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1

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­ 1 ­ 

「伊勢

物語」

一段

むかし

、おと

こ、う

ゐか

うぶり

して、

平城の

京、春

日の

里にし

るよし

して、

狩に往

にけり

。そ

の里

に、いと

なまめ

いた

る女は

らから

住みけ

り。こ

のおと

こ、

かいま

みてけ

り。お

もほえ

ず、古

里に

いと

はし

たなく

てあり

けれ

ば、心

地まど

ひにけ

り。お

とこの

着た

りける

狩衣の

裾を切

りて、

歌を

書きて

る。そ

のおと

こ、し

のぶ

ずりの

狩衣を

なむ着

たりけ

る。

春日

野の若

紫のす

り衣

しのぶ

のみだ

れ限り

知られ

となむ、

をいつ

きてい

ひや

りける

。つい

でおも

しろき

こと

ともや

思けん

みちの

くの忍

もぢず

り誰

ゆへに

みだれ

そめに

し我な

らなく

とい

ふ歌の

心ばへ

なり。

昔人

は、か

くいち

はやき

みやび

をな

んしけ

る。

二段

むか

し、お

とこ有

けり。

なら

の京は

離れ、

この京

は人の

家まだ

さだ

まらざ

りける

時に、

西の京

に女

ありけ

り。そ

の女、

世人に

はま

されり

けり。

その人

、かた

ちよ

りは心

なんま

さりた

りける

。ひと

りの

みもあら

ざりけ

らし、

それを

かの

まめ男

、うち

物語ら

ひて、

帰り

来て、

いかゞ

思ひけ

ん、時

は三月

つい

たち、

雨そを

ふるに

遣り

ける。

起きもせ

ず寝も

せで夜

をあか

して

は春の

物とて

ながめ

暮らし

三段

むかし、

おとこ

ありけ

り。懸

想じ

ける女

のもと

に、ひ

じきも

といふ

物を

やると

て、

思ひあ

らば葎

の宿に

寝もし

なんひ

じき

ものに

は袖を

しつゝ

二条

の后の

まだ帝

にも仕

うまつ

りた

まはで

、たゞ

人にて

おはし

ましけ

る時

のこと

也。

四段

むか

し、東

の五条

に大后

の宮お

はし

ましけ

る、西

の対に

住む人

有けり

。そ

れを本

意には

あらで

心ざ

し深か

りける

人、行

きとぶ

らひけ

るを

、正月

の十日

ばかり

のほど

に、ほ

かに

かくれ

にけり

。あり

どこ

ろは聞け

ど、人

の行き

通ふべ

き所に

もあ

らざり

ければ

、猶憂

しと思

ひつ

ゝなん

ありけ

る。又

の年の

月に

、梅の

花ざか

りに、

去年を

恋ひて

行き

て、立

ちてみ

、ゐて

み見れ

ど、

去年に

似るべ

くもあ

らず。

うち泣

きて、

あばら

なる板

敷に月

のか

たぶく

までふ

せりて

、去年

を思い

でて

よめる

月や

あらぬ

春や昔

の春な

らぬわ

が身ひ

とつ

はもと

の身に

して

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­ 2 ­ 

とよみ

て、夜

のほ

のぼの

と明く

るに、

泣く泣

く帰り

にけ

り。

五段

むかし

、おと

こ有け

り。

東の五

条わた

りにい

と忍び

てい

きけり

。みそ

かなる

所なれ

ば、門

より

もえ

、。

、、

らで

童べの

踏みあ

けた

る築地

のくづ

れより

通ひけ

り 人しげ

くもあ

らねど

たび

かさな

りけれ

、、

、。

ある

じ聞き

つけて

その通ひ

路に

夜ごと

に人を

すへて

まも

らせけ

れば

いけど

もえ逢

はで帰

りけり

さてよ

める。

人知

れぬわ

が通ひ

路の

関守は

よひよ

ひごと

にうち

も寝な

なん

とよめり

ければ

、いと

いた

う心や

みけり

。ある

じゆる

して

けり。

六段

むかし、

おとこ

ありけ

り。

女のえ

得まじ

かりけ

るを、

年を経

てよ

ばひわ

たりけ

るを、

からう

じて

み出

でて、いと

暗きに来

けり。芥

川といふ河を

率ていきければ、草

の上にをきたりけ

る露を

「かれ

は何ぞ

」とな

んおと

こに問

ひけ

る。ゆ

くさき

多く夜

もふけ

にけ

れば、

鬼ある

所とも

知らで

、神さ

へい

といみじ

う鳴り

、雨も

いた

う降り

ければ

、あば

らなる

蔵に、

女を

ば奥に

をし入

れて、

おとこ

、弓胡

(ゆみや

なぐひ

)を負ひて

戸口

に居り

、はや

夜も明

けなん

と思つ

ゝゐ

たりけ

るに、

鬼はや

一口に

食ひ

。「」

、。

、、

けり

あなや

といひ

けれど

神鳴る

さは

ぎにえ

聞かざ

りけり

やうや

う夜も

明け

ゆくに

見れば

率て来し

女もな

し。足

ずりを

して

泣けど

もかひ

なし。

白玉か

なにぞ

と人の

問ひし

時露

とこた

へて消

えなま

しもの

これ

は、二

条の后

のいと

この女

御の

御もと

に、仕

うまつ

るやう

にて

ゐたま

へりけ

るを、

かたち

のい

とめで

たくお

はしけ

れば、

盗み

て負ひ

て出で

たりけ

るを、

御兄人

堀河

の大臣

、太郎

国経の

大納言

、ま

だ下らう

にて内

へまい

りたま

ふに

、いみ

じう泣

く人あ

るを聞

きつけ

て、

とゞめ

てとり

かへし

たまう

けり

。それ

を、か

く鬼と

はいふ

なり

けり。

まだい

と若う

て、后

のた

ゞにお

はしけ

る時と

や。

七段

むか

し、お

とこあ

りけり

。京に

あり

わびて

、あづ

まにい

きける

に、伊

勢、

おはり

のあは

ひの海

づら

を行く

に、浪

のいと

白く立

つを見

て、

いと

ゞしく

過ぎゆ

くかた

の恋し

きに

うら山

しくも

かへる

浪かな

となむよ

めりけ

る。

八段

むかし、

おとこ

有けり

。京や

住み憂

かり

けん、

あづま

の方に

行きて

住み所

求む

とて、

友とす

る人ひ

とり

ふたり

して行

きけり

。信濃

の国、

浅間

の嶽に

けぶり

の立つ

を見て

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­ 3 ­ 

信濃な

る浅間

の嶽

にたつ

煙をち

こち人

の見や

はとが

めぬ

九段

(三

河国)

むかし、

おとこ

あり

けり。

そのお

とこ、

身をえ

うなき

物に

思なし

て、京

にはあ

らじ、

あづま

の方

住む

べき国

求めに

とて

行きけ

り。も

とより

友とす

る人ひ

とり

ふたり

してい

きけり

。道知

れる

人もな

て、ま

どひい

きけり

。三

河の国

、八橋

といふ

所にい

たり

ぬ。そ

こを八

橋とい

ひける

は、水

ゆく

河の蜘

蛛手なれ

ば、橋

を八つ

わた

せるに

よりて

なむ、

八橋と

いひ

ける。

その沢

のほと

りの木

のかげ

に下

りゐ

て 乾飯

食ひけ

りその

沢にか

きつば

たいと

おも

しろく

咲きた

りそれを

見て

ある人の

いはく

、。

。、

、「

きつば

たとい

ふ五文

字を

句の上

にすへ

て、旅

の心を

よめ」

とい

ひけれ

ば、よ

める。

唐衣

きつゝ

なれに

しつま

しあ

ればは

るばる

きぬる

旅をし

ぞ思

とよめり

ければ

、 人

、乾

飯のう

へに して

ほとび

にけり

( 河国)

行き行き

て、 河の国

にい

たりぬ

。 の山に

いたり

て、わ

が入

らむと

する道

はいと

暗う きに、

つた

かえでは

り、物心

ぼそく、

すゞろなるめ

を見ることと思ふ

に、 行 あひたり

「かゝる道は

」、

。、

、。

いかで

かいま

する

とい

ふを

見れば

し人な

りけり

にその

人の御

もとに

とて

文書

きてつ

なる の山

べのう

つゝ

にも にも人

にあは

ぬなり

けり

の山

を見れ

ば、五

月のつ

ごも

りに、

いと

白う降

れり。

時知ら

ぬ山は

いつ

とて

か の

まだ

らに の降る

らん

その

山は、

こゝに

たとへ

ば、 の

山を二

十ばか

り ね

あげた

らん

ほどし

て、な

りは のや

うに

なんあ

りける

(すみだ

河)

猶行き

行きて

、 蔵

の国と

下 の

国と

の に

、いと

大きな

る河あ

り、

それを

すみだ

河とい

ふ。そ

河のほ

とりにむれ

ゐて思ひ

やれば、

限りなくとをく

も来にけるかなとわ

びあへるに、 守

「はや

に れ。日

も暮れ

ぬ」と

いふに

、 りて らんと

するに

、みな

人物わ

びし

くて、

京に思

ふ人な

きにし

もあら

ず。さ

るおり

しも、

白き の と と

き、

の大

きさな

る、水

のう

へに びつゝ

をく

ふ。

京には見

えぬ なれば

、みな

人見知

らず

。 守

に問ひ

ければ

「こ

れなん

宮こ 」とい

ふを

聞きて

にし

負はば

いざ 問はむ

宮こ わが

思ふ人

はあり

やなし

やと

とよ

めりけ

れば、

こぞ

りて泣

きにけ

り。

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­ 4 ­ 

十段

むかし、

おとこ

、 蔵の国

までま

どひあ

りきけ

り。さ

て、

その国

にある

女をよ

ばひけ

り。

はこ

人に

あはせ

むとい

ひけ

るを、

なん

あてな

る人に

心つ

けたり

ける。

はな

おびと

にて、

ん な

りける

。さて

なんあ

てな

る人に

と思ひ

ける。

このむ

こが

ねによ

みてを

こせた

りける

。住む

所な

む入間

の 、み

よし野

の里

なりけ

る。

みよし

野のた

のむの

ひたふ

るに がかた

にぞよ

ると

鳴くな

むこ

がね、

し、

わが方に

よると

鳴くな

るみ

よし野

のたの

むの をいつ

か れん

となむ

。人の

国にて

も、

猶かゝ

ること

なんや

まざり

ける。

十一

昔、お

とこ、

あづま

へ行き

ける

に、友

だちど

もに、

道より

いひ

をこせ

ける。

なよほ

どは ゐにな

りぬ

とも ゆく月

のめぐ

り逢ふ

まで

十二段

むか

し、お

とこ有

けり。

人の

むすめ

をぬす

みて、

蔵野

へ率て

行く

ほどに

、ぬす

人なり

ければ

、人

の守にから

められに

けり。女

をば草むら

のなかにをきて、

げにけり。道来る

人 「この野は

ぬす人

あなり」

とて、

つけ

むとす

。女

、わび

て、

蔵野

は 日

はな きそ若

草の

つまも

こもれ

り我も

こもれ

とよ

みける

を聞き

て、女

をばと

りて

、とも

に率て

いにけ

り。

十三段

、、

、「、

」、

昔 蔵な

るお

とこ

京なる

女の

もとに

ゆれば

づか

し 聞えね

ば し

と書きて

上書

「 蔵

」と

書きて

をこせ

てのち

、を

ともせ

ずなり

にけれ

ば、京

より

女、

さす

がにか

けて むには

問は

ぬもつ

らし問

ふもう

るさし

とあるを

見てな

む、 へがた

き心地

しけ

る。

問へば

いふ問

はねば

む 蔵 か

ゝる

おりに

や人は

ぬら

十四

むかし

、おと

こ、み

ちの国

にすゞ

ろに行

きい

たりに

けり。

そこな

る女、

京の

人はめ

づらか

にやお

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えけん

、せち

に思

へる心

なんあ

りける

。さて

、かの

女、

に恋に

なず

は にぞ

なるべ

かりけ

る玉の

かり

歌さへぞ

ひなび

たり

ける。

さすが

にあは

れとや

思ひけ

ん、

いきて

寝にけ

り。夜

深く出

でにけ

れば

女、

夜も明け

ばきつ

にはめ

なで

くたか

けのま

だきに

鳴きて

せな

をやり

つる

といへ

るに、

おとこ

、京

へなん

まかる

とて、

のあね

はの の人な

らば

のつ

とにい

ざとい

はまし

といへり

ければ

、よろ

こぼ

ひて

思ひ

けらし

」とぞ

いひを

りける

十五段

むかし、

みちの

国にて

、な

でうこ

となき

人の に通ひ

けるに

、あ

やしう

さやう

にてあ

るべき

女とも

あら

ず見え

ければ

しのぶ山

忍びて

通ふ道

も 人

の心

のおく

も見る

べく

女、か

ぎりな

くめで

たしと

思へ

ど、さ

るさが

なきえ

びす心

を見て

は、

いかゞ

はせん

は。

十六

むかし

、 の

有 と

いふ人

有け

り。三

世の帝

につか

うまつ

りて、

時に

あひけ

れど、

のちは

世かは

、。

、、

うつり

にけれ

ば 世

の の

人の

ごとも

あらず

人が

らは

心うつ

くしく

あては

かな

ること

を み

こと

人にも

似ず。

しく

経ても

、猶

昔よか

りし時

の心な

がら、

世の

のこ

とも知

らず。

年ごろ

あひ

れたる

、や

うやう

離れ

て、つ

ゐに

にな

りて、

のさ

きだち

てな

りたる

所へ行

くを、

おとこ

、ま

ことにむ

つまし

きこと

こそな

かり

けれ、

はと

行くを

、いと

あはれ

と思

けれど

、 し

ければ

、する

ざも

なかりけ

り。思ひ

わびて、ね

むごろにあ

ひ語らひける友だち

のもとに

「か

うかう はとてまか

るを、

何 も

いさゝ

かなる

ことも

えせ

で遣は

すこと

」と書

きて、

おく

に、

手を

りて

あひ見

し を

かぞふ

れば

とおと

いひつ

ゝ四つ

は経に

けり

かの友だ

ち、こ

れを見

て、い

とあは

れと

思ひて

、夜の

物まで

をくり

てよ

める。

年だに

もとお

とて四

つは経

にける

をい

くたび

をた

のみき

ぬらん

かく

いひや

りたり

ければ

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­ 6 ­ 

これや

このあ

まの

衣む

べしこ

そ が

みけし

とたて

まつ

りけれ

よろ

こびに

たへで

、又

や来る

露やま

がふ

と思ふ

まであ

るは の降る

にぞ有

ける

十七段

年ごろを

とづれ

ざりけ

る人

の、 のさか

りに見

に来た

りけ

れば、

あるじ

あだな

りと にこそ

たて

れ 花

年にま

れなる

人も ちけり

けふ来ず

はあす

は と

ぞ降

りなま

し消え

ずはあ

りとも

花と見

まし

十八段

むかし、

なま心

ある女

あり

けり。

おとこ

、 う

有けり

。女、

歌よ

む人な

りけれ

ば、心

見むと

て、

の花

のうつ

ろへる

を り

て、

おとこ

のもと

へやる

ににほ

ふはい

づら白

の もと

をゝに

降るか

とも見

おとこ

、知ら

ずよみ

によみ

ける

にほふ

がうへ

の白 はおり

ける

人の袖

かとぞ

も見ゆ

十九段

、、

、、

昔 お

とこ

仕へ

しける

女の方

に 御 なり

ける人

をあひ

知りた

りける

ほど

もなく

かれに

けり

じと

ころな

れば、

女の には見

ゆる

物から

、おと

こには

ある物

かと

も思た

らず。

女、

のよそ

にも人

のなり

ゆくか

さす

がに には見

ゆる物

から

とよめり

ければ

、おと

こ、 し、

よそに

のみし

て経る

ことは

わが

ゐる山

の は

やみ也

とよ

めりけ

るは、

又おと

こある

人とな

んい

ひける

二十段

むか

し、お

とこ、

大 に

ある女

を見て

、よ

ばひて

あひに

けり。

さて、

ほど

経て、

宮仕へ

する人

なり

ければ

、帰り

くる道

に、三

月ばか

りに、

かえ

でのも

みぢの

いとお

もしろ

きを

りて

、女の

もとに

道よ

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­ 7 ­ 

りいひ

やる。

ためた

おれる

春なが

らかく

こそ のもみ

ぢし

にけれ

とてやり

たりけ

れば

、 は京に

来着き

てなん

てき

たり

ける。

いつの

間にう

つろふ

つきぬ

らん が里に

は春な

かる

らし

二十

一段

むかし

、おと

こ女、

いと

かしこ

く思ひ

かはし

て、 心なか

りけ

り。さ

るをい

かなる

かあ

りけ

む、

いさゝか

なるこ

とにつ

けて

、世 を憂し

と思ひ

て、出

でて

去なん

と思ひ

て、か

ゝる歌

をなん

よみ

て、

物に

書きつ

けける

出でて去

なば心

しと

いひ

やせん

世のあ

りさま

を人は

知らね

、。

、、

とよみ

をきて

出で

て去に

けり

この女か

く書

きをき

たるを

しう

心を

くべき

ことも

おぼえ

ぬを

何により

てかか

ゝらむ

と、

いとい

たう泣

きて、

いづか

たに求

めゆ

かむと

、門に

出でて

、と見

かう見

けれ

ど、い

づこを

はかり

とも

おぼえ

ざりけ

れば、

かへり

入りて

思ふかひ

なき世

なりけ

り年月

をあ

だにち

ぎりて

我や住

まひし

といひ

てなが

めをり

人は

いさ思

ひやす

らん玉

かづら

にのみ

いとゞ

見えつ

この女い

と し

くあり

て、 じわ

びてに

やあり

けん、

いひを

こせた

る。

はと

て る

ゝ草の

たねを

だに人

の心

にまか

せずも

草 ふ

とだに

聞く物

ならば

思けり

とは

知りも

しなま

又 、

ありし

より にいひ

かはし

て、

おとこ

わす

る と

思心の

うたが

ひにあ

りしよ

りけ

に物ぞ

かなし

し、

立ちゐ

る の

あとも

なく身

のはか

なく

もなり

にける

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­ 8 ­ 

とはいひ

けれど

、を

のが世

にな

りにけ

れば、

うとく

なり

にけり

二十二

むかし、

はかな

くて

えに

ける 、猶や

れざ

りけん

、女

のもと

より、

憂きな

がら人

をばえ

しも

れね

ばかつ

みつ

ゝ猶ぞ

恋し

とい

へりけ

れば

「され

ばよ」

といひ

て、

おとこ

あひ見て

は心ひ

とつを

かは

の水

の れ

て え

じとぞ

とはい

ひけれ

ど、そ

の夜

いにけ

り。い

にしへ

ゆくさ

きのこ

とど

もなど

いひて

夜の 夜を一

夜にな

ずら

へて八

夜し

寝ばや

あく時

のあ

らん

し、

の夜

の 夜

を一夜

になせ

りと

もこと

ば り

てとり

や鳴き

なん

いに

しへよ

りもあ

はれに

てな

む通ひ

ける。

二十三段

むか

し、 わた

らひし

ける人

の ども、

のも

とに出

でてあ

そび

けるを

、大人

になり

にけれ

ば、

おとこ

も女も

、 ぢ

かはし

てあ

りけれ

ど、お

とこは

この女

をこそ

得め

と思ふ

、女は

このお

とこを

と思

ひつゝ、

のあ

はすれ

ども、

聞か

でなん

ありけ

る。さ

て、こ

の の

おと

このも

とより

かくな

ん。

の にかけ

しまろ

がたけ

過ぎ

にけら

しな 見ざる

まに

女、

し、

くらべこ

し も すぎぬ

なら

ずし

て誰が

あぐべ

などい

ひいひ

て、つ

ゐに本

意のご

とく

あひに

けり。

さて

、年ご

ろ経る

ほどに

、女、

なく

たよ

りなく

なるま

ゝに、

もろと

もに

いふか

ひなく

てあら

んや

はとて

、河内

の国、

に、

いき

かよふ

所出で

きにけ

り。さ

りけれ

ど、

このも

との女

、 し

と思

へるけし

きもな

くて、

出しや

りけれ

ば、

おとこ

、 心

ありて

かゝる

にやあ

らむ

と思ひ

うたが

ひて、

にか

くれゐ

て、河

内へい

ぬる にて

見れば

、この

女、い

とよう

じて、

うちな

がめて

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­ 9 ­ 

ば つ

白 たつた

山夜 にや がひと

り ゆ

らん

とよ

みける

を聞き

て、

限りな

くかな

しと思

ひて、

河内

へもい

かずな

りにけ

り。

まれまれ

かの に

来て見

れば、

はじめ

こそ心

にくも

つく

りけれ

、 は

うちと

けて、

手づか

らい

、、

。、

がひ

とりて

のうつ

わ物に

りけ

るを見

て 心

うがり

ていか

ずなり

にけ

りさり

ければ

かの

大 の

方を見

やりて

あたり

見つゝ

を居

らん 山 なかく

しそ雨

は降る

とも

といひて

見いだ

すに、

から

うじて

、大 人来む

といへ

り。

よろこ

びて つに、

たびた

び過ぎ

ぬれ

ば、

来む

といひ

し夜ご

とに

過ぎぬ

れば まぬ物

の恋ひ

つゝぞ

ふる

とい

ひけれ

ど、お

とこ住

まず

なりに

けり。

二十四段

むか

し、お

とこ、

に住

みけり

。おと

こ、宮

仕へし

にとて

、 れおし

みてゆ

きにけ

るまゝ

に、

三年来

ざりけ

れば、

ちわ

びた

りける

に、い

とねむ

ごろに

いひ

ける人

に、 逢は

むとち

ぎりた

りけ

るに、こ

のおとこ

来たりけ

り 「こ

の戸あけたま

へ」とたゝきけれど

、あけで、歌をな

んよみて出し

たり

ける。

あらたま

の年の

三年を

ちわ

びて

たゞ こそ

にゐま

くらす

といひ

出した

りけれ

ば、

ま弓つ

き弓年

を経て

わがせ

しが

ごとう

るはし

みせよ

といひて

、去な

むとし

ければ

、女

弓 けど かねど

昔より

心は によ

りにし

物を

とい

ひけれ

ど、お

とこか

へりに

けり

。女、

いとか

なしく

て、 にたち

てを

ひゆけ

ど、え

をいつ

かで、

水に

ある所

に し

にけり

。そこ

なり

ける に、お

よびの

して

書きつ

けけ

る。

あひ

思はで

離れぬ

る人を

とゞめ

かねわ

が身

は ぞ

消えは

てぬめ

と書きて

、そこ

にいた

づらに

なりに

けり

二十五

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­ 10 ­ 

むかし

、おと

こ有

けり。

あはじ

ともい

はざり

ける女

の、

さすが

なりけ

るがも

とに、

いひや

りけ

る。

野に わけし

袖より

も逢は

で寝る

夜ぞひ

ちま

さりけ

みな

る女、

見るめ

なきわ

が身を

うら

と知ら

ねばや

かれな

で海人

の足

たゆく

来る

二十

六段

、、

、、

むかし

おとこ

五条

わたり

なりけ

る女を

え得

ずなり

にける

ことと

わび

たりけ

る 人の

ごと

思ほ

えず袖

にみな

とのさ

はぐ

もろ

こし の り

し に

二十七段

昔 おと

こ 女

のも

とに一

夜いき

て 又も行

かずな

りにけ

れば

女の

手 ふ所に

きす)

、、

、、

、、

をうち

遣りて

、たら

ひのか

げに

見えけ

るを、

みづか

ら、

物思人は

又もあ

らじと

思へ

ば水の

下にも

有けり

かり

とよむを

、来ざ

りける

おとこ

立ち

聞きて

水口に

我や見

ゆらん

かはづ

さへ

水の下

にて にな

二十

八段

昔、 みな

りける

女、出

でて

去にけ

れば、

など

てかく

あふご

かたみ

になり

にけ

ん水も

らさじ

と び

しもの

二十九段

むか

し、春

宮の女

御の御

方の花

の に、 しあづ

けられ

たりけ

るに、

花に か

ぬ き

はいつ

もせし

かども

のこよ

ひに似

る時は

なし

三十段

むかし、

おとこ

、はつ

かなり

ける女

のも

とに、

逢ふこ

とは玉

の おもほ

えてつ

らき

心のな

がく見

ゆらん

三十

一段

昔、宮の内

にて、あ

る御 の

の を

りけるに、何のあた

にか思けん

よしや草 よ、な

らん

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­ 11 ­ 

さが見

む」と

いふ

。おと

こ、

なき人

をうけ

へば

草を

のがう

へにぞ

ふと

いふ

なる

といふを

、ねた

む女

もあり

けり。

三十二

むかし、

物いひ

ける女

に、

年ごろ

ありて

いにし

へのし

づのを

だま

き り

かへし

昔を になす

よしも

とい

へりけ

れど、

何とも

思は

ずやあ

りけん

三十三段

むか

し、お

とこ、

の国

、 (むばら

)の に通

ひける

女、

このた

び行き

ては、

又は来

じと思

へる

けしき

なれば

、おと

こ、

より ちくる

のい

やま

しに に心を

思ます

し、

こもり

に思

ふ心を

いかで

かは

さす

さほの

さして

知るべ

ゐな

か人の

にて

は、よ

しやあ

しや

三十四段

むか

し、お

とこ、

つれな

かりけ

る人

のもと

に、

いえばえ

にいは

ねば にさは

がれ

て心ひ

とつに

くこ

おもな

くて言

へるな

るべし

三十

五段

むかし

、心に

もあら

で え

たる人

のも

とに、

玉の

をあ

はおに

よりて

べれ

ば え

ての

も逢

はむと

ぞ思

三十六段

昔 「

れぬ

るなめ

り」

と問ひ

言しけ

る女の

もとに

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­ 12 ­ 

せば

み ま

で へる玉

かづら

えむ

と人に

わが思

はな

くに

三十

七段

昔、お

とこ、

なり

ける女

に逢へ

りけり

。うし

ろめ

たくや

思けん

我な

らで下

とく

な の かげ たぬ花

にはあ

りとも

し、

ふたり

して びし をひ

とりし

てあひ

見るま

では かじと

ぞ思

三十

八段

むかし

、 の

有 が

りい

きたる

に、 きてを

そく来

けるに

、よ

みてや

りける

より思

ならひ

ぬ世 の人

はこれ

をや恋

といふ

らん

し、

ならは

ねば世

の人ご

とに何

をか

も恋と

はいふ

と問ひ

し我し

三十

九段

むかし

、西 の帝と

す帝

おは

しまし

けり。

その帝

の 女

、 と すいま

そがり

けり。

その 女

うせ て

、御 の夜、

その宮

の なりけ

るおと

こ、御

見む

とて

、女 にあひ

りて

出でた

りけり

いと

しう

率て出

でたて

まつら

ず。

うち泣

きてや

みぬべ

かりけ

る間

に、 の下の

、 の

とい

ふ人、

これも

物見る

に、こ

の を女 と見て

、 り

来てと

かくな

まめ

く間に

、かの

、 をとり

て女

の に入

れたり

けるを

、 な

りけ

る人、

この のとも

す に

や見ゆ

らん

、とも

し消ち

なむず

るとて

るおと

このよ

める。

出でてい

なば限

りなる

べみと

もし

消ち年

経ぬる

かと泣

く を

聞け

かの 、 し

いと

あはれ

泣くぞ

聞ゆる

ともし

消ち

消ゆる

物とも

我は知

らずな

の下の

の歌に

ては猶

ぞあり

ける

は が 也。 女の本

意なし

四十

昔、若

きおと

こ、 しうは

あらぬ

女を思

ひけ

り。さ

かしら

する ありて

、思

ひもぞ

つくと

て、こ

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­ 13 ­ 

女をほ

かへを

ひや

らむと

す。さ

こそい

へ、ま

だをい

やら

ず。人

の な

れば、

まだ心

いきお

ひな

かりけ

れば、と

ゞむる

いき

おひな

し。女

も し

ければ

、すま

ふ なし。

さる間

に、思

ひはい

やま

さりに

まさ

る。

にはか

に こ

の女

をおひ

うつ。

おとこ

、 の

ながせ

ども、

とゞむ

るよし

なし。

率て

出でて

ぬ。お

とこ、

泣く泣

くよ

める。

出で

ていな

ば誰か

から

んあり

しにま

さる 日は しも

とよみて

え入

りにけ

り。

あは

てにけ

り。猶

思ひて

こそ

いひし

か、い

とかく

しもあ

らじと

思ふ

に、

に え

入りに

けれ

ば、ま

どひて

たて

けり。

日の

入 に え入り

て、又

の日の

の時

ばか

になん

からう

じてい

き出

でたり

ける。

昔の若

人は、

さるす

ける

物思ひ

をなん

しける

。 の

まさに

しなむや

四十一

、。

、。

女は

らから

二人あ

りけ

り 一

人はい

やしき

おとこ

の し

き 一

人はあ

てな

るおと

こもた

りけり

いや

しきお

とこも

たる、

十二

月のつ

ごもり

に、 を ひ

て、

手づか

ら り

けり。

心ざし

はいた

しけ

ど、さ

るいや

しきわ

ざもな

らは

ざりけ

れば、

の を り

てけり

。せむ

方もな

くて、

たゞ泣

きに

泣きけり

。これ

を、か

のあ

てなる

おとこ

聞きて

、いと

心 し

かり

ければ

、いと

きよら

なる の を

見出

でてや

るとて

紫の こ

き時は

めもは

るに野

なる

草木ぞ

わかれ

ざりけ

蔵野

の心な

るべし

四十

二段

昔、お

とこ、

と知る

知る

、女を

あひい

へりけ

り。さ

れどに

くゝ

はたあ

らざり

けり。

しばし

行きけれ

ど、猶

いとう

しろめ

たく

、さり

とて、

行かで

はたえ

あるま

じか

りけり

。なを

はたえ

あらざ

ける

なり

ければ

、二日

三日 る

ことあ

りて、

え行か

でかく

なん

出でて来

し だ

にいま

だ ら

じを

誰が通

ひ路と

はな

るらん

もの はしさ

によめ

るなり

けり。

四十

三段

むかし

、 の と す

はし

ましけ

り。そ

の 、女を

おぼし

めし

て、い

とかし

こう み

つかうた

まひけ

るを、

人なま

めきて

あり

けるを

、我の

みと思

ひける

を、

又人聞

きつけ

て、文

やる。

とゝ

ぎすの

かたを

かきて

ほとゝぎ

す が

なく里

のあま

たあれ

ば猶

うとま

れぬ思

ものか

といへ

り。こ

の女、

けしき

をとり

て、

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­ 14 ­ 

のみた

つしで

のた

おさは

なく あまた

とうと

まれ

ぬれば

時は五

月にな

んあり

ける

。おと

こ、 し、

ほきし

でのた

をさ

は猶た

のむわ

が住む

里に し え

ずは

四十四段

、、

、、

、、

むか

し へゆ

く人に

のは

なむけ

せむと

て びて

うとき

人にし

あらざ

りけれ

ばい

さゝ

せて、

女の か

づけん

とす。

あるじ

のおと

こ、歌

よみ

て の

に ひつけ

さす。

出で

てゆく

がた

めにと

ぬぎ

つれば

我さへ

もなく

なりぬ

べき

かな

この歌は

あるが

なかに

おも

しろけ

れば、

心とゞ

めてよ

ます、

あぢは

ひて。

四十五

むかし、

おとこ

有けり

。人

のむす

めのか

しづく

、いか

でこの

おと

こに物

いはむ

と思け

り。う

ち出で

むこ

とかたくや

ありけむ

、物 み

になりて ぬ

べき時に

「か

くこそ思しか」とい

ひけるを、 聞き

つけて

、泣く

泣く げたり

けれ

ば、ま

どひ来

たりけ

れど、

ければ

、つれ

づれと

こもり

をりけ

り。

時は六月

のつご

もり、

いと きこ

ろをひ

に、夜

ゐは びをり

て、

夜ふけ

て、や

ゝ し

き きけり

かく びあが

る。こ

のお

とこ、

見 せ

りて、

ゆく のうへ

まで去

ぬべく

は ふく

と に

げこ

暮れが

たき の日ぐ

らしな

がむ

ればそ

のこと

となく

物ぞ しき

四十

六段

むかし

、おと

こ、い

とうる

はしき

友あ

りけり

。 時

さらず

あひ思

ひけ

るを、

人の国

へ行き

けるを

いとあ

はれと思ひ

て、 れ

にけり。

月日経てをこせ

たる文に

「あ

さましく対 せで月

日の経にける

こと

。 れ

やし にけん

と、い

たく

思ひわ

びてな

む 。

世 の

人の心

は、

かる

れば れぬべ

き物に

こそあ

めれ」

とてい

へりけ

れば、

よみ

てやる

るとも

思ほえ

なくに

らる

ゝ時

しなけ

れば にた

四十七段

むか

し、お

とこ、

ねんご

ろにい

かでと

思女

有けり

。され

ど、こ

のおと

こを

あだな

りと聞

きて、

つれ

なさの

みまさ

りつゝ

いへる

大 の く

手あま

たにな

りぬれ

ば思へ

どえ

こそ まざり

けれ

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­ 15 ­ 

し、

おとこ

大 と に

こそた

てれ

ても

つゐに

る はあり

とい

ふ物を

四十八段

昔、

おとこ

有けり

。 のはな

むけせ

んとて

人を ちける

に、

来ざり

ければ

ぞ知る

しき

物と人

む里を

ば離れ

ず ふ

べかり

けり

四十九

むかし、

おとこ

、 の

いと

おかし

げなり

けるを

見をり

て、

うら若

み寝よ

げに見

ゆる

若草を

ひとの

ばむ

ことを

しぞ思

と聞

えけり

。 し

草のな

どめづ

らしき

言の

ぞう

らなく

物を思

ける

五十段

昔、おと

こ有け

り。 むる人

を みて、

の を十づ

ゝ十は

ぬと

も思

はぬ人

をおも

ふもの

かは

とい

へりけ

れば、

露は消

えのこ

りても

ありぬ

べし

誰かこ

の世を

みは

つべき

又、お

とこ、

に去年

の は

らず

ともあ

な みがた

人の心

又、女、

し、

行く水

に か

くより

もはか

なきは

思は

ぬ人を

思ふな

りけり

又、

おとこ

行く水と

過ぐる

よはひ

と る

花とい

づれ

てて

ふこと

を聞く

らん

あだく

らべか

たみに

しける

おとこ

女の、

忍び

ありき

しける

ことな

るべし

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­ 16 ­ 

五十一段

昔、

おとこ

、人の

に う

へける

に、

へし へば なき

時や咲

かざら

ん花こ

そ ら

め さ

へ れめや

五十二

むかし、

おとこ

ありけ

り。

人のも

とより

かざり

をこ

せた

りける

あやめ

り は に

ぞま

どひけ

る我は

野に出

でてか

るぞわ

びし

とて

、 を

なむや

りける

五十三段

むか

し、お

とこ、

逢ひが

たき

女にあ

ひて、

物語な

どする

ほど

に、 の鳴き

ければ

いかでか

は の

なく 人知

れず思

ふ心は

まだ夜

深きに

五十四

昔、おと

こ、つ

れなか

りける

女に

いひや

りける

行やら

ぬ 地

をたの

む に

は つ な

る露や

をくら

五十

五段

むかし

、おと

こ、思

かけた

る女

の、え

得まじ

うなり

ての世

に、

思は

ずはあ

りもす

らめど

のは

のを

りふし

ごとに

まる

五十六段

むか

し、お

とこ、

して

思ひ、

起き

て思ひ

、思ひ

あまり

て、

わが袖は

草の にあら

ねども

暮るれ

ば露

の宿り

なりけ

五十七

昔、おと

こ、人

知れぬ

物思ひ

けり。

つれ

なき人

のもと

に、

恋ひわ

びぬ海

人の る に

宿るて

ふ我

から身

をもく

だきつ

五十

八段

むかし

、心つ

きて みな

るおと

こ、 と

いふ所

に家つ

くりて

をりけ

り。

そこの

なり

ける宮

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­ 17 ­ 

らに、こと

もなき女ど

もの、

なりけれ

ば、 らんとて

、このおとこのある

を見て

「いみ

じの

すき物の

しわざ

や」

とて、

りて

入り来

ければ

、この

おと

こ、 げて奥

にかく

れにけ

れば

、女、

れに

けりあ

はれ 世の

宿なれ

や住み

けんひ

とのを

とづ

れもせ

とい

ひて、

この宮

に り来ゐ

てあり

ければ

、この

おとこ

葎 ひて

れた

る宿の

うれ

たきは

かりに

も鬼の

すだく

なり

けり

とてな

む、い

だした

りけ

る。こ

の女ど

も 「

ひろ

はむ」

といひ

ければ

うち

わびて

ろふと

聞か

ませば

我も にゆ

かまし

もの

五十九段

むか

し、お

とこ、

京をい

かゞ

思ひけ

ん、東

山に住

まむと

思ひ

入りて

住みわび

ぬ は

かぎり

と山

里に身

をかく

すべき

宿求め

てん

かくて

、物い

たく みて、

入りた

りけれ

ば、お

もてに

水そ

ゝきな

どして

、いき

出でて

わが

うへに

露ぞを

くなる

河門わ

たる の の

しづく

となむい

ひて、

いき出

でたり

ける

六十段

むかし、

おとこ

有けり

。宮仕

へい

そがし

く、心

もまめ

ならざ

りける

ほど

に家 、ま

めに思

はむと

いふ

人につ

きて、

人の国

へいに

けり

。この

おとこ

、 の に

てい

きける

に、あ

る国の

(しぞ

う)

、「。

」、

の 人

の に

てなむ

あると

聞きて

女あ

るじに

かはら

けと

らせよ

さらずは

まじ

といひ

ければ

かはらけ

とりて

出した

りける

に、

さかな

なりけ

る を

とりて

五月ま

つ花た

ちばな

の を

かげば

むか

しの人

の袖の

ぞす

とい

ひける

にぞ、

思ひ出

でて、

なりて

、山に

入りて

ぞあり

ける。

六十一段

昔、

おとこ、

紫まで

行きたりけ

るに

「こ

れは むといふ

すき物」と、 のう

ちなる人のいひ

けるを

聞きて

を ら

む人の

いかで

かは になる

てふ

ことの

なから

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­ 18 ­ 

女、 し、

しおは

ばあだ

にぞ

あるべ

きたは

れ 浪

のぬれ

ぎぬ

着ると

いふな

六十二段

むか

し、年

ごろを

とづ

れざり

ける女

、心か

しこく

やあら

ざり

けん、

はかな

き人の

につ

きて

、人の

国なりける

人につかは

れて、も

と見し人の

に出で来て、物

食はせなどしけり。

夜さり

「この

あり

つる人た

まへ」

とある

じに

いひけ

れば、

をこせ

たりけ

り。

おとこ

「我を

ば知

らずや

」とて

いにし

へのに

ほひは

いづ

ら 花

こける

からと

もなり

にける

といふ

を、

いと

づか

しと

思て

、いら

へも

せで

ゐたる

を 「な

どい

らへ

もせぬ

」と

いへば

、、

こぼる

ゝに、

も見

えず

、物も

いはれ

ず」と

いふ。

これ

やこの

我にあ

ふみを

のが

れつゝ

年月経

れどま

さり なき

といひて

、衣 ぎてと

らせ

けれど

、 て

て げ

にけり

。いづ

ち去

ぬらん

とも知

らず。

六十三

むかし、

世心つ

ける女

、いか

で心

あら

むおと

こにあ

ひ得て

しが

なと思

へど、

言ひ出

でむも

たより

、。

。、

なさ

にまこと

ならぬ

りをす

三人を

びて

語りけり

人の は

なく

いら

へて みぬ

三郎なりけ

る なん

「よき

御男ぞ出

でこむ」とあはす

るに、この女、

いとよし。こと人

はいと

なし、

いかで

この 五 に逢

はせて

し と

思心あ

り。狩

しあ

りきけ

るに行

きあひ

て、道

にて の

口を

とりて

「かうか

うなむ思

ふ」といひ

ければ、あはれがり

て、来て寝にけり

。さてのち、おとこ

見えざ

りけれ

ば、女

、おと

この

家に行

きてか

いまみ

けるを

、おと

こ、

ほのか

に見て

に一年

たらぬ

つくも

我を

恋ふ

らし に見

とて出で

たつ を見

て、む

ばら

からた

ちにか

ゝりて

、家に

来てう

ちふ

せり。

おとこ

、かの

女のせ

やう

に、忍

びて立

てりて

見れば

、女

、 き

て寝と

て、

さむしろ

に衣か

たしき

こよひ

もや恋

しき

人にあ

はでの

み寝む

とよみ

けるを

、おと

こあは

れと思

て、

その夜

は寝に

けり。

世 の

とし

て、

思ふを

ば思ひ

、思は

ぬを

ば思はぬ

物を、

この人

は、思

ふをも

、思

はぬを

も、け

ぢめ見

せぬ心

なん

ありけ

る。

六十四

昔、おと

こ、み

そかに

語らふ

わざも

せざ

りけれ

ば、い

づくな

りけん

、あや

しさ

によめ

る。

わが身

をなさ

ば玉す

だれひ

ま求め

つゝ

入るべ

きもの

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­ 19 ­ 

し、

とりと

めぬ にはあ

りと

も玉す

だれ誰

が さ

ばかひ

ま求

むべき

六十

五段

むかし

、おほ

やけ思

(おぼ)して

うた

まふ女

の、 ゆる

された

るあり

けり。

大御 所とて

いま

すか

りけるい

とこな

りけり

。 上にさ

ぶらひ

ける なり

ける

おとこ

の、ま

だいと

若かり

けるを

、こ

の女

あひ

知りたりけ

り。おと

こ、女が

た されたり

ければ、女のある所

に来て ひをりけ

れば、女

「い

とかた

はなり

。身も

ほろ

びなん

。かく

なせそ

」とい

ひけれ

ば、

思ふ

には忍

ぶるこ

とぞ負

けに

ける逢

ふにし

かへば

さもあ

らば

あれ

といひて

、 に下り

たま

へれば

、 の

、この

御 には人

の見

るをも

知らで

のぼり

ゐけれ

ば、

この

女、

思ひわ

びて里

へ行く

。さ

れば、

何のよ

きこと

と思て

、い

き通ひ

ければ

、みな

人聞き

て ひ

けり

つとめ

て の見

るに、

とりて

奥に げ入れ

てのぼ

りぬ

。かく

かたは

にしつ

ゝあり

わたる

に、

身もいた

づらにな

りぬべけ

れば、つ

ゐにほろびぬべし

とて、このおとこ

「いかにせん

。わがかゝる

心や

めたま

へ」と

神に

も けれど

、いや

まさり

にのみ

おぼえ

つゝ

、猶わ

りなく

恋しう

のみお

ぼえ

れば、

、 よ

びて、

恋せ

じとい

ふ の

して

なむ行

きけ

る。 へける

まゝに

、いと

ゞかな

しき

こと ま

さりて

、あり

しより

けに

恋しく

のみお

ぼえけ

れば、

恋せじ

と御手

河に

せし 神は

うけず

もなり

にける

かな

とい

ひてな

ん去に

ける。

この帝は

かた

ちよく

おはし

まし

て、 の御 を、御

心にい

れて、

御 はいと

たうと

くて たまふ

を聞

きて、女

はいたう泣

きけり

「かゝる

に仕うまつらで、

宿世つたなく し

きこと、このおとこ

にほだ

されて

」とて

なん泣

きける

。か

ゝるほ

どに、

帝聞こ

し し

つけ

て、こ

のおと

こをば

しつ

かは

してけれ

ば、こ

の女の

いとこ

の御

所、

女をば

まかで

させて

、蔵に

てしお

りたま

ふけれ

ば、蔵

て泣く

海人の る に

すむ の我か

らと をこ

そ泣か

め世を

ばうら

みじ

と泣き

をれば

、この

おとこ

、人の

国よ

り夜ご

とに来

つゝ、

をい

とおも

しろ

く き

て、 はおか

しう

てぞあは

れにう

たひけ

る。か

ゝれば

、こ

の女は

蔵に りなが

ら、そ

れに

ぞあな

るとは

聞けど

、あひ

るべ

きにも

あらで

なんあ

りける

さりとも

と思 こそ しけれ

あるに

もあ

らぬ身

を知ら

ずして

と思ひ

をり。

おとこ

は、女

し逢は

ねば、

かく

し き

つゝ、

人の国

に き

てか

くうた

ふ。

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­ 20 ­ 

いたづら

に行て

は来

ぬる物

ゆへに

見まく

ほしさ

に は

れつ

水のお

の御時

なるべ

し。

大御 所も の后

也。五

条の

后とも

六十

六段

むかし

、おと

こ、 の国

にしる

所あり

けるに

、あに

おと

ゝ友だ

ちひき

ゐて、

方にい

きけ

り。

を見れ

ば、 どもの

ある

を見て

をけさ

こそみ

つの

ごと

にこれ

やこの

世をう

み る

これ

をあは

れがり

て、人

りにけ

り。

六十七段

むか

し、お

とこ、

に、

思ふど

ちかい

つらね

て、 の

国へ二

月 に

いきけ

り。河

内の国

の山

を見れ

ば、 りみ れみ

、たち

ゐる やまず

。 よ

り りて、

たり。

いと

白う木

のす

に降り

たり。

それを

見て

、かの

行く人

のなか

に、た

ゞ一人

よみ

ける。

きのう

けふ のたち

まひ ろふ

は花の

を憂

しとな

りけり

六十

八段

、、

。、

、、

昔 おとこ

の国

へいき

けり

住 の

住 の里

住 の を

ゆく

にいとお

もしろ

ければ

おりゐつ

ゝ行く

。ある

人 「

住 の

をよ

め」

といふ

なき

て の

花さく

はあ

れど

春の海

にす

みよし

とよ

めりけ

れば、

みな人

よま

ずな

りにけ

り。

六十九段

むか

し、お

とこ有

けり。

そのお

とこ

、伊勢

の国に

狩の にいき

けるに

、か

の伊勢

の 宮

なりけ

る人

の 「

の よ

りは、この

人よくい

たはれ」といひや

れりければ、 の

言なりければ、いと

ねむご

ろにいた

はりけ

り。 には狩

にいだ

した

ててや

り、 さりは

帰りつ

ゝ、

そこに

来させ

けり。

かくて

むご

ろにいた

つきけり

。二日とい

ふ夜、おと

こ 「 れて逢

はむ」といふ。女も

はた、いと逢はじ

も思へ

らず。

されど

、人 しげけ

れば

、え逢

はず。

ざね

とある

人なれ

ば、

とをく

も宿さ

ず。女

くあり

ければ

、女、

人をし

づめて

、 一つ に、お

とこの

もとに

来た

りけり

。おと

こはた

、寝ら

、、

、、

ざり

ければ

のか

たを見

出だ

して せるに

月のお

ぼろ

なるに

さき

童を に立

てて

立てり

おとこ

、いと

うれし

くて、

わが寝

る所

に率て

入りて

、 一

つより

三つ

まで

あるに

、まだ

何ごと

も語

らはぬに

、帰り

にけり

。おと

こ、い

とか

なしく

て、寝

ずなり

にけり

。つと

めて

、いぶ

かしけ

れど、

が人

をやる

べきに

しあら

ねば、

いと心

もと

なくて

ちを

れば、

明けは

なれ

てしば

しある

に、女

のもと

より、

ことば

はなく

て、

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や来し

我や行

きけ

むおも

ほえず

か か寝て

かさめ

てか

おとこ

、いと

いたう

泣き

てよめ

る。

かき

くらす

心の にま

どひに

き う

つゝと

はこよ

ひ め

とよみて

やりて

、狩に

出で

ぬ。野

にあり

けど、

心は にて

、こよ

ひだに

人しづ

めて、

いとと

く逢

はむ

と思

に、国

の守、

の守か

けたる

、狩の

あり

と聞き

て、

夜ひと

夜 みしけ

れば、

もはら

あひ

ともえ

せで、

明けば

おは

りの国

へ立ち

なむと

すれば

、男も

人知

れず の を

せど

、え逢

はず

。夜や

うやう明

けなむ

とする

ほど

に、女

がたよ

りいだ

す の

、歌を

書きて

出した

り。と

りて見

れば

かち人

の れ

ど れ

ぬえ

にしあ

れば

と書

きて、

はな

し。そ

の の に

、 の し

て、歌

の を書き

つぐ。

又逢 の

関は えなん

とて、

明くれ

ばおは

りの国

へ えにけ

り。

は水の

おの御

時、文

の御

むすめ

、 の の 。

七十段

むか

し、お

とこ、

狩の より帰

り来

けるに

、大 のわた

りに宿

りて

、 宮

のわら

はべに

いひか

けけ

る。

みる

めかる

方やい

づこぞ

さほさ

して

我に へよあ

まの

七十一段

昔、

おとこ

、伊勢

の 宮

に、内

の御

にて

まいれ

りけれ

ば、か

の宮に

すき

ごと言

ひける

女、 に

て、

ちは

やぶる

神の も えぬべ

し大

宮人の

見まく

ほしさ

おとこ、

恋しく

は来て

も見よ

かしち

はやぶ

る神

のいさ

むる道

ならな

くに

七十

二段

、、

、、

、、

むかし

おとこ

伊勢

の国な

りける

女又え逢

はで

国へ行

くとて

いみぢ

う み

ければ

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大 の はつら

くも

あらな

くにう

らみて

のみも

かへる

なみ

七十三

むかし、

そこに

はあ

りと聞

けど、

消 を

だにい

ふべく

もあ

らぬ女

のあた

りを思

ひける

には

見て手

にはと

られ

ぬ月の

うちの

のご

とき にぞ

ありけ

七十

四段

むかし

、おと

こ、女

をい

たう みて、

ふみ なる山

にあら

ねど

も逢は

ぬ日お

ほく恋

ひわた

七十五段

昔、

おとこ

「伊

勢の国

に率て

行きて

あら

む」と

いひけ

れば、

女、

大 の に ふ

てふみ

るか

らに心

はなぎ

ぬ語ら

はねど

といひ

て、ま

してつ

れなか

りけ

れば、

おとこ

袖ぬ

れて海

人の りほす

わた

つうみ

のみる

をあふ

にてや

まむと

やす

女、

間よ

り ふ

るみる

めしつ

れな

くは ちかひ

もあり

なん

又、

おとこ

にぞぬ

れつゝ

しぼる

世の人

のつ

らき心

は袖の

しづく

世に逢

ふこと

かたき

女にな

ん。

七十

六段

むかし

、二条

の后の

、まだ

春宮の

御 所と ける時

、 神

にまう

で け

るに

、 にさ

ぶらひ

る 、人

の たまは

るつい

でに、

御 よりた

まはり

て、よ

みて りけ

る。

大 や

山もけ

ふこそ

は神世

のこ

とも思

出づら

とて

、心に

もかな

しとや

思ひけ

ん、い

かゞ

思ひけ

ん、知

らずか

し。

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­ 23 ­ 

七十七

むかし、

帝と

す帝

おはし

ましけ

り。そ

の時の

女御

、多 と

すみ

まそが

りけ

り。そ

たまひ

て、 にてみ

わざし

けり。

人 げも

の り

けり。

りあ

つめた

る物、

あり

そこば

くの げもの

を木

の に

つけて

、 の

にた

てた

れば、

山もさ

らに の に

うごき

出で

たるや

うになん

見えけ

る。

それを

、 大

にい

まそが

りける

の 行

と す

いまそ

がりて

、 の

ほど

に、

歌よむ

人 を

めて

、 日

のみわ

ざを にて、

春の

心ばえ

ある歌

らせ

たまふ

。 の な

りける

、 はたが

ひな

がらよ

みける

山の

みなう

つりて

けふ

にあふ

は春

の れ

をとふ

となる

べし

とよみた

りける

を、い

ま見

れば、

よくも

あらざ

りけり

。そ

のかみ

はこれ

やまさ

りけむ

、あは

れが

りけ

り。

七十八段

むか

し、多

と す

女御

おはし

ましけ

り。 せ て

七七

日のみ

わざ、

にてし

けり。

の 行

といふ

人いま

そが

りけり

。その

みわざ

にまう

でた

まひて

、かへ

さに、

山 の

。、

、、

おはしま

すその

山 の宮に

水 らせな

どして

おもし

ろく

られ

たるに

まうで

たまう

「年

ごろよ

そには

仕うま

つれ

ど、 くはい

まだ仕

うまつ

らず。

こよ

ひはこ

ゝにさ

ぶらは

む」と

ふ。 よろ

こびた

まふて

、夜

の御 のまう

けせさ

せ 。

さる

に、か

の大 、出で

てたば

かりた

まふ

やう

「宮仕へ

のはじめ

に、たゞな

をやはあるべ

き。三条の大御 せ

し時、 の国の

里の にあり

ける

、いと

おもし

ろき れ

りき。

大御 ののち

れり

しかば

、あ

る人の

御 の の

にす

へたり

しを、

、この

らん

」との

たまひ

て、御

身、

して りにつ

かはす

。いく

ばく

。、

。、

なくて

て来

ぬこ

の きゝ

しより

は見る

はまさ

れり

これを

たゞに

らば

すゞ

ろなる

べしと

人 に歌よ

ませた

まふ。

の な

りける

人のを

なむ、

あおき

きざみ

て、 のか

たに、

この歌

をつけ

て り

ける。

あか

ねども

にぞ

かふる

見え

ぬ心

を見せ

むよし

のなけ

れば

となむよ

めりけ

る。

七十九

むかし、

のな

かに うま

れ へ

りけ

り。御

、人 歌よみ

けり

。御 がた

なりけ

る の

よめ

る。

わが門に

る を

うへつ

れば た

れか れざる

べき

これは

時の人

、 の となん

いひけ

る、兄

の 納

言行平

のむ

すめの

なり

八十

、、

。、

むかし

おとろ

へたる

家に

の花

へた

る人あ

りけり

三月

のつご

もりに

その

日雨そ

ほふる

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­ 24 ­ 

人のも

とへお

りて

らす

とてよ

める。

つゝぞ

しゐて

おり

つる年

の内に

春はい

くかも

あら

じと思

へば

八十一段

むか

し、 の大臣

いま

そがり

けり。

のほと

りに、

六条

わたり

に、家

をいと

おもし

ろく

りて

住み ひけり

。神 月の

つごも

りがた

、 の

花うつ

ろひ

ざかり

なるに

、 の に見ゆ

るお

り、

たちお

はしま

させて

、夜

ひと夜

し び

て、夜

あけ

もてゆ

くほど

に、こ

の の

おもし

ろき

をほ

。、

、。

むる

歌よむ

そこ

にあり

ける

かたゐ

をきな

板敷

の下に

はひ

ありき

て 人に

みな

よませ

はてて

よめる

にい

つか来

にけむ

ぎに する はこゝ

に ら

なん

となむ

よみけ

るは。

みち

の国に

いきた

りける

に、あ

やしく

おも

しろき

所 多

かりけ

り。わ

がみか

ど六

十 国の

に、

いふ

所に似

たると

ころな

かりけ

り。さ

れば

なむ、

かの さらに

こゝを

めで

て、

にいつ

か来に

けむと

よめ

りける

八十二段

むか

し、 の と す おは

しまし

けり。

山 の

あなた

に、

水 といふ

所に宮

ありけ

り。

年ごと

の の

花ざか

りには

、そ

の宮へ

なむお

はしま

しける

。そ

の時、

の なり

ける人

を、 に率

ておはし

ましけ

り。時

世へて

くなり

にけれ

ば、そ

の人の

れにけ

り。狩

はねむ

ごろに

もせで

のみ みつゝ

、やま

と歌

にかゝ

れりけ

り。い

ま狩す

る 野

の の家、

その の こ

とにお

もしろ

し。そ

の木の

もとに

おりゐ

て、

を りてか

ざしに

さして

、上 下み

な歌よ

みけり

。 なりけ

る人

のよめる

世 に

えて

のな

かりせ

ば春

の心は

のどけ

からま

とな

むよみ

たりけ

る。又

人の歌

ればこ

そいと

ゞ は

めでた

けれ

うき世

になに

か し

かるべ

とて、

その木

のもと

は立ち

てかへ

るに

、日ぐ

れにな

りぬ。

御 な

る人

、 を

もたせ

て野よ

り出で

来た

り。この

を みてむ

とて、

よき所

を求

めゆく

に、 の河と

いふ所

にい

たりぬ

。 に 、大御

まい

る。

ののたま

ひける

「 野を狩

りて、 の河のほ

とりに るを にて

、歌よみてさか月

させ」

とのた

まうけ

れば、

かの よ

みて りける

狩り

暮らし

女に宿

からむ

の河

我は来

にけり

、歌

を じた

まうて

、 し

えし

たまは

ず。 の有 御 に

仕うま

つれ

り、そ

れが し、

一年に

ひとた

び来ま

す ま

てば宿

かす人

もあ

らじと

ぞ思

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­ 25 ­ 

帰りて宮

に入ら

せ ぬ。夜

ふくる

まで み物

語して

、あ

るじの

ひて

入り ひな

むとす

十一

日の月

も れ

なむ

とすれ

ば、か

の のよめ

る。

あかなく

にまだ

きも

月のか

くるゝ

か山の

にげ

て入れ

ずも

あらな

かはり

たてま

つり

て、 の有 、

をし

なべて

もた

ひら

になり

ななむ

山の なくは

月も入

らじ

八十三段

むか

し、水

かよひ

の狩

しにお

はし

ます に、 なる

仕う

まつれ

り。

、。

、、

、、

日ごろ

経て

宮に

帰りた

まう

けり

御を

くりし

てとく去

なん

と思ふ

に 大御 ひ

はむと

つかはさ

ざりけ

り。こ

の 心も

となが

りて、

とて

草ひき

ぶこ

ともせ

じ の夜と

だに まれな

くに

とよ

みける

。時は

三月の

つご

もりな

りけり

。 、大 らで

明か

し て

けり。

かくしつ

ゝまう

で仕う

まつり

ける

を、思

ひのほ

かに、

御 お

ろし

たまう

てけり

。正月

におが

みたて

まつ

らむと

て、 野にま

うで

たるに

、 の山の

なれ

ば、 いと

し。

しゐて

御 に

まうで

ておが

みたて

まつる

に、つ

れづれ

とい

と物が

なしく

ておは

しまし

ければ

、や

ゝ し

くさぶ

らひて

、いに

しへ

のことな

ど思ひ

出で聞

えけり

。さ

ても ひてし

がなと

思へど

、 ども

ありけ

れば、

えさぶ

らはで

に帰る

とて、

れては

かと

ぞ思思

ひきや

みわけ

て を

見むと

とてな

む泣く

泣く来

にける

八十

四段

むかし

、おと

こ有け

り。身

はいや

しな

がら、

なん

宮なり

ける。

その

、 とい

ふ所に

住み け

。、

、。

り は京

に宮仕

へしけ

れば

まうづ

としけ

れど

しばし

ばえま

うでず

ひと

つ に

さへあ

りけれ

。、

、。

いと

かなし

うし ひけり

さる

に 十二

月ばか

りに

とみの

ことと

て御ふ

みあり

おど

ろきて

見れば

歌あり

ればさ

らぬ れのあ

りとい

へばい

よい

よ見ま

くほし

き か

かの 、

いたう

うち泣

きてよ

める。

世 に

さらぬ

れの

なくも

もとい

のる

人の のため

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­ 26 ­ 

八十五段

昔、

おとこ

有けり

。童

より仕

うまつ

りける

、御

ろした

まうて

けり。

正月に

はかな

らず

まうで

けり。

おほや

けの宮

仕へ

しけれ

ば、 にはえ

まうで

ず。

されど

、もと

の心う

しなは

でまう

でけ

るにな

ん有ける

。昔仕

うま

つりし

人、 なる、

る、あ

また

まいり

りて

、正月

なれば

だつ

とて

、大

御 た

まひけり

。 こぼ

すがごと

降りて、ひね

もすにやまず。みな

人 ひて

に降りこめられた

り」と

いふを

にて

、歌

ありけ

り。

思へ

ども身

をしわ

けね

ば 離

れせぬ

のつ

もるぞ

わが心

なる

とよめり

ければ

、 、い

といた

うあは

れがり

たまう

て、

御衣ぬ

ぎてた

まへり

けり。

八十六

昔、いと

若きお

とこ、

若き

女をあ

ひ言へ

りけり

。をの

をの あり

ければ

、つゝ

みてい

ひさし

てや

にけ

り。年

ごろ経

て、女

のも

とに、

猶心ざ

し さ

むとや

思け

む、お

とこ、

歌をよ

みてや

れりけ

り。

までに

れぬ

人は世

にも

あらじ

をのが

さまざ

ま年の

経ぬれ

とてや

みにけ

り。お

とこも

女も

、あひ

離れぬ

宮仕へ

になん

出で

にける

八十

七段

むかし

、おと

こ、 の国、

の 、

里にし

るよし

して、

いき

て住み

けり。

むかし

の歌に

の の いとま

なみ の

さゝず

来にけ

とよみけ

るぞ、

この里

をよみ

ける

。こゝ

をなむ

とは

いひけ

る。

このお

とこな

ま宮仕

へしけ

ば、

それを

りに

て、 うの ども

り来

にけり

。この

おとこ

のこ

のかみ

も なり

けり。

その家

の の海の

ほとりに

びあり

きて

いざ、この山の上

にありといふ

の 見にのぼらん」

といひ

て、のぼ

りて見

るに、

その 、物

よりこ

と也。

さ二

十 、

さ五

なる のおも

て、白

に を

つゝ

めらん

やうに

なむあ

りける

。さ

る の

上に、

わらう

だの大

きさし

て、

さし出

でたる

あり

。その

のう

へに りかゝ

る水は

、 、

の大

きさに

てこぼ

れ つ

。そ

こなる

人にみ

な の

歌よま

す。

かの まづ

よむ。

わが世

をばけ

ふかあ

すかと

つか

ひの

の といづ

れ け

ある

じ、 によむ

ぬき る

人こそ

あるら

し白玉

のまな

くも

るか

袖のせ

ばきに

とよめ

りけれ

ば、か

たへの

人、 ふこと

にや

有けん

、この

歌にめ

でてや

みに

けり。

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­ 27 ­ 

、、

。、

りくる

道とを

くて

にし宮

内 も

ちよし

が家の

るに

日暮れ

ぬや

どりの

方を見

やれば

海人

の 多く見

ゆる

に、か

のある

じのお

とこよ

む。

るゝ夜

の か

河 の か

もわが

住むか

たの海

人のた

く か

とよみ

て、家

に帰り

来ぬ

。その

夜、 の きて、

浪い

と し

。つと

めて、

その家

の女の

も出で

、、

。、

て 海 の浪

によせ

られた

る ひ

てい

の内

に て

来ぬ

がた

より

その海 を にも

りて

おほひ

て出し

たる

、 に

書けり

つ海の

かざし

にさす

とい

はふ も が

ために

はおし

まざ

りけり

の歌に

ては、

あま

れりや

、足ら

ずや。

八十

八段

昔、い

と若き

にはあ

らぬ、

これ

かれ友

だちど

も り

て、月

を見

て、そ

れがな

かに一

人、

おほ

かたは

月をも

めでじ

これ

ぞこの

つもれ

ば人の

とな

る物

八十九段

昔、

いやし

からぬ

おとこ

、我

よりは

まさり

たる人

を思か

けて、

年経

ける。

人知れず

我恋ひ

なば

あぢき

なく

いづれ

の神に

なき おほせ

九十段

、、

、「、

むかし

つれ

なき人

をいか

でと

思わた

りけれ

ばあはれ

とや

思けん

さらば

日物 しにて

とい

へりけ

るを、

限りな

くうれ

しく

、又う

たがは

しかり

ければ

、お

もしろ

かりけ

る に

つけて

花 日

こそか

くもに

ほふと

もあ

な み

がた明

日の夜

のこと

といふ

心ばへ

もある

べし。

九十

一段

むかし

、月日

のゆく

をさへ

くお

とこ

、三月

つごも

りがた

に、

おし

めども

春のか

ぎりの

日の

日の 暮に

さへな

りにけ

九十二段

むか

し、恋

しさに

来つゝ

帰れど

、女に

消 をだに

えせで

よめる

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­ 28 ­ 

ぐ し いく

そたび

行きか

へるら

ん知る

人も

なみ

九十

三段

むかし

、おと

こ、身

はい

やしく

て、い

とにな

き人を

思か

けたり

けり。

すこし

みぬ

べきさ

まに

やあ

りけん、

して

思ひ

、起き

て思ひ

、思わ

びてよ

める。

あふな

あふな

思ひは

すべ

しなぞ

へなく

きい

やしき

かりけ

昔も

、かゝ

ること

は世

のこと

はりに

やあり

けん。

九十四段

むか

し、お

とこ有

けり。

いか

ゞあり

けむ、

そのお

とこ住

まず

なりに

けり。

に男

ありけ

れど、

、、

。、

る な

りけれ

ばこ

まかに

こそあ

らねど

時 ものい

ひをこ

せけり

女が

たに

かく人

なりけ

れば

、、

。、「

かきにや

れりけ

るを

のおと

この物

すとて

日二

日をこ

せざり

けり

かの

おとこ

いとつ

らく

をの

が聞ゆ

る を

ば、 まで

はね

ば、こ

とはり

と思へ

ど、

猶人を

ば み

つべき

物にな

んあり

ける

とて、

じて

よみて

やれり

ける

。時は

にな

んあり

ける。

夜は春

日わす

るゝ物

なれ

や に

や まさ

るらん

となんよ

めりけ

る。女

、 し

ひと

つの春

にむか

はめ

や も花も

ともに

こそ れ

九十

五段

むかし

、二条

の后に

仕うま

つる

おとこ

有けり

。女の

仕うま

つるを

見かは

して、

よばひ

わたり

り 「

いかで物

しに対

して、お

ぼつかなく思

つめたること、すこ

しはるかさん」と

いひければ、

女、

いとし

のびて

、物 しに逢

ひに

けり。

物語な

どして

、おと

こ、

に恋

はまさ

りぬ の河へ

だつ

る関を

いまは

やめて

この歌

にめで

て、逢

ひにけ

り。

九十

六段

、。

。、

むかし

おとこ

有けり

女を

とかく

いふこ

と月日

経にけ

り 木にし

あらね

ば 心

しと

や思け

。、

、、

やうやう

あはれ

と思け

りそ

のころ

六月の

ばか

りな

りけれ

ば 女

身に 一つ二

つ出で

きにけ

女い

ひをこせ

たる

はなに

の心もなし

。身に も一つ二

つ出でたり。時もい

と し。すこし

き立

ちなん

時、か

ならず

逢はむ

」と

いへり

けり。

まつ

ころを

ひに、

こゝ

かしこ

より、

その人

のも

とへいな

むずな

りとて

、口 出でき

にけ

り。さ

りけれ

ば、女

の兄人

、には

かに

へに

来たり

。され

この

女、か

えでの

を は

せて、

歌を

よみて

、書き

つけて

をこせ

たり

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­ 29 ­ 

かけ

ていひ

しな

がらも

あらな

くに木

の 降

りしく

えに

こそあ

りけれ

と書き

をきて

「かし

こより人を

こせば、こ

れをやれ」とて去ぬ

。さて、やがて、

つゐに 日まで

知らず

。よく

てやあ

らむ

、あし

くてや

あらん

、去に

し所

も知ら

ず。か

のおと

こは、

の 手を

うちて

なむ ひ

をるな

るむく

つけき

こと

人の

ごとは

ふ物に

やあら

む 負は

ぬ物に

やあら

んい

。、

、、「

まこ

そは見

め」と

ぞい

ふなる

九十七段

むか

し、堀

河の大

臣と

すい

まそが

りけり

。四十

の 、

九条

の家に

てせら

れける

日、 なり

ける

り ひ れ

いら

くの

来むと

いふな

る道ま

がふが

九十八段

昔、

おほき

おほい

うちぎ

みと

聞ゆる

おはし

けり。

仕うま

つる

おとこ

、九月

に、

梅のつ

くり に

をつけ

て る

とて、

わが

たのむ

がた

めにと

おる

花は時

しもわ

かぬ物

にぞ有

ける

とよみて

りた

りけれ

ば、い

とか

しこく

おかし

がり て、 に へり

けり。

九十九

むかし、

ひをり

の日

、むか

ひに立

てたり

ける に、

女の の下 よりほ

のかに

見えけ

れば

、 なりけ

るおと

このよ

みて

やりけ

る。

見ずもあ

らず見

もせぬ

人の恋

しく

はあや

なく 日やな

がめ暮

さん

は誰

と知り

にけり

むかし

、おと

こ、 の

はさま

を りけれ

ば、あ

るやむ

ごとな

き人

の御 より、

れ草

を「忍

草とやい

ふ」と

て、出

ださせ

たまへ

りけ

れば、

はり

て、

草 ふる野

べとは

見るら

めどこ

は忍

ぶなり

もた

のまん

むかし

、 な

りける

行平

といふ

ありけ

り。そ

の人の

家によ

き ありと

聞きて

、うへ

ありける

いふを

なむ

、まら

うどざ

ねにて

、その

日はあ

るじ

まうけ

したり

ける。

さけ

ある人

にて、

に花

をさせ

り。そ

の花

のなか

に、あ

やしき

の花

あり

けり。

花のし

なひ、

三 六

ばか

りなむ

ありけ

る。そ

れを にてよ

む。

よみは

てがた

に、あ

るじの

はら

からな

る、あ

るじし

たま

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、。

、、

ふと聞

きて来

たり

ければ

とら

へてよ

ませけ

るも

とよ

り歌の

ことは

知らざ

りけれ

ばす

まひけ

れど

しゐてよ

ませけ

れば

、かく

なん。

咲く花

のした

に る

ゝ人

を多み

ありし

にまさ

る の

かげ

かも

「など

かくしも

よむ」と

いひけれ

ば 「おほき

おとゞの 花の り

にみまそがりて、

のことに

ゆる

を思ひ

てよめ

る」

となん

いひけ

る。み

な人、

そし

らずな

りにけ

り。

、。

、。

、、

むかし

おとこ有

けり

はよま

ざりけ

れど

世 を思知

りた

りけり

あてなる

女の

なりて

世 を思

んじ

て、京

にも

あらず

、はる

かなる

山里に

住み

けり。

もと なり

ければ

、よみ

てや

りけ

る。

そむくと

て に

は ら

ぬ物

なれど

世の憂

きこと

ぞよそ

になる

てふ

となん

いひや

りける

。 宮

の宮

也。

むかし

、おと

こ有け

り。い

とま

めにじ

ちよう

にて、

あだな

る心

なかり

けり。

深草の

帝にな

む仕う

つりける

。心あ

やまり

やした

りけ

む、 たち

の ひ

たまひ

ける

人をあ

ひいへ

りけり

。さて

寝ぬる

夜の をはか

なみま

どろ

めばい

やはか

なにも

なりま

さる

とな

んよみ

てやり

ける。

さる歌

のき

たなげ

さよ。

四段

むか

し、こ

となる

なく

て、 にな

れる人

有けり

。かた

ちをや

つし

たれど

、物や

ゆかし

かりけ

む、

見に

出でた

りける

を、お

とこ

、歌よ

みてや

る。

世を

うみの

あまと

し人を

見るか

らに

めくは

せよと

も ま

るゝ

これは 宮の物

見たま

ひける

に、

かく

聞えた

りけれ

ば、見

さして

帰り

にけ

りとな

ん。

五段

むかし、

おとこ

「か

くては

ぬべ

し」と

いひや

りた

りけれ

ば、女

白露は

消なば

消なな

ん消え

ずとて

玉に

ぬくべ

き人も

あらじ

とい

へりけ

れば、

いとな

めしと

思けれ

ど、

心ざし

はいや

まさり

けり。

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六段

昔、おと

こ、 た

ちの し 所にま

うでて

、 河の

ほとり

にて、

ちはや

ぶる神

世もき

かず

からく

れなゐ

に水く

ゝる

とは

むかし

、あて

なるお

とこ

ありけ

り。そ

のおと

このも

とな

りける

人を、

内 に

有ける

とい

ふ人よば

ひけり

。され

ど若

ければ

、文も

おさお

さしか

らず

、こと

ばもい

ひ知ら

ず、い

はむや

歌は

よま

ざり

ければ

、かの

ある

じなる

人、 を書き

て、か

ゝせて

やり

けり。

めでま

どひに

けり。

さて、

おと

のよめ

る。

つれ

づれの

ながめ

にまさ

る 河袖の

みひち

て逢ふ

よしも

なし

し、 の、お

とこ、

女に

かはり

て、

浅みこ

そ袖は

ひつら

め 河

身さ

へなが

ると聞

かばた

のまむ

とい

へりけ

れば、

おとこ

いと

いたう

めでて

、 ま

で、 きて文

入れて

ありと

なんい

ふなる

おとこ、

文をこせ

たり。得

てのちの

なりけり

雨の降りぬべきにな

ん見わづらひ 。

身さいは

ひあ

らば、

この雨

は降ら

じ」

といへ

りけれ

ば、 の、お

とこ、

女に

かはり

てよみ

てやら

す。

かずかず

に思ひ

思はず

問ひが

たみ

身をし

る雨は

降りぞ

まされ

とよみ

てやれ

りけれ

ば、 も もとり

あへで

、しと

ゞに れてま

どひ

来にけ

り。

むかし

、女、

人の心

をうら

みて、

けばと

はに浪

す なれや

わが

衣手の

かはく

時なき

と の言

ぐさに

いひけ

るを、

聞きお

ひけ

るおと

こ、

夜ゐご

とに のあま

た鳴く

には

水こ

そまさ

れ雨は

降らね

むかし

、おと

こ、友

だちの

人を へる

がもと

にやり

ける。

花よ

りも人

こそあ

だにな

りにけ

れいづ

れを

さきに

恋ひん

とか見

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十段

むかし、

おとこ、

みそかに通

ふ女あり

けり。それがもと

より

「こよひ

になん見えたまひ

つる」

とい

へりけ

れば、

おと

こ、

思ひあま

り出で

にし

のあ

るなら

ん夜深

く見え

ば む

すび

せよ

十一

昔、おと

こ、や

むごと

なき

女のも

とに、

くな

りにけ

るを

とぶら

ふやう

にて、

いひや

りける

いにし

へはあ

りもや

しけ

ん ぞ

知るま

だ見ぬ

人を恋

ふるも

のと

下 のし

るしと

するも

なくに

かたる

がごと

は恋ひ

ずぞあ

るべ

又、 し、

恋し

とはさ

らにも

いはじ

下 の け

むを人

はそれ

と知ら

なん

十二段

むか

し、お

とこ、

ねむご

ろに

いひ りける

女の、

ことざ

まなり

にけ

れば、

のあ

まの く煙

をい

たみ

思はぬ

方にた

なびき

にけり

十三

昔、おと

こ、や

もめに

てゐて

ながか

らぬ のほど

に る

ゝはい

かに

き心

なるら

四段

むかし

、 の帝、

河に

行 し

たま

ひける

時、 はさる

こと似

げな

く思け

れど、

もとつ

きにけ

なれば

、大 の にてさ

ぶらは

せた

まひけ

る。 狩衣の

に書

きつ

けける

さび

人なと

がめそ

狩衣け

ふばか

りと

ぞ も

鳴くな

おほ

やけの

御 あしか

りけり

。をの

が を思け

れど、

若から

ぬ人は

聞き

おひけ

りとや

十五段

むか

し、みち

の国にて

、おとこ女

すみけり。お

とこ

「宮こへ

いなん」といふ。こ

の女いと しう

て、 のはな

むけを

だにせ

むとて

、おき

のゐ

て、 とい

ふ所に

て、 ま

せてよ

める。

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をきのゐ

て身を

よりも

しき

は宮こ

しまべ

の れ

なり

けり

十六

むかし、

おとこ

、す

ゞろに

みちの

国まで

まどひ

いにけ

り。

京に、

思ふ人

にいひ

やる。

浪間よ

り見ゆ

る の びさし

しく

なりぬ

にあ

ひ見

「何

も、

みなよ

くな

りにけ

り」と

なんい

ひやり

ける。

十七段

むか

し、帝

、住 に行 した

まひけ

り。

我見ても

しく

なりぬ

住 の の

く 経

ぬらん

御神、

て、

むつ

ましと

は白

浪 の しき世

よりい

はひそ

めてき

十八段

昔、

おとこ

、 し

くをと

もせ

で 「

るゝ心

もな

し。ま

いり来

む」と

いへり

けれ

ば、

玉かづら

はふ木

あまた

になり

ぬれ

ば え

ぬ心の

うれし

げもな

十九

むかし、

女の、

あだな

るおと

この

見と

てをき

たる物

どもを

見て、

見こ

そ は

あだな

れこれ

なくは

ゝ時も

あらま

しもの

十段

昔、お

とこ、

女のま

だ世経

ずとお

ぼえ

たるが

、人の

御もと

に忍び

ても

の聞え

てのち

、ほど

経て、

なる の とくせ

なんつ

れな

き人の

の 見む

二十一

むか

し、お

とこ、

梅 よ

り雨に

ぬれて

、人

のまか

り出づ

るを見

て、

の花を

ふて

ふ も

める人

に着

せてか

へさん

し、

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の花を

ふて

ふ はいな

思ひを

つけよ

乾して

かへさ

二十

二段

むかし、

おとこ

、 れるこ

とあや

まれる

人に、

山城の

手の

玉水手

にむ

すびた

のみし

かひも

なき世

なり

けり

とい

ひやれ

ど、い

らへ

もせず

二十三

むか

し、お

とこあ

りけり

。深

草に住

みける

女を、

やうや

うあ

きがた

にや思

けん、

かゝる

歌をよ

みけ

り。

年を

経て住

みこし

里を出

でて

いなば

いとゞ

深草野

とやな

りな

女、 し

野とな

らば となり

て鳴き

をら

んかり

にだに

やは は来ざ

らむ

とよ

めりけ

るにめ

でて、

行か

むと思

ふ心な

くなり

にけり

二十四

むか

し、お

とこ、

いかな

りける

思ひけ

るおり

にかよ

める。

思ふこと

いはで

ぞたゞ

にやみ

ぬべ

き我と

ひとし

き人し

なけれ

二十

五段

むかし、

おとこ

、わづ

らひて

、心

地 ぬ

べくお

ぼえけ

れば、

つゐに

ゆく道

とはか

ねて聞

きしか

どき

のふ 日とは

思はざ

りしを