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15 石油・天然ガスレビュー 2007年SPE新基準における 埋蔵量の定義・分類と評価手法 JOGMEC 技術調査部 探査技術課 坂口 隆昭 アナリシス 資源量および埋蔵量に関する新基準“Petroleum Resources Management System 2007” (PRMS)が、 2007年3月末にSPE(Society of Petroleum Engineers:石油技術者協会)、WPC(World Petroleum Congress:世界石油会議)、AAPG(American Association of Petroleum Geologists:米国石油地質技 術者協会)、SPEE(Society of Petroleum Evaluation Engineers:石油評価技術協会)の4組織によっ て策定された。これら4組織は、2005年より2年間、現状の技術革新や経済的背景に沿う資源量と埋蔵 量の世界基準を作成すべく、各石油会社や世界各国における埋蔵量の定義、分類に関する調査 (mapping)、基準について外部からの意見聴取を行い、多くの会社からの意見を反映した新基準を策定 した。 本稿では、この新基準における資源量および埋蔵量の定義・分類、評価手法について概説することに したい。 はじめに “RMS”とは、Resources(資源量)やReserves(埋 蔵量)に対して統一した分類や評価をするためのガイド ラインである。2007年の新基準ではPetroleumが文言の 先頭につき、PRMSと呼ばれている。 現在、ResourcesおよびReservesは、一般的に下記の ように考えられている。 Resources:地下に存在すると推定されるすべての炭 化水素の量。一部、既に生産された量を 含む場合もある。 Reserves:Resourcesの一部としてとらえられており、 ①既発見、②回収可能、③経済性を有する、 ④残存している、の4条件を満たすもの。 このうち、Reservesはその量や価値、生産ポテンシャ ルを示すなど、石油会社にとって重要なものである。 Reservesについては、操業会社やそのオーナー、事業 参加権益の売り手・買い手、鉱業権のオーナー、評価者 (コンサルティング会社等)などの他、操業会社の株主、 銀行などの債権者、監督機関、政府なども関心を持って いる事項である。そのため、Reservesを評価すること は非常に重要となる。しかし、原油やガスのReserves は不確実性を持つデータの解釈や分析から評価されるも のであり、さらには、現在、埋蔵量の定義や分類に関す る基準は国や会社ごとで独自のものを使用しているた め、統一した視点で比較することができない現状にある。 それ故、RMSは、ReservesとResourcesを定義・分類し、 リスクや不確実性に対して統一した意思決定の枠組みを 与える重要な役割を担っている。 このRMSは、Technical Evaluation(埋蔵量に関する 技術評価)、Reserves Reporting guideline(埋蔵量のリ ポート作成におけるガイドライン)、Reserves Reporting system(リポートシステムの構築)の三つの 要素から構成される(図1)。 技術評価:原始埋蔵量や可採埋蔵量の算出、リスクや 不確実性の示唆(Upside、Downside)、生 産ポテンシャル、将来の生産の価値やコス トの算定を行う。 ガイドライ :評価の基準を与え、Reservesの分類 に対して不確実性におけるレベルを確立、 ビジネスの判断における指針、内部や外部 へのリポートに求められるものを明瞭化す る。 リポートシ ステム:ガイドラインに応じるための手続 きの確立と文章化の手続きを確立、評価 1. RMS(Resources Management System)の重要性と概念

2007年SPE新基準における 埋蔵量の定義・分類と評価手法 · 2020. 12. 11. · り、今般のPRMS策定もこの思想に基づくものである。 Reserves Reporting

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15 石油・天然ガスレビュー

TACT SYSTEM

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2007年SPE新基準における埋蔵量の定義・分類と評価手法

JOGMEC技術調査部 探査技術課 坂口 隆昭アナリシス

 資源量および埋蔵量に関する新基準“Petroleum Resources Management System 2007”(PRMS)が、2007年3月末にSPE(Society of Petroleum Engineers:石油技術者協会)、WPC(World Petroleum Congress:世界石油会議)、AAPG(American Association of Petroleum Geologists:米国石油地質技術者協会)、SPEE(Society of Petroleum Evaluation Engineers:石油評価技術協会)の4組織によって策定された。これら4組織は、2005年より2年間、現状の技術革新や経済的背景に沿う資源量と埋蔵量の世界基準を作成すべく、各石油会社や世界各国における埋蔵量の定義、分類に関する調査

(mapping)、基準について外部からの意見聴取を行い、多くの会社からの意見を反映した新基準を策定した。 本稿では、この新基準における資源量および埋蔵量の定義・分類、評価手法について概説することにしたい。

はじめに

 “RMS”とは、Resources(資源量)やReserves(埋蔵量)に対して統一した分類や評価をするためのガイドラインである。2007年の新基準ではPetroleumが文言の先頭につき、PRMSと呼ばれている。 現在、ResourcesおよびReservesは、一般的に下記のように考えられている。

Resources: 地下に存在すると推定されるすべての炭化水素の量。一部、既に生産された量を含む場合もある。

Reserves: Resourcesの一部としてとらえられており、①既発見、②回収可能、③経済性を有する、④残存している、の4条件を満たすもの。

 このうち、Reservesはその量や価値、生産ポテンシャルを示すなど、石油会社にとって重要なものである。Reservesについては、操業会社やそのオーナー、事業参加権益の売り手・買い手、鉱業権のオーナー、評価者

(コンサルティング会社等)などの他、操業会社の株主、銀行などの債権者、監督機関、政府なども関心を持っている事項である。そのため、Reservesを評価することは非常に重要となる。しかし、原油やガスのReservesは不確実性を持つデータの解釈や分析から評価されるも

のであり、さらには、現在、埋蔵量の定義や分類に関する基準は国や会社ごとで独自のものを使用しているため、統一した視点で比較することができない現状にある。それ故、RMSは、ReservesとResourcesを定義・分類し、リスクや不確実性に対して統一した意思決定の枠組みを与える重要な役割を担っている。 このRMSは、Technical Evaluation(埋蔵量に関する技術評価)、Reserves Reporting guideline(埋蔵量のリポ ー ト 作 成 に お け る ガ イ ド ラ イ ン )、 R e s e r v e s Reporting system(リポートシステムの構築)の三つの要素から構成される(図1)。

技術評価: 原始埋蔵量や可採埋蔵量の算出、リスクや不確実性の示唆(Upside、Downside)、生産ポテンシャル、将来の生産の価値やコストの算定を行う。

ガイドライ�ン:評価の基準を与え、Reservesの分類に対して不確実性におけるレベルを確立、ビジネスの判断における指針、内部や外部へのリポートに求められるものを明瞭化する。

リポートシ�ステム:ガイドラインに応じるための手続きの確立と文章化の手続きを確立、評価

1. RMS(Resources Management System)の重要性と概念

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ツール(ソフトウェア)を与えるリポートの責任を確立、トレーニングを行う。

 RMSは、基準に基づく評価を実施しながら、同時に、この基準における問題点を摘出し、それを改善して新たな基準を策定する。さらに、この新たな基準はトレーニングをとおしてすべての人へ浸透を図る。このサイクルにより、よりよい基準に変えていこうという考え方であり、今般のPRMS策定もこの思想に基づくものである。

Reserves Reporting system(リポートシステムの構築)

Technical Evaluation(技術評価)

Reserves Reporting guideline(リポート作成におけるガイドライン)

出所:JOGMEC et al. 2007より

RMSの概念 図1

 新基準はSPEの埋蔵量委員会(Oil & Gas Reserves Committee:OGRC)が中心となって策定された。OGRCは、資源量と埋蔵量に関する定義や基準のモニタリングや他の会社や政府組織への情報公開など、油ガスの埋蔵量問題を取り扱っている組織である。現在、SPE、AAPG、SPEE、WPC、IASB(Intl. Accounting Standard Board)、SEG(Soc . Of Explorat ion Geophysicists)、EIA(US Energy Information Administration)の11名のメンバーで構成されている

(2007年12月現在)。新基準は、1997年の「SPE/WPC Petroleum Reserves Definitions」、2000年の「SPE/WPC/AAPG Petroleum Resources Classification and Definitions」、2001年の「SPE/WPC/SPEE Guidelines for the Evaluation of Petroleum Reserves and

Resources」を基に策定されているが、より世界基準として標準化するために、2005年に、世界で使用されている 多 く の 資 源 量 ・ 埋 蔵 量 定 義 に つ い て 比 較 調 査

(mapping)を実施している。OGRCにおける比較調査では、世界の会社が使用している下記の8つの組織基準をレビューしている。

・ U.S. Securities and Exchange Commission・ U.K. Statement of Recommended Practices・ Canadian Security Administrators・ Russian Ministry of Natural Resources・ China Petroleum Reserves Offi ce・ Norwegian Petroleum Directorate・ U.S. Geological Survey・ United Nations Framework Classifi cation

2. SPE新基準策定における活動

 新基準が、SPE基準(1997/2000)から大きく変わったのは以下の5点である。主として資源量を取り扱う単位、資源量に関する分類と埋蔵量に認定できる資源の拡大である。評価手法については、油ガス価の想定方法において変更があるものの、既存基準との変更はない。

①資源量を取り扱う単位の変化②非在来型資源の埋蔵量認定③確率論的手法における整理④ プロジェクト熟成度(Project maturity)におけ

る分類整理⑤油ガス価の想定

 資源量を取り扱う単位の変化については、従来の基準

での油層単位を、新基準ではプロジェクト単位とした。これにより、複数の油田の資源量をもって、あるプロジェクトの資源量と位置づけられるようになった。この結果、実際の資源量評価が、開発プロジェクトごとの将来の生産量予測とキャッシュフロースケジュールに基づいて行われていることに即した形となった。 また、在来型資源と非在来型資源の区分が整理され、これまで埋蔵量として認められていなかったCoal Bed Methaneやオイルサンド等を埋蔵量として計上することが認められ、埋蔵量の対象にできる資源の幅が拡大している。 資源量の分類においては、従来の基準と基本構成は同

3. SPE基準(1997,2000)との違い

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2007年SPE新基準における埋蔵量の定義・分類と評価手法

じであるが、資源量・埋蔵量評価手法として広く使用されている確率論的手法に基づく分類の整理がなされ、さらに、プロジェクトの熟成度とも対応するように整備された。 油ガス価の想定においては、過去の平均ではなく、実

績に基づきながら今後予想される油ガス価を基準とすることが認められた。これは、ほとんどの会社が予想油ガス価を用いて資源量・埋蔵量評価を実施しているため、今般採用されたものである。以上の変更点について、以下に紹介する。

 これまで資源量を取り扱う単位は、油層単位であったが、実際の資源量評価は、開発プロジェクトごとの将来の生産量予測とキャッシュフロースケジュールに基づいて行われるため、資源量の認識における基本単位がプロジェクト単位となった。新基準では、以下のように記述される。すなわち資源量は、Reservoir(レザーバ〈貯留岩〉)、Project(プロジェクト)、契約上の権利および義務などの条件を示すProperty(プロパティ)から算出される、という位置づけである(図2)。

 資源量の算定は、“net recoverable resources”の評価に寄与する“primary data sources”(すなわちReservoir、Project、Property)を詳細に見ることによって、より明確になるとされる。

 そのため、資源量の算定、分類も、プロジェクト単位で分類されることになった。また、新基準においてプロジェクトとは、単独のレザーバまたはフィールドの開発、

生産フィールドの追加開発、あるいは共同所有の複数フィールドおよび施設の統合開発、などが含まれた意味を持つとされており、従来基準の油層単位では経済性がなくても、複数油層をまとめて1プロジェクトとして開発して経済性があるものは、その全体を埋蔵量と認識できるようになっている。 

4. 資源量を取り扱う単位の変化

出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE,2007より

プロジェクト単位の概念図2

 新基準では在来型資源と非在来型資源が整理され、埋蔵量として計上することが認められる資源の範囲が拡大した。非在来型資源としては、Coal Bed Methane、basin-centered gas、Gas Shale、Gas Hydrates、天然Bitumen、Oil Shaleが認められている(図3)。在来型/非在来型の区分は、①その資源の分布が水力学的作用

(hydrodynamic influences)に影響するか、②抽出に特別な技術を要するか、③抽出されたものが販売する前に十分な処理が必要か、という3点である。 在来型資源の場合、局所的に集積して存在し、水中での炭化水素の浮力といった水力学的作用に大きく影響される。炭化水素は坑井を通じて回収され、一般的には販売までに最小限の処理がなされる。一方、非在来型資源は、広大なエリアに広がって存在し、水力学的作用には

さほど影響されないが、それらの抽出には特別な技術を要する(例えば、Bitumenでは、蒸気圧入や露天掘りで採取される。Coal Bed Methaneでは脱水など)。さら

5. Unconventional resources(非在来型資源)の埋蔵量認定

ConventionalReservoirs

Heavy Oil

Extra-Heavy Oil

Tight Gas

Gas Shale

Coal Bed Methane

Oil Shale Gas HydratesUnconventionalReservoirs

Conventional

Bitumen

出所:JOGMEC et al. 2007を基にJOGMEC作成

在来型/非在来型資源の分類図3

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に、抽出された炭化水素は、販売する前に十分な処理が必要となる。 非在来型資源の回収率分布を確立するためには、対象貯留層におけるパイロットあるいは操業プロジェクトの

成功、または類似貯留層におけるプロジェクトの成功が必要となる。このようなパイロットプロジェクトでは、非在来型資源の抽出効率と処理施設の効率が、ともに評価されることになる。

 新基準におけるResourcesの分類で、従来のSPE/WPC/AAPG基準(1997/2000)における分類と骨組みは同じである。しかし、従来と比較し、Proved(確認)、Probable(推定)、Possible(予想)、Contingent Resources(条件つき資源量)のカテゴリーの分類で累積出現確率とカテゴリーの分類が整理されるなど、確率論的手法との対応がより整備された。さらには、UNFC

(United Nations Framework Classifi cation for Energy and Mineral Resources: 国連エネルギー・鉱物資源フレームワーク分類機関)が制定したプロジェクトの探鉱・開発状況ステージ区分と対応するように、分類が整理された。以下にその詳細について説明する。

(1)分類について

 確率論的手法とプロジェクト熟成度との変化について述べる前に、まず、新基準におけるResourcesの分類について説明したい。 新基準の分類においては、従来のSPE/WPC/AAPG基準(1997/2000)の埋蔵量概念と同様、資源量分類の基本思想は、すべてのUpsideポテンシャルの把握、全会社の価値の比較表現、技術的問題のコントロール、ポートフォリオのコントロールを念頭に置いている。そのため、発見

(Discovery)の有無、商業性(Commerciality)の有無と回収可能量、潜在的回収可能量の不 確 実 性 の 幅 に 応 じ て 分 類 さ れ 、Resourcesは、大きくProduction(生産量)、Reserves、Cont ingent Resources、Prospective Resources(想定資源量)、Unrecoverable Resources(回収不能資源量)の五つに分類されている(図4)。これらの定義を表1に示す。 新基準のResources分類の縦軸には、DiscoveryとCommercialityの二つのクライ テ リ ア ( c r i t e r i a ) が 設 け ら れ 、Resourcesは未発見のものと既発見のものとに大別されている。既発見のものはさら

に、商業性があるかないかで区分されることになる。つまり、表1の定義のとおり、未発見のものはProspective Resourcesに分類され、探鉱が進み、発見された時点でContingent Resourcesに昇格する。そして、経済的に回収可能で、売り先等が決定されるなど、そこに商業性があると認められた時点でReservesとして分類されるようになる。使用される用語からも分かるように、商業性があるものに対しては“Reserves”、商業性のないものに関しては“Resources”という用語が使用されており、明確に区分されている。 次に、Discoveryとして認められるためには何が必要か、また、Commercialityがあると認められるためには何が必要かを見てみる。

【Discovery(発見)に求められるもの】

 新基準において“Discovery”の定義は以下のように記述される。Discovery: 1坑あるいは複数の試探掘井により、テ

スト、サンプリング、および/または検層を通じて相当量の潜在的に流動し得る

6. 2007年新基準におけるResourcesの分類

PRODUCTION

Range of Uncertanty

TOTAL PETROLEUM INITIALLY IN PLACE(PIIP)

UNDISCOVERED PIIP

DISCOVERED PIIP

SUBCOMMERCIAL

COMMERCIAL

RESERVESRESERVES

PROVED

UNRECOVERABLE

UNRECOVERABLE

LOW ESTIMATE HIGH ESTIMATEBEST ESTIMATE

CONTINGENT RESOURCESCONTINGENT RESOURCES

PROSPECTIVE RESOURCESPROSPECTIVE RESOURCES

1P 2P 3P

1C 2C 3C

PROBABLE POSSIBLE

Not to scale

Increasing Chance of Commerciality

E&P Life Cycle for One Project

Classify by Chance of Commerciality

Categorize estimates based on Uncertainty of sales volumes

出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE,2007を基にJOGMEC作成

Resourcesの分類図4

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2007年SPE新基準における埋蔵量の定義・分類と評価手法

表1 資源量を構成する分類と定義

分類 定義 コメントResources(資源量)

地球の地殻内もしくは地殻上にある自然に存在する炭化水素の量

・�既発見、未発見、回収、未回収、在来型や非在来型と位置づけられているものすべてを包括する。

Production(生産量)

ある時点での、回収された累計石油量 ・一般的に技術的分析が要求されるものではなく、計量されたものを意味する。

Reserves(埋蔵量)

特定の条件下で、既発見の石油集積に開発プロジェクトを実施することによりある特定の日以降に商業的に回収され得ると予測される石油量�

・�開発プロジェクトの実施には、①既発見、②回収可能、③商業的、④残存している、の4条件を満たす必要がある。

・�評価に関する確実度に従ってさらにカテゴリー分けされるとともに、プロジェクトの成熟度に基づき細分され、開発/生産の状況によっても区別される。

Contingent�Resources(条件つき資源量)

ある特定の日において、開発プロジェクトが一つあるいは二つ以上の懸念材料のためにいまだ商業開発するまで十分には成熟していないと考えられるが、既発見の集積から潜在的に回収可能と評価される石油量

・�商業的な回収が可能か否かを明らかにするためにデータの収集やパフォーマンス分析が必要なものや現在の商業条件の緩和が必要なもの。回収物の販売先が決まっていないプロジェクト、開発にあたり特別な技術が要求されるプロジェクト、評価の初期段階にあるプロジェクトなど。

・�評価の確実度、プロジェクトの成熟度に基づき細分され、経済性の状態によっても区別される。

・�経済性における区分としては、契約条件の内容は経済的には問題ないが、開発の意思決定がされていないMarginal�Contingent�Resourcesと、経済的ではない、もしくは開発の意思決定にあたっては他の条件が必要なSub-Marg ina l�Contingent�Resourcesとに細分される。

Prospective�Resources(想定資源量)

ある特定の日において、将来の開発プロジェクトの実施により未発見の集積から潜在的に回収可能と評価される石油量

・�発見のチャンスを持つとして評価されたもので、発見を推定し、適切な開発プロジェクト下で発見されると評価された炭化水素の量。

・発見のチャンスと開発のチャンスが付随。・�発見および開発を前提とした際の回収量評価に関する確実度に従ってさらに分けられ、プロジェクトの成熟度に基づき細分される。

Unrecoverable�Resources(回収不能資源量)

ある特定の日において、既発見あるいは未発見のPetroleum� Initially-in-Placeのうち、将来の開発プロジェクトによっても回収不可能と評価される部分

・�これらの一部は油価・ガス価や輸送ルートの整備等の商業的状況の変化や、技術開発によって将来回収できる可能性があるが、残りの部分は流体とレザーバの相互作用に代表される物理的/化学的制約のため、回収は不可能。

出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE2007を基にJOGMEC作成

炭化水素の存在が確認された石油の集積、あるいは集合的な石油の集積群。

 このなかで、“相当量”とは、坑井で確認された炭化水素が十分な量であることを意味する。そのため、Discoveryと認められるためには、掘削をとおして流動し得る炭化水素を確認するだけではなく、テスト、検層、サンプリングをとおしてそのポテンシャル(量)を決定することが必要とされる。

【Commerciality(商業性)に求められるもの】

 一方、“Commerciality”において、新基準では以下のように記載されている。 プロジェクトのCommercialityを主張する会社が、開発に移行する確固たる意思を示すとともに、その意思が次の条件を満たしている場合、商業的に生産可能、すなわちReservesと見なすことができる。

・開発の合理的なタイムテーブルを支持する根拠・ 特定の投資および操業基準を満たす開発プロジェ

クトの、将来における経済性の合理的な評価・ 生産量すべて、あるいは少なくとも開発を正当化

するために求められる量を販売するためのマーケットが存在することの合理的な見込み

・ 必要な生産、輸送施設が利用可能、あるいは利用

可能になるとの根拠 ・ 法律、契約、環境、および他の社会的、経済的な

懸案事項に関して、評価中の回収プロジェクトの実行を可能とする根拠

 このような商業性を認めるためには、まず、会社やパートナーからのコミットメントや政府承認が予定されているなど、必要なすべての内部および外部の承認が下りるという合理的な見込みがなければならない。さらに、合理的な期間中に開発に移行するという確固たる意思表示が必要となっている。 開発の合理的な期間については、通常5年以内となっている。しかし、契約やマーケットに関連する理由など、プロジェクトの開発が延期される場合には、より長い期間も認められている。しかし、いずれの場合においても、その理由が文書によって明確にされることが必要である。 また、商業性が認められ、Reservesに含まれるためには、実際の生産またはフォーメーションテストに支持された、商業的な生産性に関する高い確度がなければならない。ただし、同じエリア内で生産中あるいはフォーメーションテストで生産能力を確認されたレザーバと類似し、炭化水素の胚

はい

胎たい

が確認されたレザーバにおいては、検層および/またはコア分析に基づいて認められる場合もある。

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(2)確率論的手法における整理

 Resources分類の横軸である回収可能および/または潜在的回収可能量の不確実性は、決定論的手法と確率論的手法により、それらの確度によって明確に区分されている。これについては “確率論的手法の整理”と併せて、ここで述べることにする。 決定論的手法を用いて資源量を評価する場合は、一般的に一貫性のある解釈のなかで、確度の高い(回収できると見込まれる量としては小さい)順からlow、best、highの3ケースの評価がなされるため、従来の基準と同様、Reserves等の各量に対し、確度により三つに区分している。新基準においても、従来どおり三つの確度に対し、確率論的手法による確率分布を下記のように表している。

Low estimate =P90 (回収される確率が90%以上)Best estimate =P50 (回収される確率が50%以上)High estimate =P10 (回収される確率が10%以上)

 ただ、新基準では、ReservesだけでなくContingent Resources、Prospective Resourcesに対してもこれが適用されており、この点が新しい。Reservesはあくまでも分類の一部分の集合であり、発見と開発の基準を満たすという条件の下では、Cont ingent Resources、Prospective Resourcesに対しても同様の基準が適用され得るとされている。 Reservesは確度に伴い、Proved(確認)、Probable

(推定)、Possible(予想)に分類されている(表2)。一般的にlow、best、high評価はそれぞれ1P、2P、3Pで表され、前述の確率分布と併せて、次の関係になっている

(図5)。Low estimate =1P=“Proved”=P90(回収される確率が90%以上)Best estimate =2P=“Proved”+“Probable”=P50(回収

される確率が50%以上)High est imate =3P=“Proved”+“Probable”+

“Possible”)=P10(回収される確率が10%以上)

Deterministic View Probabilistic View

incremental

reasonably certain

1P scenario - high degree of confidence

2P scenario - more likely than not

3P scenario - unlikely

Proved

Proved

Proved

Probable

Probable

Probable

Probability of value or more

Possible

Possible

Possible

1P2P3P

1P

P10

P50

P90

2P 3P

scenario

EUR

cum prod

cum prod

100%

0%

(注)cum prod:累計生産量 EUR:Estimated Ultimate Recoverable出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE,2007より

決定論的手法と確率論的手法との対比図5

分類 定義 コメントProved�reserves(確認埋蔵量)

特定の経済条件、操業方法、政府規制の下、地球科学的、工学的データの分析により、ある特定の日時から、既発見の貯留層より合理的確かさをもって商業的に回収可能と評価される石油量

・�決定論的手法が用いられる場合、「合理的確かさ」とはその量が回収されるとの高い確度を表す。

・�確率論的手法が用いられる場合、実際の回収量がその評価値以上になる確率は少なくとも90%であるべきである。

・�Proved� reservesに求められるものは、利用可能になるという適切な見込みのある開発促進のための施設。

Probable�reserves(推定埋蔵量)

地球科学的、工学的データ分析により、その回収可能性がProved� Reservesよりも低く、Possible�Reservesよりも高いと示される追加埋蔵量

・�確率論的手法が用いられる場合には、実際の回収量が2P埋蔵量評価値以上になる確率は少なくとも50%。

・�典型例としては、LKH(Lowest�Known�Hydrocarbon、図8参照)以下の量、回収率の上昇によって見込まれる量、良好なアナロジーのない未テスト地域、掘削実績のない断層ブロックなど。

Possible�reserves(予想埋蔵量)

地球科学的、工学的データ分析により、その回収可能性がProbable�Reservesよりも低いと示唆される追加埋蔵量

・�確率論的手法が用いられる場合には、実際の回収量が3P埋蔵量評価値以上になる確率は少なくとも10%。

・�典型例としては、地質的コントロールから取り除かれたエリア、限界を示す震探、疑いの残る検層解釈、Probableよりも質がよくない未掘削の断層ブロックなどに相当する。

出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE2007を基にJOGMEC作成

表2 Reservesにおける分類と定義

PRODUCTION

TOTAL PETROLEUM INITIALLY IN PLACE(PIIP)

UNDISCOVERED PIIP

DISCOVERED PIIP

SUBCOMMERCIAL

COMMERCIAL

RESERVES

UNRECOVERABLE

PLAY

LEAD

PROSPECT

ON PRODUCTION

APPROVED FOR DEVELOPMENT

JUSTIFIED FOR DEVELOPMENT

DEVELOPMENT PENDING

DEVELOPMENT UNCLARIFIED OR ON HOLD

DEVELOPMENT NOT VIABLE

UNRECOVERABLE

Range of Uncertainty

CONTINGENT RESOURCES

PROSPECTIVE RESOURCES

Increasing Chance of Commerciality

Discovery Criteria

Commercial Criteria

SPE/WPC/AAPG/SPEE,2007を基にJOGMEC作成

プロジェクト熟成度の分類図6

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21 石油・天然ガスレビュー

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2007年SPE新基準における埋蔵量の定義・分類と評価手法

 Contingent ResourcesおよびProspective Resourcesに関して、“Proved”、“Probable”、“Possible”に対応する用語は定義されていないが、Contingent Resourcesの場合、一般的なlow、best、high評価は、それぞれ1C、2C、3Cという用語で表される。Reservesにおける1P、2P、3Pの区分に対応して1C、2C、3Cと表記されている。この“C”はContingentの頭文字のCに由来する。Prospective Resourcesについては、low、best、highの語がそのまま用いられている。

(3)Project Maturity における分類

 新基準では、Resourcesの分類が、プロジェクトの探鉱・開発状況(UNFCの探鉱開発のステージ区分)と対応するように分類が整理された。この分類は、今般、評価者にとって探鉱と開発のさまざまな段階にある投資機会のポートフォリオマネジメントの手助けとなることを念頭に取り入れられている。Reserves、Contingent Resources、Prospective Resourcesは、プロジェクトの探鉱開発状況に応じて、それぞれ、三つのカテゴリーに区分されている(図6、表3)。

 Reservesは、On Product ion、Approved for Development、Justified for Developmentに細分されている。この分類は、プロジェクトを最終承認から実行、生産開始、販売へと進めるアクションに基づいてなされている。 Contingent Resourcesの場合は、商業開発を妨げる要因を明確化し、それを取り除くためのデータ収集および分析の段階にあるとされ、Development Pending、Development Unclarified or On Hold、Development not Viableに細分されている。 また、Prospective Resourcesの場合、試掘井の掘削に進むための意思決定を可能にする技術的、商業的成熟レベルまでプロジェクトを進めるために、さらなるデー

プロジェクト熟成度における分類と状況表3

分類 プロジェクトの熟成度 状況Reserves(埋蔵量)

On�Production ・プロジェクトは生産中で炭化水素を販売している状況。・decision�gate※は商業的生産を始めるための決定。

Approved�for�Development ・�開発にあたりすべての許認可が得られており、多額の開発資金投入が決定している状況。プロジェクトは進行中。・開発計画に関する許認可はすべて取得済みであり、売買契約も締結済みである。・decision�gateは投資や建設を始めること。

Justified�for�Development ・�適切な商業的予測を基に経済的に正当化されたものであり、すべての許可を得られることが適切に見込まれる段階。・商業的権利をサポートするために十分に詳細な開発計画を持つ。・許可や売買契約を得ることが適切に見込まれる。・decision�gateは、開発を進めるための申請。

Contingent�Resources(条件つき資源量)

Development�Pending ・�商業的開発を確認するために行う活動を正当化できる十分な炭化水素の発見を持つ状況。・�データ取得や調査により商業的開発が可能か、確認する活動ができるだけのポテンシャルを持つ。・decision�gateは評価や確認を進めるための決定。

Development�Unclarified�or�On�Hold ・炭化水素の発見があるが、プロジェクトが停滞または商業的開発が遅れている状況。・実際のポテンシャルを明らかにすることが必要。・decision�gateは、一時的な延期もしくは一時停止した評価。

Development�not�Viable ・�制限された生産ポテンシャルを持つ発見。開発の計画はなく、プロジェクトは商業的ポテンシャルを持っているようには見えない段階。・主要な技術や商業的条件で理論上の回収量を保つ。・decision�gateは、将来における活動が約束できないこと。

Prospective�Resources(想定資源量)

Prospect ・実行可能な掘削ターゲットとして定義された集積ポテンシャル。・プロジェクトは発見の可能性を査定することが主。

Lead ・�集積のポテンシャルが小さいもの。追加のデータ取得や評価が要求されるもの。リードがプロスペクトに位置づけられるかどうかを確かめるため、さらなる分析が必要。

Play ・�集積ポテンシャルが想定でき得るプロジェクト。追加のデータ取得や評価が要求されるもの。活動は詳細な分析によりリードやプロスペクトを明らかにすることが主とされる。

※異なるプロジェクト熟成度レベルの境界が“decision�gate”と呼ばれる。出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE2007を基にJOGMEC作成

Reserves Classification

UndevelopedDeveloped

Producing

Shut-in

Non Producing

Behind Pipe

PrimaryImprovedRecovery Primary Improved

Recovery Primary ImprovedRecovery Primary Improved

Recovery

出所:JOGMEC et al.2007より

Reserves分類におけるフローチャート図7

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アナリシス

 当初のプロジェクト開発計画での資源量評価から、坑井や施設の変更、追加掘削、IOR(Improved Oi l Recovery:増進(改良)回収法)を通じて回収(効)率の向上・生産の加速化がなされる場合、プロジェクトは基準に従って再分類される。新基準においては、「もし、重大なプロジェクトリスクが出てきた場合には、

Contingent Resourcesに分類されるべきである」との記述があり、リスクが指摘された場合には、ReservesからContingent Resourcesへ格下げとなる場合もあることを示唆している。 また、表4のように追加回収量が発生する場合が分類され、コメントがついている。

7. 追加の回収量における分類

回収量の種類 ケース 分類将来のワークオーバー(改修)、t r e a tmen t(fracturingを含む)、re-treatment、設備の変更、あるいは他の機械的処置等のプロジェクトに伴う追加回収量

同様のプロジェクトが類似レザーバにおいて日常的に成功している場合

その作業に必要となるコストの多寡に応じてDevelopedあるいはUndeveloped�Reservesに分類することができる。

コンプレッサーの背圧の差圧を低下させることによって得られた増加分

コンプレッサー施設の設置が当初の開発計画の一部として計画され、承認されていた場合

追加回収量はUndeveloped�Reservesに含まれる。

コンプレッサーを実施する費用が、新規坑井の費用と比較して僅少である場合

Undeve l oped � Rese r ve sに分類されるが、Developed�Reservesに分類することも可能とされる。

コンプレッサー施設が当初承認された開発計画の一部ではなく、その費用が大きい場合

既存プロジェクトの追加回収量としてではなく、別プロジェクトとして扱われる。

追加掘削に伴う追加回収量 回収量のみReservesに分類。いまだ確立されてない(商業的に実施されていない)増進回収法による追加回収量

代表されるパイロットもしくはインストールされたプログラムによって対象レザーバから期待されるような生産の反応が得られた場合

Reservesに含まれる。

出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE2007を基にJOGMEC作成

表4 追加回収量の分類例

 次にResources、Reservesの算出手法について述べる。新基準では、これらを取り扱う単位が油層からプロジェクトへと変化したが、評価方法については従来のSPE/WPC/AAPG基準(1997/2000)と同様である。 評価方法については、アナロジー手法、容積法、Material Balance手法、レザーバシミュレーションなどの算出手法が認められている。アナロジー手法とは、油ガス生産に関するパフォーマンストレンドがない場合、将来の生産レートやProved reserves (確認埋蔵量)と同じフィールドや、よく類似したパフォーマンストレンド、類似した特徴を持つ地理的なレザーバから求める手法である。容積法とは、地質的・工学的データを基に原始埋蔵量を評価する手法であり、一般的にReservesを原始埋蔵量と回収率から算定する。Material Balance手法では、油ガス層に質量保存の法則を用いた、油ガス層

から地上に採集された各種流体の累積量とそれに対応する油ガス層内の圧力変化、原油-ガス間の相変化、地層水の浸入量などとの関係式である物質収支式を基に、原始埋蔵量を算定する。レザーバシミュレーションは、Reservesや将来の生産パフォーマンスを詳細な地質・工学的スタディ、油層工学スタディ、計算もしくはコンピュータシミュレーションモデルによって評価する手法である。 一般的に、発見前と発見後といった早期の段階では、類似のフィールド/プロジェクトデータを用いるか、容積法によって評価がなされる。一方、生産が開始され、生産レートや圧力情報が入手できるようになると、生産パフォーマンスを基にした手法が適用される。以下に、一般的に使用される容積法に基づいた埋蔵量評価基準について説明する。埋蔵量評価において、垂直方向および

8. 評価手法について

タ収集および/またはスタディに着手するという観点から、Play、Lead、Prospectに細分されている。 また、Reserves部分に対しては、開発状況に基づい

た分類もなされており、これを体系的に表したものが図7となっている。

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2007年SPE新基準における埋蔵量の定義・分類と評価手法

水平方向の賦ふ

存ぞん

範囲の決定基準は、坑井での確認が基本となっている。

(1)垂直方向における油ガスの賦存範囲の決定基準

 まず、油ガスの垂直方向の賦存範囲について述べる。

【賦存範囲の下限】

 OWC(Oil water contact)やGWC(Gas water contact)、GOC(Gas oil contact)などの油ガス垂直方向における賦存範囲の決定は、坑井において取得されたRFT(Repeat Format ion Tester)またはMDT

(Modular Formation Dynamics Tester)データによる深度対圧力プロット情報を基に推測・決定することが一般的である。新基準においても、深度対圧力情報の精度と信頼性が高い場合には、使用できることが容認されている。 しかし、油水界面などの界面が確認されていない場合は、坑井で炭化水素を確認した最も深い深度(LKH:Lowest Known Hydrocarbon)によって範囲が制限されることになる(図8)。この場合、LKHより構造下位の炭化水素の存在をProved reservesに含めることを、通常は認めていない。また、震探アトリビュートに基づいた界面の制限も認める場合があるとコメントされているが、坑井のLKHで評価された範囲よりも広く回収できると結論づけるための十分なパフォーマンスヒストリーが得られるまでは使用できないことになっている。

【賦存範囲の上限】

 坑井で確認した区間よりもup dip側に胚胎する炭化水素についても、坑井がup dip側に掘削されるまでその胚胎が確認できないため、Proved reservesとは認めていない。そのため、up dip側には坑井で確認された炭化水素胚胎層の上限深度HKH(Highest Known Hydrocarbon)

がProvedレザーバの賦存範囲の上限として使用される。特に、原油レザーバにおいてガスやUndersaturated oil

(不飽和油)の存在が懸念される場合は、Provedレザーバの上限としてHKO(Highest Known Oil)が使用されることになる。

【マルチ貯留層の場合の上下限】

 マルチ貯留層の場合においては、各層別にHKHとLKHを設定しなければならない(図9)。そのため、各層のLKHより下位、HKHより上位に胚胎する炭化水素量は見込まれないことになる。しかし、圧力データが各層の同通性を示す場合は、圧力データに基づいてProvedレザーバの境界を設定することができる。

(2)水平方向における油ガスの賦存範囲の決定基準

 垂直方向における賦存範囲に続いて設定されるのは、側方への広がりである。坑井や圧力データから確認、推定されたGWCやOWC等の境界を用いて、レザーバトップの構造図上に描かれるエリアが、Reservesの対象エリアとして認められている(図10)。

【Proved areaの設定】

 このうち、炭化水素を確認した坑井を中心とし、その坑井でのテストの結果から、合理的確実さ(reasonable certainty)をもって回収し得るエリアが設定され、これがProved areaとなる。しかし、Proved areaの設定では

“offsetルール”というルールが適用されており、坑井によって決められたProved areaの周囲に、同じ広がりを持つ隣接した8つのエリアが同フィールド内に設定され、これらのエリアで生産性の合理的確実さが判断されるなら、その部分をProved areaとして認めることができるようになっている(図11、12)。 しかし、offsetのエリアに関しては、既に掘削された

Well

Oil

Highest Known Hydrocarbon(HKH)

Seismic or Other Hydrocarbon Indicator

Lowest Known Hydrocarbon(LKH)

Water

出所:JOGMEC et al. 2007より

垂直深度における炭化水素賦存範囲の境界図8

HKH

HKH

LKH

LKH

Proved 領域

出所:JOGMEC et al.2007より

マルチレザーバにおけるLKH・HKHの設定図9

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エリアから側方に連続性があることを証明する地質・生産データの解釈が必要となる。チャネルサンドの分布のように、砂岩層の連続性が認められない場合はProved areaとは認められない(図13)。 産出能力の検証において、Proved reservesと認めるためには、実際の生産や生産テストにおけるデータによる支持のあることが望ましいが、これは対象となる同じレザーバからの類推で代替できる。坑井検層データやコアデータ、生産または生産テストから、対象となるレザーバが、経済的生産が確認されているエリアのレザーバと同様なものであると解釈できるものであれば、Proved areaとして認められる可能性がある。

【Probable areaの設定】

 Probable areaは、OWCまたはGWCよりも浅い部分で、sかつLKHよりもレザーバの1層厚分、大きい深度を用いてレザーバトップの構造図上に描かれるエリアか

らProved areaを除いた部分(図10)、またはoffsetルールと同様に、Proved areaの周囲にProved areaと同じ広がりを 持 つ 隣 接 し た エ リ ア が 設 定 さ れ 、Proved areaを囲む部分に相当する(図14)。Proved areaのoff set位置であっても、良好なアナロジーがなく、テストされていない部分はProbable areaとされる。

【Possible areaの設定】

 Possible areaは、OWCまたはGWCより も 浅 い 部 分 で 、 P r o v e d a r e a とProbable areaを除いた部分に相当する

(図10, 14)。また、震探のデータのみから炭化水素の胚胎が予想される場合

や、坑井で確認されていない断層ブロック部分などは、Possible areaとされる。

【レザーバの性状に関するパラメータ】

 レザーバの性状を示す孔こう

隙げき

率や浸透率などのパラメータは、検層やコア、フォーメーションテスト、生産などの利用できるデータに基づいて決定される。これらのデータの石油地質的解析手法は種々使用されているが、手法は限定されておらず、評価者に委ねられている。ただし、これらの解析結果は、利用データと整合的であるべきであるとされる。

(3)決定論的手法と確率論的手法

 埋蔵量は、上記で設定されたパラメータを基に決定論的あるいは確率論的手法を用いて算出される。新基準においては、決定論的手法確率論的手法いずれの場合でも、地質的、生産的に現実に起こり得る不確実性および商業

Fault

Fault gap

One sand thickness

One sand thickness below LKHOne sand thickness below LKH Seismic Structure

Probable wedgeProbable wedge

LKHLKH

LKHLKH

Field “X”

12

2

3

31

WellProved area(Developed)Proved area (Undeveloped)Probable areaPossible area

出所:JOGMEC et al. 2007より

Proved、Probable、Possible エリアの設定図10

Loc 1Loc 1 Loc 2Loc 2 Loc 3Loc 3

Loc 8Loc 8 Loc 4Loc 4

Loc 7Loc 7 Loc 6Loc 6 Loc 5Loc 5

出所:JOGMEC et al.2007より

Off setルール図11

AB

LHKLKH

Proved 領域Proved の対象となる領域

出所:JOGMEC et al.2007より

Offsetルールに基づいたPotential Proved エリア図12

Loc 1Loc 1

Loc 2Loc 2

Proved 領域Proved の対象となる領域

出所:JOGMEC et al.2007より

不連続なレザーバにおけるproved エリア図13

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的な不確実性を考慮した範囲から結果が外れないようにパラメータを制限することを必要としており、そのパラメータの設定方法については、評価者に委ねられている。

(4)Reservesの合算手法

 個々のレザーバ、またはレザーバの一部で評価される原油とガスの量は合計され、フィールド、権益、プロジェクトレベルの評価となり、さらにはエリア、国、会社単位の量を得るために合算される。合算には、一般的に二つの方法が用いられる。一つはカテゴリーごとの算術合計(決定論的合計)、もう一つは確率論的合算である。こ れ ら 二 つ の 方 法 で 出 さ れ た 結 果 に は 大 き な 差 、

“portfolio effect”が生じる。すなわち、統計的合算(確率論的合計)では、通常、合算したP90は算術合計(決定論的合計)のそれよりも大きくなり、P10は算術合計の場合よりも小さくなる。Mean値については、算術合

計も統計的合算も等しくなり、“portfolio effect”は生じない(図15)。 しかし、同じフィールド内において埋蔵量を合算する場合、レザーバ間に従属性があると予想され、確率論的計算にそれらの従属性を組み込む必要がある。従属性を考慮しないと、確率論的合算はlow estimate(P90)を過大評価し、high estimate(P10)を過小評価することになる。新基準においては、リポーティングの際、フィールドやプロジェクトの単位を超えたものについては、統計的合算を用いず、カテゴリーごとに算術合計することを推奨している。また、Contingent Resourcesおよび/またProspective Resourcesを含む集積は、商業生産を達成できない重大なリスクが考えられるため、分類ステージの異なるものを互いに合算すべきではないと注意を促している。

Discovery WellProved areaProbable areaPossible area

(Long Term DST. MDT. and Log data for all pay encountered)

MDTOWCMDTOWC LKHLKH

-1240-1240 -1220-1220 -1200-1200-1250-1250

出所:JOGMEC et al. 2007より

Offsetルールに基づいたProved、Probable、Possible エリアの設定図14

Cumulative Probability of “X” or greater

“Portfolio effect”“Portfolio effect”

P90

P10

0

100

Arithmetic sum Proved<<P90 of independent aggregate

mean

Arithmetic sum 3P>>P10 of independent aggregate

Estimated Ultimate Recoverable (not to scale)

Arithmetic sum(deterministic)

Independent aggregate(probabilistic)

出所:JOGMEC et al. 2007より

算術合計と確率論的合計との比較図15

 JOGMECでは、平成18年度(2006年度)より、技術動向調査「埋蔵量定義および評価手法に関する調査」として、資源量・埋蔵量に関するテーマを取り上げている。平成18年度にはSPE/WPC基準と米国SEC(Securities and Exchange Commission)基準の埋蔵量定義と評価手法について調査を実施し、2007年7月号の石油・天然ガスレビューで「石油天然ガス資源の埋蔵量定義、分類および評価手法―SPE基準と SEC基準との比較における基礎知識―」として、両基準における違いについて紹介した。また、2007年10月にはSPE埋蔵量新基準に関す

るセミナーを実施しており、これらの調査を基に、今回その内容を紹介している。いま述べた2007年7月号の記述では、Proved areaの設定手法において、offsetルールをSEC(米証券取引委員会)基準とした誤った記述があった。そのため、今般、SPE新基準とSPE旧基準とで評価方法による変化はなかったが、改めてSPE基準のProved areaの設定手法について記した。 近年、非在来型資源の取り扱いや評価手法についての話題が喧

かまびす

しくなっており、今後もこれらの動向を注視し、折を見て紹介していきたい。

9. おわりに

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【参考文献】1. 富田伸彦、高山將, 1999, 石油・天然ガス資源の埋蔵量定義と算定法―最新基礎知識と実際―, 石油天ガスレビュー,

8, 25-59.2. D.R.Harrell and T.L.Gardner SPE 84145, 2005, Signifi cant Diff erences in Proved Reserves Estimates Using SPE/

WPC Defi nitions Compared to United States Securities and Exchange Commission Defi nitions.3. McKelvey, V. E., 1972, Mineral Resource Estimates and Public Policy: American Scientist, Jan-Feb., 60, 32.4. SPEE, 1988, Guidelines for Application of the Defi nitions for Oil and Gas Reserves: in Society of Petroleum

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Classifi cation and Defi nitions, approved by SPE, WPC, AAPG, February 2000, published by SPE.7.SPE/WPC/AAPG/SPEE, 2007, Petroleum Reserves and Resources Classifi cation, Defi nitions, and Guidelines8. JOGMEC, SCA, RS 2007. Trend of Reserves Defi nitions and Evaluation Methodology.(平成18年度JOGMEC開

発技術動向調査報告書)9. JOGMEC, SCA, RS 2007. Hydrocarbon Reserves and Resources Evaluation. (平成19年度JOGMEC開発技術動向

調査セミナーテキスト)

【著者紹介】

坂口 隆昭 (さかぐち たかあき)大阪府出身。山口大学大学院化学地球科学科修士課程修了。2003年、石油公団(当時)入団、地質探査研究室配属。2006年5月より現職。専門:地質趣味:登山、旅行、運動(器械体操)