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植物にとって窒素は主要な栄養素であり、しばしば成長の律速である。その一方で、 過剰な窒素肥料の土壌への投入は環境汚染や健康被害につながっており、窒素代謝 の制御機構を理解し、土壌中の窒素の利用効率を高めることは植物科学の大きな課 題である。 植物の窒素代謝系の制御機構については、これまでに精力的な研究が行 われてきたものの、現在に至っても、未解明な点が数多く残されている。これは、植物 の窒素代謝系が非常にユニークであり、他の生物種とは経路や制御が大きく異なるた めである。そのため、植物の窒素代謝を理解するためには、そのユニークさ、他の生物 種と異なる特性を踏まえた上で、新たな展望を拓いていくことが重要ではないかと考え ている。 最近、私たちの研究グループでは、新規な窒素代謝制御因子「ACR11」を見 出した。これまでの知見から、ACR11がフェレドキシン依存的グルタミン酸合成酵素 Fd-GOGAT)と直接結合し、葉内の窒素フローに応答してその量や活性を制御してい ることが明らかになっている。さらに、ACR11はアミノ酸結合モチーフ(ACTモチーフ)を 2つ有することから、allostric制御を行っていると予想される。「GS/GOGATサイクル」 は窒素代謝の中心を担う反応であるため、このACR11によるFd-GOGATpost- transcriptionalな制御は植物の窒素代謝を考える上で興味深い。 本発表では、植物の窒素代謝のユニークな点、およびACR11による窒素代謝制御に ついて議論しながら、これからの窒素代謝研究について、考えたい。また、私たちは大 規模なタンパク質複合体解析を行っており、その結果をWebデータベース”PCoM-DB” で公開している。実際、ACR11もその解析から見出されたものである。本発表では、 PCoM-DBを利用した新規タンパク質複合体の探索についても合わせて紹介したい。 136Plant Science Seminar 植物の葉の窒素代謝は なぜユニークなのか? 日時 8月29日(月) 16:00〜17:00 場所 理学部 5号館3階 5-304号室 高林 厚史 博士 北海道大学 低温科学研究所 Plant Science Seminar 北大内で植物科学を研究している(特に)若い人たちの交流促進の場を提供するため のセミナーです。最近の成果を中心に、今後の展望をご講演いただきます。 世話人: 地球環境科学研究院・三輪京子(内4523[email protected]参考文献 Direct interaction with ACR11 is necessary for post-transcriptional control of GLU1- encoded ferredoxin-dependent glutamate synthase in leaves. Atsushi Takabayashi, Akihiro Niwata, Ayumi Tanaka, Scientific Reports 6, 29668 (2016) 共催: 新学術領域研究「植物細胞壁の情報処理システム」 -新規窒素代謝制御因子ACR11による Fd-GOGATの制御とその生理的意義-

160829高林博士 三輪...Title Microsoft PowerPoint - 160829高林博士_三輪.pptx Author takeo Created Date 8/17/2016 3:35:10 PM

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植物にとって窒素は主要な栄養素であり、しばしば成長の律速である。その一方で、過剰な窒素肥料の土壌への投入は環境汚染や健康被害につながっており、窒素代謝の制御機構を理解し、土壌中の窒素の利用効率を高めることは植物科学の大きな課題である。 植物の窒素代謝系の制御機構については、これまでに精力的な研究が行

われてきたものの、現在に至っても、未解明な点が数多く残されている。これは、植物の窒素代謝系が非常にユニークであり、他の生物種とは経路や制御が大きく異なるためである。そのため、植物の窒素代謝を理解するためには、そのユニークさ、他の生物種と異なる特性を踏まえた上で、新たな展望を拓いていくことが重要ではないかと考えている。 最近、私たちの研究グループでは、新規な窒素代謝制御因子「ACR11」を見出した。これまでの知見から、ACR11がフェレドキシン依存的グルタミン酸合成酵素(Fd-GOGAT)と直接結合し、葉内の窒素フローに応答してその量や活性を制御していることが明らかになっている。さらに、ACR11はアミノ酸結合モチーフ(ACTモチーフ)を2つ有することから、allostric制御を行っていると予想される。「GS/GOGATサイクル」は窒素代謝の中心を担う反応であるため、このACR11によるFd-GOGATのpost-transcriptionalな制御は植物の窒素代謝を考える上で興味深い。

本発表では、植物の窒素代謝のユニークな点、およびACR11による窒素代謝制御に

ついて議論しながら、これからの窒素代謝研究について、考えたい。また、私たちは大規模なタンパク質複合体解析を行っており、その結果をWebデータベース”PCoM-DB”で公開している。実際、ACR11もその解析から見出されたものである。本発表では、PCoM-DBを利用した新規タンパク質複合体の探索についても合わせて紹介したい。

第136回 Plant Science Seminar

植物の葉の窒素代謝はなぜユニークなのか?

日時 : 8月29日(月) 16:00〜17:00場所 : 理学部 5号館3階 5-304号室

高林 厚史 博士北海道大学 低温科学研究所

Plant Science Seminar北大内で植物科学を研究している(特に)若い人たちの交流促進の場を提供するためのセミナーです。最近の成果を中心に、今後の展望をご講演いただきます。

世話人: 地球環境科学研究院・三輪京子(内4523、[email protected]

参考文献Direct interaction with ACR11 is necessary for post-transcriptional control of GLU1-encoded ferredoxin-dependent glutamate synthase in leaves. Atsushi Takabayashi, Akihiro Niwata, Ayumi Tanaka, Scientific Reports 6, 29668 (2016)

共催: 新学術領域研究「植物細胞壁の情報処理システム」

-新規窒素代謝制御因子ACR11によるFd-GOGATの制御とその生理的意義-