12
報告 要約 マルチチャンネル音響システムの構築においては,スピーカー再生環境の制約条件によって,ス ピーカーの位置が標準配置の通りに設定されない可能性がある。同じ音響信号を再生してもス ピーカーの位置によって空間的印象が変わることが知られており,再生時の空間的印象に影響を 及ぼさないマルチチャンネル音響のスピーカー設置範囲に関する指針を得る必要がある。これま で2次元音響システムの各スピーカー位置の違いによる再生音の空間的印象については検討され てきたが,3次元音響システムについては調べられていない。そこで本研究では,8Kスーパー ハイビジョン(8K Super Hi-Vision)の音響システムである22.2マルチチャンネル音響につい て,各スピーカー位置の違いが空間的印象に与える影響を調べるために,各スピーカーの方位角 と仰角を変えた場合の再生音の空間的印象を評価した。その結果,基準配置(等間隔)に対し て,上層および下層の前方スピーカーを正面方向へ,中層の前方および後方スピーカーを側方方 向へ,上層全体を中層方向へ移動させても,空間的印象の違いが識別されにくい傾向にあること が分かった。 ABSTRACT The layout of loudspeakers for a multichannel sound system is often different from the reference one because of the constraints in the reproduction room and environment. Generally, it is known that the spatial impressions become different when the loudspeaker positions are changed even if the same content is reproduced. In order not to affect the spatial impressions as perceived with the reference layout, it is needed to develop guidelines on the range of loudspeaker positions which can reproduce the equivalent spatial impressions as the reference. In the previous studies, the relation between the spatial impression and the loudspeaker positions in the horizontal plane has been investigated. However, the relation between the spatial impression and the three - dimensional loudspeaker positions has not been investigated. Therefore, two subjective evaluation tests of the spatial impressions were conducted under the condition that the azimuthal and elevation angles of some loudspeakers of the 22.2 multichannel sound system for 8K Super Hi- Vision were varied in order to discuss the effects of the positions of loudspeakers in the three- dimensional sound system on spatial impressions. The results showed that it is hard for the subjects to recognize the difference in spatial impressions when the frontal loudspeaker positions in the top and bottom layers are changed from the reference layout to the frontal side, the frontal and rear loudspeakers in the middle layer to the lateral side, and the loudspeakers on the top layer to the lower side. 22.2マルチチャンネル音響再生システム におけるスピーカー位置の違いが空間的 印象に与える影響 澤谷郁子 入江健介 杉本岳大 安藤彰男 † 富山大学 Effects of Loudspeaker Positions of 22.2 Multichannel Sound System on Spatial Impressions Ikuko SAWAYAKensuke IRIETakehiro SUGIMOTO and Akio ANDO † University of Toyama NHK技研 R&D/No.148/2014.11 33

22.2マルチチャンネル音響再生システム におけるスピーカー …報告 要約 マルチチャンネル音響システムの構築においては,スピーカー再生環境の制約条件によって,ス

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報告

要約 マルチチャンネル音響システムの構築においては,スピーカー再生環境の制約条件によって,スピーカーの位置が標準配置の通りに設定されない可能性がある。同じ音響信号を再生してもスピーカーの位置によって空間的印象が変わることが知られており,再生時の空間的印象に影響を及ぼさないマルチチャンネル音響のスピーカー設置範囲に関する指針を得る必要がある。これまで2次元音響システムの各スピーカー位置の違いによる再生音の空間的印象については検討されてきたが,3次元音響システムについては調べられていない。そこで本研究では,8Kスーパーハイビジョン(8K Super Hi-Vision)の音響システムである22.2マルチチャンネル音響について,各スピーカー位置の違いが空間的印象に与える影響を調べるために,各スピーカーの方位角と仰角を変えた場合の再生音の空間的印象を評価した。その結果,基準配置(等間隔)に対して,上層および下層の前方スピーカーを正面方向へ,中層の前方および後方スピーカーを側方方向へ,上層全体を中層方向へ移動させても,空間的印象の違いが識別されにくい傾向にあることが分かった。

ABSTRACT The layout of loudspeakers for a multichannel sound system is often different from the referenceone because of the constraints in the reproduction room and environment. Generally, it is knownthat the spatial impressions become different when the loudspeaker positions are changed evenif the same content is reproduced. In order not to affect the spatial impressions as perceived withthe reference layout, it is needed to develop guidelines on the range of loudspeaker positionswhich can reproduce the equivalent spatial impressions as the reference. In the previous studies,the relation between the spatial impression and the loudspeaker positions in the horizontal planehas been investigated. However, the relation between the spatial impression and the three-dimensional loudspeaker positions has not been investigated. Therefore, two subjective evaluationtests of the spatial impressions were conducted under the condition that the azimuthal andelevation angles of some loudspeakers of the 22.2 multichannel sound system for 8K Super Hi-Vision were varied in order to discuss the effects of the positions of loudspeakers in the three-dimensional sound system on spatial impressions. The results showed that it is hard for thesubjects to recognize the difference in spatial impressions when the frontal loudspeaker positionsin the top and bottom layers are changed from the reference layout to the frontal side, the frontaland rear loudspeakers in the middle layer to the lateral side, and the loudspeakers on the top layerto the lower side.

22.2マルチチャンネル音響再生システムにおけるスピーカー位置の違いが空間的印象に与える影響澤谷郁子 入江健介 杉本岳大 安藤彰男†

† 富山大学

Effects of Loudspeaker Positions of 22.2 MultichannelSound System on Spatial Impressions

Ikuko SAWAYA,Kensuke IRIE,Takehiro SUGIMOTO and Akio ANDO†† University of Toyama

NHK技研 R&D/No.148/2014.11 33

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TV画面

上層9チャンネル

中層10チャンネル

下層3チャンネル

LFE2チャンネル

TpFL TpFC TpFR

TpSiLTpC

TpSiR

TpBLTpBC

TpBR

BL

BC

BR

SiL

FLFLc FC FRc

FR

SiR

BtFLBtFC

BtFRLFE1 LFE2

1.はじめにテレビ番組や映画の制作において,マルチチャンネル音響の普及が進んでいる。また近年は3次元音響システム(3次元的な音響空間を再現する方式)の研究開発も活発に行われている。当所では,8Kスーパーハイビジョン(以下,8K )1)の音響システムとして,1図に示すように,上層9チャンネル,中層10チャンネル,下層3チャンネルに,低域効果用(LFE:Low Frequency Effects)の2チャンネルを加えた22.2マルチチャンネル音響2)3)*1

(以下,22.2 ch音響)の研究開発を進めている。これは,心理音響モデル(人間の音の方向知覚特性等を利用して考案されたモデル)に基づく方式4)~7)の1つであり,映像と音像の方向の一致,全方向からの音の到来,自然な3次元音響空間の再現を実現することで,聴取者の臨場感を向上させることができる音響システムである。8Kについては,2016年の試験放送および2018年の実用放送の実施が計画されており,ITU-R(International Telecommuni-cation Union - Radiocommunication Sector),MPEG(Moving Picture Experts Group),SMPTE(Society ofMotion Picture and Television Engineers)などの標準化団体において,国際規格の標準化に向けた取り組みが行われている。NHKでは8Kの番組制作技術の開発を進めており,その一環として,放送局におけるダビングスタジオ*2等の整備が必要となっている。マルチチャンネル音響システムの再生においては,同じ方式を用いる場合でも,再生環境ごとに各スピーカーの仰角や方位角が標準配置と異なる可能性がある。これは,再

生環境ごとの再生装置,室の天井高・形状・サイズなどの条件によって,スピーカーの設置位置に制約がかかることが一因として挙げられる。しかし,スタジオ間でコンテンツの共有を行う場合を想定すると,再生音の聴感上の印象に影響を及ぼさないような,各スピーカーの位置に関する指針を得る必要がある。また,MPEG-H3D Audio8)の標準化活動においては,複数の機関で3次元音響の符号化に関する評価実験を行っており,その多くで22.2 ch音響の再生システムを使用する。しかし,各研究機関の評価室におけるスピーカー配置への制約条件により,各評価室のスピーカー配置は必ずしも同じとは限らない。その場合,評価実験の結果に影響を及ぼすことがない各スピーカーの設置許容範囲を把握しておく必要がある。本研究では,3次元音響再生方式において,各チャンネルに対応するスピーカーの位置がどの程度変わると再生音の空間的印象に影響を及ぼすのか検討を行った。単一のスピーカーのみで再生した場合のスピーカー位置の空間的印象に対する影響については,これまで行われてきた単一音源に対する方向知覚の先行研究と同様の結果が得られるものと予想される。しかし,空間の多数の方向から同時に音響信号が再生されている状況において,各スピーカーの位置の違いが空間的印象に影響を及ぼす条件に関しては,

*1 詳細は本特集号の解説「8Kスーパーハイビジョン音響制作システムの開発と標準化動向」を参照。

*2 編集した映像に音声をダビングするスタジオ。ここで,ナレーション,BGM,効果音などの音を整える作業を行い,番組を完成させる。

1図 22.2マルチチャンネル音響のスピーカー配置(チャンネルの位置を●印と■印で示し,それぞれに対応するチャンネルラベル名を併記)

報告

NHK技研 R&D/No.148/2014.1134

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これまでほとんど検討されていなかった。水平面に配置された3つ以上のスピーカーで同時に音響信号を再生した場合には,スピーカーの空間的な位置は明確に知覚されず,全体の空間的印象でスピーカー位置の違いが知覚されることが確かめられている9)。そこで本研究では,22.2ch音響について,各スピーカーの仰角と方位角の変化が空間的印象に及ぼす影響を調べた。ここで,本研究における空間的印象の評価には,参考文献4)に記されている空間的印象に記述された「source」と「environment」に強く関係している「音の方向感」と「包み込まれ感」を用いた。「音の方向感」は音像の位置を明確に識別できることと定義し,「包み込まれ感」は空間的に音が均一に聞こえる感じと定義した。単一音源に対する方向知覚の先行研究として,Schmidtら10)は,音源が聴取者の正面方向に定位する場合について,純音の方位角の弁別限が1°程度であることを示した。Tonningら11)は,側方音源の方位角の弁別限は正面の弁別限と比較して広いこと,後方音源の方位角の弁別限は側方の弁別限と比較して狭いことを示した。黒澤ら12)は,前方および後方の音源に対する弁別能力を調べ,前方および後方の方位角の弁別限は1°程度であること,側方は10°程度であることを示した。さらに,仰角45°付近では,仰角方向の弁別限が,正中面(正面・背面の中央を通る左右対称の境界面)では5°以下,横断面(真横に通る前後対称の境界面)では2°以下であることも示した。Blauertら13)は,音源が正中面に置かれる場合について,正面方向では弁別限が仰角9°程度であり,音源が頭頂に近づくにつれて弁別限範囲は広がることを示した。これらの先行研究は,単一音源の場合には,方向知覚の弁別限は数度以内であることを示唆している。したがって,単一スピーカーが単一音源を再生可能であることを考慮すると,単一スピーカーによる音の方向に関しても,数度以内の違いが判別可能であると考えられる。一方,再生システムのスピーカー数が増えた場合は,各スピーカー位置の方向知覚の弁別限は,単一スピーカーの場合より広がる可能性がある。たとえば,小谷野ら14)

は,2次元音響再生システムの1つである5.1チャンネルサラウンドシステムのリア(後方)チャンネル2スピーカー,センターチャンネル1スピーカーについて,Rec.ITU-R BS.775-215)に規定されたスピーカーの標準配置に対する実用的な設置許容範囲を調べ,リアスピーカーを方位角100°~135°,センタースピーカーを仰角-20°~0°の範囲内に設置すれば,包み込まれ感,音像定位,音像の動きといった空間的印象が保たれることを示した。しかし,3次元音響システムにおける各スピーカー位置の違

いが知覚に影響を及ぼす条件については,これまでに検討されていない。そこで本研究では,3次元音響システムの全スピーカーで音源信号が再生されている環境下で,各チャンネルに対応するスピーカーの位置がどの程度変わると知覚に影響を及ぼすのかについて検討を行った。

2.主観評価実験本研究では,22.2 ch音響システムの各スピーカーの方位角と仰角を変えた場合の再生音の空間的印象を調べるために,2つの主観評価実験を行った。実験1では,上層,中層,下層における各スピーカーの方位角の違いに着目した。実験2では,頭頂のTpCチャンネル(1図参照)を除く上層8チャンネルの仰角の違いに着目した。いずれの実験においても,コンテンツ制作時のスピーカー配置は基準配置(Reference)とした。2.1 実験装置と評価音源実験は,残響時間が0.18秒(500Hz),室形状が5.2m

(幅)×8m(奥行き)×3.5m(高さ),暗騒音レベル*3がNC-15*4の評価室にて行った。実験では,半径2mの球面上に配置したスピーカーを利用し,聴取位置はスピーカー配置の中心(球の中心)とした。音源は,一辺が4mの立方体上に,1図と同じ形状に配置されたスピーカーを用いて制作した。制作スタジオの条件は,残響時間0.3秒(500Hz),室形状が六角形(面積46m2)×4.6m(高さ),暗騒音レベルがNC-15である。評価室と制作スタジオでは,聴取位置から各スピーカーまでの距離が異なるため,各スピーカーから聴取位置までの距離を遅延と音圧の調整によって補正した*5。実験では,音の方向感および包み込まれ感を評価するために,1表に示すような長さ6秒または7秒の5つの音

*3 ある場所において特定の音を対象とする場合に,その対象の音以外に存在する騒音のこと。ここでは,対象の音が評価音であるのに対し,暗騒音は空調や隣室から透過する騒音等を指す。

*4 NC曲線という基準曲線によって示される室内騒音の騒音等級。小さいほど騒音が小さいことを表し,「15」は極めて低い値である。なお,コンサートホールのNC値は10~15程度である。

*5 聴感上,1図のスピーカー配置と等価となるようにした。

評価音源 評価項目

風景音(7s)

音の方向感楽音(6s)

ウィンドチャイム(7s)

オルガン(6s)包み込まれ感

ホワイトノイズ(6s)

1表 評価音源と評価項目

NHK技研 R&D/No.148/2014.11 35

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ウィンドチャイム

パイプオルガン-直接音-

パイプオルガン-反射音-

足音

鐘の音

鐘の音

ハーモニカ

源を用いた。これらは,予備実験において,32種類の22.2ch音響のコンテンツの中から,スピーカー配置の違いが,音の方向感に大きく影響を及ぼすと考えられる音源を3音源,音の包み込まれ感に大きく影響を及ぼすと考えられる音源を2音源,選定したものである。選定は,本実験の評定者とは異なる4名の評定者で行った。選定のプロセスは,まず,32音源をスポーツ,自然,風景,楽音,乗物,落下音,人工音,話声,ノイズの9種類に分類し,次に評定者が音の方向感と包み込まれ感を評価するのに適すると判断した音源を各カテゴリーから1つずつ選び,計9音源を選択した。この中から,多数決により,スピーカー配置の違いによる音の方向感および包み込まれ感の違いを評価するのにふさわしいと考えられる5音源を選定した。この5音源には,評価対象のスピーカー付近に定位したり付近を移動したりする音像や,聴取者を囲む全方位からの到来音が含まれており,各スピーカーの位置をずらすと空間的印象の違いが識別されやすいと考えられる。ただし,上方前方の評価対象スピーカー付近に定位したり移動したりする音像は,選定対象の32音源には含まれていなかったため,上方前方のスピーカー位置の違いによる空間的印象への影響の評価点は緩和される可能性がある。実験で使用した5音源の特徴を以下に示す。

風景音:主に雪の中を右から左に移動する足音や,上左方向および上右方向から到来する鐘の音で構成される風景音である。函館ハリストス教会にて収録した。音源のイメージを2図に示す。評定者には,足音および鐘の音を中心にして音の方向を注意深く聴取するように教示した。楽音:水平面正面に位置するハーモニカ音を中心に構成される楽音である。ハーモニカ音以外には,オーケストラの楽器音がさまざまな方向から到来する。8K映像のBGMとして制作された音源の一部である。音源のイメージを3図に示す。評定者には,ハーモニカやオーケストラの楽器音を中心にして音の方向を注意深く聴取するように教示した。ウィンドチャイム:主に2~3個のウィンドチャイムが聴取者の周囲を前後・左右・上下にランダムに動き回る音で構成される。また,他の方向から到来する楽器音が含まれる。8K映像のBGMとして制作された音源の一部である。音源のイメージを4図に示す。評定者には,ウィンドチャイムの音の方向を注意深く聴取するように教示した。オルガン:パイプオルガンによる「トッカータとフーガニ短調(バッハ)」の楽音である。正面からのパイプオルガンの演奏音と,聴取者に対してあらゆる方向から到来する反射音によって構成されている。東京カテドラル聖マリア大聖堂で収録した。音源のイメージを5図に示す。評定

2図 評価音源のイメージ:風景音 3図 評価音源のイメージ:楽音

4図 評価音源のイメージ:ウィンドチャイム 5図 評価音源のイメージ:オルガン

報告

NHK技研 R&D/No.148/2014.1136

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R A B R A B回答5秒

時間

下層 中層 上層

再生環境によってスピーカーの位置が異なる場合が多い

壁に固定 天井に固定

平面図(上から見た図)

TpC

FLc FRcFL FR

BL BR

BtFL BtFR TpFL TpFRFC

BC

SiLSiL SiRSiRSiL SiR

者には,パイプオルガンの音による包み込まれ感(音が均一に聞こえる感じ,空間的なムラの無さ)について注意深く聴取するように教示した。ホワイトノイズ:22.2 chのうちLFE(Low FrequencyEffects)2chを除く22 chに対応したスピーカーから再生される無相関のホワイトノイズによって構成されている。評定者には,ホワイトノイズの音による包み込まれ感(音が均一に聞こえる感じ,空間的なムラの無さ)について注意深く聴取するように教示した。2.2 実験方法評価には,Rec. ITU-R BS. 1116-116)に定義されている

「隠れ基準付三刺激二重盲検法」を用いた。6図に実験手順を示す。Rは基準音,AおよびBは評価音を示している。評定者は,基準音R(基準配置)と,2つの評価音A,B(評価配置)の空間的印象の違いの程度を2表に示すスケールに従って採点した。評価項目は,「音の方向感」と「包み込まれ感」であり,1表に示すように,音源ごとに評価項目を設定した。評定者には,「音の方向感(定位のずれの程度)は,基準音Rに対する音の聴こえる方向のずれの程度」であること,「包み込まれ感は,音が均一に聞こえる感じ,空間的な音の強弱のムラのなさ,空間的に音がつながる感じ」であることを教示した。評価音A,Bのどちらかには「隠れ基準」として必ず基準音Rが含まれており,基準音と同じと判断した評価音に対しては5.0の評点をつけるように評定者に教示した。評定者には,ス

ピーカーの位置の一部を変えた再生音が評価音であることを伝え,トレーニングを2時間程度行った後に本実験を行った。基準音は22.2 ch音響の基準配置(Reference)による再生音であり,評価音は,実験1では8図,実験2では11図に示すスピーカー配置による再生音である。評価結果は,各再生条件に対する評点から,基準音に対する評点を減算する「Difference Grade」で表した。そして,各再生条件の評価値は,全評定者のDifference Gradeの平均値とした。2.3 実験1:スピーカーの方位角を変えた場合の

空間的印象22.2 ch音響の各スピーカーの方位角の違いが再生音の空間的印象に与える影響を調べるために,主観評価実験を行った。22.2 ch音響システムにおいては,再生環境によって現実的に位置が変わりやすいスピーカーがある。すなわち,7図に示すように,FC,BC,SiL,SiR,TpC等のチャンネルは壁や天井に固定しやすいスピーカーであるのに対して,FL,FR,BL,BR等のチャンネルは人の動線や什器の位置などの制約条件によってスピーカー位置に違いが生じやすい。そこで本研究では後者のスピーカーに着目し,7図に■■で示すスピーカーの方位角の違いによる再生音の空間的印象を評価した。2.3.1 実験条件実験1における基準配置(Reference)と評価配置を8図に示す。評価配置は,上・中・下層のいずれか1層

違いが分からない 5.0

違いが分かるが,気にならない 4.0

やや気になる 3.0

気になる 2.0

非常に気になる 1.0

2表 主観評価に用いたスケール

6図 隠れ基準付三刺激二重盲検法による刺激音聴取と回答の過程

7図 実験1において評価の対象としたスピーカー(■■で示す)

NHK技研 R&D/No.148/2014.11 37

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下層

中層

60-60

上層

15-15 0 30-30

0

90-90

-135 135

5025-25

-50

0

90-90

-135 135

45-45

0

45

-60

0

60-30 30

-75

0

75-37.5 37.5

-45

0

45-22.5-45

22.50-15-30 3015

0

±180

±180

-120

0

-150 150120

0 0

-75

060-60

0

75-75

0

-30 0 30-15 150

Reference

FL FRFLc FRc

BL BR

BtFL BtFR

TpFL75

±180±180

TpFR

のスピーカー位置を変化させ,残りの2層のスピーカー位置は基準配置と同じとした。実際には,スピーカーの位置を動かしながら評価するのではなく,基準配置および評価配置に対応した全てのスピーカーを事前に設置し,コンピューター制御で再生条件を切り替えながら評価実験を行った。2.3.2 実験結果中層の各スピーカーの位置を条件とした再生音の空間的印象の評価値を9図に,上層および下層の評価値を10図に示す。Rec. ITU-R BS.1548-417)によると,テレビを含む音の放送における音響符号化方式の評価において,隠れ基準付三刺激二重盲検法の5段階評価の値が4.5以上であれば,リファレンス(基準音)との見分けがつかず,音響品質が確保されると示されている。そこで本研究ではこの記述を参考に,95%信頼区間*6の下限が-0.5を上回る空間的印象は,リファレンスの空間的印象と見分けがつかなかったと考えた。実験結果からは,スピーカーの方位角の違いによる空間的印象の違いを明確に識別できている場合とできない場合の2つの傾向が見られた。すなわち,9図(a)と(c),10図(a)と(c)に示した場合では,評価値-0.5を上回る条件とそれ以外の条件が明確に分かれた。一方,9図(b)と(d),10図(b)と(d)に示した場合では,ほぼ全条件で評価値が-0.5を上回り,評定

者がスピーカーの方位角の違いによる空間的印象を識別できなかった。これらの傾向は,音源に依存していた。ここでは,9図(a)と(c),10図(a)と(c)について以下に考察を行う。9図(a)に示すように,FLおよびFRチャンネルのスピーカー位置が方位角45°*7および60°の場合に,評価値は-0.5を上回った。これは,FL/FRチャンネルのスピーカーを方位角50°に設置した基準配置による再生音と,45°および60°に設置した評価配置による再生音の空間的印象の差を,評定者が明確に識別できなかったことを示す。同様に,基準配置による再生音に比べて,BL/BRチャンネルは120°(9図(c)),TpFL/TpFRチャンネルは15°と30°(10図(a)),BtFL/BtFRチャンネルは30°(10図(c))に設置した場合の再生音では空間的印象の差を明確に識別できなかった。2.4 実験2:スピーカーの仰角を変えた場合の

空間的印象22.2 ch音響の上層(TpCチャンネルを除く)8スピーカーの仰角の違いが再生音の空間的印象に与える影響を調

*6 母集団(統計の調査の対象となっている元の全体の集団)の平均がその範囲に含まれる確率が95%である区間。

*7 8図に示すFLとFRの角度はプラスマイナス45°であるが,簡略化のために単に45°と書く。以下同様。

8図 実験1で用いたスピーカー配置(正面が0°)

報告

NHK技研 R&D/No.148/2014.1138

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BLおよびBRチャンネルの方位角(0°:正面)(c)

BLおよびBRチャンネルの方位角(0°:正面)(d)

120° 150°

音源:オルガン

120° 150°

Difference Grade(包み込まれ感)

Difference Grade(包み込まれ感)

音源:オルガン

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

Difference Grade(音の方向感)

FLおよびFRチャンネルの方位角(0°:正面)(a)

FLおよびFRチャンネルの方位角(0°:正面)(b)

30° 45° 60° 75° 30° 45° 60° 75°

音源:風景音

95%信頼区間

Reference(50°) Reference(50°)

Reference(135°) Reference(135°)-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

Difference Grade(音の方向感)

音源:風景音

べるために,主観評価実験を行った。2.4.1 実験条件基準配置(Reference)と評価配置を11図に示す。基準配置では上層の8スピーカーを仰角45°に設置したのに対して,評価配置では仰角15°,30°,60°に設置した。8スピーカーの水平面内の配置は,45°ごとに等間隔である。実験1と同様に,基準配置および評価配置に対応した全てのスピーカーを事前に所定の位置に設置し,コンピューター制御で再生条件を切り替えながら評価した。他の実験条件は実験1と同様である。2.4.2 実験結果実験結果を12図に示す。実験1の結果と同様に,95%信頼区間の下限が-0.5を上回る空間的印象は,リファレンスの空間的印象と見分けがつかなかったと考えた。実験結果からは,スピーカーの仰角の違いによる空間的印象の差を明確に識別できている場合とできない場合の2つの傾向が見られた。すなわち,12図(a)は,再生条件に

よって評価値に差が生じ,上層スピーカーの仰角の違いを識別できている結果である。12図(b)は,再生条件によらず評価値が-0.5を上回り,評定者が上層スピーカーの仰角の違いを識別できなかった結果である。これらの傾向は,実験1と同様に,音源に依存していた。ここでは,12図(a)について以下に考察を行う。上層8スピーカーの仰角が30°の評価配置による再生音の評価値は,-0.5を上回った。これは,上層8スピーカーを仰角45°に設置した基準配置による再生音に対し,30°に設置した場合の再生音の空間的印象の違いを明確に識別できなかったことを示す。

3.考察3.1 3次元音響システムにおける

各スピーカー位置の識別はじめに,スピーカーの方位角の違いによる再生音の空間的印象について考察する。黒澤ら12)は,ホワイトノイズ

9図 中層スピーカー配置による実験1の結果

NHK技研 R&D/No.148/2014.11 39

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-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

Difference Grade(包み込まれ感)

15° 30° 60° 75°

95%信頼区間

Reference (45°)

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

Difference Grade(包み込まれ感)

15° 30° 60° 75°

Reference (45°)-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5 Difference Grade(音の方向感)

15° 30° 60° 75°

Reference (45°)

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

Difference Grade(音の方向感)

15° 30° 60° 75°

Reference (45°)

BtFLおよびBtFRチャンネルの方位角(0°:正面)(c)

BtFLおよびBtFRチャンネルの方位角(0°:正面)(d)

TpFLおよびTpFRチャンネルの方位角(0°:正面)(a)

TpFLおよびTpFRチャンネルの方位角(0°:正面)(b)

音源:オルガン 音源:ウィンドチャイム

音源:ホワイトノイズ 音源:ウィンドチャイム

仰角

60°

30°

15°0°

R(45°)

上層8スピーカーの仰角:15°,30°,60°

平面図(上から見た図)

スピーカー間隔:45°

の音源が単一のスピーカーによって再生されている場合に,水平面内の音の方向を識別する閾値は数度以内であることを示している。一方,22.2 ch音響システムの全スピーカーにて音源が再生されている状況下で行った本研究の実験結果においては,FLおよびFRチャンネルのスピー

カーを基準配置の50°から45°および60°にずらしても,空間的印象の違いは識別されにくかった。同様に,TpFLおよびTpFRの各スピーカーをそれぞれ基準配置の45°から15°,BtFLおよびBtFRチャンネルの各スピーカーをそれぞれ基準配置の45°から30°まで位置を移動させたとし

10図 上層および下層スピーカー配置による実験1の結果

11図 実験2で用いたスピーカー配置(耳の高さが0°)

報告

NHK技研 R&D/No.148/2014.1140

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音源:楽音

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

30°15° 60°

95%信頼区間

Reference (45°)

音源:ホワイトノイズ

仰角(a)

仰角(b)

Difference Grade(包み込まれ感)

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

30°15° 60°

Reference (45°)

Difference Grade(音の方向感)

ても,再生音の空間的印象に違いはなく,各スピーカーの位置のずれが識別されにくかった。ただし,TpFLおよびTpFRチャンネルの方位角について,本実験結果からは15°に設置しても空間的印象に影響はないと言えるが,この場合,TpFL/TpFRとTpSiL/TpSiRとの開き角が75°となる。これは,音の方向感および包み込まれ感を得るには水平面に45°から60°の間隔でスピーカーを配置するべきとの先行研究6)7)の結果と比較すると,やや広すぎる開き角である。このことは,主観評価実験の評価音源の項で述べたように,本実験用の音源にTpFLおよびTpFRチャンネルのスピーカー位置の違いを評価するのに適した音像が含まれておらず,基準配置と評価配置の再生音に対する空間的印象の違いをはっきりと判別できなかったことが原因と考えられる。次に,スピーカーの仰角の違いによる再生音の空間的印象について考察する。黒澤ら12)は,ホワイトノイズの音源が単一のスピーカーによって再生されている場合に,音の方向を識別する閾値は仰角45°周辺において正中面だと5°以下,横断面だと2°以下であることを示している。本研究の実験結果においては,22.2 ch音響の上層8スピーカーについて,仰角45°の基準配置と仰角30°の評価配置の間で,再生音の空間的印象に違いは見られなかった。この結果から,22.2 ch音響システムの全チャンネルに信号が送られている状況下では,上層8スピーカーの仰角を45°から30°にずらしても,位置の違いは識別されにくいことが分かる。本実験結果より,音源の種類は異なるものの,単一スピーカーのみで再生した場合のスピーカーの位置の違いに対する知覚が数度以内である先行研究に対し,3次元音響システムでは位置がずれても空間的印象が保たれる各ス

ピーカーの範囲が広くなる傾向にあると言える。小谷野ら14)は,5.1chサラウンドシステムの後方2チャンネルについて,基準配置に設定した方位角110°に対し,側方に10°,後方に25°の許容範囲を持つことを示した。後方2chのスピーカーをこの範囲に配置すれば,音による包み込まれ感,音の方向感の印象が同等に得られると述べている。一方,本実験によれば,22.2 ch音響システムのBLおよびBRチャンネルのスピーカー位置を基準の方位角135°から120°に,すなわち側方に15°移動しても,空間的印象の違いが識別されにくいことが分かった。基準配置の方位角は異なっているものの,本実験による結果は,5.1chサラウンドシステムの後方2chに比べて,22.2 ch音響の中層後方BLおよびBRチャンネルの方が,位置の違いが空間的印象に影響しない範囲が側方に広いことを示している。3.2 3次元音響再生環境における

スピーカー設置指針への応用前節の結果では,FLおよびFRチャンネルについて,基準配置の方位角50°と,45°および60°のスピーカー配置による再生音の空間的印象の違いが識別されにくいことを示した。評定者は基準配置と評価配置の空間的印象を比較しているため,評価値は基準位置からスピーカー位置が離れるにつれて減少すると考えられる。本節では,実験結果から得られる近似式を用いて,観測値以外の評価値の予測を試みる。1次近似式では,観測値の誤差による影響が大きいと考えられるため,13図に示すように2次近似曲線を求め,基準のスピーカー配置と同等の空間的印象が得られるスピーカー位置を予測する。FLおよびFRチャンネルについて,2次近似曲線から,

12図 上層の仰角による実験2の結果

NHK技研 R&D/No.148/2014.11 41

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-1.0

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

Difference Grade(音の方向感)

Reference (50°)

44.5° 69.2°

音源:風景音

FLおよびFRチャンネルの方位角(0°: 正面)

30° 45° 60° 75°

27.9° 50.1°

-1.0

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0.0

0.2

15° 30° 45° 60°

Difference Grade(包み込まれ感)

音源:ホワイトノイズ

仰角

Reference (45°)

基準音との「違いが分からない」評価値0.0との交点となる方位角を算出すると,44.5°および69.2°であった。これにより,FLおよびFRチャンネルのスピーカーを基準配置の50°からそれらの角度まで移動しても,位置の違いは識別されないものと予測できる。他のスピーカーの方位角についても同様の検討を行った結果,BLおよびBRチャンネルのスピーカーは基準配置の135°から120°および139°まで,TpFLおよびTpFRチャンネルのスピーカーは基準配置の45°から0°まで,BtFLおよびBtFRチャンネルのスピーカーは基準配置の45°から27.1°および51.8°まで移動させたとしても,位置の違いは識別されにくいと予測することができた。これらの結果から,中層のFLおよびFR,BLおよびBRのスピーカーを基準位置から側方方向に移動させても位置のずれが識別されにくいこと,上層TpFLおよびTpFR,下層BtFLおよびBtFRのスピーカーを基準位置から正面方向に移動させても位置のずれが識別されにくい傾向にあることが分かる。同様に,上層8スピーカーの仰角についても,前節の評価実験の結果を元に14図に示すような2次近似曲線を求め,評価値0.0との交点となる仰角を算出した結果,27.9°および50.1°となった。これにより,22.2 ch音響シス

テムの全スピーカーで音響信号が再生されている状況下では,上層8スピーカーの仰角を基準位置の45°からこれらの角度までずらしたとしても識別されにくいと予測できる。この結果から,上層スピーカーを中層方向に移動させても位置のずれが識別されにくい傾向にあることが分かる。以上より,基準配置とのずれが識別されにくいと考えられる,22.2 ch音響の各スピーカー位置の範囲に関する検討結果を,まとめて15図に示す。今後は,この範囲の妥当性を検証し,再生環境構築における実際のスピーカー配置の指針に応用していく。

4.むすび本稿では,22.2 ch音響について,全スピーカーから音源信号が再生されている条件下で,各スピーカーの位置を変えた場合の再生音の空間的印象を調べた。その結果,中層のFLおよびFR,BLおよびBRのスピーカーを基準から側方方向に,上層TpFLおよびTpFR,下層BtFLおよびBtFRのスピーカーを基準から正面方向に,上層を基準から中層方向に移動させても空間的印象の差が識別されにくい傾向にあることを示した。今後,これらの結果を,22.2

13図 FLおよびFRチャンネルのスピーカー位置の方位角による評価値の2次近似曲線

14図 上層スピーカー位置の仰角による評価値の2次近似曲線

報告

NHK技研 R&D/No.148/2014.1142

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仰角

方位角

0

180

9090

135 135

TpFL TpFRα1 α1

0BtFL BtFR

α5 α5

FLc 0

180

9090

FLFRc

BL BR

α3

α2α2

α3

α4 α4

FR

α6

上層 下層中層

α1α2α3α4α5α6

44.5°-69.2°

120°-139°

27.1°-51.8°

27.9°-50.1°

α2/2

0°-45°

ch音響制作スタジオを含む3次元音響再生環境の構築における指針作成に応用していく。

本稿は,電子情報通信学会論文誌Aに掲載された以下の論文を元に加筆・修正したものである。澤谷,入江,杉本,安藤:“3次元音響システムにおけるスピーカ位置の違いが空間的印象に与える影響,”電子情報通信学会論文誌A,Vol. J97-A,No.4,pp.313-322(2014)

参考文献 1) Y. Shishikui,Y. Fujita and K. Kubota:“Super Hi-Vision - the Star of the Show!,”EBU TechnicalReview,January 2009,pp.4-16(2009)

2) SMPTE ST 2036-2,“Ultra High Definition Television-Audio Characteristics and Audio ChannelMapping for Program Production”(2008)

3) Rec. ITU-R BS. 2051-0,“Advanced Sound System for Programme Production”(2014)

4) F. Rumsey:Spatial Audio,Focal Press(2001)

5) 安藤:“高臨場感音響技術とその理論,”IEICE Fundamentals Review,Vol.3,No.4,p.33(2009)

6) 大出,澤谷,小野,小澤:“立体的に配置したスピーカによる音の包み込まれ感,”日本音響学会聴覚研究会資料,Vol.42,No.5,H-2012-78,pp.425-430(2012)

7) 大出,小野,小澤:“立体的に配置したスピーカによる音像定位,”音響学会秋季講演論文集,2-Q-a21,pp.561-564(2012)

8) MPEG-H 3D Audio,Audio Subgroup:“Draft Call for Proposals for 3D Audio,”ISO/IEC JTC1/SC29/WG11/w13194,October 2012,Shanghai,China(2012)

9) O. Santala and V. Pulkki:“Directional Perception of Distributed Sound Sources,”J.Acoust. Soc. Am.129(3),March,pp.1522-1530(2011)

10)P. H. Schmidt,A. H. M. van Gemert,R. J. de Fries and J. W. Duyff:“Binaural Threshold for AzimuthDifference,”Acta Physiol. Pharmacol. Nederl. 3,pp.2-18(1953)

11)F. M. Tonning:“Directional Audiometry,I,Directional White Noise Audiometry,”Acta Oto-laryngol.69,pp.388-394(1970)

12)黒澤,都木,山口:“頭部伝達関数と方向弁別能力について,”日本音響学会誌.38(3),pp.145-151(1982)

15図 基準配置とのずれが識別されにくい各チャンネルのスピーカー位置の範囲

NHK技研 R&D/No.148/2014.11 43

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13)J. Blauert:“An Experiment in Directional Hearing with Simultaneous Optical Stimulation,”Acoustica,23,pp.118-119(1970)

14)小谷野,沢口,照井,鈴木,鈴木,丸井,豊島:“一般家庭に於けるサラウンドスピーカ配置許容度の検討,”音響学会春季講演論文集,2-Q-2,pp.899-902(2012)

15)Rec. ITU-R BS. 775-2,“Multichannel Stereophonic Sound System with and without AccompanyingPicture”(2006)

16)Rec. ITU-R BS. 1116-1,“Methods for the Subjective Assessment of Small Impairments in AudioSystems Including Multichannel Sound Systems”(1997)

17)Rec. ITU-R BS. 1548-4,“User Requirements for Audio Coding Systems for Digital Broadcasting”(2013)

さわ や い く こ

澤谷郁子い り えけんすけ

入江健介

2006年入局。技術局を経て,2009年から放送技術研究所において,3次元音響システム,3次元音響番組制作システム,音響認知・音響心理などの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部に所属。

2009年入局。放送技術局を経て,2012年から放送技術研究所において,3次元音響番組制作システムの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部に所属。

すぎもとたけひろ

杉本岳大あんどうあ き お

安藤彰男

2001年入局。放送技術局を経て,2004年から放送技術研究所において,音響トランスデューサー,音声符号化,3次元音響再生などの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部に所属。博士(工学)。

1980年入局。京都放送局を経て,1983年から放送技術研究所において,音声認識,音響信号処理,音場再現,音響認知科学などの研究に従事。2013年から富山大学大学院理工学研究部教授。博士(工学)。

報告

NHK技研 R&D/No.148/2014.1144