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-150- 図1. ツキノワグマの目撃地点およびクマ棚確認地点および調査した視野範囲図 目撃地点の上の数字は目撃された日を表す。また、目撃されたのはいずれも1個体であった。 図2.カメラトラップに基づくツキノワグマの出現頻度(撮影頻度指数*;100 日あたり)の経年変化 4.考察 本調査の結果から、本種の目撃は 4 回、カメラトラップ調査から、出現地点数、出現頻度ともに 10 月よりも 8 月に増加する傾向が認められた。しかし、今回の調査で把握された分布情報が、調査対象 地域全体内におけるツキノワグマの分布をどの程度把握できたのかは不明である。今後は、本種の分

図1. ツキノワグマの目撃地点およびクマ棚確認地点および調 …-154-撮影頻度指数(RAI)は、ニホンザル(4.5) 、コウモリ類(3.16)と高く、ニホンカモシカ、ホンド

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  • -150-

    図1. ツキノワグマの目撃地点およびクマ棚確認地点および調査した視野範囲図

    目撃地点の上の数字は目撃された日を表す。また、目撃されたのはいずれも1個体であった。

    図2.カメラトラップに基づくツキノワグマの出現頻度(撮影頻度指数*;100日あたり)の経年変化

    4.考察

    本調査の結果から、本種の目撃は4 回、カメラトラップ調査から、出現地点数、出現頻度ともに10

    月よりも 8 月に増加する傾向が認められた。しかし、今回の調査で把握された分布情報が、調査対象

    地域全体内におけるツキノワグマの分布をどの程度把握できたのかは不明である。今後は、本種の分

  • -151-

    布やその動態を長期的に観測できるように、効率のよい調査方法を検討する必要がある。

    5.引用文献

    環境庁自然保護局野生生物課. 1991. 日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-

    (脊椎動物編). 日本野生生物研究センター, 東京.

  • -152-

    図2. 調査に用いたカメラ

    図1. カメラトラップ設置地点

    e. カメラトラップを用いたほ乳類相の把握

    1.目的

    プロジェクト・エリア全域の動物相を把握し、各種の生育環境およびエリア内の分布状況を明らか

    にすることと、その経年変化を記録することを目的として、カメラトラップ調査を行った。各種の分

    布を決定する要因および各地点の種数を決定する要因を明らかにし、今後の森林管理に反映させる方

    法についても検討した。

    2.方法

    2-1.現地調査

    大源太山頂から南部の地域すべてを把握で

    きるようにカメラを51地点設置し、2010年の

    夏期(2010年8月18日~)および秋期(2010

    年10月22日~12月2日)の2回フィルムの交

    換を行った(図1、表1)。なお、センサーカメ

    ラは、Fieldnote IIa((株)麻里府商事製)

    を用いた。なお、カメラを設置した地点は2008

    年、2009年に実施した地点と同一である。

    2-2.解析方法

    カメラトラップでは、個体識別が困難なため、

    同一個体の重複カウントを避けるために、相対

    的な撮影頻度を比較する指標(撮影頻度指標

    RAI (relative abundance index)を用いた。ここでは、各

    種同一地点において、30分以上離れた撮影のみを採用し

    (塚田ら2006)、複数確認された場合は、1撮影あたり最

    大頭数の個体数を用いて種毎に集計した100カメラ稼働

    日あたりの個体数とした。

    哺乳類相の生息地管理を進めるために、各種の分布特性

    を把握することと、各種の個体数を目的変数に、カメラ設

    置地点の環境条件を説明変数とした一般化線形混合モデ

    ル(GLMM;誤差分布はポアソン分布)を用いた解析を行っ

    た。説明変数として、植生タイプ(人工林か自然林)、樹高、標高、半径1km圏内の各バッファ内の土

    地利用割合(針葉樹林、集落+農地+開放域)を固定効果とし、

    地点をランダム効果として指定し、尤度推定をしない項

    (offset)として撮影日数をモデルに入れることで1撮影日あたりの撮影回数に対する各変数の効果

    を調べた。AICを用いた変数選択を用いて最適なモデル選択を行った。また、各地点の種多様性が何

    によって決まっているのかを明らかにすることを目的として、各地点の種数を目的変数に、カメラ設

    置地点の環境条件を説明変数とした一般化線形混合モデル(GLMM)を用い、上記と同様の説明変数を

    用いて解析を行った。これらの解析は、R2.10.2(R 2011)を用いて行った。

  • -153-

    表1.カメラトラップ設置地点の環境条件

    なお、緯度、経度は世界測地系に基づく(度分秒すべて60進法)

    3.結果

    3-1.赤谷全域におけるカメラトラップによって確認された哺乳類相

    2008 年10 月以降、5回の調査を実施し、調査日数の総計は6631 日だった(表1)。撮影された哺

    乳類を同定した結果、3年間、51地点の調査によって、19種のほ乳類が確認された(表2)。過去の文

    献から、この地域において記録されているほ乳類は、43種ある(付表1)。センサーカメラの画像から

    は、ネズミ類(ネズミ科、トガリネズミ科、モグラ科)コウモリ類(ヒナコウモリ科、キクガシラコ

    ウモリ科)は同定が困難であったため、本調査ではそれぞれネズミ類、コウモリ類とまとめている。

    これらを除くと、ほ乳類目録に記録された種の内、本調査で記録できなかった種は、ムササビとヤマ

    ネの2種であった。

  • -154-

    撮影頻度指数(RAI)は、ニホンザル(4.5)、コウモリ類(3.16)と高く、ニホンカモシカ、ホンド

    テン、ネズミ類、ニホンノウサギもRAI=2.0 前後であった。出現地点および出現頻度の季節および年

    変動が認められる種があり、特に、コウモリ類、ツキノワグマ、ニホンリス、イノシシは8月に多く、

    10月に少ない傾向が認められた(表2、3)。

    また、分布地点の変遷を見ると、ニホンジカは、2008年10月、2009年8月までは小出俣周辺での

    み確認されていたが、2009年10月以降になると赤谷林道、ムタコ沢、2010年10月には南ヶ谷、雨見

    山周辺において確認され、確認された地域が広がっていた(付図1-6)。

    3-2.赤谷全域におけるほ乳類各種の分布を決定する環境要因の検討

    ほ乳類各種の分布を決定する環境要因を解析した結果、多くの種は標高が低いほど出現しやすいこ

    と、カメラ設置地点の植生だけでなく、周囲の土地利用(半径1km以内の針葉樹林面積、農地・集落・

    開放地面積)に影響を受ける種が多いことがわかった(表4)。なお、ニホンモモンガ、オコジョ、ノ

    ネコの3種は、出現地点数が少なかったため、解析ができなかった。

    表2. 各種の出現頻度(撮影頻度指数*;100日あたり)の経年変化

    *撮影頻度指数(RAI)=(30分離れた撮影での最大頭数の合計/撮影日数合計)×100日

  • -155-

    表3. 各種の出現地点数の経年変化

    表4.変数選択を用いた一般化線形混合モデル(GLMM)による各種の個体数に及ぼす環境要因

    表内の+、-は選択された変数を表し、+は正の、-は負の相関を示している

    3-3.各地点の哺乳類の種数と環境との関係

    各地点で確認されたほ乳類の種数は1~13種と大きく異なっていた(図3)。また、各地点のカメラ

    の設置日数は大きく異なり31~187日となっていた(表1)。

    累積のカメラ設置日数と種数の関係をみると、50 日程度で種数の増加速度が遅くなる地点が多い

    ものの、150 日を過ぎても種数が増える地点も存在した。そのため、今後、設置日数を増やせば、各

    地点の確認種数は増える可能性がある。そこで、設置日数を調整した上で、各地点のほ乳類の種数と

    環境との関係を把握するために一般化線形混合モデルを用いて解析した。その結果、標高が低く、半

    径 1km 以内の針葉樹林面積が小さい方が、各地点の確認された種数が多い傾向が認められた(表 2;