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論文番号 508
京成 3000 形電車適用 SiC インバータ装置 -プロパルジョンシステム全体の見直しによる省エネルギー効果-
京成電鉄株式会社 広瀬 昌己 東洋電機製造株式会社 藤本 和樹
東洋電機製造株式会社 飯田 哲史 東洋電機製造株式会社 伊藤 和樹
1.はじめに
京成電鉄株式会社(以下京成電鉄)3000 形電車は、2003
年より製造が開始され、最新の 13 次車まで合計 44 編成が
製作・運用されている。運用範囲は、6 両編成は主に京成電
鉄線内、8 両編成は京成電鉄線内をはじめ、スカイアクセ
ス線や東京都交通局殿浅草線、京浜急行電鉄本線・羽田空
港線に乗り入れ、羽田空港および成田空港のアクセス列車
に供されている。
走行制御装置は 3300V1200A 級 Si(Silicon)IGBT 素子に
よる 1C4M×2 群制御・ヒートパイプ式冷却器走行風自冷の
VVVF インバータを、6 両編成は 2 台、8 両編成は 3 台とし
て、床下にぎ装している(1)。
3000 形電車導入 13 年を経て、次期新型式車への展開を
想定した新技術として、3000形電車3003編成の成田方VVVF
インバータに、SiC(Silicon Carbide)素子(ハイブリッド
型:スイッチング素子は IGBT、還流ダイオードは SiC ダイ
オード、以下 SiC 素子)を適用した制御装置を新たに設計し
適用した。
筆者らは既に SiC 素子適用による直接的な効果は装置の
小型軽量化のみであり、消費電力の低減は直接的な効果で
はないことを論じている(2)(3)(4)(5)。
したがって、今回は主電動機、フィルタリアクトルを含め
たプロパルジョンシステム一式を再設計・製作、適用し、
小型化だけではなく省エネルギー化についても論じる。
図1 車両外観
2. 適用に関する制約と設計方針
図1に 3000 形電車の外観,表1に主要諸元を示す
表1 3000 形の主要諸元(6 両編成)
編成 M2c-M1-T-T-M1-M2c
18m 車体 4M2T
編成質量 186ton(M 車 33t、T車 27t)
電車線電圧 直流 1500V
制御電圧 直流 100V
最高速度 120km/h
加速度 0.972m/s2 (3.5km/h/s) 0-200%応荷重制御付
減速度 1.11 m/s2 (4.0km/h/s) 常用最大
1.25 m/s2 (4.5km/h/s) 非常
主電動機 三相かご形誘導電動機 TDK6174-A
1 時間定格 125kW 1100V 83A 2360min-1
制御装置 VVVF 装置 RG681-A-M
1C4M×2 群制御×2 台/編成
文献 2~5 で述べられているように、VVVF インバータ装
置の主回路半導体を SiC 化したのみによる省エネルギー効
果は、車両全体が使用するエネルギーに対して 0.2%程度で
ありごくわずかである。
図 2 にプロパルジョンシステムにおけるエネルギー損失の
概念図を示す。なお空気ブレーキ分に関しては、本来損失
ではないが回生ブレーキで負担すれば損失ではなくなるた
め損失と表現している。
図2 プロパルジョンシステムにおける損失の内訳例
図 2 に示すように車両全体の損失は走行抵抗および機械
ブレーキによる損失が大半を占める。また、主電動機の損
失も比較的大きい。従って機械ブレーキの負担率を低下さ
せる、すなわち回生ブレーキによるブレーキ力負担を増や
2
すことが省エネルギー化につながる。次に、主電動機、フ
ィルタリアクトルの高効率化(=低損失化)を行うことによ
り、全体のエネルギー消費を低下させることが可能である。
また、今回は既存編成への新技術適用なので、下記のよ
うな制約条件がある。
① 既存装置と完全取付互換が必須
② MT 比の変更がないため、粘着限界を変更しても省エ
ネルギー化の効果は限定的である。
以上からプロパルジョンシステムとしての設計方針は下記
2 点となる。
i. 主電動機を高効率なものに変更する。
同時に性能をアップし、変更するためトルク裕度及び
適用する主回路素子の電流限界まで回生定トルク領
域を伸ばして回生率の向上を図る。
ii. フィルタリアクトルを高効率化する。
iii. 回生ブレーキパターンを大きく取り、回生電力を最大
限活用することで、力行による消費電力を穴埋めする。
iv. 以上 3 点を満たしたうえで VVVF 装置を小型化する。
省エネルギー化については主電動機特性および主電動
機の高効率化による部分が大きい。
iv.に関しては主電動機のトルク限界近くまで回生ブレー
キを出力することにより、その効果を高める(6)。
一方、VVVF 装置小型化には文献(2)に示すように SiC 素
子の適用が望ましい。今回は電流増による冷却器大型化を
抑える意味でも SiC 素子を適用する。
3. フィルタリアクトルと主電動機の高効率化
3.1 フィルタリアクトルの高効率化
フィルタリアクトルを高効率化するには直流抵抗値を
下げることが有効である。現状の 3000 形のフィルタリアク
トル(L3027-A、508kg、2 回路入り、定格 235A)は巻線素
材がアルミニウム製で、8mH、約 70mΩ程度となっている。
ここで巻線素材を銅化すると単純計算で抵抗率が約 3 割下
がるため、約 40mΩとすることができ、損失も 30%低下す
る。
電流値を合わせて巻線素材をアルミニウム、銅それぞれ
設計すると質量、寸法、磁気シールド板の質量は表 2 のよ
うになる。
表2 フィルタリアクトル コイル材質による寸法/質量への影響
項 目 銅コイル アルミコイル
体積 1080×730×730mm 1600×730×730mm
質量 943kg 870kg
シールド板
質量 447kg 515kg
表2より、巻線材料を銅にすると寸法は小さくできるも
のの、比重がアルミニウムよりも大きいため、質量が大き
くなる。また寸法に比例してシールド板は軽くなるが、本
体の質量増大分でほぼ相殺される。最終的には巻線材料に
銅を使用すると占有体積で 3 分の 2 にすることができ、エ
ネルギー密度は 1.5 倍となる。
今回は省エネ効果、および大型化による軸重バランスへの
影響を最小限に抑えるために小型化するため巻線材料には
銅を選択した。
フィルタリアクトルの主な諸元を表 3 に、外観を図 3 に示
す。
表3 フィルタリアクトル(L3066-A)諸元
項 目 仕 様
定 格 DC1500V 235A 8.0mH×2 群
巻線材質 銅
冷却方式 乾式自然空冷
図3 フィルタリアクトル外観
3.2 主電動機の高効率化
一般に誘導電動機は定格すべりを小さくし、すべり周波
数が低い領域で常用することにより高効率化が可能である。
具体的には適切なコイル巻回数の選定、スロット形状の変
更、回転子導体や鉄心に低損失材料を用いることなどがあ
げられる(7)。高効率化により損失(=発熱)が減るため、冷却
構造が簡素化でき、全閉外扇構造とすることができた。
今回は後述の回生トルクパターンの変更に伴い、主電動
機容量は 125kW から 140kW と大容量化している。
また、電動機の設計を磁気装荷型とすることにより最大ト
ルクを大きく取り、4 章で述べる回生トルクの増大に対応
している。
主電動機(TDK6179-A)の主な諸元を表 4 に、外観を図 4
に示す。
表 4 主電動機(TDK6179-A)主要諸元
定格(1 時間) TDK6179-A 既存 TDK6174-A
出力 140kW 125kW
電圧 1100V
電流 96A 83A
回転速度 2375min-1 2360min-1
周波数 80Hz
定格すべり 1.1% 1.7%
極数 4
効率 94.5% 92.5%
力率 81.5% 85.5%
冷却方式 全閉(外扇型) 開放型自冷
3
図4 主電動機外観
フィルタリアクトルおよび主電動機の変更により、シミ
ュレーション上省エネルギー効果は 1%程度期待できる。
4. 回生トルクパターンの変更
2 章で述べたように機械ブレーキによるエネルギー損失
を減らすために回生定トルク領域の終端速度をできる限り
高い速度に設定する。図 5 に回生ブレーキパターンを示す
図 5 トルクパターンの比較(200%乗車μ=16%時)
図 5 に示すように、定トルク領域終端速度を 54km/h から
82km/h とすることにより、機械ブレーキでの負担を小さく
することができる。
一方後述するが、設計時点では VVVF インバータ装置に
3300V1200A級の SiC素子しか使用できなかった。このため、
定トルク領域終端速度はこの程度であるが、現在使用可能
な 3300V1800A 級の素子では更に定トルク領域終端速度を
高く設定することできる。しかしながら、エネルギーは引
張力と速度の積であり高い速度までブレーキ力を負担する
とその分エネルギーも増える。一方で回生ブレーキの負荷
となる十分な車両が存在しなければ軽負荷回生となりトル
ク絞り込みが発生し、ブレーキ力を負担できない。
また、主電動機のピーク電流も増えるため、装置が巨大化
する可能性も否めない。適用する線区の運行頻度や特性に
より定トルク領域終端速度の設定は特に注意する必要があ
る。今回適用した 3000 形の走行線区のうち、特に京成佐倉
駅以東は現状の 3000 形でも軽負荷回生、回生失効となるこ
とが多いため、定トルク領域終端速度は既存より 28km/h
アップの 82m/h とした。
この効果によりシミュレーション上、省エネルギー効果
は 18%程度期待できる。
5. インバータ装置の小型軽量化
3000形設計当初から 15年程度経過したこともあり、様々
な部品が小型軽量化している。
特に主回路半導体は従来と同じ定格の 3300V1200A1in1 パ
ッケージだが、従来は 190×140mm のパッケージ、SiC 化に
より130×140mmのパッケージとなり同一定格でも約3分の
2 となっている。すなわち損失が 3 分の 1 程度小さくなっ
たため放熱は 3 分の 2 でよく、その分冷却器も小型化でき
る。また、フィルタコンデンサも油冷式から乾式コンデン
サに置き換わり、フィルム厚も薄くなったことによって、
108kg×2回路分であったものが 45kg×2回路分となり大幅
に軽量化した。
インバータ装置の基本的な設計指針は文献 2~4 と同様
である。ただし、文献 2~4 と異なり、主電動機特性の変更
で既存システムより大電流化することとなった。
このため半導体素子に IGBT を適用した場合では冷却部
が構成できない。このため、SiC 素子を適用することとな
った。設計した 2016 年当時には、適用できる SiC 素子が
3300V1200A に留まったことから、VVVF インバータ側の最大
出力電流は素子定格 1200A の 2 倍の 2400A が瞬時電流限度
値となる。従い 4 章で述べたように回生トルクパターンン
の定トルク終端速度を 82km/h に制限する結果となった。
図 6 に VVVF 装置の外観を示す。
図6 VVVF インバータ装置(上:変更後、下:既存)
図6より大幅な小型化がなされていることがわかる。質量
も従来の 1028kg から 732kg と大幅に軽量化した。
既存の VVVF インバータ装置を 100 とした場合の質量、体
0
10
20
30
40
50
60
70
80
0.00 20.00 40.00 60.00 80.00 100.00 120.00 140.00
ブレーキ引張力(kN/4MM)
速度(km/h)
変更後
既存
4
表 5 VVVF インバータ装置の比較
既存
(Si-IGBT)
変更後
(SiC)
質量 100 71.2
占有体積 100 79.9
出力密度 100 140
※従来の IGBT システムを 100 とした場合
積、出力密度の比較を表 5 に示す。
表 5 より,質量,体積,密度いずれも変更後の方が優れ
た結果となることがわかる。特に出力密度は既存システム
に比べて 1.4 倍である。
主回路半導体の差による占有体積減少は冷却器分 0.2m3
に留まる。大半の要因はフィルタコンデンサの小型軽量化
等による内蔵機器の小型軽量化により達成したものである。
6 消費電力の比較
搭載前後の消費電力について検討した。3003 編成の上野
方 VVVF 装置は既存のシステムのままとしており、完全同一
運転パターンでの比較が可能である。消費電力の比較は
VVVF 装置の積算電力量計での比較とした。当該車両は 2017
年 1 月より長期試用に入っており、積算電力、回生率のモ
ニタリングを行っている。
走行シミュレーションおよび机上検討での消費電力低減
効果は主電動機の高効率化、回生定トルク領域の高速化、
主回路半導体の SiC 化と合わせて 20 弱%程度である。
ここで 2017 年 1月~9月までの営業運転中の消費電力量
計のデータから電力量を比較する。なお VVVF 装置搭載の積
算電力計の精度は積算値では 1%以上であり十分な精度を
有している(8)。図7に消費電力比較結果を示す。
図 7 消費電力の比較(2017 年 1 月~9 月)
図 7 より、力行時の消費電力量が 1.5%低下している。こ
れは主電動機、フィルタリアクトル、VVVF インバータ装置
のそれぞれの効率向上の結果である。3 章で示した主電動
機、フィルタリアクトルの効率向上による消費電力低減効
果 1%とよく一致する。
また回生電力量、消費電力量についてもシミュレーショ
ン結果の 18%向上と概ね一致する結果となった。
7.現車性能試験
2016 年 12 月に 3003 編成の電機品交換を行い,現車性能
試験を実施した。
性能試験中の代表的な測定チャートを図8に、上野→東
成田間走行時の温度チャートを図9に示す。
図8より,車両はスムースに加減速できており車両性能,
乗り心地は問題ないことがわかる。また図9より温度上昇
は16K程度である。ここから発熱量は1500W程度と
なり設計値とおおむね一致する結果となった。
8.まとめ
京成電鉄 3000 形電車に SiC 適用高効率化電機品を適用し
た。消費エネルギー削減を狙いインバータ、フィルタリア
クトル、主電動機を適用し従来装置と比較を行った。適用
の結果下記の結果が得られた
システム全体の省エネルギー設計により、18%程度の省
エネルギー化となった。
主回路システム全体の省エネルギー化には回生ブレー
キ特性の変更が最も効果的である。
試作装置を搭載した 3003 編成は 2017 年 12 月 26 日より運
用についており、長期データ取得中である。
<参考文献>
(1) 延命,可児,半田:「京成電鉄 3000 形電車」車両技術
225 号(2003),pp47-63
(2) 藤本,大久保,牧島,鈴木,畠山:「SiC 素子の適用に
よる鉄道用 VVVF インバータの小型軽量化」平成 29 年電気
学会産業応用部門大会,5-43
(3)S.Makishima, K.Fujimoto, K.Kondoh:” The Direct
Benefit of SiC Power Semiconductor Devices for Railway
Vehicle Traction Inverters” The 2018 International
Power Electronics Conference -ECCE Asia- (IPEC-Niigata
2018 ) ,22H3-2
(4) 堤、平本、藤本、大久保:「広島電鉄 3900 形更新車電
機品」、第 54 回日本サイバネティクスシンポジウム 512
(5) 峯吉,池田,小岩,名取,近藤,藤本,牧島:「鉄道車両の省エ
ネルギー化に向けたインバータの SiC 素子適用による電流
増加時の損失の特性解析」電気学会交通・電気鉄道研究
会,TER-18-027
(6)河野、岩崎、近藤:「車両の省エネ技術の適用と具体的
な効果」平成 28 年電気学会産業応用部門大会,5-S1-6
5
図9 温度試験結果
(7)近藤,宮部,海老塚,花岡,山口:「鉄道車両用高効率
誘導電動機の開発」第 49 回日本サイバネティクスシンポジ
ウム 514
(8)長谷川,水間,竹内,藤本,古関:「車上電力量測定法に
関する考察」平成 27 年電気学会産業応用部門大会,5-53
図8 性能試験結果
0.00
2.00
4.00
6.00
8.00
10.00
12.00
14.00
16.00
18.00
13560.0 14560.0 15560.0 16560.0 17560.0 18560.0 19560.0
上野→東成田(京成本線経由)
FINU FINV FINW