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40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:竹内義人 1 . デンバーシャントの概念と適応 国立がん研究センター中央病院 放射線診断科 竹内義人 デンバーシャントとは 難治性腹水症に対して行われる外科治療で,腹腔静 脈シャント療法(peritoneovenous shuntPVS)の一種 である。シャントカテーテルの片方を腹腔に,他方を 中心静脈に挿入することにより,腹腔内圧と中心静脈 圧の圧較差を駆動力として腹水を血液中に環流させる もので,逆流防止弁付ポンプチャンバーによって指圧 で腹水を汲み上げることができるのがデンバーシャン トの特徴である (図 1) PVS 用の単一のデバイス名に 過ぎないが,他に有用な同等品がない現在においては PVS =デンバーシャント」とほぼ理解されている。 概 念 臨床腫瘍学における IVR は,抗腫瘍治療支援を目的 とする「腫瘍 IVR」とがん症状緩和目的の「緩和 IVRに大別される。肝癌に対する TACE RFA は前者に属 し,デンバーシャント,骨セメント,消化管ステント, デンバーシャント ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 40 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 大静脈ステント等は後者に属す。強く積極的な響きを 持つ「腫瘍 IVR」と比べ, 「緩和 IVR」はブルージーな響 きを醸し出す用語であるが,がん専門病院で施行され IVR 全件の 3 割強を占める事実を鑑みると,決して 侮れない臨床分野である。 IVR 治療としてのデンバーシャント。それぞれの手 技を「手術料の高さ」,「術後管理の大変さ」,「効果のド ラマティックさ」,「エビデンスの強さ」,「手技のワイル ドさ(大胆さ)」,「手技の繊細さ」の 6 ポイントで評価し, 各治療の特徴をレーダーチャートに示してみた (図 2) 例えば大動脈ステントグラフトは手術料が高く, TACE は繊細な手技を要し,大静脈ステントは劇的な効果を 来すことが特徴である。内臓神経ブロックは二重盲検 RCT によって検証された科学的根拠の高い治療であ 1。さてデンバーシャントは,大きな術創を必要と し処置が大胆という意味で「ワイルドな IVR」,大静 脈ステント同等の「劇的な効果」が期待できる一方で, 急激に変化する循環動態に対する「厳重な術後管理を 要す」ことが特徴といえる。 Concept and Indication of Peritoneovenous Shunt (PVS) Department of Diagnostic Radiology, National Cancer Center Hospital Yoshito Takeuchi Peritoneovenous shunt, Intractable ascites, Interventional radiology Key words 0 5 10 手術料 繊細さ ワイルドさ エビデンス 効果が劇的 術後管理 デンバーシャント TACE ステントグラフト 大静脈ステント 内臓神経ブロック 図 1 デンバーシャントのシェーマ 静脈側 腹腔側 図 2 種々の IVR のレーダーチャート 17577

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:竹内義人

1 . デンバーシャントの概念と適応国立がん研究センター中央病院 放射線診断科

竹内義人

デンバーシャントとは

 難治性腹水症に対して行われる外科治療で,腹腔静脈シャント療法(peritoneo−venous shunt,PVS)の一種である。シャントカテーテルの片方を腹腔に,他方を中心静脈に挿入することにより,腹腔内圧と中心静脈圧の圧較差を駆動力として腹水を血液中に環流させるもので,逆流防止弁付ポンプチャンバーによって指圧で腹水を汲み上げることができるのがデンバーシャントの特徴である(図1)。PVS用の単一のデバイス名に過ぎないが,他に有用な同等品がない現在においては「PVS=デンバーシャント」とほぼ理解されている。

概 念

 臨床腫瘍学における IVRは,抗腫瘍治療支援を目的とする「腫瘍 IVR」とがん症状緩和目的の「緩和 IVR」に大別される。肝癌に対するTACEやRFAは前者に属し,デンバーシャント,骨セメント,消化管ステント,

デンバーシャント‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第40回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

大静脈ステント等は後者に属す。強く積極的な響きを持つ「腫瘍 IVR」と比べ, 「緩和 IVR」はブルージーな響きを醸し出す用語であるが,がん専門病院で施行される IVR全件の3割強を占める事実を鑑みると,決して侮れない臨床分野である。 IVR治療としてのデンバーシャント。それぞれの手技を「手術料の高さ」,「術後管理の大変さ」,「効果のドラマティックさ」,「エビデンスの強さ」,「手技のワイルドさ(大胆さ)」,「手技の繊細さ」の6ポイントで評価し,各治療の特徴をレーダーチャートに示してみた(図2)。例えば大動脈ステントグラフトは手術料が高く,TACEは繊細な手技を要し,大静脈ステントは劇的な効果を来すことが特徴である。内臓神経ブロックは二重盲検RCTによって検証された科学的根拠の高い治療である1)。さてデンバーシャントは,大きな術創を必要とし処置が大胆という意味で「ワイルドな IVR」,大静脈ステント同等の「劇的な効果」が期待できる一方で,急激に変化する循環動態に対する「厳重な術後管理を要す」ことが特徴といえる。

Concept and Indication of Peritoneovenous Shunt (PVS)

Department of Diagnostic Radiology, National Cancer Center HospitalYoshito Takeuchi

Peritoneovenous shunt, Intractable ascites, Interventional radiologyKey words

0

5

10手術料

繊細さ

ワイルドさ

エビデンス

効果が劇的

術後管理

デンバーシャントTACEステントグラフト大静脈ステント内臓神経ブロック

図1 デンバーシャントのシェーマ

静脈側

腹腔側

図2 種々のIVRのレーダーチャート

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:竹内義人

技術教育セミナー / デンバーシャント

 PVS療法は当初,水頭症用ホルター弁を転用した治療としてSmithによって1962年に発案された2)。その後,腹水圧の増減により機械的に開閉する可動式シリコン弁を有するPVS専用のLeVeenシャントが1974年に考案された3)。しかし当時はがんや肝硬変の診療指針やDICの概念が浸透していなかったこともあり,一定の評価を受けなかった。デンバーシャントは1990年に考案され,めざましい普及とともに「PVS=デンバーシャント」の図式が完成した4)。 PVSはエビデンスに乏しい治療である。過去の報告は国内外で多数知られているが,そのほぼ全てが数十例以下の小規模な記述研究というさびしい状況のため,治療成績に関して一定の解釈が得にくい。133例を対象にした比較的規模の大きい多施設共同研究によれば,症状緩和率83%,効果発現までの期間2日(1~9日),症状緩和持続期間26日(最大330日),有害事象6.8%(出血・発熱・血栓・DIC・胸水・敗血症・腸閉塞・心不全),致死率4.5%である5)。レベルの高い文献(レベル3)として経頸静脈経肝的腹腔静脈シャント(transvenous transheptic peritoneal venous shunt, TTPVS)の第Ⅰ・Ⅱ相臨床試験(JIVROSG−0201)が最近報告され,この新案がデンバーシャントと遜色なきことが示された6)。詳細は後述する。現在,PVS療法を従来治療と比較検証する目的で立案されたRCT(JIVROSG−0803)が国内進行中である。

代替治療

 デンバーシャントは強力な効果を持った治療ではあるが,難治性腹水に対する治療の一部に過ぎない。主治医や患者に本治療を提案する際に当然知っておくべき事項として,本症に対する代替治療を述べる。

1)利尿剤 スピロノラクトン(アルダクトン)で奏効率が約9割と高く,特にフロセミド(ラシックス)との併用投与により効果は増強する7)。しかし日常臨床において大量の腹水を利尿剤のみで制御し続けることは不可能で,長期使用に伴う腎機能障害や電解質異常や血管内脱水の進行が危ぶまれる。

2)腹水穿刺排液 最も直接的な処置として,呼吸症状や腹部膨満感などの腹部症状による苦痛に対して用いる。外来で行なう場合には週1回程度までなら現実的にも可能であるが,それ以上の頻度で穿刺排液を要する場合にはデンバーシャントへの移行を考慮する。ドレナージチューブを留置する場合には腸管や脈管損傷を回避する目的で,セルディンガー法を用いて安全に挿管する。最大の欠点は,排液の反復による全身状態の悪化,腹腔内感染,大量排液による循環不全であり,限界がある。

3) 腹水濃縮還流療法(Cell−free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy,CART)

 濾過器を備えた特殊な閉鎖回路を用いる。外来で実施可能で,炎症細胞やがん細胞を除去できるという安全面でのメリットの反面,一般に離脱できない1回約9万円の高価な治療である。また保険算定が月2~3回のため,頻回な排液を要する例には適用できない。

4)温熱療法 腹部全体を46~49℃まで熱することによって抗腫瘍効果を得る。著効例や抗がん剤の増感効果が報告されてきたが,その効果は全く不定である8)。

5) 頸静脈的肝内門脈大静脈シャント(transjugular in-trahepatic portal venous shunt,TIPS)

 体静脈から肝内門脈に至る経路を肝実質内に形成する IVR治療である。肝硬変をベースとする腹水・出血性食道静脈瘤・門脈血栓・肝移植待機例に適用され,がん性腹水には用いられない。

適 応

 デンバーシャントは「内科的治療に抵抗性の難治性腹水症」に対して適用される。具体的には,利尿剤やアルブミンなどの薬物療法で一定の持続効果が得られない,症状を有し日常生活を制限する,週1回以上の頻度で腹水穿刺排液を要す,がん性または肝硬変性の腹水であることが主な適応である。一方,感染,出血徴候,凝固異常,血栓,心腎不全,重度肺障害,腹膜中皮腫など隔壁を有する腹水症,特殊な腹水(粘液性,化膿性,胆汁性,濃血性,濃乳糜),消化管穿孔例には禁忌である。また不安定な循環動態を示す例,全身状態の不良例,全身浮腫例,経腹腔カテーテル挿入例(PTBD,胃瘻など)は相対的禁忌である。 担がん例では腹水性状や画像所見により,腹水の原因ががん性腹膜炎か門脈圧亢進症かを判別することが求められ,その診断により選択すべき治療法が異なる

(表1)。すなわち,前者にはデンバーシャントが適用されるが,後者には門脈に対する治療が考慮される。また,がん性の門脈狭窄例では腸間膜静脈系の門脈圧

がん性腹水 門脈圧亢進

治 療 腹腔静脈シャント 門脈ステント,TIPSS

性 状 漿液性 漏出性

アルブミン(血清−腹水)

血性 黄色透明

1.1g/㎗以下 >1.1g/㎗

腹水タンパク >2.5g/㎗ <2.5g/㎗

細胞診 50%に陽性 陰性

腹水グルコース 時に40㎎/㎗以下 −

表1 腹水の性状と治療

78(176)

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亢進症に起因する腹水症が進行する。がん性腹水と見間違いがちな病態であるが,造影CT等の画像診断で鑑別可能である。この場合,デンバーシャントでも効果は期待されるが,より根本的な治療法として門脈狭窄への血管形成術が適用されるべきである(図3)。 PVS療法の新案として,日本発の IVRである経頸静脈経肝的腹腔静脈シャント(transvenous transheptic peritoneal venous shunt,TTPVS)が2011年公表された

(図4)6)。内頸静脈経由のカテーテルにより肝静脈から肝表を穿通し腹腔に至る経路を作成し,その経路にカテーテルを留置し,側孔を腹腔と右房に調節する。腹

技術教育セミナー / デンバーシャント

腔圧と静脈圧の圧較差によりシャントフローを得る点はデンバーシャントと同様である。右房側の側孔は逆流防止用の膜により被覆されている。この研究の特筆すべき点は,Araiらの考案と同時に臨床試験が企画され,33例の小規模デザインで安全性と有効性をコンパクトに評価した点である。対象症例が進行末期がんであったため原病による早期死亡が24%に観察されたが,67%という良好な症状改善率はデンバーシャントの従来成績に比べて遜色のないものである。 体外留置型デンバーシャント(図5)。全身浮腫,PVS不具合,全身状態不良など,相対的禁忌に相当する症

図5 濃厚な乳糜腹水に対する体外留置型デンバーシャントの例

図3 門脈圧亢進症性腹水 週2回の排液を要する進行膵癌例。腹

水は漏出性で細胞診陰性,肝硬変はなく,CTで門脈狭窄が示された。門脈ステント術により症状は速やかに改善した。a)術前門脈造影,b)ステント留置後,静脈圧較差は有意に低下した(15→5㎝水柱)。c)術前,d)1週後の身体所見。

ca b

図4TTPVSとデンバーシャントの違い

デンバーシャント

TTPVS

肝静脈

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例に本療法を企図する場合,システムの完全埋め込みには些か危険を伴う。設置とともにシャントフローが起り,そのコントロールが容易ではなく,相当な非常事態に陥ることがあるからである。このような事例には,腹腔側と静脈側のみを体内に挿入する体外留置型シャントが有用である。Tokueらによれば10例中8例に奏効し,6例ではのちに完全埋入化が可能であった9)。手術侵襲が小さいことに加えて,自在に流量調節できることが利点である。

解剖学

 腹腔穿刺。デンバーシャントは身体的特徴などにより体幹の左右どちらかに設置される。右側留置の場合には,腹腔側カテーテルは肝周囲腔,右傍結腸溝,回結腸間膜を経由してダグラス窩に至るが,回結腸間膜の介在により挿管に難渋する場合がしばしばある。左側留置の場合には脾周囲腔,右傍結腸溝を経由してダグラス窩に至る。その他,網嚢,ウィンスロー孔,モリソン窩などの腹膜構造への理解は必要であり,特に小腸間膜や鼡径管には迷入しやすいので注意を要する

(図6)。 中心静脈(CV)穿刺。エコーガイドや静脈造影によ

る画像誘導下CV穿刺が推奨される。術後心肺合併症が想定される本療法では静脈穿刺時の気胸発生は致命的になりかねないからである。本療法における留意点として,大口径の12Fカテーテルを用いるため動脈や肺への損傷は許容されない。しばしば遭遇する血管内脱水例では鎖骨下静脈が虚脱しているため穿刺が難しい。腋窩三角の外側穿刺では腕神経叢損傷や,介在する2枚の胸筋の伸縮によるカテーテル逸脱が想定される。一方,内側穿刺では介在する胸筋は大胸筋1枚のみのため肢位によるカテーテル移動は少なくて済むが,鎖骨と第一肋骨間の肋烏口靭帯の介在が問題となる(図7)。この靭帯は中心静脈カテーテル断裂の原因として悪名高く,デンバーシャントにおいてはピールオフシースを押し潰すことによりシリコン製の柔らかいカテーテルの挿入を困難にする(図8)。

図6 腹腔カテ―テル挿管時に注意すべき腹膜構造 1)回結腸間膜,2)小腸間膜,3)傍結腸溝,4)ダグ

ラス窩

技術教育セミナー / デンバーシャント

図7 静脈カテ―テル挿管時に注意すべき胸部解剖 ①烏口靭帯,②大胸筋,③小胸筋

図8 肋烏口靭帯によるピールオフシースのキンク(矢印)

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手技上の注意点

 一連の処置のうち最も繊細さを要する工程はCV穿刺である。疼痛や体位などにより鎖骨下静脈は容易に狭小化しやすいからである。したがってトンネリングなどのワイルドな工程は後に保留し,中心静脈ラインの確保を最優先する(図9)。肝動注リザーバー留置時に最難関の右胃動脈塞栓術を優先するのとニュアンスが似ている。 長い皮下トンネルの作成法。市販品付属のプラスティック製トンネラーは直線的な刺入しかできないために1回の刺入で作成できるトンネルは短い。その結果,中継と創が多くなる。そこで我々は長いトンネル

を作成できるための工夫として,太径のPTCD針(17G,20㎝長,Hakko社)を用いている。デンバーシャント同様,長い皮下トンネルを必要とする硬膜外注入用ポート設置時にも使用できる便利な技術である。前もって弯曲させた針先の方向を変えることにより,トンネル経路を自在にコントロールできる。目標点まで刺入したら,内筒を抜いてガイドワイヤを通す。続いてピールオフシースを用いてシリコンカテーテルを挿管する

(図10)。この方法で長いトンネルを作成すれば,シャント造設に必要な創は3つで事足りる。すなわち,CV穿刺部からチャンバー下部の腹腔カテーテル挿入部までの中点にトンネル中継点を設定すればよい(図11)。

c da図10 長いトンネル作成の工夫

a : 皮下トンネル作成用に弯曲させた17G−Chiba針(Hakko) b : 側胸部より鎖骨下部まで刺入する。穿刺経路を自在にコントロールしやすい。 c : ガイドワイヤとピールオフシースを用いてカテーテルのトンネリングを行う。

図9 細径カテーテルによるCVラインの確保 一連の処置のうち最も繊細さを要するCV確保を

最優先し,トンネリングなどのワイルドな工程は後で行う。

図113つの創CV穿刺部①からチャンバー下部の腹腔カテーテル挿入部②までの中点にトンネル中継点③を設定する。

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Take home points

1) デンバーシャントはがん性腹水に,TIPSは肝硬変性腹水に,門脈拡張術は門脈狭窄に起因する腹水に適用される。

2) デンバーシャントの特徴は,「ワイルドな手技である」,「劇的な効果が期待できる」ことであるが,その一方で「急激に変化する循環動態に対して厳重な術後管理を要する」ことにも留意する。

3) オプションとして,TTPVSや体外留置型シャントが知られている。

4) 長い皮下トンネルを作成すれば,3つの切開創でシャント造設が可能である。

5) エビデンスの乏しい領域であるが,現在,PVS対BSC(従来治療法)の第Ⅲ相試験が国内で進行中である10)。

まとめ

 デンバーシャントの概念や注意点について述べた。些か大味な感が否めない IVRではあるが,難治性腹水に対する臨床効果は絶大である。エビデンスに乏しく十分に浸透していない治療の一つであり,臨床腫瘍学の学問体系が構築されつつあるという時代趨勢を踏まえれば,本療法の位置づけを明確にしていく姿勢が求められる。 残念なことに,PVS療法に使用されるデバイスの種類は数少なく,現在ではデンバーシャントが独占した状況を呈している。どんな治療でも病態や状況の違いによって最適な技術を選択すべきであり,「PVS=デンバーシャント」は正常な状態といえない。PVS療法の今後の発展が期待される中,タイプやサイズの異なる豊富なバリエーションの企画や新規デバイスの開発が待ち望まれる。

【参考文献】1) Wong GY, Schroeder DR, Carns PE, et al: Effect of

neurolytic celiac plexus block on pain relief, qual-ity of life, and survival in patients with unresectable pancreatic cancer: a randomized controlled trial. JAMA 291: 1092 - 1099, 2004.

2) Smith AN: Peritoneocaval shunt with a Holter valve in the treatment of ascites. Lancet 1: 871 - 872, 1962.

3) LeVeen HH, Christoudias G, Moon IP et al: Perito-neovenous shunting for ascites. Ann Surg 180: 580 -591, 1974.

4) Weaver DW, Wieneck RG, Bouwman DL et al: Per-cutaneous Denver peritoneovenous shunt insertion. Am J Surg 159: 600 - 601, 1990.

5) Sugawara S, Sone M, Arai Y, et al: Radiological in-sertion of Denver peritoneovenous shunts for malig-nant refractory ascites: a retrospective multicenter study (JIVROSG-0809). Cardiovasc Intervent Radiol 34: 980 - 988, 2011.

6) Arai Y, Inaba Y, Sone M, et al: Phase I/II study of transjugular transhepatic peritoneovenous venous shunt, a new procedure to manage refractory ascites in cancer patients: Japan Interventional Radiology in Oncology Study Group 0201. AJR Am J Roentogenol 196: 621 - 626, 2011.

7) 坂田 優:がん性腹膜炎・がん性腹水.臨床腫瘍学,日本臨床腫瘍研究会編.第一版,癌と化学療法社,東京,1996,p1258 - 1263.

8) Gilly FN, Carry PY, Sayag AC, et al: Regional che-motherapy and intraoperative hyperthermia for digestive cancers with peritoneal carcinomatosis. Hepatogastroenterol 41: 124 - 129, 1994

9) Tokue H, Takeuchi Y, Arai Y, et al: Feasibility of ex-ternalized peritoneovenous shunt (EPVS) for malig-nant ascites. World J Surg Oncol 9: 82, 2011

10) JIVROSGホームページ 臨床試験紹介 : http://jivrosg.umin.jp/trials.htm

82(180)

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:加藤健一,他

2 . デンバーシャントの術前の注意点,手技,術後管理岩手医科大学 放射線科

加藤健一,曽根美雪,鈴木美知子,赤羽明生,田中良一

はじめに

 デンバーシャントは腹水による腹部膨満の苦痛軽減に有用な方法である。デンバーシャントの手技自体は単純であり,本治療の成功のためには,術前の適応の検討や術後合併症管理が要因として大きいと考えられる。本稿では我々が行っているデンバーシャントの手技について紹介させていただく。施設により様々なやり方があると思われるが,参考になれば幸いである。

デンバーパック(DENVER PAK)のシステム構成

 デンバーパックのシステム構成を図1に示す。カテラン針,局所麻酔薬,メスや鉗子類は入っていないが,

デンバーシャント‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第40回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

それ以外のデンバーシャント作成に必要な一式が盛り込まれている。シャント本体はダブルバルブとシングルバルブがあるが,通常は二腔性のダブルバルブを利用する。シャントはシリコン製で,腹腔側カテーテルは有孔性の15.5Fr(27㎝),静脈側カテーテルはエンドホールで11.5Fr(65㎝)から成っている(図2)。その他にピールアウェイシース(腹腔側16Fr,静脈側12Fr)やトンネラー,穿刺針,ワイヤなどが梱包されている。

術前の注意点

 デンバーシャントの適応と判断された場合,我々は以下の点に注意し術前指示を行っている。

Denver Peritoneo-Venous shunt: Preparation of the Shunt, Procedural Technique and Postoperative Management

Department of Radiology, Iwate Medical UniversityKenichi Kato, Miyuki Sone, Michiko Suzuki, Akio Akahane, Ryohichi Tanaka

Ascites, Peritoneovenous shuntKey words

図1 デンバーパックのシステム構成 ①16Fr & 12Frピールアウェイシース,②トンネ

ラー(33㎝),③腹腔−静脈シャント(本体),④18ゲージ穿刺針,⑤ Jチップガイドワイヤ,⑥シリンジ

図2 ダブルバルブ型デンバーシャント ポンプチャンバーは二腔性で逆流防止弁が2個あ

る。腹腔内の圧力が中心静脈の圧力より約2㎝水柱高くなると,バルブが開いて自動的に流入し始める。腹腔側カテーテルは有孔性の15.5Fr(27㎝),静脈側カテーテルは11.5Fr(66㎝)で構成される。

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:加藤健一,他

技術教育セミナー / デンバーシャント

①腹水穿刺排液は直前に施行しない。 腹水がない状況では,腹腔へのアプローチが困難になる。術前に腹部膨満軽減のために腹水穿刺排液が必要な場合は,腹水の量や再貯留の早さの程度により,個々のケースに応じて調整する。

②シャントカテーテル挿入予定部位を確認する。 通常は右側留置例が多いが,静脈側へのシャントカテーテル挿入の妨げとなりうるペースメーカーやCVポートなどがないか確認する。腹腔側に関しては,腸管の癒着の状況など腹腔へのアプローチの可否を事前に検討する(図3)。また些細なことではあるが,経皮吸収型持続性疼痛治療剤(デュロテップMTパッチ,フェントステープなど)を貼付している場合は,手術日に穿刺側に重ならないように看護師に指示をしている。

③体重,尿量を計測する。 デンバーシャントが奏効しているかの客観的評価となるので,術前から計測する。

手技概要

 手技自体はシンプルで,ポンプチャンバーポケットの作成,腹腔側へのアプローチと腹水排液,皮下トンネルによるカテーテル誘導,静脈側へのアプローチに大きく大別される(図4)。

①ポンプチャンバーポケットの作成 取り扱い説明書では,乳頭線上の肋骨下縁に皮膚切開とあるが,当科ではより外側の前腋窩線付近の肋骨下縁で斜めに皮膚切開を作成している(図5)。ポンプチャンバーを押すことができるように,胸壁上に皮下ポケットを作成することが重要である。またポンプチャンバーは約8×2㎝と縦に長いため,皮膚切開から上方に向けて十分長く皮下を剥離しておくのがポイントである。ポケットが小さいとトンネラーをつけてカテーテルを誘導する場合にポンプチャンバーが収まらずに難渋したり,無理に埋め込むとカテーテルの屈曲の原因ともなる。皮膚縫合部がチャンバー下方の腹腔カテーテルレベルになるように,十分なポケット作成を心がけている。

②腹腔側へのアプローチ 上述のポンプチャンバーポケット皮膚切開部から下方の皮下を少し剥離後に18G穿刺針を腹腔にむけて刺入する。腹水の流出があれば引き続きガイドワイヤを挿入する。ガイドワイヤを骨盤方向に進め,その後腹腔用の 16Frピールアウェイシースをかぶせる(図6)。ガイドワイヤとシースのダイレーターを抜去時に多量の腹水が流出する場合が多いので,そのまま約2,000㎖程度を容器(I.Iカバーなど)に排液している(図7)。こ

図5ポケットの位置前腋窩線付近の肋骨下縁で皮膚切開(矢印)をしている。ポンピングの部位(○印)は十分上方に挿入されている。

図4デンバーシャントの手技概要当科では主に①ポケット作成,②腹腔穿刺,③腋窩~鎖骨下静脈穿刺,④トンネリング,⑤静脈カテーテルの挿入の順に施行する。静脈穿刺を最初に施行する場合もある。

図3 癌性腹水 腹腔内右側には腹膜腫瘤を広範に認める。右側か

らの腹腔へのアプローチは困難と判断し,左側にデンバーシャントを留置した。

84(182)

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の際に床に腹水がこぼれる可能性があるので,覆布等を床に敷いておくとよい。その後デンバーシャントの腹腔側カテーテルを挿入しピールアウェイする。挿入されたデンバーシャントカテーテルからも腹水が持続して流出するため,トンネラーに接続するまで容器で回収する。

③腋窩静脈穿刺 当科では超音波ガイドで腋窩静脈を穿刺している。

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穿刺後はガイドワイヤのみを残し,穿刺部は1㎝程度の皮膚切開をしておく。

④皮下トンネル作成とカテーテルの誘導 作成したポンプチャンバーポケットからトンネラーを腋窩静脈穿刺部に向けて進める。この際に通常の体格の患者の場合は,トンネラーの長さ(33㎝)から1回で皮下トンネルを作成するのは困難で,途中1~2ヵ所の中継の皮膚切開を要することが多い。トンネラーの

図6 腹腔へのシース挿入 a : 18 G穿刺針を挿入し腹水の流出を確認 b : J型チップガイドワイヤを挿入 c, d : 16 Frシースを骨盤腔内に向け挿入

c da b

図7 腹水排液 腹腔側シースのダイレーターを抜去すると,腹水が

多量に流出する場合が多く約2,000㎖ほど排液する。

図8 トンネリング 片手で皮下のトンネラーの先端をつまんで持ち上げ

ながら,深部に向かわないように押しこんでいく。

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方向性もコントロールしにくく,深部に向かいがちになるので,左手で皮下のトンネラーをつまんで持ち上げながら右手で押し込んでいく(図8)。深部に向かいがちでコントロールしづらい場合は無理をせず,中継点を作成した方がよいと思われる。トンネル作成は,本手技でもっとも疼痛を訴えるので局所麻酔以外にペンタジン,ロピオン等の鎮痛剤を併用している。中継の皮膚切開部または静脈穿刺部にトンネラーの先端が

貫通したら,皮下トンネルを左右に数回しごいておく。トンネラーの下端にデンバーシャントの静脈側をはめ込み,絹糸で結紮する。トンネラーを上方に牽引し,カテーテルを取り出す(図9)。この際に皮下トンネルがきつかったり,皮膚切開部の剥離が不十分だとカテーテルが途中で外れてやり直しとなるので注意する。

⑤静脈カテーテルの挿入 静脈カテーテルが上大静脈レベルに収まるように,カテーテルを切断する必要がある。その際にあらかじめ腋窩静脈から挿入されていたガイドワイヤに沿わせて,体表に静脈カテーテルをおいて透視下で切断位置を決定するのが簡単である。続いて12Frピールアウェイシースを挿入となるが,本手技のなかで若干のコツが要求される。右側から挿入する場合,右鎖骨下静脈から上大静脈にかけて鋭角になりやすく,シースを全長にわたって挿入するのが困難になる場合が多い。仮にシースが挿入されてもダイレーターを抜去するとシースが折れ曲がってしまうこともある。シースを全長に渡って挿入困難な場合は無理にシースを入れようとせずに,シースがキンクしない程度まで入れダイレーターを抜去する。カテーテルを挿入し,抵抗があればシースを少し引いてピールアウェイして,カテーテルを少しずつ押し込んで行く(図10)。この操作を繰り返す。この場合にシースの先端が上大静脈より手前にあると,カテーテルの方向性がつきにくく左腕頭静脈や

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図9 静脈穿刺部へのカテーテル誘導 穿刺部の皮下剥離は十分に行う。この症例では皮

下ポケットから静脈穿刺部までの間に1ヵ所の中継点を作成している。

図10右側からのカテーテル挿入a, b : 右鎖骨下静脈から上大静

脈の角度が急峻のため,シースとダイレーターは追従しにくく,全長にわたり挿入するのが困難である場合が多い。

c, d : シースがキンクしないように最大限挿入し,シースを少しピールアウェイしながらカテーテルを少しずつ押しこんでいく操作を繰り返す。

c da b

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右内頸静脈に迷入した例を経験している(図11)。その場合は,大腿静脈からフック型のカテーテルを用いて引っ掛け修正している。(大腿静脈のルートは術後のCVラインとして利用する。)一方で左側から挿入の場合は,角度もなめらかでシースが問題なく全長にわたり入るためカテーテルも留置しやすい(図12)。そのため右側留置より左側留置を推奨している報告もある1)。

⑥その他 当科では術後にCVラインからイノバン,FOYを投与するために,大腿静脈からダブルルーメンのCVカテーテルを挿入している。デンバーシャントでは局所

麻酔の使用量が多くなるために,1%キシロカインを生食で2倍希釈して使用している。抜糸は通常の1週間程度で行うと創部が離開した例を経験している。このためにも前述のようにチャンバーポケットを十分に作成し,皮膚縫合部に無理なストレスがかからないように心掛けている。なお当科ではチャンバーの縫合固定はしていない。

術後管理

①患者管理 添付文書では,多量の腹水の急速な静脈環流による心負荷軽減のために,頭部を45度挙上した半座位を基本とし,10~15分臥位にして症状,採血の結果をみながら半座位に戻していく方法を推奨している。当科では上述のCVラインから直ちに低用量ドパミン(3㎍/㎏/分)を術後1~2日までを目処に開始しており2),術後の半座位安静を必須とはしていない。ただし術後の尿量が不十分で心負荷が懸念される場合には,セミファーラー位としている。奏功例では,翌日までに3,000㎖前後の排尿を認める。また帰室後からFOYを術後1日までを目処に投与している。術後は尿量,SpO2を含む厳重なバイタルサインの確認が重要である。採血結果では,腹水の静脈環流を反映してFDPは上昇するが,出血傾向や重篤な感染症を併発した場合は,濃厚なDIC治療や感染症に対する加療が必要となる。合併症とその対策については,次項の論文を参照していただきたい。

②シャントの管理 腹水は仰臥位であれば3㎝水柱の圧較差で自動的に環流する。静脈カテーテルや弁の開存性を維持するために,ポンプチャンバーのポンピングが推奨されてお

図11 右内頸静脈へのカテーテル迷入 a : カテーテル(矢印)は右内頸静脈に迷入している。 b : 右大腿静脈からカテーテルを挿入し下方に牽引する。

図12 左側からのカテーテル挿入 左鎖骨下静脈から上大静脈の角度が

急峻ではなく,シースも全長にわたり挿入しやすい。

a b

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り,仰臥位で起床時,就寝前に10回程度を目安にプッシュする。術後は疼痛を伴うため,看護師がプッシュを行い徐々に患者自身でできるように指導している。また腹水減少時の過剰なポンピングは腹腔内の脂肪組織を吸引し,閉塞の原因となりうるのでポンピング回数を減らすようにする。

③シャント機能のテスト ポンプチャンバーを押したときに抵抗がある場合は,静脈カテーテルまたはチャンバー部の閉塞が考えられる。一方でポンプチャンバーを押してはなすときに,ポンプの戻りが悪い場合は腹腔カテーテルの閉塞が考えられる。

④その他 頻度は少ないと思われるが,デンバーシャントを挿入中の患者で腹腔鏡下手術が施行される場合は,空気

塞栓をきたしうる可能性があり,あらかじめシャントに空気が入らないように抜去等を考慮する必要がある。

さいごに

 難治性腹水に対するデンバーシャントは,手技的にはシンプルで難易度は高くない。ただし,奏功した場合の患者満足度は極めて高く,術者としてもやりがいのある手技である。今回の特集が診療の一助になれば幸いである。

【参考文献】1) Bratby MJ, Hussain FF, Lopez AJ: Radiological in-

sertion and management of peritoneovenous shunt. Cardiovasc Interv Radiol 30: 415 - 418, 2007.

2) 竹内義人,荒井保明,高橋正秀,他:がん患者の症状緩和 腹水.緩和医療学 10: 69 - 77, 2008.

88(186)

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3 . デンバーシャント(peritoneovenous shunt:PVS):治療効果と合併症

鳴海病院 放射線科菅原俊祐

はじめに

 デンバーシャント(peritoneovenous shunt:PVS)造設術は,難治性腹水に対して施行される「緩和 IVR」である。PVS造設術は,IVRの手技としてはさほど難易度の高いものではなく,手技成功率は高い1)。しかし,術後に生じる合併症の頻度は高く1),適切な症例ごとの適応判断と術後管理が重要となる。実際の臨床では,肝硬変(肝性腹水)と癌性腹膜炎(悪性腹水)が難治性腹水の原因の大多数を占めるが,この2種類の病態は患者背景,腹水の性状などに相違点があり,PVS造設術後に生じる合併症の頻度も異なる部分がある2)。このため,PVS造設術を施行する際には,この2種類の病態の相違点と術後合併症のリスクを認識したうえで IVRを施行する必要がある。本稿では,PVS造設術について知っておくべき肝性腹水と悪性腹水の相違点,治療効果,合併症について概説する。

肝性腹水と悪性腹水の相違点

 PVS造設術を施行する際に認識しておくべき肝性腹水と悪性腹水の大きな相違点は,①肝性腹水では腹水中の線溶系が悪性腹水よりも亢進している,②悪性腹水では腹水中の細胞成分(悪性腫瘍細胞,赤血球など)混在の頻度が高い,の2点である2)。①は術後に生じるDIC・出血傾向のリスクに関連し,②は術後のシャント閉塞(腹水貯留の再燃)のリスクに関連する。そのほかのPVS造設術の適応に関する詳細については,他稿を参照されたい。

治療効果

 PVS造設術後の治療効果判定法は報告により異なり,広く用いられているコンセンサスの得られた共通の判

デンバーシャント‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第40回日本IVR学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

定法はない。治療効果を判定する指標としては,①自覚的所見(ほとんどは腹満)に基づく評価法と,②腹囲や体重などの他覚的所見に基づく評価法の2種類に大別される。PVS造設術後には,体重,腹囲の有意な減少が報告されているが1,3~5),PVS造設術が緩和 IVRであることを念頭に置くと,「①自覚的所見に基づく評価法」に重きを置くべきであろう。 これまでの報告では,PVS造設術の有効性(腹水コントロール)について,70~86%の症例で腹水コントロールが可能であると報告されている1,6~11)。PVS造設後には,速やかに(術後2日以内)症状の改善が得られる1)。症状の改善期間(シャント開存期間)は,悪性腹水例において中央値10~12週間とする報告が多く8),肝性腹水例ではより長い23)。これは,腹水性状の相違のほかに,難治性腹水出現後の生命予後の相違も関与していると考えられる。 PVS造設術による生命予後の延長や,肝腎症候群の改善効果は期待できない6,12)。肝硬変症例においては,症状緩和以外の治療効果として,PVS留置術後の利尿薬の減量が報告されている13)。

合併症

 PVS造設後には,前述のごとく速やかに(術後2日以内)症状の改善が得られる。これは,それだけダイナミックに腹水が血管内へ流入する事実を反映している。実際に,PVS留置後には血液検査値の大きな変動が認められ,PT−INR,FDP値は術後に有意差を持って上昇し,ヘモグロビン値,血小板数,フィブリノーゲン値は術後に有意差を持って低下する1,14,15)。これは,腹水の流入に伴う線溶系の亢進と,血液の希釈が主たる原因として考えられている。 本邦でPVS造設術に用いられるデンバーシャント・

Denver Shunt (Peritoneovenous Shunt: PVS):The Efficacy and Complication

Department of Radiology, Narumi HospitalShunsuke Sugawara

Denver shunt, Peritoneovenous shunt, Palliative therapy, Refractory ascitesKey words

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キット(デンバーパック:ミハマメディカル)は,3cmH2Oの圧較差があれば,チャンバーのポンピングをしなくても自然に腹水が血管内に流入する。シャントチューブ内の流量は,10 cmH2Oの条件下で20~30㎖/分とされており,大量の腹水が存在し腹圧が高いほど,より高流量で腹水が血管内に流入する。デンバーシャントシステムの構造と特性を理解しておくことは,術後に生じる合併症を理解し,その治療を行う上でも重要である。 PVS造設術後には,様々な種類の合併症が生じると報告されている(表1)1,7,8)。以下には,頻度が比較的高く臨床的にも重要な,DIC,心不全,シャント閉塞を含むシャントトラブル,およびその他の合併症について述べる。

①DIC PVS造設術後には,腹水の血管内流入に伴い,血液検査値がDICに類似した変動を示す。これは,腹水中の何らかの物質(凝固因子,トロンボプラスチン,エンドトキシンなど)が影響していると考えられているが,原因物質は同定されていない。この血液検査値の変動は術後に高頻度に生じるが,全ての症例がPVS造設術後に臨床的に問題となるDICを発症するわけではない1,5,9,15,16)。このため,PVS留置術後に生じる凝固異常には,臨床的に大きな問題とならないsubclinical DICと,厳重な治療が必要な clinical DICに分けて考えることができるが,この両者を発症初期に血液検査値から鑑別することは困難であり,出血傾向など何らかの臨床症状が出現してからclinical DICが明らかになることもしばしばある。このため,PVS造設術後には,注意深い症状の観察,血液検査値の推移の確認が必要である。

 Clinical DICの発生頻度は肝性腹水例と悪性腹水例で異なり,肝性腹水例で約25%6),悪性腹水例で2~5%と報告されており1,9),肝性腹水例において発生頻度が高い17)。これは,腹水中のプラスミノーゲン・アクティベーター活性が,肝性腹水において高いことが原因として考えられているが,その他に術前の凝固異常の存在,高ビリルビン血症もDIC発症のリスクファクターである9,10,18)。Clinical DICは術後早期(数時間から数日以内)に発症し,進行する1,12,19)。 DICを術後に予防するには,血管内に流入する腹水量を減らすために,術前・術中に腹水をドレナージするのが効果的である19)。腹水をドレナージし,生理食塩水に置換する方法も報告されている18)。術中の腹水ドレナージは,腹水量全体の 50~ 70%ないしは 3~5ℓが目安とされているが19,20),術中の低血圧には注意が必要である。術中の腹水ドレナージは,後述する術後心不全の予防にも有効である。 PVS留置術後には,ほとんどの症例において全身状態が「DIC側に傾く」ことから,あらかじめDICの治療に準じた加療を周術期に行う。一般的な術後管理に関しては他稿に譲るが,出血傾向などclinical DICの兆候が認められた場合には,ガベキサートメシル酸塩(エフオーワイⓇ)やナファモスタットメシル酸塩(フサンⓇ),低分子ヘパリン,新鮮凍結血漿(FFP)の投与など,重症度に応じて密なDICの治療に移行する。しかし,一旦発症したclinical DICの致死率は高い12)。 DICにおいて最も効果のある治療は「原因の除去」である。PVS造設術後の場合には,その原因が「腹水の血管内流入」と明確であるため,DICを疑った場合には内科的治療に固執せず,腹水の血管内流入を停止させるためにシャントのクランプ・結紮をためらわず行うべきである。シャントのクランプは,チャンバー

急性期合併症 晩期合併症

・凝固異常(DIC)・心血管系

肺水腫ARDS不整脈腹水に含まれるコレステロール塞栓症

・消化管出血・感染性合併症

創部感染細菌性腹膜炎(黄色ブ菌,G陰性桿菌)敗血症カテーテル感染

・技術的合併症静脈側カテーテルの位置異常静脈側カテーテルのkink過長な静脈側カテーテル(不整脈)過短な静脈側カテーテル気胸反回神経損傷穿刺部の血腫形成冠状静脈洞の穿孔

・シャント機能不全  フィブリン・シースの形成  静脈内の血栓形成

  上大静脈症候群  無名静脈・鎖骨下静脈血栓

・腸閉塞 (腹腔内の線維化)・消化管出血・糸球体腎炎・感染性合併症

急性期合併症と同様・消化管穿孔による空気塞栓

表1 デンバーシャント(PVS)造設術後の合併症(文献12から改変)

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挿入部と静脈側穿刺部の間に作成した中継地点の創部を開放して行うのが,ベッドサイドでも施行可能であり簡便である。

②心不全 PVS造設術後の心不全は,急激な腹水の血管内流入によって生じる心血管系への負荷が原因である。これにより,うっ血性心不全,肺水腫が生じ,頻度は3~16%と報告されている1,5,9,14,16)。術前には心機能を評価し,心機能が低下している症例はPVS留置術の適応について再検討すべきである10)。 前述のごとく,本邦で使用されているPVSシステムは一度留置するとその後の流量の調節は困難である。よって,術後の心不全を予防するためには,PVS留置術後に血管内に流入する腹水の絶対量を低下させることが必要となる。そのためには,PVS留置術を施行する際,静脈側カテーテルを血管内に挿入する前の腹水ドレナージ・破棄が有効である。また,術後には適宜利尿薬を使用することも必要である。その他,術後に

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ベッド上でファーラー位を取ることは,術後の心負荷の軽減と,シャント流量の低下(静脈側カテーテルの静水圧上昇)に寄与すると考えられる。 術後に心不全が生じた場合には,利尿薬の投与など一般的な心不全の治療のほかに,更なる心負荷の増大を回避するためにシャントのクランプも施行するべきである。

③シャントトラブル シャントトラブルには,種々の原因によるシャント閉塞,カテーテルの断裂,逸脱などがある。特にシャント閉塞はPVS留置術後の約16~45%に発生する頻度の高い合併症である1,4~6,9,15,21)。 シャント閉塞の原因としては,血栓や腹腔内脂肪,フィブリン塊などによるシャント内腔閉塞や,カテーテルのキンク,静脈内カテーテル周囲のフィブリン・シース形成,腹腔内カテーテル周囲の大網による被包化などがある7,21)。シャントシステム内腔閉塞のリスクとしては,血性腹水,腹水細胞診陽性,高蛋白濃度腹水など腹水性状の他に,チャンバーの定期的なプッシュ不足がある1,7,8,15,22)。

シャント閉塞部位の同定 シャント閉塞は,その閉塞部位により①腹腔側カテーテル閉塞,②チャンバー(バルブ)閉塞(図1),③静脈側カテーテル閉塞(図2)の3種類に分けて考えると理解が容易であり,シャント機能を回復させるための追加 IVRを検討する際にも有用である7)。シャントの閉塞部位を体表から非侵襲的に推定するには,チャンバーを押した際のチャンバーの動きが参考になる。チャンバーを押しても「固くて押せない」場合には,チャンバーからの腹水の流出障害を示し,静脈側のカテーテル閉塞もしくはチャンバー内閉塞を考える21)。チャンバーは押せるものの「凹んだチャンバーが戻ってこない」場合には,チャンバー内への腹水の流入障害を示し,腹腔側のカテーテル閉塞を考える21)。 その他のシャント閉塞部位の同定法としては,透視によるPVSシステムの観察(キンクや逸脱の有無)(図2,3),シャント造影(27G針もしくはコアレスニードルを用いてカテーテルもしくはチャンバーを穿刺し,システム内を直接造影する)(図1〜4)7),USのカラードプラを用いたカテーテル内のドプラ信号の観察 7)などがある。シャント造影を施行すると,穿刺部位を選択することにより,より詳細な閉塞部位の同定が可能であり,なおかつ静脈側・腹腔側カテーテル周囲に形成されたフィブリン・シースの有無やカテーテルの断裂部位も同定できる(図3,4)。

シャント閉塞・システムトラブルの対処法 静脈側カテーテル・チャンバー内閉塞を考えた場合には,まずはチャンバー・プッシュを繰り返しシステ

図1 チャンバー内閉塞(シャントバルブ閉塞) PVS造設後,腹水が再貯留した症例。体表からチャ

ンバーを押すと「固くて押せない」ため,チャンバーもしくは静脈側カテーテルの閉塞が考えられた。腹腔側チャンバー造影(DSA)⒜では,腹腔側のチャンバー内に不整形の造影欠損を認め(矢印),チャンバー内腔のフィブリン析出や腹腔内脂肪の迷入,血栓形成などが考えられる。静脈側チャンバー造影(DSA)⒝では,静脈側チャンバーから静脈側カテーテルの描出が認められる(破線矢印)。静脈側チャンバー内のシャントバルブ周囲にも,不整形な造影欠損が認められる(矢印)。以上から,チャンバー内のシャントバルブが閉塞部位と同定できる。

a : 腹腔側チャンバー造影(DSA) b : 静脈側チャンバー造影(DSA)

a b

(189)91

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図2 静脈側カテーテルのキンク (静脈側カテーテル閉塞) 腹腔側チャンバーからの造影⒜で,静脈側チャン

バーが造影されず,腹腔側チャンバー流出部(シャントバルブ)より静脈側の流出障害を示す。静脈側チャンバーからの造影⒝では,静脈側カテーテルが造影されない。静脈側カテーテルの閉塞を示す。静脈側カテーテルは透視でキンクが確認される(実線矢印,破線矢印),キンクが原因となった静脈側カテーテル閉塞と考えられる。皮下組織が厚い症例では,PVS留置後にカテーテルが皮下でたわみ,カテーテルがキンクする原因となる。皮下にカテーテルを通す際には,システムの直線化に努める。

a : 腹腔側チャンバー造影(遠視画像) b : 静脈側チャンバー造影(遠視画像) c : 模式図

図4 カテーテル断裂 PVS挿入後,右鎖骨下の穿刺部皮下に液体貯留,創部からの液体流出を認め,静脈側カテー

テルからの腹水漏出が疑われた症例。PVSシステム造影(DSA)で,静脈側カテーテルの右前胸部皮下レベルから,造影剤の管腔外漏出像が認められる(a:矢印)。抜去した静脈側カテーテルに,断裂が確認される(b:矢印)。

a : PVSシステム造影(DSA) b : 抜去したPVSシステム(静脈側カテーテルの拡大写真)

図3 静脈側カテーテルの逸脱およびカテーテル周囲のフィブリンシース形成

PVSシステム造影(DSA)。左前胸部外側の皮下でカテーテルの屈曲・たわみが認められる(破線矢印)。PVSシステム造影では,静脈側カテーテルの先端は左鎖骨下静脈内に位置している(実線矢印)。静脈側カテーテルの皮下におけるたわみによる,上大静脈からのカテーテル先端の逸脱を示す。また,PVSシステム造影(DSA)にて,静脈側カテーテル周囲に造影剤の貯留(実線矢印)が認められ,カテーテル先端周囲のフィブリン・シースの形成を示す。

a b c

a b

92(190)

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ム内の再開通を試みる。血栓閉塞の場合には,システム内にヘパリン(5,000単位)とウロキナーゼ(6万単位)投与も有効なことがある1)。フィブリン・シース形成に対しては,ストリッピングも施行される7)。 既存のシステム温存が不可能と考えられた場合には,システム交換が必要となる。システム交換を施行する場合,腹腔側・静脈側どちらかのカテーテルに問題がある場合にはカテーテルのみの部分的な交換が可能であり,専用のキットも販売されている。カテーテルのみのシステム部分的交換を施行する際には,温存するチャンバーとカテーテル内を造影して内腔が開存していることを確認しておく必要がある。チャンバー閉塞もしくはシステム全体の閉塞の場合には,システム全体の交換もしくはチャンバー交換が必要となるが,チャンバー単体は製品として販売されていない。カテーテル交換の際には,血管もしくは腹腔内へのカテーテル挿入部位を切開し,カテーテルを穿刺しガイドワイヤを血管内もしくは腹腔内へ挿入することで,over the wire techniqueを用いて同じルートからカテーテル交換が可能である。

④その他 術直後の悪寒・戦慄と続発する発熱は臨床的によく遭遇するが,多くの症例において積極的治療は不要である9,14)。原因は,腹水中のエンドトキシンの血管内流入が考えられている。 術後の消化管出血は9~30%で認められ1,23),DICに伴った消化管出血や,肝硬変では静脈瘤が出血源となる24)。消化管出血は,PVS挿入後の早期合併症,晩期合併症いずれとしても生じうる。術前の消化管出血の既往は,術後の消化管出血のリスクと報告されており23),肝硬変例では術前に静脈瘤の検索が望まれる。肝硬変例における術後の静脈瘤からの出血リスク低減に,術中の腹水破棄が有効な可能性がある20)。 術後の感染・敗血症は5~20%の症例で認められ,原因菌としては黄色ブドウ球菌,グラム陰性桿菌がある6,12)。予防のために術前・術後の抗菌薬投与がなされるが,感染がコントロール困難な場合にはPVSシステム抜去が必要となる。肝硬変例では,SBP(spontaneous bacterial peritonitis)が10ヵ月以内に14.3%で生じると報告されている23)。 悪性腹水例にPVS造設術を施行した場合,理論的には腹水中の悪性細胞の播種が生じうるが,これまでに生命予後に関わる全身播種が生じた報告はない。しかし,腹水中の腫瘍細胞による肺塞栓症が原因と考えられる死亡例が報告されている25,26)。

おわりに

 PVS留置術後には,致死的な合併症を含め,多様な合併症が生じうるため症例の選択,術後の管理が重要である。PVS留置術後の急性期に生じる重大な合併症

としてDIC,心不全があり,これらの予防・原因除去には術中の腹水破棄,発症後の速やかなシャントのクランプが簡便かつ有効である。

謝辞図2,3,4の症例画像は,岩手医科大学 放射線科 加藤健一先生,曽根美雪先生のご厚意による。

【参考文献】1) Sugawara S, Sone M, Arai Y, et al: Radiological in-

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第40回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:菅原俊祐

技術教育セミナー / デンバーシャント

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