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はじめに 脂肪織の炎症を主体とする皮膚疾患として,結節性 紅斑,Bazin 硬結性紅斑,うっ滞性脂織炎,Weber Christian 症候群,また膠原病・悪性腫瘍・Behçet 病 に伴う脂肪織炎などが存在する.脂肪織炎は,病理組 織学的には小葉間結合織内の炎症を主体とする septal panniculitis,および脂肪織小葉間の炎症を主体とする lobular panniculitis に分類され,臨床的には全身症状 を合併するもの,全身症状を付随しないものに分類さ れる.慢性に経過する脂肪織炎では基礎疾患の有無を 把握し,これらを有する場合,脂肪織炎と並行して基 礎疾患の治療を行う. 1.結節性紅斑 1)概 両側下腿に有痛性の皮下硬結,結節を生じ,皮下脂 肪の小葉間結合組織の炎症を主体とする 1)2) .多くは 咽頭炎などの急性感染を契機として発症し,数カ月の 急速な経過で色素沈着を残して消腿する.これに対し て,長期間,再発を繰り返す慢性型が存在し,慢性に 経過する症例では基礎疾患を原因とすることもあるた め,難治性脂肪織炎の場合,基礎疾患の有無に留意し て検査をすすめる. 2)臨床症状 両下腿に皮下硬結,結節が多発する(図1d).急性に 発症し,熱感,疼痛,ときに関節痛を伴い,約 2~3 カ月の経過で瘢痕を残さずに消腿する.原因として感 染後に発症する急性例が多く,連鎖球菌,その他の感 染症によって生じる.慢性に経過する症例では,基礎 疾患としてサルコイドーシス,炎症性腸疾患(潰瘍性 大腸炎,クローン病)などによって生じる結節性紅斑 があり,Behçet 病,Sweet 病,内蔵悪性腫瘍などによ る脂肪織炎が鑑別疾患となる. 3)病理組織所見 皮下脂肪織の葉間結合織内にリンパ球,組織球,好 中球を主体とする細胞浸潤を認める.真皮の血管周囲 性にリンパ球浸潤を認める.経過とともに,葉間結合 組織は線維化を生じる(図1a~c).また,臨床的に典 型的な結節性紅斑であっても,病期によって好中球の 浸潤する小葉間の脂肪織炎を認めることが稀にあ 4) 4)病因・鑑別疾患 感染症に伴って生じるものが多く,しばしば発症の 数週間前に咽頭炎や扁桃腫大,とくに連鎖球菌による 感染症を生じる.その他の感染症として,ウイルス感 染症,真菌症などによるものが報告されている.ウイ ルス感染症では小児に多く,Parvovirus B19 ウイルス 感染が報告されている.成人で B 型肝炎,C 型肝炎ウ イルス感染の症例が報告されている.真菌症では Cel- sus 禿瘡後に生じた結節性紅斑などの報告がある.サ ルファ剤,テトラサイクリンなどによる薬剤性の結節 性紅斑が報告されている. 慢性に経過し,基礎疾患を有する場合に,Behçet 病,Sweet 病,サルコイドーシス,潰瘍性大腸炎,ク ローン病など炎症性腸疾患や,悪性腫瘍・白血病,膠 原病に伴って生じる脂肪織炎があり,これらが鑑別と なる.Bazin硬結性紅斑は,組織学的に血管に炎症所見 を認め,葉間脂肪織炎を形成する.サルコイドーシス の皮膚病変では,真皮から皮下脂肪に非乾酪性脂肪織 炎を生じ,結節性紅斑様皮疹(皮下サルコイドーシス) を生じる.サルコイドーシスに生じる脂肪織炎として 非特異的な脂肪織炎も報告されている. 5)検査所見 検査値で,多くの症例で末梢血白血球数の軽度増多, 血沈亢進,CRP 軽度上昇を認める.咽頭培養,血液 ASO 値も参考になる.病理組織学的に,皮下脂肪結合 織内の葉間隔壁間の炎症を認め,臨床経過,病理組織 所見,検査から総合的に診断する.慢性に再発を繰り 返す場合,胸部 X 線や,ツベルクリン反応,喀痰培養 などの検査で,結核,サルコイドーシスによる脂肪織 炎を鑑別する. 3.結節性紅斑と鑑別となる皮膚疾患 中村晃一郎(埼玉医科大学) 日皮会誌:117(8),1287―1294,2007(平19)

3.結節性紅斑と鑑別となる皮膚疾患drmtl.org/data/117081287j.pdfBazin硬結紅斑の組織像は,皮下の血管炎とそれに 続く肉芽腫性変化である.病理組織学的に皮下脂肪に

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はじめに

脂肪織の炎症を主体とする皮膚疾患として,結節性紅斑,Bazin 硬結性紅斑,うっ滞性脂織炎,WeberChristian 症候群,また膠原病・悪性腫瘍・Behçet 病に伴う脂肪織炎などが存在する.脂肪織炎は,病理組織学的には小葉間結合織内の炎症を主体とする septalpanniculitis,および脂肪織小葉間の炎症を主体とするlobular panniculitis に分類され,臨床的には全身症状を合併するもの,全身症状を付随しないものに分類される.慢性に経過する脂肪織炎では基礎疾患の有無を把握し,これらを有する場合,脂肪織炎と並行して基礎疾患の治療を行う.

1.結節性紅斑

1)概 念両側下腿に有痛性の皮下硬結,結節を生じ,皮下脂肪の小葉間結合組織の炎症を主体とする1)2).多くは咽頭炎などの急性感染を契機として発症し,数カ月の急速な経過で色素沈着を残して消腿する.これに対して,長期間,再発を繰り返す慢性型が存在し,慢性に経過する症例では基礎疾患を原因とすることもあるため,難治性脂肪織炎の場合,基礎疾患の有無に留意して検査をすすめる.

2)臨床症状両下腿に皮下硬結,結節が多発する(図 1d).急性に発症し,熱感,疼痛,ときに関節痛を伴い,約 2~3カ月の経過で瘢痕を残さずに消腿する.原因として感染後に発症する急性例が多く,連鎖球菌,その他の感染症によって生じる.慢性に経過する症例では,基礎疾患としてサルコイドーシス,炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病)などによって生じる結節性紅斑があり,Behçet 病,Sweet 病,内蔵悪性腫瘍などによる脂肪織炎が鑑別疾患となる.

3)病理組織所見皮下脂肪織の葉間結合織内にリンパ球,組織球,好

中球を主体とする細胞浸潤を認める.真皮の血管周囲性にリンパ球浸潤を認める.経過とともに,葉間結合組織は線維化を生じる(図 1a~c).また,臨床的に典型的な結節性紅斑であっても,病期によって好中球の浸潤する小葉間の脂肪織炎を認めることが稀にある4).

4)病因・鑑別疾患感染症に伴って生じるものが多く,しばしば発症の数週間前に咽頭炎や扁桃腫大,とくに連鎖球菌による感染症を生じる.その他の感染症として,ウイルス感染症,真菌症などによるものが報告されている.ウイルス感染症では小児に多く,Parvovirus B19 ウイルス感染が報告されている.成人でB型肝炎,C型肝炎ウイルス感染の症例が報告されている.真菌症ではCel-sus 禿瘡後に生じた結節性紅斑などの報告がある.サルファ剤,テトラサイクリンなどによる薬剤性の結節性紅斑が報告されている.慢性に経過し,基礎疾患を有する場合に,Behçet病,Sweet 病,サルコイドーシス,潰瘍性大腸炎,クローン病など炎症性腸疾患や,悪性腫瘍・白血病,膠原病に伴って生じる脂肪織炎があり,これらが鑑別となる.Bazin 硬結性紅斑は,組織学的に血管に炎症所見を認め,葉間脂肪織炎を形成する.サルコイドーシスの皮膚病変では,真皮から皮下脂肪に非乾酪性脂肪織炎を生じ,結節性紅斑様皮疹(皮下サルコイドーシス)を生じる.サルコイドーシスに生じる脂肪織炎として非特異的な脂肪織炎も報告されている.

5)検査所見検査値で,多くの症例で末梢血白血球数の軽度増多,血沈亢進,CRP軽度上昇を認める.咽頭培養,血液ASO値も参考になる.病理組織学的に,皮下脂肪結合織内の葉間隔壁間の炎症を認め,臨床経過,病理組織所見,検査から総合的に診断する.慢性に再発を繰り返す場合,胸部X線や,ツベルクリン反応,喀痰培養などの検査で,結核,サルコイドーシスによる脂肪織炎を鑑別する.

3.結節性紅斑と鑑別となる皮膚疾患

中村晃一郎(埼玉医科大学)

日皮会誌:117(8),1287―1294,2007(平19)

Page 2: 3.結節性紅斑と鑑別となる皮膚疾患drmtl.org/data/117081287j.pdfBazin硬結紅斑の組織像は,皮下の血管炎とそれに 続く肉芽腫性変化である.病理組織学的に皮下脂肪に

図1 結節性紅斑a.皮下小葉間の結合組織内にリンパ球からなる細胞浸潤を認める.(HE染色,弱 拡大)b.真皮の静脈の内皮細胞は浮腫状に腫脹する.c.皮下小葉間の結合組織内の浮腫とリンパ球の細胞浸潤を認める.(HE染色,強 拡大)d.下腿に紅色調の皮下結節を認める

a ba b

cc

dd

6)治 療①軽症の場合,冷湿布を行い,下肢の挙上,安静で症状の改善をはかる.また下肢の循環を保つよう努め,日常生活での長時間の立仕事などには留意する.微小循環薬が有効な場合もある.②全身療法安静,下肢挙上によって下肢の循環を保つことにくわえて,全身療法として,非ステロイド系消炎鎮痛剤を内服する.本疾患の病因は,急性に経過する場合,感染症を契機に生じることが多く,咽頭炎,扁桃炎などの感染症を治療する.感染症を契機に本症が発症している場合,副腎皮質ステロイドの全身投与は安易に使用すべきではなく,感染症に対する治療を優先すべきである.慢性に経過する場合,基礎疾患,感染症,結核の有無について検索し,Bazin 硬結性紅斑を除外する.ヨードカリ,コルヒチンが,病変部の関節症状,熱感の軽減に有効である場合がある.

2.Bazin硬結性紅斑

1)概 念慢性に経過し,下腿に生じる暗紅色調の皮下硬結で,しばしば潰瘍を形成する.結核感染による脂肪織炎と

考えられる.胸部X線,ツベルクリン反応,喀痰結核菌培養,皮膚・喀痰よりの PCR法による菌の同定を行い診断する.治療は抗結核薬の内服を行う.Behçet病,Sweet 病,うっ滞性脂肪織炎など慢性に経過する脂肪織炎と鑑別する必要がある.

2)臨床症状左右両側性に対症性に生じる下腿の皮下硬結,皮下結節であり,通常,疼痛,自発痛を欠く.暗紅色,紅紫色調であるが,次第に癒合して硬結が拡大し,また潰瘍を形成する.潰瘍の治癒後に色素沈着や色素脱失を残す.

3)病理組織所見Bazin 硬結紅斑の組織像は,皮下の血管炎とそれに続く肉芽腫性変化である.病理組織学的に皮下脂肪に肉芽腫,またリンパ球,組織球,類上皮細胞からなる乾酪壊死を伴う肉芽腫を認める(図 2a~d).小葉内の脂肪は変性,脂肪壊死を生じ,乾酪壊死を主体とするlobular panniculitis を呈する.血管壁にもリンパ球,好中球,形質細胞の浸潤を認め,さらに血管壁の破壊を認め,肉芽様変化を生じる.Bazin 硬結性紅斑における

1288 皮膚科セミナリウム 第 27 回 蕁麻疹と紅斑症

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図2 Bazin硬結性紅斑a,b.真皮の肉芽腫性変化,組織球,リンパ球,巨細胞の浸潤を認める.(HE染色,弱 拡大)c,d.皮下小葉内の脂肪組織内にリンパ球,組織球浸潤を認め,脂肪組織の変性像を認める.血管壁の肥厚,血管壁へのリンパ球,組織球の浸潤を認める.(HE染色,中 拡大)

a ba b

cc

dd

図3 nodular vasculitisa.皮下葉間結合組織の肥厚,脂肪小葉内への細胞浸潤を認める.(HE染色,弱 拡大)b.血管内皮の増殖性変化,血管壁へのリンパ球,組織球浸潤を認める.(HE染色,中 拡大)c.下腿の淡紅色皮下小結節を認める.

a

b

a

b

cc

組織像は,focal septolobular panniculitis,diffuse sep-tolobular panniculitis など程度の差は認められるが,いずれも小静脈,中静脈の血管病変が認められる5).組織学的に,皮下脂肪織の静脈内壁の増殖性変化,閉塞

を生じ,葉間結合織にリンパ球,組織球,形質細胞の細胞浸潤の炎症を生じる場合,nodular vasculitis と呼ばれる(図 3a~c).検査ではツベルクリン反応強陽性,CRP値陽性,赤沈亢進を認める.胸部X線で結核病変

3.結節性紅斑と鑑別となる皮膚疾患 1289

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a ba b cc

図4 Sarcoidosisa.真皮内に組織球,類上皮細胞よりなる肉芽腫を認める.(HE染色,弱 拡大)b.真皮内小葉内に非乾酪性肉芽腫を認める.(HE染色,中 拡大)c.下腿の浸潤性小結節を認める

を有する例が多い.生検部での結核菌の PCR方法が有効である.

4)鑑別疾患鑑別として結節性紅斑,Behçet 病に伴う結節性紅斑様皮疹,うっ滞性脂肪織炎がある.Behçet 病の結節性紅斑様皮疹は,皮下脂肪の小葉間隔壁の脂肪織炎であるが,血管の周囲の炎症細胞浸潤が顕著である.またnodular vasculitis で血管変化を認める場合の鑑別疾患として,皮膚アレルギー性血管炎,結節性動脈周囲炎などの血管炎がある.

5)治 療抗結核薬の内服を行う.イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),エタンブトール(EB)を使用する.RFP 1 日 450mg内服と INH 1 日 0.5g 内服の 2剤併用,または 3剤併用療法を行う.3剤併用療法のほうが,耐性菌の出現も予防の面から,治療効果がすぐれていることが指摘されている.12 カ月間内服し臨床効果を認めて,さらに 6カ月間内服する場合が多い.

3.Sarcoidosis

1)概 念原因不明の全身性疾患で,皮膚,肺,眼,肺門部リンパ節,その他の全身性臓器に生じる非乾酪性類上皮肉芽腫性疾患である.他臓器病変として,心臓,表在リンパ節,骨,脾臓,筋肉,腎臓,胃に肉芽腫性病変を生じる.検査値で,血清ACE高値を示す.臨床症状,検査所見,病理所見をあわせて診断する.

2)臨床症状皮膚サルコイドは,結節型,局面型,びまん浸潤型,皮下型,結節性紅斑様皮疹などがみられる.組織学的に類上皮細胞肉芽腫より構成される.結節性紅斑様皮疹では,通常の結節性紅斑に比べて,圧痛,熱感などの局所炎症反応が軽度である(図 4c).非特異病変として結節性紅斑,瘢痕浸潤があり,結節性紅斑は両側の下腿に圧痛のある皮下結節が多発する6).

3)病理組織所見皮膚サルコイドでは真皮,皮下脂肪織内に類上皮性細胞からなる非乾酪性肉芽腫を認め,リンパ球浸潤,多核巨細胞を混じる.結節性紅斑様皮疹で真皮深層,

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図5 Behçet病a.真皮上層の血管周囲性の稠密な好中球浸潤小葉間結合織内の脂肪織炎を認める.(HE染色,弱 拡大)b,c.真皮上層の血管周囲性の好中球からなる細胞浸潤と小葉間結合織内の好中球浸潤を認める.(HE染色,中 拡大)d.下腿の紅色皮下結節を認める.

a

b

a

b

cc

dd

脂肪織内に類上皮性肉芽腫を認める(図 4a~b).結節性紅斑の病理組織像は,皮下脂肪の隔壁脂肪織炎であり,リンパ球,組織球の浸潤を認める.

4)治 療皮膚サルコイドーシスでは副腎皮質ステロイド外用薬による外用療法を行う.副腎皮質ステロイド内服療法は,眼,肺,心,中枢性神経性病変を有する場合に行う.とくに活動性の眼病変,心病変などを有する場合に使用する.

4.Behçet病

1)概 念好中球性皮膚疾患を生じる難治全身性疾患であり,女性に多く,結節性紅斑,毛囊炎,眼症状(ぶどう膜炎,虹彩毛様体炎),陰部潰瘍,口腔内潰瘍が特徴である.再発を繰り返す.病態に連鎖球菌,ウイルス感染などが考えられているが,原因は不明である.

2)臨床症状口腔内アフタ,外陰部潰瘍,結節性紅斑,血栓性静脈炎,座瘡様毛嚢炎などの皮膚症状,虹彩毛様体炎に代表される眼症状が,主症状となる.また,変形を伴わない関節炎,副睾丸炎,回盲部潰瘍などの消化器病変,血管病変,中等度以上の中枢神経病変などの副症状がある.4主症状がそろっているものを完全型とし,不全型は 3主症状あるいは 2主症状と 2副症状が出現したものと,眼症状を伴い,2副症状が出現したものを,不全型と診断する(2005 年ベーチェット診断基準).結節性紅斑の個疹は小型のことが多く,経過も短期間で消腿する(図 5d).Behçet 病で認められる結節性紅斑は,皮下脂肪の小葉間隔壁の脂肪織炎であるが,通常の結節紅斑に比較して血管壁の変化,血管周囲の細胞浸潤が著明である.

3)病因,病理組織所見原因として微生物,連鎖球菌,ウイルスなどに対する感染に対するアレルギー反応の関与が推定される.

3.結節性紅斑と鑑別となる皮膚疾患 1291

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図6 Sweet病a.真皮の上層の浮腫,多数の好中球の細胞浸潤を認める.(HE染色,弱 拡大)b.皮下小葉脂肪組織内に好中球細胞浸潤を認める.(HE染色,強 拡大)

a ba b

cc

病態として好中球貪食能,遊走能などの好中球機能異常などが考えられる.検査上,血沈,CRP値亢進,白血球数増多を認め,多くはHLA-B51 陽性である.病理組織学的に皮下小葉間結合織隔壁を主体としたリンパ球,好中球浸潤であり,血管壁への好中球などの炎症細胞浸潤,血管壁の肥厚などを認め血管変化を認める(図 5a~c).

4)治 療発熱,関節痛には消炎鎮痛薬を使用する.軽症例ではミノサイクリンを使用する.活動性が高い場合は,コルヒチンを使用する.副腎皮質ステロイド内服は,眼症状,神経症状を有する場合に,使用されることが多い.またシクロスポリンなどの免疫抑制薬も,しばしば使用されるが,本薬剤による神経ベーチェットの増悪が報告されている.

5.Sweet病

1)概 念原因不明の好中球性皮膚疾患であり,急激に発熱,好中球増多,有痛性紅斑を生じる.上気道感染,咽頭炎などの前駆症状を伴うことが多い.しばしば白血病,骨髄異形成症候群などの血液疾患,潰瘍性大腸炎,Crohn 病などの炎症性腸疾患,多形滲出性紅斑,消化管悪性腫瘍などを合併する.

2)臨床症状,検査,病理組織所見上気道炎などの急性感染の後に,急激に顔面・四肢に有痛性の浮腫紅斑を生じ,関節痛,高熱を伴う.多くは円形の隆起性紅斑であるが,ときに潰瘍,水疱を生じる.検査値では白血球増多,好中球増多,CRP陽性,赤沈の亢進を認める.病理組織像で,急性期に真皮上層,中層の稠密な好中球浸潤を認める(図 6a~c).一般に血管炎は認めない.Sweet 病の病変部の主体

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図7 うっ滞性脂肪織炎a.真皮の静脈の拡張を認める.真皮に肉芽腫は認めない.(HE染色,弱 拡大)b,c.皮下脂肪織内に静脈の拡張,軽度のリンパ球浸潤を認める.(HE染色,中 拡大)d.下腿に色素沈着,静脈うっ滞を認める.

a ba b

cc

dd

は真皮であるが,まれに脂肪織炎を生じる Sweet 病が報告されており,Sutra-Loubet らは,好中球性皮膚疾患のなかで,好中球が浸潤する小葉性脂肪織炎であるneutrophilic panniculitis を提唱し,本疾患が骨髄異形成症候群やまれに Sweet 病に伴って生じることを述べている.また,Sweet 病で結節性紅斑に類似し,組織学的に隔壁性脂肪織炎を生じる症例が報告されている7)~9).

3)治 療多くは副腎皮質ホルモン薬の内服を行う.ステロイドに対する反応性は良好である.骨髄異形成症候群,白血病,悪性腫瘍などの基礎疾患を合併する場合には,並行して基礎疾患の治療を行う.

6.うっ滞性脂肪織炎

1)概念・臨床症状うっ滞性脂肪織炎は,中年以降の下腿に生じる板状の硬結であり,境界明瞭な褐色の色素沈着を生じ,圧痛を伴い,しばしば片側性である(図 7a).静脈性循環不全が基盤に存在する.

2)病理組織所見病理組織像で,皮下脂肪織の葉間結合組織の線維化,硬化,静脈の肥厚,血栓形成を認める.さらに脂肪組織の変性,へモジデリン沈着を認める.肉芽腫性変化を認めることもある.Hypodermitis sclerodermi-formis,lipodermatosclerosis,sclerosing panniculitisと呼ばれる(図 7b,c).

3)治 療下肢静脈の血行障害が基盤にあるため,日常生活において下肢の挙上,安静を行い,弾性ストッキング着用など,下肢への負担の軽減をはかる.また,微小循環調節薬を用いて局所の循環を改善する.

7.Weber Christian病

1)概念・臨床症状発熱,関節痛,全身倦怠,肝脾腫を伴う,再発性非化膿性の全身性脂肪織炎であり,原因不明である.四肢,躯幹に多発性の皮下結節,板状硬結を生じ,ときに潰瘍化する.慢性に経過し,次第に萎縮や陥凹を生じる10).検査上,血沈亢進,CRP上昇,白血球の増加,

3.結節性紅斑と鑑別となる皮膚疾患 1293

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ときに減少を認めることが多い.

2)病理組織所見病理組織学的に急性期に脂肪小葉間への好中球,リンパ球浸潤を認め,脂肪融解,変性を主体とする葉間脂肪織炎を呈する.慢性期に組織球,泡沫細胞を混じ,次第に脂肪織の線維化を生じる.

3)治 療軽症例では安静,非ステロイド系抗炎症薬を内服する.副腎皮質ステロイド薬の内服で加療を行う.再発を繰り返し,次第に下肢の皮膚萎縮をきたす症例も多い.ステロイドが有効でない場合には,シクロスポリンなどの免疫抑制薬を使用する.

8.ステロイド後脂肪組織炎

1)概 念大量のステロイド薬摂取後の中止あるいは減量後に皮下脂肪織炎症を生じるものである.自己免疫疾患,白血病などが基礎疾患となっている場合が多い.小児に生じることが多い.

2)臨床症状,病理組織所見副腎皮質ステロイド薬の減量中に紅斑を有する皮下硬結を生じるもので,上腕,頬部など脂肪の沈着する部位に生じることが多い.脂肪小葉内の脂肪細胞に融

解,変性像を認め,リンパ球,組織球の脂肪内への浸潤を認める.ときに異物巨細胞,針状結晶様裂隙を認める.

3)治 療副腎皮質ステロイド薬を再度内服することによって軽快することが報告されている.数カ月の経過で自然消腿する傾向がある.

おわりに

結節性紅斑は,いわゆる臨床症状を主体とした症候群的な疾患概念であり,経過も急性に発症するものと,慢性に再発するものとがある.病因となる感染症,基礎疾患を鑑別し,原因を見出すことが重要である.脂肪織の炎症性疾患には,上記以外に外傷性,寒冷,注射後脂肪織炎がある.また皮下硬結を生じる基礎疾患には以上述べた疾患以外に,深在性エリテマトーデスなどの脂肪組織炎,また結節性動脈周囲炎などの血管炎も鑑別に上がるため,これらを含めて鑑別する必要がある.結節性紅斑をみた場合,その背景に存在する全身性疾患を考え治療にあたることが必要である.

Acknow ledgement臨床写真,組織は福島県立医科大学の症例を提示しています.

文 献

1)山崎 次:結節性紅斑.最新皮膚科学体系.玉置邦彦編.中山書店.東京.2003, 11―15.

2)宮澤禎二:結節性紅斑.新皮膚科学体系.中山書店.東京.39―43.

3)Thurber S, Kohler S : Histopathologic spectrum oferythema nodosum. J Cutan Pathol, 33(1): 18―26,2006.

4)Requena L, Yus ES : Panniculitis. Part I. Mostlyseptal panniculitis. J Am Acad Dermatol, 45(2):163―183, 2001.

5)Schneider JW, Jordaan HF : The histopathologicspectrum of erythema induratum of Bazin. Am JDermatopathol, 19(4): 323―333, 1997.

6)Papular sarcoidosis of the knees : a clue for the di-agnosis of erythema nodosum-associated sarcoi-

dosis. J Am Acad Dermatol, 49(1): 75―78, 2003.7)Ginarte M, Toribio J : Association of Sweet syn-drome and erythema nodosum. Arch Dermatol, 136

(5): 673―674, 2000.8)Blaustein A, Moreno A, Noguera J, de MoragasJM : Septal granulomatous panniculitis in Sweet’ssyndrome. Report of two cases. Arch Dermatol, 121

(6): 785―788, 1985.9)Sutra-Loubet C, Carlotti A, Guillemette J, WallachD : Neutrophilic panniculitis. J Am Acad Dermatol,50(2): 280―285, 2004.

10)中村晃一郎:Weber Christian 病,日本医師会雑誌,実践皮膚病変のみかた.2005 年,134,特別号(2),S204.

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