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21 破 傷 風 (牛・馬) 〔届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果により判断できる場合は、本病と診断する。判断が難しい場合は、
病変部の簡易細菌検査、PCR等の結果に基づき判断する。
その他 PCRや動物接種試験は、破傷風毒素の有無や活性を確認するため、状況に応じて実施する。
(7) 動物接種試験
(4) 簡易細菌検査
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(6) P C R
(5) 細菌培養試験
(3) 剖 検
(創傷部、
術創等病変部)
<直接鏡検>
<増菌・分離培養>
(+) (+) (-)
(死亡牛、鑑定殺牛)
(創傷部、
術創等病変部)
(+) (-)
(+) (-)
79
→類似疾病検査
① 179 低マグネシウム血症 ② 181 ケトーシス(神経型) ③ 141 流行性脳炎(日本脳炎)
○ 病原体:Clostridium tetani
(1) 疫学調査
① ワクチン接種の有無 ② 発生農場の過去における発生歴 ③ 創傷、去勢、除角、断尾(めん羊)など外科的処
置、分娩・出生後間がない。 ④ 畜舎内外の土砂を移動したことがある。 ⑤ 年齢を問わず発生する。
(2) 臨床検査
① 食欲はあるが嚥下困難、流涎を認める。 ② 歩様強拘 ③ 刺激を与えると頸部から後部に波及する全身の
強直性痙攣を示す。 ④ 鼻孔開張、牙関緊急、開張姿勢(木馬様姿勢)、
後弓反張 ⑤ 馬では第三眼瞼(瞬膜)の露出および耳翼佇立 ⑥ 牛の破傷風は馬の場合より緩慢な症状を示す。 ⑦ 死後に体温が上昇することがある。
(3) 剖 検
死亡牛では必要に応じて剖検を実施する。
(4) 簡易細菌検査(直接鏡検)
原因菌は感染巣に限局、創傷部、術創が確認さ
れた場合には病変部の直接塗抹標本をグラム染色
またはギムザ染色し、太鼓バチ状、ラケット状の芽胞
菌を確認する。
(5) 細菌培養試験(増菌・分離培養)
(増菌培養) ① 検体(組織片等)1g を細切して、予め脱気した
(100℃、5 分程度加熱後、氷水中で急冷)クッ
クドミート培地などへ投入、37℃、48~72 時間
培養 ② 菌の発育を認めた場合、グラム染色により特徴
的な太鼓バチ状、ラケット状の芽胞菌を確認す
るか、PCR、動物接種試験等の手法で破傷風
菌あるいは破傷風毒素の存在を推定し、分離
培養を試みる。 (分離培養) ① GAM 寒天培地など嫌気性菌用寒天培地の斜
面培地の底部、平板培地の辺縁部に増菌培養
菌液あるいは、直接塗抹材料を接種し、嫌気ジ
ャー法等により 37℃、24 時間嫌気培養をす
る。 ② 斜面培地上部、あるいは平板培地辺縁部対極
から強遊走菌を分離し、形態等により同定する。 ③ 感染巣が不明の場合には分離培養は困難
(6) P C R
① 増菌培養液、あるいは分離株の同定に破傷風
毒素遺伝子を標的とする PCR 1) が有効である。 ② 分離株の場合には毒素遺伝子脱落株が高頻
度に派生する株も報告されており、できるだけ
継代しないこと、および複数の株を検査すること
を心がける。
(7) 動物接種試験
病原診断すなわち組織材料、増菌培養液中に破
傷風菌が含まれるか否かを確認するために有効で
あるが、PCR で代替可能である。 ① 1%グルコース加クックドミート培地で、37℃、
48~72 時間培養する。 ② 培養液をマウス後肢筋肉内に 0.1ml 接種し、3
日間強直等の特徴的臨床症状の発現と生死を
観察する。 ③ マウスは系統、性別、年齢を選ばない。
80
その他: (参考)
破傷風は多くの哺乳動物に感受性を示し、馬、人が
最も高感受性といわれ、山羊がそれに次ぐ。牛は比較
的感受性が低いといわれるが、現在では国内発生の
主流は牛である。診断方法はいずれも共通である。
(参考文献) 1) Plourde-Owobi, L., et al.: Appl. Environ.
Microbiol. 71, 5604-5606 (2005).
81
22 気 腫 疽 (牛) 〔届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学検査、臨床検査の結果を基に、簡易細菌検査、必要に応じてPCR、蛍光抗体検査の結果
を併せて総合的に判断する。
その他
1. 類似疾病を疑う場合でも死体検査、疫学調査、臨床検査、簡易細菌検査(直接鏡検)、必要
に応じて蛍光抗体検査を実施する。 2. 蛍光抗体は外国製品を試薬として入手可能。診断薬ではないので結果は補助的に活用す
る。また、実施には、必ず陽性参照菌株を用いる。 3. 動物衛生研究所ホームページ、細菌検査マニュアル;気腫疽の診断法参照(http://www.n
aro.affrc.go.jp/niah/disease/bacteria_man/black_leg/)
<直接鏡検>
(4) 簡易細菌検査
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 蛍光抗体検査
(6) 細菌培養試験
(9) 動物接種試験
(7) 細菌性状分析
(8) P C R
(死亡牛、鑑定殺牛)
(腐敗材料)
(患部の筋肉、
体表リンパ節、
主要臓器病変
等)
<分離培養>
(+) (-) (+) (-)
(抹梢血、
頸静脈血)
<死体検査>
(+) (-) (+) (-)
82
→類似疾病検査
① 2 炭疽 ② 38 悪性水腫 ③ 40 牛クロストリジウム・パーフリンゲンス感染症 ④ 急性鼓脹症 ⑤ 177 硝酸塩中毒 ⑥ 3 出血性敗血症
○ 病原体:Clostridium chauvoei
(1) 疫学調査
① 予防接種歴(気腫疽、炭疽) ② 周辺地域、施設内での過去の発生状況 ③ 畜舎内外の土砂を移動・掘り起こしの有無 ④ 経過が甚急性または急性 ⑤ 好発年齢:4~24 ヵ月齢の若牛
(2) 臨床検査
① 発熱と振戦 ② 不整形の浮腫および捻髪音(好発部位は筋肉
の厚い肩部、臀部等) ③ 跛行 ④ 呼吸困難 ⑤ 浮腫部周辺の体表リンパ節の腫大
(3) 剖 検
(死体検査) ① 皮下織の捻髪音 ② 浮腫部周辺の体表リンパ節の腫大 ③ 希に天然孔からの出血 (剖検) ① 罹患部皮下織の気泡形成を伴い、血様色を呈
する膠様浸潤、ガス泡形成がみられる。 ② 骨格筋病変は酪酸臭を伴い、中心部は赤黒色、
乾燥、脆弱、スポンジ状を呈し、圧迫により少量
の赤色浸出液が見られる。病変は辺縁に向か
い暗赤色、湿潤、水腫性となる。 ③ 肝臓、腎臓および内分泌組織における、死後
変化と類似した実質変性 ④ 肺炎病巣を伴わない線維素出血性胸膜炎、肺
の充うっ血および水腫 ⑤ 心筋の褪色・脆弱化あるいは暗赤色化、線維素
出血性心外膜炎、心内膜の出血あるいは潰瘍
形成
(4) 簡易細菌検査(直接鏡検)
患部の筋肉、体表リンパ節、末梢血、頸静脈血の
直接塗抹標本のレビーゲル染色またはギムザ染色
により、単在または 2 連鎖の有芽胞、無莢膜鈍端、
中型直桿菌を確認する。
(5) 蛍光抗体検査
外国製品が試薬として入手でき、病原体の存否の
推定や分離菌の同定において補助的に利用可能。 ① 病変部の一片をスタンプし、蛍光染色して鏡検
する。菌体辺縁部の蛍光を特異蛍光とする。 ② 対照として C. chauvoei 参照株、C. septicum
参照株についても同時に検査する。
(6) 細菌培養試験(分離培養)
① 主要臓器、病変部筋肉等をツァイスラー血液寒
天培地または5%血液加GAM寒天培地を用い
て嫌気ジャー法(ガスパック法)で 37℃、24~48時間、分離培養する。
② ツァイスラー血液寒天培地では、菲薄扁平、露
滴状、灰青色、経過と共にボタン状集落を形成
する。
(7) 細菌性状分析
分離菌の性状(悪性水腫の項を参照) グラム染色(+)、桿菌、ブドウ糖(+)、麦芽糖
(+)、乳糖(+)、白糖(+)、サリシン(-)、ゼラチ
ン変化(+)、レシチナーゼ(-)、リパーゼ(-)、凝
固血清(-)、ミルク(凝固)
(8) P C R
分離菌の同定、類似菌の悪性水腫菌との鑑別に
利用可能 1)
83
(9) 動物接種試験
重度の雑菌汚染が予想される場合などに有効。 材料:病変部、肝臓、脾臓の乳剤(5 ~10 倍) 方法:1 検体につき 2 匹以上のマウスまたはモルモ
ットを使用。大腿部筋肉内に 0.1~0.5ml 接
種。なお、接種1 時間前に CaCl 2水溶液(モ
ルモットで 2%液、0.5ml、マウスで 3%液、
0.1ml )を同接種部位に筋肉内接種してお
く。 成績:モルモットでは 1~2 日、マウスでは 1~3日
で死亡。接種局所および接種側腹部の皮下
に赤色膠様浸潤、浮腫、軽度の気泡形成
同定:心血または実質臓器を材料として分離培養
するとともに肝表面のスタンプ標本で単在ま
たは 2 連鎖の無莢膜の鈍端、中型直桿菌を
確認
その他: (参考) めん羊・山羊にも本病は感受性があるが、我が国で
はほとんど症例をみることはない。ごく希に豚の症例に
遭遇するが、いずれの場合でも病原診断は本項に準
ずる。 (参考文献) 1) Sasaki, Y., et al.: Res. Vet. Sci. 71, 227-229
(2001).
84
23 レプトスピラ症 (牛) 〔一部届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、細菌培養試験、抗体検査、PCR、病理組織検査等の結果
を併せて総合的に判断する。
その他 抗体検査や分離菌の血清型別が必要な場合は動物衛生研究所等の専門機関に相談する。
(死亡牛、鑑定殺牛)
(血清)
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(血液、肝臓、
腎臓、尿)
<分離培養>
(血液、尿)
(+) (-) (+) (-) (+) (-) 専門機関 に相談
血清型別
血清型別
血清型別
抗体検査
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(7) 病理組織検査 (6) 動物接種試験
(4) P C R
(5) 細菌培養試験
85
→類似疾病検査
① 7 ピロプラズマ病 ② 牛腎盂腎炎 ③ 産褥性血色素尿症 ④ ワラビ中毒 ⑤ 薬物中毒 ⑥ 187 脂肪壊死症 ⑦ 11 アカバネ病
○ 病原体:Leptospira interrogans など
(1) 疫学調査
① 過去に本病の発生があった。 ② 秋期または大雨、洪水の後に発生した。 ③ 畜舎、飼料等がネズミの糞尿に汚染されている。 ④ 畜舎・農場に本病に罹患あるいは保菌している
可能性のある犬などが存在する。 ⑤若齢牛に発症が多い。 ⑥妊娠後半(7 ヵ月以降)に流産があった。
(2) 臨床検査
① 典型的な症状を示すものは少なく、不顕性感染
が多い。 ② 発熱 ③ 血色素尿 ④ 貧血(100~300 万/mm3)および黄疸 ⑤ 流産(主に妊娠後期)および受胎率の低下 ⑥ 乳量の減少 ⑦ 一般症状の悪化
(3) 剖 検
① 急性例では諸臓器や皮下織の黄疸、皮下織や
粘膜の点状出血ないし出血斑、膀胱内血色素
尿貯留 ② 慢性例では病巣は腎に限局、皮質の小白色斑
ないし小結節 (4) P C R
血液、尿、髄液および組織検体からレプトスピラ
DNAを検出するのに用いられる。検体からDNAを
抽出し、鋳型として使用する 1)。 (5) 細菌培養試験(分離培養)
検査材料を培養液に接種し本菌に特徴的な細
菌の増殖を確認する。
(注) 抗生物質投与前の血液、髄液、尿を検体として
採取し、速やかに培地に入れる。培地は EMJH ま
たはコルトフ培地を使用し、接種後 29±1℃で少な
くとも 16 週、可能であれば 26 週まで培養する。 1~2 週ごとに暗視野顕微鏡で特徴的な形態と
運動性を確認する(細菌分離は、レプトスピラ血症
期(感染後約 7 日)は可能であるがそれ以降では困
難である。)。 (補足) ① 材料から速やかに培養できない場合、尿は
pH7.0~7.4 に調整、血液はヘパリン採血を行
い、常温で維持する。組織の場合、4℃で維持
する。 ② EMJH 基礎培地あるいはコルトフ基礎培地に
滅菌非動化したうさぎ血清を最終濃度 0.4~
1%になるよう添加すると分離率が向上する。ま
た、基礎培地に 0.1~0.2% agar を加えて半
流動培地として使用することもできる。 ③ 尿からの菌分離で他の細菌の混入を防止した
い場合、5-フルオウラシルを最終濃度 100µg/ ml となるように加えることもある。
(6) 動物接種試験
実験動物を用いた菌分離は以下のように行う。 若いモルモット(150~175g)やゴールデンハム
スター(4~6 週齢)の腹腔に検体(血液、尿、臓器
乳剤)を0.5~1ml接種する。接種後 3日目に腹水
を採取し、暗視野顕微鏡で菌の存在の有無を観察
し、菌の培養を行う。培養は血液、腎臓および肝臓
などを用いる。
(7) 病理組織検査
① 急性例では腎臓の糸球体と尿細管の高度の変
性、壊死、腎間質のリンパ球集簇
86
② Levaditi 染色または Warthin-Starry 染色に
より病巣のレプトスピラの検出 ③ 肝臓の小葉中心性壊死 ④ 慢性例では腎皮質にリンパ球を主体とする細胞
浸潤、線維化がみられる。
その他: (抗体検査)
最も信頼できる方法はペア血清を用いた顕微鏡凝
集試験(MAT)で抗体価の上昇を確認することであり、
ペア血清で 4 倍以上の抗体価上昇が認められた場合
陽性と判定される。標準菌株と暗視野顕微鏡が必要
である。
(血清型別) 標準菌株を用いた MAT による血清抗体価の測定
により原因菌の血清型を知ることが可能である。 菌が分離された場合は、MAT の他に交差凝集吸
収試験やマウス単クローン抗体を使用した血清型別
法があり、限られた専門機関で実施されている。 なお、届出伝染病に指定されている血清型は以下
の 7 血清型である。 L. Pomona、L. Canicola、L. Icterohaemorrhagiae、
L. Grippotyphosa、L. Hardjo、L. Autumnalis およ
び L. Australis
抗体検査や分離菌の血清型別は専門機関に依頼
する。
(参考文献) 1) Kawabata, H., et al.: Microbiol. Immunol. 45,
491-496 (2001).
87
24 サルモネラ症 (牛) 〔一部届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を受けて細菌培養試験、細菌性状分析、血清型別等を実施し、得
られた結果から総合的に判断する。
その他
(7) 血清型別
(8) P C R
(1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(6) 病理組織検査 (4) 細菌培養試験
(5) 細菌性状分析
(2) 臨 床 検 査
(死亡牛、流死産胎子)
(糞便)
(+) (-) (+) (-)
(血液、主要臓器、腸内容物)
(胎子第一胃内容物、肝臓、
悪露等)
<分離培養>
<同定>
(+) (-) (+) (-)
88
→類似疾病検査
① 42 牛大腸菌症 ② 40 牛壊死性腸炎 ③ 61 牛コクシジウム病 ④ 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ⑤ 31 牛アデノウイルス病 ⑥ 32 牛コロナウイルス病 ⑦ 35 牛ロタウイルス病 ⑧ 58 牛クラミジア症 ⑨ 4 ブルセラ病
○ 病原体:Salmonella enterica (届) S. Typhimurium、S. Dublin、S. Enteritidis
(1) 疫学調査
① 1~4 週齢の子牛に多発するが、成牛での集団
発生も見られる。 ② 集団飼育群で多発する。 ③ 子牛の急性例では1~7 日の経過で敗血症死
する。 ④ ひとたび発生すると、常在化しやすい。 ⑤ 搾乳牛では乳量減少、水様性下痢や血便が認
められる。 ⑥ 妊娠牛では流早死産を起こすことがある。 ⑦ 我が国の発生はS. Typhimurium、S. Dublin
によることが多いが、近年分離される血清型は
多様化する傾向にある。
(2) 臨床検査
① 一般症状の悪化 ② 発熱 ③ 黄灰白色水様性の悪臭便、粘血便 ④ 脱水、可視粘膜の蒼白 ⑤ 著しい削痩、歩様蹌踉、起立不能 ⑥ ときに肺炎 ⑦ 慢性例では関節の腫脹、神経症状を呈すること
がある。
(3) 剖 検
① 腸炎。カタル性、出血性、線維素性(偽膜性)。
病変は回腸で最も高度、次いで空腸、結腸
② 腸内容物は黄白色ないし黄色で悪臭がある。 ③ 腸リンパ節の腫大、充血 ④ 肝臓の腫大と壊死性小白斑散在 ⑤ ときに肺の限局性肝変化、関節腔や腱鞘にお
けるゼラチン様または線維素様滲出物の存在、
神経症状を伴う例では脳膜の充血、脳実質の
出血、敗血症例では肺のうっ血水腫
(4) 細菌培養試験(分離培養)
細菌学上の診断は原因菌の分離培養と同定によ
って行 う 。 S. Typhimurium 、 S. Dublin 、 S. Enteritidis は、届出伝染病に指定されている。 ① 死亡牛では血液、主要臓器、腸内容物、流死
産牛では流死産胎子(第一胃内容物、肝臓等)、
悪露、発症牛では下痢便、唾液をノボビオシン
(20µg/ml)加 DHL 寒天培地を用いて分離培
養を行う。 必要に応じてその他のサルモネラ用培地を併
用する。 ② 保菌牛では糞便10gをハーナテトラチオン酸塩
培地 100ml で増菌後、ノボビオシン(20µg /ml)加 DHL 寒天培地を用いて分離培養を行
う。 状況に応じてバフィーコートの培養も行う。他の
増菌用培地、選択分離培地、免疫磁気ビーズ
等の併用により、検出率は向上する。 ③ 中心部黒色の円形集落を形成する。
(5) 細菌性状分析
(分離菌の性状)
菌 種
インドール
V
P
クエン酸
硫化水素
乳
糖
リジン
一般のサルモネラ - - + + - + 大 腸 菌 + - - - + d サイトロバクター + - + + d -
d:血清型または菌株によって異なる。
89
(6) 病理組織検査
① 初期は、小腸粘膜表層の線維素細胞性滲出。
次いで、粘膜の重度壊死、潰瘍、線維素性好
中球性滲出。粘膜下組織の線維素血栓、パイ
エル板を巻き込む粘膜下水腫。大腸のび爛、
潰瘍、線維素性滲出 ② 肝臓の多発性巣状壊死、チフス様結節 ③ 急性脾炎、リンパ節炎 ④ チフス様結節は腎臓、リンパ節、骨髄にも存在 ⑤ 敗血症例では、単核細胞浸潤を伴う肺胞壁の
肥厚、肺胞毛細血管に硝子血栓、水腫、マクロ
ファージ浸潤
(7) 血清型別
市販の型別用抗血清を使用して O 群とH抗原を
決定し、分離菌の血清型を同定する。
(8) P C R (同定) 1)
S. Typhimurium、S. Dublin と S. Enteritidisを同定するマルチプレックス PCR が利用できる。
(参考文献) 1) Akiba, M. et al.: J. Microbiol. Methods. 85,
9-15 (2011).
90
25 牛カンピロバクター症 〔届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、簡易細菌検査、細菌培養試験、PCR等の結果を併せて総
合的に判断する。
その他 培養は新鮮材料について可及的速やかに実施する。
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(6) 病理組織検査
(8) P C R
(10) 細菌性状分析
(5) 抗 体 検 査 (7) 蛍光抗体検査
(4) 簡易細菌検査
(9) 細菌培養試験
<試験管 凝集反応>
<分離培養>
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
<直接鏡検>
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(流死産胎子)
(膣粘液)
(胎盤、胃内容物、
肺、肝臓)
(精液、包皮腔洗
浄液、膣排出物)
91
→類似疾病検査
① 4 ブルセラ病 ② 24 サルモネラ症 ③ 27 トリコモナス病 ④ 15 牛伝染性鼻気管炎 ⑤ 58 牛クラミジア症
○ 病原体:主として Campylobacter fetus subsp. venerealis 、ときに C. fetus subsp. fetus
(1) 疫学調査
① 不受胎牛が増加する。 ② 胎齢 5~7 ヵ月齢での流産が散発する。 ③ 特定の交配種牛との関連がある。
(2) 臨床検査
(不受胎牛) ① 一般に無症状 ② 不規則な発情周期の回帰 ③ 頸管炎 ④ 軽微な子宮内膜炎 ⑤ 腟粘液の増量、混濁 (流産牛) ① 突発的流産 ② 流産前に外陰部が腫脹 ③ 腟粘液の漏出、出血 ④ 流産胎子は外見的に正常
(3) 剖 検
(不受胎牛) 不受胎牛では子宮内膜が不透明にみえる。発情
期の子宮粘膜には通常は透明感がある。 (流産胎子) ① 胎盤では通常自己融解が強い。胎盤病変はブ
ルセラ病のそれに類似するが、程度は軽度であ
る。胎盤の小丘間部の水腫と不透明化。胎盤
小丘の黄色脆弱化あるいは灰白色化(壊死) ② 胎子では、本病に特異的病変ではないが、皮
下織の膠様浸潤、胸・腹水の増量、奬膜に線維
素付着。ときに、本病の特徴病変として(特にめ
ん羊のC. fetus subsp. fetus 感染)、肝臓に 1~2mm から1~2cm 大の黄褐色病変散在~
多発
(4) 簡易細菌検査(直接鏡検)
① 種雄牛では精液、包皮腔洗浄液、流産胎子で
は胎盤、胃内容物、肺、肝臓、流産雌では膣排
出物の直接塗抹標本をグラム染色あるいは石
炭酸フクシンで染色し、コンマ状またはS状の湾
曲桿菌を確認する。 ② 種雄牛の泌尿生殖器には、形態的には区別で
きない C. sputorum subsp. bubulus が混在
する例が多いので注意する。
(5) 抗体検査(試験管凝集反応)
① 動物衛生研究所より販売される膣粘液凝集反
応用菌液による試験管凝集反応を行う。 ② 腟粘液について実施、個体診断ではなく群の
診断用である。抗体価の上昇にはタイムラグが
ある。発情期には抗体が希釈され陰転する。
(6) 病理組織検査
(不受胎牛) 子宮内膜炎。病変は軽度であり、び漫性のリンパ
球および形質細胞浸潤、リンパ濾胞形成、子宮腺
の嚢胞化がみられる。 (流産胎子) ① 胎盤の小丘間部では、水腫とび漫性の細胞浸
潤(主としてマクロファージ)。胎盤小丘では壊
死と高度の好中球浸潤 ② 肝臓の多発性壊死
(7) 蛍光抗体検査
① 動物衛生研究所より販売される蛍光標識抗体
を使用して行う。 ② 直接鏡検に用いる材料または発育したコロニー
の塗抹標本を蛍光抗体で染色し鏡検する。スク
リーニング用である。亜菌種の識別はできない。
92
(8) P C R
確定診断は細菌培養試験による。 ① カンピロバクター・フェタス菌種特異的PCR 1)
流産胎子材料など菌数が多い場合および分離
菌の同定に便利。ただし、PCR よりも分離培養
の方が高感度 ② 各亜菌種特異的マルチプレックスPCR 2)
ときに反応しない株があるので、必ず①の菌種
特異的 PCR を併用すること。PCR で亜菌種が
同定できない場合は生化学性状で識別する。
(9) 細菌培養試験(分離培養)
分離株がどちらの亜菌種であるのかの同定は防
疫上重要であり、必ず実施する。 ① 直接鏡検に用いる材料を使用し、Skirrow 培地
を用いて分離培養を行う。mCCDA 培地は C. fetus subsp. venerealis のほとんどが発育しな
い。また発育も悪いため不適当。なお、C. fetus subsp. fetusはmCCDA培地でもよく発育する。
② 混合ガス置換法、微好気ガス発生袋等を用い
て 37℃で 3~5日間加湿状態で微好気培養す
る(種雄牛由来の検体など汚染が強い材料は
0.65µm のメンブランフィルター濾液を培養材
料とすると夾雑菌の発育を抑制できる。)。
③ C. fetus は直径 1~2mm の灰白色またはクリ
ーム色の露滴状正円形集落を形成する。
(10) 細菌性状分析
“分離菌の性状” 参照
その他: (分離培地) シクロヘキシミド添加 Skirrow 培地(選択培地)
基礎培地(Blood Agar Base No.2: Oxoid)に 馬溶血血液または羊脱線維素血を5~7%加え、 バンコマイシン(10µg/ml) ポリミキシンB(2.5U/ml) トリメトプリム(5µg/ml) シクロヘキシミド(50µg/ml)
を添加する。 (参考文献) ・Manual of Diagnostic Tests and Vaccines for Terrestrial Animals, 7th ed, Vol.2. OIE (2012).
菌種特異的 PCR 1) Oyarzabal, O.A., et al.: Vet. Microbiol. 58,
61-71 (1997). 各亜菌種特異的 PCR 2) Hum, S., et al.: Aust. Vet. J. 75, 827-831 (1997).
(分離菌の性状)
菌 種 カタラーゼ 硫化水素 発 育 感 受 性
馬尿酸塩 加水分解 TSI 高感
度法 25℃ 42℃ 1% グリシン
3.5% NaCl ナリジクス酸 セファロシン
C. fetus subsp. venerealis + - - + -/V - - R/V S -
C. fetus subsp. fetus + - + + -/V + - R S -
C. sputorum biovar bubulus - + + - + + +/V d/V S -
C. sputorum biovar faecalis + + + - + + +/V R/V S -
C. sputorum biovar paraureolyticus - + + - + + V V S -
C. jejuni + - - + + - S/V R + ・各種性状検査には5%馬血清添加ブレインハートインフュージョン寒天培地を基礎培地として使用し、被検菌を厚めに塗抹する。 ・硫化水素産生試験高感度法:0.02%L-シスチン塩酸塩を添加した斜面培地に菌を塗抹し、10%酢酸鉛に浸して乾燥させた
濾紙を通気性のシリコ栓ではさんで宙づりにし、微好気培養する。硫化水素が産生されると濾紙辺縁がわずかに黒変する。 ・感受性試験:ディスク法(30µg)、R:抵抗性、S:感受性、mCCDA培地に含まれるセファペラゾンはセファロシンと同じセファ
ロスポリン系抗生物質である。 ・表中V:OIEマニュアルで(variable results)とされたものを併記した。
93
26 トリパノソーマ病 (牛) 〔届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、血液検査の結果により本病とする。
その他
(死亡牛)
(+) (-)
(+) (-)
(+) (-) (+) (-)
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 病理組織検査
(4) 血 液 検 査
P C R
94
→類似疾病検査
① 7 ピロプラズマ病(牛バベシア病) ② 7 ピロプラズマ病(牛タイレリア病) ③ 57 牛エペリスロゾーン病 ④ 8 アナプラズマ病 ⑤ 23 レプトスピラ症 ⑥ 中毒性貧血
○ 病原体:Trypanosoma theileri (国内に分布)、T. brucei 、T. congolense、T. vivax、T. evansi
(1) 疫学調査
① T. theileri は国内にも分布。アブ、サシバエに
より媒介される。通常は非病原性だが、感染牛
血液の輸血により子牛が発病することがある(特
に虚弱子牛に輸血した場合)。 ② T. brucei 、T. congolense 、T. vivax は主にア
フリカ諸国に分布。ツエツエバエにより媒介され
る。 ③ T. evansi は東南アジアを含む世界各地に分
布。アブ、サシバエにより媒介される。常在国か
らの牛の輸入
(2) 臨床検査
① T. theileri 感染では通常無症状。ストレス時や
輸血による急性発症例では死亡することがある。 ② 貧血 ③ 削痩、衰弱、一般症状の悪化 ④ 尿の色は正常 ⑤ ときに流産
(3) 剖 検
① 脾臓の腫大 ② 黄 疸
(4) 血液検査
① 血液塗抹ギムザ染色標本の鏡検 トリパノソーマの検出 T. theileri :体長は40~70µm、ときに100µmに達する。 他の種:体長は 15~35µm
② 血球計算 赤血球数の減少(Ht 値、赤血球数の測定)
(5) 病理組織検査
① 肝臓の小葉中心性壊死 ② 脾臓、リンパ節のリンパ組織の壊死と細網細胞
の活性化 ③ 腎臓の尿細管壊死
その他: PCR 1), 2) 種の同定に利用。陽性の場合、塩基配列を確認す
るのが望ましい。
(参考文献) 1) Hatama, S., et al.: Vet. Parasitol. 149, 56-64
(2007). 2) Njiru, Z.K., et al.: Parasitol. Res. 95, 186-192
(2005).
95
27 トリコモナス病 〔届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、簡易寄生虫検査と場合により寄生虫培養試験の結果によ
り本病とする。
その他
(5) 寄生虫培養試験
(4) 簡易寄生虫検査
(3) 剖 検
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(流死産胎子) (子宮腟粘液、包皮洗浄液)
(第四胃内容物)
(+) (-)
(+) (-)
(+) (+) (-)
96
→類似疾病検査
① 25 牛カンピロバクター症 ② 4 ブルセラ病 ③ 58 牛クラミジア症 ④ 11 アカバネ病 ⑤ 15 牛伝染性鼻気管炎 ⑥ 26 トリパノソーマ病
○ 病原体:Tritrichomonas foetus
(1) 疫学調査
① 発生国からの牛の輸入 ② 流死産牛、不受胎牛が増加 ③ 早期流産(妊娠 2 ~4 ヵ月) ④ 特定の交配種雄牛および人工授精と関連
(2) 臨床検査
① 腟粘液の異常(膿様物および腟粘液の増量) ② 陰唇腫脹 ③ 生殖器異常 ④ 種雄牛はほとんど無症状か包皮内の軽い炎症、
充血腫脹
(3) 剖検(流産胎子)
① 胎齢に比し矮小 ② 退色
(4) 簡易寄生虫検査
① 検査材料 ・子宮腟粘液 ・包皮洗浄液 普通ブイヨン、ハート・インフュージョン・ブイヨン
の20~30ml(20℃、pH7.3±0.1)で洗浄し、滅
菌試験管に採取、二重ガーゼで濾過、2,000 rpm10 分遠沈 ・流死産胎子 ・第四胃内容物
② 鏡検 ・標本の乾燥を防止し、30℃に保ち、可及的速
やかに虫体の有無を確認 ・慢性、悪環境下では運動不活発、変形等で検
出困難な場合があるので注意を要する。
(5) 寄生虫培養試験
① 子宮腟粘液、包皮洗浄液、流死産胎子の第四
胃内容物を使用し、牛血清加ブドウ糖ブイヨン
培地または牛乳培地を用いて分離培養 ② 37℃で 7 日間程度培養し鏡検により虫体の有
無を確認する。
97
28 ネオスポラ症 〔届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 病理組織検査(+)、免疫組織化学検査(-)の場合には、疫学調査、臨床検査の結果を基に、
抗体検査、PCR等の結果を併せて総合的に判断する。
その他 1. 検査材料の送付
最終判定が困難な場合は検査材料を動物衛生研究所等の専門機関に送付する。 2. * 本文 (6) 抗体検査参照
(流死産胎子、異常子牛)
(血清、胸水、腹水)
(血清)
(+) (-)
(+) * (-) * (+) (+/-) * (-)
(+) (-) (+) (-)
(6) 抗 体 検 査 (5) 免疫組織化学検査
(4) 病理組織検査
(3) 剖 検
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(7) P C R
98
→類似疾病検査
① 11 アカバネ病 ② 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ③ 13 チュウザン病 ④ 15 牛伝染性鼻気管炎 ⑤ 10 ブルータング ⑥ 33 牛パラインフルエンザ ⑦ 17 アイノウイルス感染症 ⑧ 4 ブルセラ病 ⑨ 25 牛カンピロバクター症 ⑩ 58 牛クラミジア症 ⑪ 27 トリコモナス病 ⑫ カビ性流産 ⑬ 170 トキソプラズマ病 ⑭ 住肉胞子虫症 ⑮ その他の原因による流産
○ 病原体:Neospora caninum
(1) 疫学調査
① 流死産と流死産以外の異常産の発生調査 ② 乳牛に多発 ③ 同一牛や同系統牛が異常産を繰り返すことが
ある。 ④ 流産は妊娠 3 ~8 ヵ月(平均 5.5 ヵ月)に発生
多発 ⑤ 季節に関わりなく発生 ⑥ 日本全国で発生 ⑦ 単発性あるいは散発性に発生し、ときに突然
短期間に多発 ⑧ 高率に垂直感染するが、大多数の子牛は正常
に分娩され潜伏感染牛となる。
(2) 臨床検査
① 流産 ② 死産 ③ 神経症状を呈する新生子牛の分娩
(3) 剖 検
特異的な変化はなし。流死産胎子の自己融解。
皮下組織における膠様浸潤、血清様あるいは血様
の胸腹水の貯留。ミイラ胎子の出現
(4) 病理組織検査
① 非化膿性脳脊髄炎、非化膿性髄膜炎。急性病
変として、白質および灰白質の多発性巣状壊
死。壊死巣は、しばしばグリア細胞によって放
射状に包囲。亜急性病変として、多発性のグリ
ア結節と囲管性細胞浸潤 ② 非化膿性心内膜炎、心筋炎、心外膜炎 ③ 非化膿性骨格筋炎 ④ 肝臓等で巣状壊死
⑤ 胎盤絨毛叢の壊死、非化膿性胎盤炎 ⑥ 病巣内外に希にタキゾイトあるいはシストが存在
(5) 免疫組織化学検査
抗ネオスポラ抗体を用いたタキゾイトおよびシス
トの検出
(6) 抗体検査
① 病理組織検査(+)、免疫組織化学検査(-)
の場合に実施する。 ② 間接蛍光抗体法:母牛、胎子および子牛血清
あるいは胎子の胸水、腹水を検査材料とする。
母牛および子牛は抗体価 200倍以上を陽性、
胎子は抗体価 50 倍以上を陽性とする。 子牛・胎子は抗体価の上昇が十分でない場合が
あるため、母牛の抗体検査を併せて実施すること。 抗体検査の判定は、以下による。
i ) 母牛、子牛、胎子いずれかが(+)の場合:(+) ii) 母牛(-)かつ子牛・胎子(-)の場合:(-)
(7) P C R 1)
① 病理組織検査(+)、免疫組織化学検査(-)
の場合に実施する。 ② 胎子の脳、腎臓、舌、脊髄等の組織を検査材
料とする。 抗体検査およびPCRを含む判定は、以下による。
i ) 抗体検査(+)の場合:PCR の結果にかかわ
らず(+) ii) PCR(+)の場合:抗体検査の結果にかかわ
らず(+) iii) 抗体検査(-)および PCR(-)の場合:(-)
99
(参考文献) 1) Yamage, M., et al.: J. Parasitol. 82, 272-279
(1996)
100
29 牛バエ幼虫症 〔届〕
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、簡易寄生虫検査の結果により本病とする。
その他
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 簡易寄生虫検査
(皮膚腫瘤部)
(+) (-)
(+) (-)
101
→類似疾病検査
牛毛包虫症
○ 病原体:キスジウシバエ Hypoderma lineatum の幼虫、ウシバエ Hypoderma bovis の幼虫
(1) 疫学調査
① 輸入牛または本病の汚染地域から導入した牛
から発生した。 ② 過去に周辺地域または当該農場で本病の発生
があった。 ③ 発生は冬~初夏 ④ 5 ~6 月頃牛バエ成虫の発生があった。
(2) 臨床検査
① 背線の両側、腹部、頸部の皮膚の腫瘤または
丘状の隆起物 ② 腫瘤の中央に開口部 ③ 腫瘤の小開口より膿汁排出 ④ 腫瘤を圧すると幼虫が排出 ⑤ 無痒覚、無痛覚 ⑥ 重症例の場合は一般症状の悪化
(3) 簡易寄生虫検査
腫瘤部から幼虫摘出、幼虫の形態確認
102
30 牛RSウイルス病
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、抗体検査、病理組織検査、免疫組織化学検査、PCR等を
行い総合的に判断する。
その他 ウイルス分離が最も確実な診断法であるため、できる限りそれを実施する。
(死亡牛)
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
<中和反応> <ELISA>
(ペア血清)
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(肺乳剤)
(鼻腔ぬぐい液、
咽喉頭ぬぐい液、
発熱時脱線維血)
<イムノクロマト>
<培養細胞接種試験>
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 抗 体 検 査
(9) 病 理 組 織 検 査 (6) 蛍 光 抗 体 検 査
(8) ウイルス培養試験
(10) 免疫組織化学検査
(7) P C R
(4) 簡易ウイルス検査
103
→類似疾病検査
① 20 牛流行熱 ② 18 イバラキ病 ③ 15 牛伝染性鼻気管炎 ④ 33 牛パラインフルエンザ ⑤ 31 牛アデノウイルス病 ⑥ 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ⑦ 34 牛ライノウイルス病 ⑧ 牛レオウイルス病 ⑨ 58 牛クラミジア症 ⑩ 43 牛パスツレラ(マンヘミア)症 ⑪ 50 ヒストフィルス・ソムニ感染症 ⑫ 45 牛マイコプラズマ肺炎
○ 病原体:牛RSウイルス;Bovine respiratory syncytial virus [Bovine respiratory syncytial virus, Pneumovirus, Pneumovirinae, Paramyxoviridae]
(1) 疫学調査
① 寒冷期に好発する。 ② 年齢に関係なく発生する。 ③ 導入した牛または導入牛と接触した牛から発生
する。 ④ 周辺地域に本病の発生がある。 ⑤ 伝播速度が速い。
(2) 臨床検査
① 発熱(5~6 日の稽留熱) ② 水様性~粘稠性の多量の両側性鼻汁の漏出 ③ 多量の泡沫性流涎 ④ 結膜の高度の充血と流涙 ⑤ 湿性の発咳 ⑥ 粘稠性痰の排出 ⑦ 一般症状の悪化 ⑧ 呼吸促迫(重症例では喘鳴音) ⑨ 頭部、頸部および背部の皮下気腫
(3) 剖 検
① 症例によって病変は異なるが、肺全体の弾力性
の増加と赤色化、肺胸膜および小葉間結合組
織における気腫、二次感染を伴う場合は肝変
化 ② 気管気管支リンパ節の腫大
(4) 簡易ウイルス検査(イムノクロマト)
鼻腔、咽喉頭ぬぐい液、発熱時脱線維血または
肺の組織乳剤について市販の検出デバイスを用い
て検査する。
(5) 抗体検査(中和反応、ELISA)
ペア血清について実施
(6) P C R 1), 2), 3)
材料:鼻腔、咽喉頭ぬぐい液または肺の組織切片 プライマー:エンベロープ糖蛋白質をコードする G
遺伝子 方法:RT-PCR、Nested PCR
(7) 蛍光抗体検査
鼻腔または咽喉頭ぬぐい液の直接塗抹標本、肺
の組織切片を蛍光染色して鏡検する。 特異蛍光を呈した細胞がみられたものを陽性とす
る。
(8) ウイルス培養試験(培養細胞接種試験)
使用細胞:牛腎細胞、牛精巣細胞、Vero 細胞また
は ESK 細胞 接種材料:鼻腔または咽喉頭ぬぐい液 培養方法:34℃で回転培養 成績:CPE の確認 同定:培養細胞中の細胞質内封入体の確認
蛍光抗体染色による培養細胞中の特異蛍光
細胞の確認 交差中和試験
(9) 病理組織検査
① 気管支間質性肺炎。壊死性細気管支炎、細気
管支および肺胞上皮由来の合胞体性巨細胞
形成を特徴として、急性肺胞性肺炎やⅡ型肺
胞上皮の増殖を伴う。合胞体性巨細胞、気管
支、細気管支および肺胞上皮細胞に好酸性細
104
胞質内封入体を認める。 ② 合胞体を伴う壊死性細気管支炎の存在は本症
を強く示唆するが、パラインフルエンザ感染でも
同様な合胞体がみられること、マクロファージ由
来の多核巨細胞の出現は気管支肺炎の一般
的所見であることに注意すべきである。
(10) 免疫組織化学検査
病変部の細気管支および肺胞上皮細胞、合胞体
性巨細胞において、ウイルス抗原を検出する。
(参考文献) ・稲葉右二: 牛病学(清水高正ら編)、第2版. 194-196、近代出版、東京 (1988).
・播谷 亮ら: 動物衛生研究所研究報告. 113、41-46 (2007).
1) Valarcher, J.F. & Taylor, G.: Vet. Res. 38, 153-180 (2007).
2) Sharma, R. & Woldehiwet, Z.: Vet. Bull. 61, 1117-1131 (1991).
3) Kirisawa, R. et al.: J. Rakuno Gakuen Univ. 19, 225-237 (1994).
105
31 牛アデノウイルス病
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、ウイルス培養試験、病理組織検査および抗体検査の結果
により総合的に判断する。
その他
(死亡牛)
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(血液、鼻腔ぬぐい液、
糞便等)
<中和反応> <HI 反応>
(ペア血清)
<培養細胞接種試験>
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(血液、鼻腔ぬぐい液、
肺・腸病変部、
肺・腸付属リンパ節)
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 抗 体 検 査
(9) 病 理 組 織 検 査
(7) P C R
(8) ウイルス培養試験
(4) 血 液 検 査
(6) 蛍 光 抗 体 検 査
106
→類似疾病検査
① 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ② 15 牛伝染性鼻気管炎 ③ 33 牛パラインフルエンザ ④ 30 牛 RS ウイルス病 ⑤ 34 牛ライノウイルス病 ⑥ 20 牛流行熱 ⑦ 牛レオウイルス病 ⑧ 35 牛ロタウイルス病 ⑨ 32 牛コロナウイルス病 ⑩ 58 牛クラミジア症 ⑪ 50 ヒストフィルス・ソムニ感染症 ⑫ 42 牛大腸菌症 ⑬ 24 サルモネラ症 ⑭ 45 牛マイコプラズマ肺炎 ⑮ 40 牛クロストリジウム・パーフリンゲンス感染症(旧 牛壊死性腸炎) ⑯ 43 牛パスツレラ(マンヘミア)症
○ 病原体:牛アデノウイルスA, B, C, D, F;Bovine adenovirus A, B, C, D, F、牛アデノウイルス1, 2, 3, 5, 7, 10型;Bovine adenovirus - 1, 2, 3, 5, 7, 10 [Mastadenovirus, Atadenovirus, Adenoviridae]
(1) 疫学調査
① 年間を通じて発生するが飼養環境の変化、長
距離輸送、放牧等の直後に好発する。 ② 子牛では発症率が高く、症状も重い。 ③ 死亡率は低い(1%以下)。
(2) 臨床検査
① 発熱(一般に 7 型は稽留熱、他は一過性熱) ② 一般症状の悪化 ③ 結膜炎または流涙 ④ 発咳、鼻漏、呼吸促迫、乾性ラッセル ⑤ 下痢(7型では発熱の末期から下熱後にかけ激し
い粘液および血液が混じり悪臭を伴うことがあ
る。)
(3) 剖 検
① 呼吸器系への単独感染の場合、病変は軽微で
ある。小葉性または斑状の無気、赤色化病変が
散見される。 ② 消化器系への感染では、第一~四胃のび爛、
潰瘍。小腸では病変に個体差があり、管壁の軽
度拡張と弛緩~び漫性の壊死と、偽膜形成。子
牛では病変は空回腸、特にパイエル板に主座。
肥育牛では結腸に主座 ③ 角結膜炎がみられることがある。
(4) 血液検査
一過性の白血球の減少。
(5) 抗体検査(HI 反応、中和反応)
ペア血清について実施 HI 反応は、1、2、7 型について実施
(6) 蛍光抗体検査
鼻腔ぬぐい液の直接塗抹標本あるいは、肺、腸
病変部または付属リンパ節の凍結切片標本を蛍光
染色して鏡検する。 特異蛍光を呈した細胞がみられたものを陽性とす
る。
(7) P C R 1)
病変部より作製した乳剤や分離ウイルスまたはウイ
ルス接種した細胞より DNA を抽出し、PCR を行う。
(8) ウイルス培養試験(培養細胞接種試験)
使用細胞:牛腎細胞・MDBK 細胞(1、2、3 型等)、
牛精巣細胞(4、5、6、7 型等) 接種材料:血液、鼻腔ぬぐい液、糞便、肺、脾臓、
腎臓、リンパ節、小腸内容物 培養方法:34℃または 37℃で回転培養 成績:CPE の確認 判定:1、2、7 型については培養液の HA の確認
培養細胞中の核内封入体の確認 蛍光抗体染色による培養細胞中の特異蛍光
細胞の確認 交差 HI 試験または交差中和試験
107
(9) 病理組織検査
① 呼吸器系への単独感染では、気道上皮細胞に
おける好塩基性ないし両染性核内封入体形成
を特徴とする軽度の気管支間質性肺炎 ② 消化器系への感染では、粘膜固有層および粘
膜下織の血管内皮細胞における好塩基性ない
し両染性核内封入体形成を特徴とする、粘膜
の水腫、虚血性壊死、線維素性炎。血管内皮
細胞における核内封入体形成は、副腎、腸間
膜リンパ節、肝臓、脾臓、腎糸球体および尿細
管間質でもみられる。
③ 透過型電子顕微鏡検査で封入体に一致してア
デノウイルス粒子が確認でき、確定診断可
(参考文献) 1) Maluquer de Motes, C., et al.: Appl. Environ.
Miocrobiol. 70, 1448-1454 (2004).
108
32 牛コロナウイルス病
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 最終判定は、抗体検査、PCR、免疫組織化学検査を実施し、総合的に判断する。
その他
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(4) 抗体検査
(9) 病理組織 検査
(7) ウイルス培養試験
(5) P C R (8) 蛍光抗体 検査
(10) 免疫組織 化学検査
(6) 電子顕微 鏡検査
(死亡牛、鑑定殺牛)
(ペア血清)
<培養細胞 接種試験>
<HI 反応> <中和反応>
(糞便、鼻汁)
(+) (-) (+) (-) (+) (-) (+) (-)
(小腸、大腸)
(+) (-) (+) (-) (+) (-) (+) (-)
(腸内容)
109
→類似疾病検査
① 35 牛ロタウイルス病 ② 31 牛アデノウイルス病 ③ 牛パルボウイルス病 ④ 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ⑤ 牛トロウイルス病 ⑥ 42 牛大腸菌症 ⑦ 24 サルモネラ症 ⑧ 60 クリプトスポリジウム症 ⑨ 61 牛コクシジウム病
○ 病原体:牛コロナウイルス;Bovine coronavirus [Bovine coronavirus 1 , Betacoronavirus, Coronaviridae]
(1) 疫学調査
(子牛) ① 年間を通じて発生するが、寒冷期に好発する。 ② 新生子牛(出産直後~2 週齢)に多発する。 ③ 常在化の傾向にある。 (成牛) ① 冬期に好発する。 ② 舎飼の搾乳牛に好発する。 ③ 急激な気温の低下または著しい日較差等ストレ
ス感作があったときに好発する。 ④ 牛群内で急速にまん延(発病率 50~100%)
する。 ⑤ 死亡率は低い(0~2%)。
(2) 臨床検査
(子牛) ① 乳白色~黄色の水様下痢 ② 発熱 ③ 一般症状の悪化 ④ 脱水(眼球陥没、四肢末端温度の低下) ⑤ 鼻汁漏出、発咳(呼吸器症状のみの場合もあ
る。) ⑥ 重症では脱水症状で死亡 (成牛) ① 淡褐色~暗緑色の水様下痢、発病牛の 5~
10%は血便を排出(冬季赤痢) ② 搾乳牛は急激な産乳量の低下 ③ 発熱 ④ 鼻汁漏出、発咳(呼吸器症状のみの場合もあ
る。) ⑤ 下痢は短期間(2~3 日)で回復
(3) 剖 検
① 子牛では腸管内容物は黄色水様で、腸管壁は
菲薄化 ② 成牛では腸管壁(特に結腸)の浮腫と肥厚が認
められ、多くの例で腸管粘膜壁の頂部に添った
充出血が存在する。
(4) 抗体検査(HI反応、中和反応)
ペア血清について実施。ただし初乳を摂取した
子牛は抗体上昇が認められない例が多い。
(5) P C R 1), 2)
下痢便または鼻腔ぬぐい液から抽出した RNA を
用いてウイルス遺伝子を検出する。
(6) 電子顕微鏡検査
下痢便または腸内容物乳剤遠心上清、またはこ
れらを超遠心で濃縮した材料を陰性染色してウイル
ス粒子を観察する。同定は免疫電子顕微鏡法で行
う。
(7) ウイルス培養試験(培養細胞接種試験)
使用細胞:HRT-18 細胞 接種材料:下痢便、腸内容物乳剤遠心上清または
鼻腔ぬぐい液 培養方法:1µg/ml のトリプシン加培養液により
37℃で培養 成績:CPE の確認 判定:培養細胞中の特異蛍光抗原の確認
HI 試験 中和試験
110
(8) 蛍光抗体検査
小腸および大腸の凍結切片標本またはこれら粘
膜の直接塗抹標本を蛍光染色して鏡検する。特異
蛍光を呈した細胞がみられたものを陽性とする。
(9) 病理組織検査
① 子牛では小腸絨毛の萎縮、融合。絨毛上皮細
胞の立方化、扁平化、剥離。結腸表層上皮の
扁平化、剥離 ② 成牛では結腸の陰窩上皮の壊死と剝離
(10) 免疫組織化学検査
病変部でウイルス抗原を検出する。
(参考文献) ・Mebus, C.A. In : Virus Infections of Ruminants (Dinter, Z. & Morein, B. eds.). 297-300, Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam (1990).
・Espinasse, J., et al. In : Virus Infections of Ruminants (Dinter,Z. & Morein, B. eds.). 301-307, Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam (1990).
・Clark, M.A.: Br. Vet. J. 149, 51-70 (1993). 1) Tsunemitsu, H., et al.: Arch. Virol. 144,
167-175 (1999). 2) Takiuchi, E., et al.: J. Virol. Method 131,
148-154 (2006).
111
33 牛パラインフルエンザ
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、ウイルス培養試験、抗体検査、病理組織検査等の結果に
より総合的に判断する。
その他
(死亡牛)
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(鼻腔ぬぐい液)
<HI 反応> <中和反応>
(ペア血清)
<培養細胞接種試験>
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(臓器乳剤、
肺病変部)
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 抗 体 検 査
(9) 病 理 組 織 検 査
(7) P C R
(8) ウイルス培養試験
(4) 血 液 検 査
(10) 免疫組織化学検査
(6) 蛍 光 抗 体 検 査
112
→類似疾病検査
① 15 牛伝染性鼻気管炎 ② 30 牛 RS ウイルス病 ③ 31 牛アデノウイルス病 ④ 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ⑤ 34 牛ライノウイルス病 ⑥ 牛レオウイルス病 ⑦ 20 牛流行熱 ⑧ 18 イバラキ病 ⑨ 58 牛クラミジア症 ⑩ 43 牛パスツレラ症 ⑪ 50 ヒストフィルス・ソムニ感染症 ⑫ 45 牛マイコプラズマ肺炎
○ 病原体:牛パラインフルエンザウイルス3型;Bovine parainfluenza virus 3 [Bovine parainfluenza virus 3, Respirovirus, Paramyxovirinae, Paramyxoviridae]
(1) 疫学調査
① 年間を通じて発生するが、輸送あるいは放牧の
直後に多発する。 ② 鼻汁や呼吸器飛沫を介して水平伝播するため、
同居感染が起こる。 ③ 地域、季節、年齢に関係なく発生する。 ④ 他の疾病との混合感染が多い。 ⑤ 単独感染での死亡率はきわめて低い(1%以
下)。
(2) 臨床検査
① 一過性の発熱(成牛で高熱を発する例が多
い。) ② 水様性の鼻汁漏出 ③ 乾性の発咳、呼吸促迫、粗れいの肺胞音 ④ 一般症状の悪化 ⑤ 軽度の流涙、流涎 ⑥ 希に下痢、流産
(3) 剖 検
① 肺において小葉性無気あるいは肝変化病巣の
散在。気管および気管支内に漿液貯留 ② 気管支リンパ節の腫大
(4) 血液検査
一過性の白血球数の減少
(5) 抗体検査(HI 反応または中和反応)
① ペア血清について実施 ② 2-ME 感受性抗体の確認
(6) 蛍光抗体検査
鼻腔ぬぐい液の直接塗抹標本または肺病変部の
凍結切片標本を蛍光染色して鏡検する。 特異蛍光を呈した細胞がみられたものを陽性とす
る。
(7) P C R 1)
臓器乳剤、鼻腔ぬぐい液から RNA を抽出し、
RT-PCR により BPIV-3 遺伝子を検出する。
(8) ウイルス培養試験(培養細胞接種試験)
使用細胞:牛腎細胞、MDBK細胞またはVero細胞 接種材料:鼻腔ぬぐい液、気管粘膜、肺病変部、付
属リンパ節 培養方法:34℃または37℃で静置または回転培養 成績:CPE の確認 同定:培養液の HA の確認
培養細胞中の核内または細胞質内封入体の
確認 培養細胞中の特異蛍光細胞の確認 交差 HI 試験または交差中和試験
(9) 病理組織検査
主病変は気管支炎、細気管支炎~気管支間質
性炎であり、急性期には上皮細胞に好酸性細胞質
内封入体を認める。肺胞に上皮性合胞体性巨細胞
を認めることがあるが、その出現頻度は RS ウイルス
病に比べ低い。
(10) 免疫組織化学検査
病変部におけるウイルス抗原の検出
113
(参考文献) ・Assaf, R., et al.: Can. J. Comp. Med. 47, 140- 142 (1983).
・徳久修一: 牛病学(清水高正ら編)、第 2 版. 251- 252、近代出版、東京 (1988).
1) Kirisawa, R., et al.: J. Rakuno Gakuen Univ. 19, 225-237 (1994).
114
34 牛ライノウイルス病
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 抗体検査と併行してできる限りウイルス培養試験を実施し、総合的に判断する。
その他
(死亡牛)
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(鼻腔ぬぐい液)
<中和反応>
(ペア血清)
<培養細胞接種試験>
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(鼻腔ぬぐい液)
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 抗 体 検 査
(8) 病 理 組 織 検 査
(7) ウイルス培養試験
(4) 血 液 検 査
(6) 蛍 光 抗 体 検 査
115
→類似疾病検査
① 牛レオウイルス病 ② 33 牛パラインフルエンザ ③ 15 牛伝染性鼻気管炎 ④ 30 牛 RS ウイルス病 ⑤ 31 牛アデノウイルス病 ⑥ 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ⑦ 20 牛流行熱 ⑧ 18 イバラキ病 ⑨ 58 牛クラミジア症 ⑩ 43 牛パスツレラ症 ⑪ 50 ヒストフィルス・ソムニ感染症
○ 病原体 :牛鼻炎Aウイルス ;Bovine rhinitis A virus [Bovine rhinitis A virus, Aphtovirus, Picornaviridae ]、牛鼻炎Bウイルス;Bovine rhinitis B virus [Bovine rhinitis B virus, Aphtovirus, Picornaviridae]
(1) 疫学調査
① 集合、輸送等の後に好発する。 ② 若齢牛に好発する。 ③ 混合感染例が多い。 ④ 単独感染による死亡は希
(2) 臨床検査
① 軽度の発熱 ② 一般症状の悪化 ③ 水様性鼻汁の漏出 ④ 発咳 ⑤ 呼吸促迫、呼吸困難
(3) 剖 検
① 鼻甲介、気管の充血 ② 肺に小葉性無気あるいは肝変化巣が散在
(4) 血液検査
一過性の白血球数の減少
(5) 抗体検査(中和反応)
ペア血清について実施
(6) 蛍光抗体検査
鼻腔ぬぐい液の直接塗抹標本を蛍光抗体染色し
て鏡検する。 特異蛍光を呈した細胞がみられたものを陽性とす
る。
(7) ウイルス培養試験(培養細胞接種試験)
使用細胞:牛腎細胞または MDBK 細胞 接種材料:鼻腔ぬぐい液 培養方法:33℃で回転培養 成績:CPE の確認 同定:蛍光抗体染色し、培養細胞中の特異蛍光細
胞の確認。交差中和試験
(8) 病理組織検査
① 鼻炎、気管炎 ② ときに軽度の気管支間質性肺炎
116
35 牛ロタウイルス病
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、簡易ウイルス検査、PCR等の結果を併せて総合的に判断
する。
その他 不顕性感染や混合感染もときに認められるため、判定には他の病原体検査成績も考慮する必
要がある。
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) RNA-PAGE 分析
(9) 病理組織検査 (8) 蛍光抗体検査
(7) ウイルス 培養試験
(10) 免疫組織 化学検査
(6) P C R
(4) 簡易ウイルス検査
(死亡牛)
(糞便)
(+) (+) (-) (+) (-) (+) (-)
(腸内容)
<イムノクロマト> <ラテックス凝集反応> <ELISA>
(小腸)
<培養細胞接種試験>
(+) (+) (-) (+) (-) (+) (-)
(+) (-)
117
→類似疾病検査
① 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ② 24 サルモネラ症 ③ 31 牛アデノウイルス病 ④ 32 牛コロナウイルス病 ⑤ 牛トロウイルス病 ⑥ 42 牛大腸菌症 ⑦ 60 クリプトスポリジウム症 ⑧ 61 牛コクシジウム病
○ 病原体:A群ロタウイルス;Rotavirus A [Rotavirus A, Rotavirus, Reoviridae ]、B群ロタウイルス;
Rotavirus B [Rotavirus B, Rotavirus, Reoviridae ] 、 C 群ロタウイルス;Rotavirus C [Rotavirus C, Rotavirus, Reoviridae]
(1) 疫学調査
① 年間を通じて発生 ② 新生子牛(出生直後~2 週齢)に好発(A 群ロタ
ウイルス病) ③ 新生子牛でのA群ロタウイルス病の発病率は高
く、死亡率は 0 ~50% ④ B 群および C 群ロタウイルス病は成牛、特に搾
乳牛の集団下痢として確認
(2) 臨床検査
① 突然の激しい水様下痢、黄色、淡黄緑色、乳黄
色下痢便(新生子牛) ② ときに発熱(新生子牛) ③ 脱水(眼球陥没、四肢末端温度の低下)、ときに
起立困難(新生子牛) ④ 搾乳牛が一斉に泥状~水様下痢、泌乳量減少
(B 群および C 群ロタウイルス病)
(3) 剖 検
① 小腸粘膜の菲薄化と絨毛の萎縮 ② リンパ節の腫大
(4) 簡易ウイルス検査(イムノクロマト、ラテックス
凝集反応、ELISA)
下痢便または腸内容物を用いてイムノクロマト、ラ
テックス凝集反応、ELISA など(A 群ロタウイルスの
み人A群ロタウイルス検出用キットが利用可能)によ
り実施する。
(5) RNA-PAGE分析
下痢便または腸内容物から抽出したRNAを用い
てポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)と銀染色
を実施し、ロタウイルスに特徴的な 11 本の RNA 分
節を確認する。PAGE パターンからロタウイルスの
群別も可能である。
(6) P C R
RT-PCR 1) - 4) による検査も有用である。
(7) ウイルス培養試験(培養細胞接種試験)
使用細胞:MA104 細胞 接種材料:10µg/mlのトリプシンで37℃、30分処理
した下痢便または腸内容物乳剤遠心上清 培養方法:1µg/mlのトリプシン加培養液により 37℃
で回転培養 成績:CPE の確認 同定:培養細胞中の特異抗原の確認 (A 群ロタウイルス以外のウイルス分離は困難)
(8) 蛍光抗体検査
小腸の凍結切片標本または小腸粘膜の直接塗
抹標本を蛍光染色し、特異蛍光を呈する細胞がみ
られたものを陽性とする。
(9) 病理組織検査
① 小腸絨毛の萎縮、融合。絨毛上皮細胞の立方
化、扁平化、剥離 ② 牛コロナウイルス病と異なり、結腸には病変がな
い。
(10) 免疫組織化学検査
病変部にウイルス抗原を検出する。
118
(参考文献) 1) Chinsangaram, J., et al.: J. Vet. Diagn. Invest.
6, 302-307 (1994). 2) Fukuda, M., et al.: Arch. Virol. 157, 1063-1069
(2012). 3) Gouvea, V., et al.: J. Clin. Microbiol. 28, 276-
282 (1990). 4) Tsunemitsu, H., et al.: Arch. Virol. 141, 705-
713 (1996).
119
36 牛 乳 頭 腫
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、病理組織検査、免疫組織化学検査およびPCRにより総合
的に判断する。
その他
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(4) P C R
(3) 剖 検
(5) 病 理 組 織 検 査
(6) 免疫組織化学検査
(死亡牛)
(+) (-) (+) (-)
(皮膚病変部)
(+) (-) (+) (-)
120
→類似疾病検査
① 19 牛丘疹性口炎(偽牛痘) ② 37 牛乳頭炎ウイルス病 ③ 牛痘 ④ 海12 ランピースキン病 ⑤ 海2 口蹄疫 ⑥ 海5 水胞性口炎 ⑦ 海1 牛疫 ⑧ 壊疽性乳房炎 ⑨ 51 放線菌症 ⑩ 54 趾皮膚炎 ⑪ 39 牛アクチノバチルス症 ⑫ 53 デルマトフィルス症 ⑬ 55 皮膚糸状菌症
○ 病原体:牛パピローマウイルス;Bovine papillomavirus 1, 2, 13 [Deltapapillomavirus, Papilloma- viridae]、Bovine papillomavirus 5, 8 [Epsilonpapillomavirus, Papillomaviridae]、Bovine papillomavirus 3, 4, 6, 9, 10, 11, 12 [Xipapillomavirus, Papillomaviridae ]、Bovine papillomavirus 7 [Unclassified genus, Papillomaviridae] 1)
(1) 疫学調査
① 若齢牛(1~2 歳齢)に好発する。 ② 自然治癒することが多い。
(2) 臨床検査
① 頭部や頸部など体表皮膚には、カリフラワー状
の外観を呈する線維性乳頭腫が好発する。 ② 体表皮膚に形成される乳頭腫は、全身症状を
示さない。 ③ 乳頭皮膚には、米粒状、シダの葉状、カリフラワ
ー状など様々な外観を呈する上皮性乳頭腫や
線維性乳頭腫が発生する。 ④ 膀胱に腫瘍が形成された場合、血尿を排出し、
貧血によって死亡することがある。
(3) 剖 検
口蓋、咽頭、第一胃、第二胃など上部消化器や
膀胱の粘膜に腫瘍が認められる。しばしば悪性化し、
扁平上皮癌へと進行する。膀胱の腫瘍には、腎臓
の腫大、出血、腎盂の拡張などの所見を伴うことが
多い 2)。
(4) P C R 3), 4), 5)
病変部組織から DNA を抽出し、ウイルス粒子主
要外殻蛋白遺伝子を PCR によって増幅する。 PCRによる遺伝子増幅産物の塩基配列を決定し、
既知BPVとの相同性検索によって遺伝子型の判別
を行う。
(5) 病理組織検査
① 線維性乳頭腫では、有棘細胞層の肥厚、過角
化症。真皮における線維性組織の増殖 ② 上皮性乳頭腫では、有棘細胞層の肥厚、過角
化症 ③ 有棘層細胞や顆粒層細胞に単染性の好塩基
性核内封入体を形成 ④ 病変部組織を透過型電子顕微鏡で観察すると、
有棘層細胞や顆粒層細胞の核内にウイルス粒
子が認められる。
(6) 免疫組織化学検査
病変部の有棘層細胞や顆粒層細胞核内で牛パ
ピローマウイルス抗原を検出
(参考文献) 1) de Villiers, E.M., et al.: Virology 324, 17-27
(2004). 2) Hatama, S., et al.: Vet. Microbiol. 136, 347-
351 (2009). 3) Campo, M.S.: Virus Res. 89, 249-261 (2002). 4) Campo, M.S.: Vet. J. 154, 175-188 (1997). 5) Maeda, Y., et al.: Vet. Microbiol. 121, 242-248
(2007).
121
37 牛乳頭炎ウイルス病 (牛潰瘍性乳頭炎)
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、ウイルス培養試験、病理組織検査および抗体検査の結果
により総合的に判断する。
その他
(死亡牛)
(病変部組織)
(ペア血清)
(病変部組織、
水疱液、白血球)
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
<中和反応> <蛍光抗体法>
<培養細胞接種試験>
(+) (-) (+) (-) (+) (-)
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(4) 抗 体 検 査
(7) 病理組織検査
(5) P C R
(6) ウイルス培養試験
122
→類似疾病検査
① 海2 口蹄疫 ② 海5 水胞性口炎 ③ 牛痘 ④ 19 牛丘疹性口炎(偽牛痘) ⑤ 海12 ランピースキン病 ⑥ ワクシニアウイルス感染による水疱形成 ⑦ 36 牛乳頭腫
○ 病原体:牛乳頭炎ウイルス;Bovine mamillitis virus [Bovine herpesvirus 2, Simplexvirus , Herpes- viridae]
(1) 疫学調査
① 急速に牛群内に伝播し、不顕性感染する。 ② 若齢牛や妊娠牛(特に初産牛)で症状を示すこ
とが多い。 ③ 乳頭病変部からの滲出液は高感染価のウイル
スを含むため、搾乳機を介しての伝播が主体。
海外では、吸血昆虫の媒介も疑われている。 ④ 抗体陽性率の割合は低く、限局的である。
(2) 臨床検査
① 乳頭に水疱形成(希)。重傷では乳房広範囲に
及び、水疱や潰瘍を形成する。搾乳時の疼痛 ② 授乳中の子牛では口腔粘膜の紅斑、口唇・鼻
腔・鼻鏡の潰瘍形成
(3) 剖 検
食道、第一胃、第三胃の粘膜表面に丘疹が生じ
ることがある。
(4) 抗体検査(中和反応、蛍光抗体法)
BoHV-2 (Minnesota株)を用いてペア血清につ
いて中和試験、蛍光抗体法を実施する。
(5) P C R 1), 2)
病変組織または白血球より DNA を抽出し、PCRを行う。
(6) ウイルス培養試験(培養細胞接種試験)
培養細胞:牛胎子初代培養細胞(筋肉、精巣等) 2 ~3 代盲継代
接種材料:発病初期の病変組織乳剤、水疱液 培養方法:37℃培養 成績:CPE の確認 同定:寒天ゲル内沈降反応により感染細胞乳剤中
のウイルス抗原を検出 培養細胞中のシンシチウムおよび細胞質核
内封入体の確認 蛍光抗体染色で培養細胞中の特異蛍光が確
認できる。 電子顕微鏡により感染細胞中にウイルス粒子
を確認できる。
(7) 病理組織検査
① 好酸性核内封入体を有する上皮性合胞体の形
成が特徴病変である。ただし、肉眼病変出現 6日以降は検出困難である。
② 病変部組織の透過型電子顕微鏡観察でウイル
ス粒子が確認できる。
(参考文献) ・猪島康雄ら: 動衛研研究報告. 108、23-32 (2002). 1) Imai, K.., et al.: J. Vet. Med. Sci. 64, 953-956
(2002). 2) d'Offay, J.M., et al.: J. Am. Vet. Med. Assoc.
222, 1366-1367, 1404-1407 (2003).
123
38 悪 性 水 腫
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、細菌検査、必要に応じてPCR、蛍光抗体検査の結果を併
せて総合的に判断する。
その他
1. 類似疾病を疑う場合でも死体検査、疫学調査、臨床検査、簡易細菌検査(直接鏡検)は必
ず実施する。 2. 蛍光抗体は外国製品を試薬として入手できる。診断薬でないので結果は補助的に活用す
る。また、実施には、必ず陽性参照菌株を用いる。
(4) 簡易細菌検査
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 蛍光抗体検査
(6) 細菌培養試験
(9) 動物接種試験
(7) 細菌性状分析
(8) P C R
<直接鏡検>
(死亡牛)
(腐敗材料)
(+) (-) (+) (-)
(患部の筋肉、
体表リンパ節、
主要臓器病変等)
<分離培養>
(+) (-) (+) (-)
(末梢血、頸静脈血)
<死体検査>
124
→類似疾病検査
① 22 気腫疽 ② 40 牛クロストリジウム・パーフリンゲンス感染症 ③ 2 炭疽 ④ 急性鼓脹症 ⑤ 177 硝酸塩中毒 ⑥ 50 ヒストフィルス・ソムニ感染症
○ 病原体:Clostridium septicum、C. sordellii、C. perfringens、C. novyi
(1) 疫学調査
① 類似疾病予防接種歴(クロストリジウム混合、気
腫疽、炭疽) ② 周辺地域、施設内での過去における発生状況 ③ 最近、創傷または外科的処置の有無 ④ 産褥感染の可能性 ⑤ 最近、畜舎内外の土砂の移動・掘り起こし ⑥ 経過が甚急性または急性 ⑦ 年齢を問わず発生
(2) 臨床検査
① 広範囲の皮下の浮腫(発現部位は一定しない。) ② 感染局所は暗赤色腫脹、ときに創傷部からの悪
臭のある漿液の流出 ③ 跛行、運動障害 ④ 発熱 ⑤ 呼吸困難
(3) 剖 検
(死体検査) ① 皮下織の浮腫 ② 希に天然孔の出血 (剖検) ① 創傷、腫脹部の腐敗臭 ② 皮下織、脂肪組織内に血様滲出液(蜂巣織炎) ③ 筋間結合織の水腫、軽度の気泡形成 ④ 肺のうっ血および水腫、腹水の貯留 ⑤ 敗血症例では全身性の出血 ⑥ 剖検所見は起因菌によって異なる。C. septicum
では血様の膠様浸出液の産生が強く、筋組織
は暗赤黒色に変色することもある。ガス産生は
あるが気泡形成は少ない。C. novyi では膠様
の漿液浸潤が強い。
(4) 簡易細菌検査(直接鏡検)
① 病患部(皮下)、体表リンパ節、末梢血、肝臓、
脾臓等の直接塗抹標本のレビーゲル染色また
はギムザ染色により次のような菌を確認する。 ・C. septicum :長連鎖 ・C. sordellii :短冊形、大桿菌、芽胞形成して
いるものが多い。 ・C. perfringens :両端鈍円、短冊形、大桿菌、
莢膜(+) ・C. novyi :鈍端、直大桿菌 上記の菌が単一または混在して見い出される。
② 菌種と菌数を推定し、細菌検査(分離培養)の
参考にする。
(5) 蛍光抗体検査
C. septicum、C. sordellii、C. novyi の蛍光抗体
(外国製品)が試薬として入手でき、分離菌の簡易同
定等に利用できる。診断薬ではないこと、C. perf- ringens に対する蛍光抗体が無いことから、悪性水
腫の診断としては補助的である。また、対照として必
ず参照菌株を同時に染色することが重要である。
(6) 細菌培養試験(分離培養)
① 病変部、体表リンパ節、肝臓、脾臓を、ツアイス
ラー血液寒天培地またはGAM寒天培地等を用
いて定量的に分離培養する。 嫌気ジャー法で37℃、12~24時間培養をする。
発育がみられない場合、72 時間まで培養を続
ける。 ② いずれの培地においても次のような集落を形成
・C. septicum :灰白、半透明、周縁根足状、や
や隆起 ・C. sordellii :扁平、塗抹線上に根足状に発育 ・C. perfringens :隆起した乳白色、正円形 ・C. novyi :周縁根足状
125
(7) 細菌性状分析
“分離菌の性状” 参照
(8) P C R
C. septicum、C. sordellii、C. novyi は、同定
用 PCR(マルチプレックス)が開発されている 1)。
(9) 動物接種試験
重度の雑菌汚染が予想される場合などに有効。 材料:病変部組織等の乳剤(5~10 倍) 方法:1検体につき 2匹以上のマウスまたはモルモッ
トを使用。大腿部筋肉内に 0.1~0.5ml 接種
なお、接種 1時間前にCaCl 2水溶液(モルモ
ットで 2 %液、0.5ml、マウスで 3 %液、
0.1ml)を同接種部位に筋肉内接種しておく。 成績:死亡までの日数、注射局所の変化は異なる。 同定:心血または実質臓器を材料として分離・培養
するとともに肝表面のスタンプ標本をグラム染
色、場合により市販の蛍光抗体を補助的に活
用 C. septicum は長連鎖が特徴
(参考文献) 1) Sasaki, Y., et al.: Vet. Microbiol. 86, 257-267
(2002).
(分離菌の性状)
菌 種
糖 ゼラチン
牛
乳
凝固血清
レシチナーゼ
リパーゼ
発酵生産物
備
考
ブドウ糖
麦芽糖
乳
糖 白
糖 サリシン
C. chauvoei + + + + - + C, - - - - B, A
C. septicum + + + - + + C, sf - - - B, A
C. novyi A + + - - - + C - + + P, B, A
B + + - - - + d + + - P, B, A インドール+
D + - - - - + - - + - P, B, A インドール+
C. sordellii + + - - - + d + + - A, iC, iB, iV ウレアーゼ+ インドール+
C. perfringens (A-E) + + + + - + sf - + - B, A, L 運 動 性 -
C:凝固、d:消化、sf:stormy fermentation A:酢酸、B:酪酸、P:プロピオン酸、iC:イソカプロン酸、iB:イソ酪酸、iV:イソ吉草酸、L:乳酸
126
39 牛アクチノバチルス症
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、剖検、細菌培養試験、簡易細菌検査、病理組織検査等の
結果を併せて総合的に判断する。
その他
<直接鏡検>
(死亡牛、鑑定殺牛)
(+) (-) (+) (-)
<分離培養>
(+) (-) (+) (-)
(膿瘍)
(8) 免疫組織化学検査
(4) 簡易細菌検査
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 細菌培養試験
(7) 病理組織検査
(6) 細菌性状分析
127
→類似疾病検査
① 51 放線菌症 ② 牛トゥルエペレラ(アルカノバクテリウム)・ピオゲネス感染症 ③ 緑膿菌または黄色ブドウ球菌による肉芽腫
○ 病原体:Actinobacillus lignieresii
(1) 疫学調査
① 粗剛な茎・枝や尖鋭な種子・モミガラ等の飼料
を給与している。 ② 散発的に発生をするが、集団的発生もみられ
る。 ③ 年齢、系統による発生の差はない。 ④ 発生に季節的な差はない。 ⑤ 感染はリンパ流を通じて隣接または他のリンパ
節に広がる。
(2) 臨床検査
① 通常頭頸部皮下、あるいはリンパ節、口腔に腫
瘤を形成 ② 病巣の自潰、瘻管形成、膿汁の排出 ③ 口腔、上部気道の腫瘤による呼吸困難、喘鳴 ④ 舌が侵されると木舌を呈し、嚥下困難
(3) 剖 検
① 病変は軟部組織、特に舌、口腔および食道粘
膜、咽喉頭リンパ節、下顎リンパ節に好発する
が、その他の頭頚部軟部組織、肺にみられるこ
ともある。 ② 舌では増殖した線維性結合組織内に直径数
mmから1 cmの堅く、線維性の結節性病巣(膿
瘍)がみられ、中心部に微細な黄色の硫黄顆粒
が観察される。 ③ リンパ節では通常 1~数 cm 径の肉芽腫病変
(膿瘍)がみられ、被包化や中心部の硫黄顆粒
を伴うことがある。
(4) 簡易細菌検査(直接鏡検)
① 膿瘍を10%KOH溶液でほぐし、膿瘍中の硫黄
顆粒を取り出し、スライドグラス上で圧片して無
染色で鏡検し菊花状のロゼット菌塊を確認す
る。 ② 硫黄顆粒の直接塗抹標本のグラム染色によりグ
ラム陰性桿菌を確認する。
(5) 細菌培養試験(分離培養)
① 膿瘍の乳剤を使用し、めん羊または牛血液寒
天培地を用いて 37℃で 48 時間好気性培養を
行う。 ② 微小の半透明粘稠のある集落を形成する。
(6) 細菌性状分析
グラム染色(-)、長短桿菌、カタラーゼ(弱+)、
オキシダーゼ(+)、ウレアーゼ(+)、硝酸塩還元
(+)、運動性(-)、溶血性(-)
(7) 病理組織検査
① 多発性の化膿性肉芽腫を形成する。 ② 化膿性肉芽腫中心部には放射状の棍棒体
(Splendore-Hoeppli 物質)に囲まれたグラム
陰性の短桿菌が認められる。 ③ 木舌を呈した舌では、筋線維を置換する広範な
結合織増殖が認められる。
(8) 免疫組織化学検査
病変部に細菌抗原を検出する。
128
40 牛クロストリジウム・パーフリンゲンス感染症 (旧 牛壊死性腸炎)
担当 検 査 チ ャ ー ト
家
畜
保
健
衛
生
所
病
性
鑑
定
施
設
判定・
結果
最終
判定 疫学調査、臨床検査の結果を基に、簡易細菌検査、細菌培養試験、病理組織検査等の結果を
併せて総合的に判断する。
その他
(4) 簡易細菌検査
(2) 臨 床 検 査 (1) 疫 学 調 査
(3) 剖 検
(5) 細菌培養試験
(8) 病理組織検査
(6) 毒 素 検 査
(7) P C R
(十二指腸または
空腸上部の
内容物)
<マウス接種法>
<毒素型別>
<直接鏡検>
(死亡牛、鑑定殺牛)
(+) (-) (+) (-)
<分離・定量>
(+) (-) (+) (-)
129
→類似疾病検査
① 2 炭疽 ② 22 気腫疽 ③ 38 悪性水腫 ④ 50 ヒストフィルス・ソムニ感染症 ⑤ 24 サルモネラ症 ⑥ 31 牛アデノウイルス病 ⑦ 14 牛ウイルス性下痢・粘膜病 ⑧ 61 牛コクシジウム病 ⑨ 中毒性腸炎
○ 病原体:Clostridium perfringens
(1) 疫学調査
① 散発的に発生、活力旺盛牛が突発的に発症 ② 肥育牛においては肥育末期に好発 ③ 飼料の過給または急変時に発症 ④ 常在化の傾向がある。 ⑤ 動物死体の埋却状況
(2) 臨床検査
① 天然孔の出血を伴う急死 ② 歩行拒否または苦悶、狂暴性等の症状を呈し、
黄褐色水様性下痢、緑褐色泥状便、血便等の
排泄または便秘
(3) 剖 検
① 血液凝固不良 ② 天然孔、皮下、筋肉、消化管の漿膜と粘膜、リ
ンパ節の充出血 ③ 心臓の混濁と心内膜の点状出血 ④ 肺のうっ血、水腫 ⑤ 肝臓の退色と充出血 ⑥ 腎臓の退色と包膜下の点状出血 ⑦ 小腸に血様内容物を入れる、空腸内容は泡沫
状である。 ⑧ 死後変化が急速に現れる。
(4) 簡易細菌検査(直接鏡検)
十二指腸または空腸上部の内容物の直接塗抹
標本のグラム染色またはギムザ染色により、多数の
グラム陽性大桿菌を確認する。
(5) 細菌培養試験(分離・定量)
① 小腸内容物を使用し、50%卵黄液を 10%加え
たカナマイシン加CW寒天培地を用いて定量培
養を行う。
37℃で 12~24 時間嫌気培養(ガスパック法
等)をする。 ② 乳光反応と培地の黄変を伴う乳白色の円形集
落を形成する。 ③ 10 4 ~ 5個 /g 以上検出された場合を陽性とする。 ④ 分離菌集落を複数分離し、市販の同定用キット
等で C. perfringens と同定する。
(6) 毒素検査(マウス接種法)
① 腸内容物および分離菌(10 株/1 材料)の毒素
検査を行う。 ② 分離菌はクックドミート培地等でよく発育した新
鮮培養菌を BHI ブロスまたは毒素検査用培地
に接種し、37℃で 12~18 時間培養をする。
BHI ブロスでの培養は嫌気下で、毒素検査用
培地での培養は好気下で行う。 ③ 腸内容上清あるいは培養上清を最低 2 匹のマ
ウスに 0.5ml ずつ尾静脈内に接種し、48 時間
以内の生死で判定する。 毒素検査用培地
3%プロテオースペプトンNo.3水(pH7.4) 10ml
クックドミート培地 (121℃で15分滅菌後、急冷) 1g
10%フラクトース水溶液(濾過滅菌)1mlを無菌的に加
える。
(7) P C R (毒素型別)
分離菌(10 株 /1 材料)について、PCR により毒
素型別を行う 1), 2), 3)。 (我が国のこれまでの症例は幼若牛を除き全て A
型によるものであるが、外国の例では C 型による子
牛の出血性壊死性腸炎がある。)
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(8) 病理組織検査
① 第四胃、小腸粘膜上皮の変性、壊死、脱落、大
桿菌の存在、粘膜固有層のび漫性出血、粘膜
下織の水腫 ② 肺のうっ血と水腫 ③ 腎皮質の出血、曲尿細管の壊死、髄質のうっ血、
間質の水腫と出血 その他: (参考)
C. perfringens による感染症は、壊死性腸炎やエ
ンテロトキセミアとも呼ばれ、めん羊の D 型菌によるエ
ンテロトキセミア、子豚のC型菌による(出血性)壊死性
腸炎、鶏のA型菌による壊死性腸炎などが知られてい
る。病原学的診断は共通である。
(参考文献) 1) Uzal, F.A., et al.: Lett. Appl. Microbiol. 25,
339-344 (1997). 2) Meer, R.R. & Songer, J.G.: Am. J. Vet. Res. 58,
702-705 (1997). 3) Baums, C.G., et al.: Vet. Microbiol. 100, 11-16
(2004).
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