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平成29年度修士論文
Extending homeomorphisms
of the genus-2 surface over S3
広島大学大学院理学研究科数学専攻
M162371 船吉 健太
指導教員 古宇田 悠哉
2018年 2月 9日
まえがき種数 g の向き付け可能な閉曲面を Σg とし, Σg の自己同相写像を f とする.
同相写像 f が零同境であるとは, 境界が Σg であるようなコンパクトで向き付け可能な 3 次元多様体 M と M の自己同相写像 f で f |∂M = f を満たすものが存在するときをいう. Bonahon [1] により f が向きを保つ有限位数の零同境写像ならばハンドル体の有限位数の同相写像に拡張可能であることが示されている. また f が種数 2 の閉曲面の既約な零同境写像ならば f はハンドル体の同相写像に拡張可能であることも示されている. このように, f が 3 次元多様体の自己同相写像へ拡張可能なとき, より “簡単”な 3 次元多様体を用いて拡張可能であるかを調べることは自然な問題である. 本論文では, 埋め込みを通じて S3 の同相写像に拡張可能な曲面の同相写像に対して同様の問題を考える.
f を Σg の自己同相写像とする. 埋め込み ι: Σg ↪→ S3 と, 同相写像 f :
(S3, ι(Σg)) → (S3, ι(Σg)) で f ◦ ι = ι ◦ f を満たすものが存在するとき, f はS3 に拡張可能であるという. 特に ι が standard な埋め込みであるとき, つまり ι(Σg) が Heegaard 曲面であるとき f は S3 に standard に拡張可能であるという.
Guo-Wang-Wang-Zhang [9], Wang-Wang-Zhang-Zimmermann [25, 26] において S3 に拡張可能な Homeo±(Σg) の有限部分群 G の分類に関して一連の研究がされている. ここで G が S3 に拡張可能であるとは 1 つの埋め込みΣg ↪→ S3 を用いて, G の任意の元が S3 の同相写像に拡張可能であるときをいう. その “多く”の場合は standard な埋め込みを用いて拡張している.
この背景に基づき次の問題が考えられる.
問題. f を Σg の自己同相写像とする. f が S3 に拡張可能であることと f がS3 に standard に拡張可能であることは同値であるか?
この問題に対し, 本論文では次のような部分的な解決を与える.
主定理. f を Σ2 の自己同相写像とする. f が S3 に拡張可能であることと f
が S3 に standard に拡張可能であることは同値である.
種数が 0, 1 の場合にも同様の事実が成り立つことは容易に確認できる. 種数が高い場合については未解明であるので今後の課題としたい.
船吉 健太
1
目 次
1 準備 3
1.1 曲面と写像類群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
1.2 曲面と 3 次元多様体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
1.3 ハンドル体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
1.4 圧縮体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
1.5 曲面の写像の拡張 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
2 種数が 0 または 1 の場合 11
2.1 種数が 0 の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
2.2 種数が 1 の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
3 Walthausen 分解 12
4 S3 における種数 2 ハンドル体の外部空間内の本質的アニュラス 14
5 有限位数の場合 16
6 主定理の証明 18
2
1 準備以下, 多様体と写像は PL カテゴリーで考える.
X を多様体, Y を X の部分多様体とする. Y の X における内部を Int(Y ),
閉包を Cl(Y ), 正則近傍を N(Y ) と表す. Cl(X \N(Y )) を Y の X における外部空間とよび, E(Y ) と表す.
Y を X の余次元が正の部分多様体とする. Y ∩ ∂X = ∂Y を満たすとき, Y
は X に properly に埋め込まれているという. 本論文では特に断らない限り,
与えられた多様体内の余次元が正の部分多様体は常に properly に埋め込まれていると仮定する.
Y を X に埋め込まれた余次元 1 の部分多様体とする. E(Y ) が非連結であるとき Y を分離的といい, そうでないとき Y を非分離的という.
M を向き付け可能な多様体とする. L1, . . . , Ln, R を M の部分集合とする.
Homeo±(M,L1, . . . , Ln rel R)
= {f : M → M :同相写像 | f(Li) = Li (i = 1, . . . , n), f |R = idR}
と定義する. Homeo±(M,L1, . . . , Ln rel R) の id を含む連結成分を Homeo±0(M,L1, . . . Ln, rel R) とおく. (M,L1, . . . , Lnrel R) の写像類群をMCG±(M,L1, . . . , Ln rel R)
= Homeo±(M,L1, . . . , Ln rel R)/Homeo±0 (M,L1, . . . , Ln rel R)
と定義する. MCG±(M,L1, . . . , Ln rel R) の元のうち, 代表元が M の向きを保つ同相写像であるもの全体の成す群を MCG+(M,L1, . . . , Ln rel R) と表す.
MCG±(M, ∅) や MCG+(M, ∅) を単に MCG±(M) や MCG+(M) と表す.
1.1 曲面と写像類群
Σ を 向き付け可能な曲面とする. [0, 1] の Σ への埋め込みの像を単純弧, S1
の Σ への埋め込みの像を単純閉曲線とよぶ. Σ 上の単純弧 α でイソトピー変形で α ⊂ ∂Σ とできないとき, α を本質的とよぶ. また Σ 上の単純閉曲線で Σ
の点や境界にイソトピックでないものを本質的とよぶ.
2 次元球面 Σ0 の向きを保つ任意の自己同相写像は恒等写像にイソトピックなので MCG+(Σ0) = 1 である. MCG+(Σ) は MCG±(Σ) の指数 2 の部分群であることから次がわかる.
命題 1.1. MCG±(Σ0) ∼= Z/2Z が成り立つ.
3
π
· · · · · ·
図 1: 向き付け可能な閉曲面の超楕円対合
またトーラス Σ1 の写像類群についても次が成り立つことが知られている.
前者の証明は例えば [8] の Theorem 2.5 を参照のこと.
命題 1.2. MCG+(Σ1) ∼= SL(2,Z) が成り立つ. また MCG±(Σ1) ∼= GL(2,Z) が成り立つ.
ここからは曲面の重要な自己同相写像を 2 つ紹介する.
α: Σ → Σ を向きを保つ位数が 2 の同相写像とする. α が 1 次元ホモロジー
群 H1(Σ) に
(−1 0
0 −1
)で作用するとき, α を Σ の超楕円対合とよぶ.
最後に Dehnツイストとよばれる曲面の向きを保つ無限位数の自己同相写像を定義する. まずアニュラス A = S1 × I における Dehn ツイスト T : A → A
を T (θ, t) = (θ + 2πt, t) と定義する. 次に一般の曲面での Dehn ツイストを考える. c を Σ 上の単純閉曲線, ϕ: A → N(c) を向きを保つ同相写像とする. Tc:
Σ → Σ を
Tc(x) =
{(ϕ ◦ T ◦ ϕ−1)(x) (x ∈ N(c));
x (x /∈ N(c))
と定める. Tc を c に関する Dehn ツイストとよぶ (図 2).
1.2 曲面と 3 次元多様体
M を 既約な 3 次元多様体, Σ を M 内の曲面とする.
M に埋め込まれたディスク D (ただし, properly に埋め込まれているわけではない) が次の (i), (ii) を満たすとき, D を Σ に対する圧縮ディスクとよぶ.
(i) D ∩ Σ = ∂D.
(ii) ∂D が Σ 上で本質的である.
4
c
Tc
図 2: トーラス上の単純閉曲線 c に関する Dehn ツイスト
Σ が 2 次元球面成分をもたず, Σ に対する圧縮ディスクが存在しないとき Σ
は (M 内で) 圧縮不可能であるという. ∂M が M 内で圧縮不可能であるときM は境界既約であるという.
M に埋め込まれたディスク D (ただし, properly に埋め込まれているわけではない) が次の (i), (ii) を満たすとき, D を Σ に対する境界圧縮ディスクとよぶ.
(i) Cl(∂D \ Σ) = D ∩ ∂M .
(ii) D ∩ Σ が Σ 上の本質的単純弧である.
Σ が境界に平行なディスク成分をもたず, Σ に対する境界圧縮ディスクが存在しないとき Σ は (M 内で) 境界圧縮不可能であるという.
Σ が (M 内で) 本質的であるとは, Σ が M 内で境界に平行でなく, 圧縮不可能かつ境界圧縮不可能であるときをいう.
定理 1.3 (McCullough [19]). M をコンパクトで向き付け可能な 3次元多様体,
c1, . . . , cn を ∂M 上のそれぞれ互いに交わらない単純閉曲線とする. M の同相写像で境界 ∂M への制限が c1, . . . , cn に関する Dehn ツイストであるものが存在するとき, 任意の i ∈ {1, . . . , n} に対して次の (i), (ii) のどちらかが成り立つ.
(i) ci を境界にもつ M 内のディスクが存在する.
(ii) i と異なる j に対して ci と cj を境界にもつM 内の圧縮不可能アニュラスが存在する.
A をアニュラスとする. まず N(A) = A× I = (S × I)× I におけるアニュラスツイスト T : (S × I)× I → (S × I)× I を T ((θ, s), t) = (θ + 2πt, s, t) と定義する. 次に M を 3 次元多様体, A を M 内のアニュラスとし, 3 次元多様体内のアニュラスツイストを考える. ϕ: N(A) → N(A) を向きを保つ同相写像とする. TA: M → M を
5
TA(x) =
{(ϕ ◦ T ◦ ϕ−1)(x) (x ∈ N(A));
x (x /∈ N(A))
と定める. TA を A に関するアニュラスツイストとよぶ. ここで ∂A = a1 ⊔ a2とおくと, TA|∂M = Ta1 ◦ T−1
a2が成り立つ.
1.3 ハンドル体
この節ではハンドル体を定義し, さらにハンドル体の一般化である圧縮体を紹介する.
3次元における k-ハンドルとは, 3次元球体 [0, 1]3 で [0, 1]3−k×∂[0, 1]k が接着面となっているものをいう. 0-ハンドル (つまり接着面のない 3 次元球体)にg 個の 1-ハンドルをそれぞれ互いに交わらないように接着して得られる 3次元多様体をハンドル体とよぶ. 種数が 1 のハンドル体を特にソリッドトーラスとよぶ. {1
2}3−k × [0, 1]k ⊂ [0, 1]3 を k-ハンドルの core, [0, 1]3−k × {1
2}k ⊂ [0, 1]3
を k-ハンドルの cocore とよぶ.
V をハンドル体, a を ∂V 上の単純閉曲線とする. 閉曲線 a が primitive であるとは V に埋め込まれたディスク D で ∂D が a と 1 点で横断的に交わるものが存在するときをいう.
S3 に埋め込まれたハンドル体 V の外部空間もハンドル体であるとする. V
に埋め込まれたディスク D が primitive であるとは, E(V ) に埋め込まれたディスク E で ∂D が ∂E と 1 点で横断的に交わるものが存在するときをいう.
補題 1.4. V を種数 2 のハンドル体, E を V 内の分離的な本質的ディスクとする. aを ∂E と交点をもたない ∂V 上の本質的単純閉曲線で [a] = 1 ∈ π1(V )
を満たすものとする. このとき a と交点をもたない V 内の非分離ディスク D
がイソトピーを法として一意的に存在する. さらに, この D はイソトピー変形で E と共通部分をもたないようにできる.
証明. V を E で切って得られる 2 つのソリッドトーラスを X1, X2 とする. a
⊂ X2 と仮定しても一般性を失わない. このとき D を X1 の meridian ディスクで V 内でも proper に埋め込まれているものとすると D ∩ a = ∅ であることは明らかである.
次に D の一意性を示す. D′ を a と交点をもたず D とイソトピックでないV 内の非分離的ディスクとする. D∩D′ = ∅が成り立つ場合, D′ は V を D で切り開いて得られるソリッドトーラス X2 の meridian ディスクである. [a] =1 ∈ π1(V ) より a と D′ は交点をもつ. これは矛盾である. よって D ∩D′ = ∅
6
D
δ
α
α
D′
図 3: D と D′ における D ∩D′ の様子
が成り立つとしてよい. D∩D′ の連結成分数が最小になるように D′ をイソトピーで変形する. このとき D ∩D′ は D や D′ 上で単純弧の族である (図 3).
D において D ∩D′ のうち最も外側の弧のうち 1 つを α とおく. D を α で切り開いて得られるディスクのうち他の単純弧を含まない方を δ とおく. D′ をα で切り開いて得られる 2 つのディスクのうち片方を D′
+ とし, F1 = D′+ ∪ δ
とおく. F1 は明らかに V 内で D とイソトピックでない非分離的ディスクである. D ∩ F1 の連結成分数が最小になるように F1 をイソトピーで変形させる.
連結成分数が 1 つ以上ならば上の操作をもう一度施す. この操作を有限回繰り返すと V 内の D とイソトピックでない非分離的ディスク Fk で D ∩ Fk = ∅を満たすものが得られる. Fk の条件より, Fk は V を D で切り開いて得られるソリッドトーラスの meridian ディスクである. よって Fk は a と交点をもつ. しかし一方で D ∪D′ が a と交点をもたないことから Fk は a と交点をもたない. これは矛盾である. したがって D と D′ がイソトピックであることが示せた.
D をイソトピーで変形させることにより D ∩E = ∅ とできることは明らかである.
系 1.5. V を種数 2 のハンドル体, a を ∂V 上の単純閉曲線とする. a がprimitive であるとき, a と交点をもたない V 内の非分離ディスク D がイソトピーを法として一意的に存在する.
証明. a は primitive であるので, a とただ 1 点で交わる V のディスク D0 が存在する. Cl(∂N(a ∪D0) \ ∂V ) を E とおくと, E は V 内の分離的な本質的ディスクである. したがって補題 1.4 より a と交点をもたない V 内の非分離ディスク D がイソトピーを法として一意的に存在する.
補題 1.6. V を種数 2 のハンドル体, E を V に埋め込まれた分離的な本質的ディスクとする. V を E で切って得られる 2 つのソリッドトーラスを X1, X2
7
D+2
D−2
D+1
D−1
δa2a1
図 4: ディスク δ
とおく. ai (i =1,2) を ∂V ∩ ∂Xi 上の本質的単純閉曲線で [ai] = 1 ∈ π1(V ) を満たすものとする. このとき a1 ∪ a2 と共通部分をもたない V 内の任意の分離的ディスク E ′ は E とイソトピックである.
証明. Xi の meridian ディスクを Di とおく. ただし Di は V 内で E と共通部分をもたないようにとる. E ′ を V 内の分離的ディスクで a1 ∪ a2 と共通部分をもたないものとする. E ′ ∩ (D1 ∪D2) = ∅ が成り立つことを示せば E とE ′ がイソトピックであることは明らかである. E ′ ∩ (D1 ∪D2) = ∅ と仮定して矛盾を導く. E ′ ∩ (D1 ∪D2) の連結成分数が最小になるように E ′ をイソトピーで変形する. このとき E ′ ∩ (D1 ∪D2) は E ′ 上で単純弧の族である. そのうち最も外側の弧の 1 つを α とおく. α ⊂ D2 と仮定しても一般性を失わない. E ′ を α で切り開いて得られるディスクのうち他の単純弧を含まない方をδ とおく. V を Di (i = 1, 2) で切り開いたときの切り口を D+
i , D−i とおく (図
4). ∂E ′ ∪ ∂D−2 の連結成分数を k とおくと ∂E ′ ∪ ∂D+
2 の連結成分数は k + 2
以上となるため矛盾がおこる. よってE ′ ∩ (D1 ∪D2) = ∅ が成り立つので E
と E ′ がイソトピックであることがわかる.
次の補題はよく知られている.
補題 1.7. V をハンドル体とする. [f ] ∈ MCG(V )に対して [f |∂V ] ∈ MCG(∂V )
を対応させることにより得られる準同型MCG(V ) → MCG(∂V )は単射である.
補題 1.8 (Cho-McCullough [5], Proposition 10.1). V を S3 内の種数 2 のハンドル体で E(V )もハンドル体であるとする. D を V 内の primitiveでない非分離ディスクとする. このとき MCG+(S3, V,D)は Z/2Zもしくは Z/2Z×Z/2Zと同型である.
ハンドル体 V と ∂V 上のそれぞれ互いに平行でなく, 交点をもたない単純閉曲線の族 k = {k1, . . . , kn} の組 (V , k) を相対ハンドル体とよぶ. A を V 内
8
(i) (ii) (iii) (iv)
図 5: 種数 2 の閉曲面に対する圧縮体. (i), (ii), (iii), (iv) の図はそれぞれ内側の境界が ∅, Σ1,Σ1 ⊔ Σ1, Σ2 であるときを表している.
のアニュラスとする. A が (V , k) 内で本質的であるとはA が k と共通部分をもたない V の圧縮不可能アニュラスで, 任意の V 内のディスク D で D ∩ A
= Cl(∂D \ ∂V ) が連結であり D ∩ k = ∅ を満たすものに対して, A 内のディスク D′ で Cl(∂D′ \ ∂A) = D ∩ A かつ D′ ∩ k = ∅ を満たすものが存在するときをいう. 相対ハンドル体 (V , k) が境界既約であるとは, ∂V \ k が V 内で圧縮不可能であるときをいう. (V , k) の写像類群に対して次のことが知られている. ただし A(V, k) は (V, k) 内の本質的アニュラスに関するアニュラスツイストによって生成される群とする.
補題 1.9 (Johannson [14], Remark 8.9). 相対ハンドル体 (V , k) が境界既約ならば MCG±(V, k)/A(V, k) は有限群である.
1.4 圧縮体
圧縮体の定義は以下の通りである. Σを連結で向き付け可能な閉曲面とする.
Σ× [0, 1] の境界 Σ × {0} に 2-ハンドルと 3-ハンドルをいくつか接着して得られる 3 次元多様体を V とおく. ∂V の成分のうちハンドルを接着しなかった方を外側の境界とよび, ∂+V と表す. ∂V \ ∂+V を内側の境界 とよび, ∂−V
と表す. ∂−V の成分に 2 次元球面が含まれないとき V を 圧縮体とよぶ. ハンドルをいくつか接着すると書いたが, ハンドルを接着しない場合も圧縮体と考えてよい. つまり Σ× [0, 1] は圧縮体である. ∂−V = ∅ となるとき V はハンドル体である. よって圧縮体はハンドル体の拡張と考えることができる. 種数2 の閉曲面 Σ2 を外側の境界とする圧縮体 V の内側の境界 ∂−V は構成法により Σ2 または Σ1, Σ1 ⊔ Σ1, ∅ のいずれかである (図 5).
補題 1.10 (Bonahon [1], Theorem 2.1). M を既約な向き付け可能 3 次元多様体で ∂M が連結であるものとする. このとき圧縮体 V で M \ V が境界既約
9
であり ∂+V = ∂M を満たすものがイソトピーを法として一意に存在する. このような V を M の (∂M に対する) 特性圧縮体とよぶ.
注意 1.11. (1) V の一意性により, M の自己同相写像はイソトピーを法として V を保つ.
(2) M が既約であることから M \ V も既約であることがわかる.
1.5 曲面の写像の拡張
この節では本論文の主題である曲面の同相写像の拡張の定義と主定理を与える.
M を向き付け可能な閉 3 次元多様体とする. M 内の種数 g の閉曲面 Σ に沿って M を切り開いて得られる 2 つの 3 次元多様体がどちらもハンドル体であるとき, S を種数 g の Heegaard 曲面とよぶ. また, この分解のことを M
の種数 g の Heegaard 分解とよぶ. Waldhausen [24] により任意の g ≥ 0 に対して, S3 の種数 g の Heegaard 分解はイソトピーを法として一意であることが示されている. 埋め込み ι: Σg ↪→ S3 に対して ι(Σg) が S3 内で Heegaard
曲面であるとき, ι を standard な埋め込みとよぶ.
定義 1.12. f を Σg の自己同相写像とする. 図式
Σgf //
�
Σg
�
S3
f
// S3
を可換にする埋め込み ι: Σg ↪→ S3 と, 同相写像 f : (S3, ι(Σg)) → (S3, ι(Σg))
が存在するとき, f は S3 に拡張可能であるという. 特に ι が standard な埋め込みであるとき f は S3 に standard に拡張可能であるという.
本論文の主定理は以下の通りである.
定理 1.13. f を Σ2 の自己同相写像とする. f が S3 に拡張可能であることとf が S3 に standard に拡張可能であることは同値である.
定義より S3 に standard に拡張可能ならば S3 に拡張可能であることは明らかである. また, Σ0, Σ1 に対する同様の主張が正しいことは容易に確かめられる (第 2 章参照).
10
ここで, 曲面の同相写像が S3 に拡張可能 (あるいは standard に拡張可能)
であるという性質は共役のもとで不変であることに注意する. 実際, 同相写像f : Σg → Σg が埋め込み ι: Σg ↪→ S3 を用いて拡張可能である, すなわち同相写像 f : (S3, ι(Σg)) → (S3, ι(Σg)) が存在して f ◦ ι = ι ◦ f が成り立つとする.
h: Σg → Σg を同相写像とし, f ′ = h−1 ◦ f ◦ h とおく. このとき ι′ = ι ◦ h とおくと, f ◦ ι′ = f ◦ ι ◦ h = ι ◦ f ◦ h = ι ◦ h ◦ h−1 ◦ f ◦ h = ι′ ◦ f ′ となるので, f ′
は ι′ を用いて S3 に拡張可能である.
また曲面の同相写像は S3 へ拡張可能であるという性質は写像のイソトピーのもとで不変である. したがって, 以降は写像と写像類を同じ記号で表し, 両者の違いについては断らない.
補題 1.14. 任意の同相写像 h: Sn−1 → Sn−1 は同相写像 h: Dn → Dn に拡張可能である.
2 種数が 0 または 1 の場合本章では Σ0, Σ1 に対して定理 1.13と同様の主張が成り立つことを証明する.
2.1 種数が 0 の場合
Σ0 に対して定理 1.13 と同様の主張が成り立つことは次の系からすぐにわかる.
定理 2.1 (Schonflies の定理). R3 内の任意の 2 次元球面に対し, その 2 次元球面を境界とする 3 次元球体が存在する.
系 2.2. S3 内の任意の 2 次元球面に沿って S3 を切り開くと 2 つの 3 次元球体が得られる.
命題 2.3. f を Σ0 の自己同相写像とする. f が S3 に拡張可能であることと f
が S3 に standard に拡張可能であることは同値である.
証明. 系 2.2 より任意の埋め込み ι: Σ0 ↪→ S3 に対して ι(Σ0) は S3 内でHeegaard 曲面となるので定理は明らかに成り立つ.
注意 2.4. 命題 1.1 より Σ0 の自己同相写像はイソトピーを法として, 向きを保つ同相写像と向きを保たない同相写像の 2 つしかなく, そのどちらも S3 へとstandard に拡張可能であることは明らかである. つまり, 定理 1.13 の主張は
11
閉曲面の自己同相写像が S3 に拡張可能であることと S3 に standard に拡張可能であることが同値であるということであったが, 実は種数が 0 の場合, Σ0
の任意の自己同相写像 f は S3 に standard に拡張可能であることがわかった.
2.2 種数が 1 の場合
補題 2.5. Σ1 ⊂ S3 に沿って S3 を切り開いて得られる 2 つの 3 次元多様体のうち少なくとも 1 つはソリッドトーラスである.
証明は例えば Schultens [23] の Theorem 3.2.7 を参照のこと.
命題 2.6. f を Σ1 の自己同相写像とする. f が S3 に拡張可能であることと f
が S3 に standard に拡張可能であることは同値である.
証明. f : Σ1 → Σ1 が S3 に拡張可能であると仮定する. つまり埋め込み ι:
Σ1 ↪→ S3 と同相写像 f : (S3, ι(Σ1)) → (S3, ι(Σ1)) が存在して f ◦ ι = ι ◦ f を満たすと仮定する. ι(Σ1) に沿って S3 を切り開いて得られる 2 つの 3 次元多様体を考える. 補題 2.5 より, このうち少なくとも 1 つはソリッドトーラスである. もし 2 つともソリッドトーラスならば, ι(Σ1) は Heegaard 曲面となるので補題 1.13 の主張を満たす. したがって, 一方 V はソリッドトーラス, もう一方 M はソリッドトーラスでないと仮定してよい. f(V ) = V であることに注意する. m と l をそれぞれ V ⊂ S3 の meridian と preferred longitude とする. つまり, m は ∂V 上の単純閉曲線で V 内のある本質的ディスクの境界になっているものであり, l は ∂V 上の m とただ一度だけ交わる本質的単純閉曲線で [l] = 0 ∈ H1(M) を満たすものである. このような m と l はイソトピーを法として一意に存在することに注意する (preferred longitude の存在と一意性については Rolfsen [22] を参照のこと). m, l の一意性により H1(T ) の元として [m] = ± [f(m)], [l] = ± [f(l)] が成り立つ. したがって f はH1(T )
に
(1 0
0 1
)または
(−1 0
0 −1
),
(−1 0
0 1
),
(1 0
0 −1
)で作用する同相
写像であることが分かる. このような f は明らかに S3 に standard に拡張可能である.
3 Walthausen 分解コンパクトで向き付け可能な既約 3 次元多様体で本質的曲面を含むものを
Haken 多様体とよぶ. M を境界既約な Haken 多様体とする. S を M 内の本
12
V A V
A
図 6: Type 1 アニュラス
質的アニュラスもしくは本質的トーラスとする. S が標準的であるとは M 内の任意の本質的アニュラスもしくは本質的トーラス T をイソトピー変形で S
∩ T = ∅ とできるときをいう.
{S1, . . . , Ss} を M 内のそれぞれ互いに共通部分をもたず, かつ平行でもない標準的な曲面の族のうち極大なものとする. この族に沿って M を分解することをWalthausen 分解, もしくはW-分解とよぶ. またこの族のことをW-
システムとよぶ. 次の補題により W-システムは M のイソトピーを法として一意的であることがわかる.
補題 3.1 (Neumann-Swarup [20], Lemma 2.2). S1, . . . , Sk を M 内のそれぞれ互いに共通部分をもたず, かつ平行でもない標準的な曲面とする. このとき M
内の任意の本質的アニュラスもしくは本質的トーラス T に対して, T をイソトピーで変形することにより S1 ∪ · · · ∪ Sk と共通部分をもたないようにできる. さらに, もし T が任意の Si と平行でないのならば, M \ (S1 ∪ · · · ∪ Sk) における T の最終的な位置は一意的である.
M を W-システム {S1, . . . , Ss} に沿って分解して得られる 3 次元多様体をM1, . . . ,Mm とする. ∂0Mi = ∂Mi ∩ ∂M , ∂1Mi = ∂Mi \ ∂0Mi (i = 1, . . . ,m)
と定義する. Mi が単純であるとは Mi 内の本質的アニュラスもしくは本質的トーラス S で S ∩ ∂0Mi = ∂S をみたすものが全て ∂1Mi に平行であるときのことをいう.
命題 3.2 (Neumann-Swarup [20], Proposition 3.2). Mi が単純でないならばMi は Seifert ファイバー空間か I-バンドルである.
13
V
A
V
A
(i) (ii)
図 7: (i) Type 2-1 アニュラス, (ii) Type 2-2 アニュラス
4 S3 における種数 2 ハンドル体の外部空間内の本質的アニュラス
V を S3 内の種数 2 のハンドル体とする. 外部空間 E(V ) 内の本質的アニュラスは Koda-Ozawa [18] により分類されている. この章ではその分類の概要を紹介する.
Type 1 アニュラスΓ を S3 内の手錠グラフとし, V = N(Γ) とおく. S3 内の 2 次元球面で Γ のただ 1 つの辺と 2 回横断的に交わるものを S とする. A = S \ Int V とおくと, A はアニュラスである. A が ∂V に平行でないとき A を (S3, V )の Type
1 アニュラスとよぶ (図 6). ∂V を ∂A に沿って切り開いて得られる曲面のうち, アニュラスである方を B とおく. このとき A ∪ B をイソトピーで E(V )
の内部に動かしたものは E(V ) 内の本質的トーラスになることに注意する.
Type 2 アニュラスΓ を S3 内の手錠グラフとし, V = N(Γ) とおく. このとき, Γ の 2 つのループのどちらか片方を境界にもつようなディスク D が存在し, さらに Int(D) はΓ の辺とただ 1 回横断的に交わると仮定する. A = D ∩ E(N(Γ)) とおく. このとき A を (S3, V )の Type 2 アニュラスとよぶ. 特に, 図 7 の (i) のアニュラスを (S3, V )の Type 2-1 アニュラス, 図 7 の (ii) のアニュラスを (S3, V )
の Type 2-2 アニュラスとよぶ.
Type 3 アニュラスX を S3 内のソリッドトーラスとする. A を E(X) 内のアニュラスで ∂A が
14
A AX
αAA
X
α
AX1 X2
α
(i) (ii) (iii)
図 8: (i) Type 3-1 アニュラス, (ii) Type 3-2 アニュラス, (iii) Type 3-3 アニュラス
∂X 上の互いに平行な 2 つの本質的単純閉曲線であるものとする.
まず Type 3-1 アニュラスの定義を述べる. α を X 内の自明な単純弧で∂α ∩ ∂A = ∅ を満たすものとする. V = X\N(α)とおく. もし ∂A が X 内で本質的ディスクを張る場合, X 内の任意の meridian ディスクは α と空でない共通部分をもつと仮定する. このとき A を (S3, V )の Type 3-1 アニュラスとよぶ (図 8 (i)). N(α) の cocore は E(V ) 内の ∂E(V ) に対する圧縮ディスクなので, E(V ) は境界既約でないことに注意する.
次に Type 3-2 アニュラスの定義を述べる. ∂A は X ディスクを張らないとする. α を E(X) 内の単純弧で α ∩ A = ∅ を満たすものとする. V = X ∪N(α) とおく. A が ∂V に平行でないとき A を (S3, V )の Type 3-2 アニュラス とよぶ (図 8 (ii)).
最後に Type 3-3 アニュラスの定義を述べる. X1, X2 を互いに共通部分をもたないような S3 に埋め込まれたソリッドトーラスとする. A を E(X1 ⊔X2)
内のアニュラスで, A∩ ∂Xi が ∂Xi 内のディスクの境界となっていない本質的単純閉曲線であるものとする. e を ∂X1 と ∂X2 をつなぐ E(X1⊔X2)\A 内の単純弧とする. A が ∂V に平行でないとき A を (S3, V )の Type 3-3 アニュラス とよぶ (図 8 (iii)).
Type 4 アニュラスK を S3 内の結び目で次の条件を満たすものとする.
• E(K) 内に本質的な 2 つ穴あきトーラス P で, E(K) を P で切り開いて得られる 2 つの成分がどちらも種数 2 のハンドル体であり ∂P は K
の non-integral slope であるようなものが存在する.
このような K の詳細については Eudave-Munoz [6] または Koda-Ozawa [18]
を参照のこと. ∂P は N(K) 上で互いに平行な 2 つの toroidal slope である.
E(K) を P で切り開いて得られる 2 つの種数 2 のハンドル体のうち一方を V
15
π
ρ2,1{+} ρ2,2{+,−}
π
O
O
π
π
τ2,1{+,−} τ2,2{+,−}
π
τ2,3{+} τ2,5{−}
{+} {+} {−}
{−} {+} {−}
{−}{+}
図 9: S3 に拡張可能な位数 2 の同相写像
とおく. A = Cl(∂N(K) \ ∂V ) とおく. このとき A を (S3, V )の Type 4-1 アニュラスとよぶ (図 15).
U を E(V ∪N(K)) 内の結び目または 2 成分の絡み目で E(V ∪N(K)∪U)
が E(V ∪N(K)) に対する圧縮体であるようなものとする. i: E(U) ↪→ S3 をE(i(E(U)) がソリッドトーラスまたは 2 つのソリッドトーラスとならないような埋め込みとする. このとき A を (S3, V )の Type 4-2 アニュラスとよぶ.
∂E(i(E(U)) の成分は E(V ) 内の本質的トーラスであることに注意する.
5 有限位数の場合f : Σ2 → Σ2 が有限位数であるとき, 主定理の主張が成り立つことが Guo-
Wang-Wang-Zhang [9] による次の結果からわかる.
定理 5.1 (Guo-Wang-Wang-Zhang [9]). Σ2 の有限位数の同相写像のうち S3
に拡張可能なものは共役を法として以下の 13 個ある: ρ2,1{+}, ρ2,2{+,−}τ2,1{+,−}, τ2,2{+,−}, τ2,3{+}, τ2,5{−}, ρ3{+}, ρ4{−}, τ4,1{+,−}, ρ6,1{+},ρ6,2{−}, τ6,2{−}, τ12{+}. ただし, 各写像については後で記述する.
16
ρ3{+} ρ4{−}
τ4,1{+,−} ρ6,1{+}
π2
{+}
{−}
{−}
2π3
π2
{+} τ4,1{+} = τ124{+}
{+}
2π3
π
図 10: S3 に拡張可能な位数 3, 4, 6 の同相写像
ここで ρ は向きを保つ同相写像を, τ は向きを保たない同相写像を表し, それぞれの写像の 1 つ目の添え字はその写像の位数を表している. また {+} はS3 の向きを保つ自己同相写像へと拡張可能であることを, {−} は S3 の向きを保たない自己同相写像へと拡張可能であることを, {+,−} は S3 の向きを保つ自己同相写像と向きを保たない自己同相写像のどちらにも拡張可能であることを表している.
定理 5.1で与えられた同相写像のうち ρ2,1, ρ2,2 τ2,1, τ2,2, τ2,3, τ2,5, ρ3, ρ4, τ4,1,
ρ6,1 は図 9, 図 10 で表されているように S3 の同相写像に拡張可能である. 図9, 図 10 において描かれている曲面はすべて Heegaard 曲面なのでこれらの写像はすべて S3 に standard に拡張可能であることがわかる. ここで例えば図9 の ρ2,2 の右図のように点 O が描かれている場合は S3 の点 O と無限遠点に関する semi-antipodal 写像 (つまり R3 内での点 O に関する点対称を S3 の同相写像へと自然に拡張したもの) を表す. ρ6,2, τ6,2, τ12 が S3 に standard に拡張可能であることを確かめればよい.
まず τ12 を考える. 図 11 の様に 3 次元球体 a0, a2 に 1-ハンドル b0, b2, b4を接着して得られるハンドル体と 3 次元球体 a1, a3 に 1-ハンドル b1, b3, b5 を接着して得られるハンドル体の 2 つのハンドル体を考える. τ12 を, ai を ai+1
に, bi を bi+1 にうつす写像として定義すると, τ12 は確かに S3 の位数 12 の向きを保たない同相写像とみなせる. (実は τ12
2 = ρ6,1, τ123 = τ4,1, τ12
4 = ρ3 が成り立つ.) このときそれぞれのハンドル体の境界は Heegaard 曲面であるので τ12 は standard に拡張可能である.
最後に ρ6,2, τ6,2 を考える. 図 11の 2つのハンドル体に対して a0, a2, bi (i =
17
a0
a1
a2
a3
b0
b1
b2
b3
b4
b5
ai → ai+1 bi → bi+1
図 11: S3 に拡張可能な位数 12 の同相写像
1, . . . , 5)をそれぞれ保ち a1 と a3 を入れ替えるような写像を σ とおく. σ はS3
の向きを保たない同相写像とみなせる. このとき ρ6,2 = σ ◦ τ12, τ6,2 = σ ◦ τ124
が成り立つ. したがって ρ6,2, τ6,2 は S3 に standard に拡張可能である. 以上でf : Σ2 → Σ2 が有限位数であるとき, 主定理の主張が成り立つことがわかった.
この結果と次の巡回群に関する Nielsen realization theorem より補題 5.3 が得られる.
定理 5.2 (Nielsen [21]). g ≥ 2 とする. f ∈ MCG(Σg) の位数が n であるならば, f の代表元 φ で位数が n であるものが存在する.
補題 5.3. f ∈ MCG(Σ2) を有限位数の元とする. f が S3 に拡張可能ならば,
f は S3 に standard に拡張可能である.
6 主定理の証明この章では定理 1.13 の証明を行う. 定義より S3 に standard に拡張可能ならば S3 に拡張可能であることは明らかなので, 逆を示す. したがって同相写像 f : Σ2 → Σ2 が S3 に拡張可能, つまり以下が成り立つと仮定する.
• 埋め込み ι0: Σ2 ↪→ S3と同相写像 f0 : (S3, ι0(Σ2)) → (S3, ι0(Σ2)) が存在して f0 ◦ ι0 = ι0 ◦ f を満たす.
18
主定理の証明は大きく 3 つのステップに分けて行う. 主張 6.1 は f の S3 への拡張可能性を保ったまま Σ2 を埋め込みなおすことで, S3 を Σ2 で切り開いて得られるもののうち少なくとも 1 つの成分をハンドル体にできることを述べている. 同時に, もう一方の成分 M をハンドル体か境界既約な 3 次元多様体にできる. M がハンドル体であるとき定理 1.13 の主張が満たされている.
主張 6.2 は, M が境界既約な 3 次元多様体である場合に, さらに Σ2 を埋め込みなおすことで M 内の本質的トーラスを取り除くことができるということを述べている. このとき M の W-システムは空集合もしくはすべての成分が本質的アニュラスであるような集合となる. 主張 6.3 は f が有限位数か S3 にstandard に拡張可能であることを述べている. 証明には第 4 章で紹介したアニュラスの分類を用いる. 第 5 章で f が有限位数のとき S3 に standard に拡張であることは示されているので定理 1.13 の証明が完結する.
主張 6.1. 以下の (1), (2) のいずれかが成り立つ.
(1) f は S3 に standard に拡張可能である,
(2)以下を満たす埋め込み ι1: Σ2 ↪→ S3と同相写像 f1: (S3, ι1(Σ2))→ (S3, ι1(Σ2))
が存在する.
(i) f1 ◦ ι1 = ι1 ◦ f ;
(ii) S3 = V ∪ι1(Σ2) M ;
(iii) V は種数 2のハンドル体である; かつ
(iv) M は境界既約な 3 次元多様体である.
主張 6.1 の証明. S3 を ι0(Σ2) で切り開いて得られる 3 次元多様体を M1, M2
とおく. 補題 1.10 より M1 と M2 それぞれに対する特性圧縮体 W1 と W2 が存在する. W1, W2 はそれぞれ図 5 のいずれかと同相である.
CASE 1-1: ∂−W1 =∅ かつ ∂−W2 = ∅ の場合このとき主張 6.1 の (1) が成り立っている.
CASE 1-2: ∂−W1 = ∅ かつ ∂−W2∼= Σ1 の場合
S3 への拡張可能性を保ったまま Σ2 を埋め込みなおすことで ∂−W1 = ∂−W2
= ∅ とできることを示す.
S3 を ∂−W1 に沿って切り開くと W1 ∪ M2 と N = Cl(S3 \ (W1 ∪ M2)) が得られる. N は境界既約である. したがって N はソリッドトーラスではないので定理 2.5 より W1 ∪ M2 はソリッドトーラスである. ソリッドトーラスD2×S1 を W1 ∪ M2の preferred longitude l と D2×S1 の meridian が一致するように貼り付けたもの Y = (W1 ∪ M2) ∪ϕ (D2 × S1) は S3 に同相である.
f0|ι0(Σ2) = f が Y の自己同相写像へと拡張可能であることを示せば, 主張 6.1
19
の (1) が成り立つことがいえる. 特性圧縮体の一意性 (補題 1.10) より f0 はW1 ∪M2 を保つ. したがって W1 ∪ M2 に ソリッドトーラス D2×S1 を貼り付けたときに f0|∂−Wi
が D2×S1 の自己同相写像へと拡張可能であること, つまり同相写像 h: D2×S1 → D2×S1 で h|∂(D2×S1) = f0|∂−W1 とみなせるようなものが存在することを示せばよい. f0|∂−W1 はソリッドトーラス W1 ∪ M2 のpreferred longitude l を保つ. l を境界にもつ D2×S1 内のディスク D が存在するので, 補題 1.14 より f0|∂−W1 を D の同相写像へと拡張できる. ∂−W1 をD で圧縮すると 2 次元球面が得られ, もう一度補題 1.14 を適用することにより D2×S1 の同相写像で f0|∂−W1 の拡張となっているもの得られる. これは求めていた同相写像 h である. 以上で Case 1-2 のとき, 主張 6.1 の (1) が成り立つことが示せた.
CASE 1-3: ∂−W1 = ∅ かつ ∂−W2∼= Σ1 ⊔ Σ1 の場合
S3 への拡張可能性を保ったまま Σ2 を埋め込みなおすことで ∂−W1 = ∂−W2
= ∅ とできることを示す.
∂−W2 = T1 ⊔ T2 とおく. f0 が T1 と T2 をそれぞれ保つ場合, 証明の流れは CASE 1-2 と同じである. f0 が T1 と T2 を入れ替える場合を考える. T1,
T2 それぞれの preferrd longitude を l1, l2 とおく. f0 は l1 と l2 を入れ替える同相写像である. CASE 1-2 と同様に, Σ2 を埋めなおすことで T1 を取り除き,
さらにもう一度 Σ2 埋め込み直すことで T2 を取り除くことができる. (l2 はCl(M2 \W2) に依存しているのでこの操作は可能である.) このとき f が S3 に拡張可能であることも Case 1-2 と同様に示せる. 以上で Case 1-3 のとき, 主張 6.1 の (1) が成り立つことが示せた.
CASE 1-4: ∂−W1 = ∅ かつ ∂−W2∼= Σ2 の場合
このとき主張 6.1 の (2) が成り立っている.
CASE 2-1: ∂−W1∼= Σ1 かつ ∂−W2
∼= Σ1 の場合Case 1-3 と同様にして主張 6.1 の (1) が成り立つことが示せる.
CASE 2-2: ∂−W1∼= Σ1 かつ ∂−W2
∼= Σ1 ⊔ Σ1 の場合Case 1-3 と同様にして主張 6.1 の (1) が成り立つことが示せる.
CASE 2-3: ∂−W1∼= Σ1 かつ ∂−W2
∼= Σ2 の場合Case 1-2 と同様にして主張 6.1 の (2) が成り立つことが示せる.
CASE 3-1: ∂−W1∼= Σ1 ⊔ Σ1 かつ ∂−W2
∼= Σ1 ⊔ Σ1 の場合Case 1-3 と同様にして主張 6.1 の (1) が成り立つことが示せる.
CASE 3-2: ∂−W1∼= Σ1 ⊔ Σ1 かつ ∂−W2
∼= Σ2 の場合Case 1-3 と同様にして主張 6.1 の (2) が成り立つことが示せる.
CASE 4: ∂−W1∼= Σ2 かつ ∂−W2
∼= Σ2 の場合∂−W1 =Σ2 かつ ∂−W2 = Σ2 と仮定すると ι0(Σ2) は S3 内で圧縮不可能で
20
あるが, これは起こりえない.
以上で主張 6.1 が示せた.
主張 6.2. 主張 6.1 の (2) が成り立つとき以下の (1), (2) のいずれかが成り立つ.
(1) f は S3 に standard に拡張可能である,
(2)以下を満たす埋め込み ι2: Σ2 ↪→ S3と同相写像 f2: (S3, ι2(Σ2))→ (S3, ι2(Σ2))
が存在する.
(i) f2 ◦ ι2 = ι2 ◦ f ;
(ii) S3 = V ∪ι2(Σ2) M ;
(iii) V は種数 2のハンドル体である; かつ
(iv) M は atoroidal かつ境界既約な 3 次元多様体である.
主張 6.2 の証明. 主張 6.1 の (2) の条件が成り立つと仮定する. トーラス分解定理 (Jaco-Shalen [12], Johannson [13]) より M 内の本質的トーラスの有限族T = {T1, . . . , Tm} で以下の条件を満たすものが M のアンビエントイソトピーを法として一意的に存在する.
(i) T の成分はそれぞれ互いに共通部分をもたず, かつ平行でもない.
(ii) M を T で切り開いた各成分はSeifertファイバー空間,もしくは atoroidal
な多様体である.
(iii) T の真部分集合で (ii) の条件を満たすものは存在しない.
T の一意性より f1 はイソトピーを法として∪m
i=1 Ti を保つ. よって主張 6.2
を示したときと同様の方法で f の S3 への拡張可能性を保ったまま Σ2 を埋め込みなおすことで 本質的トーラスの有限族 T を取り除くことができる. ここで注意しなければいけないのが, 図 12 の {T1, T2, T3} や {T5, T6} のように Tの成分である本質的トーラス同士が “入れ子”になっている場合があることである. しかしそのような場合は “入れ子”になっている本質的トーラスのうち最も外側にあるトーラスのみに対して埋め込みなおしを行えばよい. つまり図12 の場合は T ′ = {T1, T4, T5} を取り除くように埋め込みなおせばよい. 結果的に M は本質的トーラスを含まない, つまり atoroidal であることがいえた.
以上で主張 6.2 が示せた.
主張 6.3. 主張 6.2の (2)が成り立つとき f は有限位数または S3 に standard
に拡張可能である.
21
T1
T2
T3
T4
T5
T6
M
図 12: トーラス分解定理から得られる M 内の本質的トーラスの族
主張 6.3 の証明. まず M が本質的アニュラスを含まない場合を考える. このとき M は本質的アニュラスも本質的トーラスも含まない. よって M の W-
system は空集合であり, M に W-分解を施して得られるものは M 自身である. このとき M は明らかに単純である. よって Johannson [13]の Proposition
27.1 より MCG±(M,∂0M) は有限群である. したがって f2|M は有限位数であるので f も有限位数であることがわかる.
注意 6.4. M が本質的アニュラスを含まない場合に f が有限位数であることは以下のようにしてもわかる. いま M は本質的アニュラスも本質的トーラスも含まない既約かつ境界既約な 3 次元多様体である. このとき Thurston による双曲化定理 (Kapovich [15]を参照)と同変トーラス分解定理 (Holzmann [10]
を参照) より M は全測地的境界を備えた双曲構造を許容する. よって f2|M は有限位数であるので f も有限位数である.
以降, M が本質的アニュラスを含むとする. M の W-システムを W とおく. W = ∅ が成り立つことを背理法で示す. W = ∅ を仮定する. 仮定より M
に W-分解を施して得られる多様体は M 自身である. このとき M 内の本質的アニュラスは ∂M に平行でないので, M は単純でない. 命題 3.2 より M
は Seifert ファイバー空間か I-バンドルである. ここで境界をもつ Seifert ファイバー空間の境界はトーラスに同相であるから, M は明らかに Seifert ファイバー空間でない. したがって M は I-バンドルである. M が向き付け可能曲面S の自明な I-バンドル S × I に同相であるとする. ∂S = ∅ のとき S × I はハンドル体であるので, M が境界既約であることに矛盾する. また, ∂S = ∅ のとき S × I の境界成分は 2 つなので, M の境界成分が 1 つであることに矛盾する. M が向き付け不可能曲面 N の捻り I-バンドル N×I に同相であるとする. ∂N = ∅ のとき N×I はハンドル体であるので, M が境界既約であることに矛盾する. また, ∂N = ∅ のとき H1(N×I) は非自明な torsion を含むので,
22
a0
π π
β1 β2
l2m2m1
a1
E
X1 X2
a0 Em1
a1
m2
l2X2
X1
(i) (ii)
図 13: (i) Case 1 における V の様子, (ii) V の同相写像 β1, β2
H1(M) ∼= Z ⊕ Z であることに矛盾する. 以上で W は空集合ではないことが示せた.
M は atoroidal なので W は本質的アニュラスの集合である. 第 4 章で紹介した M 内の本質的アニュラスの分類に基づいて主張 6.3 が成り立つことを示していく. 第 4 章で分類されたアニュラスのうち Type 1 アニュラス, Type
3-1 アニュラス, Type 4-2 アニュラスは M 内に存在すると仮定すると, M が境界既約であることや atoroidal であることに矛盾する. したがってこれらはM 内には存在しない.
CASE 1: Type 2-2 アニュラスが W に含まれている場合A を Type 2-2 アニュラスとし, A ∈ W と仮定する. ∂A の成分のうち ∂V
内の分離的な本質的ディスク E の境界になっている方の成分を a0 とおき, もう一方を a1 とおく. V を E で切り開いて得られる 2 つのソリッドトーラスを X1, X2 とおく. a1 ⊂ ∂X1 としてもよい. Type 2-2 アニュラスの定義よりa1 は X1 の preferred longitude である. X1 の meridian を m1 と表し, X2 のmeridian をm2, preferred longitude を l2 と表すことにする (図 13 (i)). これらの preferred longitude と meridian は V と A から一意的に定まる. W が一意的であり (補題 3.1) かつ有限集合であることから, ある自然数 n が存在してf2
n(A) = A が成り立つ. f2n|V が向きを保たない場合, n を 2n と置き換える
ことで f2n|V は向きを保つ同相写像であると仮定してよい. 特に ∂V 上で a0
が分離的であり a1 が非分離的であることから, f2n は a0 と a1 を入れ替えるこ
とはない. したがって f2n は m1, m2, l2 もそれぞれ保つ. これらの条件を満た
23
π
D2D1l1 l2
γ
EAX1 X2
α
X1 X2
E
(i) (ii)
図 14: (i) Case 2 における V の様子, (ii) V の同相写像 γ
す V の自己同相写像は以下で定義する α, β1, β2 の合成 (のイソトピー類) で表せる (Cho [3] の Section 5 を参照). α を V の超楕円対合とする. β1 を α と同じ軸で V の左半分だけをひねる写像, β2 を右半分だけをひねる写像とする(図 13 (ii)). β1, β2 のひねる向きは (β1 ◦ β2)|∂V = Ta1 を満たすように定める.
このとき β12|∂V = β2
2|∂V =Ta1 , β1 ◦ β2−1 = α が成り立つ. α, β1, β2 はそれぞ
れ互いに可換なので f2n|V ∼ αε ◦ β1
n1 ◦ β2n2 (ε ∈ {0, 1}, ni ∈ Z) と表すことが
できる. (∼ はイソトピックであることを表す.) (f2n|V )2 ∼ β1
2n1 ◦ β22n2 より
(f2n|∂V )2 ∼ Ta1
n1+n2 が成り立つ. n1 + n2 = 0 と仮定する. f2n|∂V は S3 へ拡
張可能なので定理 1.3 より M 内に a1 を境界にもつディスクが存在することがわかる. しかしこれは M が境界既約であることに矛盾する. よって n1 + n2
= 0 である. したがって f2n|V ∼ α ◦ β1
n1 ◦ β2−n1 が成り立つ. β1 ◦ β2
−1 = α より f2
n|V は α か 恒等写像にイソトピックであるので f = f2|∂V は有限位数である. 以上で Type 2-2 アニュラスが W に含まれている場合, f は有限位数であることが示せた.
CASE 2: Type 3-3 アニュラスが W に含まれている場合A を Type 3-3 アニュラスとし, A ∈ W と仮定する. ∂A = a1 ⊔ a2 とおく.
N(e) を 1-ハンドルとみなしたときの cocore を E とおく. 補題 1.6 より E はイソトピーを法として a1 ∪ a2 と交点をもたない V 内の唯一の分離的ディスクである. V を E で切って得られる 2 つのソリッドトーラスを X1, X2 とする. Di (i = 1,2) を Xi の meridian ディスク, li を Xi の preferred longitude
24
とする (図 14 (i)). W が一意的であり (補題 3.1) かつ有限集合であることから, ある自然数 n が存在して f2
n(A) = A が成り立つ. f2n|V が向きを保たな
い場合, n を 2n と置き換えることで f2n|V は向きを保つ同相写像であると仮
定してよい. fn2 は a1 ∪ a2 を保つので, E の一意性より E も保つ. したがっ
て Di, li それぞれの一意性より f2 は D1 ∪D2 と l1 ∪ l2 をそれぞれ保つ. この条件を満たす V の自己同相写像は CASE 1 で定義した α, β1, β2 と以下で定義する γ の合成 (のイソトピー類) で表せる. (α, β1, β2 は CASE 1 と同じ関係をもつ. つまり (β1 ◦ β2)|∂V = T∂E が成り立つ.) γ を図 14 の (ii)
のような, D1 と D2 を入れ替える V の自己同相写像とする. ここで α, β1,
β2, γ は, β1 と γ, β2 と γ の組を除いて可換である. β1, β2 と γ に関してはγ ◦ β1 = β2 ◦ γ が成り立つ (Cho [3] の Section 5 を参照). これらの関係を使うと f2
n|V ∼ αε1 ◦ β1n1 ◦ β2
n2 ◦ γε2(εi ∈ {0, 1}, ni ∈ Z) と表すことができる.
(f2n|V )4 ∼
{β1
4n1 ◦ β24n2 (ε2 = 0);
β12(n1+n2) ◦ β2
2(n1+n2) (ε2 = 1)
より (f2n|∂V )4 ∼ T∂E
2(n1+n2) が得られる. ここで (f2n|∂V )4 は S3 へと拡張可能
である. したがって n1+n2 = 0と仮定すると定理 1.3よりM 内に ∂E を境界にもつディスクが存在することがわかる. しかしこれはM が境界既約であることに矛盾する. よって n1+n2 = 0である. したがって f2
n|V ∼ αε1◦β1n1◦β2
−n1◦γε2
= αε′ ◦ γε2 (ε′ ∈ {0, 1}) が成り立つ. したがって f = f2|∂V は有限位数である.
以上で Type 3-3 アニュラスが W に含まれている場合, f は有限位数であることが示せた.
CASE 3: Type 4-1 アニュラスが W に含まれている場合A を Type 4-1 アニュラスとし, A ∈ W と仮定する. ∂A は ∂V 上で平行なので, ∂A を境界にもつ ∂V 上のアニュラス A′ が存在する. A ∪ A′ は N(K)
の 境界になっている. ここで K は第 4 章で与えられた結び目を表す. またM を A で切り開くとソリッドトーラス N(K) と種数 2 のハンドル体 W が得られる. A′ の core を kA′ とおくと, kA′ は ∂V 上の本質的単純閉曲線である. P = Cl(∂V \ A′) とおく. P は 2 つ穴あきトーラスである (図 15).
主張 6.3 を示すためにまず, 次の主張を示す.
主張 6.5. 相対ハンドル体 (V, kA′) は非分離的な本質的アニュラスを含まない.
主張 6.5 の証明. (V, kA′) 内の非分離的な本質的アニュラス B が存在するとして矛盾を導く. ∂A = a1 ⊔ a2, ∂B = b1 ⊔ b2 とおく. S3 を K で a1 に沿って Dehn 手術して得られる 3 次元多様体を Y とおく. つまり ソリッドトーラス X に対して, Y = (S3 \ IntN(K)) ∪X となる. このとき a1 と a2 は X の
25
N(K)
W
V
A
A′
P P
non-integral slope
図 15: Type 4-1 アニュラス A のイメージ図
meridian である. X 内で a1 と a2 が張る meridian ディスクをそれぞれ D1,
D2 とおく. P ∪ (D1 ∪D2) を T とおくと T は Y 内のトーラスである. ここで Eudave-Munoz ([7] の Proposition 5.4) により Y を T で切り開いて得られる 2 つの成分はどちらもディスク上の特異ファイバー 2 本をもつ Seifert ファイバー空間であることが知られている. これらの 2 つの Seifert ファイバー空間を Y1, Y2 とおく. 一般性を失わず V ⊂ Y1, W ⊂ Y2 と仮定してよい. B はV 内で非分離的なので Y1 内でも非分離的である. 一方, Jaco [11] の Theorem
VI.34 より Y1 内には非分離的な圧縮不可能アニュラスは存在しない. これは矛盾である. 以上で主張 6.5 が成り立つことが示された.
以下 f が有限位数であることを示す. 相対ハンドル体 (V, kA′) は明らかに境界既約であるので, 補題 1.9より MCG±(V, kA′)/A(V, kA′)は有限群である. ここで主張 6.5 より, A(V, kA′) は (V, kA′) 内の分離的な本質的アニュラスに関するアニュラスツイストによって生成される群である. いま V の種数は 2 であるから V 内の任意の分離的アニュラス B の境界は ∂V 上でイソトピックである. よってアニュラスツイスト TB を ∂V に制限したもの TB|∂V は MCG(∂V )
の元として自明である. よって補題 1.7 より TB は MCG(V ) で自明である.
したがって A(V, kA′) = 1 であるので MCG±(V, kA′) は有限群である. W は有限集合なので, ある自然数 n が存在して f2
n(A) = A が成り立つ. このときf2
n|V (kA′) = kA′ も成り立つ. したがって f2n|V ∈ MCG±(V, kA′) より f2
n|Vは有限位数である. したがって f = f2|∂V も有限位数である. 以上で Type 4-1
アニュラスが W に含まれている場合, f が有限位数であることがいえた.
ここまでで W がType 2-2 アニュラス, Type 3-3 アニュラス, Type 4-1 アニュラス のいずれかを 1 つでも含む場合に主張 6.3 が成り立つことを示した.
26
VA
A′
Aa2
a′2
a2
a′2
図 16: アニュラス A
したがって, 以降は W はこれらのアニュラスを含まないと仮定する.
CASE 4: Type 2-1 アニュラスが W に含まれている場合A を Type 2-1 アニュラスとし, A ∈ W と仮定する. 主張 6.3 を示すためにまず, 次の補題を示す.
主張 6.6. W = {A} が成り立つ.
主張 6.6 の証明. W が異なる Type 2-1 アニュラスを 2 つ以上含まず, かつType 3-2 アニュラスを含まないことを示せばいい.
まず W が異なる Type 2-1 アニュラスを 2 つ以上含まないことを示す. つまり A′ ∈ W を Type 2-1 アニュラスとしたとき, A = A′ であることを示す.
∂A = a1 ⊔ a2, ∂A′ = a′1 ⊔ a′2 とおく. ただし V 内でディスクを張っている方
を a1, a′1 とし, primitive である方を a2, a
′2 とする. a2 が primitive であること
から系 1.5より a1 と a′1 は ∂V 上でイソトピックである. 以降, イソトピー変形により a1 = a′1 とみなす. A = A ∪ A′ とおく. A をイソトピー変形によりa1 の近くで V から離すと A は a2 と a′2 を境界にもつ M 内の圧縮不可能アニュラスである (図 16). a2 と a′2 がイソトピックであること示す. A が M の境界に平行ならば, a2 と a′2 はイソトピックである. したがって A が M の境界に平行でないと仮定する. このとき Koda-Ozawa [18] の Lemma 1.4 より A
は M 内で本質的である. いま, A の境界 a2, a′2 はそれぞれ ∂V 上で非分離的
であり primitive である. このような M 内の本質的アニュラスは (元々存在し得ない Type 1 アニュラス, Type 3-1 アニュラス, Type 4-2 アニュラスを除くと) Type 3-2 アニュラス, Type 3-3 アニュラス, Type 4-1 アニュラスのいずれかである. A が Type 3-3 アニュラスであると仮定する. Type 3-3 アニュラスの定義より, V 内の分離的な本質的ディスク E が存在して, V を E で切り開くと 2 つのソリッドトーラス X1, X2 で a2 ⊂ ∂X1, a
′2 ⊂ ∂X2 を満たすもの
が得られる. ここで補題 1.4 より X2 の meridian ディスク D は a2 と交わら
27
δ X
A′
図 17: X が S3 内で自明な結び目の近傍であり, ∂A′ がどちらも X の preferred longitude であるとき A に対する境界圧縮ディスク δ が存在する
ない V 内の唯一の非分離的ディスクである. よって ∂D = a1 が成り立つ. したがって a1 ∩ a′2 = ∅ が成り立つ. これは A と A′ がともに W の元であることに矛盾する. よって A は Type 3-2 アニュラス もしくは Type 4-1 アニュラスである. Type 3-2 アニュラスと Type 4-1 アニュラスはどちらも境界が ∂V
上で平行なので, a2 と a′2 はイソトピックである. 以降, イソトピー変形により a2 = a′2 とみなす. つまり A は M 内のトーラスであるが, M は atoroidal
であるので A は本質的でない. したがって A に対する圧縮ディスクが存在する. その圧縮ディスクで A を圧縮すると 2 次元球面が得られる. M は既約なので, その 2 次元球面を境界にもつ 3 次元球体が存在する. よって A と A′ はイソトピックである. 以上で W が異なる Type 2-1 アニュラスを 2 つ以上含まないことを示すことができた.
次に W は Type 3-2 アニュラスを含まないことを示す. A′ ⊂ M を Type
3-2アニュラスとし, ∂A′ = a′1⊔a′2 とおく. Type 3-2アニュラスの定義より a′1,
a′2 は ∂V 上でイソトピックな primitive 曲線である. A∩A′ = ∅ が成り立つことを示せばよい. A ∩ A′ = ∅ と仮定し矛盾を導く. a′i (i = 1, 2) は ∂V \ a1 上の本質的単純閉曲線であり, a2 と交点をもたない. よって a′i は S3 内で a2 とイソトピックである. ここで a2 は定義より S3 内で自明な結び目とイソトピックである. したがって a′i も S3 内で自明な結び目とイソトピックである. a1 がV 内で張るディスクを D とする. V を D で切り開いて得られるソリッドトーラスを X とおくと a2 は E(X) 内で本質的ディスクを張るので X は S3 内の自明な結び目の近傍である. a′i∩a2 = ∅ より a′i も X の preferred longitude であり, 図 17 のように境界圧縮ディスク δ が存在する. ここで V は X に 1-ハンドルを接着して得られたが, どのように V を構成しても A′ は E(V ) 内で境界圧縮可能となる. これは A′ が E(V ) 内で本質的であることに矛盾する. したがって W が Type 3-2 アニュラスを含まないことがわかった.
以上で W = {A} が成り立つことがわかった.
28
これより f が有限位数であることを示す. M を A で切り開いて得られる 3
次元多様体を M0 とおく. M0 が atoroidal であること示す. M0 が atoroidal
でない, つまり M0 内に本質的トーラス T が存在すると仮定して矛盾を導く.
M が atoroidal であることから T は M 内で圧縮可能である. つまり M 内の T に対する圧縮ディスク D が存在する. このとき D ∩ A = ∅ が成り立つ.
D ∩A の連結成分数が最小になるように D をイソトピーで動かす. D ∩A はD 上で単純閉曲線の族である. その単純閉曲線のうち最も内側の単純閉曲線をc とする. c は D 内のディスク D0 の境界である. D0 は M 内の A に対する圧縮ディスクである. これは A が M 内で本質的であることに矛盾する. したがって M0 は atoroidal である. M0 の特性圧縮体を考えると, atoroidal であることから M0 は境界既約であるような多様体もしくは種数 2 のハンドル体のどちらかである.
CASE 4-1: M0 が境界既約であるような多様体である場合M0 は M に W-分解を施して得られたものとみなすことができる. M0 が単純でないと仮定すると命題 3.2 に矛盾するので, M0 は単純である. このときJohannson [13]の Proposition 27.1より ∂0M0 = ∂M0∩∂M (= ∂V \N(a1∪a2))とおくと MCG±(M0, ∂0M0) は有限群である. よって, ある自然数 n が存在して f2
n|∂V \(N(a1∪a2)) ∼ id が成り立つ. つまり, ある自然数 m1,m2 が存在してfn = f2
n|∂V ∼ Ta1m1 ◦ Ta2
m2 が成り立つ. ここで Ta1 , Ta2 はそれぞれ Dehn ツイストを表す. このとき定理 1.3 より m1 = m2 = 0 が成り立つことが以下のようにしてわかる. m1 = 0 かつ m2 = 0 のとき, a2 は M 内のディスクの境界となり, これは M が境界既約であることに矛盾する. m1 = 0 かつ m2 = 0
のとき, a1 は M 内のディスクの境界となり, これは M が境界既約であることに矛盾する. m1 = 0 かつ m2 = 0 のとき, a1 と a2 がそれぞれ V 内のディスクの境界になっているか, a1 と a2 が V 内の圧縮不可能アニュラスの境界になっている. Type 2-1 アニュラスの定義より, H1(V ) の元として [a1] = [a2]
が成り立つので, V 内に a1 と a2 を境界にもつアニュラスは存在し得ない. 以上より m1 = m2 = 0 が成り立つ. したがって fn ∼ id が成り立つので f は有限位数である. 以上で M0 が境界既約であるような多様体である場合に f が有限位数であることが示せた.
CASE 4-2: M0 が種数 2 のハンドル体である場合V0 = V ∪N(A) とおく. V0 は種数 2 のハンドル体であり, M0 = E(V0) が成り立つ. つまり S3 = V0 ∪M0 は種数 2 の Heegaard 分解である. A ⊂ N(A) =
A × I を A = ((S1 × {12}) × I) と定義する (図 18 (ii)). ∂A = a1 ⊔ a2 とお
く. a1, a2 それぞれを境界にもつ V0 内の非分離的ディスクを D1, D2 とおく.
(V0 \N(A)) ∼= (V0 \N(A)) ∼= V が成り立つ.
29
N(A)
A A
(i) (ii)
図 18: (i) Type 2-1 アニュラス A, (ii) A = ((S1 × { 12})× I) ⊂ N(A)
CASE 4-2-1: D1, D2 がどちらも V0 内で primitive である場合D1, D2 は互いに共通部分を持たず平行でない V0 内の primitive ディスクであるので E(V0) 内の互いに共通部分をもたず互いに平行でない primitive ディスク E1, E2 が存在して |Di ∩Ej| = δij を満たす (Cho [3] の Lemma 2.2 を参照のこと). ここで δij は Kronecker のデルタを表すとする. E1, E2 の存在から V は図 19 のようにイソトピー変形できる (Koda [17] を参照のこと). このとき M = E(V ) は種数 2 のハンドル体である. これは M が境界既約であることに矛盾する. したがって CASE 4-2-1 は起こりえない.
CASE 4-2-2: D1, D2 の少なくとも一方が V0 内で primitive でない場合D1 が primitive でないと仮定してよい. f2
2|V0 は D1 を保つ. つまり f22:
(S3, V0, D1)∼=−→ (S3, V0, D1) とみなせる. 補題 1.8 より f2
4|V0 ∼ id が成り立つ.
したがって f24|∂V \(N(a1∪a2)) ∼ id である. Case 4-1 と同様にすれば f 4 ∼ id が
示せる. よって f は有限位数である.
以上で W が Type 4-1 アニュラスを含む場合に主張 6.3 が成り立つことを示すことができた. したがって, 以降 W は Type 4-1 アニュラスは含まないと仮定する. つまり, W は Type 3-2 アニュラス以外のアニュラスを含まないと仮定する.
CASE 5: Type 3-2 アニュラスが W に含まれている場合A を Type 3-2 アニュラスとし, A ∈ W と仮定する.
主張 6.7. A は E(X) 内で本質的である.
主張 6.7 の証明. A が E(X) 内で圧縮不可能であることを示す. A が E(X)
内で圧縮可能であると仮定する. このとき E(X)内の Aに対する圧縮ディスク
30
V0
cuttig V
E1 E2
A
V V
isotopy
along A
図 19: E(V0) 内に図のようなディスク E1, E2 が存在するとき V は種数 2 の “標準的な”ハンドル体である
D が存在する. ∂D は ∂A の成分それぞれとイソトピックである. まず E(X)
が非自明な結び目の外部空間である場合を考える. ∂A はそれぞれ ∂E(X) 上の本質的でない曲線である. したがって ∂A はそれぞれ X でディスクを張るので, V でもディスクを張る. これは Type 3-2 アニュラスの定義に反する. 次に E(X) がソリッドトーラスである場合を考える. ∂A はそれぞれ ∂E(X) 上の本質的でない曲線, または X の preferred longitude である. ∂A のどちらかが ∂E(X) 上の本質的でない曲線でない場合, その曲線は V 内でディスクを張るので Type 3-2 アニュラスの定義に反する. ∂A がどちらも X の preferred
longitudeである場合, E(X)内の Aに対する境界圧縮ディスクが存在する (図17 参照). つまり A は E(X) 内で境界圧縮可能である. このとき A は E(V )
でも境界圧縮可能である. これは A が E(V ) 内で本質的あることに矛盾する.
以上で A が E(X) 内で圧縮不可能であることが示せた.
E(X) がソリッドトーラスであるとする. A は E(X) 内で圧縮不可能であるから Kobayashi [16] の Lemma 3.1 より ∂E(X) に平行である. このとき A はE(V ) 内の境界圧縮可能アニュラスとなり A が E(V ) 内で本質的あることに矛盾する. よって E(X) は非自明な結び目の外部空間である. A が E(X) 内で本質的でないと仮定すると Burde-Zieschang [2] の Lemma 15.18 より A はE(X) の境界に平行であることがわかる. このとき A は E(V ) 内の境界圧縮可能アニュラスとなり A が E(V ) 内で本質的あることに矛盾する. したがって A は E(X) で本質的である.
主張 6.7 と Burde-Zieschang [2] の Lemma 15.26 より X はトーラス結び目かケーブル結び目であり, A は X に対するケーブルアニュラスであることがわかる. よって ∂A は V 上で互いに平行な primitive 曲線である. 系 1.5 より V 内の非分離ディスク D で ∂D ∩ ai = ∅ (i = 1, 2) を満たすものが V のイソトピーを法として一意的に存在する. X と Cl(V \N(D)) は S3 内でイソトピックであるので同一視してよい.
いま, W は Type 3-2 アニュラス以外のアニュラスを含まない. まず W が異なる Type 3-2 アニュラスを 2 つ以上含む場合, f が S3 に standard に拡張
31
X X
α
M0
M1
S3
A AA
図 20: (S3, V ) の Type 3-2 アニュラス
可能であることを示し, 最後に W = {A} の場合に f が有限位数であることを示す.
CASE 5-1: W が異なる Type 3-2 アニュラスを 2 つ以上含む場合A′ ∈ W を A とイソトピックでない Type 3-2 アニュラスとする. ∂A =
a1 ⊔ a2, ∂A′ = a′1 ⊔ a′2 とおく. a1 と a2, a
′1 と a′2 はそれぞれ ∂V 上で平行で
あることに注意する.
主張 6.8. ∂V 上で a1 と a′1 がイソトピックであることと E(V ) 内で A と A′
がイソトピックであることは同値である.
主張 6.8 の証明. E(V ) 内で A と A′ がイソトピックであるならば, ∂V 上でa1 と a′1 がイソトピックであることは明らかであるので逆を示す. ケーブルアニュラスの定義より A と A′ は E(X) 内でイソトピックである. このイソトピーは N(D) の外で行えることが容易に確かめられる. したがって ∂V 上でa1 と a′1 がイソトピックであるならば, E(V ) 内で A と A′ がイソトピックであることがわかる.
まず W = {A,A′} が成り立つ場合を考える. このとき, f2|V (∂A ∪ ∂A′) =
∂A ∪ ∂A′ が成り立つ. 主張 6.8 より a1, a′1 は互いにイソトピックでない ∂V
上の primitive 曲線である. よって a1 と a′1 それぞれに沿って 2-ハンドルを接着すると 3 次元球体が得られる. このとき補題 1.14 により f2|V は 3 次元球体の自己同相写像へと拡張可能であり, 再度補題 1.14 を適用すると f2|V は S3
の自己同相写像へと拡張可能であることがわかる. つまり f が S3 に standard
に拡張可能であることがわかった.
W がそれぞれ互いに異なる Type 3-2 アニュラスを 3 つ含む場合も同様にして f が standard に拡張可能であることがわかる. 主張 6.8 より W がそれぞれ互いに異なる Type 3-2 アニュラスを 4 つ以上含むことはないので以上でW が異なる Type 3-2 アニュラスを 2 つ以上含む場合は f が standard に拡張可能であることが示せた.
32
X X
α
M0
M1
S3
A AA
V0
M0S3
essential torus
(i) (ii)
D
図 21: (i) Case 5-2-1, (ii) Case 5-2-2, Case 5-2-3
CASE 5-2: W = {A} が成り立つ場合M = M0 ∪A M1 とおく. ただし α ⊂ E(X) を V = X ∪ N(α) なる単純弧としたとき M0 ∩ N(α) = ∅ を満たすとする (図 20). M0 は Case 4 の議論と同様にして atoroidal であることがわかるので, M0 の特性圧縮体を考えると,
M0 は境界既約であるような多様体もしくは種数 2 のハンドル体のどちらかである.
M0 が境界既約であるような多様体である場合 f は有限位数であることを示す. M0 は M に W-分解を施して得られる多様体のうち 1 つである. M0 が単純でないと仮定すると命題 3.2 に矛盾するので, M0 は単純である. よってJohannson [13] の Proposition 27.1 より ∂0M0 = ∂M0 ∩ ∂M(= Cl(∂V \ ∂M1))
とおくと MCG±(M0, ∂0M0) は有限群である. よって, ある自然数 n が存在して f2
n|Cl(∂V \∂M1) ∼ idCl(∂V \∂M1) が成り立つ. ∂V ∩ ∂M1 (= ∂X ∩ ∂M1) はアニュラスである. このアニュラスの core を c とおくとある自然数 m が存在して fn = f2
n|∂V ∼ Tcm が成り立つ. m = 0 と仮定すると定理 1.3 より c を境
界にもつ M 内のディスクが存在する. これは M が境界既約であることに矛盾する. したがって m = 0 が成り立つ. よって f は有限位数である.
以降, M0 を種数 2 のハンドル体と仮定する. ∂(M0 ∪N(α)) は S3 内のトーラスであるので補題 2.5 より M0 ∪N(α) と M1 の少なくともどちらか一方はソリッドトーラスである.
CASE 5-2-1: M0 ∪ N(α) がソリッドトーラスであり M1 が非自明な結び目の外部空間である場合このとき ∂(X ∪ N(A)) ∩M1 は M 内の本質的トーラスである (図 21 (i)).
これは M が atoroidal であることに矛盾する. よって Case 5-2-1 は起こりえない.
CASE 5-2-2: M0 ∪ N(α) が非自明な結び目の外部空間であり M1 がソリッ
33
c
π
π
D
D
β
γ
(i) (ii)
図 22: (i) V0 の同相写像 β, (ii) V0 の同相写像 γ
ドトーラスである場合V0 = M1∪X∪N(α)とする (図 21 (ii)). Dを N(α)の cocoreとする. つまり
S3 = V0∪M0 は種数 2の Heegaard分解であり, Dは V0 内の非分離的ディスクである. Cl(V0 \N(D)) (∼ E(M0∪N(A))は非自明な結び目の正則近傍である.
したがって Dは V0 内の primitiveディスクでない (Cho [3]の Lemma 2.1を参照のこと). f2 は V , M1, A をそれぞれ保つので f2 : (S
3, V0, D)∼=−→ (S3, V0, D)
とみなせる. f22 は向きを保つ同相写像なので補題 1.8 より f 2
2 は有限位数であるので f も有限位数であることがわかる.
CASE 5-2-3: M0 ∪ N(α) がソリッドトーラスであり M1 もソリッドトーラスである場合W = {A} より f2(A) = A が成り立つとしてよい. V0 = M1 ∪X ∪N(α) とする (図 21 (ii)). D を N(α) の cocore とする. 再び S3 = V0 ∪M0 は種数 2
の Heegaard 分解である. Case 5-2-2 と同様に f2 : (S3, V0, D)∼=−→ (S3, V0, D)
とみなせる. さらに f 22 は向きを保つ同相写像である. [4] の Lemma 5.5 と同
様にして f 22 |V0 は超楕円対合 α と以下で定義される β と γ の合成 (のイソト
ピー類で) 表される. β を図 22 の (i) のようにハンドル体の片方を π 回転させる同相写像とする. つまり図 22 の (i) のような ∂V0 上の分離的曲線 c に対して β2|∂V0 = Tc が成り立つ. γ を図 22 の (ii) のような位数 2 の同相写像とする. ここで α と β, α と γ はそれぞれ可換であり, β ◦ γ = α ◦ γ ◦ β が成り立つ. したがって f2
2|∂V0 ∼ αε1 ◦ γε2 ◦ βn (ε1, ε2 ∈ {0, 1}, n ∈ Z) と表すことができる. このとき (f2
2)4 ∼ β4n が成り立つ. n = 0 と仮定すると, c ∩ ∂A = ∅が成り立つことから (f2
2)4|∂V0 ∼ Tc2n は ∂A を保たない. これは f が A を保
34
つことに矛盾する. したがって n = 0 が成り立つ. よって f = f2|∂V が有限位数であることが示せた. 以上で W が Type 3-2 アニュラスを含む場合に主張6.3 が成り立つことを示すことができた.
第 5 章で, f が有限位数の場合 S3 に standard に拡張可能であることを示したので, 以上で定理 1.13 の証明が完結した.
謝辞本論文を書くにあたり, トポロジーグループの皆様には大変お世話になりました. ゼミだけではなく, 普段の授業なども熱心にご指導していただいた作間誠先生,古宇田悠哉先生, お忙しい中でも私たちのことをとても気にかけて下さった先輩方, 学部生のころから仲良くしてくれてゼミでも多くのアドバイスをくれた同期の 2 人, 頼りない先輩だったにもかかわらず親しくしてくれた後輩の皆さんにはこの場をお借りしましてお礼を言わせていただきます. 特に,
指導教員の古宇田悠哉先生はご多忙にもかかわらず私たち学生のために多くの時間を割いていただきました. 古宇田悠哉先生の熱心で丁寧な御指導のおかげでこうして論文を書き上げることができました. 本当にありがとうございました.
最後に,私が中高生の頃に数学の魅力を教えてくれて数学科へと進学するきっかけを作ってくださった祖母と, これまで優しく厳しく育ててくださり, 大学進学後も様々な面で支えて下さった両親に厚く感謝の意を表し, 謝辞とさせていただきます.
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