11
1 3 ニュートリノ振動 3.1 2 体のニュートリノ振動公式 ニュートリノ (ν e , ν μ , ν τ ) レプトン 対に って される される。 これを しく いい、一 ある い。 がある (ν α ) (ν j ) わせ る。 |ν α >= j U α j |ν j > (3.1) されたニュートリノが する き、各 をする が変わり 態が する。これをニュートリノ ν j ある し、 さいこ する |ν α (t ) >= j U α j |ν j > e iE j t , E j = q p 2 + m 2 j p + m 2 j 2E (3.2) される。ニュートリノ 3 あるが、以 ため 2 する。こ ただ 1 θ って ように すこ きる。 |ν e > = cos θ|ν 1 > + sin θ|ν 2 > |ν μ > = sin θ|ν 1 > + cos θ|ν 2 > (3.3) って t = 0 ν e あった が、 t ν μ に変 する確 P(ν e ν μ ; t )= | < ν μ |ν e (t ) > | 2 = | sin θ cos θ(1 e i(E 1 E 2 )t )| 2 sin 2 2θ sin 2 m 2 4E L = sin 2 2θ sin 2 1.27 m 2 (eV ) 2 E (GeV ) L(km) (3.4a) m 2 = m 2 2 m 2 1 , L = ct (3.4b) ν e る確 P(ν e ν e ; t )= 1 P(ν e ν μ ; t ) (3.5) λ λ(km)= 4πE m 2 = 2.5E (GeV ) m 2 (eV ) 2 (3.6) 演習問題 3.1. (3.4a)(3.6) した。これを け。

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第3講 ニュートリノ振動

3.1 2体のニュートリノ振動公式

 ニュートリノ (νe,νµ,ντ)は、弱い相互作用で荷電レプトンと対になって生産される状態で定義される。これを弱相互作用もしくは香りの固有状態といい、一般に質量固有状態と同一であるとは限らない。同一でなく混合がある場合、香りの固有状態 (να)は、質量固有状態 (ν j )の重ね合わせとなる。

|να >= ∑j

Uα j |ν j > (3.1)

この場合生成されたニュートリノが伝播するとき、各質量固有状態は別々の時間発展をするので、混合比が変わり別の香り状態が混入する。これをニュートリノ振動と呼ぶ。ν j は安定であるとし、質量が小さいことを考慮すると、香りの状態の時間発展は

|να(t) >= ∑j

Uα j |ν j > e−iE j t , E j =√

p2 +m2j ≃ p+

m2j

2E(3.2)

と表される。ニュートリノは 3世代あるが、以下の議論では簡単のため 2世代とする。この場合独立な混合行列要素はただ 1個のみとなるので、混合角 θを使って次のように表すことができる。

|νe > = cosθ|ν1 > +sinθ|ν2 >

|νµ > = −sinθ|ν1 > +cosθ|ν2 >(3.3)

従って t = 0で νeであったものが、時刻 t で νµに変化する確率は

P(νe → νµ; t) = | < νµ|νe(t) > |2 = |sinθcosθ(1−e−i(E1−E2)t)|2

≃ sin22θsin2 ∆m2

4EL = sin22θsin21.27

∆m2(eV)2

E(GeV)L(km) (3.4a)

∆m2 = m22−m2

1, L = ct (3.4b)

νeが生き残る確率はP(νe → νe; t) = 1−P(νe → νµ; t) (3.5)

振動の波長 λは

λ(km) =4πE∆m2 =

2.5E(GeV)∆m2(eV)2 (3.6)

演習問題 3.1. 振動公式 (3.4a)、振動波長表式 (3.6)の最後の項は実用単位で表した。これを導け。

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第 3講 ニュートリノ振動 2

表 3.1:ニュートリノ振動における位相 (∆m2 ·/L) ≃ 1の領域

ニュートリノ源 エネルギー E(GeV) 距離 L(km) ∆m2(eV)2

加速器 0.1∼ 100 1∼ 1000 10−3 ∼ 100

原子炉 ∼ 10−2 10−1 ∼ 100 10−1 ∼ 10−3

大気 1∼ 102 10∼ 104 ∗ 10−4

太陽 ∼ 10−3 ∼ 108 10−11

∗ 地球の直径

振動が顕著である領域は、∆m2L/E ∼ 1で与えられるので、E/Lを適切に選ぶことにより、広い範囲の∆m2の探索が可能となる。表 3.1にニュートリノ源の違いによる質量領域を示す。

図 3.1: 2000年代以前のニュートリノ振動実験のまとめ。加速器実験では νµ, ν̄µビームを使用した出現の実験 (a)と消滅実験 (b)

が行われた。原子炉では ν̄eによる消滅実験が行われたが、いずれもニュートリノ振動は見つからず、上記曲線の右上側が禁止領域として表示される。ただし、Los Alamos

グループは信号を見つけたと主張しており、現在 (2006)検証が進行中である。

実験的には、最初 νeビームを作っておいた上で、下流で他種のニュートリノνµが現れるかを見る”出現の実験”と、2箇所以上の地点でニュートリノの数を測定し、その変化を見る”消滅の実験”との2種類の方法がある。技術的には出現の実験の方が容易であるが、振動確率が混合行列要素を含むので、仮に振動が存在しても混合率が小さいと測定にかからないという難点がある。一方、消滅実験は、技術的にはより困難であるが、混合行列の大小やニュートリノ種の数、またニュートリノが振動により変化する先のニュートリノの種類 (例えば標準理論以外のνL → νR, ν → ν̄)によらずに、ニュートリノ振動の有無を一般的に決定できる。また ,ν → νsにより標準理論に存在しない新種のニュートリノ (νs)を発見する可能性もある。 ニュートリノ振動が存在すれば、混合比 sin22θと ∆m2

を同時に決めることが可能であるが、振動が観測されないときは、sin22θと ∆m2の値が除外される領域を 2次元平面上にプロットする*1) 。振動が見つからない場合、実験誤差を δとして長波長領域 (L ≪ λ;∆m2の小さい領域)

では

sin2θ ∆m2 <EL

√δ L ≪ λ (3.7)

が与えられる。逆に短波長領域 (L ≫ λ; ∆m2の大きい領域)では、Eが幅を持つこと、ニュートリノ源が広がっていることなどを考慮すると、振動は平均化されるので

P(νe → νµ) = sin22θ < sin21.27∆m2

EL >

≃ 12

sin22θ < δ L ≫ λ (3.8)

* 1) 後述の物質振動解では θ ↔ π/2−θの対称性が崩れるので、sin22θの代わりに tan2 θを使うことが多い

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第 3講 ニュートリノ振動 3

となり、混合比の上限値のみが求められる。加速器実験は測定精度が良く、P∼ O(10−3 ∼ 10−4)まで可能であるが、他の手段による実験では、P≥ 10−2 ∼ 10−1程度であり、混合比に対する感度は良くない。∆m2の小さい領域を調べるには、E/Lが小さいほど有利である。表 3.1より、太陽ニュートリノを測定するのが最も感度がよいことが判る*2) 。1980∼2000年代、加速器および原子炉を使う実験でニュートリノ振動探索が精力的に行われたが、νµ → νe

では ∆m2 & 0.1eV2、ν̄e → ν̄eでは ∆m2 > 0.001eV2まで振動の徴候は見つけられなかった。図 3.1は、これまでの信号が検出できなかった実験例について、データから禁止される領域を示す。加速器や原子炉での振動実験の結果、探索可能な領域は ∆m2もしくは混合角の非常に小さい領域に限られたので、∆m2の小さな領域に進出したい場合は、宇宙線や太陽など天体起源のニュートリノに求めるか、人口ニュートリノ源の場合は 100kmを越える長基線実験を行わざるを得ない。

3.2 スーパーカミオカンデ

スーパーカミオカンデ検出装置 東大宇宙研究所のスーパーカミオカンデ (以下 SKと省略する)は、天体ニュートリノ観測に革命的な変革をもたらした。さらに向こう 30年にわたるニュートリノ実験の長期将来計画に使う検出装置の多くは、SK型もしくはその発展形であることをみてもその傑出した能力が判るので、少し詳しく解説しよう。この測定器は元々は、大統一理論の予言する陽子崩壊現象検出の目的で設置されたが、天然に存在するウラン系統の背景雑音を減らして、検出可能な粒子の最小エネルギーを 5∼ 6MeVにまで下げることにより、太陽ニュートリノ検出器としても機能するようにしたものである。図 3.2に SKの概要を示す。岐阜県神岡鉱山の地下 1000mに設置した。地下深く設置する理由は、宇宙線による背景雑音を極力減らすためである。ニュートリノ自身は地球程度の物質量は自由に通り抜けられるが、宇宙線の主成分のミューオンやガンマ線は、地下深く潜るほど急速に減らせる。ニュートリノ自身は、電気的に中性で検出できないが、ニュートリノ反応

νe+e− → νe+e− (3.9a)

νe+n → e− + p (3.9b)

νµ+e− → νµ+e− (3.9c)

νµ+n → µ− + p (3.9d)

νe,µ+N → νe,µ+N′ +nπ (3.9e)

により散乱もしくは生成された荷電粒子が、水の中で放射するチェレンコフ光を光電子増倍管で検出する。チェレンコフ光は屈折率 nで決まる特定の角度

cosθ =1n

(3.10)

方向に円錐状に放射されるので、エネルギーが低くてすぐに止まる粒子が作る短い軌跡から放射されるチェレンコフ光はリングを作る。エネルギーが高く検出器から突き出る粒子は、円を埋め尽くすパターンとなる。電子は電磁シャワーを起こすので、ぼやけたリングになるが、ミューオンは縁のくっきりしたリングを作る (図 3.4)。リングパターンから電子やミューオンの同定ができ、光量からエネルギーが測定できる。光電子増倍管が光った所と時間を知ることにより、反応点が判る。ニュートリノが核子な

* 2) 超新星ニュートリノが観測されればはるかに大きい距離が得られるが、何時出現するか判らない。

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第 3講 ニュートリノ振動 4

図 3.2:神岡水チェレンコフ測定器 (スーパーカミオカンデ)。  (東京大学宇宙線研究所提供)

岐阜県神岡鉱山地下 1000mに設置。右側の写真は光電子増倍管を設置した後、注水しているところ。

図 3.3:ニュートリノ検出原理: ニュートリノにより跳ね飛ばされて電子の放射するチェレンコフ光を水タンク壁面に設置した光電子増倍管で検出する。中図の事象は超新星ニュートリノにより散乱された電子が図中の+点から矢印の方向に走った例。丸印が光った光電子増倍管を表し、丸の大きさが光量を表す。リングパターンが見える。右図:SKミューオン生成事象。検出器内の一点から眺めたリングパターン。

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図 3.4:各種粒子の作るリングパターン:左から、ミューオン、π0、電子。電子はミューオンに比べて、ぼやけたリングとなり、π0ではリングが二つできる。

ど重い標的に衝突した場合、反跳電子はほぼ等方的に放出されるので、入射ニュートリノの方向情報は失われるが、電子との弾性散乱の場合は、ニュートリノの入射方向をかなり良い精度で再現するので、ニュートリノの到着時間、入射方向、エネルギースペクトルが判る。ニュートリノの平均反応率のみしか検知できなかった初期の太陽ニュートリノ検出器に比べれば、一段進んだ検出器であり、ニュートリノ望遠鏡としての性能を備えていると言って良いであろう。

*

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図 3.5: 電子とミューオン信号の尤度 (ゆうど) L 分布。上図:Sub-GeV、下図:Multi-GeV、共にFC事象。ヒストグラム:モンテカルロ、点が SKデータ。log(L) ∼ 0

の付近で、電子とミューオンの誤認識が生じる。誤認率:0.6±0.1%for Sub-GeV、∼ 2% for Multi-GeV

図 3.5は、KEKの陽子加速器ビームと小型の水タンク光電子増倍管を配置した SKの縮小版検出器を使って、SKの電子とミューオンの同定能力を測定したデータである。リングパターンから計算したミューオンらしさの尤度 (ゆうど)関数L(likelihood function)

の値の分布を示す。L > 0ならミューオン、L < 0なら電子とする。データは間違う確率が ∼ 1GeV以下に関しては 0.6%、数-GeVの粒子に対しては . 2%を示している。

図 3.6:左図:観測事象のトポロジーによる分類。各事象を引き起こす入射ニュートリノエネルギーの分布を右図に示す。

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3.3 大気ニュートリノ振動

 ニュートリノ振動の最初の徴候は、大気ニュートリノ中の νµ成分が νe成分に比べて少ないというデータであった (1988)*3) 。

R=(νµ+νµ)/(νe+νe)

∣∣DATA

(νµ+νµ)/(νe+νe)∣∣Monte Carlo

= 0.61±0.03(stat)±0.05(sys)*4) (3.11)

大気ニュートリノは一次宇宙線 (主成分は陽子)が大気と反応して生成される πの崩壊から作られる。主反応は

p+A → π±(K±)+X (3.12)

π±(K±) → µ± + (ν)µ (3.13)

µ± → e± +νµ+ (ν)e (3.14)

であり、2GeV以下では N(νµ)/N(νe) ≃ 2が得られる。より一般的には、地表での宇宙線ミューオン強度から逆算して大気ニュートリノのスペクトルを算出するが、不定性が大きく、νµ成分不足の原因をこのデータだけからニュートリノ振動効果と確定することはできなかった。確証はスーパーカミオカンデ(SK)検出器によるニュートリノの天頂角分布で得られた。大気ニュートリノが SKで検出される際の事象のトポロジーを図 3.6左に示す。FC (Fully Contained)事象は、ニュートリノが上から降ってきて検出器の中で反応し、反跳粒子が検出器内で止まる例であり、大体 Eν . 1GeVであるので、Sub−GeV事象とも呼ぶ。反跳粒子が高エネルギーミューオンの場合、外に飛び出る事例もあり、これを PC (Patially

Contained)事象と呼ぶ。これはEνが大体、1∼ 10GeVの間にあるのでmulti-GeV事象と呼ぶ。一方、地球の裏側から来るニュートリノが、検出器直前の岩盤で反応を起こし、生成されたミューオンが、検出器の下から入る事象があり、検出器の中で止まる”Upward Stoppingµ”と突き抜ける”Upward through going

µ”事象がある。これらの事象を引き起こすニュートリノのエネルギー分布を図 3.6右に示す。大気ニュートリノは地表何処でも一様に生産されるので、ある一定の立体角内に入るニュートリノフラックスの値は、上下対称性 (天頂角で言えば cosθZenith= 0を中心とする鏡映対称性)がある。しかし、1Gev以下では、地球の磁石効果 (図 3.7左)により南北異方性が生じ、上下対称性が崩れる (図 3.7右)。地球物質内で相互作用するニュートリノ数はわずかで無視できるから、上下の相違はニュートリノ発生源からの距離のみである (図 3.8左図)。従って、上下非対称性が存在すればそれはニュートリノ振動効果と断定できる電子ニュートリノには上下非対称が見られないが、ミューニュートリノ角分布は明らかに非対称性を示す。特にMulti-GeV事象に顕著である (図 3.8)。図 3.9には、全てのトポロジーのデータを示す。程度の差はあれ、ミューニュートリノ分布の非対称性を裏付ける。これから、電子ニュートリノは振動しないが、ミューニュートリノは振動することが確立し

sin22θatm≃ 1, ∆m2atm≃ 2×10−3eV2 (3.15)

と決められた*5) 。天頂角はニュートリノ発生源からの距離の目安を与えるので、L/Eの関数として強度分布を与えることが可能である (図 3.10)。ニュートリノ振動の効果が、L/Eの関数として与えられより理解し易い図となっている。* 3) 1970年頃から存在した太陽ニュートリノの謎問題が、2002年にニュートリノ振動と確定されたので、結果的には太陽ニュートリノの振動の徴候の方が時期が早かったことになる。* 4) 現在の最良値は、0.649±0.016(stat)±0.051(sys)である。* 5) 現時点での最良値は sin2 2θatm > 0.92 90%CL, ∆m2

atm≃ 2.5±0.6×10−3eV2である。

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図 3.7:地磁気の与える上下非対称効果。左図は地球外から来る宇宙線が地磁気により曲げられる様子を描く。1 GeV以下の低エネルギー宇宙線は地球に到達しないものもあり、非対称の原因となる。右図:νe, νµの予想角分布。E & 2GeVであれば、非対称はほとんど生じないことが判る。分布の中央 (水平入射)付近で分布頻度が大きいのは、1次宇宙線の大気圏通過距離が長く反応を起こしやすいからである。

図 3.8:左図:大気ニュートリノ天頂角分布。中図:SKの νeデータ 右図:SKの νµデータ。黒丸:観測値、赤線:振動がないとしたときのフラックス予想値、緑線:振動を仮定したときの予想値 (∆m2 =2.5×10−3eV2, sin22θ = 1.0)

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第 3講 ニュートリノ振動 9

図 3.9:大気ニュートリノの天頂角分布。Sub-GeV=FC: Fully contained. Multi-GeV=PC: Partially contained.

緑色の矢印はニュートリノが入る方向を示す。Sub-GeVとMulti-GeVは Evis≶ 1330MeVで区別する。

図 3.10:左図:SKデータの L/E分布。νeは振動しないが、νµは振動する事が判る。右図:SKデータから許される振動変数 sin22θと ∆m2の領域。

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3.4 ミューニュートリノは何に変身するか?

SKの観測したニュートリノ振動は、νµ → νxで νxは、このデータのみからは、どの香りに移行するかは特定できない。νeの振動が見られなかったことから、多分 νµ → ντであろうとは想像が付く。したがって、SKの検出したニュートリノ振動は νµ → ντ と考えて良いが、SKはさらに別種のニュートリノに移行する可能性をデータから排除した。別種のニュートリノがあったとして、それは物質と相互作用しない不毛のニュートリノ (sterile)であることは言える。なぜなら、CERNの Z崩壊実験から、Zボソンに結合するニュートリノは3種で尽きているからである。標準理論内のニュートリノは弱くはあるが、物質と相互作用をするので、物質中を伝播するときは真空を伝播するときと違う振る舞いをする。物質中の振動については、次の太陽ニュートリノの項で詳しく説明するが、真空中での混合角 θが、物質中では θmに変化し、

sin22θm =sin22θ

(ζ−cos22θ)2 +sin22θ(3.16a)

ζ = −√

2GFnnEν

∆m2 (3.16b)

で与えられる。ここで、GF はフェルミ結合定数、nnは核子の物質中における数密度である。実験からsin22θ ≃ 1, ∆m2 ≃ 3×10−3eV2という値が得られているので、エネルギーの高い大気ニュートリノにたいして

sin22θm ≃ 1ζ2 +1

(3.17a)

ζ >> 1 f or Eν = 30∼ 100GeV (3.17b)

すなわち、物質振動があればニュートリノ振動は抑制される。νµ → ντの場合、νµと ντの物質効果は同じである。この場合、物質効果は質量の絶対値は変えるが、質量差や混合角には影響を与えず、結果的に物質効果は存在しない。一方、νsは、物質と相互作用をしないので、νµの物質相互作用効果と相殺せず、真空振動でなく物質振動の式を用いなければならない。したがって、νµ → ντに比較して、νµ → νs

は抑制される、すなわち振動効果が小さい。図 3.11に、PC事象の中で特にエネルギーの高い事象を選んだデータ、上向きミューオンおよび終状態が π0を含むが、ミューオン (電子も)を含まない中性カレント事象について、天頂角分布を示す。中性カレント事象は、生き残った νµと振動の結果生じた ντの双方が引き起こすが、νsは中性カレント現象を発生させることができないので、今度は νµ → ντの方が多く観測されるはずである。データは全てこの考察を支持する。これら、3種のデータを総括して、ニュートリノ振動の変数について、許される領域と禁止される領域を図 3.12に示した。νµ → ντは許される領域が、他の FC, PC事象などから許される領域と整合するのに反し、同じ変数領域で νµ → νsは 99%の信頼度で除外されることが判る。

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図 3.11:左図:PC事象の中から、見えるエネルギーが 5 GeV以上の事象の天頂角分布。この場合平均入射ニュートリノエネルギーは 25 GeV程度となる。中図:上向き突き抜けミューオンの天頂角分布。入射ニュートリノのエネルギーは、数 10∼数千GeVとなる (図 3.6参照)。右図は中性カレント事象の天頂角分布。いずれも実線が νµ → ντ仮説、点線が νµ → νs仮説に基づく予想値。

図 3.12: SK大気ニュートリノデータで観測されたニュートリノ振動の変数領域を、エネルギーの高い事象と中性カレント反応事象について νµ → ντおよび νµ → νsの仮説について、許容領域と除外領域をプロットしたもの。