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平成28年度新興国市場開拓等事業委託費 (先行実証事業: インド・配電効率向上のための スマートメータ用センサ) 報 告 書 平成 29 2 28 オムロン株式会社

平成28年度新興国市場開拓等業委託費 (先行実証 …平成28年度新興国市場開拓等業委託費 (先行実証業: インド・配電効率向上のための

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平成28年度新興国市場開拓等事業委託費

(先行実証事業:

インド・配電効率向上のための

スマートメータ用センサ)

報 告 書

平成 29年 2月 28日

オムロン株式会社

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目次

1章 実施概要 ................................................................................................ 6

1. 調査目的 ............................................................................................................. 6

2. 事業項目 ............................................................................................................. 6

2.1 インド現地における電力会社の盗電対策に関するニーズの調査 ............................. 7

2.2 スマートメータ試作品の作製・先行実証の実施 ........................................................ 8

2.3 盗電対策センサデバイス事業化への課題の抽出と政策提言の整理 ........................ 9

3. 実施体制等........................................................................................................ 10

3.1 先行実証事業実施体制 ....................................................................................... 10

3.2 実証に向けたパートナー選定 ............................................................................... 10

2章 事業実施内容 ....................................................................................... 13

1. インド現地における電力会社の盗電対策に関するニーズの調査 ............................ 13

1.1 インドにおける電力セクターの概観 ....................................................................... 13

1.2 電力需給動向 ...................................................................................................... 15

1.3 インドにおける送配電ロスの改善に向けた政策動向 .............................................. 23

1.4 インド電力会社における盗電被害及び対策の実態 ............................................... 34

1.5 センサデバイスを活用した盗電対策に関するソリューションの検討 ......................... 37

1.6 Make in India(センサを現地生産する場合の政策的支援の有無等) ............. 39

2. スマートメータ試作品の作製・先行実証の実施 ..................................................... 42

2.1 盗電対策センサデバイス及びスマートメータの仕様検討・試作品の作製 ................ 42

2.2 インド電力会社との共同による先行実証計画の策定 ............................................. 45

2.3 盗電対策センサデバイス搭載型スマートメータの効果検証 .................................... 46

3. 盗電対策センサデバイス事業化への課題の抽出と政策提言の整理 ....................... 50

3.1 インド電力会社の経営改善に与える効果の検証.................................................. 50

3.2 盗電対策デバイス普及に向けた課題の抽出 ......................................................... 50

3.3 インド政府の対応が望まれる事項に関する政策提言の整理 .................................. 51

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【図】

図 1. 本事業の実施体制 ............................................................................................... 10

図 2. インド政府おける電力行政組織の構造 .................................................................. 14

図 3. インド州政府における電力行政組織の構造 ........................................................... 14

図 4. インドにおける電力事業の運営体制 ...................................................................... 15

図 5. インドにおける一次エネルギー供給構成 ............................................................... 16

図 6. インドにおける発電設備容量の構成(2017年 1月末時点) .................................... 17

図 7. インドにおける送電網の連系 ................................................................................. 18

図 8.インドにおける電力需給動向(電力量) 注. : 2015年度の値は 11月までの数値 ...... 19

図 9.インドにおけるピーク電力需給動向(電力) 注. : 2015年度の値は 11月までの数値 20

図 10. セクター別電力消費割合 .................................................................................... 21

図 11. AT&C ロスの構成 ................................................................................................ 22

図 12. インドの全配電会社の AT&C ロス ...................................................................... 22

図 13. 盗電手法の発生頻度 .......................................................................................... 34

図 14. 先行実証で想定するシステム構成の概要 ............................................................ 43

【表】

表 1. 本事業において実施した現地配電業界企業との協議 ............................................. 11

表 2. インド全土における電力需給予測(2016年度) ....................................................... 20

表 3. インドにおける盗電に関連する法的フレームワーク ................................................ 24

表 4. “Smart Grid Vision and Roadmap for India”の概要 ......................................... 26

表 5. ISGFのワーキンググループ一覧 .......................................................................... 27

表 6. インドにおける電力メータの規格 ........................................................................... 28

表 7. MoPの承認を受けたスマートグリッドパイロットプロジェクト ...................................... 29

表 8. スマートグリッドパイロットプロジェクトの進捗状況(2016年 6月時点) ..................... 30

表 9. Make in Indiaにおける振興対象業種 ................................................................. 39

表 10. 盗電対策センサデバイスの仕様(先行実証に先立つ試作品、主要項目) ............. 42

表 11. 盗電対策センサデバイスの仕様(先行実証用試作品、主要項目) ........................ 43

表 12. センサデバイスを搭載したメータの仕様 ............................................................... 44

表 13. 盗電対策センサデバイス搭載メータの盗電検知状況 ........................................... 48

表 14. 盗電対策センサデバイス搭載メータの盗電検知データ ........................................ 48

表 15. 各セグメントにおける投資回収期間試算 ........................................................................... 50

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【略語一覧】

CEA : Central Electricity Agency

BIS : Bureau of Indian Standard

IS : Indian Standard

UDAY : Ujwal DISCOM Assurance Yojana

TPDDL : Tata Power Delhi Distribution Limited

MPMKKVCL : Madhya Pradesh Madhya Kshetra Vidyut Vitaran Company Limited

JVNL : Jaipur Vidyut Vitran Nigam Limited

TSSPDCL : Telangana State Southern Power Distribution Company Limited

PGVCL : Paschim Gujarat Vij Company Limited

APDCL : Assam Power Distribution Company Limited

MSEDECL : Maharashtra State Electricity Distribution Company Limited

MoPNG : Ministry of Petroleum & Natural Gas

MoP : Ministry of Power

MoC : Ministry of Coal

MNRE : Ministry of New and Renewable Energy

DAE : Department of Atomic Energy

CERC : Central Electricity Regulatory Commission

BEE : Bureau of Electricity Efficiency

SEB : State Electricity Board

SED : State Electricity Department

SERC : State Electricity Regulatory Commission

PGCIL : Power Grid Corporation of India Limited

POSOCO : Power System Operation COrporation

NLDC : National Load Dispatch Center

RLDC : Regional Load Dispatch Center

SLDC : State Load Dispatch Center

AT&C : Aggregated Technical and Commercial

FIR : First Investigation Report

ISGTF : India Smart Grid Task Force

ISGF : India Smart Grid forum

CIL : Coal India Limited

DDUGJY : DeenDayal Upadhyaya Gram Jyoti Yojana

IPDS : Integrated Power Development Scheme

R-APDRP : Restructured Accelarated Power Development and Reform Programme

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ERP : Enterprise Resource Planning

DAS : Distribution Automation System

SCADA : Supervisory Control And Data Acquisition

FRBM : Fiscal Responsibility and Budget Management Act

SEZ : Special Economic Zone

VAT : Value Added Tax

CST : Central Sales Tax

EMC : Electronic Manufacturing Cluster

M-SIPS : Modified Special Incentive Package Scheme

CPRI : Central Power Research Institute

ERDA : Electrical Research and Development Association

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1章 実施概要

1. 調査目的

インドでは、伸び続ける電力需要に対して電力供給量の増加が追い付いておらず、ピーク時の

需要量に対して約5%もの供給不足の状態となっている。電源開発を進める上での課題として、イ

ンドの電力事業の過半を担っている州電力部門の多くが補助金に運営を依存する赤字体質となっ

ていることがあげられる。赤字体質の原因の一つには、ほかの新興国と比較しても突出して高い送

配電ロスが存在し、その対策にあたっては技術的問題に加えて、盗電や料金不払い、検針の不正

などの社会課題への取組も必要となっている。

インド政府は、電力の供給不足への対策を進めるため、2003 年の電気法制定や発電・送電・配

電の分離などの構造改革推進、配電部門の近代化に取り組んできた。さらに、近年は、スマートグ

リッド技術の導入による配電部門の効率化に着手しており、中央電力庁(CEA)およびインド規格

協会(BIS)においてスマートメータに関するインド標準規格(IS)案の検討も進められている。その

規格検討の中では、センサデバイスを活用した盗電対策の検討が行われており、我が国企業の得

意とする各種センサ技術が活用できる可能性がある。

本事業では、盗電対策センサを搭載したスマートメータの先行実証を実施し、盗電手口の実態

把握と電力会社の経営改善効果を検証するとともに、当該センサデバイスの普及に向けた標準規

格の策定等のインド政府による対応が望まれる事項を抽出することにより、我が国企業の市場開拓

に繋げることを目的とする。

2. 事業項目

本選考実証事業では、以下の項目の事業を実施する。

(1)インド現地における電力会社の盗電対策に関するニーズの調査

(2)スマートメータ試作品の作製・先行実証の実施

(3)盗電対策センサデバイス事業化への課題の抽出と政策提言の整理

以下、各項目の詳細について記載する。

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2.1 インド現地における電力会社の盗電対策に関するニーズの調査

インドにおける電力セクターの概観 2.1.1

インドにおける電力事業の事業体制、中央政府部門/州政府部門/民間部門の主要組織とそ

の役割、需給動向、送配電ロスの動向などを調査し、事業化に向けて考慮すべき課題や主要機関

の役割などを明らかにする。

インドにおける送配電ロスの改善に向けた政策動向 2.1.2

インドにおける送配電ロスの改善に向けた主要な政策 (主に電力価格の上昇と盗電防止策に

よる州営配電会社の財務体質改善を目指すUDAYプログラム、スマートグリッド導入など配電網

近代化に向けた各種政策、盗電対策に関する法令・政策フレームワーク、スマートメータ規格の策

定動向、第12次5カ年計画など)を調査し、インド政府の施策方向性を明らかにする。

インド電力会社における盗電被害および対策の実態 2.1.3

主要な配電会社 9社及びメータメーカ 1社*に対して、主な盗電の手法・盗電の種別や割合・現

状の盗電対策・盗電対策センサデバイスに対する意見などをヒアリングした。これにより、インドにお

ける盗電手法、盗電被害件数/金額、盗電対策の手法及び業務の実態、盗電被害回収の実態な

どを明らかにし、センサデバイス活用の前提となるインド現地配電会社のニーズを把握する。*P.13

表1に記載

センサデバイスを活用した盗電対策に関するソリューションの検討 2.1.4

上記のインド現地配電会社のニーズに基づき、盗電対策に求められる機能を整理し、センサデ

バイスを活用したソリューションの全体像を整理する。

Make in India(センサを現地生産する場合の政策的支援の有無) 2.1.5

価格要求の厳しいインド市場において、センサデバイスを活用した盗電対策ソリューションの普

及にむけて必要となると想定される現地生産について、現地生産の場合に受けることが可能と思

われる各種優遇措置を整理する。

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2.2 スマートメータ試作品の作製・先行実証の実施

盗電対策センサデバイス及びスマートメータの仕様検討・試作品の作製 2.2.1

インド電力会社及びメータメーカのニーズを反映した盗電対策センサデバイス及びスマートメー

タの仕様を明らかにし、作製したスマートメータの機能を整理する。

インド電力会社との共同による先行実証計画の策定 2.2.2

先行実証計画策定のため、ターゲットとなるインド電力会社を選定し、先行実証の提案、先行実

証計画策定までの実施事項を整理する。

盗電対策センサデバイス搭載型スマートメータの効果検証 2.2.3

実施した先行実証から得られた結果から、盗電対策センサデバイス搭載型スマートメータの盗

電対策の効果検証について整理する。

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2.3 盗電対策センサデバイス事業化への課題の抽出と政策提言の整理

インド電力会社の経営改善に与える効果の検証 2.3.1

センサデバイスを活用した盗電対策ソリューションの導入を訴求するためには、想定費用対効果

の明示が必要不可欠である。インド電力会社へのセンサデバイス内蔵型スマートメータの設置によ

り得られた検証結果を参考に、想定費用対効果を整理する。

盗電対策センサデバイス普及にむけた課題の抽出 2.3.2

センサデバイスを活用した盗電対策ソリューションにより送配電ロスを改善するためには、センサ

デバイスを設置するだけではなく、盗電検知から課金回収にいたるプロセスにおいて発生する課

題を解消することが求められる。したがって、センサデバイス標準化の観点に加え、盗電対策の有

効性向上の観点からも課題を抽出、整理する。

インド政府の対応が望まれる事項に関する政策提言の整理 2.3.3

センサデバイスを活用した盗電対策ソリューションの普及にむけた課題のうち、インド中央政府

による対応が必要と想定される課題を抽出し、その対応方向性に対する提言を取りまとめる。

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3. 実施体制等

3.1 先行実証事業実施体制

オムロン株式会社が事業全体を取りまとめ、オムロンアミューズメントと連携して現地の調査や先

行実証のためのサンプル作製を行い、オムロンの現地メンバーもアサインして事業を推進する。

両社は、インドでも最も先進的な配電会社とされる TPDDL と、インド大手メータ製造企業の

Genus Power Infrastructure社と世界初の盗電対策用センサ試作品を開発済みであり、これま

でに培ったインドでの盗電ノウハウとネットワークを活かしつつ、本事業を推進した。

図 1. 本事業の実施体制

3.2 実証に向けたパートナー選定

本事業では、オムロン㈱を中心に、事業項目に定めた内容に対して、文献調査およびインタビュ

ー調査を行った。インド現地の州営配電会社などインド配電業界関連企業と盗電対策センサデバ

イスを搭載したスマートメータ試作品の先行実証のための協議を実施した。

本事業では、TPDDLおよびGenus Power Infrastructureとの共同検討により、インド市場で

の大規模な先行実証実験に向けた盗電検知センサデバイスを搭載したスマートメータ試作品の開

発を行い、それを活用して TPDDL以外の州営・民間配電会社において実証実験を行う計画であ

った。

その実施に向け、TPDDLおよび Genus Power Infrastructure との協議を重ねると共に、州

営・民間配電会社に対する盗電対策センサデバイスを搭載したスマートメータ試作品による先行実

証の提案を行った。当初、TPDDL、MPMKKVVCLは実証受入了済で、CESCとは実証受入調

オムロン株式会社

オムロングループ

オムロンアミュズメント株式会社

OMRON Electronic

Components Pte Ltd.

• 全体統括

• 市場調査

• 技術検討

• 試作品作成

• 先行実証

• インド現地窓口

• 市場調査

TPDDL

インド現地配電会社(民間)

MPMKKVVCL

(マディヤプラデシュ州)

• 北部デリーを管轄

• デリー政府とTata Power の合弁

インド現地配電会社(州営)

APDCL

(アッサム州)

JVNL

(ラジャスタン州)

WBSEDCL

(西ベンガル州)

MGVCL

(グジャラート州)

MSEDCL

(マハラシュトラ州)

インド現地メータ製造企業

Genus Power Infrastructure

連携

連携

連携

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11

整中だった。

当社が協議を実施したインド配電業界関連企業( TPDDL および Genus Power

Infrastructure を除く)は、インドの配電業界で大多数を占める州営配電会社(7 社)をはじめ、事

業運営の効率化を目的にライセンスが付与されている民間配電会社ならびに州営配電会社から

業務委託を受けて配電事業を運営している配電フランチャイズ(2 社)、配電業界へオペレーション

システムを提供している現地システムインテグレータ(1社)など、合計 10社である。

表 1. 本事業において実施した現地配電業界企業との協議

企業名 協議内容 主要な面談者の情報タイトルなど

TPDDL

(民間・北部デリー)

盗電対策センサデバイス仕様お

よび先行実証の検討 HOD, Manager

Genus Power

Infrastructure

(メータ製造企業)

メータ仕様検討 ・

製造協議

Exective VP, Associate Vice

President

MPMKKVCL

(州営・マディヤプラデシュ州)

盗電対策センサデバイスおよび

先行実証の提案

MD, MPMKVVCL

Director, Commercial

Dy. CGM, Vigillance

AGM, Meter Testing

他約 20名

JVNL

(州営・ラジャスタン州)

盗電対策センサデバイスおよび

先行実証の提案

XEN. Vigillance

SE. Commercial

他 8名

TSSPDCL

(州営・テランガナ州)

盗電対策センサデバイスおよび

先行実証の提案

Director, Projects & IT

他 13名

PGVCL

(州営・グジャラート州) 盗電対策センサデバイスおよび

先行実証の提案

DE, Commercial

DE, Vigillance

他 11名

CESC

(民間・コルカタ)

盗電対策センサデバイスおよび

先行実証の提案

VP, Distribution Technical

VP, Distribution Service

GM, Loss Control Cell

GM, Testing

GM, BPR

他 5名

APDCL

(州営・アッサム州)

盗電対策センサデバイスおよび

先行実証の提案

DGM, Commericial

DGM, Testing

他 16名

Essel Utilities

(民間配電フランチャイズ・

マハラシュトラ州)

盗電対策センサデバイスおよび

先行実証の提案

CEO, Power Distribution

Technical Head

他 2名

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12

MSEDECL

(州営・マハラシュトラ州)

盗電対策センサデバイスおよび

先行実証の提案

Executive Director, Projects

Executive Director, Commercial

Director, Operation

CGM, IT

他 5名

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2章 事業実施内容

1. インド現地における電力会社の盗電対策に関するニーズの調査

1.1 インドにおける電力セクターの概観

目的 1.1.1

インドにおける電力セクターの事業運営体制および各部門における課題を把握し、盗電対策セ

ンサ搭載スマートメータの導入・普及にむけた活動を展開していくための前提情報を整理する。

インドにおける電力事業運営体制 1.1.2

インドにおける電力事業は中央政府および州政府の行政組織と密接な関係を有しているため、

インドでのスマートグリッド技術の導入・展開を検討するにあたっては、エネルギー行政組織を含め

た関係組織を把握しておくことが重要である。

中央政府レベルでは、計画委員会(Planning Commission)、石油・天然ガス省(MoPNG:

Ministry of Petroleum & Natural Gas)、電力省(MoP:Ministry of Power)、石炭省(MoC:

Ministry of Coal)、新再生エネルギー省(MNRE:Ministry of New and Renewable Energy)、

原子力庁(DAE:Department of Atomic Energy)の各省庁が設置され、各エネルギーに係る行

政を担っている。この中で、電力行政の中核を担う MoP 傘下には中央電力規制委員会(CERC:

Central Electricity Regulatory Commission)、電力効率局(BEE:Bureau of Electricity

Efficiency)などの外局が設置されている。また、MoP の付属局として中央電力庁(CEA:Central

Electricity Agency)が設置され、MoPへ助言等を行っている。

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図 2. インド政府おける電力行政組織の構造

また、州政府レベルでは、州電力局(SEB:State Electricity Board)あるいは州電力部(SED:

State Electricity Department)の傘下に州電力規制委員会(SERC:State Electricity

Regulatory Commission)が設置され、電力行政を担っている。

出典 : インド政府公開資料に基づき作成

図 3. インド州政府における電力行政組織の構造

この様なエネルギー/電力行政組織による監督の下、インドにおける電力事業は、国営企業、

州営企業、民間企業により電力供給がなされている。国営企業は発電会社と送電会社に分かれて

おり、州営の電力会社はさらに配電会社が存在する。州レベルでは、過去には州電力局が電力供

インド政府Government

of India

計画委員会Planning

Commission

中央電力規制委員会CERC

石炭省MoC

石油・天然ガス省MoPNG

電力省MoP

中央電力庁CEA

新・再生可能エネルギー省

MNRE

原子力庁DAE

電力効率局BEE

国営火力発電公社NTPC

国営水力発電公社NHPC

国営送電公社PGCIL

国営送電公社PGCIL

中央電力研究所CPRI

電力金融公社PFC

国営原子力発電公社NPCIL

国家給電指令所NLDC

地域給電指令所RLDC

POSOCO

州政府State Government

石炭・褐炭局

石油・ガス局

電力局SEB

州電力規制委員会SERC

州営発電公社

州営送電公社

州営配電公社

その他

民間電力事業者

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給を行っていたが、2003 年に制定された電力法により、これらから分離、株式会社化された州営

企業(州発電公社・会社、州送電公社、州配電公社・会社)が、州レベルでの発電・送電・配電事業

を行っている。また、民間にも 1991 年に発電事業へ、1998 年には送配電事業への参入を認可し

ているため、民間の発電会社、送配電会社も電力供給に参加している。加えて州営配電会社の効

率的運営に民間企業のノウハウおよび資金力を活用する目的のもと、州営配電会社の運営業務を

民間企業に委託する配電フランチャイズも導入されている。

出典 : 海外電力調査会:データ集

図 4. インドにおける電力事業の運営体制

1.2 電力需給動向

エネルギー政策動向 1.2.1

インドは世界第 2 位の人口を有するとともに、近年の経済成長によりエネルギーの消費大国とな

っている。一次エネルギー消費は中国、米国に次ぐ第三位であり、今後もエネルギー消費の拡大

が見込まれている。

その一方、2013 年のエネルギー自給率は 67%にとどまっている。インド内には、エネルギー資

源として、石炭、バイオエネルギー、水力などが存在するが、エネルギー需要を賄うには不十分で

あるため、エネルギー供給は大きく輸入に依存している。

このためインド政府は、石油、天然ガスの国内探査や生産の増強に努めるとともに、発電分野で

は、大規模石炭火力の建設に加えて、原子力開発、再生可能エネルギー開発を推進する方針で

ある。2012年 4月開始の第 12次 5カ年計画では、5年間で石炭火力 63GW、原子力 2.8GWな

ど合計 76GWの発電所を建設し、再生可能エネルギー36GWの開発を行う計画である。

発電

送電

配電

州電力局SEB

州営発電会社State

Gencos

国営発電会社National

Gencos

独立系発電事業者

IPP

民間ライセンス事業者

Private

Licenser

州営送電会社State

Transcos

国営送電会社National

Transcos

州営配電会社 State Discoms

民間配電会社 Private Discoms

消費者 Consumer

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なお、2013年におけるインドの一次エネルギー供給は、石炭が 44%を占め、石油23%、天然ガ

ス6%、水力2%、原子力1%、その他25%となっている。下図に、インドにおける一次エネルギー供

給の構成を示す。

出典 : 海外電力調査会:データ集

図 5. インドにおける一次エネルギー供給構成

地球温暖化防止政策動向 1.2.2

インドの 2012 年の温室効果ガス(GHG)排出量は 19.5 億トンで、エネルギー消費と同様に、世

界第 3位の排出量となっている。2040 年には、排出量は 3 倍以上に増大すると予想される。その

一方、1人当たりの排出量は 1.5 トンと BRICs 諸国の中で最も少なく、世界平均の 3分の 1の水

準に留まっている。

そのため、地球温暖化防止政策では、インドは先進国と途上国の「共通だが差異ある責任」の原

則を主張し、GHG削減目標はGDP原単位で決めている。2009年には、2020年までに 2005年

比で 20~25%削減するという自主目標を表明している。

再生可能エネルギー導入政策・動向 1.2.3

インド政府が 2009 年に発表した「国家気候変動計画」では、再生可能エネルギー導入が地球

温暖化防止対策の柱とされ、また、電力不足の解消や地方電化の手段の一つとしても再生可能エ

ネルギーの導入を推進している。

インド政府は、すでに世界第 5 位の設備容量を持つ風力に加え、日照条件に恵まれた立地を

活かし、太陽光の導入を推進している。2009 年に策定された「太陽エネルギー国家計画」では、

石炭

44%

バイオ

エネルギー

22%

石油

22%

天然ガス

7%

水力

3%

原子力

1%

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17

系統連系された太陽光発電を 2022年までに 2,000万 kWに拡大する目標を設定していたが、イ

ンド政府は 2014 年にはこの目標を 5 倍の 1 億 kW に引き上げることを表明し、今後の導入拡大

が見込まれている。

再生可能エネルギー導入推進策としては、2009 年から固定価格買取制度(FIT)が導入されて

いる。対象電源は系統に連系している①風力、②25MW 以下の水力、③バイオマス、④非化石燃

料を用いたコジェネ、⑤太陽光・熱の 5 種類で、運転開始から風力は 13 年間、太陽光・熱は 25

年間、小規模水力は 13 年間(5~25MW)または 35 年間(5MW 以下)、系統の電力料金より高く

設定された固定価格で買い取ることになっている。

2010年からは配電会社などに一定割合の再生可能エネルギーの調達を義務付ける「再生可能

エネルギー調達義務制度」 (RPO) も各州で始まっている。インド政府は 2016年 1月に改定した

「電気料金政策」の中で、2022年までに PROをすべての州で実施する方針を示している。

発電部門 1.2.4

インドの電源は石炭火力を中心に開発が進められてきたが、現在はそれに加えて原子力、再生

可能エネルギーも一定規模の開発が行われている。図 6に 2017年 1月末時点のインドにおける

発電設備容量の構成を示す。総発電設備容量は、2億 4,949万 kWで、石炭が 6割を占める。そ

の他の電源では大規模水力が 16%、近年導入が進んだ再生可能エネルギー(主に風力)が 13%、

天然ガスが 9%、原子が 2% となっている。

出典:CEA Monthly Reportに基づき作成

図 6. インドにおける発電設備容量の構成(2017年 1月末時点)

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18

インドでは急速な経済成長のペースに、電力供給が追い付かず、成長のボトルネックとなってい

る。このため、前述のように、第 12次 5カ年計画でインフラ整備に投じられる 56兆ルピーのうち、

約 3分の 1を占める 18兆ルピーが電力・再生可能エネルギー部門に投じられ、電源開発が最も

重視されている。

新規設備の導入計画は、2017年 3月までの 5年間で、石炭火力(69GW)を中心として 76GW

の発電所建設を行う計画であるが、これとは別に、再生可能エネルギー(大規模水力を除く)も

36GWの開発を行う計画であり、大きな比重を占めている。

送電部門 1.2.5

州を跨いだ、全国レベルの送電事業は、中央政府系企業である国営送電会社(PGCIL:Power

Grid Corporation of India Limited)が実施している。送電網は、北部地域(NR)、西部地域

(WR)、東部地域(ER)、北東地域(NER)、南部地域(SR)の 5つの地域に分割されて運営されてい

る。これらの地域は相互に連系されて運営されている。図 7に地域区分の概要を示す。

出典:http://www.mapsofindia.com/maps/india/power-grid.html

図 7. インドにおける送電網の連系

5つの地域送電網が連系して構成されているインドの全国送電網の系統運用は、PGCILの

100%子会社である POSOCO (Power System Operation COrporation) が行っている。国家

給電指令所(NLDC: National Load Dispatch Center)が全国を管理し、各地域の地域給電指

令所(RLDC: Regional Load Dispatch Center)が各地域を管理している。

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19

地域送電網の下位では、各州の送電会社が運営する州給電指令所(SLDC: State Load

Dispatch Center)が州内を管理している。SLDCは、州内の電力需給を管理するとともに、州へ

の割り当てに応じて全国送電網からの電力の引き出しを行っている。

電力が慢性的に不足しているインドでは、各州に割り当てを遵守させるために、CERCがグリッ

ド・コード(Grid Code)を 2005年に制定し(施行は 2006年)、計画外引き出し(UI : Unscheduled

Interchange)に対して、追加料金を課す仕組みを導入している。また 2010年には過剰引き出し

の更なる抑制を狙ってグリッド・コードを改正し、追加料金の大幅な引き上げを行った。

電力の需給状況 1.2.6

1997年度から 2015度までのインド全土における電力量およびピーク電力の需給動向を図 8に

示す。インドでは電力需要に対して供給が電力量、ピーク電力ともに供給が 5~10数%程度不足

している状態が続き、不足分は輪番停電を行うことで対応しており、デリーなどの都市部でも停電

が常態化している。この様な状況の中、商業・産業用需要家は発電機を備えて自衛しており、これ

ら自家発電による発電は総発電電力量の 1割以上を占めているとされている。

出典:MoP,Annual Report 2015-16に基づき作成

図 8.インドにおける電力需給動向(電力量)

注. : 2015年度の値は 11月までの数値

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

20

13

20

14

20

15

供給量 不足量 不足率

(単位:GWh)

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20

出典:MoP,Annual Report 2015-16に基づき作成

図 9.インドにおけるピーク電力需給動向(電力)

注. : 2015年度の値は 11月までの数値

なお、電力不足はここ数年改善傾向にあり、2016年度の供給は、電力量、ピーク電力率ともに、

余剰に転ずると予測されている。表 2に、2016年度における電力需給予測を示す。

表 2. インド全土における電力需給予測(2016年度)

電力量(MU) ピーク電力(MW)

需要 1,214,642 165,253

供給 1,227,895 169,503

余剰 18,252 4,250

余剰率 1.1% 2.6%

出典:CEA Load Generation Balance Report 2016-2017

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

180,000

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

20

13

20

14

20

15

供給量 不足量 不足率

(単位:MW)

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21

需要家の電力消費量の内訳を図 10に示す。用途は工業 45%、家庭用 22%、農業(灌漑ポン

プ)用 18%、商業用 8%などとなっており、GDPの 2割を占める農業用の比率が大きい。

出典:MSPI ”Energy Statics 2016”に基づき作成

図 10. セクター別電力消費割合

CEAによる長期需要想定(2007年公表)では、2021年度の電力需要は 191TWh と 2007年

度実績の 3倍以上増加し、ピーク電力は 2007年度実績の 109GWから 2倍以上の 298GWま

で増加すると予測している。

送配電ロスの状況 1.2.7

インドの配電会社の収益悪化の要因は、電力を最終消費者へ届けるまでのロスが非常に大きく、

25%以上ものロスが改善できていないことが原因の一つと考えられる。インドでは、電力を

送電する際に変圧器や送配電線で発生するテクニカルロスと販売電力量を検針・集計する

際に発生するコマーシャルロス(Non Technical ロス)を足し合わせた AT&C (Aggregated

Technical and Commercial) ロスを管理指標として用い、この低減を目標としている。図 11に

AT&C ロスの構成を示す。

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出典 : PFC " Methodology for Establishing Baseline AT&C Losses."

に基づき作成

図 11. AT&C ロスの構成

図 12はインドの全配電会社の AT&C ロスの推移である。

出典 : PFC

" The Performance of State Power Utilitiesfor the years 2009-10 to 2011-12 "

に基づき作成

図 12. インドの全配電会社の AT&C ロス

28.10%

25.30%

26.63% 25.45%

22.70%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

FY2009 FY2010 FY2011 FY2012 FY2013

AT&C

Losses

Commercial

Losses

Technical

Losses

Transformer Losses

変圧器損失(負荷、無負荷、漂遊負荷)

High I2 R losses

送配電線損失 (電流の 2 乗に比例)

Discrepancy in Meter Reading

メータ読み間違え

Theft by direct hooking

盗電

Meter tampering

メータ改ざん

Collection inefficiency

集計ミス

解決策例

• 高効率変圧器導入

• 電線の低抵抗材料化

• 力率改善

• メータ読みの自動化

• フェールセーフ機能

• 多点メータ導入による

送受電量の監視

• 警報機能付加

• メータ読み値集計の

自動化、機械化

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23

1.3 インドにおける送配電ロスの改善に向けた政策動向

目的 1.3.1

盗電対策センサ搭載スマートメータの導入・普及に向けた活動を計画するにあたり、インド電力

セクターにおける盗電対策に関連する法令のフレームワークおよび盗電被害を含む送配電ロスの

改善に向けた課題認識と対策の方向性を整理する。

盗電対策に関する法令のフレームワーク 1.3.2

インドにおける盗電対策に関する法規制は、主に ①電力法 2003 (Electricity Act 2003)、②

インド刑法 IPC (Indian Penal Code)、③CEA 規制;メータ設置・運用規制(Installation and

Operation of Meters Regulations, 2006)、④州(電力)供給法 : State Supply Code の 4つ

からなる。

電力法 2003 (Electricity Act 2003)は、インドにおける電力事業の骨格を定めた法律であり、

2003年の改正では、特に、電力産業育成のための措置、民間参入の自由化、全国民への電力供

給、消費者保護、適正な電力価格の実現に主眼が置かれている。この中で、盗電に関する定義が

定められるとともに、それに対する法的手続きが定められており、盗電に対してはインド刑法 IPC

(Indian Penal Code)における窃盗罪が適用されると定義されている。

また、CEA の規制であるメータ設置・運用規制(Installation and Operation of Meters

Regulations, 2006)では、メータのテスト、設置、運用、メンテナンスに関する細則が定められてお

り、この中でメータが保有すべき改ざん防止機能の骨格が定められている。これにもとづいて詳細

機能が IS規格において定義されている。

州(電力)供給法(State Supply Code)は、各州の電力規制委員会の定める規制であり、各州

内で電力事業者と消費者が遵守すべき義務を詳細に定めている。この中で検針および請求、メー

タ交換に関する詳細が定められているとともに、電力の無許可利用に関する措置ならびに電力供

給の停止、再開に関する手続きの詳細が定められている。

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表 3. インドにおける盗電に関連する法的フレームワーク

これら 4 つの法令に定められた手続きを総合した盗電への対処に関する処理の流れを以下に

記す。配電会社は検査員(アセスメントオフィサー)による盗電被疑契約者に対する立ち入り検査を

実施し、盗電が行われた証拠を収集する義務を負っている。盗電の証拠が明確な場合、配電会社

は盗電をおこなった契約者に対して電気料金および追徴金を請求することが出来る。また、盗電

の証拠が必ずしも明確ではないもののその疑いが濃厚な場合、警察に対して FIR(First

Investigation Report、被害届)を提出し、刑事捜査が開始される。メータ不正による盗電の場合、

その多くの証拠が明確ではなく、電気料金および追徴金の請求がなされた契約者も証拠不十分を

論拠に支払いに応じないことが多いため、警察へ FIR提出の流れをとることが大半である。

盗電をおこなった契約者が電気料金および追徴金の支払いに応じない場合は、刑事訴訟に加

え、民事訴訟においても措置が決定される。裁判が長期化しがちなインドにおいては、正式な民事

裁判以外に、Lok Adalat と呼ばれる簡易調停の仕組みが整備されており、盗電に関する訴訟の

解決にもこの Lok Adalat がしばしば活用されている。

スマートグリッド導入政策 1.3.3

2011年 11月、インド政府は、MoPの配下に省庁間連携組織の ISGTF、および官民連携組織

である ISGF を設置し、インドへのスマートグリッド技術の導入に関する本格的な検討を開始し、

2013年 8月、今後のスマートグリッド推進の方向性を定めた”Smart Grid Vision and Roadmap

for India“を発表した。

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“Smart Grid Vision and Roadmap for India” は、①電力アクセスと品質の向上、②AT&C

ロスの低減、③スマートグリッドの展開、④再生可能エネルギーおよび省エネルギー、⑤政策およ

び料金体系、⑥電気自動車および蓄電池の 6 分野におけるロードマップを示したものであり、15

年(2012-2027)もの年月をかけてインドの電力事業の高度化を狙う内容となっている。表 4 にその

概要を示す。

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表 4. “Smart Grid Vision and Roadmap for India”の概要

分野 第 12次 5カ年計画

(2012 – 2017)

第 13次 5カ年計画

(2017 – 2022)

第 14次 5カ年計画

(2022 – 2027)

電力アクセスと

品質の向上

全世帯の電化

停電の削減

– 24時間供給

(主要都市)

– 22時間供給

(全都市、夜間のピー

ク時間帯 8時間を含

む)

全都市での

24時間供給

全国レベルで

最低 12時間供給(夜間

のピーク時間帯を含む)

全国レベルで

全ての消費者へ、安定

的に

週 7日 24時間での電

力供給

AT&C ロスの低減 全配電会社のAT&Cロ

ス削減:15%以下

送電ロス(66kV以上)の

削減:4%以下

全配電会社のAT&Cロ

ス削減:12%以下

送電ロス(66kV以上)の

削減:3.5%以下

EHVおよびUHV送電

網の強化

全配電会社のAT&Cロ

ス削減:10%以下

送電ロス(66kV以上)の

削減:3%以下

スマートグリッドの展開 20kW以上の消費者へ

AMI を展開

1,000の村落、工業団

地、商業地区へのマイ

クログリッドの導入

5つのスマートシティー

の開発

3相での消費者に対す

る全国的なAMIの展開

10,000の村落、工業団

地、商業地区へのマイ

クログリッドの導入

25のスマートシティーの

開発

全ての消費者に対する

全国的なスマートグリッ

ドの展開

20,000の村落、工業団

地、商業地区へのマイ

クログリッドの導入

100のスマートシティー

の開発

再生可能エネルギー

および省エネルギー

再生可能エネルギーの

統合(30GW)

Rooftop PV設置に関

する法制度の整備

(2014年まで)

公共インフラに関する省

エネ基準の整備(2014

年まで)

再生可能エネルギーの

統合(80GW)

全ての都市での

照明および空調に関す

る省エネプログラムの実

再生可能エネルギーの

統合(130GW)

全国レベルでの

省エネプログラムの実

政策

および

料金体系

ダイナミックタリフの導入

デマンドレスポンスに関

する法制度の整備(一

部)

Rooftop PVに関する

料金制度の整備

大都市および一部の都

市でのオープンアクセ

スの実施

デマンドレスポンスに関

する法制度の整備(拡

大)

全国レベルでの

オープンアクセスの実

電気自動車

および

蓄電池

電気自動車と

スマートグリッドの連携

計画の策定

大都市および一部高速

道路での充電ステーシ

ョン設置

大規模蓄電システムの

展開

全都市および重要な高

速道路での充電ステー

ション設置

全都市および高速道路

での充電ステーション設

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ISGFは、テーマ別に10のワーキンググループから構成されており、各ワーキンググループに所

属する会員団体の議論を集約し、政府機関である ISGTF を通じてインド政府のスマートグリッド政

策への助言を行っている。表 5に ISGFのワーキンググループの構成を示す。

表 5. ISGFのワーキンググループ一覧

No. 名称

WG1 Advanced Transmission

WG2 Advanced Distribution

WG3 Communications for Smart Grid

WG4 Metering

WG5 Consumption & Load Control

WG6 Policy & Regulation

WG7 Architectures & Design

WG8 Pilots & Business Models

WG9 Renewable and Microgrid

WG10 Cyber Security

これらのワーキンググループには、インドで事業活動を行っている民間企業(電力、重電機器、

IT、通信など)、公営企業(国営および州営電力会社)、大学・研究機関などが会員として所属し、ス

マートグリッドに関する方向性の議論を行っている。

特に、インドの電力会社が抱える AT&C ロス、電力供給不足に対応するためのスマートグリッド

技術による需要家管理(DSM : Demand Side Management)の導入に関しては、既に先行して

独自の取り組みを行ってきているマハラシュトラ州配電会社(MSDECL : Maharashtra State

Electricity Distribution Co. Ltd)やタタパワー・デリー配電会社(TPDDL : Tata Power Delhi

Distribution Limited、タタパワーおよびデリー政府の合弁企業)なども参加し、各分科会で活発

な議論が行われている。

インド政府は、ISGF 発足前より、スマートグリッド技術の導入とその前提となる法規制および料

金体系の整備を、各州電力規制委員会ならびに配電会社へ働きかけていた。2003年制定の電力

法(Electricity Act 2003)、2005年策定の国家電力政策(National Electricity Policy 2005)、

2006 年策定の国家電力料金政策(National Tariff Policy 2006)は、いずれも時間帯別料金

(TOD tariff : Time Of Day tariff)を認めるものとなっており、これらに立脚して CEAは 2006年

時点で各州配電会社に対し、TOD導入とそれに対応したメータの導入を呼びかけてきた。

また、上記の法規制、料金体系の検討に加え、技術面での検討も進められている。ISGF での

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議論の結果も踏まえ、CEAでは AMI(Advanced Metering Infrastructure)の大規模導入に必

須となるスマートメータの標準規格の検討に既に着手している。CEA は、2012 年 3 月、スマートメ

ータに関する標準規格案を発表した。本規格案は、インドでの大規模導入を前提に、単相スマート

メータに関して 4 つのカテゴリーを設定し、各々のカテゴリーのスマートメータが有すべき機能を定

義したものである。本規格案はパブリックコメントにより寄せられた産業界などからの見解を踏まえて

改訂された後、2015 年 8 月に正式なインド規格(IS 規格)として制定された(IS16444)。表 6 に

IS16444を含むインドにおける電力メータに関する規格を示す。

表 6. インドにおける電力メータの規格

No. 規格番号 規格名

1 IS 9792 : Part 1 : 1987 Guide for testing, calibration and maintenance of A.C. electricity meters:

Part 1 Single phase whole current watthour meters, Class 2.0

2 IS 12346 : 1999 Testing Equipment for A.C. Electrical Energy Meters

3 IS 13779 : 1999 A.C. Static Watthour Meters, Class 1 And 2

4 IS 11448 : 2000 Application Guide for A.C. Electricity Meters

5 IS/IEC/TR 62051

: Part 1 : 2004

Electricity Metering - Data Exchange For Meter Reading, Tariff And Load control - Glossary Of Terms Part 1 Terms Related To Data Exchange With Metering Equipment Using DLMS/COSEM

6 IS 15707 : 2006 Testing, evaluation, installation and maintenance of A.C. electricity meters

- Code of practice

7 IS 15884 : 2010 A.C. Direct Connected Static Prepayment Meters for Active Energy (Class 1

and 2)

8 IS 15959 : 2011 Data Exchange for Electricity Meter - Reading Tariff and Load Control -

Companion Specification

9 IS 16444 : 2015 A.C. Static Direct Connected Watthour Smart Meter Class 1 and 2 –

Specification

出典:CEAおよび BIS公表資料に基づき作成

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29

ISGF / ISGTFによるスマートグリッド・パイロット・プロジェクト 1.3.4

ISGTF/ISGF はロードマップ策定という長期的な方針検討に加え、MoP が費用の 50%を負

担する支援の下、スマートグリッド・パイロット・プロジェクトの実施を計画し、2013 年 1 月、14 の配

電会社(州電力局含む)によるパイロット・プロジェクトを選定した。表 7に 14のパイロット・プロジェク

トを示す。

表 7. MoPの承認を受けたスマートグリッドパイロットプロジェクト

No. 州 配電会社 対象地域 機能分野

1 Karnataka

カルナタカ

CESC Mysore

Mysore additional city area division AMI-R, AMI-I, OM, PLM, MG, DG

2 Andra Pradesh

アンドラ・プラデシュ

APDPDCL Jeedimetla industrial area AMI R, AMI I, OM, PLM, PQM

3 Assam

アッサム

APDCL Guwahati project area PLM, AMI R, AMI I, OM, DG, PQM

4 Gujarat

グジャラート UGVCL Naroda, Deesa AMI R, AMI I, OM, PLM,

PQM

5 Maharashtra

マハラシュトラ

MSEDCL Baramati, Pune AMI R, AMI I, OM

6 Haryana

ハリヤナ

UHBVN Panipat city subdivision AMI R, AMI I, PLM

7 Tripura

トリプラ

TSECL Electrical division no. I, Agartala AMI R, AMI I, PLM

8 Himachal Pradesh

ヒマーチャル・プラデシュ

HPSEB ESD Kala Amb under electrical division, Nahan

AMI I, OM, PLM, PQM

9 Puducherry

プドゥッチェーリ Electricity Department

Div 1 of Puducherry AMI R, AMI I

10 Rajastan

ラジャスタン

JVNL VKIA Jaipur AMI R, AMI I, PLM

11 Chhattisgarh

チャッティースガル

CSPDCL Siltara, Chhattisgarh AMI I, PLM

12 Punjab

パンジャーブ PSPCL Mall Mandi city sub-division,

Amritsar OM

13 Kerala

ケーララ

KSEB Selected section offices AMI I

14 West Bengal

西ベンガル

WBSEDCL Siliguri, Darjeeling AMI I, AMI R, PLM

出典:ISGF発表資料に基づき作成

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これら 14のスマートグリッドパイロットプロジェクトの進捗状況(2016年 6月時点)を表 8に示す。

スマートグリッドパイロットプロジェクトは一定の進捗を見せているものの、州営配電会社のキャパシ

ティ不足や入札価格の超過などの問題により、当初計画より実施が遅延しており、また 4プロジェク

トはすでに実施がキャンセルとなっている。

表 8. スマートグリッドパイロットプロジェクトの進捗状況(2016年 6月時点)

No. 州 配電会社 進捗状況 受注企業

1 Karnataka

カルナタカ CESC

Mysore 実施中 Enzen / Cyan Technology / El Sweedy / L&T

2 Telangana

テランガーナ TSPDCL 実施中 ECIL

3 Assam

アッサム APDCL 実施中

Fluent Grid / Ericcson /

Sinhal Udyog

4 Gujarat

グジャラート UGVCL 入札中 -

5 Maharashtra

マハラシュトラ MSEDCL キャンセル -

6 Haryana

ハリヤナ UHBVN 実施中 NEDO / 富士電機

7 Tripura

トリプラ TSECL 実施中 Wipro / JnJ

8

Himachal

Pradesh

ヒマーチャル・プラデシュ

HPSEB 実施中 Alstom T&D

9 Puducherry

プドゥッチェーリ Electricity

Department 実施中 Dongfang

10 Rajastan

ラジャスタン JVNL キャンセル -

11 Chhattisgarh

チャッティースガル CSPDCL キャンセル -

12 Punjab

パンジャーブ PSPCL 実施中 Kalkitech

13 Kerala

ケーララ KSEB キャンセル -

14 West Bengal

西ベンガル WBSEDCL 実施中 Chemtrol

出典:ISGF発表資料に基づき作成

モディ政権下における電力改革 (IPDS、UDAY) 1.3.5

モディ政権下、インド中央政府は電力政策の見直しを進めており、前政権までに推進されてきた

電力政策の多くに見直しが発生している。モディ首相は就任後、電力改革が進まない要因として

縦割り行政の弊害を指摘し、電力省、石炭省、新・再生可能エネルギー省の 3 つの省を統括する

大臣としてゴヤル氏を新たな大臣に任命し、同大臣が中心となって電力改革を進めている。

モディ政権下で進められている電力改革の施策の骨子は以下に示す 5つにより構成される。

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31

① 石炭割り当て方法の見直し(コールリンケージ)

国営企業のインド石炭公社(CIL)による石炭の割り当て方法が、公営企業優先で不

公平なものであったため、見直しを実施。特に、電力不足と環境問題を考慮して、効率

の良い発電所に優先的に石炭が割り当てられることとなった。

② 地方電化(DDUGJY)

未電化村 1万 8,452村、未電化世帯 5,000万軒を電化するため、変圧器、配電変圧

器、コンダクタ、メータの強化、非検針世帯での検針を進めるためのフィーダ、メータ等

の設置を行う。

③ 配電効率化(IPDS)

主に都市部の配電ロス低下(盗電防止も含む)を目的するプログラム。スマートメータ

の設置、配電インフラの強化、人口密集地域の配電地中化、IT 化、太陽光パネルの設

置を行う。

④ LED普及促進

2019年までに全国の街路灯と一般家庭の照明を LEDに切り替える。一般家庭には、

格安で販売する。政府は、LED 電球への切り替えによる省エネ効果を 2 億 4,300 万

kWh、一般家庭の電気代が年間 162ルピー(約 308円)節約されると試算している。

⑤ 配電会社の債務解消

州政府は、配電会社から2015年9月末時点の負債額の75%を引き取り、2年かけて

証券化して売却する。残りの25%は、配電会社自身で証券化して売却することが認めら

れる。全国の配電会社の負債総額は 6,200億ルピー(約 1兆 1,500億円)と試算されて

いる(2015年 3月末現在)。

上記 5 つの骨子のうち、盗電対策およびスマートメータの導入に関連の深い、IPDS および

UDAYに関する詳細を以下に整理する。

IPDS( Integrated Power Development Scheme)は、前政権までに実施されていた

R-APDRP(Restructured Accelarated Power Development and Reform Programme)を発

展させて引き継ぐものであり、配電網の高効率化、IT 活用に加え、都市部でのメータリングの強化

や太陽光発電の設置など新たな施策を加え、引き続き配電網の近代化を進めることで AT&C ロス

の改善を図っている。

IPDS の主要な施策は①送配電網の増強、②配電網の可視化、③配電セクターと配電網の IT

化の3つからなる。

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「①送配電網の増強」では、都市部における送配電網の増強を図るとともに政府施設への太陽

光発電および遠隔検針の導入を計画している。これに伴い、変電所の新設/増強、高圧線の増

強、配電変圧器の増強、既存配電網の改善、電線地下埋設、高圧配電システム、引込線集約、IT

化などが実施される見込みである。

「②配電網の可視化」では、メータリング強化を図っており、これに伴い、配電変圧器/フィーダへ

のメータ設置、老朽メータの更新、プリペイドメータ/スマートメータ導入、遠隔検針導入などが実施

される見込みである。

「③配電セクターと配電網の IT化」は、従来のR-APDRPに該当する施策であり、引き続き配電

会社への ERP 導入による業務高度化、効率化と、配電網の IT 化(DAS、SCADA 等の導入)を

推進する。なお、これまでに承認済みの R-APDRP プロジェクトは 12 次および 13 次 5 カ年計画

の期間中に実施することとされている。

UDAY(Ujwal DISCOM Assurance Yojana)は、”4Es” (Electricity for All, Efficiency to

ensure affordable tariffs, Environment for a suitable future, Ease of doing business to

attract investments and ensuce financial viability)のコンセプトを掲げ、配電会社の財政健

全化の実現を目指しているものである。

UDAY の主要な施策は、「①利子費用の軽減」、「②電力購入費の軽減」、「③業務効率の改

善」、「④財政規範の遵守」の4つからなり、債務証券化により配電会社の財務体質を抜本的に改

善することを柱に据えつつも、業務効率改善と財政規範遵守を配電会社に求めており、スマートメ

ータの導入を配電会社に強く求めている。

「①利子費用の軽減」では、州政府が配電会社から 2015 年9月末時点の負債額の 75%を引き

取り、2 年間の期間に証券化して売却することが認められている。残りの 25%は、配電会社自身で

証券化して売却することが認められる。

「②電力購入費の軽減」では、コールリンケージ(石炭割当制)および石炭価格制度の運用改善

により発電部門のコストダウンを推進するとともに、NTPC(国営火力発電公社)による州営発電会

社への支援により業務効率の改善を図っている。

「③業務効率の改善」では、2018 年度までの AT&C ロスの改善(ロス 20%超州:15%改善、他

州:10%改善)を義務付けるとともに、2017 年度までにフィーダおよび配電変圧器のメータリングの

実現、2019年度までの大口需要家(月間消費量 200U超)を対象としたスマートメータの導入を義

務付けている。

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「④財政規範の遵守」では、FRBM 法 (Fiscal Responsibility and Budget Management

Act)に厳密に準拠した損失引当金の確実な積立と、運転資本比率の抑制 (対前年売上費 25%

以下)を義務付けており、債務の証券化により健全化された状態を保つことを求めている。

これらUDAYスキームの適用を申請し、承認された配電会社に対しては、中央政府が月次ベー

スでのモニタリングを行い、違反に対してはペナルティーが課される方向である。

インド政府は上述の電力改革施策に加えて、2016 年 1 月 20 日、「電気料金政策(Tariff

Policy)」の改定案を閣議で承認した。電気料金政策は、2003 年電気法に基づいて、電気事業制

度改革の方針を示した政策文書で、2006年の策定以来、初めての全面的な改定となった。

この改定では、UDAY と同様に 2019 年度までの大口需要家(月間消費量 200U 超)を対象と

したスマートメータの導入の義務付けを明記しており、スマートメータ導入を推進していく方向性を

改めて明らかにしている。

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1.4 インド電力会社における盗電被害及び対策の実態

目的 1.4.1

盗電対策センサ搭載スマートメータの導入にむけ、顧客となるインド電力会社の盗電被害およ

び対策の実態を把握し、電力会社にとって魅力がありAT&Cロスの改善が実現可能なソリューショ

ンの検討材料とする。

盗電手法 1.4.2

インドでは多種多様な盗電手法が用いられているとされるが、「①ダイレクトフッキング」ならびに

「②メータ不正」の二種の手法に大別される。「①ダイレクトフッキング」は配電線に無許可で電線を

接続して電力を得る手法であり、「②メータ不正」は電力メータに対して不正な操作を行うことでメー

タデータを改竄し電力料金の徴収を免れる手法である。このメータ不正において特に多様な手法

が用いられている。

本調査においてインタビュー調査を行ったインド現地配電会社では、ダイレクトフッキングが最も

頻度の高い盗電手法と認識されており、その対策への課題意識が非常に強い。

メータ不正の手法は、主に静電気、電磁波、磁力、高温による焼損、バイパス、物理的衝撃・振

動、バイパス、傾斜などが用いられている。これらメータ不正に対しても配電会社の問題意識は高

いものの、配電会社側の科学的解析能力が不足していること、ならびにメータ不正手法に関して十

分な知識を有していないことに起因して、その多くが「原因不明のメータ異常」として扱われている。

特に静電気、電磁波、焼損に関しては解析が困難なことから「原因不明のメータ異常」として取り扱

われるケースが多く、盗電として適切に処理されていないケースが多いと考えられている。

また、多くの配電会社では盗電被害に関して、盗電被疑例数、手法解析結果、FIR(被害届)提

出数、告訴数、電気料金および課徴金回収実績などのデータが統計的に蓄積・分析されていない

ため、盗電手法および被害の実態を定量的に把握することは困難となっている。図 13 にインド現

地配電会社へのインタビューにより把握した盗電手法の発生頻度を定性的に示す。

図 13. 盗電手法の発生頻度

低 高

1 - Phase メータ : 主にLT(低圧) 3 - Phase メータ : 主にHT(高圧)

• ダイレクトフッキング

• 原因不明のメータ異常(停止、逆転、焼損など)

• 静電放電(ESD)• RF ジャマー• 磁力

• 高温

• 物理的衝撃、振動• バイパス• メータ回転/傾斜

• 物理的衝撃、振動• バイパス• メータ回転/傾斜

• RFジャマー• 磁力• 高温

• 静電放電(ESD

• ダイレクトフッキンング

• 原因不明のメータ異常(停止、逆転、焼損など)

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盗電対策業務の実態 1.4.3

配電会社における盗電対策業務は、「①被疑例検知」、「②現物解析・採証」、「③アセスメント・

徴収」、「④告訴」の流れにより構成される。

「①被疑例検知」は、配電網データ監視およびメータデータ分析、ならびに人間系による通報の

3 つの系統に大別される。配電網データ監視はフィーダおよび配電変圧器のメータデータを

SCADA により監視し不正な電力の流れを把握することで盗電被疑箇所を特定するものである。ま

た、メータデータ分析は契約者の電力使用量の推移を平均的契約者の電力使用量と比較評価し

つつ、自動検針もしくはハンディターミナルにより収集したメータ内部データの挙動を分析し、盗電

被疑契約者を特定するものである。これらに加えて旧来からの手法である、巡視員あるいは検針員

の目視、外部からの通報など、人間系による通報によって盗電被疑例を検知している。

「②現物解析・採証」は州(電力)供給法(State Supply Code)により定められている配電会社

の義務として、盗電現場および盗電に用いられた物品(メータ不正の場合はメータの現物)を検証・

解析し、盗電の証拠を採取するものである。配電会社が一方的に電力供給を停止することが無い

ように消費者保護の観点からもこのプロセスの履行が求められている。

「③アセスメント・徴収」は州(電力)供給法(State Supply Code)に規定され州電力委員会から

の認定を受けた「アセスメントオフィサー」により、盗電被害額の算定を行い、それにもとづいて盗電

をおこなった契約者に対して電力料金および追徴金を請求・徴収するプロセスである。

「④告訴」は「③アセスメント・徴収」で電力料金および追徴金の請求・徴収に応じない契約者を、

警察に告訴し、捜査・裁判を求めるプロセスである。警察への告訴にあたっては FIR(First

Investigation Report)と呼ばれる被害届の提出が必要であり、盗電の場合は州(電力)供給法

(State Supply Code)の規定により配電会社が現物解析・採証の結果を文書化し、FIRへの添付

文書として提出しなければならない。

この様に4段階からなる盗電対策業務であるが、多くの配電会社においてこれらの業務が完全

に機能しているとは言いがたいのが現状である。

被疑例検知に必要となる配電網データ監視については、監視のために必要となる各種メータお

よび SCADA の配置が、高額な設備投資と配電会社の厳しい財政状況によって進捗しておらず、

定常的な配電網データ監視の実施自体が多くの配電サークルでは困難な状況にある。

また、メータデータ分析についても、未だに目視検針の占める割合の多い配電会社では有効な

メータデータを得ることが困難であり、検針が電子化されていてもメータメーカ間でのデータフォー

マットのばらつきにより有効なデータ分析を実施することは困難である。そのためメータデータ分析

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を行っている一部の先進的配電会社にあっても、その対象は一件あたりの電力購入金額の大きな

高圧(HT)ユーザーに限定されている。

また、盗電被疑例に対する現物解析・採証にあたっても、配電会社が科学的な解析能力を有し

ているケースは少なく、特にメータ不正が疑われるメータの現物解析はメータの供給企業に依存し

ているのが実態である。またメータの供給企業にあっても同様に科学的解析能力を十分には有し

ていないため、メータ不正手法の特定と採証にいたらず「原因不明のメータ異常」として扱われる結

果を招いている。

この科学的な解析能力の欠如による採証の不足は、後続する「アセスメント・徴収」および「告訴」

の業務へも大きな悪影響を及ぼしている。電気料金および追徴金の請求を受けた盗電被疑契約

者は、証拠不十分であるとして不正行為を認めず支払いを拒否するケースが頻発している。また、

FIR に添付する現物解析・採証結果文書の作成に困難をきたすと同時に、提出した文書が科学

的解析に乏しく立証能力にかけるとして、警察内で放置されるとともに裁判においても証拠不十分

として棄却されるケースを招いている。

したがって、盗電対策業務を有効に機能させるためには、配電網およびメータデータの監視・分

析能力を向上させて盗電被疑例検知の精度を高めると共に、科学的解析能力の向上が必要であ

るといえる。

盗電被害回収の実態 1.4.4

配電会社における不十分な盗電対策業務の実態を反映し、盗電被害の回収は非常に低い割

合にとどまっている。

本事業におけるのインタビュー調査での配電会社からの回答によると、配電会社が盗電と判定

し、盗電をおこなった契約者に対して電気料金および追徴金の請求をおこなった件数に対し、支

払いが実施されている比率は 40~60%にとどまっている。

配電会社では、データ監視・分析能力向上による盗電被疑例検知の精度向上と、科学的解析

能力の向上により採証能力を向上させ、警察への告訴にいたるまでの業務プロセスを実行するた

めの能力構築が求められている。

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1.5 センサデバイスを活用した盗電対策に関するソリューションの検討

目的 1.5.1

インド電力会社における盗電被害および対策の実態を踏まえ、電力会社への提案の前提として、

盗電被害防止による AT&C ロスの改善に資することが可能でありかつセンサを提供する日系企業

の裨益拡大に資することの出来るソリューションを検討する。

センサデバイスを活用したソリューションに対するニーズ 1.5.2

センサデバイスを活用した盗電対策ソリューションへのニーズは、以下の領域に存在することが

確認された。

① メータへの不正に対する対策ニーズ

② 電線へのダイレクトフッキングに対する対策ニーズ

メータ不正に対する対策ニーズは、インドおける盗電関連の法規制を反映して、「不正を検知し

て、詳細な不正の証拠を保存する」ことがその主要なニーズとなっている。これは盗電を検知しても

電力会社の判断で給電を停止することが法的に認められておらず、警察・司法へ詳細な証拠を

FIRに添付して提出する必要があるためである。

電力会社の現状として、科学的な盗電対策能力が整備されておらず、巡視によって盗電被疑例

を検知しても、具体的なメータ不正の手法等を検出できず、FIR が作成できていない現状がある。

この現状に対する対策ソリューションが求められている。

また、電線へのダイレクトフッキングに対する対策ニーズであるが、巡視による検出に頼っている

現状からの精度向上に向けて、電線網の電力量を監視し、不正な電力の流れを検出する対策ソリ

ューションが求められている。

なお、これらの対策にあたっては、厳しい電力会社の財務状況を反映した、ソリューションが求め

られている。

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インドにおいて導入が想定されるセンサデバイスを活用したソリューション 1.5.3

インド現地配電会社とのディスカッションにもとづき、導入が想定されるセンサデバイスを活用し

た盗電対策ソリューションを構成する主要なハードウェアおよびシステムの概要を以下に記す。

① メータ不正対策センサ(メータ内蔵)

静電気、電磁波、磁力などを検知してそのログを保持する機能を持つセンサモジュール

をメータに内蔵し、契約者毎に配置する。不正行為が行われた場合はそれを検知し、詳

細な証拠(周波数、出力、時間など)を取得することで、不正行為の採証を容易なものと

する。

② メータデータ分析システム

検針により収集(自動検針含む)したメータデータを分析し、電力使用量動向およびメー

タ内部データの挙動から不正行為が疑われる契約者を抽出し、盗電対策部隊が実査の

対象とする契約者を特定する。

③ アセスメントシステム

メータ不正対策センサにより保存された不正行為のログを基礎情報として、不正行為の

影響を評価し、盗電有無を判断する。

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1.6 Make in India(センサを現地生産する場合の政策的支援の有無等)

目的 1.6.1

価格要求が厳しくかつ輸入品に対する関税率の高いインドにおいては、顧客が受容できる価格

の達成のためには現地生産化の検討が不可欠である。現地生産化の検討前提として、インド政府

が推進する製造業振興政策である「Make in India」の概要を整理するとともに、受益できる可能

性のある優遇措置内容を把握する。

Make in India 1.6.2

インド経済は製造業の占める比率が低い一方でサービス業の占める比率が高く、製造業がけん

引役となっている他のアジア新興国との大きな差異となっている。インド政府は従来より製造業の

成長による雇用創出と国民の所得向上を目指してきた。2011年 11 月には商工省が「国家製造業

政策(National Manufacturing Policy)」を発表し、GDPに占める製造業の比率を、2022年ま

でに少なくとも 25%へ引き上げる方針を打ち出した。

モディ政権ではこの方向性を継承しつつ、それを更に加速させるために 2014 年 9 月に製造業

促進の産業政策である「Make in India」を発表した。インドの GDPに占める製造業の比率を、将

来的には60%にまで引き上げることをうたい、インド国内外の企業からの製造業への投資促進を狙

っている。投資の促進に向けて、各産業に対する投資規制緩和、事業開始に向けた行政手続きの

簡素化、各種インフラ構築の推進を打ち出している。

製造業に対する外国投資は、防衛などの分野を除き、原則開放分野とされ事前認可不要(自動

認可制)で 100%の出資が可能である。またMake in Indiaの中では、政府が特に振興対象とす

る 25の業種が発表され、これらの業種からの投資誘致に力を入れている。下表に振興対象 25業

種を示す。

表 9. Make in Indiaにおける振興対象業種

自動車 自動車部品 航空 バイオテクノロジー 化学

建設 防衛 電気機械 電子 食品製造

IT 皮革業 再生可能エネルギー 鉱業 ガス ・ 石油

製薬 港湾 鉄道 旅行 道路

宇宙 繊維 火力発電 メディア・娯楽 ヘルスケア

行政手続きの緩和に関しては、各種申請手続きの簡素化。オンライン化が促進されている。また、

インドへの投資を検討する企業向けに「Make in India」ウェブサイト上に問い合わせ窓口が設置

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され、個別問い合わせに対して 72時間以内に回答することが約束されている。

「Make in India」では、これらの施策が打ち出されさまざまなキャンペーンが実施されている一

方、新たな産業振興政策や投資優遇措置は打ち出されておらず、それらは旧来からの政策が引き

継がれ、適用されている。

優遇措置 1.6.3

インドでは、中央政府により「国家製造業政策」が制定される等、全国レベルでの製造業に対す

る優遇措置が定められている。また、これに加えて州毎に追加的な優遇措置が定められており、イ

ンドに製造拠点を設置する企業はその双方から優遇措置を受益することが出来る。ただし、各州に

おける優遇措置の内容は州毎に内容が異なり、また州政府との個別交渉により決定されるケース

が多いため、製造拠点の立地検討時に詳細な検討が必要である。

また、上記以外に、インド政府が振興を図る特定の業種に対する優遇措置も多数存在する。本

事業の対象である盗電対策センサデバイスの対象となる電子機器産業に関しては、「国家電子産

業政策」(National Eletronics Policy)が定められており、電子機器産業固有の優遇措置も定め

られている。電子機器の製造拠点設置にあたってはこれら電子機器産業固有の優遇措置の活用

検討も必要である。

全国レベルの優遇措置例 : SEZ(経済特区)入居企業への優遇措置

① 輸出利益の課税控除(15年間、段階的)

② 関税

i) 認可事業のための輸入に対する関税免除

ii) 輸入許可申請、ライセンスの免除 など

③ 物品税

i) 国内一般関税地域から SEZ内へ販売された物に対する物品税の免除

ii) 入居企業製造品に対する物品税の免除 など

④ 付加価値税

i) 州内での購入における付加価値税(VAT)免除

ii) 認可事業での州跨ぎ物品購入にける中央売上税(CST)免除 など

⑤ その他(サービス税などの優遇措置

州レベルの優遇措置例

① 土地取得に関する優遇措置

i) 印紙税の免除、軽減

ii) 登録料、固定資産税の減免 など

② 設備投資等に関する優遇措置

i) VAT/CSTの減免および補助金

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ii) 入境税の減免、還付

iii) 社会保障費用に対する補助金 など

③ インフラに関する優遇措置

i) 電気料金の免除

ii) 電気等、用役費の減免

iii) グリーン技術に対する補助金 など

電子機器産業固有の優遇措置 : 国家電子産業政策における優遇措置

① EMC (電子機器製造業クラスタースキーム)

電子機器製造業クラスター拠点を新設開発もしくは拡張するインフラ開発に対し、以下

の比率でプロジェクト費用を助成

i) 新規開発 : 75%

ii) 拡張 : 50%

② M-SIPS (改定特別インセンティブスキーム)

電子機器/電気機器製造企業に対し、以下の優遇措置を適用

i) 設備投資への補助金 (SEZ外 : 25%、 SEZ内 : 20%)

ii) SEZ外企業の資本支出に対する相殺関税、物品税の減免

iii) ハイテク分野における 10年間の中央販売税の還付 など

なお、現時点では 2017 年 7 月からの施行に向けて検討が推進されている物品税(GST)の導

入にあたり、インド全土において間接税体系の変更が行われる。この変更に伴い各種優遇措置も

変更されることが想定されるため、今後の注視が必要である。

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2. スマートメータ試作品の作製・先行実証の実施

2.1 盗電対策センサデバイス及びスマートメータの仕様検討・試作品の作製

目的 2.1.1

盗電対策センサデバイス及びセンサを搭載したスマートメータの仕様は、インド現地のニーズ・

盗電実態に基づき決定する必要がある。まず、TPDDL の管内に先行実証に先立ち設置していた

センサの仕様を記載し、その後に協議に基づき改善した盗電対策センサの仕様を整理する。最後

に、先行実証に使用したメータ及びメータシステムの仕様を記載する。

盗電対策センサデバイス及びスマートメータの仕様検討 2.1.2

2.1.2.1 本件委託事業に先立ち作製した盗電対策センサデバイスの仕様

本件委託事業に先立ち作製した盗電対策センサデバイスの仕様を表 10 に示す。インドで問題

となっている盗電を検知するために、静電気・電磁界・磁気・傾き・衝撃・温度を検知できるセンサ

の仕様となっている。

表 10. 盗電対策センサデバイスの仕様(本件委託事業に先立つ試作品、主要項目)

外観 項目 仕様

サイズ 40mm×40mm×10mm

(幅×高さ ×厚さ)

接続方式 コネクタ接続

電源電圧 3.1~3.5V

消費電流 2mA

静電気 10~50kV

電磁波 1~5kV

電磁波周波数測定 なし

磁気 ~150mT

傾き 0~180°

衝撃 ±2G

温度 -10~80°

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2.1.2.2 本件委託事業に先立ち設置したメータシステムの仕様

本件委託事に先立ち作製した盗電対策センサデバイス搭載メータのシステムを図 14 に示す。

TPDDLと協議を行い、インドですでに実績のあるインド大手メータメーカのGenus社のメータを使

用した。

図 14. 先行実証で想定するシステム構成の概要

盗電対策センサデバイス及びスマートメータの試作品の作製 2.1.3

2.1.3.1 インド現地のニーズを反映し改善した盗電対策センサデバイスの試作品の作

インド現地のニーズを反映して改善した盗電対策センサデバイスの仕様を表 11 に示す。インド

電力会社やメータメーカを訪問し、盗電のニーズ・実態調査と平行し、「センサデバイスの紹介→デ

モンストーション→改善点の洗い出し→試作品の改善」というサイクルを繰り返し、盗電対策に有効

なセンサデバイスの仕様を整合した。

表 11. 盗電対策センサデバイスの仕様(先行実証用試作品、主要項目)

外観 項目 仕様

サイズ 38mm×35mm×8.5mm

(幅×高さ ×厚さ)

接続方式 基板直付

電源電圧 2.0~3.5V

消費電流 0.9mA

静電気 5~50kV

電磁波 0.5~10kV

電磁波周波数測定 500kHz~2.0MHz

磁気 ~150mT

傾き 0~180°

衝撃 ±8G

温度 -10~80°

サイズについては、電力会社やメータメーカの要求を踏まえ、メータ内搭載しやすくなるように、

MDMS統合センサ

盗電データ ハンディ

ターミナル

デジタル単相電力メータ

盗電行為

盗電データ

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約 30%体積を削減した。接続方式も、電力会社とメータメーカの要求により、信頼性・量産性の観

点から、基板直付けに変更した。電源電圧・消費電流については、インドの不安定な電力事情で

のメータの使用方法を勘案し、電力会社・メータメーカからの要求によって、低電圧・低消費電力化

した。静電気・電磁波・衝撃検出機能については、現地での盗電手法を広くカバーするために、電

力会社からの要望によって変更した。

2.1.3.2 盗電対策センサデバイスを搭載したメータ試作品の作製

先行実証に先立ち作製した盗電対策センサデバイス搭載メータの仕様を表12に示す。インド電

力会社 TPDDL と、インド大手メータメーカの Genus 社との共同で盗電対策センサデバイス搭載

型メータを作製した。また、計測精度・盗電行為が記録できるかについて、事前にGenus社と電力

会社 TPDDLにて共同で評価を行い、盗電行為を記録できることを確認した。

表 12. センサデバイスを搭載したメータの仕様

外観 項目 仕様

種類 単相 デジタルメータ

入力電圧 AC240V

入力電流 10-60A

周波数 50Hz

メータメーカ Genus

型式 01B

準拠規格 IS 13779

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2.2 インド電力会社との共同による先行実証計画の策定

目的 2.2.1

100 社以上あるインド電力会社の中から、ターゲットとなるインド電力会社を選定し、10 社のイン

ド電力会社に先行実証の提案を行い、インド電力会社TPDDLと共同で先行実証計画を策定した。

ターゲットの電力会社の選定・10 社の電力会社へ提案・TPDDL との先行実証計画の策定までの

実施内容について記述する。

パートナーの選定 2.2.2

盗電対策センサデバイスの先行実証を行うためには、パートナーとなるインド電力会社の選定が

必要になる。内部および外部コンサルティング会社とのディスカッションを通じて、パートナーとなる

インド電力会社の条件として、以下を考慮した。

①メータの盗電に対し課題をもっており、盗電対策センサデバイスに興味を持っていること

※一方で、余りにも盗電率が高い電力会社は、センサデバイス活用以前に、巡視等の基礎的

な対策を講ずる必要があるため、パートナーとして適切ではない

②スマートメータ・新規センサなど新規技術の導入に前向きであること

上記観点から、AT&Cロスが 30%以内の電力会社を目安に民間・州営合わせて、10社のインド

電力会社を選定した。その 10社のインド電力会社に対し、盗電対策に関するニーズの調査と合わ

せて、盗電対策センサデバイスの商品・機能紹介・実証実験の提案を実施した。その中から、上記

のパートナー条件を満たす TPDDLをパートナーとして選定した。

TPDDL 2.2.3

TPDDL はインドで最も先進的な電力会社であり、新規技術の導入にも前向きである。また、盗

電に関するノウハウを多く保有し、盗電を研究するメータ研究所も保有している。

インドのトップ 4のメータメーカうちの一つであるGenus社の紹介を受け、当社はTPDDL社と、

センサデバイス及びメータの仕様・使い方などを議論した。当初 100 台規模の先行実証の提案を

行い、先行実証の計画を策定した。メータメーカとの仕様整合・メータ作製→メータメーカとのメー

タの共同評価→TPDDL メータ研究所での共同評価→市場設置・検証というステップで、評価を行

う計画を策定した。

TPDDL 以外のインド電力会社 2.2.4

合計 10社のインド電力会社の訪問を通じて、インド電力会社にセンサの効果を証明するための

先行実証の規模を100台レベルと設定し、先行実証計画を策定した。また、ヒアリングの結果、イン

ドで実績のある Genus 社であれば、多くの電力会社がメータの評価や納入実績があり、先行実証

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が可能であることを確認した。ただし、訪問した多くのインド電力会社では、収益悪化に苦しんでお

り、協議の過程で、自社で費用を負担しないとことが先行実証の条件として提示された。また、訪問

したインド電力会社との議論を通じ、センサの紹介→デモ→技術議論→メータの仕様整合・作製

→電力会社の研究所での評価→先行実証というプロセスが必要であることがわかった。

ここから、

① センサの紹介・デモ・技術議論

② メータの仕様整合・作製 (約 1-2 ヶ月)

③ 市場設置・先行実証 (最短 2 ヶ月で、盗電の証拠が取得できるまで継続)

という先行実証の計画を策定した。

2.3 盗電対策センサデバイス搭載型スマートメータの効果検証

目的 2.3.1

盗電対策センサデバイス及びセンサを搭載したメータの盗電に対する有効性を示すには、電力

会社およびメータメーカ、インド第三社評価機関の試算だけでは不十分である。インドの実際の市

場でさまざまな盗電手法が存在すると言われているものの、実際にどんな手法が存在しているかは

誰も把握できていない。盗電対策センサデバイスの有効性を示すために、インド現地の市場で実

際に盗電が行われた記録を取得することが非常に重要となる。

TPDDL 管内における 12 台での先行実証事業 2.3.2

本事業の当初の仕様では、各 100 台のメータを、全 3 回の先行実証で合計 300 台のメータを

設置し、盗電の証拠を取得することを予定していた。TPDDL を含むインド電力会社は盗電検知の

先行実証に興味を持ち、TPDDL と先行実証の計画策定に着手した。

しかし、協議を進める中で先方より追加条件が提示され、当初計画していた先行実証を本委託

事業の期間中に実施するために必要な合意には至らなかった。

しかし、本委託事業に先立ち TPDDL管内に 12台設置していた盗電対策センサデバイス搭載

型スマートメータから、そのデータを取得し分析することで、先行実証実験の目的である「市場で実

際に盗電が行われている記録を取得すること」が可能であるため、当初の計画を変更し、12 台の

データを取得・分析した。

【当初の計画】

全 3回 × 各 100個

= 合計 300個 の盗電対策センサデバイス搭載のメータでの 2 ヶ月間の先行実証

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【実施内容】

全 1回 × 12個

= 合計 12個の盗電対策センサデバイス搭載のメータで、4 ヶ月間程度の先行実証

当初計画より少ないセンサ数で代替できる理由 2.3.3

当初計画していた先行実証とは実施内容が異なるが、以下の理由により、市場での盗電の記録

を取得するという目的を果たし、合計300台の実証実験を、先行実証に先立ち設置した12台の実

証実験のデータで代用できると考えられる。

① 実証実験では、市場で実際に起こった盗電の記録を取得することが目的であり、当初

100台を広く設置し、盗電の記録を 1件でも発見することが目的であった。TPDDL社と

の議論を通じ、メータ研究所責任者からは、盗電の記録を取得するに当たっては、疑わ

しい地域・疑わしい世帯に狙いを定めて市場検証を行うことで、限られた数でも盗電の

記録が取得できるというアドバイスを入手し、12 台で実証実験を行い、1 件の盗電記録

を入手することができた。

② 前項で説明した通り、TPDDLにてすでに実施した実証実験で使用したセンサの仕様と、

本事業においてインド現地のニーズを反映したセンサの仕様は異なっている。しかし、こ

の仕様の変更は、実使用を反映した小型化・低消費電力化が主であり、センシングの基

本的な機能は、同等である。よって、データの有効性は、すでに実施していた TPDDL

社の 12個で問題ないと考えられる。

上記から、目的である市場で 1件以上の盗電記録の取得を達成し、取得したデータの有効性は

問題ないことから、当初計画していた 300 個の先行実証をすでに実施していた TPDDL 社の 12

個の実証実験で代用できると考えた。

TPDDL 管内での効果検証 2.3.4

TPDDL との協議の結果、盗電の疑いのある家庭に絞って、メータを搭載し、盗電の記録を取得

することにした。電力会社は、需要家の属性・月々の電力量・使用量などから、盗電の疑いのある

需要家を割り出すことが可能である。また、一般的には、インドにおいては、地域ごとに危険なエリ

アと一般的なエリアに別れており、例えば、デリーにおいても日本人が立ち入れないようなエリアが

存在している。これらのエリアでは、盗電の発生率が高い。事業実施前に、TPDDL の盗電の疑い

のある需要家のリストや、盗電の発生しやすいエリアの知見を基に、TPDDL が設置場所を決定し、

盗電対策センサデバイス搭載型メータを 12台 TPDDL管内に設置していた。このデータを取得し、

盗電の記録を確認した。TPDDL管内の 12のメータから取得できたらデータを以下に示す。

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表 13. 盗電対策センサデバイス搭載メータの盗電検知状況

内容

盗電割合 16.6% 12世帯のうち、2件盗電が発生

検知データ 磁気 0件

衝撃 1件 :1Gを超える衝撃が発生。

傾き 0件

静電気 1件 :9kV以上の静電気を検知。

電磁波 0件

温度 0件

効果に対する考察 2.3.5

これまで、多くの盗電手法がインドに存在していることは知られていたが、実際に市場でどのよう

な盗電がされているか、どの程度行われているかは、把握されていなかった。今回盗電対策センサ

デバイスを搭載したメータのデータを収集・分析することで、市場で実際に盗電が発生していること

がわかった。特に、静電気による盗電が市場で確認できたのは、おそらくインドあるいは世界でも

初めてのことと推定できる。

実際に検出した盗電のデータの一例を以下に示す。

表 14. 盗電対策センサデバイス搭載メータの盗電検知データ

日時 計測値(kV)

2016/8/1 5:07 9.6

2016/8/1 5:07 10.9

2016/8/1 5:07 10.4

2016/8/1 5:07 9.7

2016/8/1 15:21 10.4

2016/8/1 15:21 10.9

2016/8/2 15:51 10.1

2016/8/2 15:51 9.7

2016/8/2 15:51 9.6

2016/8/3 22:08 10.0

2016/8/3 22:08 10.1

2016/8/4 1:40 10.4

2016/8/4 1:40 10.9

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2016/8/7 19:32 10.9

2016/8/7 19:32 10.4

2016/8/7 19:32 10.0

2016/8/8 17:13 29.9

2016/8/8 17:13 9.6

2016/8/8 17:13 9.7

2016/8/8 17:14 10.4

2016/8/8 17:14 10.9

※本データは取得したデータの一部である。(8/1~8/8の期間)

本データは静電気による盗電を示すデータである。短期間の間に、放電を繰り返し、メータを誤

動作させるのが、静電気の盗電であり、よって、同じ時間に(分単位で)盗電の記録が残されている。

一般的に、機器や雷等の影響で低い値を示す可能性はあるが、ここで記録されている静電気の盗

電のログは 8kV以上と極めて高い値を示している。

上記データは通常のメータの設置環境では発生しない静電気の強さであることから、このメータを

使用している需要家が、意図的にきわめて高い静電気をメータに一定時間照射し、盗電を行った

と考えることができる。 (TPDDL社も同様の見解である。)

従来型の磁石・バイパスだけでなく、静電気による盗電についても実際に市場で行われているこ

とが確認できた。よって、従来の磁気センサだけでなく、各種のセンサを搭載することで、メータの

盗電を検知できることを確認できた。

上記から盗電の記録を取得する盗電対策センサデバイスを搭載したメータを設置することで、次

の効果が得られることがわかった。

① 盗電の発生率がわかる。

② 盗電の手口の分類が可能になる。

① については、これまで、静電気・電磁波などの電気的な盗電の手口は、証拠を残さずに盗電を

することが可能なため、どの程度盗電が発生しているかわからなかった。ところが、今回の実験

結果を通じ、盗電対策センサデバイスを設置したメータを使用することで、盗電の記録を取得

することができ、そこから盗電の発生率の算出を進めることができるようになった。

② については、前章までで説明の通り、各盗電手口の割合については、インド電力会社にヒアリ

ングしても実態が掴めなかった。ところが、盗電対策センサデバイスを設置したメータを使用し

て、盗電の記録を取得するで、盗電の手口が分類できることがわかった。

上記により、盗電対策センサデバイスを搭載したメータを設置し、盗電の証拠を取得することで、盗

電の発生率や盗電の手口の分類ができ、そこから盗電の被害割合などを算出することが可能にな

ると考えられる。

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3. 盗電対策センサデバイス事業化への課題の抽出と政策提言の整理

わが国企業が裨益しうる盗電対策センサデバイスの事業化に向けた課題を抽出し、その中で政

府間対話の場においてインド政府への働きかけが必要となる課題を整理し、インド政府に対する提

言を取りまとめる。

3.1 インド電力会社の経営改善に与える効果の検証

TPDDL管内における先行実証の結果、不正対策センサデバイス搭載メータ 12台中、2台のメ

ータにおいて不正イベントが検知された。今回のテストでは実施しなかったが、盗電を起こしている

時間は、盗電対策センサデバイスのデータとメータの検針ログを比較すると、算出は可能である。

将来的には、個々の盗電発生時間から、全体の盗電被害額を算出できるようになる。

一方、先述の 10 社のインド電力会社のヒアリング結果から、盗電対策センサデバイスの導入に

より、平均して 5%程度改善するという期待を頂いている。この数字をもとに、盗電対策センサデバ

イスで期待できる盗電被害額の削減効果を保守的に 3%程度と仮定した。

TPDDL が開示しているセグメント別の契約数構成比率および売上高構成比率より、不正対策

センサデバイス導入に要する追加的に初期投資金額および年間増収効果金額を算定し、それに

基づき単純投資回収期間を算出した結果を下表に示す。上述のとおり、不正対策センサデバイス

導入により 3%の売上金額改善効果があると仮定して評価している。

年間効果数式 : セグメント別売上 × 3%

初期投資数式 : セグメント別契約者数 × 盗電対策センサデバイス販売単価

単純投資回収期間 : 初期投資 ÷ 年間効果金額

表 15. 各セグメントにおける投資回収期間試算

(単位 : インドルピー)

試算の結果、仮に全セグメントへ導入した場合の投資回収期間は、0.26年と非常に短い投資回

収が期待できる結果となった。

ただし、費用対効果が極めて良好な Xpress、KCG などのハイエンドセグメントについては、既

に配電会社が人間系により重点監視を行っていることなどを考慮すると、期待効果である 3%の達

成は困難である可能性も高く、実際にはこの数値はやや低目となる可能性も高い。しかしながら最

契約者数売上

(ルピー)年間効果金額

投資回収期間 (年)

High Xpress Major Industrial & Commercial 500KW 302 10,33,50,00,000 31,00,50,000 0KCG Industrial & Commercial 100-499KW 1,20,800 4,82,30,00,000 14,46,90,000 0.28HRB Small Industries 11-99KW 60,400 26,87,10,00,000 80,61,30,000 0.03G&I Eg DLB, DMRC, Banks 11-99KW 15,100 2,06,70,00,000 6,20,10,000 0.08HCB Domestic & Commercial <11KW 12,53,300 23,42,60,00,000 70,27,80,000 0.6

Low SCG Slum Cluster Custmer 1,81,200 1,37,80,00,000 4,13,40,000 1.4768,90,00,00,000 2,06,70,00,000 0.26

セグメント

全セグメント合計

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も費用対効果の悪い SCGセグメント(Slum Cluster Customer)にあってもおよそ 1年半の期間

での投資回収が期待できる。

3.2 盗電対策デバイス普及に向けた課題の抽出

上述のように、盗電対策デバイスの導入は電力会社の経営改善に資するものの、本事業におい

てインド現地配電会社等との、盗電対策センサデバイスの普及に向けた議論の中で、インド現地に

おいて解消が必要な課題に多数直面した。主要な課題を以下に整理する。

①センサデバイス標準化の観点からの課題

盗電対策センサデバイスをスマートメータに搭載しその本格的普及を図ることが望ましい。その

ためには、インドにおける主要な配電会社の盗電手法に対する見解と、構ずべき対策の方向性が

一致し、盗電対策センサデバイスへの要求仕様を一致させることが必要である。

しかしながら、本事業における主要な配電会社へのインタビューの結果、各社のメータ不正手法

に対する見解はバラバラであり、 盗電対策センサデバイスへの要求仕様もバラバラであることが判

明した。配電会社間の相違だけでなく、同一配電会社内においても「どの様なメータ不正手法が行

われているか」というレベルで担当者間の見解が異なる。この状況は、メータ不正の実態について

科学的な解析が行われておらず、その実態を各社が把握していないことに起因している。

②盗電対策有効性向上の観点からの課題

盗電対策が有効に機能していない理由のひとつに、警察や裁判所における人員不足などの問

題もあるが、現時点では配電会社で十分な解析能力が整備されていない。不正対策センサデバイ

スの導入に加え、不正が行われたメータに対する現物解析機能を向上させる必要がある。

3.3 インド政府の対応が望まれる事項に関する政策提言の整理

盗電対策センサデバイスは黎明期にある製品であり、インド規格(IS)により仕様が規定されてい

る電力メータに搭載されることを前提としているその特性を踏まえると、市場の確立と普及に向けて

は、規格化をはじめとしたインド政府による対応が望まれる事項が存在する。それらの事項を、主

にインド規格(IS)化の観点から整理する。

インドの配電業界では州毎に配電会社が存在しており、細分化された市場となっている。またそ

れら配電会社は、インド全土で遵守すべきインド規格(IS)に準拠しながら、各々独自仕様も織り込

んで個別に電力メータの調達を行っている。配電会社に電力メータを供給している企業は 100 社

を超えるといわれている。この様に細分化された環境下で、効率的に盗電対策センサデバイスの

市場を確立し、採算ベースに達することが期待できる市場規模を早期に確保するためには、電力

メータのインド規格(IS)によって、盗電対策センサデバイスを搭載した電力メータが標準化される

ことが期待される。

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インド規格(IS)はインド規格協会(BIS)により管理されているが、その制定にあたっては、規格

化対象となる製品・サービスを管轄する中央省庁および業界関係者から構成される審議会により

規格の内容が決定される。

現在、電力メータに関してはインド政府が導入を推進しているスマートメータの規格が継続的に

議論されており、2015年 8月にはインド初のスマートメータの規格として IS16444が制定されてい

る。この過程において、審議会の中では既にスマートメータへの盗電対策センサデバイスの搭載が

検討事項として取り上げられ、議論が継続されている。

しかしながら、盗電対策センサデバイスの搭載の必要性に対する配電会社各社の認識の相違

により、現時点では結論が先送りされている。TPDDLに代表される一部先進的な配電会社はその

必要性を認識、支持しているものの、他方で多くの配電会社はその必要性に対して懐疑的である

のが実情である。規格化を推進するためには配電会社が懐疑的である要因を特定し、解消するた

めの措置が望まれる。

以下に多くの配電会社が盗電対策センサデバイスのスマートメータへの搭載について懐疑的な

主な要因とそれへの対策を記す。

① 盗電対策センサデバイスの有効性に対する懸念

② 盗電対策センサデバイスに求められる機能に関する見解の不一致

③ 盗電対策センサデバイス導入による費用対効果への懸念

①盗電対策センサデバイスの有効性に対する懸念

スマートメータ規格を検討する審議会において、多くの配電会社(主に州営)からは盗電対策セ

ンサデバイスが本当に盗電を検知できるか、その有効性に対する懸念の指摘が存在した。しかし、

この指摘は、盗電対策センサデバイスの機能と実際に行われている盗電手法の双方を客観的に

理解してギャップを指摘しているものではなく、科学的根拠の希薄な漠然とした疑問の提示に過ぎ

ない。これまで述べたとおり、各配電会社では不正行為がなされたと疑われるメータを現物解析す

る能力に乏しく、実際には盗電手法を特定できていないケースが多数に上る。

盗電対策センサデバイスの有効性に対する懸念を払拭するためには、インドにおいて実際に行

われている盗電手法を科学的に明らかにするとともに、盗電対策センサデバイスが盗電の検知に

十分な機能を有していることを立証することが求められる。また、この立証は BISおよびCEAが主

導するインド規格(IS)化の検討審議会における議論の前提として活用されることが想定されるため、

中立性・独立性が担保された機関により実施されることが望ましい。

また、IS 規格化後も、最新状況にもとづいた盗電対策を推進し、タイムリーに規格を改訂してい

く観点から、盗電手法の実態を業界横断的に取りまとめて最新情報を各配電会社に提供する取り

組みが望まれる。

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②盗電対策センサデバイスに求められる機能に関する見解の不一致

スマートメータ規格を検討する審議会において、盗電対策センサデバイスの電力メータへの搭

載を支持する配電会社にあっても、各社間で盗電対策センサデバイスの必要機能(どの様な盗電

手法を検知すべきか、各々の盗電手法の定義、計測方法など)に関する認識の相違が見られる。

これは①と同様に、各配電会社では不正行為がなされたと疑われるメータ現物解析する能力に乏

しく、実際にどの様な手法でどの程度の影響が与えられたか(静電気、電磁波、衝撃等の強度)が

把握できていないことに起因している。

①での取り組みと同様に、インドにおいて実際に行われている盗電手法を科学的に明らかにし、

規格化を検討する BISおよび CEAが主導するインド規格(IS)での議論の前提として活用する取

り組みが求められる。

③盗電対策センサデバイス導入による費用対効果への懸念

スマートメータ規格を検討する審議会において、盗電対策センサデバイスの電力メータへの搭

載にあたっては、その費用対効果への懸念の指摘が存在した。これは盗電対策センサデバイスが

大規模導入の前例のない製品でありやむを得ないことではあるが、配電会社の指摘の背景には配

電会社単独での取り組みでは収益改善に限界があるとの認識が根強いことがある。

現在、配電会社が盗電と判断し、電気料金および課徴金を請求した契約者からの回収率は約

40~60%の水準であるとされる。残りの約 40~60%については、警察への FIR提出を経て、刑事

および民事双方の訴訟により処置が決定されていくことになるが、インドにあっては警察および裁

判所での処理が停滞し、タイムリーに判決にいたる例は僅少であるとされる。そのため、配電会社

にあっては自社単独の取り組みでは電力料金および課徴金の回収にまでいたらず、盗電対策セ

ンサデバイス導入に伴う投資を回収できないのではないかという懸念が存在している。

この懸念を払拭するためには、盗電対策センサデバイスの導入と同時に、警察および裁判所の

能力強化のための取り組みが必要である。インド中央政府は、従来より各州政府に対して、盗電捜

査専門の警察署および盗電訴訟専門の裁判所を推奨しており、これをより徹底させる取り組みが

期待される。また、盗電捜査専門警察署および盗電訴訟専門裁判所に対して、盗電対策センサデ

バイスなどを活用した捜査能力向上と業務効率化に貢献するソリューションを提供することも期待さ

れる。

最後に、上述のインド規格(IS)化にむけた現在の検討状況を踏まえ、インド政府による対応が

望まれる事項に対する政策提言を整理する。

① 盗電実態を科学的手法により分析し、分析結果を配電業界で共有する

日印共同プロジェクトの実施

盗電対策センサデバイスの有効性に対する懸念、盗電対策センサデバイスに求められ

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る機能に関する見解の不一致の原因である科学的分析の不在に対する対策として、盗

電実態(特にメータ不正手法)を解明するためのプロジェクト実施を提言する。

インドの主要配電会社より盗電が疑われるメータを回収し、科学的な現物解析の実施に

より盗電手法を特定する。この分析結果は、CEA および BIS が主導するスマートメータ

のインド規格(IS)の検討審議会での議論の前提として活用されることを想定し、盗電対

策センサデバイスを搭載した電力メータの標準化に対する一助とする。

スマートメータのインド規格(IS)の検討審議会での議論の前提として活用されることを想

定した場合、プロジェクトの実施主体は中立性・独立性が担保され、かつインド配電業界

全体への影響力を有する機関により実施されることが望ましい。この観点からは、インド

政府 MoP(電力省)傘下の研究機関であり電力会社に対する技術的支援・認証を提供

する位置づけである CPRI(電力中央研究所)、あるいはインド政府 MoP(電力省)なら

びにグジャラート州政府および主要電力会社により設立された研究機関であり、CPRI と

同様に電力会社に対する技術的支援・認証を提供する立場にある ERDA(電気研究開

発協会)といった公的研究機関により主導されることを想定している。

これらのインドの電力業界における公的研究機関にあっても、盗電手法を明らかにする

ために必要となる現物解析能力は必ずしも充実していない。この現物解析能力を補完

するため、日本企業および研究機関にと共同でのプロジェクトを実施する余地がある。

これらの活動により、従来は「原因不明のメータ破損」とされていたメータ不正被疑例に

適用された不正手法を明らかにすることで、盗電対策の方向性、ひいては盗電対策セ

ンサデバイスの要求仕様標準化に対する、議論の前提条件を整える。

② 配電会社に対して盗電対策に必要な解析機能や情報サービスを恒常的に提供する

業界横断的プラットフォームとしての「不正調査機関(フォレンジックラボ)」の設置

インドにおいては、配電会社は盗電被疑例に対して現物を解析し、どの程度の影響が

与えられたか(静電気、電磁波、衝撃等の強度)を立証する義務を負っている。しかしな

がらほとんどの配電会社はそのために必要な科学的解析機能を有していない。

盗電対策を効果的に実施し継続的に成果を出していくためには、盗電対策センサデバ

イスを導入するだけではなく配電会社の科学的解析機能を強化し、新たに登場してくる

盗電手法の解析を可能にする必要がある。

この現物解析機能を配電会社各社が個別に整備していくことも選択肢の一つではある

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が、解析機器稼働率、メータ不正などの盗電に関する情報・知識の蓄積・共有の観点か

らは、配電業界全体に対して、解析機能と盗電に関する情報・知識をサービスとして提

供する業界横断なプラットフォームとして整備されることが望ましいと考える。

また、整備される業界横断的なプラットフォームは、配電会社に対してサービスを提供す

るだけではなく、警察および裁判所へも解析機能と盗電に関する情報・知識を提供し、

その業務の高度化・効率化を促すことが期待できる。

この様に配電業界横断的な取り組みを行うことが期待されるため、インド電力業界において公的

な研究・認証機関の位置づけにある CPRI(電力中央研究所)もしくは ERDA (電気研究開発協

会)がこのプラットフォーム整備の受け皿となることが期待される。

①での共同研究プロジェクト実施後、恒常的に配電会社に対して解析機能ならびにメータ不正対

策情報を提供し、啓発活動などを実施する不正調査機関(フォレンジックラボ)を CPRI もしくは

ERDA の組織内に設置することが期待される。日本企業・研究機関は、解析のための技術移転、

人材育成を支援することが求められる。

以上