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平成22年7~9月期 - 40 - 【高止まりする失業とその要因~長期化する失業】 (1) はじめに 我が国の完全失業率は21年7月の 5.6%をピークに低下傾向にあり、失業者数も21年 7月に369万人を記録した後は減少傾向にあるなど、足下では雇用情勢の悪化に歯止め がかかりつつあるように見える。 しかしながら、22年9月末現在、完全失業者数は依然として300万人を大きく超えてお り、完全失業率は5%前後の高い水準で推移している。こうしたなか、今回の景気後退期 で特に注目されるのは、20年に入って失業期間が1年以上の長期失業者(以下「長期失 業者」という。)の数が大幅な増加に転じており、失業期間の長期化が急速に進行している ことである(第Ⅱ-1-13図)。 第Ⅱ-1-13図 我が国の完全失業率、完全失業者数、長期失業者数 4.0 3.6 4.0 4.0 4.1 3.8 2175.6 4.9 5.3 2295.0 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 19┘└ 20┘└ 21┘└ 22(%) ① 完全失業率 148368 217369 226347 229329 200 220 240 260 280 300 320 340 360 380 400 14 ┘└15 ┘└16 ┘└17 ┘└18 ┘└19 ┘└20 ┘└21 ┘└22 ② 完全失業者数 (万人) 2246118 1546127 70 80 90 100 110 120 130 14┘└15 ┘└16┘└17┘└18┘└19┘└20 ┘└21┘└22 (万人) ③ 1年以上の長期失業者数 194677 資料:「労働力調査」(総務省) このような長期失業者数の急増は、失業率という全体の数字では把握できない雇用環 境の「質的悪化」が水面下で進行していることを示すと同時に、リーマンショック以降高止 まりを続ける失業者数の要因となっている可能性があり、今後、我が国雇用環境の大きな 懸念材料となるおそれもある。 以下では、リーマンショック後2年を経過した現在でも目立った改善がみられず、引き続 き高水準で推移する失業の背景に長期失業者数の急増を確認する。そして、その要因と して、おもに労働力調査のフローデータを用いた分析などを通じて、急激な景気後退によ る企業の欠員数の急減と労働需給のミスマッチ拡大を背景に、過去に離職した就業者の 多くがリーマンショック以降再就職先を見つけることが著しく困難となっていること(再就職 確率の低下)を確認する。同時に、こうした再就職難は派遣労働者などの非正規労働者よ

平成22年7~9月期 【高止まりする失業とその要因~長期化す …平成22年7~9月期 - 40 - 【高止まりする失業とその要因~長期化する失業】

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  • 平成22年7~9月期

    - 40 -

    【高止まりする失業とその要因~長期化する失業】

    (1) はじめに

    我が国の完全失業率は21年7月の 5.6%をピークに低下傾向にあり、失業者数も21年

    7月に369万人を記録した後は減少傾向にあるなど、足下では雇用情勢の悪化に歯止め

    がかかりつつあるように見える。

    しかしながら、22年9月末現在、完全失業者数は依然として300万人を大きく超えてお

    り、完全失業率は5%前後の高い水準で推移している。こうしたなか、今回の景気後退期

    で特に注目されるのは、20年に入って失業期間が1年以上の長期失業者(以下「長期失

    業者」という。)の数が大幅な増加に転じており、失業期間の長期化が急速に進行している

    ことである(第Ⅱ-1-13図)。

    第Ⅱ-1-13図 我が国の完全失業率、完全失業者数、長期失業者数

    4.0

    3.6

    4.0 4.04.1

    3.8

    21年7月5.6

    4.9

    5.3

    22年9月5.0

    3.0

    3.5

    4.0

    4.5

    5.0

    5.5

    6.0

    └ 19年 ┘└ 20年 ┘└ 21年 ┘└ 22年 ┘

    (%) ① 完全失業率

    14年8月368 

    21年7月369 

    22年6月347 

    22年9月329 

    200 

    220 

    240 

    260 

    280 

    300 

    320 

    340 

    360 

    380 

    400 

    └14 ┘└15 ┘└16 ┘└17 ┘└18 ┘└19 ┘└20 ┘└21 ┘└22年

    ② 完全失業者数(万人)

    22年4‐6月118

    15年4‐6月127

    70

    80

    90

    100

    110

    120

    130

    └1 4┘└1 5┘└1 6┘└1 7┘└1 8┘└1 9┘└2 0┘└2 1┘└2 2年

    (万人)

    ③ 1年以上の長期失業者数

    19年4‐6月77

    資料:「労働力調査」(総務省)

    このような長期失業者数の急増は、失業率という全体の数字では把握できない雇用環

    境の「質的悪化」が水面下で進行していることを示すと同時に、リーマンショック以降高止

    まりを続ける失業者数の要因となっている可能性があり、今後、我が国雇用環境の大きな

    懸念材料となるおそれもある。

    以下では、リーマンショック後2年を経過した現在でも目立った改善がみられず、引き続

    き高水準で推移する失業の背景に長期失業者数の急増を確認する。そして、その要因と

    して、おもに労働力調査のフローデータを用いた分析などを通じて、急激な景気後退によ

    る企業の欠員数の急減と労働需給のミスマッチ拡大を背景に、過去に離職した就業者の

    多くがリーマンショック以降再就職先を見つけることが著しく困難となっていること(再就職

    確率の低下)を確認する。同時に、こうした再就職難は派遣労働者などの非正規労働者よ

  • 平成22年7~9月期

    - 41 -

    りもむしろ正社員で顕著なこと、リーマンショック以降の失業者の多くは非製造業の正社員

    で占められていることも検証してみる。

    (2) 長期化する我が国の失業

    すでにみたように、我が国の失業率は21年7月、昭和28年の統計開始以来最悪の

    5.6%に達した後、低下傾向にあるものの、依然として5%前後の高水準で推移している。

    完全失業者数も21年7月をピークに減少傾向にあるが、足下では300万人を大きく超え

    た水準で足踏み状態が続いている。

    こうした状況の中で、長期失業数者の推移をみると、19年第4四半期以降急増しており、

    足下の22年第2四半期には約118万人と失業者数全体の1/3以上を占めるまでになっ

    ている(第Ⅱ-1-13図)。

    実際、最近の我が国の失業者数(実数)の推移を失業期間別に展開してみると(第Ⅱ-

    1-14図)、①失業期間3か月未満の失業者数が21年第2四半期にピークをつけたあと、

    ②3か月~6か月未満→③6か月~1年未満→④1年~2年未満→⑤2年以上と、失業期

    間の長さに応じて各失業期間の失業者数のピークが右にシフトしていることがみてとれる。

    こうした動きは、明らかにリーマンショック直後に離職した者の多くがそのまま失業者として

    滞留していることを示唆している。

    第Ⅱ-1-14図 我が国の失業期間別失業者数の推移

    3~6か月未満

    6か月~

    1年未満

    1年~2年未満

    2年以上

    3か月未満

    (目盛り右)

    80 

    85 

    90 

    95 

    100 

    105 

    110 

    115 

    120 

    125 

    130 

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    19Ⅲ

    20Ⅲ

    21Ⅲ

    22Ⅲ

    (万人) (万人)

    (注)3か月移動平均値。

    資料:「労働力調査」(総務省)

    一方、OECDが毎年公表する各国の失業期間別失業者数の統計によって主要国の長

    期失業者の数を比較したのが第Ⅱ-1-15図である。これをみると、21年時点で、長期

  • 平成22年7~9月期

    - 42 -

    失業者数は、我が国の93万人に対し、米国が230万人、英国が145万人、フランスが89

    万人となっている。

    さらに各国の動きを詳しくみてみると、まず、米国の長期失業者数が20年の95万人か

    ら21年には一気に2.5倍近くの230万人余りに急増していることが目につく。米国では、

    さらに、6か月以上1年未満、3か月以上6か月未満の失業者数も急増するなど、失業の長

    期化が急速に進行していることがみてとれる。従来、米国の失業者数は、景気後退期であ

    っても、その大半が失業期間3か月未満の短期の失業者で占められていたことに鑑みれ

    ば、今回のような長期失業者数の急増は極めて異例なことと言える。

    他方、ドイツでは21年に入って1年未満の失業者数はやや増加する一方、長期失業者

    数は逆にわずかながら減少している。ドイツでは、米国などとは対照的に、1990年代以降

    長期失業者が急増し、失業者全体のおよそ半分を占める状態が長期間続いており、リー

    マンショック後にもそうした状況に大きな変化が生じていないことがみてとれる。

    フランスも21年はすべての失業期間で失業者が増加しているが、ドイツと同様、従来か

    ら長期失業者の占める割合が非常に高いことが特徴である。

    かつては失業期間が短期の者が大半を占めていた我が国の失業者も、12年前後から

    長期失業者が急増、毎年90万人前後の高い水準で推移する状態が続いている。21年に

    はすべての期間で失業者が増加しているが、特に失業期間6か月以上1年未満の失業者

    数の増加が著しく、全体として失業の長期化が進行したことがみてとれる。21年の長期失

    業者数は、20年の86万人から7万人増え、93万人に達している。

  • 平成22年7~9月期

    - 43 -

    第Ⅱ-1-15図 主要国の失業期間別失業者数の推移(日本、米国、ドイツ、フランス)

    930

    2,000 

    4,000 

    6,000 

    8,000 

    10,000 

    12,000 

    14,000 

    16,000 

    55 56 57 58 59 60 61 62 63 元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21年

    1年以上

    6か月以上1年未満

    3か月以上6か月未満

    1か月以上3か月未満

    1か月未満

    (千人) ① 日本

    950

    2,318 

    2,000 

    4,000 

    6,000 

    8,000 

    10,000 

    12,000 

    14,000 

    16,000 

    55 56 57 58 59 60 61 62 63 元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21年

    1年以上

    6か月以上1年未満

    3か月以上6か月未満

    1か月以上3か月未満

    1か月未満

    (千人) ② 米国

    1,451 

    2,000 

    4,000 

    6,000 

    8,000 

    10,000 

    12,000 

    14,000 

    16,000 

    55 56 57 58 59 60 61 62 63 元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21年

    1年以上

    6か月以上1年未満

    3か月以上6か月未満

    1か月以上3か月未満

    1か月未満

    (千人) ③ ドイツ

    東西ドイツ統一

    889 

    2,000 

    4,000 

    6,000 

    8,000 

    10,000 

    12,000 

    14,000 

    16,000 

    55 56 57 58 59 60 61 62 63 元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21年

    1年以上

    6か月以上1年未満

    3か月以上6か月未満

    1か月以上3か月未満

    1か月未満

    (千人) ④ フランス

    資料: OECD Statistics

    各国の(労働力)人口規模の影響を除くため、各国の長期失業者数をそれぞれの労働

    力人口で除した「長期失業率」をみてみると、ドイツが最も高く 3.5%、次いでフランスが

    2.7%、以下、英国が 1.9%、米国が 1.5%、我が国が 1.4%などとなっており、最近の我が

    国の長期失業率は英国や米国並みであることがみてとれる(第Ⅱ-1-16図①)。

    我が国の場合、労働力人口に占める失業期間1年未満の短期失業者数の割合が米国

    などと比べ極めて少ないことが、これまで全体の失業率を低く抑えてきた要因であったが

    (第Ⅱ-1-15図、第Ⅱ-1-16図②)、近年の失業期間の長期化は、失業率という全体

    の数字では把握できない雇用環境の「質的悪化」が水面下で進行していることを示すと同

    時に、リーマンショック以降の失業者数の高止まりを招いている可能性もあり、今後、雇用

    環境の大きな懸念材料となるおそれがある。

  • 平成22年7~9月期

    - 44 -

    第Ⅱ-1-16図 主要国の失業率 ① 失業期間1年以上 ② 全失業期間合計

    フランス

    2.7

    ドイツ

    3.5

    日本

    1.4

    英国1.9

    米国

    1.5

    0.0

    1.0

    2.0

    3.0

    4.0

    5.0

    6.0

    7.0

    555657585960616263元 2 3 4 5 6 7 8 9 101112131415161718192021

    (%)

    フランス

    7.4

    ドイツ

    7.8

    日本

    5.1

    英国

    7.7

    米国

    9.3

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    555657585960616263元 2 3 4 5 6 7 8 9 101112131415161718192021

    (%)

    資料: OECD Statistics

    (3) 高止まりする失業者数の要因

    そこで、以下では、労働力調査の「フローデータ」を用いた就業状態変動の寄与度分解

    や構造 VAR を用いた構造ショックの識別を通じて、高止まりが続く失業者数の要因を明ら

    かにする。

    ① フローデータを用いた失業者数高止まりの要因分析

    一般に「失業者数」とは毎月月末など特定時点での失業者の総数を表す「ストックデ

    ータ」である。これに対して、当該1か月間など一定期間の間に新たに失業者となった者

    の数は「フローデータ」と位置づけられる。そして、当期末のストックデータは、前期末の

    ストックデータに当期のフローデータの増減を加えたものとして定義される。

    労働力調査では、ストックデータとして毎月公表する「失業者数」に加えて、15歳以

    上人口について、前月の就業状態(就業、失業、非労働力)と今月の就業状態(同前)

    などを調べた結果をフローデータとして毎月公表している(第Ⅱ-1-4表(1))。このフロ

    ーデータを利用することで、3つの就業状態間での人の移動を把握することができる(フ

    ロー実数)。フロー実数は第Ⅱ-1-4表(1)中の EEt ~NNt まで9つのデータで構成され

    る。

    さらに、このフローデータを用いて、ある状態にいた人が翌月に別の状態に遷移(移

    行)する確率(遷移確率)を出すこともできる(第Ⅱ-1-4表(2))。

  • 平成22年7~9月期

    - 45 -

    今期のフロー実数は、前期末のストックに今期の遷移確率を乗じたものであるから(第

    Ⅱ-1-4表(3)、この関係を利用すれば、今期のフロー実数の変動(前期差)をストック

    の寄与と遷移確率の寄与に分解することができる。

    第Ⅱ-1-4表 フロー実数変動の寄与度分解

    (1) フロー実数

      前月(t‐1)の状態 

    就業 E t‐1  失業 U t‐1  非労働力 N t‐1 

    今月( t )の状態 

    就業 E t  EE t  UE t  NE t 

    失業 U t  EU t  UU t  NU t 

    非労働力 N t  EN t  UN t  NN t 

    (2) 遷移確率(EU の場合)

    EU  t EU tE  t‐1 EE t  + EU t  +EN t

    =eu  t  =遷移確率

    (3)フロー実数変動の寄与度分解(EU の場合)

    ○ フロー実数は、ストックと遷移確率の積。

    EU t = E t -1 × eu t

    ○ この関係を利用して、フロー実数の変動をストックの寄与と遷移確率の寄与に分解。

    ΔEU = E t -1 × eu t – E t -2 × eu t -1 = eu t × (E t -1 –E t -2 ) + E t -2 × (eu t – eu t -1 ) ストックの寄与 遷移確率の寄与

    第Ⅱ-1-17図は、こうして得られたフロー実数変動(前月差)をストック変動の寄与

    と遷移確率の寄与に分解した結果を9つのフローデータすべてについて示したものであ

    る。以下 1)から 5)までの記述はそれらのうち特に注目すべき5つの結果をとりまとめたも

    のである。

    1) ΔEE (就業者→就業者)

    まず、就業者から就業者へのフロー実数の変動ΔEE をみると、19年末以降大幅な

    マイナスが続いているが、その要因の大半がストックの就業者数 E の減少によるもの

    であることがわかる(ΔEE のグラフ)。前月就業者であった者が翌月も引き続き就業者

    で居続ける遷移確率 eeの寄与は相対的に小さい。逆に21年夏以降は eeの寄与がプ

    ラスに転じているが、これは、この年以降、雇用調整助成金を受け取る企業が急増し

  • 平成22年7~9月期

    - 46 -

    たことを反映したものとみられる。

    2) ΔEU (就業者→失業者)

    次に、就業者から失業者へのフローΔEU をみると(ΔEU のグラフ)、20年夏ころから

    遷移確率 eu の急上昇を受けて大きく増加しており、すでにリーマンショックの到来前

    から失業者となる確率が上昇していたことがわかる。なお、21年夏以降、ΔEU は逆に

    eu の低下を受けて大きくマイナスに転じており、雇用調整助成金の効果を受けたΔEE

    の動きとも整合的となっている。

    3) ΔUE (失業者→就業者)

    一方、失業者から就業者へのフロー実数の変動ΔUE をみると、全期間を通じて比

    較的大きな変動を繰り返しているが、20年秋以降は大きく増加に転じている(ΔUE の

    グラフ)。この間、ストックの失業者数 U は大きくプラスに寄与する一方、遷移確率 ue

    は大きくマイナスに寄与しているから、ΔUE の増加は、いったん離職した者が再び就

    職できる確率(以下「再就職確率」という。)が上昇したためではなく、U が増加し続け

    ている結果であることがわかる。むしろ、ue は、リーマンショック直後の20年秋に急速

    な低下をみせた後も、長期間にわたってマイナスで推移しており、いったん離職した

    者がなかなか再就職できない状況が続いていることがわかる。

    4) ΔUU (失業者→失業者)

    失業者から失業者へのフロー実数の変動ΔUU をみると、20年夏以降、ストックの失

    業者数Uの増加によって大幅な上昇を続けていたが、21年夏以降 Uの寄与は急速な

    縮小を続けており、失業者の増加傾向には歯止めがかかりつつあることがみてとれる

    (ΔUU のグラフ)。しかしながら、遷移確率 uu の寄与は足下でもほとんど変化しておら

    ず、失業者数が減少に向かう兆しはみえない。

    5) ΔUN (失業者→非労働力)

    最後に、失業者から非労働力へのフロー実数の変動ΔUN の遷移確率 un であるが、

    これは失業者の求職意欲の動向をみる指標としても利用できる(ΔUN のグラフ)。これ

    をみると、20年夏以降、ストックの失業者数 U の寄与が増加するなか、un の寄与は大

    きくマイナスで推移し続け、失業者の高い求職意欲の増進を示していたが、21年初

    めころを境に un の寄与はプラスに転じ、人々の求職意欲が減退しはじめていることを

    示している。

  • 平成22年7~9月期

    - 47 -

    第Ⅱ-1-17図 フロー実数変動(前月差)の寄与度分解

    ‐15 

    ‐10 

    ‐5 

    10 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔEE

    ΔEE: 就業者 → 就業者(万人)

    20年9月

    ‐1.5 

    ‐1.0 

    ‐0.5 

    0.0 

    0.5 

    1.0 

    1.5 

    2.0 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔEU

    ΔEU: 就業者 → 失業者(万人)

    20年9月

    ‐2.0 

    ‐1.5 

    ‐1.0 

    ‐0.5 

    0.0 

    0.5 

    1.0 

    1.5 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔEN

    ΔEN: 就業者 → 非労働力(万人)

    20年9月

    ‐1.5 

    ‐1.0 

    ‐0.5 

    0.0 

    0.5 

    1.0 

    1.5 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔUE

    ΔUE: 失業者 → 就業者(万人)

    20年9月

    ‐4.0 

    ‐2.0 

    0.0 

    2.0 

    4.0 

    6.0 

    8.0 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔUU

    ΔUU: 失業者 → 失業者(万人)

    20年9月

    ‐1.0 

    ‐0.5 

    0.0 

    0.5 

    1.0 

    1.5 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔUN

    ΔUN: 失業者 → 非労働力(万人)

    20年9月

    ‐2.0 

    ‐1.5 

    ‐1.0 

    ‐0.5 

    0.0 

    0.5 

    1.0 

    1.5 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔNE

    ΔNE: 非労働力 → 就業者(万人)

    20年9月

    ‐1.0 

    ‐0.8 

    ‐0.6 

    ‐0.4 

    ‐0.2 

    0.0 

    0.2 

    0.4 

    0.6 

    0.8 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔNU

    ΔNU: 非労働力 → 失業者(万人)

    20年9月

    ‐3.0 

    ‐2.0 

    ‐1.0 

    0.0 

    1.0 

    2.0 

    3.0 

    4.0 

    5.0 

    6.0 

    └ 18 年 ┘└ 19 年 ┘└ 20 年 ┘└ 21 年 ┘22

    遷移確率の寄与

    ストックの寄与

    ΔNN

    ΔNN: 非労働力 → 非労働力(万人)

    20年9月

    資料: 「労働力調査」(総務省)

    以上みてきたように、フローデータを使った要因分析の結果からは、今回の失業長期

    化の第一の要因は、失業者から就業者への遷移確率 ue が、リーマンショック以降長期

    にわたって低下し続けていること、すなわち、再就職確率の持続的な低下であることが

    推察される。就業者から失業者への遷移確率 eu がリーマンショック以前から上昇してい

    たこと、足下では雇用調整助成金の効果などを受けて euは逆に下落に転じていることな

    どに鑑みれば、リーマンショックの我が国労働市場への真の影響は、新規の失業者を増

    加させたことではなく、ショック発生後も長期間にわたって既存の失業者の再就業を阻

  • 平成22年7~9月期

    - 48 -

    害し続けていることにあるといえる。実際、再就職確率の低下は、ストックの失業者数の

    増加に歯止めがかかった足下でも、失業者から失業者への遷移確率 uu が目立って低

    下する兆しをみせていないことによっても裏付けられる。

    こうしたなか、失業者から非労働力への遷移確率 un の上昇にみられるように、足下

    では長引く失業によって失業者の求職意欲がそがれている実態がうかがえることは憂慮

    すべき状況である。

    ② 構造 VAR を用いた構造ショックの識別による再就職確率低下の要因分析

    では、なぜ、リーマンショック以降、こうした再就職確率の低下が生じているのだろう

    か。

    以下では、労働市場と景気循環の関係を分析したいくつかの先行研究のうち、構造

    VAR を用いた分析手法を適用して、最近の我が国の労働市場について、景気循環や

    労働需給のミスマッチ等の構造的要因との関係を試算することを通じて、再就職確率低

    下の要因を探る1。

    一般に景気循環等労働市場に影響を与える構造的諸要因(ショック)は次の3つに整

    理される(第Ⅱ-1-5表)。

    1) 景気循環ショック

    再就職確率が低下している第一の要因として考えられるのは、「欠員数」すなわち

    仕事の空席数が求職者数を下回っていることである。一般に、景気拡大期には失業

    者数は減少し、企業の欠員数は増加する(正の景気循環ショック)。逆に、景気後退

    期には、失業者数は増加し、欠員数は減少する(負の景気循環ショック)。したがって、

    失業者数を増加させ、欠員数を減少させるような構造的ショックすなわち「負の景気

    循環ショック」が生じているとき、再就職確率は低下すると考えられる(第Ⅱ-1-18図

    の右下がりの線)。

    2) 部門間ショック

    再就職確率が低下している第二の要因として考えられるのは、産業や職業間の労

    働需給のミスマッチである。一般に、産業構造や職業構造が変化するとき、衰退産

    業・職業では余剰労働力が発生し失業や就職難が生じ、成長産業・職業では労働力

    不足となり求人難が生ずる。このように、何らかの原因で労働市場にミスマッチが生じ

    ている場合には、景気循環とは関係なく、欠員数と失業者数が同時に増加するものと

    1 構造 VAR の具体的な推計方法とその結果については付注を参照。

  • 平成22年7~9月期

    - 49 -

    考えられる。こうした異なる産業や職業などの間で生ずる労働需給のミスマッチの拡

    大を「正の部門間ショック」と呼ぶこととする。逆に、欠員数と失業者数が同時に減少

    するような場合、すなわち労働需給のミスマッチの縮小は「負の部門間ショック」と呼ぶ

    こととする(第Ⅱ-1-18図の右上がりの線)。

    第Ⅱ-1-18図 景気循環と労働市場

    失業者数0

    欠員数

    ミスマッチの拡大景気拡大

    景気後退

    3) 労働供給ショック

    さらに、再就職確率は、労働供給側の要因、例えば女性の労働参加率の上昇など

    の要因で労働力人口(失業者数と就業者数の合計)が増加することによっても影響を

    受けるものと考えられる。これを「正の労働供給ショック」と呼ぶこととする。逆に何らか

    の原因で労働力人口が減少するような場合は「負の労働供給ショック」と呼ぶこととす

    る。なお、労働供給ショックは欠員数には影響を与えないものと考えられる。

    第Ⅱ-1-5表 3つの構造ショックと労働市場

    正 負

    定義 想定される

    労働市場の動き定義

    想定される

    労働市場の動き

    景気循環ショック 景気の拡大

    就業者数の増加

    景気の後退

    就業者数の減少

    失業者数の減少 失業者数の増加

    欠員数の増加 欠員数の減少

    部門間ショック 労働需給ミスマッチの拡大

    就業者数の減少

    労働需給ミスマッチの縮小

    就業者数の増加

    失業者数の増加 失業者数の減少

    欠員数の増加 欠員数の減少

    労働供給ショック 労働力人口の増加

    就業者数の増加

    労働力人口の減少

    就業者数の減少

    失業者数の増加 失業者数の減少

  • 平成22年7~9月期

    - 50 -

    以上のようにして、各構造ショックについて想定される労働市場の動きに基づいて構

    造VARを推計し、これら3つの構造ショックの発生が就業者数、失業者数及び欠員数の

    変動に与える影響を、1単位のショックを加えた時点をゼロとして時間を追ってシミュレ

    ートしたものが第Ⅱ-1-6表である。

    これをみると、まず就業者数については、短期的な変動のほとんどが労働供給ショッ

    ク εfによるものであるが、長期的には就業者数変動のおよそ3分の1が景気循環ショック

    εcによるもので、労働供給ショック εfの影響は半分程度に低下することがわかる。

    次に、失業者数の変動をみると、短期的な変動のほとんどが部門間ショック εs による

    ものであることがわかる。なお、長期的には失業者数変動の3割近くが景気循環ショック

    εcによるもので、部門間ショック εsによる変動は変動全体の5割程度まで低下している。

    欠員数については、短期的には変動のほとんどが景気循環ショック εcによるものであ

    るが、長期的には変動全体の5割が部門間ショック εs によるもの、残りが景気循環ショッ

    ク εcによるものとなっている。

    これらの結果から、再就職確率を低下させるようなショックのうち、負の景気循環ショッ

    クは、その発生当初には欠員数の減少に最も大きな影響を与えており、失業者数の変

    動とはほとんど関係がないことがわかる。

    労働市場に対する景気後退の影響は、短期的には、企業が人員整理を行うことによ

    る新たな失業者の増加よりも、景気の悪化を受けて企業内の空席がなくなることによる

    欠員数の減少のほうが大きくなっていることが示唆される。そして、この欠員数の減少が

    既存の失業者の再就職を妨げることによって失業の長期化を招いているものと考えられ

    る。

    一方、ショックの発生当初に失業者数の増加に最も大きな影響を与えているのは、正

    の部門間ショックであることがわかった。また、正の部門間ショックが欠員数の変動に与

    える影響は、長期的なものが中心で、短期的には極めてわずかな影響しか与えていな

    いこともわかった。

    なお、正の労働供給ショックは長期的には失業者数の増加に多少の影響を及ぼして

    いるものの、短期的には就業者数を増加させる効果しか持たないこともわかった。

    以上から、再就職確率の低下は、短期的には、負の景気循環ショックによる欠員数の

    減少と、正の部門間ショックによる失業者数の増加によってもたらされていることがわか

    る。そして再就職確率が最も低下するのは、これら負の景気循環ショックと正の部門間

    ショックが同時に生じているときであることが想定される。

  • 平成22年7~9月期

    - 51 -

    第Ⅱ-1-6表 就業者数、失業者数、欠員数の分散分解(%)

    標準誤差景気循環ショック

    部門間ショック

    労働供給ショック

    標準誤差景気循環ショック

    部門間ショック

    労働供給ショック

    標準誤差景気循環ショック

    部門間ショック

    労働供給ショック

    εc εs εf εc εs εf εc εs εf1 16.2 0.9 0.4 98.7 6.9 4.5 93.3 2.1 1.0 99.5 0.5 0.0

    2 20.3 2.8 0.3 96.9 9.3 8.0 90.0 2.0 2.1 96.6 3.4 0.0

    3 24.4 5.5 0.3 94.3 11.2 11.9 86.0 2.1 3.2 94.0 5.9 0.1

    4 28.0 8.7 0.3 91.1 12.8 15.8 82.0 2.2 4.2 91.5 8.4 0.1

    5 31.4 12.0 0.3 87.7 14.3 19.5 78.1 2.3 5.2 88.9 11.1 0.1

    6 34.6 15.4 0.3 84.3 15.5 23.0 74.6 2.5 6.1 86.0 13.9 0.1

    7 37.7 18.6 0.4 81.0 16.6 25.9 71.4 2.7 6.8 82.8 17.1 0.1

    8 40.7 21.5 0.4 78.1 17.6 28.4 68.7 2.8 7.4 79.4 20.5 0.1

    9 43.5 24.1 0.5 75.4 18.4 30.5 66.5 3.1 8.0 75.8 24.1 0.1

    10 46.2 26.4 0.5 73.1 19.1 32.0 64.7 3.3 8.4 72.0 27.8 0.2

    11 48.7 28.3 0.6 71.2 19.7 33.2 63.2 3.6 8.7 68.3 31.5 0.2

    12 51.0 29.9 0.6 69.5 20.2 34.0 62.1 3.9 9.0 64.6 35.2 0.2

    13 53.2 31.2 0.7 68.1 20.6 34.4 61.3 4.3 9.3 61.3 38.5 0.2

    14 55.2 32.3 0.8 66.9 20.9 34.6 60.7 4.6 9.5 58.4 41.4 0.3

    15 57.1 33.2 0.8 66.0 21.2 34.6 60.3 5.0 9.7 56.0 43.7 0.3

    16 58.8 33.9 0.9 65.2 21.4 34.4 60.1 5.5 9.9 54.2 45.5 0.3

    17 60.4 34.4 1.1 64.5 21.6 34.2 59.9 5.9 10.1 53.0 46.7 0.4

    18 61.9 34.8 1.2 64.0 21.8 33.8 59.8 6.4 10.4 52.2 47.4 0.4

    19 63.3 35.1 1.3 63.5 21.9 33.4 59.7 6.9 10.6 51.9 47.6 0.4

    20 64.6 35.4 1.5 63.1 22.0 33.0 59.7 7.3 10.8 51.9 47.6 0.5

    21 65.9 35.5 1.7 62.7 22.2 32.6 59.6 7.8 11.0 52.0 47.4 0.5

    22 67.0 35.6 2.0 62.4 22.3 32.3 59.5 8.3 11.1 52.3 47.1 0.6

    23 68.1 35.7 2.2 62.1 22.4 31.9 59.3 8.8 11.3 52.6 46.7 0.7

    24 69.2 35.7 2.5 61.7 22.6 31.6 59.2 9.2 11.4 52.9 46.4 0.8

    25 70.2 35.8 2.8 61.4 22.7 31.3 59.0 9.7 11.5 53.1 46.1 0.8

    26 71.2 35.8 3.2 61.1 22.8 31.0 58.8 10.1 11.6 53.2 45.8 0.9

    27 72.2 35.8 3.5 60.7 22.9 30.8 58.7 10.6 11.7 53.3 45.7 1.0

    28 73.1 35.8 3.9 60.3 23.0 30.5 58.5 11.0 11.7 53.3 45.6 1.2

    29 74.1 35.8 4.3 59.9 23.2 30.3 58.2 11.5 11.8 53.2 45.5 1.3

    30 75.0 35.9 4.7 59.4 23.3 30.1 58.0 11.9 11.8 53.1 45.5 1.4

    31 75.8 35.9 5.1 59.0 23.4 29.9 57.8 12.3 11.9 53.0 45.5 1.5

    32 76.7 36.0 5.5 58.5 23.5 29.7 57.6 12.7 11.9 52.8 45.5 1.7

    33 77.6 36.0 5.9 58.0 23.6 29.5 57.4 13.1 11.9 52.6 45.6 1.8

    34 78.4 36.1 6.4 57.5 23.6 29.3 57.1 13.5 11.9 52.4 45.6 2.0

    35 79.3 36.2 6.8 57.0 23.7 29.2 56.9 13.9 11.9 52.3 45.6 2.1

    36 80.1 36.3 7.2 56.5 23.8 29.0 56.7 14.3 12.0 52.1 45.6 2.3

    37 80.9 36.4 7.6 56.0 23.9 28.9 56.4 14.7 12.0 51.9 45.7 2.4

    38 81.6 36.5 8.0 55.4 23.9 28.7 56.2 15.1 12.0 51.8 45.7 2.6

    39 82.4 36.7 8.4 54.9 24.0 28.6 56.0 15.4 12.0 51.6 45.7 2.7

    40 83.1 36.8 8.8 54.4 24.1 28.5 55.7 15.8 12.1 51.5 45.7 2.9

    欠員数失業者数就業者数期間

    (四半期)

    そこで、実際に3つの構造ショックの発生状況を時系列で展開してみると、第Ⅱ―1-

    19図のようになった。景気循環ショックは内閣府の景気基準日付と整合的に連動して

    おり、かつ、年を経るごとにその変動が大きくなってきていることがみてとれる。特に20

    年第3四半期から21年第2四半期までの1年間は極めて大きな負の景気循環ショックが

    働いていたことがわかる。

    一方、部門間ショックをみると、5年までは景気後退期に負の部門間ショックが現れ、

    景気拡張期に正の部門間ショックが現れるといった傾向が比較的はっきりと見られるが、

    6年以降両者の関係は明瞭ではなくなってきている。しかしながら、リーマンショック後の

    21年第1四半期から第3四半期にかけては大きな正の部門間ショックが連続して発生し

    ていることがわかる。

  • 平成22年7~9月期

    - 52 -

    これらのことから、リーマンショック以降は、これまでにない極めて大きな負の景気循

    環ショックと正の部門間ショックが3~4四半期の間連続して発生するという我が国の労

    働市場にとってかつてない厳しい状況が生じていたことがうかがえる。

    その後、景気循環ショックは21年第3四半期以降大きくプラスに転じ、部門間ショック

    も同年第4四半期以降マイナスに転ずるなど雇用環境は改善するかに見えたが、足下

    の22年第2四半期には再び両者の動きは逆転しており、雇用環境は引き続き予断を許

    さない状況が続いている。

    第Ⅱ-1-19図 識別された3つの構造ショックの発生状況

    ‐12

    ‐8

    ‐4

    0

    4

    8

    12

    52 55 58 61 元 4 7 10 13 16 19 22年

    (×標準偏差) ① 景気循環ショック

    ‐4

    ‐3

    ‐2

    ‐1

    0

    1

    2

    3

    52 55 58 61 元 4 7 10 13 16 19 22年

    (×標準偏差) ② 部門間ショック

    ‐3

    ‐2

    ‐1

    0

    1

    2

    3

    4

    52 55 58 61 元 4 7 10 13 16 19 22年

    (×標準偏差) ③ 労働供給ショック

    (注)網掛部分は景気後退期(内閣府景気基準日付)をあらわす。

  • 平成22年7~9月期

    - 53 -

    ③ 前職の産業別・地位別にみた失業長期化の要因

    一般には、今回のリーマンショックを契機とした急速な景気後退のなかで急増した失

    業者については、その多くが製造業における派遣労働者などの非正規雇用者を中心と

    したものであったと理解されている。しかしながら、実際に産業別や職位別失業者数な

    どのデータでより詳細にみてみると、こうした理解とは全く異なる状況が明らかになる。

    以下では、労働力調査の産業別または前職の地位別の統計などを用いて、リーマン

    ショック後の景気後退下で急増した失業者、特に長期失業者となった者はどのような産

    業でどのような職位に就いていたのかを明らかにする。

    まず、産業別・失業期間別の失業者数の動向をみてみよう。

    鉱工業生産指数などの動きに示されるように、リーマンショックの影響は生産の急減

    等特に製造業で顕著であった。そして、輸出産業を中心に派遣労働者の契約打ち切り

    などが相次ぎ、社会問題化したことは記憶に新しい。

    しかしながら、労働力調査を使って前職の産業別の失業者数の推移を見ると、失業

    期間にかかわらず、非製造業からの失業者数が圧倒的に多数を占めていることがわか

    る。長期失業者をみてみると、21年以降、製造業及び非製造業ともに長期失業者数は

    急増しているが、非製造業の長期失業者数は22年第2四半期には製造業の失業者数

    の2~3倍に達していることがわかる(第Ⅱ―1-20図)。

    第Ⅱ-1-20図 産業別・失業期間別完全失業者数

    121

    21

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    160

    └ 1 7 ┘└ 1 8 ┘└ 1 9 ┘└ 2 0 ┘└ 2 1 ┘└ 2 2

    非製造業(建設を含む)

    製造業

    (万人)① 失業期間1年未満

    25

    10

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    └ 1 7 ┘└ 1 8 ┘└ 1 9 ┘└ 2 0 ┘└ 2 1 ┘└ 2 2

    非製造業(建設を含む)

    製造業

    (万人) ② 失業期間1年以上

    資料: 「労働力調査」(総務省)

    では、非製造業で、リーマンショックの影響を直接受けた製造業を上回る失業者が発

  • 平成22年7~9月期

    - 54 -

    生したのはなぜだろうか。

    その第1の理由としては、第Ⅱ-1-21図に示すように、そもそも非製造業の就業者

    数が製造業にくらべ圧倒的に多いことがあげられる。非製造業の就業者数が全産業の

    就業者数に占める割合を従業上の地位別にみると、常用雇用者で7割超を、自営業

    主・家族従業者で5割超を、臨時雇・日雇いで9割を占めている。全体では全雇用者数

    6300万人のおよそ7割の4500万人を非製造業の従業者が占めている。この数字は、

    それぞれ常用雇用者で製造業の3.6倍、自営業主・家族従業者で製造業の8倍、臨時

    雇・日雇いで製造業の9倍に相当する。

    第2の理由としては、非製造業のなかにも製造業と関係の深い業種がいくつか含まれ

    ていることである。これらの業種では製造業と同様の理由で業績が悪化して失業者が増

    加していると考えられる(第Ⅱ-1-22図)。例えば、卸売業にとって財の輸出取引や国

    内取引の減少は直接業績の悪化となって現れる。また、職業紹介・労働者派遣業には、

    製造業で数多くが働く派遣労働者が含まれている。

    第3の理由として考えられるのは、非製造業では恒常的に失業者数が多く発生して

    いることである。先ほどの第Ⅱ―1-20図で失業期間1年未満の者をみると、リーマンシ

    ョック以前から非製造業の失業者数は100~120万人の高い水準で推移している。非

    製造業の就業者数が4500万人であるから 2.2%、およそ45人に一人の割合で失業し

    ている計算になる。これに対して製造業では過去20万人前後の失業者に対して就業者

    数は約1100万人であるから 1.8%、およそ55人に一人の割合である。非製造業では、

    製造業に比べ自営業主やアルバイト等が就業者全体に占める割合が相対的に高いこ

    と(第Ⅱ-1-21図)、製造業に比べ小規模企業の多い非製造業では企業の参入・退

    出が活発なこと、などがこうした高い離職率の背景にあるものと考えられる。

    実際、第Ⅱ-1-22図をみると、非製造業の各業種からはいずれも相当数の離職者

    が発生している一方で、常に一定の求人数も維持されている。このことは、産業としての

    新陳代謝(企業の参入・退出、新規出店と既存店の閉鎖等)が活発なことを示唆すると

    同時に、製造業に比べ賃金水準や待遇などの労働環境が厳しいことなどを背景に雇用

    者の定着率が低い(離職率が高い)ことも示唆している。

  • 平成22年7~9月期

    - 55 -

    第Ⅱ-1-21図 産業別・従業上の地位別就業者数(22年第2四半期)

    4.7

    0.4 0.9

    3.4

    0.8

    0.4

    0.6

    0.6

    6.3

    0.5

    1.1

    4.5

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    全産業 建設業 製造業 非製造業

    臨時雇・日雇い

    自営業主・家族従業者

    常雇

    (千万人)

    資料: 「労働力調査」(総務省)

    第Ⅱ-1-22図 産業別求人数と完全失業者数(22年第2四半期)

    21

    39

    120

    111 12

    31

    5 3 11 125 1 6

    23

    4 6

    44

    0 2 38

    1 1 410

    1 0 210

    140

    120

    100

    80

    60

    40

    20

    0

    20

    40

    60

    建設

    製造

    非製

    造業

    電気

    ・ガ

    ス・熱

    供給

    ・水

    道業

    情報

    通信

    運輸

    卸売

    ・小

    売業

    金融

    ・保

    険業

    不動

    産業

    飲食

    店,

    宿泊

    医療

    ,福

    教育

    ,学

    習支

    援業

    複合

    サー

    ビス

    事業

    生活

    関連

    サー

    ビス

    業,

    娯楽

    事業

    関連

    等サ

    ービ

    ス業

    (万人)

    求人数

    完全失業者数

    (注): 完全失業者数のうち、前職の従業上の地位が派遣社員であった者については、職業紹介・労働者派

    遣業(事業関連サービス業)に一括計上せず、厚生労働省「平成20年派遣労働者実態調査」の産業別派遣労働者数構成比に基づいて、各産業に比例配分した。

    資料: 「労働力調査」(総務省)、「派遣労働者実態調査」(厚生労働省)

    次に、前職の地位別にみた失業者数の動向をみてみよう。第Ⅱ-1-23図は労働力

    調査を用いて前職の地位別・失業期間別の完全失業者数の推移をあらわしたものであ

    る。これをみると、正社員の失業者数がパート・アルバイトや派遣社員の失業者数を大き

  • 平成22年7~9月期

    - 56 -

    く上回っていることが分かる。これまで一般的にはパート・アルバイトや派遣社員の失業

    がおもに注目されてきているが、実際には、失業者の多くが離職した正社員で占められ

    ているのである。特に、長期失業者数の推移を見ると、22年第1四半期以降の正社員

    の急増ぶりが目を引く。

    第Ⅱ-1-23図 前職の地位別・失業期間別完全失業者数

    103

    正社員

    72

    派遣社員16

    40

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    └ 1 7 ┘ └ 1 8 ┘ └ 1 9 ┘ └ 2 0 ┘ └ 2 1 ┘ └ 2 2

    ① 失業期間1年未満(万人)

    パート・アルバイト

    正社員

    21

    20

    派遣社員

    5

    7

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    └ 1 7 ┘ └ 1 8 ┘ └ 1 9 ┘ └ 2 0 ┘ └ 2 1 ┘ └ 2 2

    (万人) ② 失業期間1年以上

    パート・アルバイト

    資料: 「労働力調査」(総務省)

    22年第1四半期は、失業期間1年未満の正社員失業者数が急増した21年第2四半

    期からちょうど1年を経過した時点であり、リーマンショック後に離職した正社員の多くが

    いまだに再就職できていないことがみてとれる。その数は足下の22年第2四半期には2

    0万人に達しており、単純計算でおよそ5人に一人がいまだに再就職できずにいること

    がわかる。一方、パート・アルバイトの長期失業者数はほぼ横ばいで推移、派遣社員は

    増加しているものの、そのペースは正社員に比べはるかに緩やかである。正社員にとっ

    て、いったん離職した後の再就職が派遣社員やパート・アルバイトの者に比べはるかに

    困難なことがうかがえる。一般的に正社員を離職した者は引き続き正社員を求職する傾

    向があるから、最近の長期失業者数急増の背景には、正社員を離職した者の再就職難、

    すなわち正社員の再就職確率の低下があるものと考えられる。

    (4) 結論

    以上から、リーマンショック以降2年を経過しても高水準で推移する失業者数の背景に

    は、リーマンショック後の再就職確率の持続的な低下を受けて、過去に離職した人々の多

    くがその後も再就職できずに失業状態に置かれていることが主因であることが分かった。

  • 平成22年7~9月期

    - 57 -

    一方、長期失業者の前職の産業と従業上の地位をみてみると、非製造業で正社員とし

    て働いていた人々が最も多いことも分かった。

    そして、再就職確率の低下が続いている最大の要因は、(3)②で示したように、リーマン

    ショック以降、強い負の景気循環ショックに加えて労働需給のミスマッチ拡大による正の部

    門間ショックが連続して発生し、企業の欠員数の急速な減少と新たな失業者の発生が同

    時に進行したことから、求職者数と企業側の空席数の差が急速に拡大していったためであ

    ることもわかった(第Ⅱ-1-24図)。

    第Ⅱ-1-24図 就業者数、失業者数、欠員数の推移

    失業者数

    欠員数

    リーマンショック

    就業者数

    (目盛り右)

    6,100 

    6,150 

    6,200 

    6,250 

    6,300 

    6,350 

    6,400 

    6,450 

    6,500 

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    400

    └1 2┘└1 3┘└1 4┘└1 5┘└1 6┘└1 7┘└1 8┘└1 9┘└2 0┘└2 1┘└2 2年

    (万人) (万人)

    資料: 「労働力調査」(総務省)、「一般職業紹介状況」(厚生労働省)

    (5) 今後の展望と課題

    再就職確率を高め長期化する失業を解消するためには、まずは成長産業の雇用吸収

    力を高めることによって、仕事の空席、すなわち欠員数を増やすしかない。無論、これと同

    時に、失業者側においても自身の能力やスキルを成長産業が求めるものに適合させるよう

    努力することも重要であるが、失業者にとってはスキルを磨いても仕事に空席がなければ

    どうしようもないという現実も見据えなければならない。

    成長産業については、これまでも一般的には、医療・福祉産業や情報通信業などが高

    齢化や情報化の流れを背景にクローズアップされてきているが、第Ⅱ-1-22図でみたよ

    うに、22年第2四半期の非製造業の求人数は合計でわずか44万人である。一方で、非製

    造業自身が同期間で120万人の失業者を出していること、同期間の製造業及び建設業の

    失業者数も計60万人に達していることなどをみれば、非製造業の雇用吸収力は少なくとも

    現状では大幅に不足していると推察される。

    第Ⅱ-1-25図は、求人数統計では把握できないより詳細な業種や従業上の地位別

  • 平成22年7~9月期

    - 58 -

    のデータが得られる就業者数の統計を使って、就業者数(産業別及び従業上の地位別)

    の変化をリーマンショック直前の20年第3四半期2と最新時点の22年第3四半期で比較し

    たものである。

    これをみると、リーマンショック以降の2年間で建設業及び製造業では常用雇用者を中

    心に大きく就業者数が減少している。その数は建設業で36万人、製造業で107万人の計

    143万人に達している。

    第Ⅱ-1-25図 産業別・従業上の地位別就業者数の増減

    (20年第3四半期 → 22年第3四半期)

    ‐4 ‐13 ‐18 ‐10‐8

    ‐32

    165 11

    ‐6

    ‐25

    ‐62

    46

    ‐7

    11 525

    25

    ‐16

    -36

    -107

    49

    5 2 3-2

    -10 -8

    132

    -4 -1

    6 17 8

    2 8

    27 36

    -5 -3 -3

    -23

    -4

    ‐120

    ‐100

    ‐80

    ‐60

    ‐40

    ‐20

    0

    20

    40

    60

    80

    建設

    製造

    非製

    造業

    電気

    ・ガ

    ス・熱

    供給

    ・水

    道業

    通信

    放送

    情報

    サー

    ビス

    イン

    ター

    ネッ

    ト附

    随サ

    ービ

    ス業

    映像

    ・音

    声・文

    字情

    報制

    作業

    運輸

    卸売

    小売

    金融

    業,

    保険

    不動

    産業

    物品

    賃貸

    学術

    ・開

    発研

    究機

    専門

    サー

    ビス

    広告

    技術

    サー

    ビス

    宿泊

    飲食

    持ち

    帰り

    ・配

    達飲

    食サ

    ービ

    ス業

    洗濯

    ・理

    容・美

    容・浴

    場業

    その

    他の

    生活

    関連

    サー

    ビス

    娯楽

    学校

    教育

    その

    他の

    教育

    ,学

    習支

    援業

    医療

    保健

    衛生

    社会

    保険

    ・社

    会福

    祉・介

    護事

    協同

    組合

    廃棄

    物処

    理業

    自動

    車整

    備業

    機械

    等修

    理業

    職業

    紹介

    ・労

    働者

    派遣

    その

    他の

    事業

    サー

    ビス

    常雇

    臨時雇・日雇い

    自営業主・家族従業者

    (万人)

    (注)1.常雇とは,「一般常雇」(雇用契約期間が1年を超える者又は雇用契約期間を定めないで雇われてい

    る者)に「会社などの役員」を合わせたもの。 2.四捨五入の関係で合計は一致しないことがある。

    資料: 「労働力調査」(総務省)

    他方、非製造業をみると、小売業では自営業主・家族従業者を中心に、製造業と関わり

    の深い卸売業、職業紹介・労働者派遣業などでは常用雇用者を中心に就業者数が大きく

    減少しているものの、医療業及び社会保険・社会福祉・介護事業では常用雇用者を中心

    に就業者数は大幅に増加している。そのほか、金融業・保険業、飲食店、持ち帰り・配達

    2 リーマンショックの発生(20年9月15日)は20年第3四半期であるが、実際には、その労働市場等への直接的な影響は同年

    第4四半期以降に顕在化したと考え、20年第3四半期は「リーマンショック直前の期」として扱うこととした。

  • 平成22年7~9月期

    - 59 -

    飲食サービス業、技術サービス業、インターネット付随サービス業、情報サービス業などに

    おいても就業者数は増加している。飲食店業及び社会保険・社会福祉・介護事業では、

    常用雇用者に加えて臨時雇用者も増加している。

    こうして、非製造業の多くの業種ではリーマンショック以降雇用が回復してきているが、

    その増加数は非製造業全体を合計してもこの2年間でわずか49万人と、製造業及び建設

    業の減少数計143万人には遠く及ばない。

    こうしたことから、今後は、これら非製造業各業種を対象とした幅広い成長促進策を通じ

    て、非製造業全体の雇用吸収力の一層の向上を促すことが求められる。また、これと併せ

    て、製造業と比べて相対的に離職率の高い非製造業の賃金・労働環境の改善も求められ

    る。

    (参考文献)

    1. Jan Gottschalk(2001) ” An Introduction into the SVAR Methodology: Identification, Interpretation and Limitations of SVAR models” (Kiel Working Paper No.1072, Kiel Institute of World Economics)

    2. 鎌田康一郎・真木和彦(2003)「わが国のベバリッジ曲線の再検討」(ワーキングペーパーシリーズ

    Working Paper 03-1、日本銀行調査統計局)

    3. 桜健一(2006)「フローデータによるわが国労働市場の分析」(『日本銀行ワーキングペーパーシリーズ』No.06-J-20)

    4. 照山博司(2001)「VAR による金融政策の分析:展望」(『フィナンシャルレビュー』September-2001、

    財務省財務総合政策研究所)

    5. 杉原茂、三平剛、高橋吾行、武田光滋(2000)「構造 var による金融政策効果の推計」(『経済分析』第 162 号第 7 章、内閣府経済社会総合研究所)

    6. 三尾仁志(2001)「インフレ率の要因分解:構造型 VAR による需要・供給要因識別」(『IMES

    Discussion Paper Series』2001-J-9、日本銀行金融研究所) 7. 得田雅章(2007)「構造 var モデルによる金融政策効果の一考察」(『滋賀大学経済学部研究年報』

    Vol.14 2007)

    8. 阿部正浩(2010)「失業の増加と長期化」(『経済教室』日本経済新聞 2010 年 9 月 24 日)

    9. 脇坂明(2010)「失業の長期化への対応」(『経済教室』日本経済新聞 2010 年 8 月 17 日)

  • 平成22年7~9月期

    - 60 -

    【付注】 構造 VAR の推計とその結果

    1.使用データ   就業者数 E  : 「労働力調査」(総務省) 季調済四半期データ   失業者数 U  : 「同 上」   欠員数 V  : 「一般職業紹介状況」(厚生労働省)             欠員数=有効求人数-新規就職件数 

    2.推計期間   昭和 52 年第1四半期~22 年第2四半期(134 四半期) 

    3.誘導型 VAR の推計 

    (1) ラグ次数の決定(lags = 2):

     Lag LogL LR FPE AIC SC HQ0 ‐2215.948 NA  3.97E+11 35.2214 35.28893 35.248841 ‐1332.303 1711.187 371227.5 21.33814 21.60826 21.447882 ‐1250.067 155.3335 * 116120.5 * 20.17567 * 20.64838* 20.36772 *3 ‐1241.346 16.05836 116712.2 20.18009 20.8554 20.454454 ‐1235.448 10.57878 122751 20.22933 21.10723 20.5865 ‐1229.83 9.808413 129771.1 20.28302 21.36351 20.721996 ‐1224.678 8.7508 138333 20.3441 21.62718 20.865377 ‐1222.499 3.597769 154751.3 20.45236 21.93803 21.055948 ‐1217.295 8.34314 165211.7 20.51261 22.20088 21.1985

    (2) 推計式:

       2

    1

    ,,,

    112131

    11,1 12,1 13,121,1 22,1 23,131,1 32,1 33,1

    111

    11,2 12,2 13,221,2 22,2 23,231,2 32,2 33,2

    222

    ,,,

     

  • 平成22年7~9月期

    - 61 -

    (3) 推計結果(誘導型 VARの残差 e ):

    年 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期

    52 14.39 6.46 ‐4.62 ‐4.85 ‐1.64 2.8753 ‐7.45 21.26 ‐33.46 3.00 8.34 2.29 3.74 ‐2.14 ‐1.35 2.82 ‐2.14 ‐2.0254 6.30 ‐6.19 ‐11.59 ‐14.38 ‐5.79 ‐0.35 7.82 ‐0.21 2.53 2.28 ‐2.52 0.8055 ‐25.99 ‐2.24 17.17 ‐21.75 ‐4.81 0.75 4.80 5.50 ‐4.07 ‐0.80 ‐1.40 ‐1.7256 ‐3.65 ‐10.27 ‐9.34 ‐8.68 ‐1.94 2.44 ‐5.56 3.84 ‐0.07 3.02 1.12 ‐4.3557 1.66 ‐0.12 ‐9.01 36.93 0.18 3.73 ‐3.77 3.54 ‐1.62 ‐3.60 2.56 0.2858 34.64 3.21 ‐4.50 ‐8.59 10.81 ‐1.11 0.61 ‐4.80 ‐1.19 ‐0.74 1.07 0.9959 ‐37.67 6.84 13.15 4.82 6.12 0.14 2.59 ‐3.79 ‐1.48 ‐0.32 ‐0.55 ‐2.7960 ‐0.57 ‐12.12 ‐7.14 ‐15.02 ‐9.13 ‐5.23 0.27 7.94 ‐0.38 0.59 ‐2.75 ‐0.3461 21.91 ‐5.69 21.79 3.55 ‐8.38 0.74 0.11 ‐7.85 ‐0.21 ‐4.81 0.66 2.5062 ‐7.89 4.51 17.41 19.38 4.81 5.28 ‐14.74 ‐0.22 0.74 0.46 4.36 3.6863 ‐12.46 4.15 ‐11.15 ‐11.70 6.03 ‐6.12 7.53 ‐0.94 ‐0.09 2.15 1.13 ‐0.32元 1.03 21.94 9.29 0.61 0.64 2.05 ‐1.31 0.83 0.75 3.87 0.26 ‐0.452 12.20 5.23 0.93 ‐4.68 ‐2.57 1.30 0.28 4.72 3.27 3.15 5.45 ‐2.553 17.23 9.97 9.23 ‐3.09 0.41 2.08 0.15 ‐6.11 2.44 ‐0.15 3.03 ‐2.674 24.06 ‐17.09 2.64 26.39 ‐4.69 ‐8.13 ‐6.79 ‐0.44 ‐0.52 ‐2.19 4.97 ‐1.015 ‐25.38 ‐5.65 10.81 23.64 ‐6.23 ‐2.48 ‐5.47 2.05 ‐0.04 ‐1.31 ‐1.52 2.726 ‐15.24 3.91 ‐25.53 ‐11.09 ‐0.74 ‐9.11 2.77 ‐8.39 2.06 1.29 0.68 ‐1.437 5.51 ‐14.41 5.65 ‐17.11 ‐0.32 1.36 3.25 3.22 2.74 ‐1.85 ‐2.37 2.778 ‐11.70 11.65 25.79 ‐11.16 ‐2.30 3.00 ‐2.20 1.19 3.01 2.42 ‐0.33 0.299 27.96 21.64 ‐10.31 ‐17.45 0.14 ‐2.10 1.23 3.19 ‐2.27 0.06 ‐1.07 ‐3.79

    10 0.43 ‐4.31 ‐12.60 ‐6.84 4.09 14.25 2.04 0.96 ‐6.88 0.36 ‐0.89 0.7611 ‐7.59 0.21 25.06 13.48 6.51 3.98 ‐6.13 ‐12.62 1.30 ‐4.88 1.49 1.8712 ‐21.50 ‐3.60 3.98 19.03 9.07 ‐3.42 ‐0.21 11.86 2.63 ‐0.01 2.63 ‐1.8613 ‐12.10 ‐33.02 ‐22.30 11.02 6.28 6.57 8.57 11.75 ‐7.30 ‐4.35 ‐3.24 ‐5.5914 8.38 ‐26.15 3.34 8.83 ‐14.05 0.34 4.32 ‐4.79 3.77 3.52 ‐1.04 ‐2.4115 4.97 16.85 9.15 3.35 1.77 7.11 ‐17.14 ‐5.63 0.80 ‐1.86 3.06 5.3316 ‐0.96 5.93 ‐0.79 ‐18.30 ‐2.50 ‐5.71 7.67 ‐10.67 ‐4.10 1.00 1.42 5.2517 ‐5.21 12.69 8.74 ‐20.74 9.32 ‐2.17 2.00 11.55 ‐4.42 5.00 ‐2.52 3.9918 ‐5.64 ‐15.07 4.26 6.11 ‐7.84 0.88 4.37 ‐0.14 3.53 0.09 0.17 ‐2.2719 ‐2.34 22.02 ‐13.88 1.09 ‐3.41 ‐14.74 ‐1.12 5.69 2.81 1.45 ‐0.81 ‐4.8820 ‐4.37 2.54 ‐21.39 6.49 ‐6.19 0.74 ‐4.79 ‐3.16 2.53 ‐0.17 ‐3.63 ‐2.8321 4.88 ‐49.98 15.38 12.70 15.10 27.80 2.22 ‐19.39 ‐7.77 ‐8.09 10.65 1.5822 59.07 ‐32.69 ‐23.93 14.81 3.81 ‐1.99

    e E e U e V

    4.構造ショックの識別 (1) 短期(同時点)制約:

    誘導型 VAR の残差 e   eE , eU , eV  ’  と構造ショック ε   εc , εs , εf  ’の関係は以下のように表現できる。

    11 12 1321 22 2331 32 33

    Α0ε

    ただし、εc は景気循環ショックを、εs は部門間ショックを、εf は労働供給ショックをそれぞれあらわす。 

    A0の符号条件は次のとおり。 11 0,  12 0,   13 0, 21 0, 22 0, 23 0, 32 0

    次に A0に以下のような同時点制約を課す。 ① 1 単位の景気循環ショックは、同時点の欠員数を 1 単位増やす → 31 = 1

    ② 1 単位の部門間ショックは、同時点の就業者数を 1 単位減らす → 12 = -1

    ③ 1 単位の労働供給ショックは、同時点の失業者数を1単位増やす → 23 = 1

    ④ 労働供給ショックは同時点の欠員数に影響を与えない → 33 = 0

  • 平成22年7~9月期

    - 62 -

    ⑤ 最後にインパルス応答が理論と整合的になるよう 32の値を設定 → 32 = 0.07

    以上の仮定から A0は次のように表現される。

    Α011 1 1321 22 11 0.07 0

      

    ただし、 11 0,  13 0,  21 0,  22 0 

    (2) 推計結果:

    以上の結果、推計された行列 A0及び識別された構造ショック ε    εc , εs , εf   ’  は次のとおり。

    Α01.516 1 16.0961.466 6.641 11 0.070 0

    年 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期

    52 ‐1.55 2.87 ‐1.18 ‐0.11 0.97 0.1253 ‐1.42 2.77 ‐2.17 ‐1.97 0.98 0.79 0.36 ‐0.80 ‐0.27 1.11 ‐1.85 0.3254 2.55 2.24 ‐2.56 0.78 ‐0.33 0.53 0.68 0.28 0.13 ‐0.56 ‐0.44 ‐0.9555 ‐3.97 ‐0.80 ‐1.41 ‐1.76 ‐1.40 ‐0.05 0.23 0.61 ‐1.33 ‐0.07 1.21 ‐1.1556 ‐0.05 2.94 1.15 ‐4.33 ‐0.27 1.14 ‐0.47 ‐0.35 ‐0.24 ‐0.84 ‐0.72 ‐0.1557 ‐1.60 ‐3.58 2.55 0.27 ‐0.36 ‐0.28 0.11 0.25 0.23 0.31 ‐0.79 2.2858 ‐1.26 ‐0.71 1.04 1.02 1.00 ‐0.36 0.38 ‐0.40 2.33 0.24 ‐0.35 ‐0.6559 ‐1.54 ‐0.31 ‐0.56 ‐2.70 0.90 ‐0.11 0.13 ‐1.24 ‐2.14 0.45 0.88 0.4860 ‐0.28 0.62 ‐2.72 ‐0.43 ‐1.42 ‐0.52 ‐0.52 1.22 ‐0.10 ‐0.84 ‐0.22 ‐0.8261 ‐0.11 ‐4.74 0.66 2.54 ‐1.48 ‐0.94 ‐0.03 ‐0.61 1.28 0.03 1.29 ‐0.0662 0.67 0.40 4.45 3.63 0.95 0.84 ‐1.32 0.63 ‐0.49 0.29 0.58 0.9063 ‐0.16 2.18 1.03 ‐0.31 0.98 ‐0.44 1.47 ‐0.10 ‐0.70 0.03 ‐0.70 ‐0.70元 0.73 3.80 0.27 ‐0.45 0.26 0.99 ‐0.22 0.01 0.01 1.07 0.54 0.082 3.26 3.09 5.36 ‐2.56 0.26 0.86 1.28 0.15 0.47 0.09 ‐0.37 ‐0.043 2.41 ‐0.16 2.99 ‐2.57 0.46 0.18 0.63 ‐1.48 0.87 0.65 0.33 ‐0.044 ‐0.45 ‐2.09 4.96 ‐0.98 ‐1.03 ‐1.54 0.12 ‐0.54 1.47 ‐0.96 ‐0.30 1.705 0.01 ‐1.26 ‐1.44 2.67 ‐0.69 ‐0.61 ‐1.25 0.71 ‐1.62 ‐0.27 0.73 1.266 2.03 1.37 0.62 ‐1.33 0.50 ‐1.08 0.79 ‐1.46 ‐1.11 0.05 ‐1.60 ‐0.657 2.70 ‐1.85 ‐2.36 2.69 0.53 ‐0.09 ‐0.12 1.26 0.12 ‐0.73 0.57 ‐1.248 2.98 2.36 ‐0.28 0.27 0.46 0.89 ‐0.63 0.34 ‐0.98 0.56 1.59 ‐0.709 ‐2.22 0.09 ‐1.08 ‐3.77 ‐0.75 ‐0.49 0.03 ‐0.24 1.90 1.31 ‐0.54 ‐0.74

    10 ‐6.81 0.21 ‐0.91 0.74 ‐0.98 2.21 0.21 0.38 0.61 ‐0.15 ‐0.68 ‐0.4711 1.21 ‐4.84 1.55 1.98 1.32 ‐0.53 ‐0.79 ‐1.55 ‐0.50 0.44 1.36 0.5612 2.48 0.02 2.60 ‐1.94 2.13 ‐0.47 0.54 1.14 ‐1.44 ‐0.25 0.04 1.4413 ‐7.26 ‐4.37 ‐3.29 ‐5.61 ‐0.64 0.27 0.72 0.35 ‐0.11 ‐1.62 ‐1.03 1.2314 3.86 3.44 ‐1.07 ‐2.32 ‐1.28 1.09 0.37 ‐1.34 0.08 ‐1.88 0.33 0.6815 0.77 ‐1.89 3.19 5.30 0.40 0.46 ‐1.90 0.36 0.26 1.25 0.15 ‐0.2716 ‐4.01 1.05 1.32 5.26 ‐1.30 ‐0.66 1.46 ‐0.20 0.24 0.23 ‐0.08 ‐1.6517 ‐4.45 4.95 ‐2.50 3.80 0.40 0.71 ‐0.36 2.80 0.12 0.37 0.76 ‐1.4718 3.55 0.07 0.12 ‐2.23 ‐0.29 0.29 0.64 ‐0.60 ‐0.70 ‐0.93 0.29 0.5519 2.80 1.59 ‐0.80 ‐4.86 0.17 ‐2.03 ‐0.22 ‐0.29 ‐0.40 1.09 ‐0.80 0.5120 2.55 ‐0.17 ‐3.54 ‐2.74 ‐0.29 0.05 ‐1.34 ‐1.17 ‐0.53 0.18 ‐1.08 0.5921 ‐7.79 ‐8.28 10.46 1.76 0.39 2.68 2.62 ‐2.60 1.06 ‐2.16 0.13 0.4622 4.03 ‐2.14 ‐3.18 2.02 3.09 ‐1.70

    ε c ε s ε f