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563 1 次元等価線形解析による簡易 液状化解析法の提案 A SIMPLIFIED METHOD TO EVALUATE SEISMIC RESPONSE OF LIQUEFIABLE SOIL USING 1D EQUIVALENT LINEAR ANALYSIS 日本建築学会技術報告集 第 21 巻 第 48 号,563-568,2015 年 6 月 AIJ J. Technol. Des. Vol. 21, No.48, 563-568, Jun., 2015 小林素直———— *1 林 康裕———— *2 新井 洋———— *3 キーワード : 液状化,せん断剛性比,補正N 値,強震記録,等価線形解析 Keywords: Liquefaction, Shear modulus, Adjusted N-value, Strong motion records, Equivalent linearization analysis Sunao KOBAYASHI—— *1 Yasuhiro HAYASHI—ーー *2 Hiroshi ARAI——————— *3 A practical method estimating both ground amplification and displacement is proposed for liquefied site during earthquake. This method consists of the 1D equivalent linear analysis, evaluation of liquefaction potential with an equivalent effective-stress concept, and estimation of shear modulus ratio for liquefied soil. The shear modulus ratios of liquefied soils are then estimated from inverse analyses using strong ground motion records at four sites in Japan. The estimated results lead finally to a simplified formula evaluating the shear modulus ratio of liquefied soil, which can be determined by the adjusted N-value derived from the standard penetration test. *1 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 (〒 615-8540 京都市西京区京都大学桂 C2 棟 316 号室) *2 京都大学大学院工学研究科 教授・工博 *3 国土技術政策総合研究所建築研究部 主任研究官・博士(工学) *1 Graduate Student, Kyoto Univ. *2 Prof., Dept. of Architecture and Architectural Engineering, Kyoto Univ., Dr. Eng. *3 Senior Researcher, Building Dept., National Institute for Land and Infrastructure Management, Dr. Eng. 1.はじめに 近年、地震による液状化被害が多数報告されており、杭基礎建築 物の耐震設計の際に、液状化地盤の地震時応答を簡便かつ適切に評 価する必要が高まっている。杭基礎建物の耐震設計上重要な表層地 盤の地震動増幅率や最大変形を適切に評価するためには、液状化発 生の有無とともに液状化後の地盤応答の影響を反映する必要がある。 そのため、有効応力解析をはじめとして様々な地震応答解析法が提 案されている 例えば 1) が、土の応力―ひずみ関係や間隙水圧など様々 な構成則のパラメータ設定を行う必要がある。このため、深い専門 知識と多くの経験が必要で、解析者によって結果が異なってしまう 傾向にあり、設計実務にそのまま利用することは容易ではない。一 方、重複反射理論に基づく1次元等価線形解析(例えば、SHAKE 2) ) 2001 年に導入された限界耐力計算で示された表層地盤の地震動 増幅効果を簡便に評価する方法では、原則として、 1%程度以上のせ ん断ひずみを経験する液状化地盤には適用できないとされている 3) 以上の背景から、地盤の液状化の影響を適切に考慮した、簡易液状 化解析法の確立が切望されている 4) 本論文では、建築物の耐震設計への適用を目的として、液状化地 盤の地震動増幅率と最大変形を簡便に評価可能で、等価有効応力の 概念 1),5) に基づいた液状化判定法と液状化層におけるせん断剛性比 の推定法を組み込んだ1次元等価線形解析法(以下、簡易液状化解 析法)を提示する。なお、液状化層せん断剛性比の評価法の構築にあ たっては、実際に液状化が確認された全国 4 地点の強震記録を用い て、液状化層のせん断剛性比をパラメータ解析により同定した結果 に基づいている。 2.簡易液状化解析法 地盤を水平多層構造と仮定し、1 次元等価線形解析を用いた地盤 の簡易液状化解析法を以下に示す 4 手順によって行う。 ]手順①_ まず、例えば SHAKE 2) などを用いて 1 次元重複反射理 論によって等価線形解析(繰り返し収束計算)を行い、地盤各層の 有効せん断ひずみE と対応する等価せん断剛性 GE を求める。本論 では、各層のせん断剛性 G よび減衰定数 h のせん断ひずみ依存性 に、以下に示す修正 Ramberg-Osgood モデル 6),7) (式(1)(4))を用 いる。 1 1 1 0 0 ref G G G G (1) 1 2 (2) max max 2 2 h h (3) 0 max 1 G G h h (4) ここに、 G0 は初期せん断剛性、 ref は土質と拘束圧などにより定まる 基準ひずみ(せん断剛性比 G/G01/2 となるせん断ひずみ)、hmax 減衰定数の最大値である。 ]手順②_ 次に、液状化の可能性がある砂質土層については、下記 のようにして算定される過剰間隙水圧比 1'm/m0 (ただし、m 平均有効拘束圧、m0 は平均有効拘束圧の初期値)が計算上 1 以上に なる場合に、液状化層と判定する。まず、過剰間隙水圧比は、 De Alba らの提案式 8),9) を用いれば、液状化発生に関する累積損傷度 D で概 ね近似できる。

1次元等価線形解析による簡易 A SIMPLIFIED METHOD TO ...1 Yasuhiro HAYASHI 2 Hiroshi ARAI 3 A practical method estimating both ground amplification and displacement is proposed

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  • 563

    1次元等価線形解析による簡易液状化解析法の提案

    A SIMPLIFIED METHOD TO EVALUATE SEISMIC RESPONSE OF LIQUEFIABLE SOIL USING 1D EQUIVALENT LINEAR ANALYSIS

    日本建築学会技術報告集 第 21 巻 第 48 号,563-568,2015 年 6 月

    AIJ J. Technol. Des. Vol. 21, No.48, 563-568, Jun., 2015

    小林素直— ———— * 1 林 康裕— ————* 2新井 洋— ————* 3

    キーワード :液状化,せん断剛性比,補正N 値,強震記録,等価線形解析

    Keywords:Liquefaction, Shear modulus, Adjusted N-value, Strong motion records, Equivalent linearization analysis

    Sunao KOBAYASHI— —— * 1 Yasuhiro HAYASHI—ーー * 2Hiroshi ARAI———————— * 3

    A practical method estimating both ground amplification and displacement is proposed for liquefied site during earthquake. This method consists of the 1D equivalent linear analysis, evaluation of liquefaction potential with an equivalent effective-stress concept, and estimation of shear modulus ratio for liquefied soil. The shear modulus ratios of liquefied soils are then estimated from inverse analyses using strong ground motion records at four sites in Japan. The estimated results lead finally to a simplified formula evaluating the shear modulus ratio of liquefied soil, which can be determined by the adjusted N-value derived from the standard penetration test.

    *1 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 (〒 615-8540 京都市西京区京都大学桂C2棟 316 号室)*2 京都大学大学院工学研究科 教授・工博*3 国土技術政策総合研究所建築研究部 主任研究官・博士(工学)

    *1 Graduate Student, Kyoto Univ.

    *2 Prof., Dept. of Architecture and Architectural Engineering, Kyoto Univ., Dr. Eng.*3 Senior Researcher, Building Dept., National Institute for Land and Infrastructure

    Management, Dr. Eng.

    1次元等価線形解析による 簡易液状化解析法の提案

    A SIMPLIFIED METHOD TO EVALUATE SEISMIC RESPONSE OF LIQUEFIABLE SOIL USING 1D EQUIVALENT LINEAR ANALYSIS

    小林 素直 1 林 康裕 2新井 洋 3

    キーワード:液状化, せん断剛性比, 補正 N値, 強震記録, 等価線形解析 Keywords: Liquefaction, Shear modulus, Adjusted N-value, Strong motion records, Equivalent linearization analysis

    Sunao KOBAYASHI 1 Yasuhiro HAYASHI 2 Hiroshi ARAI 3 A practical method estimating both ground amplification and displacement is proposed for liquefied site during earthquake. This method consists of the 1D equivalent linear analysis, evaluation of liquefaction potential with an equivalent effective-stress concept, and estimation of shear modulus ratio for liquefied soil. The shear modulus ratios of liquefied soils are then estimated from inverse analyses using strong ground motion records at four sites in Japan. The estimated results lead finally to a simplified formula evaluating the shear modulus ratio of liquefied soil, which can be determined by the adjusted N-value derived from the standard penetration test.

    1.はじめに

    近年、地震による液状化被害が多数報告されており、杭基礎建築

    物の耐震設計の際に、液状化地盤の地震時応答を簡便かつ適切に評

    価する必要が高まっている。杭基礎建物の耐震設計上重要な表層地

    盤の地震動増幅率や最大変形を適切に評価するためには、液状化発

    生の有無とともに液状化後の地盤応答の影響を反映する必要がある。

    そのため、有効応力解析をはじめとして様々な地震応答解析法が提

    案されている例えば 1)が、土の応力―ひずみ関係や間隙水圧など様々

    な構成則のパラメータ設定を行う必要がある。このため、深い専門

    知識と多くの経験が必要で、解析者によって結果が異なってしまう

    傾向にあり、設計実務にそのまま利用することは容易ではない。一

    方、重複反射理論に基づく1次元等価線形解析(例えば、SHAKE2))

    や 2001 年に導入された限界耐力計算で示された表層地盤の地震動

    増幅効果を簡便に評価する方法では、原則として、1%程度以上のせ

    ん断ひずみを経験する液状化地盤には適用できないとされている 3)。

    以上の背景から、地盤の液状化の影響を適切に考慮した、簡易液状

    化解析法の確立が切望されている 4)。

    本論文では、建築物の耐震設計への適用を目的として、液状化地

    盤の地震動増幅率と最大変形を簡便に評価可能で、等価有効応力の

    概念 1),5)に基づいた液状化判定法と液状化層におけるせん断剛性比

    の推定法を組み込んだ1次元等価線形解析法(以下、簡易液状化解

    析法)を提示する。なお、液状化層せん断剛性比の評価法の構築にあ

    たっては、実際に液状化が確認された全国 4地点の強震記録を用い

    て、液状化層のせん断剛性比をパラメータ解析により同定した結果

    に基づいている。

    2.簡易液状化解析法

    地盤を水平多層構造と仮定し、1 次元等価線形解析を用いた地盤

    の簡易液状化解析法を以下に示す 4手順によって行う。

    手順① まず、例えば SHAKE2)などを用いて 1次元重複反射理

    論によって等価線形解析(繰り返し収束計算)を行い、地盤各層の

    有効せん断ひずみEと対応する等価せん断剛性 GEを求める。本論

    では、各層のせん断剛性 Gよび減衰定数 hのせん断ひずみ依存性

    に、以下に示す修正 Ramberg-Osgoodモデル 6),7)(式(1)~(4))を用

    いる。

    111

    00

    refG

    GGG (1)

    12 (2)

    max

    max

    22

    hh

    (3)

    0max 1 G

    Ghh (4)

    ここに、G0は初期せん断剛性、refは土質と拘束圧などにより定まる

    基準ひずみ(せん断剛性比 G/G0=1/2となるせん断ひずみ)、hmaxは

    減衰定数の最大値である。

    手順② 次に、液状化の可能性がある砂質土層については、下記

    のようにして算定される過剰間隙水圧比 1-'m/’m0 (ただし、’mは

    平均有効拘束圧、’m0は平均有効拘束圧の初期値)が計算上 1以上に

    なる場合に、液状化層と判定する。まず、過剰間隙水圧比は、De Alba

    らの提案式 8),9)を用いれば、液状化発生に関する累積損傷度 D で概

    ね近似できる。

    *1 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 (〒615-8540 京都市西京区京都大学桂 C2棟 316号室)

    *1 Graduate Student, Kyoto University

    *2京都大学大学院工学研究科 教授・工学博士 *2 Professor, Department of Architecture and Architectural Engineering, Kyoto University, Dr Eng. *3 国土技術政策総合研究所 建築研究部 主任研究官・博士(工学)

    *3 Senior Researcher, Building Department, National Institute for Land and Infrastructure Management, Dr. Eng.

  • 564

    ※表中の記号 c: 液状化強度曲線両対数軸の傾き 液状化強度曲線の両対数軸上の傾

    表 1 東神戸大橋の解析地盤モデル 表 2 釧路港湾の解析地盤モデル

    表 3 境港湾の解析地盤モデル 表 4 小名浜港湾の解析地盤モデル (a) 東神戸大橋

    (c) 境港湾

    (b) 釧路港湾

    (d) 小名浜港湾

    図 2 評価関数 R

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05

    (9)式の第1項(9)式の第2項R

    液状化層のせん断剛性比rG

    評価関数

    R

    rG*=0.014有効解

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05

    (9)式の第1項(9)式の第2項R

    液状化層のせん断剛性比rG

    評価関数

    R

    rG*=0.024-0.026有効解

    層厚(m)

    S波速度(m/s)

    土質 c補正N値

    細粒分含有率

    せん断剛性比

    3.00 113 まさ土(砂礫) - - -3.75 113 まさ土(砂礫) -0.25 9~10 0.10 r G15.75 137 まさ土(砂礫) -0.25 10~11 0.10 r G14.30 177 まさ土(砂礫) -0.25 14~15 0.10 r G27.20 159 粘土 - - -1.20 248 砂 - - -7.80 280 砂 - - -

      地下水位3.00m

    層厚(m)

    S波速度(m/s)

    土質 c補正N値

    細粒分含有率

    せん断剛性比

    1.80 150 砂 - - -3.00 150 砂 -0.24 14~16 0.08 r G16.90 210 砂 -0.35 23~29 0.14 r G2

    16.10 180 シルト - - -14.00 140 粘土 - - -4.90 290 砂 - - -1.40 240 粘土 - - -3.20 310 砂 - - -7.00 210 粘土 - - -4.60 320 シルト - - -4.30 370 砂 - - -4.80 420 粘土 - - -

      地下水位1.80m

    層厚(m)

    S波速度(m/s)

    土質 c補正N値

    細粒分含有率

    せん断剛性比

    2.00 249 砂 - - -7.00 249 砂 -0.34 24~35 0.06 r G

    14.00 326 砂 - - -9.00 265 砂 - - -4.00 341 砂 - - -8.00 286 シルト - - -8.00 302 砂礫 - - -

    25.00 341 砂 - - -  地下水位2.00m

    層厚(m)

    S波速度(m/s)

    土質 c 補正N値

    細粒分含有率

    せん断剛性比

    1.30 90 埋立(砂礫) - - -1.35 100 砂 -0.25 13 0.06 r G1.35 150 砂 - - -1.00 200 砂 - - -1.00 200 砂 - - -1.00 200 砂 - - -4.00 700 固結シルト - - -

      地下水位1.30m

    11 1.4

    0

    ' 21 sin'

    m

    m

    D D

    (5)

    そして、累積損傷度 Dは、図 1に示した液状化強度曲線を用いると

    次式のように表され、過剰間隙水圧比が算定できる。 1

    2020

    cE E E

    L

    N N RDN R

    (6)

    ここで、NEは地震動の等価繰返し回数で、地震マグニチュード M

    を用いて次式 10)に基づいて仮定した。

    0.2360.255 10 MEN (7)

    また、R20は繰返し回数 20 回で液状化に至るせん断応力比(液状

    化強度)、RE は等価せん断応力比で、平均有効拘束圧の初期値’m0を用いて RE = GEE / ’m0と表される。NLは、応力比 REで等振幅せん

    断を加えた場合の液状化発生までの繰返し回数である。

    手順③ 液状化層の等価せん断剛性 G’Eは、次章以降で算定方法

    を検討するせん断剛性比 rG G’E/G0より定める。そして、等価減衰

    定数 h’Eは次式により算定する。

    0max

    '1'GGhh EE

    (8)

    手順④ 最後に、液状化層の地盤物性を③で算定した値(G’E, h’E)

    に差し替えて1次元重複反射理論による線形解析を実施する。

    3.強震記録が得られた液状化地盤におけるせん断剛性比の推定

    本章では、強震記録が得られた液状化地盤を対象に、簡易液状化

    解析の手順③で必要な、せん断剛性比 rGをパラメトリックに変化さ

    せ、観測記録との整合性の高い rGを推定する。

    検討対象地点と解析条件

    検討対象地点は、東神戸大橋 11)(1995年兵庫県南部地震(MW=6.9))、

    釧路港湾 12)(1993年釧路沖地震(MW =7.8))、境港湾 13)(2000年鳥

    取県西部地震(MW =6.6))、小名浜港湾 14)(2011年東北地方太平洋

    沖地震(MW =9.0))の全国4地点とする。これらの解析地盤モデル

    と解析パラメータは既往の調査・研究 1),11)-18)に基づき、補正 N値 19)Naの深さ方向分布等から表 1~4に示すように設定した。液状化強度曲

    線両対数軸の傾き cは室内土質試験の結果を参考に設定した。なお、

    室内土質試験のデータがない場合、c の値は、文献 9)によると、通

    常は-0.25 を用いるとされている。R20は N 値による経験式から推定

    することができる。液状化の発生可能性のある層は、東神戸大橋で

    は G.L.-3.0~-12.5m と G.L.- 12.5~-16.8m、釧路港湾では G.L.-2.0~

    -9.0m、境港湾では G.L.-1.8~-4.8mと G.L.- 4.8~-11.7m、小名浜港湾

    では G.L.-1.3~2.65mである。ここで、表 1~4 に示すように、上記

    の各層で一定のせん断剛性比を仮定した。

    入力地震動は、鉛直アレー強震記録を有する東神戸大橋(N072W

    方向)、釧路港湾(NS方向)および小名浜港湾(EW方向)では、直下の

    深度 33m、77m および 11m で得られた本震記録を E+F 波として用

    いた。境港湾(EW方向)では、文献 16を参考に、北東約 4.5kmに位

    置する防災科学技術研究所 KiK-net 美保関観測地点の地表本震記録20)を 2.5倍したものを、直下深度 72mの 2E波として入力した。これ

    は、対象地震とほぼ同じ波動伝播経路で、地盤非線形化の影響が少

    ないと考えられる MW =4.4程度の中小地震の際に、境港観測点直下

    深度 72m の 2E 推定波と KiK-net 美保関観測記録の加速度フーリエ

    スペクトル比が 2.5 倍程度であったことに基づいている。また、小

    名浜港湾の本震記録については、地盤変位に不自然なドリフトが生

    じない様に、カットオフ周波数 0.5Hzのハイパスフィルタを通して、

    図 1 液状化強度曲線

    1

  • 565

    (d) 小名浜港湾(EW方向) (c) 境港湾(EW方向) 図 3 地表の加速度応答スペクトル

    (a) 東神戸大橋(N072W 方向) (b) 釧路港湾(NS方向)

    0

    5

    10

    15

    0.1 1 10

    観測有効解提案式

    Natural Period(s)

    Res

    pons

    e Ac

    c.(m

    /s2 )

    0.050

    10

    20

    30

    0.1 1 10

    観測有効解提案式

    Natural Period(s)

    Res

    pons

    e Ac

    c.(m

    /s2 )

    0.05

    0

    5

    10

    15

    0.1 1 10

    観測有効解提案式

    Natural Period(s)

    Res

    pons

    e Ac

    c.(m

    /s2 )

    0.050

    5

    10

    15

    0.1 1 10

    観測有効解提案式

    Natural Period(s)

    Res

    pons

    e Ac

    c.(m

    /s2 )

    0.05

    図 4 地盤の相対変位波形(d) 小名浜港湾(G.L.-11m)

    -0.04

    0

    0.04

    60 70 80 90 100 110 120

    観測有効解提案式

    Dis

    plac

    emen

    t (m

    )

    Time (s)

    -0.3

    0

    0.3

    0 10 20 30 40 50 60 70 80

    観測有効解提案式

    Dis

    plac

    emen

    t (m

    )

    Time (s)

    -1

    0

    1

    0 10 20 30 40 50 60

    観測有効解提案式

    Dis

    plac

    emen

    t (m

    )

    Time (s)

    -0.2

    0

    0.2

    10 20 30 40 50 60 70

    観測有効解提案式

    Dis

    plac

    emen

    t (m

    )

    Time (s)

    (c) 境港湾(G.L.-72m)

    (b) 釧路港湾(G.L.-77m)

    (a) 東神戸大橋(G.L.-33m)

    低周波数成分を除去した。

    せん断剛性比の評価関数

    評価関数としては、上部構造の応答と地盤変形の両方を適切に評

    価できるせん断剛性比を推定できるように、次式のような評価関数

    Rを設定した。

    E

    S

    E

    S

    E

    SE

    S t

    t O

    t

    t O

    t

    t OT

    TAO

    ACAO

    SE dt

    dtdtdT

    SSS

    TTR

    2

    2221

    21

    (9)

    ここに、SAは地表の加速度応答スペクトル(減衰定数 5%)、は地

    震動入力深度に対する地表の相対変位で、添字 O、C はそれぞれ観

    測値、計算値を表す。SAの積分範囲は、固有周期 TS=0.5sから TE=5s

    までとした。の時間積分範囲は、tS、tE の間としている。ここで、

    2 章に示した簡易液状化解析では、全時刻歴において、液状化地盤

    の物性を用いて応答を計算するため、液状化が発生した時刻以前の

    地盤の相対変位を過大評価してしまう傾向にある。一方、簡易液状

    化解析を杭基礎建物の設計に用いるためには、液状化時に地盤の相

    対変位が大きくなっている部分を適切に評価できることが望ましい。

    そこで、本論文では、別途時間積分範囲に関する検討を行った結果、

    の 2乗を時間積分した値を Eとしたとき、開始時刻からの積分値

    が 0.1E、0.9Eとなる時刻を各 tS、tEとする。これにより、液状化後

    の相対変位が大きくなる時間範囲を評価できていると考えている。

    なお、東神戸大橋、釧路港湾、境港湾および小名浜港湾の時間積分

    範囲 tS~tEは、それぞれ、おおよそ 18s~21s の約 3 秒間、30~42s

    の 12秒間、18~34sの 16秒間、90s~105sの 15秒間となっている(図

    4参照)。また、境港湾のは、地中観測記録が得られていないので、

    地表面観測記録と地震動入力位置でのE+F波との相対変位としてい

    る。

    rGは、手順①の等価線形解析で得られる等価せん断剛性比の値以

    下で、0.001 間隔で変化させた。また、手順④の後に得られる液状

    化対象層の過剰間隙水圧比がいずれも 0.95未満の場合は、評価対象

    から除外した。なお、過剰間隙水圧比が 0.95以上となる場合、手順

    ①から求められた等価せん断応力比を用いて、現行の建築基礎構造

    設計指針(以下、基礎指針)19) による液状化判定を行っても、同じ

    く液状化すると判定されることを確認している。

    評価結果

    図 2に、対象 4地点について、パラメトリック解析から得られた

    評価関数 Rの値の分布を示す。同図から、評価関数 Rの最小解(評

    価関数を最小化する rG)の付近では Rの変化は必ずしも顕著でなく、

    Rに対する rGの感度は良くないことが確認できる。そこで本稿では、

    R ≦1.1 min(R)となる rGの範囲を有効解 rG*と呼ぶ。図 2(a), (c)には、

    有効解を白点線で囲まれた範囲、最小解を✩印で示す。図 2(b), (d)

    には矢印で有効解の範囲を示す。なお、図 2(b), (d)には、式(9)で示

    した評価関数の第 1項と第 2項を、それぞれ点線で示している。同

    図より、最小解や有効解は式(9)の第 2項を最小化するように決定さ

    れていることが分かる。

    一方、図 2(a), (c)における有効解の境界上にある白丸(図 2(a)7点、

    (b)6点)、および、図 2(b), (d)の有効解に対応する簡易液状化解析結

    果を、地表の加速度応答スペクトル、地盤の相対変位時刻歴波形、

    地盤の最大応答(相対変位最大値、最大せん断ひずみ、せん断剛性比、

    過剰間隙水圧比)の深さ方向分布を、それぞれ図 3~5に示している。

  • 566

    (d) 小名浜港湾(EW方向) 図 5 地盤の最大応答の深さ方向分布

    (c) 境港湾(EW方向)

    (a) 東神戸大橋(N072W方向)

    (b) 釧路港湾(NS方向)

    なお、同図中には、加速度応答スペクトルと相対変位について、観

    測値も示している。また、図 5の過剰間隙水圧比の算定では、液状

    化層のせん断剛性比 rG*の影響を考慮している。

    図 3に示す地表の加速度応答スペクトルの計算値は、対象とした

    固有周期範囲(0.5~5s)で観測値と概ね良い対応を示している。

    図 4の相対変位波形に関して、釧路港湾および小名浜港湾におい

    ては、入力地震動が継続時間の長い地震動であり、過剰間隙水圧が

    ゆっくり上昇し、液状化の発生までに長い時間がかっていると推察

    される。このため、時刻 tS以前では、液状化後の地盤物性を用いて

    計算されていることに起因して、観測値との対応度が低下している。

    一方、式(9)に示した評価関数が、計算値と観測値の相対変位の誤差

    を時間積分範囲で最小化していることに起因して、最小解の最大相

    対変位は観測値に比べて小さめに評価される傾向にあるものの、誤

    差 1割程度以内に収まっている。

    図 5に示した最大地盤応答の深さ方向分布より、液状化可能性の

    ある全ての層で過剰間隙水圧がほぼ 1となって液状化している。液

    状化層での有効解の最大せん断ひずみは、東神戸大橋では約 1~7%、

    釧路港湾では 1%程度、境港湾では 1~2%、小名浜港湾では 3%程度

    の値で、非液状化層での最大せん断ひずみに比べてかなり大きな値

    となっている。しかし、既往の文献 19), 21)によれば、液状化層の最大

    せん断ひずみは 1~10%の値となっており、本論文の 1~7%の値は、

    既往の研究成果と概ね整合した結果となっている。

    また、液状化層での有効解 rG*は、東神戸大橋では約 1/100~1/30、

    釧路港湾では 1/40程度、境港湾では約 1/70~1/12、小名浜港湾では

    1/70程度の値が推定されている。せん断剛性比 rGと最大せん断ひず

    みの対応関係について、地点と液状化層の区分毎に□で囲って推定

    範囲を図 6に示す。同図中には、基礎指針 19)で示された液状化地盤

    の最大せん断ひずみとせん断剛性比の関係、および、様々な地震・

    地点について補正 N 値 Na、最大せん断ひずみやせん断剛性比 rGの

    推定値との対応を調べた三輪 21)の結果も図示している。同図より、

    本論文で推定したせん断剛性比は、同じ最大せん断ひずみレベルで

    比較すると、基礎指針に示されたせん断剛性比よりも小さめである

    が、三輪の結果と概ね対応していることが分かる。

    4.液状化層におけるせん断剛性比

    液状化層のせん断剛性比は、土の相対密度 Drと強く関係している

    ことが既往の研究 1),9),19)で指摘されている。しかし、基礎指針をはじ

    め、耐震設計実務においては、液状化抵抗比や水平地盤反力など、

    標準貫入試験の N 値と細粒分含有率から得られる補正 N 値 Naを用

    いて評価されることが多い。そこで、相対密度とよい相関のある補

    正 N 値 Naを使って、簡易液状化解析に用いるせん断剛性比の推定

    を行う。

    図 7 に 4 地点で推定された液状化せん断剛性比 rGの有効解と Naの関係を示す。同図には、比較のため、基礎指針 19), 三輪 21)が示し

    ている rG−Na関係をそれぞれ●印と■印で示している。また、淵本

    ら 22)は、サイクリックモビリティとポスト液状化の効果を簡便に評

    価するために、相対密度 Drに応じてせん断剛性比に下限値を設けて

    いる。そこで、Drを時松らの経験式 23)

    16r aD N (10)

    を用いて Naに変換して、rGの下限値と Naの関係を▲印で図 7 中に

    示す。同図から、本論文の推定結果は既往の研究結果と同様に、Naが小さいほど rGが小さくなる傾向を示している。

    以上から、図 7より簡易液状化解析に用いる液状化層のせん断剛

    性比 rGの設定方法として、(11)式を提案する。

    1000/aG Nr (11)

    上式による rGの推定値は、本論文の推定結果や既往の rG −Na関係と

  • 567

    比べると、やや小さめの値となっている。そこで、(11)式(提案式)を

    用いて簡易液状化解析を行った結果を、図 3~5中に点線で示す。地

    表の加速度応答スペクトル、地盤の相対変位波形、および地盤の最

    大応答の深さ方向分布は、いずれも強震観測結果と概ね対応した結

    果が得られていることが分かる。ただし、図 3 において、簡易液状

    化解析より得られた東神戸大橋の地表の加速度応答スペクトルにつ

    いては、観測値を小さめに評価されている。これは、東神戸大橋の

    G.L.-3.0~-12.5mにおける Naが 9~11と、他の液状化層より小さな値

    となっていることが原因と考えられる。そこで、G.L.- 12.5~-16.8m

    における Naが 14~15であることから、同層のせん断剛性比 rG2=0.015

    とし、G.L.-3.0~-12.5mにおけるせん断剛性比 rG1を(11)式に基づいて

    rG1=0.010 とした場合と、rG2と等しく rG1=0.015 とした場合について

    簡易液状化解析を行い、地表の加速度応答スペクトルを算定し、観

    測値と比較して図 8 に示す。同図において、rG1=0.010 とした場合に

    比べて rG1=0.015とした場合の方が、観測記録との対応が良いことが

    分かる。従って、補正 N 値 Naが 10 程度と小さい場合には、地表の

    加速度応答スペクトルを過小評価する可能性があり、式(11)に rGの下

    限値(例えば、0.015)を設定する方が良い可能性が示唆される。なお、

    rGの値を 0.010~0.015 の範囲で変化させても、地盤の相対変位波形

    および最大地盤応答の深さ方向分布は、ほとんど変化しないことを

    確認している。

    5.まとめ

    本論文では、液状化に関する深い専門知識や地震応答解析に関す

    る豊富な経験を有さなくても、実用的な精度で簡便に液状化地盤の

    地震動増幅率や最大変形を評価可能な、簡易液状化解析法を提案し

    た。提案手法は、重複反射理論に基づく1次元等価線形解析法に、

    等価有効応力の概念に基づいた液状化判定法と液状化層の補正N値

    を用いたせん断剛性比の評価法を組み込んだものである。

    本論文では、まず、簡易液状化解析法の解析手順を示した。次に、

    液状化層のせん断剛性比の評価法を構築するために、実際に液状化

    が確認された全国 4地点の強震記録を用いて、液状化層のせん断剛

    性比についてパラメータ解析を行った。そして、4 地点の地表面加

    速度応答スペクトルと地盤変形を適切に表現可能なせん断剛性比を

    推定した。最後に、推定されたせん断剛性比や 4地点の液状化層の

    最大せん断ひずみが、既往の研究結果と概ね整合していることを確

    認した上で、液状化層のせん断剛性比を補正 N値から簡便に推定す

    る方法を提示した。

    参考文献

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    礎設計の考え方, 建築基礎の設計施工に関する研究資料 4, 1998.9

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    Program for Earthquake Response Analysis of Horizontally Layered Sites,

    Earthquake Engineering Research Center, No.72-12, 1972.12

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    立行政法人建築研究所, 日本建築行政会議(監修):2007年版 建築物の

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    学会 基礎構造系振動小委員会, pp.4.2-1-19, 2011.1

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    日本建築学会大会学術講演梗概集, 構造 I, pp.569-570, 1998.9

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    of Engineering Mechanics Division, ASCE, Vol.90, No.EM2, pp.131-166

    1964.4

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    モデル化について(1), 生産研究, 30巻, 9号, 1978.9

    8) Pedro A. De Alba, H. Bolton Seed and Clarence K. Chan: Sand Liquefaction

    in Large-Scale Simple Shear Tests, Journal of Geotechnical Engineering

    Division, ASCE, Vol.102, No.GT9, pp.909-927, 1976.9

    9) 社本康広, 時松孝次, 有泉浩蔵:一次元有効応力解析の実地盤に対する

    0

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    0.1

    0.001 0.01 0.1

    境港湾EW

    東神戸大橋N072W

    釧路港湾NS

    小名浜港湾EW

    液状化層のせん断剛性ひずみ液状化層の最大せん断ひずみ

    0

    5

    10

    15

    0.1 1 10

    観測=0.010(提案式)

    Natural Period(s)

    Res

    pons

    e A

    cc.(m

    /s2 )

    0.05

    図 8 東神戸大橋の地表の加速度応答スペクトル (液状化層のせん断剛性比による比較)

    図 7 液状化層のせん断剛性比の 推定値と補正 N値との関係

    19) 21) 22)

    図 6 液状化層のせん断剛性比の 推定値と最大せん断ひずみの関係

    文献 19)

    文献 21)

  • 568

    適用性, 日本建築学会構造系論文報告集, No.433, pp.113-119, 1992.3

    10) 吉見吉昭:砂地盤の液状化(第二版), 技報堂出版株式会社, 1991.5

    11) 建設省土木研究所:土木構造物における加速度強震記録(No.21), 土

    木研究所彙報, No.64, 1995.6

    12) Susumu Iai, Toshikazu Morita, Tomohiro Kameoka, Yasuo Matsunaga and

    Kazuyuki Abiko:Response of a Dense Sand Deposit during 1993 Kushiro-oki

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    (BTL 委員会):兵庫県南部地震における液状化・側方流動に関する研

    究, 建設省建築研究所 建築研究報告 No.138, 2000.10

    16) 森伸一郎,曽我部繁之,阿部雅弘:境港での液状化地盤の地震時挙動に

    おける液状化の影響分析, 日本地震工学シンポジウム論文集 Vol.11,

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    17) 運輸省第三港湾建設局 境港工事事務所:境港岸壁(-10m)その他土質

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    21) 三輪滋:液状化地盤における杭基礎構造物系の耐震解析法, 京都大学博

    士論文, 2004.3

    22) 淵本正樹,社本康広:等価有効応力解析の液状化地盤に対する適用性,

    構造工学論文集, Vol.51B, pp.135-140, 2005.3

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    [2014年 10月 15日原稿受理 2014年 12月 3日採用決定]