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平成27年度製造基盤技術実態等調査 (我が国ものづくりベンチャーの動向等調査)報告書 20163

平成27年度製造基盤技術実態等調査 (我が ... · あるスタートアップ企業は、プロトタイプが完成し、クラウドファンディングも成功。量産化に向けて国内の中小企業を数十社巡ったが、量産試作

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平成27年度製造基盤技術実態等調査(我が国ものづくりベンチャーの動向等調査)報告書

2016年3月

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調査目的・概要

「メイカーズ」、「3Dプリンタ」のブームが起こった2012年以降、モノづくりで起業する、いわゆる「ハードウェア・スタートアップ」の存在が注目されるようになった。それらのブームの後押しや、様々な事業環境の変化が影響し、今では個人や少人数のチームで製品開発に取り組む人々は着実に増加しており、そこから起業して事業化に成功した事例も少なからず登場している。

これら「ハードウェア・スタートアップ」は、大胆なアイデアや先鋭的な技術を、スピード感を持って事業化するポテンシャルを有しており、ものづくりの分野における「イノベーション」の重要な担い手、ひいては、わが国経済の牽引役になり得るとして期待されている。

一方で、個別のハードウェア・スタートアップの状況に目を移すと、彼らを取り巻く環境は決して易しいものではない。資金、技術、設備、人材など、あらゆる要素が不足しており、事業化にたどり着けず失敗に終わるケースは後を絶たない。また、日本以外の国々において、強力なハードウェア・スタートアップが次々に登場しており、手をこまねいていると日本がハードウェア・スタートアップの世界的な潮流から取り残され、大きなビジネスチャンスを失うという事態も起こりかねない。

これらのことを考慮すると、わが国において、政府・行政、産業界、教育界、金融界など、国をあげてハードウェア・スタートアップの事業環境を整備し、支援・育成していくことが重要だと考えられる。

そこで本調査では、わが国におけるハードウェア・スタートアップ支援のあるべき形を明らかにするため、現在のハードウェア・スタートアップが直面している課題を整理し、その解決の方向性を検討した。

具体的には、わが国におけるハードウェア・スタートアップ業界の第一線で活躍するキーパーソン3名を委員とする研究会「メイカーズ2.0研究会」を開催するとともに、ハードウェアスタートアップやそのパートナーとなる主体に対してアンケート調査を実施。その成果を踏まえて提言を取りまとめた。

Ⅰ.「メイカーズ2.0研究会」の開催・運営

Ⅱ.ハードウェアスタートアップ等を対象としたアンケート調査の実施

Ⅲ.提言の取りまとめ

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目次

第1章 「メイカーズ2.0研究会」の開催

第2章 ハードウェア・スタートアップを対象としたアンケート調査の実施

第3章 成果の取りまとめ

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第1章 「メイカーズ2.0研究会」の開催

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メイカーズ2.0研究会 実施概要

開催目的

現在のハードウェア・スタートアップが直面している課題を整理し、その解決の方向性を検討するための研究会「メイカーズ2.0研究会」(全3回)を開催。

研究会委員

ハードウェア・スタートアップ業界の第一線で活躍するキーパーソンである以下の3名を委員として招聘

‒ グローバル・ブレイン株式会社 Venture Partner 青木英剛様

‒ 株式会社nomad 代表取締役 小笠原治様

‒ 慶應義塾大学 准教授 白坂成功様

ゲストスピーカー

第2回研究会では、論点の一つ「量産化の壁」の問題を深掘りするため、ハードウェア・スタートアップの試作・量産化支援を行う企業の代表社2名をゲストスピーカーとして招聘。

‒ 株式会社ミヨシ 代表取締役 杉山耕治様

‒ 株式会社Darma Tech Labs 代表取締役社長 牧野成将様

事務局

‒ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 経済政策部 北洋祐 齋藤禎

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メイカーズ2.0研究会 各回の実施内容

出席者 主な論点

第1回研究会

(平成28年2月18日 13時~15時)

【委員】

グローバル・ブレイン株式会社 青木英剛様

株式会社nomad 小笠原治様 慶應義塾大学 白坂成功様

【事務局】

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 北、齋藤

我が国ハードウェア・スタートアップの直面する課題

「量産化の壁」について

「メーカーズ支援施設」の在り方について

「オープンソースハードウェア」の可能性について

アンケート調査等の進め方について

第2回研究会

(平成28年3月10日 13時~15時)

【委員】

グローバル・ブレイン株式会社 青木英剛様

株式会社nomad 小笠原治様 慶應義塾大学 白坂成功様

【ゲストスピーカー】

株式会社ミヨシ 杉山耕治様

株式会社Darma Tech Labs 牧野成将様【事務局】

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 北、齋藤

ハードウェア・スタートアップの「量産化の壁」の克服に向けて

ハードウェア・スタートアップと中小ものづくり企業の連携に

ついて(杉山様より問題提起)

量産化試作に特化したアクセラレーションプログラム

「Makers Boot Camp」について(牧野様より問題提起)

「量産化の壁」克服に向けた政策のあり方について

第3回研究会

(平成28年3月24日 18時~20時)

【委員】

グローバル・ブレイン株式会社 青木英剛様

株式会社nomad 小笠原治様 慶應義塾大学 白坂成功様

【事務局】

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 北

ハードウェア・スタートアップの「資金調達の壁」について

メイカーの裾野の拡大について

報告書取りまとめの方向性について

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第2章 ハードウェア・スタートアップ等を対象としたアンケート調査の実施

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アンケート調査 実施概要

開催目的

‒ ハードウェア・スタートアップが抱えている課題を明らかにするため、ハードウェア・スタートアップや、ハードウェア・スタートアップを中心とした生態系の内に位置づけられるプレイヤーに対して、聞き取りによるアンケート調査を実施。

調査手法

‒ 調査員が調査対象に訪問または架電し聞き取り

調査対象

‒ ハードウェア・スタートアップ及び、ハードウェア・スタートアップのサポート主体 計12件

調査項目

‒ 量産化における課題と解決方法(ハードウェア・スタートアップへの質問)

‒ ハードウェア・スタートアップと中小企業の連携における課題(サポート主体への質問)

‒ その他、ハードウェア・スタートアップの事業化における課題と政策ニーズ(全体への質問)

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(ハードウェア・スタートアップが実際に直面した「量産化の壁」)

あるスタートアップ企業は、プロトタイプが完成し、クラウドファンディングも成功。量産化に向けて国内の中小企業を数十社巡ったが、量産試作

や量産に協力してくれる企業が見つからず、量産に至らなかった。クラウドファンディングでの調達金額は返金対応し、その一部は自己資金で

まかなった。このようなプロジェクトは一定数存在しており、「量産化の壁」の問題を感じる。

あるスタートアップ企業は、量産に協力してくれる企業は見つかったものの、プロトタイプが量産に適したものとなっていなかったために設計を

やり直す必要が生じた。そのため開発期間の延長、開発費用の増大という影響が生じ、資金難に陥った。

量産に協力してくれる企業は見つかったものの、製造原価が想定を大きく上回り、クラウドファンディングでの出荷分は赤字となった

量産化の経験を持つメンバーが内部にいなかったため、一社のODMメーカーに設計から試作・量産までを委託。最初のロットの生産までは非常にスムーズに進んだが、その後委託先との関係が悪化。新機種の開発が進まず、かといって委託先を切り替えることもできず、事業のスピー

ドが鈍化し、原価高騰により利益も圧縮された。

ある大手メーカーから、量産化試作から量産までの協力と、さらに量産資金の提供までの申し出があった。しかし、その後、大手企業側の社内

調整が進まず、開発期間が長引き、資金難に陥っている。

試作や量産に協力してくれる企業を探していた頃、最初はインターネットなどで独力で探していたが、良さそうな企業を見つけて打診しても門前

払いされるなど、上手くいかなかった。スタートアップ起業家仲間に相談したところ、深センの企業を紹介され、そのまま深センで試作をするよう

になった。

試作に関して、日本の企業と深センの企業の両方に打診したが、日本の企業はレスポンスが遅く、数週間先のミーティングを提案された。一方

で深センの企業からはスカイプでの当日の打合せを提案された。スピードの違いを感じ、深センの企業との取引を選択。

「量産化の壁」の実態

アンケート調査結果

ハードウェア・スタートアップやその関係者からは、量産化の壁の実態として、以下のような事例を把握できた。

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(経験不足・マインドの問題)

ハードウェア・スタートアップと連携しようとしている中小企業は、本業では中堅以上の企業からの下請け的な仕事が大半であり、スタートアップ

と深く関わりながら開発・試作をしていくということには経験値が絶対的に足りていない。日本語話者どうしなのに、話が全くかみ合わないことも

少なくない。ただし、これはあくまで経験値の問題だと考えており、場数を踏んでいくことで良くなっていくものだと考えている。

ただし、そもそもスタートアップに対して「歩み寄ろう」、「理解しよう」という意識が無い企業は、どうやっても上手くいかない。スタートアップ向け

の開発試作に関して前向きな企業は日本全体の中でも限られており、それはある意味で仕方ないことである。

(中小企業のネットワーク化)

日本には、試作や小ロット生産を得意とする企業は多く、本来であれば日本のハードウェア・スタートアップを支える役目は日本の中小企業が

担うべきだし、担いたいと思っている。しかし、実際問題として、ハードウェア・スタートアップの方々に話を聞くと、「量産試作・量産は深センで」と

考えているケースが多い。これは非常に悔しい話で、今後はこれを「試作・量産なら当然日本でしょ」と言ってもらえるように、中小企業の側が努

力をする必要がある。

今後は、このようなスタートアップとの連携に意欲的な企業を全国レベルで繋いでいくことが重要になる。一つの企業や一つの地域だけでは、

分野的にこなせない案件も多く、企業単位、地域単位で完結させることは現実的ではない。「日本を世界の試作拠点にする」ことが重要であり、

同じ志を持つ企業を探して広く連携していく必要がある。

最近では、地域を単位とした中小企業のネットワークが緊密になり、また、その地域単位のグループどうしが繋がるという現象も起こってきてい

る。これは、多様な業種が含まれるネットワークとして成長する可能性があり、期待したい。例えば、製造業コマ大戦のような取組や、オープン

ファクトリーに取り組む地域などでは、このようなネットワークができつつある。

ハードウェア・スタートアップとものづくり中小企業の連携にかかる課題

ハードウェア・スタートアップのサポート主体からは、ハードウェア・スタートアップとものづくり中小企業の連携にかかる課題として、以下のような意見が得られた。

アンケート調査結果

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(IoTの普及促進)

行政としてまずやってほしいことは、言い方が悪いが「プロパガンダ」である。IoT分野が今後の日本社会においてますます重要性が高まっていくこと、そして、その発展のためには「オープンソースハードウェア」が重要である、ということを、行政の立場から発信してもらいたい。そうすることで、今は無

関心な大企業がそこに興味を持ち始めるし、理解が深まって、適切な案件に資金が配分されるようになる。(今は、このIoT分野に資金が集まっているようにも見えるが、実際にはプレゼンが上手い一部の人に資金が集まっているだけで、もっと重要なことをしている人にきちんと資金が回るようにしな

ければならない)

(オープンソースハードウェアの普及促進)

オープンソースハードウェアに関しては、製造物責任の所在の問題など、グレーな領域が多く、実際に取り組もうとしている人達が躊躇する場面が多

い。もし、行政が「ガイドライン」のような形で、運用ルールの原則を示してくれれば、一気に加速する

ものづくりの分野において、オープンソースの概念や手法が普及することで、ハードウェア・スタートアップが製品を開発しやすくなるだけでなく、日本の

中小製造業まで広く恩恵を受けると考えられる。様々な技術やモジュールごとの設計図がオープンにされていれば、それを組み合わせることで自社製

品の開発の敷居が格段に下がる。例えば、機械式の腕や足、それを動かすソフトウェアがそれぞれオープンになっていれば、それらを組み合わせて

ロボットを作って事業化することも可能になるかもしれない。それらオープンになっているモジュールを「製造」するところで強みを発揮する企業も多く出

てくるだろう。ソフトウェアと異なり、ハードウェアは実物を「作る」、「組み立てる」という工程が必要になる。つまり、同じデータを用いたとしても、製造者

の技術しだいで、完成品の品質にばらつきが出る。ここを、例えば日本の中小製造業が、高い製造技術で強みを発揮し、オープンソースハードウェア

の製品やモジュールの生産を担っていくというシナリオもあり得る。また、開発者にとっても、自社の技術や図面をデュアルライセンスで配布することで、

オープンソースの恩恵を受けながら、ライセンス収入を得ることが可能である。

オープンソース化によって、このような、「オープンな環境で開発が進む」という恩恵の他に、死蔵されている技術・知財が活用できる(ライセンスでき

る)という効果も期待できる。日本の大企業は大量の死蔵特許を有しており、仮にこれらをオープンにすることができれば、日本のオープンソースハー

ドウェア化の流れは一気に加速すると考えられる。METIが旗振り役となって、大企業の死蔵特許をオープン化させるような取組ができると面白いのではないか。

ハードウェア・スタートアップ支援に向けた政策ニーズ

アンケート調査結果

調査対象企業等からは、ハードウェア・スタートアップ支援に向けた政策ニーズとして、以下のような意見が得られた

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第3章 成果の取りまとめわが国ハードウェア・スタートアップの活性化に向けた課題

(注) 本調査において開催した「メイカーズ2.0研究会」は、「ハードウェア・スタートアップの課題を幅広く抽出すること」を目的とした短期間・少数回開催の研究会である。そのため本章に記載されている内容については、研究会の成果に基づいているものの、詳細部分まで各委員の承認を得たものではなく、文責は事務局である三菱UFJリサーチ&コンサルティングに帰属する。

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目次

1. わが国ハードウェア・スタートアップの活性化に向けた課題の整理

2. 「事業化」における課題

2.1.「量産化の壁」の克服

2.2.「開発資金の壁」の克服

3. 「裾野の拡大」における課題

4. 今後の検討が必要な課題

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わが国ハードウェア・スタートアップを取り巻く状況

「メイカーズ」、「3Dプリンタ」のブームが起こった2012年以降、モノづくりで起業する、いわゆる「ハードウェア・スタートアップ」の存在が注目されるようになった。それらのブームの後押しや、様々な事業環境の変化が影響し、今では個人や少人数のチームで製品開発に取り組む人々は着実に増加しており、そこから起業して事業化に成功した事例も少なからず登場している。

これら「ハードウェア・スタートアップ」は、大胆なアイデアや先鋭的な技術を、スピード感を持って事業化するポテンシャルを有しており、ものづくりの分野における「イノベーション」の重要な担い手、ひいては、わが国経済の牽引役になり得るとして期待されている。

一方で、個別のハードウェア・スタートアップの状況に目を移すと、彼らを取り巻く環境は決して易しいものではない。資金、技術、設備、人材など、あらゆる要素が不足しており、事業化にたどり着けず頓挫するケースは後を絶たない。また、日本以外の国々において、強力なハードウェア・スタートアップが次々に登場しており、また、彼らを中心とする産業の生態系が成長しつつある。手をこまねいていると日本がハードウェア・スタートアップの世界的な潮流から取り残され、大きなビジネスチャンスを失うという事態も起こりかねない。

これらのことを考慮すると、わが国において、政府・行政、産業界、教育界、金融界など、国をあげてハードウェア・スタートアップの事業環境を整備し、支援・育成していくことが重要だと考えられる。

本調査では、このことを踏まえ、わが国におけるハードウェア・スタートアップ支援のあるべき形を明らかにするため、現在のハードウェア・スタートアップが直面している課題を整理し、その解決の方向性を検討した。

1.わが国ハードウェア・スタートアップの活性化に向けた課題の整理

ハードウェア・スタートアップはイノベーションの担い手であり、わが国経済の牽引役として期待され、

政府、行政、産業界、教育界、金融界など、国をあげて支援していく必要がある

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本調査では、わが国ハードウェア・スタートアップの活性化に向けて、「事業化における課題」と、

「裾野の拡大における課題」の2点について検討

わが国ハードウェア・スタートアップの活性化に向けた課題(全体像)

近年、デジタル工作機器の低価格化やクラウドファンディングの普及、各種ものづくり施設・コミュニティの充実に代表されるように、個人や少人数でも製品開発に取り組みやすい環境が整い、アイデアを「プロトタイプ」として具現化することに関しては着実に敷居が下がっている。一方で、わが国ハードウェア・スタートアップの活性化を図るうえでは、まだまだ多くの課題が残されている。

一つは、「プロトタイプ」の製作までは進んだハードウェア・スタートアップが、その次の段階である量産試作や小ロット量産の段階でとん挫するという問題である。ここには、製造技術・設備や十分な資金を持たないハードウェア・スタートアップ特有の課題が多く潜んでいる。本調査では、このようなハードウェア・スタートアップの「事業化における課題」を整理し、その克服の方向性を検討する。

二つ目は、ハードウェア・スタートアップを志す人の数と多様性がまだまだ不足しているという問題である。ものづくりの敷居が下がり、興味を持つ人が増加してきているとはいえ、実際に製品開発に取り組む人は限られており、それを事業化するという意思を持つ人はさらに少ない。本調査では、このような「ハードウェア・スタートアップの裾野の拡大における課題」についても整理し、解決の方向性を検討する。

0 アイデア

1 量産試作

10,000 大規模量産

1,000 小ロット量産

0.1 プロトタイプ

裾野の拡大における課題

事業化における課題

図表1 ハードウェア・スタートアップの発展プロセスと課題の所在

1.わが国ハードウェア・スタートアップの活性化に向けた課題の整理

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2.1.「量産化の壁」の克服

製造の

担い手

Ⅰ.開発・機能試作(1個)

Ⅱ.量産試作・少量量産(~1000個)

Ⅲ.中量量産(~1万個)

Ⅳ.大量量産(1万個~)フェーズ

自社 小ロット企業

試作企業 中堅・大手企業

ハードウェア・スタートアップが量産化の段階でつまづき事業化にたどり着けない「量産化の壁」の問題が深刻化

「試作・小ロット企業」との連携がカギを握るが、両社の間でミスマッチが生じ連携が進まない状況

×

×

わが国の「ハードウェア・スタートアップ」を取り巻く環境は急速に変化している。現在では、個人や少人数のチームが自らのアイデアや技術を活かして製品を企画し、設計し、プロトタイプを作るところまでは、比較的スムーズに行える環境が整備されつつある。

一方で、そのプロトタイプを製品として量産していく工程においては事情が大きく異なる。量産化の工程では、生産技術や生産設備を持つ既存の製造業企業との緊密な連携が必要となるが、実際にはハードウェア・スタートアップと既存の製造業企業のマッチングが上手くいっていないケースが散見される。

通常、量産化を目指すハードウェア・スタートアップは、試作や小ロット量産を得意とする中小企業を製造面でのパートナーとして期待することになる。しかし、情報不足によって適切な企業にたどり着けない、あるいはたどり着いても連携が上手く進まない等のケースが多く、その結果、量産化に躓いて事業化にたどり着けない、という「量産化の壁」の問題が深刻となっている。

ミスマッチ

多くのハードウェア・スタートアップが「量産化の壁」に直面

図表2 ハードウェア・スタートアップの事業化における課題(製造面)

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あるスタートアップ企業は、プロトタイプが完成し、クラウドファンディングも成功。量産化に向けて国内の中小企業を数十社巡ったが、量産試作や量産に

協力してくれる企業が見つからず、量産に至らなかった。クラウドファンディングでの調達金額は返金対応し、その一部は自己資金でまかなった。このよ

うなプロジェクトは一定数存在しており、「量産化の壁」の問題を感じる。

あるスタートアップ企業は、量産に協力してくれる企業は見つかったものの、プロトタイプが量産に適したものとなっていなかったために設計をやり直す必

要が生じた。そのため開発期間の延長、開発費用の増大という影響が生じ、資金難に陥った。

量産に協力してくれる企業は見つかったものの、製造原価が想定を大きく上回り、クラウドファンディングでの出荷分は赤字となった

量産化の経験を持つメンバーが内部にいなかったため、一社のODMメーカーに設計から試作・量産までを委託。最初のロットの生産までは非常にスムーズに進んだが、その後委託先との関係が悪化。新機種の開発が進まず、かといって委託先を切り替えることもできず、事業のスピードが鈍化し、原

価高騰により利益も圧縮された。

ある大手メーカーから、量産化試作から量産までの協力と、さらに量産資金の提供までの申し出があった。しかし、その後、大手企業側の社内調整が進

まず、開発期間が長引き、資金難に陥っている。

試作や量産に協力してくれる企業を探していた頃、最初はインターネットなどで独力で探していたが、良さそうな企業を見つけて打診しても門前払いされ

るなど、上手くいかなかった。スタートアップ起業家仲間に相談したところ、深センの企業を紹介され、そのまま深センで試作をするようになった。

試作に関して、日本の企業と深センの企業の両方に打診したが、日本の企業はレスポンスが遅く、数週間先のミーティングを提案された。一方で深セン

の企業からはスカイプでの当日の打合せを提案された。スピードの違いを感じ、深センの企業との取引を選択。

ハードウェア・スタートアップが直面した「量産化の壁」の問題

多くのハードウェア・スタートアップが、適切な試作・量産パートナー企業を見つけられず、

開発の遅れや、費用の増大が発生。プロジェクトのとん挫に至るケースも少なくない

多くのハードウェア・スタートアップが「量産化の壁」に直面

2.1.「量産化の壁」の克服

ハードウェア・スタートアップやその関係者からは、「量産化の壁」の実態として、以下のような事例を把握できた。実際に、多くのハードウェア・スタートアップが量産化の段階において深刻な問題に直面している。

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ハードウェア・スタートアップと試作・小ロット企業の間でミスマッチが起こる原因として、

「常識の違い」、「取引に伴うリスク」、「情報不足」、「スピード感」等が挙げられる

ミスマッチが起こる原因

「常識の違い」の問題試作・少ロット専業企業と、ハードウェア・スタートアップとの間で、常識と思うこと

に大きな違いがある。共通言語が無く、コミュニケーションの手間が大きい

ハードウェア・スタートアップにとって、どの企業に相談すれば良いかを判断する

ための情報が少ない

「スピード感」の問題

「情報不足」の問題

「取引に伴うリスク」の

問題

試作・少ロット専業企業にとって、信用力の無いハードウェア・スタートアップとの

取引は、代金回収等のリスクが伴う

国内の試作・少ロット専業企業は、品質管理に強みを持つが、それが過剰品質と

なり、スピードが犠牲になっている可能性

多くのハードウェア・スタートアップが「量産化の壁」に直面

2.1.「量産化の壁」の克服

ハードウェア・スタートアップや、試作・小ロット企業への聞き取り調査の結果、両者のミスマッチが起こる理由として以下の4点が確認できた。

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世界における「量産化の壁」の状況

現状では、中国(主に深セン)が世界のハードウェア・スタートアップの量産基地として機能。

日本のスタートアップも中国で試作・量産を行うケースが増加している

日本以外のハードウェア・スタートアップにおいても、この「量産化の壁」の問題は生じており、その問題にソリューションを提供している

のが、中国の「深セン」である。深センでは多種多様な中小製造業企業が集積しており、また、それら中小企業とハードウェア・スタート

アップを繋ぐ役割を持つ主体も登場している。

例えば、深センに本社を置くSeeedは、「メイカーたちのためのメイカー」を標榜し、ハードウェア・スタートアップに対して、試作協力から自社内のラインを用いた少ロット量産、深センの量産工場ネットワークを活用した大量量産までサポートしている。また、台湾に本社を置

く HWTrekは、ハードウェア・スタートアップに対して、多様な専門家や深セン等のサプライヤー企業とのマッチングの機能を持つWEB上のプラットフォームを運営している。

このような優れた試作・量産環境を求めて、世界中のハードウェア・スタートアップが深センを訪れており、深センで試作・量産をするのが

世界のハードウェア・スタートアップのトレンドのようになっている。日本のハードウェア・スタートアップも、国内で協力工場を見つけられ

ないなどの理由で、深センで試作・量産化するケースが増加している。

2.1.「量産化の壁」の克服

図表4 世界のハードウェア・スタートアップが試作・量産のために深センを訪れる

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深セン日本

ブランド

営業力

品質管理

スピード

△ ◎

◎ △

◎△

△ ○

「品質」と引き替えに、「スピード感」が失われている。 スピードを重視

大手との取引等で鍛えられた品質管理体制と改善活動。平均的なレベルが高く、ハズレが少ない。

スタートアップにとって過剰品質となっている可能性

スピードを重視し、品質管理は比較的甘い。 スタートアップにとっては、十分な水準か

スタートアップとの仕事に積極的な企業が少ない。 引き合い後に「待ち」に入り、積極的な提案営業ができていない。

ODM企業等が窓口となり生産プロセスを一括して受注。 引き合い後に半日おきに連絡するなど、営業攻勢。

価格

○ ○ ロットが比較的小さい場合は日本での量産に優位性あり。

ロットが大きい場合は深センでの量産に優位性あり。

メイカーズムーブメントの主要スポットの一つ。米国をはじめ世界のハードウェア・スタートアップが量産に訪れる。

現状では存在感は希薄。将来的には、世界の試作・少量生産の拠点となるか。

試作・量産環境を日-深センで比較すると、スピードと営業力において深センが日本を大きく上回る日本の強みである「品質管理」も、スタートアップにとっては過剰品質となり付加価値を生んでいない可能性がある

世界における「量産化の壁」の状況

2.1.「量産化の壁」の克服

図表5 試作・量産環境の日本-深セン間の比較

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わが国が目指すべき方向性

わが国において、ハードウェア・スタートアップの試作・量産環境を整備する

中国・台湾等と連携し、東アジアを世界のハードウェア・スタートアップの活動拠点とする

ここまで見てきた通り、わが国においては試作・小ロット企業とハードウェア・スタートアップのマッチングが上手く機能しておらず、ハー

ドウェア・スタートアップに対して充実した試作・量産環境を提供できていないのが現状である。一方で、深センをはじめとする東アジ

アでは、ハードウェア・スタートアップと工場とを結ぶ主体が現れ、急速に試作・量産環境が整いつつある。

わが国には元来、試作や少量生産を得意とする優れた中小企業が多く、このような「ハードウェア・スタートアップの試作・量産ニー

ズ」に応えていけるだけのポテンシャルが備わっているはずである。わが国のハードウェア・スタートアップの活性化のためには、ハー

ドウェア・スタートアップが「量産化の壁」を超えられるよう、国内で試作・量産をしやすい環境を整えていくことが重要である。また、そ

うすることで、ハードウェア・スタートアップが生み出す付加価値が国内で循環し、わが国経済の活性化にも繋がっていくと考えられる。

さらに、そのように高度に整備された試作・量産環境は、日本国外のハードウェア・スタートアップにとっても魅力的に映るはずである。

将来的には、中国や台湾などとも連携・役割分担をしながら、東アジアを世界のハードウェア・スタートアップの試作・量産拠点として

育てていくことが重要である。

わが国において、ハードウェア・スタートアップが試作・量産がスムーズに行えるような環境を整備

中国・台湾等と連携し、東アジアを世界のハードウェア・スタートアップの開発・試作・量産拠点に

2.1.「量産化の壁」の克服

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求められる取組

ハードウェア・スタートアップ

仲介・

量産化マネジメント機能

ハードウェア・スタートアップの試作・量産環境整備のためには、

「仲介機能・マネジメント機能」の整備と、「試作・小ロット企業のネットワーク化」が重要

試作・

小ロット企業

仲介・マネジメント

試作・

小ロット専業企業

ハードウェア・スタートアップ

【現状】 【目指す姿】

現状では、量産化を目指すハードウェア・スタートアップが、多くの試作・小ロット企業を巡り、連携先を探している状況。工程や技術が

複雑な製品では、それぞれの工程・技術に適した企業を探し出し、それらの工程を全て管理する必要がある。これは、量産経験の少

ないスタートアップにとっては非常に難易度が高い行為。

こうした状況を改善するため、ハードウェア・スタートアップと試作・小ロット専業企業の取引を仲介したり、複数企業に渡る量産工程を

マネジメントする「仲介・量産マネジメント機能」を整備していくことが重要である。また、試作・小ロット企業どうしがネットワークを形成

し、ハードウェア・スタートアップからの引き合いに応じて、自発的にサプライチェーンを形成し、ワンストップで量産まで到達できる状

況を作ることが重要である。

ネットワーク

2.1.「量産化の壁」の克服

現状は、部品・工程ごとに個別発注するケースが多い 仲介機能やネットワーク化により、ワンストップでの量産化を目指す

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求められる取組:「仲介・量産化マネジメント機能」の強化

ハードウェア・スタートアップの「仲介・量産化マネジメント」機能を強化していく方法は3つ

ハードウェア・スタートアップ

製造業A社 製造業B社 製造業C社

量産化マネジメント機能

ハードウェア・スタートアップ

製造業A社 製造業B社 製造業C社

量産化マネジメント機能

ハードウェア・スタートアップ

製造業A社 製造業B社 製造業C社

量産化マネジメント機能

【①内製化型】 【②中小企業ネットワーク型】 【③プラットフォーム型】

ハードウェア・スタートアップ内に量産化マネジメント人材を育成する

あるいは、ハードウェア・スタートアップに量産化マネジメント人材をメンターとして付ける

スタートアップとの連携に積極的な試作・少ロット専業企業でネットワーク組織を作り、そこに量産化マネジメント人材を窓口として配置

ハードウェア・スタートアップと、試作・小ロット専業企業を繋ぎ、量産化マネジメントを支援するプラットフォームを形成

2.1.「量産化の壁」の克服

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求められる取組:「仲介・量産化マネジメント機能」の強化

2.1.「量産化の壁」の克服

製造業企業

人的支援を通じてスタートアップと

の強固な繋がりを築き、今後の取

引に繋げることができる

自社の人材にスタートアップでの

経験を積ませることができる

製造業企業からの出向者

出向先のスタートアップにて、一つ

の製品の量産化をやり遂げること

で、スキルアップに繋がる

スタートアップ

出向者を受け入れることにより、量

産化がスムーズに進む

製造業企業との強固な繋がりを築

くことができる

「仲介・量産化マネジメント機能」の強化の一環として、製造業企業からスタートアップへの出向の促進が重要

スタートアップ、製造業企業、出向者の3者にとってメリットのある仕組みの構築を目指す

「仲介・量産化マネジメント機能」の強化策のうち、「 ①内製化型」に関しては、製造業企業からスタートアップへの出向の促進が効果的だと考えられる。例えば、製造業企業にて製品の開発・量産に関わった経験のある若手の人材をスタートアップへ出向させ、「仲介・マネジメント機能」を担わせる。そうすることで、スタートアップと製造業企業の連携がスムーズになるとともに、出向者自身のスキルアップにも繋がる。

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ハードウェア・スタートアップの試作・小ロット量産に積極的な企業をネットワーク化し、案件の融通や、企業間連携による

ワンストップ対応を実現する。地域単位での連携と、地域間連携の両面から進めることが重要。

ハードウェア・スタートアップ向けの試作・小ロット量産に対応する企業は少しずつ増加してい

るものの、横の繋がりが希薄な状況。こうした試作・小ロット企業が相互に繋がり、案件の融

通や、企業間連携によるワンストップでの対応が可能になれば、ハードウェア・スタートアップ

にとって、試作・量産の敷居が低くなる。

試作や小ロット量産が得意で、ハードウェア・スタートアップとの連携に積極的な企業は、地域

的にある程度まとまって存在しており、これら地域内での連携と、地域間の連携を並行して促

進していく必要がある。

求められる取組:試作・小ロット企業のネットワーク化

2.1.「量産化の壁」の克服

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求められる取組:試作・小ロット企業のネットワーク化

実際に、ハードウェア・スタートアップ向けに「試作・小ロット企業のネットワーク化」を進める地域が登場

これら地域での動きを支援し、また、地域間を結びつけていくことが課題

【京都】 Makers Boot Camp (京都試作ネット) 【新潟】 燕三条 試作・小ロットプロジェクト(燕三条地場産センター)

株式会社Darma Tech Lab と京都試作ネットが中心となって実施する、日本初の量産化試作を前提とするハードウェア・アクセラ

レート・プログラム。日本だけでなく、海外のハードウェア・スタート

アップもターゲットとしている。

公的機関である燕三条地場産業振興センターが事務局となって

運営する、地域の試作・小ロット企業のネットワーク組織。

DMM.make AKIBAでの技術相談会等も開催しており、ハードウェア・スタートアップとの連携に積極的に取り組む。

2.1.「量産化の壁」の克服

図表6 Makers Boot Camp の概要 図表7 DMM.make AKIBAで開催したスタートアップ向け相談会の様子

(出所)株式会社Darma Tech Lab 提供(出所)一般財団法人燕三条地場産業振興センター提供

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資金の出し手

Ⅰ.開発・機能試作(数百万円)

Ⅱ.量産試作・少量量産(~数千万円)

Ⅲ.中量量産(~数億円)

Ⅳ.大量量産(数億円~)

フェーズ

自己資金 クラウドファンディング

エンジェル投資家・

アクセラレータVC・事業会社

×不在

ハードウェア・スタートアップがプロトタイプを完成させるまでには、数百万円から数千万円の資金が必要。

わが国には、ハードウェア・スタートアップに小口の出資を行う投資家が少なく、初期の開発費が慢性的に不足

2.2. 「開発資金の壁」の克服

製品開発に取り組むハードウェア・スタートアップにとっての最初の目標は、プロトタイプの製作である。このプロトタイプを用いて、クラウドファンディングで支援者(買い手)を募集したり、VCや事業会社からの出資を募るなどして、次の量産試作や少量量産の資金を確保するのが一般的である。

しかし、その最初のプロトタイプを高い完成度で製作するためには、数百万円~数千万円の資金が必要となる。多くのハードウェア・スタートアップでは、このフェーズでの資金難に苦しみ、とん挫するプロジェクトも少なくない。

米国等では、この初期の開発資金のうち、自己資金でまかなえない部分はエンジェル投資家やアクセラレータが出資しているが、わが国にはこれらの出資者がほとんど存在していない。

このように、初期の開発資金の出し手が存在しないことが、わが国ハードウェア・スタートアップにとってボトルネックとなっており、この問題を早期に解消することが求められる。

多くのハードウェア・スタートアップが「初期の開発資金の不足」に直面

図表8 ハードウェア・スタートアップにおける資金面の課題

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「開発資金の壁」克服の方向性

多様な主体がハードウェア・スタートアップへの資金供給に取り組む必要がある

中央省庁、地方自治体、金融機関、事業会社が主な担い手として期待される

2.2. 「開発資金の壁」の克服

わが国ハードウェア・スタートアップの活性化に向けて、多様な主体が開発資金の供給に取り組む必要がある。中央省庁や地方

自治体、金融機関、事業会社等にとって、スタートアップへの資金面での協力はメリット・意義が大きく、主要な資金供給主体とし

ての役割が期待される。

中央省庁 補助金等の形で、数百万円の開発費・試作費を供給。

ハードウェア・スタートアップのチャレンジを促すことで、経済の活性化に繋がる。

金融機関

地方自治体

事業会社

補助金等の形で、数百万円の開発費・試作費を供給。

地域内で開発や試作を行うハードウェア・スタートアップを支援することで、地域の製造業への波及効果や、スタートアップが地域に根付くことで新たな付加価値・雇用創出を期待。

担保設定できる資産の無いスタートアップ向けの融資制度の整備

シード・ステージから取引を開始することで、スタートアップが成長した際にメインバンクとなることを期待

現行の補助金等は申請時や精算時の提出書類が多岐にわたり、負担が大きい。「入り口」を広くし、代わりに審査機能を強める必要がある。

「補助金コンサルタント」の排斥が必要

現行の補助金等では、製作した試作品の販売が禁じられているケースが多い。スタートアップの量産試作は販売を前提としており、規定を緩める必要がある。

資金供給のあり方・取り組むメリット ハードウェア・スタートアップ等からの意見・要望

スタートアップの事業性を評価する機能の整備が課題

事業会社が、スタートアップに対して出資または好条件での貸

付を行う

将来的な協業により利益に繋げる

わが国の中堅・大手企業は、スタートアップへの出資

に関して消極的。意思決定のスピードの遅さも課題。

図表9 ハードウェア・スタートアップへの開発資金供給の担い手と手法

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3. 「裾野の拡大」における課題

わが国ハードウェア・スタートアップの活性化のためには、まず、ハードウェア・スタートアップを志す人の数と多様性の確保が重要である。

ものづくりの敷居が下がり、興味を持つ人が増加してきているとはいえ、実際に製品開発に取り組む人は限られており、それを事業化す

るという意思を持つ人はさらに少ない。

わが国には、ハードウェア・スタートアップの主要な担い手となり得る人々が多数存在している。彼らのものづくりへの意欲を高めるととも

に、心理的、社会的な障壁を取り除き、ハードウェア・スタートアップの立ち上げや参加を支援していくことが重要である。

(出所)慶應義塾大学 准教授 白坂成功氏提供

ハードウェア・スタートアップがプロトタイプを完成させるまでには、数百万円から数千万円の資金が必要。

わが国には、ハードウェア・スタートアップに小口の出資を行う投資家が少なく、初期の開発費が慢性的に不足

主婦・主夫会社員・退職者

学生中小企業

ハードウェア・スタートアップの裾野の拡大

図表11 慶應義塾大学のものづくりスペース「Edge Lab」図表10 ハードウェア・スタートアップの担い手として期待される主体

慶應義塾大学「Edge Lab」には、多様なバックグラウンドを持つ人々が集まり、施設内のデジタル工作機械やコミュニティ・スペースを活用して、ものづくり関連の様々なプロジェクトが立ち上がっている

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4.今後の検討が必要な課題

新規参入プレイヤー

の多様性不足

制度面での制約

日本では「会社員」のなかにメイカーズ予備軍が多いが、会社員が企業に所属しながら

メイカーズ的な活動をしていくには、風土や社内規定等の問題で難しく、断念している

ケースが多いのではないか。

制度や規制の問題で、ハードウェア・スタートアップが事業化しにくいケースがあるので

はないか。例えば、オープンソースハードウェアにおけるデータ所有権の問題や製造物

責任の所在など、グレーな領域が大きいのではないか。

ハードウェア・スタートアップのほとんどは東京から登場。地域にもメイカーズ予備軍が

多数おり、地域ならではのプロダクトが生まれる下地があるにも関わらず、情報やネット

ワーク面での環境が整っていないために阻害されているのではないか。

以下の論点は今後の検討課題

技術・知財

オープンソースハードウェアを普及には何が必要か。

大手企業の休眠特許やコンテンツのハードウェア・スタートアップによる活用促進

ここまでで検討した課題以外にも、ハードウェア・スタートアップ活性化に向けた課題は多数存在する。特に、以下の課題につい

ては政府・行政の果たすべき役割が大きく、今後の検討が必要。

図表12 その他、ハードウェア・スタートアップ活性化に向けた課題

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二次利用未承諾リスト

頁 図表番号

26 6

26 7

29 11

(様式2)

二次利用未承諾リスト

平成27年度製造基盤技術実態等調査 (我が国もの

づくりベンチャーの動向等調査)

平成27年度製造基盤技術実態等調査 (我が国もの

づくりベンチャーの動向等調査)報告書

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

タイトルMakers Boot Camp の概要

DMM.make AKIBAで開催したスタートアップ向け相談会の様子

慶應義塾大学のものづくりスペース「Edge Lab」