

○ 平和への思いがより具体的に書かれている。

○ 英文は7文以上。

○ 現在起こっている諸問題に関する記述がある。

B状況の生徒への指導(深化指導)

○ A評価,B評価の典型的な作品例を一つずつ例示して,書い

てある内容の違いや英語の正確性などに気付かせ,自己の作品

を再度推敲させる。

○ 間違い箇所は下線を引き,自己推敲の際に訂正させる。

○ 既習の言語材料を提示し,英語の表現が多様になるよう工夫

させる。

○ A 評価,B 評価の典型的な作品例を一つずつ例示して,書いて

ある内容の違いや英語の正確性などに気付かせ,自己の作品を再

度推敲させる。

○ 間違い箇所は下線を引き,自己推敲の際に訂正させる。

〇 既習単元で扱った人種問題や現在起こっている諸問題について

話題を提供する。

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(5) 指導と評価の計画(全7時間)

時 指導のねらいと学習活動 評価規準 評価方法

1 ○ 全体の概要や要点を捉える。

・ Oral Introductionや教科書の写真を使いながら,課全体の概要を

理解させる。

○ キュビズムについて理解する

ウの① 活動の観察

ワークシート

2 ○ 前半部分の内容を捉える。ゲルニカの理解

・ フレーズハント,リスニング,音読練習を通して前半の内容を理

解させる。

○ ゲルニカの絵を観察させ,絵の理解を深める。

・ 絵に描かれているものを英語で表現させる。(前半予習プリント

Task 2)生徒の書いた実例は別紙。

ウの① 活動の観察

ワークシート

3 ○ 前半部分の内容理解を深め,文法理解を進める。

・ 英問英答で内容確認を行う。

・ must+完了形を,設問を通して理解する。

ウの①

エの②

活動の観察

ワークシート

4 ○ 後半部分の内容を捉える ピカソの心情に迫る

・ フレーズハント,リスニング,音読練習を通して前半の内容を理

解させる。

○ ピカソの心情を理解させる。

・ ピカソの心情を理解するための,設問を通し作品に込められた思

いをより深く理解する。

ウの①

エの①

活動の観察

ワークシート

5 ○ 後半部分の内容理解を深める

・ 内容に関する英問英答を行う。

○ 全体内容理解のための音読練習を行う。

○ 自分の意見(後半プリントTask8)をグループで紹介しあう。

ウの①

アの①

エの①

活動の観察

ワークシート

作品チェック

6 ○ 内容理解を深める練習を行う。

・ 音読,シャドーイング,フリップライティング

○ 第5時に修正を指示したTask8を相互に鑑賞し合う。

・ 文法上の間違いなどを指摘し合う。

・ 判断基準Bに基づいて補充指導,深化指導を行う。

エの①

アの①

イの①

ウの①

活動の観察

作品チェック

7 ○ Lesson5の総復習を行う。

・ シャドーイング,ディクテーション。

・ 補充・深化指導を経て推敲した作品を提出させる。

アの①

イの①

ウの①

活動の観察

作品チェック

※ Task・・・学習課題

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(6) 本時の学習活動(5/7時間)

ア 目標

活動を通して内容理解を深めつつ,ピカソの気持ちや平和についての自分の考えを分かりやすく5文以上の

英文で書き,クラスメイトの作品を鑑賞することを通して自分の作品のフィードバックに反映させる。

イ 本時の実際

学習活動 生徒の活動 分 ○指導上の留意点 □評価

1 挨拶

2 単語練習

1 挨拶をする

2 新出単語を音読練習する

5 ○ 英語学習の雰囲気を作る。

○ 新出語句の意味・発音を確認

する。

3 本文のリスニング

4 内容理解

5 表現活動

6 音読練習

3 本文を聞く。

4 予習プリント[Task5]の答え合

わせを行う。

5 グループを作り,相互に作品を鑑

賞し合う。

6 音読練習を行う。

全体→ペア

42 ○ 指でたどらせる。

○ 質問の意味自体を理解で

きているか確認する。

○ 答えが書かれている場所

を確認する。

□ 表現活動の様子を観察し,評

価する。

○ しっかり声を出すよう指

導する。

7 推敲の指示

8 次時の指示

9 挨拶

7 本時の活動から得たものをフィ

ードバックさせる。

8 次時の見通しをもつ。

3 ○ 課題が十分達成でなかった

生徒には次時までに仕上げる

ように指示する。

(7) 指導を振り返っての考察

L2の1次評価でC状況と判断された14人のうち,白紙提出3人,2行未満が6人,3行未満が3人,3行

以上書いているが英文として意味が通じないものが2人であった。アンケートからも「自分の意見を日本語で

考えることが苦手だ」と感じる生徒が複数いることから,「自分の感じたことを言語化する」ことが不得手で,

更にそれを「英語に訳す英語力が不足している」ことが課題と捉え,以下のような指導を行った。

ア 再度本文の内容を自らの立場に置き換えることができるような設問を行った。

イ 友人達の作品を鑑賞させた。

ウ 友人同士で添削させた。

その後再提出させた作品では,全体的に英文量が増え,難しい語彙も使われるなど生徒の表現力の伸びがみ

られた。また,より具体的に自分のこととして英文の内容を捉えるような表現が増えた。

内容理解の際にピカソの心情や絵に込められた気持ちなどを,英語で考えさせるタスクを設定したことで,

絵に書かれているものを英語で表現したり,心情を表す単語を学習する良い手だてとなったようである。また

本文内容の学習過程において,本文理解をより深めるための設問や自分だったらどうするかなどの設問を設定

したことで,思考を深めるためのきっかけとすることができた。

「評価規準」を達成しているかどうかを判断するための「判断基準」を設け,それに基づいた指導を行った

ため評価と指導のポイントが明確になるとともに,生徒もはっきりとした目標に向けて表現活動に取り組めた

ようである。また,生徒は学習の成果を実感でき,自らの成長に充実感を覚えた者も多かったようである。

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生徒作品の評価結果(対象:19人)

レッスン A状況 B状況 C状況

既習単元L2 Cathy

Freeman

1次 2人 3人 14人

2次 8人 8人(→11人) 3人(→0人)

本単元 L5 Guernica

1次 4人 7人 8人

2次 9人 8人(→10人) 2人(→0人)

( )内は2次評価後の補充・深化指導を受けて変化した人数。

(8) 評価結果に基づく補充・深化指導

ア 判断基準Bに基づき「努力を要する」と判断した生徒について

I feel sorrow and rage from this picture. The

war is very terrible events. This picture told us

his heart. This picture is hidden various

Picasso’s heart. "Guernica" will remind us of

sorrow when we see this picture.(原文のまま)

補充指導の例

・ 判断基準Bを満たしている生徒作品を鑑賞させる

・ 文と文を適切につなぐdiscourse marker(butやbecauseなど)の使い方を提

示した。

・ 本人の感想,気持ちを聞いて知っている単語で言えるように個人指導を行った。

・ 再度本文を読み,学習内容の理解を深めるよう指示。

(補充指導後の生徒作品)

I felt sorrow and rage from this picture. But I don't know their pain. Because we have

never experienced the terrible event. Picasso told us the cruelty of the war. "Guernica" is

a symbolic picture that told us the cruelty of the war. When we see this picture, we'll

remember the terrible events.(原文のまま)

判断基準B 予想される表現例

ア 本文の具体的内容を取り上げている。

イ ゲルニカについての自分の意見,ピカソの

心情や平和への思いを具体的に書いている。

ウ 基本的なDiscourse markerを用いて分か

りやすく英文を書いている。

エ 5文以上の英文で述べている。

I was surprised to know the terrible events

in Guernica. I couldn't understand the

Piccaso's picture. But I learned his symbolic

way teaches us the cruelty of bombing. I can

feel the anger of Piccaso. I want to see more

Piccaso's works.

(見取り)

○ア 本文に関する記述がある。

○イ ピカソの気持ちを感じ取って英語で表現

しようとしている

×ウ discourse markerの使用がない。

〇エ 5文以上の英文で述べている。

Page 34: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

イ 判断基準Bに基づき「おおむね満足出来る状況」と判断した生徒について

(深化指導)

・ 他の生徒と協力してお互いの作品を添削させた。

・ 作品をより良くする視点として「英文の正確性」「英文の論理的な構成」「主人公などの心

情にせまる必要性」の3点を示した。

・ 使用している単語の例文を辞書で探し参照するよう指示した。

(9) アンケート結果から見える生徒の変容

ア 数字で見る変容

(ア) あなたは教科書などの内容に対する自分の考えや意見を,3文以上の英語で表現できますか。

5 月(Lesson 2) →できる 0 まあできる 2 あまりできない 14 できない 3

10 月(Lesson 5) →できる 3 まあできる 10 あまりできない 5 できない 1

(イ) 自分の考えや意見,感想を英語で表現することは好きですか。(10月実施)

もともと好き 5 好きになった 9 好きではない

(好きになった理由)

〇 自分の意見を最初から最後まで言い切れたときの達成感がうれしかったから。

○ 英語はとても嫌で逃げていたが,今は少しでも努力できるようになったから。

○ 前よりも書けるようになったから。

○ 英作文は嫌いだったが,挑戦しているうちに楽しくなったから。

イ 感想に見る変容

○ 英文量が多くなり,深く書けるので楽しかった。

○ 始めは面倒だと思ったが,自分で英文を書けるようになったからよかった。

○ 少しだけ英作文が面白いと思えてきた。

○ 難しかったけど楽しかった。

○ 辞書をひく機会が増えてよかった。もっと書けるようになりたい。

少しずつ成長した自分の英語力,表現力を喜ぶ回答が多数を占めた。英作文を書くことが苦手・できないと

回答した生徒も,「苦手だからもっとできるようになりたい」とか「もっとたくさん単語を覚えたい」など,自

らの課題を見付け努力しようという前向きなコメントが多くみられた。

At first, I don't understand means of this

picture. I don't know about painting. So I think

this picture is just rough picture.

But, My opinion was changed in the class.

When I know means of picture I was very

surprised. I think this picture is symbol of pray

piece. (原文のまま)

(見取り)

〇ア 本文に関する具体的記述がある。

〇イ ゲルニカについての意見の記述がある。

〇ウ discourse markerであるbutを使用してい

る。

〇エ 5文以上の英文で述べている。

(深化指導後の生徒作品)

At first, I couldn't understand the meaning of this picture. I didn't know the hidden

message in this picture. This picture just looked Picasso's graffiti. But my opinion has

been changed in this lesson. I was surprised to realize Picasso's message hidden in the

symbolic way of painting. I think this picture is symbol of peace. (原文のまま)

Page 35: 1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連...1 外国語活動,外国語科における学習内容の関連 (1) 昨年度までの研究の成果と課題

4 成果と課題

(1) 成果

ア 「書くこと」という自己表現活動において「判断基準」を設定したことにより,到達目標が明確に示され生

徒にとっては具体的目標を持って取り組みやすく,教師にとっては指導しやすくなった。

イ 二つの単元で学習の関連を意識して表現活動を行ったことで,課題解決意識の高まりがみられた。また,既

習単元で使用した言語材料や言葉の使用場面,働きなどを意識して取り組むことができた。今回,異文化理解・

人種問題という類似性の高い二つの単元を取り上げたことにより,既習の単元で経験した表現活動や言語材料

を本単元でも生かそうとする生徒の姿勢をみることができた。

ウ 自己表現活動に取り組むことで,再度本文の内容を読み返し理解を深めるきっかけになった。表現を行わせ

ることで,思考だけでなく理解もより深めることができた。

(2) 課題

ア 「話すこと」の自己表現活動も取り入れた上で「書かせる」活動を設定する必要がある。

イ 今回学んだ二つの単元だけではなく,3年間を見通した自己表現活動の設定を行う必要がある。

ウ 「判断基準」の妥当性について,もっと検討を重ねる必要がある。

エ 「外国語理解の能力」の観点についても研究を深めていけたら,より効果的な指導につなげることができる。