10
1 米国のタンゴ楽団 齋藤 冨士郎 米国は長い間「タンゴ不毛の地」と言われてきたし、今日でもそう思われているであろう。これに対 してアルゼンチン出身のカルロス・ゴンサーレス・グロッパ(Carlos González Groppa)は「ニューヨーク におけるタンゴ(19251937)」という文章の中でこの期間でのニューヨークにおけるタンゴ楽団の録音 活動を紹介している Tangueando en Japón, No.35 (2015), pp.62-70)。し かし彼が取り上げているの はすべてアルゼンチン出身 のアーティストが主宰する 楽団であって、米国出身乃 至は米国在住のアーティス トが主宰する楽団ではない。 米国出身乃至は米国在住の アーティストが主宰するタ ンゴ楽団が無かったという ことはやはり米国は「タン ゴ不毛の地」と言われても 仕方がない。 しかし最近ではラウー ル・ハウレーナ(Raúl Jaurenaやエクトル・デル・クルト(Héctor del Curto)のように米国を拠点として活動するウルグアイやアルゼン チン出身のアーティストも出てきた。又、Quintango のように「米国のタンゴ楽団」と呼ぶことに何の問 題もない楽団も出てきた。そこでインターネットを介して少し調べてみたところ、実は米国各地でタン ゴが盛んに踊られ、聴かれ、タンゴ楽団も少なくないことがわかった。上の表はウェブサイトの http://tangoclay.us/ orchestra/を通して調べた米国のタンゴ楽団である。勿論、これですべてということはな く、調べればもっと出て来るであろう。このサイトにはタンゴ楽団ばかりでなく、ミロンガやダンス教 室の情報も掲載されている。今日の米国は決して「タンゴ不毛の地」ではないのである。これらの楽団 のいくつかは CD も製作しており、インターネットを通じて購入もできる。 以下、この表に掲げたタンゴ楽団について判り得た範囲でその活動内容を紹介する。使用したメンバ ーの画像は該当するウェブサイトから引用した。米国のタンゴ楽団は総じてプロというよりはセミプロ 的のように見える。 1.アレックス・クレブス・タンゴ・クアルテット(Alex Krebs Tango Quartet): http://www.tangoberretin.com/ アレックス・クレブスは 1997 年からアルゼンチン・タンゴ・ダンサーとして活動を始め、2001 年から 楽団名 拠点地域 1 Alex Krebs Tango Quartet Portland, OREGON 2 Ashevile Tango Orchestra Ashevile, NORTH CAROLINA 3 Cuarteto Tanguero Bloomington, INDIANA 4 Los Bandidos del Tango Eugene, OREGON 5 Orquesta Sin Trabajo Boston, MASSACHUSETTS 6 Orquesta Z San Francisco, CALIFORNIA 7 Qtango Albuquerque, NEW MEXICO 8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 Tocato Tango Bellingham, WASHINGTON 12 Trio Garufa San Francisco, CALIFORNIA 13 Triunfal Denver, COLORADO 14 QuinTango VIRGINIA 15 Mandrágora Tango Minneapolis, MINNESOTA 16 Héctor Del Curto NEW YORK 17 Raúl Jaurena NEW YORK 以上の情報源はhttp://tangoclay.us/orchestras 米国のタンゴ楽団

10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

1

米国のタンゴ楽団

齋藤 冨士郎

米国は長い間「タンゴ不毛の地」と言われてきたし、今日でもそう思われているであろう。これに対

してアルゼンチン出身のカルロス・ゴンサーレス・グロッパ(Carlos González Groppa)は「ニューヨーク

におけるタンゴ(1925‐1937)」という文章の中でこの期間でのニューヨークにおけるタンゴ楽団の録音

活 動 を 紹 介 し て い る

( Tangueando en Japón,

No.35 (2015), pp.62-70)。し

かし彼が取り上げているの

はすべてアルゼンチン出身

のアーティストが主宰する

楽団であって、米国出身乃

至は米国在住のアーティス

トが主宰する楽団ではない。

米国出身乃至は米国在住の

アーティストが主宰するタ

ンゴ楽団が無かったという

ことはやはり米国は「タン

ゴ不毛の地」と言われても

仕方がない。

しかし最近ではラウー

ル・ハウレーナ(Raúl Jaurena)

やエクトル・デル・クルト(Héctor del Curto)のように米国を拠点として活動するウルグアイやアルゼン

チン出身のアーティストも出てきた。又、Quintangoのように「米国のタンゴ楽団」と呼ぶことに何の問

題もない楽団も出てきた。そこでインターネットを介して少し調べてみたところ、実は米国各地でタン

ゴが盛んに踊られ、聴かれ、タンゴ楽団も少なくないことがわかった。上の表はウェブサイトの

http://tangoclay.us/ orchestra/を通して調べた米国のタンゴ楽団である。勿論、これですべてということはな

く、調べればもっと出て来るであろう。このサイトにはタンゴ楽団ばかりでなく、ミロンガやダンス教

室の情報も掲載されている。今日の米国は決して「タンゴ不毛の地」ではないのである。これらの楽団

のいくつかは CD も製作しており、インターネットを通じて購入もできる。

以下、この表に掲げたタンゴ楽団について判り得た範囲でその活動内容を紹介する。使用したメンバ

ーの画像は該当するウェブサイトから引用した。米国のタンゴ楽団は総じてプロというよりはセミプロ

的のように見える。

1.アレックス・クレブス・タンゴ・クアルテット(Alex Krebs Tango Quartet):http://www.tangoberretin.com/

アレックス・クレブスは 1997 年からアルゼンチン・タンゴ・ダンサーとして活動を始め、2001年から

楽団名 拠点地域1 Alex Krebs Tango Quartet Portland, OREGON

2 Ashevile Tango Orchestra Ashevile, NORTH CAROLINA

3 Cuarteto Tanguero Bloomington, INDIANA

4 Los Bandidos del Tango Eugene, OREGON

5 Orquesta Sin Trabajo Boston, MASSACHUSETTS

6 Orquesta Z San Francisco, CALIFORNIA

7 Qtango Albuquerque, NEW MEXICO

8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA

9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA

11 Tocato Tango Bellingham, WASHINGTON

12 Trio Garufa San Francisco, CALIFORNIA

13 Triunfal Denver, COLORADO

14 QuinTango VIRGINIA

15 Mandrágora Tango Minneapolis, MINNESOTA

16 Héctor Del Curto NEW YORK

17 Raúl Jaurena NEW YORK

以上の情報源はhttp://tangoclay.us/orchestras

米国のタンゴ楽団

Page 2: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

2

はオレゴン州ポートランドにアルゼンチン・タンゴ・スタジオ“タンゴ・ベレティン(Tango Berretin)”

を開き、また同じ年にバンドネオンを習い始めた。現在、六重奏団を主宰している。筆者の知り得た範

囲で 2種の CD

・The Alex Krebs Tango Sextet Stamptandas, Ⓒ2011 Berretin Records

・The Alex Krebs Tango Quartet Looking Ahead on the Shoulders of the Past, Ⓒ2012 Berretin Records

がある(下の画像)。

Quartetと称したり、Sextetと称したり、はっきりしないが、曲によってメンバーが入れ替わっており、

実態はアレックス・クレブスのバンドネオンを中心にする四重奏団と言ってよいだろう。2011年の CD

はアレックス・クレブスとピアニストのアンドリュー・オリヴァー(Andrew Oliver)の合作品ばかりで

あるが、聴いてみるとピアソラ流でもプラサ流でもない、万人向きのタンゴになっている。2012年の CD

では有名曲が多く含まれ、結構楽しめる CDである。

2.アシェヴィル・タンゴ・オーケストラ(Ashevile Tango Orchestra):

http://www.asheviletangoorchestra.org/

アシェヴィル・タンゴ・オーケストラはノー

スカロライナ州アシェヴィルに拠点を有する

タンゴ楽団で、南東部でのタンゴ音楽のコミュ

ニティでのライブ演奏を提供するために 2010

年に設立された、ということ以外には詳しい情

報はない。メンバーもその時々で入れ替わって

いるらしい。その時のメンバーによってバンド

ネオンとアコーディオンのどちらかを使って

いるようだ。

3.クアルテート・タンゲーロ(Cuarteto Tanguero):http://cuartetotanguero.moretango/org/

クアルテート・タンゲーロは、インディアナ州ブルーミントンに拠点を置く、バイオリン、ピアノ、

コントラバス、バンドネオンからなる四重奏団である。彼らは黄金時代のタンゴから現代タンゴに至る

まで、伝統的スタイルと現代の演奏嗜好の間のバランスを取った編曲に基づいた演奏スタイルを標榜し

Page 3: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

3

ている。バイオリン奏者のダニエル・スタイン(Daniel Stein)とバンドネオン奏者のベン・ボガート(Ben

Bogart)は 2人がブエノス・アイレスの Orquesta Escuela de Tango で研鑽を重ねている時に出会った。2

人はそこで共同して演奏活動をした後で自己のタンゴ楽団結成を決意し、ピアニストのダニエル・イナ

モラート(Daniel Inamorato)とコントラバス奏者のマット・マコナハイ(Matt McConahay)を加えたク

アルテート・タンゲーロを 2012 年に設立した。クアルテート・タンゲーロはイリノイ大学、インディア

ナ大学、ブラウン大学、その他の場所のタンゴ研究会に出演し、2013‐2014年にはいくつかのミロンガ

を含むタンゴ研究会を立ち上げた。

4.ロス・バンディドス・デル・タンゴ(Los Bandidos del Tango):

https://www.reverbnation.com/

この楽団については、タンゴ・ダンサーのために伝統的タンゴから現

代タンゴに至る広い範囲のタンゴのライブ演奏を定期的に行っているこ

としか記述が無い。オレゴン州ユージーンを拠点としている。

5.オルケスタ・シン・トラバホ(Orquesta Sin Trabajo):

http://www.orquestasintrabajo.com/

オルケスタ・シン・トラバホはマサチューセッツ州ボストン

に拠点を置く楽団で、オルケスタと名乗ってはいるけれども、

画像で見た限りでは四重奏団である。メンバーはバイオリン奏

者兼編曲者のマリ・ブラック(Mari Black)、バンドネオン奏者

兼ボーカルのカルロス・モレノ(Carlos Moreno)(彼は生体工学

の学位も持っている)、ピアニスト兼編曲者のティリー・キム

(Tilly Kimm)、コントラバス奏者のロブ・フラックス(Rob Flax)

の 4人で、それぞれが担当楽器以外の分野でも活躍するマルチ

タレントである。CD(左の画像)を入手して聴いてみた印象で

は、バイオリンとピアノが大活躍する一方、バンドネオンはリ

ズムを刻むだけで、余り活躍していない。ボーカルに重点があるようだ。

6.オルケスタ Z(Orquesta Z):http://www.orquestaz.com/

オルケスタ Zはサン・フランシスコ湾岸ベ イ ・

地域エ リ ア

のタン

ゴ愛好音楽家によって 2011年に結成された、アルゼン

チン・タンゴの音楽とダンスの教習と演奏のための非営

利団体である。1930~1950年代のアルゼンチン・タンゴ

黄金時代の多くのタンゴをレパートリーにしている。メ

ンバーはピアノ/ウクレレのバービー・ウォン(Barbie

Wong)、コントラバスのサンディ・シュニーウィンド

(Sandy Schniewind)、バイオリンのウェークフォード・

ゴン(Wakeford Gong)とヴィキ・ペレニー(Viki Perenyi)、

Page 4: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

4

ボーカルとバンドネオンのベンドリュー・ジョン(Bendrew Jong)の 5人である。

7.キュータンゴ(Qtango):http://www.qtango.com/

ニューメキシコ州アルバカーキを拠点とするこの楽団については、こ

れまで 3枚の CD を出していること以外に詳細はわからない。右の画像

は 3枚目の CDのジャケット画像であるという。上に示したホームペー

ジによれば五重奏団+歌とある。楽器編成については記述が無いが、入

した CD を聴いた感じでは、ピアノ、バイオリン、ギター、コントラバ

スに管楽器も入っているらしい。演奏を聴いた印象は、土地柄を反映し

てカントリー&ウェスタン調タンゴと言ったところだろうか。

8.レッドウッド・タンゴ・アンサンブル(Redwood Tango Ensemble):

http://www.redwoodtango.com/

レッドウッド・タンゴ・アンサンブルはカリフォルニア州サン・フランシスコに拠点を置くタンゴ

楽団で、編成はチャールス・ゴルツィンスキイ(Charles Gorczynski)(バンドネオン)、アレクサンダー・

ラザレフ(Alexander Lazarev)(ピアノ)、スコット・オデイ(Scott O’Day)(ギター)、ケンドラ・ヴァー

ノン(Kendra Vernon)(バイオリン)、セリア・ハリス(Celia Harrs)(バイオリン)、ダニエル・ファブリ

カント(Daniel Fabricant)(コントラバス)の六重奏団(映像では5人であるが)である。この楽団はダ

リエンソ、ディ・サルリ、トロイロ、プグリエーセ、その他のスタイルで古典タンゴから現代タンゴま

で幅広く取り上げ、サン・フランシスコ湾岸地域の多くのダンス・コミュニティで催されるミロンガを

巡演してまわっている。更に、ポートランド、シアトル、シカゴ、モントリオール、ロンドン、ニュー

ヨーク、その他多くの都市にも巡演した。彼らは自作曲にも力を入れている。

Page 5: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

5

9.セス・アサーナウ・イ・ス・セステート・ティピコ(Seth Asarnow y su sexteto típico):

https://www.facebook.com/Seth-Asarnow-y-su-sexteto-tipico-267800436619580/timeline/

セス・アサーナウとはこの楽団のリーダー(男性)の名前である。アサーナウ自身はバンドネオン奏

者である。この楽団は各地のテレビや舞台のショーなどに手広く出演し、1930年代から 1950年代までの

タンゴ楽団の音とスタイルの再現しつつ、タンゴの普及・啓蒙に力を入れている。

10.タンゴ No.9(Tango No.9): http://www.facebook.com/tangonumber9/

この楽団に関する詳細はわからない。メンバ

ーはジョシュア・ラウール・ブロディ(Joshua

Raoul Brody)(ピアノ)、グレグ・スティーブン

ス(Greg Stephens)(トロンボーン)、キャサリ

ン・クルーン(Catherin Clune)(バイオリン)、

ゾルタン・ディバルトロ(Zoltan DiBartolo)(ボ

ーカル)の 4人である。この楽団はすでに 4枚

の CDを出しており、又、この楽団の演奏風景

はYouTubeにいくつかアップロードされている。

11.トカート・タンゴ(Tocato Tango):

http://toniknightmusic.com/tocato-tango/

トカート・タンゴ(Tocato Tango)とは「タンゴによってクレージーに駆り立てられた」を意味するア

ルゼンチン表現(ルンファルド?)であるという。編成はアコーディオン、コントラバス、バイオリン、

ギター、ピアノの五重奏団であるが、メンバーの名前はわからない。この楽団はワシントン州べリンガ

ムに拠点を置き、ウァットコム(Whatcom)郡周辺の特別なイベント、レストラン、クラブに定期的に出

Page 6: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

6

演し、又、私的及び公的催し物にも出演している。CD の有無はわ

からない。

12.トリオ・ガルーファ(Trio Garufa): http://www.triogarufa.com/

トリオ・ガルーファはサン・フランシスコ湾岸地域で 2001 年に結成され、米国国内を始めアルゼンチ

ン、カナダ、コロンビアでの公演を果たしており、そのレパートリーは古典タンゴからピアソラ作品に

至る。少なくとも 3枚の CD を出している。

メンバーはギジェルモ・ガアルシーア(Guillermo García)(ア

ルゼンチン人、ギター)、アドリアン・ヨスト(Adrian Jost)(ス

イス人、バンドネオン、アコーディオン、バヤン)、サッシャ・

ヤコブセン(Sascha Jacobsen)(米国人、コントラバス)の 3人

である。バヤンとはロシア式のアコーディオンで、独自の鍵盤

配列を持つ。音色は通常のアコーディオンと大差ないが、微妙

に違う点もあるという。かなり重いそうだ。

13.トリウンファル(Triunfal):CDに記載されている http://triunfal.vpweb.com/という URLで検索して

も何もヒットしない

トリウンファルは 18世紀ロシア楽器のバラライカとバヤン、そ

れとクラシック・ギターによるトリオで、アルゼンチン・タンゴ・

ダンサー向けのライブと共に、多くの文化的イベントで演奏して

いる。メンバーはウラジミール・セディク(Vladimir Sedykh)(バ

ラライカ)、ユージン・サイモン(Eugene Simon)(バヤン)、グレ

ゴリー・ニスネヴィッチ(Gregory Nisnevich)(ギター)の 3 人であ

る。コロラド州デンヴァーを拠点とするという。

14.キンタンゴ(QuinTango):http://www.quintango/com/

Trio Garufa 691012 Trio Garufa 691013

バヤン (出典;Wikipedia)

Triunfal

Page 7: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

7

キンタンゴはヴァージニア州アレクサンドリ

ア在住のジョアン・シンガー(Joan Singer)(多

分、右の画像の右から2人目の女性)が主導する、

北ヴァージニアを拠点とするタンゴ五重奏団で

ある。楽団編成はバイオリン 2、コントラバス、

チェロ、ピアノで、特別な場合を除いて、バンド

ネオンは入っていない。活動期間が長いのでメン

バーは少しずつ入れ替わっている。1998年当時

は女性 4人、男性 1人であったが、2014年では

女性 2人、男性 3人になっている(右の画像)。こ

れまでに 1998年、2000年、2003 年、2005年、2008年、2014年と 17年間に立て続けに 6枚の CD(下の

画像)を出していることから、その精力的な活動がうかがえる。キンタンゴは全米各地の大きな演奏会

場で演奏することが多いようで、交響楽団との共演もあるという。

キンタンゴは初期は平易な演奏スタイルであったが、2008年頃からマウリシオ・マルチェリやオス

バルド・ベリンジエリによる編曲を導入するようになって、やや難しいスタイルになって来たようだ。

15.マンドラゴラ・タンゴ(Mandrágora Tango): http://www.mandragoratango.com/

1998年 2000年 2003年

2005年 2008年 2014年

Page 8: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

8

この楽団については札幌市在住の岩垂 司氏からご教示をい

ただいた(私信及び Tangueando en Japon, No.18 (2006) p.97)。こ

の楽団はミネソタ州ミネアポリス市を拠点とする四重奏団で、

メンバーは

ボブ・バーンズ(Bob Barnes)(リーダー、バンドネオン、

アコーディオン、ドイツ・フランクフルト出身)

ローラ・ハラダ(Laura Harada)(バイオリン、風貌と苗字か

らすると日系かも知れない)

スコット・マテオ・デイヴィース(Scott Mateo Davies)(ギター)

ニコラス・ガウデッテ(Nicholas Gaudette)(コントラバス)

の 4人である。

活動を始めたのは 2001年で、それ以来、全米の 40以上の都市で演奏活動を行ってきた。ボブは

“Mandragora”というタイトルのタンゴを作曲しており、それをそのまま楽団名にしたようだ。タンゴ以外

にワルツ、ミロンガ、スイング、ラテン・ダンス音楽も取り上げるが、ロックなどは取り上げない。

これまでに 3枚の CDを出しているという。その 1枚を聴いた感じでは、全体的に荒削りで未完成なと

ころが大きいけれども、既成概念に囚われない演奏スタイルはやはり米国である。

16.エクトル・デル・クルト(Héctor Del Curto):http://www.hectordelcurto.com/

ニューヨーク・タイムス紙によって「素晴らしいプレーヤー」と賞賛されたエクトル・デル・クルト

はバンドネオン奏者一族の生まれで、祖父のエクトル・クリストバル(Héctor Cristobal)によってタンゴ

の世界、そしてバンドネオンの世界に惹き込まれた。17歳の時にアルゼンチンにおける「25歳以下の最

良のバンドネオン奏者」の栄誉を獲得し、オスバルド・プグリエーセのオルケスタにスカウトされた。

1999年に彼はそのアーティスト活動によってイタリアン‐アメリカン・ネットワーク(如何なる組織か

は不明)からゴールデン・ノート賞を得た。恐らくその頃から拠点を米国に移し、ブロードウェイでフ

ォーエヴァー・タンゴ・ショーを指揮し、又、9人編成のエターナル・タンゴ・オーケストラを結成し、

(恐らく)2008年前後に CD を出した(下の左の画像)。更に 2013年に別なコンフント編成によるピア

ソラ作品だけを取り上げた CDを出した(下の右の画像)。

彼は米国最初のタンゴ音楽フェスティバルであるストウ・タンゴ音楽フェスティバル(Stowe Tango

Music Festival)の設立音楽監督でもある。

Page 9: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

9

17.ラウール・ハウレーナ(Raúl Jaurena):http://www.rauljaurena.com/

ラウール・ハウレーナについては日本でも良く知られている。ハウレーナはウルグアイのモンテビデ

オの生まれで、始めは父親からバンドネオンを学び、8歳の時にはすでに子供タンゴ楽団のメンバーであ

った。彼は 1960年代と 1970年代を通してアルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、チリでのいくつかの

タンゴ楽団のバンドネオン奏者及び編曲者として活躍し、又、著名なセーサル・サニョリのトリオのメ

ンバーでもあった。

米国に拠点を移した後、ハウレーナは米国、ヨーロッパ、アルゼンチンにおいて、指揮者として、独

奏者として、作曲家として、極めて多面的な活動を展開している。彼は 2007 年に CD「Te amo tango」

(Soundbrush RR 888)でグラミー賞を受賞した(岩垂 司氏のご教示による)。彼の場合は米国のタンゴ楽

団というよりは、米国を拠点として国際的に活動するタンゴ・アーティストと言った方が適当であろう。

18.アドルフォ・ロスケージャス(Adolfo Rosquellas)(Pancho and his orchestra)

これまで紹介した1.から17.までの楽団はすべて現代の楽団であるが、この楽団はそれらとは異

なり 1930~1940年代に活躍した楽団である。

筆者の手許に PANCHO & HIS ORCHESTRA という楽団名の DECCA SP 盤が 2枚ある。内容は

DECCA F 6963A PANCHO & HIS ORCHESTRA INSPIRACION

〃 F6963B 〃 DERECHO VIEJO

〃 F6964A 〃 TANGO DELLE ROSE

〃 F6964B 〃 POR QUE?

の 4曲である。これらを入手したのは数年前で、その時はこれがどういう楽団であるか全く情報が無く、

そのまま今日に至った。

ところが最近になってアルゼンチンのブエノス・アイレス・タンゴ・クラブ(BATC)が 2011年に制

作した ADOLFO ROSQUELLAS“PANCHO AND HIS ORCHESTRA”(1938-1941) (BATC 89286)というタ

イトルの CD を入手することができ、これが戦前に米国で活躍したタンゴ楽団であることがわかった。戦

前の米国にタンゴ専門楽団があったとは想像しなかった。

Page 10: 10 Tango No.9 San Francisco, CALIFORNIA 11 …webtango.web.fc2.com/usatango.pdf8 Redwood Tango Ensemble San Francisco, CALIFORNIA 9 Seth Asarnow y su 6to típ. San Francisco, CALIFORNIA

10

米国の楽団であるだけに、オルケスタ・ティピカ編成ではなく、管楽器も入った編成ではあるが、中

身はれっきとしたアルゼンチン・タンゴである。

その CD に付属の資料及びインターネット資料 https://www.findagrave.com/(墓を探すサイト)によれば、

アドルフォ・ロスケージャスは 1900年にブエノス・アイレスの裕福な家に生まれた。幼少のころから音

楽、特にバイオリンと作曲を学んだ。始めはアマチュア音楽家であった。ところが 1920年代にロスケー

ジャス家は破産の憂き目に会い(恐らく世界恐慌の結果であろう)、彼は音楽家として稼がねばならなく

なった。1926年にフランスに、翌 1927年に米国に渡り、ニューヨークの有名な“Embassy Club”で自ら

の名前を冠したオーケストラでデビューを果たした。彼は終生米国で過ごし、1964年に世を去った。1934

年にカルロス・ガルデルはロスケージャスにツアーへの参加を勧誘したが、彼は辞退した。もし彼がツ

アーに参加していたら、メデジン空港での悲劇に巻き込まれていたであろう。

ロスケージャスは作曲家として“Cap Polonio”、“Acordate”、“Pura Clase”などの作品でも知られてい

る。

19.Tango-Lと Tango-A:http://www.tango-l.com/

Tango-Lと Tango-A はアルゼンチン・タンゴに関する国際的インターネット・メーリング・リストであ

る。Tango-Lはアルゼンチン・タンゴに関する任意の話題に対する討論リストであり、Tango-A は世界中

の主要なタンゴ・イベントについてのアナウンスメント・リストである。所定のルールと方針を守れば

誰でもメンバーになれる。タンゴに関する情報交換・討論であれば Tango-Lだけで十分である。使用言

語は勿論英語であるから、スペイン語を知らなくても問題は無い。筆者も Tango-Lに登録しており、冒

頭に示したタンゴ楽団の情報も Tango-Lを介して入手した。こうしたシステムは国土が広い米国と元々

オープンな性格の米国人ならではのものであろう。

こうして見てくると米国はタンゴの不毛の地どころか、想像以上にタンゴが盛んな国である。本格的

なオルケスタ・ティピカはまだ少なく、大部分がトリオ~六重奏団である。バンドネオンの代わりにア

コーディオンを用いる楽団も多く、全体の腕前はまだ発展途上と言ってよいだろう。しかし、タンゴ楽

団、タンゴ・ダンサー、タンゴ・コミュニティの相互の結び付きは日本より強いように見える。米国に

おけるタンゴは今後更に盛んになるのではなかろうか。これまで殆ど調査がされて来なかった米国のタ

ンゴ事情についても、今後は力を入れて行く必要が出てきた。