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61 2.海外の制度事例 2-1 調査対象制度及び対象国 対象とした制度は、建物・敷地の緑化を推進する制度、クールルーフを推進する制度、 気候に配慮した都市計画に関する制度、縮小都市に関する制度、グリーンビルディング評 価制度である。建物・敷地緑化を推進する制度には、屋上緑化推進制度や、流出雨水処理 料金割引制度、敷地の緑地割合を定める制度がある。 屋上緑化推進制度やクールルーフ推進制度は、ヒートアイランド対策として日本でも取 り組まれている分野ではあるが、海外の自治体では、それらを進めるための様々な手法が とられていた。その中には、補助金を交付するものや、他の経済的手法として、流出雨水 料金割引制度などがあった。また、規制的手法の中にも、条例や開発計画等で定められて いるものの他にも、敷地の緑地割合の基準を定める制度があり、日本のヒートアイランド 対策を考える上で参考になるものと考えられる。 以下では、表 31 に示す制度の種類ごとにその概要を整理する。個別の制度の詳細につ いては、巻末の参考資料1~7にとりまとめた。 31 調査対象制度と対象国 制度 地策技術 選定理由 建物・敷地 緑化に関わ る制度 屋上緑化 米国 ヒートアイランド対策を目的に挙げている自治体 も尐なくない。また、屋上緑化を推進する施策には、 補助金の交付だけでなく、日本と比較しても様々な 制度が採用されている。 ドイツ カナダ オーストリア スイス 流出雨水 処理料金 割引 米国 水の料金に関する制度で、「流出雨水」を抑制する ため、浸透面を増やすことで料金を割り引く仕組み を設定している。土地の浸透面が増加することは、 ヒートアイランド現象緩和につながると考えられ る。 ドイツ 敷地の緑 地割合を ドイツ 土地開発の際、緑の被覆面の割合の基準を定める制 度で、見た目の緑及び浸透面を増加させることで、 米国

2.海外の制度事例 - env61 2.海外の制度事例 2-1 調査対象制度及び対象国 対象とした制度は、建物・敷地の緑化を推進する制度、クールルーフを推進する制度、

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2.海外の制度事例

2-1 調査対象制度及び対象国

対象とした制度は、建物・敷地の緑化を推進する制度、クールルーフを推進する制度、

気候に配慮した都市計画に関する制度、縮小都市に関する制度、グリーンビルディング評

価制度である。建物・敷地緑化を推進する制度には、屋上緑化推進制度や、流出雨水処理

料金割引制度、敷地の緑地割合を定める制度がある。

屋上緑化推進制度やクールルーフ推進制度は、ヒートアイランド対策として日本でも取

り組まれている分野ではあるが、海外の自治体では、それらを進めるための様々な手法が

とられていた。その中には、補助金を交付するものや、他の経済的手法として、流出雨水

料金割引制度などがあった。また、規制的手法の中にも、条例や開発計画等で定められて

いるものの他にも、敷地の緑地割合の基準を定める制度があり、日本のヒートアイランド

対策を考える上で参考になるものと考えられる。

以下では、表 3-1 に示す制度の種類ごとにその概要を整理する。個別の制度の詳細につ

いては、巻末の参考資料1~7にとりまとめた。

表 3-1 調査対象制度と対象国

制度 地策技術 国 選定理由

建物・敷地

緑化に関わ

る制度

屋上緑化 米国 ヒートアイランド対策を目的に挙げている自治体

も尐なくない。また、屋上緑化を推進する施策には、

補助金の交付だけでなく、日本と比較しても様々な

制度が採用されている。

ドイツ

カナダ

オーストリア

スイス

流 出 雨 水

処 理 料 金

割引

米国 水の料金に関する制度で、「流出雨水」を抑制する

ため、浸透面を増やすことで料金を割り引く仕組み

を設定している。土地の浸透面が増加することは、

ヒートアイランド現象緩和につながると考えられ

る。

ドイツ

敷 地 の 緑

地 割 合 を

ドイツ 土地開発の際、緑の被覆面の割合の基準を定める制

度で、見た目の緑及び浸透面を増加させることで、米国

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定 め る 制

スウェーデン ヒートアイランド現象緩和に資すると考えられる。

クールルーフ推進制度 米国 ヒートアイランド対策の施策であるが、屋上緑化に

比べ、推進制度を採用している自治体はあまりない

ため、制度枠組みが整っている自治体の政策を整

理・把握する。

気候に配慮した都市計画 ドイツ 風環境の向上を目指し、都市計画の際、気候環境を

考慮し、空気の浸透性や風の道のある、都市構造を

創出する。風通りの良い都市構造は、都市内の暑熱

を緩和し、ヒートアイランド対策となると考えられ

る。

中国(香港)

韓国

縮小都市計画 ドイツ 人口減尐・流出等による都市の縮小現象に対応する

ための政策で、計画的に環境回復を進めながら都市

を縮小する。都市が低密度化することで、ヒートア

イランド現象緩和に資すると考えられる。

グリーンビルディング評

価制度

米国 環境負荷低減を図るビルの認定制度で、ヒートアイ

ランド対策を主目的に挙げている。省エネ対策の普

及だけでなく、労働者や居住者の快適性、ビルの価

値向上も目的としている。

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2-2 建物・敷地緑化に関わる制度

1)屋上緑化

都市内の緑化を進める制度については、海外では屋上緑化を推進するものが多く見られ

る。本調査では、5 カ国 13 自治体の制度を整理した。表 3-2 に示す対象とした自治体は、

北緯 41~52 度程度に位置し、夏(7 月)の平均最高気温も 20~25℃程度となっていた。夏

季のヒートアイランド対策が強く求められる日本とは気候的に状況が異なっている。

表 3-2 対象自治体および東京の夏(7月)の平均最高気温、平均最低気温1

自治体 州 国 平均最高気温

(℃)

平均最低気温

(℃)

① Portland Oregon U.S.A. 25.0 13.0

② Chicago Illinois U.S.A. 27.0 19.0

③ Toronto Ontario Canada 26.0 15.0

④ Linz* Oberösterreich Austria 25.0 15.0

⑤ Berlin Berlin Germany 24.0 14.0

⑥ Cologne North

Rhine-Westphalia

Germany 25.0 14.0

⑦ North Rhine-Westphalia** Germany 18.2(平均気温)

⑧ Basel*** Basel-Stadt Switzerland 25.0 14.0

⑨ Münster North

Rhine-Westphalia

Germany 17.0(平均気温)

⑩ Stuttgart Baden-Württemberg Germany 18.4(平均気温)

⑪ Seattle Washington U.S.A 22.0 12.0

⑫ Minneapolis Minnesota U.S.A 28.0 17.0

⑬ Montreal Quebec Canada 23.0 12.0

東京 JAPAN 28.0 21.0

*④Linz の値は同地域の Vienna の値を採用。

** ⑦North Rhine-Westphalia 州の値は州都 Düsseldorf の値。

***⑧Basel の値は同地域の Zurich の値を採用。

1 ①~⑥、⑧、⑪~⑬及び東京の値は’Average Conditions’, BBC Weather Center

(http://www.bbc.co.uk/weather/world/city_guides/)、⑦⑨⑩は DWD HP

(http://www.dwd.de/bvbw/appmanager/bvbw/dwdwwwDesktop?_nfpb=true&_pageLabel=dwdwww_sta

rt&_nfls=false)参照。

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そのため、対象とした制度の主要な目的として挙げられているのは、ヒートアイランド対

策ではなく、都市化に伴うコンクリートなどの人工被覆面の増加により問題となる流出雨

水(Stormwater)管理であった。表 3-3 に調査対象都市で取られている制度の目的とし

て挙げられているものを示す。

表 3-3 対象制度の目的

自治体 制度の目的

ヒートアイ

ランド現象

の軽減

大 気 汚

染対策

流 出 雨

水 の 管

エネルギ

ーの節減

生物多様

性保全

緑 の 空

間 空 間

創出等

① Portland ○ ○ ○

② Chicago ○ ○ ○ ○

③ Toronto ○ ○ ○ ○

④ Linz ○ ○

⑤ Berlin ○ ○

⑥ Cologne ○

⑦ North

Rhine-Wes

tphalia

⑧ Basel ○ ○

⑨ Münster ○ ○

⑩ Stuttgart ○ ○

⑪ Seattle ○

⑫ Minneapol

is

⑬ Montreal ○ ○ ○ ○

各制度の推進手法は、経済的手法が最も多く、流出雨水管理においては敷地の不浸透面

積の大きさに応じて課金される Stormwater fee(以下「流出雨水処理費用」と表記する)

の割引制度や屋上緑化を施行する際の補助金制度などが主たるものとなっている。流出雨

水処理費用の割引については、その内容について次項 2) で後述する。

次に多いのは地区ごとに一定の緑化を義務付ける規制的な手法や事業主に緑化計画を提

出させる制度であった。緑化の割合を規定するものに、Green Factor といったものを用い

て都市の緑化を進めるものがあった。その内容については、 3) で概要を述べる。

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これらの建物・敷地緑化推進制度は、70 年代、80 年代ごろから行われていた「補助金交

付制度」を別にすると、2000 年に入ってから始まった制度が多くを占める。また、いくつ

かの都市では、2 つの制度を併用して屋上緑化を推進している。各都市の屋上緑化推進制度

については、一覧表を参考資料1.海外屋上緑化推進制度一覧に、各都市別の制度概要を

参考資料2.海外各都市屋上緑化推進制度にとりまとめた。

また、調査対象制度の政策手段を表 3-4 に示すが、経済的手法が多くとられており、そ

の中でも、屋上緑化を推進するための経済的インセンティブである「補助金交付」がもっ

とも採用されている制度である(10 都市(州))。表 3-5 に、屋上緑化を推進するための制

度として、経済的手インセンティブ手法をとっている自治体の制度概要をまとめる。

表 3-4 対象制度の政策手段

自治体 経済的手法 規制的手法 その他

補助金

交付

流 出 雨

水 処 理

費 用 割

床 面 積

増加

敷地の緑地

割合を定め

る制度

緑化の

義務付

奨学金

① Portland ○ ○

② Chicago ○

③ Toronto ○

④ Linz ○ ○

⑤ Berlin ○ ○ ○

⑥ Cologne ○ ○

⑦ North

Rhine-Westphalia

○ ○

⑧ Basel ○ ○ ○

⑨ Münster ○ ○

⑩ Stuttgart ○ ○

⑪ Seattle ○

⑫ Minneapolis ○

⑬ Montreal ○ ○

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表 3-5 屋上緑化推進のための経済的インセンティブ手法

自治体 補助金交付制度

実施年 対象 要件 補助額

補助率

限度額

限度件数

Chicago 2005- 固定された緑化を

優先

5 年間維持

建設許可取得

$5,000

約 20 件

Toronto

2006-07 市内私有不動産

暖房を設置してい

る場所の上のみ対

最大 10%の傾斜

屋根の 50%以上の緑

混合植生

流出係数 0.5 以下

植生最低 150 ㎜ (新

築),75 ㎜(既築)

$10/㎡ $20,000

2007-08 上記+市との水使

用取引がある場合

上記+1,000 ㎡以上の

場合は 5 年の契約維

$50/㎡ $10,000

(単一世帯)

$100,000

(不動産所有者)

Linz 1989- 緑化の種類は問わ

ない

長期間の維持 費用の 30%

Berlin 1983-90

年代

薄層緑化 費用の 50%

North

Rhine-W

estphalia

1996-

新規および改築

薄層緑化

流出係数は 0.3 以下

10-15cm 植生

€15/㎡ Cologne 及び

Münster は同

州内都市

Basel 1996/97

市内の平らな屋根 SFr. 20/㎡

2005 2002 年より既築対

SFr.30-40/㎡

Stutt-

gart

1987- 費用の 50%または

€17.90/㎡

Montreal $5/sq.ft.($54/㎡)

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2)流出雨水処理料金割引

流出雨水処理料金とは、下水道料金の中に含まれていた流出雨水管理に充てられていた

費用を明確化し、下水道料金と流出雨水処理料金を分けて徴収することで、流出雨水管理

の予算を確保するために設けられた料金体系である。その料金の割引制度は、流出雨水を

削減することを目的に設けられている。割引の対象となる取組みは、屋上緑化やレインガ

ーデン、浸透性舗装など、浸透性面積を増加させることである。

① 流出雨水の問題

流出雨水の問題には2つあり、1 つは、降雨が屋根や道路に沿って流れ、雨水管や下水管

へ流れ込んでいく際、道路にあった汚れや油、ごみ等が雨水によって近くの水路や湖等へ

押し流され汚染の問題を引き起こすことである。もう1つの問題は、都市の不浸透面の増

加により、流出雨水が土地に浸透せず、一気に流れてしまうため、雨水管や下水管があふ

れ出してしまうことである。

② 流出雨水処理料金の体系

流出雨水処理料金は、自治体により様々だが、アメリカでは、1,000sq.ft あたり年間約 5

~20ドル(450~1,800円)であり(㎡あたりでは 5.5~18円)、駐車場スペースの場合で

は、年間約 1~7 ドル(≒90 円~636 円)程度である。ドイツでは、㎡あたり、年間 0.20

~2.00 ユーロ(25~249 円)となる(為替レートは、1$≒91 円、1€≒125 円、2009 年 1

月 9日現在)。この料金は、アメリカでは、土地の不浸透エリアの広さや、敷地面積に対す

る不浸透エリア面積の割合に基づいて課金される。ドイツでは、不浸透エリアの広さに加

え、流出雨水の流出量やその汚染濃度等も課金の要素となる自治体がある。自治体別の制

度の詳細は、参考資料 3.流出雨水処理料金に整理した。

③ 流出雨水処理料金割引

流出雨水を削減するための施策として、流出雨水処理料金に割引制度を設け、屋上緑化

などの流出雨水源コントロール対策を促す仕組みを作っている自治体もある。割引率は、0

~100%で、50%の割引制度の自治体が多い。流出雨水源のコントロールとは、屋上緑化や

浸透性敷石、レインガーデンなどの対策を行い、敷地内の浸透性面を増加させることであ

る。これらの対策は、緑化施策などと並びヒートアイランド対策にも資するものと考えら

れる。対策の一つである、レインガーデンは、駐車場や敷地内の尐し低い場所に浸透性の

緑地をつくり、降雨がそこに流れ込むようにするものである。

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3)敷地の緑地割合を定める制度

Green Factor の考え方は、1980 年代にドイツのベルリン(市州)で、ランドスケープ計

画に関する条例に取り入れられた。その導入の背景には、都市中心部の過密状態への解決

策として、敷地の中に確保すべき緑に覆われた面積割合を定める制度が導入された。

① 目的

敷地の緑地割合を定める制度の目的には、都市の土地利用の際、土や植物の機能に着目し、

その保水能力や、生物の生息地としての役割などを都市の中で向上させることや、また同

時に、住民にとっての緑のアメニティ(緑に覆われた土地が人々に与える恩恵、快適性な

ど)を確保することがある。

② 制度の体系

現在、ベルリンの他に、シアトルやマルメで導入されているが、ベルリンの BAF(Biotope

Area Factor)制度が、Green Factor の考え方の基礎となった制度である。そこで、ここで

は、BAF 制度を整理することで、制度の体系を把握する。アメリカ・シアトルの Seattle

Green Factor とスウェーデン・マルメの Green Space Factor の各制度については参考資料

4.敷地の緑地割合を定める制度に整理した。

制度は、開発計画の際に、その敷地面積に対する、緑に覆われた土地(ここでは水が浸

透するエリアはすべて含まれる)の割合の基準を決めるものである。

様々な土地利用の形態に従って、表 3-6に示すような、0~1.0の係数が定められており、

その値は、不浸透面であるアスファルトやコンクリートの区画の場合は 0 となる。緑に覆

われている土地も、その度合いに従って、細かく値が定められているが、屋上緑化や壁面

緑化は多くの場合において高い値となる(0.7 や 0.8)。この係数とその区画面積を乗じ、そ

の出た値を敷地面積で除してその土地の Green Factor を算出する。

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表 3-6 土地利用形態ごとの係数の例(BAFにおける ecological value)2

加重要素 /㎡ 表面タイプの例

被覆面(不浸透性、植生なし)

0.0 コンクリート、アスファルト、固い基盤の平板

一部被覆面(不浸透性、植生なし)

0.3 レンガ、モザイク舗装、砂及び砂利の基盤の平板

半被覆面

(不浸透性、浸透性、植生あり)

0.5 草の被覆の砂利、木材ブロック舗装、草付きのハチ

の巣状のれんが

下の土とつながりない植生面 0.5 地下貯蔵庫または地下駐車場の上の植生面で、80cm

以下の土の覆い

下の土とつながりない植生面 0.7 下の土とはつながっていない植生面で、80cm 以上の

土の覆い

下の土とつながっている植生面

1.0 下の土とつながっている植生面

屋根の雨水浸透 0.2 地下水補給のための雨水浸透、既存植物による表面

への浸透

高さ 10mまでの壁面緑化

0.5 壁および窓のない外側壁を覆う最大 10mまでの緑化

屋上緑化

0.7 薄層緑化および庭園型緑化の屋上緑化

Green Factor の値は地区によって異なるが、1つの例として、ベルリン市ホームページ

で掲載されている BAF の値を表 3-7 に示す。地区ごと、区画ごとに値を決めるが、実際

は、建築主との協議の上に、個別に BAF 値を決めることになる。

2 Biotope Area Factor, Senate Department for Urban Development HP

(http://www.stadtentwicklung.berlin.de/umwelt/landschaftsplanung/bff/index_en.shtml).

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表 3-7 BAF3

変更および増築 新規

住宅

0.60、0.45、0.30 0.60

商業施設

0.30 0.30

要所での営利事業、中心業務施設、行政および一般使用

0.30 0.30

公共施設

0.60、0.45、0.30 0.60

学校、職業センター、教育複合施設、屋外運動施設

0.30 0.30

託児施設およびデイケアセンター

0.60、0.45、0.30 0.60

技術インフラ

0.30 0.30

現在は、ベルリン市内(全 12 区)の計 6 区で導入または導入に向けての整備が行われて

おり、そのうち、条例として施行されているのは、その中の 10 プログラムである。

BAF は、法的拘束力を持つ条例ではあるが、罰則規定などはなく、建築主と区の担当者

との協議によって推進されるため、その効力発生の如何は、取り入れた区の現場での取組

みに大きく依存している。また、実際の運用にあたっては、その時々の政治状況も大きく

影響し、特に 2006 年より、ベルリン市の政策は、投資の呼び込み、経済の活性化に大きく

比重を移したため、BAF 制度をめぐる状況は大きく変化した。以前は、建築許可の条項に

BAF を導入するか否かの項目が存在していたが、政策の変化により投資家にとっての障害

とみなされたために、BAF は建築許可条項から外された。そのため、建築主へ BAF 値の指

示をする協議の場を失っただけでなく、新築や改築が行われるという物件情報自体が BAF

担当者に入ってこないという事態に陥った。しかし、図 3-1 に示すように、ベルリン中心

部に緑地部を多くできたことは、その役割を果たしたと言える。

3 Biotope Area Factor, Senate Department for Urban Development HP

(http://www.stadtentwicklung.berlin.de/umwelt/landschaftsplanung/bff/index_en.shtml).

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図 3-1 ベルリン市 Mitte区の様子

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2-3 クールルーフ推進制度

クールルーフとは、太陽光の反射率および太陽熱の放射率が高い、明るい色の屋根を指

し、太陽光および太陽熱を反射することにより、家の中へ入る熱を抑え、家を涼しくする

効果が期待されるものである。南ヨーロッパ、地中海地域で、白い家並みの街などがある

が、これらは、文化的な景観の意味もあるが、地中海地域特有の強い日差しと暑さを防ぐ

伝統的な方法である。

ここでは、クールルーフを推進するための制度を整理する。屋上緑化に比べると、クー

ルルーフを推進する制度を採用している自治体は尐ない。取り上げた自治体は、表 3-8 に

示す、積極的にクールルーフを推進しているアメリカの 2 州と2都市の制度である。各自

治体の制度については参考資料5.海外クールルーフ推進制度に整理した。

表 3-8 クールルーフ推進制度調査対象自治体

対象自治体 国 緯度 夏の平均気温

① California 州 U.S.A. 32°30’N~42°N 33℃

② Chicago 市(Illinois) U.S.A. 41°54’N 22.4℃

③ Georgia 州 U.S.A. 30°31’N~35°N 26.1℃

④ New York 市(New York) U.S.A. 40°43’N 24.9℃

図 3-2 に示すように、このうちの 2 州については、南の温暖な気候の州であり(地図内

四角枠)、夏の平均気温も 33℃(California 州)、26.1℃(Georgia 州)となっている。一

方、Chicago や New York は地理的にはアメリカの中でも北に位置している。Chicago は気

温の年較差が大きい大陸性気候であり、夏には温暖な南西風の影響で暑くなるとはいえ、

夏の平均気温は 22.4℃であり、New York は、メキシコ湾流の上を通る南風の影響で、夏の

最高気温(平均)は 28.2℃まで上がるが、最低気温(平均)は 19℃で約 9℃の差がある。

これらの都市は、クールルーフが効果をもつ強い日差しと暑さという点では、日本と比べ

ても尐ないと考えられるが、Chicago では、屋上緑化推進の制度と並んで、クールルーフ推

進にも務めており、双方の制度をもって、ヒートアイランドの影響を軽減させるという目

的が明確であり、New York は、大都市ゆえに、都市のヒートアイランド現象や下水氾濫等

の大都市環境問題を抱えているという状況である。

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73

図 3-2 アメリカ合衆国全図4

クールルーフを推進する主な目的としてどの自治体も挙げているのが、都市のヒートア

イランド影響の低減、エネルギー消費の削減(特に夏期のピーク時の電力需要削減)であ

る。また施策の手段としては、表 3-9~3-11 に示すように、補助金交付、クールルーフ

敷設に評価を与える施策、条例による義務付けがある。

表 3-9 補助金交付

対象 施工時太陽光反射度** 助成額(/ft²)

California 州 セントラルヒーティ

ングの冷暖房システ

ムを導入している住

宅オーナー

反射率・放射率

0.75 以上

$0.20

反射率 0.40 以上

放射率 0.75 以上

$0.10

Chicago 市 低傾斜*(0:12-2:12) 0.65 以上 $0.50(住宅)、$0.55(商

業)、$0.60(工業) 中傾斜(2:12-5:12) 0.25 以上

*傾斜については、Chicago Building Code Section 13 に定める。

**施工時太陽光反射度は、Cool Roofs Rating Council または Energy Star の定めるもの。

4 http://geology.com/world/the-united-states-of-america-satellite-image.shtml

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表 3-10 クールルーフ認定

対象 施工時反射率、放射率* 備考

California 州 住宅以外の冷暖房設

置の低傾斜(2:12 以

下)の建物

反射率:0.75 以上

放出率:0.70 以上

Cool Roof Rating

Council による審査を

受け評価を得ること。

*Title24(California 州の規則)に定められている。

表 3-11 条例による義務付け

対象 要求事項 備考

Georgia 州 反射率・放射率の試験値

が 0.75 未満の屋上面

反射率・放射率

0.75 以上

Georgia State Minimum

Code for Construction に記述

New York 市 新築、屋根の建替え時 反射度

0.65 以上*

放射度については明記なし**

*Energy Star の低傾斜屋根標準にもとづく。

** LEED、Title24 の標準を満たすことを推奨。

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75

2-4 気候に配慮した都市計画

気候に配慮した都市計画とは、風環境の向上を目指し、都市計画の際、気候環境を考慮

し、空気の浸透性や風の道のある、都市構造を創出するための取組みである。風通りの良

い都市構造は、市街地に上手く風を取り込むことによって、都市内の暑熱を緩和し、ヒー

トアイランド対策となると考えられる。ここでは、クリマアトラスを活用した都市計画、

風環境を向上させる都市デザインガイドライン、清渓川における復元事業による風の道の

創出について、整理する。

1)クリマアトラス5

「クリマアトラス」(Klimaatlas)とは、ドイツ語で「クリマ」=気候、「アトラス」=

地図集を意味し、地域固有の気候特性を大気汚染対策や都市環境計画に活用するための気

候解析図集である。ドイツの多くの都市でクリマアトラスが都市計画のために作成されて

いる。

ドイツの都市計画は、Fプランと呼ばれる土地利用計画とBプランと呼ばれる地区詳細

計画であり、クリマアトラスは、地区詳細計画(Bプラン)を作成する際の基礎資料とし

て使用される。ドイツでは、大気汚染対策、新鮮空気の都市への導入が強く意識されてい

るが、対象地域の地形、土地被覆の特性などにより、熱環境の改善(夏季の夜間気温上昇

対策など)等も目標となり得る。

クリマアトラスは、以下の3つの図表から構成される。

① 気候要素の基礎的な分布図:気候調査結果や計算結果(熱・風環境、大気質、日照な

ど)

② 気候分析(解析)図:熱環境、大気汚染の評価を意図した気候分析結果を表わす地図

③ 対策・提言のための地図や図面:作成されないことも多い

都市計画および建築計画に生かすという視点から、クリマアトラスの中で最も重要なも

のは、気候分析図である。例として、シュツットガルト市とその近郊都市連合のクリマア

トラスを図 3-3 に示す。

5 日本建築学会『都市環境のクリマアトラス――気候情報を活かした都市づくり』(ぎょうせい、平成12

年)。

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図 3-3 シュツットガルト近隣都市連合気候解析図6

シュツットガルト市は、周囲を丘に囲まれており、風が弱く温度の逆転が生じ、都市の

発展とともに、大気汚染は深刻なものとなっていたため、クリマアトラスを大気汚染対策

に活用している。図 3-4 は、シュツットガルト市シェルメネッカー地区のBプラン(地区

詳細計画)の例であるが、建物は南斜面に計画されており、建物の北側は森で冷気流の供

給源でもあったため、当初案(左図)から改訂された(右図)。当初案の小さな緑地帯(灰

色部)が冷気の効果的な流れを確保するため、幅 50~60mの緑地に広げられた。

6 日本建築学会『都市環境のクリマアトラス――気候情報を活かした都市づくり』(付属CD-ROM)口

絵1。

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図 3-4 シュツットガルト市シェルメネッカー地区のBプラン(地区詳細計画)

(左図:当初案、右図:改定後)

2)都市の風通し(Air Ventilation)

香港では、様々な土地利用や施設に対する、規模や位置、要求などを決定する基準を国

が定めた、The Hong Kong Planning Standards and Guidelines (HKPSG)がある7。1980

年代初め頃に現在の形でのガイドラインが定まった。

そのガイドラインの第 11 章に、Urban Design Guidelines の項目があり8、ここでは、一

般的な都市計画の問題と風の循環の双方がカバーされており、美的及び機能的な観点から

の、またマクロおよびミクロレベルでの都市環境をよりよく形作ることが目的とされてい

る。都市計画の項目では、様々な土地用途における都市計画の指針が示されている。

Air Ventilation は、この第 11 章の中で扱われており、過密状態な上、気温が高く、湿度

が高い香港における熱の緩和や快適性のための風環境の向上(より多くの風の侵入)のた

めに都市デザインを最適化することを目指す指針である。Air Ventilation に関するデザイ

ンガイドラインの基本原則は、都市の風環境を向上するため、風通しの良い都市構造を創

出および保つことである。

地区レベルのデザインでは、風の道(Breezeways)として主風向に沿った Breezeways

を作り出すために、主要道路や連結したオープンスペース、アメニティエリア、建物の後

退、低層建築物などを恒風(Prevailing wind)方向に配置することや、地区への恒風の侵

入を最大化するため、主要道路や広い通りは恒風に平行か 30℃までの角度にすること(図

3-5)などが示されている。また、都市内の空気循環向上のため、常風方向の道路拡張や

7 Plannning Department, The Government of the Hong Kong Special Administrative Region

(http://www.pland.gov.hk/tech_doc/hkpsg/english/index.htm). 8 Planning Department, The Government of the Hong Kong Special Administrative Region

(http://www.pland.gov.hk/tech_doc/hkpsg/english/ch11/ch11_text.htm).

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再開発時の建物後退(図 3-6)、さらに、恒風の風上に向かって建物高さが低くなるよう配

置すること(図 3-7)などが求められる。

図 3-5 道路の配置

図 3-6 道路拡張・建物後退 図 3-7 空気の動きを促

進する建物高

さの配置

土地レベルでは、都市構造の浸透性を高めるため、建物の土台を削減したり、恒風に平

行に後退させること(図 3-8)、また、建物ブロック間に適切な広さの空間を設けること(図

3-9)などが示されている。さらに、Breezeways や空気の道に張り出した障害物は、その

妨害を最小化することが求められている(図 3-10)。

図 3-8 土台の削減 図 3-9 建物ブロック間の適切な広さの空間

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図 3-10 水平方向(左図)から垂直方向(右図)になった看板

【Air Ventilation Assessment】

アセスメントは、公共部門の歩道の風環境を査定するもので、このアセスメントを受け

ることで、複数の計画間での Air Ventilation の比較や、計画の潜在的な問題エリアを明確

にする等のメリットがある。アセスメントのガイドラインは、Technical Guide for Air

Ventilation Assessment for Developments in Hong Kong で概説されている9。また、アセ

スメントを実施するツールとして風洞(Wind tunnel)テストが推奨されている。

評価指標は、Wind Velocity Ratio (VR)(風速率)であり、対象場所において風の可用性

が歩行者レベルでどのくらい経験されるかを示すものである。

VR = Vp/V∞

3)清渓川における復元事業10

韓国では、ソウル市内を流れる清渓川の河川復元事業が行われた。清渓高架道路の撤去

により再生された水辺とそこを通る風によって、都心のヒートアイランド現象の緩和が図

られている(図 3-11)。

清渓川においては、1950 年代後半より河川に蓋をする工事が始められ、続いて 1967 年

より高架道路の建設が始まった。この覆蓋道路(「清渓川路」)と清渓高架道路が非常に重

要な幹線道路となり(2002 年度一日平均 16 万 8,556 台の自動車が利用)、都心を流れる川

9 Plannning Department, The Government of the Hong Kong Special Administrative Region

(http://www.pland.gov.hk/p_study/comp_s/avas/papers&reports/technical_guide.pdf). 10 『清渓川復元事業――50 年ぶりに復元された清渓川』(財団法人自治体国際化協会、2007 年)

(http://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/pdf/306.pdf)、ソウル市観光オフィシャルサイト

(http://japanese.visitseoul.net/visit2008jp/article.do?method=view&art_id=500632)。

*Vp:歩行者レベル(地面から 2mの高さ)で捉えられる風速

*V∞:風境界層の一番上(400m~600m 上空)で捉えられる風

速(対象場所での風の可用性)

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は人目に触れることはなくなっていた。また、蓋をした河川の衛生状態は悪化し、周辺は

スラム化も進んでいた。

2003 年 7 年より始まった清渓川復元事業では、この覆蓋構造物と清渓高架道路は撤去さ

れ、都心の親水空間が生まれた。復元後、風の道ができ、周辺地域の気温は最大で 23%下

がり、風速は最大で 6.9%早まった。ソウル市のヒートアイランド現象緩和につながってい

る。

図 3-11 韓国ソウル市・清渓川11

左図:高架道路撤去前 右図:撤去後(イメージ図)

11 清渓川復元推進本部 HP(http://cheonggye.seoul.go.kr/)。

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2-5 縮小都市計画

ヒートアイランド現象の原因の一つに都市の高密度化が挙げられる。中高層建物が高密

度に都市内に林立することにより、熱や大気汚染を拡散する換気力を低下させたり、夜間

の放射冷却を妨げることなどが問題となっている。

日本では、長期の合計特殊出生率を 1.26 と仮定した場合、将来の推計人口は、2005 年か

ら 2055 年の間に約 3,700 万人の減尐が見込まれ12、また、人口増加の停滞と合わせて、地

方都市等の中心市街地の空洞化や大都市部への人口流出による人口減尐が問題となってい

る。人口の減尐が続く地域では、空家の増加や過大となったインフラの管理コストなどの

問題に対応するため、都市を縮小していくという考え方が重要となってくる。平成 17 年 4

月に日本学術会議が「生活の質を大切にする大都市政策へのパラダイム転換について」と

題した声明を発表しており、声明では、市街地縮減時代を迎える日本の都市における新た

な土地利用計画を策定する仕組みと主体の創出の必要性と水辺や緑地を都市の重要なイン

フラとして認識することの必要性が明記されている。このように、都市の縮小の過程では、

緑地の計画的な配置や、高密度化した建物群の縮小による風の通り道の確保などを行い、

都市の質を向上させていくことが望まれている。

そこで、都市の縮小現象が起きているドイツにおいて取られている都市再生政策が、高

密度化した都市の問題に対処する上で参考になると思われる。

都市の縮小現象は、ドイツ、特に東部ドイツの都市において、人口減尐、旧西ドイツへ

の人口流出などが原因で起こっており、雇用機会や失業率という指標でみると、東部ドイ

ツの自治体が衰退の状況に陥っている13。海外で起こっている都市の縮小現象には他に以下

のようなものがあるが、その対応事例からヒートアイランド対策として寄与する手法を学

ぶことが可能ではないかと考えられる。

ここでは、まず、1990 年代にドイツ統一を受けて、東部ドイツの諸都市が対応した政策

の一例として、ライネフェルデ市の政策を取り上げ、次に、2002 年以後、国家政策として

取り組み始めた、連邦政府の住宅政策の整理を行う。その政策の実行例としてのアイゼン

ハッテンシュタット市の政策は、各政策の詳細とあわせて、参考資料6.縮小都市に対す

る政策に整理する。

12 国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成 18 年 12 月推計)』(平成 18 年 12 月)。 13 ウタ・ホーン「ドイツにおける衰退都市・地域への取り組み:戦略・手法、プロジェクト」(IBS Annual

Report 研究活動報告(計量計画研究所、2006 年)。

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1)ライネフェルデ市

ライネフェルデ市では、東西ドイツ統一後、急激に変化・悪化した経済、それに伴う失

業者の増加、人口の西への流出などに対応するため、ライネフェルデ団地の再生を市の最

重要課題として取り組んだ。この団地再生政策では、『「労働」「居住」「自然」をテーマと

し、その調和を図り、持続可能な社会を実現すること』を目的とし、人口減に伴い増加し

た、東ドイツ時代の画一的な団地群の空き家への対応として、住棟全体の建て替えではな

く、補修、減築、増床等の多様な手法を用いた団地再生を行い、また、住民が団地再生プ

ロセスに参画し、意見をいうことができる「オープンビルディング」方式を採用した14。こ

の団地再生プロジェクトでは、図 3-12 に示すように、建物の数そのものを減らして密集

度を下げ、空いたスペースを緑化することにより、多くの緑地が創出されている。また、

建物に断熱材を取り付け、住居の温熱性を向上させるなどの居住環境の向上にも取り組ん

でいる。図 3-13 の再生後の様子から、団地内に多くの緑地があることが良く分かる。

住居

オープンスペース(遊び場)

境界の緑化

小さな森

集中的緑化

図 3-12 ライネフェルデ市団地再生プロジェクトにおける計画図

(左図:計画前の状態、右図:計画図)15

14 上田裕文「ドイツにおける団地再生のとりくみ――ライネフェルデの事例」ランドスケープ研究 71-4

(2008 年)(http://tettai.jp/article/2008/04/19/1412)。 15 計画前の状態は、http://www.leinefelde-worbis.de/stadtumbau/files/01_Einf%fchrung.pdf、計画図は、

http://www.leinefelde-worbis.de/stadtumbau/files/04_Rahmenplan.pdf。

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図 3-13 ライネフェルデ市全体写真(再生後)16

2)東部ドイツ都市再生プログラム

2002 年にスタートした、連邦・州の支援プログラム「東部ドイツ都市再生プログラム」

(Stadtumbau Ost)は、旧東ドイツ 252 自治体を含む、計 352 の自治体が、820 以上の政

策をもって参加している。このプログラムの目的は、東部ドイツ都市の都市問題を住宅政

策によって改善することであり、具体的には、住宅の密度を下げることで、市街区域の価

値を上げ、生活の質を向上させること、質の高い住宅開発(エコロジーの視点)に予算枠

を割いて、尐子高齢化の進む成熟社会に対応すること等である。

プログラムでは、各自治体が都市計画や開発戦略を策定し、連邦政府のコンペで承認さ

れると、空家の解体にあたり 60~70 ユーロ/㎡の補助金が、連邦政府・州より 2 分の1ず

つ給付される(プログラム策定当初は、連邦政府・州・市の 3 分の 1 ずつの補助であった)。

このプログラムにおいて、35 万戸の空き家が解体予定となっている。

不要な住宅を解体することによって、都市内の建物密度が下がり、多くのオープンスペ

ースが創出される。このプログラムでは、そのオープンスペースを緑化したり、公園とし

たりすることで、住環境を重視した都市づくりを目指している。このような建物密度の低

下や緑地率の増加を伴う都市再生は、都市におけるヒートアイランド現象の緩和に資する

ものと考えられる。

16 ライネフェルデ市 HP(http://www.leinefelde-worbis.de/_cmsfiles/File/studyvisit/leinefelde.pdf)。

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2-6 グリーンビルディング評価制度

米国グリーンビルディング協議会(USGBC)17が行う、LEED(Leadership in Energy and

Environmental Design)制度は、ビル等の各建築物が環境改善にどのように貢献している

かの指標を明確にし、それに基づく対象建築物の点数による評価を行うものである。

この評価の際の指標の項目の中には、動植物の生息地やオープンスペースの確保、流出

雨水管理、ヒートアイランド現象の緩和のための敷地および屋上の緑化などがあり、被覆

改善や、排熱抑制などのヒートアイランド現象緩和策につながるものと考えられる。また、

エネルギー効率の向上が、認証にあたり多くのポイントを占めるため、このことも、LEED

制度が、ヒートアイランド対策を考える上で参考になる。

この評価制度が始まった背景には、米国においては、商業・住居用ビルのエネルギー等

の消費量が、米国総消費量に占める割合が、電力消費量で 72%と高く、環境負荷が大きい

という現状がある18。そのため、各建築物の環境面でのマイナス要因を縮小する取組みに対

して評価・公表することで、省エネ対策の普及を目指し、かつ、評価されたビルの経済的

効果や、ビルで働く人や、地域住民の利益にも貢献することを狙い、認定制度を開始した。

LEED には、表 3-12 に示すとおり、その対象の種類によって、現在9つの規格がある

が、内 3 つの規格は試験段階である19。中でも、表 3-13 に示す通り、最初に出来た

LEED-New Construction は、最も多くのプロジェクトが登録している規格である。

表 3-12 LEED規格の種類(試験段階を除く)20

規格の名称 対象 開始年

LEED-New Construction 商業・工業用ビル、高層住居ビルの新築・主要

改築・増築

2000

LEED-Existing Buildings 既存のビル 2004

LEED-Commercial

Interiors

テナントに取付けられた商業ビルのインテリア 2004

LEED-Core and Shell 構造と設備(全建物からテナント取付物を除い

た箇所)

2006

LEED-Homes 住宅 2007

LEED-Schools K-12 の学校の新築・主要改築 2007

LEED 制度の適用範囲は、2009 年 1 月の段階で、米国全 50 州と 91 カ国に及び、また、

17 USGBC(U.S. Green Building Council)は、NPO 組織である。 18 ‘Green Building Research’, USGBC HP

(http://www.usgbc.org/DisplayPage.aspx?CMSPageID=1718). 19 試験段階の 3 つの規格は、都市宅地開発の LEED-neighborhood Development、小売店対象の

LEED-Retail、健康管理に関する施設の LEED-Healthcare。 20 ‘LEED Rating Systems’, USGBC HP(http://www.usgbc.org/DisplayPage.aspx?CMSPageID=222).

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普及に関しては、LEEDのワークショップへの参加者が92,078人、LEED公認の専門家は、

77,434 人である21。

表 3-13 登録済みのプロジェクト件数および認定取得プロジェクト件数22

登録済みプロジェクト 認定取得プロジェクト

New Construction 10,529 1,434

Existing Buildings 2,272 120

Commercial Interiors 1,866 402

Core& Shell 2,323 135

Schools 631 2

認証制度の仕組みについては、まず認証の基準として、6 つの基本分野が定められており、

さらにこの認証基準に、規格ごとにポイント数が決められている。例えば、新築ビルに適

用される、LEED-New Construction の規格では、表 3-14、3-15 のようなポイント数が

定められており、そのポイントを獲得することで、格付けの評価がなされる。各分野の認

証ポイントの内訳は参考資料7.グリーンビルディング評価制度にとりまとめた。

表 3-14 認証基準とポイント数23 表 3-15 格付け評価

また、カリフォルニア州やコネチカット州などの自治体では、LEED 認定されたビルに

対してのインセンティブ制度を設けている。インセンティブ制度には、税金の控除や減税

(税制優遇)、容積率の割増、手数料の低減、優先的かつ迅速な許認可、無料または低価格

の技術補助、補助金、低利融資などがあり、グリーンビルディングを推奨している24。

21 Green Building by the Numbers(USGBC, February 2009)

(www.usgbc.org/ShowFile.aspx?DocumentID=3340). 22 Green Building by the Numbers(USGBC, February 2009). 23 ‘LEED Rating Systems; New Construction’, USGBC HP

(http://www.usgbc.org/DisplayPage.aspx?CMSPageID=220). 24 LOCAL LAWS OF THE CITY OF NEW YORK No.86(NYC, 2005)

(http://www.nyc.gov/html/dob//downloads/pdf/ll_86of2005.pdf), ‘Funding Opportunities’, US EPA HP

① 敷地の持続可能性 14 ポイント

② 水効率 5 ポイント

③ エネルギー 17 ポイント

④ 原料・資源 13 ポイント

⑤ 屋内環境基準 15 ポイント

⑥ 革新性と設計プロセス 5 ポイント

計(満点) 69 ポイント

26~32 ポイント 認証

33~38 ポイント シルバー

39~51 ポイント ゴールド

52~69 ポイント プラチナ

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例えば、Arlington 郡(ヴァージニア州)の Green Building Density Incentive Program

は、LEED 認証を受けたビルに対して容積率の割増を認める制度である。認証からプラチ

ナまでのすべてのレベルが対象で、そのレベルに応じて、0.15~0.35 FAR(floor-area

ratio:容積率)の割増が認められる25。

King 郡(ワシントン州)では、Green Building Incentive として、商業ビルを対象に LEED

Grants Program、住居ビルを対象に Built Green Grants の制度を設けて、グリーンビル

ディングの普及やグリーンビルディングの重要性を人々に伝えることを目指している。表 3

-16 に示すとおり、LEED Grants Program は公共、民間、非営利のプロジェクトを対象

とし、LEED 評価のレベルに応じて、補助金が交付される26。

表 3-16 評価レベルに応じた補助金額(King郡)

LEED評価レベル シルバー ゴールド プラチナ

補助金額($) 20,000 25,000 30,000

住宅ビル用に設けられている Built Green Incentive は、ワシントン州シアトルエリアで

設けられたグリーンビルディングの評価ツールである Built Green の基準を使用するが27、

表 3-17 に示すとおり、その評価レベルによって、また1つの建物内にある世帯数等によ

って、補助金額が定められている28。

表 3-17 補助金額($)

Built Green

評価レベル

単一家族

(1世帯)

単一家族の開発

(4 世帯以上)

コミュニティ開発(10 世帯

以上、3 星レベルのコミュニ

ティ評価)

複数家族の開発(10

世帯以上、アパー

ト、マンション)

4星 2,500 5,000 10,000 10,000

5星 5,000 10,000 15,000 20,000

インセンティブという形での LEED の活用だけでなく、法律によるグリーンビルディン

グの要求事項に LEED 認証を求めている例もある。2007 年から開始された、ニューヨーク

市の Green Building Law は、新築・改築の、市の所有建物および市の資金援助を受ける建

(http://www.epa.gov/greenbuilding/tools/funding.htm#guides). 25 ‘Green Building Incentive Program’, Arlington County HP

(http://www.co.arlington.va.us/departments/EnvironmentalServices/epo/EnvironmentalServicesEpoIn

centiveProgram.aspx). 26 ‘Commercial Green Building Incentives’, King County HP

(http://your.kingcounty.gov/solidwaste/greenbuilding/incentives/commercial.asp). 27 Built Green HP(http://www.builtgreen.net/index.html). 28 ‘Residential Green Building incentives’, King County HP

(http://your.kingcounty.gov/solidwaste/greenbuilding/incentives/residential.asp)

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物(1,000 万ドル以上または費用の 50%以上の資金援助を受ける場合)を対象に、グリー

ンビルディングの評価を得ることを要求している。この根拠となる法令は、Local Laws of

the City of New York No.86 である29。表 3-18 に、法令の要求事項を示す。

表 3-18 Local Laws of the City of New York No.86の要求事項30

カテゴリー 要求

1 200 万ドル以上の建築コストが

かかる場合(学校・病院を除く)

LEED 基準のシルバー以上の評価

2 200 万ドル以上の建築コストが

かかる場合(学校・病院)

LEED 基準の認証以上の評価

3 1,200~3,000 万ドルの建築コス

トがかかる場合(学校を除く)

LEED 基準のシルバー以上の評価

LEED または ECCCNYS 基準において 20%

以上のエネルギー削減

7 年で資本回収できる場合は+5%の削減

4 3,000 万ドル以上の建築コスト

がかかる場合(学校を除く)

LEED 基準のシルバー以上の評価

LEED または ECCCNYS 基準において 25%

以上のエネルギー削減

7 年で資本回収できる場合は+5%の削減

5 1,200 万ドル以上の建築コスト

がかかる場合(学校)

LEED 基準の認証以上の評価

LEED または ECCCNYS 基準において 20%

以上のエネルギー削減

7 年で資本回収できる場合は+5~10%の削減

*ニューヨークの市所有ビルは約 1,300件、リース 1,280sq.ft。

*NCCCNYS:New York State Energy Conservation Construction Code(LEED 基準より厳格)

29 LOCAL LAWS OF THE CITY OF NEW YORK No.86(NYC, 2005)

(http://www.nyc.gov/html/dob//downloads/pdf/ll_86of2005.pdf). 30 SUMMARY OF LOCAL LAW 86, THE GREEN CITY BUILDINGS BILL (NYC, 2005)

(http://www.nyc.gov/html/dob/downloads/pdf/summary_ll_86of2005.pdf).