12
はじめに CT 灌流画像(CT perfusion,以下 CTP)は, 造影剤を急速静注しながら連続的に CT 撮像を行 い,CT 断面上での吸収値の変化を解析すること によって脳の血流を定量的に評価する検査法であ る.ダイナミック CT の手技を用いて脳の血流を 解析する方法は 1970 年代に多く報告 1~3) されてい るが,当時の CT 装置やコンピュータの性能では 一般的な臨床検査として普及していくことは困難 であった.しかし,1990 年代後半になり新しい CT 装置の開発やコンピュータ技術の進歩によっ て CTP は簡便に施行できる新しい検査法 4~9) とし て生まれ変わった.この CTP の開発の背景には, 脳梗塞の初期治療において血栓溶解療法の有用 10,11) が臨床的に注目されたことが大きい.血栓 溶解療法は発症 3~6 時間以内で治療を開始する ことが必須とされ,発症直後の脳虚血状態をでき るだけ早期に判定し治療に引き継いでいくことが 重要とされる.急性期脳梗塞の診断には MRI が 有用とされ,特に拡散強調画像 12~14) や灌流画像 15~18) を用いた検討が多く報告されている.MRI の有 用性に関しては今更議論を残すところではない が,本邦において脳血管障害が疑われた場合の検 査の進め方としては,始めに単純 CT が施行され MRI を緊急検査として対応できる施設は十分で はない. CTP は単純 CT に引き続いて施行でき, 検査の簡便性,治療開始までの時間の節約という 利点をもち,急性期脳梗塞の新しい検査法として 臨床応用されている.さらに多列検出器型 CT を 用いることで,少ない量の造影剤で広範囲・高精 度の三次元 CT Angiography(3D-CTA)を同時 に撮像することが可能となり,治療方針の決定に 重要となる脳動脈や頸動脈の閉塞や狭窄の有無を 同時に判定することも可能となった. 本稿では,我々の施設で施行している CTP の 検査法の実際について述べ,症例を供覧しながら 本法の適応とその有用性について解説し,今後の 展望について考察するものとする. 1)検査法の実際 a)検査方法 CTP を実際に施行する際には,CT 装置と CTP 解析ソフトがインストールされた画像解析用の ワークステーションさえあれば新たな装置や特別 な薬品は必要としない.実際の検査手技は静脈を 確保するだけでよく,こうした点からも本法がい かに簡便な検査であるかが理解できる.我々の施 設では多列検出器型 CT を用いているが,シング (脳循環代謝 16:241~252,2004) ●総説 2.CT perfusion(脳循環測定とその適応) 高木 亮,佐藤 英尊,片山 泰朗 ,寺本 ** ,隈崎 達夫 日本医科大学放射線科, 第二内科, ** 脳神経外科 〒1138603 東京都文京区千駄木 1―1―5 ― 241 ―

2.CTperfusion(脳循環測定とその適応)cbfm.mtpro.jp/journal2/contents/assets/016040241.pdfsittime(MTT)の三種類のファンクショナルカ ラーマップを作成している.カラー表示を用いる

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はじめに

CT灌流画像(CT perfusion,以下 CTP)は,

造影剤を急速静注しながら連続的にCT撮像を行

い,CT断面上での吸収値の変化を解析すること

によって脳の血流を定量的に評価する検査法であ

る.ダイナミックCTの手技を用いて脳の血流を

解析する方法は 1970 年代に多く報告1~3)されてい

るが,当時のCT装置やコンピュータの性能では

一般的な臨床検査として普及していくことは困難

であった.しかし,1990 年代後半になり新しい

CT装置の開発やコンピュータ技術の進歩によっ

てCTPは簡便に施行できる新しい検査法4~9)とし

て生まれ変わった.このCTPの開発の背景には,

脳梗塞の初期治療において血栓溶解療法の有用

性10,11)が臨床的に注目されたことが大きい.血栓

溶解療法は発症 3~6時間以内で治療を開始する

ことが必須とされ,発症直後の脳虚血状態をでき

るだけ早期に判定し治療に引き継いでいくことが

重要とされる.急性期脳梗塞の診断にはMRI が

有用とされ,特に拡散強調画像12~14)や灌流画像15~18)

を用いた検討が多く報告されている.MRI の有

用性に関しては今更議論を残すところではない

が,本邦において脳血管障害が疑われた場合の検

査の進め方としては,始めに単純CTが施行され

MRI を緊急検査として対応できる施設は十分で

はない. CTPは単純 CTに引き続いて施行でき,

検査の簡便性,治療開始までの時間の節約という

利点をもち,急性期脳梗塞の新しい検査法として

臨床応用されている.さらに多列検出器型CTを

用いることで,少ない量の造影剤で広範囲・高精

度の三次元CT Angiography(3D-CTA)を同時

に撮像することが可能となり,治療方針の決定に

重要となる脳動脈や頸動脈の閉塞や狭窄の有無を

同時に判定することも可能となった.

本稿では,我々の施設で施行しているCTPの

検査法の実際について述べ,症例を供覧しながら

本法の適応とその有用性について解説し,今後の

展望について考察するものとする.

1)検査法の実際

a)検査方法

CTPを実際に施行する際には,CT装置とCTP

解析ソフトがインストールされた画像解析用の

ワークステーションさえあれば新たな装置や特別

な薬品は必要としない.実際の検査手技は静脈を

確保するだけでよく,こうした点からも本法がい

かに簡便な検査であるかが理解できる.我々の施

設では多列検出器型CTを用いているが,シング

(脳循環代謝 16:241~252,2004)

● 総 説

2.CT perfusion(脳循環測定とその適応)

高木 亮,佐藤 英尊,片山 泰朗*,寺本 明**,隈崎 達夫

日本医科大学放射線科,*第二内科,**脳神経外科

〒113―8603 東京都文京区千駄木 1―1―5

― 241 ―

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ルスライスのヘリカルCTでも CTPを施行する

ことは可能である.検査の手順としては,始めに

頭部の単純CTを施行して基底核と側脳室体部レ

ベルが描出される 10 mm間隔の二段面を選択し

ダイナミックCTを撮像する.我々の装置では一

回の撮像で 20 mmをカバーすることができるが,

この二断面は中大脳動脈を含めた主要脳動脈の血

流領域の判定を目的としたもので,必要に応じて

病変が疑われる任意の断面を選択することも可能

である.CTP検査終了後には脳動脈の形態診断

を目的として 3D-CTAを撮像している.撮像す

る範囲は大後頭孔下縁から側脳室体部レベルまで

を原則とするが,動脈硬化症の疑われた症例では

頸動脈を含めた撮像を行うようにしている.造影

剤は高濃度(350~370 mgI�ml)ヨード造影剤を用いて,注入速度と使用量はCTPで 4 ml�sec・40 ml,CTAで 3 ml�sec・60 ml である.CTPを先行する理由としては,造影剤が脳へ到達する時

間が症例によって様々であり,CTPのダイナミッ

クデータからCTAの撮像開始のタイミングを判

Case 1. 81 years-old male

Fig. 1. Non-enhanced CT(A)performed 5 hours after the onsets of symptoms dem-onstrates the distinctness of the right insular cortex. CTP maps(B-D)reveal the

signal-loss at right MCA territory. CBF is reduced at right ACA territory. MTT is

prolonged at bilateral PCA territory.

A : CT B : CBV C : CBF D : MTT

脳循環代謝 第 16 巻 第 4号

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断している.事前に造影剤の到達時間を把握する

ことによって,良好にコントラストがついたCTA

を撮像することができ,精度の高い三次元画像を

再構成することができる.

以上,単純CTから CTP,CTAまで静脈確保

などに要する時間も含めて 10 分間程度で全ての

検査を終了することができる.また,脳血管障害

の症例が不穏な状態で検査を施行する場合が多い

ことを考えると,それぞれの撮像時間がいずれも

一分以内であることは本法の利点として強調され

る.

b)画像解析と評価

検査で得られた画像データは,検査終了後に画

像解析ワークステーションであるAdvantage

Windows へ転送し,画像解析とその評価が行わ

れる.現在CTPの解析法はmaximum slope 法4)

と deconvolution 法19~21)の二種類が臨床応用され

ている.maximum slope 法は,造影剤を静注し

て得られる時間濃度曲線の傾きから脳血流を解析

する方法で,簡便な計算で血流解析を行う利点を

有するが,静脈からの流出をゼロと仮定している

ため造影剤をかなり急速に静注する必要がある.

過去の報告では 50 ml の造影剤を 10~20 ml�secの速度で注入するとされ,若干侵襲性の高い方法

と考えられている.これに対して deconvolution

法は,residual function という概念を用いて静脈

からの流出を考慮にいれた解析法である.本法は

ダイナミックCT画像の動脈と静脈に関心領域を

設定することで,有効な時間濃度曲線が得られれ

ば血流の解析が可能となる.過去の報告では,造

影剤量 30~40 ml で注入速度は 3~5 ml�sec と一般的に用いられる注入速度であり,侵襲性の少な

い検査法と考えられている.しかし,本法の画像

解析は,maximum slope 法よりも複雑であり,

高速演算処理が可能なワークステーションが必要

となる.また,動脈インプットの関心領域の設定

が任意に設定されてしまうため,動脈狭窄や側副

血行路などによる造影剤到達の遅れの問題が

CTP画像の解析結果に及ぼす影響などについて,

今後解明していかなければならない問題点も残し

ている.

我々の施設では deconvolution 法を用いてお

り,臨床的な評価の際には cerebral blood volume

(CBV),cerebral blood flow(CBF),mean tran-

sit time(MTT)の三種類のファンクショナルカ

ラーマップを作成している.カラー表示を用いる

ことで血流の低下した領域の識別は容易となり,

それぞれの画像を単純CTと比較しながら判定で

きる点は本法の大きな特長の一つである.カラー

表示には rainbow color scale を用い,MTT画像

のみ赤青反転させ,赤は血流の高い領域,青は血

流の低下を示すように設定して評価している.

CTPの表示法に関しては今のところ gold stan-

dard はなく,メーカーの推奨や画像作成者の好

みで決定されており,各メーカーの違いによって

も画像の色調が異なる点は注意しておく必要があ

る.CTP画像の評価はカラーマップで視覚的な

評価を行うだけでなく,関心領域を設定すること

で数値として脳の血流を定量的に計測することも

可能となる.CTPによって算出された脳血流の

計測値は,Wintermak らの検討22)では Xe-CTと

相関するとされ,Kudo らの検討23)では PETと相

Fig. 2. CTA images show right ICA occlusion andleft PCA occlusion.

A : MIP image B : VR-image

2.CT perfusion(脳循環測定とその適応)

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関すると報告されている.しかし,定量性に関す

る検討は,今のところ症例数が少なく今後はさら

に症例数を蓄積しこの分野の検討が進むことが望

まれている.CTAの画像評価に関しては,画像

再構成法として volume rendering 法 とmaxi-

mum intensity projection(MIP)法を用いて三

次元画像を作成し,脳動脈の閉塞や狭窄の有無に

ついて評価している.

以上,画像解析や再構成に関してはワークス

テーション上での操作の慣れが必要となるが,操

作法自体は極めて簡便であり,全ての解析と評価

に要する時間は 10~20 分程度である.

2)臨床応用の実際と適応

a)急性期脳梗塞

CTPは急性期脳梗塞の診断に良い適応と考え

られている4~8).発症 5時間で検査が行われた症

例を供覧しながら本法の臨床的意義について解説

する.単純CT(Fig. 1)では,右中大脳動脈領

域の皮質・白質のコントラストの不明瞭化と右大

脳半球の脳溝に狭小化が認められ,単純CTから

でも急性期脳梗塞の診断は容易である.CTP画

像(Fig. 1)では,CBV,CBF,MTTの全ての

画像で右中大脳領域の信号欠損が認められた.ま

Case 2. 70 years-old female,

Fig. 3. Non-enhanced CT(A)shows a low density area at left putamen. CTP maps(B-D)reveal the ischemic area at left MCA territory.

A : CT B : CBV C : CBF D : MTT

脳循環代謝 第 16 巻 第 4号

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た,CBF,MTT画像では右前大脳動脈領域に

CBFの低下とMTTの遅延が認められ,さらに

MTT画像では,両側の後大脳動脈領域にもMTT

の延長が認められた.以上のように本症例のCTP

画像では,三段階の虚血状態を識別することがで

きる.我々の経験では,CTP画像で信号欠損を

示した領域はその後梗塞巣となった領域とほぼ一

致し,MTTの延長だけを示した領域については,

ほとんどの症例で梗塞に陥らなかった.さらに

CBVは保たれCBFの低下とMTTの延長を示し

た領域については,梗塞に陥ったものと陥らない

ものとが経験されている.現段階では症例数が少

なく明確な結論を示すことができないが,急性期

のCTP画像では,CBVが保たれCBFの低下と

MTTの延長している領域が救済できる可能性が

ある重度な脳虚血領域と考えている.本症例の

CTA(Fig. 2)では,右内頚動脈の完全閉塞が認

められ,血管造影検査を施行せず保存的治療が選

択された.また,CTA画像では右前大脳動脈は

対側から前交通動脈を介して描出されるが右中大

脳動脈はほとんど描出されず,CTP画像での血

流欠損の所見と一致するものと考えられた.今回

の症状との関連性は乏しいが,CTAでは左椎骨

動脈の描出が認められず,CTP画像での両側後

大脳動脈領域のMTTの延長を示した要因の一つ

と考えられた.血栓溶解療法の適応決定について

は,治療開始時間以外にも様々な要素が考慮され

るべきであるが,今回の症例のように動脈が完全

閉塞し側副血行路の発達がほとんど認められず,

CBV画像で血液量の低下が著しい症例は救済の

可能性は難しいと考えている.本症例の翌日の

CTでは右中大脳動脈領域と右前大脳動脈領域に

梗塞巣が低吸収域として示された.

b)一過性脳虚血

一般的に脳梗塞と一過性脳虚血発作(TIA)の

急性期での鑑別診断は難しく,症状が一時的に改

善したとしても脳虚血症状を繰り返す場合も少な

くなく,出来る限り早期に脳虚血となった病態を

把握しておくことが重要である.我々は神経症状

が落ち着いている場合であれば,非侵襲的な検査

法であるMRI を第一選択としているが,症状出

現直後の急性期で,TIAと脳梗塞の鑑別を急ぐ

場合にはCTPと CTAを施行している.TIA症

例を供覧しながらその有用性について解説する.

脳梗塞の疑いとして当院へ搬送されたTIA症例

を供覧する.発症から 6時間後の単純CT(Fig.

3)では,右被殻に陳旧巣と思われる線状の低吸

収域が認められるが急性期脳梗塞を示唆する所見

は指摘されなかった.単純CT撮像時には意識レ

ベルは改善していたが,脳虚血を来した病態を判

定する目的でCTPと CTAが追加された.CTP

(Fig. 3)では,CBV画像で陳旧巣と判断された

領域に一致して血液量の低下を認められた.また,

CBF画像では左中大脳動脈領域の一部に血流の

低下所見が認められ,MTT画像ではさらに広い

範囲で平均通過時間の延長が認められた.同時に

施行されたCTA(Fig. 4)では,左中大脳動脈

M1部に途絶が認められたが,側副血行路によっ

てM2領域の描出は認められた.本症例は単純

CTとMRI にて経過を追ったが,新たな梗塞巣

Fig. 4. CTA images demonstrate the MCA M1 oc-clusion and M2 brunches, which are supplied by col-

lateral circulation.

A : MIP image B : VR-image

2.CT perfusion(脳循環測定とその適応)

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の出現は認められなかった.TIA症例では,脳

動脈狭窄や閉塞の疑われた場合には緊急検査とし

て脳血管造影が施行される場合が少なくない.脳

血管造影は脳動脈閉塞や狭窄の診断の gold stan-

dard であり必要に応じて施行していくことに全

く異論はないが,侵襲的な検査法であることは常

に意識しておくべきである.高齢者で動脈硬化の

強い症例では脳血管造影時のカテーテルの操作に

よる合併症のリスクを無視することはできない.

今回提示したような高齢者でリスクの高い症例で

は,CTPと CTAを用いて低侵襲的に診断を行

うことで,脳血管造影検査の合併症のリスクを軽

減していけるものと考えている.

Fig. 6. CTA images demonstrate the atherosclerotic change of ICA.A, B : Neck CTA C, D : Head CTA

Case 3. 65 years-old female,

Fig. 5. T1 and T2 weighted images show old small cerebral infarcts. MRA showssignal loss at right ICA and MCA.

A : T1 weighted images B : T2 weighted images C : MRA

脳循環代謝 第 16 巻 第 4号

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c)内頸動脈狭窄症

内頸動脈の粥状硬化性変化は分岐部から 2 cm

以内の外側後壁に好発し,動脈狭窄が進行するに

従い脳虚血症状を引き起こす.本邦では食生活の

欧米化が進み動脈硬化性疾患は増加傾向にあり,

さらに頸動脈狭窄の治療法として頸動脈内膜剥離

術(CEA)の有用性24,25)が実証されると,画像診

断の重要性が再認識されるようになった.一般的

な画像診断の進め方は,始めに非侵襲的なドップ

ラー超音波検査(D-US)が施行され,確定診断

として頸動脈造影が施行される.近年,頚部の

CTAも積極的に臨床応用され,その利点は流れ

の影響を受けるMRAより正確に血管内腔を描出

し,動脈壁の石灰化の進展などの評価に優れると

されている26,27).我々は治療方針の決定に脳循環

測定を組み合わせて評価することが有用と考え,

頸動脈狭窄症の評価にCTPと CTAを併用して

施行している.症例として一過性脳虚血の診断で

検査が施行された右内頸動脈狭窄症例を供覧す

る.頭部MRI(Fig. 5)では右基底核領域に陳旧

性脳梗塞が認められ,頭部MRAでは右内頸動脈

遠位部から右中大脳動脈の描出が不明瞭である.

CTA(Fig. 6)では,右内頸動脈起始部に強い石

灰化を認めたが,MRAで描出されなかった内頸

動脈遠位部から右中大脳動脈は明瞭に描出され

た.CTP(Fig. 7)では,右内頸動脈領域にCBF

Fig. 7. CTP maps show the ischemic change of right ICA territory. CBV of rightICA territory is increased due to the autoregulation.

A : CT B : CBV C : CBF D : MTT

2.CT perfusion(脳循環測定とその適応)

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の低下とMTTの延長を認められた.さらに,

CBV画像では,右内頸動脈領域は対側と比べ血

液量の上昇を認め,慢性的な虚血による自動調節

能(autoregulation)による代償性変化と考えら

れた.本症例はこの後血管造影が施行され,右頸

動脈狭窄を確認した後CEAが施行された.今回

の症例のようにCTAでは石灰化が強い場合には

内腔の狭窄率の計測が困難になるという問題点も

あるが,一回の検査で低侵襲的に広範囲の脳・頸

動脈の形態情報と虚血の機能情報を把握できる臨

床的意義は高いものと考えられた.D-US やMRA

検査で動脈狭窄が疑われ,年齢や臨床症状などか

らCEAが考慮された場合には,CTPと CTAは

有用な術前検査法になりえるものと期待してい

る.

d)脳血管攣縮

脳血管攣縮はクモ膜下出血発症後 3~14 日に起

こる合併症の一つで,遅発性の脳梗塞を引き起こ

す重篤な病態である.その確定診断は脳血管造影

によるとされるが,術後の不安定な症例に対して

繰り返し血管造影を施行するには限界がある.

CTAは低侵襲的に血管の詳細な形態診断を可能

とし血管攣縮の有無の判定に有用と考えられてい

るが28),脳虚血の程度を同時に判定することが治

療方針を決定する上で重要と考えられ,我々の施

設ではCTPと CTAを併用して脳血管攣縮の評

価を行っている.脳血管攣縮による脳虚血で発症

したクモ膜下出血症例を供覧する.強い頭痛を自

覚したが医療機関を受診せず放置.頭痛から一週

間位経過して突然の右半身麻痺となり当院に搬送

される.単純CT(Fig. 8)では左シルビウス裂

に高吸収域を認められ,くも膜下出血の診断のも

とに脳血管造影が施行された.脳血管造影(Fig.

8)では左中大脳動脈M1�2 領域に脳動脈瘤が指摘され,さらに左中大脳動脈の狭小化が著しく脳

血管攣縮と診断し待機手術が計画された.血管造

影の翌日,神経症状がさらに進行したため単純

CT(Fig. 9)が施行され,右中大脳動脈領域に

低吸収域が認められ,脳虚血の判定を目的にCTP

と CTAが施行された.CTP(Fig. 9)では低吸

収域を示した領域に脳血流の低下が認められ,こ

の領域以外にもCTで等吸収域に描出された領域

に虚血巣が認められた.CTA(Fig. 10)では血

管の狭小化と動脈瘤が認められ,臨床症状がさら

に進むようならば動注療法を行うこととし,検査

直後より厳重な血圧管理のもとで保存的治療が施

行された.血管攣縮の病態は客観的に判定するこ

とは難しく,術後不安定な症例には投薬等の影響

によって臨床症状が当てにならないこともしばし

ばあり,CTPと CTAは脳血管攣縮の評価に有

Case 4. 50 years-old male,

Fig. 8. CT scan shows subarachnoidal hemorrhage Left carotid angiogram demon-strated MCA aneurysm and vasospasm.

A : CT B, C : Left carotid angiogram

脳循環代謝 第 16 巻 第 4号

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Fig. 10. CTA images also show MCA aneurysm and vasospasm.A, B : CTA images

Fig. 9. CTP images demonstrate the ischemic area in Left MCA territory.A : CT B : CBV C : CBF D : MTT

2.CT perfusion(脳循環測定とその適応)

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用な検査法と考えている.本症例は保存的治療に

よって症状は改善し,その後動脈瘤に対してク

リップ術が施行された.

3)今後の展望

CTPの利点は,短時間かつ簡便な手法で精度

の高い脳血流情報を得ることができる点に集約さ

れる.CTAと併用することで脳虚血の正確な病

態を判定することが可能となり,治療方針の決定

やその経過観察に有用な検査法である.さらに経

済的な点からは,造影CTと同じ検査料で頭頚部

の血管の形態診断と脳虚血の定量的な判定を一回

で施行できる点も本法の大きな特長の一つであ

る.一方,CTPの問題点としては,検査の侵襲

性と撮像範囲の制限等があげられ8,29),MRI 検査

と比べて及ばない点があることも忘れてはならな

い.侵襲性という点では,CT検査特有の放射線

被曝と造影剤使用の二点があげられ,現時点では

一般的なCT検査の中でも被曝量の多い検査であ

る.放射線被曝に関してはフィルター処理を用い

た被曝線量軽減に関する研究が報告30)され,今後

もさらにこの分野の研究が発展することが期待さ

れる.また,造影剤の投与については,一回の撮

影が 30~40 ml と通常の造影CTと比較して少な

い量ではあるが,一回で撮像できる範囲が限られ

ているため,広い範囲を判定するためには複数回

の造影剤投与が必要になる.しかし,CTAを併

用して評価するためには,造影剤の総使用量を考

慮するとCTPは一回しか撮像できない.撮像範

囲の制限については,今もなお進化し続けている

CT装置の進歩によって解決される可能性はある

ものの,放射線被曝の問題と合わせて今後も検討

していく必要がある.また,撮像範囲内の病変部

の認識性に関しては,1 cm程度の小さな虚血巣

の判断が困難となるという報告31)もあり,撮像条

件などを含めて至適な検査法や標準化に向けた検

討が待たれている.以上の問題点は,MRI との

比較いう前提で議論されることが多いが,我々は

この二つの検査法の優劣を競わせるのではなく,

必要に応じて両者を上手に使い分けていくことこ

そが臨床的に重要と考えている.急性期で単純

CTを施行し虚血巣が疑われればそれに引き続き

CTPと CTAを行い,大きな脳虚血巣の有無を

判定し急性期脳梗塞の血栓溶解療法の適応の決定

に利用し,必要があればその後に適宜MRI を追

加していくことで様々な負担を軽減していけるも

のと考えている.

おわりに

CTPの検査法の実際,検査適応,今後の展望

について述べてきた.2003 年度のAHAのガイ

ドライン34)では,CTPは急性期脳虚血の可逆性

に関する判断や血栓溶解療法の適応判断に有用と

述べられているが,今後は prospective な臨床検

討が必要とされ,慢性脳虚血や血管攣縮,頭部外

傷等については,その有用性に関する明確なデー

タは示されていない.今後はこれらの病態の診断

に関してCTPの有用性を実証できるような症例

数の蓄積が必要であり,本邦でも多くの施設で

CTPに興味をもち広く臨床に普及していくこと

が望まれる.しかし,本当の画像診断検査の目的

は,脳梗塞の治療と予後に貢献するための一つの

ステップであることを念頭におき,MRPや CTP

等の特殊な脳血流検査を行うことばかりを優先し

て治療開始のタイミングを逸してしまうことがな

いよう常に戒めておかねばならない.

文 献

1)Axel L : Cerebral blood flow determination by

rapid-sequence computed tomography : theoreti-

cal analysis. Radiology 137 : 679―686, 1980

2)Berninger WH, Axel L, Norman D, Napel S, Red-

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716, 1981

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Abstract

CT perfusion ; cerebral blood flow measurement and clinical application

Ryo Takagi, Hidetaka Sato, Yasuo Katayama*, Akira Teramoto** and Tatsuo Kumazaki

Department of Radiology, The Second Department of Internal Medicine*,

Department of Neurosurgery**, Nippon Medical School

Using a dynamic CT technique, CT perfusion is a novel technique for estimating regional cerebral

blood flow and other perfusion parameters. CT angiography is also a useful tool in evaluation of cere-

bravascular pathology. Multi-detector CT(MD-CT)allows performing CTP and CTA as one time exami-

nation. In this article, we demonstrate the utility of the combined technique of CTP and CTA for acute

cerebral ischemia, and introduce the preliminary clinical application in evaluation of transit ischemic at-

tack, cerebral vasospasm, and carotid stenosis.

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