2
1. はじめに 一般の商用デジタルカメラ画像から植生指標を推定 する試みは、いくつもの問題点をはらんでいる。大き な問題点のひとつとして推定した標準植生指標の値が 0.9 となる異常高領域が植生分布図に出現することで ある。図 1 に示すように破線のヒストグラムには、標 準植生指標値の大きなピークが 0.9 より大きい範囲に 出現している。異常高領域と可視光カメラ画像の影領 域はほぼ、重なっている。この原因の分析と対応方法 を検討し、デジタルカメラ出力画像の輝度が極端に低 い範囲の画素を植生指標推定から除去する手法を試み た。通常の写真撮 影における適正露 光範囲と類似した 輝度範囲制限を推 定過程に加え、カ メラ画像から推定 の植生指標精度は 大きく向上した。 また、デジタルカ メラ出力画像を、 ある種のセンサー として用いるとき には、より高精度の植生指標値推定のために、ガンマ 値を 1.8 程度にすることを提案した報告である。 2.カメラ出力画像の輝度範囲設定 標準植生指標 NDVI(Normalized Difference Vegetation Index) の定義式を、式 (1) に示す。 ここで、ρ NIR ,ρred は、対象物体の、それぞれ近赤 外域および可視光赤色域での反射率である。 NDVI 値の特徴を見るために、 y=NDVI, x= NIR / red とおくと、式 (1) は式 (2) で表される。 y=(x-1)/(x+1) (2) x=9 のとき、y=0.8, x=19 のとき、 y=0.9 となる。 植物葉のクロロフィルの活動が活発な時、ρ NIR は高く、 ρred は低くなり、両者の比, x の値は図2より高々15 以下の範囲におさまっている。つまり、 NDVI 値が 0.9 を超えれば異常高とみなせる。 カメラ出力画像の画素値(DN:Digital Number) と植物 葉表面からの分光輝度の関係を考察する上で、入射光, 対象被写体の分光反射率,レンズフィルターの分光透 過率,カメラの露光時間,カメラの撮像素子の分光 感度特性が重要である。これらの関係を示す入射光 の流れを図 3 に示す。近赤外光領域の(DN) Nir と可視光 赤領域の(DN) VisRed を表す式を次に示す。 デジタルカメラ出力画像の輝度範囲制限による 推定植生指標の精度向上 尾崎敬二 国際基督教大学 アーツ・サイエンス学科 Improvement of Accuracy in Estimated Vegetation Index by Restriction of Luminance Range in Images Captured by Digital Cameras. Keiji OSAKI † International Christian University, Arts & Science (1) ) ( ) ( red NIR red NIR NDVI 2 植物葉,標準白色板および標準グレー反射 板の分光反射率特性 0 1000 2000 3000 4000 5000 -0.5 -0.3 -0.1 0.1 0.3 0.5 0.7 0.9 Frequency NDVI 1 画像から推定の標準植生指標 の頻度分布 3 入射光からカメラの像面露光までの光の流れ Copyright 2015 Information Processing Society of Japan. All Rights Reserved. 2-33 1D-04 情報処理学会第 77 回全国大会

1D-04 5000[&gM >3>,r\u ÓÛ#ì @?} N b = Ü#Õ æ NDVIb( Øc #ì @b N b4#&ì[3d Ø( V D7H MG\_|~ ±AC ¥ VKS ( : U0£ Í?}'ì bNDVI\b jb m c3.2%&ì Ø[6WS STK Í 1.8\K Z#ì @?} Ü#Õ

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1. はじめに

一般の商用デジタルカメラ画像から植生指標を推定

する試みは、いくつもの問題点をはらんでいる。大き

な問題点のひとつとして推定した標準植生指標の値が

0.9となる異常高領域が植生分布図に出現することで

ある。図1に示すように破線のヒストグラムには、標

準植生指標値の大きなピークが0.9より大きい範囲に

出現している。異常高領域と可視光カメラ画像の影領

域はほぼ、重なっている。この原因の分析と対応方法

を検討し、デジタルカメラ出力画像の輝度が極端に低

い範囲の画素を植生指標推定から除去する手法を試み

た。通常の写真撮

影における適正露

光範囲と類似した

輝度範囲制限を推

定過程に加え、カ

メラ画像から推定

の植生指標精度は

大きく向上した。

また、デジタルカ

メラ出力画像を、

ある種のセンサー

として用いるとき

には、より高精度の植生指標値推定のために、ガンマ

値を1.8程度にすることを提案した報告である。

2.カメラ出力画像の輝度範囲設定

標準植生指標NDVI(Normalized Difference

Vegetation Index)の定義式を、式(1)に示す。

ここで、ρNIR ,ρred は、対象物体の、それぞれ近赤

外域および可視光赤色域での反射率である。

NDVI値の特徴を見るために、y=NDVI,

x= NIR / red とおくと、式(1)は式(2)で表される。

y=(x-1)/(x+1) (2)

x=9のとき、y=0.8, x=19のとき、y=0.9となる。

植物葉のクロロフィルの活動が活発な時、ρNIRは高く、

ρredは低くなり、両者の比,x の値は図2より高 1々5

以下の範囲におさまっている。つまり、NDVI値が0.9

を超えれば異常高とみなせる。

カメラ出力画像の画素値(DN:Digital Number)と植物

葉表面からの分光輝度の関係を考察する上で、入射光,

対象被写体の分光反射率,レンズフィルターの分光透

過率,カメラの露光時間,カメラの撮像素子の分光

感度特性が重要である。これらの関係を示す入射光

の流れを図3に示す。近赤外光領域の(DN)Nirと可視光

赤領域の(DN)VisRedを表す式を次に示す。

デジタルカメラ出力画像の輝度範囲制限による

推定植生指標の精度向上

尾崎敬二†

国際基督教大学 アーツ・サイエンス学科†

Improvement of Accuracy in Estimated Vegetation Index by Restriction of

Luminance Range in Images Captured by Digital Cameras.

†Keiji OSAKI

† International Christian University, Arts & Science

(1))()(     redNIRredNIRNDVI

図2 植物葉,標準白色板および標準グレー反射

板の分光反射率特性

0

1000

2000

3000

4000

5000

-0.5 -0.3 -0.1 0.1 0.3 0.5 0.7 0.9

Freq

uenc

y

NDVI

図1 画像から推定の標準植生指標

の頻度分布

図3 入射光からカメラの像面露光までの光の流れ

Copyright 2015 Information Processing Society of Japan.All Rights Reserved.2-33

1D-04

情報処理学会第77回全国大会

Page 2: 1D-04 5000[&gM >3>,r\u ÓÛ#ì @?} N b = Ü#Õ æ NDVIb( Øc #ì @b N b4#&ì[3d Ø( V D7H MG\_|~ ±AC ¥ VKS ( : U0£ Í?}'ì bNDVI\b jb m c3.2%&ì Ø[6WS STK Í 1.8\K Z#ì @?} Ü#Õ

写真撮影における適正露光範囲と類似させたデジタル

カメラの変換画素値(DN)Convertedと露光量E[lx・sec]の

関係を図 4 に示す。カメラ出力量と露光量差の比で表

されるガンマ(γ)を変化させた場合の直線と、露光量

10dBの範囲制限域を合わせて示している。

3.出力画像から推定のNDVIの分布図

植生指標推定の対象

としたデジタルカメ

ラ可視光出力画像を、

図 5 に示す。推定し

た植生指標の精度を

評価するために、分

光放射輝度計を用い

て、視野角 5度、観

測距離を約 15~

20cm として 3 方向

で測定した。分光反

射率を求めるための基準となる標準白色板と、出力画

像の露光条件の調整用に標準グレー反射板を画像に含

めている。得られた結果を図6に示す。図6の(左)は、

輝度範囲制限なしで植生指標を推定した結果で、異常

高領域が広がっており、推定植生指標値は、影領域で

0.9以上を示している。一方、図6(中)の植生指標分布

図では、異常高領域は、ほとんど影領域として推定さ

れた。図6(右)に、NDVIのスケールを色分けしたカラ

ーバーを示す。

4.分光放射輝度計測定値による推定の評価

表1に図6に示す3方向から測定した分光反射率から算出

した標準植生指標NDVI値を示す。植物葉の分光反射率

測定結果を図7に示す。通常のデジタルカメラ出力画像を

ディスプレイ装置に表示する場合のγ値は2.2であるが、

このγ値で推定植生指標の分布図を作成すると、異常高領

域画素が全画素に占める割合は7%となり、推定精度に悪

影響を及ぼしていた。そこで、γを変動させて、推定植生

指標の異常高割合[%]を求めた。結果を図8に示す。右縦

軸に異常高割

合[%]を示す。

γが1.8以下

でこの割合は

1%以下となる。

図8に分光放

射計測定値か

ら算出のNDVI

の平均値を●

で示す。

5.まとめ

カメラ画像から推定の標準植生指標NDVIの精度は、出

力画像の推定の過程で輝度範囲制限を施すことにより、

大きく向上した。分光

放射計測定値から算出

のNDVIとの差の割合

は3.2%程度であった。

ただし、γ値を1.8とし

て画像から植生指標を

推定した。γ値を1.8

とする妥当性について

は今後の検討課題であ

る。

図4 変換画素値(DN)convertedと露光量E[lx・sec]

の関係

図8 カメラ画像から推定と、

分光反射率測定値から算

出の標準植生指標の比較

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

400 500 600 700 800

Refle

ctan

ce

wavelength(nm)

M-4(above)

M-5(Left)

M-6(Right)

GrayPlate

-0.8-0.400.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0

図5 植生指標推定の対象とした

デジタルカメラ可視光画像

図7 分光放射計による図6にある3方

向からの植物葉分光反射率測定結果

図6 出力画像から推定の標準植生指標分布図:(左)輝

度範囲制限なし(中)輝度範囲制限あり(右)標準植

生指標値の色帯

0

2

4

6

8

10

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.4 1.6 1.8 2

標準植生指標

γ

画像から推定

測定分光反射率から算出(M-4)

測定分光反射率から算出(Mean)

測定分光反射率から算出(M-5)

異常高割合(%)

表1 図5の3方向に対応した分光放射輝度計測

定値から算出の標準植生指標結果

LeftRight

Above

1 10 100

ρ(%)

DN6

16

40

102

2550.0

0.4

0.8

1.2

1.6

0.001 0.010 0.100 1.000

(DN)converted

E(lx・s)

γ=1.8

γ=2.0

γ=2.2

18% neutral gray

謝辞 本研究は平成26

年度科学研究費補助金基

盤(C)(課題番号:

26450367)の助成を受け

たものである。

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情報処理学会第77回全国大会