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<参考資料>
①資源エネルギー庁:日本のエネルギー2015
http://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/#energy_in_japan
②資源エネルギー庁:エネルギー白書2015
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/
【3】エネルギーと環境問題
環境デザイン工学科「環境計画学」(担当:阿部宏史)
3-1.石油ショックとエネルギー政策の転換
石油価格は、1973年の第1次石油ショックを期に1バレル当たり12ドルまで高騰し、1979年の第2次石油ショック時には34ドルまで高騰した。しかし、価格高騰による需要の減退や非OPEC諸国の生産量増加等の影響により、1986年には10ドルを下回る水準に急落し、その後は概ね10ドルから20ドルの間を推移した。1999年のアジア経済危機後の世界経済の回復を期に価格は上昇基調に転じ、2008年7月には134.09ドルと史上最高値を更
新したが、その後は下降基調に転じ、史上最高の乱高下を記録した後に2009年6月以降は60~80ドルの間で推移している。日本は、第1次石油危機を通じて、エネルギーの安定的な供給を確保することが最重要課題であると位置づけ、エネル
ギー供給構造を改善するため所要の施策を行った。具体的には、①石油依存度の低減と石油以外のエネルギーによるエネルギー源の多様化、②石油の安定供給の確保、③省エネルギーの推進、④新エネルギーの研究開発の4点である。
出所:資源エネルギー庁:日本のエネルギー2010経済産業省:平成23年度エネルギー白書
3-2.対応策①:エネルギー転換
日本は安価な石油を大量に輸入し、1973年度にはエネルギー供給の77%を石油に頼っていた。しかし、1973年の第1次石油ショックによって、原油価格の高騰と石油供給途絶の脅威を経験した結果、日本は省エネルギーを推進するとともに、エネルギー供給を安定化させるため、石油依存度を低減させ、原子力や天然ガスなどを導入した。その後、1979年の第2次石油ショック後は、原子力や新エネルギーの開発・導入も加速させた。2007年度の石油依存度は47%(LPガスを含む)であり、第1次石油ショック当時の77%と比べ、かなり低減した。しかし、化石燃料全体の依存度は84%と極めて高い水準になっている。東日本大震災以後は、原発停止により、化石燃料依存度が第1次石油ショック時点を上回る水準に上昇している。
日本の電源構成の推移(出所:資源エネルギー庁HP)
3-3.主要国における電源別の発電電力量(2008年)
2008 年の電源別発電電力量をみると、アメリカは石炭が49%を占め、原子力とガスがそれぞれ19%と21%を占めていた。英国は国内に石炭が豊富であり、石炭火力が主力電源の役割を担っていたが、北海ガス田の開発や電力自由化に伴って、天然ガス発電の比率が46%となった。フランスは、原子力の比率が77%と非常に高い。他方、ドイツは石炭の比率が、イタリアではガスの比率が高い。中国は経済発展とともに発電電力量も非常に高い伸びを示しているが、石炭の割合が79%と高く、環境問題が課題となっている。韓国は、石炭と原子力の比率が高い。なお、欧州や北米では国境を越えて送電線網が整備されており、電力の輸出入が活発に行われている。
バランスに注目!
3-4.対応策②:エネルギー自給率
日本は、かつて国産石炭や水力などの国内天然資源エネルギーの活用により、1960年には約6割の自給率を達成していた。しかし、その後の高度経済成長の下で、安価な石油が大量に供給され、石炭から石油に燃料転換が進み、石油が大量に輸入されるとともに、石炭も輸入中心へと移行したことなどから、エネルギー自給率は大幅に低下した。石油ショック後に導入された天然ガスや原子力の燃料となるウランについても、ほぼ全量が海外から輸入されているため、
2007年のエネルギー自給率はわずか4%である。なお、ウランは一度輸入すると長期間使うことができることから、原子力は純国産エネルギーと考えることができる。この考えによれば、日本のエネルギー自給率は2007年に約18%となる。
(出所:日本のエネルギー2015)
<今後の見通し>
3-5.対応策③:省エネルギー
2012年における日本の実質GDP当たりのエネルギー消費は、中国やインドと比べると6分の1程度であり、省エネルギーが進んだ欧州と比較しても遜色ない水準となっている。
実質GDP 当たりのエネルギー消費の主要国比較(2012年)
(注) 一次エネルギー消費量(石油換算トン)/実質GDP(米ドル)を日本=1として換算。
出所:エネルギー白書2015(http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/2-1-1.html)
3-6.環境問題への対応:発電源とCO2排出量の関係
日本は、石油ショック以降、原子力等の非石油系に電源構成をシフトし、現在では総発電電力量の約3割が原子力発電によって供給されている。政府は、2005年2月に京都議定書が発効したことを受け、同年4月に「京都議定書目標達成計画」を策定した。
原子力は発電課程において二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーであることから、同計画に基づき、省エネルギーとともに、開発と導入が積極的に進められてきた。例えば、135万kw級の原子力発電所1基に平均的な火力発電所が置き換わることにより、1990年における二酸化炭素発生量の0.5%を削減できる。
また、2008年7月に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」において、原子力は低炭素エネルギーの中核として、地球温暖化対策を進める上で極めて重要な位置を占めるとされ、改めて環境対策としての原子力発電の重要性が認識された。近年、地球温暖化対策やエネルギー安定供給等の観点から、原子力発電の新増設の動きが見られるようになっている。(→原子力ルネサンス) 世界的な原子力低迷の時代においても着実に建設を続けてきた日本は、その経験から、原子力発電所に関する製造・建設についての高い能力を有し、世界の原子力産業の中心的な立場を占めている。 (→東日本大震災・福島第一原発事故)
3-7.エネルギー政策の変遷
日本は、第1次石油危機を通じて、エネルギーの安定的な供給を確保することが最重要課題であると位置づけ、エネルギー供給構造を改善するため所要の施策を行った。具体的には、①石油依存度の低減と石油以外のエネルギーによるエネルギー源多様化
②石油の安定供給の確保③省エネルギーの推進④新エネルギーの研究開発
の4点である。その後、気候変動への対応、効率的なエネ
ルギー市場の形成といった新たな政策課題が表れている。
2002年6月に制定されたエネルギー基本法では、エネルギー政策の基本として、以下の3点を掲げた。
①安定供給の確保②環境への適合③市場原理の活用
Economy
Energy Security
Environment
Efficiency
エネルギーのトリレンマ
3-8.1日の電気使用量と電源の組み合わせ
電力使用量は1日の中でも変動があり、発電所運転の操作性も電源によって異なるため、電源の組み合わせが
必要となる。(→ベース、ミドル、ピークの供給)・ベース電源:定格で連続して稼働(流れ込み水力、地熱、原子力)・ミドル電源:石炭による発電は出力調整が可能であるが、燃料コストが安いため、連続運転が経済的である。・ピーク電源:電力需要に追随して運転する。ピーク需要の周辺までは、使いやすいガスや石油で対応し、
ピークに近づくと、水力で対応する。
定格で安定的に電力を供給
一度動かすと100%稼働
使いやすい
ピークに向けて使う
揚水発電は大きな蓄電池
揚水発電所(電気事業連合会HP)
3-9.日本国内の原子力発電所
原子力は、エネルギー資源に乏しい我が国にとって、技術で獲得できる事実上の国産エネルギーとして、1954年度以降、各電気事業者による原子力発電所の建設が相次いで行われ、2011年2月末時点で、日本国内には54基の商業用原子力発電所が運転されている。日本は、アメリカ、フランスに次ぎ、世界で3番目の設備能力を有しており(2011年1月1日現在の原子力発電設備容量)、ロシア、ドイツ、韓国がこれに続く。2010 年度の原子力発電電力量は、日本の総発電電力量の30.8%と見込まれていた。また、2009 年の原子力の設備利用率は64.7%であった。
世界の原子力発電の設備利用率の推移
世界の原子力発電設備容量
日本の原子力発電所:2012年5月5日に全基停止
3-10.火力発電と原子力発電の比較
<化学反応> <原子核反応>
原子の結合と乖離 原子核の分裂と融合
化学エネルギー 原子力エネルギー
エネルギー発生量=1 エネルギー発生量=1万~100万
ダイナマイト(火薬) 原爆、水爆
火力発電 原子力発電
地球上の営み 太陽のエネルギー源
大気汚染 放射能汚染
出所:池内了「禁断の科学」、晶文社、2006年
原子力発電所は「トイレ無きマンション」言われる。
3-11.再生可能エネルギーと新エネルギー
新エネルギーとは、石炭・石油などの化石燃料や核エネルギー、大規模水力発電などに対し、新しいエネルギー源や供給形態の総称を指す。「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネルギー法)」(1997年)で定める。「新エネルギー等」には、太陽光発電、風力発電等の再生可能な自然エネルギー、廃棄物発電などのリサイクル型エネルギーのほか、コジェネレーション、燃料電池、メタノール・石炭液化等の新しい利用形態のエネルギーが含まれる。
<長所>環境に優しい(特に地球温暖化)、エネルギー源の多様化、分散型エネルギーシステム<短所>導入コストが高い、出力が自然条件に左右される(→出力が不安定)
→太陽光発電は、需要に合わせて発電できないため、昼間に余った電力を電力会社が買い取り、夜間に不足分を供給する必要がある。電力供給に占める割合が大きくなると、蓄電システムの導入が必要。
再生可能エネルギー(Renewable Energy)
3-12.固定価格買取制度(Feed-in Tariffs):2012年7月開始
Feed-in Tariffs (FIT、固定価格買取制度)とは、エネルギーの買い取り価格(タリフ)を法律で定める方式の助成制度である。主に再生可能エネルギー(自然エネルギー)の普及拡大と価格低減の目的で用いられる。再生可能エネルギー源の事業者は、その電力の電力会社による買い取り価格を決まった期間(20年など)にわたり保証される。
この価格は、普及量や生産コストの推移に従って定期的に見直され、計画的に逓減していく。適切に運用されることにより、費用当たりの普及促進効果がもっとも高くなるとされる。国家レベルでの制度は1990年にドイツで最初に採用され、ドイツ、スペインなどでの導入の結果、風力や太陽光発電が爆発的に増加した実績などが評価され、採用する国が増加している。 (出所:ECIネット)
出所:資源エネルギー庁HP http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/whole.html
<2012年度開始時>
<2013年度:太陽光を見直し>
3-13.固定価格買取制度(Feed-in Tariffs)導入後の動き
固定価格買取制度の導入により、再生可能エネルギーの導入が急速に進んだが、太陽光に偏った導入の結果、導入促進のための固定価格買取制度に基づく負担(賦課金)の増加や系統接続制約などの問題も顕在化している。
出所:資源エネルギー庁HP http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/whole.html
3-14.固定価格買取制度による家計負担の状況
出所:資源エネルギー庁HP日本のエネルギー2015
3-15.次世代送電網(スマートグリッド)
「スマートグリッド(次世代送電網)」は「賢い送電網」とも訳され、将来に向けた電力系統の再構築を目的としている。日本では、太陽光、風力等の再生可能エネルギーの大規模な普及に対応することが主な狙いとされる。
最も重要なキーワードは「双方向」である。これまでの電気は、消費量に合わせて電力会社が発電・供給してきた。供給側と消費側が明確に分けられ、電気の流れも一方通行であった。今後は、再生可能エネルギーの普及等により、今後の電気の流れは一方通行から双方向になっていく。電気は貯めることができず、消費と生産が常にバランスしていなければならない。バランスが崩れた瞬間に大規模
停電が起きる。再生可能エネルギーの出力変化を蓄電池の導入で調整しようとすると、コストが増大し、技術的困難も大きくなる。電気の供給者と消費者を双方向通信によって結び、電力系統の運用に消費者が参加し、家電製品の運転を変化させれば、コスト削減やエネルギーの有効利用が可能になる。 (出所:日経新聞・2011年9月23日)
スマートグリッドの概念図(出所:次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会)