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1 2.1.6HSI モデルのための衛星観測データベースの整備」 担当者:齊藤誠一 1 、桜井泰憲 1 John Bower 1 Robinson Mugo 1 、佐々木裕子 2 酒井光夫 3 、加藤慶樹 3 、南場隆也 3 実施機関: 1 北海道大学大学院水産科学研究院 2 北海道大学大学院水産科学院 3 独立行政法人水産総合研究センター国際水産資源研究所 a.要約 漁場探索・分布の推定に必要とされる主要な渦を解像し、かつ数日程度の予報時間スケールを持つ 超高分解能多重海洋ダウンスケーリングシミュレーションにより推定された海洋環境場において、各 格子点での対象魚種の資源分布を推定する HSI(好適生息域)モデルを開発するため、衛星画像処理 を行う計算機環境を整備して、HSI モデルの開発に用いるアカイカ漁に関する衛星観測データベース の整備を開始した。特に今年度は DMSP/OLS 夜間可視画像データベースに加えて海面温度画像、クロ ロフィル a 濃度画像、海面高度のデータベース整備をさらに進めた。また、超高分解能多重海洋ダウ ンスケーリングモデルと HSI モデルによる漁場形成探索・予測のために必要な情報収集のため、夜間 可視画像に関するセミナーの開催等を通じて、今後の衛星観測データベースの整備手法などについて 検討した。 b.研究目的 地球温暖化による気候変動や十年変動等に伴う生物激変に適応した漁業の実現にむけて、資源魚種 の漁場分布変化を適切に把握することが現場では求められている。そのためには海洋物理場から生態 系にわたる海洋環境の高分解能、高精度の診断・予測をもとに、資源魚種の生育環境等を考慮に入れ た漁場推定が必要である。本課題では北太平洋西部を広範囲に高精度で観測可能な人工衛星リモート センシングデータを収集し、 HSI モデルの開発および改良に資する衛星観測データベースを整備する。 c.研究計画・方法・スケジュール 地球温暖化等の気候変動下での漁場探索技術の確立に向けて、漁場探索・分布の推定に必要とされ る主要な渦を解像し、かつ数日程度の予報時間スケールを持つ超高分解能多重海洋ダウンスケーリン グシミュレーション技術の開発を行う。その際、観測データとの比較によってシミュレーション場を 効果的に改善する等の手法を開発し精度向上を図る。このようにして推定した海洋環境場において、 各格子点での対象魚種の環境への適性を判断することによってその資源分布を推定する HSI (好適生息 域)モデルを開発する。これらの技術開発の成果を組み合わせ、「21 世紀気候変動予測革新プログラム」 (以下、革新プログラム)等の温暖化予測結果をもとにして、気候変動影響下での対象魚種の漁場を 探索し、その分布変化を推定する。併せて、漁場予測情報の地域での実利用に向けて、診断・予測結 果の可視化手法およびユーザーフレンドリーな配信技術の開発を行う。本課題では、衛星画像処理を 行う計算機環境を整備して、HSI モデルの開発に用いるアカイカ漁に関する衛星観測データベースの 整備を行うとともに、海外調査や現地調査を通じて、統合ダウンスケーリングモデルと HSI モデルに よる漁場形成探索・予測のために必要な情報収集を行う。

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1

2.1.6「HSIモデルのための衛星観測データベースの整備」

担当者:齊藤誠一 1、桜井泰憲 1、John Bower1、Robinson Mugo1、佐々木裕子 2、

酒井光夫 3、加藤慶樹 3、南場隆也 3

実施機関:1 北海道大学大学院水産科学研究院 2 北海道大学大学院水産科学院 3 独立行政法人水産総合研究センター国際水産資源研究所

a.要約

漁場探索・分布の推定に必要とされる主要な渦を解像し、かつ数日程度の予報時間スケールを持つ

超高分解能多重海洋ダウンスケーリングシミュレーションにより推定された海洋環境場において、各

格子点での対象魚種の資源分布を推定する HSI(好適生息域)モデルを開発するため、衛星画像処理

を行う計算機環境を整備して、HSI モデルの開発に用いるアカイカ漁に関する衛星観測データベース

の整備を開始した。特に今年度は DMSP/OLS 夜間可視画像データベースに加えて海面温度画像、クロ

ロフィル a 濃度画像、海面高度のデータベース整備をさらに進めた。また、超高分解能多重海洋ダウ

ンスケーリングモデルと HSI モデルによる漁場形成探索・予測のために必要な情報収集のため、夜間

可視画像に関するセミナーの開催等を通じて、今後の衛星観測データベースの整備手法などについて

検討した。

b.研究目的

地球温暖化による気候変動や十年変動等に伴う生物激変に適応した漁業の実現にむけて、資源魚種

の漁場分布変化を適切に把握することが現場では求められている。そのためには海洋物理場から生態

系にわたる海洋環境の高分解能、高精度の診断・予測をもとに、資源魚種の生育環境等を考慮に入れ

た漁場推定が必要である。本課題では北太平洋西部を広範囲に高精度で観測可能な人工衛星リモート

センシングデータを収集し、HSI モデルの開発および改良に資する衛星観測データベースを整備する。

c.研究計画・方法・スケジュール

地球温暖化等の気候変動下での漁場探索技術の確立に向けて、漁場探索・分布の推定に必要とされ

る主要な渦を解像し、かつ数日程度の予報時間スケールを持つ超高分解能多重海洋ダウンスケーリン

グシミュレーション技術の開発を行う。その際、観測データとの比較によってシミュレーション場を

効果的に改善する等の手法を開発し精度向上を図る。このようにして推定した海洋環境場において、

各格子点での対象魚種の環境への適性を判断することによってその資源分布を推定する HSI(好適生息

域)モデルを開発する。これらの技術開発の成果を組み合わせ、「21 世紀気候変動予測革新プログラム」

(以下、革新プログラム)等の温暖化予測結果をもとにして、気候変動影響下での対象魚種の漁場を

探索し、その分布変化を推定する。併せて、漁場予測情報の地域での実利用に向けて、診断・予測結

果の可視化手法およびユーザーフレンドリーな配信技術の開発を行う。本課題では、衛星画像処理を

行う計算機環境を整備して、HSI モデルの開発に用いるアカイカ漁に関する衛星観測データベースの

整備を行うとともに、海外調査や現地調査を通じて、統合ダウンスケーリングモデルと HSI モデルに

よる漁場形成探索・予測のために必要な情報収集を行う。

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d.平成 23年度研究計画

衛星画像処理を行う計算機環境を整備して、HSI モデルの開発に用いるアカイカ漁に関する衛星観

測データベースの整備を継続する。本年度は、昨年度整備した DMSP/OLS 夜間可視画像データ

ベースに加えて、海面温度画像、クロロフィル a 濃度画像、海面高度の整備を中心に行う。2011

年から過去にさかのぼり月平均、8 日平均または 7 日平均のもの随時処理を開始し、試験船

データのある 1999 年まで平成 23 年度中に処理を終了する。

HSI モデルを開発する上でいか釣漁船の正確な操業位置情報を用いることは不可欠であるが、前出

項目「2.1.2 HSI モデル開発のための基礎データ収集・整備」で言及したように、漁獲成績報告にあ

る操業位置をそのまま使えない状況も発生している。このため、それを改善するための 1手段として、

イカ釣漁船の操業実態である操業漁船隻数や位置を DMSP 衛星によるいか釣漁船集魚灯から操業隻

数や位置を推定する必要がある。本年度は DMSP 衛星データからの隻数変換のプロセスを、高度な

技術や経験を必要とせず比較的安価な解析処理ソフトを用いて容易かつ汎用的に可能にするための情

報収集と初歩的な適用を試みる。

e.平成 23年度研究成果

1)DMSP/OLS 夜間可視、海面温度、クロロフィル a 濃度、海面高度画像データベース構築

本 研 究 で は 、 農 林 水 産 省 の 農 林 情 報 資 源 シ ス テ ム の デ ー タ ベ ー ス

(http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/menu_ja.html) から、DMSP/OLS 画像(Elvidge et al., 1999)を

検索してダウンロードし、漁船分布を抽出した。その抽出方法は、等緯度経度図法、1354 column×1670

line で、研究対象海域の範囲に切り出し、最近隣内挿法 (Nearest Neighbor) を用いて空間解像度 2.7 km

から 1.0 km にリサンプリングした。アカイカ漁船の灯りの閾値を、スルメイカ漁船で用いられる集魚

灯の総光力を考慮に入れて設定した(原ら、2004)。2011 年から過去にさかのぼり 2000 年まで処理を

終了した(表 1)。現時点で 920 シーンの画像がデータベース化されている。データベースの中から事

例を図 1 に示した。2002 年 1 月 12 日の 1 日後の 1 月 13 日、2 月 15 日から 1 日後の 2 月 16 日には漁

船分布が大きく変化する様子がわかり、ピンポイント漁場予測の検証には利用可能と思われる。

2011年 11月 8日から 11月 10日までDMSP/OLS夜間可視画像処理解析のエキスパートである Chris

Elvidge 氏(米国海洋大気庁(NOAA)・国立地球物理データセンター(NGDC))を招聘し、夜間可視画

像に関するセミナーを開催した。アカイカ漁場は今年度解析した三陸沖は 12 月から 3 月まで形成され

るが、夏季には日付変更線付近までの北太平洋の沖合いに漁場が形成される。しかし、この海域の夜

間可視画像は夏季のため日没時間が遅く、観測時に太陽光の影響を受けており、招聘した Chris Elvidge

氏の画像検索結果でも利用可能なシーンがあまりないことが判明した。

表 2 に衛星およびモデルによる海洋環境データベースの一覧を示した。1999 年~2009 年の 11 年間に

ついてデータ収集をおこない、EKE(渦運動エネルギー)については地衡流速から算出した。図 2 に

事例として、2000 年のクロロフィル a 濃度、海面水温、海面高度偏差、EKE の月平均画像に漁場位置

をオーバーレイしたものを示した。

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表1 DMSP/OLS 夜間可視画像データベース一覧(2000 年-2011 年)

YEAR NOV DEC JAN FEB MAR APR

2000 0 0 2 1 0 0

2001 0 0 34 48 0 0

2002 0 0 55 53 0 0

2003 0 2 26 40 0 0

2004 0 0 51 29 0 0

2005 0 0 59 43 0 0

2006 0 0 59 32 0 0

2007 0 0 26 21 0 0

2008 66 36 58 30 0 0

2009 26 13 38 12 0 0

2010 46 40 3 4 0 0

2011 0 0 41 26 0 0

TOTAL 138 91 452 339 0 0

表2 衛星(1-8)およびモデル(9-11)による海洋環境データベース一覧(1999 年-2009 年)

Dataset Source Spat. res. Tem. res. Status

1 SST OI NCDC 0.25 D,M done

2 CHLa MODIS 4 KM M done

3 K490 MODIS 4 KM M done

4 SSH AVISO 0.25 W,M done

5 SSHA AVISO 0.25 W,M done

6 Geostrophic currents (u, v) AVISO 0.25 W,M done

7 EKE CALCULATED 0.25 W,M done

8 Wind speed RSS 0.25 M done

9 MLD JAMSTEC 0.25 M done

10 T_55 JAMSTEC 0.25 M done

11 T_105 JAMSTEC 0.25 M done

D:日単位、W:週単位、M:月単位

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図 1 DMSP/OLS 夜間可視画像(2002 年 2 月 15 日、2 月 16 日、1 月 12 日、1 月 13 日)

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図 2(1) クロロフィル a 濃度画像(2000 年月平均値)。漁獲位置をオーバーレイした。

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図 2(2) 海面温度画像(2000 年月平均値)。漁獲位置をオーバーレイした。

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図 2(3) 海面高度偏差画像(2000年月平均値)。漁獲位置をオーバーレイした。

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図 2(4) 渦運動エネルギー分布画像(2000 年月平均値)。漁獲位置をオーバーレイした。

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2)DMSP を利用した世界のいか釣漁船解析情報の収集(ペルーにおけるアメリカオオアカイカ漁船

隻数推定)

世界のイカ資源の中で、いか釣漁船の集魚灯を DMSP 衛星の OLS(Operational Linescan System)

センサ画像を利用して漁業管理への応用を試みているのは、この研究で先鞭を付けてきたのは南西大

西洋のアルゼンチンマツイカ(Illex argentinus)(Rodhouse et al. 2001, Waluda et al., 2002)とペ

ルー沖のアメリカオオアカイカ(Dosidicus gigas)(Waluda et al., 2004, Waluda et al., 2005, Waluda

et al., 2006)および日本のスルメイカ資源(Kiyofuji et al., 2004)である。上記の既存研究を踏まえ

つつ、平成 22 年度の本研究事業の成果によれば(斉藤ら 2011)、DMSP/OLS 夜間可視画像データは、

漁船分布を客観的かつ広範囲にリアルタイムでモニタリングでき、その質的評価に関する研究は、空

間的な漁獲努力量の評価および漁業管理にとって有効なツールの一つとなると示唆され、アカイカ漁

船分布のモニタリングにも DMSP/OLS 夜間可視画像データは有効な手段であることが期待できるこ

とが示されている。主たる意義は次のように要約されよう。1)操業漁船隻数の把握、2)漁業デー

タによらない漁船位置情報の取得、3)それらを応用した資源特性の把握、4)資源と漁業の管理。

アカイカ漁船のモニタリングに関して、本事業の主目的は上記の意義のうち、1)〜3)に相当し、

特に HSI モデル開発過程では、漁獲成績報告データにおける位置情報の不確かさは致命的であり、項

目2)の漁船位置情報を漁業と独立した手法で取得しなければならない。そのプロセスとして、操業

隻数を正確に把握できるかどうかを検証する作業をする必要がある。このため、現在、世界で集魚灯

を利用したイカ釣漁業の管理をめざして、世界最大のイカ資源であるアメリカオオアカイカ資源とそ

の漁業を対象に研究しているペルー国立海洋研究所(IMARPE)との情報交換を行い、今後の DMSP

衛星活用とその要用について意見交

換を行った(2011 年 9 月 4 日〜9 月

12 日)。

上述したように、ペルー海域のア

メリカオオアカイカ釣漁船を対象に、

英国グループが主体で行った

DMSP-OLS 画像による研究がある

(Waluda et al., 2004, その他)。そ

れによれば、ペルーEEZ 海域での操

業するアルゴスシステムのを設置し

てモニター(VMS)した漁船隻数と

画像ピクセル数との間には有意な正

の相関が見られ(図 3)、DMSP-OLS

画像での隻数把握が可能であること

を示した。

この先行研究を受けて、IMARPE

の衛星データ解析センターでは、ペルーの EEZ とその周辺公海域のアメリカオオアカイカ資源・漁

業と DMSP衛星データに関して独自でデータを取得して解析を開始している。この研究での特徴は、

主として外国船籍のモニタリングであり、特に最近年急増している公海上での中国いか釣漁船活動を

把握することが重要と考えられている。IMARPE では NOAA から DMSP-OLS 画像データ(OIS フ

ォーマット)を購入して、図 4 のような流れでイカ釣漁船との GIS処理を行っている。

図 3.ペルー海域における 1999年のいか釣漁船団の操業隻数

と DMSP-OLS 画像ピクセル数との相関関係(Waluda et al.,

2004より)。

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現在、ペルーEEZ 内で操業しているイカ釣漁船は、集魚灯を持たずに沿岸 20 海里程度で操業する国

内の零細漁民の小型漁船を除くと、日本の大型イカ釣漁船のみである。この EEZ 内で壮語揺する外

国漁船には ARGOSによる漁船モニターシステム(VMS)が義務づけられているため、正確な位置情

報が得られる。これによって、DMSP-OLS による漁船ごとの集魚灯位置情報との照合が可能となる

(図 4)。

この照合作業の過程で、VMS でモニターされる正確な漁船位置と衛星画像ピクセル群との平面的

な位置関係の例を図 5 に示した。ひとかたまりのピクセル群と一隻の漁船が一致している場合もあれ

図 4.IMARPEによるアメリカオオアカイカ漁業への DMSP-OLSデータ処理過程(Paulino ら未発表)

図 5.ペルー海域での DMSP 画像といか釣漁船位置との関係

(Paulino ら未発表)。上 2 枚は衛星画像と漁船位置とが一致する

場合、左下は分離ができない場合。

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ば、数隻で一つのピクセル群を形成している場合もある。このような漁船位置との積み重ねのチェッ

クを行い、図 6 で示す漁船隻数とピクセル数との関係(y=0.028+0.736x, r2=0.87)を導き出している。

ちなみに、この結果は Waluda ら(2004)の結果(図 3)と極めて良く一致しているようだ。これに

より、ペルー領海外に出現している中国船団と思われるイカ釣漁船の隻数推定を試みようとしている。

IMARPE との意見交換として、中国船のイカ釣漁船の集魚灯の光力と日本漁船のそれとが同じである

かどうかを検証する必要があること。すなわち、漁船集魚灯の光力が一定である日本の大型イカ釣漁

船の結果を、不均一な中国漁船団にそのまま当てはめることは危険であろう。また、日本漁船は互い

に一定間隔の距離を離して操業するが、中国船の漁船団の動態はそうはなっていないと考えられ、こ

の点も漁船隻数推定の障害となることを指摘した。

3)DMSP 画像を用いた漁船位置と隻数推定(汎用的かつ簡便ないか釣漁船位置情報管理)

本研究課題ではイカ釣漁船と漁獲情報(および漁獲成績報告)データ得られる操業船位置情報をよ

り正確なデータに変換させるために、高度な知識と経験を必要としない簡便な方法として既存の

DMSP-OLSデータ処理ソフト”NightWatcher(ver.2)”(環境シミュレーション研究所)を適用した。

青森県の標本船の操業位置データの精度を確認するために、NOAA が提供する DMSP-OLS(可視

熱赤外センサ)の夜間暗視野画像を農林水産研究情報総合センターからダウンロードして、冬季に三

陸沖から金華山沖に展開するアカイカを対象としたイカ釣船の操業位置と実際の標本船が報告してい

る漁船位置との関係を比較検討した。DMSP-OLS データ取得から処理までは図 7 の過程に従った。

比較したのは 2011 年の 1 月から 2 月末にかけてのアカイカ漁で、典型的な例を 2011 年 1 月 27 日の

DMSP 画像と操業報告位置とを比べた(図 7)。標本船操業報告位置と DMSP 集魚灯位置とは完全に

一致しなかった。しかし、DMSP で見た操業船団の操業範囲と報告位置の範囲とはほぼ一致した。標

本船の操業位置データが正しく実態を反映しているかどうか疑問が残るが、漁船団の分布範囲に関し

ては 2011 年 1 月 27 日の例では、ほぼ一致しているとみなすことができた。

この三陸沖のアカイカ冬漁は、冬場の厳しい海気象と主漁港から漁場が比較的近い。このため、比較

的短い操業期間で水揚入港と操業が繰り返されることから、その漁期を通じて常に全船が操業してい

るわけではない。従って、出漁操業中の標本船の割合も一定ではなくなる可能性がある。

そこで、標本船が全出量漁船を代表しているかどうかを検証するため、DMSP-OLS 画像で捉えら

図 6.ペルー海域でのと漁船位置と漁船数と画像 pixel 数との関係

(Paulino ら未発表)。

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れた操業船隻数との比較を行った。1漁期にわたって漁獲成績報告データよりも位置情報について信

頼性の高い標本船の 2011 年冬漁期を例に、出漁隻数を DMSP-OLS 画像でカウントし、その時に操

業している標本船の操業隻数との関係を示したのが図 8 である。ある日の出漁隻数とその日の標本船

出漁隻数との間には明確な相関関係が認められ、標本船は常に一定割合を占めていることから(8.8%)、

データの代表性が示された。

図 7.DMSP-OLS データ(□)とその処理ソフト“NightWatcher”を用いた三陸沖におけるアカイカ漁

船位置情報の取得(+)と標本船の操業位置(●)と CPUEの例(2011年 1月 27日のケース)。

図 8.DMSP-OLS画像で捉えた 2011年漁期のある日の操業隻数と

同日の標本船出漁隻数との関係。

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f.考察

アカイカ漁場は、三陸沖には 12 月から 3 月までの冬季に形成されるが、夏季には日付変

更線付近までの北太平洋の沖合いに漁場が形成される。この海域の夜間可視画像は夏季の

ため日没時間が遅く、DMSP 衛星の観測時間帯では太陽光の影響を受けており、他の衛星

データ利用を検討する必要がある。NASA が 2011 年打ち上げた NPP 衛星に搭載の VIIRS

の夜間可視画像 (Lee et al., 2006)は、ローカルタイムで真夜中の午前 1 時半観測のため全く

太陽光の影響は受けないので、夏季の日付変更線付近の観測には適している。今後の漁船

位置確認の検証データとしては VIIRS 夜間可視画像を利用することを進めたい。図 9 に

Chris Elvidge 氏により提供された日本付近を観測した 2011 年 11 月 27 日観測の VIIRS 夜間

可視画像を示した。

図 9.VIIRS 夜間可視画像(2011 年 11 月 27 日)。Chris Elvidge 氏により提供。

g.引用文献

Elvidge, C.D., Baugh, K.E., Dietz, J.B., Bland, T., Sutton, P.C., Kroehl, H.W (1999) :Radiance calibration of

DMSP-OLS low light imaging data of human settlements. Remote Sens. Environ. 68, 77–88.

原政直・岡田周平・市塚正彦・重原好次・森山隆・杉森康宏 (2004):DMSP/OLS 夜間可視画像を用い

たイカ釣り漁業のモニタリング J. Adv. Mar. Sci. Tech. Soci.: 9, 99-108

Kiyofuji, H., Saitoh, S., 2004. Use of nighttime visible images to detect Japanese common squid Todarodes

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173–186.

Lee, T. E., Miller, S. D., Turk, F. J., Schueler, C., Julian, R., Deyo, S., Dills, P., and Wang, S. (2006): The

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Rodhouse, P.G., Elvidge, C.D., Trathan, P.N., 2001. Remote sensing of the global light-fishing fleet: an analysis

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