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1 土壌のはたらき 作物体の支持 ・植物体が土壌に根を進入させることで作物体を倒さない用に支える。 水と酸素の同時供給 ・土壌は根の必要とする水分と酸素の両者を同時にほどよく供給する能力をもつ。 物理・化学的緩衝能 ・土壌の温度は気温に比べて昼は低く、夜は高い→温度変化の幅が小さい ・pH も容易に変化せず、ある幅の範囲で調節する能力をもつ。 養分供給の調節 ・土壌粒子への養分吸着や土壌微生物の働きにより、作物への養分供給を調節する。 病原菌の抑制 ・土壌には多様な微生物が生息しており、その微生物によって病原菌の増殖をある程 度抑制する能力をもつ。 2 土壌の生成と発達 ①太陽の熱、雨、風による風化をうけて、母岩が崩壊した石などの破片が、母岩の上に 堆積。 ②石などの破片が移動しながら細かくなり石や砂となって堆積。火山灰などの堆積。海 底の隆起により地上に露出。 ③堆積物の上に地衣類(糸状菌とラン藻の共生した生物)や微生物が住み着く。これら生 物の出す二酸化炭素を含んだ水が砂を溶かして細かくする。生物の遺体は微生物によ って分解され、有機物となって蓄積。砂から溶け出た無機物が反応し合って、微少な 粘土鉱物とよばれる粒子が生成。 ④砂の粒子、粘土鉱物、溶け出た無機物、土壌有機物などの量が増え、植物が吸収でき る養分が増加するとともに、これらの物質がお互いに反応し合って団粒構造が発達。 生育できる植物の種類や量も変わり、供給される有機物量も増加して、土壌の発達が 加速される。

1 土壌のはたらき - JAふじかわja-fujikawa.or.jp/pdf/8tutidukuri.pdf · 土壌微生物 ・約1g の土には数十億をこす微生物が住んでおり、糸状菌の菌糸の長さは数m

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1 土壌のはたらき ○作物体の支持

・植物体が土壌に根を進入させることで作物体を倒さない用に支える。

○水と酸素の同時供給

・土壌は根の必要とする水分と酸素の両者を同時にほどよく供給する能力をもつ。

○物理・化学的緩衝能

・土壌の温度は気温に比べて昼は低く、夜は高い→温度変化の幅が小さい

・pHも容易に変化せず、ある幅の範囲で調節する能力をもつ。

○養分供給の調節

・土壌粒子への養分吸着や土壌微生物の働きにより、作物への養分供給を調節する。

○病原菌の抑制

・土壌には多様な微生物が生息しており、その微生物によって病原菌の増殖をある程

度抑制する能力をもつ。

2 土壌の生成と発達 ①太陽の熱、雨、風による風化をうけて、母岩が崩壊した石などの破片が、母岩の上に

堆積。

②石などの破片が移動しながら細かくなり石や砂となって堆積。火山灰などの堆積。海

底の隆起により地上に露出。

③堆積物の上に地衣類(糸状菌とラン藻の共生した生物)や微生物が住み着く。これら生

物の出す二酸化炭素を含んだ水が砂を溶かして細かくする。生物の遺体は微生物によ

って分解され、有機物となって蓄積。砂から溶け出た無機物が反応し合って、微少な

粘土鉱物とよばれる粒子が生成。

④砂の粒子、粘土鉱物、溶け出た無機物、土壌有機物などの量が増え、植物が吸収でき

る養分が増加するとともに、これらの物質がお互いに反応し合って団粒構造が発達。

生育できる植物の種類や量も変わり、供給される有機物量も増加して、土壌の発達が

加速される。

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3 日本の土壌の種類 日本は気候・地形の変化に富み、植物の種類も豊富で、母材となる岩石の種類も多様な

ため、多種類の土壌が存在する。

※日本の農地土壌の特色

①種類が多く、様々な土壌が小面積ずつ接して分布している。

②火山噴出物から発達した黒ボク土が多い。

③降雨量が多く、土壌からカルシウム、マグネシウムなどの無機イオンが流れやすく、

また黒ボク土も多いために、酸性の強い土壌が多い。

④低地の水田には灰色低地土・グライ土・多湿黒ボク土などが多く、大地の畑・樹園

地・草地には黒ボク土・森林褐色土などが多い。

〔日本の農地土壌〕

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4 土壌を構成するもの 土壌→鉱物粒子、無機化合物、土壌有機物、土壌生物から構成されており、このことは、

土壌の種類は違っても変わらない。

〔鉱物粒子〕

○粒子の大きさ

区分 大きさ 理 化 学 性

礫 2mm以上 ・土壌の骨格形成に寄与。粒子間孔隙を大きくして通気性・排水

性を促進する。

・各粒子が分離して、粘着性・凝集性がない 粗砂 2~0.2mm

細砂 0.2~.02mm

シルト 0.02~0.002mm ・粗い部分は骨格的役割に、細かい部分は物理化学反応に寄与。

・粘着性はないが、わずかに凝集性がある。

粘土 0.002mm 以下 ・表面積が大きいので、水の表面吸着・イオン交換などの物理化

学反応に寄与。

・粘着性、凝集性が大きい。

○土 性

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〔無機物〕

・岩石などから溶け出したケイ酸(SiO2)・鉄(Fe)・アルミニウム(Al)・マンガン(Mn)など

が土壌の水の中にイオンとして存在すると同時に、酸化物や水酸化物などの化合物の

状態でも沈殿して存在する。

・これらの無機物も粘土鉱物・有機物などと反応して、土壌の団粒化、有機物の分解な

どに関係している。

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〔土壌有機物〕

・土壌には、植物や動物など遺体となったばかりの新鮮な有機物から何万年も経過した

腐食物質まで、多種多様な土壌有機物が含まれている。

※土壌有機物の区分

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〔土壌生物〕

○土壌動物

・土壌動物は、土中深くに植物遺体を運搬し、それを粉砕して微生物による分解を容易

にし、下層の未熟な土を表層に持ち上げ、通路は通気と排水に役立つなど、土壌生成

と肥沃土の向上に大きな役割を果たしている。

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○土壌微生物

・約1gの土には数十億をこす微生物が住んでおり、糸状菌の菌糸の長さは数mから数

百mで、微生物生体重が土壌有機物量の数%に達することがある。その種類は極めて

豊富。

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5 土壌の性質 〔物理性〕

○土壌の三相分布

・土壌は固体の部分のほかに、土の粒子と粒子の隙間(孔隙)にある水と空気からでき

ている。

・それぞれ固相・液相・気相とも呼ばれ、3者が占める割合を三相分布という。

※土壌の三相

※各種土壌の三相分布の比較

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○単粒と団粒

単粒:土壌の粒子が単独で並んでいるもの(下図の(a)及び(b))

団粒:個々の粒子が集まって塊となり、塊どうしが並んでいるもの(下図の(c))

※団粒の働き

・団粒は陽イオンや粘土鉱物・有機物の働きによって形成される。団粒構造が発達す

ると、孔隙率が高くなり、土壌の排水性・保水性・通気性がが良くなる。

〔化学性〕

○土壌養分を保持する機能

・土壌構成成分の中でも、粘土鉱物や腐植物質の表面は電荷を帯びている。これらの

電荷と土壌の水に溶けた陽イオンや陰イオンの電荷とが反応して、土壌中での養分

の動きや土壌の pH、ひいては作物の生育に大きな影響を与える。

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○土壌の酸性・アルカリ性

・土壌の酸性・アルカリ性は、pHで表すことが多い。

・pH は水素イオン(H+)濃度の指標で、値が小さいほど水素イオン濃度が高い。(pH

は 0~14の値となる。pH7を中性とし、それより小さければ酸性が強く、大きけれ

ばアルカリ性が強い。)

・土壌の酸性・アルカリ性は、作物の養分吸収や、土壌微生物の種類や活動などに影

響を与える。

※土壌 pHと養分の有効性および土壌生物活性の関係の模式図

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※作物の適正 pH

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〔生物性〕

・土壌動物は土中の有機物などを食べ、糞として排出する際に団粒を作ったり、微生物

による有機物の分解を容易にする働きがある。

・土壌微生物は土中の有機物を分解し植物が吸収できる形にしたり、土中の有機物を増

やす働きがある。

※土中における窒素の循環