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- 184 - 2.7 Switzerland スイス バーゼル ジュネーブ 州区分地図(26州) 言語圏別地図 ロマンシュ語圏 ドイツ語圏 フランス語圏 イタリア語圏 チューリッヒ ベルン 正式国名:スイス連邦 Swiss Confederation 1.面積 4.1 万 km 2 (九州よりやや小さい) 2.人口 736 万人 3.首都 ベルン(人口約 12.3 万人) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/switzerland/data.html 国の言語、使用状況 1.国語      ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語 2.公用語     ドイツ語、フランス語、イタリア語 3.その他使用言語 ドイツ語圏では、各地域の方言が使用されている

2.7 Switzerland スイス - Japan Foundation2.7 Switzerland スイス -187- 2.7.1.3 大学入学方法 大学入学資格試験(Matura)に合格すればどの大学のどの学部にも入学できる。ただし

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2.7 Switzerland スイス

バーゼル

ジュネーブ

州区分地図(26州)

言語圏別地図

ロマンシュ語圏

ドイツ語圏

フランス語圏

イタリア語圏

チューリッヒ

ベルン

正式国名:スイス連邦 Swiss Confederation

1.面積 4.1 万 km2(九州よりやや小さい)

2.人口 736 万人

3.首都 ベルン(人口約 12.3 万人)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/switzerland/data.html国の言語、使用状況 1.国語      ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語 2.公用語     ドイツ語、フランス語、イタリア語 3.その他使用言語 ドイツ語圏では、各地域の方言が使用されている

2.7 Switzerland スイス

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2.7.1 スイスの教育制度

就学前教育

2

6543

1

789

1234

幼稚園

3年または 3年半

小学校(26 州のうち 20 州では 6年、残りの 6州では 4年または 5年であるが、義務教育は全州小中校 9 年間である)

中学校(2~ 5年)ProGymnasium

専門職課程FMS/BMS

職業学校

見習い訓練

(Fachmaturitätschule)(Berufsmaturitätschule)

(Berufschule)高等学校(Gymnasium)

博士

修士

(最低 3年間)

32

(2年もしくは 3年間)

シニア課程

総合大学 専門工業大学

学士大学学部

年齢

15/16

11/12

19/20

64

州により 4年

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2.7.1.1 教育段階

  行政管轄(国、州、市町村) 年齢・年数 授業料

公的助成制度就学 /在学・進学率

学期制度(年度)各休みの長さ(公立校)

初等教育

州6 ~ 10 歳(4 年間)または 6 ~12 歳(6 年間) 州による

無料8 月中旬~ 6 月夏 6 週、10 月に 1 週間、2 月に 2 週間

中等教育

10 ~ 15 歳(5年)または12 ~ 15 歳(3年) 州による15 歳まで義務・16 ~ 19 歳(3~ 4 年)進学、専門職訓練課程に分かれる

無料進学課程入学者 45%、卒 業 者 18.4%

8 月中旬~ 6 月夏 6 週間、10 月に 1 週間、2 月に 2 週間

高等教育

国と州

学士 4 年、修士1 ~ 2 年、 博 士に分かれる(入学 年 2002 年 より)2002 年以前は在籍平均年数 6 年で L i z e n z i a t

(MA)を取得

800 スイス・フラン(半年)外国人学生は 950 スイス・フラン

入 学 者 17%卒業者 10.4%全 国 で93,000 人

10 ~ 2 月、4 ~ 7 月

2.7.1.2 統一/全国カリキュラム、試験制度

統一カリキュラムの有無、管理 試験制度・評価制度

初等教育10 歳または 12 歳までは同じクラスで同じ教師による授業が州の統一カリキュラムに沿って行われる。

進学先は成績表による。1 ~ 6 (最高)のうち専門職課程へ平均 4.5 以上、進学過程へは 5.0 以上なくてはならない。

中等教育専門職、職業訓練、進学課程の三つの異なる課程があり、それぞれの州の統一カリキュラムに沿って行われる。

専門職、職業訓練課程では週の中で職業見習と学業が同時に並行して行われる。進学課程では 1 から 6 (最高)のうち 4 以下が 3 以上あると留年。2 回以上繰り返せない。大学入学資格試験(マトゥーラ:Matura)合格者率は同年代の 18.4%(男子 16.4%、女子 20.6%)。フランス語圏ではこの比率がもっと高い。

高等教育(BA、MA、PhD)

大学 10 校、連邦工科大学 2 校、専門学校7 校

平均在籍年は 6 年だが、30%以上が卒業できない。大学卒業者は同年齢者の10.4%。ただし 2002 年までの入学者はLizenziat 制度で卒業し、MA と同等の資格を取得。現在、制度切り替え期に当たる。

2.7 Switzerland スイス

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2.7.1.3 大学入学方法 大学入学資格試験(Matura)に合格すればどの大学のどの学部にも入学できる。ただし2000 年からチューリヒ、バーゼル、ベルンの医学部では入学者制限があり適正試験による合格者のみが入学を許可される。2002 年現在 9 万 3 千人がスイス国内の大学に在籍し、うち 53%が女性、20%が外国人学生。入学者の同年齢者比率は、15%(専門学校入学者を入れても 28%)とヨーロッパの中でも際立って低い。

2.7.1.4 最近の教育に関しての一般的動向

a)就学・進学率に関して 中等教育の 3 課程のうち進学課程に入学希望者が年毎に増えているが、ギムナジウムの成績評価が厳しいので、途中で学校を替わる例が多い。職業課程や専門職課程は、学業の途中から職業斡旋・指導も施され、同時に学業も続けるようになっている。この課程を経て大企業の管理職になっている人も多い。

b)水準に関して 上記のように職業課程や専門職課程で身に付けた技術と、高等教育で切磋琢磨された知性が

「スイスの高品質」を支えているといえよう。ただし、昨今の不況で若者の就職先が限られてきているので、この伝統を危ぶむ声がある。また、2002 年に公表された 15 歳の生徒の読解能力国際比較、PISA 調査では、スイスは 17 位(日本は 8 位)と低い結果が出て、教育界を狼狽させた。しかし、2003 年の公表では、10 位から 13 位の間で順位回復が図られた。

c)履修科目に関して 専門職課程では、2004 年からさらに職業訓練に的を絞った履修科目にするため、四つのコース(教育実践 、 保健衛生 、 福祉 、 芸術)を設けた。名前も DMS (Diplommittelschule:中等資格校)から、資格修得をはっきり示す FMS (Fachmaturitätschule:専門修了校)に変更。進学課程では古典語系、現代語系、理数系、音楽系、経済系などに分かれている。職業課程では、週のうち半分ほど学校に通い、残り半分は見習い工として働く。その間給料が支給され、双方が合意すればそのまま就職もありえる。

d)試験制度に関して 中等教育での進学課程、および大学、工科大学では 2 回試験に落ちると退学となる。大学を退学になった場合は、スイス国内の大学の同じ学部には別の大学であっても入学することができない。従って、学生は試験に備えてよく勉強する。

e)財政に関して ギムナジウムの生徒には、一人当たり年間 4,500 ~ 6,000 スイス・フラン(CHF)が使われる。大 学 で は、 人 文 科 学 系 で 9,000 ~ 9,500CHF、 自 然 、 工 学 系 で 23,000CHF、 医 学 系 で は46,000CHF が投入されるが、大学の学費は 1,600CHF である。18 歳までの教育は、州からの税金のみでまかなわれている。大学でも学費からの収入は微々たるもので、連邦工科大学は全面的に国から財政援助を得ている。その他の大学では、26%を国からの財政援助、残りは州からの援助によってまかなっている。財政は常に逼迫しており、高等学校では音楽、体育関係を中心に経費節約を図っている。また、大学では毎年在籍者の少ない講座は閉鎖されるおそれがある。

f)教師、教員に関して 大学教授の 36%が外国人である。女性教授の割合を 7%(1998 年)から 14%(2006 年)へ引き上げることを目標としている。教師による採点が生徒の将来の進路を決定するため、小学校の教師の地位は非常に高い。また、中等教育においても教師の地位は高い。近年、若年層の就職が困難になり、その結果教師への希望者が急増し、例えば大学での教職課程を卒業してもギムナジウムの職が得難くなっている。

g)ヨーロッパ内の移動に関して 大学ではエラスムス・プログラムによる交流が盛んである。ECTS をスイス大学側では取り入れている。Leonard da Vinci、Jugend の欧州内公機関の交換留学プログラムで学ぶ学生も増えている。

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h)その他 スイスの教育は、初等教育から高等教育まで、地方分権が特徴。小学校では始業、終業時期、時間、教科書、進学制度などそれぞれの州によって異なっているために転校は容易ではない。大学では、第 1 学年から第 2 学年に、学生が約半数から 3 分の 2 に減らされるという選別傾向の試験や授業に批判が出ている。改革の要請はあるが実行にはなかなか到らない。1999 年に採択されたボローニャ宣言による BA、MA、PhD 制度への移行は 2002 年から始まっているが、大学によりこの切り替えはまちまちである。システム切り替えには経費と時間がかかることもあり、現在ほとんどの切り替えが終わっているのはベルン大学のみである。この徹底を見るのには、何年もかかりそうである。4 言語圏のうち、ロマンシュ語圏には大学がなく、イタリア語圏には大学が 1 校あるのみであり、国が経費の 26%、州が残りを受け持つために、経済地盤の弱いイタリア語圏では大学運営に負担がかかり過ぎている。

2.7.2 言語教育

2.7.2.1 CEFに関して

a)外国語教育政策にCEFが取り入れられているか。何かの公式な文書に触れられているか。 CEF は 2001 年 3 月 1 日の「スイス教育評議会」で協議され、各州教育省の指導要領に、CEFに基づいて言語教育行うよう明記された。このことにより、さまざまな機関が CEF を言語教育に取り入れるようになっている。

b)実際にCEFがレベル記述、評価、シラバスなどに取り入れられているか。 スイスにはナショナル・カリキュラムは無く、26 州の各教育省が、州毎に導入する。CEF に基づく言語教育を行うために、各州の教育省に ELP 担当者が配置されている。

c)最近の動向 各学校や、教師の間で浸透の差があるが CEF を基準とした言語教育が全体として広がっていく傾向がある。

2.7.2.2 ELP に関して

a)外国語教育政策にELPが取り入れられているか。何かの公式な文書に触れられているか。 ELP は 2001 年 3 月 1 日スイス全国教育機関の「スイス教育評議会」で協議され、ELP が全国の各教育省の指導要領に取り入れられ、各州に ELP 担当者が配置された。

b)実際に ELPが学習、評価などに取り入れられているか。 認定番号 1.2000 の ELP (15 歳以上成人を対象)が、ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語の 4 か国語で書かれており、早いところでは 2001 年から導入し、現在も将来的にも広く普及していく方向にある。外国語能力テストの受験級を ELP 評価表のレベルに合わせたり、語学学校入学時の能力判断テスト代わりに使用されている。また、語学学校によってはコースプログラム概要に ELP 評価表欄を大きく記載し、語学コース毎にそのレベルを載せていることころもある。 テシン州では、この ELP が 2001 年秋に職業専門学校に導入された。徐々にではあるが、各州の指導要領に導入されている。一例は中央スイス(5 州)教育省指導要領(英語)http://www.zebis.ch/inhalte/bildungsregion/lehrplaene/lp_englisch_39_2004.pdfで見ることができる。

c)最近の動向 ギムナジウムによってはすでに導入されており、義務教育段階では 2004 年 8 月新学期からELP2 の導入が行われる予定。ELP2 は 15 歳以下対象である。また義務教育、高校、高等教育機関だけではなく、スイス国鉄や郵便省が職員の語学研修に ELP を導入しており、今後連邦行政局も導入を考慮している。(2.7.5 参照)

2.7 Switzerland スイス

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2.7.2.3 初等教育での言語教育a)履修可能言語  スイスは地方分権型であるため、国が大まかな教育方針を打ち出し、州教育省が州にあ

った教育方針、制度を敷く。義務教育 9 年は国の基本だが、小中学校の分け方は、州により 6・3 制、5・4 制、あるいは 4・5 制となっている。母語以外の言語や外国語学習は州や地方により、開始する学年が異なるほか、言語圏により何を第 2 言語(第 1 外国語)や第 3 言語(第 2 外国語)とするかに違いがある。

  ドイツ語圏:母語がドイツ語の場合、第 2 言語(第 1 外国語)はフランス語で、5、6年生各学年週 4 時限履修。2002 年からチューリッヒ州は第 2 言語(第 1 外国語)として外国語の英語を導入開始。英語に切り替えるときは言語教育政策上スイスで使われている公用語のフランス語、イタリア語を第 2 言語(第 1 外国語)としないことに大きな波紋が起きた。

  フランス語圏:母語がフランス語の場合、第 2 言語(第 1 外国語)はドイツ語で、5、6年生各学年週 4 時限履修。

  イタリア語圏:母語がイタリア語の場合、第 2 言語(第 1 外国語)はフランス語かドイツ語で、5 年生より履修。

  ロマンシュ語圏:学校教育ではドイツ語が使われ、母語ロマンシュ語は口語として方言のようにして使われる。第 2 言語(第 1 外国語)はフランス語か、イタリア語。

b)達成目標、基準、試験  5、6 年生の 2 学年において第 2 言語(第 1 外国語の)週 4 時限は必須。聞く、話す、

書く、読むの 4 技能の基礎学習に目標を置き、義務教育 7、8、9 年生の積み上げ学習に繋げるのが目的。特別な試験はないが、平常の試験、期末試験などでの総合評価が通信簿に明記される。無試験でギムナジウム入学のためには 6 点満点で 5.5 点が必要。

2.7.2.4 中等教育での言語教育a)履修可能言語  前述のように州により異なるが、ベルン州ドイツ語圏では 7、8、9 年生の 3 年間にフ

ランス語、英語、イタリア語が履修可能言語である。一般には、7 年生でドイツ語(州の第 1 言語)を週 4 時限、フランス語 4 時限、英語 3 時限履修し、8、9 年生でフランス語 3時限、英語かイタリア語のどちらかを選択し 3 時限履修しなければならない。

  ただし、8、9 年生はどの学校に入学するかにより履修単位が週 2 時限か 3 時限かの違いがある。

b)達成目標、基準、試験    中学卒業後、職業・商工業高校やギムナジウムに進むが、他の公用語および外国語教育

は引き続いて行なわれる。ELP を導入している学校では、高校卒業時に第 2 言語(第 1外国語)としてのフランス語の到達目標は B2/C1 レベルとしている。

  ギムナジウムでは、高校によりイマージョン授業を行っており、例えば、数学選科のクラスが卒業まで第 1 外国語の英語またはフランス語で数学などの授業を受け、大学入学資格 (Matura)を取得することができる。イマ―ジョン教育である旨、Matura に明記される。

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2.7.2.5 その他の教育現場での言語教育a)履修可能言語  市民講座、語学学校などの機関でさまざまな言語が教えられている。1 機関で 15 ~ 20

言語が提供されている。また難民に対して、市町村毎に成人向けと子供向けとに分けて、ドイツ語、フランス語、イタリア語が教えられている。

b)達成目標、基準、試験  語学学校などのプログラムには、コース毎に ELP 評価基準や、どの試験の準備コース

かなどが明示されている。

2.7.2.6 教員の公的制度:資格認定、養成、研修 小中高等学校教員免許は大学卒業が要求される。現在、大学改革により小中高等学校のどのレベルかによって、養成年数や研修内容を各々設定するか検討中である。

2.7.3 日本語教育

2.7.3.1 最近の動向a)初等教育  初等教育で日本語教育は行われていない。  チューリッヒに日本政府認可日本人学校、ジュネーブに日本政府認可の在外教育施設で

ある日本語補習校があり、両学校の中に、片親が日本人の子供が、週に 1 回、継承語としての日本語の授業を受けられるコースがある。これに加え、バーゼル(Basel)日本語学校、ベルン(Bern)日本語教室、ルツェルン(Luzern)日本語教室の 3 校が、継承語としての日本語を教える特別学校として存在する。ここでは、週 1 回 90 分程度の日本語授業が受けられる。

  継承日本語としての日本語学習者数はスイス全国で約 230 人いる。バーゼル日本語学校では、在学中に日本語能力試験 2 級合格を目標としており、現地校に通学しながら、ほとんどの学習者がこの目標に到達する。

b)中等教育  現在、スイス国内のギムナジウム 8 校で、選択科目としての日本語の授業が行われてい

る。成績表に選択科目として書きこむが、点数をつける義務はない。ギムナジウムの選択教科の週授業数は 2 ~ 3 時限と相違はあるが、最後の年の 12 月に日本語能力試験を受けることを奨励している。日本語を選択科目として取り入れる学校(ギムナジウム)数がふえる傾向にある。

c)高等教育・日本学主専攻はチューリッヒ大学とジュネーブ大学の 2 校。日本語が選択科目としてあ

る大学は、ETH(スイス国立チューリッヒ工科大学)、サンクトガレン大学。 (日本の提携大学との間に交換留学制度によって訪日の機会があるが、講義は日本語で

はなく英語受けるため、日本語教育は組み入れられていない。留学前、留学中のどこかで集中日本語講座を受ける。)

・成人教育、その他 市民講座や語学学校でさまざまなレベルのコースが開かれている。

2.7 Switzerland スイス

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2.7.3.2 日本語教師の団体

日本語教育/教師の団体、問い合わせ先 対象 人数 備考

スイス日本語教師の会www.kyoshi-kai.ch

スイスおよびリヒテンシュタインで教鞭をとっている者、過去に 1 年以上教鞭をとったことのある日本語教師

60 人いろいろな機関、年齢を対象とした学習者に教える教師の集まり

2.7.3.3 日本語の教員

資格・背景 地位/処遇 日本語教員養成・研修

初等日本人学校での教師は日本からの派遣と、現地にいる日本の大卒で教員資格のある教師

大卒

中等 BA、MA、Dr など

高等 アシスタント以上は博士号が必要 教授陣は Habilitation 資格が必要

その他成人

特にないが、採用のとき教育学部卒や教育畑での経験があれば有利。ネイティブスピーカー教師がほとんど

スイス日本語教師の会は 1年に 2 回、定期的に教授能力向上を計るために日本語教育セミナーを開催。

2.7.3.4 その他

日本留学

制度/機関 期間 備考

・文部科学省国費研究留学生・文部科学省日本語・日本文化研修

留学生・提携大学 (例:ベルン大学は横浜

国立大/慶応義塾大学)間の教授の証明でクレジットは加算されるが、評価数値はない。

・スイス:日本商工会議所奨学基金

2 年1 年

1 年

1 年

学費生活費が支給される学費生活費が支給される

授業料相殺

3 か月の語学研修の後、少なくとも 9 か月間、日本企業あるいは在日外資系企業で働く。

日本との交流

国際交流基金招聘プログラム外務省作文コンテスト(日本滞在) 2 週間

日本語関係行事(スピーチ、能力試験など)

・毎年秋に大使館主催の日本語弁論大会・外務省作文コンテスト・JETRO ビジネス日本語能力テスト

2.7.3.5 日本語教育における問題点、要望、今後の展望 今後の課題として、成人教育機関の ELP 評価表を日本語能力試験などのレベルと対照させる必要がある。成人教育機関が率先して ELP 評価表を取り入れている現状をかんがみると、対応するレベルの判断が困難ではあるが、早急に取り組むべきである。それに関連して、将来できるであろう日本語版 ELP がスイスにおける日本語学習者にも親しまれるものとなるよう希望する。

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また、日本文化一般や漫画、武術を動機として日本語に関心を持つ青年層に日本語学習の機会を提供すること、彼らが長期にわたって日本語学習を継続できる制度の整備、教師側の教授法の改善が必要なのではないか。一方で、継承文化を背負う 2 世、3 世の継承日本語教育の継続と発展も望まれる。

2.7.4 情報源

教育一般に関する情報・スイス教育評議会 http://www.edk.ch・スイス連邦政府 http://www.admin.ch・ベルン州教育/指導要領等情報 http://www.erz.be.ch/bi_we/・チューリッヒ州 http://www.vsa.zh.ch

スイス教育システム http://www.bbw.admin.ch/html/pages/bildung-d.html

外国語教育に関する情報 http://www.edk.ch/d/EDK/Geschaefte/sprachen/ http://www.vsa.zh.ch/site/frame.php?navigart=tool&toolgruppe=2&tool=6&language=d

資格試験に関する情報 http://www.edk.ch/d/EDK/Geschaefte/framesets/mainDiplo_d.html

CEF、ELP に関する情報 http://www.unifr.ch/ids/portfolio http://www.sprachenportfolio.ch/pdfs/ESPIIKonzeptGenehmigungsfassungEDKdef.pdf

バーゼル大学 http://www.zuv.unibas.ch/uni/projekte/

ベルン大学 http://www.unibe.ch

スイス語学教育・語学教師のための雑誌 Babylonia からスイスの ELP 特集 http://www.babylonia-ti.ch

スイス成人教育機関市民大学講座ベルン http://www.vhsbe.ch

スイス成人教育機関市民大学講座バーセル http://www.vhsbb.ch

2.7 Switzerland スイス

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参考資料

Vogel, B.(2002).Das Volk der Dichter und Denker fühlt sich ge-pisa-ckt. Basler Zeitung, Tagesthema

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2.7.5

スイスでのELPの使用と浸透状況

スルツベルゲル - 三木佐和子

1.スイスの ELP 外国語学習の運用能力をどのように共通の枠で評価することができるか、という課題についてはヨーロッパにおいて長年考えられ、討論されてきたが、実際に CEF に基づき具体的な評価道具としての ELP が出版されるまでにはさまざまな段階が踏まれてきた。スイスのルシュリコンで開催されたスイス連邦政府の主導で行われ政府間のシンポジウムで CEF の必要性が確かめられた後、スイス・フリブール大学の言語研究所の Schneider 教授、チューリッヒの語学学校ユーロセンターの North 氏が、スイス国立研究プログラムの助成を受け、1993 年から 1998 年までの 5 年間、ELP の基礎的調査研究を実施した。その分析結果に基づいて作成されたポートフォリオの草案が 1997 年に欧州評議会に提出され、参加国 40 か国の代表とともに討議がなされた。さらに手が加えられ、1999 年に欧州評議会に認定されたものが ELP の第 1 号、スイス 2000.1 のモデルであり、多くの ELP の原型となっている。スイス教育評議会を始め、当時のスイス連邦商工業労働局、現在のスイス連邦経済省経済管轄局やスイス教育研究調整事務局、ミグロ語学学校(Migros Klubschule)などの協力のもとで、推進されたものである。このように ELP 開発は、義務教育から成人教育まで広範囲の学習者が対象になっていることが明らかである。2001 年 3 月 1 日には、スイス教育評議会が CEF の教育的背景をふまえ ELP の導入について、各州の教育省に公式文書で指示している。以後、ELP の使用は中等教育、高等教育、市民大学講座、私立語学学校、会社や企業に及んでいる。現在、スイスでは以下の 4 種類の ELP がある。

・European Language Portfolio III 15 歳から成人用 認定番号 1.2000・European Language Portfolio ELC 高等教育用 認定番号 35.2002・ELP II 11 ~ 15 歳対象    2004 年夏から販売中 2005 年夏認定予定・ELP I 6 ~ 11 歳対象 2005 年夏にモデル版出版予定 2006 年夏認定予定

 各州の教育省は、ELP の使用を奨励するため各州に言語教育者の中から ELP 担当者を任命し、担当者は本業の何十パーセントかを州教育省からの委託業務としている。その業務内容は委託側の教育省の方針により、州毎に違ってくるが、基本的なことは、ELP の普及に積極的に努力し、導入後のフィードバックや新情報提供、意見交換などである。

2.初等教育での早期英語教育 スイスの言語教育における最近の動向として、早期英語教育がある。4 か国が公用語として使われているスイスであるから、ドイツ語圏の場合、第 2 言語は公用語のなかのフランス語、あるいはイタリア語でありそうだが、州教育省は英語を取り入れる姿勢を打ち出した。それは英語が外国語として子供達の身近な環境にある言語であり、英語を学習することで将来有利になるという見解である。東スイスにあるアッペンツェル州では 2001 年 8 月の新学期から小学 3 年生で英語学習をしており、また、中央ドイツ語圏では 2005 年以後、3 年生

2.7 Switzerland スイス

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からの児童を対象に早期英語導入が行われると発表した。ウリ州の例を見ると、英語は 3、4 年生の後も続き、5、6 年生ではイタリア語が選択科目に加わるが、その州の教案には 5 年生のイタリア語が必須習得言語として掲げられている。チューリッヒ州では 2004 年 8 月の新学期から、小学 2 年生から英語学習の可能性が与えられ、その州の教案には年間 80 時間の英語学習が加わっている。2006 年からは 4、5、6 年生にも英語学習が導入される。5 年生からはフランス語を第 3 言語として学習する。このように州毎の教育省で学習言語導入案が違っている。しかし時期がずれているとはいえ、確実に全スイスで英語の早期導入が推し進められている。すでに出版されている ELP II (11 ~ 15 歳)や、2005 年に出版予定の ELP I

(6 ~ 11 歳)が、このような義務教育課程の言語語教育にどう導入されていくか、興味が持たれる。

3.中等教育での言語教育 近年、ギムナジウム(Gymnasium)では、州教育省が認可する 2 言語授業方式(イマージョン教育)や、2 言語での大学入学資格(イマージョン・マトゥーラ)が取得できるカリキュラムが急速に導入されている。導入言語は主に英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語で、学校によって違うが、歴史、数学、生物、地理、化学、体育、美術などの授業が第 2 言語で行われている。チューリッヒ州では現在 10 校が実施しており 2006 年にこのイマージョン・カリキュラムのパイロット・プロジェクトの報告が提出される。一方、バーゼル州では 2000 年から、この形式の授業が 4 校で行われており、大体 1 学年に平均 1クラスが、イマージョン・マトゥーラを目指している。ただし、このマトゥーラでは筆記試験のみで、口答試験は行われていない。 ベルン州では 2001 年に始められたイマージョン・コースの生徒が、2004 年 6 月に第 1 期州認定(国認定と同効力)のイマージョン・マトゥーラを取得し卒業した。イマージョン・コースに入ったら 3 年間、他の専攻クラスへの移動は出来ないことになっている。第 2 言語の習得のために、ELP は義務づけられておらず、生徒の自発的使用にまかされている。学習言語圏での滞在が、夏休み中や夏休み明けから秋休みまでの 5 ~ 10 週間学校から許可されている。留学経験などを経て「聞く、書く」の技能の伸びが顕著になる過程を ELP の言語学習記録欄の記入で見ることができるのは、生徒たちにとって言語学習への動機付けや喜びにつながっているようである。 ELP はイマージョン・コースだけではなく、第 2、第 3 言語の授業でも使用されている。ベルン州のあるギムナジウムで語学担当教師 25 人にアンケートをとってみたところ ELP を使用している教師は 14 人であり、ほかは使用していない、またはこれから導入を考えていると、同じ学校内でもさまざまであることがわかる。ELP が導入されている言語は、フランス語、英語、ロシア語、選択科目の日本語で、ELP を使用する生徒の延べ数は 135 人であった(一人の生徒が 2、3 か国語のチェックリストを保持する場合も含む)。必須科目フランス語は 5 年生から、また英語は 7 年生から学習するので、ギムナジウムでは大半が CEF参照レベル A2 からスタートし、言語系選択の生徒は C1 を、言語の授業数が少ない理科系選択の生徒は B2/C1 を到達目標としているという結果が出た。 スイスのギムナジウムでは日本語は選択科目として教えられており、日本語が週 3 時限ある学校は、2 年後に 105 時間ほどの学習時間で CEF レベル A1/A2 に値し、日本語能力試験4 級に臨む。週 2 時限の学校では 3 年後に 4 級に臨むことを目的としている。ELP チェックリスト記入に関しては、書く技能のところでは A1 の欄にすでに「簡単な新聞記事を読むこ

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とができる」などという漢字学習が進んでいなければ困難な項があり、これらの日本語表記に関する不適当な部分が日本語ポートフォリオを制作する際に考慮すべき点になろう。

4.学校教育外の日本語教育 市民大学講座や私立語学学校の日本語教育は、ギムナジウムと違い在学年数が決まっていないので、生涯教育の場として長く続けられるのが利点である。市民講座事務局や機関に対して CEF の基準を背景にして ELP が導入されたのは ELP スイス仮認定版がでた 1999 年ころからで、フリブール大学等の語学研究所研究員などが普及にあたった。 また、ELP の開発者が所属しているミグロ語学学校は、組織的に語学学校校長らを集め研修会を開き、CEF 基準、ELP を先駆けて導入し、定期的に情報提供とフィードバックを行っている。主要言語(ドイツ語、イタリア語、フランス語、英語、スペイン語)の語学教科書を独自出版し改訂を重ねていて、教科書の表紙に到達目標が A1、B1 などと大きく印刷されている。 市民大学講座でも CEF 基準を取り入れているところと取り入れていない機関とがあるが、ここではバーセル州とベルン州の市民講座 2 校の日本語コースプログラムを例としてあげる。CEF 参照レベル 6 段階の表示があり、入学、あるいは目標を決める際の目安となる。教科書のどの課を勉強中か、コース料金などプログラムには詳しく書いてあるが、下記に各日本語コースとレベルのみを表で対照した。

表 1 2004/2005 年秋冬半年コース

バーセル市民大学講座 日本語コース CEF参照レベル 1. Japanisch 初心者コース まったくの初心者 A1 2. Japanisch II A1 3. Japanisch III A1 4. Japanisch IV A2 5. Japanisch V A2 6. Japanisch VI A2/B1 7. Japanisch  日本語能力試験準備コース A2 8. Japanisch 中級 Ⅰ B1 9. Japanisch 中級 Ⅱ B1/B210. Japanisch 中級 Ⅲ B2/C111. Japanisch 上級 C1/C212. Japanisch 日本体験コース(3 回のみ) A1

表 2 2004/2005 年秋冬半年コース

ベルン市民大学講座 日本語コース CEF参照レベル 1. Japanisch 初心者コース まったくの初心者 昼コース A1 2. Japanisch 初心者コース まったくの初心者 夜コース A1 3. Japanisch Ⅱ A1 4. Japanisch Ⅲ A1 5. Japanisch Ⅳ A1/A2 6. Japanisch  日本語能力試験 4 級準備コース A1/A2 7. Japanisch Ⅴ A2/ B1 8. Japanisch  日本語能力試験 3 級準備コース A2/B1

2.7 Switzerland スイス

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 上記機関の英語のコースなどは、朝、昼、午後、夕方、夜などと時間的にも選択が広く、A1 コースは 10 講座、A1/A2 コースが 3 講座など英語だけで 75 講座がある。また他の言語20 か国語もすべて CEF 参照レベルで表してある。成人層の言語学習者にとって ELP の使用目的は、学習の動機付けだけではなく、直接就職にも役立つことである。パスポートや学習資料集に記入した言語記録、試験合格記録などは雇用者が選考や面接の際、言語能力を的確に図れる資料となっている。

5.企業での ELP 成人個人による使用とは別に郵政省(SwissPost)やスイス国鉄(SBB)などの企業でもELP が利用されている。 郵政省では、ベルンにある本省ビルに語学トレーニングセンターが設けられており、ドイツ語、スイス独語(スイスの方言)、フランス語、イタリア語、英語コースがあり、約 30 人の専門トレーナーがいる。この語学センターは、外国にあるスイス郵政機関や、全国の郵政省支部からの希望を受け、語学コースを企画、調整する組織でもある。観光地を走るポストバスの運転手や郵便局の窓口係りのための語学、あるいは既成の郵便パンフレットを他の言語へ訳すことから、国内、国際間の契約を結ぶなどといった、口頭、筆記の言語運用力、またビジネス、政治面の知識にまでにおよぶコースデザインを要求される。CEF の基準とELP の導入説明は、2003 年 11 月にまず、欧州評議会 ELP プロジェクト代表者の一人であるシェーラー氏(Mr.Rolf Schaerer)によりセンターのトレーナー相手に行なわれた。このセンターでは情報を提供したり、語学向上を図ることにより仕事上の目的を達成しようとする人たちが学習できるクラスを開講したりする。また、センターが指定する市販の語学学習CD を使った遠隔独学学習システムもあり、トレーナーが一定の期間毎にインタビューを行って、学習向上度を評価する方法も導入されている。要請があれば郵政省本省内でも国内に散在する郵政省支部内でも行う用意があるそうだ。語学コースは A1 ~ C2 の評価で表示してあり、今後省内では採用や人事異動に際し、言語ポートフォリオを資料として使い、再就職や転部などを希望する局員の言語評価の透明性を高めることが求められている。郵便局員と客が複言語社会にあってもスムーズなコミュニケーションができることが導入を図る第一目的である。 国鉄の場合は独自の ELP を開発しており、これはスイス開発認定版 ELP を参考にしたもので、Talxx (英語 talks〔to:ks〕をもじったものと xx エキストラ)と名づけられ、客サービス部門の職員にのみ使用している。全国 12 か所に担当者をおき、ELP 使用ための社内研修会が定期的に持たれている。ELP のチェックリストにある “ ~ができる(can do)” 項目は、職場サービス部門用に開発した具体的なもので、一例として、「見本市入場券と電車代とを組み合わせた周遊券の買い方が説明できる」などを設定している。約 4,000 人の職員が対象であり、入社後すぐに ELP 導入説明をし、語学学習奨励をする。国鉄内に語学センターが設置されてないので、語学コースをとる場合は、市民講座や、私立の語学学校へ通うことになる。コース料金の一部負担や国内国外での語学研修への参加援助などの支援策があり、仕事時間の便宜を図ったりして、コースを長く続けられるようになっている。また、より幅広い語学力を得て、職場で使えるよう奨励されている。

 このように幅広い年齢層で、その学校や機関、また個人にあった ELP の使い方があるのを見てきたが、EU 拡大に伴い、人のモビリティーはもっと広範囲になってきた。今後、就

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職の際に語学力が問われ、ELP の利用が広がるだろう。日本語教育においても、ELP は将来、まだ時間が掛かるとは思われるが、留学先、就職先のどの担当にも良く分かる透明性のある信頼性の高い資料となるに違いない。

参考資料

Lenz, P and Schneider, G (2004) “Developing the Swiss Model of the European Language Portfolio” in Schneider, Guenter and Lenz, Peter European Language Portfolio Guide for Developers. Babylonia 2/04 University of Fribourg,Lern-,Forschungszentrum Fremdsprachen

欧州評議会認可のスイス ELP について http://www.sprachenportfolio.ch/esp_e/aktuell/index.htmスイス ELP についての教育誌記事 http://www.babylonia.ti.ch/BABY91/baby400.htmスイス成人教育機関市民大学講座ベルン http://www.vhsbe.chスイス成人教育機関市民大学講座バーセル http://www.vhsbe.chカルチャーセンターミグロ学校 http://www.klubschule.chLern- und Forschungszentrum Fremdsprache 言語教育研究センター http://134.21.12.87/portfolio/backgraund/developementスイス教育システム各州毎に検索可能 http://www.sbf.admin.ch